俺の相棒の元騎士黒狼冒険者が魔術の副作用で性欲マシマシ金玉グツグツちんぽギンギンになっても涼しい顔をしているけど結局性処理してあげる話
山岳地帯の岩肌に唸りを上げる風が吹きつける。
あちこちがでたらめに隆起して露出した巨大な岩の上と、その隙間を縫うように黒い影が躍動していた。
全身を覆う漆黒の毛並みの下に鋼のように鍛えられた肉体を隠した黒狼は、鉄の鎖と鋼板を組み合わせた重々しい鎧甲冑に身を包みながらも機敏な身のこなしで相対する魔獣の体に両刃の長剣を走らせる。
元々そこにあった亀裂をなぞったかのように泥土に塗れた魔獣の毛皮が裂け、どす黒い血が吹き出す。
剥き出しの岩肌を黒く染めながらくずおれる四つ足の獣を一瞥して、黒狼は利き手だけを隠すような右肩を覆うマント……ペリースを翻し、背後から迫っていた魔獣を躱す。
四つ足の姿はなるほど獣と言うに相応しいが、その顔はゴブリンのような人面をした醜い異形の化け物だ。
黒狼は半回転するように振り返りながら、突進してくる魔獣目掛けて剣を突き出す。毛皮をぶつりと裂いて胴体を貫いた剣に低い呻き声を上げる魔獣から剣を抜き、黒狼は飛び掛かってくる新手からひらりと素早く岩石の上へ逃れて、岩から岩へと跳ねるように距離を取った。
黒狼が岩から降りて着地すると、風を孕んだ片マントがふわっと漂い、こめかみからうなじにかけての獣毛を結って束ねた編み込み髪が柔らかく揺れる。
続いて黒狼の質量に僅かに大地が揺れ、重たい装備ががしゃっと揺れて金属音を立てる。
それほどの鎧を身に着けていながら黒狼の身のこなしは軽やかで、風に煽られた木の葉が舞っているようでもあった。
騎士としてさる大国に仕えていた過去を持つ黒狼は、ただの冒険者として生計を立てるようになった今でも当時から使い込んでいた装備を用いていた。
その胸当ては厚い鉄板を打ち出した無骨な作りだが、大胸筋の隆起に沿って微かに歪んで物々しい実用性に富んでいる。
元は階級を示す肩章を留めていたのだろう、その肩当ては今では半身だけを隠すペリースマントを提げており、武骨なプレートアーマーは威圧的ながらも黒い毛並みを更にマントの布地で隠す姿からはなるほど騎士らしい洗練された印象が漂ってくるようだった。
腰には革帯で締められた鉄製の腿当てがぶら下がり、太く逞しい大腿筋を覆いながらも動きを妨げないよう湾曲した設計をされていた。
手に握る長剣は新調されたものらしく刃こぼれ一つないが、柄には使い古された革が巻かれ、冒険者として剣を振るう黒狼の戦歴を物語るように黒ずんでいる。
マズルの唇からは鋭い下牙が覗き、眉間に刻まれた深い皺が睨むような眼光を縁取るその顔は、見る者を怯ませるほどの厳つさを放っていた。
駆け上がるように岩肌を蹴上がり、隆起した岩の上に位置どった黒狼の足元では、魔物の群れがうごめいている。
牙を剥く四足の魔獣が岩肌をよじ登り、唸り声を上げて飛びかかると、それをきっかけに縄張りを侵す黒狼へ我先にと魔獣が殺到する。
黒狼は動じることなく、指先が露出した指抜きの革手袋越しに長剣を握り直し、軽やかに振り上げる。刃が風を切り裂く音と共に、岩の上に上がった魔獣の首が宙を舞い、黒い血が地面を染めた。
返す刀で二体目を薙ぎ払い怒涛の勢いから逃れるよう跳躍して岩から飛び降りると、群れの中でも隙を見せていた次の標的に狙いを定める。
鎧の重さを感じさせない身のこなしで、岩場を渡りながら、剣を振り下ろして両断する。運よく断ち分かれずに繋がりを保ったとしても、刃で胴の半分ほどを裂かれた魔獣は致命傷に倒れるしかない。
黒狼の毛皮は汗で張り付き、太い腕が剣を握るたび筋肉が膨張する。鍛え抜かれた体は、戦場でこそ輝きを増すようであった。
再び岩の上に駆け上がる黒狼を魔獣が吠え立てるが、黒狼はそれを無感情に一瞥するだけで、剣を突き刺してその息の根を止める。
その一方で……大立ち回りを演じる黒狼とその魔獣を遠巻きに眺めるように、旅装に身を包んだ年若い男が岩棚に立っていた。
気配を消し、全ての魔獣の注意が黒狼に集まるのを待っていた青年は、機を見るに素早く呪文を紡ぐ。
短い詠唱の後に、むき出しになっている巨岩の間を樹木の根が波のように幾本もうねりながら伸び上がり、魔物の足を絡め取る。
津波と化した根は鞭のようにしなり、意思を持つ触腕として数体の魔獣を締め上げ、あるいはただ単純に動きを阻むと、注意を逸らした個体から黒狼が一瞬のうちに刈り取っていく。
押し寄せる魔獣の足止めが功を奏するのを見て、青年は意識を向ける先を切り替える。
相棒が剣を振るう瞬間を見計らい、青年はそれまでと別の呪文を放つ。
淡い光が黒狼の体を包み、肉体強化の魔法が彼の筋力を一時的に高める。それは重たい鎧を身に纏い、鋼の長剣を振るう黒狼の体力を支え、戦闘を継続させるためのものだ。
黒狼は体に力が戻るのを感じると、魔獣を殲滅させるまで剣を振るい続ける。
魔物を斬り伏せる間に現れた新たな群れを青年の術が分断し、一度に相対する数を減らす。
黒狼が振り向かずとも背後から響く魔獣の呻き声と根の軋む音で術師の援護を確信した様子であり、男もまた黒狼の剣捌きに全幅の信頼を置き、冷静に魔力を調整して戦場を掌握する。
その連携は統率が取れており、それが一朝一夕のコンビでないことを物語っているようだった。
冒険者である黒狼と青年の二人が受けた依頼は、山岳地帯の村々を脅かす魔物の異常発生を鎮めるというものだった。
依頼主は近隣の領主によるものだ。数週間前に地震が起きてから領内のある地域で見かける魔獣の数が異常に増えたことで、交易路が封鎖されるほどの事態にあると危機を訴えていた。
その原因は不明だが、普段は出没しないと言われていた山麓にまで魔物の巣窟が形成されていることから、何らかの理由で繁殖が加速しており元の生息域から更に分布を広げている可能性が高いと二人は推測していた。
交易の途絶は村の経済に支障をきたすばかりか、村の存続や人々の命にも関わる。
領主は村人たちからの要請を受け、冒険者ギルドに依頼を出し調査を急がせたという経緯があった。
黒狼を襲う魔獣の何頭かは戦闘から離脱し、逃げ去って森の奥へ消えていったこともあって目の前の群れは数を減らしつつあったが、黒狼の表情には油断の色が一切ない。
眉間に刻まれた皺を深め、鋭い目つきを向ける彼は襲ってくる魔物の最後の一匹を倒すまで剣を振るうのだろう。
その光景はもはや殺戮に近い。
もし彼らがただの野生動物であれば共存の道もあり得たかもしれない。だが、魔物は所詮魔物、人類を食い物として見ている天敵であり、それどころか他の動物や植物を食い荒らす害に満ちた存在だ。
それだけでなく、過剰な繁殖を繰り返し人の住む縄張りを侵してしまった以上、彼らには人間に関わってはならないと教える天敵が必要だった。
胸部を貫かれた魔獣がぐらりと倒れる。不安定な岩場から骸が滑り落ちて、魔力を含んだ黒い血が特徴のない岩肌をべっとりと汚した。
岩場に吹きつける風が弱まると、唸るような音が遠のいて静寂が訪れる。
黒狼は血脂と臓物で汚れた長剣を振り、自分のマントの裾で刀身を挟み汚れを拭ってから鞘に納めると、長時間臨戦態勢にあった体をほぐすように肩を軽く回す。
黒い毛並みに汗を滲ませた黒狼の太い腕が鎧の中で軋み、大胸筋が鋼板を押し上げるように膨らむが、彼の鋭い目は依然として油断なく周囲を睨んでいた。
やがて、後方で控えていた男が樹木の根を地面に沈め呪文の残響を払うと、魔獣の骸に囲まれながら黒く染まった岩肌に立つ黒狼の下へ小走りに駆け寄る。
「な、何とか退いてくれたみたいですね……」
「……うむ」
青年の言葉に黒狼は頷く。辺りに立ち込める死臭に青年は眉をひそめて、「こんな数になっているなんて」とひとり呟く。
黒狼は周囲に目を走らせた警戒態勢のままそれを聞いているが、返事をすることはなかった。
青年はその場にしゃがみ込み、既に事切れている魔獣の骸の一つに目をつける。倒れ伏した体に触れて、目を伏せた青年は黒狼に言う。
「……やはり、彼らはこの地の魔力以外に何らかの魔力源を得ているみたいです。それも……人工物に近いような……」
普通の動物や獣と違い、魔物の一部である魔獣は食物だけでなくその地から湧き出るマナとも呼ばれる魔力を摂取して生きる生物だ。
生まれながらにして魔力を体に宿す彼らは、一般的な生物と比べ運動能力に優れていたり特別な力を持っていたりすることが多い。
しかし、その体に取り込まれた魔力に異質な色を感じ取った男がそう言うと、黒狼は周囲に目を向けたまま唸るように言う。
「……何者かによるものだろうか?」
「すいません、そこまでは……ですが、彼らが逃げた先に向かってみましょう。これだけの数になるまで繁殖してる以上、その供給源を根城にしている可能性が高いですから」
「……承知した」
果たして彼らの根城に何があるのか、先日の地震はどんな因果関係にあるのか。どちらにしろ行ってみないことにはわからないだろう。
青年の言葉に黒狼は互いに頷き、先を急ごうと足を踏み出す。
岩肌が剥き出しになった山岳地帯を超え、山の中腹に緑が広がる森へ足を向けたその時、黒狼は汗ばんだ頬が体温以上に冷えるのを感じて、何気なく指先で頬を拭う。
すると、べっとりと鮮血が手を汚すことに気が付いて、足を止めた。
どうやら魔獣の鋭い爪が戦闘中に掠めていたのだろう、黒毛に隠れて気づかなかった傷から血が滲み出しており、獣毛を濡らす血が冷えて乾きつつあった。
青年は「どうしました?」と足を止めた黒狼の半歩前から振り返るが、黒狼が頬を拭って気にした様子からその傷を認めると、少し驚いたように言う。
「あ、傷が……大丈夫ですか?」
「……痛みはない、が……」
黒狼は再度頬を拭う。真一文字に切られた傷は浅く、ただの掠り傷だったが一向に血が止まらず流れ続けていた。
もしかしたら魔獣の爪に傷口の血を固めないようにする毒性でも含まれていたのかもしれない。
傷自体は大したことないだけに、出血だけが煩わしい黒狼は少しだけ申し訳なさそうに尻尾を振ると、前に立つ男に申し出る。
「……すまないが、頬の治療を頼めるか」
黒狼は低く呟き、患部が見えるように斜めを向いて青年に頬を差し出す。
それを聞いた青年は、一瞬眉を寄せて、背囊にしまい込んでいる布と薬草のことを思い出す。
今は一刻を争う緊急事態というわけでもないし、これくらいの傷なら自分の魔術を使わなくても……と思ったが、黒狼がこう言って頼むときは魔術による治療を要請する時だということをよく知っていた。
それが面倒なわけではないが、少しばかり気が進まない青年は「わかりました」と言って、自分より二回りほど大きな黒狼に近づく。
傷口に手を翳し、頬を撫でながら淡い光を放つ治癒の魔術を施すと、すぐに血は止まり、裂かれていた傷口が元通りに癒着する。
「……どう、でしょう? 体に異常はないですか?」
「む……」
頬から手を離しながら、青年がおそるおそる黒狼に尋ねる。
その声音には傷の具合を心配する以上の緊張が含まれていたが、狼は眉間の皺を深めながら「問題ない」と慣れたように短く返すのみだった。
実のところこのやり取りは毎度のことで、男が魔術を行使するたびに繰り返されるお決まりの儀式のようになっている。
青年はほぅっと安堵の息を吐き、「ならいいんですけど」と言って言葉を続ける。
「毎回口酸っぱく言うようですが……何かあったら、すぐ言ってくださいね。その……俺の魔術、副作用とかあるみたいなので……」
「……承知した」
黒狼はそう言うと、血に汚れた指先をマントで軽く拭い、鎧の重さを感じさせない慣れた足取りで先へ進む。
こめかみからうなじにかけて編み込んで結った毛並みを揺らしながら前を歩く背中に、青年は溜息を吐く。
わかっているのならいいんだが、と思いつつ、まあそれもいつものことかとその後ろをついて歩くのだった。
♂♀
元騎士である黒狼ヴレグラムと、その相棒である術師ヒューイがコンビを組んで依頼をこなすようになってから一年とちょっとが経っていた。
王国騎士団の精鋭だった黒狼は、庶民生まれの叩き上げながら王都の城壁を守る盾としてかつて名を馳せていた。
騎士団と言えば聞こえはいいが、そこにあるのは後ろ盾となる貴族達基準の激しい派閥争いと、自分だけが上に行こうとする意地汚い出世欲による権力闘争だ。
自分に命じられた任務は民のためか、それとも彼らが座る椅子のためか。
不信感を抱き、騎士としての生活に疑問を抱き始めていた彼は、ある日ついに憧れだった騎士団を見限り、そこを離れる決断を下した。
原因は、とある伝統にある。その王国は森を切り拓き魔物を征して興されたという伝承を持ち、騎士団はその伝承に則り総出で国内外の森や山々に住まう魔物を制圧し、開拓を推し進めるという任務を年に一度の伝統として受け継いでいた。
それぞれの領主が民の代表となり、騎士団の出征先を一年かけて慎重に議論を重ね、危険な魔物の住処へ騎士を送り出す。
騎士は人々を守る盾となり、そして人々の道を切り拓く剣となる栄誉をよすがに、人の手が入ってない未開の地で孤独に戦い続けるのだ。
未知の魔物を相手に戦うのだから、当然無傷で済むはずもない。
それでも、一つの部隊が壊滅……数名の生き残りを残し、殺されるという事態は近年でも稀なことだった。
訓練を受け、体を鍛え抜いた騎士達を次々に屠ったのは小さくすばしこいウサギ型の魔物だった。
彼らはその愛らしさとは裏腹に、一瞬で見失うほどの機敏さと人体の急所や頸動脈を的確に切り裂く残忍さを持ち合わせていた。
剣で切るには小さく、振り払うには早すぎる。それが何十体という大群で現れたと聞けば、全滅しなかっただけでもマシなのかもしれない。
だが、相手がどんな魔物だろうと、ウサギだろうとイノシシだろうと関係ない。それはただのきっかけに過ぎないのだから。
結局この騒動は、生き残った騎士が別の地区にいた部隊に救援を求めたことで騎士団員が総掛かりで援護したことで事なきを得た……かのように見えた。
実は、そのウサギと交戦する騎士達からの救援要請を受け取りながら、私欲のため揉み消していた人物がいた。
それが、黒狼ヴレグラムの上官だった。
黒狼がそれを知ったのは単なる偶然で、陰謀を暴こうとして暴いたわけではなかった。
それでも、『ウサギ相手に助太刀なんて送れるか』というだけの理由で救援の要請を無視していたのならまだ理解ができた。
ところが、かつて尊敬していた上官は、『連中が死ねば、死なせた上官は無能として出世が遠のく分、自分の地位が向上する』という旨の文句を口にして開き直り、折悪く事情を知った寡黙な黒狼の前で居直って仲間に引き入れようとしたのだった。
上官の誤算は二つあった。
黒狼は寡黙で感情の表出が乏しいながらも、死んでしまった騎士達の中には確かに絆を感じていた同僚がいたこと。
そして、どんな時でも眉一つ動かさない印象のある黒狼であっても、理由があれば反射的に剣に手がかかるほどに激昂するということだった。
気づけば、遠征先の天幕には血が流れていた。腕を切り落とされた上官の悲鳴に駆けつけた騎士により黒狼は取り押さえられる。
首を狙ったが、相手の咄嗟の身のこなしで防がれてしまったと語る黒狼は気が狂ったとして投獄されかけたが、幸運なことにウサギによって壊滅した部隊の生き残りが意識を取り戻したことで黒狼の弁論の証人となり、処罰は免れた。
後になって、出征先に危険な魔物がいると知りながらその行き先を推したのもその上官だという話が騎士団内に出回ったが、既に騎士団を去る決意を固めていた黒狼にはどうでもいいことだった。
弱者を守り、誰かの救いとなる騎士に憧れて剣を握っていたヴレグラムにとって、腐敗した権力に仕えることは耐え難い屈辱だった。
しかし黒狼はそれ以上に、何も気づかず、何も止められずにただ命令に従っていただけの自分が許せなかった。
もちろん一介の騎士であり、貴族や権力の後ろ盾も持たない黒狼に上官の企てを見抜き、未然に防ぐ術があるわけでもない。状況を見れば、仕方がなかったというのは言うまでもないことだ。
それでも、黒狼は一番近くにいながら気づきもしなかった己を恥じ入った。自分が気付いてさえいれば、救える命はあったはずだと思ってしまう。
騎士団を去ることを決めたのは、団内への不信が原因だが、そんな自分から目を背けるためでもあった。
無力感に苛まれ、そのまま憧れだった王都をも後にした黒狼はしばらく職を転々としたが、結局自分にできることは剣を振るうことだけだと気づき、冒険者として生きていくことを決めた。
最初から、自分などが何かを守り、誰かの盾になれるわけもなかったのだ。できることと言えば、誰かを傷つける暴力しかない。
そう考えるようになった彼は、強靭な肉体と剣技を頼りに魔物を屠り、時に単身で無謀とも言える戦いっぷりで山賊達を相手にして、その報酬で生計を立ててきたのだった。
半ば自暴自棄でもあった黒狼は、重装の騎士として戦うことに慣れていたこともあり、ヘルムも盾もない戦闘に不慣れで生傷が絶えずにいた。
自然のマナを体内に取り込み、生命力を活性化させる癒しをもたらすドルイド魔術の使い手である青年、ヒューイと出会ったのは、そんな時だった。
術師ヒューイは、師のもとで研鑽を積んだ一流の魔術師ではあるもののまだ修行中の身であり、扱う術には術者の未熟によるとある欠陥があった。
それが原因で相手に不都合をもたらしてしまったため、元々属していたパーティーを解雇されてしまい、一人依頼をこなし研鑽を積んでいるところだった。
そんなヒューイとヴレグラムを引き合わせたのは、依頼をこなすたびに生傷を増やして帰ってくる仏頂面の黒狼を心配したギルドの受付娘だったりするがそれはさておき、二人は顔を合わせてからいくらかの話し合いや試運転代わりのクエストを経て、正式に手を組むこととなった。
黒狼は鎧の隙間から覗く黒毛を汗で濡らしつつ、涼しい顔で歩を進める。その鉄面皮にヒューイは感心するばかりだ。
元騎士ならではの精神力と肉体の強さがあれば、自分の未熟な魔術によって生じる不利益や不都合など瑣末なものなのだろう。
それでなくとも一人で依頼をこなせるほどの凄腕だ、最初から自分の力を大きく当てにはしていないのかもしれない。
卑屈な考え方をしてしまうヒューイは、自分が扱う魔術によって他人に生ずる現象……副作用のようなその現象が発生する条件を正確には把握できていなかった。
今のところそれは人によって出たり出なかったりするという認識で、自分でコントロールできないことはこの黒狼も知っている。しかしそれでも、文句を言わず自分と組み、頼りにしてくれるこの黒狼には恩義に似た思いすら感じていた。
自分の不出来を戒めると共に、副作用の原因を見極めることは今後自分が冒険者としてこの狼と並び立つのであれば、必須の命題のように感じるほどだった。
黒狼の広い背中を見つめながら、青年は内心で気を引き締める。
自分なんていなくても、と思うのは簡単なことだ。
だが、この狼が自分を選んでくれた恩に報いようと思うなら、役に立とうと思うなら自分も己の未熟さを克服しなければならない。
黙って先を歩く黒狼の後ろをついて歩くヒューイは、まずは目先の仕事を片付けようと決意を新たにして依頼に臨む。
山の斜面を登る二人の足音が、風に混じって小さく響く。
剣士と術師、獣人と人間。正反対の二人が進む道は、躓いてしまいそうになる石や、行く手を阻む岩が転がっており、行く末を暗示するかのように暗く影を落としていた。
♂♀
夕陽が山岳の稜線に沈みかけ、岩場に赤い影を落とす頃、黒狼と青年はどこかぐったりとした調子で山腹の奥にぽっかりと口を開けた洞穴から姿を現す。
その姿は土や泥に汚れ、ただ疲弊しているだけというよりも一仕事を終えたばかりという様子であった。
「さ、流石に疲れましたね……でも、まさかあんなものが遺されてたなんて……」
「……うむ」
魔獣の異常発生の原因は、魔物が一般的にエネルギー源とする大気に漂う魔力……マナが著しく濃くなっているからではないかと睨んでいた通り、この一帯の地に魔力を供給し続ける遺物がこの洞穴の中に眠っていた。
それはまだ魔術が一般的でなかった遥か昔に、魔女狩りを逃れ山奥に潜んだ黒魔術師の一派の遺物だった。
井戸のような魔力炉は、術者の命と引き換えに大地から無限のエネルギーを引き出す呪具であり、何者かによって封印された痕跡を残していた。
おそらくは先日の地震でその封印がズレてしまい、地脈の変動に後押しされるように起動したことで魔力を放出し、最も近くに縄張りを持っていた四つ足の魔獣がこの影響を受けてしまったのだろう。
エネルギー源となる洞穴周りに巣を作り、異常繁殖した個体が住処から溢れて山岳を下り、近くの村を襲っていたというのがことの顛末だった。
二人は炉の位置を突き止め、黒狼が剣で押し寄せる魔獣を押し留めているうちに、マナの扱いに長けた青年が地脈と接続された魔力流を断ち切ることで何とか機能を停止させることに成功していた。
熱を持っていた炉の残骸が静かに冷えていくと、発せられる魔力の影響を受けていた魔獣達の興奮も鎮まっていく。
この炉が起動したときに、あるいは発せられるマナを取り込むうちに護衛となるよう魔力で無意識に調教されていたのだろう、炉が停止すると次から次へと洞穴に飛び込んできていた魔獣の数は次第に少なくなり、我に返り元の縄張りに戻ったようだった。
「原因がわかってよかったですけど……ただの魔物退治だと思ってたのに、思ったよりすごいものが出てきましたね……帰ったらてんやわんやになるだろうなぁ……」
「……そうだな」
くたびれた様子で近くの岩場に腰掛けながら「報酬上乗せしてくれないかなぁ」なんてぼやく青年の傍で、黒狼は背筋をピンと張って立ったまま答える。
狭い洞穴の中で魔獣を切り伏せ続けた体のそこかしこに黒々とした血が飛び散っていたが、戦傷は見当たらない。
黒狼は涼しい顔でくるりと身を翻して青年に向き直ると、感情を窺わせない表情と声色で礼を口にする。
「……私一人では解決は望めなかっただろう。貴殿に感謝を」
岩の上に座り込んでいるヒューイに、黒狼は毛を結って編み込んだお下げ髪を揺らして頭を下げる。
思わず立ち上がった青年は、かぶりを振って黒狼に頭を上げるように言う。
「や、やめてくださいよ。俺のほうこそいつも助けられてばっかりだし、今回もヴレグさんの協力あってのことなんですから……!」
「……そうか」
顔を上げた黒狼は、感情の乏しい表情でじっと青年を見つめ返しながらさらに言葉を続ける。
「……だが、貴殿の術と……マナの流れを読む腕がなければ、解明できなかったのは事実だ。貴殿がいるからこそ、私も奮起できようというものだ」
「いや、でもそれはヴレグさんがいなくても同じことで……俺だけじゃあれだけの数の魔物相手にできなかったっていうか、ええと」
自分より確実に実力で優れる黒狼に正面から告げられた青年は照れ臭そうにかぶりを振る。
まだまだ修行中の身ということもあって、彼の一助になれば幸い程度に考えていたヒューイにとって、それは師から認められるよりも嬉しく、そしてむず痒かった。
「そ、それなら二人で解決できて良かった、ということにしておきませんか? 俺だけの功績じゃないわけですし」
「……貴殿がそう言うなら、従おう」
黒狼は黙って頷き、くるりと踵を返して帰り道に目を向ける。
青年はなんとなくホッとして、胸をなで下ろす。
この黒狼はギルドで噂されるほどの並外れた実力者でありながら謙虚すぎるというか、それがつまらないことのように扱って卑下するところがあった。
剣を振るうだけの野蛮なら誰にでもできる、と黒狼は自分自身に対して辛辣に語っていたことがあったが、黒狼の剣の腕は誰の目から見ても極められているというのは明らかで、何が彼の肯定感を損なわせているのだろうと考えてしまう。
それだけの実力なら自信満々の天狗になってもらうくらいでちょうどいいのにと思うヒューイは、背嚢を背負い直して大きく伸びをする。
何にせよ頼まれた仕事は終わったところだ。張り詰めていた糸が緩むような、少しだけ緊張がほどけるような感覚に青年は肩を回して疲労をほぐす。
背後の青年が落ち着くのを待ってから帰路に就こうと思っていた黒狼は、帰り道の確認だけをしてから彼へと振り返り……気がついた。
ヴレグラムの鋭い感覚が、樹上から這い出してぬめった肢体を伸ばす触手を捉える。
木の蔓に似たそれは、蛇にも見える。何にせよ、明確な意思を持ってもたげた鎌首を無防備な青年の首に向けていることだけは確かだった。
最悪の場合が黒狼の頭に一気に広がり、その体を突き動かす。剣を振って怠くなった利き腕を機敏に持ち上げ、触手と青年の間に割って入る。
「えっ……?!」
バッ、と片マントが翻る。指抜きのグローブをはめた手が差し出され、ヒューイは殴られるのかと思って身を強張らせるが、驚いた青年を他所に黒狼は盾のように右腕をかざす。
その素早い動きが引き金となったのか、うねる縄状のそれは機敏に毛むくじゃらの腕に巻き付く。
防具に覆われていない前腕の体温を感じ取ったのか、触手は黒狼が腕に装着した手甲ごと絡めとり、即座に雁字搦めにしてしまう。
「ヴ、ヴレグさん……?!」
「……問題ない、そのまま動くな」
ぐるり、と腕に巻きついた枝葉色の触手から刺胞が腕に放たれる。
庇われたことに気がついたヒューイがぎょっとして身構えるが、黒狼は顔色一つ変えずに相棒の前に立ちはだかり、自分のマントを手袋にして絡みついた触手を引きちぎる、
太い筋肉が腕甲の中で膨張し、膂力だけで軟らかい触手をねじ切ると、そのままバネのように巻きついた触手の残骸を地面に払い落とす。
黒い体液が飛び散る中、青年は青い顔で「大丈夫ですか……?!」と黒狼の腕とその顔を交互に見やる。
ヴレグラムは触手に絡まれたほうの腕を見つめ、感触を確かめるようにグローブをはめた手を握ったり開いたりしていたがやがてだらりと腕を下げて静かに願い出る。
「……ローパーの類だろう。解毒を頼めるか」
触手が備えた刺胞により注入された毒素が腕を犯しつつあるのか、指先に至るまで痺れて筋肉の動きが遅滞していくのを黒狼は感じていた。
握力が失われていく手は中途半端に開いたまま動かず、続いて腕が鉛の塊に置き換わったように重く持ち上がらなくなってしまう。
筋肉の麻痺は前腕だけでなくその肩口にまで及んでいるようで、力なくぶら下がった腕を前に青年は頷き、急いで呪文の準備に取り掛かる。
目を伏せたまま両手を狼の腕に翳すと、淡い光が狼の腕を包む。
ドルイド魔術の解毒は、自然界に遍在するマナを呼び込み、対象の体内に流れる毒素を中和する仕組みだ。
腕を包む光は、狼の体に回ろうとする毒を分解する浄化の力で血流に働きかける。
やがて光が失われると、ヒューイは目を開けて佇まいを戻し、心配そうに「どうでしょう……?」と尋ねる。
「……いくらかは良くなった、が……少し、痺れが残るようだ」
黒狼は少し軽くなった腕を持ち上げるが、それは重たい荷物を運んでいるかのように緩慢だった。
どうやら肘から先には影響が残ってしまったようだ。加えて、その指先は動かそうと思っても微かに震えたり揺れたりする程度で、精密な動作は行えそうにない。
刺胞によって打ち込まれた毒が血流に乗り全身に回るのは食い止められたが、刺胞が直接打ち込まれて毒が回り切った手の痺れは完全には癒しきれなかったのだろう、青年は歯噛みしながら頭を下げる。
「申し訳ありません、打ち込まれた毒は取り除けましたが……」
ヒューイが言い淀んだのは、ローパーに代表されるテンタクルスなどの刺胞動物が持つ毒素による麻痺は腕の筋肉よりもさらに奥……魔力回路やエーテル回路と言われる体の深部を乱すものだからだ。
人間の体は、魂から発せられる己の意思を乗せた魔力の流れで筋肉を動かす。
この毒は、人体の体を流れる血を穢すものではなく、そのエーテル回路を焼き切るように固着させてしまうのだ。
そして、自分の体のエーテル回路ですら整えるには長い修行と習熟が必要とされる。それは壊れた楽器を目隠しで調律するようなもので、どこがどう歪んでいるかを感じ取るだけでも気の遠くなるような年月を要するのだ。
人の魂と肉体が織りなす唯一無二の網を理解するにはそれほど時間がかかる。それが地図のない他人の体となれば、なおさら不可能に近かった。
これらの理由から、エーテル回路の調律まで担える術師は国内にもそういないだろう。
だが、剣士である黒狼が利き手を封じられることでどれほどのリスクが生じるのかというのは考えるまでもない。
支援と治癒を担う術師である以上、相棒の体のケアは自分の職分だ。だというのにその責任すら果たせない悔しさに、青年は申し訳なさそうに言葉を続ける。
「痛みが出るようでしたら和らげることはできますが、俺ではすぐに治すことができなくて……庇っていただいたのに、お役に立てず申し訳ないです」
しかし、黒狼は辛うじて持ち上がるようになった前腕を再びだらんと下げて、いつもの仏頂面で「問題ない」と言って顔を上げる。
「……毒とはそういうものだろう。どのみち事は片付いたあとだ……貴殿を責める気はない」
そして、珍しくそのようなことを言って、何事もなかったかのようにざくざくと山道を踏みしめて帰路に向かうので、青年は思わず目を丸くする。
まるで励ますような物言いは、この黒狼が鉄面皮の奥に隠し持った器の大きさを表わしていると言ってもいいだろう。
力になれない無力さと、しかし黒狼の寛容さに板挟みになった青年は、せめて「ありがとうございます」とその背中に礼を述べて、後ろを歩くのだった。
♂♀
日はすでに傾き、空に薄紫が広がり始めていた。
魔物の多くは夜行性であり、暗闇でその脅威を増す危険がある。洞穴を出た時に襲われた触手型の魔物なんかもその一つだ。
日が暮れるにつれ、二人はどちらともなく野営に適した場所を探しながら足を動かし、結局この日は来るときも世話になった山の麓の泉周りに陣取ることとなった。
水場はドルイド魔術を扱う者にとってはうってつけのロケーションだ。
生命が必要とする水分に満ちている以外にも、山の中や木々の間を循環した水から生じた大気はマナ資源に満ちており、周辺も開けているとなれば野営のために陣取るにはぴったりの立地と言える。
森に隠された木々が人々の注意から外れるように、その空間ごと他者の意識から逸れる結界を展開して、ようやく二人は荷を下ろして泉のそばに腰を落ち着けた。
鎧を着たままの黒狼が手頃な大きさの岩に腰掛け体を休めている間、青年は自ら進んで拾い集めた枯れ枝を組んだ焚火を用意しながら、少し離れた先にある泉に目を向ける。
地面の下の水脈へ蓄えられた雨水や雪解け水が麓に流れ出してできた泉は美しく透き通っていて、窪んだ泉の底に敷き詰められた細かい石や砂がそのまま見て取れるほどだ。
水の栄養が少ないのか藻類の繁殖は見られず、泉の表面に揺蕩う枯れ葉すら沢に向かって流れる水に乗って運ばれてしまうほど水の出入りがあることもあって、水質は驚くほど綺麗に保たれている。
さぁぁ、と水が流れる音が死線を潜り抜けた体に心地いい。
来るときは貴重な水源程度にしか思わなかったが、これほど美しい水辺なら後で体を清めてもいいかもしれない。
青年は枯れ枝に火を灯しながら、そんなことを思ったのだった。
泉のそばの焚火は赤々と燃え上がり、乾いた枝がパチパチと音を立てて炎を育んでいる。
青年は地面に膝をつき、湿気を飛ばすため火のそばに集めた枝を並べ終わると、十分に乾いたものを一本焚火に放り込んだ。
ぼふっと焼けた灰が舞い上がり、暫くしてパチッと火の粉が飛ぶ。
すっかり日が暮れた夜の冷気を押し退ける暖かさが炎を中心に放射状に周囲へ広がっており、光は帳を下す闇に抗って煌々と辺りを照らしていた。
ヒューイは水袋を取り出し、喉を潤すように一口飲むと、岩に腰かけたままだった黒狼に差し出す。
「ヴレグさんも飲みますか?」
「……いただこう」
狼は左手の太い指で水袋を受け取り、栓が開いたままのそれに口をつける。
黒毛に覆われた腕がわずかに震え、手の甲と掌をぐるりと覆う革手袋をはめた右手がだらんとぶら下がる様子が青年の目に留まった。
「腕の調子はどうですか? 何か……焼けるように痛んだり、変に痺れるとかありませんか?」
「む……」
ヒューイは立ったまま、焚火の明かりに浮かび上がる狼の顔を覗き込みながら尋ねる。
黒狼は右腕を軽く持ち上げようとするが、肘から先が相変わらずうまく動いてくれない。特に指先は思うように動かず、まともに指を曲げることもできずに垂れ下がる。
「……痛みはない。だが、指先と……腕を上げる動きに支障があるようだ」
ヴレグラムが低く唸るように答えると、青年はそうですかと眉を寄せ、毒性を思い返す。
テンタクルスの刺胞毒は皮下から筋肉に染み込み、全身の細かい血管に毒素を乗せながら人体のエーテル回路を乱していく。
毒が回路の結節に絡みついて魔力の流れを遮断した結果、筋肉の随意的な運動機能が消失してしまうのだ。
そのため、これには魔力を用いた術だけでなく、他者の体内に構築された回路にアプローチした治癒が必要だった。
手持ちの魔術で何か中和できるものは、使えそうなものはと思い出しながら、青年は口を開く。
「刺胞による麻痺なら大抵一週間もすれば治るはずですが……今回の魔獣のように魔力で異常に強化されてるケースも考えられます。明日以降様子を見ながら、場合によっては専門の医術師に診てもらってもいいかもしれません」
「……承知した。貴殿の判断に従おう」
黒狼は頷き、視線を焚火に戻す。
そうは言っても、テンタクルス型の魔物はどこにでも生息しているし、その被害もあり触れた事例とも言える。
きっとこの狼もこういった症状には慣れているだろうが、それでも青年の慎重な提案に異を唱える様子はなかった。
ぱち、と枝が爆ぜる音が静寂を強調する。黒狼は一口、もう一口と水を飲んで、岩に腰かけたまま佇んでいる。
そこで、青年はふと自分たちの体に染みついた魔物の血のにおいに気がついた。
山奥の洞穴での戦いは苛烈で、狼が剣を振るうたびに黒い血が飛び散り、二人の鎧や服にべっとりと付着していた。それだけでなく長時間の移動で土埃がまとわりつき、草木を掻き分けた際に潰れた葉や茎の汁が腕や脚にこびりついており、狼の黒い毛並みには細かな砂粒や枯れ草が絡まっていた。
青年がローブを脱いで綿服姿になると、大判な布地は魔物の黒い血や泥で汚れ、山中を転げまわったこともあって少し砂っぽい。
冒険者として返り血やある程度の汚れは覚悟の上だが、さすがに一息入れたいところであった。
自分が美しい泉を前に体を清めたいと思っていたことを思い出したヒューイは、無事に火も熾せたこともあって、水袋に口を付けたままの黒狼に提案する。
「ひと段落したところですし……服とか体とか洗っていってもいいかもしれませんね。ここの水、ちょっと冷たいですけどかなり綺麗ですし」
樹木や自然を操るドルイド魔術を基盤とする男にとって火の魔術は不得手だったが、風なら起こすことができる。
そのため毛むくじゃらの黒狼であっても乾かすのはお手の物だ。そう思っての提案だったが、意外にも黒狼からは返事がなかった。
「……そうだな」
狼は即答せず、鋭い目つきで焚き火を見つめたまま少し考え込むような沈黙を見せる。ややあって、低い声で了承した。
青年はその逡巡に一瞬疑問を抱くが、水を飲み終えた狼が水袋を差し出すほうに意識が向いたため、深く追及はしなかった。
受け取った水袋にコルクの栓をしながら、彼はふと黒狼の姿に目を留める。
何か妙だと思ったが、その違和感の正体にはすぐに気がついた。
休息中なら板金を外し、軽装で過ごすのが常の狼が、鎧甲冑を着たまま動かない。
訝しげに眉を上げるが、すぐにそれは右腕の痺れが原因だと悟った。
そりゃあ指先すらまともに動かないのに、立派な板金鎧を脱ぐことなんてできないよな、と気が利かなかった自分を恥じつつ、青年は口を開く。
「気が付かなくてすいません、それじゃ装備脱げないですよね。手伝いますよ」
その申し出に、しかし黒狼は焚火の炎を見つめたまま微かに眉間の皺を深める。
先程といい珍しく沈黙が続くことに青年はまたもや違和感を覚えると、黒狼の太い喉が小さく唸るような音を立てる。
「……ならば、頼む」
そう低く呟いた狼が腕をだらりと垂らしたまま、がちゃりと装備を鳴らして腰を上げる。
その声はいつもより固く、僅かに躊躇が混じっているような気がして青年は首を傾げる。
今の沈黙は何だったのか、と内心で疑問が湧くが、狼の表情からは読み取れない。
黒狼の鋭い目つきは変わらず、黒毛に覆われた顔は鉄面皮のように無感情だ。
疲労のため気が緩んで返事が遅れたのだろうかと極めて平和的に解釈したヒューイは、それ以上深く追及せずに焚火の暖かさに照らされた鎧の表面に手を伸ばした。
「じゃあ、外していきますね」
「……うむ」
焚火の明かりが泉の水面に揺れ、静かな夜気に木々のざわめきが混じる中、ヒューイは直立する黒狼の傍に立つ。
胴体を覆う重厚な鋼が月光を鈍く反射している。狼の鎧甲冑は騎士時代から使い込まれたものだが、そもそも騎士団の装備はしばしば団そのものの所有物とされ、騎士個人の私物ではない場合が多い。
そのため辞める際に装備を持ち帰ることは厳密には認められていないことが一般的だが、当時からの装備品を所有している黒狼はその理由を語りたがらない。
狼が身に着けているのは騎士の装備の一部であるといつだったか聞いたことがあるし、それを証明するように立派な作りをしているものの、どうしてそれを持ち出せているのかはまだ聞けていない。
いつか彼の過去を含め、この黒い狼のことをもっとよく知れるときは来るのだろうかと思いながら、青年は黒狼の装備に手を伸ばす。
まずは肩当てに引っ掛けられた留め具を外し、血脂と泥土で汚れた片マントを折り畳んで脇に置く。
そのままバックルを外すと、ごつごつとした肩当てのポールドロンを慎重に取り外して肩を自由にさせる。
次に胸当ての脇に走る革紐を解き、肘当て付きの手甲を外すと、右腕の痺れで動かない腕が鎧から解放された。
背中の装甲板はピンで固定されており、それを抜くと全体が緩み、ヴレグラムの太い胴体から鋼板がばらりと剥がれる。
装備を外し、焚火の脇に置いた装備が増えるにつれ甲冑の下に着込んだ素朴な綿服が現れる。狼の肉体を包んでいるのは黒毛が透けて見えるほど薄手の普段着で、綿服越しに露わになった体は鍛え抜かれた筋肉の塊そのものだった。
胸板は分厚く膨らみ、大胸筋がシャツを押し上げて丸みを帯びたシルエットを描いている。
肩から二の腕にかけては筋繊維が浮き上がり、鎧を脱いでもなおその逞しさが隠しようもない上に、脇の下にこんもりと肉のついた広い背中は肩甲骨が動くたびに隆起して力強さを誇示していた。
腹部は筋肉の上に薄い脂肪が乗っているが、胸部や臀部と比べて引き締まった腰回りを黒毛が縁取っている。
黒毛に覆われたその肉体は野性と洗練が共存しており、騎士としての誇りと冒険者としての実績を刻んだ彫刻のようだった。
それほど逞しく、まるで荘厳な王城を支える柱のような黒狼の体が、腰のフォールドを外す際に微かに身じろぐ。
それは最初にして最後のサインだったが、しかし相棒である黒狼に休んでもらおうという一心で青年は気にせず革帯を解き、「脱がしますね」と言って薄く湾曲した鋼板を蛇腹のように重ねあった防具を下ろす。
違和感はあった。脱がす際に感じた妙な引っ掛かりを、不思議に思わなかったわけではない。
だが、まさかそんなはずはないだろうと思って最後の装備を地面に置いた青年の視線が……狼の下半身に釘付けになる。
「……え、っ……?」
思わず、声に出てしまった。
黒狼が鎧の下に穿いた綿服のズボンは……股間で異様な膨らみを形成し、太い腿の筋肉が張り詰める中でギンギンに勃起した一物が布地を押し上げていたからだ。
筋肉と毛皮を詰め込んだように張り詰めた薄手の生地は、亀頭の先端が作り出した染みでじっとりと湿り、一日中動き回り鎧に覆われて蒸れた筋肉から濃い雄の匂いがほのかに漂う。
太腿の内側は筋肉が盛り上がり、膝から股にかけての逞しさが勃起した性器をさらに強調していた。
それが単なる生理現象であると笑い飛ばせたならどれだけよかっただろうか。
だがヒューイにとって、それはけっして他人事などではないと知っていた。
「あ、えっ……これって……俺の……?!」
黒狼は何も答えない。焚火の明かりの陰になって、その表情もわからない。
もっとも、顔が見えたところで何を考えているかなんてわからないだろうが、さておき。
錘形を作る黒狼のズボンから視線を引き剝がし、顔を上げる青年は震える唇で問う。
ズボンの縫い目を軋ませ、抑えきれぬ勢いで屹立する様はまるで獣の欲望が形を得たかのようだった。
「き……効かない、んじゃ、なかったんですか?」
「む……」
青年は思わず狼の腰から剥がした腰当を両手に抱えたまま手を止め、驚きのあまり息を呑むが、すぐにその原因に思い当たる。
何故ならそれは、自分の抱えた欠陥、扱う術による副作用であり……自分が以前のパーティーを追い出された原因でもあったからだ。
術師ヒューイの操る魔術は一般的な魔術学校で教えられたり、ウィザードと呼ばれる魔術師達が用いるものとは異なっている。
それは自然の調和者を体現するドルイド達の術式やロジックを基盤にしたもので、自然のマナを取り込み術として対象に働きかけるものだ。
そのため、天候や自然現象の操作のほか、治癒や肉体強化に優れるものの、対象のマナと術者の魔力を結びつける過程で、過剰に生命エネルギーが刺激されてしまうという副作用があった。
魔力が『意志と支配』による純粋なエネルギーならば、マナは『共存と調和』の象徴であり、言わば力の借り物でしかない。
これは生命の根源的なエネルギーであり、成長、繁殖、再生といった自然のサイクルを司る力であるマナを扱うとき、ドルイドの精神は自然と完全に調和しており、その奔流を制御することで穏やかな癒しの力とする。
しかし他者にこの術を施す際は、その者の精神と肉体がこの原始的なエネルギーに慣れていない場合に限り、一定量まで注ぎ込まれたマナの純粋な生命力が過剰に反応してしまうことがあった。
言ってしまえばそれはマナの流れを他者の魔力と完全に調和させられないまま術を施す術者の未熟さのためだが、皮肉なことに優れたドルイドの師の下で研鑽を積み、また自分に術を試して鍛錬を行ってきたヒューイは前のパーティーを追い出されるまで、一般人にのみ生じるこの現象について自覚できていなかったのだ。
そんな副作用があるとは知らず、日々術を受けていた仲間がある日ヒューイの魔術を受けたことをきっかけに、狂おしいほどの興奮に駆られてしまう。
酒場の給仕に無理やり迫り、仲間にすら強引な態度に出るようになった彼は、その原因がまだ組んで日の浅いヒューイにあると糾弾し、仲間内で軋轢を生んでしまったのだ。
そこで初めて、青年は自分の魔術が引き起こす作用を自覚した。しかも、術を施せば確実にその現象が訪れるわけではないということも。
戸惑いながらも、己の未熟さを悔やんだヒューイは自然との調和者たるドルイド魔術の使い手としてこれを強く恥じ入り、原因の解明と対策を講じるべく他人の体に働きかける際のマナの調和に重きを置いてより一層鍛錬に励んできたが、再び誰かと組むことについては二の足を踏んでいた。
そんな時に、腕を持て余しているとされてギルドの受付嬢に引き合わされたのがこの黒狼だった。
一人でできる薬草積みや人夫仕事などの依頼を受けていたヒューイは、元々は他者から疎まれた魔術の素養を他人のために揮う冒険の旅に出ることを夢見る少年だった。
世界を構成するエレメントを操る魔術と違い、ドルイドの自然崇拝を体系とした魔術は冒険者の間では少数的だ。
それは得体の知れない術として敬遠されがちであり、組んでくれる誰かは貴重だった。
そのため黒狼との出会いは再起のチャンスであり、願ってもないことだったが、それでも再び誰かと組んで仕事をするには不安があった。
自分の魔法は万能でなく、ひょっとしたら思いがけない副作用と不都合が降りかかるかもしれない。
術者でありながら、それがどんなルールと頻度で訪れるかもわからない。
あるいはもしかしたらもうとっくに乗り越えていて、そんなことは起こらないかもしれない。
いまいちまとまらないヒューイの弁を、しかし黒狼は初対面のその時から「問題ない」と一蹴し、パートナーとして受け入れてくれた。
そして言葉通り、黒狼はもう一年も共に過ごしているというのに、何か不都合を青年に訴えたことはなかった。
聞くところによれば元騎士だという狼は、もしかしたらかつて所属していた騎士団で体の中の魔力やマナを操る基礎訓練を受けている可能性もある。
きっとこれほどの使い手であるヴレグラムは、マナの不調和による副作用など軽く抑え込んでしまえるのかもしれない。時折、黒狼は瞑想をしてくると言って一人の時間を設ける時があったのもあり、ヒューイは勝手にそう思い込んでしまっていた。
そしてそれは、術師としての未熟さを自覚する自分にとって頼もしくもあり、同時に己の尻拭いを相手にさせてしまっていると突きつけるものでもあった。
故に、術をかけられるたびに「問題ない」と断ずる狼の邪魔にだけはなるまいとヒューイは日々己を律していたのだが……その自分が実は足を引っ張っていたという事実に愕然としてしまう。
問われた黒狼は少しだけ気まずそうに首を傾げ、さりとて大きく取り乱した様子もなく一物をズボンの中で脈を打たせながら口を開く。
「……効かない、と言った覚えはない」
狼は低く呟く。
確かに、術による副作用を心配された彼は「問題ない」と言うだけで、日々毅然とした態度を崩さないその様子から勝手に副作用を克服していると解釈していただけだった。
黒狼は平常通りの冷静さを保ち、眉間の皺を深めて焚火を見つめる。涼しげな顔色とは裏腹に、ズボンの股間は今にも綿生地を引き裂いて飛び出さんばかりに張り詰めている。
今だってヒューイはそれが信じられない。こんなに平然としているのに、下半身は突き破らんほどにいきり立っている差異に理解が追いつかない。
青年は屹立を直視することもできず、視界の端で一瞥するのみだ。
そして、毎度こんな状態にさせていたのかと思うと、途端に足元がぐらつくような絶望感に襲われた。
自分が押しつけた負担に気づかず、未熟な術で狼を苛んでいたことを思うと自分が情けなく、滑稽に思えて仕方がない。
どんな失敗だって、これに比べれば些事に思えるだろうことは間違いなかった。
「す……すいません! お、俺のせいで……すいません、あの……」
青年はどうしたらいいのかわからず、震える声で謝罪を繰り返す。
酒場でエールをかっくらうような荒くれ者じみた冒険者なら、術が原因で生じた他人の生理反応を下品に笑うこともできるだろう。
だがヒューイは、これが原因で見限られたばかりだ。
そうでなくても、誰かのためになると信じて揮った力が相手を害していることを思えば、とてもじゃないが笑える気にはなれない。
その相手が、頼もしい相棒以上の恩義を感じている黒狼ともなればなおさらだ。
半端な自分などを拾い上げて組んでくれた恩人の期待に添えなかったという絶望で、視界すら揺らぐようだった。
「……気にするな」
「そ、そういうわけには……っ!」
黒狼の声はどこまでも凪いでいるが、その下半身は別の生き物のように騒々しく脈打ってズボンの生地を押し上げ続けている。
狼の剛直は起き上がるような脈動を繰り返し、屹立の頂点は象牙色のズボンを濃くする染みを作っていた。
下着を穿いているはずなのに、布越しに拳を突き出したような先端からは透明な粘液が絶えず滲み、ズボンの粗い織目を濡らしてじっとりと湿らせている。
股間の膨らみは下着を締めていてもそれほどまでに抑えきれぬほど膨張し、太腿の筋肉が張り詰める中で存在感を際立たせていた。
装備を外したことで下に着込んでいた綿服に染み込んで蒸散した汗が解き放たれたのか、隣の巨体から生臭い気配が漂って青年の鼻を微かに刺激する。
青年は否応なしに視界に入ってしまう股間のテントから目を逸らし、顔を上げる。
しかし、前と同じ過ちを繰り返した自分を恥じたヒューイはその顔を直視できない。
黒狼は何も言わず、その場に泰然として仁王立ちしたままだ。その態度は相対する青年を責めているわけでも、かといって自分の身に起きていることを恥じているわけでもない。
それがわかったからこそ、ヒューイもまた何も言えずにいる。
気まずい時間が流れると、信頼している相棒に、そして自分を受け入れてくれた恩人に負担を押しつけていた事実に胸が締めつけられる。いっそ口汚く罵って責めてくれればと思ってしまうほどだ。
自分の不出来や未熟もそうだが、彼の不興を買い信用を失うことが、役に立たない男だと思われてしまうことが何よりも恐ろしかった。
「ど、どうしたら……えっと、そうだ。その……い、言い訳するわけじゃ、ありませんが……」
沈黙に耐えかねて、青年は口を開く。
性欲が昂ぶるのは、受け手の身体が自然のマナが持つ『生きようとする力』に共鳴しすぎてしまい、性的な昂揚として表出するためだ。
それはまるで春の訪れに木々が一斉に芽吹き花が咲き乱れるようなもので、本能を呼び起こすに等しい現象である。
その魔術は、術者が己に施す分には慣れ親しんだ自然のマナと自身の魔力を如何様にも調整できるため問題はないが、他人の体となると話は別だった。
ヒューイはこれをうまく調和させられていない自分の未熟さが原因のはずだと仮説を立てながら、贖罪の必要性を痛感していた。この事態が、コンビの解消に繋がる可能性すら考えていた。
黒狼が冷静なところを見るに、この現象は初めてではないのだろう。その身に降りかかった出来事がヒューイのせいで引き起こされていると知りながら、今まで黙ってくれていたのかもしれない。
それを思うと、何も知らずに彼の相棒を気取っていた自分が恥ずかしくて顔が熱くなる。情けなくて、今すぐにでも消えてなくなりたかった。
「つまり、その……これは全て俺が招いたことです。こんなの相棒どころか、仕事仲間としても失格ですよね……本当に申し訳ありません、どんな処罰でも甘んじて受け入れるつもりです……」
説明を果たしていくらか冷静になった青年の脳裏に、自分を悪し様に罵倒し契約解除を迫ったかつての仲間達の声が蘇る。
この黒狼が同じような態度を取ったとしても、それは当然のことだ。
ヒューイは自分が引き起こしたこの事態について、そして黒狼の身に起きていることの説明責任を果たした上で、この関係の解消や然るべき場所で断罪されたとしても仕方ないと思い項垂れる。
未熟な術で尊敬していた相棒を苦しめた罪悪感が青年を苛み、狼の反応を待つ間、焼けた枝が爆ぜる音だけが耳に響く。
黒狼は仁王立ちしたまま、申し訳なさげな青年を一瞥し、感情の読めない鋭い目で彼を見据える。
眉間の皺が深まり、「……では」と低く口を開く。
ヒューイは身構え、不利益を押しつけられた被害者からどんな裁定が下されるだろうかと覚悟する。
しかし……。
重い処罰を予想していた彼は、続く言葉に目を丸くした。
「……鎮めて、くれるだろうか」
「えっ……あっ、は、はい……!」
ヒューイはその言葉を、腕に回った毒素を解毒するように自分の魔術がもたらした副作用を整える意味かと解釈する。
今の技量では難しいが、自分の体のそれを整えるようにマナの流れを正しく調和させることで理論上は昂ぶりを抑えられるはずだ。
できるかどうかはわからない。だが、それが贖罪となるならばと、青年は「わかりました」と頷いて魔術を試みる時のように身構えて黒狼の胴体に手を翳すが……黒狼は動く方の手でその手首を掴んで制する。
「……違う」
「えっ……?」
驚いて顔を上げたヒューイを首を振って否定するものだから、青年は困惑してしまう。
狼の意図が掴めず、焚火の明かりに照らされた黒毛の顔を見つめるしかない。
その表情は鉄面皮のまま動かず、痺れで動かなくなった右腕をだらんと下げた姿は普段より頼りなげに見える。
ズボンを濡らす我慢汁は依然として止まらず、太い腿の筋肉が微かに震えると同調するように股間の膨らみがぐぐっと跳ねた。
黒狼の鋭い目つきは普段と変わらず無表情を保っているが、その下で尻尾が気まずそうにゆらりと揺れる。
太く筋張った尾は普段なら凛々しく悠然と揺れているのに、今は力なく丸まっていて、尾先の毛並みが地面を軽く擦る音が静寂に混じる。
その耳もまた、常に鋭敏に立ち上がった形状を僅かに寝かせ、先端が内側に折れるように垂れていた。
無感情な鉄面皮に刻まれた眉間の皺は深いままなのに、どこか頼りなく見えるのは、逡巡する心が微細な動きに滲み出ているからだろう。
狼の視線は相対する青年を外れ、焚火の焰に向けられてヒューイを直視することなくさまよう。
太い喉が小さく唸り、言葉を発する前に一度息を吐く。その沈黙は重く、彼の堅苦しい口調とは裏腹に、内心の葛藤が垣間見えるようだった。
黒毛に覆われた顔は動かず、鋭い下牙がマズルを縁取った唇の端から覗く。いつもなら堂々とした威圧感を放つその姿が、今はどこか縮こまっているようにさえ感じられた。
尻尾の揺れが一瞬止まり、泳いでいた視線がヒューイの眉間に上陸する。
「……つまり、だ」
「は……はいっ」
低く呟いた言葉は、怒りに満ちているわけでも羞恥を押し殺しているわけでもなかった。
ヒューイは黒狼の落ち着いた声音を聞きながら、顔を上げる。何を頼もうとしているのかはわからないが、こちらの都合を気遣うようなことをせずなんでも命じてくれればいいのにと思った青年は、しかし続く言葉に耳を疑った。
「……貴殿の手で、射精させてくれないか」
声は淡々としていた。
しかし語尾には微かな震えが混じり、普段の騎士らしい尊大さとは異なる脆さが滲んでいた。
青年の耳に届いたその言葉は、焚火の音にかき消されそうなほど静かだったが、強い衝撃となって彼の胸を打つ。
黒狼の三角耳はさらに少しだけ寝かされ、尻尾は足の間に隠れるようにくるりと丸まってしまう。
無表情のままヒューイの眉間を見つめる狼の顔は、逡巡と羞恥が交錯した微妙な均衡を保っていた。
「そ……、っ……?!」
言っている意味が一瞬わからなくて、未知の言語のように聞こえた。
ヒューイの唇が震える。辛うじて「それは……」とだけ紡げたが、その先は言葉にならなかった。
黒狼はそんな青年の戸惑いを察したように、先手を打つ。
「……貴殿の術によるもの、というのは私も理解している。だが、この程度の問題は……大したことではない。普段ならば私一人で対処が可能だ。しかし……」
黒狼は立ったまま視線をちらりと右下に落とす。ヒューイは、言わんとしていることが先にわかった。
「あ、う、腕が……?」
「……然り。勃起したのであれば鎮めればいいだけのことだが……利き腕の自由が利かぬ以上、貴殿に補佐を頼みたい」
あるいは気恥ずかしさに耐えられなかったのか、黒狼はそのような理由を付け足すと、狼の股間がずぐんと脈を打った。
だらりと力なくぶら下がった右腕の指先が微かに反応するがそれは中途半端に拳を握ったままで、何かに押さえつけられているかのように動きが鈍い。
確かに、この腕を持ち上げて小刻みに動かすことなんてとてもじゃないができないだろう。
ヒューイは痛々しいほどに張り詰めた股間を前に、鎮めてくれと言われた言葉が即座に性処理に結びつかなかった自分を恥じた。
それほど初心だったつもりはないが、この黒狼には相棒でありながらどこか超然とした印象を持っていたので、そのような生理現象とは無縁だと無意識ながらに決めつけていたところがあったのだろう。
国を去った凄腕の元騎士であっても、寡黙に剣を振るい淡々と依頼をこなす偉丈夫であっても、雄である以上勃起したら射精したいと思うのがサガだ。
それでも、この黒狼が毎度律義に性処理をしていたという事実と、それを自分に頼もうとしているという状況にヒューイは脳が揺れるようなショックを禁じ得ない。
唇をきゅっと引き結び、緊張で喉が詰まるのを感じながらも頷く。
「は……っ、はい……わかり、ました」
利き腕じゃないとはいえ片腕は動くのだから、自分ですればいいだろうという文句は一瞬だけ胸の内に浮かび上がったが、すぐに消え去った。
元はと言えばこれは自分の未熟な魔術が招いた事態だ。その責任を取るのは当然なことで、そもそもどんな処罰でも受け入れると言い出したのは自分だ。
罰を欲している自分にチャンスを与えてくれたのだと思うと、それを拒むような気にはならなかった。
「……えっ、と。どう、したらいいですかね……?」
ちらり、と視線を下げた股間は期待するようにぐいぐいと跳ねて脈を打ち続けている。
餌を前にお預けされている動物のようで、その抑圧は触れれば噛みつかれそうで迂闊に手を出すのは躊躇われた。
見比べるように狼のマズルと交互に視線を向ける男が気まずそうに尋ねると、黒狼は前を向いたまま上顎を微かに持ち上げる。
「……触ってくれ」
黒狼はそう言って、どっしりとした岩石の柱のような腰をずいっと前に突き出す。
コンビを組んで長いが、こんな事態は今まで一度もなかったし、お互いがお互いの下半身の性事情について把握しているわけでもない。
初めて行われる試みに空気は重たかったが、心を決めてヒューイは黒狼の下半身に手を伸ばした。
狼の太腿に手を添えると、下半身の張り詰めた筋肉が綿服越しに熱を帯びて伝わる。
二本の脚はどちらもオーク古木の幹のように太く、大腿筋がズボンの中で硬く膨らんでいるのがわかった。
その間を埋める股間では、これまでのやり取りをしながらずっと勃起を保っていた一物が跳ね回り、綿服の腰を締める紐を引きちぎらんばかりに脈打っていた。
野獣の唾液のように滲み出た我慢汁が染みを作り、布地を湿らせて生臭い気配を漂わせている。
性器がズボンの中で蠢く躍動感は、抑えきれぬ獣の欲望が形を得たものに違いなかった。
膝から腰にかけての筋肉の盛り上がりと相まって、圧倒的な存在感を放っている股間の膨らみに青年の手が震えながら近づく。
突っ張ったズボンの生地越しに、熱い芯に触れると、それはビクンと力強く反応を示す。
「あっ……」
熱い、という言葉は緊張のためにカラカラに乾いた喉では声にならなかった。
布生地の上から撫でた狼の股間はギチギチに張り詰めながら、焚火の火が燃え移ったのかと錯覚するような体温を宿していた。
とてもじゃないが服の上からでは掴み切れないその剛棒に、ヒューイは思わず生唾を飲む。
雄としての力強さを体現した迫力に圧倒されながら、しかしこのまま服の上からいくら撫でていても満足できないだろうと直感していた。
自分は何も知らない生娘というわけではない。同じ男として、それをどう扱えばいいのかは多少なりとも理解しているつもりだった。
ならば、とヒューイはその場に膝を突いて、黒狼のズボンを固定する腰紐に触れる。
「……ぬ、脱がしますね」
「……承知した」
仁王立ちする黒狼の前に傅くようにしゃがみ込んで、震える口で小さく呟く。
黒狼はいつもの淡々とした調子で応じるのみだが、視線の先で膨らんだ股間が待ちきれない様子でドクンと跳ねたのが男にはわかった。
夜の野営地は静寂に包まれ、風が木々をさわさわと揺らす音と、焚火の枝がパチパチと燃え爆ぜる響きだけが耳に届く。
すぐ近くの泉の水面は鏡のように静まり返っており、月光が穏やかに反射している。
冷たく澄んだ空気が二人の頬を撫でる。穏やかで静謐な夜とは対照的に、黒狼の張り詰めた下半身は荒々しい生命力を放ち、青年の手が紐を解くたびにその熱と躍動が際立っていた。
男同士でこんなことをする理由にヒューイは戸惑うが、信頼するパートナーの役に立ちたい一心で、覚悟を決めて手を進める。
黒狼の分厚い胸板が静かに上下する中、静まり返った夜の森の静けさと興奮を露わにする狼の肉体の激しさが奇妙な調和を見せていた。
ヒューイよりも二回り近く大きな身体を支える太腿の筋肉が微かに震え、ズボンが緩むと股間の脈動がさらに激しくなる。
青年の手が震えながら黒狼のズボンを膝まで下ろすと、狼の股間が焚火の明かりに露わになる。
ランゴータや極東の褌のように股下を通して締めた腰巻をぐいぐいと押し上げる勃起はその存在を傲然と主張しており、静かな夜に不釣り合いなほどの野性がそこに息づいていた。
どうにかして布の中に収まったというボリュームのそれは、人間と同じ形状に見えるがその質量は規格外だ。
巻きついた薄い布が膨張に耐えきれず、持ち上がった前布の隙間からは竿の根元と幹が覗き出ており、黒々とした表皮には太い血管が幾筋も浮かんで蔦のように絡みついていた。
脈動するたびに薄布の膜を押し当てられた鈴口に先走りが滲み、著しく膨張した肉竿で隙間を無理やり広げられた前袋からはふくよかな金玉すらまろび出ている。
ごろっとした核を重たげに下げ、黒毛に覆われた陰嚢が汗と汁気で蒸れた臭気を放ちながら垂れている。
立ち上るムッとした雄臭は、汗ばんだ獣毛と混じり合い、鼻を突くほど濃厚だった。
「う、わ……」
思わず感慨が口を突いて出る。
女性とすら経験のないヒューイにとって、他人のペニスを見るのは初めてのことだ。太腿の筋肉に支えられたその質量は、一般的な体格をした青年の手では包みきれないのが明らかなほどに太く逞しい。
まるで別の生き物がそこに息づいているようで、このまま触れていいのか躊躇ってしまうほどだ。
目の前にそびえる狼の剛直は生殖本能の力強さを如実に表しており、思わず圧倒されて息を呑むが、下着を押し上げる竿に横からそっと触れる青年に嫌悪感は不思議となかった。
それは信頼する黒狼のモノであるからか、それとも自分が引き起こした事態への責任感からかというのは判然としない。
おそるおそるヒューイが前袋の隙間から竿幹へ指先を伸ばすと、熱を帯びた表面が脈打ち、ぬるりとした湿り気が指腹を滑った。
「……む、ぅッ」
他人の指の感触に、下半身を焚火の明かりに晒した黒狼が低く唸る。
声にヒューイはドキリと手を止め黒狼の様子を窺うが、変わらずそこに立っているだけで何か不満を抱いたわけではなさそうだった。
青年の手はそのまま上向きの曲線を描く肉塊の表面をなぞるようにそり立った竿の裏筋を撫でる。
布越しにつつーっと撫でると、太い竿がビクンと跳ね、鈴口から溢れる先走りがさらに前袋を湿らせる。
ぬるりとした粘液で濡れた綿布を用いて表面を磨くように、熱を帯びた巨大な棍棒を握りぬちゃぬちゃと湿った音を立てながら手を動かすと、血管が浮かんだ剛直は布越しに扱かれる快楽に魚のように跳ね回る。
上下に擦られる振動に太腿の間にぶら下がった二房の玉袋が、重力で伸びた状態でゆさゆさと弾むように揺さぶられていて、竿がドクンと脈打つのと連動してごろっとした金玉がせぐり上がるのがわかった。
「……ぐ、ぅぅっ」
黒狼の歯の隙間から呻く声が漏れた。
狼の耳が僅かに動き、青年のすべやかな手が布越しに竿を擦るたび太腿に震えが走り、深く息を吸い込んだ大胸筋が綿服を押し上げて上下する。
褌の生地はもはや亀頭のみを隠す当て布のようになっており、丸々と腫れ上がったシルエットを浮き上がらせている。
たどたどしくも性器を擦られる快楽が狼の体を走り抜けるたびに股の下に力が入って、尻の筋肉をぎゅっと引き締めて甘美な刺激に耐えていた。
「む、ぅうッ……♡」
狼の一物は褌の中で跳ね続け、もはや水にそのまま浸したかのように濡れた布とぬちゃぬちゃと擦れる音が響く中、ヴレグラムの喉から再び抑えた呻きが漏れる。
青年は跪いて手を動かしたまま、狼の顔を一瞥して反応を窺う。
「き……気持ちいい、ですか?」
「う……うむ……っ」
黒狼は眼下のヒューイとは目を合わせないまま頷き、素直に快感を認める。
その言葉通り青年の手の中の巨砲はぐいぐいと跳ね上がり、もはや自分を押さえつける下着は痛いほどに食い込んでいた。
黒狼の鼻息もフゥフゥと深いものになっており、この試みを悪しからず思っていることはヒューイにも伝わった。
しかし、それでもなお……青年はこの事態を飲み込めずにいる。
男が男の性器に触れるなど、本来あってはならない事態だ。こんなことをするのは初めてというのもあって、自分は本当に正しいことをしているのか、目の前の狼は何か不満を抱えてはいないだろうかと不安が胸を過ぎった。
「その……イヤ、じゃないですか?」
膝立ちになったまま、頭上の狼に問う。ヒューイの声は搾り出したように震えたものだったが、黒狼は平然と「……問題ない」と返すのみだった。
その鉄面皮な表情に変化はない。真意を測りかねるが、嘘は言っていないのだろう。
これは己の未熟さが招いたことというのは理解しているが、男同士で陰茎を擦る異常事態に戸惑ってしまうのは仕方のないことだろう。
責任を感じつつ、しかしこの状況に慣れぬヒューイは茶化すように力なく笑う。
「な、ならいいんですけど……その、なんかすいません。せめて俺がかわいい女の子とかだったらよかったですよね」
アハハと空しく笑う青年は、男の劣情を強化してしまうような副作用を持つ魔術を使う者が誰の目にも魅力的な愛らしい女性だったら、と自分でも思わなくはない。
こんなみすぼらしい男に性欲を刺激されたい者はいないだろう。そう思えば、かつての仲間たちの怒りようも理解ができるというものだった。
しかし……。
「……否」
「えっ?」
黒狼は重々しく否定して、ちらりと視線だけを眼下の青年に向ける。
「……女は、苦手だ」
「えっ、そ……そう、なんですか……?」
そう続けられた狼の真意が掴めず、同調とも質問ともつかぬ曖昧な返事をするが、黒狼が言葉を重ねることはなかった。
快感を求めていきり立つ巨砲を手の中に預かった男と、太ましい腰をぐっと突き出した狼の間に気まずい沈黙が流れ、焚火の焰がパチリと弾ける音が響く。
ヒューイが何か言葉を重ねようとしたところを、「貴殿が」と黒狼が割り込む。
「……私を害するため、この現象を引き起こしているわけではない、というのは理解している」
「そっ、それはもちろんです! こんな、こんなことっ……」
「だからこそ」ヴレグラムは区切り、そして一息に続ける。
「我が相棒として、この問題の処理を貴殿に頼みたい。貴殿にならば……我が身を、預けられる」
事前にそういった副作用が起こり得ると説明されていたはずの黒狼は、実際にその身に降りかかったとしても青年と共に組み続けることを選んだ。
その事実が、そして低く呟かれるその言葉が……青年の胸をぽわっと暖かく染め、緊張が解けるような安堵が広がる。
それが何を意味しているのか、そして自分の何をもってそこまで言ってくれているのかはわからない。
ただ、自分が悪意を持って黒狼を傷つけようとしたわけではないということをわかってくれたのだけは確かだろう。
それだけで十分な気がして、青年の口からは「ありがとう、ございます」と礼がこぼれる。
未だにこの異常な状況に戸惑っているものの、その言葉に報いるべきだという思いがヒューイの手を動かす。
自分がこの狼のためにできることは、不始末の責任を取るにはどうしたらいいのか。
その答えは、目の前にあった。青年は黒狼の股間に目を落とす。
「えっと……下着、脱がしますね」
「……うむ」
緊張した声で尋ねると、黒狼は短く頷く。
青年の手が震えながら太い腰に巻かれた布の腰帯に伸び、太い指で慎重に結び目をほどく。
しっかりと締められた腰巻が緩むと、ぱらりと一枚の綿布が地面に落ち、ギンギンに立ち上がった剛棒が焚火の明かりに照らされて露わになる。
股下を覆っていたたてみつからぱさりと滑り落ちて、黒毛に覆われた太腿の間で重たげに揺れていた金玉が解放されると、その上で屹立する剛直が勢いよく跳ね上がる。
布に抑えられていた一物は解放された瞬間にぶるんと震え、涎のように滴った先走りが糸を引いて地面に落ちた。
露わになった男性器は人間と同じ形状をしているが、改めて外気に晒された規格外の質量にはつい目を奪われてしまう。
竿の太さはヒューイの手首を超え、長さは前腕を凌駕するほどもある。
青く浮かび上がった太い血管は樹幹に絡む蔦のようで、脈動するたびに膨張した赤黒い亀頭が張り出して胎動している。
その下では黒毛に覆われた陰嚢が重たげに揺れながら鶏卵を二つ詰めたようにふっくらとしたサイズ感で下垂していた。
びくびくと脈を打ってしゃくり上げるたびに先走りが鈴口から絶えず溢れて、竿の表面を濡らしたぬめり気のある体液が亀頭と裏筋を伝って垂れる。太腿の筋肉に支えられたその剛直はまるで別の生き物のように跳ね回り、焚火の光に照らされてその存在感を誇示していた。
「や……っぱり、大きいですね……」
思わずそんな感想が口を突いて出る。声には、驚きと畏怖が混じっていた。
「……ぬぅ」
黒狼は答えず、こめかみからうなじにかけて獣毛を結んだ毛束を揺らすように身じろぐ。
そのまま低く呻いた声を返事とすると、少しだけ恥ずかしそうに耳を寝かせるが、返事の代わりとばかりに股間の狼棒がギンッと跳ね上がり、太い竿が青年の手を誘うようにだらりと涎を垂らしていた。
「さ、触りますね……」
「……頼む」
一言断ってから竿の表面をそっと撫でると、狼の尻尾がゆらりと揺れ、その手を受け入れるように太い腰が微かに身じろぐ。
他人の男性器に触れるヒューイの頭には、一瞬だけ自分は何をしているんだろうという思いが過ぎるがそれはすぐに掻き消える。
狼にかけた迷惑を晴らし、未熟な自分を受け入れて共に戦ってくれた相棒に報いたい、その一心が何よりも代えがたい使命として青年の背にのしかかっていた。
焚火の熱だけではない火照りが二人の間に漂い、狼の黒毛が湿ったように汗ばむ中、青年の指が竿を握り直す。
どこをどう触れば満足してくれるか、気持ちよくなってくれるのかつぶさに観察しながら夢中になって竿を扱くのは、初めて触る他人の男性器に興味津々だからというだけではない。
尊敬する相棒のためだからこそ、その太い竿を握る手には芽生えたての奉仕精神が宿っていた。
太すぎる剛直はヒューイの手では包みきれず、まるで片手で手首を掴んでいるようにすら思える。
表面を擦るたびに指が滑り、ぬるりとした先走りが指間に絡みつく。扱き方は不慣れでぎこちなく、リズムも一定ではない。
青年の手は時折竿の側面を擦るだけになってしまうが、それでも狼の剛竿は太い血管をどくどくと脈打たせて、鈴口から我慢汁を溢れさせて反応を示していた。
「むぅッ……♡」
規格外の質量を持つ竿は触れられるたびにギンッと跳ねるように悦び、先走りが糸を引いて地面に垂れる。
手の中で脈打つ大きさと感触は、もはや何かの肉料理の塊のようだった。
「き、気持ちいいですか……?」
「う……むッ……♡」
青年は手を動かしながら再び尋ねると、黒狼が編んだ毛束を揺らして控えめに肯首する。
その返事に、しっかり役目を果たせていることに安心すると共に、妙な気まずさが青年の口を逸らせる。
「ふ、普段もこうやって触ってるんですか?」
ヒューイの口からそんな言葉が口を突いて出る。
自分がやるべきだとわかってはいるが、無言で他人の性器を擦る状況には耐えきれず、何かを言おうとして出た言葉だった。
しかし、口にしてすぐに失敗だったと思った。黙って務めを果たすべきだったかと後悔が胸を刺す青年に、黒狼は隠し立てせずに答える。
「……普段、と言えるほどではないが、必要であれば対処はしている」
「それは……」
自分が原因ですよね、と言おうとして青年は言葉を飲み込んだ。
その件で自分が言葉を尽くして謝罪する段階はとっくに通り越していて、この期に及んでこの狼がそれを求めているとは思えなかったからだ。
バツが悪そうに口を噤む青年を見て、狼は続ける。
「……性欲にうつつを抜かす暇があるなら剣を振れ、と叩き込まれたのでな。その教えが未だに沁みついている、というだけだ」
淡々と述べるその声には、元騎士らしいストイックさが溢れている。太い胸板が静かに上下し、汗ばんだ毛並みの下に鍛え抜かれた筋肉を晒す姿は、快楽に溺れぬ鉄の意志を体現していた。
そして、昔からそうだと言いたげな黒狼の言葉はヒューイが気に病まないようにという配慮が含まれていた。
気を遣わせてしまったことを申し訳なく思いながら、青年は努めて明るく「そうなんですか」と返す。
「やっぱり騎士団ともなると、それくらい大変なんですね……」
「うむ……とはいえ、それも自己管理の内だと言い張る者もいたがな……」
「あー……まあ男性ならそうですよね、ずっと溜め込んでるとどうしても……仕方ないですよ。まあその点、ヴレグさんは全然平気そうですけど……」
「うむ……」
狼はちらりと眼下に跪く青年を一瞥する。
黒狼の言葉に、それほどストイックで真面目な相棒を、自分の未熟な魔術のせいでこんな目に遭わせていることを申し訳なく思う罪悪感から視線を落とすヒューイはその視線に気づかない。
「……貴殿も」
「えっ?」
「貴殿も、そうなのか? その……溜め込んでいるとどうしても、と思うのか」
質問の意図がいまいち読めずに、青年は黒狼を見上げたまま固まってしまう。
視線が交錯して、ヒューイの口が「えっと」と戸惑い気味に言葉を返す。
「ま、まあ……そう、ですね。その、俺も健全な男子ではあるんで……はは」
「……そうか」
狼はふいっと視線を戻すと、握られている一物を跳ねさせながら「水を差してすまない、続けてくれ」と言う。
今のやり取りに何の意味があったのか、何か選択を間違えたような気がしなくもない。
しかし黒狼に促されたこともあり、勃起した性器の発する熱量を前にまともな問答をするのもなんだか馬鹿らしく思えて、青年は視線を下げて今は目の前の仕事に取り組むべきだと再びぎこちなく手を動かし続ける。
しかし、頭の中では先ほどの会話の内容が巡っていて、狼の太い竿を擦ってぬちゃりと湿った音が響くたび、そしてパツパツに張り出した亀頭の縁に指が引っかかるたびに、それほど禁欲的であっても生理欲求には抗えないのだなとどこかドキドキしてしまう自分がいた。
「ぬぅ……い、良いぞ……」
熱っぽいヴレグラムの吐息が、禁欲の体現者たる黒狼から出たと思うと妙に落ち着かない。
己の未熟な魔術が狼をこの状態に追い込んだ罪悪感は確かにあるが、胸に芽生えた奉仕精神がヒューイを唆す。
相棒である黒狼をより気持ちよくしたい、もっと満足させたいという思いが彼を突き動かしていた。
それは冷静で精悍な黒狼が股間をガチガチに勃起させて、息を漏らして抑えきれぬ欲求を晒している姿に罪悪感以外の何か……好奇心か、あるいは秘めた興奮か、それとも全く別の感情を抱いたからかもしれないが、誰にもその真実はわからない。
だが、それは無意識のうちに青年を動かしていた。
ヒューイは跪いた先にある剛棒へそっと顔を寄せる。
パンパンに腫れた赤黒い亀頭に唇が触れ、ぬるりと熱い先走りが色艶の良い赤を濡らした。
「むぅッ……!♡」
それまでとは全く違う、ぬちゅりと湿った感触が敏感な亀頭の表面を擦り、黒狼の喉から呻き声が発せられた。
蒸れた雄臭が鼻を突く中、ヒューイは声に少し焦ったように顔を上げる。
「す、すいません。イヤでしたか?」
「……も、問題ない。……そのまま、続けてくれ……♡」
狼は尻尾を軽く振って否定すると、ぺったりと寝かせていた耳をぴくりと動かして相棒の動きに身を委ねる。
青年は黒狼の許可に安堵し、そっと開いた口で熟れた果実のように丸々とした竿の先端を食む。
ぷるんとした唇が亀頭を挟むと、それだけで太い竿がビクンと跳ね、先走りがさらに溢れて舌の上に垂れる。
規格外の肉砲はとてもじゃないが咥えきれず、それでもとぎこちなく舌を動かして先端部分だけでも舐めてみる。
ぬちゃぬちゃと濡れた音が響き、裏筋に浮いた尿道自体が太い血管になったようにドクリと脈打つ感触が唇に伝わった。
「ぬ、ぬぅうっ……これはッ……!♡」
狼は低く呟き、太腿を微かに震わせて快感を示す。
青年の不慣れな口淫は竿の根元まで咥えられず、亀頭を浅く舐めるだけだが、それでも狼は鮮烈に反応を見せる。
呻く声には微かな熱が混じり、青年の平たい口が竿の先端へかじりつくたびに先走りが舌に絡みつき、生々しい脈動が唇を震わせる。
それは亀頭しか口に含まない、ぎこちなく稚拙なものだ。
異性愛者であるヒューイは他人の男性器を扱う経験など皆無で、口を大きく開いても規格外の太い竿を咥えきれず、先端を浅くねぶるので精一杯だった。
顎が外れそうになって、喉奥まで飲み込むのを早々に諦めた青年は手で竿を扱きながら口付けた亀頭や裏筋をぺろぺろと舐めてみる。
竿の根元を握るたび手の力加減は定まらず、擦るリズムも不規則だ。それでも、狼の剛直は脈を打って反応し、勃起の角度を上げてますます激しくそそり立つ。
溢れた先走りは唾液と溶け合い、竿を擦るヒューイの手を濡らし、汁まみれの手淫にくちゅくちゅと音が鳴る。
「んぐっ……ん、ぶっ……じゅるっ」
「ぬぅうッ……!♡ ふぅッ、ふぅうッ……!♡」
玉袋を下に引っ張るように重々しく垂れた金玉がぐぐっとせぐり上がり、狼の太い腰が無意識に動く。
呻く声には抑えきれぬ快感が滲んでいて、汗と汁気の絡んだ黒毛が焚火の光に照らされて蒸れた雄臭が漂う中、黒狼は不慣れな奉仕に身を委ねていた。
「ん゛ぉおッ……!♡ こ、これはッ……い、いいぞぉっ……!♡」
「んぶっ……ん、じゅるっ……!」
青年は黒狼の一物をしゃぶりながら、頭の中では混乱と使命感が渦巻いていた。
尊敬する相棒の力になりたい。その一心で顔を動かすが、他人の性器を口に含む異常さに戸惑いを隠し切れていない。
自分は何故こんなことをしているのかと冷静に考えれば考えるほど罪悪感と背徳感が胸を締めつけるが、黒狼の快感を示す唸り声に安堵も覚える。
狼を気持ちよくしたいという奉仕精神と、初めて触れる男性器への好奇心が交錯し、この行為が狼への恩返しになるならと自分を納得させつつも、どこかで高揚しつつある自分がいることにヒューイは気づいていた。
太い竿は熱を帯び、口に含むたびその熱量が唇と舌に伝わってまるで生き物のように脈打つ感触がヒューイを圧倒する。
その股間からは、一日中動き回って汗を流した雄の蒸れたにおいが立ち上っていた。
陰部の黒毛に絡んだ汗と、性器特有の生臭さにも似た饐えた猥臭が混じり合い、人間の鼻を強く刺激する。
汗蒸した雄臭はムッとして鼻腔にまとわりつくほど濃厚で、一日動き回った狼の肉体から発する野性味がそのまま凝縮されているようだ。
ヒューイはその臭いに一瞬息を詰まらせるが、黒狼の竿を咥えて顔を近くに寄せるたびにその熱と臭いが彼の感覚を支配する。
「お゛ぉッ……!♡ っふぅ……ふぅッ……!♡」
「ん、ぐっ……っはぁあ……」
尊敬する相棒が狼の本能に支配された一面を感じながら、青年は深く屈み込むように顔を傾ける。
舌先が裏筋をつつーっと舐め伝い、太い血管が浮かんだ竿を下へと這うと、狼の豊かな金玉袋に辿り着く。
舌でぺろぺろと陰嚢をねぶり、短い黒毛に覆われたその表面を舐め上げる。青年の顔の横では規格外の肉砲が跳ね回り、彼の手がその太い竿を扱き続けていた。
汗が溜まり陰になって蒸れた玉袋は塩気が強く、性器特有の猥臭を漂わせながら狼の肉体が発する熱を帯びていた。
黒狼のごろっとした金玉は青年の舌につつかれるたび陰嚢の中で揺れ動き、ふくよかな質量が重たげに蠢く。
「んおぉ゛ッ……!♡ そ、それはっぁ……!♡ た、たまらんん゛ッ……!♡♡」
初めての感覚に狼の口から長く息が漏れる。金玉袋をねぶられる新たな快感に、逞しい黒狼の太腿が強張り、大臀筋が硬く引き締まると、上半身の筋肉もまた鎧を脱いだ綿服の下で緊張する様子が浮かび上がった。
その股座では太いペニスが跳ね回り、鶏卵ほどの大きさの金玉がヒューイの舌に持ち上げられるように撫でられるたびに新たな刺激に反応していた。
熱心に黒狼の巨砲に奉仕する男に、何か考えがあったわけでもない。無論、こうすれば快楽を得られるとわかっていたわけでもない。
本人は知る由もないが、躊躇いなく他者の性器に口づけ、味でも見るように丹念に舐め回すその行いにはドルイド魔術の素養が無意識に働いていた。
自然のマナを受け入れ、生命力を活性化させるドルイドの技は、自分とは異なる存在の生命エネルギーとの調和が根底にある。
大地の脈動と共鳴し、草木や獣、すべての生き物のエネルギーを感じ取り、それを調和させる。それを可能とするのは、他者の生命力を受け入れ、敬い、慈しむ姿勢だった。
年若いドルイド術師が相棒の性器に興味を抱き、嫌悪感なく口に含むことができるのはこの素養が自然と彼を導いているからに他ならない。
ドルイドの素養は、森の息吹や川の流れ、動物の鼓動を通じてマナを理解する。修行を重ねた者なら、風のざわめきから魔力を汲み、土の匂いから生命の循環を読み取るだろう。
まだ未熟なヒューイはそこまでの領域には至らずとも、その根底には自然と繋がる感性が確かに宿っている。
それが誰のせいであったとしても、他人の生命力……この場合、狼の漲る性器に宿った力を受け入れることはドルイドにとって大地の恵みを味わう行為と変わらない。
故に、ガチガチに青筋を浮かべた狼の肉竿やそこに豊かに実った玉袋を味わう姿は、まるで森の果実を慈しむように優しく、時に熱心だった。
小便臭く饐えた塩気の強い陰嚢も、調合した薬草の苦みに比べればマシなものだ。彼の感覚は、自然の恵みと変わらぬそれを受け入れ、奉仕に没頭する。
「ぬ゛ッ、ぬぅううぅ……!♡♡ っふ、フゥッ、ぐるるっ……!♡♡」
黒狼は動かない腕をだらんとぶら下げたまま、仁王立ちで青年の奉仕を受け続けていた。
黒毛に覆われた太腿が微かに震え、玉袋が軟らかい舌にねぶられて揺れるたび、金玉はグツグツと煮えたぎるように熱を持って蠢く。
黒い毛並みに覆われた筋肉質な体は時折痙攣するようにびくりと震えるがそれ以上動くことはなく、ただ尻尾が小さく揺れて、大腿筋が時折締まるだけだった。
しかし、しばらくしてヒューイの口が再び裏筋をずるりと舐め上げ、太い血管に舌を這わせながら亀頭をぱくりと咥えた瞬間、狼の喉から強く低い唸り声が迸る。
「だ、出すぞッ……!♡ ぐるるるッ……!!♡」
「えっ、っわ、もがっ……!!」
そのタイミングで、狼は突然動く方の片手で青年の頭を押さえる。
五指が頭部を掴み、力強く押さえつけると、獣のように唸りながら乱雑に腰を振り出した。
「っぐるる、フゥッ、フゥーッ……!♡♡」
「っご、ぅぐッ! んぶっ、ぉえッ……!」
太い腰が軽やかに前後し、筋肉が躍動して黒毛がふわふわと揺れる。
口内を犯すペニスは、規格外の質量でヒューイの唇を押し広げ、裏筋を舌に擦りつけながら喉奥を目指す。
限界まで上下に開かれた顎は外れそうなほど痛み、もしかしたら反射的に閉じようとする動きで歯が当たっていたかもしれない。
噛んで傷つけるわけにはいかないという心理がヒューイの口を開けっ放しにするよう命じるが、子供の腕一本を突き込まれるほどの質量に顎関節がぎしぎしと痛むのがわかった。
黒狼の股座では刺激に反応した金玉がドクドクと精液を煮えたぎらせ、毛むくじゃらの玉袋が収縮してせぐり上がる。
太腿が硬く膨張し、腹筋が締まって震える。臀部にもえくぼが浮かぶほどぎゅっと股下に力を入れて引き締めた狼は、恍惚の射精を迎えた。
「ぐるるるるるっ……でッ出る、出るぞッ……!!♡♡♡ ぐぅッ、ぬぉおおおオオオッ……!!♡♡」
「ん、ぶっ……!!」
狼の剛直から放たれる精液は、できたての熱気を帯びてヒューイの口にぶちまけられる。
太い竿が脈打つたび、ブビュルルルッと勢いよく白濁が噴き出し、あっという間に口腔を満たして喉奥を無遠慮に犯す。
口の中に殺到する体液は多量で、注がれる傍から飲み下さねば頬の内側までパンパンにするほどだった。
ヒューイが最初から迷いなく嚥下できていればそうはならなかっただろう。だが口の中で弾けた果汁は熱を持つ狼の肉杭が融解したのかと思うほど熱く、そして海産物のような生臭さを伴っていた。
それでいて舌に感じるのは、未熟な果実を齧った時のような苦みとえぐみだ。これは吐き出したほうがいいのか、それとも飲むべきなのか。一瞬の逡巡が、戦場と同じように命取りとなる。
危険を感じた頃にはすでに遅く、ヒューイの口の中の精液はとてもじゃないが飲みきれないほどの量になっていた。
それだけでなく濃厚な粘液はヒューイの舌を覆うばかりか、口蓋にへばりつくような濃度で喉の奥に引っかかり、青年はつい噎せてしまう。
「ん゛ッぶ……! ッ、げほっ! えほっ、ごほっ……!!」
「ん゛ぉッ、おォォ……♡♡ っふぅ、ふーっ、ぐぅううっ……♡♡」
肉厚な一物ごと精液をごぼっと吐き出すと、口からは溢れた白濁が顎を伝って地面に滴る。
しかしぶるんっと投げ出された狼の太竿からは射精が止まらず、黒狼は無理やり頭を押さえていた手を中途半端に宙に漂わせたまま太い腰を痙攣するように揺らし、金玉を陰嚢の中でドクドクと収縮させる。
狼の精液はまるで麦の粒をよく煮込んだ粥のように濃厚で、ドロリと粘った大量の白濁が青年の鼻頭や頬を目掛けてビュッビュッと飛んで汚していた。
その勢いは止まらず、太い血管が浮かんだ竿から噴き出すたび、強烈な精臭がヒューイを包む。
その中に小便臭さと饐えた獣臭が混じり合い、鼻を刺すほどの濃密さが野営地に漂う。
「むぅうううん゛ッ……と、止まらんん゛っ……!♡♡ ま、まだっ出るぞ……!♡」
黒狼が唸ると巨体を支えている太腿が余韻を味わうようにぶるぶると震える。
腰回りの筋肉が躍動するたびに射精は続き、顔に飛ぶだけでなくヒューイのシャツや地面をぼたぼたと汚して狼の遺伝子を残していく。
麦粒が混じったようにだまになった精液は飛ばすには重すぎるのか、もはや半固形の塊をぼたぼたと漏らして垂らし続けている黒狼の肉竿は一切萎える気配を見せていない。
射精後もなお脈打つ剛直はギンギンに立ち上がり、丸々と実った金玉がふくよかな陰嚢の中で蠢いて収縮の余韻でヒクつく様子が青年の目に見えた。
「ぐるるっ……!! フゥッ、フゥーッ!♡ お゛ッおぉおお……ふ~っ……♡」
狼は肩を上下させてフゥフゥと珍しく息を荒げながら唸ると、荒く長い息を吐いて快感の余波に浸る。
揺れる尻尾が毛の擦れる音を立て、ぺったりと寝かされた耳がピクリと動くが、狼は夜の帳が下りた斜め上の空を見上げたまま動かず、まだ力を失っていない一物をググンッと跳ねさせて精液を溢し続ける。
どぶぶっと湧き出るような射精のたびに金玉を陰嚢の中で跳ねさせ、筋肉の収縮が太腿から腰へと連鎖して微弱な痙攣のように体を震わせていた。
対照的に、ヒューイは未だにげほげほと噎せていた。口内に残る狼の精液が喉を詰まらせ、気道に逆流して鼻をツンと刺す生臭さに思わず涙目になってしまう。
吐き出そうにも風邪の時の鼻水のように粘膜にへばりついて流れないそれを噎せながら吐き出すと、唇の周りや顎はぷるぷるとした粒状の白いスライムでべっとりと汚れてしまっていた。
初めて味わう饐えた味わいに戸惑い、塩気と粘り気が混じった異様な風味が舌にまとわりつく中でちらりとヴレグラムの様子を窺うと、狼はちょうど我に返ったところのようだった。
糸を引く股間の太竿をいきり立たせたまま、息を整えて心配そうにこちらを見る黒狼と視線が交わる。
狼は普段の鉄面皮のまま、一時とはいえ熱に浮かされ相棒を性の捌け口のように扱った罪悪感に若干ながら眉を下げた様子で申し訳なさそうに言う。
「す……すまない……だ、大丈夫か……?」
「だ……だいじょうぶ、です、んぐッ……」
息を吐くたびに耐えがたい生臭さが鼻を抜ける。ヒューイは噎せる中で何とか息を残し、掠れた声で返すことに成功する。
こちらを気遣う狼の竿は未だに鈴口からどくどくと粥のような精液を漏らしており、太い竿を伝う白濁を滴らせていた。
濃厚で濁った粘液は筋反射による勢いを失いながらも湧き水のようにじわじわと鈴口から溢れ出ており、太い血管が脈打って赤黒い亀頭が濡れて光るその剛直は未だに萎えた様子がなかった。
これも自分の副作用のせいなのだろうかと思って視線をやるヒューイに気づいた黒狼は、百戦錬磨の勘で意図を察したのか、再び申し訳なさそうな調子で口を開く。
「……普段から、この調子でな。一度や二度では……治まらんのだ」
「そ、そうなんですか……元気……いや、タフですね……?」
「うむ……」
黒狼が腹筋を震わせて発声すると、つられるように水平に持ち上がった肉竿がぐんっと跳ね上がる。
ヒューイは狼が真実を言っているのかどうかがわからず、ただ自分を庇っているのかそれとも本当に精力が強いだけなのかというのは判然としなかったが、曖昧に彼を労うような言葉を口にすると、当の黒狼は困ったように自分の竿を一瞥する。
騎士として誰かを守れるよう鍛え上げられた肉体を持ち、古巣を後にした今でもその教えが根付いている黒狼は、その見た目が示す通り下半身に備わった生殖機能も強靭で、一度や二度の射精では気が済まないほど並外れた体力を持ち合わせていた。
そしてそれは黒狼が頻繁に自慰を行わない理由でもあった。一度没頭すれば数時間は耽り体力と時間を奪われるため、これまでは気を紛らわすように鍛錬を繰り返していたのだ。
それは相棒の扱う術の副作用の影響下でも同じことだった。むしろ、勃起する頻度が増す程度であれば並外れた精神力で抑え込めるのだが、一度でも熱が入りこうも猛ってしまうともう収まりがつかない。
たとえ自分の意志以外によって狂おしいほど高められた劣情だとしても、こうして直視してしまったからには普段と同じように満足するまで向き合う必要があった。
「……もう少し、付き合ってもらえるだろうか」
「へ……? あ、はい、もちろんです! 俺にできることでしたら……!」
シャツを脱いでインナー姿になり、精液まみれの顔を拭いながら立ち上がるヒューイに、黒狼は意を決したように投げかける。
青年は最初こそ驚いたが、狼がこうなってしまう引き金を引いた原因として、彼が満足するまで付き合うつもりだった。
「……実は、だな。ただ陰茎を扱くだけなら……私一人でもできることだ。だが……」
「だが……?」
短く区切って、ふぅっと息を吐いた狼は視線を焚火のほうにさまよわせて、言葉を続ける。
「……貴殿と出会って数月、私も無策のまま手をこまねいていたわけではない。だが、この昂ぶりを鎮める方法は……片腕では難しいのだ」
黒狼が言っているのはつまり自分と組むようになってから、人知れず副作用を抱え込むようになってからのことだろう。
これまで単身で抑え込んできた画期的な方法があるのか、とヒューイは驚く。
「それで……恐縮だが……貴殿にそれを手伝ってもらえないか、と……」
逸らしていた眼をこちらに向け、狼の一瞥と視線が交差するよりも前に……ヒューイは頷いていた。
「も、もちろんです! 何度でも言いますけど……元はといえば俺のせいなんですから! 遠慮せず何でも言ってください、それに……こ、こんなにガチガチなままじゃ気も休まりませんもんね」
食い気味に頷いて、狼の下半身を正面から見据える。その態度はすでに開き直っており、物怖じした様子はなかった。
この事態を招いたのは自分だし、断る理由はない。しかし、ヒューイをここまでアグレッシブにするのには別の理由があった。
青年はそれを言うか言うまいかを少しだけ逡巡し、精液臭い顔を上げて言葉を続ける。
「それに、その……変なこと言うようですが、ヴレグさんとこういうコミュニケーションができるのがちょっとだけ嬉しいんです」
「む……?」
二人で依頼やクエストをこなすようになってそろそろ一年は経とうしているが、夜も共に過ごすようになりながらも、黒狼とは必要なときにのみ関わるドライな間柄に留まっていた。
荒くれもの達が絆を確かめ合うように互いに酒を飲み交わし、将来のことを夢見て語り合う青年のように騒いだりすることはなく、ビジネスライクな相棒に過ぎなかったのだ。
「原因を作っておいて何を言ってるんだと思われるかもしれませんが、ヴレグさんのこういう話って直接聞くのはちょっと恐れ多いし……今回は事故のようなものですけど、こうやって新たな一面を知れるのがちゃんと相棒になれたようで、なんとなく嬉しいなーって思ってて……」
黒狼はその言葉に表情を変えず、じっと青年の顔を見ていた。観察するようなその目つきは、ヒューイの声と顔に現れた感情を見逃すまいとしているようでもある。
返事のない狼に、青年はいい気になって喋りすぎたかと反省して言葉を翻す。
「も、もちろん仕事上の関係ってのはわかってますけど……でも、ヴレグさんともっと仲良くなれたら俺も嬉しいというか、今後もやりやすいというか……」
「……ふっ」
しどろもどろに取り繕う青年を見る黒狼の鋭い目が一瞬和らいで、太い喉が小さく震えて息を吐く。
空気が抜けるようなそれに、鼻で笑われたとヒューイがショックを受ける前に、立ちっぱなしだった黒狼がヒューイの脇を通り抜ける。
「……貴殿に接しづらいと、近寄りがたく思わせてしまった非礼を詫びよう。不器用な性分でな……浮いた話のひとつとして、満足にできぬのだ」
「あっ、いや、そこまでは別に……!」
「だが、貴殿ほどの男がそう言ってくれるのなら……そうだな。貴殿も己の非を責めるばかりでなく、これを通じて私のことを深く知ってくれるのなら、私もそれを嬉しく思う」
珍しく饒舌な黒狼は、形のいい尻を晒したまま尻尾をゆらゆらと揺らして地面に放っていた装備に手を伸ばす。
黒狼に振り返るヒューイは、その言葉をどう解釈したものかと戸惑う。言葉通りに受け取るのならば、互いにこれを楽しもうという物言いに聞こえるが、それはあまりにも自分に都合が良すぎるのではと受け取りきれずにいた。
勝手に性欲を亢進させるような怪しい術を使う得体のしれない男を前にどうしてそこまで受容できるのか。
その答えを持ち合わせていない青年を他所に、下半身裸の狼は放置していた肩当てから外した革のマントを手に取る。
それを片手でばっと広げ、乾いた血や土埃で汚れていない内側を表にして敷布団代わりにすると、片手で威勢よく上着を脱いでから露わになった尻をその場に落ち着ける。
片方の肩のみを隠すような非対称のマントを地面に敷くのは、黒狼が寝るときに見られる光景だったので、傍らで立ち竦む青年はてっきりもう寝るのかと思ってしまう。
しかし黒毛に覆われた太い腰が地面に触れると、黒狼はそれを否定するように筋肉が締まった太腿からズボンを脱ぎ捨てる。
息が整った狼は冷静な様子を取り戻しているが、ギンギンに勃起した太竿は脈を打って精液の残滓を垂らしており、先走りが混じった白濁が革のマントに染みを作る。
「ヴ、ヴレグさん……!?」
マントをシーツ代わりにした狼は黒毛に覆われた尻をどっしりと乗せ、露わになった大胸筋をゆさっと揺らしながら上着を放り投げると、一糸まとわぬ姿のままゆっくりと上体を後ろに傾ける。
己のヘソが天を向くように体を倒し、尻ではなく腰を重心にすると、のっそりと太腿を持ち上げて股を開く。
股間どころか尻まで丸見えにしたその姿は嫋やかさともはしたなさとも言い難い雰囲気に包まれていて、青年はこれを直視していいのかと思わず目を背けそうになる。
しかし、狼は腰を重心にして不安定な姿勢のまま股を開くと、腹直筋をばきりと力ませながら動く左手で粘液にこってりと汚れた一物に触れる。
太い指が竿に絡んだ精液を拭い、指間に生えた獣毛に絡みつく。座り込んだ際に竿を伝って根元に溜まった粘液も余さず指に絡めると、ぬちゃりと濡れた音を響かせて汚れた手をそのまま己の尻へと滑らせた。
「んん、ふぅッ……」
濡れた指先が肛門に触れると、黒狼のマズルから熱っぽい吐息が漏れ、太い喉が艶めかしく震える。
その息は低く、粘つくような湿り気を帯び、野営地の静寂に溶け込んで微かな色香を放っていた。
傍らの青年は目の前で行われている出来事を正しく理解できず、口を半開きのまま立ち尽くしているが黒狼はそれを意に介さず、尻でも拭くように秘部を弄る指を動かす。
ぱちりと枝が爆ぜて火の粉が飛ぶ。暗がりの中、重々しく垂れ下がった陰嚢の陰で息づく狼の尻穴は縦に割れてヒクつき、黒毛に囲まれた肉色の窄まりが微かに開閉を繰り返していた。
「ん……はぁ、っ……♡」
粘液と汗で濡れた指先がその縁を撫でると、ヴレグラムの口から熱い吐息が再び漏れ、掲げられた太腿が微かに震える。
指が窄まりを押し広げてぬるりと中に滑り込むたびに狼のマズルからは艶めかしい息がこぼれ、尻尾がわさりとマントの上を撫でる。
尻尾が揺れるのが座り込んだ狼の脇から見えて、ヒューイは我に返る。
座り込んだ黒狼の顔と下半身を交互に見やりながら、震える唇で言葉を紡ぐ。
「えっ……なっ、何っ、してるんですか……?」
「み……見苦しいところを見せるようで、すまない……頼みたいこと、というのは他でもない」
太い腰が微かに動き、黒毛に絡んだ汗と精液が滴る中、黒狼は青年を見据えながら続ける。
焚火の赤に照らされた瞳は濡れて潤んでいるように見える。その声も普段通り淡々としているように聞こえるが、熱っぽい吐息に混じって微かな切なさが滲んでいた。
「貴殿の手で……私の尻を、弄ってくれないだろうか……?」
紡がれた言葉に、青年はただ戸惑うことしかできない。
目の前の光景は異常だ。
精悍で雄々しい黒狼が、一度剣を構えれば必殺の決意と流麗な太刀筋で相対する外敵をものの数分で骸とする相棒が……女のように無防備に股を大きく開いて自分の尻に指を出し入れしている姿は、衝撃的で受け止めきれない。
「お……お尻を、ですか?」
「……そうだ」
何が正解かわからない気分で、喉が詰まる。
自分の術の副作用は、男性器だけでなく尻穴にも及んでいたということだろうか。そもそもその影響はどこまで及んでいるのか、性欲が増すのか、それとも精力が増すのか。
考えたところで、答えがあるわけでもない。自分がもたらしたことだというのに、何もわからない自分を情けなく思う。
「わ……わかりました」
ただ、ヒューイは狼の頼みに反射的に頷いていた。
男が自ら女のように尻穴を弄ることに対する驚きは消えていないし、まだこの事態をうまく飲み込めたわけではない。
それでも、尊敬する相棒の信頼に応えたい思いに嘘はなく、自分の戸惑いや抵抗などよりも優先されるだけのことだ。
何をどうしたらいいかは全く皆目見当もつかないが、青年はマントの上に座り込んだ狼の前に傅く。
己の未熟さが狼の体をここまでまるで呪いのように蝕んでいたとは信じがたく、取り返しのつかない事態を引き起こした罪悪感が彼の足元を揺らがせる。
震える手が狼の太腿に触れるが、その目は混乱と後悔に満ちていた。
「えっ……と、どう、したらいいですか?」
「うむ……」
露わになった黒狼の太い腰が艶めかしく揺れ、股を開いたまま肛門を指で弄る姿は、精悍な騎士のイメージを覆す生々しさに溢れている。
狼が尻穴に傾倒するようになった背景には、何らかの事情や誰かの責任があることは間違いない。
自分がその引き金となった可能性は否定できず、ヒューイの心にはへばりつくように重たい罪の意識が横たわる。
しかしそれは、目の前の狼の申し出を拒絶する理由にはならない。
腹を見せて仰向けになった黒狼は少し黙ってから、太い喉を低く震わせて「指を」と答える。
ヴレグは言葉をそこで区切ると、喉を上下させて唾を飲んで再び口を開く。
「……指を、挿れてみてくれ」
「は、はいっ……!」
座り込んだ青年に改めて命じる声は低く、淡々とした調子を保ちながらも、微かな照れと欲望が混じって感じられた。
発声の折に狼の太い一物が脈打って先走りを滴らせ、艶めかしい肉色を晒す窄まりがヒクつく中、その目はヒューイを見据えている。
ひとまず自分の反省や今後の身の振り方を棚上げした青年は、股間を脈打たせて自分を頼る相棒を満足させようと心に決めて手をそっと持ち上げる。
指先はゆっくりと狼の股下に伸び、マントを敷いた土の上に座り込んだ太い腰の下に忍び込む。
ふくよかな金玉の裏に指が触れると、陰嚢の中で重たげに揺れるその質量が熱を帯びていた。短い黒毛に覆われた会陰部は滴った粘液で濡れ、塩気と猥臭が混じった濃厚な熱気に満ちている。
陰茎を触る衝撃で忘れていたが、考えてみれば黒狼の体にこうして触れることすら数えるほどしかなかったかもしれない。
頼りになる相棒だが、どこか自分とは住む世界の違う存在と思っていた節は確かにあった。
それを、まさかこんな風に触って距離を近づけることになるなんてとヒューイは遠い日の出来事を懐かしむように漠然と思った。
「っ……」
ごくり、と粘ついた唾液を喉の奥に押しやって、毛むくじゃらの尻たぶに指先を滑らせる。
ヴレグラムの尻は筋肉と脂が詰まり、丸々と膨らんだ双丘は形を歪め、でっぷりとした太腿を備えて微かに震えていた。
黒毛に包まれながら汗で湿ったその表面は指が触れるたびにじんわりと温かい体温とむっちりとした柔らかさを伝える。
股を開かれて露わになった狼のアナルは毛深い尻肉の奥に隠れるように暗がりの中でぱっくりと縦に割れ、黒毛に囲まれた窄まりを粘液で濡らしヒクついていた。
青年のつるりとした指先が輪を描くように持ち上がった縁肉に触れると、ぬちゃりと粘液に濡れた粘膜の感触がする。その軟らかさは他人の唇に触れるようでもあった。
「……ぬ、ぅんっ……」
自分以外の手、それも毛皮に覆われてないつるりとした慣れぬ感触に、ヴレグラムの窄まりが微かに開閉する。
マズルから熱っぽい吐息が漏れ、ねだるように尻穴がせわしなく動くと、いよいよヒューイの頭を様々な考えが過ぎる。
他人の尻穴を弄って汚くないのか、そもそも尻でどうやって気持ちよくなるのか、それは単なる排泄器官のはずではないのか。
そんな懊悩が彼の胸をざわつかせるが、狼の局部を撫でる内にそれらは霧散する。
ヒューイの目と鼻の先、黒狼の股ぐらでは棍棒のような男性器がビクビクと繰り返し脈を打っており、快楽に飢えて涎を垂らしている。
彼が欲するものを施せるのは自分だけで、ただ一人の担い手となっている事実に生唾を飲んでしまう。
狼の後孔は不浄の排泄器官であるとわかっているが汚れていたりにおったりする様子はなく、黒毛に囲まれた窄まりがヒクヒクと収縮を繰り返すさまは自分の指を待っているようでもある。
得も言われぬ淫靡さに胸を締めつけられ、ヒューイは意を決して指を押し進める。
窄まりに触れると軟らかな窪地につぷり、と指先が嵌まるような感触があった。
口を噤むように締まっていた括約筋がふわりと緩み、柔らかく開いて指を迎え入れる。直腸の肉が蠢き、ぬるりとした粘膜がヒューイの指に絡みつく。
滑らかで柔軟な壁が侵入してきた異物を包み、締まったり緩んだりを繰り返しているのが指の腹に伝わる。
「う、むぅッ……いいぞ……♡」
「う、うわっ……す、すごいっ……」
波のように肉が蠢いて指を包み込む感触が生々しくヒューイの手を汚し、体毛や外皮を介さない生の体温がダイレクトに伝わると、思わず感嘆に息が漏れる。
生き物の内臓に直接触れていると言ってしまえばそれまでで、そこまで驚くような体験ではない気もするのにどうしてここまで背徳的に感じてしまうのかがさっぱりわからない。
自分がいけないことをしているような感覚は後ろめたくもあり、それ故に甘美でもある。
他人の肛門に指を突っ込むだけの行いに、ここまでの意義を感じるとは自分でも驚きであった。
「ぬっ、ふぅううん゛っ……!♡」
指が内壁を押し広げる感覚に、ヴレグラムは唸るように長く息を漏らす。
吐息に混じった湿り気が、それが単なる苦悶ではないことを示していた。
「だ、大丈夫ですか……?」
「……も、問題、ない。そのまま……続けてくれ……♡」
思わず尋ねてしまうヒューイに狼は普段通りの淡々とした声で答え、片腕で己の片足をさらにぐいっと力強く抱えながら目の前の青年を見据える。
その瞳はパチパチと枝の爆ぜる焚火に照らされて、橙の光を跳ね返しながら情欲を湛えて煌めいていた。
ヒューイは「わかりました」と言おうとして唇を動かすが、果たして発声に十分な息が出たかどうかはわからなかった。
「ん゛おおッ……!♡ お、奥、来るッ……♡」
乞われるままに、突きこんだ人差し指でさらに狼の膣奥を穿つ。
その感触に黒狼は凛々しい立ち耳をぺったりと寝かせ、腹を見せて寝転んだ図体をぶるりと震わせる。その姿は、快感に浸る獣の欲望を隠さない。
ヒューイの指が狭い腸管の中で動くと、入り口を閉める括約筋がそれ以上動くことを許可せず固定するように指の根元にしがみついて強く締まる。
しかし青年の本気の抵抗に敵うはずもない、ぬちゃりと濡れた肉と摩擦させた指の腹にぷにぷにとした腸肉を感じながら引き抜くと、電流を流されたように黒狼の胴体がびくんと跳ねる。
指先が覗くほど引き抜いた人差し指を再び突き入れると、まるで蕩けた肉の底なし沼に落ちるようにずぶずぶと沈んでいく。
黒狼は丸々と筋肉が張り出した胸板を上下させて深呼吸を繰り返し、腸の奥に滑り込んできた異物感に体を慣らす。
次第にその屈強な肉体は更なる快楽を求め始め、括約筋で指を締めつけては緩める動きが青年の手をさらに深くへ誘う。
「ふぅううっ……!♡ むッ、ぅううん゛……♡♡」
「う、うわ……」
野営地の地面に敷かれたマントが微かに揺れ、遠くの木立から聞こえる虫の声が静寂に混じる中、ヒューイは微かに声を漏らす。
それは失望や不快から発せられたものではなかった。
狼の肉壺に挿入した指に、ぬちゅぬちゅと絡みつく腸肉が急かすように、そしてねだるようにしゃぶりついてくる感触のためだ。
入り口の括約筋はきゅうきゅうと締まっているのに、内側は拡がりを見せるように蠢き、ぬるりとした粘膜が指にまとわりついて包み込む。
ヒューイは緊張した顔で息を飲む。
それは無意識に浮かんだ考えによるものだ……ここに自分の性器を挿入したら、どんな感触だろうか、と。
それを自覚しないまま、青年は狼の後孔に指を出し入れし、軟らかい粘膜が波のようにうねっり脈動を伝えるのを指の腹に感じながら擦り続ける。
「ぬ゛ほおぉぉッ……!♡」
腸壁を擦られる狼は大気を震わせるようなバリトンで唸り、甘やかな吐息を漏らす。
青年の細い指が毛深い尻の奥深くを穿つと、太い剛竿がギンッと跳ね、赤黒く腫れ上がった先端からどぷりと濃厚な粘液が溢れ出していた。
完全に力を取り戻した狼の一物は黒毛に絡んだ白濁を洗い流す勢いで我慢汁を垂らし、脈を打った拍子に跳ねた飛沫がマントに染みを作る。
黒狼は長いマズルから舌をはみ出させ、はぁはぁと荒々しく息を吐きながらギラついた目を向ける。
「ゆ、指をっ……増やしてくれ……♡」
「は、はいっ……!」
その声は興奮に濡れ、普段の淡々とした調子では隠し切れない獣のような情欲が見え隠れしていた。
脈打って溢れた先走りで亀頭の張り出した縁を濡らし、長いマズルから垂れた舌がべろりと黒々とした唇を舐める。
感度の増した腸肉を摩擦される快楽に溺れつつある黒狼の膣口は挿入される指にしゃぶりつき、ぬちゅぬちゅと伸び縮みする肉壁で媚びていた。
ヒューイは言われるがまま指を二本、束ねるように重ねて狼の後孔に突き入れる。
窄まりに指先が触れた瞬間、ぬるりと湿った感触が広がり、蠢く粘膜を無理やり押し広げるような圧力が指に伝わった。
「ぬっ、ぐぅぅっ……!♡♡」
二本の指を締めつける括約筋が緩み、開いた中へ無理やり滑り込む質量に黒狼の太喉からは先ほどより強めの声が漏れ出る。
「大丈夫ですか? 痛かったりとか、苦しかったりとかは……」
「……問題、ない。それより……もっと……わ、私の尻穴をほじってくれ……♡」
「は……はいっ……!」
驚きと心配が混じった声で尋ねるヒューイに、ヴレグラムは重く呼吸を繰り返しながら明らかに情欲を漂わせた声で返す。
青年の懸念とは裏腹に、狼の肛門はよく練られているようで二本の指にもすぐさま拡がりを見せ始めていた。
異物のサイズが増したことで圧迫感は明らかに強まっているが、黒狼は苦痛を感じず、むしろ快楽に震える。
「ん゛ッぅうう……♡ っはぁっ……♡」
ヒューイの指が控えめに動いて引き抜かれると、熱い粘膜は別れを惜しむように指に絡みついて蠢く。
動きを切り返し、狭く窄まった肉門へ押し入ると、滑らかで柔軟な筋肉の層でぬるついた腸肉が寄せては返す波のように動く感触が伝わる。
直腸の軟らかい壁が指の腹と擦れ、拡がりながらも締まりを保った肉壺は二本の指を包み込むたびに腸肉が蠢いて指を吸い込むように収縮を繰り返していた。
「ぬぅうっ……♡ わ、私の尻がっ……っぐぅぅ、たまらんん゛ッ……♡♡」
生きた内臓らしい感触をした粘膜が指に吸いついて、括約筋が収縮と弛緩を繰り返すたびに二本の指を締めつける力は強すぎず、かといって弱すぎもせずに絶妙な圧迫感を保っている。
持ち上げた足先を震わせて熱っぽい吐息をこぼす黒狼の後孔は、二本の指に反応してさらに拡がりを見せ、快感に慣れた動きで男を誘ってヒクついていた。
「す、すごい……あったかいっ……」
他人の体温が直に伝わる粘膜に触れるヒューイは、率直な感想を口にして指の抽挿を続ける。
指から伝わる感覚の全てが新鮮で、強烈な体験を青年に与えていた。指先を温める蕩けた肉は、その経験のないヒューイに異性の性器もこんな感じなのだろうかと思わせる淫靡さに溢れている。
それは人体に存在する肉壺という共通項が結びつけた齟齬に過ぎないが、まだ年若い青年は無意識のうちに目の前の肛門を女性器と結びつけてしまう。
単なる排泄器官と知りながら、自分でも知らないうちにヒューイはこの肉穴を埋めるのにうってつけの何かが存在すると認めてしまっていた。
それを自覚していないために、とろとろに緩んだ尻穴に夢中になって指を出し入れする青年は己の下半身に起きている出来事を正確に把握できていない。
そして、偶然か……あるいは故意に狙ったものか、
仰向けになった黒狼の太腿が震え、装備を脱いで黒毛に覆われた裸足を晒す足先が僅かに下がる。
その動きはどこまでも自然で、狼に向かって膝を突くヒューイの体を掠めた。
「あっ……!」
声を上げたのは、狼の爪先がズボンの股間に触れたからだ。
気まずそうにびくりと体を強張らせて手を止めると、自分の体に触れた大きな足が再び持ち上がって離れる。
声を上げなければよかったとすぐに後悔したヒューイは、太い竿が脈打つ黒狼の股下に手を伸ばしたまま、顔を赤らめる。
「む……勃起、しているのか」
「いやっ、その。これは……っ、…………は、はい……」
のそりと起き上がるように僅かに首を持ち上げた狼は、股の間からヒューイを見据えて淡々と問う。
太い喉が低く唸り、黒毛に汗が滲む中、その鋭い目は青年の股間を一瞥する。
狼の言葉通り、青年のズボンはギンギンに突っ張り、股間にテントを張っていた。
濡れた肛門に指を出し入れする行為に没頭するうち、いつの間にか自分も興奮する狼に当てられて硬く屹立していたのだ。
指摘されたヒューイは何とかしてごまかすべきだと思ったが、結局ちょうどいい言い訳も浮かばずに、肩を落として頷く他なかった。
自分がどうして勃起しているのかは彼自身にもわからない。
狼の蕩けた後孔を弄る淫靡な感触が、それとも熱に浮かされた黒狼の情欲に満ちた反応が、あるいは尊敬する相棒との奇妙な親密さがそうさせたのか。
考えてもわからないのは、指を突き入れた肉壺に抱いた感想をまだ正確に受け止め切れていないためだった。
「……ふむ……♡」
「うぅっ……! ちょ、ヴレグさんっ……?!」
黒狼の足先が再び青年の股間に着陸すると、確かめるようにズボンの布越しに硬くなった膨らみを擦った。
性感帯を触られる感触に、膝立ちになったヒューイの太腿が震える。
戸惑ったように息を詰まらせる彼の手を、狼の腸肉は伸び縮みして包み込む。まるで自ら蕩けた腸壁を押しつけ、前後に扱くような圧力を指に感じると、股座が更に血を滾らせていきり立ってしまう。
狼の足指がヒューイの股間を掠めるのは、意図的な挑発か、無意識の動きか、どちらとも取れた。
「……ヒューイ」
「えっ……あ、は、はい……?」
ヴレグラムの目は青年の反応を静かに観察していたが、やがて汗と粘液が混じった熱気が漂う中で彼は珍しくその名を口にする。
呼ばれた青年はびくりと体を強張らせ、その声に驚きつつ顔を上げる。
目の前で、腹筋を使って起き上がる途中のように上体が傾いた狼の姿が視界に入る。
焚火の明かりに照らされた黒狼の肢体と剛直が夜の闇の中で妖艶に浮かび上がると、その姿からは漂う異様な美しさと淫靡さが青年の息を詰まらせる。
「……貴殿も男子であれば、そのままでは辛かろう」
「あっ、いや、その……!」
太い喉が低く唸り、黒毛がじんわりと汗ばんだ中で、黒狼は相手の返事を待たずに言葉を続ける。
「……遠慮することはない。お前の男根を……私のココに挿れて、鎮めるといい」
そう言って両脚を持ち上げ、動く方の腕で片足をぐっと抱えると、黒狼の太い腰は二つ折りになるようにコンパクトに折り畳まれ、尻穴が丸出しになる。
狼の声には情欲が滲み、普段の騎士らしい物言いとは異なる熱っぽさが混じって感じられた。
黒毛に覆われた尻たぶが外に引き伸ばされるようにむっちりと形を歪め、ぬるついた肛門がヒクついて、中途半端に挿入されたままの青年の指がぬぷりと押し出される。
膝立ちになっている青年は、ほかほかとした体温を宿した手を黒狼の股下に構えたまま固まっていた。
「え……えっ?」
狼の言葉が頭を巡るが、その意味がわからない。
挿れる? どこに? 何を?
混乱が胸を締めつけ、彼の目は狼の脚を開いた姿とヒクつくアナルを呆然と見つめることしかできない。尻尾がわさりと身じろぐたび、黒毛に絡んだ汗と粘液が滴った肉壺が動いて青年を誘う。
しかし、黒狼は青年の困惑を想定していたかのように、太い足先を再び動かす。
爪先がズボンの股間を撫で、硬く突っ張った膨らみを横から擦ると、青年の体がびくりと震え、狼の意図が彼を急かす。
こんもりと陰唇を盛り上げた肛門は締まり、その奥に拡がる滑らかな軟肉は波のようにうねって蠢いている。
ヒューイはそこでようやく、あれほど軟らかく指を包み込んでいた粘膜の中に、自分の性器を挿入したらどうなるかと期待していた自分がいたことを認識した。
「い、いいんです……か?」
疑問と混乱が後から後から押し寄せて来るので、そんな言葉を口にするだけでも苦労したが、それでも声は掠れ緊張が喉を詰まらせる。
黒狼は仰向けに寝るように上体を倒したまま、片腕をだらんとマントに横たえて足先の肉球でヒューイの屹立をツンツンと煽りながら頷く。
「うむ……無論、構わない」
ヒューイの股間はズボンの中でさらに力強く立ち上がり、膨らみを擦る黒狼の足をぐいぐいと押し返す。
この肉壺を無意識ながら女性器か、あるいはそれに準ずる肉穴と見なして密かに劣情を抱いていたことを図らずも狼の言葉で気づかされた青年は、しかしだからと言ってそれをすぐには受け入れられずに硬直する。
何故ならそれは、自分の倫理規範や一般的な価値観からはかけ離れた行いだからだ。
そんなことをして本当にいいのだろうか?
それに、勃起しているだけとはいえそこまでする必要はあるのか?
ヒューイの頭は狼を思いとどまらせる理由を探すが、何も思いつかない。
どうにかして彼に考えを改めてもらう必要があった、なぜならヒューイにその誘いを断れるだけの自信も、況や自制心もがないからだ。
逞しく、判断も早い一人前の冒険者であるヴレグラムは、良き相棒であり憧れの存在だ。
そんな狼が、尻の穴をヒクつかせながらはしたなく雄の一物を求めている事実が、まったく感じたことのない動悸と切なさに姿形を変えて青年の胸を締めつける。
情欲に満ちた瞳の誘いに応えたい気持ちが疼いて、トロトロに緩んだ肉穴と逞しく太い体に惹かれる自分を自覚するが、それが男同士である異常さに頭は混乱したままだ。
尊敬する狼がこんな姿を晒す切なさと、それを自分が引き起こした罪悪感が混じり合う。
断りたいのに断れない、断りたくないのに断らなければいけない。そんな葛藤が彼を硬直させる。
「……なんだ、脱がせて欲しいのか?」
「なっ……い、いえ、そういうわけでは……!」
動きを見せないヒューイを見かねて、黒狼がそんな文句を口にする。
ここ数か月共に過ごしたからこそわかる。それは挑発などではなく、本気でそう思っていそうな声音だった。
黒狼の体を苛む副作用の責任を取るために何でもするといったのは自分だ。咄嗟に否定したのはそう言った手前、今更彼を失望させたくないと思ったからだ。
だが、本当にそれだけの理由かというのは自分でも疑わしい。目の前からスーッと遠ざかっていく宝石に慌てて飛びついただけのような気もしていた。
震える手で腰を浮かせたヒューイはズボンを縛る紐に手をかけるが、指先が震えてうまく動かない。緊張が全身を支配し、妙に粘ついた唾液を無理やり喉の奥に押し込む。
さっきまでヴレグラムの肉壺へ突き入れていた指でズボンの紐に触れ、震えながらもようやくそれを解く。
粘液で濡れた指が布を汚し、ズボンを下ろそうと手をかけると、ぴたりと動きを止める。
「あっ……あの、俺、実は……」
「む……?」
青年が掠れた声で呟くと、黒狼は片眉をぴくりと上げて続きを待つ。
ヒューイは言い訳をするように、そして申し訳なさそうに言葉を紡ぐ。
「その、こういうこと……女相手でも経験なくて、ですね……」
言いながら、自分が何を伝えようとしているのかがよくわからなくなって、言葉を止める。
顔が熱くなり、視線が泳ぐ。
狼の誘いに応える覚悟と、未経験ゆえの不安が交錯する青年は、初めてだから下手でもいいですか、というようなことを当初は言おうとしていたはずだった。
だが次第に、そもそもこういうことは好き合った者同士でやるのでは? と思い始めて、初めてを捧げてもいいかどうかを尋ねる意味合いを含めようとしたが、それは自分がこの狼に好意を向けていると告白しているのと同じではないかと気づいて言葉を止めたのだった。
そこへさらに、いや慕っているのは事実だが好きとか恋心だとかそういう話になるとまた別なような……とぐるぐると悩み、考えがまとまらなくなってしまったのだ。
ヒューイの手はズボンを下げる途中のように腰に引っかけたまま、黒狼の反応を恐る恐る窺う。
のそりと首を持ち上げたヴレグラムは自らの股ぐら越しにヒューイを見ていた。
彼の無表情な顔が青年の真意を探るようにじっと見つめ、しばらくの沈黙が流れるが、やがて焚火の光に照らされた鋭い目がフッと和らぐ。
「……問題ない。私も、本物は初めてだ」
「えっ……」
その精悍な顔つきには確かに笑みが浮かんでいた。
それは冷たいものでも、嘲るようなものでもない。微かだが、相手に安心を与える穏やかさに満ちて感じられた。
しかしその言葉はヒューイをさらに困惑させる。
本物は初めてということは偽物の経験はあるのだろうか?
つまり向こうにとっても、自分が最初の相手になるのか?
自分で言っておいてなんだが、そんな大事なものを自分が受け取ってしまっていいのか。
いや、そもそも女相手ではないのだから処女とは意味合いが違うのだろうか。
頭の中を巡る考えは尽きず、思考は混迷を極める。
ヒューイが思考を整理できずにいたが、狼が言葉を続ける。
「……それとも、気乗りしないか?」
その声を聞いて、青年は全てを棚上げする。
狼の声には微かな寂しさが滲み、表情も気落ちしたように僅かに曇っていた。きゅーんと鼻を鳴らすような音がどこかから聞こえてきそうですらある。
自分がそんな顔をさせてしまったと思うと、心が激しく揺さぶられるようだった。
尊敬する相棒を……というよりも、このはしたない狼を失望させたくない、悲しませたくない気持ちが、彼を突き動かす。
「そ……んなこと、あるわけないじゃないですか?!」
言いながら、下着ごとズボンを脱ぎ捨てる。布の筒を足先から脱ぎ去って、その場に膝立ちになる。
元は自分が原因で狼にこんなことをさせているという罪悪感以上に、彼は自分の意志で黒狼に抱いた劣情をはっきりと自覚していた。
下半身を晒した青年の股間では、立派に立ち上がった肉棒が上に反り、硬く屹立して存在を主張する。太さも長さも、獣人であるヴレグラムのモノには敵わないが、血管が浮かんだ竿は存在感を持って張りつめ、先端は微かに濡れて焚火の光を跳ね返している。
「……ならば、良い」
狼は低く呟き、動く方の手で脇に転がっていた小さな小瓶を掴むと、目の前の青年に向かって差し出す。
「潤滑油だ。使うと良い」
「えっ、あ、ありがとうございます……?」
黒狼はそう言って腹と首に力を入れて持ち上げていた上体をその場に寝させると、正常位でヒューイを誘う。
小瓶を受け取った青年は、得体の知れない液体にごくりと生唾を飲む。
指先が震え、狼の誘いに応える覚悟と緊張が交錯する中、小瓶の蓋を開けてとろりとした油を手のひらに取る。
植物の種子から搾ったらしい油はハーブの香気を含んでいて、ほのかに漂う草木の香りが少しだけ心を落ち着かせてくれるようだった。
意を決したように、青年は手のひらに溜まった油を自分の一物にまぶす。
ぬるぬるとした感触が竿に絡みつき、指で扱くたび、未知の快楽が背筋を走る。
硬く屹立した肉棒が油で濡れて光り、血管の浮かんだ表面が滑らかになる。ぬるりとした油が指間に絡む感触に息を詰まらせるヒューイに、黒狼は低く問う。
「……準備はできたか」
「あっ、は、はい、多分……」
ヒューイは扱く手を止めて頷く。
青年も健全な男子である以上自慰行為に親しみが全くないわけではなかったが、それでもこうして潤滑油を用いてぬちゃぬちゃに扱くのは初めてのことだった。
これだけでも段違いに気持ちいいのに、さらにここから狼の中に挿入したらどうなるのかと思うと、自分が緊張しているのか期待しているのかわからなくなりそうだった。
ヴレグラムは「では……」と言って、ぐっと片足を強く抱える。むっちりとした太腿の間から黒狼の結い髪が揺れるのが見えた。
「そのまま、私のココに挿れてくれ……♡」
足が更に引き上げられたことで、仰向けに寝た狼の黒毛に覆われた尻がさらに露わになる。
太腿は丸太のように太く、筋肉と脂が詰まって硬く締まり、膝を抱える姿勢でその厚みが強調される。
両脚を高く持ち上げ、動く方の腕で片膝をしっかりと抱えると、もう片方の脚が微かに震えながらも開かれる。
むっちりとした尻たぶが開かれるように引っ張られ、ふくよかな金玉が陰嚢の中で重たげに揺れ、太い剛棒が腹に倒れて先走りを滴らせる。
「は、はいっ……!」
わさりと尻尾を揺らして尻穴を丸出しにした黒狼に乞われるヒューイは、からからに喉が渇くような感覚を覚えながら、膝立ちになって毛むくじゃらの下半身に体を寄せる。
ねっとりとした油で汚れた手で狼の黒毛に覆われた太腿に触れていいのかと迷うことすら忘れて、ぴったりと体を添わせる。
狼の太腿は青年の腰ほどもあり、筋肉と脂が詰まった硬い感触が彼の体に伝わる。
わずかに作った隙間で、ヒューイは油に濡れた肉棒を狼の肛門にあてがう。
縁が土手となって盛り上がった陰唇がぬちゅりと亀頭に擦れ、きゅっと窄まるその動きは、まるで青年の先端をひと舐めするかのようだ。
粘液と潤滑油が混じり合い、ぬるりとした感触が滑るたびに息が詰まる。
本当にこの中へ、この軟らかい肉に性器を預けるのだと思うと、かぁっと顔が熱くなる感じがあった。
逸る気持ちを抑え狼のふくらはぎに両手を添えた青年は、明後日の方向に爪先を向ける狼の脚にすり寄るように抱き着き、意を決して挿入を試みる。
「あ……あれ、っ……?」
しかし、固定されていない亀頭の照準は定まらず、肛門の表面を滑ってなかなか入らない。
緊張で腰を何度も前後させ、土手状に盛り上がった肉壺の縁を擦る青年の声から焦りが滲む。
そんなヒューイを見かねたのか、腹直筋を盛り上げて身を起こした黒狼は尻でも拭うように自分の股下に手を伸ばす。
己の一物の上に跨るように腕を伸ばすと、肉球を伴った指で青年の一物を掴む。指先で表面をつつーっと滑らせ、架かる橋を支える台のように水平に伸びる肉棒に下から手を添える。
「……大丈夫だ、焦る必要はない」
いつもと変わらぬ調子で淡々と言うが、その声には微かな優しさが宿っていた。
狼は剣を扱う時のように慣れた手つきで青年の猛った若い肉棒を支え導き、自分の入り口にぴたりと宛がう。
「……ここだ。このまま、ゆっくりと腰を突き出せ……」
「は、はい……!」
太い喉が低く唸り、情欲を漂わせる黒狼は剣の振り方でも教えるように優しく指南する。
青年は先達の教えに従い、前腿部を力ませて震える腰を突き出す。
亀頭が肛門の窄まりに押し当たり、ぬちゅりと粘液の絡みつく感触に腰が止まりそうになってしまう。
黒狼の括約筋は力強く締まりながらも柔らかくほぐれるようにその口を緩める。
その収縮は若人の獣欲に尻穴でしゃぶりついているようで、初めて味わう肉の快楽がヒューイを襲う。
「うむっ、いいぞっ……そうだ、そのままだ……ッ♡♡」
「う、うぁっ、すごいっ……!♡」
ねっとりとした軟肉が縁取りするように性器の輪郭を包み込むと、熱くぬるりとした粘膜が亀頭を締めつける。
窄まりがきゅっと締まり、油と粘液に濡れた肉棒をゆっくりと飲み込んでいく。
腸壁が蠢き、軟らかく熱い肉が青年の一物に絡みついて、ずぶり、と先端が入ると後は自然と奥まで飲み込まれていった。
緩んだり締まったりして寄せては返す波のように蠢く腸内の動きに合わせ軽く腰を突き出すと、青年の青い欲棒はずぶずぶと底なし沼に沈むように入っていく。
「ぬぅうう゛ッ……!!♡♡ は、入るっ……♡ 私の尻穴に、貴殿のモノが入ってくるッ……♡」
狼の肛門はせわしなくヒクついて、輪っか状の括約筋が竿を締め上げては緩める動きが続く。
青年が体重を預けるように折り重なった太い脚が震え、体と擦れるその感触がヒューイをさらに興奮させていた。
丸々と膨らんだ尻肉を押しつぶすようにぐっと腰を突き出し、更に奥へと肉棒を進めると腸肉が敏感にせり上がり、腹圧をかけられた肉壁が圧力を増して軟らかく竿全体を包み込む。
血が滾った股間よりも火照った他人の体温と、竿を包むむっちりとした圧迫感で先端から根元までを揉み込まれ、初めての性交の快楽にヒューイの頭は真っ白になる。
「ぬお゛ぉッ♡♡ お、奥っくるっ……!♡」
「こ……これ、やばっ……! す、すごすぎるっ……!♡」
ヒューイの一物が完全に飲み込まれると、黒狼は余裕なさげに雄々しく喘ぎ、分厚い胸板を震わせる。
黒狼の直腸は色を知らぬ青年の肉棒を熟達した娼婦のように的確に締めつけ、腸壁が竿に吸いついて蠢いていた。
ぬちゅぬちゅと蕩けた肉で媚び、突き入れられた腰を離さないとばかりに、軟らかい粘膜で包み込む。
敷かれたマントの上に膝を突いた青年は狼の逞しい太腿に体を寄せたまま、初めて味わう肉の感触に俯いて耐える。
手で扱くのとはまさに段違いの快楽強度に戸惑ってしまって、どうしたらいいのかがわからない。
黒狼の肛門に包まれた自分自身は熱くぬるりとした粘膜に締めつけられ、ぬっとせり上げた腸肉が蠢いて圧迫する感触が竿全体を包む。
こうしてじっとしているだけでも肉壺はヒクヒクと動き、まるで肉の筒がそれ単体で前後に蠢いているかのように一物を擦り上げていた。
「ううぅっ……! こ、これ、気持ちよすぎるっ……!」
未知の快楽にヒューイの息が詰まり、腰が微かに震える。
狼は深く長い呼吸を繰り返し、胸板の上にドーム状に張り詰めた大胸筋をたゆんと揺らして言う。
「いいぞ……そのまま、動いてみろ……っ♡」
「は、はひっ……!」
狼の声は聞いたことのない色気を孕んでいて、こういった睦事でしか使わないだろう甘さに満ちていた。
その言葉を向けられたヒューイは、かつてない相棒の声音に戸惑いが吹き飛んでいくのを感じていた。
このまま快楽を味わっていていいのか、この行為は果たして正しいのかと逡巡していたが、狼の声に生殖本能そのものを肯定されたような感覚が胸を満たす。
狼の毛皮でもさもさとした太腿に挟まれたまま、彼は頷き、ぎこちなく腰を振り出す。
頭は目の前の狼の蕩けた目つきと声にぽーっとして熱くなって、舌は興奮でもつれて既に呂律が回らなかったが、それでも体をどう動かせばいいのかは遺伝子に刻まれた本能が教えてくれるようだった。
「う、ぐぅぅっ……!」
腰を引くと油に濡れた一物が肛門を押し広げ、ぬちゅりと粘液が絡みつく音を響かせて抜き去られていく。それだけでも腸壁と摩擦する感覚はまるで万の舌で舐め上げられるようで、青年は頭の奥で快楽がばちばちと弾けるのを感じていた。
それだけならまだ耐えられただろう。
しかし、ヒューイの腰は律儀にもぎこちなく前後し、太いふくらはぎに添えた手と膝立ちになった足先を震わせながら、相棒の期待と誘いに応えるべく動き始める。
青年は、十分に引き抜いた肉棒を、再度ずんっと勢いよく叩き込む。
それがいけなかった。
異物を排するために、内腔を閉じようとして腸壁を立体的に持ち上げ圧力の高まった肉筒の中をかき分けて進む快感は色を知らなかった青年にとって鮮烈すぎた。
性的興奮で自制の利かない頭では、この快楽を求めて騒ぐ心を抑える術がない。
味を知ってしまった獣のように、今、青年は一匹の動物と成り果てる。
「ぬぅぅうぉおお゛ッ……!!♡♡ っは、いいっ、いいぞっ、尻の奥がっ抉られるようだっ……!♡♡」
「うぅっ……す、すごいっ、これっきもち良すぎます……腰とまんねぇっ……!」
腰を突き出すたび、熱い腸肉が竿に絡みつき、ぬるりとした粘膜が締めつけてくる。
腰を引くたび、括約筋がきゅっと締まり、柔らかい肉が吸い付いて離れまいとする。
ぐちゅぐちゅと濡れた音が連続し、青年の足腰が黒狼の太腿とぶつかって音を重ね合わせていく。
ヒューイが手を丸太のような脚に添えると、むっちりとした肉に指が沈む。
狼のふくらはぎに手を添えて支えとしながら、彼は正常位で腰を振り続ける。
丸々として張り詰めた太腿は筋肉と脂が詰まり、青年の手指の形に合わせて軟らかく歪むが、時折がちっと硬く強張り、指を押し返す逞しい筋肉の存在を主張していた。
「ん゛ぉおおッ♡♡ い、いいぞっ……!♡ そ、そうだっ、わ、私の尻に……お前の滾りの限りをぶつけてこい……っ!♡♡」
「は、はいっ……! こ、こうですか……?!」
「ん゛ぉおおッ……!♡ そ、そうだぁっ!♡♡ いいッ、いいぞぉっ……!♡♡」
突き入れられる一物が前立腺を腸壁越しに押し込み、直腸の中を出入りするたびに黒狼の乳房はゆさっと軟らかく揺れ、ガチガチにそそり立った剛直からはどぷりと粘ついた体液が分泌される。
その太い喉からも喜悦を隠そうともしない声が漏れ、ヒューイもまた緊張と快楽で声が掠れる中、懸命に腰を動かし続ける。
ぐちゅぬちゅと濡れた交接音が響き、油と粘液にまみれた直腸の肉感がヒューイの竿を締めつける。
括約筋が締まり、収縮する粘膜が亀頭を舐るように擦り上げるたび、味わったことのない快楽が青年の腰を苛んでいく。
前後に揺さぶられる振動でぶるんぶるん振り回されている黒狼の肉砲はギンッと跳ね、誰も触れていないというのに精巣や膀胱を内側から刺激されたことで分泌された粘液が先端から溢れ出していた。
半透明な液体は明確に白濁して子種が混ざっていて、腹に飛び散ったそれは体を覆う黒毛に染み込むこともなく半固形物として絡む。
前立腺を掠める動きはその一物だけでなく、黒狼の鍛え上げられた鋼の肉体すら震わせる。
その反応が示すように、汗ばんだ黒毛に彼は先走り汁とも子種ともつかない粘液をどぷどぷと漏らしていく。
赤黒い狼棒が脈打つたび白濁が先端から溢れる。勢いのあるものは腹や胸にまで飛び散るが、大体は太い血管が浮かんだ竿を伝って下腹部をボタボタと汚していった。
「っはぁ♡ ふっ、はふっ、わふっ……♡♡ ぐッぅうう~……!♡♡」
黒狼は長いマズルから舌をはみ出させて、ハフハフとイヌのようにパンティングを繰り返す。
ヴレグラムはどれほどの窮地に陥ったとしても、ここまで余裕を崩すことはなかった。
自分の未熟な魔術が狼をこうさせたかもしれないと思うと罪悪感でちりっと胸が痛むが、それ以上に自分の性器がこの精悍な狼を乱れさせているのだという事実に、心が熱く疼く。
独占欲が血管を膨張させ、血流が耳元で鳴り響くように高ぶり、支配欲が胃の底をぎゅっと締め上げ、愛情が喉を詰まらせて目の奥を熱くする。
一体全体どうしてかはわからない。
それでも、青年の胸はこの逞しい相棒が自分のものだと刻み込みたい衝動に震えていた。
「ヴ、ヴレグさんっ……どうですか……?!」
「ぬうぅぅっ……!♡♡ い、いいぞ……遠慮する必要はない……っ♡♡ 私はっ、お前の相棒なのだろう……っ♡ 思う存分、私の尻を使ってくれ……♡」
息を喘がせながら、黒狼は絶え絶えに声を繰る。
その声がヒューイの耳に響き、胸の疼きをさらに煽る。
掲げられていた狼の両脚が青年の肩に凭れかかると、どっしりとした重さが肩に乗り、毛むくじゃらの太腿の奥にがっちりした筋肉の感触が伝わってきた。
一日動いた狼の体臭が鼻を突き、汗と獣臭が混じった濃厚な気配がヒューイを包む。
太い脚の重量感と生々しい体温にすら多幸感を覚えてしまうのは、何という感情が原因なのかはわからなかった。
「は、はいっ……!!」
ヒューイは声を張り、腰に力を漲らせる。
黒狼の誘いに掻き立てられ、彼の腰の奥が熱く燃え上がる。
両肩に凭れかかってきた脚を抱きかかえ、正常位から屈曲位へと移行する。分厚い体を二つ折りにさせて身を乗り出すと、脚の重さが肩にさらに沈み込むようだった。
黒毛に覆われたふくらはぎが青年の首筋に擦れ、汗で湿った毛が肌に絡みつく。
ヒューイの体を挟む太腿から、筋肉の硬さと脂の柔らかさが混じった感触が触れ合った肌から伝わる。
ちくちくとした毛皮の感触も、じっとりとした体温も何故か不快に思うことはなく、むしろ誇らしい気持ちで青年は太い下半身に抱きつくように体重をかけて腰を前後させ続ける。
「ぬおぉ゛ぉッ……!♡ ふ、深いぃっ……!♡ 私の尻がっ奥までずぼずぼされて……たっ、たまらんんっ……!♡」
興奮を露わにする黒狼は、荒々しく呼吸を喘がせながら動く方の手でヒューイの背をかき抱く。
肉球を伴った節くれだった指が青年の背中から首筋を愛おしむように撫でる。太い爪が軽く肌を擦り、汗ばんだ人間の肌に熱い感触を残す。
ヒューイは、最初は速度に重きを置いて腰を動かしていた。
狼の太い脚を抱え、正常位から屈曲位へと移行した態勢で小刻みに出し入れするようなリズムで腰を打ちつけるようにしていた。
だが、狼の膣内があまりにも気持ちよく早々に射精の予兆が、ふわふわとして軟らかい腸肉が一物を圧迫する中を摩擦していると腰に射精の予兆がぞわりと近づくのを感じて、慌てて勢いを抑える。
このままだと早々にイってしまいそうだが、黒狼がまだ満足していないかもしれないのに自分だけ気持ちよくなっていては世話がない。
そう思って腰のリズムを緩め、ヒューイは堪えるような深呼吸を繰り返して頭を冷やすための酸素を取り入れる。
だが、青年はその行いが無意識にこの狼膣をもっと堪能したいと思ったことから来ているとは気づかない。
毛むくじゃらの太い体に乗り上げるように前傾しながら、初めて味わう鮮烈な快楽に浸る。
「ヴレグさんっ、き、気持ちいいですかっ……?」
油で濡れ、ねっとりと蕩けて自他の境界を曖昧にした淫肉に裏筋をぬぷぬぷと擦りつけて前後しながら、腹を見せて寝そべる狼に問う。
青年は腰の動きを落とし、直腸の奥、結腸部分まで亀頭を出入りさせる深いピストンに切り替えていた。
頭で考えたわけではない。ただ、自分の性器の先端から根本までを擦りつけるように腰を前後させたらもっと気持ちいいはずだと本能の奥から囁く声があった。
そんな自分はとうに絶頂を予感するほど感じ入っているが、この狼が自分の動きに真に満足してくれているか、自分が役目をしっかり果たせているかどうかというのは確かめる必要があった。
「ぬおおおおッ……!!♡♡ ぐっ、ぐるるるッ、ぬふぅッ♡♡ あ、あぁ……き、気持ちいいとも♡♡♡」
黒狼より二回りほど小さな青年の体重が凭れかかったところで、鍛え抜かれて屈強な体を持つ狼に負担はない。
それでも、他人の質量で前後に体を揺さぶられ、椀状に張り出した大胸筋をゆさゆさと弾ませる歴戦の冒険者は腸壁を抉られる快楽に情けなく喘ぐ。
肛門の輪っかを出入りする一物が直腸の深部を目指して突くたび、前立腺を掠める刺激が腸壁越しに響いて狼の肉砲がびゅるりと精液を漏らす。
太い喉は獣のように唸り、腹筋が締まって震え、内臓が快感に反応してうねる。
こくこくと頷く黒狼が快楽を楽しんでいる様子は明らかだった。
「ほ、ほんとですか……?! あの、俺、ちゃんとできてますか……!?」
「う、うむっ……♡ いいぞ、上手だ……っ♡♡」
黒狼は仰向けのまま頭を上げ、青年の顔を見据えて柔和に微笑む。
太い喉が震え、切れの長い鋭い目が一瞬和らぎ、情欲と満足が混じった表情が浮かぶ。
取り澄ました涼しい顔が印象に残る精悍な黒狼は、今やだらしなく舌をはみ出させ、とろりと甘く目を濁らせたまま息を切らして青年に股を開いていた。
その言葉に、そしてその表情に青年は全身がカッと熱くなるのを感じる。
まるで血が沸騰したような、血管が膨張して皮膚の下で脈打つような感覚だ。
魔術の師に褒められたときよりも強く凄まじい歓喜が胸をめちゃくちゃに掻き立て、心臓がドクドクと早鐘を打つ。
喉が締めつけられ、息が熱く吐き出されるたび、青年の体は震えに支配される。
その頭からは、自分がしでかした不始末や、男が男を犯す異常さすら図々しくも抜け落ちてしまっていた。
今のヒューイにとって、尊敬する雄に褒められ、相棒に嬉しそうな顔を向けられることは何よりも優先すべき最重要事項だ。
歓喜が胸を突き破り、まるで内臓が熱湯に浸かったように疼く。
愛しさよりもこの雌狼を自分のものにしたいという雄々しく歪んだ支配欲が胃を締め上げ、後から追いついた愛情が涙腺を熱くして目を潤ませるほどだった。
「ヴレグさん……っ!」
青年は縋るように狼の名前を何度も口にし、どうしても逸ってしまう腰を振り続ける。
名前を呼ぶたび、心臓が締めつけられ、鼓動が耳元で鳴り響く。
自分が誰を犯しているのか、自分の性器を誰が欲しているのか、メスのように股を開いている狼が誰なのかが心に深く刻み込まれていく。
黒狼の太い脚が青年の肩に凭れ、体を二つ折りにするような屈曲位で揺れるたび、その重さと熱が彼を圧倒する。
名前を呼ぶ喉は掠れ、年若い青年の胸は愛情と支配欲で溢れ返る。
頼りになる相棒が自分を求めている事実が、まるで脳に熱い針を刺すように刻まれ、彼をさらに煽る。
「ぐぉおおおおおっ……!♡♡ す、すごいっ♡♡ 当たるっ、お゛っ、奥にっクるッ!♡♡ ぬぅうううん゛ッ♡♡♡」
臓腑に響くピストンに息を詰まらせながら、仰向けになって尻だけを持ち上げた黒狼は喘ぎ続ける。
内臓を圧迫し、腸壁を抉って前立腺や膀胱にまで届く刺激が、黒狼の長大な一物に絶頂とは異なる快感をもたらし続けていた。
筋肉の痙攣を伴わず、直接精巣と前立腺を刺激されたことで、猛々しく腫れて膨張した肉竿からは湧き水のように粘液が溢れ出す。
赤黒い剛直がどぷりと白濁を漏らし、ぷるぷるとスライムのように亀頭の上を揺れる粘液が幹を滑って黒毛に絡む。
ヒューイは喘ぎながら子種を漏らす相棒の痴態にごくりと生唾を飲み、毛足の短い下腹部に染み込むことなくぷるんと浮いた粘液を摘まむように撫でる。
「す、すごい……ヴレグさんのちんぽから、どんどん精子出てきてる……」
「う、うむっ……♡♡ き、貴殿のちんぽが……イイとこに当たって、たまらんのだ……っ♡♡」
黒狼がはしたなく性器のことを口にすると、あれほど強い冒険者がこうも乱れてしまうのかというショックが青年の頭をガツンと揺らす。
それと同時に、そうさせているのは自分だという実感が腰をさらに熱くさせるようで、つい言葉が口から滑り落ちる。
「いつもあんなにかっこよくて強いのに……お尻で、そんなに気持ちよくなっちゃうんですか……?」
相手を軽んじるような調子になったことを、口にした後でヒューイは恥じた。
責めるようなつもりはなく、青年の発したそれは賛辞と罪悪感が混じった言葉のつもりだった。
頼れる相棒の知らぬ一面を知れる喜び、はしたなく乱れる姿を自分に晒してくれる嬉しさ、その相手に選ばれた誉れがヒューイを付け上がらせ、口を滑らせたのかもしれない。
「そ……そうだっ……♡ 最近は……尻を弄らんと、十分に満足できぬほど……あさましい男なのだ、私はっ……!♡♡」
しかし、黒狼は気を悪くするどころか更に熱っぽく息を吐き、神に懺悔するように宣う。
太い胸板が上下に震え、声は情欲に濡れている。
歴戦の猛者である相棒のはしたない告白に、ヒューイの股間はますます硬くいきり立つ。
主人に屈服した飼い犬のように腹を見せ、ハフハフと荒々しく喘ぐ様子は頼りになる冒険者の姿からは想像できない姿だ。
顎を打ちのめされたように脳がクラクラして視界が揺れるほどの衝撃が青年を襲う。
「むぅぅうッ……!♡♡ も、もっとだ……もっと見てくれっ、私が尻穴で気持ちよくなっているとkろをぉッ♡♡♡ ん゛ぉおッ♡♡」
喚く黒狼の直腸は男の肉棒を受け入れ、まるでその形を覚えたかのように拡がっている。
ぬるりとした腸壁が充血した性器を押さえつけるように圧迫し、ふわふわと軟らかい粘膜が絡みつくが、やがて狼の腸肉は異物を排泄するようにぬっと迫り出す。
腹圧をかけていきんだことで、直腸の粘膜が膨張し、存在感を増して体内に突きこまれる性器を外へ押し出そうとしているのだ。
腹筋が締まり、太い腰が微かに持ち上がるたび、ぬるりと湿った肉が排泄時のようにうねり、収縮する直腸によって押し出す動きが強まる。
「っふー、はふぅッ♡♡ はッ、ぐぅううッ♡♡」
「う、うわ、すごいっ動いてるっ……! っくぅ……!♡」
「ぬ゛ふぅううッ♡♡ し、尻がっ、めくれるぅっ……!♡♡♡ んはぁッ♡♡」
その中を無理やり動いて摩擦する快楽に、青年は病みつきになってしまう。
肉をかき分けるように掘削すると、粘膜が竿に擦れ、強い快楽が彼を包む。
蕩けた腸肉が一物を締め上げ、ぬちゃぬちゃと濡れた粘膜を擦りつけながら、排泄の押し出す力と交接の突き込む力が混じり合う。
直腸の軟らかい壁が竿に吸い付き、外に向かう動きと内に向かう動きが拮抗し、熱くぬるつきながらもふわふわとした淫肉が青年自身を圧迫する。
その感触が、ヒューイを終局へと追い詰める。
「ヴ、ヴレグさんっ、俺っ、もうイっちゃいそうです……!」
射精の予兆が腰に迫ったヒューイが掠れた声で報告する。
どうしたらいいのかわからない。女相手なら子種を中で出すのは避けるべきだが、男相手はどうなのか。
かといって外に出して相棒の体を汚すのは忍びないし、床に向けて出すのも違う気がする。
逡巡しながらも、上り詰めるための腰の動きは止められない。
最後に残った理性すら飲み込もうとする快楽の奔流に飲まれかけている青年に、黒狼は三角耳をピンと起こして眠たげに蕩けていた瞳を輝かせる。
「! そ、そうか……♡♡ いいぞ、そのまま出してしまえっ……!♡♡」
「えっ、い、いいんですか……?!」
「当然だっ……!♡♡♡ 私の……私の胎の中に、お前の子種を放ってくれッ♡」
黒狼は余裕のない声でそう言うと、ヒューイの肩に乗り上げていた両脚を下ろす。
向かい合った青年の胴体を狼の脚がカニの鋏となってぎゅっと挟み込み、丸太のような太腿が彼をホールドする。
黒毛には汗が滲み、軟らかなふくらはぎが青年の背中を抱えて逃がさない。
射精が近づいて頭がぼうっとして知能も低下する中、黒狼の言葉に抗う余力もないヒューイは駆け降りるように絶頂へ向かう。
「あっ、やべ、ほんとにっ……出るっ、出ちゃいますっ……!」
「わ、私もッ……っはぁ、尻穴ほじられてっ、漏れるっ、出るぅっ……!♡」
鍛え上げられて膨らんだ大胸筋を突かれる振動でゆっさゆっさと揺さぶられている黒狼は追いかけるように喘いで、さらに腹圧を掛ける。
腸肉が迫り出し、排泄するようにいきむのは、内側から膀胱を刺激されてこみ上げるものを解き放とうとしているからだ。
迫り出した肉壺が深く吸い込む息に合わせてきゅっと奥へ窄まり、まるで波が引くように肉が引き込まれる。
だが、次の吐息と共にぐっと膨らみ、圧力を増してヒューイの一物を押し返す。
直腸の柔らかい粘膜がぬるりと動き、熱い肉が竿に絡みつきながら脈動する中を、青年は肉をかき分けながら長いストロークで往復する。
亀頭から根本までを使い、狼の雄膣の最奥から入口までを容赦なく蹂躙する。
「ぬぅうううッ……!♡♡♡ ぐぅっ、ごるるるるッ!♡♡ だ、だめだっ……出るっ、イぐっイくぞぉおッ……!♡♡」
押し出すように張り出した肉を無理やり押し込まれる黒狼は、排尿感と絶頂感が堪えがたいほど高まるのを感じていた。
尿意と快感が混じり合い、骨盤底筋に力が入る。
やがて尻の穴をきゅっと引き締め、股の下の筋肉が緊張した瞬間、それは訪れた。
「っ!♡♡ イ、イぐっ、出るっ出るぞぉっ!!♡♡ ぬ゛おぉおおおッ!!♡♡♡」
仰向けで尻穴をずぼずぼと無遠慮に犯されながら、黒狼は背筋を反らせて強く仰け反ったまま低く吠える。
太い喉から迸った獣のような遠吠えが夜の闇に吸い込まれると、狼の体は快楽に支配されて絶頂を迎えた。
長大な一物が短い頻度でびくびくとわななき、先端からどぶぶっと勢いよく子種が弾ける。
丸々とした金玉がぐぐりと持ち上がり、陰嚢の中で重たげに収縮を繰り返す。
指の幅ほどもある尿道が裏筋にくっきりと浮かび上がり、熟したプラムほども大きく腫れた赤黒い亀頭はカリ首の傘をパツパツに開いて伸び上がるように脈動する。
ぱっくり開いた鈴口から精液が絶え間なく噴き出し、太い血管を浮かべた剛直がびゅるるるっと白濁を放つ。
「ぐぉおおお……ッ!!♡♡ で、出るっ、まだ出るぞッ……!!♡♡ っふぅ、ふーっ……!♡♡♡」
二回目にもかかわらず、濃厚で粘り気のある精液はアーチを描き、黒狼の腹を越えてマズルの鼻先にまで飛び散る。
ぼたぼたと着弾する白い粘液塊は一撃ごとに勢いよく飛び、飛沫というよりもちょっとした水流と呼ぶほうが相応しい量だ。
射精のたびに鶏卵大の大きな金玉が陰嚢の中で跳ね、剛直が震えて精液を撒き散らす。
その尻穴は絶頂の影響で下半身の筋肉が痙攣するように収縮を繰り返し、挿入されている青年の肉棒を忙しなく揉みしだく。
括約筋が締まり、ぬるりとした腸肉が竿に絡みついて締め上げ、うねってヒクつく動きが快楽を増幅させる。
「お、俺もっ、イきます……! 出るっ、イくっ……!」
ヒューイは責め立てる腸壁の動きに耐えきれず、黒狼が絶頂する姿に安堵したこともあり、腰を打ちつけながら絶頂を宣言する。
引き抜こうとした裏筋に耐え難い掻痒感に似たもどかしさを覚え、叩きつけるように腰を突き出すと、溶け合って境目がわからなくなった熱い粘膜に自分の体温を解き放った。
前頭葉にバチバチと稲妻が走り、視界に星が弾ける。心臓は小さな爆発を繰り返すように脈打ち、こめかみは激しい血流でずきずきと痛む。
絶頂を迎えたヒューイの一物から、びゅるっと飛び出した精液が黒狼の直腸に放たれる。
「う、うぅッ……! す、すごいっ、動いて、っぐううぅ……!」
「ぬ゛ぅうぅううッ……!!♡♡ か、感じるっ♡♡ 熱い子種が、私の中に入ってくるっ……!♡♡♡ んぉおお゛ッ……!!♡♡」
熱い白濁は腸壁を叩き、壁に塗り込む石膏のようにびちゃびちゃとぶつけられる。
青年は歯を食いしばりながら、太腿と腹部で狼の尻肉を歪ませるほど腰を強く突き出して奥へ奥へと子種を流し込む。
黒狼の肉壺は子種を注ぎ込む男根が膨張するたび、きゅうきゅうと輪っか状の口を窄めて吸いつく。
青年の青臭い精液は孕ませるべき卵もないのに奥にどくどくと流し込まれ、折れ曲がった腸管の奥に熱と粘り気を残していった。
射精の勢いは強く、竿が届かない奥にまでびちびちと叩きつけられる感触に黒狼はうっとりと息を漏らして尻穴をヒクつかせながら白濁を奥まで飲み込む。
「っはぁ、はぁっ……! うっ、す、すごいっ……! き、気持ちいいっ……!」
「ふーっ、フゥーッ♡♡♡ あぁっすごいぞっ、貴殿のモノが中で跳ね回って……っ!♡♡ ぬうぅぅぅん゛っ……!♡♡」
肉棒を根元まで咥え込んだ括約筋が締まると、腸壁が奥へ窄まって精液が更に奥へ押し込まれる。
手も触れずに吐精した狼の膣内は、挿入された男根を雌のようにきゅうきゅうと締めつけているが、その締めつけは息を吐くタイミングでふわりと緩む。
その動きは先ほど排泄するようにいきんだ時と同じで、腹圧をかけて直腸を押し出し括約筋が開く動きが、黒狼の体内で新たな衝動を呼び起こしていた。
「ぬ、おぉ゛ッ、おぉおお~~~ッ……!♡♡」
「う、うぁっ……!」
唸った狼の尻穴が忙しなくヒクつく。
まだ先端からゆるゆると精液をこぼし続けている一物をうねる腸壁で揉み込まれる刺激に耐えきれず、青年の口から息が漏れる。
射精直後の敏感な亀頭を熱い粘膜にぬちゅぬちゅと舐られ、過剰な刺激に腰が震えてしまう。
心臓がドクドクと激しく脈打ち、額に滲んだ汗が頬を伝って滴る中、その異変に気づいてヒューイは顔を上げた。
疲れ果てた体は重くハァハァと掠れた息が口から漏れるが、その目は驚きに丸くなり狼の様子を呆然と見つめていた。
「い、いかんッ……出るっ、来るッ……!♡♡ むぉおおおお゛ッ……!♡」
「えっ……?」
浸るように息を吐いた次の瞬間、長大な狼槍がびくんと跳ね上がる。
潮位を増したかのように、先端の鈴口にじわりと体液が滲む。
ヒューイは最初、まだ絶頂しているのかと思ったが、別物だということはすぐにわかった。
次第に湧き出す勢いを増したそれは、じょろろ……とすぐに水流を作ってアーチを描く。
まだら模様に白濁がこびりついた黒毛を洗い流すようにばたばたと濡らすその飛沫が密着した青年の手や足元に飛ぶ。
極めて流動的なそれはさらっとしていて、澄んでいるように感じられた。
「わ、うわっ……?!」
「と、止まらんん゛っ……!♡ 尻穴犯されてッ、小便漏れるぅうッ……♡ ん゛ぉおおお~っ……!!♡♡♡」
太い血管が浮かんだ赤黒い剛直が震え、ぱっくり開いた尿道からさらさらとした体液がほとばしる。
その言葉とは裏腹に、色の薄い液体は透明に近く、臭いも小便にしてはそこまでキツくないが、ほのかに体液特有の生臭さにも似た気配が漂う。
勢いよく飛び散る水飛沫がヴレグラムの腹と胸を濡らし、黒毛に絡んでほかほかと温かい染みを広げる。
黒狼は挿入された雄棒によって結腸の奥まで抉られ、内側から精巣だけでなく膀胱を刺激されたことで、その快楽の強度に屈し情けなく潮を吹いてしまったのだ。
「ヴ、ヴレグさん……!?」
「むぅううううん゛ッ♡♡ で、出る、出るのが止まらんん゛っ……!♡♡♡ んはぁぁ゛っ♡♡」
ヒューイは息を荒げながら驚きの声を上げるが、さらさらとした体液を避けたり嫌がったりすることはなかった。
射精後の疲労で肩が重く沈み、太腿が震える中、彼の目は腹を見せる狼の潮吹きに釘付けになっている。
臭いや色がそこまで強くないとはいえ、溢れ出ている様は小便としか思えないその液体を、驚いた顔のまま見つめるだけだ。
狼の肉竿から噴き出す潮は、じょばじょばとした勢いを保ち、ザーメンの染み込んだ胸毛を十分に濡らすと、体から滴ってマントに染み込む。
濡れて張り付いた毛皮が、鍛え抜かれて乳房のように膨らんだ大胸筋のシルエットを焚火の光の中で鮮明に浮かび上がらせていた。
温かい体液が放つ微かな蒸気が青年の鼻先に届き、汗と獣臭に混じってほのかな尿の香りが漂う。
ヒューイには狼が潮を吹いた機序など理解できない。ただ、目の前で繰り広げられる光景は、何かとんでもなくいやらしいものを、見てはいけないものを覗き見てしまったような背徳感が動悸を激しく呼び起こす。
尿を押し出すように腹圧をかけ続けている狼の肉孔は、挿入されたままの肉棒に軟らかく膨らんだ腸壁をぐいぐいと押しつける。
射精して硬度をいくらか失った青年の一物は、まだ半分ほど力を残していながらもその圧力に耐えきれず、狼の体内から退去を迫られ徐々に押し出されていく。
「あっ……ぬ、抜けちゃう……っ!」
「ん゛ぉおおッ♡♡」
疲労で声が震え、腰が後退する力を抑えられない。次の瞬間、黒狼の肉壺からにゅぶっとペニスが抜け落ちる。
ぬちゃっと濡れた音を立てて抜けると、中出しされた精液が窄まりから逆流して溢れ出し、ピンク色の粘膜から滴った白濁が黒毛にこってりと絡みつく。
縦に割れた縁肉は汗と粘液でいやらしく濡れて光り、括約筋が緩んだり締まったりを繰り返す。
小便を出し切るように腹圧をかける動きが続くと壺口はぬっと唇を突き出すように迫り出し、ぽっかりと開いた内部の赤みを覗かせていた。
快楽と解放感に支配され、抜けたペニスの形を覚えているかのように尻穴をヒクつかせている黒狼の下肢がびくっと跳ねる。
太い腰がさらに浮いて持ち上がり、腹筋が締まって股の下に力が入ると、まるで天に差し出すように勃起した一物を高く掲げる。
「ぬぉお゛おッ……!♡ っはぁ、はぁッ……!♡♡」
野太い吠え声が狼の喉から迸り、夜の静寂を切り裂く。
長いマズルから舌がだらしなく垂れ、太い胸板が激しく上下する中、狼の逞しい一物が再びしゃくり上げる。
剛直の先端からじょろっと強い勢いで潮が飛び上がり、その水流はヴレグラムの鼻先にまで届いて黒毛を濡らした。
二人の間をすっかり暮れた夜の風が吹く。
冷たい気流がヒューイの汗ばんだ肌を撫で、快楽に蕩けていた思考を少しだけ冷やし固めていくようだったが、目の前でぐちゃぐちゃに毛皮を濡らし、脇腹や腕を伝って地面に敷いたマントまで濡らす狼に何を言えばいいのかわからなかった。
満足しましたか、とか?
あるいは、いっぱい出ましたね?
いやいや、それともありがとうございます?
……何を言っても正解ではない気がして、口を開くたびに言葉が喉で詰まってしまう。
困惑が顔に浮かび、視線が泳ぐ中、彼の手は震えながらも膝に置かれたまま動かない。
黒狼はそんな青年の様子を尻目に、腹筋をばきりと盛り上げて起き上がる。
太い腰と背中が水気を含んだマントから離れ、濡れた黒毛がぐちゃりと湿った音を立てる。
潮と精液にまみれた毛皮が月光に照らされ、じっとりと濡れた毛束は光沢を帯びていた。
「フゥッ、フゥーッ……♡」
黒狼は荒々しい息を整えながら、戸惑った様子のヒューイを見据える。
その鋭い目は彼の顔を捉えた後、ゆっくりと視線を下げて膝立ちになった股間を一瞥する。
息を弾ませ、黒毛に絡んだ体液が滴る中、黒狼の表情は鉄面皮に戻りつつあったが、その奥に微かな熱が宿っている。
身じろぐたびにマントに染み込んだ潮が音を立て、ほかほかとした熱気は徐々に冷めつつある。
そんな中、狼の体はまだ快楽の余韻に震えながらも、歴戦の猛者らしい威厳を取り戻しつつあった。
ヒューイは狼の視線に気づき、「あの」とか「えっと」などと言葉を選びながら口ごもる。
百戦錬磨の猛者であるヴレグラムはその隙を見逃さない。
「……まだ……」
「えっ、あっ……は、はい……?」
「……元気、そうだな?」
声は淡々としているが、どこか試すような響きが混じる。視線の先には、青年の股間で屹立したままの一物があった。
年若い冒険者の生殖器は一度射精した後も硬度を失わず、鎌首をもたげたペニスが油と粘液で濡れて微かに脈打っている。
見られている気恥ずかしさもあって、半ば聞き返すように答えるヒューイには狼の言葉の意図が掴めない。
掠れた声が夜気に溶け、視線が狼の顔と自分の股間を往復すると、黒狼はゆっくりとその場に足を立てて全裸のまま起き上がる。
「あっ、その……は、はい……」
「うむ……それは重畳だ」
濡れた黒毛が重たげに揺れて体液がぽたりと滴る。太腿の筋肉が締まり、黒毛に絡んだ潮が脇腹を伝って地面に落ちる。
夜風が二人の間を吹き抜け、濡れた毛皮から漂う微かな尿臭と獣臭が青年の鼻先に届く。
黒狼の顔はいつもと変わらぬ調子に見えたが、その口端ははっきりと持ち上がり、獰猛な笑みを浮かべていた。
鋭い下牙が唇から覗き、眉間に刻まれた皺が深まると歴戦の猛者らしい威圧感が戻って感じられるが、どこか飢えたような熱が瞳に宿ったままだ。
勢いを失いつつあった焚火に転がしていた枝を片手間で放り込んだ黒狼は、全裸のままその場に膝を突いた。
片手の使えない黒狼は、動く右拳を地面に突いて体を支え、前傾姿勢を取る。
球状に張り出した肩の筋肉がわずかに震わせながら、青年を振り返るその目は快楽と潮吹きの余韻でじっとりと濡れ、鋭さの中にかすかな切なさが滲んでいた。
「……もう一度、今度は後ろから頼めないだろうか……?♡」
「えっ……?」
でっぷりとした尻をずいっと後方に突き出し、太く逞しい下半身を見せつけるように露わにしたまま黒狼は低く唸る。
その声は騎士の威厳というよりも娼婦のように甘い妖艶さに満ちていて、尻尾の揺れる大きな尻を左右に揺らして男を誘っていた。
汗と体液で濡れた体毛がべっとりと張りついた尻たぶは身じろいで軟らかく震えるたびにぐちゃりと湿った音を立てて、その肛門からは注いだばかりのザーメンが下品な音を立てて漏れ出している。
ぶびゅっと空気を伴って逆流した白濁が滴り、窄まりがヒクつくたびにぬちゅりと粘液が溢れて尻の割れ目をこってりと汚す。
黒毛に絡んだ精液は太腿の内側を伝い、筋肉の張り詰めた脚の輪郭の上を滑る。
膝を突いた狼の下半身に宿った逞しさは揺るぎない。
太腿は丸太のように太く、大腿筋が膨張して黒毛の下に硬い隆起を描く。
丸々とした尻たぶは筋肉と脂が詰まり、片方だけでも人の頭部のように大きく膨らんで重たげに揺れるが、その下に隠れる肛門は淫らに開ききって白濁を垂らし続けていた。
膝を突いた姿勢でさえ太い腰はどっしりと地面に根を張ったように安定しており、その下半身は戦場で鍛え上げられた力強さを誇っている。
それなのに、今はその全てがいやらしく、淫らに見えてしまう。
肛門を見せつけるように尻を突き出して挑発しているからだけでなく、目の前の黒々とした肢体全てに色香を感じてしまうのはどういうことなのだろうか。
黒狼の体ならこれまでにも見たことはある。だが今、はっきりと目の当たりにして感じるのは抱いたことのない激しい情動だった。
この感情に名前をまだつけられていないヒューイはただその光景に目を奪われる。
逞しさや頼もしさとはかけ離れた相棒の姿に困惑しているのも確かだ。
しかし、尻の穴から白濁を溢して腰を揺らすはしたなさに、この世に生を受けてから味わったことのない劣情が湧き上がっているのもまた事実である。
狼の太い尻が揺れるたび、ヒクついた肉穴から溢れた白濁が滴ってぬちゃりと濡れた音が響く。
濡れた目と娼婦のように尻を振る仕草が、その下品さが理性を揺さぶり、年若い青年の下半身を熱く疼かせていた。
「わ……かり、ました」
「うむ……♡」
誘いに頷いた青年は、疲労で震える膝を地面に突くと手早く狼の背後に膝立ちになる。
ヴレグラムの逞しい腰に両手を伸ばし、どっしりとしたその肉体を掴む。
狼の腰回りは太く、脂の乗った肉付きは人間の細い指をわずかに沈ませるほど分厚い。
黒毛に覆われた腰は骨格からして人間とは比べ物にならないほど頑強で、指が埋もれるほど柔らかくもありながら、その下に隠れる筋肉の硬さがしっかりと伝わってくる。
ヒューイの手に収まりきらず、掌に感じる重さと熱が彼に骨格レベルでの体格差を見せつけるようだ。
しかし、その相手をこれから犯すのだと思うと、ヒューイの下半身に血が滾り、疲労で幾らか緩んだはずの一物が再び最大まで硬く屹立する。
「い、挿れます……」
「うむっ……挿れてくれ、先ほどのように、私を遠慮なく使ってくれっ……♡♡」
己の一物を濡れそぼった肛門にあてがうと、ぷにぷにとした陰唇が亀頭を啄むように出迎えた。
黒狼は期待に満ちた様子で尻尾を自分の背中側に倒し、丸めるようにして道を開ける。
太い尻尾が重たげに背中に垂れると、狼は背筋を反らして尻を振る。
逞しくも艶めかしい腰つきはあてがわれた一物を左右に揺らして舐るようで、濡れた毛束がくすぐったくてもどかしい。
そんな中でも、ヒューイは手間取らずに挿入を果たす。先ほど手間取ったこともあって、その口からは思わず喝采がこぼれる。
「よ、よし……!」
「ぬおおお゛ッ……♡♡ き、来たぁっ……♡♡」
油と粘液まみれの狼の尻穴は、既に縦に拡がってぽっかりと口を開けており、先ほどまでの抽挿と中出しで柔らかくほぐれていた。
青年の一物は抵抗なく熱い鞘に納まり、ぬちゅぬちゅと腸ひだと擦れて奥を目指すと、黒狼は背筋を弓なりに反らして浸るようなため息を吐く。
「んおぉ゛ぉおおッ……やはり、たまらんっ……!♡♡ ん゛おぅッ、奥が抉られるっ……!♡♡」
「す、すごいっ、ヴレグさんの中、とろっとろで……き、気持ちいいですっ! ヴレグさんもっ俺のちんぽ気持ちいいですか……!?」
「あ、あぁッ……♡♡ わ、私もっ気持ちいいとも……ふ、ふふっ♡♡ 貴殿のちんぽで尻を犯されて、たまらなく気持ちいいぞっ……♡♡♡」
「うッ……うぅっ……!!」
肩越しにこちらを見ながら微笑む黒狼に、青年は落雷が落ちたような衝撃を腰に覚える。
うなじからこめかみに垂れて揺れる編み髪がこの上なく愛らしく見えて、ヒューイは後ろから腰を寄せてぎこちなく動き始める。
それは次第に激しくなり、やがて容赦ない激しさで腰を前後させ、獣の交尾のような勢いで黒狼を犯す。
「ぬぉおお゛っほぉお~~~っ♡♡♡ すっ、すごいっ♡♡ は、激しっ、んお゛ぉおおおッ♡♡♡」
「ふぅっ、ふぅっ……!! すっげ、これ、気持ちよすぎますっ……!」
草食獣の繁殖を思わせる勢いで、ヒューイの腰は黒狼のでっぷりとした尻に打ちつけられると、脂の乗った臀部がたぷんっと軟らかく波を打つ。
丸々と膨らんだ尻たぶは筋肉と脂が詰まっており、鍛え抜かれた雄々しさを持ちながらも、青年の動きに合わせてスライムのようにぷるりと揺れる。
青年は尻ごと鷲掴みにするように黒狼の太い腰を掴んで前後運動の支えとすると、手指が埋まるほどの軟らかさにぞくぞくとした官能を覚えた。
その軟らかさを強調するように波打って揺れる尻たぶのはしたなさが際立つ一方で、ヴレグラムの背中は筋骨逞しく隆起していた。
肩から腰にかけての筋繊維が浮かび上がり、黒毛の下に隠れる硬い筋肉が犯される腰の衝撃に耐えて微かに震える。
再び突き込まれた一物を狼の肛門は切なげに締めつけ、精液がこびりついて濡れた腸壁で竿を愛撫し続けていた。
抽挿の間で中出しされた白濁は泡立ち、かき出されるように窄まりから溢れて尻の割れ目を汚す。
生々しい赤色を晒す粘膜と体毛の黒、そして泡立った白い粘液のコントラストが、黒狼の逞しさと堕落した快楽の対比を際立たせるようだった。
「お゛ッ、ぬほおぉお゛ッ♡♡ 尻がっ、尻の穴がめくれるぅうぅっ♡♡♡ ぬぅううん゛ッ♡♡♡」
太いマズルから舌がだらしなく垂れ、汗と体液で濡れた黒毛が焚火の明かりに照らされて艶めかしく光る。
黒狼は動く方の片腕を突き自重を支えて膝立ちになったまま、足の裏を見せるように揃えた爪先をぎゅっと丸めて快楽に耐える。
狼の膣内は不定形に蕩けながらも不規則に蠢いたり迫り出したりする淫肉で詰まっており、ヒューイはあっという間に粘膜に自分の性器を擦りつける悦びの虜になっていた。
「うぅっ……! す、すごい、ヴレグさんのここ、もう女のマンコみたいですよ……!」
だから、そのような文句が出たのもヒューイにとっては手放しの賛辞のつもりだった。
異性と性交したことがない青年にとって、それは対象がどのくらいいやらしく自分を興奮させるのかを示すもので、けして何か特別な意図があるわけではなかった。
さらに言えば自分はマンコというものがどのようなものか詳しくは知らないが、それが男を病みつきにさせるものだということは知っている。
それ故に出た言葉だったが……当の黒狼は、その言葉に青年が意図した意味合い以上の興奮を覚え、ぞくぞくと駆け抜けた官能が背筋を震わせる。
「ぬぅっ……!?♡♡♡ そっ、そうかッ……!♡♡」
低く唸った狼は快楽に濡れた声で応じる。
自分の尻穴を熱く滾った肉棒が出入りし、背後からパンパンと突かれて全身を揺さぶられるたび、狼は自分のしていることの淫乱さに酔いしれるようだった。
「いい、いいぞぉッ……♡♡ た、頼むっ、私の……ま、マンコをもっと犯してくれぇっ♡♡ ケツマンコにたっぷりザーメン注いでくれぇっ……!♡♡♡」
全裸の黒狼は恥も外聞もなく淫語を口にし、背後を陣取る年下の男へ媚びるように腰を揺らしてねだる。
太い喉から漏れる声、騎士の威厳も冒険者の頼もしさもすべてかなぐり捨てた甘さでヒューイを誘う。
やがてその上半身は快楽に屈したのか、それとも片腕で支えきれなくなったのか、地面にぺったりと伏してしまう。
顔を敷かれたマントに擦りつけ、潮と汗で濡れた布地に黒毛が張り付く。長いマズルはマントに埋もれ、熱っぽい吐息がふぅふぅと漏れて布を湿らせていた。
「は、はいっ……!! いっぱいします、ヴレグさんのマンコッ、いっぱい犯しますっ……!」
「ぬおおおぉ゛~~ッ♡♡♡ っは、わふっ♡♡ いっぱいっ♡♡ おまんこいっぱいずぼずぼしてくれぇっ♡♡ はふっ♡♡」
狼の言葉に興奮した青年は、腰を打ちつける勢いを増し、獣のようなリズムで黒狼を犯す。
輪っか状の括約筋に出入りを繰り返し、太い尻たぶをたぷたぷと揺らすたび、目が覚めるような快楽が血液を熱くする。
「んはあ゛っ♡♡ き、きもちいいっ♡♡♡ まんこっ、まんこの奥がっすごいぃいっ♡♡♡」
地面に敷いたマントに埋もれた顔から媚びる声が漏れる。
快楽に屈した狼の姿は痛々しいほどで、ちらりと自分の術が原因でこうなったのだと良心が咎めるが、今となってはそんな背徳感も興奮を駆り立てるスパイスでしかない。
上半身を雌伏させ、膝を突いた尻だけを高く掲げた黒狼の背中に乗り上げるように青年は前傾し、腰を打ちつけ続ける。
「はぁっ、はーッ……!」
「むぅッ、ぬうううん゛ッ♡♡ す、すごいぞっ、きもちいいっ、まんこが気持ちいい……ッ!♡♡」
ヒューイは黒狼の言葉に煽られ、ガチガチに勃起した一物で狼の直腸を容赦なく掘削する。
一日歩き通して、戦闘もこなした体は疲労で限界を訴えつつあったが、一物を包む温かで軟らかい粘膜が無限の燃料となって青年の若い腰を奔らせ続けていた。
太腿がヴレグラムの逞しい下半身を打ち、パンパンと音が響く中、ヒューイのピストンはさらに苛烈さを増していく。
脂が乗ってでっぷりとした尻たぶは打たれるたびに波打ち、黒毛に絡んだ体液が飛び散って湿った粘液まみれの打擲音が連続する。
抽挿され続けている黒狼はもはや自分が肛門を締めているのか、それとも力んでいるのかもわからないほどだ。
最奥までずぶんっと突き込まれるたびに内側から雄棒を扱かれるような快感に苛まれて、唸り声を溢れさせながら全身を震わせるしかない。
「お゛ッ!♡♡ おぉ゛ッ出るっ、漏れるッ……!!♡♡ おおぉお゛~ッ……!♡♡♡」
膝を突いて地面に先端を向ける剛直からだらだらと精漿が漏れ出し、微弱な絶頂感が黒狼を酔わせる。
射精を伴わない快楽は下腹部から脊髄を伝って、脳まで突き上げるようだった。
前立腺への執拗な刺激は挿入された一物が直腸の深部をごりごりと抉るたび、電流のような感覚が骨盤底筋を痙攣させる。
狼の太竿は内側から生じて尿道を苛む掻痒感を嫌がってびくびくとしゃくり上げながら震えるが、射精には至らずに透明な前立腺液が鈴口からじわじわと滲み出す。
黒毛に覆われた豊かな金玉が陰嚢の中で縮こまり、微かな収縮を繰り返すが、精液は放出されずに代わりに下腹部が熱く疼く。
「ん゛ぉおおおお~~~ッ!♡♡♡ お゛ッ、ぉぉおお……ッ♡♡」
快楽の波が全身を貫くたび黒狼の意識は混濁し、視界は狭窄して明滅する。
太い喉から漏れる唸りは、快楽に耐えきれず漏れ出した生理的な反応そのものだ。
微弱に継続する絶頂感は、射精のような解放感ではなく持続的な疼きと痙攣を彼に与え続けていた。
うねる腸壁の中に性器を擦りつける快楽に夢中になっているヒューイは背後から腰を振り続ける。
断続的に、不規則に収縮を繰り返し、迫り出して押し返す淫肉の中をガチガチになった一物で突き続ける快楽は今日初めてこの味を知った青年には強すぎるものだった。
「すいません、ヴレグさんっ、俺、また……もうイっちゃいそうで……!」
やがて二回目の絶頂が近づいたヒューイは掠れた声で相棒に告げる。
黒狼は息を弾ませる青年に背後から腰を掴まれて突かれたまま、地面に伏していた顔でちらりと肩越しに振り返る。
濁ってとろけた目がばちりとぶつかり、熱っぽい息を湛えながらマズルが開かれる。
「あ、あぁッ……♡♡ いいぞっ、遠慮せず私のマンコに出してくれっ……!♡♡♡」
快楽に濡れたその声は、命令と懇願が混じり合っていて、ヴレグラム本人もどっちのつもりで口にしたかは定かではない。
しかしその余裕のなさが、ヒューイの劣情をさらに煽った。
「ヴレグさん、ヴレグさんんっ……!」
「ぬ、ぅぅッ……!♡♡ お゛ぉッ♡♡ んはぁ゛っ♡♡♡」
ヒューイは感極まったかのように、黒狼の逞しい体にぐっとのしかかりながら抱き着く。
両腕が背後から狼の太い腰を回り、黒毛に覆われた背中に胸を押しつけると、狼の熱い体温がじんわりと伝わり、汗と体液で濡れた毛並みがヒューイの肌に張りついた。
直腸の軟らかい壁が突き込まれる肉棒に密着し、亀頭が前立腺を擦るたび、狼の肉壺は反射的に締まり、窄まりがきゅっと口を閉じる。
その締めつけがペニスの根元を強く咥え、血管が浮かんだ竿が熱い脈動を繰り返す。二人の体の間からはぬちゅぬちゅと濡れた音が響き、蒸れた雄臭が漂って鼻を突く。
二人の間で生まれる快楽は熱と圧力と湿気が混じり合い、寝そべった黒狼の体に後ろから抱き着いてヘコヘコと腰だけを上下に弾ませるヒューイの意識を白く染めていった。
狼の体は逞しく、黒毛に覆われた背中が汗で濡れて熱を帯びている。太い肩が地面に伏し、筋肉の隆起が毛皮越しに伝わる硬さと重さを誇る。
尻だけを高く掲げる黒狼の太腿が締まり、黒毛の下に隠れる筋肉が青年の膝に当たってその逞しさを主張していた。
「すっ、すいませんっ……! 俺、もうっ出ます、イくっ……!!」
「ん゛ぉぉおおおッ♡♡ く、くるっ♡ あっついのが、わたしの中にくるぅううッ♡♡」
やがてヒューイは、疲労で震える体で巨体にしがみつき、広い背中に抱き着いた状態で射精を迎える。
根本までズンッと突き入れた一物が腸内で脈打ち、熱い精液が奥深くに放たれる。
それはまるで、脈打った心臓がポンプとなって体の一切が流れ出ていってしまうようだった。
青年の口から掠れた声が漏れ、腰が小刻みに震える。
黒狼の尻穴は中に広がる熱量と勢いに反応し、輪っか状の窄まりをきゅっと締めてうねるように蠢く腸壁で精液を搾り取っていく。
「お゛ッ、ぉぉおおおお〜……ッ!♡♡ で、出てるっ、中でドクドクしてるぅっ……♡♡」
「ううっ……す、すげぇ動いてるっ……!」
疲労で息が上がる中、互いに掠れた声を漏らし、その快楽にうっとりと目を細める。黒狼の尻穴がヒューイの一物を締めつけ、脈打つたびにうねる粘膜が竿を愛撫する。
その動きは熱く、湿り気を帯びた摩擦が絶頂を迎えて感度を増した先端を刺激し続けていた。
ヒューイの心臓は痛いほど跳ね、鼓動が耳元で鳴り響く。
射精の感覚が股間の先から全身に迸り、自分の一切がそこに集約されるような錯覚に襲われた青年は、黒狼の分厚く広い背中にぎゅっと抱きついて縋りつく。
黒毛に覆われた背中はじっとりと汗ばみ、青年の上半身を覆ったシャツ越しでも毛皮のもさもさとした感触がくすぐったい。
汗と体液が混じった蒸れた雄臭が鼻腔を満たし、ヒューイの肌に絡みつく毛並みが微かな摩擦を生む。しかし、その下にある胴体はがっしりと逞しく、筋肉の隆起が体越しにその逞しさを主張していた。
ヴレグラムの体は揺るぎない強さを保ちながらも、その胎内は絶頂の筋反射で跳ねる男性器を歓迎するようにうねり、ぬるりとした愛撫を繰り返す。
その淫靡さは、まるで男を悦ばせるためだけに存在しているかのように錯覚してしまいそうになるほどだ。
もちろんそんなはずはない。それは肛門から侵入した異物を排そうとする当然の生理反応に過ぎない。
それでも、相棒の勇ましさも頼もしさも何一つ変わっていないというのに、自分の見る目だけが変わってしまったことを彼は漠然と実感していた。
戦場での威厳とは裏腹に淫らな響きを帯びた姿に青年の胸は切なく痛み、背徳感と興奮が混じり合った中、毛むくじゃらの背中に顔を埋めて熱い息を吐く。
呼吸のたび、毛皮の湿った感触が頬を擽り、舌先には汗の塩気が微かに届いて感じられた。
「ん゛ぉおッ……ぉ、おッ……♡♡」
太い喉から漏れた吐息が夜気を震わせる。
地面と平行にぺったりと伏せ、膝を折って腰だけを高く掲げた態勢は、屈強な戦士にあるまじき嫋やかさを孕んでいた。
地面に敷かれたマントはもはやありとあらゆる体液を含み、潮と汗と精液でぐしょぐしょに濡れている。
黒狼の顔が横に押しつけられると、ぐちゃりと湿った音が響き、マントから染み出した水分が黒毛に絡んで滴る。
鼻先を真横に傾け、ハフハフと荒く息を弾ませる。
汗と体液で濡れた黒い鼻が月光に光り、疲労したように伏せられて半開きになった目は、焦点が定まらない様子でぼんやりとそっぽを見ていた。
「だ……大丈夫ですか?」
「あ、あぁ゛ッ……問題、ない……♡」
黒狼は大儀そうに片腕を地面に突き、腕立て伏せでもするようにぐっと上体を起こす。
腹筋に力が入り、黒毛に覆われた腹部が締まって隆起すると、その動きに連動して黒狼の腸壁は外へ向かって押し出すようにせり上がる。
ぬるりとした軟肉が二度の吐精で力を失いつつある青年の一物を押し返すと、起き上がる黒狼の様子に思わず後ずさったこともあり、挿入されたままだった肉棒がぬぽっと尻穴から退去する。
「あっ……!」
「ん゛おぉおおッ♡♡」
敏感になった性器の表面と擦れながら無理やり押し出す軟肉に青年が声を上げると、肛門から引き抜かれて内臓を引きずり出すような摩擦に狼もまた太い喉を震わせる。
地面に手を突いて面を上げたヴレグラムが再び身震いすると、雄棒を咥え込んでぽっかりと拡張された尻穴からどろりとした白濁が逆流してこぼれる。
青年の一物を押し出すようにいきんだことで、直腸内の圧力が増し、排出された精液がぶびゅっと空気を孕んだ下品な音を立てて溢れ出していた。
「む゛ぅううッ……!♡ も、漏れるっ……♡♡」
黒狼は背筋を反らして尻を突き出したまま、項垂れて唸り声を上げる。
臀列の谷間からぶびびっと汁が跳ね、多量の白濁が勢いよく噴き出してぼたぼたと垂れ落ちる。
しかし勢いがあったのは最初だけで、開閉するようにヒクつく肛門からは中に出された精液の残滓がだらだらと垂れ流しになり、尻たぶや太腿をこってりと汚していった。
黒毛が汗と白濁でべっとりと濡れ、蒸れた雄臭が漂う中、逞しい狼の太腿が微かに震え、脂の乗った臀部が重たげに揺れる。
ヒューイの鼻先にその生臭さが届き、疲労でぼんやりした頭に微かな刺激を与える。
射精を経て頭が冷えてきた青年は、情けなく体を震わせて痴態を晒す黒狼を前に何とも言えぬ気まずさを覚える。
仕事上の相棒に何てことをしてしまったのかという後悔は、向こうから要求されたことだと自分を納得させようとしても胸の内にへばりついて彼を苛む。
もっと言えば、そもそも自分が原因であることを思い出して、なおさら消え入りたい気持ちが胸を締めつける。
何をしたか忘れていたわけではないが、都合よく罪の意識が薄くなっていたのは事実だ。
しでかした事の重大さを改めて受け止めるつもりで、青年は口を開く。
「か、体のほうは……治まりましたか?」
「う、む……っ♡」
黒狼は白濁まみれの尻をぶるりと揺らし、尻尾を揺らす。
空気がかき混ぜられ、生臭いとも雄臭いとも言えぬ交合の残滓がヒューイの鼻を掠める。
「……すまない、苦労をかけたな……」
「そんな、苦労なんて……」
のっそりと起き上がった黒狼の声は、いくらか疲労の色が滲んでいた。
ヴレグラムは身を翻して体液まみれの尻を濡れたマントに落ち着かせると、まだ粘液が糸を引いている性器を晒したまま隠そうともせずその場に座り込む。
ヒューイはお互いに股間を丸出しにしていることの気まずさが拭いきれなかったが、気にしないように努めて口を開く。
「ヴ、ヴレグさん、その……今言うことじゃないかもなんですけど……」
「む……?」
「その、俺……今回の仕事が終わったら、ちょっと修行し直してこようかと思って」
そう言って、ヒューイは相棒の反応を窺う。
唐突な言葉に、黒狼は耳をピンと立ててマズルの鼻先を真っすぐ青年に向ける。
顔色は変わらないが、その目は驚いたように丸くなっているのがわかった。
「ヴレグさんは問題ないって言ってくれるかもしれませんが……このままじゃまた面倒をかけてしまいそうですし、欠陥を抱えたままでいるのも……術者としてどうかと思いまして」
ヒューイはそう言いながら、当座の解決策としてはそれが妥当なことのように思えた。
なし崩し的に性交が始まってなあなあになってしまったが……発端である以上、それを放置するわけにもいかない。
「その、すいません、急にこんなこと言って」
今思いついた窮余の策ではあるが、ヒューイの決心は固かった。
それがどれくらいかかるかはわからない。
だが、魔術を嗜む者として、そして仲間の命を預かる冒険者として……何より、この黒狼と組む相棒として。
扱う技に未熟があっていいはずはないし、この問題を野放しにしたまま平気な顔で組んでいることはできないだろう。
そう思って自ら暇を申し出たヒューイの顔はいつになく神妙で、その雰囲気を感じ取っているはずのヴレグラムは、しかしいつも通りに言葉を返す。
「……そうか」
そう言って、黒狼は青年からわざとらしく視線を逸らす。
耳を寝かし、勢いが衰えた焚火を見つめる横顔から感情は窺えなかったが、寡黙な狼にしては珍しく二の句を継いで私見を述べるので、青年は少しばかり面食らってしまった。
「……貴殿がそう決めたのなら、そうするといい。私も、腕の痺れが取れるまでは療養する必要がある」
「は……はい、ありがとうございます」
どういう意図でそれを口にしたのかが読めず、曖昧に礼を言う青年に黒狼は「だが」と相棒を見据えながら言葉を続ける。
「……きっかけがどうであれ、貴殿と組みたいと思ったのも……抱いてもらいたい、と思ったのも事実だ。そして、貴殿以外にその代わりが務まるとも……思ってはいない」
「そ……、っ……?!」
それはどういう意味か、と尋ねようと声を上げかけた瞬間、ヒューイの唇にぷにっとした感触が当たる。
次いで、口の周りや鼻先が細かい毛でちくちくと擽られると、温かい吐息がおとがいを撫でた。
青年が驚いて声を上げるよりも前に黒狼は口を離し、マズルの横からペロリと自分の鼻頭を舐めて言葉を続ける。
「……私は貴殿の相棒であり、盾だ。持ち主無き盾に意味はない……だから、長くは待てんぞ」
その顔は相変わらず感情も真意も読ませてはくれない仏頂面だったが、その瞳は飼い主を見送るペットのように潤んでいた。
それをどういうつもりで言っているのかは、わざわざ言葉にして確かめたい気持ちは確かにある。
だが、そうしなくても……この黒狼は、自分が思ってるようなことを思っていると信じられる自信が、まだ少しだけ体温の残る唇の先から溢れてくる気がして、青年は頷く。
「は……はいっ! 絶対、すぐ戻ってきます! だから、その時はまた改めて組んでください!」
「……うむ」
黒狼は頷いて、正面に座るヒューイの手に己の手を被せる。
大きな掌から伝わる体温は暖かく、毛むくじゃらの感触が心地よい。
そのまま二人はどちらともなく顔を寄せ合う。
焚火の明かりに伸びた影は、長いこと一つに重なったままだった。
「……あの、ヴレグさん」
「……うむ」
「……また、勃ってません?」
「………………うむ」
焚火の焰が弱まり、風が冷たく吹き抜ける中、二人の影は静かに笑い合う。
そして、ひょっとしたら再度活力に漲ったヴレグラムに当てられた青年は三度交接に及んだかもしれないが……その真偽は夜に浮かぶ月だけが知っていた。
♂♀
支援や回復を任せられるフリーの術者を紹介してきたのはギルドの受付嬢だが、黒狼はそれが誰であっても構いやしなかった。
向こうがその気なら組んでもいいし、もっと他に良い人を探しているというのならこっちから頼み込むほどではない。
有数の実力者である黒狼は実力こそ折り紙付きであったが、その無頓着さと人となりが災いし、顔を合わせたパートナー候補には理由をつけて辞退されることのほうが多かったのだ。
そんな黒狼が……唯一、自分から組みたいと思った者がいる。
それは理屈でも合理でもない。
カウンターの受付嬢から彼がそうだと言われ、張り出された依頼文を眺めている姿を一目見た時から下っ腹が疼き、抑えるようにしていた尻穴弄りの悪癖が再発してしまうほどの衝動に駆られてしまった。
何が何でも彼と組みたい。誰かを守って死ぬとしたら、彼のために尽くしたい。
そんな思いを堪える黒狼は、それまで暖簾に腕押しでのらりくらりとしていた態度から一変して、彼と組んでみたいと自発的に申し出たのだった。
だからこそ、ヒューイが自分と組んでもいいと言ってきた時は天にも昇るほど喜んだものだった。
故に、黒狼は青年のことをただの相棒以上に大事に思っており、彼のためと思えば無限の活力が腹の底から湧き上がってくるような全能感すら抱きつつあった。
しかし、その一切はヴレグラムの態度と鉄面皮のために伝わっていなかった。
黒狼はそれもむべなるかなと思っていた。
何しろ相手は異性愛者で、自分のような厳めしく不器用な男にこんな感情を向けられてもかえって仕事がやりにくくなるだけだろうと。
だからこそ彼のもたらす副作用も苦ではなく、むしろ彼といられるならこれくらい何でもないと思っていたのだ。
しかしそれが、ついに自分のことを性的に見てくれるようになったかもしれないというのに、己のしたことを気に病んでどこかに行ってしまうという。
ヒューイの言い分はもっともで、彼が今後さらに冒険者として実力を伸ばすなら、改善できる問題は今のうちに改善するべきだ。
だが、そうとは知りつつも……自分の下から離れて行ってしまうのは身を引き裂かれるような苦痛を伴った。
せっかく抱いてくれるようになったのに、せっかく両想いになれたのに、いきなり別離なんてと黒狼は深く悲しみ、落ち込んだ。
惜しむらくは、表情だけはぴくりとも変わらないので、その悲哀が誰に気づかれることもなかったわけだが、ともかく。
そんな黒狼にとって、長い時間が経ったある日のことだ。
ギルドの扉が軋む音を立てて開き、埃っぽい木の床に陽光が差し込む中を一人の青年がギシリと木板を軋ませて室内に立ち入る。
魔術の師が拠点とする森の奥から街に戻ってきた術師ヒューイは、久方ぶりに味わう人いきれの喧騒を懐かしむように少しだけ目を細めた。
その姿は以前と変わらないようにも見えつつ、どこか逞しく自信に溢れているようにも映る。
野暮ったいローブではなく、綿服の軽装の上から身に着けた革鎧の肩当てが微かに擦れた音を立て、腰に下げた短剣が歩くたびに小さく揺れる。
青年の目はギルドに併設された酒場の席を見回す。喧騒と酒臭さが混じる空気の中で誰かを探しているようだった。
カウンターや客席では仕事終わりだろう冒険者達が豪快に笑い合い、木製のテーブルに置かれたエールが泡を立てて揺れ、壁に掛かった古びた掲示板には依頼書の紙が風でそよいでいる。
「……よぉ、探し人か?」
そんな中、太い声がヒューイに届く。
呼びかけられた声に青年が振り返ると、見知らぬ虎の偉丈夫がこちらを見て立っていた。
橙と黒の縞模様が刻まれた毛皮が燭台の明かりに照らされ、筋肉質な腕が革のベストに収まりきらずに張り詰めている。
「なンか事情があるなら、話くらいは聞いてやるぜ?」
大柄な虎は親しげに声をかけるが、その目は下卑た下心を隠しきれず、薄ら笑いが口元に浮かんでいた。
青年は一瞬眉を寄せるが、彼の態度にきな臭いものを直感し、軽く会釈して「大丈夫です」と短く断る。
声には微かな緊張が混じるが、その姿勢は以前より堂々として見えた。
だが、見知らぬ虎は意に介さず、青年の細い腰に太い腕を回し力任せに抱き寄せる。
「そう言うなって……知ってるぜ、お前のこと。アレだろ? 他人のチンポ欲しさに、強制的に勃起させる術師なんだって?」
虎が嘲るように笑うと、衣服に汗が滲んで生乾きになった雄臭さがヒューイの鼻を突く。
鋭い牙が覗く獰猛なにやけ顔に、青年は酒場の喧騒が一瞬遠のくような衝撃を受ける。
「な……んですか、それ」
狼狽を取り繕うことはできなかった。心臓が跳ね、喉が詰まるような感覚が彼を襲う。
街を離れていた間にそんな悪評が立っていたことに動揺を隠せない。一体誰がなんの目的でそんなことをと思うが、思い当たる容疑者は数少ない。
過去に自分を追い出したパーティーの連中が言いふらしたのか。
そうでなければ、まさか……と頭を巡らせた瞬間だった。
「ん、おッ……!?」
更に二人の背後から、青年の腰に回された虎の腕を掴む大きな手が現れた。
逞しく太い右腕は、指抜きの革手袋をはめた手でヒューイの腰を抱く手首を掴むと、ぐいっと虎の背中側に容易くひねり上げる。
「いッ、痛でででッ……! な、なんだテメェッ!」
腕をひねられている虎は、背後の誰かに振り返りながら怒鳴る。
その隙に虎の傍らから逃れたヒューイは、現れたその男の姿を見て……来ていたのか、と驚きと喜びに目を見張る。
「ヴ、ヴレグさん……!」
「……失礼だが、私の連れに何か用でも?」
「なッ……て、てめぇはッ……?!」
当の黒狼は、しかし冷静に尋ねながら虎の腕を締め上げたまま離さない。
声はどこまでも淡々としているが、その底には外敵への威嚇と敵意が滾っていた。
振り返ったヒューイの視界に、相棒であるヴレグラムの姿が飛び込んでくる。
こめかみからうなじにかけて結わえた獣毛を揺らし、新調したらしい片マントを備えたお馴染みの板金鎧に身を包んで、まるで影が形を持ったかのように黒毛を揺らしてそこに佇んでいた。
鋭い下牙が唇から覗くその顔は、鉄面皮のまま鋭い眼光を放つ。
虎の怒鳴り声と揉め事の雰囲気に酒場の空気が一瞬張り詰め、酔客のざわめきが小さくなる。
「お、お前、コイツのこと捨てたんじゃねえのか……?!」
「残念だが、その覚えはない」
驚きに声を震わせる虎の背中を突き飛ばし、黒狼は力強く虎の巨体を押し退ける。
虎は前につんのめってよろめき、テーブルにぶつかってエールの杯が床に転がる音が響く。酔客達が「おぉ」なんて言って、揉め事を持ち込んだ虎を見守っていた。
「あ、ありがとうございます、ヴレグさん……!」
相棒と再会したヒューイの顔に疲労と緊張が解けた安堵が浮かぶ。
黒狼はしかし、歓喜するでも感動するでもなく、淡々とした仏頂面でじろりと青年を一瞥する。
「……戻ったか。随分遅かったな」
酒場の喧騒を切り裂く低い声は、黒狼にしては珍しく不満げに聞こえた。
「い、いや、二週間くらいしか経ってないんですけど……」
「む……そうか」
自分では早い戻りだと思っていた青年は、呆れたように苦笑いを浮かべながら返す。
黒狼はそれに興味なさげに応じるが、その尻尾はゆらゆらと上機嫌に振られていた。
「は、はんっ……お堅い黒の騎士殿がそこまで入れ込むとはなぁ。そんなにそいつのケツが忘れられねえってか?!」
蚊帳の外にされていた虎は悔しそうに歯噛みし、黒狼のみならず青年のことも口汚く罵る。
黒の騎士というのはヴレグラムの名を知らぬ冒険者達が黒狼の勇ましい戦いっぷりを前に、その経歴を知る誰かが言い出した二つ名だ。
そしてそんな二つ名で呼ばれるからには、黒狼は『冒険者の中で最強は誰か』という子供のような議論のたびに名前が挙がるほどには人望があった。
虎の口ぶりには、そんな憧れの存在が自分ではなく得体の知れない術を使うというきな臭い人間を庇い立てすることに対する失望も含んでいた。
揉め事や喧嘩は日常茶飯事の冒険者ギルドの連中は、ただならぬ気配にざわつきながらも、面白い見世物を見るような好奇の目を三人に向ける。
しかし、漆黒の体のヴレグラムが鋭い眼光で虎の野次に応じると、周囲の喧騒は威圧されたように鳴りを潜める。
「……悪いが、勘違いしない方がいい」
地を這うような低い唸り声がその場を支配する。
酒場の空気は重くなり、周囲の酔客が息を詰めて見守る。
いつ黒狼の手が剣に伸びてもおかしくない、というほどの緊迫した空気だった。
「な、んだと……?」
虎は辛うじて怯まずに言い返す。
態度はどうあれ、彼もまたそれなりの実力者なのだろう。その目は臆しながらも応戦する気概に満ちていた。
しかし……黒狼は胸を張り、フンッと鼻息を吹かして宣言する。
「……抱かれているのは、私だ」
「……は?」
威張るように宣う黒の騎士に、虎は開いた口が塞がらない。それは未知の言語のように聞こえて、一瞬その言葉の意味がわからなかった。
その一方で、相対する黒狼の態度は変わらず毅然としているが、それはまるで褒められて当然だと主張する飼い犬のようでもあった。
太い喉が低く唸り、黒毛に覆われた体が堂々と立つ姿に、酒場の空気がざわっと一変する。
虎は二人の関係を肉体関係にこじつけて茶化したつもりが、突きつけられた事実に脳が思考を停止してしまう。
事の顛末を見守っていた酔客も、その声が聞こえた者を中心にどよめきが波のように広がり、「今なんて言った?」「あの黒騎士殿が抱かれてるって」「マジかよ、冗談だろ?」なんて品のない内緒話がヒューイの耳にすら届くほどだった。
「ちょ、ちょっと、ヴレグさん?! こんなとこで何言ってるんですか……!?」
「……問題ない、事実を述べたまでだ。私は貴殿の相棒であり、唯一貴殿に抱かれ愛し合う恋人であるのだ、と」
「い、いや、その!? 多分この人もそういうつもりで言ったのではないかと……?!」
有数の実力者であるヴレグラムのカミングアウトに動揺する声が上がる中、ヒューイは赤面し、突き刺さる酒場の視線に耳まで熱くなるのを感じる。
尻尾を振る黒狼の何から諫めればいいのかわからない。しかし黒狼は変わらぬ様子で平然と答えるばかりか、再会を喜ぶように青年の側頭部にマズルを摺り寄せて頬擦りする。
黒毛がヒューイの頬を擽り、温かい鼻息が耳元をくすぐる。
そのスキンシップはヒューイにとっても悪い気はしないが、色々な人に見られているという事実が青年を落ち着かせなくさせる。
「うむ……よく戻った、久しぶりだな」
「あ、はい……ひ、久しぶりですっていうか……あぁもう! と、とりあえず外行きましょう! 続きの話はそこで!」
「承知した、貴殿が行くのなら当然私もついて行こう」
絡んできた虎が固まっているのをいいことに、周囲の視線の気まずさから黒狼の手を引いてギルドから連れ出す。
ヒューヒューと口笛が混ざり始めた酒場の喧騒が背後に遠ざかる中、ヴレグラムは尻尾を揺らして青年の手を握り返す。
外の冷たい風が二人を包み、街路の石畳に足音が響く。
「その……まずは、庇ってくれてありがとうございます。まさかあんな噂が立ってるなんて……」
「……貴殿が気にする必要はない。言わせたい者には言わせておけばいい」
「そういうわけには……と以前の俺なら言っていたでしょうけど、ちゃんと修行してきましたからね! 今度はあんなこと起きませんとも、安心してください!」
「……そうか。それは楽しみだ」
悪評が立っていたことに対しても、ヒューイは気にしていない様子で明るく振る舞う。
前までは他人からの意見や評価を気にしてビクビクしていたところがあったが、今はそれを感じさせない不敵さがあるなと黒狼は思った。
若木がしっかりと成木になったような頼もしさは、以前の青年になかったものだ。
少し見ない間に成長したのだろう。そう思うと、黒狼は自分の相棒の進化に自分の下っ腹がきゅんと切なくなるようだった。
「というか……ヴレグさん、なんか変わりました? 柔らかくなったっていうか……」
「貴殿が私ともっと親しくなりたいと言っていたのでな。私からも親愛を示しているまでだ」
「それは、その、嬉しいですけど……人前では、ちょっと……」
「だが、先程は助かっただろう?」
「それとこれとは話が違うような……!?」
黒狼の声には淡々とした調子が戻りつつも、どこか楽しげな響きが混じる。
ヒューイの手を握るヴレグラムの掌は温かく、毛むくじゃらの感触が彼にいつものように安心を与える。
二人の足音と話し声が活気ある街に響き合う。
彼らにとって全ての問題が解決したわけではないし、何かを成したわけでもない。
正反対の二人が進む道は、躓いてしまうような石や、行く手を阻む雑踏で混み合っている。
それでも、その道は朗らかな陽光に照らされ、確かに輝いていたのだった。
その晩。
試しに肉体強化魔法をかけた……直後に股間をギンギンにして張り詰めさせている黒狼の姿に、宿の一室で青年は頭を抱えるのだが……それはまた別の話。
「な、なんでだぁ~~~ッ!? 練習じゃ問題なかったのに~~~!」
「うむ……今日も存分に愛し合うとしよう、私の相棒……♡」
~おわり~
2025/04/04 追加
〜以下、いつものおまけ〜
◆黒狼-ヴレグラム H:200くらい W:140くらい A:35くらい
ただのヴレグラム。大陸南部の山村の生まれで、母親は自分を産んでから程なくして衰弱死している。
また、鉱夫として男手一つで自分を育て上げた父も十代の頃に事故死しており、年若くして頼れる親族や兄弟も存在しない天涯孤独の身となる。
その後は村の年老いた狩人に師事し、武器の扱いを習いながら狩人として身を立てていたが、自分を産んで笑いながら亡くなったという母の言葉と、事故で亡くなった父に命を救われたという村人の涙が『いずれ死ぬのなら、自分も誰かを守って死ぬべきだ』という感情と結びつき、十五の時に生家を出る。
弓と剣が扱えたことから傭兵として日銭を稼いでいたところ、とある王国で騎士団への援助を呼びかける声に足を止める。これは金銭や物資の寄付を求めたものだったが、ヴレグラムは戦力の募集と勘違いして立候補する。
貴族階級、およびそれに準ずる身分の者たちで構成された騎士は鼻持ちならない田舎者の黒狼を突き返すことはしなかったが、逆に笑いものにしてやろうという悪意に満ちていた。
結果、血税で賄われたピカピカの重甲冑に身を包んだ騎士団員達は、着の身着のままに訓練用の剣を持たせられた黒狼によって巧みに転がされ、美しい装備に土をつけられることとなる。
野生の獣とやけに腕っぷしが強い老人が師だったヴレグラムの目は、対象の顔の向き、指先、体の流れる方向から相手がどう動くのかを自然に感じ取れるようになっていた。
その上、剣の腕は平凡であったが、狩人から教わった黒狼の剣は的確に相手を殺傷し死に至らしめるものとして教え込まれていたため、美しく相手を打倒するただの剣術として型を身に着けた騎士達よりも命を差し出す覚悟の分だけ僅かに上回っていた。
この騒動を聞きつけた上官は、見慣れぬ黒狼に恥をかかせようとした団員を人前で強く叱りつけ、騎士団は今後民間からの動員を正式に募集すると声明を発表する。この日の呼びかけは、その先触れの告知のためでもあった。
上官は呆然としながら涼しい顔をしている黒狼に握手を求め、ヴレグラムのような腕の立つ男は大歓迎だと快活に笑う。
彼こそが、いずれヴレグラムが騎士団と袂を分かつことになる原因となった初めての上官だったという。
象徴的な片マントを留める金具がセットになった左右非対称の肩当てと、鋼の手甲、板金でできた胴鎧、下腹部と大腿部を守る腰鎧に、利き手に手の甲と掌のみを覆って指先が出るハーフグローブをはめている。
装備のいくつかは騎士団に返却すべきものであるが、騎士団内を暗躍しつつ人望も篤かった上官の企みを望んでいなかったとはいえ公に暴き、自分もまた去ろうとする黒狼に餞別として贈られたものだ。
十数年と同じ騎士団に所属し、剣の型を身に着けるとみるみるうちに団内でも有数の使い手として台頭していった庶民生まれの黒狼を慕う者は多く、民間からの入団者の間では憧れる者も少なくなかった。
そんなヴレグラムを引き留める声は多かったが、顔色の変わらぬ黒狼に決意は固いと見て、せめてもの餞に差し出されたものだった。
十余何年と使われている鎧はよく手入れをされているものの凹みを何度も直され、擦り切れた革の継ぎ接ぎを繰り返されており、板金の表面は細かい傷が無数について年季を感じさせる。
感情の表出が希薄で、どんな時でも顔色が変わらない。だが無感情というわけではなく、人並みの喜怒哀楽は感じた上で、無表情なだけである。
これは生育過程で感情を大きく出すようなことが少なかったことに加え、狩人、騎士と経て『相手に顔色を読ませるな』という教えがその心に根付いているためでもある。
何を言われても、何を提案されても頷くのは興味がないからではなく、大体のことについてこだわりがなく素直なため、何かあったとしても『まあいいか』と受け流してしまうため。
騎士団ではより防御部位の多い全身甲冑を着込み大盾を持っていたため、冒険者になってからの装備に慣れていない時期は生傷が絶えなかった。
加えてどんな傷を負っても完治を待たずに次の仕事を受けようとすることから、騎士団を追い出されるように辞めたと噂されているヴレグラムが自暴自棄になっているのではないかと危惧した冒険者ギルド運営にソロではなくパーティを組んでみてはと提案され、半ば強制的に数人の術師を紹介された。
しかし、相方の力を借りずにほぼ一人で依頼をこなし、且つ相手に無愛想で寡黙なため、相手のほうから『いい人なんだけどもっと優しい人のほうがいいかな~』とやんわりと断られ続ける。
ヴレグラムはそれについても執着することはなく、冒険者ギルドもお手上げ状態となっていたところに、同じく一人で仕事を探していたヒューイのことを見かけ恋に落ちたことから、珍しく自分からオファーをギルドに出したという。冒険者ギルドの記録係はこの時のことを、『息子が初めて彼女を連れてきた時と同じ気分』と日誌に綴っている。
本来ならば性欲は常人の比にならないほどで、鬼のような精豪だが、鋼以上の強度を持つ自制心と鉄面皮でそのことをおくびにも出さない。
欲求不満で悶々とする劣情を、素振りや鍛錬で無理やりごまかすことができるのは彼にそう教えた者がいたためでもある。
また、自分の生理的欲求を二の次にして優先順位を立てられるのは狩人としての生活が基盤になっているのかもしれない。
代わりに、数か月に一回の割合でどうしようもなく昂ぶってしまった際は、数時間どころか一日かけて性欲解消に臨むという。
尻穴を弄るようになったのは騎士団にいた頃からであり、所属当時の性欲爆発タイミング時に自分の部屋に一匹のスライムが迷い込んできたのがきっかけである。
それは団員の誰かが無断で部屋で飼育していた性処理用のペットだった。スライムにチンポを突っ込んで腰を振ると女より便利で気持ちいい、と言って下品に笑っていた仲間達のバカ話を覚えていた黒狼は、秘密裏に飼っていたスライムを探しに自室を訪ねてきた気心の知れた同僚に……そんなものは見ていない、と嘘を吐いた。
最初は思い付きの興味本位以外の何物でもなかったが、確かに性玩具用と言うだけあってぷるぷると蠢くスライムは絶品で、ヴレグラムは猿のように腰を振って射精し続けた。
そんな時、スライムがそう躾けられていたのか、あるいは彼の思い付きかはわからないが、ぬるりとした触腕が黒狼の肛門に触れる。
ヴレグラムは舐められたことのない場所に感じる感覚にひどく興奮し、胎内に侵入してくるスライムをそのままに自慰に耽った。そして、才気に溢れた若き黒狼は、腸壁越しに前立腺を刺激するだけでなく腸壁自体を摩擦するだけで微弱な快感が得られることに気づいてしまった。
朝からこもりっぱなしでどっぷりと夜が更けたころ、ヴレグラムは水の中でスライムを見つけたと言って、丸洗いにしたペットを団員に返却した。彼はまさか寡黙で騎士の鑑とも名高いストイックなヴレグラムが嘘をついているとは夢にも思わず、感謝をして……しかし、上官に無断飼育が見つかって大目玉を食らった、というのが事件の顛末だ。
しかし、それ以降のヴレグラムには悪癖がつくこととなる。あの時の感覚を、快楽を忘れようとすればするほど、数か月にいっぺんの自慰行為では己の尻穴をほじらなければ物足りなく感じるようになってしまった。
最初は己の指で、次に市場で買った根菜で、何もないときは剣の持ち手となる柄部分で肛門弄りを繰り返してきた黒狼は、騎士団を辞して冒険者となってからはそれも鳴りを潜めていたが……ヒューイと組むようになってから、すっかり再発してしまっていた。
ヒューイの術による副作用(後述)については、戦闘後どころか相棒が近くにいるだけで大体ギンギンでガチガチになるので明確に実感したことはないが、数か月に一回くらいの頻度で我慢できなくなっていたものが二、三週間に一回という短い周期で訪れるようになって初めて『あぁこれか』と実感したという。
女が苦手なのは、長い時間を掛けて打ち解けてきた騎士団員達をものの五分もかけずに篭絡する遊女達を非番の日に山ほど見てきたから。
本編後暫くは仲睦まじく依頼をこなして回っていたが、長引く嘔吐と体調不良をきっかけに懐妊が発覚した。
久しく実感していなかった血の繋がりに、その顔は珍しく綻んだという。
◆術師-ヒューイ・ノヴェル H:170くらい W:60くらい A:22くらい
技術と経済の発展した大陸西部の商家の生まれで、両親は健在、兄が二人いる。
商才に恵まれた両親と、才気煥発とした兄達の下で、どこかぼんやりとした子供として育つ。
両親は兄達と同じように分け隔てなくヒューイに愛情を注ぎ、いずれ同じ商人として成功してくれるだろうと信じて見守っていた。
愛情深い家庭で育ったからこそ、ヒューイのそれはすぐに家族の間で知れ渡ることとなった。
誰もいない庭で一人で笑っていたり、話しかけていたりするヒューイの行動は、幼児期によくあることだと思われていた。
しかし、幼い子供の呼びかけに答えるように樹木の蔦は踊り、閉じていた蕾がみるみるうちに花開くのは、常人の理解を超えていた。
兄と父はヒューイを気味悪がり、魔物の子ではないかと囁き冷遇するようになったが、母はそれが大陸の東部では一般的な魔術によるものではないかと医師から助言を得る。
母親は商人の妻であるコネとルートを駆使し東奔西走し魔術師ギルドを訪ねるが、火・水・土・空気という構成元素(エレメント)を基本とするウィザード達は草木を操るような術は知らないと言う。諦めかけていたところに、独自の魔術理論をいくつも証明したハイウィザードの一人がヒューイの噂を聞きつけ、それはドルイドの素養だと助言する。
生まれた子が両親の誰にも似ていなかったり、毛むくじゃらだったり目の色が異なっていたりして先祖の誰かの形質を受け継ぐように、魔術の素養も時と血を超えて表れることがある。
きっと家族の兄弟や親族の誰かがドルイドの末裔だったのだろうと告げるハイウィザードの竜人は、自分にその子を預けてみないかとヒューイの母に持ちかける。
ドルイド達は今や世界に数えるほどしかいない上に、彼らにとって魔術は『自然から学ぶもの』であるため師事することは難しいが、ハイウィザードはその知的好奇心と探求のためドルイド魔術についても精通しており、基礎を教えることはできると言う。
ヒューイの父親と兄は、得体の知れない力を持つヒューイを引き取ってくれるという申し出を手放しで喜んだ。偉大な魔術師となって活躍すると語るヒューイを兄達はからかって笑いあい、ノヴェル家には久しぶりに家庭の団欒が訪れた。
しかし、母親だけはまるで我が子を実験動物か何かのようにされるのではないかと危惧し、商人とはかけ離れた不安定な生活を送ることになるヒューイを哀れんだため、最後まで家から出すことに賛成できずにいた。
ヒューイが十歳になるかならないかという頃だった。未だに決心が定まらない母親と、ノヴェル一家を乗せた馬車は末弟を送り出すために魔術師ギルドへ向かう。
先が思いやられるような雨と風の強い日だった。母親は日を改めようと言ったが、強引な商人である父親とその血を受け継いだ兄達は馬車の費用を理由にして無理やり乗り込んだのだった。
そして、その不安は的中する。山道を走っている時だった、すぐ近くに落雷が落ちたことで馬がパニックになり、馬車は道を逸れて崖に向かう。
悲鳴が上がり、荷物が浮かび上がって逆さになるキャリッジの中で、母親は強くヒューイを抱きしめる。誰もが衝撃を予想して瞼を閉じた。
しかし……いつまで経ってもそれは訪れない。キャリッジが逆さまになったまま静止した客室の中で、家族がおそるおそる目を開ける中、御者の男が驚きに声を上げた。
逆さになった中から外を窺うと、丸太ほども太い木の根が蔦のように山肌から伸び、馬車と馬に絡みついていた。
座席から這い出した一家は、丸太の上をおっかなびっくり渡り道の真ん中に戻る。誰もが確信していた、それは母親の腕の中で寝息を立てるヒューイの仕業だと。
それまでは首だけを出すようなローブを着ていたが、修行を経てからは冒険者らしい革装備を基調にした軽装を好んでいる。
術の行使には杖や魔導書を必要とせず、場合によっては触媒を用いる他は基本的に身一つで魔術が扱える。
魔術で行えることは、木々の根の操作、人体の解毒・疲労回復を含む治療、風や空気の操作、霧や雲の操作などで、草木と自然現象の範疇である。
それ以外にも、大気中や対象の体内に流れる魔力の質を感知し、その異常を見分けることができる。
解毒や疲労回復は、この感知によって自然を織りなす体内から不純物を取り除くというプロセスで行われる。
ザ・一般的な青年冒険者であり、程よく向上心があり、程よく性欲がある。
実家とは仲が悪いわけではなく、今でもたまに母親に手紙を宛てたりしている。過保護なんですよね、と語る顔はどこか嬉しそうだ。
商人としての才に恵まれた兄達に負けないよう自分も何かを成さねばと功を焦るところも含めて一般的な青年である。
ハイウィザードである師はドルイド魔術の理論についても証明式を打ち立てる界隈の第一人者で、曰く究極的な研究者であり、変人だという。
彼はヒューイにマナと魔術の基礎を叩き込み、一般的な知識として構成元素(エレメント)を操るウィザード魔術の理論を授けるほかに自身の研究の手伝いと言って魔力を計測したり術を見る以外には、自分から何かを教えようとすることはなかった。
これは、ドルイド魔術の『自然に学ぶ』という性質を守るためであり、ヒューイが自発的に何かを知ろう、理解しようという段階で初めて教えを授けるようにしていたのだった。ドルイドにとっては出会うもの全てが教えであり、感じたこと全てが学びである。多感な時期に豊かな経験をするためにも、放任は適切とも言えた。
師は自身の研究もあって元々多忙なハイウィザードということもあり、放任主義の下で育ったヒューイはしかし十数年で見事に魔術を己のものとした。
師は、ヒューイにどうすべきかを決めつけることはなかった。なので、腕試しと研鑽のためにも冒険者として身を立てると言った時も、それを歓迎した。
この放任主義はまだ日が浅いころのヒューイに『こちらに興味がないのでは』と不信を抱かせることもあったが、今ではそれが一番自分のためになるということをヒューイはよくわかっていた。
師は『誰かに言われたからではなく、自分でしたいことをして、自分で決めたことを守る。それがドルイドの法だ』と語り、これがヒューイの基本理念となっている。
成長するまで自分の面倒を見てくれた師を第二の父親同然に思っているが、それでも『冒険者生活で恋人はできたか?何かイイ思いはしたか?』と根掘り葉掘り聞いてくるのは絶対に自分の研究のためだろと思ってる。
術の副作用は、個人によって発現するまでの許容量が違う。ヒューイに術をかけられるたびに自然のマナが対象の体に澱のように残り、これが一定量になると現れる。
作用は、性欲と精力の増強、脈拍亢進、そして体温の上昇という、一部の獣人に訪れる『発情』の状態と酷似している。
その強度は、過去にヒューイを解雇したパーティの男達曰く、『何か月もヌいてねえのに色っぽい女に目の前でマンコを見せつけられているような気分』『オナニー中の射精直前……のさらに直前の、やっべ気持ちいい……!ってなってる状態に強制的にされる感じ』などなど、こちらも個人差があるようだ。
更に、食事や薬効とは違う魔術による精力増強のため、射精後の再勃起にかかる時間や精子の産生も不自然なほど早まるとされているが、真偽の程は不明。
でも相手に子宮を作るような効果はないはず。
誰かを相手に恋心も劣情も抱いたことがない、純真無垢の青年。それと同じく、男は女と結ばれるべきという先入観とも無縁で育ったため、先天的な両性愛者とも言える。
竜人である師との暮らしもあって男の裸のほうが親しみがあったこともあり、ヴレグラムに憧れから始まって劣情と絡んだ恋心を強制的に自覚させられた。
男のほうが好きだったというより、男を好きになってはいけないという前提がなかった稀有なパターン。
性別というよりどちらかというと相手の秘部や肉体の露出=性的な魅力としてアピールされる部分に反応するため、薄着の女性に絡まれたりするとちゃんと年相応の反応をする。そして黒狼が唸る。
本編後暫くは副作用の発現に目を光らせながら依頼をこなして回っていたが、相棒が妊娠してさらに頭を抱えた。
半分自分のせいではないかと思い、師に診てもらおうとヴレグラムを連れて行ったら『愛弟子がまさかの出来婚!?』と大騒ぎになったので、強く後悔した。あと何故か知らないが母親と家族にも伝わってた。
◆受付嬢達
儚げでミステリアスな黒の騎士(命名:ファンクラブ2号)が自暴自棄で傷だらけになるのが見ていられなくて、職権乱用上等で冒険者ギルド全体に冒険者たちの保全を呼びかけ、ソロ活動の冒険者にパートナーを斡旋する活動を始めた。
肝心の本人は全然誰とも組まなくて相変わらず傷だらけでやきもきしてたが、いい人が見つかったみたいで安心している。だが、本編エピローグの騒動があった日のサンドイッチは少しだけしょっぱかったという。
ちなみに黒の騎士と呼ばれるようになった所以は、荷物を運んでいた受付嬢その2が態勢を崩してぶちまけかけたところを片手で抱き支えられながらもう片手で荷物を全部取ってもらった日常の一コマから。それがいつの間にか彼の仕事っぷりや実力を目の当たりにした冒険者達の間で流行り、ファンクラブも拡大したとかなんとか。
◆虎
四十代。娼館や飲み屋のお姉ちゃん相手に今までブイブイ言わせてきた自慢の棍棒サイズのイチモツに最近元気がなく、射精するために勃たせる必要があるほどだ。
朝立ちもしなくなってきたしもう年かもな……と自覚すると急に老け込んでしまったような気がして焦っているところにとある噂を聞く。
どうやらそいつの術をかけられると、副作用でチンポがガチガチになって勃起してしまうという。あの黒の騎士と組んでたみたいだが最近は見かけないしついに素性がバレて捨てられたらしいとかなんとか。
それを聞いた虎は奮い立つ。これや!これしかない!
そう思いギルドに張り付くことはや五日。全然現れないしもう心折れそう……と思っていたところに現れる人影。聞いていた背格好と一致するし人相もそれっぽい!よーし声をかけてみよう!これでおれのチンポも今まで通りや!今日は昔みてえに一晩中サカりつくして店中の女をヒィヒィ言わせたらァ!!
……というだけのただの一般冒険者。腕前はそこそこ立つものの、最近息切れしがち。
実は黒の騎士と呼ばれるヴレグラムのファンクラブ会員395号。希望と憧れを同時に取り上げられ、舎弟に下半身の元気を取り戻す良い方法がありますからと慰められながら飲んだエールはしょっぱかったと言う。