トレセン学園の広大な敷地内。中庭に面した日当たりの良い渡り廊下には、生徒たちの憩いの場として長い木製のベンチがいくつも並べられていた。
彼は必死に走っていた。巨大な少女たちが闊歩するこの恐ろしい世界から、一刻も早く逃げ出さなければならないという本能だけが彼を突き動かしていた。
だが、彼の逃走劇は、見上げるほど巨大な二つの影によってあっけなく遮られる。
「あ…?なんだこれ。また小人かよ。最近学園内にめっちゃ多いよなぁ〜」
「ほんとだー。…相変わらずキモッ」
頭上から降り注いだのは、落雷のような大音量だった。
二人のウマ娘。彼女たちの瞳には、彼を生き物として見るような色は微塵もない。
「ひぃっ……!」
ミシッという嫌な音と共に、彼は強引に巨大な指先で摘み上げられた。彼女らの指先から伝わる恐ろしいほどの熱気と圧力が、彼の全身の骨を軋ませる。
「でもさー、こういう小人が多い方が良いじゃんね。最近トレーニングきついし、踏み潰すとストレス無くなるし笑」
「あー、それな! そういえば昨日さ、更衣室にいた小人、あれ傑作だったよな。私が屁こいただけで死んだの笑。虫けらより弱いっつーの笑」
「マジで!? ウケるんだけど! どんだけ脆いんだよ笑まぁ、ウマ娘様のガス抜きに使われて本望っしょ笑」
二人のウマ娘は、彼の命が今にも尽きようとしていることなど全く気に留めず、楽しげに残酷な思い出話に花を咲かせている。
「さてと、こいつは適当に潰してスッキリしとく?」
ウマ娘の指が、じわじわと力を込め始める。
「んー……でも、今なんか潰す気分じゃないわー。手汚れるし、これからカフェ行くし」
「あー確かに。じゃあその辺置いとけば? 誰か適当に踏むっしょ」
ウマ娘はポイッと無造作に腕を振った。凄まじい風圧を受けながら落下し……彼は硬い木の表面に激突した。
「がはっ……!」
全身を強打し、目の前が真っ白になる。彼が落とされたのは、渡り廊下に設置された長い木製ベンチの中央付近だった。
「じゃ、行こっかー」
モブウマ娘たちは、地響きを立てながら去っていった。
「はぁっ……はぁっ……」
彼はベンチの木目にへばりつきながら、荒い息を吐いた。なんとか生き延びたが、ここから降りる術はない。
途方に暮れていると、数メートル先から、かすかな声が聞こえた。
「おい……あんたも、ここに置かれたのか……?」
目を凝らすと、ベンチの木目の溝に、彼と同じ1センチサイズの小人の男が座り込んでいた。味方の存在に、彼は藁にも縋る思いでうなずく。
だが、その小人が「早く隠れないと……」と言いかけた、まさにその瞬間だった。
『ズドォォォン……! ズドォォォン……! ズドォォォン……!』
突如、空気が激しく震え始めた。
小人の耳には、それがただの足音には聞こえない。一歩踏み出されるたびに、硬い床板がトランポリンのように激しく波打ち、空気が極限まで圧縮され、巨大な隕石が連続で落下してきているかのような轟音が鼓膜を破らんばかりに響き渡る。
内臓が揺さぶられ、立っていることさえ不可能なほどの衝撃波。凄まじい筋力と体重を誇るウマ娘という巨神が、無警戒に歩を進めてくる音だった。
足音の主が姿を現した。元気いっぱいに腕を振り、覆面マスクを揺らしながら歩いてくるウマ娘、エルコンドルパサーだ。彼女の健康的にパンパンに張った太ももと、制服のスカートを押し上げる圧倒的な質量の尻が、空を覆い隠していく。
「ハァーッ!今日も絶好調デース!エル、もうお腹ペコペコデース!」
エルコンドルパサーはベンチの座面など見向きもせず、満面の笑みで勢いよく腰を下ろした。
その落下点は、無情にももう一人の小人の真上だった。
ドシャァァァァァァァァッッッ!!!!
空を覆い尽くす紺色のスカートと、その下に詰まった暴力的な質量のデカケツが、もう一人の小人を完全に押し潰した。木製の硬いベンチと、エルコンドルパサーの豊満な尻肉。その間に挟まれた小人がどうなったかなど、想像に難くない。
「さーて、購買で買ったこの『超絶ハラペーニョ・チリチリバーガー』!!見るからに辛そうで、闘志が湧いてきマース!」
エルコンドルパサーは楽しそうに独り言を言いながら、座り心地を良くするために、全体重をかけたまま自身の巨大なデカケツを、座面に対して左右に激しく擦り付けたのだ。
ズリッ!ゴリゴリゴリッ!!
尻肉が擦り付けられた瞬間、スカートの隙間から、鮮血と内臓が混ざった赤黒い液体がプチュッと飛び散るのが見えた。もう一人の小人は、ウマ娘の無邪気な身動き一つで、文字通りただの赤いシミへと変えられてしまったのだ。
「あぁ……っ」
猛烈な恐怖が彼の全身を支配した。いつか必ず、自分もあのシミと同じ運命を辿る。
しかし、このままで終わるわけには行かない。彼は意を決し、木目の窪みから飛び出すと、エルコンドルパサーのデカケツ、そのスカートの裾に向かって、決死の覚悟で走り出した。スカートの布を伝って地面に降りるしかない。
ウマ娘の熱気と汗の匂いが、暴風となって彼を襲う。
「もう少し……っ!」
彼がスカートの布地に手を伸ばそうとした、まさにその時だった。
先程の足音にも劣らない重厚な地響きが迫ってきた。一歩一歩が深く、確実に地面を捉え、静かなる大質量が近づいてくる恐怖の音。
「エル、お待たせしました。購買が少し混んでいまして」
大和撫子のような穏やかな微笑みを浮かべたウマ娘、グラスワンダーが歩み寄ってきた。彼女の両手には、購買で買い込んだ紙袋が握られている。
「オー!グラス!ノープロブレムデース!ここ、空いてマスよ!」
エルコンドルパサーは、自分のすぐ隣のスペース――まさに彼がスカートに向かって走っている、ベンチの中央部分を叩いて見せた。
「ありがとうございます。それでは、失礼して……」
グラスワンダーは一切の躊躇なく、優雅な所作で後ろを振り返り、その清楚な見た目からは想像もつかないほど豊満で重々しいデカケツを、ゆっくりと降下させてきた。
視界のすべてが、巨大な布地と、圧倒的な肉の壁によって完全に遮断される。
「やめ……っ!!」
ドズンッッッッ!!!!
想像を絶する衝撃と圧力が、彼の矮小な身体を襲った。
硬い木製のベンチと、グラスワンダーの豊満で強靭な尻肉。その間に完全に挟み込まれ、逃げ場のない肉の万力で圧殺される。
メキメキと全身の骨が悲鳴を上げる。内臓が限界まで圧迫され、眼球が飛び出しそうになる。
普通なら即死している圧力だった。しかし、彼は奇跡的に、ベンチの板と板を繋ぐわずかな隙間の上に位置していたため、完全にペシャンコにされることだけは免れ、一命を取り留めたのだ。
「ふふっ。風通りが良くて気持ちいい場所ですね」
「デース!さあさあグラス、お昼にするデース!エルのこのバーガー、凄まじい辛さの予感がしマースよ!」
「本当に辛そうですね……。無理はしないでくださいね。私はこちらのたい焼きとお茶をいただきます」
頭上からは、二人のウマ娘の楽しげな日常会話が地鳴りのように響いてくる。
彼女たちは、自分たちの尻の下で一つの命がすり潰され、もう一つの命が瀕死の苦しみを味わっていることなど、微塵も気づいていない。
「あむっ……!カラァーッ!でもウマいデース!グラスも一口どうデースか!?」
「えっ、わ、私ですか? いえ、私は遠慮して……」
「遠慮は無用デース! はい、あーん!」
「……っ! むぐっ……!」
グラスワンダーが無理やりバーガーを一口食べさせられた瞬間、彼女の巨大な尻肉がトランポリンのように弾み、その強烈な衝撃波が隙間の中の彼を何度も何度も打ち据える。
ドスッ!むぎゅぅぅぅっ!
体重移動が行われるたびに、骨盤の硬い部分が彼の身体を掠め、柔らかい脂肪の波が彼を窒息させる。
ウマ娘の体温は異常に高く、スカートの中は蒸し風呂のように熱い。強烈な汗の匂いと、グラスの尻の香りが混ざり合い、彼の呼吸を完全に奪っていく。
「ふぅ……っ、コホッ……!エル、これは少し刺激が強すぎます……!」
「汗をかいて新陳代謝アップ、デース! 限界を超えていくのがエルたちの流儀デース!」
数分が数時間にも感じられる拷問。彼は何度も意識を失いかけ、その度に尻肉の暴力的なプレスによって強制的に覚醒させられた。
やがて、遠くから予鈴のチャイムが鳴り響いた。
「オー!もうこんな時間デース!エル、午後の合同トレーニングに遅れるわけにはいかないデース!」
「相変わらず忙しいですね。私は午後から図書委員の仕事ですから、もう少しここで休んでいきます」
「アディオス・アミーゴ!また後でデース!」
突然、隣に座っていたエルコンドルパサーが、勢いよく立ち上がった。
ドスッドスッドスッ!と重々しい足音を立てて、彼女はそのまま走り去っていく。
彼は薄れゆく意識の中で、微かな希望を抱いた。エルコンドルパサーが立ったのだから、自分を敷いているこのグラスワンダーも、すぐに立ち上がるはずだ。そうすれば、まだ助かる道もあるのではないかと。
しかし、無情にも。
「ふふっ……エルがいなくなると、少し静かになりますね。よっこいしょ」
グラスワンダーは立ち上がるどころか、友人がいなくなったことでベンチを広く使えるようになり、さらに深く、どっしりと全体重を預けて座り直したのだ。
追加の圧力が彼の瀕死の身体を襲い、肋骨が数本、完全に砕け散った。
グラスワンダーが、自分のお腹に手を当てる気配が頭上から伝わってきた。
そして、彼女は周囲に誰もいないことを確信したように、小さく息を吐いた。
「少し、お腹が痛いです……。エルのあの激辛バーガーを無理にいただいたせいでしょうか……。なんだか、お腹の奥でガスが……」
その呟きが聞こえた瞬間、彼は自分の運命を完全に悟った。
最初に見つかった時に聞いた、モブウマ娘の会話。
『屁こいただけで死んだの笑』
グラスワンダーのお尻の奥深く、圧倒的な暗闇の中心から、恐ろしいほどの圧力が生み出される気配がした。
「んんっ……。誰もいませんし……少しだけ……っ」
ブッッッッッボォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッッ!!!!!!!
大気を震わせ、木製のベンチを木っ端微塵に吹き飛ばすかのような、大和撫子の清楚な姿からは到底信じられない、とんでもない重低音の爆音。
密閉されたスカートの中、そして彼のいるわずかな隙間に向かって、ウマ娘の強靭な消化器官から生み出された、超圧縮された猛毒のガスが直撃した。
ガスを浴びたその瞬間。彼に苦痛を感じる時間すら与えられなかった。
ウマ娘の強力な胃液が混ざり合い、発酵して生み出された致死性の悪臭。それはただの匂いではなく、物理的な暴力を持ったガスの衝撃波であると同時に、小人の脆弱な生命力を一瞬で刈り取る猛毒だった。
ガスが彼の肺に侵入した瞬間、脳への酸素供給が完全に絶たれ、全身の細胞が即座に壊死を引き起こした。痛みを感じる神経の伝達すらも追いつかない圧倒的な致死性。彼の命の灯火は、ただの一瞬の瞬きもなく、完全に吹き消された。
「……ふぅ。はしたないですが、スッキリしました」
グラスワンダーが心地よさそうに呟くと同時。
ガスを放出したことによってお尻の筋肉が緩み、そして再びキュッと締まるその無意識の動作が、すでに絶命している彼の死骸への最後の追撃となった。
ガスの直撃で即死していた彼の死骸は、その最後の尻肉の収縮と圧倒的な圧力によって、ついに完全にすり潰された。
隙間の中で、彼だったものは原型を失い、ただの赤黒い肉片と体液のシミへと変わり果てた。
「…あっ、エルったら…またお尻の下で小人さんを潰してましたね…。もう、小人さんだって生きているのに…次あったときに注意しないと」
「さて、私もそろそろ図書室へ向かいませんと」
グラスワンダーは優雅に立ち上がると、スカートのシワを軽く払い、何事もなかったかのように上品な足取りで歩き出していった。
静寂を取り戻した渡り廊下のベンチ。
そこには、ウマ娘たちの巨大なデカケツによってすり潰された二つの赤いシミと、恐ろしいほどの悪臭だけが、誰も気づかないまま残されていた。
巨神たちの無自覚な暴力と生理現象の前に、矮小な命はあまりにも呆気なく、惨めに蹂躙され尽くしたのだった。