〈Side forest〉
始めは高を括っていたのだ。遭難してもすぐに元の道に戻れるだろうと。途中あり得ない大きさの巨大ナメクジに遭遇しても、鈍重な奴に追い付かれることなどはあり得ないだろうと。
3日が経った今、未だ森から抜け出すことはできず、同じところをぐるぐる回っているらしい自分をナメクジが確実に追い詰めてきていることは、這った跡にきらきらと残る粘液が教えてくれている。飢えと渇きにより、巨木の根方で一歩も動けなくなった彼の前に、のそりとナメクジは姿を現した。
ナメクジが何のために自分を追っているのかなど分からなかったしどうでもよかった。追い付かれるなどは考えもしなかったのだから。だがこうして自分の身長よりも大きいナメクジが眼前に迫ったとき、彼は初めて生命の危険を感じた。これほどの巨体を普通のナメクジ同様に木の葉などだけを食べて維持できるのだろうか?見たことも聞いたこともない巨大ナメクジが肉食の習性を持っていてもなんらおかしくはないのではないか?怯えつつも逃げることもできない彼の前に這い寄ったナメクジが取った行動はあまりにも予想外のものだった。
縮こめた脚の間に頭部をねじ込んだナメクジが衣服越しに股座に吸い付く。彼は知る由も無かったが、陸貝類の持つ歯舌というヤスリのような舌がぞりっ、ぞりっという感触と共に金具ごとジーンズを削り取っていく。この数日間水も満足に摂れず排尿さえほとんど無かったためペニスに触れることすらもなく、明日の命すら危うい状態に自慰など考えつきもしない彼は自然と禁欲状態に自身を追い込んでいた。そんな状態で股間に粘液を擦り込まれ刺激されるとどうなるか。とうとう穴の開いたジーンズからはナメクジ相手に痛いほど勃起した男根が姿を現した。
股間から口器を離したナメクジは腹足でペニスへの刺激を絶やさぬままに這い進み、やがて下腹部にある穴に硬いそれを埋めた。彼は自身の置かれた状況を理解して戦慄した。このナメクジは自分と交尾しているのだ!まるで唇を求めるかのように自分の顔に頭部を近づけようとするナメクジを必死に離そうとするが、ぬめる粘液のせいでまともに力が入らず、とうとうその口吻は彼の唇に触れた。
彼はありったけの罵倒の言葉をナメクジに浴びせた。しばらく声を出すことのなかった喉はひりつき舌は回らず、裏返ったヘロヘロの声でそれでも彼はナメクジを罵り続けた。でないと快感でどうにかなってしまいそうだったのだ。初めてのキスを、セックスをナメクジに奪われ、その上さらにナメクジ相手に射精するなどは意地にかけてもできなかった。だがやがて罵声は嬌声を帯びてくる。カチカチのペニスに溢れるほどの粘液をまぶし、筋肉質ながら柔らかな膣壁は機械的な蠕動運動を繰り返すさながら搾精のために最適化されたマシーンだ。禁欲状態で童貞の彼が3分ほども我慢できたのは驚異的な精神力だったといえよう。
しかしそれにも限界は訪れる。意識が遠のくほどの快感の中、彼はナメクジの膣奥、その先にある未受精の卵たち目がけて盛大に射精した。間違いなく人生で最高に気持ちのいい射精だった。おびただしい精液は粘液に乗って胎内に拡がり、卵を次々と受精させていった。射精の熱が去った後には、全てを諦めたように虚脱した彼と、再びの精液を求めて蠕動を始めたナメクジの姿があった。こんな森の最奥にヒトという極上の遺伝情報を持つ生物が迷い込むことは滅多にない。全ての卵を受精させてもこのおぞましい交尾は当分止むことはないだろう。
〈Side underground〉
拉致された彼は大きなコンクリート製の槽にぞんざいに落とされた。拉致した男たちは彼のことをエサと呼んでいた。だから自分はこれから何者かに食べられてしまうのだと思った。彼は自分の理不尽な運命を呪ったがどうしようもなかった。
槽の広さは5メートル四方、深さは3メートルほど、薄暗くてよく見えない槽の隅に何か白っぽい塊があるのが見えた。人の気配を感じたのか、臭いか何かを嗅ぎ取ったのかは分からなかったが、彼の存在に気付いたそれはびちゃびちゃと音を立てながら這い寄ってきた。形容しがたいその姿を見た彼は大きな悲鳴を上げた。ヒルともミミズともウジとも似ているような違うような、うっすらと透明感のある外皮の下には血管が走り、胴の側面にはイボのような突起がずらりと並んでいる。顔は目のような部分があるが機能しているのかは分からず、よだれを垂らす口の脇にある触手が虚空を探るようにうねうねと動いている。そいつは明らかに自分を狙っていた。こんな気持ちの悪い生き物に食われるのはごめんだった。必死に逃げようとするがぬめるコンクリートの床に足を取られ、転けつまろびつしている内に追い付かれてしまった。「やっぱ脚折っといた方がよかったんじゃないですか?」「たまには活きの良いの追わせてやらねえと運動不足になるからな」上の方から人間のことを話しているとは思えない呑気な話し声が聞こえ、自分はただのエサにしか過ぎないのだと絶望を新たにする。しかし自分にのしかかってきたそいつの様子は捕食とは異なっていた。
そいつは彼の股間に下半身を執拗に擦り付けてきた。金具が外れあらわになった陰茎は意に反して勃起していた。彼はこんな時にも下半身を反応させてしまう自分の若さを呪うしかなかった。勃起したそれはそいつの下半身にある穴にずっぽりと飲み込まれた。「繁殖行動?!」「おいドクター呼んでこい!」と話し声にも一転して緊迫感が走る。だが彼はそいつの執拗な動きに翻弄されそれどころではなかった。童貞だった彼は異形との交尾でさえ快感を感じ始めている。ニュルニュルと下半身を押し付けつつ、頭は彼の顔目がけて触手を伸ばす。彼は必死で抗った。だがその力は予想外に強く、彼はその口づけを受け入れるしかなかった。
彼の唇や頬にはあたかも熱烈な愛情を示すかのように口づけが注がれる。ペニスにはぬりゅぬりゅと粘液と柔毛が絡みつく。彼は堪えきれず濃厚な精を放つに至った。精液はそれの中にある卵巣に運ばれ、中にある卵子に命を宿した。卵巣の色が青黒から受精済みを示す紫へと変わる。彼はおぞましい命の父親になったが、今はそれには気付かない。同時に彼はエサの運命を免れ、この生物の伴侶として命を長らえることになったがそれが幸せなのかどうかも判断は難しいところだろう。
ご支援いただきありがとうございます。搾精生物ですよ。ノリノリでナメクジ描いたところで「ナメクジ描きすぎじゃね?」となったのでいろいろ工夫してみたところ謎の生物が出来上がりました。フォルムも色も塗りも頑張りましたよ!絵はさっぱりうまくならないのにキモ生物をキモく描くスキルは上昇しているのを感じます!