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もしも、地球が超巨大宇宙人のトイレになったら……

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1.巨大OL編

 ミカサ・ヴォルテは超光速シャトルの中で、冷や汗を浮かべながら座席の背もたれに体を預けていた。


 ここ三日間、忙しすぎる出張スケジュールのせいでろくに休息も取れず、まともなお通じが一度も来ていないのだ。

 最初は軽い便秘だと思っていたが、日に日に腹が張り、腸内に重く硬い塊が溜まっていく感覚が強くなってきており、今朝からはガスが頻繁に腸内を移動し、鈍い痛みが波のように襲ってきていた。

 そしてようやく、長い会議を終えてからの帰路の途中で、ついに限界が訪れてしまい、激しい腹痛へと変わった。


「うう……なんでこんな時に、もう……」


 彼女は片手で巨大な下腹部を押さえ、眉を深く寄せて耐え忍んだ。

 腸の奥が重く圧迫され、溜まりに溜まった硬い便が出口を求めてくるように感じられる。

 我慢しているだけで冷や汗が止まらず、時折下腹部が不規則に痙攣した。


「この船、トイレもないし、このままじゃ……本当にまずい……」


 ミカサはすぐに航行ログを確認した。

 現在位置から最も近い惑星は青い水の惑星——地球。

 他に選択肢はない。

 彼女は自動操縦に緊急着陸プログラムを入力し、シートベルトを締め直した。


 シャトルが大気圏に突入する。

 機体が激しく震え、窓の外が炎に包まれる中、ミカサは両手で腹を抱えながら歯を食いしばっていた。

 三日間溜め込んだ便が腸内で圧力を増し、気を緩めた途端に、決壊してしまいそうなくらいにまで、達しようとしていた。


 シャトルが海面上に着水した途端、ミカサは急いでシートベルトを外し、飛び上がるよう立ち上り、もつれる足取りでハッチに向かった。


「もう……本当に限界……」


 ハッチを開けると、さわやかな空気が船内に流れ込む。

 地球という星は、想像以上に美しかった。

 澄んだ青い空に、白い雲がゆっくりと流れ、眼下の穏やかな海はどこまでも広がっている。

 しかしミカサにはその景色を楽しむ余裕などなく、ただ一刻も早く用を足すことだけしか考えられなかった。


「早く……トイレ……!」


 彼女はハッチを半ば閉じかけたまま、タラップを降りて海上に降りると、履いているパンプスの下で、ぱしゃっと、足元で小さな飛沫が上がり、真昼の太陽に照らされて輝く水面が少し揺れた。


 思っていた以上に地球の海面は低かったようだ。

 高めのハイヒールという事もあって、彼女の真っ赤な靴はまったく濡れることなく、靴裏を僅かに浸す程度で済んでいる。


 しかし彼女の意識はそんなことには向かず、ただ一点、前方の岸へと向けられていた。

 起伏の少ない、緑色の陸地へと続くその場所へ。


「……間に合って……」


 必死に足を前に運びながら、彼女はわずかに安堵していた。

 陸地は予想していたよりも遠くないし、人の気配もない。

 この星の海水は塩分濃度が高く、長く浸かっているとお気に入りのパンプスの革が痛んでしまうかもしれないので、用を足すなら人気のない陸地の方がいい。

 そう考えながら、彼女はシャトルを置き去りにして陸地を目指し歩き始めた。


「早く……早く……!」


 タイトなスーツの上からでもわかる大きな胸を上下に揺らしながら、彼女は足早に進んでいく。

 シャトルから数十メートル離れた場所まで来ると、陸地はあと一歩のところまで来ていた。


 だが、ここで大きな問題が見つかった。


 ミカサは足を止め、地上に視線を落とすと、そこには地面に灰色の模様のような地表が広がり、まるで人工的な整地が施されている。

 信じられない程に小さいものの、それは間違いなく知的生命が作り上げた街であった。


「これって、もしかして、この星の街なの……?」


 人影が無いように思えたのは、この星の人間の大きさがミカサの10万分の1、体長が0.017ミリしかない微生物サイズだったからだ。

 地球人が小さければ、彼らが住む街も当然小さい。

 目を凝らさないと視認できない無数の建築物がみっしりと敷き詰められている様子は、ミカサから見ると単なる灰色の斑点にしか見えない。

 それは足の踏み場もない、というよりか指一本ですら置くところが見当たらないほどに密集している。

 もし、こんな場所を歩けば、何千もの家屋や建物を容易く破壊してしまうだろう。


「どうすれば……こんな所じゃ……」


 ミカサの焦りが頂点に達する。

 だがそれ以上に、限界の壁がすぐそこに迫っていた。

 腹痛はますます激しくなり、硬い便が出口を押し広げようと蠕動していた。

 すでに腹痛で表情は険しく、額には脂汗が滲んでいる。

 しかし、周りを見回しても用を足せるような場所はない。

 海上で済ませる事も出来たが、やはり先述の理由で靴を傷めてしまうのは避けたい。


「うう……もう、ダメ……!」


 彼女は覚悟を決めて、地球人の街に向かって、切実に懇願するように呟いた。


「すみません……本当に申し訳ありません……。

 ……もう我慢できないんです……。

 ここで……トイレを使わせてください。」


 彼女の声は地球人にきちんと伝わるだろうか?一応は言語変換器で地球の言葉に直しているが、それでも10万分の1サイズの生命体にとって、自分の声は轟音のようにしか聞こえないのではないか?

 それでも彼女は最後の理性を振り絞り、地球人の存在を認めつつ、許可を得ようとする態度を見せた。

 だが返事がないと分かると、彼女の瞳には諦めの色が浮かぶ。


「ごめんなさい、本当にごめんなさい……もう、無理なんです……!!

 今から……10分後に上陸して、トイレを借りさせてもらいます……。

 私の進行方向にいる人たち、私の足元にいる人たちは避難してください……!」


 ミカサが地球の街に足を踏み入れれば、恐らく少なくない人数の住民が巻き込まれてしまうであろうことは想像に難くない。

 そこで彼女がとった方法は、10分後に歩き出すと予告し、自分の足が置かれることになる空間から退避する時間を与えるというもの。

 少しでも犠牲者を減らしたいという彼女の慈悲が込められた警告である。


 しかし、10万倍の巨体を誇るミカサの足元の範囲はあまりにも広く、例え数秒という短い時間であっても、そのスペースから逃れるのは至難の業だった。

 何せ、足の大きさは長径が23km以上もあるものであり、周辺の広範囲を巻き込んでしまう。

 さらに彼女の歩幅は60km近くもある。これほどの速度で巨大な物体が移動すれば、地面に直接触れる部分だけでなく、それ以外の場所もその運動によって発生する振動や風によって影響を受けてしまう。

 彼女の周囲数百キロメートルに及ぶ広範囲の土地にまで甚大な被害が及ぶのは確実である。

 つまりミカサが一歩進めば、地上のどこにいても逃れることはできず、確実にその影響を受けるということなのだ。


 結局、10万倍の巨人からの警告を受けたとしても、実際に安全な距離まで逃れることは現実的ではないと言わざるを得ない。

 例え逃げようと足掻いたとしても、その努力が実を結ぶ確率は非常に低いのだ。


 そうとは知らず、ミカサは腕時計を見て心の中でカウントダウンを始めた。

 彼女の意識は、地上の人間たちにではなく、自分自身の肉体的な苦痛にのみ向けられていた。


***


 東京湾岸にいた人々は、信じ難い超絶巨大な存在を目撃することになった。

 空を覆いつくすような宇宙船が突然空から降りて来たかと思えば、その船から島が起き上がったかのような巨大な女性が登場したのである。

 金髪の髪をひっ詰めたOL風の女性の体高は約158kmに達し、その姿は雲を突き抜け成層圏をも超えるほどの威容を放っていた。

 東京スカイツリー(約634メートル)や東京タワー(約333メートル)といった日本のランドマーク的存在も、彼女の前では6ミリ、3ミリほどにしか見えないであろう。


 最初に彼女が宇宙船から降り立ったとき、彼女の膨大な存在が嫌というほどに確認できた。

 海面から顔を出している巨大な真紅の物体は、地球上で知られている最大の動物すらも凌駕する威容を持つが、それがハイヒールだと視認出来るようになるには、航空機レベルでの視点が必要になる。

 海面に顕現した巨大な足は、地球上のあらゆる生物や地形を超越した圧倒的な規模を持つことを示す存在だった。


 もし、衛星からの映像を観ることができるのなら、ハイヒールの主の肉眼的で女性らしい曲線美と驚異的なボリューム感の体つきを確認することができたであろう。


 彼女は灰色のレディーススーツを纏っており、服はぴったりと肌に張り付き、胸元や臀部の輪郭を際立たせている。

 特にそのバストは、スーツ生地を大きく張り詰めさせる程だ。

 その膨らみは小高い山のごとく、いや、富士山をも超える規模で彼女の胸部にそびえている。

 バストサイズは推定90km以上(Jカップ相当)であり、地球の標高3,776mを優に超えるそのサイズ感は圧倒的だ。

 彼女が僅かに動くだけで、その胸元のスーツがきつく引き伸ばされ、まるで布地が悲鳴を上げている様である。


 胸の下には細く括れたウェストがあり、その腰回りもまた桁違いに豊かだった。

 太腿の周囲は直径40kmを超え、地球の小規模な街なら容易に呑み込んでしまうほどの存在感を放つ。

 パンプスから覗く足首も、東京ドームなど比較にならないほど太く、黒いストッキングは微かに透けており、艶めかしい光沢を帯びていた。


 彼女が太平洋の洋上に足を下ろす、その動作一つひとつが信じられないほどのスケール感で行われた。

 パンプスが水面に触れた瞬間、波紋が広がり、海水が押し潰されて飛沫を上げる。

 そして驚くことに、履いている真っ赤なハイヒールのパンプスが海面から顔を出しているのだ。

 恐ろしいことに太平洋の水深1~2千メートルの深さでは彼女の靴裏を濡らす程度でしかない。


 そして、その超絶的なサイズの女性は徐々に東京へと近づいてきた。

 彼女が脚を上げると、太陽が遮られて地上全体が一瞬闇に包まれてしまう。

 数秒後には足が再度海面に叩きつけられ、海面が激しく泡立ち、巨大な津波が押し寄せてくる。

 10メートルを超える超特大の波はビル群を飲み込み、港湾設備を粉砕しながら都心の湾岸のオフィス街に雪崩れ込む。

 超高層ビルが梢のように揺れ、地上では津波となった濁流がコンクリートを削り取り、電車やバスが揉みくちゃになって瓦礫と共に押し流された。

 巨大なパンプスが一歩進むごとに、それまで人類が築き上げてきた文明の象徴とも言うべき建物たちが、瞬く間に塵芥に変わっていく。

 彼女の歩行によって引き起こされる被害は想像を絶するものであった。


 しかし、そのような惨状も、巨人からすれば全く知覚できない事象である。

 彼女にとって東京の街並みは、砂粒の集まり程度の認識でしかないからだ。

 歩くたびに幾万もの命が奪われていることを知らず、彼女はただ目的地に向けて淡々と前進する。


 そして何百キロも彼方にいたはずの大巨人は、わずか数歩で東京湾に到達した。

 その巨大な体躯が東京湾の全周に迫るまでに接近したことで、関東平野全体が彼女の巨体で生み出した影に覆われる。


 その途方もなく巨大な存在を目の当たりにした瞬間、地上の人々は何が起ころうとしているのか理解しようとした。


 彼女の目的は何なのだろうか? この圧倒的な存在は何を求めているのか?

 成層圏を突破してしまう彼女の体長では、その表情を窺い知ることは困難だ。


 そんな謎が解けるよりも先に、再び大地を揺るがす激震が地上を襲う。


「すみません……本当に申し訳ありません……」


 その言葉は、空気を震わせて大地に響いた。

 巨人が喋れば、それだけで地球の大気を共鳴させるほど大きい。

 街中に轟き渡る巨人の言葉は地上の人間にも理解できる言葉であった。

 その言葉遣いは丁寧なものであり、謝罪の意が感じられる。

 それは確かに「許してくれ」というニュアンスを含んでいた。

 この異常事態の中、彼女の真意を聞くべく、誰もが次の言葉を待っていた。


「……もう我慢できないんです……。

 ここで……トイレを使わせてください」


 巨人の言葉を聞いて、人々は混乱しながらもその意味を捉えようとした。

 巨人が口にした「トイレ」という言葉。

 それは普通なら日常生活でよく耳にする単語だが、このような巨大な存在にとってそれが、我々と同じものを指しているのか……。

 普通、トイレというのは用を足すための場所である。つまり、排泄行為を行うために使用するものだ。

 それを求めるという事は……まさか、ここで用を足すつもりなのか!?あの巨大な身体で!?


 その時、人々の脳裏に恐怖が走った。

 あの途方もない巨体から、一体どれほどの量が出ると言うのだろうか。

 それを考えただけで、悪寒が全身を駆け巡った。

 排泄という概念がここまで恐ろしい形態を持ち得るとは誰一人として想像もしなかっただろう。

 その瞬間、都市機能含め、誰もが凍り付いて一歩も動くことができなかった。


 次なる彼女の言葉により、更なる衝撃が訪れる。

 その言葉は、「許してくれる」という希望とは反対に、自らの生理的な欲求への切望を示していたからだ。


「もう我慢できません……!」


 その叫びとともに、再び轟音が響いた。その声色には焦燥感が滲んでいるように感じられ、人々の不安は最高潮に達していく。


「今から……10分後に上陸します……。

 私の進行方向にいる人たち、私の足元にいる人たちは避難してください……!」


 その発言を聞いた東京の人々は、一斉にパニックになった。

 巨人の放った「10分後に上陸する」という警告は、地球人にとって神による無慈悲な死刑宣告に等しかった。

 路地裏の蟻に向かって「踏むから逃げろ」と告げるような、あまりにも残酷な慈悲である。


 いやそれよりも酷かもしれない。

 彼女は、ここで用を足すつもりなのだと言うではないか。

 その圧倒的な大きさを考えれば、排泄行為だけでどれほどの人命が潰されてしまうのかは明白だった。


 首都圏の住民は慌てふためき、避難準備を開始した。

 各交通網はパニック状態となり、人々は東京から離れようと殺到していた。

 駅や道路では混雑が起こり始め、車は渋滞を作りながらも、なんとか移動しようと試みる。

 しかし、その試みも虚しい抵抗でしかない。

 10万倍もの体格差があれば、どんなに避難しようとも、その行動範囲や移動スピードなど誤差の範疇にすぎない。

 例え新幹線に乗れたとしても、あの巨人にとっては一歩で軽々と追い越されてしまう。

 結局、地上の人間たちには為す術がない。

 ただ呆然と見上げるか、無駄な足掻きの逃走をするしかなかった。


 未曽有の混乱に陥っている地上を他所に、巨人は無情にもただ時計だけを見ていた。


***


(うう……まだ、10分経ってないの……)


 ミカサは唇を噛み締めながら、時計を何度も確認した。一分一秒が永遠のように感じられる。

 地球人の避難猶予時間を10分も与えたのは失敗だったかもしれない……。

 すでに、我慢の限界を超えていた。


 彼女の巨大な腹の中には、三日間分の硬い便がぎっちりと詰まっている。

 それは腸内で膨れ上がり、今にも決壊しそうなほどの圧力をかけていた。肛門周辺は熱を持ち、筋肉がピクピクと痙攣しているのがわかる。

 便意は常に最高潮で、わずかな緩みを見せれば全てが溢れ出してしまいそうだった。


「もう少しだけ……耐えて……」


 残り3分……ミカサは腹を擦りながら自分に言い聞かせた。

 しかし、彼女の括約筋が緩みかけるたびに、硬い便の先端が僅かに開き、肛門から漏れ出す寸前になっている。

 彼女は膝を軽く曲げて前かがみになり、両手で尻を押さえた。


 ぐぎゅうぅぅー……ぎゅるるる……!


 腹が低く唸り、腸内でガスが動き回るのがわかる。

 ミカサの額に脂汗が滲み、呼吸が荒くなる。

 彼女は必死に耐えたが、限界は刻一刻と迫っていた。


「やば……出ちゃう……!」


 彼女は唇を噛み締め、歯を食いしばった。

 額からは冷や汗が流れ落ち、スーツの襟元や脇に染みを作る。


「ううっ……!まだだめっ……!お願いだからぁ……」


 ミカサの声には絶望的な哀願が混じる。

 地球の重力が彼女の腹にさらに負荷をかけて、生理現象としての自然の摂理が、彼女の意思を打ち砕こうとしている。


(こんなところで……恥ずかしいのに……)


 羞恥心と焦燥感が交錯する中、彼女は最後の意志力を振り絞る。

 このままでは本当に危険だ。羞恥心よりも生存本能が勝利宣言を出し、遂に決断する。

 ぎゅるるる……!グゥゥー……ッ!!


「もう、無理……。皆さん、ごめんなさい……。まだ、あと2分残ってますけど、もう我慢できません……。いまから、上陸します……!」


 ミカサは絞り出すように告げると、ついに足を上げ前へ踏み出した。


 その動作はゆっくりだが、それでも凄まじいエネルギーを持って世界を震わせる。

 彼女の靴先が海水を掻き分け上昇すると、その巨大な質量が退いた事により、海水は凄まじい勢いで靴底があった場所へと流れ込む。

 同時に、海面には巨大な渦を作りながら大きな水柱が立ち上り、波濤となって東京湾全体を掻き回した。

 それだけの質量を誇る赤いヒールが空中に浮かぶと、それだけで十分に、彼女がどれほど巨大なのかを思い知らさせてくれる。


 そしてそのまま、彼女は東京の街に足を下ろした。


 ズドォォォオオオンッ!!!


 その体重が大地に載せられた瞬間、凄まじい轟音が響き渡り、とてつもない揺れが関東全体を襲う。 

 だが、そんな地震も今のミカサにとっては些末な出来事でしかなかった。


 重要なのは、トイレを済ませること。


 彼女の靴底が触れた場所——かつて東京の繁華街だった場所——は、一瞬にして消し飛んでいた。

 数え切れないほどのビルや家屋が、赤い靴底の下で押しつぶされ、何十万人もの人々が気づく間もなく肉塊と化す。


 靴の接地と同時に発生した衝撃波は半径数十キロメートルに達し、踏み潰された直下の区域だけでなく、周辺の地域にも壊滅的な被害をもたらした。


 しかし、そのような地上の惨状はミカサには感知できない。

 彼女の意識の9割は下腹部の激痛に支配され、残りの1割は踏み出した足の感触が僅かに認知した程度。

 靴の裏が地面を捉えた瞬間、微かに地面が沈みゆく感覚と共に、何か無数のものが砕けるような奇妙な感触が足裏から伝わってきた。ただ、それだけのこと。


「地球の皆さん、ごめんなさい……本当に……もう限界なんです……。許してくださいね……」


 ミカサは小さく呟いた。

 その声には申し訳なさはあるものの、深い反省や罪悪感の類は含まれていなかった。

 まるで道端で蟻を踏んでしまった時のような、無責任で軽い謝罪。

 靴底に張り付いた無数の「何か」が地球人の街であり、人々であることを理解していても、その認識はあまりに希薄だった。

 10万分の1のサイズの人間たち。彼らの命の重さも、彼女にとっては塵芥と同じ程度にしか映らない。


(今はそれどころじゃないし……)


 彼女はすぐに思考を切り替えた。

 謝罪したからそれでいいだろうという自己完結。

 靴の裏で何かが潰されようと、今の彼女にとってはトイレを済ませること以上に優先すべき事項など存在しない。それに比べれば、地球人のことなどどうでもいいことなのだ。


 ミカサは一歩目を踏み出した状態から、さらに二歩目を前へと運んだ。

 またしても轟音と振動が世界を揺らす。

 またしても別の地域が消滅し、無数の命が奪われていく。

 しかし彼女は気に留めることなく、ただ目的地である「人気のない場所」を探して歩き続けた。


(どこか良い場所は……?)


 ミカサはゆっくりと歩を進めながら、あたりをキョロキョロと見回し、少しでも良さそうな場所を探す。

 彼女の目の前には、何億個もの建造物が密集する関東平野の街並みが広がっている。

 そのすべてが彼女にとっては砂粒ほどの大きさであり、どれも見分けがつかない。

 それが、この狭い平野部全体を覆いつくすほどに密集しているものだから、とてもじゃないけれど適した場所なんて探しようがなかった。


「もぅ……これじゃ、どこですればいいの!?」


 ミカサは苛立ちを露わにして叫んだ。

 彼女にとっての”トイレ”とは、周囲の人間に迷惑がかからない、ある程度開けた場所のことだった。


 しかし、足の踏み場もないこの過密すぎる関東平野の中では、用を足す場所すらないように見える。

 どこを見ても人工物ばかりだ。

 彼女は心の中で舌打ちしながら、少しでもマシな場所を探すが、それも叶わない。


 その間にも便意の波が押し寄せ、ミカサの顔はさらに蒼白になっていく。

 すでに彼女の意識は排泄行為が最優先事項に向けられており、その欲望に抗う術はない。

 この星の生命体がどれだけ存在しようとも、それを考慮する余裕すらない。


(これじゃ無理……地球の人たちには悪いけど……)


 彼女は内心で決断した。

 既に彼女の身体は限界を超えており、今すぐ解放しなければならないと本能が訴えかけてくる。

 彼女は周囲の地形を見渡しながら、可能な限り広いスペースを探った。

 唯一、東京湾から少し内陸に広がる緑地帯が目に入る。

 しかし、そこですら彼女の身体サイズからすれば極小の範囲だ。


(もう……ここでやるしかない!)


 彼女は覚悟を決めた。

 ここがどこであろうと、排泄する場所は決まった。

 この巨大東京の街並みすらどうでもよくなるような緊迫感こそが、彼女が排泄すべき場所だと直感したのだ。


「本当にごめんなさい!でも、もう我慢できないの!」


 ミカサは両手で大きくスカートの裾を掴むと、一気に捲り上げた。

 薄手の素材のスカートが、彼女の巨大な指先によって上がり、太腿が露わになる。

 そこには漆黒のストッキングと、同じく黒色のTバックショーツが露出していた。

 その下着は彼女の巨大な臀部の谷間にぴったりとフィットしており、丸みを帯びた柔らかな曲線を描いているストッキング越しに見える肌色の太腿と腰周りは、そのサイズ感もあり圧倒的な迫力を持っていた。


 ミカサはそのままストッキングとショーツを一緒に膝上まで下げ、しゃがんだ。

 ぶるんと二つの巨大な尻肉が弾けるように露わになる。

 その豊満さは比類なく、左右の割れ目から覗くピンク色の肛門は、直径3kmもの巨大さを誇る。

 まさに都市クラスの規模感を持つアナルである。

 それが呼吸するようにヒクつき、今にも爆発しそうな勢いで息づいていた。

 

「うう、早くしないと……」


 彼女は羞恥心を感じる暇もなく、肛門を晒したまましゃがみ、山手線を覆いつくす巨大な尻肉を揺らしながら、最後の覚悟を固めた。


「地球の皆さん、本当にごめんなさい……!」


 ミカサは謝罪の言葉を叫びながら、両手を膝に乗せた状態で、巨大な臀部を後ろに突き出し、排便の準備態勢に入った。

 しゃがんだ状態でも、スカイツリーよりもずっと高い位置にある巨大なミカサの尻は東京の人々を完全に圧倒している。


 一応、肛門の真下は、このゴミゴミと密集した街の中でも比較的に緑が多く、被害が一番少ないであろうと考えたエリアに合わせるよう注意を払ったつもりだった。

 そこは新宿御苑と呼ばれる大きな公園だった。だが、そんな広大な公園も、ミカサのアナルと同じくらいか、少し狭いくらいにしか見えない。

 更に不幸なことに新宿御苑には巨大な彼女から逃れようと、たくさんの避難民が逃げて来ていた。

 しかし彼女の姿を見て、彼らは絶望する。

 自分たちが目指してきたこの場所こそが、大巨人の排泄する糞尿を受ける便器となるのだ。

 あの巨大な肛門から出てくるモノは、この公園どころか、東京の街全体を覆いつくす規模になるに違いない。


 そうなったら自分たちは……。


 その事実を理解した人々の絶叫が街に響き渡った。

「逃げろ!」という声があちらこちらから上がり、混乱の中で逃亡を試みる。


 だが、もう遅かった。


「ふうっ……んっ!」


 彼女は息を詰めて、直腸に力を入れると、肛門の括約筋が緩み、彼女の巨大な肛門が大きく開いた。

 その瞬間、圧縮されていたガスが爆発的に放出された。


 ぶっ、ぶりっ……!ぶぼぉぉーっ!!


 凄まじい爆音と共に、彼女の尻穴から巨大なガスが噴き出した。

 新宿御苑を中心とした地域では、その大爆風により街路樹の葉はすべて引きちぎられ、建物の窓ガラスは次々と砕け散った。

 爆心地の中心にあった建物は倒壊し、車が木の葉の様に舞い上がる。

 公園内にいた数千人の避難民たちはその強烈な衝撃波で木々ごと吹き飛ばされた。

 その爆音と暴風は、遠く離れた横浜市や千葉県の一部にも届いた程だった。


「はぁ……っ!ふんっ……!」


 さらに踏ん張り、さらに力を込めると括約筋が完全に弛緩し、彼女の肛門から巨大な塊が顔を覗かせた。

 それは大質量を持つ固形物であり、彼女の腸内で三日間熟成された巨大な便だ。


「んんっ……!ううぅん……!!」


 彼女が全身に力を込めた瞬間、巨大な塊が、ゆっくりとアナルを内側から押し広げ、肛門から、ずるずると巨大な排泄物が放り出される。

 その直径は約5km、長さは数十㎞にも及び、重さはおよそ約1億トンにもなる超巨大なウンコだった。

 ミカサが三日間溜め込んだ巨大な糞便の塊がその全容を露わにし、真下の街並みへ落下しようと放り出されていく。


 ぶボッ!ぶぼぼ……!!


 大空に下品な音を轟かせながら、その姿を現していく巨大な排泄物は、遥か上空から褐色の巨大な柱となって、ミカサの肛門から、ぶりっと、切離された。

 その瞬間、圧倒的な質量を持つ塊は、周囲の雲を蹴散らしながら急速に落下し、音速を超えた速度で新宿御苑だった跡地へと迫った。


 ずどんんんーーーんんんっ……!!


 巨大ウンコの先端が大地に着いた瞬間、衝撃が伝わると同時に、新宿御苑は完全に消滅した。

 巨大な糞便は地盤を粉砕しながら地中深くまで抉ると、周囲数キロメートルにわたる地域が一瞬で消滅した。

 衝撃波は同心円状に広がり、新宿駅を中心とした超高層ビル群を根こそぎ薙ぎ払い、瓦礫の山へと変えて、追い打ちを掛けるかの如く、瓦礫の砂漠に想像を絶する糞便の山が横たわり、高層ビル群を覆い尽くしてしまった。


 しかし、まだミカサの排泄行為の始まりに過ぎない。

 彼女の身体は未だに硬い塊を全て排出できておらず、次なる段階へと進もうとしているのだ。


「ふぅー……っ、まだ……でる」


 ミカサは再び力を込めて、残りの便を押し出そうとした。

 一度目の放出でかなり楽になったものの、まだ腸内には多くの便が残されている。

 彼女はさらに肛門に集中し、全力で押し出そうとした。


「ふん゛ッッッ……!!!」


 ぶりっぶりっと音を立て、さらに二本目の巨大な塊が彼女の肛門から顔を出した。

 それは先ほどのものと同じように、巨大な塊として形成されていた。

 だがその形状は、先程より少しだけ柔らかいものに変わりつつあり、少し水分を多く含んでいるようだった。

 それでもやはり圧倒的なサイズであり、その表面は濃厚な黄土色で光沢を持ち、強い臭気を放っている。

 大気中の成分をかき乱しながら落下するその物体は、見るものを恐怖させるほどの存在感を放っていた。


 巨大な糞便は、再び新宿御苑と呼ばれた地へと高速で落下する。


 どおおおおおんんっっ!!


 地上に着弾した瞬間、轟音と共に激しい衝撃波が発生し、さらに広範囲の存在を吹き飛ばす。

 建物という建物が次々と破壊され、排泄物に埋め尽くされて、人々の日常が一瞬にして消え去る、まさに地獄の光景そのものだった。


「ゔっん ゙ん ゙~~~♡」


 ミカサは甘い吐息を漏らしながら、思い切り息み続けた。

 腸内に溜まっていた大便がさらに押し出され、肛門から次々と排出される。

 そのたびに先に落とされた大便の上に折り重なるようにして着弾し、巨大な茶褐色の山がみるみる積み上がっていく。


 その高さはすでに数千メートルを超え、その頂は雲を突き抜ける高さにあった。


「ふぅ……、ふんっ!んんん~~~!!」


 ミカサは未だに強く踏ん張っている。

 巨大ウンコの堆積が東京都の中心部を覆いつくす頃になると、首都圏の都市機能は完全に麻痺した。

 通信インフラや交通網が壊滅的な打撃を受け、行政機能は機能不全に陥る。

 避難を呼びかけるサイレンも警報も排泄音でかき消される中、1人の異星人の息む声だけが大都市に響き渡る。


「あ゛っん゛っっ♡……ううっ、いっぱい出るっ……」


 彼女の尻穴からは断続的に巨大な塊が排出されていた。

 それはまさに大規模自然災害そのものだった。

 ミカサの尻から出て来た巨大なウンチは、第3波、第4波と続いて、そのたびに東京の街を埋め尽くしていった。


 そして最後に、彼女は一際大きな塊を肛門から押し出した。

 それが地面に落ちると同時に周囲一帯を揺るがすほどの衝撃を与えた。


ドゴォォォォーンン……!!!


 大地震のような地鳴りと共に、その巨大な物体が地面に叩きつけられた。

 衝撃で大地が砕け散り、多摩山地や筑波山と言った関東の山肌は、その衝撃で地滑りが所々に発生し、痛々しい山肌にかわり果てた。

 それほどの衝撃だったのだ。


「んっ……いっぱい出たぁ……♡」


 ミカサは満足げな表情を浮かべ、ゆっくりと息を吐いた。

 彼女の真下には、新宿を中心に広がる巨大な大便がとぐろを巻いて、東京の中心部を完全に埋め尽くしていた。


 高さ30km、長さ80kmにも及ぶそれは、まるで褐色の泥が積み上がった新たな山脈のようだった。

 しかもそれだけではない。その山からは湯気とともに強烈な臭気が立ち上っていて、東京の空一面を覆いつくさんばかりだった。

 東京の中心部は、文字通りミカサの巨大な便によって埋め尽くされてしまったのである。


 一方、ミカサは長い便秘による苦痛から解放され清々しさを感じていた。長い間溜め込んだ巨大な糞便を排出できた開放感は爽快で堪らなかった。

 これまで三日間苦しめられてきた下腹部の張りもすっかり収まり、彼女は久しぶりにお腹を楽にできたことに喜びを感じていた。


 ミカサはしばらくその場にしゃがみ込み、排泄後の充足感に浸っていた。


「はぁ……気持ちよかった……こんなにたくさん出るなんて思わなかったなぁ……」


 ミカサは独り言を言いながら、お尻の下の光景を見つめた。そこには新宿御苑を中心とした都内一帯は完全に消失し、その代わりに巨大な糞の山が鎮座している。


(うわ……ふっとぉ……♡どれだけ溜まってたのかしら……♡)


 彼女は自分の排泄物を改めて見下ろし、その大きさに驚愕した。

 ミカサは自分の出した糞便が、地上の人間たちからどのように見られているのかと思いを馳せた。

 きっと彼らは自分が生み出した山ほどの大きさのある巨大な糞を見て、恐れ慄いているのだろう。

 彼女はそれが愉快で仕方がなかった。

 先程までの罪悪感は何処へやら、自分がただ排泄するだけで、これほどの破壊を引き起こせることに興奮すら覚えていたのだ。


(ただトイレをしただけなのに……♡

みんな私のお通じで死んじゃってるのね……♡♡♡)


 彼女は無意識のうちに笑みを浮かべた。

 自分がこんなにもたくさんの排泄物を出せるとは思わなかった彼女は爽快感と興奮で身震いしてしまう。

 地球人には申し訳ないことをしたが、おかげでスッキリすることができた。

 彼女はその快感を味わいながら、しばらくその場に佇んでいた。


「はぁ……やっとすっきりしたぁ〜……♡」


 ミカサは満足げな溜息をつき、立ち上がろうとしたその時、彼女はある事に気づいた。


「あ、しまった……!拭くの忘れてた!」


 そう、彼女は自分の肛門を拭く事を考えていなかったのだ。

 しかも、早々排便を済ませようと急いでいた為、船からはティッシュペーパーの類を持ってきていないことに気づき、焦りの色を隠せなかった。


(どうしよ……うう~困ったなあ……)


 地球人は超小型種族であるため、彼らの生活用品は基本的に地球人サイズであり、それではミカサが使うことができない。


「仕方ない……何か使えるものを探すしかないわね……」


 ミカサは周囲を見回して使えそうなものを探してみる。

 周辺には灰色の斑点のような極小の街並みばかりが広がる中、自分の歩いた痕跡が、巨大クレーターとなって海上から街を横切って続いている。

 そして隣には、放り出した茶褐色の山脈がドンと鎮座しているだけ。それ以外には何も無かった。


 この中で使えそうなものといえば……


「街しか無いけど……。でも、ほかに拭くものなんて無いし……。しょうがないよね」


 ミカサは地球人の居住区画を見据えた。

 そこはまだほとんど手つかずの状態で残っていて、大小様々なビルが林立している。

 幸い、この星には無数の人口密集地帯がある。

 いくら塵芥みたいなサイズとはいえ、これだけ集まっていれば、多少は役に立ってくれるはず。


「よしっ、それじゃあこれで代用させてもらいましょう」


 彼女は意を決して右手を伸ばし、指先をビル群の中央部分に指を突き刺した後、彼らの住処の真下に指が来るよう慎重に調整する。

 そして、巨大な指をそっと動かして、ビル街の地盤ごとまとめてすくい上げた。


 彼女の手の上には、数千棟を超えるビルの集合体が載っている。

 超高層建築物から低層の商業施設や一般住宅まで多岐に渡り、それらは全て高密度で集約されている。

 掌サイズのミニチュア都市模型のようだが、それぞれが本来ならば何百人も受け入れることができる大規模な建物たちなのである。

 

「これだけあれば十分ね♪」


 ミカサは微笑みながら持ち上げたモノを確かめてから、それを肛門に近づけ、いざ、拭こうとしたときに、ふと掌にいる地球人の事が頭によぎった。

 これからこの街はお尻の穴を拭くために使われる。そこには大勢の人たちが暮らしていたはずだ。

 自分の汚れた肛門を拭き取るために利用されるということは、彼らが住む街ごとトイレットペーパーのように消費されるということなのだが……。

 とはいえ、お尻が汚れたままだと気持ち悪いし、そのままショーツを履いて汚したくは無い。

 彼女は申し訳なさを感じつつも、それでも躊躇うことなく作業を進めた。


「……ごめんなさい。本当はちゃんとした紙を使いたかったんだけど……こんな方法しか思いつかなくて……」


 一応の謝罪を述べてから、ミカサは手に乗せていたビル群を自分のお尻の穴に当てた。


「んん……っ!」

 

  最初は慎重に表面を滑らせ、その後少しずつ押し付けるようにして汚れを取り除いて行く。

 その度に沢山の建物がガラガラとすり潰される巨大な音が響き渡り、手の上の街がどんどん減っていく。


 ビル群はミカサのお尻と指の間で圧壊し、コンクリートや鉄骨は砕け散り、原型を留めぬ状態へと変貌した。


 彼女の巨大な指で擦られる度に、街は巨大アナルの汚物と絡まり合い、瓦礫となって零れ落ちていった。 


「はぁ……♡なんだか癖になりそう……♡」


 地球人の街をお尻の穴に擦り付けるのは、思いのほか気持ちが良かった。

 ミカサは目を閉じ、快感に身を委ねながら、さらにお尻の穴に街を押し付け、何度も往復させて徹底的にキレイにする。


「んん……♡もしかして紙より良いかも……♡」


 ミカサは自分の肛門を丹念に清掃しながら、街がすり潰されて無くなったら、さらに別の街を求め、指を新たな街へと彷徨わせた。 

 次の街は、ビルの高さと密度がやや抑えめで、代わりに広々とした公園や緑地が多いタイプの街並みだった。


 彼女の指は迷わずその郊外の街へと延び、その中心部に狙いを定めた。

 先ほど同様、指先が接地するや否や、周囲の建物が次々と崩壊し、住居や公共施設が瓦礫と化していった。


 ミカサは再びビル郡を拾い上げ、指先で掬い上げる。

 公園は脆いので指に少し力を加えただけでも、簡単に崩壊して大量の埃と砂が舞い上がりそうだ。


「やっぱり紙じゃないから不便だなぁ……まあいっか」


 彼女は苦笑しながら手に届く範囲に残った街をトイレットペーパーのごとく使った。

 1千万人以上が暮らしていた世界有数の街は、お尻を拭き上げるティッシュのように、一度使って汚れたら捨てる、肛門を拭くためだけの消耗品として、上空数千メートルにある尻穴ですり潰され、消えていった……。


「ふぅ……、気持ちよかったわ♪」


 ミカサはお尻に付いていた最後の汚れを取り終え、満足げな声で呟いた。

 彼女の周りには、無数の巨大な陥没穴が掘られていた。

 それらはすべて、ついさっきまで人々が生活していた街並みだったものだ。

 しかし、今はただの荒涼とした大地となっている


 彼女が掘り起こし、破壊した街は全部で十数箇所にも上る。

 それらはショーツにウンチが着くよりかはマシ、程度の感覚でトイレットペーパーのごとく消費されてしまった結果だ。


 それを数回も繰り返して、やっと彼女が納得した頃には、もう東京の中心地に街と呼べるものはほとんどなくなっていた。


「……まぁ、こんなもんでいっか」


 彼女は自分の汚れたお尻を確認すると、小さく呟いた。

 完全にきれいになったわけではないが、紙もウオシュレットもないこの星だと、これがせいぜいといったところだった。


(結構出したわね。これだけ出せば体重が減ったと思うけど……)


 ミカサは満足な表情を浮かべ、腰を浮かせて立ち上がると、その場に残された自分の排泄物を眺めながら思った。


 それは彼女にとって久しぶりの排便であり、かなりの量が出た自覚はあったが、彼女の全体重に占める割合としては僅かなものに過ぎない。

 だが、それでも彼女のウンチの総重量は地球換算で約3億トンに達する計算になり、そのウンチは東京を完全に蹂躙し尽くしていた。


「さて、帰りましょうか」


 ミカサはそう言うと、来た道を戻り、新しい巨大な足跡を残して、海を渡り、津波と飛沫を空高く立てながら船へと戻っていった。

 地球に大きな被害をもたらした超巨大宇宙人のミカサは、こうして自宅へと帰還したのであった。

2. 巨人妹編

 宇宙からやってきた超巨大OLが地球に排泄をしてから1年が経とうとしていた。

 人類が、彼女の尻から放出された糞便と、それによって失われた数千万人の命という損失から立ち直るにはまだまだ時間がかかる見通しであった。


 だが、そんなある日の午後、突然宇宙からの通信が届く。

 それは電子メール形式で送信されてきたメッセージであり、その内容は以下のようなものだった。


件名:地球在住の皆さまへ


本文:

こんにちは。

ミカサ・ヴォルテの妹ミリアと申します。

前回は、姉が急遽、地球にお邪魔してしまって申し訳ございませんでした。


実は今日、学校の体育があったのですが、そこでトイレ休憩を取る事が出来ないくらいに忙しくて……

学校を出た後、すぐに猛烈な便意に襲われました。

それでシャトル内のトイレを使うつもりでしたが、故障していて使えません。

それで私は地球に行くことを思いつきました。

以前にも姉が地球を訪れた際、トイレを借りたことがあるので、今回もそちらの惑星でお世話になれればと思います。

地球の街はトイレの後、しっかりとお尻を拭くのにちょうどいいと姉から聞いております。是非、活用させていただきたいと思います。

それではまた後ほど、お会いしましょう。


ミリア・ヴォルテでした。


***


「たのしみだわ!地球!」


 宇宙船の中で運動服を着た金髪の少女は目を輝かせた。

 彼女は若い学生でありながら、その身体の大きさは東京タワーよりも遥かに巨大だ。

 ミリア・ヴォルテという名の少女は、地球換算で140㎞の身長を持ち、彼女にとって地球など簡単に破壊できるほど小さなものでしかない。


 それでも、地球という未知なる星に対する好奇心は止めることができなかった。

 彼女にとって地球は、珍しい玩具のようなものだったからだ。


「地球……どんなところなんだろう?」


 ミリアはワクワクしながら操縦室へ向かった。

 彼女の乗る宇宙船は既に地球の周回軌道に入っており、高度を下げて大気圏へ突入しようとしていた。


「うふふっ♪ 私のウンチでぺしゃんこになっちゃうかなぁ……」


 ミリアはニヤリと微笑みながら、スキャナー画面に映る地球を見つめた。

 そこには小さな大陸と海洋が見えた。きっと、そこら中に人が住んでいるんだろう。

 その小さな島国の上に、姉が作ったウンチの山が見え、少し面白く思えた。

姉がトイレ訪問してから一年が過ぎようとしているのに、地球人はまだ完全に片付けられず、廃棄物の撤去と復興作業に追われているらしい。


 画面の中では、ちっぽけな地球人がウンチの山の周りを這いずり回っているのが見えた。

 ダンプカーや重機といった小さな機械を使って、姉の巨大な糞のかけらを少しずつ運び出しているようだが、山の規模からすれば全く追いついていない。


「あはっ、 なんかちっちゃい虫がウンチ這い回ってるけど、 あれが地球人?」


 あのちっぽけな地球人たちは、お姉ちゃんの“お通じ”一つで文明が麻痺し、一年経っても復興できずに喘いでいる。

 その事実が、ミリアにとっては滑稽でたまらなく可笑しかった。


(あんたたちの一生って、私のウンチ一つより価値ないんだよ? )


 それを教えてやりたいがために、体育の最中も、終わった後も、トイレに行かずに、ずっとガマンしておいたのだ。

 わざわざ、体育のある日にしなくても良かったのに、思いついたら居ても立ってもいられなくなって、おかげでシャワーも浴びず、着替えもせずに地球に向う事になってしまった。

 地球人からしたら、運動によってかいた汗と体臭の匂い攻めで苦しめられた後、さらに強烈な便臭を浴びせられる事になるだろう。

 一日中便意と闘いながら、熟成させた最高級のウンチで、地球人なんて街ごとぶっ潰してやるのだ。そう考えたらゾクゾクが止まらない。


(ふふっ♪ あなた達の為に、 わざわざ、おなかいっぱいに溜め込んであげたのよ。 感謝しなさいよね? )


 ミリアは無邪気な笑顔で操縦桿を握り締め、地球に突入した。


 地球へと到着するや否や、彼女は即座に地上へと舞い降りた。

 標高数万メートルの成層圏に浮かぶ彼女の視界に、まだ姉の足跡や排泄物によって蹂躙されていない、無傷の大地が広がっていた。


「やっぱり、真っさらなところがいい!」


  彼女が着地地点として選び出したのは、姉の災厄から遠く離れた大陸のにした。まだ彼女たち異星人の痕跡が一切残されていない、地球にとっての処女地だった。


 ミリアの瞳が好奇心と嗜虐心で怪しく輝く。

 すでに姉の「痕跡」で汚され、荒れ果てた土地に用を足したところで、地球人が怯え混乱する様は味わえない。

 彼女が求めているのは、整然と秩序だって営まれている日常を、自分の生理現象という圧倒的な暴力で蹂躙し、二度と元に戻せないほどの「痕跡」を刻み込むことだった。


「どうせやるなら、大きい街でした方が一番楽しいでしょ?

 私のウンチで、街も人も全部塗りつぶしてあげるんだから♪」


 ずっしりとした重い足音と共に、ミリアの巨大な身体が大地を揺るがした。

 地面は大きく陥没し、近くにあった街はあっという間に彼女の足によって蹂躙されてしまう。


 しかし、そんな光景もミリアにとってはどうでもいいことだった。

 大切なのはこれから排泄する行為の方だ。


 ミリアは両手を腰にあて、胸を張るように仁王立ちすると、ズシンと片足を振り上げた。

 その足元には、200メートル級の摩天楼が立ち並んでいる。

 しかしそれは、彼女にとって何の障害にもならない。


 彼女はわざと大きな足音が出るよう力を込めて、踏みつぶしてやった。

 足裏が大地を押し潰し、都市ブロックごと粉砕されていく。

 彼女の巨大な脚はコンクリート製のビル群を踏み潰し、鉄筋やガラス片が舞い上がる。

 道路はひび割れ、鉄道橋は圧縮され、バスもトラックも次々と吹き飛んでいった。


「地球の皆さん、初めましてミリア・ヴォルテですっ♪」


 彼女は明るい声で挨拶をした。


「私は今、あなたたちの星の上に立っています。こ〜んな大巨人を見るのは姉のミカサが来て以来ですかね?姉から地球の事は聞いていましたが、本当にダニみたいな大きさなんですね。それにしてもすごい景色です!こんなにたくさんのゴミみたいな建物が並んでいるなんて信じられません!!」


 彼女は楽しげに話し続けた。


「それと、皆さんにお伝えすることがあります。私、今日はとても忙しくて、体育の後トイレに寄れませんでした。だから、この場所でさせてもらえませんか?もう限界で、お尻がムズムズしています♡」


 彼女は屈託ない笑顔を浮かべながら言った。

 地球人にとっては悪夢の始まりであるにも関わらず、彼女にとっては単なるトイレを借りさせてもらう程度のニュアンスに過ぎなかった。


「もちろん嫌とは言いませんよね?だって、こんなにも可愛くて可憐な女の子がわざわざやって来たんですよ!それなのに断るなんて言ったらどうなるでしょうねぇ〜……ふふっ」


 ミリアはわざと挑発的な態度を見せつけた。

 この星の住民たちが自分の排洩行為によって恐怖し混乱していく様を想像するだけで、体の中がゾクゾクと疼き、興奮してしまう。


 彼女の言葉を聞き、地球の人々は一斉にパニックに陥った。

 彼女の正体は明らかである。

 あの巨大な怪物が、再び地球に降り立ったのだ。

 あの日の悲劇を止めなければ、地球軍はそれでも果敢に戦った。

 巡航ミサイル、核弾頭搭載ICBM、艦砲射撃、戦闘機隊による空襲……ありとあらゆる手段を駆使し、巨人に攻撃を加えるが、彼女には一切通用しない。


「ちょっとくすぐったいんですけどぉ~? ヤダーもぅやめてくださ~い♪」


 ミリアは手をパタパタさせながら身悶える仕草を見せた。少女のような愛らしさで、まったく効果が無いように振る舞うのだ。

 彼女の肌に傷は付かず、服が少し汚れる程度で終わりだった。

 それどころか、逆に彼女の気を引いてしまったようで、喜ばせる結果となってしまう。


 地球人の抵抗も所詮この程度。

 10万倍もの巨大な存在に対して、どんな武器も兵器も通じない。

 ミリアは、地球軍の必死な抵抗を鼻で笑い、嘲笑うかのように口を開いた。


「あっはっはっ、可愛い地球人ちゃんたちが必死に頑張ってる姿ってホントに面白いですねぇ~♡」


 彼女は楽しそうに笑いながら言った。


「そんなちっぽけなオモチャで遊ぶ暇があったら、もっと有意義なことしたほうがいいんじゃないですかぁ~?例えば、私のウンチに巻き込まれないように、逃げる準備したりとか?それとも私の為におトイレを作ってくれたっていいんですよぉ?……あははっ」


 ミリアは馬鹿にするようにケラケラと笑った。

 彼女から見れば地球人なんて虫けら以下。

 どれだけ抗っても無駄な存在なのだ。


 ミリアは嬉しそうに嗜虐的な笑みを浮かべながら、トイレに相応しい場所を探し始めた。


「この街なんか良さそうですよね? ちょうど広くて、おトイレにぴったりみたいだし……」


 ミリアは周囲を見渡すと、ある一点に目をつけた。

 そこは近代的なオフィス街で、超高層ビルが林立している地域だ。

 だが彼女にとっては、灰色の砂の集まり程度にしか見えなかった。


「こんなに綺麗な街が台無しになっちゃうなんて勿体ない気もしますけど。でもしょうがないですよね?」


 ミリアは舌舐めずりをしながら、その場所に狙いを定めた。

 まず、彼女は右足を大きく前に出して街の外周部を踏みつぶし、次に左足を上げて街を囲う様におろしてやった。

 これで逃げ場を塞ぐことができる。


 ミリアのトイレに選ばれた都市では小さな悲鳴が上がり、微細な点のようにしか見えない人々が一斉に逃げ出そうと蠢いている。

 それは人間たちが恐慌状態に陥っている証拠だった。

 しかし、そんな反応を楽しむかのように、ミリアは笑みを深めた。

 砂粒サイズの小さな人間が一生懸命逃げる様子が馬鹿らしいと思ったからだ。

 どんなに頑張ったとしても、ミリアの足の大きさよりも遥かに小さな彼らではどこへ逃げられるというのだろう?


「あははっ、ちっちゃい地球人さんたち。私が来たってだけでこんなに騒いじゃって〜☆でも仕方ないですよねぇ。だって私みたいな大きな巨人さんからしたら皆さん……ほっっんと、ゴミカス以下の存在ですからね〜」


 ミリアは街を見下ろしながら、ケラケラと笑いながら呟いた。

 超高層ビル群からは煙が上がり、先ほど彼女が歩いて踏みつけた足跡には、靴の形をしたクレーター状の窪みができている。その中では、原型を留めていない無数の瓦礫と、それに混じった赤い斑点のようなものが見えた。

 彼女の視界では、それは単なるシミに過ぎない。しかし実際には、数千人単位の人間が圧死した痕跡だった。


「ねえねえ、上を見て♪ 貴方たちの頭上には、私のデッカイお尻があるんですよぉ?」


 ミリアはわざとらしく腰を突き出し、地球人たちに見せつけるように尻を揺らした。

 ブルンと揺れるその巨大な尻肉は、ダムやピラミッドなどとは比較にならないほどの質量を持っている。

 街を覆う巨大な影に、人々は絶望と恐怖で震え上がった。


「あーあ、可哀想な微生物さんたち。私のウンチで潰されちゃうなんてねぇ〜。でも嬉しいでしょ? 可愛い女の子のお尻から出るものなんだから♪ 感謝して受け止めてくださいねっ!」


 彼女の言葉は無邪気そのものだったが、そこに含まれる悪意は底知れぬものだった。

 地球人の命など、虫けらと同じに過ぎない。

 ただ自分の欲望を満たすためだけに、この星を踏み荒らし、弄ぶ。そんな鬼畜の所業が、彼女にとってはただの遊びでしかなかった。


「さあて、そろそろ始めようかな♪ 」


 次に彼女は、体育で使っていたジャージのハーフパンツに手をかけた。

 青色の生地を指で摘まみ、するりと腰の位置までずり下ろしていく。布地が擦れる微かな音すら、地上では嵐のような騒音となって響き渡った。


「あはっ、どう?私の脚、すっごく太いでしょー?この太腿だけで、あなたたちの街なんてひと捻りなんだからね!」


 彼女は露出した太腿をぺちぺちと叩いて自慢した。そのたびに衝撃波が走り、彼女の足元では建物がびりびりと震える。

 そして彼女は、次にショーツへと手を伸ばした。

 淡いピンク色の、小さなリボンがついた可愛らしい下着。しかしそのサイズは東京ドーム数百個分に相当し、地上から見ればそれはもう一つの天体にも等しい大きさだった。


「はいはーい、みんな見ててねー。これからミリアちゃんのおトイレタイムが始まりまーす♪ 記念すべき瞬間を目に焼き付けて、死んでいってね!」


 彼女は悪戯っぽくウインクすると、一気にショーツを膝まで下ろした。

 露わになった彼女の臀部は、信じられないほど巨大で、かつ若々しいハリと丸みを帯びていた。 左右の尻肉は小高い山脈さながらに盛り上がり、その間の深い谷間からは、運動後に蒸れた汗と体臭が、むわっとした熱気となって立ち上っている。


「んふふ……恥ずかしいけど、まあ相手は虫けらだし、平気平気♪」


 ミリアは照れくさそうな笑顔を浮かべながら呟くと、しゃがんで尻を突き出した。


ズズズズズ……!


 彼女がしゃがみ込むと同時に、山のような尻がゆっくりと降下してくる。

 地上の人々から見れば、それは空から巨大な天体が落ちてくるかのような光景だった。

 ドーム状の肉の塊が日差しを遮り、街全体が暗闇に包まれていく。

 彼女の直径3km以上もある肛門は桃色に潤い、肛門筋が微細に痙攣しながら内腔を開閉させていた。

 腸内に蓄積された大量の排泄物が、今にも吐き出されようとしているのだ。


「うぅ……んっ……!ッ……!」


 ミリアの可愛らしい声が空を震わせる。

 巨大な肛門の皺が伸びきり、ピンク色の肉がめくれ上がっていった。そして次の瞬間、彼女の括約筋が完全に緩みきった。


 ぶっ!ぶぼぉぉーーーっ!!!


 凄まじい爆音と共に、巨大なガスが噴き出した。

 強烈な腐敗臭と汗混じりの酸っぱい匂いのダウンバーストは、核爆発に匹敵する衝撃波となって真下の街を薙ぎ払った。

 ビルの窓ガラスが砕け飛び、車両が吹き飛び、脆い構造物は根こそぎ倒壊していく。路上には逃げ惑う人々の姿があったが、そんな矮小な存在は瞬時に塵と化すだけだった。


「くふふっ……♡みんな、ごめんね?臭かったでしょ……?昨日食べたニンニク料理のせいかなぁ……♡」


 彼女は頬を染めながら、くすくすと笑う。

 自分自身の屁で街を破壊し尽くす様子が、心底愉快で仕方がないのだ。


「でもぉ……♡まだこれからだからね♪。ふん……っ!」


 ミリアは小さく声を漏らすと、思い切り下腹部に力を入れた。

 すると次の瞬間、ズヌリッと粘っこい音を立てて、菊紋が大きく開らかれる。


「ん゛っ……んふふッ!! でるっっ♡♡♡」


 彼女のピンク色の菊門から大量の大便が放出され、その塊は重力にひかれて、地面へと落ちていった。


 ずどおおおぉぉぉーんんんっ!


 大地が大きく揺れ動き、周囲の建物が軒並み倒壊する。瓦礫と粉塵が舞い上がる中、巨大な物体が大地に横たわった。


 高さ約5km、幅1km近くもある茶色い物体は街をいくつも押しつぶし、標高千メートルの山々を押しつぶし、都市間を横断するほどの規模になった。


 それがミリアのうんちだった。


「あ〜〜♡出る出る……っ♡」


 ミリアは喘ぎながら力んだ。


 そしてまた一段と巨大な塊が彼女の肛門から産まれてゆく。それらの塊が連なり合い地面に向かって落下して行ったのである。


 ぶぉぉっ!ぶぼっ……ぶりゅりゅりゅ……


 汚らしい排泄音を奏でながら彼女の尻から巨大な塊が誕生し続ける。健康的な少女の一本糞は非常に重量があり周囲の建物はもちろん地面さえも抉る威力があった。


 展開していた軍隊は何とかして、超巨大少女の巨大なお尻の下で排便を食い止めようと、持てる全ての火力を持って足掻いていたがその努力は実らずミリアの巨大なうんちによって返り討ちにあった。

 戦車・大砲は落ちてきた巨大ウンコの下で圧壊され、航空機は大気を揺るがす放屁で消し飛び、大陸間弾道ミサイルは菊紋のシワを擽る程度の刺激を与えただけで終わってしまった。


「んん……♡ずっと我慢してたから、気持ちいい♡」


 ミリアは頬を紅潮させながら、艶めかしい笑みを浮かべた。


「ほらほら、ちゃんと見ててね……?私のウンチで街が壊れるところ、しっかり目に焼き付けなさい♪」


 ミリアは淫靡な声で呟くと再び力み始めた。

 すると彼女の巨大な肛門がグイと盛り上がり、その中心から新たな糞塊が顔を出した。


「はあぁ……あはァッ! 出るうぅ♡大きなウンチ……ッ!!」


 ミリアは甲高い嬌声をあげながら盛大に脱糞を披露した。今まで見たこともない量の巨大な便塊が姿を見せ、ずるずると落下していく。


 フボッ! ブチュッ、ズドボリュンッ!!


 鼓膜を劈くような轟音。隕石でも落ちたかのような衝撃。

 少女の排泄の放ったウンチは最早通常兵器など比較にならないほど強力な威力を伴っており、着弾地点における損害は甚大であり甚大この上ないものとなったことは言うまでもなかろう。


「ふふ……♡やっぱりお外での排泄は気持ち良いです♡ 身体中の毒素が綺麗に出ちゃいましたね♡」


 ミリアは満足げな顔を浮かべて、ため息を吐いた。

 彼女の足元には、巨大な糞の山ができあがっていた。

 その数は少なくとも5本以上。

 どれも直径4キロ前後の巨大なもので、表面からは湯気が立ち上っていた。

 たった一本の排泄物で街一つが滅ぶほどの被害を出せるというのに、彼女はそれを何発も撃ちこんできたのだ。

 

「それでは、汚れたお尻を、拭かせてもらいますね♪」


 ミリアは、そう言うなり、まだ無傷のまま残っている地区に向かって手を伸ばすと、指先で摘むようにして数十の住宅地や企業施設を一纏めに摑み上げた。


 そして、そのまま手の中に収まった街一つを自分の肛門に押し当てて、まるでティッシュペーパーを擦り付けるかのようにして、ゆっくりと擦り始めた。


「うふふっ、ちゃんとお尻を綺麗にしておかないとね。でも、あなたの街はなかなか便利なものだわ。こんな小さな都市でも私のお尻を拭くのには十分なくらいのサイズ感だものね」


 ミリアは嬉しそうに笑った。

 彼女の巨大な指によって、多くの建物が押しつぶされ、粉々になってしまう。

 人々の住む家々や職場は容赦なく破壊されていったが、その代わりにミリアの肛門は綺麗になっていった。

 それに地球の街を肛門に擦り付けると、ティッシュとは違った感触があり、なかなか心地よいものだった。


 姉から聞いていたが、これほどまでとは。

 ミリアの肛門はすでにきれいになっていたが、

それでも彼女は擦りつけることをやめなかった。


「んっ……んっ……、なんか癖になっちゃうかも♡」


 ミリアは陶酔した表情で呟きながら、手のひらの街がすり潰されて無くなると、新しい街を拾い上げては、何度も肛門に擦り続けた。

 それだけで数十万の人々が犠牲となり、いくつもの街が丸ごと消え去ったのだが、彼女の巨大肛門を綺麗にする為には必要な犠牲であった。


「もう大丈夫かな。よし、終わり!」


 ようやく満足したのか、ミリアは手を離した。

 あたりは、巨大な肛門から落ちた排泄物の大山脈と、ミリアのおしり拭きのために地盤ごとほじくり返された跡と、まだ無傷の街が入り混じる奇妙な光景が広がっている。

 

 しかし、そんなものでは、まだまだ満足しないミリア。彼女は自分の巨大な股間に目を移した。


 そこには女性なら誰でも持っているべき器官がある。

 その下腹部にある割れ目から流れ出す液体を、もう我慢できない状況だった。

 膀胱内に溜まった黄金色の濁流を放出したいという衝動に駆られていたのである。


(あ~……ずっと我慢してたから、沢山でちゃいそうだけど……どうせゴミみたいな街しかないんだし……別に問題ないよね?)


 そう考えた時には既に行動が始まっていた。

今度は腰を前方へ突き出す格好を取り始めたのである。


 大きく股を開き恥丘を曝け出したポーズになることでその奥へ隠されていた花弁を開花させつつあったのだ。


「ねぇ、みんな聞いて?実はね……おしっこも我慢できなくなってきちゃったんです。なのでぇ、私のおしっこ……受け止めてくださ~い♡」


 ミリアは口角を吊り上げて笑うと、膀胱を締めていた力を抜いた。


 次の瞬間、黄金色の水流が放出された!

 凄まじい勢いで迸る放物線を描いて飛翔していく聖水が目標地点目掛けて一直線に向かっていく様は圧巻であった。


 勢いよく放出される黄金色の激流は、大地に落ちると、激しく荒れ狂った聖水の奔流が街並みを飲み込んでいく様相を見せて、無数の建造物は津波に飲まれた小舟のように翻弄されてバラバラになっていく。


 ミリアの股間から放出される水流は留まることを知らず、無慈悲に周辺一帯を浸食し続ける。

 高層ビル群は呆気なく押し倒され、幹線道路や鉄道線路なども押し流されてしまい、数百万という人数規模の人間が飲み込まれて、泡沫の渦に消えていった。


「はあぁ……ッ!♡おしっこいっぱいでるぅ……っ♡」


 ミリアは恍惚とした表情で身悶えした。身体中が熱くなり、下半身から力が抜けていくような感覚に襲われる。


 膀胱が弛緩し、尿道を通る開放感だけでも気持ちがいいというのに、極小地球人たちの巣に、おしっこを放出することでさらに背徳的な快感を得られるというのは最高の気分に浸れる。


 腰を少し動かして、無傷の街に照準を定めて、おしっこを浴びせるのも楽しいゲームだった。

 黄色い水塊が放射状に広がり、街を沈め、人々を押し流す光景を見るのが面白くて仕方がない。 洪水となって流れてくるミリアのおしっこから逃げる集団を見つけては、彼らに向けておしっこを向けて浴びせてやる。

 人間の逃げるスピードなどおしっこの速度に比べれば遅すぎて、動く的にすらならない。

 川の氾濫などではとても起こりえない速度で黄金の流れが大地を覆いつくして、全てを飲み込んでいった。


「んふふ♡女の子のおしっこで溺れ死んでかわいそうですねぇ♡それともミリアちゃんのおしっこで沈められて嬉しいですかぁ?♡」


 ミリアは笑いながら尋ねた。

 当然ながら返答はない。全ての声は轟音に飲み込まれてしまうからだ。

 それどころか、おしっこに押し流されたビルの残骸や自動車などと一緒にミリアの眼下を通り過ぎていき、最終的には遥か地平線の彼方に消え去ってしまうだけである。

 彼女は笑いながら、さらに力を入れておしっこを出し続けた。

 その量は凄まじいもので、一分も経たないうちに都市部を覆い尽くし、海に辿り着いてその海水の色を瞬く間に黄色にしてしまうほどであった。


 彼女の排尿量は莫大で、一瞬で5千ヘクタールもの土地をおしっこで埋め尽くすことができる。東京ドーム約1000個分を軽く満たす量だ。


 それだけの量を一度に吐き出せる生物が他に存在するだろうか?

 いや、いないだろう。そんな生物が存在したら地球は間違いなく滅亡するはずだからだ。

 彼女はまさにそういうレベルの怪物なのである。


「えへへ♪ こんな可愛い女の子のおしっこで水没するなんて夢のようですよね?この光栄な待遇に感謝してくださいね♡」


 ミリアは得意げな表情で告げると尚も執拗に狙い続けるようにして放尿行為を続けた。


 そして遂に、彼女の膀胱に溜まっていた全ての水分が放出された。

 総量にして数千億リットルという膨大な量のおしっこが解き放たれたわけだ。

 その結果、地上では未曾有の大災害が起きてしまった。

 彼女のおしっこは大地を削り取り、地形そのものを変えてしまったのだ。

 山岳地帯は水没して山頂のみ僅かに水面から顔を出し、河川は氾濫してしまい生温い湖沼と同化した。

 森林も街も農地も、その全てが彼女の尿によって飲み込まれてしまった。

 その影響は計り知れず、数千万人以上の人間がその黄色い湖の下に沈んでいる。


「はぁ、スッキリしたぁ♡」


 ミリアは大きく深呼吸しながら呟いた。その声音からは満足感が溢れていることが分かる。

 彼女の巨大なおしっこが作り出した巨大な湖面は鏡のようにキラキラと輝き、太陽光を反射していた。

 そしてミリアの目にも鮮明に映り込んでいるのは、彼女の排泄したウンチ山脈群とおしっこ海とのコントラストであり、これらを見比べることによって己の偉大さを改めて認識させられたのであった。


 そして、おしっこまみれになったお股を、街を握り潰して拭くと、立ち上がって自分の髪をかき上げた。

 長い金髪がさらさらと揺れる。彼女の美貌は相変わらず完璧だった。


「さて、そろそろ帰りますか」


 彼女はそう呟くと、足元に広がる荒れ果てた街並みを一瞥して、新たに十数の街を踏み潰しながら、宇宙へと帰って行った。


 その場所に残されたのは、完全に破壊された国土と、数千万の死者。

 そして、地球の未来を大きく揺るがすであろう未曾有の事件の記憶だけだった。

3.人妻編

 ……うっ、頭が……。


 目を開けようとした瞬間、ズキンとこめかみが痛んで、思わず顔をしかめる。

 口の中はカラカラで、舌が妙にねばついており、まだ自分の息から酒の匂いが漂っている。


(……なんで、こんなところで寝てるんだろ、私)


 ゆっくりと顔を上げると、頰に当たっていたのはリビングのフローリングだろうか。固くて冷たい、ソファでもない無機質な硬さが全身を強張らせる。

 しかもうつ伏せのまま、両手両足を大の字に投げ出して寝落ちしていたらしい。全く、いい歳してだらしない。


「ん……っ」


 体を起こそうとして、今の自分の姿に気づいた。

 ブラウスは大きく乱れ、ボタンが二つ外れていて、胸元がだいぶはだけていた。スカートも腰の辺りまでめくれ上がっていて、太ももが露わになっている。


 昨夜の記憶が、断片的に蘇ってくる。


 夫が出張でいない夜、久しぶりに友達と飲み会を開いて……。

 つい張り切ってワインを開けて、二本目を開けたあたりから記憶が曖昧に……。


「はぁ……バカだなぁ、私」


 小さく呟いて、片手を付いて上半身を起こした。頭がまだふらついている。髪の毛が顔に張りついていて、うるさい。

 まだ寝ぼけ眼の目の焦点がだんだんと合ってくると――そこはうちのリビングではなかった。


 あれ?


 太陽の光が眩しすぎるくらいに降り注いで、あたりの空気は屋外のものだと、脳が勝手に知覚した。


「……え?」


 顔を上げた視線の先にある光景に、私は一瞬、心臓が止まりそうになった。


 そこには、リビングもなければ、玄関でも、バスルームでも、ベッドルームでも、ない。それどころか、視界一面に広がっているのは――青い空と、灰色の砂漠。

 それを視界に入れた瞬間、私は呆気にとられながら、周囲を見渡す。


 そして、すべてを理解して、言葉を失った。


「うわぁ……」


 この状況を説明する前に、自身のことについて簡単に説明しておくと、私は地球とは違う星の生まれである。

 自分自身の能力を使って地球人に合わせながらひっそりと生活しており、今は地球で出会った旦那さんと結婚して、一緒に暮らしている。

 そんな中での話だ。


 あぁ……やっちゃったんだ私……。


 頭を抱えたくなりつつも、私は自分の身体が、いつの間にか地球人の姿ではなく、本来の姿に戻っている事実をようやく理解したのだ。

 その証拠に、地面にある建物の大きさは摘まむことさえ難しい程小さい。

 5階建てくらいありそうなはずのビルも、今では1ミリほどにも満たない。

 今の身体は地球人の10万倍、156kmくらいの大きさだろう。


「はぁ……」


 やらかした事へのショックで思わずため息をついてしまう。

 だが、その吐息も人間たちにとっては破壊的災害だったのか、地面に爆音を響かせながら暴風が巻き上がる。

 周りにあったものは全て吹き飛ばされ、近くにあった建物たちがバラバラに砕け散ってしまった。


「あっ、ごめんなさい……!」


 謝罪を叫ぶものの、今度の声は衝撃波となって街の一つを跡形もなく吹き飛ばしてしまった。

 そこにどれだけの人がいたのかなんて考える余裕は今の私にはない。とにかく、自分が想像以上にとんでもないことをやらかしたことだけは理解できた。


 ……。

 ……。

 …………。


 とりあえず、深呼吸してみる。少し落ち着いたところで、冷静に現状を把握してみる。


「これじゃダメだわ。せめて座った方がいいかな」


 寝そべった状態だと、この巨体である。街どころか、州や国単位で人が死んでいる可能性が高い。下手したら大陸が歪んで地形が変わってしまったかもしれない。

 それだけの質量と面積を秘めた肉体が大地に接しているのだ。


 このままの姿勢では良くない。ならばと、ゆっくりと上体を起こしてみると、その衝撃だけで地面が震動し、巨大地震が起きた。

 その振動で、周囲にあった街は広がる亀裂に飲み込まれたり、隆起する岩盤からこぼれ落ちたりして、大変な事になった。


 巨大化した自分の行動が周りに及ぼす影響がどれ程のものか、見せつけられつつも、慎重に膝をつき、無傷の街を潰さないように正座の姿勢に変えていく。


 「ふうっ……。はぁ……どうしたものかしらね、これ」


 両手で顔を覆いながら嘆く。地球人サイズに戻ろうとしても、さっきからうまく意識が集中できない。

 酒のせいなのか、それとも寝起きの脳が混乱しているせいなのか、とにかく力が安定しないのだ。


「これ絶対怒られるよね……いや、怒られるどころじゃないかも……」


 震える声で呟く。自分の星の人間ならともかく、地球人にしてみれば150kmクラスの巨人が街中に正座して鎮座している状態だ。

 パニックどころか国家非常事態宣言待ったなし案件だろう。


「早く戻らないと……でも、どうやって」


 焦りが募る。指先が震えるのを感じながら、私はそっと立ち上がろうとする。しかし、その動作だけでまた地面が激しく揺れ動き、遠くの方で大きな土煙が上がるのが見えた。


「あぁ、違う!動かない方がよかったかも……!」


 慌てて動きを止めるものの、既に遅かったらしい。遠くの高層ビル群がいくつか倒壊していく様子が目に映る。胸がぎゅっと締め付けられる思いだった。


「……お願いだから誰も怪我していませんように」


 祈るように両手を合わせる。けれど、その小さな祈りも届かないかもしれないと思えてくるほど、自分が引き起こした惨状は深刻だった。

 座っていても周りの状況は良く見える。遮るものが何もないのだから当然と言えば当然か。


 街のいたるところに私の足跡が刻まれている。酔っぱらって千鳥足になっていたせいだろうか。

 あっちにもこっちにも、地面に深く跡が刻まれていて、足跡一つ一つにビルや建物だった残骸が硬くなった地面に同化している。


 何処を、どんな風に歩いていたかはっきりと分かるその痕跡。

 それは私の巨大な足の裏が全てを踏みつぶしながら歩き回った証拠だった。足跡の深さはかなり深く抉れている。

 それだけの力で踏みつけたのだから、建物は当然、一緒にいた人達なんかは、原型すら留めないくらいにぺっしゃんこになったに違いない。

 私が歩いた跡はどこもそうだし、恐らく被害の全貌を把握するなら、かなりの数になりそうだった。


 私が普段生活している分には、問題なく過ごせている街も、こうなってしまうと足の踏み場に困る。なんせ一歩進む度に、足をどこへ下ろしても何かを壊してしまうのが目に見えているからだ。

 ……でも、こんなところにずっと居るわけにはいかないのも事実だし、何よりこのままだと更なる被害が出てしまう。


 「よし!」と意気込みを込めつつ、ゆっくり立ち上がり、周りを見渡す。


「さて……どうしようかな」


 とはいえ、すぐ解決策が浮かぶわけではない。ただ一つ確かなことは、私がここに留まっていればいるほど被害は拡大することだ。早急に行動しなければならないことはわかっているが、一体どうすればいいというのか。


「まずは……」


 少し考えてみて、スマホを取り出そうと思ったところで、自分が裸足であることに気づいた。

 靴が脱げてしまったまま、素足で歩き廻ったのだろうか……と思うと同時に、地面から伝わる冷たさが少しだけ心地よく感じた。

 そう言えば、そもそもどうやってここへ来たんだろう?


 確か、昨日は飲み会の帰り道で疲れていたからタクシーに乗ったはず……。いや、その前にちょっと寄り道してコンビニに行ったりした気がするような……。


「あぁ……ダメだ思い出せない」


 やっぱり酒の飲みすぎは良くないな、と思いながら、改めて現在地を確認しようと周囲を見回す。

 しかし、瓦礫だらけで元々何があったか全く分からない状態なので、目印になりそうなものを探す必要がある。


「そうだ……スマホ……」


 ポケットを探したけど見当たらない。酔っぱらって落としたか、どこかで置いてきた可能性が高い。通信手段がないとなるとますます困った事になる。誰かと連絡を取れない以上、自力で何とかするしかない。


「ふぅ……。とりあえず、来た道をたどって、靴とスマホを回収させてもらいましょう……」


 足元に気をつけながら、ゆっくりと立ち上がり、一歩ずつ慎重に歩き始める。そのたびに轟音と共に地響きが走り、遠くのビル群ですらもグラグラ揺れるのが見えた。

 こうして歩いてみると、足裏から伝わる感触には、たくさんのものが押し潰されているのが伝わってきた。

 この下で、どれだけの人たちが巻き込まれているのだろう。でも考えても仕方がない事。これだけ大きさが違っているのだから。


 言い訳じみた独り言を繰り返しながら進むうちに、脱ぎ散らかしたように転がっているサンダルを見つけた。私が履いていたものだ。

 酔っぱらい過ぎてそのまま投げ捨てたようだった。

 何の変哲もないサンダルと言えども、10万倍ともなると、もはや地平を区切る巨大な漆黒の山脈でしかなかった。


 長さにして優に24キロメートル。底の厚みわずか3センチだったゴムのクッションは、今や標高3,000メートルもの厚みを誇る断崖絶壁として街の上に聳え立っている。富士山ほどの高さがある壁が、無造作に寝転がっているのだ。


「あらら……」


 普段から履き慣れた安物のサンダル。その底面には数ミリの浅い溝が刻まれているはずだ。だが今、その溝は幅数百メートル、深さ数十メートルの巨大な渓谷と化し、その裂け目に、街のシンボルだった高層ビル群が砂粒のように挟まり、無残に押し潰されていた。


 靴のソールを飾っていた、ほんの小さなワンポイントの模様でさえ、広大な峡谷を形成し、谷底には住宅街の瓦礫など、サンダル底のスポンジ状の模様に入り込んだゴミ以下の存在でしかない。


 そして、その影は下界の街を完全に覆い尽くして、真昼間だというのに、サンダルの下には薄暗い深淵の世界が広がっている。


 その深淵の中で、目にも見えない微かな光の点滅——車のヘッドライトやパトカーの赤色灯が、狂ったように走り回っているのが見えた。


「大変な事になってるわね……」


 微生物クラスの大きさの彼らでも、そのパニックは痛いほど伝わってきた。

 サンダルのつま先部分一つで、ニュータウン一帯が更地になっている。

 人々はそこから溢れ出し、逃げ惑っているが、どこへ逃げようとしても、街のあちこちで発生している小さな火災の光が行く手を遮り、どうやってもサンダルという絶望的な壁から遠ざかれないで、右往左往している。

 私は不謹慎にもその様子を見て、ちょっとだけ可愛い……と感じてしまった。もちろん、こんなこと思ったら駄目だと分かってはいるのだが……。


 それにしても……私は今まで、彼らが必死に作り上げてきた都市というものに対して、あまりにも残酷な仕打ちを働いてしまった。

 私が酔っぱらって歩いてきた後には、巨大な爪痕のように荒廃した道筋が続いている。

 私がただ歩いただけでここまで酷くなっているとは思わなかったけど……これはまずい……。


「……ごめんなさい……」


 誰にも届かない謝罪の言葉を口にしながら、サンダルを静かに持ち上げる。その際にも、ビル数棟をまとめて踏み抜いてしまった感覚があって、胃が重くなった。


 その後私は、自分の大きさゆえに出来ることは何もせず、ただただこの惨劇が早く終わることを願うばかりだった。

 でも、元の大きさに戻ろうとしても、頭痛で集中できない。もう少しお酒が抜けきるまで時間がかかりそうだ。


 そうこうしているうちに、遠くから蚊のような物体が飛んでくるのを感じた。


「え? まさか軍隊?」


 目を凝らして見てみると、確かに小さな戦闘機らしき物がこちらに向かってきていた。


 だが、こんな緊急事態にも関わらず、彼らの接近は、どこか滑稽に思えてしまった。

 こちらに向かって飛来する戦闘機隊。その機影は、最新鋭の武器と最先端技術の粋を集めた人類最大の切り札と言っても過言ではない筈なのだが、10万倍の私から見ると、米粒よりも小さい程度の大きさで、目を凝らさないと見つけられないほどに矮小な乗り物でしかなかった。


 胴体長わずか十数メートル、翼端から翼端までの広がりが二十メートル程度といったところか。人間の基準でいえば大型の飛行機だろうが、私の視点からすると、鬱陶しく飛び回る小バエ程度である。


 彼らは全力でエンジンを噴かしているつもりなのだろうが、その轟音は耳元をかすめる夏の虫の羽音と同じ音量でしかなかった。しかも速度が遅すぎて、動いているかどうかさえ判断がつかないほどだ。


「お騒がせして申し訳ありません。ですが、危害を加えるつもりはありませんので……」


 私はできるだけ穏便に声掛けをするつもりだったが、それが伝わるはずもなかった。

 私の声に反応してか、中央の編隊が旋回してくると、翼端から細い白線を引いた。それがミサイルだと悟ったときには、すでに弾頭が私の膝元で炸裂し、火花とともに微かな衝撃が肌を撫でた。


「やだ、攻撃してきたの……?」


 苦笑混じりにつぶやく。すると、別の方向からも戦闘機が雲霞のごとく襲いかかる。ミサイルや銃弾の雨が私を包み込むが、それは砂利程度の硬度にすぎず、私の脚肌に触れただけで粉々に砕け散った。


「ごめんなさいね、怖がらせて……」


 私は彼らを刺激しないように、努めて穏やかに、声量を抑えた声で語りかけた。だが人間たちにはきっと、巨像の喉奥から漏れる地響きのようにしか聞こえないだろう。

 足元では、爪先の前方で待機していた戦車隊から一斉射撃が始まった。彼らの大砲が放つ弾丸が、私の足の指に命中した。けれど衝撃は紙で殴られるよりも弱く、痛みというより、くすぐったさに近い刺激だった。

 彼らはまさに蟻だ。砂漠の真ん中で、小山のような怪物と遭遇した哀れな生物の群れ。それでも彼らは必死に抵抗を続けようと、次々と装備を切り替え攻撃してくる。だが効果はない。私はただ突っ立っているだけなのに。


 ただ、こうして攻撃され続けられるのはいい気分ではない。痛みは無いけど、私がやらかした事を、こうチクチクと責められているようで精神衛生上よろしくないし。


「うぅ……もうやめてほしいんだけどなぁ」


 こちらに敵意はないのに、彼らは一方的に攻撃を加え続けている。そりゃ、私が歩いたり倒れたりしたことで、この一帯を破壊してしまったのは認める。でも私もわざとしたわけじゃなく、不可抗力でこうなってしまったわけで……。


 人間だれしも酔っ払って失敗してしまう時はあるもので、私だって同じ一人の人間なのだから、多少の失敗をしてしまう時だってある。

 それなのに、こんなにしつこく報復を受けなければならないなんて理不尽ではないか。


 それに、二日酔いでも嘔吐もしていないことに少しは感謝してもらいたい。

 だって、今この大きさで吐いたら、どうなることか。私が使えるトイレなど存在しないし、もしも嘔吐したら、この辺り一帯は……


あれ………トイレ?

……

…。


 何と言う事だ。今まで混乱しておりすっかり忘れていた。

 毎朝起きてすぐ行く場所……トイレ。そこで済ます行為……つまり、、、



 おしっこしたい……。



 その認識が脳裏に浮かんだ瞬間、しばらく行っていないことに気づいてしまった。

 それは、途轍もない生理的欲求となって私の腹内で渦巻き始めた。


「っ……!」


 限界まで膨らんだ膀胱から湧き上がってくる強烈な尿意が私の下半身を支配しようとし、私は思わず眉をひそめた。

 そうだった。私は昨晩からずっとトイレに行っていないのだ。人間と同じように食事をとって活動をしている以上避けられない自然の理だ。

 特にアルコールの分解で消化機能が過剰に働きやすい状況が事態をさらに悪化させてしまった。だからこうして排泄要求が加速するのは必然ともいえる。

 でも、ここで催してしまったのでは困る。もしもここで漏らしてしまったら……この街一帯があっという間に私のおしっこで埋め尽くされてしまう。

 そんな惨事になったら本当に取り返しがつかなくなる。

 何とか耐え忍ぶしかない……。


「お願い、もうちょっと耐えて……」


 両手で股間を抑える仕草は、傍から見れば何とも無様だったろう。しかし私は真剣だった。

 156kmという巨体ゆえ、その膀胱内だけで広大な湖沼並みの水量を持つ。ここで溜まったものを解放するということは、すなわち湖畔崩壊と同じくらいの自然災害級の氾濫を意味する。


 だからこそ、決してここで粗相をしてしまうわけにはいかない。なんとしても堪えなければならない。

 でも……そう思えば思うほどに腹の底で沸騰する尿意は増してゆくばかりなのだ。


「うう……!もう……っ」


ギュッと目を瞑り拳を強く握りしめた時だった。

 さっきまで私を攻撃してた戦闘機たちが、再度集まってきているではないか!


(え……また来たの……!?)


 苛立たしげに舌打ちしつつ首を巡らせる。空には数多の点が散らばっていた。

 どうやら私が大人しくしている隙に、次なる波状攻撃を準備したようだ。だが今の私にとって彼らは、ただ迷惑な羽虫以上の何物でもない。


「ちょっともう……本当に邪魔しないでよ……!」


 苛立ち紛れに叫んだその瞬間──。

 両手で押さえている私の陰部付近を、戦闘機の群れが旋回して攻撃を加えはじめてきたのだ。


「ちょっ、やめて!そんなとこ撃たないでぇ!!」


 彼らは器用に私のスカートをくぐり抜けたあと、下着越しに陰唇に触れる位置へ攻撃を命中させた。


「ひゃん!?」


 小さな破裂音と共に甘美な電気が走り抜ける。

ただでさえ敏感な部位へダイレクトに浴びせられる連続した快感に思わず声を上げ、恥ずかしさと快感が入り混じった感情に襲われる。

 生理現象としての尿意だけでなく、性的興奮に似た錯覚までもが膀胱を収縮させようとしていた。その結果、膀胱壁に貯められた水圧は臨界点を迎え、出口を求めて暴れ出した。


「だめっ!漏れちゃうぅ!!」


 絶望的な悲鳴と同時だった。括約筋に走っていた緊張が解かれ、導管を通って黄金色の奔流が解放されようとしている。

 もうダメだ。我慢できない。

 私はしゃがみながら、スカートをまくり上げ、下着を一気に下ろしてしまうと、股間から水流を迸らせる準備に入った。


「みんなごめんなさい!!出ちゃいます!!」


 謝罪の言葉とほぼ時を同じくして、股間の先端から勢いよく放たれた透明な液柱。それは天の川銀河を髣髴とさせるような壮大さで空中へ飛び出した。


 ぷしゃあああぁぁ………♡


 10万倍という巨大さによって得られる驚異的な質量流量が生み出す水圧は、致死的な破壊力を秘めている。その激流は私の脚の間を通り抜け、都市中心部へ向かっていった。


「あぅっ、すみません。仕方なかったんです……」


 私の口から漏れる謝罪の言葉は、しかし、眼下で起こっている現実には何の意味も持たなかった。


 しゃがみ込んだ私の股間から放たれた黄金色の奔流は、まず初めに、超高層ビルが林立する都心のビジネス街を直撃した。

 放物線を描いて落下した最初の一滴——いや、一滴と呼ぶにはあまりにも巨大な、直径数百メートルはあろうかという液体の塊が、地上600メートルの超高層タワーの頂部を捉えた。


 熱したナイフがバターを切り裂くように、鉄骨とガラスで構成された建築物は、私のおしっこの前に一瞬で崩れ去った。最上階から順に、階層ごとおしっこの水柱に押し潰され、粉砕され、黄金の濁流に巻き込まれて消えていく。


「あらあら……」


 けれども、尿道括約筋はもはや私の意思では制御できず、溢れ出る黄金水の勢いは増すばかりだった。

 巨大な堰を切ったように噴き出した尿流が地面に接触すると、あらゆる建物が破砕され、破片は四方八方へ飛散し、周囲を飲み込んだ。

 それまでの都市の風景は一瞬にして消え去り、代わりに現れたのは圧倒的な量の黄金色の液体で満たされた巨大な水域だった。


 ビル群は、まるで砂の城が波に浚われるかのように、根元から押し流されていった。 

 高さ200メートルを超えるオフィスビルが、黄金の津波に基礎部分を掬われ、そのまま横倒しになって隣のビルに倒れ掛かり、二つまとめて濁流に飲み込まれる。


 人々は逃げ惑っていた。

 地上では、蟻よりも小さな無数の点たちが、必死に車を走らせ、徒歩で路地を駆け抜けていた。

 けれども、その逃げ足はあまりにも遅すぎた。

放物線を描いて降り注ぐ私のおしっこは、彼らの頭上に巨大な黄金の天蓋となって覆い被さり、次の瞬間には全てを押し流していた。


 車も、バスも、トラックも、逃げ遅れた人々も、何もかもが一緒くたになって濁流に巻き込まれ、ビルの瓦礫と共に押し流されていく。

 黄金色の水面には、無数の黒い点、おそらくは人間が浮かんでは沈み、やがて見えなくなった。


「……ごめんなさいね、溜まってたから、ちょっと多いかも」


 私はその光景を、ただ俯瞰的に眺めていた。

 巨大な水たまりが広がっていく様子は、上空から見ればまるで黄金色の絵の具を零したかのようだった。

 その絵の具は、街路を伝って放射状に広がり、次々と新しい区画を飲み込んでいく。


 駅前の繁華街が消えた。

 百貨店も、映画館も、飲食店が立ち並ぶアーケード街も、郊外のショッピングモールも、全部私のおしっこで平等に押し流された。

 時折、水面から突き出た高層ビルの上層階だけが、孤島のように残っているのが見えたが、それも水圧で基礎が削られて、やがて音を立てて崩れ落ちていった。


「んっ……!」


 私はおしっこ中の生理的反応で「ぶるっ……♡」と小さく身を震わせた時、思わず腰も一緒に少し動かしてしまった。

 すると、放尿の軌道が変わり、今度は住宅街の方角へと黄金の奔流が向かってしまった。


「あっ! 違う、そっちは……!」


 私が声を上げるより早く、静かな住宅地に激流が襲いかかった。

 一戸建ての家々は、飛び散る飛沫を浴びて脆くも崩れ去り、マンション群は根こそぎ倒壊して水面に沈んでいった。

 学校も、病院も、公園も、すべてが黄金色の濁流の下に消えた。

 校庭に避難していたのだろうか。小さな点の集団が一瞬だけ視界に入ったが、次の瞬間には水面に呑まれて見えなくなっていた。


「あぅぅ……ごめんなさい……わざとじゃないんです」


 私は泣き声で謝罪を繰り返したが、それでもおしっこは止まらない。

 膀胱に溜まった膨大な量の尿は、まだまだ尽きる気配を見せなかった。


 放物線を描いて落下し続ける黄金色の液体は、やがて川に達した。

 多くの水量を誇り、船舶も航行出来るほどの川幅もあるその大きな河川は、瞬く間に水位を増し、堤防を越えて氾濫を始めた。

 もともと川沿いに広がっていた低地の工業地帯は、あっという間に水没し、工場群や倉庫群が次々と濁流に沈んでいった。


 河川を遡上した黄金の洪水は、支流にも流れ込み、周辺の田園地帯をも飲み込んでいった。

 広大な水田地帯が黄金色に染まり、農家の集落がひとつ、またひとつと水面下に消えていく。


「はぁぁ……♡」

(ずっと我慢してたから、気持ちいい……♡)


 申し訳ないと思いつつも、私は思わず官能的な声を漏らしてしまった。

 排尿の快感が、全身をゾクゾクと震わせてくるのだ。

 今や謝罪の言葉よりも、快楽の方が正直勝っている。


 さらに放尿が続くと、黄金色の奔流はついに海にまで到達した。

 港湾施設は押し流され、停泊していた貨物船やタンカーが横転し、コンテナが無数に水面を漂い始めた。


 湾内には巨大な渦が発生し、周辺の船舶を巻き込みながら黄金色に染まっていく海。

 その光景は、あまりにも非現実的で、あまりにも恐ろしかった。


「あ〜ぁ……海まで行っちゃった……」


 私は呆然と呟いた。

 私のおしっこは今や内陸部に巨大な湖を形成し、新しく生まれた河川を経由して、海にまで到達して沿岸部を黄金色に変えつつあった。


 そしてなおも尿は出続けている。


「まだまだ出るみたい……」


 私は苦笑いを浮かべ、自分の下腹部を見つめた。私の膀胱にはいったいどれだけの尿が溜まっていたというのか。

 昨晩飲んだワイン二本と、その後に飲んだビール数杯。そして就寝前の水。それらがすべて、今この瞬間に清算されているかのようだった。


 やがて、10秒ほど経っただろうか。ようやく尿の勢いが弱まり始めた。

 滝のような奔流が細くなり、やがて滴になり、そして止まった。


「はぁ……はぁ……ふぅ……」


 長かった放尿の嵐がようやく収まると、あたりには奇妙な静寂が戻ってきた。

 ただ、その静寂は平和なものではなく、あまりにも多くのものが破壊し尽くされた後の、虚無だけが支配する世界だった。


 私は恐る恐る股間を覗き込んだ。


 そこには、かつて数百万の人々が暮らし、煌びやかなネオンを灯し、車の波が行き交っていた大都市があったはずだ。

 けれど今、私の目に映っているのは、地平線の彼方まで果てしなく広がる黄金色の海だけだった。


 湯気が立ち上るその水面は、アンモニアを含んだ強烈な匂いを放ちながら、ゆっくりと波打っている。

 まるで琥珀色の絵の具をぶちまけたかのようなその濁流の中には、かつて人々の生活の一部だったものたちが無残に浮かんでいた。


 高さ300メートルを誇っていたランドマークタワーの屋上部分だけが、ポツンと孤島のように水面から突き出している。

 しかし、その壁面は私のおしっこの水圧で鉄骨がむき出しになった惨めな姿を晒していた。

 他にも数十棟あったはずの超高層ビル群は、基礎ごと流されたのか、あるいは水圧で押し潰されたのか、もうどこにも見当たらない。


 水面には数え切れないほどの瓦礫や車両、そして転覆した船舶などがゴミのように漂い、時折パシャと小さな水音を立てては、黄金の深淵へと沈んでいく。

 かつて活気あふれる商業地域だった場所も、閑静な住宅街だった場所も、緑豊かな公園だった場所も、すべてが等しく私の排泄物の下に敷き潰され、区別がつかない泥水と化していた。


「うわぁ〜……」


 私は思わず、間の抜けた声を漏らした。

これはさすがに……ちょっとやりすぎちゃったかもしれない。


 時間にして僅か数十秒足らず

 それなのに、あれほど広大だった大都市が、その全てを失い、黄金色の水たまりに変わってしまっている。

 さっきまであんなに沢山の箱みたいな建物がぎっしり並んでいたのに、今はただ一面に広がる黄金色の水面だけ。

 波がうねるように揺れるたび、浮いていた残骸がザブザブと岸に打ち上げられ、湖面に顔を出していたビルか何かが崩れる鈍い音が微かに響いてくる。

 これが全部、私のおしっこで出来てるなんて……。

 信じられないけど、本当なんだ。


「やっちゃったなぁ〜……」


 頬をぽりぽりと掻きながら、私は苦笑いを浮かべた。

 正直なところ、実感があまり湧かない。

 地面を見下ろしても、そこにあるのはただの水たまりで、中で何かが蠢いている姿なんて肉眼じゃ確認できないくらいしかない。

「あ、やっちゃった」っていう軽い後悔と、「まあいっか」っていう諦めが入り混じったような気分。


 彼らにとっては大災害だろうけど、私からすればただ用を足しただけだし。

 背に腹は代えられなかったし、しょうがないよ。


「みなさ〜ん、ごめんなさいね〜」


 私は軽く手を合わせて、お詫びの言葉を述べた。

 もちろん返事が返ってくるわけでもない。だって、みんな水の中だろうし。


「ちょっと出し過ぎちゃったですかね?でもね、おしっこって我慢すると身体に悪いから仕方ないんですよね?あははっ」


 誰もいない空に向かって、私は言い訳を並べる。

 深刻な事態だというのは頭では分かっているんだけど、成層圏の高さから見下ろすこの光景は、どこかゲームとか映画とかのCGみたいで現実味がない。

 それに、スッキリしたお腹の軽さと解放感が心地よくて、罪悪感なんてものはすぐに薄れていってしまった。


 数千万人、あるいはそれ以上の人々が住んでいた都市が、たった一度の放尿で完全に水没してしまった。

 私がお酒を飲み過ぎたせいで。

 私が酔っ払って巨大化してしまったせいで。

 私が朝起きてトイレに行かなかったせいで。


 本当に申し訳ない事をしてしまったと、反省はしている。

 でも、今となってはどうしようもない。


「まあ、そのうち乾いたら元通りになるでしょ? 水はけも良さそうだし」


 適当な慰めを口にしながら、とりあえず私は、股間についていた雫を振り落として、綺麗になったところで立ち上がり、下着とスカートを整えた。


 さてと……これからどうしようかなぁ……


 おしっこを済ませてスッキリしたところで、何処からか、ぶるぶると大きな振動音が聞こえてくる。

 見回してみると、遠くに巨大なスマホが地面に横たわったまま振動しているのが目に入る。


 どうやら地面の揺れは、それが原因で発生してるようだった。

 ……あれは、私のスマホ……!


 その事に気が付いた私は、即座に駆け寄る事にした。

 その際、道すがら、たくさんの街や建物を踏み潰してしまう結果となったが、私のおしっこで街が巨大湖になった事に比べたら些細な犠牲だと思う事にする。


 ……ごめんね。


 心の中で謝罪しつつ、私は地面に横たわる巨大なスマホを拾い上げた。


「誰からかな?」


 ディスプレイを確認すると、着信相手は夫だった。

 電話に出てみると、彼は慌てふためいた様子で今の状況の説明を求められたので、できる限り丁寧にわかりやすく説明することに努めた。


「……という訳で、昨日飲んで起きたら、元の大きさに戻って、こんなことに……」

『……そんな、お前が宇宙から来た巨人で、酒を飲んで起きたらこうなって……って』


 彼が何かを言い切る前に、電話の向こうでバタンと彼が倒れた音が聞こえてきた気がした。

 何度呼んでも返事が無い。

 どうやら気絶してしまったらしい。


 ありゃりゃ……まあ……とりあえずは迎えに行ってあげたほうがいいだろう。


 そう思った私は、地面に落ちていたサンダルを履きなおして、歩いて夫の出張先へと移動を開始した。

 移動途中、いくつもの山脈を超えながら、いくつもの街や村などを踏みつぶしてしまったが、これも仕方がない事と諦めるしかなかった。

 そもそも私を止められるものなどこの星には何もないのだから……。

 この姿で彼にあうのは初めてだ。私の姿を見たら、彼はどんな表情をするのだろうか。


「楽しみ♪」

七重山吹 PIXIV FANBOX 127 favs
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POSTEDJun 18, 2026
ARCHIVEDJun 18, 2026