no preview
DESCRIPTION
浮遊感。そして下から吹き付られる風。暗闇の中を落ち続けている。手を伸ばしても触れるものはない。スプリングブルーに変身すれば身体能力は上がるけど空を飛ぶことが出来るわけじゃない。こうなったらただ落ち続けることしかできない。
「きゃあっ!?」
いきなりの眩しさに目が眩んだと同時に全身に衝撃が走った。
「ここ、穴の底?」
気付けば浮遊感もなくなっていて、私は地面に倒れているのが分かった。でも穴の底なら明るいのはどうして?
「え、ここって……」
次第に明るさに目が慣れてくる。今まで暗いジャークオーの世界に居たからそっちに目が慣れていただけで、特別明るいってわけでもなかった。
目に写るのは見覚えのある景色。私が倒れていたのは元の世界、最寄りの駅前にあるスクランブル交差点のど真ん中だった。周りの人からすれば突然私が現れたように見えたのか。歩行者信号が青になっているものの遠巻きに囲まれている。
「あれって、スプリングブルーだよな。本物?」
「え? じゃあここに怪物が現れるの?」
「うわ、実物初めて見た。思ったより小柄なんだな」
そんな声が聞こえてくる。
「ねえホワイト……あれ、ホワイト? ホワイト、どこ!?」
ここに居るのは私だけでホワイトの姿はどこにも見当たらない。一緒に落ちていたのにどこかではぐれちゃったの?
「大丈夫ですよぉ。ここに居ないと言うだけでぇ、ホワイトさんもちゃあんとこっちの世界に戻ってきていますからねぇ。」
「あ……アヤシーネ。」
いつの間にかアヤシーネが目の前に立っていた。慌てて立ち上がり身構える。
「お二人を一緒に、とも思ったんですけどねぇ。ホラ、貴女がたは変身する為にお二人が揃っている必要がありますよねぇ? こうして分断してしまえば変身を解こうとは思わないでしょう? 何しろ一度変身を解いてしまいましたらもう変身できないわけですものねぇ。」
確かに私たちが変身するには手を繋がなくちゃならない。けどそもそもアヤシーネの目の前で変身を解くつもりなんてない。何を狙っているのかがよく分からない。
「分かりませんかねぇ? 折角なんですから皆様には変身後の、スプリングブルーとしての姿を見て貰いたいんですよねぇ。この世界に現れたヒロインがひどい目に遭い続ける。面白い見世物だと思いませんかぁ?」
「見せ物って……」
「ですからぁ、貴女はこれからずっとこの場で過ごして貰うんですよ。」
この場って……交差点の真ん中で? 一体何を言っているんだろう。見れば歩行者信号は既に点滅を始めていてすぐにでも変わってしまいそうだ。ここに居たら迷惑になってしまう。アヤシーネが暴れるわけじゃなければ一先ず移動を……
「えっ……あれ!?」
魔法少女に変身すれば身体能力も向上する。一足飛びでビルの上にとビルのことだって可能だ。
この場から離れるため思い切り飛び上がった筈なのだけれど、気付けば同じ場所に立っていた。一瞬目が眩んだような気がしたけれど何が起こったの?
「当然逃がさないようにしてあるに決まっているじゃないですかぁ。」
「何? 今の、貴女の仕業なの!?」
そう言いながらももう一度飛び上がる。けれども結果は同じだった。
「ですからぁ、私が離れた空間を繋げる能力を持っているというのは何度もお話しましたよねぇ。今回は貴女を中心に空間を捻じ曲げましてぇ、半径2m程の範囲でループするようにしてあるんですよぉ。ですから貴女は移動しようとしてもまた同じ場所に戻ってしまうってわけですねぇ。」
「そんな……」
確かめるため、手を突き出しながらゆっくりと歩く。少し進んだところで黒い靄が現れ、包まれた手が消えてしまった。
と言っても感覚は間違いなく残っている。見えなくなっている、と言った感じだ。
「ほらほらぁ。そのままで後ろを見て下さいなぁ。」
「ひっ!?」
私の背後、2m程の場所にも靄が有ってそこから手が生えていた。私が手を動かせば同じように生えている手も動く。
「本当でしたらこんな靄なんて必要も無いんですけどねぇ。ただそのままですと腕の断面、筋肉や骨なんかも見えちゃうじゃないですかぁ。グロいのがNGの人もいるでしょうからこうして配慮をしたって感じですねぇ。」
靄から腕を引き抜くとちゃんと私の腕は元通りに繋がっている。
「さてさて。それともう1つですねぇ。はい見ていて下さい? 周りの方々もご一緒に確認してくださいねぇ。」
周り、と言われて見渡すと信号は既に変わってしまっていた。青になっているにも関わらず進めない運転手がイライラした顔でこっちを見ている。
でもしょうがないじゃない。私だってすぐにでもここから移動したいのに、この変な空間に閉じ込められているんだから。
「と言うわけでぇ、コレです。」
アヤシーネが手を差し出すと空中からバスケットボールが現れた。
「投げますのでキャッチしてくださいねぇ。」
私に向かって軽くボールが投げられる。受け取っても避けてもおかしなことになりそうでどうしようかと身体が固まった瞬間だった。
私の目の前でボールが黒い霧に包まれて消えてしまった。
「え!?」
反射的に振り向くと、背後では霧からボールが現れるところだった。そのまま歩道のギャラリーの元へと跳ねていく。
「お兄さん、ナイスキャッチ。ではぁ、こちらに投げ返して頂けますかぁ?。」
「あ、はい。」
ギャラリーの一人、大学生くらいのお兄さんが言われるままにボールを投げる。同じようにボールは途中で姿を消しながらアヤシーネの元へと跳ねていく。
「分かりましたぁ? この空間はですねぇ、中から抜け出せないだけではなく外からも干渉できないんですよぉ。ですのでぇ、運転手の皆様におかれましてもそのまま走って頂いて構いませんよぉ。私はこうして避けますのでぇ、お気遣いなく。」
アヤシーネが5mほど浮き上がる。確かにあの高さならトラックが走ってきても当たることはないだろう。
「それにぃ、万一当たってしまったところで魔法少女は車の衝突程度でどうにかなったりはしませんからねぇ。ほらほら、後ろに渋滞も出来ていますから手早くどうぞぉ。」
促されて車が走り出す。そもそも私が立っているのは交差点の真ん中付近だ。丁度ど真ん中に移動してしまえば空間がおかしくなってなくても轢かれたりはしないハズ。ただ当たらないと思っていてもちょっと怖い。
横には移動できないとしても上になら飛び上がれるはず。もし車がそのまま着たら飛び上がって……そんな心配は杞憂だった。バスケットボールと同じように車は一部が消え去り、そのまま走り去っていく。
「さてさて。それでは周りの皆様にも迷惑をかけないことが判明したところでぇ、改めて本題に入りましょうかぁ。」
「本題?」
私をここでさらし者にするって話じゃなかったの?
「軽いものから始めていきましょうかねぇ。ハイ、こちらを見て下さい?」
「なにそれ……ボール?」
再びアヤシーネの手元にボールが現れる。色は肌色、大きさははささっきのバスケットボールくらいだ。それが今回は2つだ。ううん、よく見ればちょっと違う。2つのボールは1枚の板に並んで張り付いてるみたいだ。
「はぁい、皆さまご注目。まずは空間に穴を開けましてぇ、そこにこのボールを入れていきますとぉ……」
空間に黒い靄が現れ、ボールが飲み込まれていく。残っているのは板だけだ。黒い靄の先が別の空間に繋がってる、ってことだよね。じゃああのボールはどこに現れるの?
「え……なに、これ!?」
ボールが現れたのは私の胸元だった。黒い霧はなく、コスチュームの表面から直接ボールが生えている様に見える。
「うふふふふ。どうです? まるで大きなおっぱいが服を突き抜けているみたいでしょう?」
「なっ!?」
言われるまではただのボールだと思っていた。けど確かにこの色、この形……サイズは大きすぎるけどおっぱいみたいだと言われればそれっぽく見えなくもない。
「こんなのっ!!」
ボールを掴んで引っ張っても私の身体ごと引っ張られてしまう。逆に元の空間に押しやろうとしても身体が押されるだけだ。
「無駄ですよぉ。貴女の胸元に空間の穴を固定してますからねぇ。直接身体に貼り付けているのと同じようなものですからぁ、押そうが引こうがそのままですよぉ。」