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「やった、やったよホワイト!! 遂にジャークオーを倒したんだよ!!」
「うん、ブルー。私たち、やったよね!!」
あれは去年の2月頃だったっけ。街なかに突如現れた見たこともない怪物たち。別の世界からこの世界を支配しようとやってきた、ジャークオーを頂点とする悪の組織だったらしい。
たまたまその場に居合わせたせいで言葉を喋る不思議な生き物、コットに頼まれて友達のチアキと一緒に魔法少女っていうのに変身してジャークオーたちと戦うことになってしまった。私は魔法少女スプリングブルーとして。チアキは魔法少女オータムホワイトだ。
そして、年が明けて1月が終わろうという今日。遂にジャークオーを倒すことが出来た。これで世界に平和が訪れるはず。
「見て、空が。」
決戦の舞台となったのはジャークオーたちの世界。空は厚い雲に覆われていて暗く、ずっと雷が鳴り続けていた。宮殿の奥深くでジャークオーを倒した途端、窓から見える景色に変化が起こった。雲に隙間が出来て光が差し込んでいる。
「明るく美しい私たちの世界が妬ましいって言ってたけど、ひょっとしてジャークオー自身がこの世界を暗くしていたのかな……」
だとしたらあの人も悲しい存在だったのかも知れない。
「あらあらぁ。そんな風に感傷に浸っていていいんですかぁ?」
「え……アナタは。」
倒れたジャークオーの影から現れたのは露出度の高い妖艶な格好をした女性。ジャークオーの部下、幹部のアヤシーネだった。彼女が初めて姿を現したのは秋も終わるころ。本人曰く『私は運び屋』。はっきりとは分からないけれどワープする能力を持っているみたいだった。
アヤシーネが姿を見せるまでは怪物が現れる前に前兆があった。最初に黒い靄が現れて、次第に巨大化していく。靄が怪物の身体よりも大きくなると初めて怪物が現れていた。どうやら靄は別世界とこの世界を繋ぐ通路の役割をしてみるみたいだ。
怪物が通れるくらいまで靄が大きくなるには1~3日位かかっていた。だから最初の頃はどこで怪物が現れるか分かっていたし、準備をすることも出来た。
それなのにアヤシーネが現れて以来、前兆が一切なくなってしまった。いきなり怪物と共に街中に現れては、怪物を置いて1人姿を消してしまう。戦闘能力がないのだとしても十分すぎるほど厄介だった。
けれどそれもジャークオーの部下である怪物がいてこそ。彼女1人で何かできるとは思えない。
「アナタたちのボス、ジャークオーはもう倒したわ。それなのにまだ諦めないの?」
「うふふふふ。何か勘違いをしているようですねぇ。私は別にジャークオーの部下ってわけじゃあないんですよぉ。彼が居なくなった以上は私の好きにさせてもらうだけですからねぇ。」
どういうこと? この世界はジャークオーが支配者で、住んでいるのは全員ジャークオーの部下じゃなかったの?
「それよりもぉ、こんな所でぐずぐずしていていいんですかぁ? アナタ方はジャークオーが作り出した次元の通路……黒い靄って呼んでましたっけ? それを通ってきたんじゃありませんでしたぁ? ジャークオーが倒れた以上、通路は次第に閉じていっていますよぉ。折角ジャークオーを倒したのにこの世界に取り残されちゃいますよぉ?」
「えっ……あ、そうだ。」
確かコットがそんなことを言っていたハズ。黒い靄はジャークオーの力で生み出されている。彼が倒れたなら次第に萎んで最後には消えてしまう。ジャークオーを倒したなら私たちが通れるうちに戻らなくちゃならないって話だった。
「ホワイト、今はアヤシーネの相手をしている時間は無いわ。早く元の世界に戻らなくちゃ。」
「そうだね、急ごう。」
幸いアヤシーネが居るのは黒い靄に続く通路とは逆方向。彼女のことは気になるけどそれは後回しだ。アヤシーネに背を向け走り出す。
「ではぁ、また後で。」
のんきな声が背後から届く。後で……つまりまだ諦めてないってことだよね。折角ジャークオーを倒したって言うのに……
「え、あれ?」
「うふふふふ。お早いお帰りで。」
なんで!? 目の前には開けた空間とアヤシーネの姿。
そりゃワープを出来るのだから先回りをされたのなら理解出来る。けど、アヤシーネの横には倒れたジャークオーの姿があった。つまり、私たちはまたジャークオーと戦った部屋に戻ってきてしまったってことになる。
靄の出来ていた宮殿の外からこの部屋までは一直線の通路だった。どこかで道を間違えたなんてことは有り得ない。
「あらあらあらあら。全く気付いてなかったみたいですねぇ。通路の空間を弄って、途中から逆方向に進むように繋げてあげたんですよぉ? まあ壁には似たような装飾が続いていますしぃ、違和感がないように繋げましたから仕方ありませんかねぇ。」
「これ、アナタの仕業なの?」
「えぇ、そうです。また逃げようとしても無駄ですよぉ。私がいる限り、アナタ方は自力では決してこの宮殿から逃れられませんからねぇ。」
つまり、アヤシーネを倒さなくちゃならないってことだ。ジャークオーとの戦いで大分力を消耗してしまっているけれど、まだ戦うことは出来る。
「ホワイト、時間がないし一気に決めよう。」
「うん。やろう、ブルー!!」
ホワイトの手を繋ぎ、2人で力を高める。私から立ち上る青い光とホワイトから生み出される白い光。混ざりあって水色になったところでアヤシーネに向け、一気に放出する。
『はあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』
普段の戦いなら怪物の動きがそれなりに鈍ってから使う大技だ。けれど怪物と違ってアヤシーネが素早く動くところを見たことはない。そのまま撃っても……
「きゃあああぁぁぁっ!?」
水色の光がアヤシーネに直撃したと思った瞬間、衝撃を受けたのは私たちだった。攻撃をするそぶりなんて全くなかったのに。
「何……今の。」
倒れた私たちをアヤシーネが見下ろす。
「駄目ですねぇ。先ほど、通路の空間を繋いでこの部屋に戻らせたって話をしましたよねぇ? つまりぃ、離れた空間を自由に繋ぐことが出来るんですよぉ。私の目の前の空間をアナタ方の背後に繋いでしまえばこの通り。自分たちの攻撃を自分で食らってしまうってわけです。」
「そんなこと、出来るの? だったらなんで今までは……」
「それはですねぇ、ジャークオーの頼みで動いていたからですよぉ。」
どういうこと?
「私の出来ることを彼に教えた上でぇ、どんなことをして欲しいから頼みを聞いていたってわけです。ですからやろうと思えばいつだってこんなことが出来たんですよぉ。でもですねぇ、プライドなのかこの世界線における制限なのか。頼まれたのはせいぜいが怪物の運搬程度。それだって部下の怪物だけで、自分で攻め込もうって時にはわざわざ自力で次元の通路を生み出すんですからねぇ。おかげで通路をアナタ方に逆利用されて、こうして攻め込まれて負けてしまったんですから。」
なんだろう。言っている意味は分からないけれど、何だか凄く怖い。
「さてさて。元の世界に戻りたかったんですよねぇ。大丈夫。私がちゃあんと送り届けてあげますよ。もっとも、アナタ方が望む形ではないでしょうけどねぇ。」
「え……きゃあっ!?」
いきなりの浮遊感。そして上昇していくアヤシーネ。違う、逆だ。私たちが落ちてる? 床が抜けたってこと? すぐに視界は真っ暗な闇に埋め尽くされてしまった。