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モンスターテイマーテイマー

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 異世界につながる門が開いてから、世界は一変した。


 魔物が世界に現れて久しく、人々にとって異界のものが絵空事ではなくなった現代。

 それすなわち科学で証明できない力が跋扈するということであり、魔法という存在が科学と並び立つ巨頭として認知されていた。

 ドラゴンは体内で精製したブレスを吐き。

 ゴーストは物体を貫通して踊り狂う。

 はてには、自称神など不可視の力で車を浮かせて信仰を求めてくる始末。

 

 人の力など到底及ばぬ埒外の存在ではあるが、彼らにはひとつだけ共通した弱点がある。


 それは、人と契約が必要だということ。

 この世界に対する楔として、契約は存在証明を行う唯一の手段であった。無ければ世界に存在が認められず、すぐにでも追い出されてしまうのだ。


「柊(しゅう)はさ、誰か異界者と契約しねえの?」


 大学で次の授業を待つ間に、虎の男が問うてきた。話題作りのためか口調は軽く、何となく気になる程度のものだろう。


 柊と呼ばれた狼の青年は黒い毛皮に逡巡を張り付けて、レジュメを準備しながら口を開く。黙っていれば整った見た目なのだが、気弱そうに眉を下げるのがどうしても抜けないくせだった。


「うーん、ただ誰にも選ばれないだけだと思うよ。それに、選ばれたら大変じゃない? 申請とかしないといけないし、契約者を害する異界者もいるって話だし」

「まあな、オレのリネスは良い奴だけど、全員がそうとは限らないもんな」

「ひょっとして、自慢するための話題振りだった?」

「あはは、結果的にそうなっちまったな! 悪い悪い。でも、手続きが面倒なのはまじでそう。管理が大変とはいえ、オレも大変なんだわ」

「でも、実篤(さねあつ)は異界者管理局でバイトしてるんだし、そっちでやってくれないの?」

「やってくれるから多少は楽ではある。けど、書類が必要なのは変わらねえんだよー。いっつも締め切りぎりぎりになっちまって、リネスに怒られるんだわ」

「だからレポートも事前にやっておこうって何度も言ってるのに……ちなみに今日提出のやつは?」

「……今から写させて?」

「お昼おごりね」


 すでに異界者管理局での就職を考えている虎はそちらの仕事で忙しく、学業がおろそかになりがちだ。バイトとはいえかなり成績がいいらしく、スムーズに就職できるかもとは本人の談である。

 

 世にあふれる異界者たちが問題を起こさないように管理する国の部署であり、必要とあらば戦うこともあると柊は知っている。現代兵器が効かない異界者も多く、このたくましい友人が傷を負って登校するのも珍しくはない。

 その分給料はいいのだろうが、狼は時々心配になってしまう。


 だが、目下の憂い事を抱える柊にとって、この友人はありがたい存在だった。


「あのさ、実篤……」


 間に合わせようと必死に写す友人を見ながら、黒狼はためらいがちに口を開いた。


「ん?」

「もし、契約したけど届出を出さなかった場合って、どうなるの?」

「まあ届出は法律で決まってるから、まずは罰金だな。ただ管理を嫌う異界者もいるから、契約者を脅してる場合があってなあ。その場合はオレらが間を取り持つか、最悪退去させることになるな」

「じゃあ戦うこともあるんだ」

「場合によってはな。なんだ柊、隠し事かー?」

「そんなんじゃないよ。ただ最近ニュースであったから、気になっただけだよ」

「常ににぎわってる話題だからな。異界者も目的があってこっちの世界に来てるし、オレらも大変なんだわ」


 やれやれと肩をすくめながらも、手は全く止まっていない。お決まりの光景となったおかげで、この虎の執筆速度はだんだんと向上していた。


 そんな虎を横目で見る狼は、握った拳が手汗で湿っていることに気づいた。緊張が不快感を呼び込んで、それはやがて焦燥へと変わる。


 実篤に助けを求めることができたなら、どれだけ楽だろう。口封じの呪いは彼を孤立させ、生活に暗い影を落としている。無法な力を使う異界者はすでに黒狼を掌握していた。

 教室がどれほど賑わいを見せたところで、誰も柊の異変に気付く人はいない。

 まるで自分だけが別世界に来てしまったかのような不安が彼を襲い、SOSは喉を震わせる。


「実篤……」

「どうした?」

「…………」

 

 続きの言葉は当然のように出なかった。ただ、助けを求めるだけの言葉すら、今の狼には過ぎたものだ。


「お前、本当にどうした? 何か言いたい事でもあるのか?」

「…………」

「何かあったらすぐに言えよ。バイトだけど異界者管理局に相談くらいはできるんだからさ」

「うん、ありがとう……」


 結局、狼の言うことができた言葉はこれだけだった。


****


 終が家に帰れば、そこはすでに見知った我が家ではなくなっていた。

 入り口からすでに重い雰囲気が立ち込め、本能が警鐘を絶えず鳴らすような異界へと変わり果てている。見た目こそ慣れた光景なのだが、だからこそ変容が狼には恐ろしく感じられるのだ。


 玄関に立ちすくんだまま、心臓だけがやけに早鐘を打ち鳴らしている。短い廊下の先にあるワンルームがどうなっているのか、確認することが怖かった。

 狼の嗅覚はすでに異変を訴えており、先の光景がどうなっているのかの予測は立つ。あの闖入者はまた、この世界のものを餌食にしているはずだ。


「……おかえり、柊。入っておいで、今日はごちそうだよ」


 少しかすれた低い声に呼ばれると、狼の脚は勝手に動き出す。汚泥に絡みつかれていたかのような怯えが嘘みたいに、体はすんなり部屋へと入り込む。


 とたん鼻を突く濃い雄の匂いに、狼は吐き気すら催しそうだった。


 一人暮らし用の小さなワンルームには数人の雄がひしめき合い、部屋の空間を圧迫していた。彼らはすべからく屈強な体を汗や精でコーティングし、安っぽい蛍光灯の光を淫靡に反射している。こもった匂いを考えれば、柊が大学に行っている間ずっと盛っていたことは疑いようもないことだった。


 そんな雄たちは中心にいる彼に抱き着き、すがりつき、舌や性器をこすりつけては媚びを投げている。まるで宗教画に描かれた地獄のようだと、柊はめまいを覚えた。少し前まで憩いの地であった我が家が、地獄と化している。許されるのなら今すぐにでも逃げ出したかった。


「遅かったね。宿題でもしていたのかい?」


 中心にいる黒い男は獅子の顔に柔和な笑みを浮かべている。だが、その奥底からにじむ醜悪な性根は隠すつもりもないようで、捕食者の眼光が三日月を描いて相対者を委縮させた。

 蛇の尻尾がまとわりつく雄を撫でると、先端についた淫液が軌跡を残す。クモの糸に捕らえられた雄は、濁った瞳で腰をカクつかせるだけ。

 このねじれた角を持つ異界の存在こそ、柊の日常に現れた混沌だった。


「うん、今日はたくさんレポートが出されたからね」

「そうかい、ご苦労様。学生の本文は勉強だ。しっかり励むといい」

「エルレキノンはずっと……こんなことしてたの?」

「ああ、この世界の雄を味わいたくてね。やはり世界が変わっても雄の味は変わらない。こっちに来てよかったよ」


 ヤギの体は筋肉をまとい、まさに雄の頂点ともいえる肉体美で雄をはべらせている。周りの雄も十分デカくたくましい部類なのだが、このキメラには及ばない。

 すでに積載量を超えたベッドには、誰とも知らない雄の匂いがこびりついていることだろうが、キメラにはどうでもいいことだった。


「ご飯は食べて来たのかい?」

「ううん、まだだけど」

「なら準備しよう。何が食べたい?」

「え、エルレキノンが作るの……!」

「もちろん。今日はこいつらから食べ物を献上させて、この世界の食物事情を把握していたんだ。ラーメンだろうがカレーだろうが、なんでも魔法で出せるよ」


 抱き寄せた雄にキスを降らせながらなんてことないように言ってのけるが、質量保存の法則を無視したふるまいは畏怖すら抱かせる。柊には柔和な態度を取っているが、このキメラはまぎれもなくひとつの世界を食らった化け物なのだ。


「じゃあ、お寿司とか……?」

「いいとも。柊は何が好きかな。大トロとか?」

「想像以上に詳しい……」


 鼻歌交じりでテーブルに寿司を生み出すキメラはかなりご機嫌のようだ。その原因がはべらせている雄にあることは自明で、狼はこの悪行がいつばれるのかと冷や汗を垂らし、ネタの味に構う余裕はなかった。

 そもそもエルレキノンから立ち上がる巨根を見ながら食事をするというのも息が詰まる。赤黒い一物は絶えず雄の舌が這い、あふれ出る蜜を我先にと奪い合っている光景は食卓にはまるでふさわしくない。


 そんな柊の苦悩を知ってか知らずか、もはや理性が蒸発した獣を愛おしそうに撫でながら、キメラは悠然と笑みを深めた。


「結構いい雄を取ってきたんだ。やはり戦い慣れた雄の体はいつ食べてもおいしいね」

「……こんなことして、異界者管理局にばれたらどうするの」

「ばれないように細心の注意を払っているつもりだよ。彼らだってこの世界で言うなら……たしかそう、堅気じゃないんだ。異界者を違法に使い、悪行を重ねているものたちだよ」


 だから彼らには傷が多いのだと、ようやく狼は合点がいった。異界者管理局で働く友人が正義の味方なら、彼らは悪と言っていいだろう。


「そんな彼らも登録はしていないのだから、ばれないよ。登録していない異界者を手籠めにしたところで、世界は何も変わらない」


 そんな悪の中に混じる狼は顔立ちこそ柊に似ているが、骨格はまさしく人狼のそれだ。快楽に蕩けてさえいなかったら、さぞこわもてだったに違いない。


「忌部 柊(いむべ しゅう)」

「……なに?」

「君は私の契約者だ。契約とは誰とでもできるものではない。最も近しい存在こそ、世界に対する楔として機能するんだ」


 何度も聞いた言葉が狼の頭蓋に響く。いくら柊が否定しても、現実は依然として黒いキメラの形をとって鎮座している。


「私はこの世界に来る際、契約者として申し分ない者へと飛ぶように呪式を組んだ。その結果が君だ。だというのに君と来たら、セックスはおろか、男にすら興味がないときた」

「呪式を間違えたんじゃないの」

「私に限ってそれはない。そして、実際君との契約はとても有効に働いている。ここにいる人狼はそれができなかったせいで、力を十全に発揮できないのだ。それに比べれば、私は実に恵まれているよ。確かに全力にはまったく及ばないが、想定より力を振るえている」


 それは実篤からも聞かされていたため、真実だと狼は知っていた。異界者の楔になる契約者は相性がとても大事だと。

 だとするならば、柊の本質はこのキメラと同じということになる。

 雄を食らい、むさぼり続け、挙句の果てに世界を一つ滅ぼした巨悪と。


「君はまだ芽吹いていないだけなのだ。その心に潜むどす黒く美しい願望に」

「僕にそんなものはないよ……」

「くすっ、今までの君は力がなかったから、気づかなかったに過ぎない。だがこれからは私がいる」


 エルレキノンが指先を動かすだけで、柊の体はふよふよとその腕の中まで移動する。雄臭さが鼻につくのだが、抗いがたい魅力が香っているような気がして、狼は必死に自分を繋ぎとめようと苦心した。

 しかし、子どもの胴体ほどもある腕が甘やかしてくると、身の心もゆだねたくなってしまう。どれほど牙を光らせようと、エルレキノンは優しい。破滅に導くうたい文句を、子守唄のように聞かせてくれる。


「ああ、柊。私の可愛い柊。私の手にかかれば、君の本質を引きずり出してしまうことなど容易なんだ。だがそれではつまらない。私の契約者にふさわしい存在になるまで、私は君を育てよう」


 エルレキノンが柊に向ける感情はペットに向けるものに近い。少なくとも、柊はそう思っている。

 圧倒的上位存在が持つ余裕からくる愛情は、柔らかい傲慢に他ならない。無意識に他人を格付けするのは自信の裏返しだ。

 雄臭い腕で成人男性を赤子のようにあやしながら、キメラは歌う。


「ふふふっ、新しい雄を食らいに来ただけの世界だったが、思わぬ収穫だったよ。まさかこの私が、終末のエルレキノンと呼ばれたこの私が、子育てをするなんて。」

「別に育ててほしいわけじゃない。僕はエルレキノンのようにはなれないよ」

「ああ……この私の腕の中にいて、なお不遜な態度を吐くと言うのか君は。どうせ今は下地を整えている段階で、あまり目立って動けはしないんだ。時間はたくさんある、ゆっくりと愛をはぐくんでいこうじゃないか」


 これほど薄っぺらい愛もない。狼はこの異形が語る言葉を何一つ信じられず、おびえて身を縮こまらせるだけだった。

 

「さあ、食事も済んだことだから、これからセックスをしよう。好きなものを使いなさい」


 人や異界者を物として扱い、狼へと差し出すキメラに罪悪感などみじんもない。まるで食事の時間が終わったから次は勉強の時間だとでもいうかのように、母を思わせる声音で語る。


 大きな手が狼から衣服をはぎ取る仕草すら優しく、甲斐甲斐しさすらうかがえる。だが実際は有無を言わさぬ圧が常に漂っており、柊には拒否権などないのだ。


「エルレキノン……僕は疲れてるから……」

「おや、お気に召さなかったかな。君はグルメだから、やはりそこらで捕まえた雄は口に合わないようだ。これでもまともなものを選んできたつもりなのだけどね」

「そういう意味じゃなくって……!」

「ははっ、わかってるとも。でもね、柊。彼らはすでにちんぽなしでは生きられない哀れな存在なんだ。君に使ってもらうことこそが、彼らの幸せなんだ」


 萎えた狼ちんぽをしごきながらキメラが目線で合図を送ると、雄たちが柊へと群がっていく。誰もかれもが狼に使ってもらおうと人としての尊厳を投げ捨てて、下手に出ることでお恵みをもらおうと自棄になっていた。


「ああ、柊様♡♡おれにちんぽくださいいぃ♡♡♡」

「もっとおマンコしてぇ♡アクメしだいぃっ♡♡」

「エルレキノン様にめちゃくちゃにされたトロマンがうずぐうぅ♡♡」


 ああ、と狼は恐怖を感じずにはいられない。地獄絵図はここに極まれり、理性が死んだゾンビのような雄が我先にと狂った笑みを投げる。

 そんな子猫のような態度をわかっているはずなのに、キメラは崖から突き落とす。優しいのは口調だけで、エルレキノンの言うことは絶対だった。


「安心してくれ。私が躾けたんだ、味は保証する。明日は学校が休みだろう? 終が退屈しないように、たくさん持ってきたんだ」

「あ、明日一日中するってこと……?」

「もちろんさ。たくさんしようじゃないか。君が望むなら、私を使ってもいいとも。ふふっ、私のマンコを使えるのは特別な雄だけなんだ。元の世界にいる数多の雄の中でさえ、両手の指にも満たない。だから光栄に思うといい」


 狼の一物をしごきながら、キメラはあくまで慈母の仮面を外さない。剛腕のゆりかごであやしながら、堕落へと導いていく。

 締め切った部屋にひしめく雄の臭気が興奮しろと発破をかけ、それに応えそうになる自分が、柊には特に恐ろしかった。慣れは確実に良心を侵食し、常識を欲望が覆い隠そうとしている。


 こんな部屋にずっといれば、誰であれ狂ってしまうだろう。だけれども、柊には逃げる手段などあるはずもなく、このキメラの言う通りに知識や経験を与えられていくだけ。


 伸ばした手が触れるのはたくましい胸板で、黒い毛皮から立派な乳首がのぞいている。何度もしゃぶらされたその突起の記憶が欲情を引き出し、狼から気弱な影が少し薄まった。

 それは本人も知らない変化ではあったが、エルレキノンは喜ばしいとにんまり笑う。彼からすればこの狼が才能豊かであることは明白で、その成長を見守ることもまた楽しみの一つなのだから。


「ふふふっ、そんなに私のおっぱいが気に入ったのかい。可愛い柊。なら今日は授乳してあげるから、しゃぶりながらこれらを使うといい。おマンコの感覚だけでどの雄か当てられるくらいには、たっぷり使わせてあげるよ♡」


 悪辣で淫靡、他人を食い物かオナホぐらいにしか思っていない諸悪の根源。このキメラは元の世界では魔王と呼ばれ、快楽に貪欲な黒い災害として世界を崩壊させた存在だ。

 だがこの世界には多数の異界者がいる。その中にはこのキメラに匹敵する者もいるはずなのだ。


(だから、僕が助けさえ求められれば……)


 口封じの魔法をかいくぐり、あの友人を頼ることさえできれば、きっとすべてうまくいく。異界者管理局はこのような存在と何度も対峙してきた経験がある。異界の門が開いてから、この世界は何度も窮地をくぐり抜けてきた。その実績を、柊は信じていた。


 肉欲に溺れる寸前まで自我を保とうとする気概は眩く、キメラが焦がれるのはそういう性質なのだと、本人はまだ知らない。

 今はただ、与えられた快楽を咀嚼するだけで精いっぱいだった。


****


「急に外に出たいなんて、どういう風の吹き回し?」

「いやなに、たまには外の空気を吸うのも健康に大事だと思ってね。根を詰めて勉強するのもいいが、やはり息抜きは大事だ」


 どこまでが本心なのか全く読めない微笑を浮かべたまま、キメラは狼の肩を抱き寄せる。そもそも部屋に閉じ込めて雄を与え続けたのはエルレキノンであるというのに、その意図がつかめず、狼は困惑するしかなかった。


 外行きになっているキメラは現代社会への適応も十分そつなくこなしており、簡単なジーンズとシャツだけの恰好だ。しかし、その簡素な服装も恵まれすぎた肢体を際立たせるだけになっており、ただ立っているだけで類まれなる魅力があった


「柊、あっちにカフェテラスがある。良ければお茶でもしないかい?」

「お金持ってたの?」

「ん? この前の雄たちからね」

「ああ、そういう……」


 微笑む姿だけを見ていれば、さぞかし好青年に見えることだろう。角を隠した姿は柊から見ても美丈夫としか言いようがない。

 胸筋が分厚すぎるせいで締まらない胸元は少しだけ空いており、谷間から色気が零れ落ちている。そしてさらに、飾り付けられたシンプルなネックレスも相まって、フェロモンの間欠泉が衆目を誘蛾灯のように吸い寄せてしまっていた。


「大学生というものは金銭のやりくりがたいへんなのだと聞く。ここは私が出そう」


 他人からの貢物を振りかざしながらいけしゃあしゃあと言い切って、キメラはさっと注文を済ませていた。現代社会への溶け込み方が半端ではなく、狼が大学に行っている間、この世界について十分に学んでいたようだ。

 それからコーヒーと軽食をトレーで持ってきたエルレキノンは、テラス席へと狼を誘う。


「どうぞ、柊。ここからなら町がよく見えるだろう」


 椅子を引いてエスコートする姿が堂に入りすぎていて、周囲の客からの羨望が狼を貫いた。自身が魅力的であると信じて疑わない仕草は優雅の一言に尽きる。しかも、キメラは自覚的だ。自分がいかに素晴らしいか、彼は十分すぎるほど理解している。

 周囲の視線に内心辟易する柊は、尻尾の先がしおれないように注意しながら座る。嫌がっているようなそぶりを見せれば、このキメラは大仰にくっついて口説いてくるに決まっていた。


「ありがとう」


 簡単にお礼だけ述べて、すぐさま視線を町へと移す。向かい合ったキメラの暖かい目がむずがゆく、できれば視界に入れたくなかった。


 雑踏は往来が激しく、様々な人が、そして人以外もコンクリートの道を歩いている。楽しそうな人もいれば急いでいる人も、そこには様々な人生があるのだろうなと、コーヒーを飲みながらぼんやりと狼は眺めていた。


「じゃあ柊。誰が欲しい?」

「はあ?!」


 思わず吹き出しそうになった狼が首を回せど、エルレキノンの表情は何一つ変わらない。晩の献立を聞くかのような気軽さで、誰かの人生を台無しにしようと持ち掛けていた。


「もしかして、わざわざ外に出たのはそのため……?」

「そうさ。毎日毎日私の用意したものだと飽きが来るだろうと思って、今日は柊に選んでほしいのさ。私も柊の好みが気になるところだしね」


 捕食者は優しい仮面をつけたままで、周りにそれを悟らせない。このキメラは狡猾に雄を食らう算段を立てていた。


「選ばなかったら……?」

「そしたら、今日は十人持って帰って、その中から選んでもらおうかな。でも、君が選べば一人か二人で済むね」


 それは脅しだ。狼が持つ善性に訴えかけるような手段であり、選ぶことを余儀なくする手段。おかげで柊は良心の呵責に苦しみ、コーヒーの味がまるで分らなくなってしまった。


「あれなんていいんじゃないかい? 見てごらんよ、あのたくましい腕を。私ほどではないが、かなり鍛えられているよ」

「あ、うん……そうだ、ね……」

「それならあっちはどうだい? 見たところ仲睦まじいカップルのようだね。ああいう愛を欲情に置き換えるのも好きなんだ。私らのちんぽ欲しさに競い合わせるのも楽しそうじゃないか」

「…………」

「柊」


 カップを持つ手に、黒く大きな手が重なる。顔だけはいつも通り柔らかく、けど、捕食者特有のぎらついた眼光を忍ばせて、キメラはささやく。


「選びなさい。何も恐れることなんてないんだ。君には私がいるだろう。どんな悪逆も、どんな淫行も、私が是と言えばそれが法となる。世界が変わっても、これだけは普遍のルールだ」


 逃げ道などないと言われれば、狼はしぶしぶ雄を選ばされる。これ以上エルレキノンを待たせては、何をするのかわかったものではない。前のようにあのワンルームで乱交されるのは、絶対に避けたいと狼は思っていた。

 往来に視線を向けると、嫌でも屈強な雄が目についてしまう。これまでの教育の成果が如実に表れた結果であり、柊にとっては自身の変容を突きつけられる形になる。


 分厚い体を思う存分貪りたい。柊とて性欲くらいは人並みにある男だ。

 だがそれでも、こんな方法は間違っている。そう思えるくらいの良心は持ち合わせていた。


 良心の警告を抑え込みながら、どうしようかと思考の渦に呑まれているとき。

 ふと、見知った顔と視線がかち合った。


「あれ、柊じゃん。こんなところで何やってんだ?」

「……実篤」


 大柄な虎が人懐っこい笑顔で狼へと近づいて来る。その背後には、大量の食糧が入った袋を抱えたドラゴンが、ハンバーガーを食べながら渋い顔をしていた。


「あ、リネスと買い物?」

「そういうこと。こいつ、本当に大飯ぐらいでさ、買い溜めしとかないとあっという間にオレの食べるものもなくなっちまう」

「その分働いているだろうが。我にこんな人混みを歩かせて……早く帰りたいのだが?」


 大きな翼にどっしりした下半身を持つ竜は鍛えた虎よりも高い場所から、げんなりとした視線を注いでいる。深緑の鱗に覆われた偉大な空の王者だが、人混みを歩くのは嫌いなようだ。

 トカゲに羽が生えたような見た目を持つ正統派ドラゴンであるリネスは、実篤が契約している異界者だ。本人曰く、美味しいものが食べたくて来たと言ってはばからないあたり、健啖家である虎と近いのは間違いない。

 だからこそエルレキノンと自分は近しいのだと、突きつけられた気分になるのだが、いったん目をつむり、友人へと気さくな声をかけた。


「リネスは疲れてるみたいだね。飛んでいけばいいのに」

「オレも欲しいものがあってな。飛べば楽でいいけど、降りれるところがないんだ」

「ああ、この辺りは繁華街で込み合ってるからね」

「そうそう……んで、そいつは誰だよ。見たところ異界者だろ?」


 角も隠して擬態しているキメラを一発で見抜いた虎は、警戒を露骨にあらわしながら獅子の相貌を睥睨する。だが、エルレキノンはあくまで優雅さを崩すことなく、微笑みを返すだけだった。


「よくわかったね。これでも溶け込もうと努力しているのだけど」

「どれだけ見た目を取り繕っても、雰囲気は隠し切れねえよ。後はまあ、勘ってところか」

「さすがだね。でも、そう警戒しないでほしい。私はただ契約者を探しているだけなんだ」

「野良の異界者か……? どうやってこの世界に存在してる」

「私はもともと魔法が得意いで、ある程度なら世界の目をごまかすことができるのさ。もっとも、さすがに長期間は難しいがね」


 しれっと嘘を突きとおそうとするキメラに、不信感をぶつける虎。柊はこれをチャンスだととらえ、なんとか友人にこの異界者の凶悪性を知らせる方法がないか頭をひねる。

 だが、エルレキノンの不利になるようなことは封じられており、それは言葉だけでなく動作も含まれている。狼にできることは、気弱そうな表情を一層曇らせることだけだった。


「管理局はそういうやつのためにも、契約者を探したりもしてるぞ。お前が望めば、ある程度の条件は聞いてやれる。それに、そこまで魔法がうまいのなら、うちで働いてみてもいいかもな」

「ありがたい申し出だけど、でも、私は自分の手で探したいんだ。やはり契約する以上、運命的な出会いが欲しくてね。自分で探すことに意味があると思っているよ」

「……お前、名前は?」

「エルレキノン。どうかよろしくしてくれ」


 見る者を魅了する蠱惑的な笑みを浮かべるキメラだが、虎の警戒心は強まるばかりだった。多くの異界者と対峙して磨かれた勘が、この男を見逃すなと言っている。

 虎は手に持った端末を操作しながらも、エルレキノンの一挙手一投足に気を配っていた。


「エルレキノンね……うちに登録はないな」

「まだ契約者を見つけていないからね。そんな余裕はないんだ。急がないと世界からはじかれてしまう」

「柊と話していたのは、契約者探しの一環か?」

「そうとも。町を歩いていたら素敵な人を見つけてね、もしかしたらと思って声をかけたんだ。今はお互いを知るところから始めている最中さ」

「……そうなのか、柊?」


 ここで違うと、この魔王に脅されているのだと言えたらどれほど楽だろう。

 しかし、狼がしたことといえば、黙ってうなずくだけ。それしか許可されず、行動のすべてはキメラに掌握されていた。


「ふふふっ、どうやら照れてるみたいだね。逢引を知り合いに見られたのだから、しょうがないかもしれないね」

「…………リネス」

「ふむ、我の所感によれば、こいつは危険だ。野放しにしていい奴とは思えん」

「だよな。ちょっと管理局まで来てもらおうか。どの世界から来たのか、目的は何か。色々聞かせてくれ」

「おやおや、困ったな。あと少ししかこの世界に滞在できないというのに」

「その場合は、今度来たら契約者の斡旋をしてやるよ。どうせあまり時間をかけずにこれるんだろ?」

「それも勘かい? なかなかどうして、鋭いじゃないか」

「そんだけ余裕があれば、誰でも気づくだろ」

 

 エルレキノンは狼に困ったような視線をわざとらしく向けて、肩をすくめて返す。このまま異界者管理局に連行されてしまえば、いくらエルレキノンとはいえただでは済まないかもしれない。


「柊、そんな不安そうな顔をしないでいいよ。私は別に悪いことなどしていないんだ。また後で会ってくれると嬉しいな」


 狼の顎下を撫でながら、キメラは整ったスマイルを向ける。あくまでも余裕を崩さないその態度に、むしろ狼の不安は膨れ上がる一方だった。


「安心しろ、柊。もしこいつが危ない奴なら、お前には指一本触れさせねえから。……ちょっと写真を撮らせてもらうぞ」


 実篤が端末を操作している間も、リネスが警戒を怠らない。おそらく画像を管理局に送っているのだろう、これでエルレキノンの顔は管理局の知るところとなった。


「よし、面談予定は空いてるな。管理局で面接官が対応してくれるから、おとなしくついてこい」

「……はあ、わかったよ。せっかくのデートだったのに、残念だね。またね柊」

「…………」


 キメラが席を立ち、虎の後ろをついて行く。そして、最後尾を歩く竜はじっと狼へと視線を向けていた。

 柊が知る限り、リネスは口調こそ物々しいが、契約者の実篤に似て話せばとっつきやすいところがある。常に何かものを食べているイメージがあり、実際会うたびにいろんなものを頬張っていた。

 そんな竜が険しい顔を柊へと向けるのは珍しく、思わず尻尾が委縮してしまう。


「…………もぐ」


 何か言いかけたようだがそれをハンバーガーでごまかして、ふいっと虎に続いて歩き出す。


 先ほどから行動を制限されている狼だったが、それが解除されたのはキメラの背中が遠ざかってからだった。


「……ぷはぁ!」


 言葉をせき止めていたものは何もなくなり、ようやく狼は自由を取り戻す。

 だがすべては遅く、柊の言葉は誰にも届かない。

 飲みかけのコーヒーに浮かぶ不安そうな面持ちだけが、風で揺れていた。その顔は今にも泣きそうで、自分の無力さに涙が出そうだった。


「大丈夫かな……」


 狼にできることは祈ることだけ。

 願わくば、ひどいことがおきませんように、と。


****


「ただいま、柊」

「え、エルレキノン……!」


 だが、狼の心配事をよそに、あっさりとキメラは再び前に現れた。

 落ち着かないまま日は沈み、暗くなった部屋に夜より黒い巨体が優しく微笑みを浮かべ、異質な雰囲気をまき散らす。


 しっかり鍵を閉めたはずのワンルームに戻ってきたキメラは、当たり前のように狼へと距離を詰める。獅子の顔は安らぎに満ちており、あのハプニングを何とも思っていないのが浮き彫りになっていた。


「何もなかったの……?」

「もちろん、これでも外面は良いからね。それに、ここは法治国家だ。おとなしくしていれば、ひどいことにはならないさ。お友達は私を管理局に拘留したがっていたようだけど、さすがにこんな礼儀正しい異界者を閉じ込めておく余裕はないよ」

「でも、異界者は契約しないと住所がないから、その場合は管理局で暮らすんじゃ?」

「ああ、だから前もって私の身元引受人を作っておいた。この前ここで犯した……誰だったか忘れたけど、オナホの一人だよ」


 異界者は契約しないと世界からはじかれるが、そのわずかな間、保護する仕事やボランティアをしている人たちがいる。この世界について何も知らない異界者たちを社会になじませる大事な役割であり、管理局から委託される場合もあった。

 エルレキノンはこういう事態を前もって想定していたようで、名前すら憶えていないその哀れな人を仕立て上げて難を逃れたようだ。


「私は別にずっと雄と遊んでいたわけじゃない。この世界について学んで、様々な対策を立てていたんだよ」

「さすが、だね……」

「ふふ、本当は君にボランティアをしてもらうのが一番ではあるんだろうけど、君は私の魔法によって困ったことは話せないからこういう時に不便だね」


 言葉を奪った張本人が不便とのたまう、その図太さに狼は閉口する。何をしても許されると信じて疑わない傲慢さを持つキメラが、蛇の尻尾を得意気に振った。


「さて、デートをふいにして悪かったね。これから夜景を見に行こうか」


 角を戻したキメラは悠然とした態度で、狼を腕に抱きしめる。

 太い腕とたくましい胸板、それに柔らかい毛皮は狼の胸を高鳴らせた。すでにその裸体の味を知っているため、本能が喜んでしまうのだ。

 腕を回せば指先が届かないほど分厚い体は身長も高い。自然と谷間に顔をうずめてしまった柊は、とっさに首を上げる。


 するとそこはすでに見慣れた部屋ではなく、知らない場所だった。


「……え? どこ、ここ……?」


 外灯もないため確認しづらいが、そこは工事現場のようで、虫の声すらしない無音が闇を際立たせていた。

 宇宙空間に放り出されたかのような孤独と恐怖が狼の心に忍びより、たくましいキメラを自然と抱きしめてしまった。


「大丈夫、私がいるから怖くないよ。今日はここで友人と会う予定だから、一緒にどうだろうと思ってね」

「友人……?」


 いまいちびんと来ない狼に嬉しそうな顔を向けるキメラ。サプライズを仕込んで悦に浸る手にひかれ、柊は奥へと足を進ませる。

 進入禁止の告知程度で止まるキメラではない。文字が読めないわけではないだろうが、エルレキノンの歩みを止める者は何人たりとも存在していないのだ。


 やがて奥に進むと、そこには竜の男がいた。暗がりであっても目立つ赤い鱗は衣服を着ておらず、筋肉の隆起が明け透けになっている。エルレキノンが持ってくる屈強な雄を見慣れた狼でさえ、たくましいと形容する肉体美だ。

 だが、柊の目を引いたのはその表情、おびえすくみ逃げ惑う竜は二人の元へと駆けつける。


「た、助けてくれっ! 異界者に追われてるんだ!」

「どうしたんですか……?!」

「わからないっ! 気が付いたらここにいて、あの化け物が……!」


 何が何だかわからないのは狼も同じ。どうしようとキメラを見上げれば、爛々と輝く捕食者の瞳が視界に映る。

 その瞬間、すべてはこのキメラが仕組んだことなのだと、柊は理解してしまった。


「なんだ、まだ契約していなかったのかい。君らの相性は抜群だから、心配しなくていいのに」

「け、契約だと! お前はおれをあの化け物と契約させるつもりなのか!」

「当然。だからこそ、わざわざ君をここまで招待したんだ。リカディネター、獲物をいたぶるのが楽しいのはわかるけど、私も暇じゃないんだ。そろそろ進めてくれ」

『――――っ!!』


 暗闇の奥底で、何かが呻いた。

 それは言葉とは到底認識できないノイズの集合体でありながら、本能的な不快感を想起させる呪詛のような声だった。金属同士をこすり合わせてもこんな不愉快な音は出ない。そこにいる何かが、不気味な風格を垂れ流す。


「あ、あ、あ……!」


 直視してはいけない。早く逃げるべきだ。そう狼の本能が叫んでいる。

 これほどまでにやかましい警鐘を鳴らしたことがあっただろうか。エルレキノンと出会った時でさえ、ここまで委縮したことはなかった。

 耳は伏せ、尻尾は丸まり、子犬のようにキメラの手を握る。エルレキノンがどれほど醜悪だとしても、今頼れるのが彼だけなのも事実だ。


「大丈夫、柊に危害は加えないさ。ふふっ、こういうのをこの世界ではつり橋効果というんだったね」


 狼を抱き寄せて、キメラは甘くささやいた。

 暗闇はこんなに恐ろしく、恐怖がうごめいているというのに、その言葉だけで安心してしまう狼がいる。それが躾のせいだと分かっていても、吹きすさぶ恐怖から逃れるためならプライドなど不要だ。


「ひぃ……!」


 竜の男がついに腰を抜かし、情けない顔で後ずさる。根源的な恐怖を前に筋肉など何の役にも立たないようで、足腰すら満足に動かせないでいた。


「なんで……」ようやく乾いた舌を引きはがし、狼は問う。「こんなことを……?」

「ん、ああ、あのリカディネターはかわいそうな子でね。この世界でお腹いっぱいになりたいのに、誰も契約してくれないんだ。私が見つけた時にはもうはじかれかかっていてね、そこで私が一肌脱ぐことにしたのさ」


 あの邪悪な存在が可哀そうなものか、叫べたなら柊はそう言っていただろう。歯の根がかみ合わない現状、キメラの庇護下に甘んじることしかできない。

 人に害をなす異界者の存在は実篤から柊も聞いていた。そういう存在が契約者を得ることはまれだが、もしこの世界に留まれたなら、力づくで追い出さなければならないとも。

 このキメラは、それを意図的に行おうとしていた。


「リカディネターに会う人を探すのに手間取ってしまったが、今日偶然、町で見つけたんだ。少しトラブルがあって遅れたけれど、間に合ってよかったよ」


 つまり、あのカフェには柊の獲物を探すと同時に、この化け物の契約者を探す意味もあったのだ。そして哀れな生贄はこうして望みもしない契約を結ばされようとしている。


「契約者は異界者と似ているに越したことはないけれど、そうでなくても相性が良ければ何とかなる場合もある。今回がそうだね。だから、壊してしまっても構わないよ」

「……え、どういうこと?」

「私が君と似ているからこそ楔として強く作用する、って話は前にしただろう。だけれども、逆に全く似ていないからこそ作用する場合があるのさ。最も、それはまれな話で、だからこそ探すのに時間がかかったのだけどね。どうせ壊してしまうのだから、似た人を探す意味がない」

「壊すって……!」


 柊が言い募ろうと口を開いた時、暗闇から『それ』が現れた。


 それはぬらめく肉の蔦だった。ピンクと赤の中心に位置するかのような生々しい肉の色を持ち、血管らしきものが絶え間なく脈打っていた。粘液にまみれているためひたひたと雫が落ち、甘くもあり生臭い、形容しがたい匂いを振りまいていく。

 一目見たとたんに、狼は吐きそうになる。存在感に圧倒され、胃が悲鳴を上げていた。

 様々な形を持つ異界者の中でも異端だと、詳しくない狼でさえそう断言できる。

 それほどまでに、あれは邪悪だった。


 嫌悪を催す造形がさらに一本、また一本と現れ、竜へと絡みついていく。男は剛腕で振り払おうとするのだが、蔦にはまるで利いていない。鱗の上で滴る不快な粘液が、被食者に最悪の未来を想起させて止まなかった。


「ひっ……嫌だ、嫌だっ! 頼む、助けてくれ! お願いだ!」

「くすっ、おびえることはない。あれはそんなに悪い奴じゃないんだよ。ただ、男の性をたらふく食べたいというだけ。君が契約者になってくれれば、私にとっても何かと便利でね。どうか快く食べられておくれ」


 冷たい獅子の相貌が竜を無下にする。縋り付こうとする手を踏みつけながらも、その微笑が崩れることはなかった。


「嫌だ……たす、けてくれ……!」

「おやおや、床に爪を立てて……割れてしまったら痛いだろうに。リカディネター、あまり大事な契約者を傷つけないでくれ。これでも頑張って探したんだからね」

『――――っ!!』


 おぞましい声を響かせながら、触手は竜を持ち上げる。言葉は通じるようだが、意思疎通が図れるなんて柊は全く思わなかった。


「いやだああああぁぁぁっ!!」


 触手が引き下がれば、泣き叫ぶ声も闇の中へ。そしてすぐに、汚らわしい水音と悲痛な嬌声の演奏会が始まる。


「助け……ごえっ♡あぎゃ♡」


 まるで脳をかき混ぜるかのような音に人の壊れる声が加わって、夜は陰惨を極めていく。


「うげえぇ……は、入らないっ!♡そんなの入るわけねえ!♡やめ、やめろぉ♡お願いしますお願いしますお願いしま――――ぐえええぇえぇぇ♡♡♡♡」


 演奏はあまりに恐ろしく、柊は耳をふさいでうつむいた。卒倒してしまえばどれだけ楽だろうと思っても、エルレキノンが許すはずもない。

 ガタガタ震える子犬の肩を、キメラは愛おしそうに抱きかかえて前に進ませる。どれだけ狼が拒否を示したところで、単純な筋力でも勝てるわけがなかった。


「さあ、せっかくマッチングをしてあげたのだから、見に行こうじゃないか。柊ともいい友人になれるはずさ」

「なんで、なんで……こんなことを……」

「言っただろう、下地を整えていると。これはその一環。契約者を求める異界者に、最適なものをあてがう。そして私は対価として彼らの協力を得る。こうして、勢力を増やしていくつもりなのさ。柊、私はね――」


 キメラは笑う。妖艶に、凄惨に、毒々しい華を思わせるほどに綺麗な顔で。


「異界者たちのマッチング業をしようと思っているんだ」


 それが言葉よりもずっと悪どい意味を持っているなんて、確認せずともわかることだった。


「そもそも柊は似ているとはどういうことだと思う?」


 引き潰したカエルのような声の方へと狼を押しやりながら、朗らかな声でキメラは問う。

 返事は期待していないようで、場違いなほどにやついた声が勝手に答えを述べた。


「最も大きな要因は性格、つまり魂ではあるけれど、見た目も含まれているんだ。私も本来は人型ではないのだが、君に合わせて形を整えることで、世界の目を欺く力を強めているというわけだよ」


 キメラが指を鳴らせば闇夜に光が差し込んで、赤い竜の現状がさらされる。

 たくましい四肢には肉の蔦が絡みつき、筋肉の上を這いまわっては紫色の液体を塗り込んでいく。甘さに不快感を混ぜ込んで濃縮させたような匂いは、狼にはきつすぎる。柊は口元を抑えながら、吐き気に負けないよう必死だった。


「たす……ぐぇ♡♡おぉぉおぉん♡♡♡そごだべだぁ♡はいっで、ぐるなぁ♡♡♡」

「では逆に、全く似ていないものたちで契約させたところで、どうして世界の目を欺けると思う?」

「わ、わかんないよ……」


 触手はスリットや肛門に潜り込み、竜を体内から凌辱している。分厚い体が何度もブリッジ状にのけぞり、黒目がまぶたに隠れるほど眼球がひっくり返っていた。

 エルレキノンが持ち帰ってきた雄たちは程度の差こそあれ、誰もが恍惚とした顔でこの世の春を謳歌していた。

 だが、この肉塊は違う。他人の悲鳴を糧にしながら、尊厳を貪り食っている。

 まさに化け物と称される非道なふるまいに、狼は尻尾を股に挟んで耳をふせることしかできていなかった。


「これはいわばバグのような挙動でね。あまりにかけ離れたものを認識しようとしても、一つのものしか目に入らない、そういう経験くらい君にもあるだろう?」

「左か右のどっちかしか顔を向けられない……みたいな?」

「まあおおざっぱに言えばそうだね。そして契約は自分をこの世界の者と同化する術だ。だからあまりにかけ離れた者同士を結べば、どちらかしか世界は認識できなくなるというわけさ」

「そう、なんだ……」

「あまりピンと来てないって顔だね。まあ本来はリスキーな術で、誰も使わないから無理もない。もし世界に異物だと判断されてしまえば、宿主の方もはじかれる可能性があるからね」

「え……!」


 だとするならば、今柊の目の前で喘ぎ狂っているこの竜にとって、こんな契約は命に関わるはずだ。

 とっさに視線を向けた先では、内壁を叩かれるたびに触れてもいないちんぽから白濁を吹き出す竜がいる。いきすぎた快楽によって自我を削られているようで、無我夢中で暴れる姿は痛ましさすら覚えるほどだった。


「はじかれたら……どうなるの?」

「異界者は自分の世界に戻されるだけだけど、この世界の者は帰る場所がないからね。どこか世界のはざまで死ぬんじゃないかな」

「そんな……!」

「ふふっ、安心して優しい柊。それを可能にするのが私であり、マッチング業の肝なんだよ。私の魔法を使えば、異界者を安全にとどまらせることができるんだ」

「じゃあ……」


 じゃあこの人は無事なんだねと、柊は言おうとした。

 だが悲痛な叫びをあげる有様を見てしまえば、無事と判断するのは憚られる。狼は言葉を飲み込んで、捕食が早く終わるようにと祈った。無力な狼にできることは、それくらいしかない。


 彼もまた被食者に過ぎないのだから。


「ああ、柊……♡」


 甘くとろけた声を降らせて、キメラは狼を後ろから抱きしめる。分厚い体で包み込み、狼を撫でさする。


「綺麗な夜景だろ? この世界の人はこういう時にロマンスを紡ぐのだと学んだつもりなのだが、私たちもどうだい?」

「き、綺麗……これが?」

「もちろん。私はね、柊、強い雄が変性していく様こそ、積み重ねた人生や信念が私の与えた価値観にとって代わる瞬間が、何よりも美しいと思っているんだ。君にもわかるだろう?」

「…………」


 わかるわけがないと言えたら、どれほど楽だろうか。柊は許されるのならエルレキノンが提唱する無法な価値観をはねのけたいと願った。

 けれども実際はキメラの庇護が無くなればあの竜のようになるのだという恐怖が、口を縫い付けている。体を這う武骨な手に好き放題させながら牙を噛みしめることだけが、彼に許された行動だった。


「あっ……」

「柊。私の素質を持つ者。私は君の変性が楽しみで仕方がないんだ。君がこの世界で育んだ善性や理念が、私の思想を是と受け入れる瞬間……想像するだけでたまらない。花が咲くように、君の本質が芽吹くその時を待ちながら、私は水をあげようじゃないか」

「僕にはそんな才能、ないよ……」

「ふうん……?」


 キメラの手が柊のズボンに入り込み、その股間にあるものをつかんだ。

 とっさのことに体をこわばらせる狼の耳に、蠱惑的な音が入り込む。


「こんなに硬くしておいてかい?」

「それは……!」

「ふふふっ、いい具合に成長しているようで何よりだ。君が厭うたところで、本質は変わらない。その魂は紛れもなく、私と同じ色をしているのだからね」


 こんな醜悪な現場を前に勃起しているなど、柊は信じたくなかった。

 だというのに、エルレキノンは熟達した手つきで怒張をしごきたて、現実を突き付けてくる。お前はこんなものに興奮する外道なのだと、それは嬉しそうに。


「ぅあ……待って、やめて……!」

「気に病むことなど一つもないさ。それが君の本性なのだから。私はきっかけに過ぎない、時間の問題だったのさ」


 だからと言って認められるわけもなく、狼は腰をゆすって逃げようとするのだが、キメラのたくましい体がそれを許さない。あっという間に狼は下半身の衣服をはがれ、あさましい願望がいきり立つ様を外気へとさらすことになった。


 気弱な雰囲気に似つかわしくない怒張は雄を食らう性を反映しているかのようだった。巨根と称しても問題ないくらいの大きさに、血管をまとうグロテスクな肉の槍。エルレキノンの掌でも余るほどの長さには、興奮の残滓が雫となって滲み出していた。


「いつ見ても……とてもおいしそうだ♡これで雄を食らったことがなかったなんて、まったく、人生を損しているよ柊♡♡」

「そんなことない……!」

「自分のデカマラを見て気づかなかったのかい? これは雄を食らうための武器だと。雄の頂点に君臨するに足る、捕食者の器だよ。ふふっ、やはり本質は私と変わりないのさ♡」

「あっあっ……!」


 キメラの両手がちんぽをしごきたて、先走りで幹を淫靡に光らせる。精を貪って世界を滅ぼした魔王の手管を前に、エルレキノンと出会う前まで童貞だった狼にはなすすべもない。

 カリ首を撫でる力加減は絶妙で、思わず柊の足から力が抜けそうになる。だが、キメラの筋肉がそれを支えることで、狼は嫌でも現実を直視せざるを得なかった。


 目の前では宴も終わりかけているようで、竜は顔に張り付けた恐怖を融解させている。熱に浮かされた焦点の合わない瞳が暗闇をさまよい、口からはよだれがこぼれていた。


「ふあぁ、リカディネター様ぁ♡♡契約……結ぶ、気持ちよくなるぅ……♡♡ふへ、へへへへ♡♡♡♡」


 先ほどまで畏怖の対象であった肉の蔦を自ら手に取って、丹念に舐めていく。それは柊の家でエルレキノンが躾けた雄にちんぽを舐めさせる光景と何ら変わらず、この竜が完全に堕ちてしまったことを知らしめていた。


「れろぉ……♡♡はい、はい……リカディネター様が雄をおマンコするために、おれも協力します♡♡だからおれにも、このご褒美をぶち込んで、めちゃくちゃにしてください♡♡」


 触手を股に挟み、腰をカクつかせながら竜は笑う。なんの影響があるのかもわからないおぞましい液体を舐めながら、ただ気持ちよくしてほしいと媚びを浮かべている。

 ああ、壊れたのだと、柊は理解した。今まで人生で積み上げた価値観が無残にも色欲に上書きされ、この雄を形作っていたものはすべて今、新しくなったのだ。

 決して許してはいけない、人を食らう行為。堕落という言葉がこれほどふさわしい行為もないだろう。柊には確かに、眼前の惨状に対する嫌悪がある。


「なのに、なんで……なんで……」


 ――――こんなにも股間が昂るのだろうか。


 これまでの人生で積み上げた常識や良識を丁寧にはがされていくのは恐怖以外の何物でもない。そして、この竜も当然そうだったはずであり、狼は彼の気持ちが理解できていた。

 それでも股間は一層熱を持ち、精巣はマグマのように煮え立っている。善意を失いたくはないとする狼だが、キメラはあざ笑うかのようにしごきを強くし、欲望を吐きだせと発破をかけてくる。


「やめて……お願いエルレキノン! 止めて!」

「怯えることはない♡これが自分だ、受け入れるんだよ柊♡」

「やだっ、こんなので出したくない……やめて……!」


 エルレキノンの本性は醜悪な魔王だ。狼が拒否すればするだけ彼の中で愉悦が生まれ、底なし沼にはまるだけ。それがわかっていても、認められないのだと柊は抵抗を続けるしかなかった。


「リカディネター、私の可愛い柊をもっと興奮させておくれ♡これが好きなのだと、言い逃れできないほどに、素晴らしい夜景を見せるんだ♡♡」

『――――っ!!!』


 雄を食らい魔物同士、通じるものがあったのだろう、触手は竜の腰を持ち上げて、狼から尻が見えやすいように体勢を変えた。

 ぶら下げられた土下座の体勢を強要されたにも関わらず、竜は従順だった。腰に巻き付いた触手が無ければ、この竜はコンクリートの床に叩きつけられてしまうだろう。

 

「う、わ……」


 そして、筋肉で膨らんだ尻の中心、排泄を司る部位だったそこは荒らされてドロドロになっていた。

 何度も抽挿を繰り返したのだろう、肉の縁は盛り上がり腫れそぼっている。鮮烈な赤に紫の粘液がまとわりつくのは毒々しさを際立たせており、もう男を知らない蕾には戻れないのだと誰の目にも明らかだった。

 何度も収縮を繰り返してはいるが、ただのおねだりに過ぎない。その証拠に、蔦は屈強な尻肉に食い込んで持ち上げることで、非処女の穴をこれでもかとさらしていく。


「んふぉぉぉ♡♡♡」


 赤い鱗とは違う肉々しい粘膜の色をした蕾から、紫の粘液がどぼどぼとしたたり落ちる。その際に少しめくれた穴は果実のようにつややかで、柊の視線は吸い寄せられてしまった。


「あ……」

「くすっ、どうせならもっと近くで見るかい? 変わり果て、雄に犯されることでしか満足できなくなったおマンコだ。きっと柊も気に入るはずさ」


 エルレキノンが指を鳴らせば、触手は意図を汲んで竜を狼の間近へと持ってきた。甘くどく不愉快な粘液の匂いに混じって、竜の雄臭がむんむんと鼻を突く。うごめくマンコ肉は生々しく鮮明で、震える際に追従する光沢が食べてくれと乞うているようだった。

 さらには触手によって押されたちんぽが下向きにされ、折りたたまれた体から飛び出している。顔は見えず尻とちんぽだけが視界を埋め、狼は湧き上がる性欲を抑えきれなくなっていた。


「ふぅ、ふぅ……!」

「ほぉら、おいしそうなおマンコだろう?♡好きなだけ食べていいんだよ。怪我をさせても私がすぐに治してあげる。君は心のままに、これをいたぶっていいんだ♡♡」


 禁断の実を食べろと、狼の耳元で蛇がささやく。キメラはずっと優しいしごきでちんぽを愛撫しており、狼の性欲をじっくりとあぶり続けていた。

 そのおかげで、柊の中で膨れ上がる欲望が理性の制御を振り切ろうと暴れ出す。もはや否定することもできぬほど、この狼は興奮していた。


「は、鼻息がおマンコに当たるっ♡くすぐってぇ♡早くいじってくれ♡頼むっ、さっきからむずむずしておかしくなりそうなんだ♡♡おれのケツマンコ、いじっでぐれえええぇ♡♡♡」

「ふふふっ、リカディネターの粘液は催淫効果があるから、こんなに浴びたらおマンコのことしか考えられないだろうね♡ああ、もちろん柊には効かないようにしてあるから、好きに舐めていいよ♡」


 前後から脳をゆだらせる誘惑が狼を襲う。力んだ竜のマンコから一筋紫が飛んで、頬に当たって落ちていく。触手の粘液と竜の体液の混ざったそれは、否応なく雄を吸い寄せる魔性に満ちていた。


「…………」


 そっと、狼の口先を肛門に近づければ、谷間で蒸れた臭気が鼻を突く。エルレキノンと出会ってから何度も嗅いだ雄の匂い。汗とフェロモンの混ざったまごうことなく雄の色香であるくせに、雌として認識されるのは狼がフィルターをかけているからに他ならない。

 これが雌だと、食らうべきだと、狼の奥底に眠るケダモノが舌なめずりをして笑った。


「……すごい、匂い」


 決していい匂いとは言えないが、妙に人をひきつける何かがある。それは化け物の粘液が持つ甘さかもしれないが、嗅ぎ分けていくと竜の色香が確かにあった。

 代謝の良いさわやかな汗に潜んで、欲望が醸すよどんだ香り。蒸れているからでは説明がつかないくらいに濃く発情したサインは、狼の鼻を虜にしていった。


「はぁ……はぁ……」


 柊が匂いを堪能するに合わせて、エルレキノンの手こきは緩やかになっていた。まるで指揮者のように狼のボルテージに合わせて強さを変えることで、じわじわと性欲を昂らせていく。

 加えてキメラは豊満な胸で頭蓋をはさみながら、雄の体温で発情を促し続けていた。それは魔法を使わない手管でしかないくせに、柊にはよく効いている。巨体に包まれながら雄のフェロモンを浴びているがゆえに、狼の情欲はとどまることを知らなかった。


「ふふふっ♡可愛い柊、そんなに匂いを嗅ぐのが好きなら、今度私の好きなところを嗅がせてあげるよ♡♡セックス後で蒸れたおマンコでも、香水を落としたおっぱいでも♡柊の好きなところを、ね♡♡」

「……っ!」


 その言葉に以前顔をうずめた記憶が想起されて、狼の小さな耳がぴんと立つ。この竜とキメラの匂いは当然違うけれども、欲望が煮詰まったという意味では共通していた。

 狼の脳内では裸のエルレキノンや先ほどの竜で埋まっている。無意識のうちに匂いの濃い方へと鼻面が下がっていき、押し出されたちんぽへと向かう。


「お、おおぉ……おっ……」


 粘液と臭気の一番濃い根元からは、透明な汁がこぼれ続けていた。スリット内部を守るためのものだろうが、今となってはただの愛液でしかなかった。

 割れ目の隙間からは特濃になったフェロモンが溢れており、思わずえずいてしまうほど。それでも十分に堪能するほど気に入ったようで、小刻みに揺れた尻尾がキメラの足をはたいていた。

 

 赤くいきり立った雄の象徴は、狼よりは小さいものの、世間一般では十分巨根と言えるくらいの大きさではある。

 だが今やマンコをひくつかせて虚空に無駄打ちするだけのお飾りに成り下がり、現状と対比される道化でしかなかった。


「リカディネター」頭の代わりに亀頭を撫でながらキメラは言う。「私の柊がこれを気に入ったみたいだから、たまには貸してくれないかい?♡契約のメンテも無料でしてあげるよ♡♡」

『――――っ!!!』


 人をモノ扱いしながら本人の意志も介在しない話をしているというのに、当の二人はまるで上の空で、性欲に没頭して聞いていなかった。もっとも、聞いていたとしても意味などなかっただろうが。


 そしてキメラの提案に興が乗ったのか、肉色の触手は竜マンコの中へと勇んで入り込み、ぐちょぐちょと荒らし始めた。狼ちんぽに負けないほどの太さを持った触手によって肛門が広げられ、分厚い尻肉の中心から芽生えた形になる。


「お゛っ、おおおぉおぉぉぉ♡♡♡♡♡♡」


 ようやく与えられた直接的な快楽に、竜の脳は瞬時に沸騰した。土下座体勢だった背中がのけぞって、天井に向けてネジのとんだ嬌声を放つ。

 下向きちんぽからは断続的に透明な液体を漏らし、潮なのか尿なのかもわからないものが床へと広がっていく。鱗に滴る汗や顔中から出る体液も相まって、魂を絞られているのではないかと、柊は錯覚を抱いた。


「ぎら゛っ♡♡ぶっとい触手ううぅうぅ♡♡リカディネター様ぁ♡ありがとうございます♡♡ありがとうございます♡♡ほおおぉおぉ♡♡♡♡」


 狼にとって、喜悦の嬌声は悲鳴と変わらない。魂から自我を抽出され、隷属を強いられているようにしか見えないからだ。


 にも関わらず、キメラにしごかれるちんぽがたまらなく気持ちがよくて、気付けば背後のおっぱいに体重を預けていた。弾力豊かな肉の感触を堪能して、これがあの醜悪なキメラものであるということがわかっているのだが、本能は喜んでしまっていた。


「はっ、はっ……はっ♡」

「んふぅ♡柊のデカマラがびくんびくんとしてるね♡上澄みは手こきでいかせてあげるけど、後で私にぶち込んでおくれ♡この世界で私におマンコする許可を出せるのは、柊だけなんだ♡♡♡」


 わざとらしく胸筋をひくつかせれば、狼の耳が歓喜に震えた。男の味を知らなかった柊の成長を見て、キメラは嬉しそうに笑う。性根の悪さが滲み出してはいるものの、それは慈愛と表して差し支えないだろう。


 ここが盛り上がりどころだと、エルレキノンは手筒の中で脈打つ鼓動を感じている。

 手つきは激しくなり、いかせるための技術を存分に使ってちんぽを追い詰めてフィナーレへと向かっていく。


「うあぁ……あっ♡♡待って、エルレキノン……♡」

「くすっ、躊躇を懇願するくらいなら、この場を楽しんだ方が有意義じゃないかい?♡見てごらん、目の前のマンコが無様に犯されて喘ぎ狂っているよ♡ふふっ、なんて汚い♡後で触らせてもらうといい、手マンの練習にはなるだろうね♡」


 竜マンコからは粘性の高い水音が奏でられ、そのたびに鱗に包まれた筋肉が跳ねまわっていた。ゼリーをかき混ぜるかのようなはしたない音が、屈強な雄の尻から鳴っている。結合部からは何度も粘液が飛び散って、狼の鼻は甘さと雄臭さに閉じ込められていく。


「ふおっほおぉおぉぉ♡♡♡おまんごぎもぢいぃいぃ♡い、いいいぃっでる゛♡いっでるういっでるいってる゛ううぅうぅぅ♡♡ぎもちいいのとま゛んねええぇほおおおぉおぉ♡♡」


 その言葉通り、竜のちんぽは壊れたように射精を繰り返し、乳しぼりのようだった。本人の意志も関係なく快楽を与えられてはビュービューと床に無駄撃ちをし続け、金玉を酷使して雄であることを否定させる。

 リカディネターのせいで永遠と射精できるようにされたおかげで、竜は快楽の地獄から抜け出すすべを失っていた。


「触手ううぅがあぁ♡だべなところまではいっでる゛っ♡♡んでも、すんげええぇ♡すっげ♡すっげ♡んほぉおぉ♡体ん中、ごりごりされるどおっほぉ♡気持ちいの、爆発する♡おマンコ、アクメ止まんねええええぇえぇぇ♡♡♡♡」

「あ、あ……♡」


 人が目前で壊されていく残虐な光景、だがそれは柊のちんぽをより硬くするだけだった。


「んっふぅ♡柊、ちんぽがぐじゅぐじゅになってきたね♡感じているんだね♡今度は二人で雄を調教して遊ぼうじゃないか♡♡」

「違う……僕は、あっああぁ♡♡♡」

「何も違わないさ♡君と私は同じ、雄を食らう化け物なんだ♡早く認めたほうが、楽になるよ♡♡」


 弱々しい否定も、いきり立った肉棒の前では何の意味もなさない。

 柊はだんだんと絶頂へ追い詰められていき、理性の声が小さくなっていった。


 たくましく大きな尻が快楽でよがるたびに震え、肉が弾むさまは煽情的でしかない。中心で犯されるマンコは泡を吐きながらけいれんし、触手の抽挿に合わせて伸びたり縮んだりを繰り返している。


 柊とて健全な男子であり、オナニーのためのおかずを探したことくらいはある。

 だが、ここまで汚く下品なものは見たことがなかった。この狼が知っていたのはすべて画面や紙の向こうにあるものでしかなく、鼻が曲がりそうなほど濃い雄の臭気はしていなかった。

 今目の前にあるのは作り物ではない、本物の凌辱だ。肉を貪る悪逆達の晩餐は生々しく、悲痛な嬌声を美酒のように嚥下して心を潤していく。


「ひ、あ、あぁ……♡」


 止めなければならない。そんな狼をいさめる常識の声ははるか遠く、もはや聞こえもしない。

 脳がしびれるような酩酊は甘美で、毒のように狼を蝕んで欲情することを肯定し始める。キメラの巧みな手つきは間違いを助長し、凌辱をおかずにしてもいいのだと誤った価値観を植え付ける。


「きも、ちいい……もう……♡♡」

「限界かい?♡いいよ、たくさん出してくれ♡」


 他人を壊しながらも、キメラは優しくささやいた。

 そして、それが合図となって、狼のちんぽが噴火する。


「で、る……♡うあ、あ……ああああぁぁ♡♡♡♡」


 柊の射精は常人よりはるかに多く、真っ白な軌跡が一筋、高らかと打ちあがった。

 白濁は空中で這いつくばっていた竜の腹にびしゃびしゃと当たり、鱗越しに格の違いを見せつける。例え真っ当な状態だったとしても、竜の性癖に悪影響を与えていたに違いない。

 そんなものを壊れた状態で浴びればどうなるのか。

 答えは熱っぽい目で狼を見る姿から明らかだった。


「すっげぇ……♡こんな沢山、出しすぎだろ♡♡ちんぽもでけえし、おマンコされてぇ♡♡」

「え、るれきのん……なんで、こんなに出るの……んあっ♡絶対、んっ、何かしたでしょ……♡」

「くすくす、まさか、私は何もしていないさ♡これは柊がたくさん興奮したからでしかない♡言っただろう、君は私の素質があると♡この程度は上澄みじゃないと、雄を食らい続けられないじゃないか♡♡」

「だったら、なんで……♡」

「今まで君がおかずにしてきたもの……口に合わなかったんじゃないのかい♡」


 そんなことはない、と狼は否定したかった。

 だが、これまで生きてきてこんなに興奮したことはない。少なくとも、狼に思い当たることはなかった。


「違う、僕は……♡」


 射精しながらも自身の欲を拒絶して、狼はわななくだけ。足元がおぼつかない感覚に震え、培ってきた善性をつなぎとめることに必死で、後ろでほくそ笑んでいるキメラにまで気が回っていないようだった。


 柊の興奮が冷めたことを皮切りに、触手は竜を解放し床へと落とす。汚い液体の水たまりにまみれた竜だったが、表情は至福に緩み切っており、尻から粘液をこぼしながらすぐさま狼へと――正確には狼ちんぽへと恭順の視線を向けた。


「見てごらん柊♡君は射精一つで雄の信頼を勝ち取ったんだ♡私の下準備があったとはいえ、中々できることじゃないよ♡」

「…………っ!」

「ふふ、ふふふふっ♡♡ああ、可愛い柊♡そんなに怯えないでくれ♡君は今本当の自分に目覚めようとしているだけなんだ♡この世界にはびこるくだらない規則に押し付けられたかわいそうな柊♡私が解放してあげるから、安心してくれ♡」

「違う、違うんだ……僕は別に、こんなことを望んでない……!」

「いいんだ♡他の誰が君に後ろ指をさそうとも、私だけは君を肯定し続けよう♡」


 この優しさは底なし沼だ。狼はそれを理解している。

 だが罪悪感を包み込んでくれる怪物に安堵を抱いているのもまた事実だった。


 ひょっとして自分は戻れないところまで来てしまっているのではないか。そんな不安が狼の心にさざ波をたてる。射精も終わって冷めた熱が、常識を突き刺してくるのだ。


 しかし、ここにいるのは狂った捕食者たちであり、そんなものは気にするに値しないと、キメラは肉の蔦とやり取りを行っている。

 マッチング業についてのあれやらこれやらが漏れ聞こえてくるが、柊にそんなことを気にする余裕は全くなかった。


 触手を首輪のように巻いた竜が下から媚びた目線を送り続けているが、それからさっと目を逸らす。こんな異常な扱いに、慣れてしまうのが怖かった。

 

「……誰か」


 このままでは自分まで狂ってしまう。

 それがいつかはわからないが、そう遠くない未来の話だと狼は理解している。


 そうしたら自分はどうなってしまうのか。誰にも届かない救難信号をか細く送りながら、柊はただ目をつむるのだった。


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「最近疲れ気味だけど、バイト忙しいの?」

「まあなー結構人手不足で、シフトやべえくらい入ってるんだわ」


 学食でレポートを渡しながら、狼は問う。

 この虎は休憩時間のたびに寝ており、授業中は何とか起きている状態だ。毛皮の艶から見ても、疲れていることは明白だった。


「そんなに頑張らなくてもいいんじゃない? もうすぐ期末だし、おやすみもらっとこうよ」

「オレもそうしたいんだけどな、本当に最近異界者が活発になっててどの部署もてんてこ舞いなんだ。さすがにオレだけ休めねえよ」

「そうなんだ……怪我だけは気を付けてね」

「わかってるよ。心配してくれてありがとうな」


 友人を心配そうに見つめる狼だが、彼はその原因を知っている。

 それは当然あのキメラであり、マッチング業によって本来なら人と契約を結べないような醜悪な異界者たちが世に跋扈する事態となっていた。

 以前にマッチングを行ったあの竜のように、被害者たちはすべからく色狂いへと堕ち、エルレキノンが提唱する価値観への恭順を見せている。

 そのせいで契約者も不明な異界者たちが、巷をにぎわせているのだ。


「実篤……」


 魔法で縛られていなければ、狼はすぐにでも通報していただろう。だが現実は不安そうに見つめることしかできていない。


「大丈夫だって」それを心配と受け取った虎が空元気を装った。「リネスだって頑張ってくれてるし、オレが倒れるわけにはいかねえんだよ」

「あ、うん、そうだね」

「でも、あのエルレキノンだっけか……またちょっかいかけてきたら、すぐオレに言えよ。絶対何とかしてやるから。リネスもお前のこと心配してたからな、あいつ、結構お前のこと気に入ってるんだぜ」

「ありがと。でもそれは初耳かも、リネスに会ったことってあんまりなかった気がするんだけど……」

「あー……ほらリネスってどう見てもドラゴンだから、大学に連れていくと白い目で見られるんだよな。部外者ってのもそうだし、異界者だし……あんまり連れて歩かないしな」


 明らかに人ならざるもの、それもこの世界では伝説でしか名を見ないドラゴンが近くを闊歩していたら、普通の人は怯えるのが当然だ。しかもこの世界では異界者に対しての風当たりは決して良いとは言えない。彼らは招かれざる客としての側面が強く、だからこそ、異界者管理局が強く管理する必要があるのだ。

 異界の門が開いてから世界は一変したが、人々はまだその存在に慣れてはいないようだった。


「だから、オレがリネスを学食に連れて来た時、結構騒ぎになってさ……お前覚えてるか?」

「確か、僕らが入学したての頃だっけ」

「そうそう、入学時に話して仲良くなれそうだなって思ってたやつらも全員遠巻きに見るだけでさ、そん時になって、今でも異界者は受け入れられてねえって気付いたんだ。オレは中学の時からリネスと一緒だったし、実家が田舎で、中高とみんな顔見知りみたいなとこあったから、こんな扱いだって知らなくてさ……まあ要するにちょっと傷ついたんだ」


 異界者にはいろんな体を持つ者がいるとはいえ、完全なドラゴンであるリネスは珍しい。元の世界でも神格化されるほどの存在なのだが、美味しいものが食べたいからと世界を渡ってきたリネスを知っている狼としては、忌避される扱いはあまりピンと来ていないようだった。


 そんな顔を見ながら虎はにへらと笑う。仲の良さが滲み出す緩い空気を受けて、狼も自然と笑みがこぼれた。


「そこでお前が来た。空気も読まずにオレに一緒に食べようって言ってさ」

「あ、あれは僕も入学したてで、友達を作ろうって緊張してて……あんまり周りを気にする余裕がなかったから……。僕も君と一緒で、高校の友達と離れちゃったしさ……」


 柊としては、同じ学部の虎が一人でご飯を食べているからチャンスだとしか考えていなかった。近くに大きなドラゴンがいたとしても、友人作りの方が大事だったのだ。


「それがきっかけでオレとお前の仲がいいって認識が広まって、今に至るわけなんだがな。そう考えたら、お前の友達作り作戦は大成功じゃねえか、よかったなっ!」

「まあね。おかげで楽しい大学生活ができてるよ。……でも、今リネスの話してなかった?」

「わははっ、そうだった。とまあそんな出会いだったから、リネスもお前に悪い印象は持ってないって話だ」


 虎は嬉しそうに皿を空にしていき、狼の倍以上の食事を胃に収めていく。リネスの契約者ということもあり、この虎もかなりの健啖家なのだ。


「うし、なんか話してたら元気でてきたわ。今日のバイトも頑張れそうだ」

「それはよかった、んだけど、もしかして……実篤が異界者管理局でバイトしてるのって、そのせい?」

「そういうこと。異界者がもっと受け入れられたら、リネスも一人で買い食いとかできるようになるだろ。今は繁華街とかいくにもオレと一緒じゃないと警戒されちまうんだわ」

「じゃあ実篤が体を張ってるのって、リネスのためなんだ。すごいね」


 狼が知っている危険な異界者はあの肉色の触手やエルレキノンといった凶悪な者たちばかりであり、そんな悪辣な存在と対峙する虎に素直な尊敬の念が芽生えてきた。

 自分が彼ほど強ければ、エルレキノンの誘惑をはねのけられるに違いない。狼がじっと見つめると、虎は照れたように後ろ頭をかいた。


「もう家族みてえなもんだしな。都会にくりゃやりたい事が見つかるだろうと思ったが、案外早くに見つかったってわけだ」

「いい夢だと思うよ、応援する」

「……ありがとうな。お前って普段おとなしいのに、こういうときはしっかり言うよな。そういうところ好きだぜ」

「君の素直さには勝てないと思うけどね」

「そうかぁ?」


 あの魔性のキメラから離れて友人と談笑することで、揺らいでいた価値観が戻ってくるのを柊は感じていた。だが、価値観が戻ったところで、性癖は歪みきっていた。もはや昔使っていたおかずは意義を無くし、ただエルレキノンの与える雄を貪る生活には変わりない。


 それでも、狼の中にある意志はこの状況を何とかせねばと警鐘を強めてくれる。キメラを放置することは、この友人が怪我をする可能性が上がることなのだから。


「この忙しいのが終わったら、遊びに行こうぜ。どうせもうすぐ夏休みなんだからさ」

「いいよ。リネスも誘って、美味しいものでも食べようか」

「そうしようぜ。よーし、なら頑張らねえとな!」


 食べ終わったトレーをもって、実篤は立ち上がる。これから選択授業の違いで、柊だけ大学に残ることになっていた。

 

「じゃあまた明日な、柊」

「またね。明日の必修科目のレポート、忘れないでよ」

「……善処しまーす」


 目をそらしながら背を向ける友人を見て、駄目そうだなと柊は感じる。だが、エルレキノンのような異界者を取り締まることの重要性は、十分に理解している。

 実篤の意気込みを知ったこともあり、手助けしようと決めた。それが罪悪感も含まれていることは本人も重々承知しているが、何かしなければ気が済まなかった。


「授業終わったら図書館でレポートやって、写真撮って送ってあげようかな。あんまり早くに帰りたくないし……」


 ムードメーカーの消えた席でちまちまと食べながら、家に待つ苦難を思い出して暗澹とした気分になってしまう。

 近頃はエルレキノンの誘惑が激しくなっており、毎日のように黒く屈強な肉体に溺れている。土台ができるにしたがって、仕入れてくる雄の質も上がっていく。おかげで柊が今まで見たこともないようなたくましい雄が、供物のようにささげられていた。


「やだなぁ……」


 それは狼を取り巻く環境への忌避でもあるが、同時に現状に慣れ始めている自分への嫌悪でもあった。

 ふと気を抜けば、昨日貪った赤い竜の味が口内にリフレインする。肉の蔦の化け物であるリカディネターの契約者は、あれから何度か柊に体をささげていた。キスの名残がまた残っているような気がして、狼は水をあおってごまかした。


「……授業始まっちゃう」


 逃げるように学食を後にして、狼は欲情の余韻を振り払う。どうせ帰宅すれば嫌でも浸るのに、大学で考えることではないと区切りを付けようとした。

 あの闖入者にこれ以上生活をかき乱されたくはない。狼は日常へとまぎれ、少しでも安寧を得ようと喧騒へと身を沈めていった。


 そして、安らぎの時間はあっという間に終わった。レポートも友人に送った狼はこれ以上帰宅を先延ばしにすることもできず、重い気持ちで玄関のドアを開ける。

 あまりに遅いと何を言われるのかわからない。慈愛で取り繕った優越感に満ちた瞳を思い出すたびに、落ち着かない気持ちになってしまった結果だった。


「ただいま」

「お帰り柊。今日もご苦労様。ほら、おいで」


 部屋まで行けば、簡素なシャツとスラックスだけでも絵になるほどに整ったキメラが、ベッドに座りながら両手を広げて狼を迎え入れる。獅子の精悍な顔には柔らかい笑みを浮かべ、ヤギのたくましい体には隆々とした筋肉がついている。一見しただけでは、内心の醜悪さには気づかないだろう。

 逆らうことなど狼にできるはずもなく、盛り上がった胸に顔をうずめた。香水に混ざる汗と雄の匂いは、鼻孔にとって慣れ親しんだものになっている。


 ワンルームにはキメラ以外誰もおらず、珍しいこともあるものだと狼は訝る。そしてすぐ、何かろくでもないことを企んでいるのだろうということを悟った。


「嬉しそうだけど、何かいいことでもあったの?」

「ふふっ、柊は鋭いね。ついさっき面白い情報を仕入れたから、抜き打ちテストをしようと思ってね」


 狼の頭を撫でるキメラが言うことに、嫌な予感しかしない。目の前が泥沼だというのに、柊に戻ることは許されない。恐る恐る尋ねれば、にんまりとした三日月の目が愉悦を浮かべて性根の悪さを露呈した。


「今日まで、君は雄を使ってたくさんセックスの練習をしてきた♡おかげで初見の雄でもマンコを躾けてアクメさせられるくらいにはなってきただろう♡だからそろそろ、君をテストしようと思うんだ」

「それが面白い情報と何の関係があるんだよ……」

「実篤」


 キメラの口から一番出てほしくない名前が出て、狼の毛皮が逆立つ。おっぱいから勢いよく顔を上げると、してやったりと言わんばかりの表情が降ってきた。


「……だったかな、異界者管理局で働く君の友人だ。それが先ほど現場投入されて、異界者を鎮圧する任務に就いたらしい」

「実篤をどうする気……!」

「ふふふっ、怒らないでくれ私の柊。むしろ私は助けてあげようかと提案している」

「どういう意味!」

「なにせ、鎮圧対象はあのリカディネターなんだ。あれは別世界の邪神に類するものでね、人の手には余ると私は踏んでいる」


 いつかの夜に見た肉色の蔦を思い返し、狼はぞわりと、背筋に寒気を走らせた。

 暗がりで全貌を把握できなかった狼ですらわかる。あれは人の世に居てはいけないものだと。

 そんな邪悪を煮詰めたような存在が友人に牙をむこうとしているなど、到底聞き流せる話ではない。狼は目に力を込めて、憤怒を露わにキメラへと視線を跳ね返した。


「この世界に来て弱体化しているけど、私の契約サポートがあるおかげでそこらの異界者なんかじゃ歯が立たない。それがたとえあのドラゴンだろうとも」

「それがテストの報酬ってこと?」

「そういうこと。テスト内容は私とのセックスだ。私を満足させてくれたら、彼を助けてあげよう」


 狼のおでこに軽くキスを落としながら、エルレキノンは低くささやいた。紳士然とした振る舞いに潜む傲慢は柊の癪に障ったが、そんなことに構っていられる余裕はなかった。


「ふふっ、早くした方が良い。時間が経てば現場は不可逆にゆがめられるかもしれない。そうなれば、試験は失敗だ」

「わかってるよ」

「ああでも、タイムリミットを視覚化させないと分からないね。学校でもテストには時計がつきものなのだろう?」


 二人のすぐ近くに鏡のようなものが現れ、見知らぬ路地裏を映し出す。その中には、確かに虎とドラゴンの姿があった。


「実篤……!」

『なんだこいつ……見たこともねえくらい気味悪い異界者だな……! なんでこんな奴が契約を結べてるんだよ……!』

『気を付けろ。こいつは今まで出会った中で、最も醜悪な存在だ』


 肉色の蔦を見る実篤の顔からは闘志が消えていないようで、軍人が着るようなヘルメットの中で眼光が瞬いた。手には銃を持っているようだが、果たしてこの邪神にどれだけ有効なのか、狼にはわかりかねた。


「ふふっ、どうやらちょうど今邂逅したようだね。果たして彼らがどれだけもつのか、見物じゃないか」

「異界者管理局には他の隊員もいるんだ、協力すればきっと……」

「ああ、それは……」


 鏡の中の映像が切り替われば、そこに映るのは死屍累々とした光景だった。

 実篤と同じ制服を着た人や異界者だと思われる者たちが、皆一様に倒れ伏している。彼らは下半身を露出して、いまだ萎えない一物から快楽の残滓を垂れ流したまま。とても戦えるような雰囲気ではなかった。


「彼らのことかい?」

「なんで……」

「ふふふふふっ、君のテストをするために邪魔だったからね。準備運動がてらお先に味見させてもらったよ♡これで彼は孤立無援だ♡」

「くっ……」

「おっと勘違いしないでほしい。確かに少しばかりリカディネターを手伝ったのは事実だが、私の助けがなくともあれは勝っていたさ。私は彼らを退場させただけ。むしろ、助けたんだよ。でなければ、彼らはリカディネターの中に取り込まれ、死ぬまでむさぼられ続けただろうね」


 あの触手の本体を直視できなかった狼は知る由もないことを、キメラは優しく解説しながら映像を虎へと戻す。援軍が来ないことを知っているのか、狼にはわからないことだが、それでも虎に怯えはない。


「ほら、柊♡早くやろうじゃないか♡あいつらのケツマンコは食い荒らしたが、私のおマンコは限界なんだ♡♡それとも、友人が無様に負けて触手に凌辱されるところが見たいのかい? それならそれで構わないよ。酒でも飲みながら、鑑賞しようじゃないか♡」

「そんなわけないでしょ!」


 退路を防がれた狼はゆっくりとキメラから服を脱がせ、肉厚な体を露わにしていく。

 二人とも黒い毛皮を持つが狼の方がわずかに明るく、光を浴びるとブラックダイヤのようにきらめく光沢を持つ。若さゆえの手触りの良さもあり、たびたびキメラは好んでブラッシングをしていた。


 対して、黒の強いエルレキノンは黒曜石のような深い色で、筋肉の隆起を包んでいる。手入れをかかさない艶やかさはこの巨体を優雅に見せながらも、気品すら漂わせていた。

 安っぽい蛍光灯の下であったとしても、狼が何度見ても、このキメラは綺麗だった。


「ああ、乱暴な手だね♡この私にこんな扱いをして許されるのは、この世界だと君だけだよ♡ほら、早く触ってくれないかい?♡乳首でもおマンコでも、君の好きにしていいんだよ♡♡」

「エルレキノンって……たまにどMになるよね……」

「ふふふっ、私は快楽が大好きだからね♡前の世界では高潔な騎士を、私をいたぶることでしか興奮できない畜生に調教したこともあったよ♡ああ、彼の変性はとても素晴らしかった……♡♡」


 他人を歪めて貶めることを生きがいとするキメラは思い出話に浸っているが、柊はそんなものに付き合うつもりなど毛頭ない。友人の安否がかかっているため、すぐさま二つの黒を生まれたままの姿へと変える。


「焦りは禁物だよ。私は手荒に扱われても興奮するが、雑に扱っていいという意味ではないんだ。私を満足させなければ、彼は助からないよ♡」

「わかってる……!」


 鏡の中ではリネスが触手をさばきながら、虎を守っている光景が見える。闇の中から何本も現れる触手が、ドラゴンの炎や爪によっていくつも葬られていく。


「さすがドラゴン。他の異界者より優秀だね。ただ、向こうも異界の邪神だ。足手まといを抱えたまま、いつまでもつのかな」

「実篤……」

「こういう時、異界者は面倒だね。契約者が近くにいないと実力を発揮できないのだから」

「でもそれはリカディネターも同じはずでしょ」

「問題ないよ、柊。私の契約サポートは距離による不都合をある程度緩和するから。私がいつも君から離れて好き勝手にしていることからも、想像つくだろう?」


 全裸のまま得意気に笑うキメラはあの虎が詰んでいることを嬉々として話す。狼はそれ以上聞きたくないと、おっぱいを盛り上がらせる漆黒の毛皮へと手を突っ込んだ。


「んっ♡いやらしい手つきで、揉むようになったじゃないか……♡この前みたいにミルクを出してあげようか?♡」

「別にいいよ、今喉乾いてないから」

「そうかい、んぁ♡男を悦ばせる手つきだ♡初めて会ったときは童貞だった柊が、こんなにも……んっふぅ♡あっ、乳首を弄るのがうまいとは♡♡」


 自身の変わりように気まずくなる狼とは対照的に、獅子の顔はうっとりと陶酔している。柊の教育が順調なことを確認して、蛇の尻尾が嬉しそうに揺れた。


 エルレキノンはキメラであり、獅子の顔にヤギの体を持っている。もっとも、蹄があるのは足だけで、上半身だけ見ても彼がキメラだとはわかりづらい。ただ分厚くたくましい筋肉の塊が、黒い毛皮に包まれているのが見えるだけ。

 雄の味を覚え始めた柊だが、やはり、一番上等な雄を選べと問われたらエルレキノンをあげるだろう。身長から筋肉の分厚さ、さらには整った顔とくれば、嫉妬することすらおこがましいほどの見た目になる。

 もちろん内面は加味されていないのだが、それでもこうして胸を揉んでいるだけで、狼の興奮は自然と高まり続けていくのだ。


「あっ、うぅん♡柊……♡落ち着いているね、いい傾向だ♡焦りすぎて、あんっ、いきなり挿入されたらどうしようかと思ったよ♡♡」


 低い声に艶を増やして、キメラが笑いかける。何も知らないものが見ればさぞ魅力的な、しかし本性を知っているものからすれば、おぞましい笑み。

 挿入していれば不合格だったと暗にぼかすエルレキノンの胸を、狼は丹念に揉んだ。


 張り詰めた筋肉をパン生地のようにこねながら、時折乳首をつまむ。遊びなれて肥大化した乳首は快楽のためにしっかりと開発されている。軽く指で挟むだけで、キメラの重厚な体が小刻みに跳ねてくれた。


「ふぁ♡あっあっん♡ふ、ふふっ♡本当なら早くしたいのに、無理に抑えた力加減だね♡そうだよ柊♡慌てず、丁寧に、雄を堕とすんだ♡本当なら表情も取り繕えれば、んっ、いいんだけど……あっ♡そこは今後に期待かな♡♡」


 整った顔をゆだらせて、エルレキノンは優しく導いていく。その先が悪逆だとしてもかまうことなく、無垢な狼を自分の色に染める。

 肩を狭めて胸を強調すれば、雄とは思えないほどの盛り上がりが谷間を作り出す。とっさの欲情にひるんだ指先を確認して、獅子の牙が光った。


「ああ、胸はもういいのかい♡私としてはもっといじってほしいのだけどね♡先の管理局の雄たちはすぐ雌マンコになってしまったせいで、ちんぽ以外の快楽をあまり味わっていないんだ♡」


 膨らんだ胸筋に付いた下向き乳首は黒い毛皮の中で赤く欲望を訴えている。柊が何度もしゃぶらされ、味をおぼえさせられたそこは、今もまた狼を求めていた。


「私の可愛い柊♡そんなに物欲しそうな目で見るくらいなら、思いっきりしゃぶってごらん♡雄乳首を飼育する楽しみを、味わってみるといい♡♡」

「なんで……」意を決した狼がキメラの言葉を遮って。「なんで僕がエルレキノンの言う通りにしないといけないの?」

「ああ……♡♡♡」


 すげなく断られたというのに、キメラの顔に浮かぶのは恍惚だった。

 あれだけ弱気だった狼が、絶対強者であるエルレキノンの意見に反骨を示してみせた。それに喜ぶのは、同じ本質を持つ故に理解しているからだ。

 今の狼はキメラを雌として扱おうとしている、と。


(ふふふっ、わざわざ舞台を整えた甲斐があった。さあ、柊。雄を組み敷く幸福を覚えるんだ。私を満足させるために、私を理解するんだ♡)


 それがたとえ強制された行為であったとしても、本質を呼び覚ます触媒になる。

 キメラはそう考えており、狼の行為がエスカレートする様子を嬉しそうに見つめていた。


「いじってほしかったら、言うことがあるでしょ?」

「くすっ、そうだね柊♡でも、今の君にはまだ私を隷属させるだけの力はないよ♡もっと雄として強く、熟れてくれないと♡♡とはいえ、せっかく君が私の意図を汲んでくれたんだ、久しぶりになぶられる快楽を味わうのも悪くない♡♡」


 にんまりと蕩けた顔をしたキメラは自分の胸を下から持ち上げ、むにぃと歪むおっぱいを差し出した。凛々しく整った顔に屈強な肉体、そして雌のように赤らんだ顔に潤んだ目。雄々しさに雌の色香を混ぜ込んで、エルレキノンは狼ちんぽを刺激する。


「いーっぱいいじってくれ、柊♡♡ここは君専用のおっぱいだよ♡♡」

「……っ!」


 あふれんばかりのフェロモンに、狼がハッと息を飲む。自らをスケベに見せる方法などエルレキノンは熟知しているのだ、この狼に勝てる見込みなどあるはずがなかった。

 それでもすぐに気を取り直したおかげで、キメラは内心で加点する。この振る舞いが板についていけば、きっといい雄になるだろうと、獅子の口が舌なめずりをした。


(ふふふっ、可愛いよ柊♡こうすれば点数が稼げると分かってやっているんだろう♡)

(うぅ……全然慣れない……けどエルレキノンを満足させるにはこうするのが一番なはずなんだ。早く実篤を助けないと……!)


 友人を助けたいがために雄を貪る悪辣を演じる狼と、それを理解したうえで楽しむキメラ。

 ベッドの上で思惑が交錯しながらも、狼の指先は勝手に豊満おっぱいの乳首へといざなわれていった。


「おっん♡♡くりくりと、っふぅ……絶妙な力加減だよ……♡♡初めてだね、君が進んで雄を堕とそうと頑張るなんて♡私でたくさん練習して、立派な雄になるんだよ♡」


 相も変わらず、ここまで場を整えてからいけしゃあしゃあと言い切るキメラに、狼は嫌悪を吐き捨てたい気持ちに駆られている。

 だが、ここでエルレキノンの機嫌を損ねることは一番の愚行なのだ。牙を噛みしめることで言葉を飲み込んで、慎重な手つきで膨れた乳首をこねくり回した。


「いいっ……んっ♡♡君がそこまで、あぅ♡私のことを、理解しているなんて♡♡ああ、気持ちいいよ柊♡♡♡」

「…………」

「んんむうぅぅ♡♡あはぁ♡こんなに強く、ふふっ、私の乳首をいじめるなんて♡♡いけない子になってきてるね♡♡」

「黙って」

「おおぉぉ♡♡ああ……柊の冷たい瞳♡♡そうしていると、男前じゃないか♡」


 肉が張り詰めて破裂しそうなほどムチムチと実ったキメラの胸が、狼によって乱暴に変形していく。それは乳首だけでなく、胸筋全体もだ。

 だがどれだけ手荒く扱ったところで、エルレキノンは感じた顔を見せるだけ。屈強すぎるこの男にとって、柊の力など取るに足らないものなのだと信頼さえしているようだった。


 それが気に食わなくて、狼は両の乳首を一気に引っ張った。

 とたん獅子の顔が反対に上へと震え、余裕を湛えていた口元から唾液が一筋落ちていく。


「んおぉ♡♡おっおおぉ……♡♡今のは、効いたよ柊♡私じゃなければ痛がっていたかもね♡私がど淫乱だったことに感謝してもいいんだよ、ふふっ♡♡♡」

「エルレキノンなら大丈夫だと思ってやったんだよ。どうせ僕が本気やったって、傷ひとつつかないでしょう」

「それはそうだけど、君にしては攻撃的だね♡よほど焦っているのかい?♡実篤君も大変な目に合ってるみたいだからね♡」

「…………っ!」


 エルレキノンの言う通り、鏡の中では触手を防ぎきれなかったリネスが触手の海に呑まれているところだった。一本なら問題なく対処できるリネスとはいえ、物量で押し切られた形だ。

 同様に実篤も触手に絡まれ、装備をはがされて見事な裸体をさらけ出そうとしていた。


 しっかり鍛えた黄金の体にはっきりとした縞模様。夜半だというのに少しの明かりで輝く毛皮は、まるでそこだけスポットライトを浴びているようだと、柊は思ってしまった。

 だが現実は狼の恍惚をすぐさま打ち消し、眼前の光景を見て勝手に口が開いていた。


「実篤っ!」

「ふふふっ、悠長にしてたら危ないかもしれないね。さすがにドラゴンといえど、条件が悪い。このまま二人の距離が引き離されてしまえばリネスの力も弱まるだろうし、詰みかな」


 そっけなく今後の展開を述べて、キメラは黒く太い腕を狼の首にまわす。細められた目には好奇が浮かび、反応をうかがって楽しそうに笑っていた。


「でも思ったよりもたなかったね。ドラゴンともなればもう少し時間がかかると思ったのに、肩透かしだよ。柊もそう思わないかい?」

「……」

「残念ながら間に合いそうもないけれど、駄目だったら実篤君を交えての3Pでも構わないよ♡柊の友人なんだから、私も丁寧に可愛がってあげるさ♡♡」

「……さい」


 低くかすれた声がしたかと思えば、エルレキノンの体はベッドに押し付けられていた。

 キメラが見上げれば、そこには涙を湛えた目を怒りに吊り上げる柊がいる。普段の気弱さを全く感じさせない意志の光で貫いて、狼はうなった。


「エルレキノン、うるさいよ。実篤はまだ負けてないんだから、早くお前を満足させればいいだけでしょ」

「ふふっ、そうだよ柊♡でも、君にそれができるかな?♡♡」

「やるよ」


 これだけ怒りを顔に出しておいて、口調だけは落ち着いていた。感情を制御して雄を篭絡させようという意志は、屈強なキメラの股を開かせる。静かな炎が燃える目は冷たい色を醸し出し、有無を言わせぬ雰囲気を漂わせていた。


 それは雄を堕とす時に見せるキメラの顔とは違うものの、根幹は変わらない。その本質をようやく引きずり出せたことに、エルレキノンは恍惚に顔を蕩けさせた。

 常識や建前で作られた殻をはぎ取って、人の根幹そのものを変質させることこそ、エルレキノンがもっとも愛する瞬間なのだから。それが自分と同じだとくれば喜びも一入で、世界を落とした時でさえ、ここまでの陶酔は生まれなかった。


「やはり君は、私と同じ♡♡あはぁ♡ああ柊♡柊♡可愛い柊♡♡早く君を感じさせてくれ♡私の火照ってたまらない体を、どうか君で慰めてくれ♡♡」

「言われなくても、ぶっ飛ばしてやる……!」


 キメラの太すぎる足を持ち上げる狼は、まさしく野獣のような顔をしていた。怒りと興奮、それと嫌悪が混ざり合って、氷のように冷たい視線が自然と生まれている。それを隠すことなく突き刺してやると、キメラは喜びに打ち震えて自ら足を抱えてくれた。


「ほら♡私のおマンコはここだよ♡♡この世界では君しか使えない、君だけのおマンコだ♡」


 そこは毛皮のない赤が露出した粘膜であり、肉棒に比べればまだ綺麗な色をしている。それでも濡れそぼってひくつく姿には、雄を受け入れ慣れた淫乱さがよく表れていた。

 エルレキノンが認めた雄だけを迎え入れる肉壺は、この整ったキメラが雌の欲求に焦がれていることを言外に知らしめている。肉厚な尻に指を持っていき、ピースサインの間でうごめくマンコを見せつけては雄を誘う。


「しゅーう♡君はどういうおねだりが好きなんだい?♡言ってくれれば対応してあげるよ♡君が望めば、このエルレキノンが雌のようにふるまうことも辞さないんだ♡♡」

「別にいいよ。すぐ入れるから」


 さっきまでの狼であればあまりのエロさにたじろいでいただろうが、今は違う。

 勃起した巨根をあてがって、キメラに覆いかぶさる時でさえ、憤怒を崩すことはなかった。


「ふふ、つれないなぁ♡でもちんぽはこんなにガチガチだ♡どれだけ怒っていても、興奮は隠せないね♡♡」

「……っ」

「いいんだよ♡君の中にあるのが憤怒だろうが何だろうが♡大事なのは、雄を食らう喜びを知ること♡私のような最上級の雄を貪って、グルメになってほしいんだ♡♡」


 狼の抱くすべての感情を肯定して、キメラは母性をにじませる。人の本性が好きな性悪にとって、ようやく見られた柊のむき出しの感情だ。これ幸いにと味わいつくすため、鏡からの音量をわざと上げて焚きつけ始めた。


『やめ……やめろって! くそ、放せ……!』


 装備をはがれ全裸をさらす屈強な虎が、焦燥の声を出しながら触手の海で溺れている。本来ならすでに脳みそが壊れるまでぶち犯されているはずなのだが、リカディネターが遠くで暴れるリネスに意識を割かれているおかげで、まだ貞淑を保っているようだった。

 だが、そんなことを知る由もない柊の耳がピクリと反応を示し、一層冷えた視線で腰を進ませていく。早くしなければならない、だが、エルレキノンに焦燥を向けて雰囲気を壊しては合格をもらえない。


(待ってて実篤……! 僕が助けるから!)


 キメラの肛門は苦も無く狼の巨根を受け入れ、優しくもきつい締め付けで迎え入れる。柊の抱く決意すらとろかしていきそうなほど熟れた柔肉に、食いしばった牙の隙間から呻きが漏れてしまう。


「ううぅ……!」

「んはぁ♡♡んっ♡いつ味わっても、柊のちんぽはぁ……大きいねっ♡んふふぅ、私の契約者がデカマラでよかったよ♡誰にでも股を開くのは好きじゃないんでね♡♡」


 体格差をちんぽのでかさでカバーできているため、エルレキノンにとっても狼ちんぽは結構な圧になっている。だが、経験の差があまりにでかすぎるため、柊は手玉に取られているような感覚から抜け出せなかった。


 それはマンコ肉の感覚にも表れており、ヒダというヒダがまとわりついて愛撫して、まるで幾千もの舌でなぶられているかのような気持ちよさがちんぽを襲うのだ。

 何度も抱いたことのある柊だが、いまだ慣れることはない。他の雄を間に挟むせいで、そんな余裕がなかった。


「ん……ふぅ、ふぅ……!」

「全部入ったね♡でっかぁ♡♡いつやっても、最高のちんぽだよ♡んっおっおぉぉ♡♡はぁ……こうして繋がっていると、柊に愛されてる感じがするね♡♡」

「煽らないでよ……!」

 

 どの口がと突っぱねたい柊だが、それができないと分かったうえでキメラは言っているのだ。


「本当だとも♡私は柊のことを世界で一番愛しているよ♡♡」


 この世界に来て日が浅いからこそ吐ける薄っぺらい愛の言葉。嘘ではないがゆえに余計にたちが悪く、狼の神経を逆なでしてやまない。

 付き合う気も起きなくて、柊は腰を動かして中を荒らしていく。エルレキノンの戯言よりも、友人の方が大事なのだから。


「ふっおおぉおぉ♡♡ああ、たまらないねぇ♡おマンコ感じ……おおおぉん♡♡♡」

「うわ、きっつぅ……!」


 とろふわのくせに貪欲なキメラおマンコは、きゅうきゅうと締め付けてはちんぽを放すまいとしてくる。歯のない口唇に吸い付かれているような快楽によって、狼ちんぽの根元が射精を求めてひくついた。


 正常位で覆いかぶさって犯す柊の頬を、エルレキノンの手が優しく撫でる。雄をその気にさせる甘えた仕草だが、今の柊には何の効果もない。


「ふふふっ♡あんっ♡柊♡柊っ♡♡ちゃんと私の良いところっ♡覚えてるんだね♡えらいよ♡えらいえらい♡♡あああぁ♡♡」

「あれだけ躾けられたらさすがに覚えるよ……!」

「あ、うぅぅん♡♡ふふっ、しかも、そこだけじゃなくて……んっ、わざと他の所を突いて、じらしてもくる♡♡ああ、おマンコ火照ってたまらないねぇ♡♡柊は男をたぶらかす才能があるよ♡♡」


 狼の毛先に浮かぶ汗を救い取ったキメラは、わざとらしく舐めとって親愛のふりをする。それから真っ赤な舌を出して口さみしいのだとせがむ顔が、あまりに淫靡過ぎるから、柊は苛立ちに任せて腰を思いっきり振った。

 見た目だけならだれよりも魅力的なエルレキノンに絆されないように、怒りを原動力に叩きつける。がつんがつんと当たる結合部からは汁が飛び散って、端正なキメラの肉体を汗と精で汚していった。


「んぎっあぁあぁぁぁ♡♡な、なんだい、キスもしてくれないのかい……っほぉ♡♡ねえ柊、いいだろぉ♡♡♡私の可愛い柊♡ほら、君の大好きなエルレキノンが、んふぅ♡キスしてくれとせがんでいるじゃないか♡♡」

「誰が……!」


 絶品マンコに吸いつくされそうな狼は噛み殺した声で反論を投げるが、キメラが少し締め付けるだけで声までも搾り取られていく。どれだけ決意を硬くしても、エルレキノンはするりと狼の心に忍び込んでしまうのだ。


「くっ、ふぅ……ぐるるるっ!!」

「ふはっ♡ケダモノらしくて素敵だよ柊♡♡……んおおぉんおぉっ♡♡さらに、早くなったっ♡容赦ないピストン運動っ♡悪くないね♡♡甘々なものも好きだけど……♡♡」


 柊が全力でちんぽを打ち付けているというのに、キメラにはまだ余裕が見える。

 両手を上げて腋をさらけ出しながら、被食者としての地位を強調して発破をかけてきさえした。時折崩れた顔をしているのだが、それすらも気持ちがいいと喜んでいるようだ。

 分厚い肉体が作る腕の付け根のくぼみには、もっさりと茂る毛皮がある。黒であることに変わりないのだが、蒸れた場所にあるおかげか、一層艶やかな光沢で雄を誘っていた。

 

「柊っ♡おんっ♡気持ちいいよ……♡柊、柊♡♡」


 舌先だけをちょっと口から出して、エルレキノンはキスを乞い続ける。整った獅子の顔に愛嬌を足すことで、狼の気を引こうとしているようだった。実際喘いでいる顔はかなり煽情的で、綺麗にしていたたてがみも乱れて顔に張り付いる。愛の言葉を吐く姿を何も知らない人が見れば、いじらしく可愛らしいと評すことだろう。

 そして、それに気を取られる自分を、柊は恥じている。怒りも興奮も、すべてこのキメラの掌の上だと思うと、乗せられることが癪に感じてたまらない。


「くそぉ……ぐるるっ!!」


 だから、力の限りちんぽで中を荒らす。キメラのマンコが壊れるくらいの勢いで、性欲ではなく憤怒に従って。


 どれだけ汗がキメラに落ちようとも、噛みしめた歯の隙間からよだれが落ちようとも、柊は一心不乱に犯し続けた。ケダモノに落ちたとしても、助けたい友がいるから。

 たとえ悪辣を煮詰めて作られたような存在のエルレキノンだとはいえ、おマンコへの乱打は効く。ビン立ち乳首が目立つ巨乳を揺らしながら、上ずった嬌声で賛歌を出す姿からも明白だ。ちんぽからは先走りがこぼれ続けており、硬い腹に雄臭い湖を作っていた。


「んふっ、ふふふぅ♡♡♡気持ちいい゛っ♡ああ、これが、柊の本気種付け交尾っ♡♡たまらないっ♡私のおマンコっ、をぉ♡こんなにぃ、犯せるのは……♡♡」

「僕だけって言いたいんでしょっ! 別に、頼んだわけじゃない!」


 牙をむいて吠える黒狼だが、その実、内心では興奮が猛っていた。


 選択の余地を与えないほどの圧倒的な強者を、組み敷いて犯している。

 狼の脳内で歓喜がドバドバと噴出され、これを美味と捕らえてしまう。それこそエルレキノンの思惑通りなのだとしても、腰を止めることなどできなかった。

 

 突けばそれだけ快楽を跳ね返してくる泥沼に、狼はいつの間にか囚われていた。だが、あがき続ける。ちんぽがどれだけ張り詰めて限界を訴えても、キメラを優先して。


「い、いいよ柊♡♡ああ、ああ、すんごいぃ♡んっひぃ♡あはっ、柊のそんな必死な顔を見ていたらっ♡孕みたくてたまらなくなってきたよ♡♡君も限界だろ?♡私に柊の気持ちをたくさん注いでくれ♡♡」

「ふぅー! ふぅー!」

「ふふふふっ♡必死な顔で腰を振る柊♡すごく、んっ、可愛いよ♡♡……んっおおぉおぉ?!?!♡♡すごっ♡当ててきたっね♡♡いかせる気で、ふごぉ♡♡ちんぽっ♡ちんぽぶち込んできてるっ♡♡♡」


 キメラの弱点を亀頭でタコ殴りにして、分厚い筋肉で覆われた漆黒の肉体がベッドの上で何度も跳ねる。ちんぽを突き出すような体勢を取り、狼の腹を小突いては、もっともっととねだり続けていた。


「絶対に、いかせるから……!」

「おっほぉ♡君は素晴らしいよ♡ああっ♡っはぁ♡おマンコ蕩ける♡この世界で、っふぅ、たくさんの雄を食らってきたが♡君は負けじと素晴らしいっ!♡♡ほおぉん♡あ゛だるっ、おマンコに、んごおぉぉ♡♡♡」


 この世界ではあまり味わわないおマンコの快楽に、キメラちんぽが限界を訴えている。だがそれは狼も同じであり、二人は汗まみれで絶頂へと向かっていく。


「エルレキノン……! 出すからねっ! でもその前に、いって!」

「ふおっん♡♡ああ、素晴らしいっ♡原石とは、君のことをさすんだ♡♡私の可愛い柊♡このエルレキノンの、おぉぉ、アクメをもってっ♡♡テストは合格としようじゃないか♡♡♡」

「なら……!」

 

 絶頂を間近に控えた最後の行動、狼が採ったのはエルレキノンへのキスだった。


「なっ……!」


 さすがのキメラも予想外だったようで、わずかな動揺の隙に、柊の舌が主導権を奪い取る。

 噛みつくようなキスは獲物を貪る雄々しさに満ちていて、エルレキノンを犯すという欲望を突きつけることで屈服させる意志さえ感じられた。


「んむぅ♡んちゅっちゅぅ♡んおおぉ♡♡♡」

「エルレ、キノン……! じゅる♡」

「柊っ♡柊っ♡♡♡」


 体全体で狼を感じようと、キメラは太い手足で大好きホールドを決めて、一つになろうと言わんばかりの力で抱き寄せた。二人分の唾液でたてがみを汚すことにも厭わず、ただただ舌を躍らせて最後を迎える準備を進めていく。


「むっふうぅぅ♡♡お゛っおぉ♡んぐ、んぅぅ♡もっと柊の唾液をおくれ♡んちゅ♡可愛い可愛い柊♡雄を食わねば生きられぬようになった、私の柊♡♡」

「……んっんっ♡」


 二人の結合部は乾湿混じった音楽によって、行為のボルテージが高まっていくことを示していた。時折キメラの穴から粘液の混合物が飛んでいき、シーツの上で泡を蠢かせる。その大本である肛門は、すでにドロドロに汚れきっていた。

 密着した二人は互いの匂いに包まれて、それぞれの感情を想起させる。エルレキノンは幸福を、柊は嫌悪を。相反する思いを抱きながらも、終着点は同じ。

 どちらの身体も、射精に向けて収縮を始める。


「んぐぉおぉおぉ♡いくよ、柊♡うあ、ああぁ……!♡♡♡」

「じゃあ……中に出すからね! いまさら、もう、もうっ……抜けないから!」

「ふふっ♡何をいまさら、お゛おおぉ♡♡中出しなんてぇ、何度もしてきたじゃないか♡いいんだよ柊♡私のおマンコに、っふぅ……たくさん出してくれっ♡♡♡」


 そして、二人は口づけをしたままいく。


「柊……♡」

「んっ……♡」


 絶頂の嬌声は二人の口腔内で反響して、秘め事となって肺へと嚥下される。ただただあふれ出す精液が快楽の強さを物語り、黒い塊の隙間から白濁がこぼれていった。


「んおぉ♡んちゅっちゅちゅぅ♡柊……♡♡」


 エルレキノンの放つ特濃ザーメンは衰えるということを知らず、雄の強すぎる匂いを漂わせながら部屋を満たしていく。本人の放つ色香に直接的な性の匂いを混ぜ、上気する顔は嫌悪する柊でさえ一瞬ドキリとさせるほどだった。


「入ってくる♡♡んふふ♡柊、こんなに興奮してたんだね♡お゛っ♡私の腹が、膨れて……♡んっふぅ♡この苦しさもまた、愛おしいよ♡♡♡」

「ふぅー……ぐるるるるぅっ!」


 腫れたマンコから逆流するほどの勢いで注がれながらも、キメラは表情を甘やかなままにしている。うなり声をあげる柊にキスをせがみつつ、直腸を膨らませる他者の熱に酔っていた。


 竜を視姦して手こきだけで出したあの時より、狼に積もった興奮は高い。それがザーメンとして一気にあふれたことで、巨体のキメラを精液袋にするほどの量が生産されていく。


「こんなにいっぱい……♡嬉しいよ柊♡私のおマンコを♡♡孕ませようとしていたんだね♡♡」

「んっふぅ……むぐっ!♡♡♡」

「柊♡柊♡柊♡私の柊♡♡ああ、君はやはり私と同じ♡雄を食らう存在なんだよ♡♡んちゅ♡この世界に来て初めて、堕とされる喜びを知ったよ♡♡ああ、ようやくまともな雄が、しかもこんな身近に♡♡やはりこの世界に来てよかった♡柊♡柊♡」

「ちょ、ちょっと待って、エルレキノン……! うごけな、いから!」

 

 筋肉の塊である獅子にがっちりと抱き着かれた狼が身動き取れるわけもなく、汗とザーメンまみれの体同士をこすり合わせて歓喜を注がれるだけだった。

 むせかえるほど濃い雄の匂いはキメラのフェロモンであり、行為の後は一入だ。狼はそこに自分の匂いが混じったことを感じて、興奮を不愉快さで覆い隠した。


「結果はもちろん合格さ♡おめでとう柊、君は友人を救ったんだよ♡♡」

「なら早く! 実篤を助けてよ!」

「もちろん。ふふふっ、セックス中は溺愛しているところばかりを見せてしまったから、少しかっこいいところを見せておかないとね♡」


 キメラが指を鳴らすだけで、二人の身体からは性の痕跡は消えていた。すでになれた柊はラフな格好であることにも頓着せず、シャツを羽織った美麗なキメラを引っ張って急かす。

 そこには先ほどあったケダモノの風格はなく、彼の本質が理性の殻に戻っていったことを示している。エルレキノンはそれを少し残念に思いながらも、今後の楽しみだと思うことにした。


「さて柊」


 行為が終われば、狼の目の前に立つのは邪悪なキメラでしかない。

 微笑みの中に侮蔑を混ぜ込んだ、淫蕩の魔王。


 そんなキメラは狼へと手を差し伸べる。

 エスコートしようとする気概を煩わしく思いつつも、あまりに自然な動作をされれば柊はつい手を取ってしまうのだ。すると上機嫌なエルレキノンは狼を抱き寄せ、頭蓋の頂点をたてがみで埋めながら額にキスを送った。


「行こうか。君の友人を助けに」


 言葉だけ聞けば正義の味方のようだと、柊は辟易と尻尾を振る。

 諸悪の根源のくせにと、罵倒は心の中でだけにとどめておいた。


****


「ふおっほおおぉぉ♡♡だべだ、そこ、だべっ♡入ってくるな♡♡はいっでぐるなあああぁぁ♡♡♡♡」


 肉色の触手に溺れながら、屈強な虎の男、実篤は叫んだ。

 無音の暗がりに嬌声が反射するだけの路地裏は、今や鮮やかな桃色に埋め尽くされており、そこから滴る粘液によって汚染されていた。


 リネスと離れ離れにされた虎がこうなるのは必然であり、雄を知らなかった蕾には極太の触手が挿入されている。柔肉を踏み荒らすようにウネウネと蠢く先端が、実篤の前立腺を何度もノックして、雌の快楽を染みこませていった。


「んっっっっっっほおおぉおぉ♡♡♡やばいやばいやばいいいぃぃっひいぃいぃ♡♡ごんなの゛ごわれ゛っるうぅ♡♡」


 鮮やかな黄色は粘液の紫に汚染され、全身敏感になったせいで何をされたもイキ狂ってしまう。何発出したのかわからない肉棒からは精液や潮など、恥も外聞もない体液が延々と漏れ続けていた。

 腹の中は紫の粘液であふれ、くっきり割れていた腹筋がいびつな妊婦のようになっている。結合部の隙間からはどろどろと溢れ、たまに勢いよく飛んでは夜の街を汚していく。


「リネス……♡♡リネスっ♡♡どこだ、だのむ♡来てくれっ♡このままじゃ、オレ……ん゛おおぉおぉん♡♡♡」


 綺麗な未使用ちんぽから白濁が飛ぶ。媚薬のせいで無尽蔵になった金玉が、毒のような快楽を延々と宿主へと送り続けていた。


『――――っ!!』

「う、うるさいっ!♡やめろ、話すなっ!♡♡お、オレは、お前の眷属になんかならねえ!♡♡こんなのいらねえ!♡放せって言ってんだよっほおおぉぉおぉ♡♡♡♡」


 反抗心を折るように、言葉の途中で前立腺パンチ。

 顔をのけぞらせてアクメを決める虎に決定権などないのだと、触手が全身をなぶりながら念話で服従を迫る。もはや全身性感帯になった実篤は、乳首を軽くはじかれただけでいってしまうのだ。


 それでも耐えているのは強い意志のおかげだ。リカディネターの契約者である赤い竜がすぐさま屈した快楽地獄に、実篤は未だ抗うつもりでいる。

 リカディネターが気に入ったのもまたこの頑強な意志であり、魂すべてを搾り取る勢いで凌辱を進めていく。


「おっほぉ♡ほおおぉぉ♡いぃぃいっでる♡くそっ♡くっそおおぉお♡♡気持ちよくなんかねえ♡♡いぐっ♡やめろやめろっ♡畜生っ♡♡♡」

『――――っ!』

「何度言われても♡オレは諦めねえよっ!♡♡てめえらみたいなのがいるからっ♡リネスは、外を自由に歩けねえんだ!♡絶対、オレが送還してや――っほおおぉおぉぉ中であばれるなあああぁあぁ♡♡♡♡♡」


 背骨が折れるのではないかと不安になるほど暴れながら絶頂し、虎の顔は体液でぐちゃぐちゃだ。このままでは屈服は必至で、リカディネターを崇拝する快楽依存者へと堕ちるだろう。

 そんな彼を救うものは、暗がりから現れた性悪な男だった。


「ふふふっ、あんまり間に合ってない気もするけど、まあいいか。彼は意志が強そうだからね」


 愉悦を多分に含んだ声が虎の耳をくすぐった。性根の悪さを限界まで詰め込んだような他人の神経を逆なでする声音を、実篤には聞き覚えがあった。


「な、なんで、てめえが……?」


 闇夜に溶けていきそうな毛皮は虎の予想通りでもあったが、頭にあるねじれた角は初めて見る部位だった。おそらく魔法で隠していたのだろうとすぐさま気づいたが、そんなことを指摘する余裕は当然ない。


 キメラは悠然と、まるで夜を従えることが当然であるとでもいうような態度で、肉色の海を割って虎へと近づいていく。


「それはもちろん、私の可愛い契約者からのお願いで君を助けに来たんだよ」

「まさか……柊か?」

「さすが、勘が鋭いね。というわけで、今後そちらに登録しに行くのでよろしく頼むよ」


 誰の目から見ても魅力的な微笑みを浮かべているが、虎のような勘の鋭い者には警鐘でしかない。底知れぬ何かを抱えた異物、それが実篤のエルレキノンに対する評価だった。

 そこでようやく、虎は触手の動きが鈍っていることに気づいた。あれだけ精力的になぶっていた動きに精彩はなく、しおれた植物のようだった。


「……これもてめえの仕業か?」

「そうだよ。言っただろう、魔法が得意だとね」

『――――っ?!』


 すでに虎との念話を切ったため、実篤にはこの化け物が何を話しているのかわからない。ただ、焦っていることだけは伝わっていた。

 キメラは虎に背を向け、何故と問い続けるリカディネターへと視線を向ける。暗がりにあっても赤く輝く残虐な光は、邪神に格の違いを見せつけるには十分だった。


『くすっ、やりすぎだよリカディネター。君はもう少しうまく立ち回るべきだった。まあおかげで、柊と楽しい思い出も作れたし、異界者管理局に恩を売ることもできた。適当に拾ったにしては、いい働きだったよ』

『――――?!?!』

『ああ、もう何をしても無駄だから。世界を騙す契約を結べる私だよ? 世界に異物を知らせることもできるに決まっている。君はもう、この世界からはじかれて終わりなんだ。……あっと、君の元契約者、あれは私がもらっておくよ。柊が気に入っているからね』

『――――!』


 虎にばれないよう念話で終わりを告げれば、後には沈黙だけが残る。

 触手はだんだんと薄くなり、その存在を否定され始めていた。


「さてと」人好きするような笑みに戻って、エルレキノンは虎に向き直る。「立てるかい? 駄目そうなら抱えてあげてもいいけど……」

「お断りだ……!」


 触手から解放された虎は這う這うの体でありながらも、自力で立ち上がる。体はうずいてたまらないが、この男の前で無様な真似はしたくないと本能が叫んでいるのだ。


「すごいね、だいぶこっぴどくやられたはずなのに、まだ立てるのかい。ふむ、君もなかなか悪くなさそうだ」

「気色悪いこと言ってんじゃねえよ……そうだ、リネスは!」

「彼なら無事だよ。ずっとあれ相手に大立ち回りしててね、さすがドラゴンだよ。君と離されてもあれだけの力を発揮できるなんて。だから君の方を先に助けに来たってわけ」

「よかった……」


 あれだけの目に合ってもなお、実篤は自分より相棒のことを心配していた。その精神性は気高く、強靭な意思はエルレキノンの大好物だ。貶めればどれだけ楽しいだろうかと今後の楽しみに追加されたことは、実篤に走る由もなかった。


 やがて、ほっと一息ついた虎に向けて一直線に走ってくる人影があった。


「実篤っ!」

「柊っ! お前なんでここに……!」

「なんでって、心配だったからに決まってるでしょ! 怪我はない? 大丈夫?」

「大丈夫、こいつが助けてくれたしな」


 しぶしぶキメラを親指で差せば、朗らかな笑みで返された。虎の本能が寒気を覚えるが、ずいっと近寄った狼の顔を見れば代わりに安堵がこみあげてきる。


「聞いたぞ、こいつに助けてくれって頼んだんだってな。ありがとう、おかげで助かった」

「いいんだよ。実篤に何かあったら……」


 それはエルレキノンと契約した自分のせい、と言おうとした口から言葉が消える。不利なことを言えないようにする呪いのせいで、ただただ友人を心配するだけにとどまった。


「ふふふっ、青春だねえ。いいねえ。こういう初々しいのも好きだよ私は」

「そういうのじゃねえだろ。仮に立場が逆だったら、オレもすげえ心配するし」

「私がいるからそれはないよ。柊には指一本触れさせない」

「そうかよ……あっ!」


 周囲が落ち着きを取り戻してようやく、実篤は自分が裸で、しかもザーメンまみれだったことに気が付いた。男同士でそこまで気を使うような繊細な性格ではないが、今は話が別だ。肉棒からはザーメンをぶら下げ、尻からは紫の粘膜を漏らし続けている。さらには腹がいびつに膨らんだままなのだ。気にしない方が無理というものだった。

 虎はとっさに股間を隠し真っ赤になった顔で後ずさる。その意味に気づいた狼が申し訳なさそうに目を逸らすが、時すでに遅しであった。


「……見たよな?」


 何をとは言えない。悲鳴のような嬌声を上げて射精し続けた醜態を友人に見られていたらと思うと、尻尾の毛が緊張でぶわりと膨らんだ。


「……………………うん」

「もうばっちり見たよ。かっこよかったじゃないか。あれだけ攻められても意志を曲げず抗い続けるなんて、並大抵の雄にできることじゃない。誇ってもいいくらいさ」

「うるさいうるさいうるさいっ!!! 柊にも見られたのかよっ! あーもーさいっあくじゃねえか!」


 魔法一つで綺麗にできるはずのエルレキノンは、ニヤニヤと状況を楽しむだけで何もしない。柊が急かすまで、素知らぬ顔で虎の肢体を目に焼き付けている。

 静寂が訪れた夜の街に、虎の咆哮が悲し気な音で響いていた。


****


 あれから異界者管理局に登録したエルレキノンは、魔法の腕を買われてたびたびスカウトされるようになった。どうせのらりくらりかわすだろうと思っていた柊だったが、意外なことに、異界者管理局に就職こそしなかったものの、事件の解決を手伝っては評判を上げている。

 その意図を聞いてみると、しれっと答えが返ってきた。


「ん、ああ、やっぱり異界者管理局にコネを持っておくのは悪いことじゃないからね。この世界で生活する以上、コネはあるに越したことはない。それに……」

「それに?」

「あそこは戦う雄が多いから、みんなおいしそうでね♡誰から食べようか迷ってしまうくらいだよ♡♡」

「やっぱり……異界者管理局を掌握しようとしてるよね?」

「ふふっ、その通りだよ、柊。何のためにリカディネターから隊員たちを助けたと思ってるんだい。雄の味を知った彼らは実に扱いやすい」


 いつも通り二人だけの狭いワンルームで、キメラは狼を抱きながら笑いかける。異界者管理局にばれないよう水面下で行動しているおかげで、ある程度の資金は確保できている。その気になればもっと広い部屋に引っ越せるのだが、狼がそれに甘んじることを拒んだ結果、彼らの拠点は変わらないままだった。

 このキメラは隠れ蓑として異界者管理局の相談役に収まりつつ、マッチングできそうな異界者を先回りして保護している。異界者の情報が集まる場所だけあって、エルレキノンのマッチング業は順調だった。

 

「マッチング業と言うか、マッチポンプと言うか……僕としては早く退治されてくれないかなと思うよ」

「つれないこと言わないでくれよ。私は柊のことがこんなに大好きなのに」

「この世界に害悪過ぎるから……」

「そんなことないさ、私は別にマッチングさせた異界者の行動には、あまり関与していないんだ。必要な時には手足となってもらうけどね。でもそれが問題を起こしたら私の存在がばれる前に対処する必要があるから、コネがあるのは楽でいい。そうすることで異界者管理局での私の評判が上がるしね」

「つまり、もともと異界者管理局には関わるつもりだったんだ……」


 終のテストをしつつ、異界者管理局へのコネを作り、リカディネターから自分の痕跡をたどられないようにする。それらすべてをこなしたキメラの基盤は着実に作られつつあった。

 

「そもそもなんだが、どうして柊は私の行動をここまで拒むんだい? 私の言う通りにすれば、金にも快楽にも困らないだろうに。人というものはそれらを満たすために、平気で他者を害する生き物だと認識しているのだけど」

「え、そんなの当たり前じゃん。エルレキノンのやってることって、常識的に悪だから。確かに悪い人もいるけど、僕はそうなりたくないんだ。僕はこの世界のこと、嫌いじゃないから」

「ふふふふっ、私と同じような存在のくせに、常識を語るなんて。でも、だからこそ柊は可愛いのだけどね」


 エルレキノンから見れば、この狼は可能性の卵なのだ。

 常識という分厚い殻の中には、キメラのような加虐者の本能が時を待っている。あのテストの時に才能の一端を見せた結果、エルレキノンは柊の可能性を確信するに至った。

 その才能が羽ばたくときが来ることを今か今かと待ちながら、もしその時が来たら、共に世界を食らおうと誘う心づもりでいた。


「ああ、かわいそうな柊」母を思わせるほど優しい手つきで狼の頭を撫でながら。「私に出会わなければ、その善なる理性を抱えたまま無難に生きられただろうに」

「まだ間に合うけど?」

「もう遅いよ。君は雄の味を、他者を隷属させる喜びを知った。ああ、私の責任だ。だから責任を取らねばならないね」

「別に頼んでない……」

「気にしなくていいとも。私が好きでやっていることだからね。ほら、君のペットから連絡が来てるよ。かまってあげないと寂しそうじゃないか、ふふっ」


 魔法で取り寄せたスマホを狼の手に渡すと、リカディネターの元契約者が今晩遊びたいというチャットが映った。あの竜は解放された後も雄を求めるようになってしまい、教育練習のためにと、キメラが狼へと譲渡したのだ。

 リカディネター討伐後、検査を受けたが体の問題はなかった。ただ、性的趣向がねじ曲がって、快楽のためなら何でも差し出すようになってしまった。

 そんな人を放置すればどうなるのかわからないゆえに、柊が『良心に従って』管理することにしたのだ。管理と表現はできるが、実際は体がうずいた時にやるくらいのこと。だが、竜にとっては十分な処遇だ。

 責任感を感じている狼の行動もキメラの予想通りで、常識や良心に従った選択肢を用意することで、柊の逃げ道はだんだんと防がれてしまっていた。


「……ペットじゃないから。赤根(あかね)さんだって、依存症から抜け出そうとしてるんだ。だから、エルレキノンは絶対ついてこないでよ」

「わかってるよ。そろそろ君も私の知らないところで雄を食らえるようにならないといけないからね。実篤君とかもさ」

「さ、実篤とはそんな関係じゃないから!」

「はあ、まだ食べてないのかい。セフレにすらなってないなんて、もったいないことをする。もう一息でちんぽ狂いに出来そうだったのに。あの意思の強さから言って、今は多少性癖が広がったくらいだろうね。でも傷跡は残せたはずだから、再度挑戦すれば隷属させられるはずさ」

「だからやらないってば!」

 

 柊と実篤の関係は変わらず、良き友人であり続けている。むしろ、エルレキノンが異界者管理局にばれたおかげで接点が増えたこともあり、友好度は以前よりも深まっていると言える。

 最初こそボテ腹アクメを見たことで気まずかったが、もともと実篤がからっとした性格だったために、わだかまりはすっかりと溶けている。

 虎の態度はいつも通りで、あの夜のことは尾を引いていない。だけどそれは実篤の話であり、柊は時折、快活に笑う虎の笑顔を見ているとふいにあのアクメ顔がフラッシュバックしてしまう。

 あんなに明るくて元気でたくましい友人が見せた、舌ピンアクメ顔。そのことを思い出すと、胸の中がドキドキと高鳴ってしまうのだ。絶対にばれたくはない。狼は大事な友人のために、自分の中でくすぶる本能にふたをする。


「柊」


 だけど、キメラはそのふたをはがそうとしていた。本能のままにむさぼることを肯定するために、優しく、優しく撫でていく。


「気にすることはない。どうせ私が世界を掌握すれば実篤君だってちんぽ狂いのアクメ中毒者になるのだからね。むしろ、柊に飼われている方が幸せかもしれないよ」

「そんなことにはならないから。異界者がどれだけいると思ってるの?」

「ふふっ、私もわかっているよ。だからこそ、表に出ずにこうやって下地を整えているんじゃないか。私は確かに元の世界では最強だったが、ここでもそうとは限らない。でも、付け入る隙はあるんだよ。私は人を堕落させることが大得意だからね♡」


 エルレキノンは契約者という足かせを扱うことが、最も得意な異界者だろう。例えどれだけ強い異界者が現れたとしても、契約の隙を突くことで対処できるという自信があった。

 異界者を縛る契約者、そしてその契約者を操るエルレキノンこそ、害悪の象徴だと狼は考えている。


「契約者と異界者は似ているほど近くなり、本来の力を振るえるようになる。だから本当は柊にはもっと私に近づいてほしいのだけど、ふふっ、こうして丁寧に育てることが楽しくてね。私の可愛い柊。どうせ時間はたくさんあるんだ。これから君は素敵な大人になるんだよ」

「僕は、エルレキノンのようにはならない」


 それは狼があの夜に決めたことだ。例えどれだけ言葉を縛られても、心までは縛られないと。

 その反抗心を、キメラは嬉しく思う。一本筋の通ったきらびやかな意思こそが、変質させる喜びを味わえるのだから。


 雄を貪って、貶めて、隷属させて、このキメラは生きてきた。

 様々な雄とする行為はどれも楽しかったが、一つだけ不満がある。

 それは、自分自身とはできないということだ。このキメラが雄として頂点に登れば登るだけ、同格の者が存在しなくなる。そして世界を食らいつくしてもなお、自分を満足させてくれる雄とは出会えなかった。


 だからこそ、エルレキノンは柊を育てているのだ。

 自分が堕とした雄たちのように、あふれんばかりの幸福と快楽を浴びるために。

 そのためには魔法で洗脳するなど無粋なことはできない。あくまで本人の意志で、同じところに来てほしい。そうすることで、この狼は最高の捕食者になるとエルレキノンは信じていた。


「ふふっ」撫でる手つきはまるで変わらず優しいままで。「さあどうなるだろうね。大学生というのはモラトリアムなのだろう? 君はまだこれから無限の可能性がある。例え君がどんな大人になろうとも、私がそばにいるよ」


 小さなワンルームで絡み合う黒二人。恋人のように甘い雰囲気のくせに、狼には嫌悪が満ちている。このキメラを野放しにはできない。何とかしなければ、また誰かが被害にあう。


(僕が、何とかしないと……)


 エルレキノンの影響力はどんどん強くなっている。マッチングで支配下に置いた異界者たちはどれも凶悪で、異界者管理局の処理能力を圧迫し始めていた。本部から増員が予定されているとも聞いており、この町が戦場になる日も遠くないかもしれないと、狼は背筋に冷たいものを覚えている。


 黒い狼はこの世界の防波堤として、エルレキノンを止めなければならい。

 今はまだ何もできていないけれど、少なくとも友人を救うことはできた。それがエルレキノンの策略だったとしても、前向きに考えることにしている。


 だが、そんなことは十分理解しているキメラは、今日も今日とて優しい言葉を狼にかけるのだ。


「ふふっ、愛しているよ私の可愛い柊」


 温かい掌の温度に絆されないように、狼は硬く目をつむった。


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POSTEDMay 25, 2024
ARCHIVEDJun 10, 2026