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さっきから、胸のドキドキが止まらなかった。
ものすごい恥ずかしさに耐えながら、スカートの裾をめくって生脚の上に男の子たちを寝かせてあげて。起きたときにどんな反応をしてくれるのかなと思ったけど、その反応は想像以上で。…みんな、目が覚めた数秒後には私の生太ももの上に寝かされていることに気づき、上半身を起こし、動揺し、固まって、…でも、その後にもう一度、寝ぼけているようなふりをしてもう一度寝転がるのだ。
正直、私の脚なんか男の子たちにとって何の刺激も無いと思っていた。背がちっちゃくて、スタイルが良いわけでも無い、えっちな魅力が無い私の太もも。でも、今まで一緒に学校生活を送ってきた男子たちが、サッカー部で女子にモテていた瀬戸くんや人気者の鳥居くんまで、私の太ももに触れていることに明らかにドキドキしているのだ。
(なんで…可愛い、んだろう)
自分の身体に興奮している男の子を見て、"カワイイ"と思ってしまうなんて。自分の感情がよく分からなくなっていたけど、でも突き詰めれば理由は明白。…このお人形サイズの男子たちは、結局のところ私に何かアクションを起こすことが出来ないから。それは今だけのことじゃなくて、これからずっと。一時的に私が大きいのではなくて、"元々"身体の大きさが違うのだ。
"選別なんてできない"、"申し訳ない"という気持ちが、"可愛い"という感情でちょっとずつ上書きされていく。
(だって…みんな、興奮しちゃってるんだもん)
私の脚に興奮して、それを隠しながら身体を摺り寄せて。急にこんなところに閉じ込められてしまったのは可哀そうだけど、みんな、満更でもないんだよね?
特に、ほら、尾川くん。
(………もう…♡)
私は眠ったふりをしながら、左脚の内ももよりの場所で目が覚めた尾川くんの様子を盗み見る。もう、その慌てようといったら…。なんかピクピク動いていて…明らかに、お股のところが盛り上がっている。それが何を意味するかなんて、さすがに私でも知っている。
可愛いよ、こんなの。
眠ったふりをしながら、思わず手のひらを尾川くんのちっちゃな身体に伸ばしていく。あくまで無意識を装いながら、お人形サイズの身体に手をかぶせていく。…自分の手が相対的に巨大に見えて、ちょっと恥ずかしい。尾川くんには、私の手のひらはどう見えているんだろう。指紋がいっぱい見えているのかな。なにか匂いがするのかな。そんなの、もし後で感想を言われたらあまりにも恥ずかしいけど…もう、対等に話をすることは無いんだろう。
ぐにぃ…♡
尾川くんの周りの太ももの表面を、指でぐに、ぐに、と押し込んでみる。尾川くんのちっちゃな身体が、太ももの上下と共に翻弄されている様子が、指の隙間から見える。私の手だけでほとんど見えなくなっちゃうなんて…。
やばい、止められない。
もともと、可愛い小動物が好きだった。家では子猫を飼っていて、学校から帰るといつもよしよしして可愛がっていた。無垢で、無力で、私からの愛を一方的に受けざるを得ない存在。…いや、そんな言い方をすると私がすっごく性格悪いみたいだけど……そんな可愛い存在が、元々好きなのだ。
むぎゅぅ…♡♡
「~~~~っっ!!」
ちっちゃな身体を優しく手で包み込んであげる。何か言っているのかな?もぞもぞ、ピクピクしてるけど。苦しいかな?クラスメートの女子一人の手のひらに包まれて苦しいなんて、おかしいよね。男の子だもん。こんなので苦しいわけないよね。
ぎゅっ、ぎゅっ♡♡
(ほんとに動けないんだ……♡)
無力さを左手で感じるたびに、尾川くんの全力の抵抗を左手で包み込むたびに、ドキドキが増していく。自分の手にじっとりと汗が滲み出ていることに気づいたけど、もう恥ずかしさは感じなかった。その汗ごと、尾川くんのか弱い身体に染み込ませてあげる。だって…こんな状況なのに、やっぱり興奮してるんだもん。女の子にぎゅうぎゅう握られて興奮しちゃうなんて、尾川くん、そういう人なの?一緒にクラスにいたときはそんな風に見えなかったけど…。
「「………あ」」
気づけば手のひらの中で、尾川くんはぐったり動かなくなっていた。
そこからはもう、どんどんエスカレートしてしまって。
(やば……わたし、男の子たちの真上でスカートで……)
みんながどんな反応をしてくれるか見たくなって、自分でも信じられないほど大胆な行動に出てしまった。制服のスカート姿のまま、私は一辺1メートルの小さな空間で立ち上がる。私の足元には16人もの数センチサイズの男の子たち。どう考えても見上げれば私のパンツが見えてしまうローアングルで、これはもうスカートの中を覗かれているというよりは"見せつけている"に近い状態。だって男子たちは、私のパンツが見えない位置に移動することすらできないのだから。
「「………」」
なんて小さく、無力なんだろう。私のおっきな靴下に、右も左も塞がれて。下半身が作り出す巨大な空間に、全員が閉じ込められている。
(しゃ、しゃがんだら…みんなどうするのかな)
想像するだけで、恥ずかしくって、ドキドキする。この状態でしゃがんだら…みんなから見れば、スカートに包まれていない生のパンツが、生の太ももが…上空の超至近距離まで近づいてくる。そのままお尻に潰されちゃうんじゃないかと思うのかな。多分、怖いよね。
…生唾を飲み込む。クラスメートの男子たちに自分のパンツを見せつけようとしているのは、冷静に考えればあまりに痴女的だ。でも、だって…自分の身体でみんながこんなに翻弄されてしまうのがちょっと嬉しくて。現に今の体勢でも、足元の男の子たちは慌てて地面の方を見たり、うろうろしたり、私のパンツの存在感に動揺する子がいっぱい。こんなに可愛く反応されたら、もっと試したくなっちゃう。
ずずっ……
むぎゅっ……♡
男子たちの上でしゃがんだ瞬間、もうドキドキしすぎて息が浅くなってしまった。
「「はあっ、はあっ…♡♡……ちっちゃい窓みたいなのがあるけど…取っ手はついてないかも……」」
小さく息を切らしながら、それを悟られないように、もはや私の下半身とスカートで見えなくなった男子たちに話しかける。今、曝け出された私のパンツに、太ももに、お尻に、男子全員が釘付けになっているはず。それか、恥ずかしくてずっと床ばかり見てるのかも。…別に、見た所で何も出来ないのにね。
(やばい……これ……)
(…楽しすぎるよ……)
私の一挙手一投足で危険な目にあったり、興奮させられたり。みんなの感情は、私の思うがまま。16人もの男の子が、全員の存在感を意識してる。
紺色のスカートは、少しだけ生地が透けていて。よく見れば、しゃがんだ私のスカートの中で右往左往している男の子たちの姿が確認できた。…逃げることもできずに、でも私のパンツにえっちな気持ちにさせられて、どうすることもできないのかな。
あ。もう、思いっきり見上げちゃってる子がいる。
ねえ…そんなことして、恥ずかしくないの?怖くないのかな?
私にバレたら、なにされるかわかんないよ?だって…私が怒って、この靴下の足をそっと踏み出すだけで。この子はあっけなく潰れてしまう。
どんどん自分の脳が熱暴走していくのが分かる。男子たちを、今までのクラスメートという関係性の子とは思えなくなっていく。
…それでもどこかで、自分の暴走を理性がくいとどめている。たまたま体格が違うだけで、元々は同じクラスメートとしてずっと接してきたんだから。いきなりありえない程の体格差が生まれてしまっても、関係性は変わるはずがない。変わってはいけない。…それが、正しい考え方のはず。だって、私はついこないだまでみんなと同じだと思ってたんだから。
だから。
そんなギリギリの理性を壊した、君が悪いんだよ?
(え……う、うそ……)
座り込んだ私のスカートの中に、尾川くんが取り残されていることは気づいていた。スカートの生地が透けて、巨大なパンツと太ももに取り囲まれて完全に逃げられなくなっていた尾川くんの姿が見えていたから。
まさか。あの尾川くんが、私のパンツに近づいて…。
(ひ、一人で…シてるの……?)
ズボンを降ろし、股間をまさぐり始めた尾川くんのシルエットが見える。他の男の子よりも私の身体を意識してドキドキしてたのは気づいていたけど。まさか、こんな直接的に、私の身体にえっちな興奮を感じていたなんて。まさか、オナニーしちゃうなんて。
私、目の前にいるんだよ?今、スカートをめくられて自分の存在がバレたら、どうするつもりなの?
もう……
困った子だなあ……♡
他の男子たちは全員私の下半身の下から脱出し、今はあぐらをかいた私の足の前で集まっている。みんな動揺していて、尾川くんが一人いないことに気づいていないようだった。
(…………)
私はみんなに気づかれないように。
自分のスカートの裾から右手を入れて、パンツの目の前にいる尾川くんに、指を伸ばしたのだった。
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「………渚、どこいっちゃったんだろう…」
私は一人、だだっ広い空間の中で立ち尽くしていた。
ここがどこかも分からなかった。茶色い木の素材のような床は、体育館くらいの規模で広がっていて。その先は床が続いてなくて、崖のようになっている。そのさらに遠くの方に見える壁や遥か高い天井は真っ白で、どこか非現実的な雰囲気が漂っていた。
自分が眠り込む前の状況を思い出す。
卒業式の日。突然、気づいたら謎の空間にクラスメート全員が移動させられていた。誰がそれをやったのか分からず、脱出する方法も分からず。動揺する私たちは、そのうちクラスメートの一人が途方もない大きさになっていることに気づいた。
『麻衣ちゃん、次の教室いこ!』
いつも下から見上げるように、私の顔を覗いてニコっと笑っていた渚。いつも一緒にいる親友で、小さくて人懐っこい性格の渚は、どこか妹のような存在でもあった。割と背が高かった私は、渚よりも頭一つ分くらい大きくて。よく渚の頭にあごを乗せて、ぐりぐりと弄り回したものだ。
そんな渚の顔が、首が痛くなるまで見上げないと視界に入ってこない。
『『み、みんな…私、ここにいるよ』』
『『そ、そうだよ、麻衣ちゃん』』
その一声一声のボリュームは凄くて。渚が声を出そうと息を吸う音が聞こえるたびに、全身で身構えてしまう。それでも、渚の可愛らしい声が暴風のように吹き荒れると、思わずびくっ…!と身体が震えてしまうのだ。
『『あ、いや……ごめん……私も、何も分からなくて……』』
私たちクラスメートが渚の身体や声に怯えていることを、渚も気づいているようで。少しづつか細くなっていく声に胸が痛み、思わずみんなに呼びかけてしまった。
『…渚も私たちと一緒なんだよね。ほら、男子たちも、動揺してるからって一方的に詰めよっちゃダメでしょ』
だって。渚は何も悪くない。私たちと同じで、何も知らず、何故か一人だけ身体を大きくされて。むしろ一人だけおっきくなっちゃって、女の子なのに、可哀そうだ。…間違っても、渚は何かを私たちに隠すような子じゃないから。
私は絶対に、渚の身体に怯えない。普通に接してあげる。
『『…………』』さわっ…さわっ……
『ひゃんっ……』
そんな意思も、巨大な肌色の柔らかな手に包まれるだけで、小さな悲鳴と共に逃げて行ってしまう。ちっちゃいはずの渚の手が、こんなに分厚くて、巨大で、今私のお腹をさすっている丸太のような指に少しでも力が入れば、私の身体は本当に簡単にひしゃげてしまう。
渚を信頼しているという心とは別に、単純に自分の命が他人に支配されているという状況が、異常な緊張感を与えてくるのだ。
『『…床、固いと思うから、良かったら……私の膝の上、乗ってもいいよ』』
その後はもう、渚の"独壇場"といっても良かった。
何がって…だって。
クラスメート全員が、渚のおっきな足の裏を登っているという状況。女の子なのに、恥ずかしいはずなのに、渚が勇気を振り絞って提案してくれたのを感じる。男子もいるのに、足の熱とか匂いとか、自分で気になるはずなのに。それは、本当に優しさからくる提案だったんだろう。
でも、渚の足に私たちがへばりついて登っているこの状況。…俯瞰してみれば、とても今まで対等なクラスメートだった人間同士とは見えない。渚の匂いに包まれ、渚の熱に蒸され、渚が身じろぎをするたびに、2,3人のクラスメートが足の裏から落下していく。そのことに渚は気づかない。自分の足の影になっていて、その様子が見えないのだ。
全員が渚の脚の上に登ってからも、どこかプレッシャーのような、"被支配感"をみんなが感じているのは事実だった。
『す、すごいね……渚、おっきい……』
『うん……』
みんな、口には出さないけれど。あたりに漂う渚の女の子らしい匂いは強烈で。それは決して悪い匂いではなく、むしろフローラルで良い匂い。…そう、良い匂いすぎるんだ。
爽やかな香りだけではなく、少し生々しい身体の匂いや僅かな汗の匂い。それらが混ざり合った末に、普段だったら嗅ぐことのない女の子のフェロモンと言ってもいいい香りが、圧倒的に充満しているのだ。…同じ女子の私でも、嗅いでいるとちょっと恥ずかしい気持ちになってくる。これが、対岸の脚の上で男子にも起こっていることなのだ。
(こんな匂い嗅がされたら……)
渚は、可愛い。ちんまりしていて可愛いというのもあるけど、童顔で、渚のことが気になっている男子も多分いたことだろう。…そんな男子たちが、むにむに柔らかな太ももの上で、色濃い同級生女子のフェロモンを存分に嗅がされているのだ。こんなの、普通の気持ちでいられないんじゃないか。
『ねむ……』
そんなことを危惧していたら、急激に眠気が襲ってきて。不自然なほど強烈な眠気に、私は耐えられなかった。親友の渚の巨大な太ももの上で、横たわり、そのまま気持ち良い睡眠に落ちていく。
『『んんぅ………』』
同じく眠りについたらしい渚の可愛い寝息を浴びながら。
私は熟睡してしまった。
そして起きた瞬間、この謎の空間。
(昨日閉じ込められてた部屋よりずっと広そうだけど……)
こんな広い空間の部屋、正直見たことが無かった。この体育館のような広さの床が、何個も入りそうなほど広い空間なのだ。狭い日本の土地に、こんな場所がいったいどこにあるのだろう。
クラスメートのみんなも、渚もいない。突然一人ぼっちにされて、にわかに寂しくなる。怖くなる。
(どうやったら帰れるの……誰が……なんで……)
何か恐ろしいことに巻き込まれているような気がした。それでいてどこか現実味が無く、夢でも見ているようで。…でも、一度眠りについて目が覚めても、この奇妙な現実は何も変わらなかった。起きたら家に戻っているだろうという甘い期待は簡単に打ち砕かれて、それが徐々に現実的な恐怖へと変貌し始めていた。
このまま閉じ込められて、一生帰れなかったら。
一生一人で、この空間で暮らすことになったら。
「…やだ……帰りたい……」
大波のように押し寄せる不安と孤独、恐怖。私は、自分の目から涙がこぼれていることに気が付いた。怖い。誰か、誰でもいいから、この空間に来て欲しい。
ドンッ……!!
ぐらぐらっ…!!
「ひゃんっ…!!!」
突然、大きな地響きが轟いた。
(じ、地震っ…!!?)
床がびりびりと上下に震え、私は立っていられず床に手をついて四つん這いになる。並みの地震の強さじゃない。今までに経験したことのない揺れに、さらに恐怖が倍増する。
ドンッ……!!
ドンッ…………!!
ビリビリビリッ…!!
「ひあっ、なに、なにっ…!?」
その異常な揺れが、何回も何回も襲ってくる。自然の地震とは思えない、規則的な揺れ。何度も床が上下に突き動かされ、それに合わせて私の身体も強制的にバウンドする。バンッ…!バンッ…!と何度も床に身体をうちつけ、一瞬でむち打ちになってしまう。
天変地異かと思った。激しすぎる地震で、世界が終わってしまうんじゃないかと。私は頭を抱えて身体を丸め込み、未だ振動し続ける床に何度も叩きつけられた。
ドンッ……!!
ドンッ…………!!
…………。
……。
揺れが収まっていることにも気づかなかった。ガタガタ震えて、身体を丸めたまま、私は静かに泣き続けて。
「「麻衣ちゃん、大丈夫だよ」」
「っ……!??」
突然響き渡った聞きなれた声に、私は跳ね起きた。
「きゃあっ…!!??」
立ち上がって見上げた瞬間、その光景に悲鳴を上げて腰を抜かしてしまう。
「「あ…ごめん……怖がらせちゃったかな」」
上空いっぱいに広がる親友の顔は、あまりに見慣れた顔のはずなのに、その狂った距離感で頭がおかしくなりそうだった。目も、鼻も、口も、いつもの渚の可愛らしい顔だ。私との距離は3, 4メートルくらいあるはずなのに、もはや渚にちゅーされるのではないかと思えるほど至近距離で覗き込まれていた。この体格差では、数メートルの距離感なんてあってないようなものなのだと、思い知った。
「な、渚……こ、ここって……」
「「ん?どうしたの?」」
「いや……ここ、どこなの…?」
「「え、うーん……」」
渚は、どこか感情が読めないフラットな表情のまま、
「「私にもわかんないんだよね」」
そう私に言うのだった。
「そ、そう……」
強烈な違和感だった。どこか今までの渚とは違うような印象を受けたから。それが何なのかと言われたら、答えられない程小さな違和感だけど。なんだか変に落ち着いてるというか、平然としすぎているというか…。
「「とりあえず、安心していいよ」」
さわさわっ……
「あ……う……」
渚の巨大な指が予告なく動き、私の頭の上に乗せられる。ずしりと重さを感じつつも、大きな指紋がざらざらと私の頭を撫でていくのは気持ちが良かった。私を撫でる渚の顔はとても優しくて、数秒前の違和感はすぐに吹き飛んでいった。…いつもの優しい、人を気遣う渚の顔だ。
「「麻衣ちゃん、泣いてたの?」」
「う、うるさいっ…泣いてないから」
「「あはは」」
ちょっぴり私をからかいつつ、優しく笑う渚。正直一人で恐ろしかった私は、親友がこの空間に現れたことでかなりホッとしていた。このありえないほど大きな空間の中で、その空間に見合う巨大な渚が現れたというのは、とても安心感を覚えることだった。
「「………」」
私をじっと見つめる渚の顔は、どこか慈愛に満ちているような、優しい表情で。
そんな表情の中に、私はまた、違和感を見つけてしまうのだった。
慈愛。慈しみ。愛慕。
下から私を見上げて快活に笑っていたときの表情とは、明らかに違う。
ペット好きの渚が、犬を抱きながら見せていた表情に近い。
「………え?」
気づけば、異常なほど近づけられた渚の顔の影で、私の身体は包囲されていた。
「「麻衣ちゃん、ちっちゃくてかわいいね」」
目を細めながら、囁くような巨大な声を浴びせてくる渚。声と共に、巨大な唇から漏れ出た吐息がぶわあっ…♡と私の全身に降りかかってくる。
「う、うん……」
「「ちゅーしていい?」」
「……へ?」
予想していない台詞に、思わず聞き返してしまう。
「「麻衣ちゃんにちゅーしたいな」」
「え……いや、それは…恥ずかしい、し……」
渚って、こんな子だったっけ。確かに、よくスキンシップは取っていたけど…。私は渚の背中からラフに抱き着いたりとか、渚も私の膝に座ったり、よしよししてもらうのを喜んでたりしたけど。ほっぺにちゅーするとか、そこまではしてなかったよね。
「「………♡」」
え、いや、だって。こんな大きさでキスされたら、ほっぺにちゅーとかいうレベルじゃなくて、ちょっと、ま……
「「んむぅ……♡♡」」
むにゅううぅっ…♡♡
思考する間もなく。
私の身体は、それ以上の大きさの渚のピンク色の唇に、埋もれていた。
「っっ……!!!???」
突然の出来事に、頭が追い付かなかった。私、今何をされているの?渚に、キスされてるの?今、私の全身を柔らかく包み込んでいるのは、渚の唇?こんなにおっきなものが、あの、渚の…?
むにいぃっ…♡♡
「「んふっ…♪」」
ぶわあっっ……
感じたことのない柔らかさが全身を包み、渚の濃い、濃い口元の匂いを強制的に嗅がされる。渚が愛用しているブランドのリップクリームの匂いと、ちょっとだけ唾液の匂い。男子がうらやむ綺麗な唇が、親友の唇が、私の全身に余すことなく吸い付いている。そして頭の上の方から、渚の鼻から放出された空気が何度も何度も降りかかってくる。
親友とはいえ、今までしてこなかった濃いスキンシップを強制され。感じたのは、恥ずかしさではなくて、ただ、恐怖だった。
「「んんー……♡」」
むにゅっ…♡♡
圧倒的に自分より大きくて強い存在に、唇一つで制圧されている。私の顔は渚の上唇の表面に完全に埋もれていて、もう思い切り口と口のキスをさせられている。でも、渚はそうは思っていないだろう。ただただ、小さなペットに戯れにちゅーしているくらいの感覚なのかもしれない。友達が小さくなるという特殊な状況にテンションが上がって、こんなスキンシップを思わず取ってしまったのかもしれない。
…でも私からすれば、一応女の子としてのセクシャルな、デリケートな唇という部位に全身押し付けられて、恥ずかしいのか、恐ろしいのか、頭がめちゃくちゃになってしまう。渚にキスされるのが嫌という訳ではないけど、あまりに一方的で支配的なこの状況は、ちょっとだけ屈辱感すら覚えてしまう。
「「んむっ……」」
ふにゅっ……♡♡
渚の唇が離れる。私の上半身に張り付いていた上唇が、離された瞬間にぷるんっ…♡と妖艶に揺れた。
「はあっ、はあっ、はあっ……」
まともに息すらさせてもらえなかった私は、必死に酸素を吸い込む。そんな私の姿を見て、巨大な渚の表情は。
「「………♪」」
今までに見たことのない、優越的な表情を浮かべていた。
「………渚」
「「ん?」」
「……渚、だよね」
「「?そうだよ?私だよ」」
きょとんとした顔で、私を見下ろす。いつもの表情に見えるけど、その奥に秘められた感情が、私の知らないものであることに何となく気づいてしまっていた。
何を、考えているの。
何か、知っているの?
「「そうだ、麻衣ちゃんに紹介するね」」
渚は、制服の胸ポケットに指を入れながら話す。
「「紹介って言うか、元々知ってると思うけど……これからずっと一緒になるから、改めて、ね」」
よく分からないことを言いながら、渚は胸ポケットから何かを取り出し、
私の隣に"それ"を置いた。
「へ………?」
私の隣に置かれたのは、
「げほっ、げほっ……!!」
咳き込んで床に突っ伏する、一人の動く人間だった。
「「私に"選ばれた"、尾川くんね。…麻衣ちゃんはたまに教室でも話してたよね?」」
渚は優しそうな笑みを浮かべたまま、言葉を続ける。
「「これから一緒に暮らすことになるから……二人とも、よろしくね」」
---続く---