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勝てるはずなど無いとしても~あきらVSちかる~Part.2(Fin)/Even if there’s no way I can win… Akira vs. Chikaru – Part.2(Fin)

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勝てるはずなど無いとしても~あきらVSちかる~Part.2(Fin)/Even if there’s no way I can win… Akira vs. Chikaru – Part.2(Fin)
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■前回


■試合内容

圧倒的格上のちかるに無謀な闘いを挑んだあきらだったが、観客達の予想通り試合は一方的な展開となっており……


的な感じで、あきらVSちかるの完結編になります!!



今回の話なのですが、来月から予定されている「凛香VSあきら」の前日譚となっておりますので、堕ちた王者シリーズを楽しみにして頂いている紳士の方にもおすすめです!


挿絵は全5枚、SSは約10500文字です(pixiv換算で読了まで約21分)。

それでは対戦よろしくお願いします~。


■Content of the match

Akira has recklessly challenged Chikaru, who is in a completely different league, but just as the audience expected, the match is turning into a one-sided affair…


And so, this is the finale of Akira vs. Chikaru!!



This story serves as a prequel to the “Rinka vs. Akira” match scheduled for next month, so I highly recommend it to all the gentlemen who have been looking forward to the “Fallen Champion” series!


There are a total of 5 illustrations.


Thank you for your support.


★最後にアンケートがあります。プラン内容の方針を決める要素になりますので、よければ皆さんのご意見を教えていただけると幸いです。

There is a survey at the end. This will be a factor in deciding the content, so if you would like to give us your opinion, please do so. (Japanese)


★For non-Japanese users★

Please take a moment to translate and read this short story on sites such as https://www.deepl.com/translator m(_ _)m


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勝てるはずなど無いとしても~あきらVSちかる~Part.2(Fin)

Even if there’s no way I can win… Akira vs. Chikaru – Part.2(Fin)





「ぅ…………ぁ…………ぁぁ……………………」


まるで打ち捨てられたボロ人形の様に、あきらは焦点の合わない虚ろな瞳を宙に彷徨わせ、口から無様に涎を垂れ流しながら情けない呻き声を漏らし続けている。


もしこれが大学のサークルで行われるような試合であれば、既にタオルが投げ込まれているか、さもなくばレフェリーによって強制的にストップさせられていることが容易に想像できるほどの惨状であった。





「しかし、あきら選手…………どう見ても失神してしまっております!!

 これは大方の予想通り、1ラウンドKOとなってしまうのか~~~!!?」



愛する親友のため、自身では到底敵わない絶対的な強者へと挑んだ勇敢な少女。


だが、そこで待っていたのは彼女の予想を遥かに上回る残酷なまでの実力差であり──────彼我の力量差を見誤った代償を、少女は己の身体で容赦なく”解らされて”しまっていた。






「4………………5………………6………………」


無情なレフェリーのカウントが熱狂する特設リングに響き渡る。

頭はリングロープの外へとはみ出し、尻を突き上げてビクビクと震わせているだけのあきらであったが、そんな彼女の元へと、ある声が届いた。



「あーちゃんっ、ここ立てばゴングよっ!! だから早く起きて!!」


心地よい微睡みの中へ落ちていた少女の意識を水面へと力強く引き上げるように、愛しい親友の悲痛な叫び声が全身へと染み渡っていく。


「んぁっ…………りっちゃ、ん………………」


その声で辛うじて意識を取り戻した少女は、力なく腕をロープへと伸ばし、生まれたての子鹿の様にガクガクと震える足で立ち上がろうとする。



「あ~っとあきら選手意識を取り戻したか!?

 だがダメージで鈍っております、果たしてこのまま立ち上がれるのか!!?」


「7………………8………………9………………………」



刻一刻と1ラウンドKOまでのカウントが進む中、少女はズルズルとロープにすがりつくように無理やり自らの肉体を引き起こし、虚ろな瞳のままファイティングポーズを構えていった。


「はぁっ……ぜぇっ…………まっ、まだっ……まだやれますっ…………」




このまま試合が決まってもおかしくないと考えていたちかるは、対戦相手の弱々しく震える姿を見下ろし、ポツリと口を開いた。


「へぇ……驚いた。 まだ立てるんだ」


その氷のように冷ややかな声の奥底には、ほんのわずかに純粋な驚きの念が混じっていた。



カーン!!


「あ~っとここでゴングですっ!!! あきら選手、ゴングに救われる形にはなりましたが、何とか1ラウンドKOを逃れる事が出来ました!!」


「ぜぇっ……はぁっ…………ぁっ…………」


第1ラウンドの終了を告げるゴングが会場に鳴り響く中、気が緩んだのか、あきらは膝から崩れ落ち、再びキャンバスへと顔から突っ伏してしまう。


「あーちゃん!!」


そんな余りにも無様な親友を回収するべく、凛香はすぐさまリングへと足を踏み入れて悲痛な声をあげたのだった。






青コーナーの丸椅子にぐったりと腰を下ろしたあきらを、凛香が濡れたタオルを使って必死に介抱している。


「あーちゃん……大分打たれちゃってたけど、身体は大丈夫?」


既に殴られすぎて腫れつつある親友の顔から汗と涙と涎を拭いながら、凛香は不安を隠しきれない声色で問いかけた。


「ありがとりっちゃん……あんなパンチ全然効いてないから、どうってことないわ」


あきらは無理やり口角を上げ、心配させまいと強気な笑みを浮かべてみせる。

だがその言葉とは裏腹に、少女の肩は激しく上下しており、荒い息を吐き続けていた。


顔や腹には生々しい打撃痕が幾つも浮かび上がっており、まだ1ラウンドしか闘っていないとは到底思えないほどの酷い有様である。



(格の違いは解ってたつもりだったけど…………これは、想像以上ね)


いまだズキズキと痛む腹を抱えながら、あきらは彼我の戦力差に辟易としていた。


まともに打ち合えば10秒と保たずにダウンを奪われてしまうであろう程の純粋なフィジカル差に加え、自慢のカウンターですら効果のない鉄壁の肉体。



(アタシが勝つには……もう、”アレ”しかない…………でも、)


少女の脳裏に浮かんでいるのは彼女の必殺技とも言える代物。

成功すれば逆転も可能かもしれないが、失敗した時の代償もそれ相応に大きく、軽々しく使うのは躊躇われる程の諸刃の剣である。



(とにかく…………頑張らないと!!)


弱気になりそうな思考を強引に振り払うように拳を握りしめて、目の前で懸命な介抱を続けている親友の姿を目に焼き付けた。



(貴女の為なら、アタシは…………)


ふと手を伸ばしたくなる気持ちをぐっと堪えて、少女は再び絶望的な闘いに赴くべく、気持ちを高めていくのだった。



カーン!!!






第2ラウンド開始のゴングが鳴り響いてから、既に2分以上が経過している。

しかしリング上では第1ラウンドと同じく────むしろ、それ以上に一方的で凄惨な光景が繰り広げられていた。



「このっ………ぁっ、お゙ゔゔっっっ…………」


あきらのジャブを顔面に貰いながらもちかるは涼し気な表情を一切崩さない。

そして、無防備に空いた脇腹へ躊躇なくその剛腕を突き刺すと、リング上にまたしても少女の情けない嬌声が響き渡った。


「あきら、またしても悶絶~~~~~~!!!

 ちかるの強打の前に為す術なく屈服させられてしまっております!!」


「がっ……はぁっ…………」


胃袋に直接拳をねじ込まれた様な強烈な衝撃。

あきらは瞳に大粒の涙を浮かべ、その肉体は強制的にくの字へと折れ曲がってしまう。



(やばっ……もうお腹っ……ダメかもっ…………)


ちかるの拳で何度も打ち込まれてしまった腹筋はもはや防壁の役目など果たせておらず、少女の脳内はボディの激痛に完全に支配されていく。



そして、無防備な的と成り下がってしまったその顔面へと───────ふたなりリーグ随一の剛腕が、容赦なく振り抜かれていった。


「ぶひゅぅぅぅぅっっっ………………」





「あ~っとあきら選手、このラウンド三度目のダウンですっ!! やはりこのマッチングは実力差がありすぎたのか、全く相手になっておりません!!」


「んぅ…………ぅ、あ゙っ………………」


短いうめき声をあげながら、キャンバスの上に無様な大の字で横たわる少女。


元の美貌が微塵も残されていないほどボコボコに腫れ上がった顔面は苦痛と屈辱に歪んでおり、硬く瞑られた瞳からは止めどなく涙が溢れ出していた。






「ダウンッ…………1……………………2……………………3……………………」


「ぅぅ……あ゙っ…………ゔぅ………………」


全身をズタボロに痛めつけられてもなお、幸か不幸かあきらの意識はしっかりと残っていた。


だが、意識が鮮明であるが故に、少女は否応なしに理解させられてしまう。

自分と目の前の絶対強者との間にそびえ立つ、決して超えることのできない絶望的な壁の存在を。


(やっぱり、ちかるさんは……アタシなんかとは、”格が違う”)


圧倒的な暴力によって骨の髄まで刻み込まれた、残酷なまでの実力差。

もし彼女と百回闘ったとしても、その全ての試合において無様にKOされてしまうであろう事が容易に想像できる。



(でも…………だからこそ、アタシが闘う意味があるんだっ……!!)


それでもなお少女の心は折れておらず、むしろ”予想通り”に相手が強い事に対して、ある種の安堵さえ覚えていた。


そして、弱々しく身体を震わせながらもカウント内に立ち上がり、レフェリーに向かって試合続行の意思を示してみせた。


「はぁっ……はぁっ……まっ、まだっ…………まだっ、闘えますっ…………」



「あきら選手、またしても立ち上がりました!!

 この絶望的な状況でまだ試合を諦めていないというのでしょうか!!?」


どれだけ無様に滅多打ちにされようと何度でも立ち上がり、必死に手を出していく。

その少女のあまりにも健気で泥臭い奮闘に、観客達は更なる盛り上がりを見せていった。



「あーちゃん…………」


そして、青コーナーからその情けなくも凛々しい親友の姿を見つめながら、凛香はギュッとタオルを握りしめ、静かに呟いたのだった。






「ボックスッッ!!!」


レフェリーの合図と共に試合が再開された直後、あきらは大きく前傾姿勢をとり、全身のバネを極限まで圧縮するような独特のフォームへと移行した。


「あ~っとあきら選手、この構えは…………メイサ選手との試合で見せたジョルト・カウンターかぁ!!?」



(もう……今のアタシには、これしかない!!)


もし失敗すれば、自らの踏み込む威力がそのままダメージとなって跳ね返ってくる諸刃の剣。その大きすぎる代償への恐怖から、今までどうしても撃つ覚悟が固まらなかったあきら。


だが、もはや後がない所まで追い詰められた少女は、ついにその一撃に全てを託す決断を下した。


(失敗したら終わり…………でも、ちかるさんはここまでアタシの攻撃を全部、真正面から受けてくれてる。だから、きっとこれも避けないハズ……!!)



「へぇ……随分と楽しそうなことするのね」


無表情ではあるものの、声にはどこか楽しげな色を浮かべている絶対強者は、特に警戒した様子もなしに無造作に右ストレートを繰り出した。


それに対し、この試合で幾度となく見たモーションに合わせ、あきらは自らの肉体を弾丸に変えるような渾身のジョルト・カウンターを放つ。



「やぁぁぁぁぁっっっ!!!」


一縷の希望を拳に込めた、正真正銘捨て身のカウンター。

決まれば全ての盤面をひっくり返す事すら可能なその一撃は──────



「…………えっ!?」


この試合で初めて回避行動を見せたちかるによって、呆気なく躱されてしまっていた。



「流石にそれは貰ってあげられないかな……」


全体重を乗せた大技を完全に躱され、絶望的なまでに体勢が崩れてしまっているあきらの耳に、冷たい声が届けられていく。


”相手は避けないだろう”という甘い憶測に基づいた起死回生の一手は、致命的なまでの悪手であったことを少女が悟るのとほぼ同時に──────


がら空きとなったあきらの顎下から、死神の鎌のような漆黒のアッパーカットが突き上げられた。


「がぴゅっっっっっ!!!!!」




「あきら選手、起死回生のジョルト・カウンターは不発!!!

 逆に強烈なアッパーカットをお見舞いされてしまったぁ~~~!!!!」


「あーちゃん!!!」


凛香の悲痛な叫びが虚しく響く中、脳が激しく揺らされ、あきらの中で辛うじて繋がっていた意識の糸は完全に断ち切られていた。



「ぁ…………ぅぁ……………………」


白目を剥き、うわ言を口から零し、完全に失神してしまった哀れな少女の肉体は重力に従い、キャンバスへと崩れ落ちる。


そして、そのままこのラウンド四度目となるダウンを喫してしまうかと思われたのだが────────



意識が飛んでいるはずの少女の両腕が、目の前に立つちかるの身体へと、すがりつくように力強く巻き付いた。




「ぁ…………んっ……………………ぅぅ………………………………」


虚ろに宙を彷徨う紅い瞳と、だらしなく開いたまま涎を垂れ流している口元を見れば、その少女が完全に失神してしまっていることは誰の目にも明らかであった。


だが、ボクサーとしての闘争本能か、あるいは愛する親友へと向けられた淡い恋心のなせる業か。


あきらは意識を飛ばしたまま、目の前に立つちかるの身体へとすがりつくように巻き付き、クリンチによって辛くも致命的なダウンを回避していたのである。



(…………へぇ)


その余りにも泥臭く、しかし決して折れることのない少女の執念に対し、ちかるは底知れぬ蒼い瞳に微かな感心の光を宿す。


そして、意識を刈り取った肉体へさらに叩き込もうと振り上げていた無慈悲な追撃の拳を、ふっ、と小さく息を吐きながら、ほんの僅かに止めた。



─────────その直後、


カーン!!


「あ~っとここでゴングですっ!! あきら選手、意識を失いながらも驚異的な執念を見せた賜物か、またしてもゴングに救われました!!!」






第2ラウンドをなんとか生き延びたあきらだが、顔面は度重なる強打によって腫れ上がり、下に目を向ければ腹部にも至る所に赤い拳の痕が刻み込まれている。


ぐったりと俯くその姿には、もはや闘う力など微塵も残されていない様に思われた。



「あーちゃん…………ちかるさん、やっぱり強すぎるよ。

 どう考えても勝てる訳ないし、もう棄権した方が…………」


これまでの余りに悲惨な試合展開を見せられた凛香は、親友に降伏を促した。


もはや誰の目から見ても勝ち目などなく、大人しく試合を諦めるのは賢明な判断にも思われたのだが──────少女の回答は、それとは真逆の物だった。



「いやよ」


「あーちゃん…………」


絶望的な格の差を見せつけられてしまい、これがもし目の前にいるスランプ中の少女であれば、心が折れて棒立ちになってしまっているであろうシチュエーション。


”だからこそ”、少女は親友の為に諦める訳にはいかなかった。


「勝てるはずなど無いとしても……立ってれば、何かが起こるかもしれないでしょ」



「だから……アンタは黙って、アタシの闘いを最後まで見てなさい」


キツい言葉とは裏腹に、あきらはボコボコに腫れ上がった顔のまま──────まるで愛しい宝物を見つめるような、この上なく優しく、最高の笑顔を凛香へ向けてみせた。



「何かが…………」


そのあまりにも美しい親友の勇姿に、凛香は思わず言葉を失ってしまっていた。



「セコンドアウト」


無情にも、第3ラウンドの開始を予告する笛の音が、リングに響いていく。

あきらはゆっくりと立ち上がり、自らの死地となるリングへと足を向ける。


(それに…………)


少女はまだグローブを握りしめる力が残っていることに安堵して、小さく息を吐き出した。


(好きな人が見てる前で、このまま無様に負けるのはゴメンだわ)


そして、残された気力を振り絞り、静かにファイティングポーズを構えていった。






カーン!!!


第3ラウンド開始のゴングが鳴り響く。

地下の特設会場は、既にボロボロのあきらがいつまでリングに立っていられるのかという、嗜虐的な熱気に包まれていた。


「さぁ始まりました第3ラウンド!! あきら選手、既に満身創痍に見えますが……果たしてまだ闘う力は残されているのか!!?」



(もう……アタシに出来るのは、これしかない)


あきらはゆっくりと、だが迷いのない動作で、再び大きく前傾姿勢をとる。

それは第2ラウンドで痛恨の空振りを喫し致命的な反撃を貰ってしまった、捨て身のジョルト・カウンターの構えだった。



(またアレか……)


ちかるの冷たい蒼い瞳に、ほんの僅かな警戒の色が宿る。


だが彼女にとって、それは立ち止まる理由にはならず───────ちかるはあきらの構えを正面から粉砕すべく、これまでと同じように真っ直ぐに踏み込み、必殺の右ストレートを放った。



「ちかる選手、ジョルトが待ち受けていようとも、一切お構いなしに全力で突っ込んでいきました!!!」



団体トップクラスのフィジカルから繰り出される、常人には捉えきれないほど疾く、鋭く、凶悪な一撃。


対するは、いつKOされてもおかしくないほどズタボロにされ満身創痍の少女。


だが──────極限のダメージによって余計な思考が働きを止めた結果、少女の集中力はここにきて最高潮に研ぎ澄まされていた。



「──────そこっっ!!!」


ちかるの拳が届くほんの一瞬前。

これまで微動だにしなかったあきらの身体が、バネのように弾け飛んだ。


「やぁぁぁっっっ!!!」


右ストレートの軌道を紙一重でスリップし、そのまま全身の体重と想いを乗せた紅い拳が、絶対強者の顔面へと真っ直ぐに突き刺さっていった。



「なっ…………ぶひゅぅぅぅっっ!!!」


先程のように回避する余裕すら与えない、完璧なタイミングで放たれた一撃。


その想像以上の威力でちかるの肉体は大きく後方へと弾き飛び、その薄い唇はこの試合で初めて情けない嬌声を奏でてしまっていた。





「き……決まった~~~~~!!

 あきら選手、起死回生のジョルト・カウンターが完璧に炸裂~~~~~~!!!」



「ダッ……ダウン!!! 1…………………2…………………3……………………」


熱狂が爆発するリング上で、レフェリーのカウントが響き渡る。


「……………………」


ロープまで吹っ飛ばされる程の派手なダウンを喫したちかるは、意識が若干朦朧としているのか、そのサファイア色の瞳を虚ろに上ずらせてしまっている。



(あーちゃん…………本当に、本当に凄い…………)


青コーナーの凛香は、親友の奇跡的な逆転劇を前に、呆然と立ち尽くしている。

歓声を上げることも忘れ、ただただあきらの凛々しい背中をぼーっと見つめていた。



「4……………………5……………………6……………………」


ジョルト・カウンター。

かつてのメイサとの一戦では、この一撃で完全に形勢をひっくり返し、そのまま逆転勝利をもぎ取った。あきらにとって正真正銘、最強の必殺技である。


(手応えはあった…………あれなら、いくらこの人だって)


あきらは興奮した表情を隠せずに、会心の一撃を振り抜いた自らの拳を固く握りしめ、カウントが進むのをジッと見守っていた。



しかし、相手はUBCでもトップクラスの肉体強度を誇る”剛力銀姫”。

いかにジョルト・カウンターであろうと、彼女という規格外の選手を一撃で沈めきれるわけもなく────────


「7……………………エイッッ……!!!」


スッ、と。

ちかるはキャンバスに手をつき何事もなかったかのように立ち上がり、その端正な顔に再び、氷のように冷たい無表情を浮かべていく。


「あ~っと、ちかる選手カウント8で何事もなかったかの様に立ち上がった!!

 あの起死回生のジョルトすら、彼女には効いていないというのでしょうか!!?」






「ボックスッッ!!!」


レフェリーの鋭い声が響き、試合再開の合図が下される。


(流石に一撃でKOは出来なかったけど、本当の勝負はここから……ッッ!!)


満身創痍の肉体に鞭を打ち、再び闘志を燃やし前に踏み出そうとしたあきらだったが────────


ゾワリ、と。

少女の全身の産毛が総毛立ち、背筋を氷のような悪寒が駆け抜けた。



(これっ……は…………!!!)


その視線の先はリングの中央に立つ対戦相手。


表情も佇まいも何一つ変わらない。

だが、その女から発せられる雰囲気だけが、先程までとはまるで異なっていた。



(あっ、ダメっ……これは……勝てないっ…………)


集中力が極限まで高まり感覚が鋭敏になっているからこそ、拳を合わせずとも明確に相手の強さが理解出来てしまう。


それ故少女は目の前の女に対する絶対的な敗北を悟り、僅かな時間ではあるものの身体を硬直させてしまった。



(でもっ、やるしか……っっ!!)


動揺を無理やり振り払い、すかさずもう一度ジョルトの構えを作ろうとするあきら。

しかし、本気を出したUBCトップ層のボクサーは、それを許すほど甘くはなかった。



「させない……」


フェイントも工夫も何も無い、ただの愚直なまでの踏み込み。

だがその爆発的な加速をもってしてちかるは一瞬にしてあきらの目の前まで肉薄し、ジョルトに必要な溜めを作る時間を完全に潰しにかかった。



(疾っ…………それならっ!!)


ジョルトが出来ないと判断するや否や、あきらは咄嗟に、迫りくる相手に合わせて迎撃のクロスカウンターを放り込む。



「やぁぁっっっ!!!」


ジョルトを成功させた事で更に研ぎ澄まされた集中力で放たれた渾身のクロスカウンターは、確かにちかるの頬を完璧に捉えていたのだが────────



「え……?」


ちかるはカウンターの直撃をモロに受けてなお、瞬き一つせず、ただ氷のように冷たい瞳で少女を真っ直ぐに見下ろしていた。



(あっ、ダメっ…………逃げな、きゃ)



即座に撤退の思考が浮かぶものの、肉体へのダメージが深く少女は動けない。


その数瞬の隙を突いて──────剛力銀姫は、渾身のボディアッパーを叩き込んだ。



「お゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙っっっ!!!!?」


これまでの打撃の更に数段上を行く、銀姫が放つ正真正銘本気の一打。


形容することすら出来ない程の悍ましい激痛を前に、あきらは大量の涎と胃液を口から撒き散らしながら、リングの上で無様に腹を抱えて悶絶してしまっていた。




(だめっ…………か、カウンター……を…………)


今にも吐き出したくなるほどの凄絶な激痛によって思考は支配されており、限界を超えた肉体はピクピクと痙攣を繰り返すばかりで言うことを聞いてくれない。


だがそれでも尚、少女の紅い瞳はその光を失ってはおらず、震える右拳を”カウンターのつもり”で弱々しく突き出した。



「まだ闘うんだ…………それなら、」


少女が放った決死の反撃ではあるものの、そんな物が当たる筈もなく─────────次の瞬間、視界の外から放たれた漆黒のアッパーカットが、少女の顎を爆発的な衝撃と共に撥ね上げた。



「がっ……ひゅぅぅっっっ…………!!」


カチ上げられた首が不自然な角度で固定され、あきらの瞳は瞬時に上ずって白目を剥いてしまう。


当然の様に意識は断ち切られてしまっていたのだが─────そこから、本当の地獄が始まった。






「ぼひゅぅぅっっ……がぴゅっっ……お゙え゙え゙え゙っっ……ぶふぅぅぅっっ!!」


「”銀姫の蹂躙(シルヴァリー・ドミネーション)”が炸裂~~~~~!!!

 あきら選手、完全に失神してしまっているのか、ガードすら出来ておりません!!これは危ない、余りにも危険な状態だ~~~~!!!」



鼓膜を破るような凄惨な打撃音が、絶え間なくリング上に響き渡る。


意識を失い完全に脱力した少女の肉体は、四方八方から叩き込まれる銀姫の無慈悲な連打によってキャンバスに倒れることすら許されず、宙で力なく跳ね回っていた。





「ぶひゅぅぅぅぅぅ…………」


激しい衝撃に耐えきれず、愛しい親友から贈られた大切な髪留めが弾け飛ぶ。


束ねられていた艶やかな茶髪が空中に散り、一撃、また一撃と重い拳を浴びるたびに、まるで痛みを訴えるかのように大きく乱れ揺らされていた。



「んぶぅぅっ……はべぇっっ……お゙あ゙っ…………こぴゅっっっ!!!」


白目を剥いたその瞳にはもはや闘志の欠片も残されておらず、汗や涎や涙を撒き散らし、ボクサーではなくもはやサンドバッグと化してしまっている哀れな少女。


ちかるが攻撃の手を止めれば、数秒後には少女の肉体はキャンバスへと崩れ落ち、勝利が確定するであろう状況なのだが──────銀姫は最後まで諦めなかったこの勇敢な少女に対して敬意を払い、自身の息が続く限り渾身の拳を振り抜き続けた。




「あーちゃん…………あーちゃん、早くガード上げて!! お願いだから!!!」


余りにも凄惨すぎる蹂躙劇を前に、青コーナーの凛香は喉が裂けんばかりの悲痛な声を上げ、手にしたタオルを強く握りしめる。


だが、ここは地下ボクシングであるが故にそれを投入して試合を終わらせる権利はなく、少女は親友が壊されていくのを、ただ見ていることしかできない。




「銀姫の蹂躙はまだ終わらない!!

 あきら選手、これは流石に万事休すかぁ!!?」


「ぁ…………んぅ…………お゙っ……………………」


絶え間ない暴力の嵐の中、あきらの口から漏れる悲鳴が徐々に小さく、弱々しいものへと変わっていく。


その余りの惨状にレフェリーがスタンディングダウンを取ろうとした、その時。



「よく頑張ったね…………お疲れ様」


暴風雨のような連打がピタリと止み、ちかるの口から、凄惨なリングには到底似つかわしくない優しげな労いの言葉が紡がれる。


「ぁ……………………ぅ……?」


失神してしまっている少女にその言葉が届く事はないのだが、まるで最後の手向けと言わんばかりに、その慈愛に満ちた声とは裏腹の、全身の力を込めた凶悪なアッパーカットがあきらの顔面を盛大に弾き飛ばした。


「ぐぴゅぅぅぅぅぅ……………………」




「だ、ダウンッッ!! 1………………2……………………3……………………」


もはやカウントなど必要ないと、この場にいる誰もが理解していた。


だが、この試合と呼べるかすら怪しい凄惨な蹂躙劇の余韻をじっくりと味わうかのように、レフェリーのカウントは冷酷なほどゆっくりと刻まれていく。



「これは……いくらあきら選手といえど、流石に立ち上がれないか!!?」


「………………………………ぅ……………………」


ロープの隙間からリングの外へと力なく頭を投げ出し、限界を超えた肉体はピクピクと痙攣を繰り返し、だらしなく開いた口からは止めどなく涎を垂れ流している。


そのどれもが彼女が”哀れな敗北者”である事を明確に示しており、元来の美貌や試合中に見せた不屈の闘志は、もはや見る影もなかった。



「5……………………6……………………7……………………」


強烈なフィニッシュブローによってロープの外まで大きく吹っ飛ばされてしまったあきらの頭部は、奇しくも青コーナーに立つ凛香の眼前へと差し出されるような位置に転がっている。


「あーちゃん…………」


すぐ目の前にある、原型を留めないほどボコボコに腫れ上がった親友の顔。


だが、それを見てもセコンドの少女は声を掛ける事すら出来ず、ただ瞳からポロポロと涙を流すのみだった。



「9………………………………10!!!」


そして、地下特有の長い長いカウントの後────────試合の終わりを告げる甲高い鐘の音が、無情にも鳴り響いた。


カンカンカーン!!!


「試合終了~~~~~!!!

 あきら選手、決死のジョルトで一矢報いてダウンを奪うシーンも見られましたが、最後は力及ばず、圧倒的な銀姫の暴力の前に無残に蹂躙される結果となってしまいました!!!」


リングサイドの実況が絶叫する中、会場は気高き美少女ボクサーのあまりにも惨めなKO劇に対し、本日一番の狂気的な盛り上がりを見せていく。






「………………ぁ……………………ぅ……………………」


割れんばかりの歓声が飛び交う中、哀れな少女の意識は未だ戻っておらず、ピクピクと痙攣する口元から意味を成さない微かなうめき声を漏らし続けている。



常人であれば心が折れ、地下ボクシングからの引退を決意してもおかしくない程の、あまりにも一方的な惨敗を喫してしまった少女。



だが─────────


完全に破壊され尽くしたその肉体とは裏腹に、ボコボコに腫れ上がった少女の口元には、どこか満ち足りたような穏やかな笑みが、確かに浮かんでいたのだった。






【勝てるはずなど無いとしても~あきらVSちかる~】_________Fin.



Next:【堕ちた王者と大切な親友~凛香VSあきら~】


■あとがき

あきらさん、ナッツの好きなキャラトップ3に入る位には気に入っているので、つい過酷な闘いをしてもらいがちです^^

(トップ3の残りはアリサと凛香)


来月からはあきらVS凛香の親友対決となりますので、是非お楽しみに~。


Akira is one of my top three favorite characters, so I tend to put her through some pretty tough battles^^

(The other two in my top three are Arisa and Rinka.)


Starting next month, we’ll have a showdown between best friends Akira and Rinka, so please look forward to it!




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POSTEDApr 30, 2026
ARCHIVEDApr 30, 2026