意味が分からない。
もし私が選ばれたら……私の身体が先輩のものになっちゃうってことなの!? その後の私はどうなるの?
「それって、私が選ばれたら……これからずっとこの身体で生きていかなくちゃならないってことなんですか?」
「う~ん。ちょっと違いますよぉ。先生なんですからもうちょっと察しが良いかと思っていたんですけどねぇ。」
そんなこと言われたってこんな訳の分からない状況で一体何を察しろって言うの。
「つまりですねぇ。仮に高瀬先生が選ばれましたらぁ、今の安達先生と同じ状況になるってことですよぉ。」
同じ状況?
「分かりませんかぁ。そのままの身体で一年過ごして頂きましてぇ、来年またこのマジックショーに参加してもらうってことですよぉ。その際にはぁ、別のどなたかを連れてきてもらうことになりますねぇ。」
「あ……」
そういう、ことなの?
来年の文化祭に、誰かを連れてきて、今の私みたいにステージに上がらせて、同じ様に身体を弄らせて……それで『次の誰か』が選ばれれば私は『次の誰かの身体』を貰って普通の身体になれるって……
「ご理解頂けたようですねぇ。それでは生徒さんたちに、『どちらの先生に今の姿で居て欲しいか』を選んでいただきましょうかぁ。」
「ま、待って!!」
これ、おかしくない?
「何か気になることでありましたかぁ?」
「去年参加してると安達先生の本当の姿が理解できてるってことなんですよね?」
「はい、その通りですよぉ。」
それってつまり今この場で安達先生の姿を理解しているのは本人とマジシャン、そして2、3年生のことだ。
「安達先生がどんな姿になっているのかが分からない1年生も投票するって、それって私に不利じゃないですか。」
少なくとも今の私はこの場に居る1年生を含めた全員の希望から多数決で決められた姿だ。それに対して1年生は安達先生がどんな姿になっているのか分かっていない。だったら1年生は大半が私を選ぶことになるんじゃないの?
「心配しなくってもぉ、この投票が終わったら安達先生の姿も正しく認識できるようになりますよぉ。折角ショーを見学したのにどっちの先生も普通の姿のままとしか認識できないのは勿体ないですからねぇ。」
「そうじゃなくって。このままだと不公平じゃないかってことで……」
「その通りですよぉ。だってぇ、新たな先生が選ばれやすくなっていないといつまでたっても同じ先生が選ばれ続けちゃうかもしれないじゃないですかぁ。」
じゃあ、これってわざと差が付きやすくしてるってことなの?
「ですがぁ、そんな高瀬先生にも一つ朗報をあげますねぇ。実は安達先生、既に3年間この姿のまま過ごしているんですよぉ。」
「え……3年? だって……」
「えぇ。毎年一年生は安達先生がどんな姿かは分からないんですよぉ。にもかかわらず3回も過半数から選ばれたんですからそれだけ魅力的な先生だったってことなんでしょうねぇ。」
でも……だったら……うぅ、考えがまとまらない。
確かに昔から先輩は私によくしてくれたし、3年間もひどい目に合っているのならもう助かって欲しい。だからって私がこんな姿のまま1年……下手したらそれ以上過ごすなんて考えたくない。
「もっともぉ、毎年少しずつ安達先生を選ぶ人は減ってるんですけどねぇ。ほら、生徒さんたちからしてみればやっぱり『若くて』『綺麗な』先生を選びたいじゃあないですかぁ。どうしたって『若さ』は目減りしていきますからねぇ。去年はほぼほぼ同数でギリギリ選ばれたんでしたっけぇ?」
背筋がぞくっとした。少しずつ先輩を選ぶ人が減っている、去年はギリギリ……ってことは、今年は私が選ばれる可能性が高いってこと?
「さ、聞きたいことはもう終わりですかぁ? そうしたら生徒さんたちに選んでもらいましょうかぁ。」
「あ……」
やめさせたい。けど、その理由が思い浮かばない。
それにもしやめさせることができたとしても、既に身体を差し替えられている私がこのままの姿になるってことも考えられる。元に戻るには生徒みんなに先輩を選んでもらうしかない。
でも仮にここで私が選ばれたとして……来年になって連れてきた『次の誰か』が選ばれたとしてもそこで手に入るのは自分の身体じゃない。『次の誰か』の身体だ。完全な元通りの生活を送るためにはここで先輩を選んでもらうしかない。
「それでは今回は挙手ではなくてぇ、選んだ先生の前に移動して貰いましょうかぁ。」
生徒たちがざわめきながら移動を始める。
どちらかが圧倒的ってことはない。私の前から移動しない生徒、移動してくる生徒、先輩の前から動かない生徒、移動していく生徒が入り乱れてぱっと見ではどちらが優勢なのか見極められない。
「では前からちゃんと整列して貰いましょうかぁ。番号を数えますのでぇ、それに合わせて一人ずつ並んでくださいねぇ。ではぁ、いぃちぃ、にぃい、さぁん……」
マジシャンのカウントに合わせ少しずつ生徒が整列していく。
「……はぁちぃ、きゅうぅ、じゅうぅ……」
ある程度まで整列してしまえば最後までカウントされなくてもどちらが多いのかは分かってしまう。
「あらあらぁ、安達先生の列は全員並びきってしまいましたねぇ。それに対して高瀬先生の方はまだ並べていない生徒さんが居ますからぁ……おめでとうございます。選ばれたのは高瀬先生ですよぉ。」
「そ……そんな……」
少なくとも1年はこの身体で過ごさなきゃならないし、生まれてから今日まで私の身体だった身体は先輩のものになってしまうってこと?
「それではぁ、早速ですけれど安達先生を今の身体から解放してあげましょうかねぇ。」
さっき私の頭が収まっていた箱が先輩に被せられる。もう一度持ち上げると首なしの身体がそこに残って……
「ひっ!?」
なんで? さっきまで普通の身体だったはずなのに……ううん、違う。さっきまでもずっと『こんな身体』だった。ちゃんとそう覚えている。けど、それを全くおかしいと思えていなかったんだ。
これが他の人が私の身体を見た時の感覚になるってこと?
正しく認識できた先輩の身体は酷いものだった。私と同じかそれ以上にアンバランスな体型、あちこちに取り付けられたよくわからない道具、更にはさっきまで全然気にならなかったはずなのに強烈なにおいが漂ってきている。
「ふふ。分かりましたかぁ? この場に居なかった方から見ればぁ、先生も何の異常もない身体だと思われるってことですよぉ。例え嬌声をあげてもただの呼吸音くらいにしか思われませんしぃ、体液を巻き散らかしても少し汗をかいている程度に思われるってことですねぇ。当然その身体が原因であればおかしな動きをしたって問題にはなりませんよぉ。」
それは、助かる、けど……
「あぁ、あぁ! やっと。やっとまともな身体に戻れた!!」
喜ぶ先輩の声が聞こえる。気持ちは分かる。私だってこんな身体から戻れれば大喜びしたはずだ。けど、私の身体を使っておいてそんなに喜ばれると、妬ましく思えてしまう。
「さてぇ、高瀬先生。それではこれから1年過ごすにあたりましてぇ、注意事項がありますから覚えておいてくださいねぇ。」
「注意?」
って、一体?
「そんな大層なことではありませんけどねぇ。これから1年間は必ず学校に通うこと。家に引きこもったりしたらぁ、一生その身体のままですし周りの人からも正しく認識されますからねぇ。」
それはまぁ、そうなんだろう。先輩があんな身体のまま学校に来てたのだって元に戻る希望を繋ぐためだったのだとしたら理解できる。
「それとぉ、来年の文化祭ではマジックショーに『参加者』を連れてきて下さいねぇ。まぁ別に連れてこなくても構いませんがぁ、その場合は更に1年間はその身体のままでいて貰うことになりますよぉ。」
要するに次の生贄を用意しろってことだ。悪いけれど、私だってずっとこんな姿で居たくはない。
「それでは最後にぃ、人間関係を崩さないように貴女をここに連れてきて、今貴女の身体を使っているのが誰なのかを忘れて頂きましょうかぁ。」
「え、それって……」
あれ? なんか頭の中が、ぼんやりして……
「ご自分の身体がどうなっているか、来年に向けて何をしなくてはならないかを忘れることはありませんので安心してくださいねぇ。」
それって、安心できる、の?
「さ、それでは皆さん。今日のマジックショーは次が最後。一瞬でこの場をただの教室に戻して見せますねぇ。3、2、1、はい。」
「あっ!?」
一瞬あがった煙が晴れるとそこは無人の教室。
夢、ではない。めちゃくちゃにされた身体はそのままで強烈な刺激を送り込み続けている。
ただ、私をここに連れてきたのが誰だったのか、参加していた生徒が誰だったのか、それがすっぽりと記憶から抜け落ちている。
「うぅ……」
時計を見ればそろそろ今日の企画は終了の時間だ。見回り……見回りに行かないと……