堕ちた王者と砕かれた友情~凛香VSあきら~Part.1/The Fallen Champion and a Shattered Friendship: Rinka vs. Akira—Part 1
■試合内容
当サークルで一番の人気シリーズである「堕ちた王者」の最新話です!!
この試合は個人的にかなり楽しみにしていた回なので、是非お楽しみ頂けますと幸いです^^
Part1である今回はあきらとの試合前日までの話になっております。
(VSあきらというよりは、凛香達の所属するボクシング部ワンデイトーナメント編です)
挿絵は全7枚(Part1なので例のごとく回想や立ち絵多め)、SSは約10000文字です(pixiv換算で読了まで約20分)。
あきらとの闘いはまだですが、試合シーンはちゃんと盛り込んであります。
それでは対戦よろしくお願いします~。
凛香さんスランプ編こと堕ちた王者シリーズは下記にまとめてありますので、もし良ければそちらも是非~。
■Content of the match
Here’s the latest chapter of “The Fallen Champion,” our circle’s most popular series!!
I was personally really looking forward to this match, so I hope you enjoy it too ^^
This first part covers the events leading up to the day before the match against Akira.
(Rather than focusing on the match against Akira, this chapter is about the one-day tournament held by the boxing club that Rinka and the others belong to.)
There are a total of 7 illustrations (since this is Part 1, as usual, there are plenty of flashbacks and character portraits).
Thank you for your support.
The “Rinka's Slump” arc, also known as the “Fallen Champion” series, is summarized below, so please check it out if you're interested.
★最後にアンケートがあります。プラン内容の方針を決める要素になりますので、よければ皆さんのご意見を教えていただけると幸いです。
There is a survey at the end. This will be a factor in deciding the content, so if you would like to give us your opinion, please do so. (Japanese)
★For non-Japanese users★
Please take a moment to translate and read this short story on sites such as https://www.deepl.com/translator m(_ _)m
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堕ちた王者と砕かれた友情~凛香VSあきら~Part.1
The Fallen Champion and a Shattered Friendship: Rinka vs. Akira—Part 1
「凛~香ちゃん♪」
講義の終了を告げるチャイムが響き渡り、騒がしくなり始めた放課後の教室。
ノートを鞄に片付けていた凛香は、背後から突然響いた妙に艶っぽい声音と、同時に柔らかな両肩へとぽん、と乗せられた重みに、心臓が跳ね上がるほどビクッと身体を不自然に強張らせてしまった。
「ひゃっ……!? って、ナギサちゃんか…………」
情けない悲鳴を漏らしながら勢いよく振り返ると、そこには藤色の髪を揺らし、いつもと変わらないご機嫌な笑みを浮かべたクラスメイトの姿があった。
友人を目にした、ただそれだけの一瞬。
しかし、凛香の脳裏には数週間前に味わわされた、余りにも凄惨で惨めすぎる記憶が、まるで濁流のように鮮明な映像となって蘇っていた。
(あの日……私は、本当に何もできずに……)
脳裏に過ったのは、前回のアイアンマンマッチでの屈辱的な光景。
不慣れなプロレスルールだったとはいえ、媚薬という重いハンデを背負ってくれていたはずのナギサを前に、幾度となくギブアップを奪われ、絞め落とされ、挙句の果てには『参りました』と、戦意喪失の完全降伏宣言をさせられてしまった、あの試合。
いまだに思い出すだけで下腹部の奥がヒヤリと凍りつくような感覚に囚われ、凛香の琥珀色の瞳は自然と泳いでしまう。どうしても、いつも通りの態度で接するには気まずさが勝ってしまっていた。
だが、ナギサは友人が浮かべた微かな動揺に気付いてもあえて触れようとはせず、普段通りに接し続けていく。
「今日はこれから、ボクシング部のワンデイトーナメントなんでしょ!」
「えぇ、よく知ってるわね」
胸を撫で下ろし、なんとか動揺を隠しながら凛香が言葉を返すと、ナギサはわざとらしく首を傾げて目を細めた。
「そりゃ勿論、この大学の一大イベントですから。アタシだってチェックくらいするわよ♪」
ナギサの言う通り、私立シャルム女学園のボクシング部が主催するワンデイトーナメントは、学内だけでなく地下格闘技界隈のファンの間でも非常に注目度の高いイベントだった。
その理由は明白。人気の地下格闘技団体であるUBCのプロスペクトリーグに所属する現役のランカーたちが、このサークル内には多数在籍しているからだ。
事実上のリーグ前哨戦とも言えるハイレベルな試合の数々を生観戦するため、体育館の特設会場には、毎回授業を終えた一般生徒や熱狂的な観客たちが大勢詰めかけるのが常だった。
「確か前回は……凛香ちゃん、準優勝だったっけ。 アタシも応援してるから、頑張ってね」
「えぇ、ありがと……優勝目指して頑張るから、応援よろしくね♪」
友人のエールに応えるため、凛香はフッと口角を上げ、カメラの前に立つ時のように努めて華やかで明るい笑顔を浮かべてみせた。
──────────────シャルム女学園体育館──────────────
放課後の静けさとは無縁の、地鳴りのようなざわめきが空間を支配していた。
学内の生徒だけでなく、外部からも熱狂的なファンが多数詰めかけており、その客入りはさながら地下格闘技団体の公式興行クラスの規模に達している。
そんな中、リングライトの眩い光が、白いキャンバスとそこに立つ二人の美少女の姿を鮮明に浮かび上がらせていた。
艶やかな黒髪を揺らし、凛とした表情で対峙する凛香。 その視線の先にいるのは、豊満な胸をスポーツブラに包み、不敵な笑みを浮かべる後輩のまことである。
試合前のプレッシャーが張り詰める中、凛香はグローブをはめた両拳を軽く合わせ、鋭い眼差しを向けながら強気に言い放った。
「まことちゃん……この前は不覚を取っちゃったけど、今日は負けないわよ。
先輩として、きっちり格の違いを見せてあげるから」
前回の敗北を払拭するかのような、堂々とした宣言。
しかし、対するまことは特に気圧される様子もなく、鼻で笑うようにして、からかうような薄笑いを口元に浮かべた。
「ふーん……今の、すっかり負け癖がついちゃったおねーさんが勝てるとは思えないけど。 ま……せいぜい頑張ってね♪」
どこか冷ややかさを孕んだ後輩の言葉に、凛香の眉が僅かにピクリと跳ね、口からは悔しげな声が滲んでいった。
「くっ…………」
二人の間に火花が散る中、リングを取り囲む観客席からは、勝敗を予想する噂話が幾つも飛び交っていた。
「ねぇ……この試合、どっちが勝つと思う?」
「そりゃ、流石に凛香部長じゃない? 前回まことちゃんに負けた時は、実力で負けたっていうより、媚薬に屈服させられたって感じだったし」
「まぁ…… 普通のルールなら、地力は圧倒的に凛香部長の方が上だよね」
UBCの試合では現在9連敗中という底なしの泥沼に沈んでいる凛香だが、このワンデイトーナメントにおいては話が別である。
先月までの大会でも毎回のように優勝争いに顔を出している実績があり、それゆえ、純粋な実力勝負であれば彼女がまこと相手に遅れをとるはずがないと、周囲の下馬評は圧倒的に凛香優勢に傾いていた。
そんなざわめきの中、マイクのスイッチが入る甲高い音がスピーカーから響き、アナウンスの声が騒がしい体育館を静まり返らせていく。
「皆様、大変お待たせいたしました!! これより、ワンデイトーナメント1回戦第1試合──────凛香部長対、まこと選手の試合を始めます!!」
割れんばかりの歓声が上がる中、凛香は赤コーナーを背にし、深く息を吐き出して神経を研ぎ澄ませた。
(まずは初戦…………けど、油断も慢心もしない……最初からトップギアで、本気で勝ちに行くっ!!)
前回のまこととの対戦時にあった、心のどこかでの甘えや侮りは一切消え失せている。琥珀色の瞳には、ただ目の前の敵を叩き潰すためだけの鋭い闘志の炎が静かに、だが熱く燃え上がっていた。
そんな気合十分な親友の背中を見つめながら、セコンドのあきらは、張り詰めていた表情を少しだけ緩め、ひとまず安心したような笑みを浮かべた。
(うん……この様子なら大丈夫そうね…………)
観客からの期待、親友からの信頼、自らの誇りを賭けた雪辱の機会。
全てを背負った元王者が、一歩、リング中央へと踏み出していく。
──────────だが、ゴングからわずか10分後、リング上では観衆の予想とはまるで正反対の光景が繰り広げられていた。
「がふっ……おぶぅっ……ぶひゅっ…………んべぇっっ!!」
空色の拳が次々に少女の顔面と腹部を容赦なく打ち抜き、満員御礼の体育館に、年頃の美少女からは想像もつかないような情けない悲鳴が響き渡っていく。
「凛香部長、なすすべもなくロープ際で滅多打ちですっっ!!
後輩相手に手も足も出な~~~~~~い!!!」
その声の主は、かつてプロスペクトリーグの頂点に君臨した元女王。
輝かしい肩書を持つ彼女がこれほど無様な痴態を晒している原因は、『自身が格上だと認識した相手を前にすると、思考が停止してしまう』という致命的な悪癖のせいだった。
「ぶふぇっっ…………ごはぁっっ…………んぶっ、ぐぴゅっっっ!!!」
前回の闘いを経て、まことに対してすっかり”格上認定”を済ませてしまった凛香。
その思考回路はもはや一ミリも働いておらず、後輩相手にただただ殴られるがままのサンドバッグと成り果ててしまっていた。
「うわ、えっぐ……この前の試合より酷くないこれ?」
「なにこれ…………凛香部長、ここから勝ち目あるの?」
余りにも不甲斐ない元王者の姿を目の当たりにして、体育館を埋め尽くす観客たちの間には、期待外れと言わんばかりの冷ややかなざわめきが広がっていく。
「お゙ゔゔっっ…………がひゅぅぅっっ………………」
(まことちゃん……パンチっ…………また、強くなってるっ…………)
絶え間ない拳の雨に視界を揺らされながら、凛香は身体で理解させられていた。
媚薬という足枷がないことに加え、前回の試合で元王者から完全勝利をもぎ取ったという自信。
それが、まことの拳に過去にないほどの鋭さと重さを乗せているのだということを。
「凛香っ!! 突っ立ってないでガード上げなさい!!」
ロープの外から、セコンドのあきらが喉が裂けんばかりの檄を飛ばす。
だが、その悲痛な叫びはもはや凛香の耳には届いていないのか、その指示に従う様子は一切見られなかった。
「あべぇぇっ…………んぶぅぅぅっ………………ごっ、がはぁっっっっ…………」
(ガードしないとなのに……あたま、ぼーっとして………………)
幾度となく後輩の強打で脳を揺らされた結果、凛香の瞳は知性の光を失い、虚ろな色を浮かべ、その肉体はただロープへと力なく寄りかかってしまっている。
そんな、もはや闘う力など残されていないであろう獲物の姿を見て、元最下位ランカーの少女は、その右腕を大きく引き絞っていった。
「これでっ…………ぶっ飛べぇぇぇっっ!!!」
「凛香っっ!!!」
力の限り振りかぶった渾身の右フック。
抵抗の術を持たない相手だからこそ躊躇なく打ち込める、威力のみを追求したテレフォンパンチが、元王者の顔面を身体ごと盛大に弾き飛ばした。
「ぶひゅぅぅぅぅぅ……………………」
「凛香部長、このラウンド3度目のダウンッッ!!
…………というより、もはや完全に失神してしまっております!!!」
「…………ぅ……………………ぁぁ………………………………」
眼前には、白目を剥き口からだらしなく涎を散らしながら、ビクビクと激しく痙攣を繰り返している親友の姿。
「……………………っっっ!!!」
このまま試合を続けても、無様に殴られ続けるだけで勝ち目は万に一つもない。
そう冷静かつ残酷な判断を下したあきらは、強く唇を噛み締め、悔しげな表情を浮かべながら──────真っ白なタオルをリングへと投げ入れた。
「あ~っとタオルです!! タオルが投げられましたっっ!!!」
実況の絶叫が体育館に轟く。
わずか3ラウンドで後輩相手に終始一方的に打ちのめされた末のタオル投入という、余りにも屈辱的なTKO負けを告げるゴングが、それに被さるように鳴り響いた。
カンカンカーン!!!
非情な鐘の余韻が漂う中、特設リングを囲む観衆の間には、唖然とした空気の後に冷酷なざわめきが広がっていく。
「うわ、凛香部長……またボロ負けしてんじゃん。 この前の試合って、やっぱりまぐれじゃなかったんだ」
「これで元王者とかマジ? スランプにしても限度があるでしょw」
ボクシング部の部長であり、かつては公式戦無敗のままベルトを巻いた元王者。
その凛香が、かつては遥か格下であったはずのまことを相手に、純粋な実力勝負で完膚なきまでの惨敗を喫してしまった。
しかも、学内最大のイベントであるワンデイトーナメントで、まさかの1回戦脱落。
そのあまりにも衝撃的な事実は、白目を剥いてだらしなく涎を垂らす彼女の無様なKOシーンの画像や動画と共に、学内SNSを通して瞬く間に拡散されていったのだった。
───────────シャルム女学園、メディカルルーム───────────
無機質な機械音だけが静かに響く、薄暗い治療室。
カチリ、とロックが解除される音が響くと同時に、特殊な培養液が音を立てて排出され、透明なメディカルポットのガラス扉がゆっくりと滑り開いた。
「……ぅ…………ぁ…………」
中に横たわっていた凛香は、だるそうな声を漏らしながら濡れた身体を起こし、ポットの外へと足を踏み出す。
近未来の驚異的な医療技術のおかげで、後輩に徹底的に痛めつけられた顔や腹部の傷は、何事もなかったかのように完全に治療されていた。
だが、どれだけ肉体が無傷に戻ろうとも、心に深く刻まれた敗北の記憶まで消し去ってくれるわけではない。
「あ……おねーさん、やっと起きたんだ」
不意に投げかけられた冷ややかな声に、凛香の身体がビクッと強張る。
視線を向ければ、スポーツブラ姿のまま壁に背を預け、鋭いアメジスト色の瞳でこちらをじっと見下ろしているまことの姿があった。
タオルで身体を拭きながら俯く凛香に対し、まことはゆっくりと歩み寄っていく。
その表情には、かつて浮かべていた先輩への敬意など微塵もなく、あるのはただ、純粋な”怒り”の感情だけだった。
「おねーさん……いい加減、ちゃんとしてよね」
「え……?」
低く、地を這うような後輩の声音に、凛香は思わず琥珀色の瞳を見開く。
「おねーさんがそんな無様な姿ばっかり晒してると……由乃が悲しむんだから」
「っっ…………由乃、が…………」
一番触れられたくない妹の名前を出され、凛香の胸の奥がズキリと激しく痛む。
まことの言葉は、決して敗者に対する煽りなどではなく、自分の大好きな親友を傷つけ続けている凛香への、純粋で不器用な憤りそのものだった。
「スランプだかなんだか知らないけど……早く立ち直ってよね。
じゃないと由乃は…………」
「……………………………」
言い返す言葉など、一言も持ち合わせていなかった。
押し寄せる圧倒的な屈辱と情けなさで、凛香はただ唇を強く噛み締めて拳を握りしめることしかできない。
そんな哀れな元王者の姿を一瞥すると、まことは呆れたようにふっと息を吐き出し、出口へと踵を返した。
「それじゃ、ボクはこれから決勝戦だから…………負け犬のおねーさんは、せいぜい指を加えて眺めてるんだね」
冷酷な捨て台詞を吐き捨て、まことは部屋のドアを乱暴に閉めて去っていく。
静まり返ったメディカルルームに一人取り残された凛香は、己の無力さに打ちひしがれ、ただ俯いたまま立ち尽くすことしかできなかった。
───────────シャルム女学園体育館───────────
時は少し進み、ワンデイトーナメントの決勝戦。
リング上では、先ほど凛香を完膚なきまでに叩き潰したまことが、無様な姿でキャンバスに沈んでいた。
「8………………9……………………10!!!
ウィナー、あきら!!!!!」
カンカンカーン!!!
「あきら副部長、圧倒的な強さでまこと選手をKO~~~~!!!
勢いに乗っているまこと選手を全く寄せ付けず、一方的な試合運びを見せてくれました!!」
実況の興奮した声が体育館を揺らす中、紅い瞳を静かに細めた少女は息を乱すこともなく、涼しげな表情でニュートラルコーナーに佇んでいる。
つい先ほど元王者を屠り、自信に満ち溢れていたはずの後輩をまるで子ども扱いするほどの、圧倒的な実力差であった。
「ワンデイトーナメントはあきら副部長が連覇する形で幕を閉じました!!
果たしてこの快進撃を止める猛者は現れるのか!!?」
割れんばかりの歓声と拍手が、優勝者であるあきらへと降り注ぐ。
スポットライトに照らされたリングの中央で、少女は眩しいほどの輝きを放っていた。
───────────シャルム女学園、メディカルルーム───────────
一方、その熱狂から遠く離れた薄暗い部屋。
凛香は一人、壁に掛けられた小さなモニター越しに、親友の栄光の瞬間をただ静かに眺めていた。
(まことちゃんにあんなあっさり…………あーちゃん、もしかして私よりもずっと)
自分が手も足も出ずに完敗を喫した相手を、いとも容易く沈めてみせた親友の底知れぬ強さ。
モニターから漏れる眩い光は、凛香の胸の奥底に”とある予感”を植え付けていった。
メディカルポットによる治療で外傷こそ完全に塞がったものの、急激に消費された体力までが元に戻るわけではない。
凛香はひどく重い身体を横たえ、薄暗い部屋のベッドに身を預け休息を取っていた。
静まり返った室内に、不意にドアが開く音が響く。
見上げれば、先ほど激闘を制してトーナメントの頂点に立ったばかりのあきらが、ゆっくりと歩み寄ってくるところだった。
「りっちゃん……身体はもう大丈夫?」
親友の気遣わしげな声に、凛香は力ない声を絞り出し、ベッドの上でどうにか上体を起こす。
「えぇ……ポットに入ったから、もう傷は回復してるわ。
…………それより、優勝おめでとう、あーちゃん」
「ありがと、りっちゃん」
どことなく元気のないあきらを見つめながら、凛香は微笑みを浮かべつつ言葉を繋いだ。
「その調子なら、プロスペクトリーグのタイトルも夢じゃないね」
裏表のない心からの言葉。
だが、あきらはその言葉に喜ぶどころか、紅い瞳を厳しく細めて親友を真っ直ぐに見つめ返した。
「なに他人事みたいに言ってんのよ…………アンタも狙うんでしょ? あのベルト」
「あはは……私は良いかな。 エリザベスも、ソフィアも……私なんかとは、格が違うし…………」
乾いた自嘲の笑みが、薄桃色の唇から漏れ出る。
思い起こされるのは、痛ましい敗北の記憶。
”格が違う”と思い知らされてしまった二人の強者と相対した時の苦い過去が、少女の脳裏をよぎっていた。
かつてライバルと称されながらも、蓋を開けてみればわずか1ラウンドで失神失禁KO負けを喫してしまったエリザベスとの試合。
そして、試合中に散々無様な姿を嘲笑われたにも関わらず、一発の反撃すら叶わずに完封という余りにも惨めな敗北を喫してしまったソフィアとの試合。
今も生々しく思い出せるその惨敗の記憶で、凛香は情けなさに視線を落とした。
「今の私じゃ、どうせまたリングの上で惨めにサンドバッグにされるだけだし……」
「アンタねぇっ……!!」
激しい怒号と共に、あきらが猛然と距離を詰めた。
凛香が驚きに目を見開くよりも早く、あきらの両手がベッドに横たわる凛香の胸ぐらを強引に掴み、凄まじい力で引きずり上げていく。
「あ、あーちゃん……!?」
「なんなのよ、その顔はっ!! そんな弱気な負け犬根性丸出しでグズグズ言ってるから、いつまで経っても勝てないんでしょ!!」
至近距離から叩きつけられた少女の叫びには、これまでにない激しい感情が込められていた。
掴まれた胸ぐらから、親友の怒りと、それ以上に焦燥と悲しみが混ざり合った熱い体温が伝わってくる。
「…………アタシと闘いなさい、凛香!!」
「え……?」
「アンタのその情けない負け犬根性、アタシがリングの上で叩き直してあげるわ!」
真っ直ぐに凛香の琥珀色の瞳を射抜くあきらの紅い眼差しには、一切の迷いもない確固たる覚悟が宿っている。
親友としての優しさを全て捨て去り、一人のボクサーとして、ライバルとして。
あきらは激情のままに、最愛の親友へと挑戦状を叩きつけたのだった。
─────────────2週間後、凛香自宅─────────────
あきらからの挑戦を承諾し、いよいよ試合を翌日に控えた前夜。
凛香は自宅の廊下、由乃の部屋の前に佇んでいた。
「……………………」
あのアイアンマンマッチでの余りにも惨めな敗北以来、凛香と由乃の間にはずっと冷たく重い空気が流れており、若干の険悪な関係が続いたままだった。
静まり返る廊下で、凛香の脳裏に、以前メディカルルームでまことから叩きつけられた言葉がよぎる。
『おねーさん……いい加減、ちゃんとしてよね』
『おねーさんがそんな無様な姿ばっかり晒してると……由乃が悲しむんだから』
(このままじゃダメだ…………だから、私は……………………)
深く息を吸い込み、凛香は勇気を振り絞って、妹の部屋のドアを静かにノックした。
「ねぇ由乃……今、大丈夫?」
少しの沈黙の後、部屋の中から不機嫌そうな声が返ってくる。
「なに、おねぇ…………今、忙しいんだけど」
それでも凛香は引くことなく、静かにドアノブを回して部屋へと足を踏み入れた。
「入るわね」
「ちょっ…………何、いきなり?」
ベッドの上でスマートフォンをいじっていた由乃が、驚いたように眉をひそめて姉を睨みつける。
凛香は妹の正面へと歩みを進め、真っ直ぐに視線を合わせて、胸に決めていた願いを口にした。
「明日の試合…………セコンド、ついてくれないかな?」
その唐突な頼みに由乃の表情がさらに険しくなり、頑なに視線を逸らしながら冷たい言葉を吐き出した。
「イヤ…………だって、おねぇどうせまた負けるじゃん」
「っっっ…………!!!」
痛いところを突かれ、凛香の身体が息を呑むように強張る。
自分がどうしようもない程のスランプの中にいるという現実を、誰よりも理解している妹からの容赦のない一言。
しかし、ここで諦める訳にはいかなかった。
凛香は琥珀色の瞳に寂しげな光を浮かべながらも、静かに言葉を返す。
「確かに、あーちゃんは強いし…………また、負けちゃうかもしれないわね」
「でしょ? だから……」
呆れたように言葉を続けようとする由乃。
だが、凛香はその言葉を遮るようにして、かつてないほど強い意志を瞳に宿した。
「でも…………」
「約束するわ…………もう二度と、由乃にカッコ悪い姿は見せないから」
「……………………」
予想だにしなかった姉の凛とした言葉に、由乃は思わず息を呑み、言葉を失った。
いつものようにサンドバッグにされて無様にKOされる弱々しい姿ではない。
かつて誰よりも強く、自分の憧れだった“カッコいいおねぇ”としての気高さを取り戻したかのような、力強い横顔がそこにはあった。
「だから…………一番近くで、見守っててくれないかな?」
静かな沈黙が、姉妹の間に流れる。
由乃はじっと姉の顔を見つめ、その琥珀色の瞳の奥に宿る、嘘偽りのない本物の覚悟を確かめるように視線を重ねた。
やがて、観念したように、どこか照れくさそうにふっと大きなため息を吐き出す。
「……………………もう、しょうがないなぁ…………約束、だからね」
ぶっきらぼうに、けれど確かに紡がれた約束の言葉。
張り詰めていた緊張が一気に解け、凛香の顔には、太陽のように明るい満面の笑みが灯っていった。
─────────────地下格闘技団体UBC、特設リング─────────────
「がひゅぅぅっっ…………おぶぅぅっ………………んべぇっっっっ!!!」
「凛香選手、またしても棒立ちで滅多打ちにされてしまっております!!
もはや勝負あったかぁ~~~!!?」
(だめっ…………あたま、ぼーっとしちゃってるっ……………………)
容赦なく降り注ぐ拳の雨に視界が激しく揺らされる中、私は防ぐことも躱すこともできず、ただ無防備な肉体でその衝撃を受け止めることしかできなかった。
「ほらほら凛香、ボディがガラ空き、よっ!!」
愛しい親友の鋭い声が鼓膜を打った直後。
視界の端を掠めた彼女の紅い拳が、度重なる打撃ですっかり柔らかくなってしまった私の腹筋の奥深くへと、深々と突き刺さっていく。
「おぶぅぅぅぅっっっ…………」
胃袋を直接叩き潰されたような激痛に、思わず身体がくの字に折れ曲がる。
だが、その悶絶の隙すらも、あきらは見逃してはくれなかった。
「ぐぴゅっっっ…………」
間髪入れずに下から突き上げられた強烈なアッパーカットが、私の顎を真上へと豪快に跳ね飛ばす。
(あっ、これっ…………もう………………)
脳を直接揺らされた様な衝撃に、幾度となく味わった独特の浮遊感。
もう意識が飛びそうだと悟ったその瞬間────────レフェリーの鋭い制止の声が、リングに響き渡った。
「スタンディングダウンッッッ!!!」
「あ~っと、ここでスタンディングダウンですっ!!
凛香選手、もはや万事休すといった感じですが果たして立ち上がれるのか!!?」
「1…………2…………3……………………」
レフェリーのカウントを数える声が、まるで水の中にいるように遠く、くぐもって聞こえる。
「ぅ……………………ぁ………………………………」
ロープにもたれかかった私の身体は、セカンドロープから半分外へとだらしなく投げ出されてしまっていた。
殴られ続けたせいで半分塞がってしまった視界。
必死に噛み締めていたはずのマウスピースが、だらしなく半開きになった口元から今にもこぼれ落ちそうになっているのが、鈍い感覚を通して伝わってくる。
(あーちゃん……こんなに強くなってたなんて…………)
霞む視界の先には、息一つ乱さず、冷徹なまでに研ぎ澄まされた佇まいでこちらを見つめる親友の姿があった。
(どうせ私に勝ち目なんてないんだし…………もう、このまま…………終わっても………………)
ぽちゃり、と。
ついに口の端から零れ落ちたマウスピースが、私の汗と涙で濡れたキャンバスに情けない水音を立てた。
まるで、私の中にわずかに残っていた闘志が、音を立てて砕け散ってしまったかのように。
もはや指先一つ動かす気力すら湧いてこない圧倒的な無力感に抱かれながら、私の意識は、底なしの昏い闇の中へと堕ちて──────────
「はっ…………!!」
弾かれたように、凛香はベッドの上でガバッと上体を起こした。
「ゆ、ゆめ……なの…………!?」
荒い呼吸を繰り返し、震える手で額に触れると、全身がびっしょりと冷たい汗で濡れそぼっているのがわかる。
先ほどまで味わっていた強烈な痛みと、抗いようのない絶望感──────それは単なる悪夢と呼んで片付けるには、余りにも生々しい実体を伴っていた。
「……………………」
ふと窓へと目を向ければ、少し開いたカーテンの隙間から眩い朝日が差し込み、部屋の中に光の筋を作っている。
外は雲一つない、気持ちいい程の晴天。
だが、決戦の朝を迎えた少女の心には、これから訪れる凄惨な未来を暗示するかのような、拭いきれない暗い影が不気味に落ちていた。
【堕ちた王者と砕かれた友情~凛香VSあきら~】Part.2へ続く___________