異性になれるボタン

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 机の上にあるのは『ボタン』だ。

 服を留める『釦』じゃない。花の『牡丹』でもない。

 15㎝四方の箱から赤い傘のキノコが生えている様な見た目の、クイズ番組で回答権を得るために使うような『押しボタン』だ。

 ただどこかに繋がっているわけじゃない。独立したボタンで、普通に考えれば押すと音が鳴るとかその程度のおもちゃに見える。

 気になるのは土台となる箱の全面に書かれている文字。赤い太文字で『押した人間の性別が切り替わるボタン』と書かれている。

 底にはもう少し細かな説明があって、「変わりたい異性の姿を思い浮かべてボタンを押せばその姿になれる」のだとか。

 そして「もう一度押せば元の性別に戻れる」らしい。ただし「効果が出るのは1人に対して2回だけ」で、一度戻ったら二度と異性にはなれないとのことだ。

 はっきり言ってとても嘘くさい。

 いや嘘くさい以前にボタンを押しただけで人間の性別……どころか姿が変化するなんてあり得るわけがない。

 どう考えたってジョークグッズか何かだろう。

 こんなものがむき出しのまま道端のゴミ置き場に置かれていた。ゴミ袋にも入ってなかったってことは正規の手順で捨てられたものじゃない。

 ひょっとしたらこんなものを拾っていく人間が居ないかを隠れて見ていたなんてことも考えられる。

 ただそれでも、気になってしまったのは事実だ。

 昔から男が女に変わる話、TSF作品と呼ばれるらしいけどそう言った作品が好きだった。

 万が一。決してあり得ないのだけれど、宇宙人だとか悪魔だとか、人間の力を超えたナニカが用意した本物だって可能性が億が一にでもあるなら、試してみたいと思うのは仕方がないことじゃないだろうか。

 とは言え、だ。

 スイッチを押したことで爆発したりだとか、カメラが仕込まれていて押す姿を撮影されたりするのも嫌だ。

 なので段ボール箱を用意してみた。

 この中に入れて隙間からボタンを押せばもし爆発したって被害は抑えられるし、撮影されるのも防げる。

 あとは家の裏口から出て裏山に行ってしまえば撮影者が追いかけてきたとしてもまけるハズだ。

 というわけで、裏山にやってきた。俺の生まれる前に建てたらしいうちの物置小屋があるけれど、中で爆発しても嫌だし裏で押した方がいいかな。

 で、どんな姿になりたいかだ。

 何も起こらなかったら……いや、起こらないのだろうし、後から真剣に考えたこと自体が恥ずかしくなるのは分かってる。

 けど、兆が一にも実際に変われるとしたら適当に決めてしまった方が後悔するよな。

 どうせやるならとことんバカになった方が得だ。

 よし、どうせだったら極端な体型の方が面白いよな。

 一度女の身体を体験できたらすぐに戻るつもりだし、ずっとそのままの姿で居ようなんて気は全くない。

 だったら分かりやすく極端な方がいい。

 え~っと、ぱっちりした目の可愛らしい顔、どうせなら現実では有りえないピンクの髪なんてのも面白いかもしれない。細い眉毛や豊富なまつ毛もピンク色。声は思いっきりアニメ声で幼い感じ。身長は小柄だけど胸はすごく大きくて、腰は細くて、お尻も大きくて……

 大体こんな感じでいいかな。

 よし、思い浮かべたままボタンを押してみるか。段ボール箱の隙間から手を入れて……

 ―――ぼふっ―――

 なんだ? 煙? 爆発じゃないけど箱の隙間からすごい勢いで煙が……

「げふっ、げほっ……けふっ……」

 あれ? なんだ? 今の声。誰か近くにいたのか?

 いや、違うよな。でも今聞こえてきたのって俺の声じゃなかったし……

「まさか……」

 やっぱり。この声、俺の口から出てる? すごく甲高い、女の子みたいな声。

 煙が晴れてると、極端に突き出した巨大な胸が視界の下方向を埋めている。まるで服の中にバスケットボールでも押し込んだみたいだ。

 胸のせいでそれより下が見えない。鏡でも使わないと……でも物置には鏡なんてなかったよな。

 あ、そうだ。スマホで自撮りすればいいじゃないか。

「……うわ。」

 正直に言えば変わりたい姿を思い描いたと言っても細かなところまで決められていた訳じゃなかった。要素要素は考えていたけれど、全体像としてはあやふやな部分もあった。それがこうやって現実の姿として目に見える形になると……とんでもなかった。

 漫画のキャラクターみたいな極端にディフォルメされた体型。漫画やアニメならそう言ったものだと受け入れられたんだろうけど、現実の身体となると違和感が凄い。

 顔は可愛いのだけれど、現実でピンクの髪やまつ毛となるとやっぱり違和感の方が先に襲ってくる。

 小学生の様な身長なのに凄く大きな胸とお尻。服が破れていないのが不思議なくらいだ。腰を細く、と考えていたけれど服のせいで細くなっているのかどうかは分からないな。正面からだと胸とお尻の膨らみで横幅が広くて太っている女の子にしか見えない。

「……脱いでみるか。」

 物置小屋に移動し、上着に手をかける。膨らんだ胸がパンパンに詰まっていたせいで苦労したけれど何とか脱ぐことが出来た。

 もう一度写真を取ったものの、やっぱり正面からだと胸の膨らみが腰を完全に隠してしまっている。腰が見えなくなるほど大きい胸なんて見たことない。いくらこの身体が低い身長だからってとんでもないな。

「なら背中側から撮れば……」

 無意識に漏れてしまう自分の声に慣れない。普通に喋っている筈なのに、舌っ足らずで鼻にかかった様な声になってしまう。

「よ、っと。」

 腕を背中側に回して撮影してみる。女の子の身体になったおかげか、関節が軟らかくなっているみたいだ。思った以上に肩が回ってしっかりと背後から撮影することが出来た。

「おぉ……」

 なんというか、上半身だけ見るとほとんど細身の小学生だ。考えてみれば正面からの姿でも肩幅はすごく狭かった。背中から下もその細さのままで、腰は更に細くなってい下手に力を加えたら簡単に折れてしまいそうだ。おかげで背中越しに巨大な胸の大半が見えてしまっている。むしろこんな重そうなものが貼りついているのに折れてないのが不思議なくらいだ。

 で、腰までは細いのにお尻になると急に太くなっている。太ももも太くって、本来の俺の太ももよりも1回りも2回りも太い。ただ膝から下あたりで急に細くなっていて、足首辺りになるとまた小学生みたいに戻っている。

 サイズ感の違う人形を無理やり繋ぎ合わせたみたいだ。

「よし。」

 折角だからもうちょっと写真を撮っておこう。この身体でエッチなことをするのも興味がないわけじゃないけれど……それで戻りたくなくなってしまったら困る。それに女性の方が快感が大きいって話を聞いたこともある。元に戻った後物足りなくて後悔するのも嫌だし写真に留めておいた方がいいだろうな。

 気が済むまで撮れたらボタンを押そう。

 スマホ撮影でタイマーを設定できることを思い出したおかげで、色んなポーズの写真を撮ることが出来た。

 ついでに下も脱いで、これまで見たことなかった『女の子の部分』も見れたし写真としても残せた。

 顔が完全に変わってるから写真を見ても自分だとは思えないし、当分おかずに困ることはないはずだ。

「さて。」

 名残惜しく……はないか。ずっとこの姿で居たいとは思えないしな。

 服を着て……いや、それは戻ってからでいいか。脱ぐ時も引っかかって大変だったし、着るとなるとなおさらだ。この身体を簡単に押し込めるとは思えない。

 このままでボタンを押して……

 ―――ぼふっ―――

 さっきと同じ様に煙が広がる。これで元の身体に戻ったらボタンはどうしよう。俺にはもう効果が出ないってだけで他の人なら使えるんだろうし誰か希望する人に……いや、俺がこんなことをして楽しんだなんてバレるのも嫌だな。置いてあったゴミ置き場に戻しておけばいいか。

「……あれ?」

 なんだ?

 薄れてきた煙越しに目に映るのは巨大な胸。まだ変化が終わってないだけ、なのか? でもさっきは周りが全く見えないうちに声が変わってたよな。

「なんで……」

 声も可愛らしいアニメ声のままだ。

「確かに2回押せば元に戻れるって……んっ。」

 ヒザの内側に何かがぶつかった。

 いや、ヒザだけじゃない。

 同時にチンコにも何かがぶつかった様な気がする。

 さっきまではチンコはなくなっていたハズ。てことは男には戻ってる? でも、目に映る姿は何も変わっていない。

 それに太ももの内側を押されるような感覚と、玉袋が挟まれて圧迫されるような感覚。

「どういうことだ……」

 嫌な予感しかしない。確認のために股間に手を伸ばし、思わず固まってしまった。

 股間から生えた長い棒とその根元にある袋状の器官……触られ慣れたチンコの感覚。

 そして……これまでの触り慣れたものとはまるで違う、あまりに巨大なナニカに触れた手の感覚。

 相変わらず胸のせいで直接見ることのできない股間を撮影して確認する。

 写真に写っていたのはこれまで以上にとんでもない姿、股間からあり得ないほど巨大なチンコをぶら下げた可愛らしい女の子だった。

 まるで足が3本あるかにように、太くなった太ももと遜色のない太さのチンコが膝より下まで垂れ下がっている。

 その下にぶら下がっているのもハンドボールを二つ詰め込んだ巾着みたいに巨大になった玉袋だ。

 一体なんで……

 そう思って一つの文章が頭に浮かんだ。

 ボタンの底に書かれていた「もう一度押せば元の性別に戻れる」と言った文章。まさかだけど元に戻るのは性別だけで、それ以外の姿は変わらないって意味だったのか?

 確認のため玉袋の奥に触れる。さっきまでそこに出来ていた『女の子の部分』はなくなっていた。

 胸は大きい、お尻も大きい、腰は細いし、顔も声もどう考えたって女の子にしか見えない。けど……生物としては男になっているってことなのか。

「そんな……」

 2回目までしか効果はないとは書かれていたけれど、望みをかけて元の自分の姿を想像しながらボタンを押してみる。けれども何の反応もなかった。

「あ、あはははは……」

 これ、どうすればいいんだろう。

 こんな変わり果てた姿で家に帰って俺だってわかってもらえるのか?

 もし分かってもらえたとして、これからこんな姿でどうやって生きていけばいいんだろう。

「あれ?」

 何だろう……なんだか今、頭に引っかかることがあった様な……

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POSTEDJul 1, 2026
ARCHIVEDJul 1, 2026