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いつのまにか眠ってしまっていた私は、硬い床の上でむくりと上半身を起こした。あたりを見渡し、やっぱり何も変わっていない状況を目の当たりにする。...この謎の部屋に閉じ込められてから、気付かないうちに眠ってしまっていることが多い気がする。ほら、周りにいるクラスのみんなも...私を含む2,3人がたった今目を覚ましたようで、その他の人は床に突っ伏してぐっすりと眠り込んでいる。
やっぱり、この空間はおかしい。お腹が減らないのもおかしいし...早く外に出たい。なんで私たちは、何をしたわけでも無いのに、閉じ込められてるんだろう...。
「...あれ......」
私はふと、二つのことに気がついた。一つは、寝る前までの暑さがすっかり消えていること。あんなにみんなが大汗をかいて疲弊して、渚ちゃんに脚で壁を作ってもらって服まで脱いで...。それが、今はまるで普通の気温だ。あの暑さが嘘のように、肌は少し汗でべとついてるけど...。
渚ちゃんがクラスメートの前でスカートとシャツを脱いだ姿を思い出して、一人で赤面する。
そう、その渚ちゃんが、いない。友達の身体に圧迫感すら感じていたのに、あの大きな身体が部屋から忽然と姿を消していた。この部屋は、こんなに広かったんだ。渚ちゃんがいたから、すごく狭い空間という印象しかなかったけど。私たちだけなら、存分に走り回れるくらい自由な空間だった。
「どこ、いっちゃったんだろう...大丈夫かな...」
ただのクラスメートじゃない。麻衣ちゃん、加羅ちゃんと、渚ちゃんと私。いつも一緒で、休み時間になったら絶対に誰かの席に集まって話して、移動教室でもいつも一緒で。特に、ちょっと気が小さい方の私と渚ちゃんは、似たもの同士で気が合うことも多かった。
『恵奈ちゃん、聞いて聞いて〜』
屈託の無い笑顔で話しかけてくる渚ちゃんの姿が脳裏に浮かぶ。...巨大な姿になった渚ちゃんは、どこか今までのような屈託の無い表情とは違って見えた。いつもの優しい渚ちゃんではあるんだけど、みんなを気遣ってくれるんだけど、何か、頭の中で違うことをずっと考えているような。みんなの様子を見て、何かを見定めているような。
(渚ちゃんは、そんな子じゃないもん...)
友達を変に勘ぐる自分に嫌気が差す。おっきな身体で、辛くて恥ずかしかったはず。1番の被害者と言ってもいい。
じゃあ、なんで渚ちゃんだけ、突然部屋から消えちゃったんだろう?
ドンッッッ!!!!
ビリビリビリビリッッッッ!!!!
「きゃあああっっっ!!!??」
「うわあっっっ!!??」
ものすごい音、もの凄い振動。身体の底から突き上げられるような衝撃に、クラスのみんなの身体が強制的に跳ねさせられる。さっきまで眠り込んでいた人も、叫びながら起きてあたりを見渡している。…渚ちゃんが立ったときの振動とは全くレベルが違う。ちょっと強い地震くらいの振動だったのが、今のはもう、地球上ではありえないほど強い衝撃だった。
地球上では、ありえない。じゃあ、ここはどこ?
ドンッッッ!!
ドンッッッ!!!
ドンッッッ!!!!!
「いやあっっ!!??」
「やだっ、なにっ…!??」
何回も何回も床が突き動かされ、本能的な恐怖を掻き立てられる。明らかに自然の物じゃない、人工的な振動。定期的に部屋の縦揺れが大きくなっていき、まともに立っていられない。私は床にへたり込んでは全身が宙に浮き、腰から床に叩きつけられる。
ドンッッッ!!!
ドンッッッ!!!!!
ドンッッッ!!!!!!!
…………
……
フッ………
突然、部屋の中が暗くなった。いや、正確には、この縦に細長い部屋の上から差し込んでいた光が、何かに遮られて……
「え……………」
上空を見上げた私は。数十メートルも上の、この部屋で唯一外界と繋がっていた穴を、とてつもなく大きな存在が塞いでいる様子を目にした。
でも、それが何なのか、分からなかった。
「ひぃっ……!!!なにあれ……」
「怖いよっ……!!」
女の子たちが悲鳴を上げて、腰を抜かしている。
ありないほど大きな球体、としか形容できなかった。茶色や黒色、そして周りは白色。万華鏡を覗いたときみたいな美しい模様が描かれていて、その周囲には少しだけ黄色がかった白色が取り囲んでいる。
それが、
ギロッ……!!
「きゃああっっ!!!??」
ものすごいスピードで上下左右に、動き回る。その動きはまるで、巨大な瞳がこちらを見つめているようで……。
え………?
「「「うわあ、みんなちっちゃーい♡♡」」」
ビリビリビリビリッ!!!!
「っっっーーーーー!!!!???」
世界が激しく揺れた。空気がビリビリと振動し、巨大すぎる音が耳の奥の脳にまで入り込む。頭にガンガン響き渡るその声が誰のものなのか、その声色は音量が大きすぎて聞き取れないのに、何となく想像できてしまう。同世代の女の子の声。今この状況で、こんなにも巨大な音を出せるのは、一人しかいない。
「「「もう1ミリもないくらいかな……」」」
「な……渚……ちゃん……?」
完全に人間の域を超えてしまった存在に向かって、友達の名前を呟く自分に大きな違和感を抱いた。でも、この部屋を覗き込む巨大すぎる瞳の持ち主は、明らかに渚ちゃんだった。聞き慣れた可愛らしい声が、聞いたことも無い音量でクラスメート全員に浴びせつけられる。みんなその迫力に身体を一つも動かせず、声も出せず、ただただ口を開けて上空の瞳を見上げ続けるしかなかった。
なんで。渚ちゃんが、あまりに大きくなってしまったということ?誰かの力で、強制的に?さっきまで同じ部屋にいた渚ちゃんの大きさが、相対的にものすごく小さく思えてしまう。渚ちゃんは、自力でこの部屋を出たの?それとも……。
「「「えっと……」」」
「「「みんな、怖くないよー……?」」」
バチッ……
渚ちゃんの瞬きの音が響き渡る。綺麗に生え揃ったまつ毛がふわっとなびいている。あのまつ毛一本にすら、私の身体の大きさは負けているだろう。なんの誇張でもなく、今の私は渚ちゃんにとって、微生物並みの存在だ。
「「「なんか、私だけまた大きくなっちゃって……」」」
「「「みんな、外に出してあげるよ」」」
一方的に降ってくる渚ちゃんの声。友達から話しかけられている感覚が全く無かった。あまりにも一方的なコミュニケーションで、私たちの声なんか、こんな神様みたいにおっきな存在に届くわけもない。昨日まではギリギリ渚ちゃんと言葉が通じ合っていたのに、今では渚ちゃんの天の声をただただ聞かせられるだけ。
こちらの声を聞いてもらえないというだけで、すごく不安を感じる。
「っっ………」プルプルッ……
「いやっ…!!」
上空に出現した巨大すぎる存在に、全員がパニックになっていた。世界に鳴り響くこの音声が渚ちゃんのものであることは全員気づいていたけど、同じ人間だった存在が、こんなありえない大きさになるということに頭が全く追い付いていなかった。巨大すぎる存在は、それだけで恐怖を掻き立てられるものだった。いくらクラスメートだった女の子とは言え、もしこの子がこの部屋に指を突っ込んできたら。もし悪意を持って私たちに何かをしようとしていたら、この絶望的な体格差は無条件な死に等しい。今この瞬間、私たちは渚ちゃんに生死を完全に握られている。それを、みんなは気付いてしまっているのだ。
「「「……それより、みんな寒いでしょ」」」
巨大な瞳はそのままに、渚ちゃんは続けて話しかけてくる。
「「「さっき暑かったから、服脱いじゃったもんね」」」
「あっ……」
私は、同じ空間にクラスの男子たちがいることを再度思い出し、慌てて自分の下着姿を手で隠した。他の女の子たちも同じように恥ずかしがって、男子たちも恥ずかしがって違う壁の方を見つめて座っている。…クラスメートたちが服を脱いだ状態で同じ部屋にいるというのは、異常な光景だった。
そして渚ちゃんの言う通り、身体がかなり冷えてきていることに気づいた。汗で濡れた肌が冷たくなって、壁しかない部屋なのにどこからか風が吹いてきて全身を凍えさせる。
「「「といっても、私からは皆が服着てるかどうかも見えづらいんだけど…」」」
(…そんな……)
渚ちゃんからしたら、私たちは本当に蟻よりもちっちゃな、粒みたいな大きさなんだ。服を着ているかどうかすら見えず、顔なんて当然識別出来ているはずがない。あれだけ一緒に過ごしてきた私のことも、今ではたくさんある粒の一つとしか認識してくれていない。
「「「…えっと、良ければ私、みんなを温めてあげられるんだけど……どうかな…?」」」
この部屋に閉じ込められてから、渚ちゃんの優しさは何一つ変わっていない。皆を気にかけて、何かしてくれようとしている。そう、そのはず。今だって、顔も見えない小さな私たちを気遣って、何とかコミュニケーションを取ろうとしてくれているんだ。
「「「もし良ければ、…えっと、みんなで壁の方に寄ってくれないかな…?それで分かるから…」」」
声も届かないこの体格差では、私たちが部屋の中で移動することでしか渚ちゃんに思いを伝えることができない。
「………」
「ど、どうする……の……」
「でも、寒いし……」
「怖いよ……あんな……の……」
全員が顔を見合わせつつ、戸惑っていた。でも、怖いなんて。さっきも身を挺して暑さから私たちを守ってくれたのに、そんなことを言うなんてひどい。少なくとも私は、そう思った。
渚ちゃんの善意に、応えてあげたい。
「あの…渚ちゃんは絶対私たちのことを気遣ってくれてると思うから、……ね、みんな風邪ひいちゃうし、渚ちゃんに任せてみよ?」
「…まあ、そう言うなら…」
「うん、実際汗ひいちゃって寒いし…」
恐る恐る提案した私の言葉を、みんなは意外と素直に聞いてくれた。…ホッとする。どちらかというと引っ込み思案な私だけど…でも、渚ちゃんに勇気を貰えたかもしれなかった。どんな状況でも積極的にコミュニケーションを取ろうとする可愛い渚ちゃんの姿を見て、いつも私も頑張らなきゃと、思っていたことを思いだした。
みんなが立ち上がり、お互いの下着姿を見ないようにしつつ、部屋の壁際の方へ移動していく。
「「「わ、移動してくれてる…ありがとう、みんな♡……可愛い……」」」
大きすぎる渚ちゃんの声は、内容が上手く頭に入ってこない。ガンガンと天から響き渡り、一方的な音圧を浴びせられるだけ。…それでも、渚ちゃんが話している内容が、どこか今までの対等なものからズレだしているような気がした。
「「「じゃあ、温めるね?」」」
ずずっ……!!!
渚ちゃんがそう言った瞬間、天井の穴を埋め尽くしていた瞳が移動して姿を消す。その代わりに、肌色の巨大な物体の表面が天井の穴からの景色を目まぐるしく移動していく。それが渚ちゃんの顔の一部であることは、簡単に想像が出来た。ちっちゃかった渚ちゃんの顔は、今や景色そのものとなってしまうスケール感だった。
そして、
ずずずっ………
「「「…………♡」」」
「ひ………」
「きゃああっっ…!!」
その景色がピンク色の物体で埋め尽くされた瞬間、全員が反射的に悲鳴を上げて尻餅をついた。…渚ちゃんの、唇。体育館ほどの広さがある面積の天井の穴を、一人の女子校生の唇が完全に埋め尽くしていた。あの瞳の大きさから考えれば当然だったけど、いざ目の当たりにするととてつもないスケール感だった。
「いや……なに……」
「っ…………」
女の子の唇という部位に、クラスメート全員が怯えていた。普通に考えれば、渚ちゃんのただの唇。でも、人の口というのは、小さな私たちにとって恐ろしいものだった。唇が開かれて、全員の鼓膜を一息に破るような大音量を浴びせられるかもしれない。今の渚ちゃんが、自分の声の大きさが凶器になり得ることを理解しているのか、とても不安だった。
「「「………」」」
ぐわっ………にちっ………♡
「ひ………」
唾液が唇で弾ける音を響かせながら、巨大すぎる唇が開け放たれる。思わず私も小さく悲鳴を上げてしまう。柔らかそうなぷにぷにリップの向こう側に見えた巨大な口内空間に、怖気づいてしまった。親友の口の中というだけなのに、どうしてここまで本能的な恐怖が湧き上がってくるのだろうか。
「「「じゃあ……」」」ビリビリッ……
直接部屋の中に注ぎ込まれる音で、クラスメート全員の身体が振動させられる。
「「「いくよ?」」」
巨大な上唇と下唇がむにゅっ、と閉じたりにちぃ……と開いたりしながら、言葉が紡がれる。女の子の発音というのは、こんなにも生々しくてグロテスクなものだったのか。
「「「すぅ………」」」
そんな、艶めかしい唇の動きに気を取られていた私は。今から渚ちゃんが行おうとしていることが何なのか、直前まで気が付かなかった。
「「「はああぁぁぁぁぁーーー……♡♡」」」
ぶわあぁぁぁっっっ!!!!!!
ゴゴゴゴゴッッ……!!!
「っっっーーーーっっ……!!!!????」
何が起こったのかも理解できないまま、私の身体は床の上を水平に吹き飛ばされ、身体がゴロゴロと縦横無尽にのたうち回っていた。視界が360度回転し続け、自分が今どこにいるのかが全く分からない時間が数秒くらい続く。痛みが遅れて襲ってきて、何度も身体に打ち付けられる固い床の感触に顔をゆがめて悲鳴を上げる。
そして、
バシャアッッッ……!!!
「ぎゃあんんっっ!!??」
そのまま私の身体は、液体のようなものにぶつかって一瞬でびしょ濡れになった。この部屋に水なんて無かったはずなのに、髪も含めて全身が濡れてベトベトになって…。
ベトベトした感触。数秒後に鼻に香ってくる、強烈な唾液の匂い。
「………う……」
びしょびしょになった身体のまま、液体のような物体から這って逃げる。慌てて振り返れば、そこには直径2、3メートルはありそうな、見たことも無い大きさの水滴が出現していた。それがただの水の塊でないことはすぐに気づいた。
むわぁぁぁっっ……
「うっ、……げほっげほっ!!!」
少し空気を肺に入れようと吸い込んだ瞬間、辺りの空気の熱さとあまりに高い湿度にむせて咳き込んでしまった。軽く吸い込んだだけで、空気中の水蒸気が液体となって、自分の喉に貼りついて気道を塞ぐ。粘性の高い液体がどろりと喉に付着し、それを必死で飲み込むまでは呼吸する許されない。
そこらじゅうの空気に、渚ちゃんの唾液の成分が蔓延していた。
「な……んで……」
全身の痛みで立ち上がれず横たわったまま、私は上空にそびえ立ったままの唇に向かって呟く。…渚ちゃんが、口を開けて、吐息を思い切り部屋の中に送り込んだのだ。「あ」の口から放たれた吐息は渚ちゃんの口内の水分を大量に含んだまま送り出され、逃げ場のない部屋の中にたっぷりと充満した。そもそも絶望的な体格差で軽く吐息を吐きかけられるだけで、1ミリにも満たない私たちの身体はゴマ粒のように吹き飛ばされて転がってしまう。そんなこと、渚ちゃんは分かっていたはずなのに。
そして、吐きかけた吐息の成分が凝固してできた、涎の水滴。渚ちゃんからすれば細かい粒でしかないそれも、私の身体をゆうに超える巨大な存在なのだ。実質、自分のよだれをクラスメート全員に吐きかけることになるなんて、絶対に分かっていたはず。確かにみんなを温めようとしたのかもしれないけど、とか、そんなことして恥ずかしくないの、とか、その前に…。
渚ちゃんは、こんなことをする子では、絶対になかった。
「「「ふふ……どう、ちょっとはあったかくなったかな?」」」
巨大な唇の端が上がっている様子が見える。その愉しそうな唇の動き、高揚した声の調子は、決して「みんなに奉仕出来て嬉しい」という感情には見えなかった。渚ちゃんは、この状況を心から楽しんでいる。対等な関係性のクラスメートを助けていることが、ではなくて。
もっと別の、恐ろしい感情。
「げほ、げほっ……!!」
「痛いよっ……うぅっ……」
「「「ん……まだあったかくなってないのかな?」」」
一方的な、女神様の言葉。
「「「…じゃあ、もっかいやってあげるね?♡」」」
「や、やめてっ…!!これ、危ないからっ…!!」
「やめろっ…!!」
「何してんだよっ…!!」
身体中を一瞬で痛めつけられた皆が、必死に上空の唇に向かって叫ぶ。唾液と熱気で床をゴロゴロ転げ回され、プライドが傷付いている男子もいた。怒気をはらんだ叫び声が、しかし上空の唇の柔らかそうな表面に当たって吸収されていく。
…こんな叫び声が、渚ちゃんの耳にまで届くわけがない。
「「「せーの……」」」
クラス全員の叫びをかき消して、可愛らしい掛け声と共に、恐ろしい唇がむんわぁ♡♡と開け放たれた。
「「「んはああぁぁぁぁぁーーー……♡♡」」」
ぶわあぁぁぁっっっ!!!!!!
ゴゴゴゴゴッッ……!!!
「いやあぁぁぁぁぁっっっっ!!!???」
一回目の吐息よりもさらに強い突風が吹き荒れ、私の身体は気付けば宙に浮いていた。下から巻き上がった渚ちゃんの凶悪な吐息がゴマ粒たちを床から引き剥がし、空中に舞わせる。数秒後、4、5メートルの高さから固い床に打ちのめされ、
「ぐげえぇぇっっ…!!」
ゴロゴロッ……!!ばしゃんっ…!!
壮絶なうめき声を上げながら、叩きつけられる人。運が良いのか悪いのか、渚ちゃんのよだれの水滴に直接頭から突っ込んで、床の衝撃からは逃れられた人。よだれに全身浸かってしまい上手く脱出できず、溺れそうになりながら全身をじたばたさせている人。
「うぐっ……げ、げほぉぉっ…!!??」
私はよだれのプールに突っ込んだ瞬間、親友の唾液を思い切り飲み込んでしまった。コップ一杯じゃ効かない壮絶な量の渚ちゃんのよだれが胃に流れ込み、食道にへばりつき、私は空気を求めて数十秒の間えずき続けた。
何か大切な関係性が壊れてしまったのを感じた。一線を越えてしまった感覚があった。渚ちゃんという存在が、クラスメートに対して。もはやどんな感情を持って私たちに接しているのか分からない渚ちゃんが、決定的な行為をしてしまったように感じた。
「助けてぇぇっ!!溺れるっ……!!」
「う……ぐ………」
渚ちゃんの吐息は、クラスメートのみんなの命を奪うことにもなりかねないほど危険だった。いや、まだ全員が無事かも分からない。床に叩きつけられたままぐったり動けなくなった子もいれば、よだれの水滴で溺れそうになりながら、他の人に助けてもらっている子もいる。一歩間違えれば、取り返しのつかないことになっていた。
もしこれが、渚ちゃんが想像していた光景なのだとしたら。
次に渚ちゃんが何をやろうとしているのか、恐ろしくてたまらなかった。
「「「んふふっ……♡♡」」」
妖艶に歪む唇の持ち主が、渚ちゃんだなんて信じられない。
「「「んー、そろそろ私のおっきな姿を見てもらおうかな」」」
そう告げた唇は、にわかに天井の穴から去っていく。渚ちゃんとの唯一のコミュニケーションの接点だった穴から何も見えなくなり、ホッとすると同時にさらなる不安が押し寄せる。
「「「じゃあみんな、壁の方見ててね?」」」
部屋の外の方から依然響いてくる渚ちゃんの声。
「「「せーの……」」」
「「「はいっ♪」」」
その瞬間。
「え…………」
ただの白い壁、白い床だったものが、
一瞬で透明な壁と床に変わったのだった。
「きゃああああっっっ!!!???」
「うわああっっっ!!??」
そして、その透明になった壁を通して見えたものは。
「「「えへへ、こんにちはー♡」」」
自由の女神よりも遥かに大きな、目も眩むほど巨大な、渚ちゃんの大きな大きな顔の全体像が、外の世界に映し出されていたのだった。
「こんな………」
「で……でかすぎだろ……」
みんなの声が震えだす。私も自分の身体がぷるぷると震え出しているのが分かった。…さっきまでは、巨大すぎる瞳や唇しか見えていなかった。どれだけの体格差があるのか、頭では想像して理解していたはずなのに。
目の当たりにした渚ちゃんの顔は、もう脳の処理が追い付かない程に大きかった。唇の厚みだけで、2階建ての家くらいはあるだろうか。鼻の大きさは、ちょっとしたマンションくらいあるんじゃないか。耳の端から垂れる髪の毛一本一本が、それだけで私たちの胴体くらいの太さがあるように見えた。
同じ人間どころか、同じ世界に住む生物としてもあり得ない体格差。距離感すらつかめない渚ちゃん巨大な姿が、誇張なしに、女神様のように思えた。そうでも思わないと、こんな巨大な存在に直接話しかけられるなんて、それだけで恐怖でショック死してしまうほどで。
「「「おー…、みんな一応無事みたいだね」」」
「ひぃぃっっ……!!」
壁の横から、でっかい瞳が無遠慮に近づけられる。天井から見られていたときよりも遥かに近い距離感で、女神様の視線に晒される。
「「「じゃあ……」」」
やっぱり、渚ちゃんの唇がにんまりと歪められて。
「「「そろそろ、外に出てきてもらおうかな?」」」
---続く---