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追放された最強バッファー、ハーレムを作る。

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「お前には今日限りでパーティを抜けてもらう」


 はえ? と青天の霹靂を食らった僕は首をかしげてリーダーに視線を送る。

 後衛職らしい細い体にまとったローブが不安そうに揺れて、ネズミの丸い耳がどういうことだときょろきょろ動き出す。


 その言葉を噛み砕くのに時間がかかったけれど、やがてそれは僕の心臓からどんどんと体温を奪っていった。部屋には僕らしかいなくて、救いなどどこからも訪れないと気づいてしまう。

 否定欲しさに下がったまなじりを向けたところで、狼のリーダーアーフィンは冗談だとは言ってくれない。ただ、気まずそうに顔を背けるだけだから会話をするしかなくて、恐る恐る喉を震わせた。


「え、ど、どうして……僕何か悪いことをしたかな?」

「いや……オズ、お前は悪くは……ああ、まあ、無いわけではないが、おれらが弱かったせいだ」

「どういうこと……?」


 アーフィンは困ったように首をかしげて、言葉を探しあぐねているようだ。

 僕のいるパーティ『闘争の槌』はそこそこ有名で、高難易度のクエストを何度もこなしてきた。僕も足を引っ張らないように自らを鍛え、バッファーとしての能力に磨きをかけたつもりだ。


「……おれが言いたいのは、まさにそこなんだ」

「練習が足りなかったってこと? それならもっと頑張るよ! 効果量だってもっと増やしてみせるし、セックスだって……」

「それだ」


 僕の追いすがった言葉は、狼によって遮られた。


「お前の能力は優秀だ。おれらが高難易度のクエストをクリアできるのも、お前がバフを撒いてくれるからであり、とても頼りにしている」

「なら、なんで……」

「…………依存してしまいそうなんだ」


 想像もしていない言葉をもらって、細い尻尾が伸びた。その意味を理解できなかった僕は、目を見開いて何も言えなかった。


「お前のバフはセックスを介して行われる。効果量、持続時間共に優秀で、依頼中にきれて困ることはない。男性限定ではあるが、これまで頼りにされてもらった……だが」

「だが……?」

「あまりに気持ちが良すぎるんだ……!」


 意味が分からない。僕は苦渋の顔をしている狼に、何と言えばいいのか皆目見当がつかなかった。

 僕のバフは独自なスキルであり、セックスをした相手に与えることができる。だから、どうせするなら気持ちいい方が良いはずだと思って、たくさん勉強した。

 依頼料を工面して娼館に通って、花形の人ら相手に教えを乞うたり。

 人体の構造を学んで、気持ちよくする場所などの知識を詰め込んだりと。

 スキルの練習と並行して、役に立てるようたくさん頑張ったんだ。


「……それが、駄目だったの?」

「……」


 アーフィンは僕を見てくれない。それが答えだった。

 バッファーはヒーラーと同じように、チームメンバーの生死を握る仕事だ。ヒーラーの負担を軽くすることで安定感を高め、毒などに強い体にすることで事故を防止する。

 だから、たくさん、本当にたくさん頑張ったのに……。


「メンバーの中には、お前のちんぽじゃないと満足しなくなったやつもいる。このままいけば、おれらは、お前に頭が上がらなくなるだろう。悪いとは思ってるが、おれはお前といい友人でいたいんだ、性奴隷じゃなくな」


 そんなことしないといくら声を上げたところで、聞く耳を持ってくれないんだろう。

 もうすでに話は付いているのだと、僕は察していた。


「僕がいなくなって、これからどうするの……?」

「どうしようかは考え中だ。おそらく、セックスと距離を置くために、しばらく時間を空けるだろうな。だがオズ、自分のことなら心配するな。お前を引き取ってもいいというパーティを見つけてある」


 外堀は完全に埋まっている。僕にできることはなかった。

 ただ、大事な人から離縁される流れを、馬鹿みたいに呆然と受け取るだけ。


「すまない、それと……今までありがとう、オズ」


 部屋から出て行こうとする広い狼の背中に、僕は何もすることができなかった。


****


「――というわけで、今日からうちの一員になったオズだ! みんなよろしくしてやってくれよ!」


 数日程度で傷心が癒えるはずもなく、僕は酒場で新しいメンバーとの顔見せに来ていた。

 肩に置かれた大きな手は力強く、貧弱な体にとっては負担が重い。リーダーらしき牛の人は、集まった面子を見渡して大きく胸を張った。

 薄手のシャツを破らんばかりに膨らんだ胸筋に目が行きがちだが、四肢もしっかりと鍛え上げられた体をしている。褐色の毛皮にふさわしい豪快な笑い声を響かせる姿は、雄としての魅力に満ち溢れているようだ。


「まずは自己紹介な。オレはルヴァフ! ポジションはアタッカーで、武器は大剣。好きな体位は騎乗位だ。はい次」


 ルヴァフと名乗った牛の人は、たわわに実った胸筋を僕の頭に乗せながら見た目通りの大声で指揮を執る。耳が押しつぶれていなかったらうるさかったかも。

 でも、それも計算かもしれない。酒場とはいえきちんと個室を取っていることからも、結構気遣いができるタイプだと見ている。僕の経歴は吹聴するにはちょっとセンシティブだから……。


 豪快そうな見た目とは裏腹に、リーダーらしい気遣いをしたルヴァフが指名したのは、黒い毛皮を持った熊の人だ。その人もルヴァフに負けないくらい大きな体をしていて、額にある三日月型の白い毛皮に僕の視線が止まった。


「カナカミだ。俺もアタッカーで、武器は拳。好きな体位……? なんでんなこと言わなきゃいけねえんだよ……」

「オズの能力は知ってるだろ。言ったほうがオズも安心できるし、冗談として場も和むって寸法よ」

「はあ、別に隠すことはねえからいいけど……正常位だよ。最高のバッファーねえ……どんくらい強くしてくれるのか、楽しみだな」

「オズ、こいつは力にしか興味がないぼんくらだけど、仲間思いだから心配する必要はないぞ」

「誰がぼんくらだ! ……ちっ、まあいい。ほら最後、クィラキュリーの番だ」


 カナカミが向いた先には、クラッカーをつまんでいるレッサーパンダの人がいる。肉付きがかなりよく、腕なんかみちみちに詰めたソーセージみたい。

 だけど太っているというよりかは張りがあるって感じで、ルヴァフとは別の意味でたくましい人だ。


「はいよー、私はクィラキュリー。見ての通りヒーラーだよ。好きな体位はなんでも! よろしくねオズ君」

「え、はい……!」


 見ての通りとは言うが、クィラキュリーの恰好はどちらかと言うと踊り子に近い。それも、娼館でしか見ないひものような衣装を着た。透き通ったレース飾りもたくさんついていて、どう見てもヒーラーとは結び付かない格好だった。

 体を隠すものが最低限しかないくせに、股間のボリュームをひけらかす下着のせいで公序良俗に反してるんじゃないかと不安になる。

 僕の瞠目を察していたのだろう、ルヴァフがしっかりと補足を入れてくれた。


「あれはダンジョンで見つけたレア装備でな、見た目に反してなかなか効果がいいんだ。本当は女性用なんだがうちは男しかいねえし、しょうがねえってことで早く慣れてくれ」

「あ、はあ……」

「これねえ、かなり便利だよ」ほぼ裸のレッサーパンダが。「温度調節機能も付いてるし、汚れにくいし動きやすいし、なにより防御性能がすごく高い。ヒーラーはパーティの支えだから、自分の身はちゃんと守らないとね」

「それは、大事ですね……」

「ははっ、そんなに硬くならないで。ため口でいいよ。最初は恥ずかしかったけど、もう慣れちゃったし、これじゃないと安心できないんだよ」

「そうそう、オズはもうオレらの仲間なんだから、砕けた感じで来てくれていいぞ」


 のんびりとした口調だが、職務に対する言葉は真摯だ。その上親しみやすいとくれば、僕にとってもありがたい。


 これで僕の新しい仲間、『刮目する怒涛』の全員が紹介を終えたことになる。

 大剣使いのアタッカールヴァフ。

 拳闘士のアタッカーカナカミ。

 ヒーラーのクィラキュリー。

 ……なんとも攻撃的すぎる編成だ。ルヴァフが防御よりなのかもしれないけど、サポートは誰がするんだろう。それに魔法アタッカーがいないといろいろ大変じゃないかな。あと、スカウトがいないと、罠とかどうやって避けるんだろう。


 クィラキュリーの装備はダンジョンで見つけたって言ってたよね。

 ダンジョンでは不測の事態が数多く起こるから、まんべんなく準備をするのが大切だ。それはパーティ編成も一緒で、それぞれの特技は多い方がいい。

 僕はバフ一点特化の才能とは言われてたけど、それでもできることを増やそうと色々頑張ってきた。パーティ人数は平均すると五人くらいが多いらしいのだけど、彼らは今まで三人でやってきたのだろうか。


「……これで本当に全員ですか?」

「おう! バランスわりいだろ? でもなかなかうちに来てくれそうなやつがいなくってさ。だからオズが来てくれて助かるんだ」


 頼りにされている。それはパーティを追い出された僕の心に、必要以上のやる気を灯した。

 今度こそうまくやりたい。自分が臆病で不器用だという自覚はあるから、僕は背筋を伸ばして元気に返事を返そう。


「は、はい! 頑張ります!」

「頼もしい意気込みだな! だけど、もっとなれなれしくてオーケーだぞ。どうせこれから裸の付き合いってやつをたっくさんするんだからな♡」


 胸に押しつぶされた耳にも届いた。甘い響きを持ったルヴァフの声が。

 僕の体を牛の武骨な手はいやらしく這いまわり、ローブ越しとはいえ、情欲をほのめかすには十分だ。娼館で受けるようなソフトタッチをもらって、動揺が尻尾にぎこちない動きをさせる。


「んじゃあ最後に、オズ、お前も自己紹介してくれ。特技と好きな体位と、あと……その隠してるデカマラをよ♡」

「へ、へひぃ?」


 思わず素っ頓狂な声が漏れた。もしかして、ルヴァフが胸を僕の頭に乗せてるのって、セックスアピールってこと?!

 緊張していて全然気づかなかった僕に、二人の視線が集まっているのがわかる。ルヴァフがでかいなんて言うから、ローブの中が居心地悪くなっていた。

 

「アーフィンから聞いてるんだぜ♡」ねっとりとした牛の声が背中をくすぐって。「お前のちんぽはすげえでかくて、アーフィンの巨体でも易々結腸マンコに届くようなもんだってな♡」

「それは、そうだけど……!」


 おっぱいを頭でつぶしたままルヴァフが僕のローブをめくれば、股間が他二人にもばれてしまう。下着を押し上げる膨らみを見た彼らは、同じようにニヤニヤと嬉しそうに口角を歪めていた。


「ほら、オズ、自己紹介自己紹介っ♡」

「え、あ、うん……僕はオズ。ポジションはサポーターで、バフが専門だよ。一応他にも探知用の魔法とか勉強してるから、ある程度サポーターとしての仕事はこなせると思う。攻撃は無理だけどそれ以外でみんなの助けになれたらいいなって……思って、ます……」

「オズは特殊なバフを使うんだよな。どんなバフなんだ?♡」

「ぼ、僕のバフは、セックス……えっと、このちんぽを相手に入れるとバフが強化されるんだ。バフのランクとしては、特異クラスで、持続時間と効果量だけなら最高位呪文くらいあるらしいよ」

「へえ!」驚きの声を上げたのはレッサーパンダのクィラキュリーだ。「最高位呪文! それはすごいね! そんなの大賢者と呼ばれるような人しか扱えないランクだよ! それは確かに、特異クラスに分類されるのも当然だね。つまり、君も魔法使いとしてのランクは賢者くらいあるの?」

「い、一応……バフだけでそれくらいは……」

「ほえー、それはまたすごい子を連れて来たね。賢者なんて雇おうと思ったら私ら程度のパーティじゃ財布をひっくり返したって無理だよ」


 魔法使いにはランクが存在していて、最高位の大賢者から賢者、大魔法使い、後は三ツ星と見習いと続く。僕のバフは効果だけ見ると優秀だから、一応賢者のランクをもらっている。


「一応クィラキュリーも魔法使いとしては優秀で、三ツ星くらいはあるんだろ?」

「まあね。でも賢者はさすがに無理だよ。私はこの前二つ星から上がったばかりだし。大体賢者なんてなろうと思ってなれるもんじゃないんだよねえ。大魔法使いより上は、完全に才能の世界だよ」

「で、でも……」


 もう股間を見られているんだから構うものかと、顔を真っ赤にして補足しよう。


「見ての通り、僕のもの大きいから……入らない人もいて、全員にバフをかけるのは難しいかも、です……!」


 アーフィンたちでさえ、結構時間がかかったんだ。拡張していって、ようやくバフを受けられるようになった。ルヴァフはなんか遊んでそうだけど、他二人にはまだ早いかもしれない。

 男性限定であることと、拡張前提なことが、最高位魔法を使える僕が賢者になっている理由だ。いくらバフが優秀でも、全員がその恩恵を受けられるわけじゃない。

 もっと小さければよかったのに……とは何度も思ったけど、挿入の深さにバフ量が比例しているからしょうがないんだ。


「ふふふっ♡そんなの心配いらないぞ♡」


 でも僕の心配は杞憂だって、牛の蕩けた声が言う。

 ローブをたくし上げていた手は遠慮を無くして、下着から半立ちになった僕のものを外気へと露出させる。でろんと、大蛇のようだと言われる僕のものを見る二人は、ルヴァフの出す蕩けた声と似たような顔をしていた。


 ゆるゆるとしごけば僕の大蛇はすぐに元気になって、へそを超えてギンギンにそそり立つ。血管を浮かべたグロテスクなものは、気弱な僕とはまるで違う捕食者のようだ。


「つぅ、あ……あうぅ……!」

「なんでオレらのパーティに人が来ねえか教えてやろうか?♡オレらはな、ちんぽがだーい好きなんだ♡暇さえあれば、ちんぽを貪っちまう♡」

「え、え、えぇ……?」


 冗談みたいな話を聞かされて他二人を見てみたけど、帰ってきたのは肯首だけだった。


「俺は戦った後だと体が昂ってなぁ♡どうしても収まらねえから、ケツ使ってんだ♡遠慮ねえセックスで、ケダモノみてえって言われちまうからよろしくな♡」

「私はただちんぽが大好きなだけだから安心してね♡ちんぽだったらみんな大好きなんだけど、やっぱり大きい方が好きだよ♡」

「ってなわけで、新人が入ってきても足腰立たなくなっちまってすぐやめちまうんだわ♡その点、お前は頑張り屋で精力も強いってアーフィンから聞いてるから楽しみにしてんだ♡よろしくな♡オレらのケツマンコ、ぐっちょぐっちょにしてくれよ♡♡」

「ひえぇ?! あ、はい……頑張り、ます……!」


 魔物の巣窟に放り出された気分だ。だけど、それが僕の新しい仕事なら精いっぱい頑張ろう。それしかできないんだからね。


 この雰囲気からすると、このままやっちゃう流れなんだろうか。遊んでそうな人たちだから、僕の技量がどれほど通じるのかわからないけど、やれることはやるって決めてる。新しいパーティでは絶対上手くやるんだ。


「んじゃ、さっそくオズの力を見せてもらうとするか」

「はい! 頑張ります!」

「ふははっ、そんなに硬くなるなよ。それに口調、敬語に戻ってるぞ。オズには頑張ってもらわねえといけないんだからな」

「うん……頑張る……!」


 何度も強く頷くと、頭上のおっぱいがすごくたわむ。

 すでにちんぽも臨戦態勢で、いつでも犯すことができるようになっている。ものすごく恥ずかしいけど、僕が役に立つってところを見せないと!


「つうわけで、はいこれ」

「……え?」


 だけど、予想に反してルヴァフが僕の前に広げたのは依頼書。それも、目を疑うようなことが書いてあるものだった。


「なに、これ……え、なんでアーフィンが……?」


 救助依頼。ダンジョンの中で戻れなくなった冒険者を救出する依頼で、達成が遅れれば依頼者の命が無いため時間との勝負でもある。

 その対象がついこの前まで僕のいた『闘争の槌』だった。


 僕が抜けた後休むって言ってたのに、どうして……!


「ギルドからどうしてもって頼まれて断りきれなかったんだと。オズが抜けたから無理だと何度も言ったらしいんだが、これができるのはアーフィンのところしかなかったらしくてな」

「な、なんで戻ってこれてないの? ダンジョンから戻るテレポートのスクロールとかあるし、ヤマトが使えるはずだからすぐ戻れるのに……!」

「緊急だったらしい。アーフィンが時間を稼いでいる間に、他のメンバーがなんとか戻ってこれたとか。それから戻ってくる気配がなく、スクロールを消失したか、あるいは……」

「じゃあ……アーフィンだけ取り残されてるってこと……?」


 しっかりしなきゃと思っても、最悪の想像が頭から離れてくれない。僕の一物はすぐにしおれちゃって、まなじりも泣きそうに歪んじゃう。

 アーフィンは僕をパーティに誘ってくれた人なんだ。こんな変なバフしか使えない僕を、それでもいいと受け入れてくれた。袂は分かったけど、ルヴァフにも紹介してくれたりして、今でも気を回してくれていたんだ。


 胸筋から抜け出して牛を見上げれば、にかっと朗らかな笑みが返ってくる。それを見ると、やっぱりこの人がリーダーなんだと思う。メンバーを安心させてくれるのは、そういう人たちだ。アーフィンと同じ、みんなを引っ張る力を持っている。


「というわけで、この依頼はオレたち『刮目する怒涛』が引き受けた。当然オズも行くよな?」

「う、うん! 行く! 絶対行く!」

「よーしそれならとっとと準備していくぞー。時間との勝負だからな」


 牛が一声かければ熊もレッサーパンダも即座に立ち上がる。好色は消えていて、すでに冒険者としての顔になっていた。

 依頼書をためつすがめつしていたクィラキュリーはにこやかなままだったが、その目はしっかりと情報を追っている。こういう事前準備をどれだけするかで、生存率が変わってくるんだ。


「しかもこれ、未踏破ダンジョンの結構深くじゃないか。アーフィン君たちもよくそこまでいけたもんだ」

「それだけ強いってことだろ。ただ、向こうもバフが無い状態だと撤退の判断が難しくて、そこを見誤っちまったんだろうな」

「そうだろうね。出発は?」

「明日朝一。だから今日のセックスはお預けだ。上層は踏破済みでデータはそろってるし、中層以降もアーフィンたちからの情報が少しあるから渡しとく。それを参考に準備して、なるべく早くに出発したい」


 てきぱきと指示を出すルヴァフに、クィラキュリーはいくつかの確認事項を投げる。

 依頼書を見るためにかがむと、豊かな胸や腹が僕の目の前で強調されるけど、そんなことに構ってる余裕はなかった。


「でもよ」


 割って入ったカナカミは僕を指さして、ルヴァフに首をかしげてみせた。


「ダンジョンに行くんならこいつのバフがあったほうがいいんじゃねえの?」

「オレらが盛ればそれだけで一日つぶれちまうだろー? 上層なら今のオレらでもいけると見ている。だから、毎晩野営しながら一人ずつバフをもらっていけば、時間の節約になる」

「なるほどね。一気に全員バフったら結局全員一気に消えるからな。それが安定しそうだ。順番は?」

「お前、オレ、クィラキュリーの予定だ」

「まあ妥当か。クィラキュリーは良い装備してるしな。ならあのデカマラを最初に味わうのは俺ってことだ♡悪いなクィラキュリー♡」

「楽しみにしてたんだけどしょうがないなあ。おマンコ濡らしながら待ってるよ♡」


 僕が呆然としている間にも、今後の予定がみるみる間に組み上がっていく。救助依頼が届くタイミングを鑑みても、ルヴァフが依頼を受け取ったのはここに来る直前のはずだ。

 それなのに、あらかじめ決まっていたんじゃないかと言いたくなるくらい、滞りがない。

 リーダーへの信頼がちゃんとあって、各々必要な役割が決まっている。その様子を見ていたら、このパーティはちゃんとしているんだってわかるよ。

 新人の僕はまだこれからだけど、ここが僕の新しい居場所なんだって前向きになれる。


「あ、あのっ!」


 だから、これだけは言わなくちゃと思って、大声を上げた。


「依頼、受けてくれてありがとう……! アーフィンは僕の大事な人なんだ、だから、絶対助けたい……!」

「そうだろうな。だからルヴァフが引き受けたんだろうし」

「すぐわかると思うから言っちゃうけど、ルヴァフってね、ものすごくお人好しなんだよ」

「人がいいってことだな! あははっ!」

「はいはい。それに関しちゃ、否定しねえよ。世話焼きのお節介が」

「そんなこと言いながらもさ、カナカミだって乗り気じゃん」

「未踏破のダンジョンにはお宝があるかもしれねえしな。それに強い敵もいそうだろ」

「そういうことにしてあげてもいいけど、ちゃんと言葉にしないと駄目だよ」

「うぅ……」


 黒い熊はこわもてな顔でバツの悪そうにそっぽを向いて、口をもごもごと動かしている。何かを恥ずかしがってるみたいだけど、なんだろうか。


「まあ……俺のパーティメンバーが困ってるからってのも、ある……」

「え?」

「あははっ! 言っただろ、仲間想いだって。まあつまり、このパーティはお人好ししかいねえってわけだ!」

「そうかもねえ。でも、これから仲良くなれるかもしれないメンバーなんだから、困ったときはお互い様ってことだよね」

「あ、あの、あのその……!」


 ローブの裾をぎゅっと握って、温かい気持ちがあふれ出さないようにするので手いっぱいだ。だって、それは目頭からこぼれようとしてるんだから。


「本当に、ありがとう……!」


 うつむきながら震える声を出す僕の頭に、三人の大きな手が優しく置かれた。


****


 ダンジョンとは世界の神秘であり、そのどれもが個性的なものだ。空間がねじ曲がっているせいで入り口からは想像もできない世界が広がっていて、階層が変われば環境が変わるなんてことがざらにある。

 だからこそ、情報は命綱だ。どんな環境で、どんなモンスターがいて、どんな罠があるのか。それがわかっているだけで、進行はぐっと楽になる。


「ここら辺は特に問題ないな。初心者用のダンジョンの方が手ごたえあるくらいだ」


 先陣を切っているカナカミがリラックスしながらつぶやいた。自身はアタッカーだと言っていたが、パーティ内での役割はスカウトらしい。口には出さなかったけど、ちょっと安心した。専門の人がいないと罠が致命的になるから。

 内容を把握していてもいつ足元をすくわれるのかわからないと、経験から理解しているのだろう。黒い熊の顔には余裕と共に、抜け目ない視線の動きが見える。


 アーフィンがいるダンジョン上層は、シンプルな洞窟のような構成をしている。

 情報から罠もそこまで多くなく、敵も強くない。本当に初心者用ダンジョンの方がむずかしいくらいだ。


「でも油断はするなよ。どんな危険な罠が残されてるのかわかったもんじゃねえ」

「当たり前だろ。それくらいわかってる」


 ルヴァフの忠告を受け流すカナカミに、油断は見当たらない。単なる確認だったようで、牛の方も特にこれ以上言うことはないと視線を前に向けた。


「だけどさ」だからクィラキュリーが忠告を受け継いで。「どんなに気を付けていても、落とし穴に引っかかる時は引っかかるんだから、注意はしとこうね」


 上層は情報が割れているが、それでも危険な罠がある。

 魔物の群れをおびき寄せる妖精や、強制的に中層に移動させる落とし穴。はてには入り口に戻してくれるお節介な魔物まで。気を付けようと思ったらきりがない。

 でも、これでもまだ優しい方だ。確実に死ぬわけじゃないからね。

 多分中層、下層になっていくにしたがって、どんどん危なくなっていくんだろうなと思う。


「地図によると、そろそろ下に行く階段があるはずだね。予定より早い進行だけど、どうするルヴァフ?」


 クィラキュリーが牛へと尋ねると、なぜか僕の頭に手が置かれた。


「なら予定早く休めるな。オズのおかげで想定よりスムーズだから、余力を残したままいけそうだ」

「あ、うん……ならよかった」

「そうだねえ。バフだけじゃなくて、探知系の魔法も使ってくれるから助かるよ。私は回復が専門で、攻撃用の魔法を少しって感じだから」


 さすがに物理の効かない魔物が出る可能性を考えると、サポートの魔法を習得する余裕はなかったんだろう。逆に僕は攻撃を仲間にすべて任せていたので、相性がいいみたい。


「でもよ」熊が割って入って。「急いでるんなら進行を早めてもいいんじゃねえか?」

「それで失敗したら目も当てられねえだろ。バフをかける日を決めてる以上、進行は予定通り行う。依頼書によれば、アーフィンのメンバーたちは食料なども置いて行ったらしいから、生きてさえいれば十分間に合う計算だ」


 未踏破ダンジョンの深部に赴くんだ。ルヴァフの意見は間違っていない。

 深部に付いたアーフィンたちからも詳しい情報が得られなかったとなれば、無理をするのが得策でないことくらいわかっている。

 でもわかっていても、感情は僕を急かしてやまず、さっきから尻尾がせわしなく動き回っている。

 だからルヴァフは僕を落ち着かせる意味を込めて、ずっと頭を撫でているんだろう。


「僕なら大丈夫だから、気を使ってくれてありがとうルヴァフ」

「ははっ! 悪いな、子ども扱いしてるみてえになっちまって。お前だって何度もダンジョンに潜った冒険者なのにな」

「ううん。僕はまだ入ったばかりだから、心配になるのはしょうがないよ。実際、ちょっと焦ってるし……」

「でも」助け舟を出してくれたのはレッサーパンダだ。「魔法を無駄打ちしてる様子もないし、思ったより冷静だよね。いいことだよ。それでも焦りそうなら、私の胸を揉んでいいからね」

「なんでっ?!」

「焦りに支配されたときは、オレの乳首をしゃぶるのもいいぞ。リラックス効果もばっちりだからな!」

「そういうものなの……!」


 パーティ変われば常識が変わるとは冒険者の間でよく言われているが、さすがにここまで急旋回すると追いつくのも大変だ。アーフィンたちは真面目だったから、こういうノリはまだまだ慣れない。


「俺を差し置いて盛ってんじゃねえよ」


 憮然とした顔の熊が鼻息を鳴らしながら、洞窟の先を親指で指示した。


「こっから先の安全は確保した。大体情報通りで、変化もねえ。強い敵もいねえ! あーつまんねえ! セックスしてえ!」


 戦闘好きっぽいカナカミからすれば、この上層みたいに刺激もない平坦なダンジョンは気に入らないのだろう。

 それはもはや戦闘の昂りとか何の関係もなく、ただ暇だから性欲を持て余しているだけなのでは? という気もするが、いつの間にか僕の顔は黒いおっぱいに埋められていた。


「むぎゅぅ?!」

「おいオズ。今日は激しく頼むぜ。つまんねえセックスなんてしたら、金玉空っぽになるまでむさぼってやるからな!」

「むごぉ! むむむぅ!」


 軽装の隙間にフィットした僕の鼻からは、カナカミの雄らしい匂いがガンガン入り込んでくる。それに加えてしっかり盛り上がってたくましい肉が挟み込んできて、極小の天国が僕の煩悩を刺激する。


「お前ちいせえからおっぱい攻めしやすくて助かるぜ。おっぱいなら俺のが一番硬くて雄らしいからな♡好きな時に揉めよ♡」

「カナカミはね、焦るくらいなら自分のマンコを使ってすっきりしとけって言ってるんだよ」

「うっせえ! 馬鹿! こいつが焦って失敗したら俺らも被害が出るから気を使ってんだよ! ばーか!」

「むもごぉ!」


 それはありがたいんだけど、呼吸が、できない……!

 照れ隠しの抱擁がきつすぎて、肉に顔が埋まってる。こんな筋肉の塊から抜けだすのは不可能だし、なんだったら持ち上げられて足が浮いてる。


 一応壁を貫通してくるモンスター対策に探知の結界を張ったりしているので、集中が乱れるのは困るんだけどなあ……。

 もし僕が野営中の結界を担当することになったら、絶対自立型にしよう。この調子だと、セックス中に気絶するかもしれないし。僕は静かに決意した。


 それから先は問題なく進み、やはり予定より早めに野営地点につくことができた。

 洞窟内に太陽はささないけれど、時計と体で大体は把握できている。僕の体内時計は休むには早いと言っているけれど、裏を返せば余裕があるってことだ。


 おかげで食事や急速に十分な時間をかけられる。もちろん、セックスにも。

 クィラキュリーは結界が苦手なので、今まで結界用の魔道具を使っていたらしい。魔力さえ込めれば繰り返し使えるタイプなので、僕とクィラキュリーが交代で起動することになった。


 焚火にかけた鍋を囲んで食事をとりながら、今後の予定について話していく。こうしてメンバーの統率を取るためにも、野営の時間を長くとるのは大事だ。

 だからレッサーパンダが確認を投げるのは、どちらかと言うとみんなのためなんだろう。ちゃんと情報を共有しようとしてくれる気づかいは、正直嬉しい。


「今は大体上層の半分くらいだね。明日には上層が終わって、中層は……どういうエリアだっけ?」

「なんでも森のような外観だとさ。詳しい情報はねえが、ある程度はもらってる」

「森かぁ。毒とか大変そうだね」

「そういうこと。だからカナカミとオレにバフがあったほうが楽ってわけ。お前はもとからその装備ではじけるだろ?」

「確かにねー」


 鍋をかき混ぜるルヴァフはお代わりをよそって僕に渡してくれる。どうやらパーティ内の調理はルヴァフが担当しているようだ。


「味はどうだ? 好き嫌いを把握する時間が無かったから、もし食えないものがあったら代わりにパンでも出すぞ?」

「ううん、美味しいよ。ありがとうルヴァフ」

「ならよかった。自分で言うのも何だが、オレは料理が得意なんだ!」

「ルヴァフの実家は宿屋でね。小さい頃から料理は仕込まれてきてたんだって」

「そうなんだ。じゃあなんで冒険者になろうと思ったの?」


 スープを飲みながら聞けば、待ってましたと言わんばかりに牛の口が笑う。

 もはや会話文のテンプレみたいな内容だが、人となりを知るには一番いい話題だ。テンプレになるには、それ相応の理由がある。


「オレの実家はダンジョン近くにある宿屋でな。そこは古代からあるくせに未踏破ダンジョンで、数多くの冒険者が一攫千金を求めてやってくる場所なんだ」


 ずっと未踏破のダンジョンは人が集まってくる。噂が噂を呼んで、すごい財宝があるんじゃないかって期待が高まっていくんだ。

 だからそこに店を構えるのは自然な流れで、有名なダンジョンの側には大体町が発展している。


「だから、止まりに来る客はみんなそこの話をしてくれるんだ。やれ罠がどうとか、モンスターがどうとか。そんで、どんな宝があったか。目を輝かせて話してくれるんだ」


 テンプレの話だから、口調は滑らかだ。もう何度もしゃべってきたんだろう、ルヴァフの口はとどまることを知らなかった。

 聞き飽きたクィラキュリーが地図と情報を眺めている間も、寝物語のように話は続く。


「そんな話をずっと聞いているうちにな、興味が出てきたんだ。冒険者って職業はどんな感じなんだろうって」

「それで冒険者になったんだ」

「おう。ああいう町はダンジョンから迷い出たモンスターの被害がでることもあるから、オレは昔から備えて鍛えてたんだ。それに、冒険者が多いから教えを乞う相手には困らなくて、いい環境だったしな」

「じゃあいつかは故郷のダンジョンを制覇するの?」

「それはなぁ……やりたいっちゃやりたいんだが、ダンジョンってのは踏破されちまうと途端に人が来なくなるだろ?」

「あ、そっか、だから町に人が来なくなって、宿がつぶれちゃうかもしれないんだ」

「ダンジョンは踏破したいが、故郷がさびれるのは悲しい。そんでまあ、こうして他のダンジョンをだらだら回ってんだよ。でも、いつか決心がついたら、オズも手伝ってくれよ」

「うん、僕も興味あるから。古代からあるのに未踏破のダンジョンには、きっとすごい宝があるよね」

「オレはそう信じてる。そんで、死ぬ前に拝んでみたいんだ」


 もはやそれは答えのような気がした。ルヴァフの決心がつくのは時間の問題で、僕らはいつか彼の故郷に行くのだろう。そして、それを悪く思わない自分がいる。


 思い出を語っている間にも食事は進み、鍋は空になっていた。流暢な物語も興味なしと言わんばかりにカナカミは食事を胃袋に流し込み終えて、僕を後ろから抱きしめる。


「オズ♡なあ、そろそろいいだろ♡お前のデカマラ、味わわせてくれよ♡♡」


 分厚く硬くたくましい黒い熊の体は僕よりずっと大きくて、すっぽりと包み込むくらいだ。喉を撫でる手つきはいやらしく、太い指が丁寧に毛皮をくすぐってくる。口調こそぶっきらぼうだけど、雄を誘う仕草はとてもやさしかった。


「でも」それを遮ったのはクィラキュリーだ。「ここまで来たら今度はオズ君の番じゃないかな。私らはまだ親交を深めてすらいないんだよ」

「んだよ、いいじゃねえか。これからしっぽりとそれぞれ仲良しこよしするんだろうが」

「明日は今日みたいに余裕がないかもしれないし、セックスする前に聞いておきたいんだよ。ルヴァフもそうでしょ?」

「んー?」


 てきぱきと調理道具を片付けていた牛が、首をひねってこちらを見た。


「まあそうだな、時間が取れるうちに聞いた方がいいぞ。バフかけが優先だから、余裕がないと話もできないしな」

「ちっ、しゃあねえ」


 さすがに多数決で分が悪いと認めたのか、カナカミはそのまま腰を下ろした。僕を抱きしめたまま。

 まるでぬいぐるみになってしまったような気分だ。体格差があるとはいえ、僕はもういい大人なのに。頭に熊の顎を乗せられると、毛皮をかぶっているような気分になる。

 独占欲の体現を受けながら、どう話を切り出そうか考えあぐねていた。テンプレの話ではあるけれど、僕は話慣れているわけじゃないから。


「でも、気持ちは嬉しいけど……僕の話は聞いてて楽しい話じゃないよ?」

「ああごめん。話したくないなら別にいいんだ。冒険者になった理由は千差万別で、人に言えないようなこともあるしね。じゃあお詫びに私の話をしようか」


 僕の態度を見てすぐに察したレッサーパンダが、柔らかく微笑んで話題を変えてくれた。カナカミへの態度からもわかるけど、この人は感情を悟るのがすごくうまい。


 だけど、クィラキュリーが口を開く前に、ぶっきらぼうな声が僕の頭上から降り注いだ。


「おい、んで結局オズは言いたいのか言いたくないのか、どっちなんだよ」

「僕はいいけど、楽しい話じゃないから……」

「じゃあ俺は問題ねえよ。俺みてえに奴隷から剣闘士になって、毎日毎日死にかけながら生きて、それが嫌で逃げ出したやつもいるんだ」

「え……奴隷って禁止されてるんじゃ……」

「金持ち共ってのはいつだってくそなんだよ。それで俺は生きるために冒険者やってる。ケツ使ってんのは奴隷時代に仕込まれたからだ。あそこの生粋の淫乱二人とは別だって覚えとけよ」

「えー、私はただちょっと興味でいじったらドはまりしただけだよ」

「オレは宿屋時代に冒険者相手に体売って、装備品買うための小遣い稼ぎしてただけだぞ。なにせこの胸だ。いい稼ぎになったぜ!」

「うっせえ淫乱どもが!」


 カナカミの吠える声に、二人はわいわいと楽しそうにはしゃいでいる。クィラキュリーもそれならと、僕が話し出すのを待っているようで、特に言葉は続けなかった。


 焚火のはぜる音だけが広がって、それが温かく背中を押してくれるから、僕の口は動き出す。


「えっと、そうだね……僕は最初、学者になりたかったんだ。僕は気が弱いし、体も小さいし、冒険者なんて絶対無理だって思ってた」


 視線が集まるのはいつだって慣れない。好奇じゃないのは分かっていても、むずがゆさはどうしても消えてくれなかった。


「魔法について研究する学者になりたくて一生懸命勉強して学校に行ったよ。あの頃は胸がわくわくして、これからここでたくさん勉強するんだって意気込んでた。そこで自分の適性を見て、自分の得意魔法とかがわかるようになる行事があった」

「ああ、私もしたよ。それでヒーラー希望にしたんだ。じゃあそこで、君の特異な魔法がわかったんだね」

「うん……そこで僕の魔法が最上位クラスのバフを撒けるってなって……その……」


 今となってはカナカミの温かさがありがたい。言いよどもうとする唇が、ほどけてくれるから。


「僕はその時から、実験動物になったんだ……」


 後ろで息を飲む音がした。大きな体にどんな感情が反響したのか。それは僕の背中に当たり、ぎゅっと抱きしめる力を強めたようだ。


 バフを撒くにはどうすればいいのか、効果量は、持続時間は?

 最上位魔法なんて神話でしか聞いたことないから、みんな目の色を変えて僕を調べに来た。

 そして僕は通常授業とは全く違うカリキュラムが組まれて、学校から出られなくなった。このバフだけを伸ばすように育てられ、普通の生徒とは全く違う存在として扱われた。


「だから友達とか全くできなかったし、みんな、僕のことを……物みたいに見るんだ。それで、いろんな人とか動物とかとセックスさせられたし、深く挿入した方がバフも多く乗るってわかると、僕のちんぽを肥大化させたりもしたよ。あ、でも、この大きさは自前だから……たぶん。もう元の大きさはあんまり覚えてないけど」

「それで……」言葉を選びながら、クィラキュリーが言う。「よく、卒業……できたね」

「……逃げ出したんだ。一応学校だったから魔法の習得は許されたし、それで、セックスと合わせて魅了をかけて、なんとか……」

「もしかして、だけど。オズ君が攻撃魔法を覚えてないのって……」

「うん、習得を禁止されてたから。反抗されないようにって」


 だから卒業証書もないし、夢だった学者もできなくなった。

 あの頃の僕は逃げることだけが目標だったし、そんなことを考えすらしなかったけど。


「それで、こんな僕でも働ける仕事って何かなって考えたら、冒険者くらいしか思いつかなくて……。どこかに就職するとまた同じことが起きそうだし、一応魔法は色々習得したから、役に立てるはずだって」


 まくし立てる僕に、ルヴァフがそっとカップを差し出してくれた。湯気を立てるミルクから甘い匂いがして、僕を落ち着かせてくれる。


「そんなお前を拾ったのが、アーフィンか」

「うん、最初はこんなバフを撒けること隠してたんだ。また前みたいになるんじゃないかって思ったら怖かったし。でも、みんないい人で、僕は精いっぱい役に立ちたかったから……結局ばらしちゃった。僕らはずっと、仲がいいと思ってたんだけど……」


 追放されるとは思わなかった。あえて濁した言葉だったけど、それはみんなには伝わっているに違いない。波紋を立てる白い水面に僕の顔は映っていないけど、どんな顔をしているんだろう。


「アーフィンが、こんなことするなんて……いまだに信じられなくて……まだ受け入れられてないところもあるんだ……。もっとちゃんとしないと駄目なのにね……」

「そういうのは時間が解決してくれるさ。アーフィンはオレに言ってたぞ、オズは怖がりだけど人一倍優しいから、きっとみんなとなじめるはずだって」

「そんなことないよ。僕はただ、捨てられるのが怖かっただけ。役に立たないとまた学校みたいなところに送られちゃうんじゃないかって、がむしゃらだったんだよ」

「捨てねえよ、アーフィンから託されてんだ。それにオレの夢に付き合ってくれるんだろ?」

「……うん」


 何度かちびちびとミルクを飲んで、優しさをじんわりと体に響かせる。アーフィンが選んだだけあってみんないい人だ。きっと、僕の過去を知っているアーフィンはかなり慎重に選定したんだろう。


「だから僕にとってアーフィンは恩人なんだ。救助依頼を引き受けてくれて、すごく感謝してる」


 怯えてコミュニケーションすらままならなかった僕を見捨てず、いろんな経験をさせてくれた人。彼がいてくれたから、今の僕はあるんだ。

 いつの間にかそばに来ていたクィラキュリーが空いた手を握ってくれる。みんな優しいから、ちょっとむず痒いね。


「あんまり驚いてなさそうだけど、ルヴァフは最初から知ってたの?」

「まあな。引き受けるにあたってそこら辺の事情はアーフィンから聞いてる。おおざっぱにだけどな。でも、オレの口からそんなナイーブな話、伝えるわけにはいかないだろ?」

「それはそうだけどさあ。ひょっとして、カナカミも知ってた?」

「いや全く。でも、こいつの怯え方は奴隷時代によく見たからな。何かあったんだろうなとは気づいてた」

「それで最初から甘かったわけだ。カナカミは仲間想いで優しいけど、警戒心もあるからね。オズ君にはすんなり馴染んだから、珍しいとは思ってたんだ」

「そう、だったの……?」


 顔を上げようとしたけれど、強い力で頭を抑えられていてできなかった。たぶん、見られるのが恥ずかしいのかもしれない。

 カップが空になったことを確認して、カナカミは僕を持ち上げた。僕程度の重さは苦にならないようで、軽々とお姫様だっこをする。

 黒くて太い腕はたくましくて、思わずドキドキしてしまった。


「うわっ!」

「もういいだろ。これ以上空気を重くすんじゃねえ。これからセックスって雰囲気じゃねえだろうが」

「素直じゃないよねえ。もうこんな話をさせたくないなら、そう言えばいいのに」

「うるせえ! おいてめえら、朝まで覗くんじゃねえぞ」

「はいはい、行っておいでよ。おかずにしころうと思ったけど私もそういう気分じゃなくなったし、楽しんできてね」

「あ、ごめん。本当に聞いてて気分のいい話じゃないから……」

「聞きたがったのはこいつだから、自業自得だろ。お前が気にすることじゃねえ」

「そう、オズ君が謝ることはないよ。むしろ、謝るのは私の方さ。つらい話をさせて悪かったね」

「そんなことはないよ……えっと、だから、これからもよろしくね」

「もちろん」


 そこで僕の前に新しいカップが二つ。ルヴァフはまたホットミルクを淹れてくれたみたいで、さっと空になったカップと取り換えてくれた。


「夜は長いんだ。飲み物はあった方が良いだろ。まあ、こんな所じゃ朝も夜もわかんねえけどな。じゃあ、おやすみオズ。また明日な」

「ありがとう。うん、おやすみルヴァフ。クィラキュリーも。また明日、頑張ろうね」

「おやすみオズ君。いい夢を」


 挨拶を済ませて、僕はカナカミに抱かれながらテントの中へ。

 嬌声が漏れないように防音魔法がかけられているから、どれだけ喘ごうが外には響かない。魔物とかが寄ってこないように配慮された、僕専用のテントだ。

 中は綿の布団が敷かれていて、寝転がっても大丈夫なようになっている。使わないときは縮小できるから、どんな汁を吸っても洗うのは簡単でバフをかけるのに便利なんだ。


 カナカミは僕をその綿のベッドに下ろすと、そのまま膝をついて股間に顔を近づける。さっきからやりたがっていたくせに、その顔は憮然としていて、気が乗らないとはっきり書いてあった。


「ったく、んな話聞かされてやる気になるわけねえだろうが。空気読めよなくそが」

「ごめん……」

「だからお前が悪くねえよ。でもバフはかけてもらう必要があるから、フェラだけしちまうな。体内に収めときゃいいんだろ?」

「え、でも、僕の大きいし、喉が詰まると思うよ」

「別に、奴隷時代は喉奥イラマなんて日常だったし、少し苦しいくらいなんてことねえよ」


 そしてその言葉通り、カナカミは僕の大蛇をあっさりと飲みこんで、喉奥の輪で締め付ける。慣れているとはいえ、うめき声は苦しそうだ。僕はすぐさまバフを起動して、腰を引いて抜き去った。


「……ぷはっ。これで、バフがかかったのか……確かに力が溢れてくる感じがある。すげえなこれ」

「これで数日は持つはずだよ。だから次にカナカミの番が来るまでは大丈夫なはず」

「持続時間もなげえ。流石最上位か。普通バフなんてもん、戦闘前にこまめにかけるもんだと思ってたんだがな」


 口元をぬぐいながら、感心したように熊はつぶやく。僕の特異バフは効果量も持続時間も常識外だから、その分僕は他のサポートに専念できる。

 これで仕事は終わり。口直しにミルクを一気飲みしたカナカミがカップを置くと、後には沈黙だけが残った。

 後は別々に寝てもいいんだけど、カナカミは僕を抱き寄せ、一緒に綿に沈んだ。さっきから僕を包んでいた熊の匂いに安心感を抱く自分がいて、思わず抱き返してしまった。


「……」


 カナカミは何か言いたそうだったけど、さらにぎゅっと抱きしめて僕を胸に埋める。分厚い体に僕の腕は回りきらなくて、背中の凹凸を撫でることしかできなかった。

 視線をずらせば大きな乳首が見えるのだけど、やっぱりそんな気分にはならない。今はただ、こうしてまどろんでいたい気分だった。


「……俺にとってのアーフィンは、ルヴァフとクィラキュリーなんだ」


 それでもややあって、ぼそっと聞こえた。僕は背中を軽く叩いて、聞いてるよと伝えておく。


「逃げ出したのは良いけど、誰も信用できなくてさ。臨時でパーティに入っては抜けてを繰り返してた」

「……」さすって続きを促して。

「俺があの二人に会った時、まだパーティができたばっかで、仲間を募集してたから軽い気持ちで入ったんだ。どうせすぐ抜けりゃいいやってな」

「でも、居心地よかったんだ」

「……まあな」


 短い返答だったけど、口元が緩んでいるんだろうなと察しがついた。

 だって、その声は優しい音をしていたから。


「あいつらしっかりしてそうで抜けてるし、そのくせお人好しだし、いつ悪人に寝首かかれるか分かったもんじゃねえから、見てて不安になんだよ。だから俺がしっかりしなきゃって、いつの間にか思ってたよ。あいつらはいつでも優しかったからな……」


 僕はカナカミの気持ちがわかる気がする。ひどい目に合って、人がみんな怖くなって、誰とも近づきたくないけど近づきたいジレンマを抱くんだ。

 だから、親しんだ人たちのことがいっそう大事になる。


「正直、新メンバーを入れるって聞いた時は、また厄介な奴でも拾ったんだろうなとしか思ってなかった。なんせ、バフのためとはいえセックスのし過ぎで追い出されたって話だったしな」

「……そんな話だったの?!」

「まあ、あんないきさつだったらルヴァフもぼかして言うしかなかったんだろうけどな。それが出会ってみたら奴隷みたいな顔してて……なんつうか、ほっとけなかったんだよ」

「そんなひどい顔してた……?」

「相当な。あんな怯えた顔しやがって。見覚えがありすぎて嫌なことも思い出しちまうくらいだ」

「ごめん……」

「謝らなくていい。お前は何も悪くねえんだから」


 カナカミの腕の中は温かくて、僕の気持ちにそっと寄り添ってくれるみたいだ。多分、このパーティの中で、僕の気持ちが一番わかるのがカナカミだからだろう。


 熊の手は何度も僕の背中を撫でて、鼓動のテンポに合わせて心地よい眠りへといざなおうとしてくる。見た目からは想像もつかない、なんて言ったら失礼だけど、その手はとっても優しかった。

 

「だから、何が言いたいかっつうとな……ここにいりゃ、そんなひどいことにはならねえよ。あいつら、頭に馬鹿が付くほどお人好しなんだ。呆れるくらいにな」

「……僕からしたらカナカミも優しいよ」

「んなわけねえ……俺が優しいとかありえねえんだよ。だって……」


 それだけ言いかけて、熊は言葉を詰まらせる。喉を震わせる代わりに大きなため息でごまかして、ランプの明かりを消した。

 そしてまた僕を抱きしめて、大きな体が布団がわりになってくれる。


「もういいから、寝とけ。明日も楽な道中とはいえ、何が起こるかわからねえのがダンジョンだからな」

「そうだね……ずっとこうしてくれるの?」

「悪いかよ。嫌ならどくぞ」

「ううん、ありがとうカナカミ。あったかいよ……」

「風邪ひかれちゃこまるからな。お前弱そうだし」


 僕らは抱き合ったまま、夜をまたぐ。毛皮に顔をうずめながら、クィラキュリーの言いたいことが少しわかった気がする。

 カナカミは優しいけど不器用で、ついそっけない言葉遣いをする人なんだ。そして、僕の境遇に一番近いから、共感してしまったのだろう。

 学校で実験と称してたくさんの人や魔物を抱いたせいで、実はこういうのがちょっとだけ怖かったりする。だけど、カナカミの腕の中はすごく安心していた。

 きっとそれは、僕も共感してるせいだ。心音が響き合って、ここなら安全だと伝えあっている。


 暗闇のとばりが落ちると黒い毛皮が一段と濃くなって、僕は星もない夜をまとって眠りに落ちていく。

 アーフィン待ってて、今助けに行くから。


 そして、お礼を言わないと。

 君が紹介してくれたパーティはとっても素敵なところだよって。


****


 ダンジョン上層も半分を超えたとはいえ、基本的にやることは変わりない。

 カナカミが探索をして安全を確保してから、地図通りに進む。情報が割れていると安心感がやっぱり違う。

 すでに上層も終わりまで近づいているらしくて、この殺風景な景色も見納めだと思うとちょっと嬉しくなるけど、同時に緊張もしてくる。

 中層はあまり情報のないエリアだから、こんなスムーズにいくわけがないんだ。アーフィンを助けるためにも、しっかりしないと。


「今日は中層手前で野営するからな。そんで、明日からは中層だ。森らしい場所ってことはわかってるんだが、詳しい罠や魔物はまだ未知数だ。『闘争の槌』からの情報も万全じゃねえし、各自気を付けるように」

「カナカミは今晩までにエリアの情報をまた確認しておいてね。バフが効いてるとはいえ、毒とか受けない方が良いに決まってるし」

「わかってるよ。でも、先達らの通った道くらいはあるんじゃねえの? 森なんだったらそういうのわかりやすいだろ」


 晩の時とは打って変わって、カナカミの顔はつまらなさそうだ。歯ごたえのない罠と魔物ばかりで、辟易としている。


「一応『闘争の槌』が確認したルートには目印があるらしい。それ通りに進めればいいんだが、何があるのかわからんからな」

「まあそれもそうだな。木が動く可能性もあるし、そうなったら目印なんて何の意味もねえ。いいな、ちょっとは楽しめそうだ」


 先の情報を聞いてやる気になったようで、熊は上機嫌に洞窟を先導する。軽装とはいえお尻はぱつぱつで、肉がみっちり詰まっているのがわかる。ちょこんと出た尻尾が、ギャップ的な愛らしさを醸し出していた。


「それで」にやりとルヴァフが熊に問う。「オズのちんぽはどうだったんだよ♡」

「はんっ、どうせ今夜はお前が使うんだろうが。ネタ晴らしなんて食らっても面白くねえだろ」


 やらなかったことをごまかしつつ、ルヴァフの下卑た会話を切って捨てた。別に隠さなくてもとは思うけど、じゃあ何してたのと聞かれたら一晩抱きしめ合ったまま寝てた、だからね。それはそれで恥ずかしいのはわかる。


 だけどそれじゃあカナカミの欲求不満は解消できてないだろうし、実際朝立ちした僕のモノを物欲しそうに見てたから。次は絶対やってあげようと決意した。


「それにしても、カナカミの調子すごくいいね。バフが想像以上だってことだよね」


 クィラキュリーがそう感嘆して、僕に顔を向ける。女性用踊り子衣装に身を包んだレッサーパンダはダンジョンに似つかわしくないくらいの露出をしているが、防御性能はパーティでも随一だった。

 だけど、バフのおかげで今はカナカミが一番だろう。上層程度にある魔物の攻撃や罠程度は熊の毛皮を傷つけることすらできず、たいてい一人で何とか出来てしまうのだ。


「こうして見ると、オズが自分にバフをかけられないのはいい塩梅だったな」


 すっかり仕事が荷物持ちだけになったルヴァフが、僕の頭に手を置いて話しかけてきた。バフのせいでパーティとの歩調がずれそうになる熊を適宜調整できるのは、みんなのことをよく見ている証拠だ。


「どういうこと?」

「もしオズもこんな強化をうけちまったら、パーティ全体が慢心するだろ? そうなったら致命的な失敗をする確率が高まる。いくらバフが強いとはいえ、詰みってのは存在してるんだ」

「それにオズ君を守らなくちゃってなるからね。ほら見てよ、カナカミが張り切ってるねえ」

「あははっ! すっかり先輩気取りだな。いい傾向だ」

「うっせえ! 黙ってついてこい!」


 薄暗い洞窟だけど、ここはほのぼのと明るい。

 中層に行けば余裕もなくなるだろうけど、今のうちにみんなと触れ合っておきたいなと思った。


 そういえば、僕はまだクィラキュリーが冒険者になった理由を聞いてない。

 雑談できそうだから、今のうちに聞いてみようかな。


「あの、クィラキュリー……」


 そう控えめに声をかけた時――。


 ――足元に大きな穴が開いた。


「……え?」

「嘘だろ……! オズ!」


 とっさに手を伸ばしたルヴァフだったけど、穴は広がって僕らを一緒に飲みこんでいく。

 気を付けなくちゃいけない罠の一つ、強制階層落とし。まさかここで発動するなんて。

 だけど、浮遊感に恐怖する暇なんてない。こういう時の判断は生死を分けるってこと、僕はとてもよく知っている。


 だから僕はルヴァフの手をしっかり握って、できる限り早く発動できる魔法を唱えるんだ。浮遊さえしてしまえば、と思ったのだけどすぐに穴は閉まり、クィラキュリーの声が遮断される。

 こうなったらもう、下に降りるしかない。浮遊するために魔力を浪費するのは得策とは言えないだろう。僕とルヴァフはゆっくりと、二人だけで中層にたどり着いた。


「災難だったな」


 うっそうと茂る木々の隙間に、牛の嘆息が響く。右も左もわからない中でひとまず安全だけは急いで確保して、ようやく一息つくことができた。こういう時に結界の魔法を学んでおいてよかったと痛感する。


「連絡は取れるようだからひとまず攻略は続行だ。カナカミはバフをもらってるし、クィラキュリーも毒などには耐性がある。問題はここが中層のどこかわからないことなんだが、目印になるようなものを探すしかないな」

「ごめん……僕のせいだ」

「ちげえよ。あれは上層のどこかにランダムで開く探知不能トラップだ。単純に運が悪かった、それだけだ。それにオレらは転移トラップなんかを踏んだ時に備えて、みんな探知ストーンを持ってるだろ。ここで待ってても、あいつらは来てくれるさ」


 バフをもらったカナカミの探知をすり抜けたのだから、どうあがいても避けられなかった。なんて頭ではわかっていたけど、心は憂鬱だ。

 アーフィンにも言われたことがあるけれど、僕は役に立たなきゃと強迫観念を抱いているところがある。好きな人に嫌われたくないっていうのが大きい。自覚はあるんだけど、なかなか抑えられないんだ。


「オズ」


 頭に置かれる大きな手。すっかり慣れた仕草で僕を撫でるルヴァフは微笑んでいて、怒りなんて全く見えなかった。


「気にするな。オレが荷物持ちだったんだから食料とかも心配いらないぞ。今晩もおいしいものを食べさせてやる。クィラキュリーたちも自分の分の非常食くらいは持ってるし、そんなに心配するようなことじゃない」

「そうかもしれないけど……町に戻らないの? 連絡が取れるんなら、また入り口からやり直したほうが安全だよ」

「これが救助依頼じゃなかったらそうしたんだけどな」


 時間が経てば経つほど、アーフィンの生存は絶望的になっていく。そんなことは分かっているけど、僕はルヴァフたちにも傷ついてほしくなかった。

 だから、僕に気を使ってのことだったら、遠慮しないでほしい。アーフィンだって冒険者として、いつか死ぬかもしれないことくらいわかってたはずだから。


「……はあ」


 ぐりぐりと、強く頭を撫でられる。これはもはや撫でるというよりかは、押し付けていると言ってもいいくらいの力加減だった。

 それは落ち着かせるためじゃなくって、後悔に沈みかけている僕を引っ張り上げるような力強さを持っていた。


「悪い。お前にとってアーフィンは大事な奴だってのに、そんなに気を使わせて」

「僕は本気で言ってるよ。ルヴァフたちに何かあってほしくないんだ」

「そうか……なあオズ。昨日したオレの昔話覚えてるよな」

「うん、ダンジョン近くの宿屋の話でしょ」

「そうそう。まあオレは彼らに憧れて冒険者になったけど、やっぱりさ、帰ってこなかった奴らもいるんだよ」

「あ……」


 それは当然の話だ。未踏破は誰も最深部まで行けないからこそ未踏破なんだ。幾人もの冒険者の血を吸って存在するのが、ダンジョンという魔物。

 もし誰かが命を落とせば、冒険者が泊まる宿にはその情報がすぐ伝わるだろう。荷物の整理や部屋の片づけをしないといけないんだから。


「そういう話を聞いてるからな、明日は我が身なんじゃねえかって思っちまうんだ。オレはお前が思っている以上に臆病なんだよ。完璧にやらねえと気が済まねえし、誰も欠けてほしくねえ」

「うん、僕もだよ……でもアーフィンは……」

「うちのパーティメンバーじゃねえって言いたいんだろ。でもな……オレはあいつを誘ねえかなって思ってんだ」

「え、アーフィンをこのパーティに……? でもアーフィンは『闘争の槌』のリーダーで……」


 確かにアーフィンはディフェンダーの大盾使いで、いくつかの魔法も使えるからこのパーティにはぴったりなはずだ。だけど、みんなに頼られるアーフィンを引き抜くなんてことできる気がしない。責任感も強い狼だし、いなくなったらパーティが成り立たなくなっちゃう。


「あー……これはあいつに口止めされてたんだが、実はアーフィンがお前を追放したのは独断なんだ」

「……え?」


 確かに話をした時誰もいないのはおかしいなとは思ったけど、独断だったんだ……。


「メンバーたちがお前に依存していって、このままじゃ駄目だと思いきったらしい。そんでパーティ内でちょっと揉めたらしくてな。お前じゃないと満足できないって奴もいたみたいで、オズはどこだと詰め寄られたんだと」

「そんなことがあったんだ……全然、知らなかった……」

「お前はみんなの役に立ちたいって気持ちが強いから、アーフィンもなかなか止められなかったんだろうな。それでちょうどいい頃合いだろうから、パーティを解散しようかとも悩んでたんだ」

「そうだったんだ……言ってくれればよかったのに。アーフィン……」

「お前に心配かけさせたくなかったみたいだし、なによりお前に縋り付かれたら頷いちまいそうだって。みんなお前のちんぽの虜だったから、逆らえなかったんだと」


 始めて聞く内容に、僕は呆然とするしかできなかった。泣きそうな目でルヴァフを見つめると、落ち着かせようと撫でてくれたけど、僕の心は震えたままだった。

 みんなとうまくやれてるはずだと自惚れていた僕が馬鹿みたいだ。僕はただ、快楽とバフを使って掌握してただけで、仲良くやれてたわけじゃなかったんだ……。


「う、うぅ……僕、全然駄目だ……ちゃんとしなきゃって思ったのに……」

「お前はちゃんとできてたよ。ただ、初めてのパーティだからわからないこともたくさんあった、それだけだ。いったん離れてみるのも悪いことじゃねえだろ?」

「うん……僕、ルヴァフのところに来れてよかったよ……」

「そいつはよかった。アーフィンにもそう言ってもらえりゃいいんだがな」


 落ち込む僕をルヴァフはずっと撫でて待っててくれる。ダンジョン内で冷静さを欠くなんてよくないことだってわかってるのに、肩の震えは止まってくれなかった。


 ついにはルヴァフが両手を広げるものだから、思いっきり飛び込んでしまった。なんて子どもじみた行為だと冷静な僕はささやくけれど、感情がぐちゃぐちゃになって支えが欲しかったんだ。


「あいつから忠告はもらってたんだ。お前のバフはすげえ強くしてくれるから全能感に溺れるなよって。あと快楽も強いから慣れたやつじゃないと無理だともな。んで、そういうやつを誘おうと思ったら、適任が一人いるじゃねえか」

「それがアーフィン……」

「そういうこと。だからこんなところで死んでもらっちゃ困るんだよ。それにさ、オズ」


 にかっと太陽みたいに笑って、ルヴァフは僕に言ってくれる。


「お前、アーフィンと仲直りしたいだろ?」

「したいよ……! 言いたい事、一杯ある……!」


 ルヴァフのところを紹介してくれたお礼とか、勝手に追放した恨み言とか。そして、これからも仲良くしてほしいってお願いとか。

 僕はまだまだ、アーフィンに言いたいことがたくさんあるんだ。


「ならちゃんと救助しないとな」

「うん……!」

 

 決意を入れなおして顔を上げると、嬉しそうに笑う牛の顔が迎えてくれる。出会ってまだ少ししか経ってないけれど、ルヴァフの笑顔は僕にとって元気をくれる源みたいになっていた。


「ありがとうルヴァフ。なら早く行こう。これから目印を探すんだよね」

「いやセックスするぞ」

「うええぇ?!」


 テンションの落差について行けなくて思わず叫んでしまった。防音効果のある結界でよかった。

 よくよく落ち着いてみれば、僕の体を撫でる牛の手には情欲をくすぐるような動きが混ざっている。頭に疑問符を浮かべる僕に向ける笑顔は、もうすでに蕩け始めていた。


「オレはまだお前からバフをもらってないからな。安全が確保できているうちに、やることやっちまおうってことだ」

「あ、うん、そうだね。それがいいかも……」


 でもごめんね、ちょっとしんみりしてたからテンションが追いついてないんだ。

 そんな僕の動揺なんてお見通しみたいで、僕から離れたルヴァフはゆっくりと装備をはいでいく。ストリップのようなしぐさで欲望を煽り、僕をその気にさせるつもりだった。


「待っててもあいつらは来てくれるんなら、オレらがすべきことは万全の状態を維持することだ。言っちゃ悪いが、オレはどうしてもオズを守りながら戦うことになるんだからな」

「うん、うん……」

「だから、バフかけしようぜ♡」

「フェラだけでもバフはかかるけど……?」

「悪いな。実はアーフィンからお前の話聞いて、あまりに楽しみにしすぎて三日ほど禁欲してたんだ。本当は酒場でずっと盛るつもりだったから、我慢できねえ♡」


 リーダーとしてのルヴァフは頼りがいがあって優しくて、明るい人だ。

 でも今は性欲に忠実なぎらついた視線で僕を挑発する獣。肉厚で豊満な体をさらけ出す、淫獣だった。


 森林エリアには疑似的な太陽でもあるのか、木々の隙間から光が差し込んでいる。

 それは褐色の毛皮を輝かせ、分厚い筋肉に光沢を追加していた。雄々しい凹凸が脈動しながら服を一枚、また一枚と脱いでいき、褐色の面積を増やしていく。


「さあてオズ、不安も心配も全部オレの中にぶちまけろ」


 体をひねって股間をわざとらしく隠しているくせに、でかい玉と竿がちらちらとのぞいている。想像力を掻き立てるようなしぐさは冒険者というよりかは情夫のそれであり、この牛が手慣れていることを示していた。


 ぼーっと見入っていた僕を引っ張って抱きかかえた後、いつの間にか準備されていた綿のベッドに倒れ込む。


 覆いかぶさる牛はにこやかに、晴れやかに、そして淫らに、口角を上げてこうささやいた。


「二人で気持ちいいセックスをしような♡」

 

 そっと唇を僕の額に当てて、徐々に下へと落としていく。頬から首筋を通って鎖骨、胸板に愛おしそうに頬ずりをする仕草は、巨躯の雄なのに可愛いという形容詞がなぜか似合う。

 思わず手が伸びて頭の毛に沈めると、目を細めて笑う。いかつい顔に愛らしい表情を乗せて、自分は雌なのだと僕に教え込んでいるようだ。


「オレはリードされる方が好きなんだ。オレのことを雌みてえに扱ってくれて構わねえよ♡」

「あ、うん……わかった……」

「普段リーダーなんてしてると、タチっぽいと思われがちなんだよなぁ。そういうやつを犯すのが好きな奴もいるけど、オズは違うだろ?」


 小さなネズミの胸板に媚を浮かべて鼻面をこすり、ルヴァフは艶然と一笑する。僕が抱くルヴァフのイメージを打ち壊そうと、雌らしさを芬々とさせる潤んだ上目遣いが情欲に油を注いだ。

 大剣を振るっている姿とは真逆の、色気に満ちた牛の相貌。しゃちこばった僕の体を解きほぐさんと、口唇は下降を再開する。


「オズ♡んっ♡セックスじゃ、オレはリーダーシップを発揮しなくてもいいだろ♡オレを癒すと思って、好きにぶち犯してくれよ♡」

「そうだよね、ルヴァフはリーダーとしていつも頑張ってくれてるもんね……」


 ダンジョンにおいて、リーダーの判断は絶対だ。足並みをそろえるための指針でもあるが、その分責任が伴う。さっき自分のことを臆病だと言ったルヴァフは、その重責を必要以上に感じているのかもしれない。

 だからウケを好んでいるのかも、なんてぼんやりと思った。

 ベッドにいる時くらいは責任を忘れたいと乞われれば、僕はそれを受け入れて服を脱ぎ捨てる。結局昨日出していないこともあって、僕も獣欲を持て余していたんだ。


 牛の口は股間に到着し、根元を鼻息がくすぐる。野営で水浴びをしていない毛皮なんだけど、牛は意にも返さず鼻面でかき分けて地肌に滲む興奮を探り当てようとしていた。


「んおっ……♡蒸れてんなぁ♡悪くねえ♡♡オズはかわいくても雄ってことだ♡♡」

「ルヴァフはこういうのにも興奮するの?」

「おう♡体売ってた時も冒険帰りの雄ちんぽをしゃぶってたりもしてたし、それに比べたらオズはいい匂いだぞ♡♡」

「それ、褒められてるのかな……」

「褒めてるって♡ほら、早く勃起してくれよ♡♡デカマラを口いっぱいに頬張りてえんだよ♡♡」


 ちゅっちゅっとわざとらしく幹にアピールを繰り返されると、さすがに血流が加速する。アンバランスなほど大きな僕の一物は鎌首をもたげ、毒々しい赤に色づいて硬くなっていく。

 太い血管が絡みついた大蛇は雄を食らいたいとひくついて、先端からよだれのような先走りをこぼす。それはルヴァフのマズルに滴り、とろりと落ちる。その目と同じように。


「おっおぉ……♡こうして間近で見ると、やっぱやべえよなぁ♡♡」


 ルヴァフは袋の竿の間に顔を突っ込んで、眉間に一物を横断させた。より目気味になった瞳はハートの形に光彩を歪ませていて、陶酔とした面持ちで吐息を漏らす。

 分厚い舌を幹に絡ませて、浮かび上がる血管とダンスを踊る。ぐねぐねと蠢く僕らの脈動は、興奮の鼓動となって感情を伝播させた。


「でっけぇ♡♡でかすぎだろ♡雄ちんぽの名に恥じねえでかさじゃねえか♡♡こんなデカマラ、なかなかお目にかかれねえぞ♡」

「えっと、ルヴァフはどうしたい? 僕のちんぽなら好きにしていいよ」

「んなこと言っちまっていいのかよ?♡オレはお前にリードしてほしいって望んでんだぜ♡」

「でも僕はルヴァフのことをまだよく知らないから……。じゃあ、パイズリとか、できる?」

「かわいいこと言うじゃねえか♡逆にこのおっぱいで出来ねえと思ってんのか♡♡」


 誇らしげに胸を張ればおっぱいが大きくたわんだ。小柄な僕の顔すら包み込めそうな胸筋は肉風船みたいにパンパンに膨らんでいる。普段は軽装に守られたそこをルヴァフはいつも窮屈そうにしていたけど、これだけでかければ当然だろう。

 先端にある下向き乳首も大きく、僕の親指くらいはあるかも。体を売っていたと公言していた通り、ルヴァフの性感帯は雄を誘うにふさわしいエッチさを兼ね備えていた。


「冒険者どもをとりこにしたオレのおっぱいだ♡オズにも気に入ってもらえると嬉しいぜ♡♡」


 巨根だから全部は納めきれないけれど、谷間にはしっかりはまった。ぎゅむっと左右からむっちりした肉に挟まれて、僕のちんぽが嬉しそうに跳ねる。

 はみ出した亀頭が牛の鼻面に当たるから、ルヴァフは嬉しそうに舌先で鈴口を舐めながら上目遣いで僕を見た。


「オレのおっぱいで包みきれねえなんて、やっぱでかすぎるだろぉ♡♡こんなデカマラにご奉仕出来るなんて、最高だぜ♡♡」


 リードしてほしいとは言うけれど、根っこのところでルヴァフは世話焼きだ。それはこの数日だけでもよくわかる。

 今だって、ゆっさゆっさと胸筋でしごきながら、僕が感じているかちらちらと確認してくれているんだ。それで目が合えば微笑んでくれるから、柔らかい雰囲気で進めることができる。


 だけど対照的に、パイズリする手には遠慮というものがない。

 密度の高い肉袋をちんぽに密着させ、泡立つんじゃないかと思うほどの強さでこする。それが気持ちいいんだと僕が何も言わなくても、ルヴァフはしっかり把握してくれていた。


「どうだオズ♡オレのパイズリはここらじゃ結構有名なんだぜ♡実際やりたがる奴は多いんだ♡」

「うん、それもわかるよ……ルヴァフのおっぱい、すごく気持ちいいから……」

「オズは素直だな♡そう言ってくれるとやる気も出るってもんだ♡ほーれ、メス牛のドスケベおっぱいだぞ♡んちゅっ♡んちゅっ♡♡」


 肉槍の先端をついばみながら唾液を垂らし、胸筋との摩擦を減らしていく。

 手でしごくのとは何もかもが違う。娼館でしてもらった女性のパイズリとも全然違う。

 ルヴァフの胸は筋肉の塊だから、性器で感じる振動に重みがある。力めば巌のようになるそこは、男性特有の力強さに満ちていた。


 少しだけ脂肪をまとった霜降りの部位が、唾液と先走りを僕に塗りたくる。血管はより太くなって、海綿体の膨張が限界まで上り詰めた。放たれる興奮が熱を高めたこと、ルヴァフは胸で知っただろう。


「んー♡なんだもういきそうなのかオズ♡♡昨日カナカミとさんざんやっただろうに♡」

「あ、実は……昨日はフェラだけで、しかも出してなくて……」

「やっぱり、あいつ結構空気読むタイプだから、お前に気を使ったんだろうな。まっ、オレのために溜めておいてくれたってことにしとくか♡」


 僕のちんぽを解放して牛は亀頭に口づけを落とす。先走りで毛皮の張り付いた谷間から泡を掬うと、胸部に負けないくらい豊満なお尻を向ける。そして汗と混ざった体液を自身の穴に塗りたくり、くちゅくちゅと僕をいやらしく誘ってきた。


「我慢してきたんだ♡やっぱ最初の一発はケツマンコに欲しいよな♡♡オズはダンジョン行く前に出したりしたのか?」

「ううん、バフかけするって聞いてたし、みんなエッチなのが好きそうだったから、溜めた方が良いかなって思って……」

「なら金玉じゃかなり煮詰まってるな♡なおのこと中出ししてもらわねえと♡♡」


 待ちきれないと綿のベッドに体を沈め、正常位でルヴァフは僕を誘った。

 両の腕を持ち上げれば分厚い腋のくぼみからうっそうと茂る体毛が見える。他よりも褐色がわずかに濃い毛色をさらすのは、それを好む雄がいるからだ。この牛の仕草は完全に手慣れたものだった。


 女性みたいに大きな胸を強調しながらも左右から雄々しさを混ぜ込んで、だけど、体全体を見ればたくましい雄でしかないコントラスト。それが魅力的だってことは、娼館で勉強した僕はよく知っている。

 だけど、口下手な僕は相手を褒めるのがいつまでたってもうまくならないから、言いあぐねているうちにルヴァフの方から助け舟をくれた。


「ん、オズはオレの腋マンコに鼻を突っ込みながら腰を振るのはそこまで好きじゃねえのか?」

「あ、えっと、嫌いじゃないけど、ルヴァフがすごくエッチだったからつい、見惚れちゃって……」

「あははっ! 嬉しいこと言ってくれるじゃねえか」

「そもそも僕はルヴァフの顔を見ながらするのが好きだし……それに、僕の身長だと腋まで届かないかも……」


 長身巨躯という言葉がこれほど似合う男もなかなかいない。たくましい人が多い冒険者の中でさえ、ルヴァフやカナカミは大きい方だ。そして僕は小さなネズミの男。ただちんぽがでかいだけで、身長で言えば種族で見ても小さいのだ。


「おっとそれは悪かったな。でも、授乳手こきしやすそうで、オレは好きだぜ。今度たーっぷりしてやるよ♡」


 身長について気を使った言葉をくれたんだろうけど、喜んでいいのかなそれ。授乳手こきって赤ちゃんプレイのやつだったよね。


 ……うん、こんな時に悩んじゃうから僕は口下手なんだ。一言お礼を述べてから、早く次に行こう。

 太ももに手を添えると、ルヴァフは意を汲んであげてくれる。こんな丸太みたいな足、僕に持てるわけないからね。

 直径が僕の胴体くらいあるかもってくらいの大きさだ。それを支えるお尻もまた、ものすごくでかい。片手で握るのは絶対無理だと断言できるほど肉厚で、前衛職の名にふさわしいほどむっちむちだった。


「でかいね……」思わず声が漏れた。

「おうおう、オズは可愛い反応してくれるからやりがいがあっていいな。娼館とかパーティとか、いい雄はたくさん見てきただろうに」

「確かに大きい人はいっぱい見てきたけど、ルヴァフは適度に脂肪があるおかげでより大きく見えるんだ。アーフィンは筋肉の塊って感じで鋭いイメージだけど、ルヴァフは柔らかそうですごいエッチ……」


 戦闘中に筋肉の凹凸が浮いているのを何度も見ているから、柔らかいわけがないのは知っているのに。リラックス状態の肉がとろけている状態が目の前にあると、どうしてもそんな感想になる。

 

 ちんぽが大好きだと公言してはばからない牛らしく、さらけ出されたその肛門はすでに性器として開花していた。

 明らかに使い込んだのだと分かる少し黒ずんだ色が、ふっくらと盛り上がっている。僕のものを入れるのに拡張なんて必要ないと、一目見ただけでわかるくらいだ。


「そのまま突っ込めそうだろ?」

「うん、多分大丈夫そう。だけど念のためにほぐしとくね。中も確認したいし」


 まずは縁肉に触れると、牛のちんぽが震えた。魔法で指先に粘液を生み出して、それを丹念に塗り付けていく。学校で学んだ、皮膚を保護する粘液だ。これで多少の無理は効くようになるけれど、ルヴァフには不要だろうね。僕が丁寧にしたいからしているだけ。


「うおっ♡おっ♡おとなしい顔して、指先はドスケベじゃねえか♡♡やっぱ手慣れてんな♡」

「うん、たくさん練習したから。でも痛かったら言ってね」

「んんんっ♡この調子じゃ、問題なさそうだけどな♡」


 僕は体も小さいし指も細い。だから一本ずつなんてまどろっこしいことはあんまりしない。

 触った感覚から三本くらいはいけそうだと判断して、指先をドリルのように束ねて突っ込む。案の定、牛の肛門はすんなりと広がって、隙間から愛液を噴いていた。


「お゛っおおおおぉ♡♡手マンすっげ♡ぶもおぉん♡おマンコとろけるのたまんねえぇ♡♡」


 慣れるまで指先ドリルで柔肉をこすり、内部を確かめておく。短い指じゃどこまで届くのかわからないけど、できる限り調べておこう。ダンジョンもアナルも事前調査が大事だ。

 湿潤な内壁のいたるところを押し付けていると、ぎゅうっと締め付けられる。大きな体に見合わないくらいアナルが狭い、というよりかは貪欲なんだろう。食らいつくことに慣れた器官だ。


「んあっ♡急にまどろっこしい手マンするじゃねえか♡♡オレの弱いところは、もうちょい上……おおぉ♡そこっ♡そこおぉ♡♡」

「ここだね。教えてくれてありがとう」

「ぶっもおぉ♡♡アクメスイッチの押し込みえぐぅ♡可愛い顔して、容赦なさ過ぎだろ♡♡」

「あ、ごめん、つい気持ちよくしようとしちゃって……。えっと、ルヴァフはどういうセックスがいいかな」


 前立腺を押し込みながら尋ねると、分厚い体が何度も跳ねた。


「おっ♡おっ♡どういう、意味だぁ♡」

「今はダンジョン内だから、アクメ漬けになると戻るの大変そうだし……前のパーティでも、本気でいかせるのは宿でしかしなかったんだ。ほら、僕の大きいし……」


 股間を突き出して一物を並べると、ルヴァフから感嘆としたため息が漏れた。ルヴァフのちんぽも体格に見合って大きいけれど、僕の方がでかい。エラの張った大蛇のようなちんぽはいつ見てもグロテスクだと思うけど、みんなこの方が好きだと言ってくれる。


 尻に指を入れたままだから完全な長さ比べはできないにもかかわらず、ルヴァフが僕を見る視線が、確実にとろけた。


「それは、アーフィンから聞いてるぜ♡オレがいくら性豪でも、本気を頼むのは宿だけにしとけってな♡♡じゃねえと足腰立たなくなるだと♡」

「うん、だから時間を決めといたほうがいいんだ。ルヴァフとするのは初めてだから僕も加減がまだつかめてないし……」

「オレとしちゃ、本気で脳みそぶっ壊してほしいんだけど、さすがに今の状況だとそうも言ってられねえよな♡残念♡でも、リードしてくれるんならオレはオズに従うぜ♡♡」

「わかった。なら、普通にやるね」


 僕は体内にある指先に魔力を込めて、振動の魔法を発動させる。


「うわっ♡なんだこれ♡体の中がむずむずと、変な感じだ♡♡」

「これはルヴァフの体をスキャンしてるんだ。出力を上げれば、振動だけで前立腺を刺激して無限にアクメさせるのもできるけど、今回はやらないよ。普通じゃないから」

「んぅ……♡ぞくぞくって、あぅ♡さすが、いろんな魔法を覚えてるんだな♡♡」

「学校で教わったから。僕はこういうことをする魔法なら、古今東西の文献から様々なものを詰め込まれてるよ」


 本来なら周囲を調べる魔法でもあるんだけど、こうして体内用に調節してある。魅了や淫毒も使えるんだけど、僕のバフがかかれば全く効かないから、こういう物理的な手段も大事なんだ。


 ルヴァフの弱いところ、前立腺、結腸入り口、その他もろもろすべて丸裸にして、ついでに振動で刺激しておく。

 そしてもう片方の手は腹筋に置いて同じ魔法を使う。くすぐったい感覚を染みこませると、屈強な体がくねりだす。もどかしさを感じているのは、うねる尻尾を見ればすぐに分かった。

 人を焦らすのに薬や魅了なんて必要ない、ただ性欲をなぶってあげればいいだけ。


「んおおぉぉ……♡やべえなこれ♡♡こんな技、初めて食らったぞ♡♡体中が、むずむずして……欲しくなっちまう♡♡」

「僕はずっと、性技を学ばされてきたから。形になってきたのは学校を抜け出して、娼館で勉強してた時くらいからなんだけどね」


 娼館でも僕みたいな人はいなかった。これでも一応優秀な学校で魔法を学んでいたおかげだろう。内容に偏りがあるとはいえ、知識としては価値が高い。


 外を撫でまわす手は胸部にたどり着き、豊満な丘にある頂点を軽く押した。乳頭を震わせると牛の巨躯も震え、綿のベッドが弾んだ。


「おおおおぉおぉぉ♡♡♡♡これ、すげえぇ♡オレのおっぱい♡びんびんになっちまう♡♡」


 コリコリと立ち上がった乳首をつまむと、内壁もいっそう締まる。どうやら気に入ってくれたみたいだ。

 だけどアクメしないように見極めないと。僕はいつもやりすぎるってアーフィンからも言われてる。よがってくれると、役に立ててる気がして嬉しいからつい……。


「おおぉ……♡魔法をこんな風に使われるとは、思わなかったが……んっ♡これはいいな♡♡」

「調節すればマッサージにもなるから、いつでも言ってね。あんな大剣振り回してればしょうがないけど、肩が凝ってるみたいだよ」

「ふぅ、なら、これが終わったら……んおぉ、頼もうかな♡マッサージは、あぁ……気持ちいいから嫌いじゃねえよ♡♡」


 なら、今のうちに体の調子をもっとスキャンしておこうかな。これからルヴァフは一人で僕を守りながら戦わないといけないし。

 そう思っていたけど、上気したルヴァフが僕の顎下を指でくすぐってから口元を人差し指で押さえ、思考を打ち切ってくる。


「まったりと過ごすも悪くねえけどよ♡今はセックスがしてえんだ♡気が利くのはお前のいいところだけど、上の空だとつれねえだろ♡♡」

「あ、ごめん……」

「お前にとっちゃバフかけのついでかもしれねえが、オレは楽しみにしてたんだ♡そろそろマンコも欲しいってうずき始めてやべえ♡オズのデカマラで♡妊娠確定ザーメンぶち込んでくれよ♡♡」


 自ら足を上げて恥部をさらけ出し、ルヴァフは性欲で僕をからめとろうとしてくる。絶対自分に欲情させるという意地と確信が、雄牛の表情を雄々しくも淫らに彩っていた。


 それが望みなら、次に進もう。結合部を確認するために顔を近づけると、改めて尻肉のでかさに圧倒される。僕の顔よりでかいんじゃないかな。それが二つも並んでいれば、どうしたって興奮してしまう。

 ちゅぷっと指を引き抜くと、ぽっかり空いた穴がふさぐものを欲しがって蠢いている。

 準備はもう万全だと、聞かなくてもわかるほど熟れていた。僕があてがう間も、ルヴァフは当然と言わんばかりの態度だ。


 でも念のために、水の魔法でルヴァフの足を固定しておく。こんな太い脚に挟まれたら僕の背骨が折れるので、安全のためには必要だ。アクメしてる最中は体が言うことを聞かないだろうから。


「これは便利だな♡じゃあオレはオズが欲情してくれるように両手が使えるわけだ♡」


 さっそく腕でおっぱいをはさみ、その分厚さを見せつけ始めた。筋骨隆々とした上腕から、乳肉がむにっと押されて前に圧をかける。谷間もみっちり埋まり、盛り上がった肉を前に顔を突っ込みたい欲望にかられた。


 けど、そんな前座を楽しむ時間はとうに過ぎている。

 僕らの股間は、もっと直情的な行為を求めているのだから。


「じゃあ、入れるね」

「おう♡遠慮なんていらねえからな♡本気とまではいかなくても、楽しむくらいはさせてくれよ♡♡」


 要するに本気は出さないながらも、手を抜くなと言っているのだろう。もちろんそのつもりだ、やるからにはしっかり気持ちよくなってもらいたいんだから。


 そうして腰を進めていけば、ずぶずぶと、柔らかくもきつい淫らな肉へと僕が埋まっていく。

 使い込んでいるのに緩さは一切なく、鍛えたんじゃないかと疑いたくなるほど後門の締め付けは強い。そして中へ進ませれば、柔肉が少しでも密着しようとまとわりついては蠕動でしごいてくれる。


「お、お、おおおぉ……でけぇ……♡♡おっぱいで感じるのと、うぅぉ、マンコで感じるのは全然ちげえな♡圧迫感が、たまんねぇ……♡」


 雄牛は嬉しそうにつぶやいて、内部に侵入した痕跡を噛みしめている。どんどん自分を深く貫かれているというのに、そこに痛みも恐怖もない。ただ、喜悦を強める牛の顔があるだけ。


「おぉ、すっげえ、すげえ……!♡まだ入ってくるのかよ♡うおぉっ♡深すぎる♡やべえ、こんなの絶対わからされちまうだろ♡♡」

「ルヴァフもすごいよ……こんなに奥まで入っちゃうんだ……! まだ結腸にたどり着かない……!」

「オレは見ての通りでかい雄だからな♡♡だから、ここまで入ってくるやつなんて♡なかなかいねえんだよ♡♡おっふぅ♡しかも強化も入ってねえ天然もんのちんぽでだ♡♡」


 筋肥大化は魔法を使えばたやすいけど、レベルが低いと行為中に持続時間がきれることもある。バフと同じく、効果時間の問題はどこにでも付きまとうのだ。

 娼館でも仕事前に魔法をかける人はいたけど、僕のちんぽは自前なのでそんなことを気にしなくていい。ルヴァフは呼吸を早くして、自分の最奥を突かれる瞬間を今か今かと待っていた。


「おっおっ♡♡そろそろ、だな……♡」


 そして、巨体の雄牛の最奥、結腸入り口にコツンと亀頭が届き、その衝撃にルヴァフは先走りを噴いた。


「すんげええぇぇ♡♡まじで届いちまったなあ♡そこ、もっと押し当ててくれよ♡めったにやられることねえんだ♡♡このまま雄子宮に孕ませセックスを教え込んでもいいんだぜ♡♡」

「そ、それしちゃうと僕も本気になっちゃうから……。結腸攻めは依存性高めちゃうから、あんまりやらないようにってアーフィンからも言われてて……」

「でも確か、お前のバフ量ってちんぽの埋没が関係してるんだよな♡」


 それを言われてしまうと、返す言葉もない。興奮しているが、リーダーの判断は的確だった。


「これからオレ一人で前線に立つんだ♡なら最後まで入れねえとな♡まだ余裕残ってるだろ♡」

「本当にあとちょっとだけね。多分、亀頭が入るかくらい……」

「十分だぜ♡ほら、最後まで入れてくれよ♡雄子宮までやられるの久しぶりでたぎるってもんだ♡宿屋やってた頃はまだしも、今じゃこんなでけえ雄マンコになっちまったから、満足させてくれるちんぽを探すのも一苦労なんだぞ♡♡」


 期待に潤んだ視線を前に、首を横に振れるほど僕は意志が強くはない。それに僕も興奮してるから、甘言に肉棒がひくついてしまう。

 だから誘われるがまま、腰を前に。

 するとにゅぽんと亀頭は窄まりを貫いて、巨体の最奥へと至る。僕のモノが全部入ってしまうあたり、改めてルヴァフが大きいんだと実感する。

 挿入の衝撃は僕の肺から火照った吐息を漏らすほどではあったけど、ルヴァフにとってはさらに強く、途方もない快楽だったようだ。筋肉の塊が跳ね、そそり立つちんぽから濁った先走りが飛んだ。


「うっおおぉぉ♡♡まじで入っちまったよ♡やばすぎるだろっ♡んおっ♡あーたまんねえ♡オーズ♡手の置き場に困ったらおっぱいに置いていいぞ♡オレのデカパイ揉みながら種付け交尾頑張ろうな♡」


 久しぶりと言っていたが、ルヴァフは圧迫感や快楽に溺れることなく僕を誘う。慣れてないと目を白黒させる人もいるのに、そんな気配は全く見えない。

 それどころか両手を頭の後ろに置いての腋見せポーズで胸を強調すると、僕に揉んでくれと発破をかけてくるくらいだ。言われた通りに手を伸ばすと、弾力の強い肉袋が温かく迎えてくれた。


「オズの体重くらいなら、バフが無くても問題ねえよ♡大剣より全然軽いしな♡♡」

「う、うん……わかったよ」

「それよりどうだ、オレのおっぱい♡今はぜーんぶお前だけのもんだぞ♡」

「すごいね、本当にすごい……片手じゃ揉み切れないほど大きいのに、ちゃんと筋肉があるんだってわかるよ」


 娼館でもこんなデカい胸はなかなかお目にかかれない。毛皮のごわつきや濃い雄の匂いは冒険者らしいがさつさがあるけれど、それも含めてルヴァフの魅力だと思う。

 僕は両手でルヴァフのおっぱいを夢中で揉んだ。指の隙間からむちぃとはみ出る肉に心を奪われて、興奮が体内で煮詰まっていく。


「んふっ♡どうやら気に入ってくれたみてえだな♡オレのおっぱい揉みながら、ちんぽビクンビクンしてるぜ♡♡おっおっ♡種付けしてえって雄子宮ノックされると、マンコも待ちきれねえ♡♡」

「あ、ごめん……ルヴァフのおっぱいがすごかったからつい……」

「だろ♡男なんてみんなオレのおっぱいが大好きだもんな♡これからも好きな時に揉んでいいぞ♡パーティメンバー特権だ♡♡」


 赤らんだ顔でにやにやと笑う牛の顔はご満悦で、わざとらしく力んで胸筋を巌のように変え、僕の手をはじいてみせてくれた。こんなに大きくて柔らかいのに、筋肉の塊なんだと知らしめた。


「うわ、すご……」

「あははっ♡オズは良い反応するから、ついサービスしちまうな♡こんなデカマラ腹に入れられたままだと、媚び売り頑張っちまうぜ♡♡」


 おっぱいに力を入れるために下ろしている腕も太く、触ってみるとこっちも鋼みたいに硬い。ルヴァフは一見すると柔らかそうなのに、大剣を自由自在に扱うための筋肉がちゃんとある。

 普段は毛皮と脂肪に隠れている腹筋も、今ならしっかりと浮かび上がって自己主張している。その凹凸にこぼれる先走りの元でありちんぽもたくましく、僕とは比べ物にならないほどルヴァフという雄は強大だった。


 それなのに、体内は熱くとろけそうなほどちんぽを歓迎していて、さっきから内壁がきゅうきゅうと締め付けてきて急かしてやまない。

 もうなじませるには十分すぎるほどの時間を取ったはずだ。我慢できないのはお互いさま。ルヴァフのアピールもおねだりでしかなく、僕らの腰は自然と揺れ動いていた。


「うおっ♡おおおぉ♡内臓全部持ってかれそうだな♡たまんねぇ♡♡」

「痛かったら、言ってね?」

「心配ご無用だぜ♡♡別に雄子宮攻めも、初めてってわけじゃねえんだ♡あーでも♡こんなやべえのは、初めてかもな♡すっげ♡マンコの中でちんぽ暴れちまってる♡あーすっげ♡♡」


 速度はだんだんと早くなり、結合部は粘着質な音と乾いた破裂音を奏でだす。僕の体じゃそこまで大きな破裂音はだせないけど、代わりにルヴァフの嬌声が大音量で流れていく。


「まじでやっべええな♡♡んごおぉ♡おっおん♡♡たまんねっ♡おっ♡マンコ娶られちまう♡♡おぐ、奥わからせられるぅっ♡♡」


 結腸前後を往復運動で抜き差しすると、牛の巨躯がのけぞりながら雄たけびを上げる。ここが子宮だとちんぽによって教え込まれ、腕がベッドの綿を握ってぶちぶちと引きちぎっていく。

 脚を固定してなかったら危なかったかもしれない。固定してても水を引きちぎりそうなほどけいれんしているんだ。


「おぉぉう♡おおぉ~♡♡きくきくきくっ♡デカマラにわからせられるの、まじでたまんねえな♡♡昔冒険者に体売ってた時を思い出すっ♡あんときも、まだ若いオレは、冒険者雄ちんぽでガンガンぶち犯されたんだ♡♡」

「今でもまだ若いでしょ……こんな良い体してるんだし……!」

「ふはっ♡オズは案外世辞もうまいな♡まあたしかにっ♡んおっ♡冒険者としては、今くらいの時期が、んふぅ、脂が乗ってるよな♡経験も、おっぱいも♡♡今が一番、食べごろってわけだ♡」


 結腸を犯されながら喘ぐ牛のおっぱいがたわむ。僕はルヴァフの昔の姿を知らないけれど、本人の言う通り、今が一番魅力的だとは思う。豊満で包容力があって、僕の要望に応えてくれる男らしい牛。

 僕がもうちょっと大きかったら、腋に顔を突っ込んでみたかもしれない。犯されて喘ぐルヴァフの男らしさというものを、存分に浴びたかったな。


 肛門からグチュグチュと快楽の歌声を響かせながら、そんなことを考える。

 肉棒に絡みつく柔肉は加減を知らなくて、隙間なく包み込んでは血管の凹凸まで愛撫してくれている。腰を往復させるたびに背筋に快楽が走り、細い僕の尻尾がぴんと立つ。


「オズっ♡そこ、そこもっとぉ♡んはぁ♡デカマラが体になじむぅ♡♡オレら、案外っ♡んは♡体の相性悪くねえかもな♡♡オズのちんぽも嬉しそうに跳ね回ってるぜ♡」

「んっ……そうかも、ルヴァフの中、すごく気持ちいいし……僕も好きかも……」

「オズも、そう思うか♡んもおぉ♡雄子宮で運命感じちまうかもな♡♡おおおぉぉ♡すげええ♡♡マンコ溶けるっ♡♡」


 表情は快楽にゆだり、あふれた涙で目頭の毛皮はへたっているのに、ルヴァフは勝気な態度を崩さない。マンコは貪欲に快楽を享受し、もっととねだる始末。

 慣れないとちんぽを触って気を紛らわせることもあったけど、ルヴァフには必要ないみたい。バキバキに勃起した牛ちんぽは、刺激もないのにずっと汁をこぼし続けている。


 僕は相手を悦ばせるのが好きだ。そしてそれはルヴァフも一緒。

 だから僕たちは互いのことを思って行為をするし、逐一相手を褒めてしまう。互いの間で快楽を高めあう作業が苦じゃないから、たびたび視線がかち合って、感情を共有していく。


「ルヴァフ、もっとリラックスしてもいいんだよ……! んっ、僕に任せて……!」

「そうしてるつもりだぜ♡おっ♡きくきくっ♡♡これは性分だから、あんまっ、おおぉ~……気にするなよ♡」


 リードしてほしいって言ってたのに、実際はすごく気を使われている。僕の腰に合わせて動いてくれるし、尻尾同士を絡めて親愛を表現してもくれる。

 たぶん、体を売っていた時のくせでそう言っちゃったのかもしれない。攻めの人ってそう言われると喜ぶ人が多いし。


「んっふぅぅ♡どちゅんってきたなぁ♡あ~奥すっげ、すっげえぇ♡♡まじで子宮開いちまってる♡♡これより小さいちんぽじゃ満足できなくなりそうだな♡」


 うっとりと褒めながらも、腰だけはずっと僕に叩きつけてくる。ちんぽは別の生き物みたいに何度もけいれんして、グロテスクなまでにいきり立っていた。

 分厚い牛から香り立つ精の匂いは、どんどんと濃度を高めて僕の鼻をくすぐっている。毛先に汗を光らせる姿がかっこいいのにスケベで、乳頭の先端で増した艶が食欲まじりの性欲を焚きつけてきた。

 汗まみれなのはわかっているけど、目の前に広がる筋肉に飛び込みたい気持ちが抑えられない。褐色の毛皮は湿って雄臭くなっていることは承知で、その色香を肺一杯吸い込みたかった。


「オズっ♡いいぜ♡オレの胸に、飛び込んで来いよ♡♡」


 世話焼きのルヴァフには完全に見透かされていた。

 牛は両手を広げて僕を誘ってくれたなら、理性の手綱を引きちぎってでも前に。肉厚な、僕よりも大きな体を敷き布団にして、豊満な雄々しさの塊へと鼻面を密着させた。

 雄臭いのに心地よい空間に顔を包まれて、脳がゆだっていく。呼吸が少し苦しいけれど、離れようという気にならない。左右からおっぱいで揉まれれば、僕のちんぽがさらに硬くなっちゃう。


 このままルヴァフのおっぱいにかまけていたら、気持ちよくしてあげられない。

 僕が顔を引きはがすと、得意気に口角を上げる牛が賞賛を求めているのがわかった。

 

「すごい、分厚い……! 手が回りきらないよ」

「そりゃオレの体はパーティの盾だからな♡しがみついて腰を振るのに、んっ、適してんだよ♡♡」


 こうして抱き着いてみると、ルヴァフの分厚さがよくわかる。種族が違うということを加味しても、大人と子どもみたいな体格差があるんだ。

 おなかで感じるちんぽの圧も硬く、僕はルヴァフの匂いに包まれながら中を突き立てていく。

 そのたびに巨躯は跳ね、僕が乗っているのもお構いなしに筋肉が弧を描く。その圧倒的りょ力はベッドの上でも健在で、まるで荒波に乗っているかのような気分になる。


「ちんぽ気持ちいいっ♡♡オズぅ♡やべえ♡でけえのに、うめえ♡おっおぉおおぉ~♡♡想像以上に、セックス、よすぎっ♡んあぅ♡あああぁ~~♡♡」


 でかさにかまけた腰振りにならないよう、娼館でたくさん勉強した成果が出ている。どうせやるなら気持ちよく、好きになってほしいから。アーフィンも大きかったから、でっかい雄にしがみついて腰を振るのは慣れていた。


 必死に恥骨を叩きつける僕の顎を、汗が滴って落ちていく。呼吸は浅くなって、視界も狭くなっているけれど、体だけは無我夢中で止まる気配を見せない。


「はっはっはっ……!」


 元から体力自慢だったルヴァフに僕のバフが乗れば、一日どころか数日盛るのも余裕だろう。僕も冒険者として鍛えてはいるが、敵う見込みがあるはずもない。

 それでも必死にくらいついて、内壁にちんぽをこすりつける。さっきのスキャンでどこが弱いかは大体わかっている。僕はラストスパートをかけて、巨大な雄牛をいかせるために走りだした。


「おおっ?!♡本気、きたああぁ♡♡ケツマンやっべえぇ♡オズちんぽの形になって、もう戻んねえかもな♡あっあっ♡んぉ、これ好き♡あ~ケツマンたまんねええぇぇ~♡♡」


 僕の顔を撫でながら、ルヴァフはにたりと笑った。よだれを拭くこともせず、膨れた胸筋に垂れ流しになっているが、気にすることなく快楽を貪っている。

 でもそれは僕も同じで、もう汗をぬぐう余裕なんてない。ただがむしゃらに腰を振って、快楽を膨らませることしか考えられないんだ。


 森に僕らの交尾音が木霊する。結界が無かったらこんな恥ずかしい声が周囲に漏れていただろう。

 さんさんとした光の下で身をよじるルヴァフは、闊達な面影は鳴りを潜め、淫靡でしかない。僕の本能が種付けしたいと叫びだし、精巣が沸き立って賛同の意を示す。


「オズ、そろそろ出すぞ……♡お前もだろ♡ちんぽ、うぉ、さっきからびくびくして♡すっげえ感じるんだ♡♡溜めた分のザーメン、全部オレの子宮にぶちまけろよ♡♡」

「うん、わかった……! ルヴァフの一番奥に、僕の全部、あげるね……!」


 そう言われたなら、僕がすることは全力で打ち据え、最奥を目指すことだけだ。


 ルヴァフの中はどこも気持ちよくて、感度もいい。それに激しくしてもびくともしないほどに屈強だ。思いっきり中をえぐってもよがる声しか返ってこないから、快楽だけを追うことができる。

 ぐちゅぐちゅと鳴く結合部がいっそうがなりをあげて、射精の近さを物語っている。僕らは本能に支配されて、高みを目指して粘液をこすりつけては嘶きを空へと放つ。


「ん、おおぉ♡出すぞオズ♡このまま、すげえアクメで、おふぉぉ♡オレを、ぶっ飛ばしてくれ♡♡」

「僕もいくから! 出す! ルヴァフ、受け取って……!」


 そして、二人の精巣が限界を訴えるのは同時で、僕の肉棒とルヴァフの内壁がけいれんしたかと思えば、膨らんだ尿道から白が迸った。


「うおっおおおぉおぉ♡出る出るっ♡濃いのが止まんねっ♡♡」

「あ、ううぅ……股間、もっていかれそう……!」

「オズぅ♡中が満ちてく感覚……たっまんねえぇ♡♡特濃じゃねえか♡オレを孕ませるために、こんな溜めてくれてたのかよ♡♡ありがとな♡♡」


 僕は視界も白滅して立つのが精いっぱいなのに、ルヴァフはでれでれに蕩けた顔で僕を抱きしめてくる。隙間から噴出するザーメンの匂いが強く、たくさん出したんだというのがわかる。

 腹に挟まれたちんぽは脈動するたびに温かい白を吐いていて、どろどろとしたもので間を埋めていく。毛皮の根元までルヴァフが染みこんでいくような気分だ。牛の性臭に包まれていけば、おのずと達成感が胸に芽生え始めてきた。


「あはぁ♡腹ぱんぱんじゃねえか♡おおぉ……すげえ♡オズはちんぽがでけえだけじゃなくて、ザーメンもたくさん出せるんだな♡最高だぞ♡やっぱ体のでかさだけじゃ、雄の強さってのは、わかんねえんだよな♡」

「ふ、普段はこんなに多くないよ……んあぁ……ルヴァフがエッチだったから……」

「あははっ♡可愛いこと言ってくれるじゃん♡なら、これから雌牛の乳しぼりはオズに任せちまおうか♡♡」


 ルヴァフはまんざらでもない様子で僕をおっぱいで揉みながら、尻尾でお尻を撫でてきた。結合部から混合液を漏らすたびに甘く上ずった声を出しているが、その瞳はいまだ理性の輝きが灯っている。

 

「まだ、足りない?」

「んーまあな♡オズもそうだろ♡ちんぽがっちがちだぞ♡♡」

「そうだけど、バフかけはもう終わったから……」

「まあ確かにこんなことしてる場合じゃねえよな♡じゃあ続きは宿に戻ったらしようぜ♡依頼達成記念に、カナカミもクィラキュリーも呼んで一日中生ハメ交尾な♡」

「体もつかな……」

「クィラキュリーも一応バフが使えるから心配するな♡」


 正直まだ股間をいきり立たせているのに、ここで終わるとは思わなかった。セックスはしちゃったけど、それ以上はちゃんと律することができていて、さすがリーダーだなって感心する。

 前のパーティだと一回やるとなかなか終われなかったから。意外だという感情が顔に出たのか、僕の額に指を当てながらルヴァフは笑った。


「やっぱこんなところですると、完全に浸れねえってだけだよ。オレは臆病だからな、最悪の可能性をすぐ考えちまう」


 みんな一緒の野営中ならいざ知らず、ここの安全は完全に確保されたとは言えない。だけどたとえここで魔物が来ても、ルヴァフなら対処できるだろう。行為中でも僕を守るために気を抜かない姿は、騎士みたいでかっこいい。

 汗とザーメンで汚れていても、この牛を貶めることはできないんだ。そう痛感したから、僕の口角は自然と上がっていた。


「ありがとうルヴァフ。ルヴァフはすごいかっこいいリーダーだよ」

「ははっ、そいつはどうも。オズは男心をくすぐるのがうめえから、ついつい守ってやりたくなるんだよ」


 そう言うと、ルヴァフは僕の体を抱き上げて、大きな体ですっぽりと隠してしまう。

 分厚い筋肉はまだ火照っていて熱かったけど、僕は嬉しそうに体をこすりつけて返す。


 二人だけで何が起こるかわからない中層に飛ばされて当然不安だけど、今だけは、安心感に揺蕩うことができていた。


 それからしばらくして、体も洗ってひと段落着いて僕はルヴァフに今後の予定を聞いてみた。


「今日はこのまま野営するの?」


 ルヴァフは隣で鍋をかき混ぜながら晩御飯を作っていて、時折味見させてくれる。きっと僕が考えすぎないように気を使ってくれているんだろう。そういうところがすごく優しいと思う。


「まあそうだな。バフはもらったけど、安心して休める場所を探すのは大変だし、ひとまずはここで休憩だ。クィラキュリーたちも上層終わりまで来たらしいから、そこで休むよう指示しておいた」

「二人は大丈夫そう?」

「声を聞いた感じ、問題はなさそうだったな。そもそも上層は探知不可トラップさえなけりゃそこまで難しくねえ。大丈夫じゃねえのはオレらの方だな」

「そうだね……明日は現在位置の把握をしないと。中層のどこら辺なんだろう」

「一応ある程度の情報はあるから、目印になるもんでもありゃわかるんだがな。それに探知ストーンがあるんだ。合流は簡単だし、悲観するほどじゃねえ」


 疑似太陽は沈み、木々の合間には夜が詰まっている。そんな中でも、ルヴァフは明るくしようと努めていた。その心遣いを受けて、沈むなんてできるわけがない。僕も何とか笑顔を絞り出して牛に向けた。


「いい顔になったじゃん。そうそう、落ち込んでても何も変わらねえし、目の前の状況を分析して、活路を見出すのが一番賢いんだぞ」

「うん、いつもそういうのはアーフィンに任せてたけど、今は二人しかいないから、ルヴァフが困っちゃうよね」

「ははっ、可愛いこと言うじゃねえか。でもそうしてくれるとオレも助かるぞ。ほい、特製のスープだ。人が少ないから具もちょっと多いぞ。あの二人には内緒な」


 茶目っ気を含んだ顔でお椀を渡してくれるルヴァフに、僕も肩の力が抜ける。おいしそうな匂いが鼻腔をくすぐって、笑みが自然なものへと変わっていった。

 暗い森を探索するのは自殺行為だ。それくらいわかっている。

 逸る心をスープで押し流して、ほっと一息つく。先行きはまだ暗いけど、ルヴァフはまだあきらめていない。

 だから、僕は全力でサポートしよう。アーフィンを救出するためにも、落ち込む時間なんてないんだ。


 そして朝が来て、僕らは行動を開始する。

 中層は森林エリアで上層の洞窟とはすべてが変わっている。毒などの状態異常が多いことが想定されるけど、ルヴァフはバフをもらっているからあんまり心配しなくていい。

 問題なのは僕だ。僕の防御性能はあまり高くないから、一瞬の油断が命取りになる可能性がある。

 一応簡単な回復やバフの魔法は使えるけど、一撃でやられたらどうしようもないんだ。だからどうしても、ルヴァフの背中にいることが多いし、歩みも遅くなる。


「大丈夫か、オズ?」

「うん、平気」


 慎重に草をかき分けながら、ルヴァフは声だけで後ろを向いた。腰につながったロープを引っ張って、問題ないと伝えておく。

 確認できているだけでもここには底なし沼などもあるみたいで、気が付いたらいなくならないように僕らをロープで結んでいる。鳥の魔物とかにさらわれる危険性などもあるみたいだからね。


 蒸し暑さに負けじと探知結界を維持して、何かあればすぐに教えられるように注意しておく。僕は自分がパーティの弱点だという自覚があるので、いつも自分の身くらいは守れるようにしているんだ。


「探知ストーンは……まだ上か。中層自体が何階層あるのかわからねえが、この分だとだいぶ離れてそうだな。あいつらが降りてきてくれるのを待つしかないな。できれば上層に戻る道があれば、待ち合わせもしやすいんだが……」

「道らしい道もないし、頑張って探すしかないね」


 僕は結界を張りながらも、地図を描く手を止めずに相づちを打った。新しい階層に来たなら情報は必須だ。少しでも今後の役に立つように、できることは全部しないと。

 ここは洞窟と違って広いエリアだから、ちゃんとした地図を作るのは大変だ。だから、僕らが歩いた道のりぐらいは記録しておいて、迷わないようにしている。


 地図を作るとは言っても、基準になる道しるべが無いと困る。だけどここは真ん中に大きな滝がある。天を突くような大きさで、階層をまたいでるんじゃないかと思うほどだ。

 さすがに高すぎて登るのは無理そうだけど、どこに続いてるんだろう。


「滝が気になるのか?」ルヴァフが話しかけてきた。

「ちょっとね。すごく高いなって思って」

「空に見えるのはこの階層の天井か、はたまた上の階層か。上層から降りれてればわかったんだがな。でもああいうの見てると水浴びしたくなるよなあ。水辺にはやばい魔物がいそうで怖いから近寄れねえけど……帰ったら一緒に風呂でも入るか」

「あ、うん、その時は背中流すよ。僕も水浴びしたいけど、水中に引きずり込むような魔物も多そうだもんね……他の魔物も水を飲みに来るだろうし、あんまり近寄りたくはないね」


 二人しかいないパーティだから、僕はサポート全般を、ルヴァフは戦闘や荷物持ちを、と役割が決まっている。やっぱり二人だと個々の仕事量が多すぎて踏破なんて不可能に思えるけど、ルヴァフには僕のバフがある。

 カナカミがいないから罠の探知に不安が残るけど、強くなったルヴァフは大抵のものが効かないから、踏みつぶして進むとかいう強引な方法をとるしかなかった。物資が壊れないといいんだけど、さすがにそこまで構っている余裕はない。


「にしても、オズが地図も作れて助かった。そうじゃなきゃ、絶対同じところをぐるぐるする羽目になってたぜ」

「最初は何をしていいのかわからなかったから、できそうなことは片っ端からやってみたんだ。クィラキュリーほどうまく描けないと思うけど、今後も慣れた方が良いかな」

「そうだな。念のために地図が作れるやつは二人欲しいところだ。アーフィンはできるのか?」

「アーフィンはディフェンダーだから……。タンクとか戦闘サポートとかに特化してるよ」

「ならオズにも頼むことがあるかもしれん。ディフェンダーはいてくれると助かるんだけどな。カナカミを見てたらわかると思うが、あいつは血の気が多いからどうしてもオレが防御寄りに回ることが多いんだ。まあ、オレはもともとオールラウンダーだし、いいんだけどさ」


 攻撃一点特化のカナカミと違って、ルヴァフは臨機応変に戦える。大剣は盾にもなるから、状況によって立ち位置を変えて僕ら後衛を守ってくれるんだ。

 人数が少ないパーティだったから、一人のできることが多い。僕が入ったことで、みんなの負担が軽くなってるといいんだけど。


 短剣で草木を切り開いて僕らは進む。階層を移動する場所を探す魔道具に従って、ゆっくりと、だけど確実に進む。

 ……でもこれ、登りか下りかまでは分からないんだよね。ダンジョンによっては階段型になってないこともあるし、不可逆だったりするから、たどり着いたとしても手放しで喜べるわけじゃないんだ。


「お、そっちにある植物は毒を持ってるらしいから、気を付けろよ」

「あ……うん、ありがとう」


 地図を描きながらうなっていると、注意が飛んできた。解毒に余分な魔力を使いたくないから、こういうのは避けるに限る。

 いくら先導してもらってるとはいえ、さすがに注意散漫だったかな。魔物とかを探知する結界を張っていても、気付くより早く詰め寄られたら意味がないんだ。


 ちらりと探知ストーンを覗いても、石の中にある座標は変わらず上を指している。向こうも大変そうだ。上層だったらもう下れていたはずなのに。


 その時、僕の脳裏に警告音が響く。これは結界に敵性体が通過したことを意味していた。


「……あ」

「どうしたオズ?」

「結界に反応があった……くるよ!」


 すぐさま臨戦態勢を取ったルヴァフは僕の視線を追って大剣を構えると、草むらの揺れる音が警戒を煽る。

 結界を通ってきた何かは一目散に向かってくる。それが何なのかはわからないのはもどかしい。最善のサポートができないってことだから。


 だからいつも通り、僕がすべきはまず身の安全の確保。バフをもらったルヴァフとは違って、僕の防御性能は並の後衛より低いのだ。ここで僕が倒れたら、アーフィンを助けられない。


 護身用の結界を起動。視覚に頼らないようにする第六感獲得魔法発動。探知用結界の維持は継続、増援に備える。

 これはルヴァフとも事前に打ち合わせをしてある魔法たちだ。それから状況に合わせて都度変えていく作戦になっている。


「うらぁ!」


 飛び出してきた魔物らしきものへ、ルヴァフが大剣で切りかかる。今のルヴァフならドラゴンですら大打撃を与えられるはずだ。当たりさえすれば、ただでは済まない。


 予想通りあっさり切り払われたのだが、つるが数本地面に落ちただけだった。

 おそらくこの魔物は蔦の集合体だ。いくつものつるが合わさっていて、木々の隙間からはうじゃうじゃと這いずる触手の群れが徐々にその全容を露わにしていた。

 第六感で周囲を調べるけど、底がわからない。ああいう魔物はどこかに本体か核のようなものがあるはずなんだけど、それらしいものがまったく見当たらなかった。


「あったか?!」


 同じことを即座に考えたルヴァフが聞いてくるので、首を横に振って応える。


「第六感の知覚範囲内には見当たらない……。たぶん、相当大きな魔物だと思う」

「階層の主かもしれねえな。ついてねえぜ。触手プレイなら歓迎だが、命がけで気持ちよくなりたいほど狂ってねえんだよなあ」

「聞いてないんだけど、もしかして、あの魔物の情報あったりする?」

「あったら伝えてるっての。おそらくアーフィンたちが出会ってない魔物だ」

「だよね……逃げれそう?」


 弱点の分からない蔦の魔物に関わるのはリスクが高い。先端を切ったところで何のダメージにもならないし、こっちが消耗するだけだ。たぶんルヴァフもそう考えるに違いない。


「今のオレならオズを担いで全力疾走すりゃいけるかもな。おすすめの方向はあるか?」

「触手の来た方があっちだから……来た道を戻ればたぶん。少し距離を放してくれれば、魔物から知覚されない結界を張るよ」

「それでいこう。オズは超視覚で退路と触手の動向を教えてくれ。オレは前だけ見て、全力で走る!」


 言うが早いか、ルヴァフは僕を持ち上げて一目散に駆け抜けた。バフで強化された身体能力は人智の及ばない領域だ。肉体能力はもちろん、感覚だって研ぎ澄まされている。

 だからルヴァフのような大きな人でも木の間を縫うように走ることができる。生い茂る植物も、強化された猛牛を止めることはできない。元々の能力もあるだろうけど、まるであらかじめ決まっていたんじゃないかってくらい綺麗な動線だった。


「……後方斜め右から一本、斜め左から二本!」


 感覚が研ぎ澄まされているのは僕も同じ。第六感は見えなくても周囲の様子を把握することができる。魔法で隠れているものや、暗がりでも、僕は全部わかるんだ。

 僕はたくましい首にぎゅっと抱き着いて、耳元で報告をする。汗の匂いが濃くなって、ルヴァフがそれだけ必死に走っているのがわかった。


「おう!」


 片手で僕を支えるルヴァフは自由な方の手を木に突っ込んで、指を幹に刺して握る。それから力任せに折って武器にすることで、左右の触手に叩きつけた。

 この間わずか数秒。通常の身体能力じゃ不可能だけど、バフがあるから可能な芸当だ。だてに最上位のランクはもらってない。


「うりゃあ!」


 触手が飛んできた方へ木を飛ばし、ルヴァフはすぐさま前を向く。そのまま走ればすべての景色が高速で後ろに流れていった。パーティの荷物と僕を抱えてなおこの速度だ。騎獣用の魔物より早いんじゃないかな。


「まだついてきてるか?!」

「うん……でも、数は減ってるよ! たぶん、本体からかなり離れたんだと思う!」

「よし! ならこの方向で間違いねえってことだ! 一気に突き放すぞ!」


 ルヴァフが速度をさらに上げて、森を駆け抜ける。ここで罠を踏むとすべてが狂ってしまうけど、今は祈ることしかできない。第六感は触手の把握に忙しい。


 だけど、さすがはリーダー。そこらへんも全部把握してくれていた。


「このままならまけそうだし、いったん周囲の索敵をしてくれ。逃げる方向に問題ないか、罠がねえか、第六感で出来るところだけでいい」

「わかった。探知用結界に引っかかったらまた教えるね」

「そうしてくれ」

「うん……!」


 頷いた僕は全神経を集中させて周囲の探索に当たる。

 何度経験しても、命を預かるこの感覚はなれない。僕の失敗がルヴァフの今後を決めてしまうとなれば、どうしたって冷や汗が流れてしまう。

 臆病なこの性根が冒険者に向いてないなんて自覚してる。それでもこれしかないんだと思って足を踏み入れた。だから、ちゃんとしないと駄目なんだ。


(集中……集中……ルヴァフがたどるルートは無事か? 方向は間違ってない? 空は? 地中は? 予想外な場所に罠はない?)


 周囲への警戒を怠らず、太い雄牛の首筋を強く抱いて安心感をもらう。僕が寄り掛かったくらいじゃびくともしないたくましさは、呼吸を荒げて大きく揺れていた。


 僕が守るんだ。大丈夫、僕はできる。アーフィンたちとだってやってきたんだ。

 

 どれくらい時間が経ったのか。逃げることに集中していた僕たちにそれは分からない。

 だけどようやく、僕の探知は何も反応しなくなった。周囲に魔物の影はなく、木々のざわめきにルヴァフの呼吸音だけが響いている。


「……ここまでくりゃ、大丈夫だろ」

「多分……今、魔物よけの結界を張るね」

「頼む。ちょっと休ませてくれ、さすがにバフがあっても全力疾走を続けるのは堪える」


 雄牛の腕から降りて魔法を発動している間、ルヴァフは汗をぬぐいながら息を整えている。荷物から水を渡してあげると、中身が一気に空になった。


「んぐっ……助かった。しっかし、バフあり全力疾走してようやくまけるくらいとなると、正面衝突は難しそうだな。あーつっかれたー!」


 ルヴァフが大の字に横たわると、分厚い胸が上下に動いているのがよくわかる。おそらく肺が必死に酸素を供給しようとしているのだろう。

 僕を抱えたまま頑張ってくれたのだ。汗を拭いてあげようとタオルを近づけたら、やんわりと持っていかれた。


「いいよ。オズも頑張ってくれたんだ、自分でやるさ。それに、今のオレは汗臭いからな」

「僕はもう、そういうの慣れてるから、あんまり気にしないよ」

「オレだってベッドじゃ気にしねえよ。けど、ここは外だからな。エチケットってやつだ」


 軽く体を拭いている間に落ち着いてきたのか、ルヴァフはすぐに立ち上がりにこやかに尻尾を振った。


「ひとまず安全な場所を探そう。崖なんかがあれば洞窟を作れるから、そこで一晩越せるだろう。一応聞くが、現在地はわかるか?」

「ごめん、無我夢中だったからあんまり……」

「まあそうだろうな。命の方が大事だから気にするな。明日また地図を作りながら探索すればいい」

「でもまたあの触手が出てきたら……」

「それについては心配するな。マーカーを打ち込んどいた」

「え、いつの間に……!」


 危ない魔物に近づかないように使われる魔道具で、探知機のレーダーに表示できる優れ物だ。


「逃げる時に試しにな。ちゃんと当たってるか自信はねえが、位置は移動してるしそれを目安にはできると思うぞ。探知ストーンと座標を合わせて、クィラキュリーたちが出会わないように指示しねえとな」

「そうだね。二人の調子はどうだろう」

「探知ストーンをまだ見てねえが、ちょっとは近づいてきてるはずだ。何かありゃ通信してくるだろうよ」

「じゃあ僕たちは今夜の野営地を探しながら探索だね。位置は僕が確認しとくよ」

「頼んだ。よっし、そろそろ行くか!」


 元気に叫ぶ牛に疲れは見えないけど、そんなわけはない。いくらバフがあるとはいえ、あれだけの大立ち回りをした後なんだ。

 それがルヴァフのリーダーとしてのスタンスなんだろう。みんなに心配をかけさせず、常に前に引っ張っていこうとする人。カナカミがいい人だと言うのが良く分かる。


「……あのさ、今晩のご飯は僕が作ろうか? ルヴァフにばかり頼っているのも申し訳ないし……」

「ん? あははっ! 気にするなよ。元からオレが好きでやってんだ。それに、オレの作る飯が一番うまいんだ。オズにはたくさん食べて大きくなってもらわねえとな」

「えぇ……これ以上身長伸びるのかな……あれ?」

「どうしたオズ?」


 話しながら探知ストーンを確認すると、二人の座標が変わっていることに気づいた。この一瞬で、カナカミたちは僕らと同じ階層にいるようだった。

 そのことをルヴァフに伝えて確認してもらうと、確かにルヴァフの探知ストーンも僕と同じところを指しているから、故障とかじゃない。


 あの二人は今、僕らと同じ階層にいる。


「ど、どういうこと?」

「わからん。また階層落としのトラップに引っかかったのか、はたまた、一階層の大きさが高かったのか」

「ああそっか、これだと距離しかわからないから、実は一階層分しか離れてなかったって可能性はあるもんね」

「でもそうなると厄介だな。夜に情報共有しようと思ったんだが、あいつらがあの触手とかち合うのはかなりまずい」

「うん、すぐに連絡しないと」


 だけど何度呼んでも通信に応答はない。無音は最悪の想像を掻き立てるから、僕の細い尻尾が小さく丸まってしまう。

 嫌な予感だけが胸に渦巻き始めた時、それを断ち切ったのは大きな牛の手だった。


「しょうがねえ」ルヴァフは僕の頭に手を置いて。「どうやらのっぴきならない事態が起こってるらしい。こりゃ迎えに行くしかねえな。オズ、もうひと頑張りできるか?」

「もちろん! 魔法はまだ使えるから、早く行こう!」

「いい返事だ! ちょっと早足になるけど、駄目そうならすぐ言ってくれよ」


 こうして僕たちはまた、森を引き返す。

 すでに現在地なんてあやふやで、罠を意識する余裕も帰ってこない。僕らはがむしゃらに、祈りを込めながら足を進ませることしかできなかった。

 いくら毛皮に包まれているとはいえ、急げばそれだけ草木が肌に刺さってしまう。バフのない僕はかすり傷も多くできたかもしれないけど、それよりも恐怖の方が大きかった。

 それはルヴァフも同じはずなのに、彼は自身を苛む焦燥や疲れなどおくびにも出さず、明るい空気を維持することに終始している。空元気にしか見えない態度のままだけど、勇む足だけは正直だ。


 自分のことを臆病だと言ったルヴァフのことを、僕は少しだけわかったような気がした。

 彼は最悪の想像が現実になることを恐れているんだ。


「ルヴァフ、カナカミたちは強いんでしょ?」

「まあな。カナカミは剣闘士として死闘には慣れてるし、クィラキュリーも三ツ星の魔法使いだ。二人だけとはいえ、そうそう後れを取ることはねえよ」

「なら、大丈夫だよ。絶対大丈夫。カナカミには僕のバフもある。手足がもがれても死なないから。それは学校で実験されてたから僕は知ってるよ」

「……そうか、ありがとうなオズ。でもオレ、ちょっと焦ってたか?」

「うん、少しね」

「あんまり出さねえようにしてたんだけどなあ。でもカナカミやクィラキュリーにはすぐばれちまうし、オズにももうばれちまうのか。演技とかできねえからしょうがねえけどー」


 わざとらしくふてくされた態度で口をとがらせて、雄牛は僕に向けて両手を広げる。

 その意図は明白だったので、僕はすぐ腕の中へと駆け込んだ。さっき逃げてた時と同じ体勢になって、本日二度目の首筋にただいまの抱擁を返した。


「なら、隠す必要もねえな。あの二人が心配だ、全力で焦らせてくれ。汗臭くて悪いな」

「平気だよ。ルヴァフの匂い……僕は好きだから……」

「ははっ! なら宿に戻ったら好きなところを嗅がせてやるよ」

 

 ルヴァフは自分が焦ることで、僕を不安にさせないようにしてくれていたんだろう。それに焦りは判断を惑わすから、リーダーとしての矜持もあったに違いない。

 あとは、多分だけど、最悪な事態を受け入れる覚悟を決めるために時間が必要だったのかもしれない。確認はしないけれど、何となくそう思った。


「それじゃあ、飛ばすぜっ! しっかり捕まっててくれよ!」

「うん!」


 またもルヴァフが風のように走っている間、僕は自分に言い聞かせるように、大丈夫、大丈夫とつぶやいた。絶対ルヴァフにも聞こえている。僕らはさざ波の立った感情を落ち着かせるために、互いの呼吸に耳をそばだてた。

 

 第六感をかけ直して周囲の探索をするのだけれど、猛牛の進む速度が速すぎて声をかける暇がない。だから本当に危ないものだけに限って教えようと決めて、後はただ硬く抱きしめるだけにしておいた。


「……まずいな」


 そうつぶやいたごつい手には、探知ストーンと探知機が二つとも握られている。

 それらの座標は近く、接敵している可能性が高いことを示していた。


「もうちょっと急いでもいいか?」

「うん、顔を伏せてるよ」

「よし! 枝とかに当たらないようにしてくれよ!」

「わかった……あ、少し先に触手があったよ! 気を付けて!」

「おう、任せとけ!」


 爆走する闘牛は前を見据えると、高らかとジャンプして木の枝を飛ぶ。

 片手には僕を抱え、もう片手には探知用の魔道具を握っている。そんな中での飛び移りはリスクが大きいのに、それよりも合流を優先したようだ。

 地面の下ではちらほらと触手が見え始めていて、僕らに対して襲い掛かってくる。けれど、ルヴァフはそれらを薙ぎ払って進み、枝の代わりに触手を踏みしめてただただ進んだ。


 その様は危うくて、僕は小さな声で何度も呼びかける。僕のバフを過信して失敗した人を、何度か目にしているから。


「ルヴァフ、確かに僕のバフは君を強くしてくれるよ。でも、すべてに勝てるようにはしてくれないんだ」

「……わかってる」返ってきた声は冷静だった。「でも、それでも、今は急がねえと駄目なんだ。オレは自分のことを良く知ってる。ここでヘマして手足を失うより、仲間の死体を見ることの方が心にくる。オレはそういう男なんだ」

「そんなの知ってるよ……ルヴァフは優しいから……」


 カナカミも言っていた、ルヴァフたちはお人好しだって。僕もそう思う。

 たった数日の付き合いだけど、ダンジョンという命の危機と隣り合わせの環境はその人となりを把握させるのには十分すぎる。

 そのうえで、僕はルヴァフをいい人だと思っている。

 

 牛が握る探知用の魔道具たちが、こらえきれない焦燥につぶされてきしんだ音をたてている。リーダーとしての立ち振る舞いと、ルヴァフとしての心配が、この大きな体の中でせめぎ合っていた。

 二つの座標はもう重なるほど近くなっていて、戦闘が行われていることは容易に想像がついている。だからこそ、早く加勢したくてルヴァフは焦っているんだ。


 それでもまだ、僕らは遠い。さっき安全を求めて離れすぎた代償を、今は仲間の安全で払わされている。僕は祈るだけしかできなくて、ルヴァフの頬から落ちる汗が後ろに流れていく様を眺めていた。


 時間は平等で残酷だ。

 ようやくたどり着いた時には事態は悪化していて、二人は周囲を触手に囲まれ、どう見ても窮した状態だった。

 カナカミが拳を振るって退けているけれど、一人では分が悪い。クィラキュリーが苦手な結界を張って何とかしのいでいる状態で、圧倒的物量の触手によっていつつぶれてもおかしくなかった。


「……何とか間に合ったみてえだな!」


 勢いよく上から飛び降りたルヴァフが勇んで叫ぶが、その直前にほっと一息ついたことを僕は見逃さなかった。

 だけどそれを指摘するのは野暮だろう。僕は牛の腕から降りて、クィラキュリーとサポートを変わることにした。


「おっせえよ! あとちょっとで手足引きちぎられるところだったんだぞ!」

「でも来てくれて助かったよ。こっちに回復が必要な怪我はまだないよ。オズ君、私は攻撃に回るから、結界をお願いできる?」

「うん、まかせて。魔物よけの結界?」

「それに探知効果も付けてるよ。周り全部から襲ってくるものだから、中々消せなくてね。これがあれば触手の動きを鈍らせることも、不意打ちを防ぐこともできるからね」

「わかった。すぐに似たような結界を作るよ」

「頼んだよ。私はどうにも、結界が苦手でね。いつ切れるかと思うと気が気じゃなかったよ」


 いつも通り温和に笑うレッサーパンダだけど、毛皮のよれ具合から疲労しているのはすぐに分かった。不得手な結界を張りながらの戦いは相当魔法を酷使しているはずなのに、それでも気丈に歩き出す。

 みんなのために、僕は僕の仕事をしよう。魔物を寄せ付けない結界を張りながら、第六感の維持は欠かさない。ここまで近くに来たんだ、絶対コアのようなものが見えるはずだ。


 僕らの周りは触手に埋め尽くされていて、蔦の壁が四方を囲っている。逃げ出せる隙間なんてもうなくなっていて、自分から死地に飛び込んだのは明白だった。

 だけど、ルヴァフに後悔なんてみじんもない。自分を盾に仲間を救う行動は、まさにリーダーの鑑と言える。


「よし! これでオレらの最強編成が完成だな! オズは結界を維持しながら魔物の動きを鈍らせて、第六感で核を探してくれ。クィラキュリーはオズの援護、オレとカナカミは触手を減らすぞ」

「任せとけよ! ようやく戦いがいのあるやつがきたんだ! 全力でぶっ飛ばすぜ!」


 黒い熊が弾丸のように駆け抜け、腕を振るって触手を切り落とす。

 拳でどう対処していたのだろうと思ったが、鋭利な手刀を使っていたようだ。バフもかかっているから、あの程度なら簡単に切れるだろう。物量が膨大でなかったら、こんなことにはならなかったのに。


「二人とも」クィラキュリーが前衛に警戒を促して。「ちょっと失礼するよ」


 レッサーパンダの指先から出た火球が、勢いよく触手の海に放り投げられる。僕の体以上に大きな火球は緑の群生を焼き尽くしながら進み、ぽっかりと丸い跡を作った。

 さすが三ツ星の魔法使い。ヒーラーが専門なのに、ここまでの威力が出せるんだ。


 不意を打たれないための周囲探索に魔力を割いていたから、二人の時はここまでの魔法ができなかったみたいだけど、今のクィラキュリーは自由に魔法が使える。

 炎をまといながら踊り子の衣装をはためかせる姿は、場違いながらもすごくきれいだ。筋肉に脂肪のついた豊満な肉体の周りを、いくつもの火球が飛んでいた。


「数の割には大したことねえなっ」


 大剣の一振りで何本もの触手をはぎ払い、牛は声を張り上げる。


「それにしても、まさかお前らが会敵するとは。今晩教えとこうと思ったんだが、間に合わなくて悪いな!」

「なるほど、だから急いできてくれたってわけだ。まあ、確かに一本一本は大したことねえけど、まとめて来られるときついぞ! 一回でも足元をすくわれると終わりだもんな!」

「体力との勝負だが、それは心配ねえだろ! なにせ、オレらはオズからバフをもらってるんだからな!」


 カナカミがパーティに入ってどれくらい経つのか知らない。

 けど、息を合わせて背中を合わせて、言葉もないのに的確に戦うチームワークを作るにはいくつもの時間と修羅場が必要だったはずだ。

 カナカミは素早く動いているのに、決して大剣の剣筋を邪魔していない。ルヴァフは力いっぱい振るっているのに、黒い毛皮をかすめる気配もない。

 こんなに息の合った連携を、僕は今まで見たこともなかった。

 そこにクィラキュリーが打ち込む火球だって、二人は振り返って確認することもない。自分には当たらないと、信じているんだ。


 きっと、彼らは互いのことを大事にしてるし、すごく信頼してる。そんなことを言われなくてもわかってしまう。

 僕はそれを……とってもうらやましいと思った。


「よしっ!」


 だから、僕は僕にできることを精いっぱいやろう!

 第六感の知覚範囲を広げて、触手の海からコアを探す。ちょっと無理しているけれど、みんなのためならこれくらい全然平気!


「……そこっ!」


 僕の指が指し示す先に、全員の視線が集まった。


「そこの奥にコアらしきものがあるよ! 触手の中に守られてる!」

「よっしゃ!」いの一番に声を上げたのはもちろんルヴァフだ。「全員一点突破! 核さえ叩いちまえば、こっちのもんだ!」


 大剣から斬撃が飛んで、触手を切り裂きながら道を作る。それを合図にして、みんなの足が動く。


「はあぁぁ……!」


 カナカミの手刀がさえわたり、道を防ごうとする触手を薙ぎ払い。


「させないよっ!」


 クィラキュリーの生み出した炎が左右に分かれて道を補整し、塞がないようけん制をする。


 僕は結界を維持しながらみんなの後に続き、核の場所が動いていないのか随時確認していく。ずっと気を張って魔力も気力もへとへとだけど、ここが正念場だ。ぎゅっと口元を引き締めて、力を全身へと送り込む。


 触手の反撃は苛烈を極め、もはや四方八方が濃い緑に覆われている。天井すら埋め尽くされ、僕らはドームに閉じ込められていた。

 光も遮られた暗夜に結界の明かりだけが灯り、視界に不利が付いていく。少しのミスが致命的になる状況だ。その可能性を少しでも減らすべく、僕は結界の明かりをより強くした。


「ありがとうオズ。そのまま維持出来るか」

「うん、まだもつ……ううん、コアを破壊するまではもたせてみせる」

「ははっ! 頼もしい限りだ! 行くぜみんな! 危なくなったらオズのところまで下がれよ。結界の中心なら、触手も大人しくなるはずだ! オレらで力を合わせて触手を切って進むから、最後尾のオズまでなかなか気が回らねえんだが……耐えられるか?」

「もちろん!」

「よし! よく言った! それじゃあ、いくぜ野郎ども!」

「「おーっ!」」


 そうして、僕らは触手を切り開いて進む。

 うごめく深緑をねじ伏せながら、少しずつ、少しずつ目的の場所まで。


 もはや触手の胎内にいるような気分だ。上層の洞窟だってこんなに暗くはなかった。不気味という言葉だけじゃ表現できない気味悪さが立ち込めて、僕らの足をからめとろうとしている。


「はぁはぁ……!」


 毛先までひりつくような緊張感に、肺が悲鳴を上げている。何度味わっても慣れることのない死への恐怖が足元まで迫っていた。

 まぶたは閉じることを忘れ、目が乾燥しているというのに、わずかな予兆すら見逃したくないと休むことを許してくれない。僕のミスのせいで何かがあったら、なんて思うだけで震える吐息が止まらないんだ。

 視覚に頼らない第六感との併用のせいで脳がパンクしそうだけど、恐れが僕に手を抜くことを許してくれなかった。


 我ながら、僕はつくづく冒険者に向いてないと思う。

 誰かの命を預かることも、自分の命を懸けることも嫌いだ。

 でもこれしかないから。僕は前を向く。みんなをサポートするために。


 そして、前を向いているとみんながたまに視線をくれるのがわかるんだ。

 ルヴァフは剣を振った時に、カナカミは体をひねった時に、クィラキュリーは炎を出す合間に。

 一番後ろでパーティを支えている僕を、みんな気を使ってくれる。みんながみんなを心配している。


 だから僕はまだ頑張れる!


「オズ! あとどれくらいだ?」

「もうちょっと……最初の地点から半分は近づいてるよ!」

「聞いたかお前ら! ここでへばるなよ!」

「誰に……言ってんだよ!」


 ルヴァフの号令を受けて飛び出したカナカミが触手を薙ぎ払い、鼻息を鳴らして振り返る。この程度なんてことないと態度で語り、まだまだいけるのだと示してみせた。


「今の俺ならこんくらい訳もねえよ! 剣闘士やってたほうがまだやばかったぜ!」

「ふふっ、いいなあ。私もオズ君からバフをもらってたら、そんなセリフも言えたんだろうに。だったら私の分まで頑張ってもらわないとね」

「その理論で言や」軽口の応酬にルヴァフも乗ってきた。「一番頑張らねえといけないのはオレってことになるぜ! なにせバフだけじゃなくて、ちんぽまで堪能しちまったもんな!」

「てめえ! 人が必死こいて追いかけてた時に、しっぽりしてんじゃねえよ! 俺だって我慢してたんだぞ!」

「あ、やっぱりカナカミは手を出さなかったんだ。相変わらず優しいよねえ」

「うっせえうっせえ! しゃべってねえで触手を燃やしていけよ!」


 絶体絶命なのに、光もない触手の中なのに、みんなの瞳はいつも明るい。

 新参者の僕の言葉に従って進んでいる最中でも、誰も不安を口にしない。僕が探り当てているんだと信じているんだ。


 しっかりしてそうで抜けてるお人好し。あの晩カナカミがルヴァフたちのことをそう言っていたけど、君だって変わらないじゃないか。

 

 その期待を裏切るわけにはいかない。その決意は、僕のひげをしっかり立たせるには十分だ。

 怖くてたまらないけれど、やっぱり、僕はみんなが好きだから。体から魔力を振り絞って、できることをしよう。


 触手の物量は途方もなくて、どれだけ切って燃やしてもすぐに補充されていく。

 バフが無かったら途中で力尽きていたかも。今進めているのはルヴァフとカナカミが百人力の働きで道を切り開いてくれているおかげだ。

 それを的確にサポートするクィラキュリーの助力もあって、僕らは確実に近づいている。


「核らしきものが移動してる! 奥に逃げようとしてるよ!」

「あんにゃろ……オレらの意図に気づいたみてえだな!」

「ってことは少なくとも知性はあるのかな? それとも本能的な行動かな?」

「んなのどうでもいいだろ! とっとと近づいて、ぶっ飛ばす!」


 延々と終わらない触手の壁をかき分けて進んでいくと、ようやく少し開けた場所に出ることができた。


「ここか……?」


 カナカミが呆気にとられるのも仕方ないことだと思う。僕も正直信じられない。


 そこは大きな、あまりに大きな木があって、ダンジョンのはるか上まで伸びていて頂上がまるで見えないほどに高い。周りの木々がまるで赤子のようで、伝説にある世界樹と言われても信じてしないそうなほど、異様な雰囲気に包まれていた。

 こんなものがあったらすぐに気づくはずだ。だけど僕が見上げた時に覚えている視界は滝と空だけで、どこまでも伸びる巨木なんて記憶にまったくない。


「なんだここは、隠し部屋か?」

「多分……この触手が隠ぺいしてたんだと思う。周囲に結界が張ってあるんじゃないかな」

「待て待て待て」


 クィラキュリーの解説にルヴァフが待ったをかけるのも無理はない。僕も説明を求められれば全く同じことを言うけれど、自分で言っても説得力がないんだ。


「つまり、この触手は隠ぺいの魔法が使えるってことか? こんな大きなものを隠すだけの魔力と知性を持ってるって? っというかだ、じゃあなんでそもそもオズの探知に引っかかったんだ?」

「結界に穴があったんだ。おそらく意図的に。触手の核を求めて進まないとたどり着けないようになってるんじゃないかな。……うん、私もおかしいと思うよ。だけどそうとしか考えられない」

「オレも信じられねえ……でも、触手はもう襲ってこないよな……」

「うん、守るのか導くのかどっちが役目かわからないけど、ここに入った私たちはもう脅威とみなされないみたいだ。……合格したってことなのかな」


 確かに触手は鳴りを潜め、ただ周囲に壁を作っているだけだ。ありえないほどの巨木と、突き抜ける青空がクィラキュリーの言葉を証明していた。

 警戒を緩めないまでも、ルヴァフは少し呼吸を整える。ここに何かあるのは明らかで、それを考えなければならないのだ。


「じゃあ、この木は何だって話だよな……。こんなでっけえ木、初めて見たぞ。しかも、ここってダンジョンの中だよな……よくこんな高い木があるもんだ」

「中層が吹き抜けになってるのは、この木のためだったのかもしれないね」

「……吹き抜け?」


 落ちてきた僕とルヴァフには分からないことだったから、クィラキュリーは補足してくれる。


「うん。ここは多分中層の最下層なんだよ。中層最上階からの滝が、ここまで落ちてるんだ。僕とカナカミは中層に降りてすぐ、ここが吹き抜けになってることに気づいた。そして、座標から二人が最下層にいると当たりを付けて、一気に降りたってこと」

「鳥の魔物やら雲にのった魔物やら、まあ色々いたけど……俺はバフもらってたからなんてことなかったしな」

「本来は危険なショートカットだったんだけど、カナカミのおかげで楽に最下層までこれたよ。崖をひょいひょい降りるカナカミはかっこよかったけど、背中にしがみついてた私はちょっと生きた心地がしなかったね」

「しょうがねえだろ。早く合流しねえとやばかったんだからよ」


 ダンジョンの中は不思議に満ちているとはいえ、やっぱりこうして直面すると度肝を抜かれちゃう。洞窟の下に空が広がってるから今更ではあるんだけどね。


「はあ」ルヴァフが顔を覆って。「んな大事な情報は教えておいてくれよ……先発隊……」

「まあ見りゃわかるしな。それに、向こうも這う這うの体だったし、そこまで気が回らなかったんだろ」

「冷静に考えればそうだろうな。でも、それがわかってりゃ合流ルートをもう少し安全にできたんだ。ちょっと愚痴らせてくれ」

「よしよし」レッサーパンダが牛の頭を撫でながら。「私も下降する前に報告すべきだったんだけど、急ぐあまり忘れていたからね。ごめんよ」

「吹き抜けを突っ走るよう俺を急かしたのはクィラキュリーだぜ。急がないと二人が危ないからってさ」

「君だってオズ君とルヴァフのことが心配で、探知ストーンをそわそわ覗いてたくせに」

「ふんっ! オズは防御力が低いからな、ルヴァフの負担を考えりゃ心配して当然だろ!」


 僕らが二人のことを心配してたように、二人も一緒だったんだ。

 それがわかっただけで、ちょっと嬉しい。


「ありがとう、二人とも。早く合えて嬉しいよ……」

「お、おう……」

「ふふっ、私もだよ」


 ようやく話ができる時間が取れたんだ、きちんとお礼を言っておこう。お礼の言葉がすんなり口から出てきたから、僕は自分が思っている以上にこのパーティになじんでいるみたいだ。

 カナカミはそっけなく顔を背けたけど、その頬は赤らんで毛皮が逆立っている。素直じゃないんだと、クィラキュリーと二人でにこにこしておこう。


 そんな僕たち三人を横目に、ルヴァフはてきぱきと荷物を下ろして色々と準備をしていた。


「触手が来ないならちょうどいい。ここで休憩するぞ。話し合うこともあるだろうしな。カナカミは木の方を警戒しておいてくれ。オズ、魔物よけの結界はいったん解いていい。野営用の簡易結界を使うから、お前も休んどけ。第六感探知を連続してて、だいぶやばいだろ?」

「うん……実際ちょっと……」


 視覚に頼らない探知は便利だけど、それは結局脳が処理することに変わりはない。だから連続で使うとかなりの疲労感が来るんだ。

 実のところローブでごまかしているけれど、足はふらふらだった。


「ん」


 カナカミが自分の太ももを叩いて僕を呼んでくれたけど、今僕も汗臭いので……。というかペットだと思われてないかな……。

 やんわりと辞退したら悲しそうな顔をされた。さすがに膝は無理だけど隣なら、と思って横に座るとちょっと嬉しそうだった。


「じゃあ私も隣に行こうかな。私はまだオズ君とあんまり交流できてないんだ」


 そうして温かい巨漢二人にサンドイッチにされながらも、やっとのことで息を落ち着かせることができた。


「んで」落ち着いた頃合いを見計らってルヴァフが木を指した。「これ、どうする?」


 ルヴァフが言いたいのは根元にある洞のことだ。ぽっかり空いたそこは、先の見えない暗闇が満ちている。

 厳重に守られている場所だから絶対何かあるんだろうけど、同時に罠もあるに決まってる。帰りをどうするかも考えて、ここでいったん話し合おうって言いたいんだろう。


 そして、議題が上がった時、誰よりも先に口を開いたのはカナカミだった。


「多分下層へのショートカットじゃねえかな」

「ショートカット?」


 僕だけじゃなく、三人がきょとんと熊に視線を送る。


「上層から中層の最下層に落ちる罠があっただろ。そんで、ここ中層は上から下へ一気に抜ける滝がある」

「確かに……」カナカミの言いたいことをクィラキュリーが補足して。「言われてみれば、すごいことだよね。普通ダンジョンって攻略されないように作られてるはずなのに、ここはまるで攻略してくださいと言わんばかりに抜け道がいくつも用意されている」

「だろ? 実際崖を降りてて感じたんだが、なーんか整ってんだよな。途中休憩用の横穴もあったし、明らかに正規のルートとして作られてるとしか思えねえんだ」


 カナカミの言葉には説得力があった。そう言われれば、もうショートカットにしか見えないくらいには。

 新しい視点を得て考え込んでいたルヴァフはややあって顔を上げると、リーダーとしての意見を述べた。


「だが。オレらが受けた依頼はあくまで救助依頼であって、ダンジョンの踏破じゃねえ。もしこれがショートカットでも、最下層まで行ってアーフィンがいなかったら無駄足にしかならねえうえに、最悪ダンジョンの主を相手にしなけりゃならなくなる」


 その通りだったので、誰も口を挟まない。目的を見失うことは、絶対あってはならないことだから。


「ここはまだ未踏破のダンジョンで、情報は出そろってねえ。そんな中、主相手に戦うなんてのは自殺行為だ。オズはまだ入ったばっかで連携も不足してるし、分断されたせいで消耗が激しい。一晩野営したくらいじゃ、さすがに全快しないだろう」

「なら、ここを出て普通に下層への入り口を探すのかい?」

「オレはそれがいいと思う。オズ、一応確認するが、核はどこに行った?」

「下だね。第六感を解除する間際まで、ずっと下に向かって行ったよ」

「ってことは、やっぱこの触手はここに導くための囮で、この木はショートカットの可能性が高いってわけだ。ダンジョンの主にどんな意図があれ、オレらがそれに乗る必要はねえ」


 冷静な意見だった。普段柔らかく助言して方向を修正するクィラキュリーが口をはさむ隙を与えないくらい、しっかりとまとまっている。

 僕が来るまで三人という少人数だったんだ。撤退の判断などシビアな場面はたくさんあっただろう。それが今のルヴァフを作っていた。


「了解」短く返事をしたのはカナカミだ。「それが妥当だな。急いでいるが焦ると失敗する。時には回り道もいいと思うぜ」

「私もそう思う」クィラキュリーも同意を述べる。「あくまで目標はアーフィン君の救出だからね。中層はショートカットできて想定日数より余裕があるんだ。余計なリスクを負う必要はないよ。オズ君はどう?」

「うん」僕も心は一緒だ。「僕も、わざわざ危険な目に合う必要はないと思う。これが本当にショートカットかもわからないし……だったら一回戻ったほうが――――」


 全会一致で今後の方針がまとまろうとした時、僕の声は地響きによって打ち消されてしまった。

 まるでダンジョン自体が崩壊するんじゃないかと思うほど強い揺れがきて、僕らは立つこともできずに地面にふせってしまう。


「今度はなんだ!」

「わからないけど、絶対ろくでもないことだよ!」

「ちっ! 来るなら来いってんだ!」

「あわ、わわわっ!」


 転がってしまいそうな僕をカナカミが覆いかぶさって抑えてくれている。

 地面がひっくり返ったんじゃないか。このままダンジョンが崩壊してつぶれちゃうんじゃないか。なんて嫌な想像がたくさん僕の脳裏をよぎった。


 大きな熊に必死で抱き着いていると、視界の片隅で何かが動いた。

 それを見た時、僕は、自分の視界を信じることができなかった。


「おい……まじかよ……」


 ルヴァフも、みんなもそうだろう。誰もが呆けた顔で巨大な木を見上げているのだから。


 大量の触手が木に絡みついて引っ張り上げている。上へ、上へと、雑草でも抜くかのように。

 地面はそのせいで盛り上がって、ひび割れた隙間から根っこがのぞいていた。その根は何かに絡みついており、一緒にここまで上がってきたようだ。


 このままだと運動神経のない僕は地面の割れ目に落ちていきそうになるけど、カナカミが抱き上げてくれた。隙間から見える下は暗く、底が無いように思えたから、根っこがつかむ何かに視線を固定して恐怖をごまかそうとした。


「あぶねえぞオズ! 俺につかまれ!」

「うん、ありがとう! でもあれは……扉があるけど、部屋なのかな?」

「わかんねえよんなの。大体あんな大きな部屋がなんで根っこにあんだよ。地割れから逃げるから、しっかり抱き着いてろよ!」


 華麗にジャンプしながら崩壊をよけるカナカミに抱きついてささやくけれど、答えなんて当然わからない。クィラキュリーはルヴァフが運んでいるようで、少なくとも、僕らのパーティに打撃はなさそうでほっとした。


 そうしている間にも、巨木の根を支えるにふさわしい巨大な部屋らしき立方体がだんだんと姿を現していく。部屋は巨大だが、触手の壁に囲まれたここはもっと広い。なんだか遠近感覚がマヒしちゃいそうだ。


「おい……」十分離れた牛が震えた声を出す。「オレらの意見じゃこれはショートカットで下層につながってるってことだったよな」

「そうだね……」クィラキュリーの顔面も蒼白だ。

「ってことは、あの部屋は……下層のものってことになるわけだ」

「うん……まさか冒険者用のショートカットじゃなくって、ダンジョンの誰か用のショートカットだとは思わなかったよ……」

「誰かって誰だよ」

「おそらく、だけど……」


 クィラキュリーは濁したが、その答えは全員が想像していた。

 ダンジョンの主、ここで最も強い魔物がそこにいると、全員が本能で感じている。

 もしそうじゃなかったとしても、意図的に穴のある結界を張った張本人がいる可能性は高いだろう。何の意図があるのかはわからないけれど、明確な目的があるのは確かだ。


 やがて地響きが収まると、荘厳な扉を備えた大きな部屋が目の前に現れる。濃い灰色の石で作られた壁には窓もあり、豪華な部屋のようだ。僕は下層の情報をあまり知らないけれど、前のパーティのみんなは確か町のようなものだったと言っていた。


 いつの間にか割れていた地面も元通りになっていて、あまりの異様さに僕らは誰も口を開けなかった。ただ周囲への警戒を強め、安全なのかと毛皮を逆立てながら確かめている。


「下層の部屋……下層の部屋かぁ」


 こういう時真っ先に口を開くのはやっぱりリーダーだ。ルヴァフは頭をかきながら苦々しい顔をして、情報を整理しようとしていた。


「ってことはここにアーフィンがいる可能性はゼロじゃねえんだよなあ」

「だから絶対に調べないといけないってことになるね」

「カナカミ、窓からなんか見えるか?」

「全く。プロテクトがかかってて、なんも見えねえし音も聞こえねえ。完全に隔離されてると思うぞ」

「はぁ~嫌な予感しかしねえけど、逆にここで背を向けたら何しに来たのかわかんねえよな」


 絶対何かあるのは分かっているのに、調べないといけない。その苦渋は僕にもよくわかるので、ルヴァフがどんな判断をしても責めるつもりはない。


 しかもご丁寧に、扉が重苦しい音をたてながら開いてくれた。中は暗くてよくわからないけど、その意図だけはわかる。


「……来いってことか」

「どうやらあんまり待ってはくれないみたいだね。野営くらいはしたかったんだけどなあ」

「いいじゃねえか。多分触手の核もここにあるんだろうし、ぶっ飛ばしたほうが安心して眠れるってもんだ」

「う、うん、そうだね……ここの触手を倒しちゃえば、もしアーフィンが自力で中層に来てもちょっとは安心できるよね」

「……よし、全員集合!」

 

 ルヴァフの掛け声でみんな集まって、円陣を組むように言われた。僕だけ背が低いから大変だったけど、みんなかがんでいたから背伸びして何とか肩まで届いてくれた。

 パーティにはそれぞれいろんな掟があるけど、これもその一種なんだろう。アーフィンたちといた時はなかったから。気合を入れようとしているのがわかったので、僕はルヴァフをじっと見つめて言葉を待つ。


「おそらくここが最難関だ。最悪ダンジョンの主がいるかもしれねえし、激しい戦闘は避けられねえだろう」


 ルヴァフは自分のことを臆病で誰にも死んでほしくないんだと語っていた。

 でもこうして発破をかける姿はとても堂に入っていて、立派なリーダーそのものだ。みんなのために気を回したり、率先して盾になったりとすごくいい人だと思う。


「でも忘れるな。オレらの目的は救助依頼だ! たとえ勝てなくても、生きてさえいりゃまた挑戦できる! だから、オレは誰であろうと死ぬことを認めねえ」


 カナカミは自分のことを優しくないと言っていた。

 でも僕のことをずっと気にかけてくれるし、何かあればすぐ助けに来てくれる。

 自分の頼りなさがちょっと悲しくなるけれど、とってもありがたい存在なことに変わりはない。


 じゃあクィラキュリーはどうなんだろう。

 ちょっと喋っただけで落ち着いたいい人だってわかったんだ、もっとたくさん交流したら、いいところがたくさん見つかるよね。


「全員、生きて帰ること! これはオレのパーティの絶対の掟だ! いいな! 絶対無事に帰って、うまいもん食うぞ!」

「「おーっ!」」

「え、お、おーっ!」


 初めてだったから僕だけちょっとずれちゃったけど、みんなは左右の人の背中を叩いて円陣を解散させる。このパーティはこうやって気合を入れるんだ。確かに叩かれた背中が熱くて、しゃんとしようって気になるかも。

 脳も体も疲れてへとへとだけど、ここからが正念場なんだ。


「オズ」


 僕の足、震えてる場合じゃないぞ、なんて叱咤していると、リーダーに声をかけられた。


「突入する前にクィラキュリーにバフをかけてやってくれ。これまでバフなしで無理させちまってたからな」

「わかったよ!」

「それと、ほいこれ」大きな手から綺麗な小瓶をもらった。「魔力回復のポーションだ。これからのために飲んどけよ。結構いいやつを奮発しちゃうぜ」

「あ、ありがとう……これ、本当にいいやつだよね。上級くらいありそう……かなりの値段がしそうだけど……」

「でも命の方が大事だろ。頼りにしてるんだから、気にせず使ってくれよ。この休憩が終わったら、いよいよ本番だからな」

「うん……!」


 大事な場面で良いアイテムを惜しまない。アーフィンも口を酸っぱくして言っていたことだ。命あっての物種だからって。

 やっぱりリーダーになる人は、そういう判断も求められるんだね。


 アイテム整理に戻ったルヴァフに感謝を投げかけて、僕はレッサーパンダのところへ急いだ。

 クィラキュリーは荷物からちょっと離れたところに座って、魔力回復のポーションを飲みながら何かを書いているようだった。女性用踊り子の衣装を着たムチムチなレッサーパンダは煽情的な見た目をしているけれど、そこに湛えている表情はまったく似合わないくらい理知的で優しい顔をしている。


 体のほとんどを紐みたいな衣装で覆ったクィラキュリーは僕に気づいていないようだった。近くに寄って話しかけてようやく、その視界に僕は入ることができた。


「クィラキュリー」

「ああオズ君、ひょっとしてバフかい?」

「うんそう、クィラキュリーだけまだだからさ」

「助かるよ。いくらいい装備だとはいえ、身体能力は上げてくれないからね。もうちょっとしたら書き終わるから、ポーションでも飲んで待っててくれるかい? 君もさっきから魔法を使いっぱなしで魔力が減ってるだろ?」

「そうだね……あのさ、それ……」

「ん? これかい?」

「何を書いてるのか聞いていい?」

「もちろん」


 そう言って笑う顔はとても温かくて、まるで前にルヴァフがくれたホットミルクを飲んでいるような気分になった。僕は隣に座って、毛皮が触れ合うことも気にせず、ただクィラキュリーが走らせる羽ペンに視線を奪われていた。


「これは日記だよ。ルヴァフたちとの冒険が全部入ってる大事なものなんだ」

「じゃあ僕のことも……」

「当然いるとも。心に傷を負ったネズミの君が、友達のためにどれだけ一生懸命頑張ってるのか、私は全部記録している。これを読んだ人は、君が決してバフだけが取り柄の賢者なんかじゃないって思うはずさ」

「そう言われると恥ずかしいね……僕はただ、みんなを助けたいだけだから……」


 もう羽ペンは役目を終えて、クィラキュリーは日記を閉じて保護の魔法をかける。例えこれからの戦いで自分が死んでも、後の人が見つけてくれると信じて。

 そういう人は他にもいることを僕は知っている。いつ死ぬかもわからない職業だから、自分が生きた証を残したいと言っていた。


 クィラキュリーもそうなのかと問うと、少し考え込んでから頷いてくれた。

 

「最初はそうだったけど……今は違うよ。いつか彼らとの冒険を本にするために、こまめに記録してるんだよ」

「小説を書くんだ……クィラキュリーが冒険者になったのってそのためなの?」

「ううん、最初はただのお金稼ぎのためだったよ。君を前にして言うのは気が引けるけど、これでも魔法の腕はいいし、ある程度稼いだら自分のお店を持とうと思ってたんだ」

「三ツ星まで行ったら十分だよ。クィラキュリーなら大魔法使いにだってなれるよ。それで、どんなお店にするつもりだったの?」

「魔法雑貨かな。小さな店でもいいんだ。のんびりできればね。……まあでも、多分もう叶わないだろうなあ」


 自分の夢を諦めた話をしてると言うのに、クィラキュリーの顔は優しいまま。ポーションを飲み切ったけど僕を押し倒すでもなく、寝物語のようにまったりと口は動いている。


「私は限界まで冒険者をやってるよ。そのころには雑貨店なんて重労働、もうできないかな」

「……ルヴァフたちがいるから?」

「うん。私は彼らと冒険するのが、自分で思った以上に好きになってたんだ。だからそれを記録したいと思ったし、本にしたいと思った」


 日記帳を撫でる手つきは優しい。そこにどんな冒険が詰まっているのか、いつか読ませてくれるといいな、なんて思ってしまった。


「危険もあるけど、冒険は日々新しいことに満ちている。のんびりお店をしたいと思ってたのに、今じゃこっちが楽しくてね。日記を書くたびにそう思うようになったよ。そうしているうちに、これは私だけじゃない、みんなの生きた証なんだって気づいたとき、いろんな人に広めたいって思ったんだ」


 そこで自分の物語に浸かりすぎたと気づいたレッサーパンダは、僕の方を見て恥ずかしそうにはにかんだ。優しいいつも通りの笑い方だったけど、ちょっと親近感が持てる表情だった。


「ふふっ、要するに、ただの自慢だよ。私はこんな素晴らしい仲間と素晴らしい冒険をしたぞ! って吹聴したいだけなんだ」

「うん、いいと思う。僕も読んでみたいよ、僕が来る前のみんなの話」

「なら、頑張って完成させないとね。ルヴァフの実家にあるダンジョンを攻略したら、まとめ直そうとは思ってるんだ」


 僕の手にそっと大きい手が重なった。そろそろバフの時間だ。

 無言でローブの裾を持ち上げれば、巨体はその中へと隠れてしまう。

 カナカミから聞いていたのか、クィラキュリーはフェラをするつもりのようだ。僕の下着を下ろしてから、湿った鼻面を根元にくっつける感覚がした。


「あ、ごめん……汗拭いてないや……」

「ふふっ、気にしないで。オズ君の匂いはルヴァフやカナカミに比べたら全然薄いから。私は嫌いじゃないよ」


 クィラキュリーが幹を舌先でくすぐって勃起を促している間、僕は頭では別のことを考えていた。


 ルヴァフのダンジョンを攻略したらと、言っていた。だから本の主役はルヴァフに違いない。僕は途中で合流した新キャラとして、どういう書かれ方をしているんだろう。

 

 血流は股間に溜まって、一物は硬さを増しているというのに、それが気になってしょうがない。僕はクィラキュリーの日記の中でずっと、オズ君と書かれているのかな……。


「あ、あのさ、クィラキュリー……」

「なんだい? 射精までしゃぶってほしいならさくっとやっちゃうけど?」

「そ、そうじゃなくて……」


 完全に勃起した僕のちんぽに頬ずりをしていたクィラキュリーが黙り、続きを待っている。金玉を揉む手も止めてくれたから、意を決して口を開こう。


「そ、その……僕はみんなと仲良くなりたいんだ。まだ入ったばっかりで生意気なこと言ってると思うけど、だから……日記の中だけでもいいから、僕のことオズって書いてほしいんだ……」

「…………」

 

 ルヴァフもカナカミも呼び捨てなのに、僕だけはまだ君付けで呼ばれてる。しょうがないとは思うけど、ちょっと寂しさを感じ始めていた。

 今度のパーティではうまくやりたい。そう思っていたのに、僕はいつの間にか、すごくわがままになってたみたいだ。


「ふふっ」笑い声が根元をくすぐって。「それは申し訳なかったね。自分でも気づかなかったよ。君が可愛らしいからつい、他意はなかったんだ」


 膨れた先端に軽いキスを落として、クィラキュリーは言う。


「それじゃあしゃぶるよ、オズ」

「う、うんっ! いつでもいいよ!」


 そうしてバフをかけ終わるころには、ルヴァフたちの準備も終わっていた。

 まだポーションを飲んでないことに気づいた僕は、慌てて一気飲みしてごまかした。つい話しこんじゃった。せっかくそろった足並みを、こんなことで乱したくない。ルヴァフたちなら笑って許してくれそうだけど、僕はちゃんとするって決めてるんだ。


「よーし、準備はいいな!」


 リーダーの確認に、みんな頷いて返す。

 先の見えない暗闇を湛えた部屋の中では、きっと大変なことがあるに違いない。

 だけどみんなの覚悟は決まってる。冒険者としてここに足を踏み入れた時から、どんな困難にも負けない意志を持っていた。


 カナカミを先頭に罠を確認しながら部屋まで進むと、そこはまるで王様がいるような豪華な作りの広間になっていた。

 綺麗に整った石造りの空間は重苦しい雰囲気に満ちていて、その発生源である主が玉座に座ってこちらを睥睨している。ルヴァフよりも大きな図体を鎧で固め、そばには物々しい大剣が刺さっていた。荘厳なつくりをした武具は黒く綺麗で、さっき飲んだ上級ポーション何個分の価値になるのか想像もつかないや。


 見るからにボスだと分かる佇まいに、みんなが固唾を飲む。だけど負けじと睨み返せば、兜の中で笑いを噛みしめる音がする。


「笑った? なんだ……コミュニケーションがとれるのか……?」


 ルヴァフが訝るのも当然だ。ダンジョンの主は様々な形態があるけれど、しゃべれる魔物なんてめったにいない。魔物の中でも上位に位置する存在なのは確定だ。


「我としたことが、待ちきれずに上がってきてしまった」


 地を這うような声が鼓膜を震わせる。背筋に寒気が走るほどの威圧感を詰め込んだ声音は、僕の髭をぴんと立たせるには十分だった。

 玉座まで距離があるというのに、一言一句逃すなと言わんばりに言葉が体に刻み込まれていく感覚。生物としての格が違うのだと、存在感だけで知らしめているようだ。


「だが、貴様らは我のペットを退けながらここまでやってきた。あいつらの言う通り、骨のある者たちではないか」

「あいつら……誰の、いや待て……まさかっ!」


 リーダーが驚愕するけれど、僕はそれどころじゃなかった。

 だって、このダンジョンで下層に行った冒険者なんて一組しかいないから。

 思わず喉が震えて、否定を求めてすがるようにしゃべってしまう。その言い草だとまるで……。


「う、嘘だよね……アーフィンはみんなを逃がすために、盾になったから帰れなかっただけだよね……君はみんなと、何を話したの……?」

「ローブを着たネズミ……なるほど、貴様が最上位のバフを撒けるという男か。先のペット相手の大立ち回りを見ていたが、確かにあれほど強化できるならこの人数でも下層は突破できるだろうな」

「質問に答えて!」


 自分でも抑えきれない感情が爆発して、広間に響くほどの大声が出た。鎧は特に動じた風もなく、淡々と答えた。


「こいつを手元に置いておけば、神話でしか見ないようなバフを撒く男が仲間を引き連れてやってくる。そう聞いていた」


 鎧が指を鳴らせば、屈強な狼が現れて床に落ちる。装備ははがされていたが、その隆々とした裸体を見間違えるはずもない。

 アーフィンはこいつの手元に囚われていたんだ。


「だからこいつ以外は見逃してやった。個々の腕は立つがチームワークもないパーティではつまらんかったからな」

「それじゃ、みんながアーフィンを見捨てたことになるよ……みんなはそんなことしないよ。だって、みんなは……」

「命の危機になれば、誰であれ他人を売る。当然のことだ」


 ルヴァフから聞いてはいたんだ。僕を独断で除名したことで揉めていたって。

 だからそのせいで団結が乱れ、仲間に売られてしまったってこと……?


 僕はなんて反応をすればいいのかわからず、ただ立ち尽くしていた。

 パーティから追放されたのは僕がコミュニケーションの方法を間違えたからで、アーフィンはそれでも何とかまとめようとしていたはずだ。僕がもっとうまくやれてたら、こんなことにはならなかったのかもしれない。

 みんなが仲間を売るなんて思ってもみなかった。僕はなんとかうまくやれていたつもりだったし、みんなとも仲良くやれていたつもりだった。

 でもそれは結局バフと快楽で成り立っていただけ。ルヴァフの言葉が今更実感として僕の心に重くのしかかってくる。僕は全然うまくやれてなかった。


 僕が、もっと、うまくやれてたら……!


「はい、そこまで」


 むにっと、どこまでも落ちていきそうな僕を支えてくれたのは、もう慣れたルヴァフの大きな胸だった。

 抱き着かれているんだと気づいた時にはすでに、僕の顔は谷間に埋まっていた。


「ル、ヴァフ……!」

「別にお前のせいじゃねえだろ。仲間を売るなんてオレが一番嫌いな奴だけど、オズはそうじゃねえよ」

「そうそう、そこまで君が責任を感じることなんてないんだからね」


 後ろからクィラキュリーの柔らかいおっぱいも押し付けられて、そんな場合じゃないのに癒しを感じてしまった。わたわたと逃れた僕に、カナカミのジト目が突き刺さる。


「ったく、のんきなことだな。今すげえやべえんだってこと、わかってんのかよ」

「でも話を聞く限り、あいつはオレらと戦いたがってるんだろ? なら不意打ちとかしねえよ。お前も今のうちにオズを抱いといてもいいんだぜ」

「緊張感のねえお前と一緒にすんな。それに、俺はあいつに賛成だ。人は自分が危なくなったら、他人を見捨てるもんだからな」


 そっけなく言い切って、カナカミは玉座へと向き直る。逆立った毛は強敵を前にした高揚のためだろう。いつもより視線が険しく、口数も少なかった。


 ルヴァフは特に気を害した素振りもなく、ひょうひょうと会話を続けていく。言葉が通じるなら、確認しておきたいことがあったようだ。


「オレらが勝てば、そいつを返してくれるんだよな」

「もちろん。だが負ければその命無いと思え。我が手間暇かけて招待したのだ、少しは楽しませてくれねば興ざめもいいところだ」

「戦闘狂の主か、正々堂々やってくれるんだろうな」

「我を愚弄するか。我が求めるは強者との戦いのみ。そのためだけに、強き者が早く到着できるダンジョンにしているのだ。だから、早々に死んでくれるなよ?」


 鎧は緩慢に立ち上がり、大剣を片手で振るうと紫の光でできた斬撃が僕らに襲い掛かった。

 さっきの触手相手ならこれだけで道が切り開けるくらい鋭利な一撃だ。バリアを出そうか判断に戸惑った一瞬の隙を縫って、ルヴァフが大剣で受け止めた。


「ぐぅ、こりゃ重い一撃だな!」


 バフをもらったルヴァフの体が斬撃に押されている。そんな威力を僕のバリア程度じゃ防げるわけがない。だから出さなくて正解だったんだけど、なら僕がすべきなのは……。


 こういう時は自分で考えて動かないといけない。僕にできることは何か、必要なことは何か。その最適化がチームワークなんだけど、まだみんなと足並みをそろえるのが難しい。

 だけど、そんなことでまごついていられない。僕は今度こそ、しっかりするんだ!


「魔物封じの結界を張るよ! これで少しは動きを鈍らせるかも!」

「頼む! ……カナカミ!」

 

 斬撃を薙ぎ払ったルヴァフが走り出し、その横にカナカミが付いてくる。

 あれこそがチームワークで、僕に足りないもの。二人は武器を振りかぶり、黒騎士に思いっきり叩きつける。

 僕のバフで上昇させた能力による一撃は、さすがの主といえども危機感を持っているようだ。漆黒の大剣を振り回して二人をはじきながら、ルヴァフと鍔迫り合いへと発展した。


「よいな。我が力に耐えられるか。流石神話にふさわしいバフだ」

「おいおい、確かにオズのバフはすげえけど、てめえの相手をしてるのはオレだぜ! 目の前の相手をしっかり見ねえと足元掬われちまうぞ!」

「ははっ、その通りだな! それは失礼した!」

「なんだ、魔物にしちゃ話が分かるじゃねえか! このままぶっ殺しちまうのは惜しいぜ!」

「ニルギスだ。貴様を殺す男の名くらい、覚えておくといい」


 黒と白銀の大剣が何度も打ち合い、火花を散らしながら剣戟の音を奏でている。昔から冒険者に剣を教わっていたルヴァフの腕は言わずもがなだけど、それについていくニルギスは力だけの魔物じゃない。

 まだ剣での戦いを楽しんでいるから打ち合っているだけで、その気になれば斬撃のような技をいくつも持っているはずだ。短期で終わらせられるなら、それに越したことはない。


 カナカミもそう考えていて、ニルギスが振り下ろした隙を縫って背後に回り込み、掌底を叩きこんだ。鎧を貫通する振動のような技だとは聞いているが、果たしてどのくらい効果があるのか……。


「うらっ! 内臓ぐちゃぐちゃになっちまいな!」

「ぬぅ! なんだその技は! 体の中に直接攻撃するだと! 我の知らぬ技とは見事だ!」

「全然効いてねえじゃねえかよ! さては鎧関係なく体力くっそ多い奴だなてめえ!」

 

 結界がじわじわと削っているはずなんだけど、そんなそぶりを見せないのは体力が多いせいなのか。

 カナカミはルヴァフに比べて防御が薄いので、ニルギスの大剣を軽やかによけながら、隙を見つけては攻撃を挟み込む。あの巨躯からは想像もできないけど、カナカミはヒットアンドアウェイが主体の軽業のアタッカーだ。手数と技数に関しては、かなりの多さだと自慢してもらったことがある。


 これがこのパーティの基本の動き。

 ルヴァフが大剣で相手を受け止めながら、カナカミやクィラキュリーが横から刺す。

 そして僕は彼らのサポートだ。不意を打たれないように探知を広げ、危ない攻撃がくればバリアなどで威力を弱めてあげる。バフをしなくていい分、一般的なサポーターより仕事は少ないと思う。


「ルヴァフ、カナカミ! 大きいのいくよ!」


 魔法の構築が終わったクィラキュリーの合図に、牛と熊が一斉に距離を取る。レッサーパンダが腕を振るえば、ニルギスの頭上から激しい雷が落ちていく。


「ぐおおおぉぉっ!」

「どうやら効いてるみたいだね。このまま魔法を維持するから、オズは私の援護をお願い!」

「うん!」


 攻撃は最大の防御を地でいく戦法だ。クィラキュリーはもはや回復に使う魔力なんて考えていない気がする。一応僕も少しは回復の魔法が使えるから、頼りにされているはずだ。

 今は目の前の敵をいかに被害を少なくして倒すか。それが三人パーティだった時の戦法だったんだろう。

 

 このまま焼き切れれば楽だったんだけど、さすがにそこまで甘くはない。

 ニルギスは空いている片手をかざせば、黒い大盾が現れ雷を防いでしまう。


「なかなかやるな。前に来たやつらよりいい魔法だ」


 黒い鎧は少し焦げた程度で、目立った傷は見当たらない。これだとあまりダメージも入っていないはずだ。

 クィラキュリーは消費量に見合わないと即座に判断して、すぐさま魔法を止めて下がった。自分がヒーラーであることを念頭に置いた動きは健在なようで、作戦を切り替えたようだ。


 そして、視線がクィラキュリーに向いた瞬間を二人は見逃さない。

 前後で挟む形で攻め立てる息の合った攻撃だ。


「ほう……なるほど、連携とはこうするのか」

「悪いが卑怯とは言ってくれるなよ! オレらは四人で一つなんでな!」

「問題ない。そのほうが我も楽しめる」


 ルヴァフの振りかぶり方は回避されてもカナカミに当たらないようになっているし、カナカミも同じだ。そのことをニルギスは後ろに目がついているかのような精確性で把握し、大盾を浮かせて対処する。

 ニルギスは大剣を盾で、中身を直接攻撃する拳は大剣で、それぞれ受けることを選んだ。


「でも、僕もいるんだよ」


 浮遊する大盾は魔法のようなもので操っているはずだ。だったら僕が間に入ってジャミングすれば、動きを鈍らせることができるに違いない。

 動きを鈍らせる程度の結界じゃ役に立たないんだ。これくらいやらないと。


「そんなこともできるのか。これは少々……面倒だな」


 鈍った盾じゃルヴァフの一撃を防ぐことはできない。だが今更体勢を変えることも難しいだろう。

 そんなニルギスは、足元から黒い魔力の塊を噴出させることで一時的に二人を跳ね返した。影が溢れたような光景は不吉だったけど、二人は何とかかわすことができたようだ。


「よい! よいぞ貴様ら!」


 僕たちを前にニルギスは兜を鳴らし、高らかに叫ぶ。その声音から中見の見えない鎧の中は喜んでいるのだろうと察せるくらい、彼は上機嫌だった。


「先のやつらよりもずっと洗礼されている! バフだけかと思いきや、なるほど、これが連携というものか。一人一人は取るに足らぬが、集まるとこうも手ごわい。アーフィンが言っていたのはこのことだったのか……」

「アーフィンがなんて……?」


 だけど、僕のつぶやきは喜色に満ちた鎧には届かない。ニルギスを包む影は量を増して、圧倒的な魔力の奔流が部屋中に吹き荒れ始めていた。


「ふははははっ! ならば我も礼を持って、最高出力でお相手しよう!」


 ズッと地面から影でできた腕が大剣を握って現れた。それはルヴァフの持っているものよりも、ニルギスの持っているものよりも巨大で、僕の体よりもでかいだろう。

 そんな影の大剣が四本も現れたんだ。正直僕のバリアで一本防げるかどうかも怪しいかも。


「さて、本気でやるには部屋が邪魔だな」

「……全員伏せろっ!」


 ルヴァフがあとコンマ数秒気づくのが遅れていたら、僕の首は今頃飛んでいたかもしれない。

 影の大剣が一振りするだけで、部屋が上下に分かれてしまった。大剣よりずっと大きな部屋の壁を一瞬で切り離すなんて、とんでもない威力だ。


「サラナヴァイ、この木をどかしておけ」


 おそらくペットだと言った触手に命令しているんだろう。触手は言うことを守って屋根に生えていた大木を持ち上げると、そそくさと退避していく。無尽蔵に湧いている触手とはいえ、さすがにこれほどの大きさの木をどかすとなれば、総出でかかるしかなさそうだ。

 おかげで頭上には似つかわしくないほど綺麗な青空が広がることになって、いっそう影の濃さが浮き彫りになっている。


「これで問題ないな。やはり戦うなら下層よりもここの方がいい」

「まさか中層が吹き抜けになってるのは、ボス戦を見越してとか思わなかったよ……事実は小説より奇なりってこういう時に使うんだねえ」


 クィラキュリーが茶化して言うが、今の威力を目の当たりにして少しだけ声が上ずっていた。あんなのを食らってしまえばひとたまりもない。それが本能に恐怖を植え付けていた。

 僕のバフは果たしてどれくらい耐えてくれるんだろうか。学校で調べた時はあそこまでの威力の魔法を用意することなんてできなかった。


「ルヴァフ、なんかいい策はあるか?」


 強大な存在への恐怖心などみじんも感じさせず、カナカミが問う。


「オレとお前はいつも通りだろ。前に出ることが後ろを守ることになる。クィラキュリーは攻撃に全振りだな。あんなの食らったら回復が間に合うとは思えねえ」

「そうだよねえ。もっと強い魔法を使うよ。時間がかかるから、耐えてくれよ? でも、こんなことばかりしてると、自分がヒーラーだってことを忘れそうになるよ」

「終わったら嫌でも思い出すだろうさ。無傷で勝てるとは思ってねえ。そんで、オズはさっき盾にやってたことがあの腕にも効くのか試してみてくれ。結界の維持と平行になっちまうが、できるか?」

「うん、やるよ。任せて」


 みんな怖いはずだ。今まで見たことないほど強大な敵を前に、命の保証なんてどこにもないんだから。でも、誰も泣き言を言わない。

 全員で生きて帰るっていう目標があるから、それを見据えてるんだ。みんながみんなのために、最善を尽くそうとしている。

 そこに僕も入りたい。僕もみんなのために頑張りたい。


「いい目だ。戦意が萎えたらどうしようかと思っていたが杞憂だったようだな」


 四本の影大剣が持ち上がり、僕らに狙いを定めている。一本でも防ぎきれる気はしないけど、やるしかないんだ。


「行くぞカナカミ!」

「おう! 足引っ張るなよ!」


 後衛を攻撃させる前にと、二人が勢いよく前へと駆ける。どちらも軽装だけど、カナカミの方が早い。バフの力もあって、僕が瞬きしている間にニルギスの前まで距離を詰めていた。


「どんな大層なでかぶつでも、当たらなきゃ意味ねえんだよ!」

「ならば当てればいい。それだけのこと」


 兜の中が紫に光ると、カナカミの体も同じく光る。それは熊の身体能力を阻害し、わずかに速度が落ちた。


「デバフか。めんどくせえな!」

「これなら問題あるまい」


 デバフの最も恐ろしいところは、脳が体の状態を把握できないことだ。今まで僕のバフで動いていた体が、思うように動かなくなる。そうなればどんな達人でも隙をさらしてしまう。

 カナカミも身体能力のチューニングをするのにわずかな時間を要している。敵の眼前で体が思った通りに動かないということが、すでに大問題だった。


 だからわざわざカナカミをひきつけてから発動したのだろう。影大剣は振り下ろされ、黒い熊の体を真っ二つにしようと閃光を走らせる。


「カナカミっ!」


 僕が影を阻害しようと魔法を駆使したところで、重力に逆らえるわけはない。

 太刀筋はぶれることなく伸び、カナカミへと迫った。


 だが、その剣戟は何も切り裂かず、カナカミのいた場所には蜃気楼のような影が残されているだけ。


「ほうっ、幻か!」


 感心したようにつぶやくニルギスの後ろ、そこにカナカミはいた。

 すでに拳は放たれ、鎧を砕こうとする勢いで繰り出されている。いくらニルギスが影大剣を間に入れようとしたところで、間に合う時間はとっくに過ぎている。


「今度は本気の一発だ! そのお高く留まった外装をへこませてやる!」

「見た目に似合わずトリッキーな戦い方をする」

「うっせえ! 減らず口すら叩けなくしてやるよ!」

「デバフ程度では揺らがんか。よいな。だが……」


 またも中身が怪しく光ると、カナカミの顔に驚愕が走った。

 何が起こったのか、それは拳が鎧を打ち据えた瞬間にわかった。

 カナカミが本気だと言った一撃は、鎧に何のダメージも与えていなかったのだ。


「バフをはがしてやればさすがに堪えるだろう」

「ちぃ! うぜえ戦い方をしてんじゃねえよ!」

「仕方なかろう。我はそう生み出されたのだから」


 強制バフ解除。それは僕が最も苦手とする能力だ。

 どれだけ味方を強化しても、すぐ無意味にされてしまう。カナカミの一撃が何の意味もなさなかったことから、自前でつけていた加護なども全部なくなってしまったに違いない。


 カナカミは一瞬で不利を判断して下がろうとするのだが、許されるほど相手は甘くない。影大剣が振られると、黒く大きな体は軽くはじかれてしまう。


「ぐぅあ!」

「切れんか。さすがここまで来るだけはある。腕の一本くらいは持っていきたかったが、少し甘かったようだな」


 ルヴァフが影大剣群と打ち合っていなかったら、確実に胴体も切られていた。だがまだニルギスの攻撃は終わらない。飛ばされたカナカミへと影の一本を向かわせると、兜を光らせたのだ。


「バフが無い状態でのデバフは効くだろう。逃げられると思わんことだな」

「ちっくしょぉ……!」


 弱った体は飛ばされた反動で体勢を立て直せていない。悔しそうに歯ぎしりするだけで、逃げるのは不可能に思われた。


「カナカミ……!」


 黒い太刀筋が迫る中で、僕にはすべてがスローモーションに見えた。

 他三本の影大剣に加えて、ニルギス本人とも打ち合って足止めしているルヴァフに救助する余裕はない。

 特大の一発を放つために魔法を作り上げているクィラキュリーには、まだ時間が足りない。


 動けるのは僕だけ。僕だけなんだ。


 だから、気付けば体が勝手に飛び出していた。


「オズ、この馬鹿……! バフがねえのはてめえも同じだろ! 引っ込んでろ!」


 後ろでカナカミの焦った声がするけれど、構っている余裕はない。

 僕にできる最大の魔法を使い、ありったけの魔力を込めてバリアを作る。バフ以外とりえのない僕だけど、少しでも威力が弱まることを信じてこうするしかないんだ。


 予想していた通り、影大剣の威力はとてつもなくて、僕程度の魔法じゃ時間を稼ぐのが精いっぱいだ。こうしている今だって刃はバリアに食い込んで、いつ切られてもおかしくない。


「かな、かみ……今のうちに、逃げて……!」

「んなことできるわけねえだろ! ふっざけんな! また俺に、見捨てて逃げろってのかよ!」

「また……?」


 その意味を捕らえあぐねている間に、カナカミは悪態をつきながらも立ち上がり、よろよろと影大剣に向かって歩き出した。僕のバリアが破られる前に、はじくつもりなんだ!


「待って! 待ってってば! 今のカナカミはバフが無いだけじゃなくて、デバフまでかかってるんだよ! このままじゃ、絶対切られちゃう!」

「うっせえ! それでもやるんだよ! オズこそ逃げとけ! ここは俺がやる!」

「なんでそこまでして僕を守ろうとするの……カナカミの方が危ないんだからさ!」


 人は自分の命が危なくなれば他人を見捨てる。さっきカナカミ本人が言ったことだ。

 僕は気にしないから逃げてほしいのに、それでも熊の脚は止まらなかった。


「どうして……逃げてよカナカミ!」

「……今でも夢に見るんだ」ぽつりと、僕にだけ聞こえるような小さな声がした。「俺が逃げ出した時に見捨てたあいつらの顔。お前と似たような顔した……俺の奴隷仲間……だから今度こそ……!」


 弱った体には悔恨が満ちている。それがカナカミを動かしているのだ。

 僕の顔を見てくれないカナカミは、きっと過去を見ている。今でも未来でもなく、ただ後悔を携えて、熊は拳を構えて叫ぶ。


「俺は! 絶対に逃げねえ!」


 ……あの夜、自分は優しくないと言っていた理由を、ようやく僕は知った。

 ああだから、カナカミは僕に優しいんだ。

 カナカミは他人を見捨てて逃げた自分のことが、誰よりも嫌いなんだ。


 でも僕を見るたびにカナカミがつらい過去を思い出すのは嫌だな。僕は大丈夫だって、思ってもらいたい。


 だけど僕がどれだけ言っても、カナカミは聞く耳を持ってくれない。意地になって立ち向かい、無謀な拳を向けている。

 より強い相手に興奮してるわけじゃない、その背中はおびえているようだ。あんなに大きいのに、今だけは小さく映った。


 カナカミを行かせるわけにはいかない。僕は足先まで全部振り絞ってバリアを維持しようと踏ん張った。

 けどガリガリと削られていき、壊されるのは時間の問題だ。そのくらいはわかる。

 だから今のうちに逃げてほしいのに、僕の言葉はまるで届かなかった。


「カナカミ! カナカミ! もう! 僕の声、聞いてよぉ……!」


 魔法を維持する腕も限界だ。このままじゃ……!


 熊の鼻先がバリアを抜けちゃう。でも、僕の魔法じゃこれ以上押し返せない。

 だけどその時、大きな音がして、影大剣がはじかれた。


「大丈夫か二人とも!」

「ルヴァフぅ……!」


 駆けつけてくれたルヴァフが大剣を振るってくれたおかげで、何とか無事に済んだ。僕は思わず足から力が抜けそうになったけど、まだその時じゃないから、何とか踏ん張った。

 けど、声がもう泣きそうなのはごまかせなかった。


 横を見れば、クィラキュリーの呪文発動が間に合ったようで、いくつもの光線が影大剣を足止めしている。せっかくの大技なのに攻めには使わず、この一瞬の時間を作るために使ってくれたんだ。


「あ……ルヴァフ……俺……」

「言いたいことはわかるが、冷静になれよ。ダンジョンってのは焦ったやつから死んでくんだぜ?」

「悪い……」


 カナカミの呆然とした声の後ろ、たくましいルヴァフの肩越しにこっちに飛んでくる影大剣があった。クィラキュリーの魔法から外れたそれは、一目散に僕たちを目指していた。


「ルヴァフ、後ろ!」

「……ああ、まあ。そうなるよな」


 さっきまではルヴァフ一人で抑えていても一本飛んできてたんだ、いくらクィラキュリーの魔法が強くても自由になる影大剣ができるのはしょうがない。

 早く攻撃に転じて、はじかないといけない。だけど、ルヴァフがしたことは、こっちを向いたまま僕とカナカミを強く押すことだった。


「え、なんで……!」

「悪いな」


 背後に影が迫っても、ルヴァフの笑顔は揺るがない。

 僕らじゃなくて自分が攻撃を食らうことに、安堵すら見えていた。


「オレももう、バフがねえんだ」

「…………っ!」


 受け止めきれないと判断したから、自分が盾になる。仲間の死を見るくらいなら、自分が死ぬことだって厭わない。

 そんな彼のどこが臆病なんだ。僕はルヴァフ以上に勇敢な人を知らない。絶対に死なせたくないのに……。

 嫌だ嫌だと思っても、さっき解除したばかりのバリアは間に合わない。


 確実な死が牛を背後から刈り取ろうと近づいて――


「……間に合ってっ!」


 焦りを孕んだクィラキュリーが叫びながら光線の一本で影大剣を打ち据え、わずかに軌道をそらしたけど、影は牛の背中を切り裂いて黒い刀身に鮮烈な赤をまとわせる。僕は目の前で血しぶきが舞う様を、ただ眺めるだけしかできなかった。


「ルヴァフ……」


 カナカミが愕然と喉を震わせたあと、すぐさま我に返って前に飛び出した。

 倒れていくルヴァフの肩をつかんで後ろに引き寄せ、僕の方へと投げつける。あれだけ元気だった牛の体はまだ温かいのに、今は力なくぐったりと僕にのしかかっていた。


「待ってて、すぐに治すから!」


 急いできたクィラキュリーが息を切らせながら魔法を構築し、ルヴァフの背中に治癒の光を灯す。だけど傷口は深いようで、血が止まらない。命が流れていく。


「オズは今できるバフをルヴァフにかけて、体力を増やして! カナカミは無理しない! 見捨てても誰も怒らないから!」

「デバッファーはオレらと相性が悪かったな……でも、デバフもバフ解除も、範囲は単体のみだったから……」

「いいから今はしゃべらないで! 私はバフが残ってるから、君ら二人を抱えて下がることはできる! カナカミはしんがりをお願い! ここは一時撤退を――――」

「逃がすと思っているのか?」


 絶望を固めたような声がして、カナカミが同時に吹き飛ばされる。巨大な大剣を四本従えた黒騎士が、悠々と距離を詰めてきていた。

 踏み出すたびに鎧同士のぶつかる硬い音が、断頭台を登る足音のようだ。明確な死が迫って、喉が乾いていく感覚。何度味わっても慣れることのない、真綿で首を絞められる苦しみだ。


「中々楽しめだぞ。惜しむらくは、我との相性の悪さだな。そこのネズミのバフは強大だが、かけるためには時間が必要だ。一度解いてしまえば、戦闘中につけられんだろう」

「まあな……んで、アーフィンの時みてえに、オレが残るからって話は、駄目か……?」

「それも悪くはない。そこのネズミさえいれば今度は我を対策して、より楽しい戦いができるだろうしな。だが……貴様、死ぬだろ?」

「ふざけんな!」そんなわけないとカナカミが叫んで。「ルヴァフは死なねえよ! 俺が認めねえ!」


 バフもはがされデバフに体を蝕まれ、もはや満身創痍にも関わらず、熊は立ち上がる。自重を支えるので精いっぱいなのは誰の目から見ても明らかなのに、血の混じった唾を吐き捨て、意志の宿る瞳はギラギラと光沢を放っていた。

 僕らの前で仁王立ちする背中はもう小さくない。カナカミは今度こそ僕らを守るつもりなんだと、決死の覚悟が伝わってくる。


「素晴らしいな……その体でまだ立つか。それも他人のために。ああやはり、前のパーティとは雲泥の差だ。ここで殺すには惜しいのだが……それは礼儀に反するな。健闘を称える名誉ある死を。我が刃こそ、貴様に示す最大の賛辞だと知れ」

「減らず口叩いてねえで、かかってこいよ! 俺が全部ぶっ飛ばしてやる!」

「カナカミ……」


 カナカミは死ぬ気だ。自分が囮になって、死ぬまで時間を稼ぐつもりなんだ。

 あの晩に感じた体温を思い返して、潤んでしまいそうな声を抑える。クィラキュリーは回復の手を緩めていないけど、ルヴァフの声は明らかに小さくなっていた。

 僕はこのパーティのみんなのこと、大好きになってる。もっと仲良くなりたいって思ってる。これからもっといろんなところを冒険して、ルヴァフの故郷だって行って、クィラキュリーの書いた本を読むんだ。


 ……だから、うん、決めた。

 

「ねえ」自分でもびっくりするくらいしっかりした声が出た。「もっと強いバフがあるって言ったら、みんなはどうする?」

『もらう』


 凛とした声だった。死にかけているルヴァフも、死を覚悟しているカナカミも、死を拒み続けているクィラキュリーも。全員が即断した。

 おそらく僕が今まで出し渋ったことからデメリットがあるとわかったうえで、一瞬で決断したんだろう。何があっても構わない、前だけを向いた確固たる決意がそう訴えていた。自分以外を死なせないために、できることなら何でもしたいと、彼らの顔は雄弁だった。

 それなら、これ以上何か言うのは野暮だ。僕は祈るように小さくつぶやいた。


「じゃあ……僕にキスして」


 ぐるんと視界が回る。すぐさま空を背にしたみんなの真剣な目が僕を捕らえて、そのまま視界が埋まって――――


『誓いの口づけを貴方に』

 

 僕が使える最高のバフ。これこそが、僕を賢者にした最上位の魔法の中で最も強いバフだ。

 デメリットもあるけれど、現状を打破するにはこれしかない。僕は全員にバフをばらまくと体を横たえる。これを使うと、もう一歩も動けないんだ。しかも三人分なんて初めてかけた。

 

「……あんまり無理しないでね。これは強くしすぎるから、反動の負担もかなりあるんだ」


 消えそうな声しか出せなかったけど、みんなには聞こえてるよね。聴覚も研ぎ澄ましてくれるから。


 そうして僕は床に伏せたまま、みんなが頑張るところを心の中で応援するだけになった。心臓が悲鳴を上げてるけど、まだ大丈夫。少なくともみんなが勝つまではもたせてみせるから。

 挿入によって得られるバフを、ぐっと短時間に縮めた代わりに効果を凝縮させたものだ。その効果は途方もないことになっているけど、その分、負担が僕の体に重くのしかかっている。

 

「即席のバフか。だが、感じるぞ……途方もない強さだ! 貴様らにそれが扱いきれるか?」


 四本の影大剣が一斉に襲い掛かる。一本ですら並の冒険者を凌駕する威力を秘めた、必殺技のような存在だ。僕のバリアでは時間稼ぎにしかならなかった。


 だけど、ルヴァフが大剣を振るって、カナカミが拳を振るうと、影大剣が止まる。それぞれ二本ずつ受け止めれば、漆黒はピクリとも動かなくなっていた。


「なんと……これを止めるか。素晴らしいな。だが、果たしてどれだけ耐えられるかな?」


 ニルギスの足元からさらに影大剣が現れ、その数を倍に増やして切りかかってきた。一本でも強大なのに、これほどの出力を維持するなんて……。時代が時代なら魔王とか呼ばれててもおかしくない。


「全部耐えるに決まってるだろ!」


 ルヴァフが四本同時に相手取りながら、着実にニルギスへの距離を詰めていく。力や素早さといった基礎ステータスの向上はもちろん、技の威力だって上がっている。牛の大剣がうなりを上げるたびに、影大剣が何度もはじかれていく。

 背中の傷は自己回復によってすっかり良くなって、剣を振るうのに不都合はない様子だ。例え四肢がもげてもすぐ生えてくるとはいえ、できれば無事でいて欲しい。


「しゃらくせえんだよ! おとなしくぶっ飛ばされてろ!」


 カナカミは拳だけでなく足技も駆使して、四方八方から攻めてくる影大剣を着実にさばいている。肉体強度は伝説のドラゴンくらいには上がってるはずだから、刃先を気にせずガンガン攻めることができていた。


「素晴らしい……素晴らしいぞ貴様ら!」


 ニルギスは感極まって叫びながら兜の中を紫に光らせる。バフを解除しようとしているんだろうと、遠目に見ている僕は気づいた。


「それほどの強さを与えられながら、すぐさま使いこなせるのは才能だぞ! 途方もない力に溺れることなく、我だけを見据えて戦うか! 実に良き!」

「うっせえ! 早くケリを付けねえと、オズがやべえんだよ!」


 視界も強化されてるから、ふせった僕が青白い顔をしているのがばれちゃってる。心配ないよと言いたかったけど、もう言葉を話すのもおっくうで、口角を上げるだけしかできなかった。


「大丈夫かい?」


 僕を魔法で浮かせながら、クィラキュリーが訪ねてくれた。簡易的な結界は僕を守ってくれているけれど、バフの代償は確実に体を蝕んでいる。


「うん、だい、じょう、ぶ……だよ……」

「……そんな風には見えないよ。結界の中に治癒機能を入れておいたから、少しは効くといいんだけどね」

「しょうが、ない、よ……最高位の、魔法は、神話の領域……だから、人の身で、つ、かうのは……代償が……必要なんだけど……僕の寿命で、みんなが、助かるなら……全然平気……」

「君も大概お人好しだね。私が言うのもなんだけど、自分のことを大事にするんだよ。君との冒険を、私はまだまだ書き留めておかないといけないんだからね」


 僕の口端から流れる血をぬぐって、クィラキュリーは笑う。目頭は潤んでいたけど、僕を不安にさせまいとしているのかな。

 

 それからニルギスに向き直って、前線に参加する。早く終わらせたいという意気込みが、大きな尻尾を膨れ上がらせていた。


 今度のバフは身体能力だけじゃなくって、魔法能力も上げてくれる。今のクィラキュリーなら賢者にだってなれるかもしれない。

 クィラキュリーは影大剣を相手にしている二人の間を縫って、高密度の魔弾を何度も放っている。ニルギスは自前の大剣でさばいているが、弾幕のように振らして足止めを行っていた。一発当たるだけで、おそらくかなりのダメージが出るだろう。


「ぐぅ、押されだしたか……! これほどの力を引き出すとは、最上位というのは誇張でも何でもないな。その気になれば人を従えるのも楽だろうに」


 ニルギスは三方から来るみんなをやり過ごしてはいるけど、本人が言う通り押され始めていた。けど、僕の最高のバフを受けた三人を相手にここまで戦えるなんて、正直思わなかった。神話に匹敵する能力を与えるバフだ。その一撃を耐えているだけでも、相当なのに。


「しかもバフ解除も効かんときたか……! 我が解除できぬバフが世の中に存在していたとは……すさまじいな! 貴様は我と同じく、化け物の部類ではないか! 一人で世界をも変えられる逸材! そんな貴様が、なにゆえ人と混じり合おうと思うのだ!」

「え、だって……」


 もうろうとしていく頭で考えるのは過去のことだ。学校で物扱いされ、ただただ実験体として過ごした時の記憶は、いつ思い返しても灰色に染まっている。

 誰も僕を見ていなくて、ただ魔法を搾り取られるだけの生活だった。あのまま学校にいたら、僕は憎悪に飲まれていたかもしれない。


 それに比べて、みんなと冒険した時の記憶は全部大事な思い出だ。入ったばかりの僕をいつだって気にかけてくれる。人として扱ってくれる。

 だから、僕は頑張れるんだ。


 そんな感情をなんて言えばいいのか、もう考えはまとまらなかったけど、単純な気持ちだけがぽろりと零れていく。

 

「だって一人は、寂しいもん……」

 

 僕はちゃんとしたい。ちゃんと人として生きていたい。

 空ぶったりもするけど、できる限りのことはしていたいんだ。


 ガキンと硬いものが割れる音がして視線を回せば、ルヴァフとカナカミが影大剣を砕いたところだった。

 暴力の化身でもある影大剣は跡形もなく消え、すぐさま二人をニルギスとの距離を詰めた。クィラキュリーによって足止めされている鎧はなすすべもなく、こうなると大剣と拳を迎え撃つしかない。


「そうか……」


 敗北を悟ったニルギスはそれでも剣をかかげ、最後まで抗う気概を見せている。もはや影大剣もない今、二人の攻撃を防ぎきれるわけもないのに、それでもあきらめたりはしなかった。


「……まさか同じ化け物にそう言われるとは思わなんだ」

「オズは化け物じゃねえよ!」ルヴァフが大剣を振りかぶる。

「ほんとだぜ、俺の仲間を化け物呼ばわりするんじゃねえ!」カナカミも拳を打ち出した。


 黒い大剣はルヴァフによって弾かれ、ニルギスを守るものは何もない。大盾はクィラキュリーからの魔法を防ぐだけで手いっぱいで、その懐にカナカミが潜り込む。


「おりゃあぁぁっ!」


 手数型なカナカミだけどバフによって一撃がすごく重たくなっているはずだ。強固な鎧にまた掌底を叩きこむと、先ほどより強い振動が内部を襲う。ニルギスの中身がどうなっているのかはわからないけれど、不動だった重心が傾いだことから効果はあるのがわかる。


「ぐ、うぅ……見事……ああ、これが敗北というものなのか……」

「てめえも強かったぜ。こんなにあぶねえと思ったのは、剣闘士の時もなかった」

「ふ、それは光栄だ……」


 膝をついたニルギスにルヴァフが近づいて、とどめを刺すために大剣を振り上げる。もはや武装が解除されたニルギスには抵抗する手段すらない。

 いくら話せるとはいえ、魔物は魔物。それに命をかけた戦いなんだ、ここで情けをかけるのはニルギスも喜ばないと思う。


 ……ああでも、もう勝負はついたなら、バフは、消していいよね。

 実を言うと、さっきからずっと眠くて。心配かけないようにとこらえてたけど、臓物は暴れまわり、気を抜くと血を吐いてしまいそうだった。指先すら動かせない。心臓の鼓動が弱っていくのが、自分でもわかるくらいだ。


 意識がもうろうとして、まぶたが勝手に落ちていく。もう何も見えないし、聞こえない。クィラキュリーが何か叫んでいるようだけど、ごめん、もう感覚もあんまりないんだ。

 このバフを使った後は、いつもこう。ギリギリまで死に近づいて、自分が消えていくような気がしていつも怖くなる。今回は三人に使っちゃったから、本当に死ぬかもしれない。

 したいこと、たくさんあるのに……まだ、死にたくないなぁ……。


 でも、みんなが無事で本当によかった。誰も欠けてないのが嬉しいから、僕は安心して眠りに落ちることができる。

 僕、今度はちゃんとできたよね……?


 ぼやけた視界でみんなが何をしているのかすら、もうわからない。

 ただただ自分という存在が溶けていく感覚がして、全部が薄くなっていく。

 僕は落ちて、暗い、暗いところに投げ出されて。死が近いのに何も感じなくなっていって。

 ああ、ちゃんと起きられますように。

 そんな祈りだけを捧げて、僕の意識は黒く塗りつぶされていった。


****


 結論から言うと、僕は死ななかった。

 ただ一週間ほど死んだように眠っていたらしく、目覚めた時には体が全く動かなかった。魔法の代償もあって、かなり衰弱していたみたい。


 だけどみんなは泣きながら喜んでくれて、ああ、起きてよかったなって心底思った。

 みんなは僕が寝ている間ずっと交代で看病してくれていたらしくて、同じ部屋で寝てたみたい。

 カナカミなんかは起きてからもそれは続いている。罪悪感を僕に持つ必要はないよと言ったら、そういうのじゃないって言われた。じゃあなんだろう。わからないけど、カナカミの過保護は今も続いている。

 曰く、抱いて寝るとよく眠れるんだって。奴隷時代のこと、今でも夢に見るって言ってたし、安眠はカナカミにとって大事なんだと思う。


 アーフィンも無事救出できたようで、お見舞いに来てくれた。あっちのメンバーが迷惑をかけて悪かったって謝られたけど、僕はアーフィンが無事ならそれでいいんだ。

 その時にたくさん話した。今まで言いたかったこととか、お礼とか。

 仲直りはできたと思う。僕は今でも、アーフィンのことが好きだから、これからもいい関係でいたいから。向こうも同じ気持ちだったみたいで、嬉しくてちょっと泣いてしまった。


 それから僕が歩けるようになるまでもうちょっとかかって、クィラキュリー達の助けを借りて、なんとかまたダンジョンに潜れるようにまでなった。お医者さんの話だと、一時期本当に危なかったそうだ。


「改めて、新しく『刮目する怒涛』に入ったアーフィンだ。よろしく頼む」


 僕が復帰して最初にしたことは、依頼完了を祝う飲み会だった。もちろん酒場の個室で開かれている。今後を思うと、ね。

 アーフィンが正式に加入したことを祝う会でもあり、大きな狼は少し照れながらジョッキを手に自己紹介をしていた。


 あれから『闘争の槌』は正式に解散し、アーフィンはフリーになった。さすがに自分を売った仲間と冒険するのは難しいよね。

 そこをルヴァフがしっかりと捕まえて、ディフェンダーがようやくうちのパーティにやってくることになった。


「オズから聞いてるとは思うが、ポジションはディフェンダーで、大盾使いだ。ある程度の魔法は使えるし、簡単な回復ならこなせる。攻撃以外は少し使える程度の認識でいい」

「そんなこと言ってるけど、アーフィンは本当にすごくて、もともと聖騎士だったから回復も加護もできるんだよ。アンデットとか相手にするときは、とっても頼もしいんだ」

「オズ……そこまで持ち上げるな。恥ずかしいだろ」


 ルヴァフとは違い、アーフィンは落ち着いた安定感でみんなを引っ張るタイプのリーダーだった。アーフィンがいれば大丈夫って、理由もなく思わせるだけの包容力がある。


「いいじゃねえか。そういうのは余計大歓迎だぜ。オレとカナカミは幽霊を相手にするの苦手だしな」

「オレはまだいけるけど、ルヴァフはてんで駄目だろ。物理が効かないと役立たずになる」

「一応効果的な技を覚えようとはしてんだけどなあ。なかなかむずいんだよ」


 あ、前回のダンジョンでは出なかったからよかったけど、僕らって物理が効かない敵が本当に苦手なんだな。アーフィンがいてくれたらそこも補強できて助かるね。


「それに」クィラキュリーが日記を書きながら。「オズとのセックスに耐えられるなら言うことないね。……って言っても、色々あったから私はまだなんだよねえ。元気になったのなら、今晩あたりやらないかい?」

「俺が先だろ。こいつが起きるまでずーっと待ってたんだからよ! そこらの租ちん引っかけてもぜんっぜん楽しめねえし! 早くそのデカマラで結腸ハメされてえんだよ!」

「じゃあ3Pでするしかないねえ。あ、良ければアーフィンく……アーフィンも混ざるかい?」

「う、あ……ああ……まあ、そうだな……混ざれるなら、入りたいが……」

「なんだこいつ。オズの元パーティメンバーのくせして何照れてんだよ。何度もずっぽりハメてきた仲じゃねえか」

「普通はそうだよねえ。私たちの羞恥が壊れてるんだよカナカミ」

「でもこいつはこの前見舞いに来た時、オズとやりまくってただろ。あんな馬鹿でかい声出しといて、今更何を恥ずかしがってんだ」

「……き、聞いていたのか」

「うーん、あの仲直りセックスはすごかったね。アーフィンはルヴァフより喘ぎ声がでかいから、防音魔法はちゃんと書けた方が良いよ」

「……前のメンバーにもよく言われた……おれは、喘ぎ声が、やばいからと……今後は気を付ける」

「そうしてくれ、あんなの聞かされたら、マンコがうずいてたまんなかったんだぜ。脳みそぶっとんじまうようなセックス、俺もしてえなあ!」


 防音魔法忘れてた……アーフィンは普段おとなしいけど、ベッドの上だと誰よりもうるさいんだ。僕はもう慣れてるけど、初めて聞くと僕がいじめてるみたいに見えるらしい。

 その時のことを思い出すと、カナカミとクィラキュリーの性欲に火がついたようで、アーフィンもまんざらでもない顔をしている。つまり、大柄な男性三人が一斉に僕とするってこと……?

 体もつかな、一応病み上がりなんだけど……。でも、したくないわけじゃないし、頑張ろうかな。


 そんな中、あのダンジョンでしっかり僕とやったルヴァフはジョッキに口を付けながら、余裕の態度で楽しそうに笑っていた。


「あははっ! なら夜の懇親会もやらねえとな! 攻め手がオズしかいねえけど、まあ何とかなるだろ!」

「なるかなぁ……?」

「もちろんオレも入るぜ。数日盛りあうのは予定事項だったしな」

「覚えてたんだ……」


 一人増えて大柄男性四人と数日のセックスになった。僕一人の体でみんなを満足させてあげられるかな……。と言うか、前話してた時は一日中だったのに、さらっと増えてるよね。

 四人とも平均よりでかい体を持った屈強な男性だ。後衛のクィラキュリー相手にしても、力で負ける自信があるよ。

 ここからさらにお酒も入るって考えたら、結構大変かも。うーん、でもちゃんと断ったらみんな分かってくれるんだよね。無理矢理しないだろうという安心感はある。


 そうやってわいわいと過ごしていたら、会話の切れ目を縫ってアーフィンがおずおずと何かをテーブルの上に置いた。


「新参者のくせに申し訳ないのだが……みんなにとある依頼を受けてほしいんだ」

「ん、なんだ? また救助依頼とか?」

「……実は」


 ルヴァフのちゃかして話した言葉が頷かれ、僕を含めてみんなの目が点になった。この顔合わせで救助依頼受ける流れ、続くんだ……。

 アーフィンが置いたのは何かの石みたいだけど……これは、通信できるやつかな?


「救助依頼って、誰か助けたい人でもいるの?」

「助けたい……というわけでもないのだが、本人がどうしても救助されたいと言って聞かなくて……」

「救助されたいだぁ? 誰だよそいつ」


 クィラキュリーもカナカミも話がつかめていないようで、ジョッキを手にしたままきょとんとしている。

 でも救助されたいってどういうことなんだろうか。そう思っていると、テーブルに置かれた石から聞いたことのある声がした。


『我だ』


 誰も想像してなかった声に、全員一気に目をひん剥いた。ルヴァフにいたっては驚きすぎて口からお酒を吹き出してしまっている。


「は、はあ?!」口元をぬぐったルヴァフが動揺したまま。「お前、ニルギスじゃねえか! なんでアーフィンと通信してんだよ!」

『こいつを捕らえた時に拝借していた。まさか使うことになるとは思わなかったがな』

「いや、そういうことじゃなくって……! ってか救助依頼ってなんだよ!」

『貴様ら、我を打ち倒したというのにとどめを刺すことなくとっとと帰るとは……。そこのネズミが心配なのはわかるが、さすがにうかつが過ぎるというものだ』


 僕は気絶してたから知らなかったけど、とどめを刺すより救助を選んだのはルヴァフらしいから、言われてもなんか納得できちゃった。

 

『貴様らは我がダンジョンをクリアしたくせに、報酬を何も手にせず命だけを求めて戻っていった。貴様らは、富より仲間を選んだのだ』

「そうだよ。オレらの目的はあくまで救助。それ以外はおまけだ」

『おかげで我はまだダンジョンに囚われたまま。無為な時間を過ごすことを強いられている。知的生命体が我しかいないこの環境には飽き飽きとしているのだ。強いものは来ず、来たとしても貴様ら以下の軟弱者ばかり。他者のために命を燃やす高貴な輝きなどどこにも見当たらぬ』

「あの触手はペットって言ってなかったっけ?」ふとクィラキュリーが質問を投げる。

『あれは我の分体のようなもの。戯れに作り、我の命令を聞くから便宜上そう呼んでいるだけにすぎん』

「なるほどねえ。本当に一人なんだ」

「つまり、お前の救助依頼ってのは……」

『左様』


 ルヴァフのまとめをなぜか本人が勝手に受け継いで。


『このままでは退屈で死にそうだから、我をここから救助しろと言っている』


 そんなのあり……? ダンジョンの主がダンジョンを捨てるってこと?

 物語の中にさえ存在しないよ、そんな話……。

 みんなが呆然とアーフィンを見ると、彼は盛り上がった肩をすくめてどうしようもないとジェスチャーで返した。多分狼のことだから、何度か話をしたうえでの結論なんだろうな。


『もちろん報酬は用意してある……というか、貴様らが取っていかなかった物だが、ダンジョン深部のお宝を好きに持ち出すといい。どうせ我も使うのだ、大盤振る舞いといこう』

「待て待て待てっ! その言い草だとお前……うちに来る気か?!」

『当然だろうが。我一人で人の世を生きていけると思うほど、愚かではない。後ろ盾が必要だ』

「ちょっと待ってくれ……頭痛くなってきた。飲みすぎかもしれん」


 ルヴァフが眉間を抑えながら考えをまとめる時間を欲している。正直その気持ちはわかるから、誰も何も言わなかった。

 確かに意思疎通ができる魔物なんて珍しいとは思っていたけど、まさかパーティに加入したいなんて言われるとは……。


『……む、何故だアーフィン。我は強く勇猛で、役に立つこと間違いないのだぞ。どこに悩む必要がある。確かにダンジョンの庇護が無くなれば弱体化は免れぬが、それでも十分強いはずだぞ』

「だから言っただろうが。お前みたいな魔物はあまりにもイレギュラーなんだよ」

『なるほど我が魔物だから信頼が無いのだな。だが、あの死闘を経てもなお、そんな些細なことを言うのか?』

「殺し合ったら仲良しなんて考え、普通は持ってないんだ」


 口調は物々しいけど、本当にただの戦闘狂だこの人……人?

 だけど逆に言えば、人も魔物も関係ないってスタンスで、だからこそこんな提案をしているんだろう。

 そして、実を言うとうちにも一人そんなスタンスの人がいて……。


「まあいいんじゃねえ? こいつは戦いのときも正々堂々だったし、信用はできると思うぜ」

 

 案の定、カナカミはシンパシーを覚えているのか、あっさりと受け入れた。多分、この中で一番話についていけてると思う。僕はまだちょっと噛み砕けてないんだ。


『うむ、やはり貴様は話が分かると思ったぞ。そこの狼とは違うな』

「どちらかと言えば、おれの方が常識人だと思っているがな」

「それはそうだね。常識人枠が増えて、私は嬉しいよ。それに私はてっきり殺してくれとかいうものだと思ってた……」


 クィラキュリーはニルギスの意図を何とか理解しようとしているが、ペン先が止まっていることからなかなかできていないようだった。


『我は別に自殺志願者ではない。拾った命なら、より強い猛者を求めて旅に出てみたいと思っただけだ』

「うーん、そう言われると、とどめを刺さなかった私らの責任かもって思っちゃうな。冒険者って思ったより事実は小説より奇なりってことを体験するんだねえ。日記のネタとしてもよさそうだし、私は賛成するよ」


 常識人ではあるが、なんだかんだ人がいいクィラキュリーだ。しかも面白そうなことに弱いときている。カナカミが心配するのも当然かも。


「ふむむ」今度は顎に手を当てたルヴァフが。「ならこれで賛成が2ってことだ。オレもまあいいとは思うぞ。こいつのデバフは強力だったからな。それに、人の身で耐えられなさそうなところを探検するのに役立ちそうだ」

『任せておけ。毒沼や空気の薄いところでも役に立つはずだ』

「ならオレも賛成っと……」


 つまり過半数が賛成ってことになったので、ほぼ確定したかな。事態を飲みこんでいけば、僕もまあいいかなって方に流れているし。


『ネズミの貴様……オズだったな。貴様はどうなのだ』

「うん、僕もいいと思うよ。ルヴァフたちはすごくいい人たちだから、君のことも大事にしてくれるはずだよ」

『そうか。そこなら我も寂しいと思わずにすむか?』

「え……?」


 そういえば、さっきニルギスは知的生命体が自分しかいないと言っていた。

 つまり、話し相手がいないんだ。

 ずっとダンジョンの深くで一人、冒険者が来るのを待っている。それだけの生活はとても退屈だろうし、とても寂しいかもしれない。

 学校で閉じ込められて夜を過ごした僕は、その気持ちがわかっちゃう。


「もちろん」だから語気を強くして頷いた。「僕はここに来てよかったと思ってるよ! 最初こそ、ちょっと緊張したし、色々あったから寂しかったけど……でも、今は全然そんなことない!」


 僕の心からの言葉を受けて、石の向こうでは何を考えているんだろう。

 たぶんだけど、寂しいっていう感情を教えちゃったのは僕のせいだと思うから、それならなおのこと、こっちに来てもらいたい。


「みんな僕に優しくしてくれて、受け入れてくれた! そんなみんなだから、僕は自分の命を削ってバフをかけたんだ! 僕はみんなのことが大好きなんだよ!」


 なんか勢いあまって恥ずかしいことを言ってる気がするけど、でも、この機会に全部ぶちまけちゃえって自棄になってる。言い終わってから周りを見ると、みんなにやにやしてて、やっぱりちょっと恥ずかしいから語気がしぼんでいったけど。


『ふっ、なら心配はなさそうだ』


 だけど嘘は言ってないから。僕は目を丸くしているアーフィンに向けて頭を下げる。

 ここを紹介してくれてありがとう。アーフィンのおかげで、僕は今度こそみんなとちゃんとやれる気がするよ。……やりすぎないように注意はするけどね。


「よかった……ここにオズを預けて正解だった。大きくなったな、オズ」

「アーフィンのおかげだよ。ありがとう。アーフィンが僕を拾ってくれたから、今の僕があるんだ」

「よし」アーフィンが笑顔で手を上げる。「そんなことを言われたらおれも断れないな。加入については満場一致ということで、どうだろう、この依頼、引き受けてくれないか?」

「もちろん!」


 率先して返事をするのはルヴァフの役目だ。彼は嬉しそうに立ち上がり、ジョッキをかかげて全員を誘った。


「それじゃあまた、新メンバーを招待しにダンジョンへ行くか! これでメンバーが六人になるんだ、もっと難しいダンジョンにも行けそうだ! わくわくするな!」

「そうだね」クィラキュリーがジョッキをぶつけて。「君と二人で最初にパーティを立ち上げた時は、こんなことになるとは思わなかったよ。みんなといれば、きっともっと素晴らしい出会いもあるはずさ」

「ふん」嬉しさ半分照れ半分のむくれ顔でカナカミも続いて。「俺は別に生活できるだけの金があればいいんだが、まあ、お前らだけじゃ心配だしできるだけ付き合ってやるよ。……一人はやっぱり、寂しいもんな」

「よっと」僕はちょっと背伸びをして。「みんながいれば大丈夫だよ。これから僕もたくさん魔法を覚えるし、いっぱい頑張るから。みんなの安全は僕が守るんだ」

「だが」よろけそうな僕を支えるアーフィンが。「オズはいつも頑張りすぎなんだ。今度はおれが頑張る番さ。勝手にオズを切り離した分を取り返さないとな。ルヴァフたちには感謝している。おれの力を存分に使ってくれ」

『なんだ。何をしている。会話だけじゃわからんぞ』

「おっし、それじゃあ今度の依頼成功を祈って――――」


 立ち上がった時のテーブルとの身長差のせいで、ニルギスの控えめな声が聞こえたのは多分僕だけかも。終わったらちゃんと教えるから、ちょっとだけ待ってね。

 部屋中に笑顔が花咲いて、僕らは一緒に歩き出す。

 僕らの物語は始まったばかりで、これからが本番だって気がするんだ。六人もいればいろんなダンジョンに行けるし、秘境だって冒険できる。まだまだ見たことない物にたくさん出会えるんだ。

 冒険の目的はみんな違うけど、それでも大丈夫だって思えるのは今回の冒険で学んだ通り、みんながみんなのことを大事にしているからだ。

 それがあれば、どこに行っても大丈夫だって、みんなも信じてる。

 

 だからルヴァフの号令を受けて、僕らは新しい一歩を踏みだした。


「かんぱーい!」


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POSTEDAug 25, 2024
ARCHIVEDJun 10, 2026