その日、井田結人は日が高く昇ってから暫くしてようやく目が覚めた。今日は学校も休みのうえに、部活やバイトもしていないのだから特に急いで目覚める必要はなく、怠惰な休日を満喫してもよかったのだが、彼の様子からはそうは見えなかった。
はっと体を起こして、スマホの画面を確認してみると、2時間以上も前から10分ごとに不在着信が貯まっていた。
ーーしまった!!
結人は心のなかでそう叫んだ。着信の主は全て同一の名前で、朱莉と言う名前で登録されている。ここまで矢継ぎ早に連絡をいれているのだから、恋人かと思ってしまうが実はそんな物ではない。
いや、恋人と同然の存在といってもいいのかもしれない。
「まずい、間に合ってくれ!!」
結人はそう叫びながら、テレビの電源を入れる。画面に映し出されたのは、都心に出現して暴れているという巨大生物。四足歩行の尻尾の長い亀のような生き物で、回りのビルから推察すると体長は300m、体高は150mもあるのではないだろうか?
そんな怪獣が、ビルをなぎ倒しながら都心の街を蹂躙している。これは特撮でも、CGではなく本物の映像だと日本人レポーターの悲痛な実況が聞こえる。つまり今この日本のどこかでこのような怪獣の蹂躙劇が起きているのだ。
レポーターと映像から察するに、怪獣がでてから大分時間が経っているようだ。結人は大きくため息ひとつつくと、スマホの不在着信から朱里へと折り返しの連絡をした。すると、3コールもしないうちに電話口に穏やかな口調をした少女の声が聞こえてくる。
「はい、もしもし」
「すまん、朱莉。寝過ごした……」
「いえ、結人様は悪くありません。むしろこの星のために体を張って要らしているのですから、謝る必要はなどないのですよ」
「うん、でも俺が寝過ごさなければ被害は少なくなったのかなと思うと……」
「過ぎてしまったモノは仕方ありません。それでは結人様、よろしいのですね?」
電話口の結人を労るかのように、朱莉は穏やかな調子で問いかけてくる。その優しさに思わず鼻の奥がツンとなるが、結人はそれをぐっとこらえる
「ああ、頼む……。寝過ごした俺が言うのも何だけど、出来るだけ被害は少なくしてほしい……」
「はい、結人様の希望ならば喜んで」
そして、電話は切れた。
結人はもう一度ため息をつくと倒れそうなほどの目眩が襲ってくるが、まだ倒れるわけには行かない。体中の気力を振り絞り、スマホの連絡帳に登録された『巨大生物対策委員会』の宛先にメッセージを送る。フリック入力しているが、何度も同じ文面を送っているからか、予測変換が上位に出てきて、すぐに送信できた。
送信内容は怪獣出現場所、巨大生物の進行方向等が書かれているが、一番重要なのは被災している市民の避難先と、朱里が出撃したことを伝える内容だった。
ズドオオオオオン!!!
連絡をするのと同時に、すさまじい轟音と共に結人の家が激しく揺さぶられる。
「うわっ」
あまりの振動にベッドから落ちそうになるが、とっさに手を出し体を支えたおかげで落ちなくて済んだ。
この振動は間違いなく、朱里が巨大化して出撃した際に起きる振動だ。結人とはつけたままのテレビに視線を移す。そこに映っているのは先ほどの怪獣とそれよりもはるかに巨大な姿の少女。
あれが、さっきまで電話で話していた少女、朱里。突然結人の前に現れ、地球を守る巨大な戦士。全長300mを超える怪獣と相対する朱里の姿は、あまりにも巨大だ。
その巨体はまさに山といっても過言ではなく、戦闘時の大きさは街の状況や相手によって変えることが出来るらしいが、今回は150mほどの体高の怪獣が朱里の膝下に届くかどうかの大きさ。
たぶん、結人たちの500倍、約800mほどの大きさに巨大化したのだろう。
「この振動だと、ここから遠くなさそうだな」
結人は、何度も経験した巨大化した朱里による人工地震の規模で、彼女がこの近くで戦っているのではないかと推測することが出来た。ならば、ここでなく朱里の近くまで行ってあげた方がいい。
戦う彼女をそばで応援するのはもちろんの事、地球人ではどうすることもできない圧倒的な力を誇る彼女が余計なことをして、被害が大きくならないように見守る必要もある。
なにせ、この星どころか無限とも言える宇宙の中でも、最強クラスの種族の朱里を止めることが出来るのは結人ただ一人だけなのだ。
「よし、行こう」
そう呟いてベッドから飛び起きる。そのまま自転車にまたがると結人の所へと一直線で走り出した。この辺りは、まだ道路は被害が少なく、渋滞もひどくないから自転車でも問題なく進むことが出来る。
半年前からよく日本に出没するようになった巨大怪獣たちがその被害を広げるのと同時に、市民たちも速やかな避難が出来るよう訓練したため、避難にも時間がかからないくらいに行われるようになった。そのおかげで、日本全体が怪獣の脅威にさらされながらもパニックにならず生活を続けている。
もっとも、この怪獣被害の多くが日本を中心になっているのも朱里と唯人が原因なのだが、そのことは今はどうでもいい。
「あれか……」
そして、ようやく巨大化した朱里の姿が見えてきた。銀色のミディアムショートヘアの彼女の格好は動きやすい黒と黄色を基調とした陸上競技のユニフォームのような格好に、ショートスパッツを履き、足には赤いスニーカー。まるで運動をするかのような服装だが、何を着ていても戦闘に問題ない彼女にとって、服装は何でもいいようで動きやすさを重視しているらしい。
シンプルな服装がゆえに朱里の女性らしい身体つきを良く見せてしまう服装。若々しく張り出した胸やお尻といった美貌につい見とれてしまいそうにもなる。
そんな朱里の前にいるのは、全長300mの巨大怪獣。目の前に現れた巨大少女に対して、明らかな敵対心をむき出しにしている。
「うわっ!? もうこんなところまで!!」
すでに市内は壊滅状態であり、ビルや道路に電車といったものは瓦礫と化し無残な姿を晒している。まだ被害が少なかった地域では人々が逃げまどい、道路はパニック状態に陥っていたりもしていた。しかし、巨大な朱里はそんな町の状況など一切気にした様子はない。
怪獣の動きを止めるために、その巨体をズシン、ズシンと胸を張り、勇ましく歩き進めては、彼女の周囲の建物をなぎ倒しながら進んでいる。
彼女が歩くたびに大きな揺れが起こり、そのたびに足元の街から爆発や火災が起こっているようだ。
彼女の移動は先ほどの怪獣の被害よりも大きいのかもしれない……。
「うっわ……やばいな」
朱里は怪獣に後ろから近づくと、足を開き、上半身をかがめ、亀の甲羅部分に両手を差し込み、怪獣の身体をがっしりと掴んでしまう。
300m級の巨大怪獣も、朱里にとっては小型犬くらいの大きさでしかない。彼女の手から逃れようと足をじたばたして藻掻く怪獣。だが、朱里の巨体はびくともしない。
それどころか怪獣が暴れることによって周囲の建物や道路が崩壊しているため、彼女の行動は被害を拡大する一手になっているようにも見えた。
怪獣の最大の武器であろう、長い尻尾も朱里の白くふっくらとした太ももをぺちぺちと叩くだけで、まるでダメージが与えられていない。
先ほどまで、ひと振りで無数のビルをなぎ倒し、避難民であふれる大型ターミナル駅に叩き下ろして、一撃で全てを粉砕したあの強力な尻尾も、朱里にとってはまるでただの箒か何かで叩かれた程度のものでしかない。
「さて、いつまでも暴れられても困りますし……そろそろ終わりにしましょうか」
そう言うと、怪獣の身体を高々と持ち上げる朱里。100万トン以上はありそうな巨体をやすやすと持ち上げてしまう。あれほどまでに脅威をふるっていた怪獣が、抵抗むなしく朱里の両手で掴まれてしまい、じたばたと足を動かすことしかできない。
いつもは唯人よりも頭一つ分小さいはずの彼女の身体が巨大化しているのを間近で見ているのに、現実からかけ離れたその光景は、どこか別世界のようにさえ感じてしまう。
「うおあ……すげえ……」
結人とが感嘆のため息をついた次の瞬間、何と朱里が持ち上げていた怪獣をポイっと放ってしまった。
ズズウウウウンン!!
辺りを重い轟音と立っていられないほどの振動が襲う。投げた先は被害が出ていない地区だったが、朱里は気にするそぶりも見せない。
――これは、まずいな……
久しぶりに巨大化したからだろうか、それとも怪獣が出てからずっとお預けをくらっていたからだろうか、どっちにしろ今日の朱里の戦いぶりは地球の街の被害を全く考えていない様子に見える。それどころかわざと被害を大きくしている節も見受けられる。
「早く俺が行って、止めてあげないと」
結人とはそう呟くと、ペダルをこぐ力をさらに入れて、スカイツリーよりも巨大になった朱里のもとに急ぐのだった。
放り投げられた怪獣は仰向けになって、足をじたばたさせている。地球のカメと同様に仰向けになると起き上がるのに苦労する様だ。
朱里はそんな怪獣に近づいてゆく。700mの巨人となった彼女が使える道路は、この街にはほとんどない。片側2車線の幹線道路でさえ、彼女の足の幅より狭いのだから、どこに足を置いても市民とビルの被害は免れない。
しかし、だからなのか、街の被害をまったく気にしない彼女は怪獣に向け最短距離で一直線で歩き始めたのだ。まだ、進行方向には無傷のビルが立ち並んでいるにもかかわらず。
そして、今の彼女は膝の高さだけでも200m近くまで巨大化している。この街の殆どの建物は彼女の膝よりも低い存在なのだ。
全長400mを超す白く透き通った朱里の脚が、軽々とビルを跨ぎ越し、無造作に足を踏み下ろしていく。
ズドオオオオオン!!!
赤いスニーカーが降ろされると、ビルは一瞬で爆発したように崩れ去り、辺りに粉塵が巻き起こる。そして、同様に反対の脚も動き出す。朱里の脚はビルをまるで砂山を潰すかのように簡単に吹き飛ばし、地球の建造物など、進行を妨げる障害として認識している様子もまるでない。
「……」
そこに市民がいようと、車がいようと、ビルがあろうと、表情一つ変えずに、怪獣に向かって淡々と歩を進める。
朱里にとって、地球の建物など空き地に生えた雑草程度のものでしか思っていないようだ。だとすれば、そこにいる人間たちなどは草むらにいる虫かそれ以下の存在としてみているのかもしれない。
とにかく、朱里は怪獣を退治してはくれるが、地球人を守るといった事は全くしない。その事は今までの経験上、ほとんどの市民が知るところとなっている。
そこで、巨大な戦士を言い聞かせることが出来る結人の存在が必要となるのだが、悲しいことに今日は彼女のそばにいないから、足元に注意を払うよう指示を出すことが出来ない。 それに、事前に巨大生物対策委員会へ朱里が近づかない避難場所を共有する決まりがあったのだが、寝過ごした今日はそれもできていない。
怪獣が出たら、まず身の安全を確保せよ。朱里が出たら、委員会が指定した避難場所にいち早く逃げなさい。
それがこの怪獣災害における市民の行動指針であった。
「グルルルル」
怪獣はうなり声を上げて、藻掻いているが未だに起き上がれていない。そうこうしているうちに、大量のビルと市民を踏み荒らして朱里がやってきた。
彼女はそのまま表所を変えずに、右足を思いっきり振り上げた。そして、そのまま怪獣の腹に向かってスニーカーを勢いよく下ろす。
ズドン!! 彼女のスニーカーは怪獣の腹部を直撃し、怪獣は苦しそうな鳴き声を上げた。背中の硬い甲羅に対して腹の部分は柔らかいようだ。
朱里はそんな怪獣の反応も気にすることなく、そのまま右足を怪獣の腹の上に乗せたまま、ぐりぐりと踏みにじる。その行為に対して、結人が口を挟む必要もなかった。
「グガアアアァァァァ!!」
怪獣の悲鳴がその場にこだまする。それを全く気にする様子もない朱里は、何食わぬ顔で再び、足を振り上げ、怪獣の腹に叩きつける。
ズドオオオオン!!これまでで一番大きな振動が街を揺さぶる。さらに朱里はまた足を上げて、振り下ろす。何度も、何度も、何度も、怪獣の腹を蹴り続ける。
「グルゥ!! グガアアァァ!!」
怪獣はそのたびに悲鳴を上げるが、朱里はそれを一向に気にする様子も見せずにひたすらに蹴りまくる。その度にビルと建物が崩壊していき、粉塵が巻き起こる。さらには怪獣の身体が段々と潰れていく音が聞こえてくるから、彼女がどれだけ力を加えているのかがよく分かる。
そんな一方的な攻撃によって、怪獣の腹はぐちゃぐちゃに潰れてゆき、鳴き声もしなくなってきた。
遂に終わりを迎えたようだ。地球の軍隊ならば総攻撃出迎えたとしても、退治に数週間はかかってしまう巨大怪獣をものの数分で始末してしまった巨大少女朱里。
怪獣退治など大したことがなかったかのように、彼女も足踏みを止めてきた道を振り返り、歩き出そうとする。ひと仕事を終えたので帰ろうとしているのだ。
だが、彼女の歩く先には避難が完了していない市民が犇めき合っている。700mの巨人の朱里がそこを歩けばどうなるかなど火を見るより明らかだ。
「朱里!!」
結人は慌てて大声を上げて彼女を止めようとした。ようやく彼女に近づいた結人は委員会から借りていた、街の防災無線を使うことが出来るトランシーバーを入れて朱里に呼びかける。
足元から、蚊の羽音みたいに小さな音で、不快な雑音ばかりのスピーカーから聞きなれた声がしたのであたりを見渡す朱里。
そして、愛しい彼との会話をするために、耳にしている超小型の通信機を起動させて、会話を試みる。
「あら?結人様。もうこちらにいらしたのですか」
「ああ、お疲れ様。朱里。今日も戦ってくれてありがとう」
「いえ、これも結人様のためですもの。いつも戦っているような怪獣ですから、特に苦労はありません」
「そう言ってもらえて嬉しいよ。でもさ、ちょっとお願いがあるんだ」
「何でしょうか?」
結人がお願いごとをしようとすると、彼を見つけた朱里がズシン、ズシンと近づいてくる。当然足元の市民は全く気にしていない。
「ああ!待って朱里!」
「?」
「ま、待ってくれてありがと。でも、まだ君の足元には避難できていない人たちがたくさんいるんだ。だから、歩くのはもう少し待ってくれるかな?」
「ああ、これですか」
朱里は、踏み下ろそうとした地面を見つめ、足元でうじゃうじゃと動き回る市民にやっと気づいた。
数千人が大挙しているその道路も、巨人の彼女から見たら米粒以下の大きさの虫が列をなしている程度の大きさにしか思えないのだろう。
地球人だって、歩いているときにアリの行列を見つけたからといって歩みを止めて、ましてやアリたちが立ち去るまで待つ人間なんていない。
今、朱里はそれと同じ状況にいる。そんなアリごときのために歩みを止めたのは、他ならぬ結人の頼み事だからだ。
「そう、みんな朱里のおかげで怪獣を退治してくれて感謝しているんだ。だから、もう少しだけ、あと少しだけでいいから、歩くのを我慢してほしいんだ」
「……運動して、汗もかいているし、出来れば早く帰ってシャワーを浴びたいのですが」
「あ、ああ。それはわかる。分かるんだけど……」
「結人様ならともかく、他の地球人なんてどうでもいいですのに……」
彼女はそう言うと、不服そうな顔をして足を元の場所に戻す。ズズン。鈍い足音が避難をしている市民の体の奥底にまでズシンと響き、目の前の大巨人が無言でこちらを見下ろしてくる尋常ではない圧力に、彼らは恐怖で立ちすくんでしまう。ただでさえ、不満そうな朱里がそんな小人の様子に苛立ちを隠さないのはすぐにわかった。
「はぁ、こっちは虫けらみたいなあなた達のために足を戻してあげたのに、なぜ歩みを止めるのですか?踏みつぶされたいなら、喜んで踏みつぶしてあげますよ?」
「しゅ、朱里。お願いだから、我慢してくれ……」
「……はい」
「俺は、怪獣を倒してみんなから感謝される朱里が大好きなんだ。もし、ここで歩いたら朱里は怪獣と一緒になっちゃう。それだけはやめてほしんだ」
「……もう一回」
「え?」
「大好きって言った部分、もう一回行ってもらえますか?」
「え……ああ。その、朱里が戦ってくれる姿が、僕は大好きなんだ」
「……もう1回」
「……僕は、朱里が大好きなんだ」
結人は彼女の機嫌をこれ以上損なわないように、言う通りに何度も大好きという言葉を繰り返す。正式に付き合っているわけでないが、実際に朱里はその巨大さに目を瞑れば、最上級クラスの美貌を持っているし、グラビアアイドルだと言っても通用しかねないスタイルを持っている。
それに、性格だって悪くない。たまに我儘なところは目立つが、基本的にはいい子だし、何より結人のお願い事に対して一切嫌と言わない彼女の優しさに思わず甘えてしまうのだ。 なんだったら、好意を寄せている彼女を恋人として認めてあげてもいいくらいだ。
ただ、人知を超える巨大化できる能力と、圧倒的なパワーを持ちながら、結人以外の地球人に対して冷酷なまでの無関心さと、彼らが住む街など戦う邪魔にしか思っていないことが、結人を戸惑わせる最大のネックであることは間違いない。
朱里は結人の言葉を聞いて、少し機嫌が戻ったようだ。
「分かりました。もう少しだけ我慢します」
「ありがとう……本当に君にはいつも助けられてばっかりだ……」
「いいえ、ほかならぬ結人様のご依頼です。無下にはできません」
「はは……」
そうして朱里は足元にいる市民を見下ろし、宣言する。
「いいですか、結人様のご厚意により、あと5分歩くのを止めてあげます。それまでにさっさと避難して、私に踏みつぶされないようにしなさい」
そう宣言すると、巨人は再びズシン、音を立ててその場で足踏みをした。結人の言葉で多少機嫌はよくなったが、それでも虫と同じくらい見下している他の地球人のために自分の行動を制限するのは腹立たしいようで、見下ろす市民を見つめる朱里の目には苛立ちと不愉快さに交じって、怒りが籠っている。
まさに、アリごとき小人の移動のためだけに自分の行動を制限されたのだから、無理もないだろう。
「朱里、怪我をしている人もいるみたいだし、5分は短いかなって思うんだ……」
「……10分。さっさと歩きなさい」
それでも結人のお願いには素直に聞いてくれる朱里。とりあえずは時間を稼げたことにほっと胸をなでおろした結人は、怪我をして歩けない人たちや老人などの手助けをするため、避難民に近づく。
これも、朱里が歩きださないための作戦。いくら我慢の限界でも、どこに結人がいるかわからない人ごみには足を踏み下ろさないだろう。そんな思惑もあるのだ。
だけども、こうした被災した人々に寄り添うのは結人にとっては、なんて事のないいつもの行動に変わりない。
立ち止まって暇な朱里は、身体に埋め込まれた生体コンピューターを使って、結人の姿を探し出す。
彼女の目に見つけ出された結人の姿が映る。彼の表情はとても優しく、市民たち一人ひとりに語りかけ、怪我をした市民に肩を貸して避難先へ誘導している。彼はいつもそうだった。初めて会った時も、学校で会う時も、常にだれかに寄り添い、自然に手を差し伸べてくれる心優しい存在。
この星にやってきて間もない頃の朱里も、彼の優しさには助けられたし、彼にほれ込んでしまう理由の一つでもある。
「(ああ、結人様。なんてお優しい……)」
朱里は、市民から手厚い手助けを受けている結人を見て惚れ直してしまう。そんな彼の優しさに答えるためにも、シャワーごとき我慢して、彼の願いならばすべてそれを聞き入れなければならない気になる。
朱里をはじめとする彼女たちの種族は広い宇宙のなかでも常に最強クラスとして君臨しており、もともと巨大な体躯をさらに大きくして惑星以上にもなることが出来る。
だから、彼女たちの教育機関の中等部を卒業するころには、一族の先兵として様々な星に降り立ち、蹂躙して、支配を広げる。朱里もまたこの星を蹂躙して支配するよう指令を受けてやってきたのだ。
それなのに、彼女が結人に惚れ込み、付き従ってしまうのには訳がある。それは、惚れて仕方のない結人が、100億を超す銀河とそこに住まう数千京とも数千垓ともいわれる生命体の中で、さらに数億年に一度、誕生するかどうかの超天文学的な確率で生まれる、特殊フェロモンの持ち主だという事だ。
そのフェロモンは、朱里たちの種族にしか効力をなさないらしいが、もし彼女たちの一族がフェロモンの持ち主に接近すると、たちまちマタタビを与えられた猫のように骨抜きになってしまう。
朱里も地球の支配と結人の調査のため、女子高生を装いながら結人に接近したのだが、奇しくも結人に骨の髄まで惚れ込んでしまったのが半年前。
それ以後、彼女の一族から、裏切った朱里と結人抹殺のために毎週のように怪獣や刺客を送るが、すべて朱里に撃退されてしまうのだった。
朱里の宣言通り10分経つと、あれほど人ごみであふれかえっていた道路やビルには人の姿が見えなくなっていた。朱里と唯人のやり取りを見ていた警察や消防が駆けつけてくれて、結人の避難誘導を助けてくれたのだ。
ひとまず、警察消防の助けに感謝しつつ、今度はずっと我慢させ続けてしまった大巨人の機嫌を直してもらうべく、結人は朱里にもお礼を言う。
「朱里、ありがとう。朱里が立ち止まってくれたおかげで、たくさんの人が救われたよ」
「そんな事……結人様のおかげだと思うのですが、結人様がそう言おっしゃるのならそうなのでしょう。私は、当然の事をしたまでです」
「はは、でも本当にありがとうね。さ、一緒に帰ろう」
「……お願いがあります。」
「な、なにかな?」
「……帰ったら、たくさんご褒美が欲しいのです」
「そ、そう。何がいい?お、おいしいご飯かな?ははっ」
「……言わなくてもわかるくせに」
「あ、ああ……」
「朱里は今日も暴れたりしないで終わらせました。ほんとなら今すぐにでも、身体の疼きを、この惑星にいるすべての人間とその巣を使い潰して、スッキリさせたいのです」
「朱里、でもそれは……」
「でも、私のお願いを聞いてくださった結人様の為ならば我慢します。だから……」
「……」
「……帰ったら、たっぷり朱里を可愛がっていただけますか?」
そう言って朱里は結人の前で膝を折り、三つ指をついて、顔を結人に近づける。まるで空を覆ってしまうくらいに大きな彼女だが、今だけは目を潤わせて、指の爪よりもずっと小さい男の返事を体を震わせるくらいに、縮こまって待っている。
「わ、分かったよ……」
身長700mの巨大少女から送られるおねだりの視線には到底耐えられるものではないだろう。
結人は戸惑いながらも朱里の要求を聞き入れると、朱里の巨大な唇に自分の唇を重ねるのだった。
「ん……」
結人は両手を精一杯広げて朱里の口づけを受け入れる。チュッと熱い吐息が朱里の唇の間から絶え間なく漏れ続けている。
彼女もいろいろ限界なのだろう。掻きむしりたいくらいに全身が痒いのに、それをひたすら我慢する感覚。かつて朱里に効いた、巨大化して地球の街を襲わないことがそんなに難しいのかと聞いた後に帰ってきた答えを思い出す。
「ぷはぁ、ゴメンね朱里。君の事、もっと考えてあげないといけないね」
そう言って結人は彼女の唾液にまみれた顔を両腕で拭いながら呟く。今、あの巨大な少女は、結人の前でしか見せない彼女の弱気な一面をさらけ出しながら、巨大な身体を縮こませている。
「ごめんなさい……こんなに我がまま言って……」
「そんなことはないよ。地球は君の力に頼らないと僕たちは生きていけないんだから、むしろ僕は君に甘えてばかりだと思うよ」
「結人様……」
「さあ、帰ろうか。帰ったら朱里のお願いも聞いてあげないといけないしね」
「はい、結人様」
「あ、当然だけど、足元には注意してくれよっ!!」
そんな甘酸っぱいやり取りを交わしながら、ズシンズシンと足音を響かせながら帰路に就く二人。
***
家に帰り、地球人サイズにまで縮んだ朱里を、結人は何も言わず家に招き入れる。
結人の家は地上40階建てのタワーマンションの最上階フロア。半年前までは両親と共にごく普通の家に暮らしていたのだが、朱里と出会ってからは、彼女曰く、少しでも背の高い建物に住んでいないと、巨大化してる時に見つけにくいし、謝って踏みつぶしてしまいそうだからという理由でこのマンションに住むことになった。
あの地上最強の少女の頼みなのだ、ここの家賃はもちろん、住んでいた住民だって『快く』明け渡してくれた。
一人暮らしにはあまりに大きすぎるが、本来の朱里にとってはゴマ粒程度の大きさにしか見えないのだという。
「さて、まずはシャワーでも浴びようか……」
そういって、バスルームに行こうとする結人を、朱里は背後から手を引き決して離すことをしない。
「……ここでいいです」
「で、出もここ玄関だし……」
「限界なんです、もう……」
小人になってもその膂力はまったく小さくならない朱里の手は、結人の力では到底振りほどけない。
こうなってしまった朱里は、満足するまで結人の事を離しはしないのだ。
「朱里、分かったよ……」
そう言うと結人は朱里の前に立ち直り、彼女の肩を両手で掴むと、その柔らかな唇を彼女のものと重ね合わせる。
朱里の唇が結人の唇に合わさると、二人は目を閉じて口づけをより深いものにしていく。それは、まるで一つの生き物のようにお互い求め合い、舌を絡ませていくうちに二人の理性は溶けあっていくようだった。
やがて口端から唾液があふれ出し、二人はお互いの唾液を嚥下しあっていく。朱里の舌はようやく待ち望んでいた獲物が飛び込んでくれてたみたいに、結人の舌に押し付けて、成人男性でも顔負けな力で結人の口の中に自分の舌をねじ込んで、結人の口の中の唾液をありったけ吸い込んでいく。
「ん……ふぅ……」
朱里がひとしきり満足したのか、唇を離して大きく息を吐くと、結人も息を荒立てながら唇を離した。二人の口の間からは混ざり合ったお互いの唾液が糸を引き床にボトリと落ちていった。
「さて、その……ご褒美が欲しいんだよね」
「はい……結人様……」
「じゃ、どうすればいいのかな?」
「……たくさん、触ってください……」
そう言うと朱里は両手を広げて結人を受け入れるそぶりを見せる。その姿たるや、本当に可愛らしいハイティーン少女のそれだ。
しかも今は地球人サイズになっているため、158cmほどと唯人の胸に朱里の顔が来るまでの大きさになってくれている。
さっきまで、タンカーですら持ち上げてしまえるほどの大巨人だった彼女が、今では結人の腕の中に納まるくらいに小さくなっている。
そんなギャップもさることながら、抱き寄せた朱里の身体は柔らかく、温かく、それでいて少女らしい優しい香りを仄かに漂わせている。
「朱里……可愛いね」
「……やん、汗かいているので、そんなに嗅がないでください」
結人は抱きしめて、顔を朱里のうなじまで運んで行き、胸がいっぱいになるまで彼女の香りを堪能させてもらう。
朱里は汗のにおいを気にしているようだが、まったく不快感など感じさせない。
「そ、それじゃ触るよ……」
「はい……」
そんなやり取りを交わしながら、結人は朱里の服の中に手を入れていく。その指先は彼女の肌に吸い付くようになめらかに滑っていき、それに合わせて朱里の口から熱い吐息が漏れた。
彼女の体はとても柔らかくて、弾力があって、いつまでも触っていられるくらい気持ちがいいと結人は思った。
「あん、そんなに……」
まるで朱里の身体の感触を確かめながら確かめる様に彼女の身体を触る結人。そのたびに、彼女が艶っぽい声を出してくれるのがすごく嬉しい。
そして、結人は今度はその手を腰元から下腹部に滑らせていく……。
見た目通りに、朱里の身体はどこもかしこも柔らかく、結人の手が吸い付くように彼女の肌の上を滑っていく。そして、ついに……
「ん……」
結人の指が目的地に到着すると、そこに触れた瞬間、ピクンと身体を震わせて反応する朱里。そこはすでに湿っていて、少し触れるだけでじゅぶじゅぶと音を立ててしまうほどであった。
「濡れてるの?」
「……ん、はぁ♡ずっと我慢していたものですから……。それに今、すぐそばに結人様がいると思うと、それだけで身体が熱くなっちゃうんです……」
「そっか」
「こんなはしたない朱里でも、見捨てないでいてくれますか?」
「あたりまえじゃないか……こんなに可愛い姿を見せられて、僕が君を嫌いになるわけないだろう?」
「結人様……」
二人はお互いに潤んだ瞳で見つめ合いながら愛を確かめ合う。そして、その口づけを交わしながら、今度は指を彼女の股の間に差し込んでいく結人。
そこはすでにとろりとした蜜をたくさん蓄えていて、結人の指を迎え入れると、きゅうきゅうと吸い付くように収縮をして、その奥の熱い肉壁をさらに強く締め付ける。
「ん……結人様ぁ……」
朱里は嬉しそうに声を上げながら、結人からの快楽を一身に受け入れる。結人が指を動かすたびにどんどん蜜壺からあふれ出る愛液で手はずぶ濡れになっていくが、彼女は切なさそうに声を漏らして、もっと、もっととせがむように結人が動かす指に腰を振って合わせていく。
彼女のその反応とは裏腹に、結人は朱里を焦らす様に撫でるばかりで、服をめくり上げて露わにした胸にも結人の吐息をかけてばかりで、その胸の先を舐めようとはしない。
「あん、はぁ、結人様は、本当に焦らすのが好きなお方なのですね……」
「そうかな?」
「はい、先ほども街での戦いも、もっと激しくしたいのですが、結人様が見ていると思うと我慢せざる終えなくて……」
「……」
「もう、あの時も、小人を蹴散らして、少しでもモヤモヤを発散させたかったのに、結人様ったら、私に『待て』と」
「うん……」
確かに、朱里の種族としては小人を蹂躙する。それが普通の事なのだろう。それをわかったうえで、朱里には我慢してもらわないといけない。
だから、そんな彼女への罪滅ぼしかもしれないが、結人は彼女の求めには全力で答えるつもりだ。
結人は彼女の胸の先に口づけをすると、それを口いっぱいに含んで吸い上げる。
「あぁん♡はぁん♡」
待ちわびた刺激に朱里が大きく体を震わせ嬌声を上げる。そして、それと同時にさらに股下から大量の蜜があふれ出てきて、それを感じた結人も胸を吸う力を強くして舌も激しく動かしてやる。
「あはぁ……結人様ぁ……すごいですぅ」
朱里は結人の肩に手を置くと、もっともっとと言わんばかりに胸を押し付けて、更なる快楽を求めだす。
「はぁ……ん♡」
結人は口いっぱいに頬張った彼女の胸をまるで飴玉をしゃぶるみたいに舌の上で転がし、時折吸い上げると、そのたびに彼女は甘い吐息を漏らしていく。そんな小さな胸に吸い付いている結人の姿が愛おしくて仕方ないのか、結人の頭を両手でガシっとつかんで離さない。
結人の唾液でびちょびちょになってしまった胸を放すと、そこにはてらてらと光る小さな山が出来上がっていた。
「あぁ……結人様ぁ……早くぅ……」
「ああ」
結人は朱里の片足を肩に担いで、彼女を壁に寄りかからせ、その股間に屹立したそれを突き立てていく。
「んはぁ……すごい、結人様のが入ってくる」
すでに興奮していた二人は、今まで我慢してきたことが嘘のようにあっさりと繋がってしまう。そして次の瞬間にはもう激しく腰をぶつけ合いだす二人であった。
「あぁ〜♡いいっ!もっとぉ!」
「くっ、朱里の中すごい気持ちいいよ」
「嬉しい、結人様ぁ!」
彼女の中は熱く、そしてきつく、それでいてトロトロの蜜で満たされていて、その締め付けが結人のそれを絞り上げる。まさに名器と呼ばれるにふさわしいほどの感触に結人も歯を食いしばって必死に腰を動かして朱里を突き上げていく。
「あん♡もっとぉ♡」
「朱里っ、ちょっときつすぎ……」
「ああん、だってぇ……結人様がぁ♡結人様のおちんちんが入ってくるからぁ♡」
朱里の締め付けに、すぐにでも行ってしまいそうな結人。でも、朱里もこれでもかなり力を抜いている方なのだ。本来であれば、地球上のどんな建物よりも巨大な朱里。1000倍以上の巨体を誇る彼女の割れ目は、人間が作り上げた物なら何でも飲み込んでしまえる。
実際、地球に来る前に蹂躙していた惑星で遊んだ時には、スカイツリーによく似た電波塔をディルド代わりにして、挿入していたこともあった。
原住民ご自慢の高層建築物を使ってのオナニーは、爽快感と弑逆心と優越感、背徳感、その他いろいろな倒錯的な感情が朱里の心を震えさせてくれて、気持ちがいい。
そんな、電波塔も彼女が軽く膣にきゅっと力を入れただけで、ぐしゃぐしゃに潰してしまう。人間たちの最高技術を詰め込んだ高層建築物も、朱里が使うと3分持たないのだ。
そんな頑丈な電波塔でさえ潰してしまえるほどの怪力を誇る朱里の肉壺。思いっきり膣を締め上げて中イキしたいのに、力を入れてしまえば結人のモノが壊れてしまう。だから、ぐっと我慢を続けているのだ。
……それなのに、それなのに、もっと力を抜けと結人は言うのだ。
「ああ!!結人様!!これ以上朱里をイジメないでぇ♡」
「だって、こんなに強く締め付けられるとすぐにイッちゃうよ……」
「朱里は、結人様のものが壊れないよう堪えているのにっ!いっぱい膣イキしたいのにっ!でも、そんなことしたら結人様のが、小人の電車みたいに壊れちゃうからぁ!!!」
朱里の割れ目からヨダレのように流れ出る愛液はどんどん量を増していき、彼女の下腹部に水たまりを作っていく。
「あぁん♡もうダメェ♡」
ついに朱里の我慢も限界が来てしまう。そして、それと同時に結人の腰の動きにも激しいものが加わる。それはまるで獣同士の交尾のような激しさで、二人は絶頂に向かって駆け上がっていく……!
「朱里っ!!そろそろ……」
「はいっ!いってぇ!!!朱里のおマンコにたっぷり出してくださいぃ♡」
「うッ」
結人は限界まで腰を打ち付けて、そのまま最後の一突きを子宮に向かって叩きこむと、一気に絶頂へと駆け上がっていった。そしてその瞬間に朱里も限界を迎えてしまい……。
ドピュッドピュー!!ビュルッ!ドプッ!ビューーーー!!!! 結人も朱里も盛大に潮を吹きながら絶頂を迎えてしまったのであった。
「ああ♡熱い、いっぱい出てるぅ♡」
結人は絶頂を迎えた彼女の締め付けに、そのまま何度も絶頂して潮を吹き上げた朱里の割れ目の中に精をぶちまける。それは今までで最高の快楽だっただろう。
ーーこれで朱里も満足してくれたかな?
しかし、巨大戦士の性欲はそんな結人の想像をはるかにしのぐものだった。
「はぁ、お腹いっぱい出されちゃいました♡」
「うん、朱里が気持ちよくしてくれたからだよ」
「あん♡嬉しい♡♡それでは続きはベッドで致しましょう!」
「えっ、まだするの!?」
「当然です。まだ結人様のものを舐めさせてもいただいてませんし、この胸でのご奉仕もまだです」
「えええ」
「疲れてしまっても問題ありません。私が上に乗り、結人様は天井の染みを数えているだけでも結構ですから♡」
「それ、オトコのセリフ……」
「さあ、そうなればすぐにでもベットへ行きましょう。結人様♡」
朱里はそう言って、結人をお姫様抱っこして寝室へと移動するのであった。結人の重さなど、昼間の怪獣に比べれば空気のようなもの。
もう、こうなった朱里から逃れることは、地球人はもちろんのこと、結人でも出来ない。この夜、結人は結局6連戦まで朱里のご褒美に付き合わされるのであった。
そんな非日常的な日々も半年前までは想像もできなかった結人。このような生活が続くことに、結人は若干の不安を感じながらも、そんな朱里に一目ぼれしてしまった自分がいるのも、また事実。
それに、朱里のような美少女にこれほどまでに言い寄られるのは悪くない。いろいろ問題のある彼女だが、きちんと恋人として認めてあげてもいいのでは?そう思う結人。
そんな巨大ヒロインとの出会いもまた、非日常的なものであった。
***
その日、結人は学校の帰路途中の駅前にある書店で、立ち読みをしていた。なんとなく、選んだ本にさっと目を通して、この日に買う本を選んでいたときだった。「いらっしゃいませー」と、店の外から聞こえてくる店員の声に混じって、店の中に入ってくる人の気配がした。
結人がふと顔を上げると、そこには一人の女の子が店のなかに入ってきた。
それはまるで、本の中からそのまま飛び出してきたような、そんな現実感の薄い美少女だった。
首もとまで伸びた銀色の髪をサラサラとなびかせ、そして雪のように白い肌に、ガラス玉のような大きな瞳は、透き通るような深い蒼色。その青い世界には彼女の心を表すかのように穏やかな光を放ちながらも、底知れぬ深みがあるように思えた。
そんな日本人離れした雰囲気を漂わせる彼女は制服を身に着けており、それは結人と同じ学校の制服だった。
「(あんな子、学校にいたっけ?)」
結人もその少女が醸し出す美しさに読んでいた本もそっちのけで、少女に見とれながら、同じ高校でもあった記憶がないか、脳内をフル回転で辿ってみる。
が、何度思い返しても、彼女と会ったことも擦れ違った記憶すらない。
ーーあんな美少女ならば忘れるはずもないのに……。そんな思いが結人の頭の中をグルグルと駆け巡り、余計に彼女のことが気になって仕方がない。そんな、心ここにあらずといった様子の結人に、彼女はどんどんと近づいてくる。
そして、なにも言えずにいる結人を尻目に少女は結人のすぐ後ろを通りすぎた。その際、結人の回りを優しくも甘い、いい香りが包んだ気がした。
「(女の子ってこんなにいい匂いがするのか……)」
結人は自分でも気づかないうちに、心臓がドクドクと波打ってしまっている。
彼は過ぎ去る少女を横目で追うと、彼女のポケットからなにかが落ちたのが見えた。その少女が落としたのは、白いハンカチだった。突然のことに何が落ちたのか混乱して分からなかった結人だが、それが少女の落とし物だと気付くや、思わず彼女が落としていったハンカチをとっさに拾い上げてしまった。
「あのっ」と結人は反射的に声をかけようとしたのだが、既に彼女は店を出て行ってしまった後であった。
普通なら店員に落とし物として届け出ればいいのだが、気がはやる結人はとっさに少女を追うべく、気付いた時には店を出ていた。
店を出て見ると少女はだいぶ遠くまで歩いていた。だがそこまで遠くない。結人は走って彼女を追いかけた。
この時、不思議と足取りが軽く感じられるなと結人は思った。部活や授業で何度も走らされたことはあったが、ゴールが違うだけでこれ程にも違うのかと感心してしまう。結人は走るのが特別得意なわけではないが、この時ばかりは全く苦痛を感じさせなかった。
「あ、あの!!」
少女に追い付いた結人は、息の上がった呼吸を整えながら、彼女を呼び止める。結人の声に気づいた少女は足をとめ、すぅとこちらを振り向いた。ふわりと広がる銀髪とスカートをなびかせ、こちらに振り向くその素振りでさえ、絵になる少女。
振り向いた彼女は、整った顔立ちに微笑みを浮かべ、こちらを見つめてきた。そんな彼女の青い瞳に見つめられただけで結人の顔は熱を帯びていく。
「はい?」
少女は不思議そうに首を傾げた。その仕草もまた愛らしいと感じてしまう自分がいることに気づいた結人は、慌てて目線をそらしてから、手にしていたハンカチを渡すことにした。
「あのこれ……」
あたふたしながら彼女に差し出したハンカチをみたとたん、あっと驚いた顔をする彼女。
「あっ、これ……」
「さっきお店で落としていたのを見かけて……」
彼女は少し照れくさそうにお礼を言うと、ハンカチを受け取った。そんな仕草も可愛らしくて、結人は彼女のことを見つめてしまう。
そんな結人の視線に気が付いたのか、彼女もまたこちらを見つめてきた。彼女の青い目に映る自分の顔は赤くなりながらも見つめていて……まるで吸い込まれてしまいそうになるくらいな気分で……思わず鼓動が早くなってしまう。すると彼女がくすりと微笑んだような気がした。
「わざわざ、ありがとうございます」
「いや、大したことじゃないよ」
「いえ、こんな暑い中、走ってまで届け出ていただくなんて」
「はは、そんな大袈裟な。気にしなくてもいいよ」
「そんなっ、せめて何かお礼をさせてください」
「うーん、でも別にお礼が欲しくてやったわけじゃないしなぁ」
「それでは私の気持ちが収まりません。もし、よろしければお礼のために少し私にお付き合いしていただけないでしょうか?」
そう言って彼女はこちらの返事を聞くまでもなく、結人の手を取り、懇願するようにじっと結人の顔を見つめて離さない。
可愛らしい少女にここまでされたら結人も引き下がれなくなってしまう。
「じゃ、じゃあお言葉に甘えさせて貰おうかな……」
「はいっ!よろしくお願いします!同じ学校みたいですし、ご迷惑でなければ、明日お弁当を作ってきますのでご一緒させていただいてもよろしいでしょうか?」
「別に構わないけど……」
「ありがとうございます!では、また明日♪」
彼女は満面の笑みを浮かべて、手をヒラヒラと振りながら去っていく。その後ろ姿をポーっと見つめながら、結人は、ただその場に立ち尽くしていた。
「(なんだこの気持ちは……)」
今まで経験したことのない感情に戸惑いながらも、結人の胸はドキドキと高鳴りを抑えきれずにいた。
これが彼女との出会いだったーー。
それから、結人と少女との交流が始まった。彼女の名前は大下朱里ということ、つい最近この土地へ引っ越したばかりで、結人がいる学校もそれに合わせて転入したばかりらしい。
なるほど、だから見覚えがなかったんだなと結人も納得する。
「はい、なので心細かったですけど、結人さんと仲良くなれて、本当に嬉しいです」
「そうか。それはよかったよ。俺でよかったら何時でも相談に乗るよ」
朱里は転校初日から美少女転入生として注目の的であった。そんな彼女を一目見ようと野次馬も多かったが、しかし彼女はそんな視線に気づいていないのか、はたまた全く気にも止めていないのか、結人の側にいる時間が多かった。そのため、嫉妬した男子生徒からはやっかまれていたが……そんなのお構いなしに朱里は積極的に結人に絡みつくように接してきた。
もちろん、朱里は結人以外の誰とでも分け隔てなく接し、結人はそんな彼女の人の良さに惹き込まれたのか、彼もまた、彼女のことを自然と目で追うようになっていた。それは朱里も同じ気持ちだったのか、気がつけば常に一緒に行動するようになり、いつの間にか彼女と付き合っていると噂されるようになったりもしていた。そしてそんなある日のこと……。
「あの、結人さん……。今度の日曜日空いていますか?」
「うん?特に予定ないけど?」
「じゃ、じゃあ、私に付き合ってくださいませんか?ちょっと、学校では言いにくい相談に乗ってほしいことが有りまして……」
「ああ、別に構わないけど」
「本当ですか!!ありがとうございます!!」
朱里は無邪気に喜ぶ。そんな彼女の笑顔を見ているだけで心が癒されるようだった。そんな様子を見て、改めて結人は彼女のことを好きになっていくのだった……。
***
そして、日曜日になり結人は待ち合わせの場所へと向かった。そこは、近所で最も背の高いタワーの最上階。最上階は展望室となっており、海沿いに建てられた地上125mの高さは、東京から電車で1時間半程の距離のこの街の中で最も背が高く、他のビル全てを見下ろすことが出来る。
ここにいると、自分が大きくなったか、空を飛んでいるような錯覚になってしまう。先に待ち合わせ場所についた結人は窓ガラスから見える風景を見ながらそんなことを考えていた。
そんな中、ふと結人と朱里が言う、相談とは何だろうと想像してみる。
確かに、朱里は転校したてで何かと不便しているかもしれない。学校で出来ない相談なんかも、それなりに有るだろう。
自分が助けになれるか分からないけど、誰かに話すことで少しは楽になるかもしれない。そんな気持ちで、結人は彼女の相談に乗る気だった。
「あ、結人さん!」
朱里が小走りで駆け寄ってくる。その仕草も可愛らしくて、つい見惚れてしまうほどだ。この日朱里が着てきて来たのは、白いTシャツにスカートはシンプルな薄いベージュのミニスカートに、白色のスニーカーといったいで立ち。
「すみません、お待たせしてしまいましたか?」
「いや、大丈夫。俺も今来たところだから」
「そうですか、それなら良かったです。立ち話もなんですし、場所を変えましょうか」
「そうだね」
結人と朱里はそのまま、展望階にある喫茶店へと移動する。そして席に着くと早速目的の相談とはいかず、他愛ないお喋りや、お互いに頼んだ飲み物を楽しんだりして時間を過ごしていた。
「それで、相談って?」
「えっとですね……その……」
「うん」
結人が聞き返すと、朱里は少し恥ずかしそうにモジモジしていた。それはまるで告白でもするかのようで……。そんな彼女の様子を見て、結人は優しく声をかけてあげることにした。
「……大丈夫だよ。ゆっくりでいいから話してみてよ」
「……はい……」
それから、朱里は目を瞑って深く深呼吸して落ち着かせてから、ゆっくりと口を開いた。
「あの、こんなこと結人さんに言うべきではない事は重々承知しております。……ですが、ずっとお側に居させていただくうちに、どうしても言いたい気持ちを抑えきれず……」
「うん」
「……私自身の事なのですが、もし正直に話してしまうと、結人さんに嫌われてしまうのではと思うと……」
「構わないよ、朱里がどんな子だろうと、俺は朱里の側にいるよ」
「結人さん……」
潤んだ瞳で、上目遣いに見上げてくる彼女。その綺麗な瞳を見つめれば、もうなにも言うことはない。
彼女がどんな出生で、どんな運命を背負っているかなんて関係ない。そんな程度で、朱里の事を嫌いにならない自信が結人にはあった。
ーーそれに、俺は彼女のことを好きになってしまったんだから……。
そう、心の奥で一人呟く。
「じゃ、じゃあ、正直に言いますね」
「うん」
「実は私はこの星の人間ではありません」
突拍子もないことを言われ心の中で、ずこっとこけそうになる結人。
しかし、真面目な顔をして話す朱里の表情には嘘を言っているようには見えず、何より普段から真面目な彼女からして嘘をついているようにも思えない。
「えっと……どう言うこと?」
「はい、私はこの星の征服を命じられてここにやってきました。そして、この星での侵略活動の拠点にするために、この国へ潜入し、学生として生活しながら情報を探っていたのです」
「征服って……それに、拠点って……」
いきなりとんでもないことを言い出した朱里に対し、結人は頭が追いつかなかった。
「征服自体は今までもしてきたので、特に支障もなく淡々と準備を出来ていました」
「……」
「ですが、今回の目標である地球には、ある一つの問題があったのです……」
「問題?」
「はい、それが結人様、あなた様なのです」
「俺?」
「はい、我々にとって地球人程度の文明や技術力など大したことはありませんが、ごく稀に、言え数百億年に一度くらいの確率で、私達一族のみを魅了して虜にしてしまえるフェロモンのようなものを持つとされるのもが誕生するのです」
「それが、俺?」
「……はい、私に課せられた使命は地球の支配、もしくは破壊。そして、結人様を調査し、可能なら確保して母星に持ち帰ること、ダメなら抹殺せよとのことでした」
「ちょ、ちょっと待ってよ。話が急すぎてついていけないんだけど……。朱里が宇宙人で、俺がよく分かんないフェロモンを持っていて……?」
いきなり訳の分からないことを並べ立てられて、何がなんだかさっぱりな結人はなんとか話を整理しようとするもうまく頭が回らなかった。そんな中、朱里は淡々と話し続ける。
「今まで、秘密にしてごめんなさい。本当は最後まで秘密にしておくつもりでしたが、やっぱりどうしても結人様に嘘をつき続けるのに耐えられなくなり、こうして正直に話させていただきました」
「……」
「ごめんなさい。こんな不誠実な女で……ですが、私はどうしてもあなたの側に居たいのです。」
「朱里……」
「だって、どうしようもないくらいに好きになってしまったんです……。結人様のことが……」
そう言って朱里は結人の手をがっしりとつかむ。決して離さないでほしい。そんな思いが伝わってきそうな、強い力だった。
「……」
結人は、朱里に握られた手をそっと握り返すと、優しく笑いかける。
「……分かったよ」
「えっ?」
意外な反応に驚く朱里。てっきり嫌われてしまうかと思っていたのだが……まさか了承してもらえるとは思いもしなかったのだ。
そんな朱里の内心を見透かしたのか、結人は全てを見透かしたように笑う。
「朱里が何者だろうと関係ないよ。俺は朱里の側にいたいと思うし、守ってあげたいんだよ」
「ゆ、結人さん……っ!」
今にも泣き出しそうな笑みを浮かべる朱里。そんな彼女の手を握りながら、結人は笑って話す。
「でもまあ、地球を支配するとかはよくわかんないけどね」
「……そうでした。すみません私の事ばかり先走ってしまい、ちゃんと説明できていませんでしたね」
そう言うと朱里は結人の腕から離れ、一人立ち上がる。
「では、私の本当の姿をお見せしたいと思います。もしかしたら、びっくりさせてしまうかもしれませんが、安心してください。結人様には危害を加えないように致しますから」
一体何が起こると言うのだろうか?
そして、何故か彼女はここから離れてゆく。もしかしてトイレにでも入って準備とかしたりするのかな?彼女の本当の姿について全く想像もつかない結人は、漠然とそんな風に考えていた。
しかし、一人展望室に残された結人は、直ぐに彼女の本当の姿について知ることになる。
ズダダアアアアアアンンンン!!!!
猛烈な縦揺れと轟音が展望室を揺さぶった。あまりの衝撃に展望室にいた観光客全てが宙に浮き、床に倒れ込んでしまった。
ーー地震か?こんな時に!!結人は、驚きつつも冷静に状況を判断しようとする。そんな中……展望室の窓付近から、観光客の声が聞こえてくる。
「おい!なんだあれは?」「一体、何が起きてるんだ?」「うわぁ、なんだあれ!?」「やばいぞ!!あれは!!」
結人も、慌てて窓の外を見てみるとそこには……。
「え……?」
いつの間にか、タワーの周囲を巨大な幕のようなヒラヒラとしたもので覆われるように囲まれており、さらに左右にはタワーよりもずっと太い肌色の物体が窓を埋め尽くしている。
何がなんだか分からないが、とにかく緊急事態であることには間違いなさそうだ。結人はさっき離れてしまった朱里を心配して咄嗟に彼女の名前を叫ぶ。
「朱里!!」
「はい、朱里はここにいますよ」
結衣との声に応じるように聞こえた巨大な声。その声と振動により、先ほどの地震と同じくらいにタワーが揺れている。
「朱里!!どこだ?どこにいるんだ!?」
結人は、慌てて周囲を見渡すが彼女の姿は見当たらない。すると……上の方からくすくすと笑うような声がする。その声もまた大きく、建物全体がビリビリと震えてしまうほどだ。
とにかく何が起こっているのか、結人は窓に近づき空を見上げてみる。すると左右に聳えているタワーより太い物体は、よく見ると人の脚のような形をしているのではないか。
さらに、よく見るとタワーを覆っている天幕も女性が履くようなスカートの形をしている。
もし、このタワーを覆う物体が人のモノなら、遠くからまで見渡せるこの展望室よりも遥かに大きく、まるで山のような大きさに違いない。
しかし、それ以上に驚いたことがあった。それは、その巨大なスカートが先ほどまで朱里が履いていたスカートによく似ていることだった。
「そ、そんな。いやまさか……」
結人は、最悪の想像をする。まさか、このタワーよりも巨大な物体が朱里であるとでも言うのだろうか……。これが彼女の正体?いや、そんなはずは……。
混乱の極みにある結人をよそに、再度頭上から耳が痛くなる轟音が響き渡る。
「あら私ったら、ごめんなさいこのままだと、結人様からは何も見えませんよね」
そう言いながら、左右の巨大な脚の膝と思われる部分が折りたたまれると、ゴゴゴゴゴと唸りを上げながら、巨体が小さくなってゆく。
小さくといっても、まだ巨体の全容すら視界に入らないほどに大きいのだが、そんなことはどうでもいいくらいに、振動と唸りと共に膝が折りたたまれ、人間がしゃがむような姿勢をとっているのが分かる。
「ああ、そんな……いや、そんな……」
結人は、最悪の想像が現実のものとなってゆく絶望感に打ちひしがれそうになる。そんなわけはないと信じたい気持ちと、それを否定できない現実に揺れ動きながら、恐る恐る窓ガラスから上を見上げると、そこには……125mあるタワーの天井とそれを遥かにしのぐ高さで見下ろしながら微笑んでいる、超巨大な朱里の笑顔が空を覆いつくしていた。
「なんでっ、朱里、一体どうなってるんだ……?」
「ごめんなさい、これが私の本当の姿なんです。今は1,500mくらいに収めていますが、本気になればもっと大きくなれるのですよ」
「そ、そんな……」
結人は驚きを隠せなかった。まさかの彼女の正体がこの巨大タワーよりもさらに巨大な巨人だったのだから……。それもただの巨人ではなく、しゃがんでいてもなお、あの美貌に雲がかかっているほどの高さになっている。いったいどれほどの大きさなのだろうか。
そんなことを考えていると、朱里は膝をズウンと地面につけ、上半身を曲げて顔を下へと近づける。まるで隕石が墜落しているかのような、圧迫感。結人の住んでいる街どころか、その周辺地域を含めた土地ですら、あの顔よりも小さいかもしれない。
空を覆いつくしていた朱里の顔がタワーのすぐ近くにまで迫ってきてようやく動きを止めた。
「結人様、驚かせて申し訳ございません。ですが、これが私の本当の姿なのです」
「あ、ああぁぁ……」
巨大過ぎる朱里の体に対して、結人は小さすぎる自分の体に不安を覚える。そんな小さな人間が彼女のことが好きだったことを、おこがましいことのように思えてきたからだ。
そんなことを考えていると、上から不安そうな声がしてきた。
「すみません、イヤですよね。こんな巨大な女なんて……嫌われて当然です……」
あの山のような巨体が、今にも泣きそうなくらい暗い顔をしている。あれほど慕っていた男性が自分の本来の姿を見て、声が出ないくらいに怖がっているのだ。
天を衝くほど巨大とは言え、朱里も年相応の少女なのだ。結人は、そんな彼女の不安を払拭するために勇気を出して立ち上がり、彼女に聞こえるくらい腹から大声を出して叫んだ。
「怖くない、全然怖くなんかない!!」
「結人……様……」
朱里は驚きに目を見開いた後、嬉しそうに微笑む。彼女の微笑みで周囲の空気が温かくなったように感じた。
「どんなに大きくたって、朱里は朱里だろ?俺は、どんな朱里だって好きに決まってるじゃないか!!」
「結人様……っ!」
そんなやり取りをしてるうちに、朱里の巨人の顔が結人の立っている展望室へと、さらに近づいてくる。その大きさはもう建物どころではない。このタワーさえも貧弱な葦の茎のように思えてしまう対比だからだ。展望室にいた結人以外の人間は近づく巨人の迫力に、失神してしまうほどだった。
「ああ、結人様。なんて優しいのでしょう。こんな私にまでその優しさを与えてくれるのですね」
そう言う朱里は、嬉しそうに呟くと口を開き、はぁっとねっとりとした吐息をタワーの上層に当ててくる。
むわっと一瞬でタワーの窓ガラスが朱里の吐息で曇ってしまう。それどころか、室内にも朱里の甘ったるい吐息が入り込み、一瞬で室内の湿度が急上昇した。
「ああ、結人様……。結人様ぁ……。申し訳ございません。今まで我慢してきましたが……もう、限界なのです……」
「しゅ、朱里?」
結人は嫌な予感がして聞き返す。しかし……巨人は止まらない。
開いた巨大な唇の洞窟から、にゅるりと赤い巨大な大蛇が首を擡げ、ビルに近づく。
れろぉぉ……。それは朱里の足元の雑居ビルなどよりもずっと大きくて太い、彼女の舌だった。
赤い大蛇、いやクジラのようなそれは、タワーの窓ガラスを拭き上げるかのように、下から、結人の居る展望室へゆっくりと、ねっとりと、舐め上げてゆく。
ビリビリビリビリ!!!朱里の舐め上げにより、タワーがギシギシと揺れ、窓ガラスが割れそうなくらいに振動する。そんな、今にも崩れ落ちてしまいそうなタワーの最上階で結人は恐怖に震える。
「うわあああ、朱里っ!待って!!タワーが壊れちゃうよ!!!」
しかしそんな問いかけもむなしく彼女の吐息の中で消えてゆく。そしてついにタワーの上層部を舐め上げていた舌が止まり、それと共にずっしりと重くて分厚い唇がタワーの天井へと押し付けられた。
その衝撃により窓ガラスが粉々に砕け散る。さらに唇から溢れた大量の唾液は、タワーの内部にドロドロと流れ込み、重い粘性を帯びた液体が屋上から、下層へ向けて一気になだれ落ちた。
結人がいる展望室は最上階という事もあり、朱里の大量の唾液はひざ下まで浸る程度で溢れた唾液が下の階に流れ落ちているが、止めどなく流れ落ちる唾液により、タワーの下層部では、すでに天井にまで朱里の唾液で満ちていた。
「朱里、お願い!やめて!溺れちゃうよ!!!」
「らいひょぅぶでふ。ゆいとしゃまはそこにいれば、おぼれひゅことはありまふぇんから……」
タワーをしゃぶり舌足らずな言葉で答える朱里。その言葉には結人以外の安否は一切気にかけていない様子がはっきりと伺える。
「俺だけじゃないよ!タワーにいるみんなが危ないんだ!」
「ンぷ……。そんな、こと、どうでも、いいです。んぁ……、結人様がいれば、それだけで、十分……」
結人は、その朱里の態度に恐怖を覚えた。あれほど優しかった彼女が今ではタワーを唾液でどろどろにして、ただ単に自分一人が気持ちよくなるために、タワーを舐め上げてしまっているのだから……。
このままでは、彼女はこの展望室まで自身の唾液で沈めてしまうのではなかろうか。そうなったら自分は一体どうなってしまうのだろうか? しかしそんな結人の心配をよそに彼女の責めはエスカレートしてゆく。
「れっぷ、れるっ……。んはぁっ……あっ♡ んっ♡」
ブチュウッ!!グチュッ!!ニュルニュルッ!!ジュポッ!ヌチョォ……!!朱里の巨大疑似フェラによる水音がさらに増していくのが、タワー内部にいてもよくわかる。
これから、どうなってしまうのか。どうなるにせよ1,500mの巨人と化してしまった朱里を止めることは不可能であった。
「もう、いいかしら……。」
ぬっぷぅ……とその大きさに見合ったリップ音を響かせ、ようやく朱里の口がタワーを離してくれた。
久しぶりに日差しを受けたタワーは朱里の唾液で、全面ヌラヌラに輝いており、その巨大な疑似フェラのすさまじさを物語っていた。
「はぁ、申し訳ありません結人様。はしたない朱里をお許しください……。朱里はもう我慢できないのです……」
完全に自分の世界に入り込んでしまっているのか、彼女は顔を紅潮させ、熱い吐息を荒げている。
そして、地上の混乱をよそに両手をスカートの中に忍ばせ、もぞもぞと動かし始めた。
「えっ、ちょっ、朱里!?」
結人が止めようとするものの、もはや彼女は止まらないだろう。そして……しばらくの沈黙の後、ようやく彼女が動いた。
「……結人様、朱里を受け止めてください……♡」
もう完全にトリップしてしまっているのだろうなと分かるような甘い吐息を漏らす朱里がスカートの中からパンツをズリ下げたかと思うと、ズン、ズンと足を動かして、下腹部のあたりにタワーの天井が来るように位置を調整する。それはまるで、女性が床に立てたディルドを挿入するかのような動きに見えた。
「お、おい!まさか!!!」
しゃがんでもなお、腰よりもずっと低いタワーを挿入することは難しいようで、何度も位置を合わせながら、細かい調整を繰り返す朱里。ようやく落ち着く位置に合わせたのか、腰の動きが止まった。
「……それじゃ、いただきます♡」
ずぶ……ずぶずぶずぶ……。愛液に濡れる朱里の秘裂に125mのタワーが易々と挿入されてゆく。
「ん♡、お゛っ……。はぁぁぁ……!!♡♡♡」
今までとは比べ物にならないほど、激しく乱れながら朱里が喘ぐとそのままピストン運動を開始した。ズプッ!グチュッ!ヌチヌチッ!!勢いよく腰を打ちつけるたびに、結人どころかタワーの足元まで振動で震えてゆくほどの衝撃をともなって、朱里の周囲の建物がグラグラと揺れて倒壊するものまで出ている。
「お゛っ、んぐぅ♡、んぁ!!!ゆ、結人さまぁ!!しゅごいっ!気持ちいぃですぅぅううっ!!!!」
ズプッグチュッグチャッニュチィイイッ!!!激しくなり続けるピストンによって生み出される凄まじい振動と喘ぎ声は止まることはなく、周囲の建物に次々と連鎖的に崩壊を引き起こしてゆく。
一人の少女が引き起こす大災害。しかも、これは彼女にとってはただのオナニーに過ぎないことが、なにより恐ろしい。
「はっ、あっ♡はぁああんっ!!♡♡♡」
ズチュグチュッッ!!グチュッグチャッヌチィイイイン!!!ズプッグチョォオオオ!!!! さらに激しくなるピストン運動。その快楽に歪みきった顔から、周りの人間の視線などなんとも思っていないのだと、容易に理解できた。
「んはぁっ、結人様ぁ!!!もうイキます!!私っ、イっちゃいますぅぅううううう!!!」
猛烈なオーガニズムにより、体を震わせる朱里。巨大な彼女は揺れる上半身を支えられないのか、腰を折って両手を前に着く。
ずどどおおおおおおんん!!!
100mクラスの手のひらが、2つ大地に押し付けられた。巨人の手の直撃を受けた場所は言うまでもなく。その周囲にさえ円心状に衝撃波となって広がる。周辺のビルの窓が割れ、街路樹が飛び散り、車が横転し、高速道路が陥没して周囲の人間は埃のように舞い上がってゆく。
そんな大破壊を彼女はなんて事のない姿勢を変えた動作で引き起こしてしまうのだ。
「んはぁっ……。はぁッ、はぁ、はぁ……」
ズドォオオオンン!!グチャッグチョォオ!!ヌチャァアアッ!グッチュゥ……! そんな激しいオーガニズムを体験した朱里は、息をつき体を休めようとするものの、その巨大な体は休まることを知らない。
「ごめん、結人様ぁ!もう少しだけ付き合ってください!!」
小さな絶頂を何度も繰り返すうち、すっかり興奮しきった朱里の割れ目からはドクドクと愛液が湧き出て、タワーを伝って流れ落ちた愛液が、ビルの合間を縫って流れる川のように、道路まで流れ落ちる。
そして、愛液の川は徐々に広がり、流れるその速度は地球人の走る速度よりも速く、もはや洪水と変わりないほどの大水流となって、逃げ遅れてた市民も車も飲み込んでゆく。
そんな地上の災厄を、大洪水の源である朱里は気にすることもなく、優雅に己の快楽に興じ、割れ目からはプシュップシュッと気持ちよさそうに潮を吹いて、被害を拡大させていく。
「んぁああっ!!イイっ……、きもちいぃいっ♡」
ズドンッズドンッ!!グッチュグッチャグチャアアッ!
激しいグラインドにより、さらに被害が拡大する。地震と洪水に同時に見舞われたこの周辺一帯の街は、このままでは本当に壊滅してしまうのではないかと結人は恐怖を覚える。
しかし、災害の元凶である朱里の限界も近づいている。猛烈なオーガニズムにより、体を震わせる朱里。
「あ゛っ、んはぁぁあああっ!!もうイっちゃう!結人様、受け止めてください!!」
激しいピストン運動がさらに激しくなる。ズドンッズドンッ!と大地を揺らしながら、一心不乱に腰を振る朱里。そのスピードはどんどんと上がってゆき、そして遂に……。
ブシャアアアアアアッ!!ビュルルルーッ!!ドプッドプッ……。凄まじい量の愛液がタワーに降り注ぎ、さらに収まりきらなかった体液が、びゅうびゅうと勢いよく空に放物線を描きながら、街の隅々にまで飛び散ってゆく。
溢れた愛液は地上のビルたちを次々に押し流して行った後、逃げ遅れている車や小人を弄ぶように飲み込み、その質量と量で押しつぶし、さらに広範囲を愛液で染め上げてしまった。
「はぁ、ああ……♡気持ちよかったぁ……♡」
グチョォオオオ……まだ名残惜しそうに腰が動いているものの、満足したのかようやく朱里の腰の動きが止まった。
そして彼女は気怠そうに立ち上がり、足元を見下ろす。そこには彼女の膣からこぼれ落ちた愛液によって、ツンとした香りを伴う体液に染まりつつある町の姿があった……。
「朱里、なんてことを……」
結人は、あまりの光景に言葉が出ず、やっとのことでこれだけを呟くのが精いっぱいだった。しかし朱里はそれを意に介さず、何事もなかったかのように展望室にいる結人ににっこりと微笑み、その笑顔のままこう告げた……。
「結人様、大丈夫でしたか?朱里は結人様に会ってから、ずっと我慢していたのです。でも、今日は抑えられなくなってしまい、はしたないところをお見せしてしまいました」
「い、いや朱里、そんな事より、街が……、人が……」
「こんなちっぽけな地球人なんて、どうでもいいじゃないですか♡ それよりも、結人様に汚いものをお見せしてしまいました。申し訳ございません」
「そんな……どうでもいいなんて……」
そんな絶望の言葉も朱里には届いていないようで、さらに彼女は続ける。
「でも、すっきりしたことですし、今日はこの辺で帰りましょうか♡」
「あ、あ、朱里……」
結人が絶望に打ちひしがれるのもつかの間、朱里は地上の被害などこれっぽっちも気に留めないまま、降ろしていたパンツを戻して帰り支度を始める。
あまりの衝撃に腰が抜けたままの結人を持ち帰るために、タワーに手を伸ばしたその時、朱里の身体の回りにぽつぽつと火花が上がった。
それは巨人出現の方を受けた空軍が飛ばした、ミサイルによるものだった。しかし、巨人となった朱里には全く効いていない。
そんな空軍の攻撃に朱里は気付くと、突き刺すような鋭い視線を戦闘機に向ける。
「そんな攻撃が効くとでも?無駄な攻撃をやめなさい」
ドスの効いた声の朱里の言葉に戦闘機は怯えるが止めるわけにもいかず、さらにミサイル攻撃を浴びせる。
巨大な相手にどれほどの火力が効果的なのかわからないが、同胞たちや街が攻撃されているのに何もしないのは軍人としてあり得ないのだろう。
しかし、そんな稚拙な地球の攻撃力では今の朱里にとっては虫ケラ以下だった。それより、朱里が気にしているのは結人の方であった。
「結人様に当たったらどうするつもり!?そんなバカなことをする奴ら、絶対に許さない……」
朱里は、顔を怒りに歪ませると戦闘機に向け、彼女は右腕を素早く横に振りぬいた。
ビュンと一瞬の出来事に、振りぬいた後には、巨大少女の腕にぶつかってしまった戦闘機の爆炎がいくつも上がる。
だが、それで攻撃を止める程軍隊も腑抜けてはいない。再び、ミサイル攻撃と機銃掃射。さらに地上部隊からの攻撃。それらによる波状攻撃の弾幕が張り巡らされる。
しかし、朱里はそれらを物ともせず片腕で払いのけてしまう。戦闘機の攻撃などまるで意に介さないまま、胸を張る様に攻撃をたやすく受け止めている。
しかし、その顔には怒りだけでなく、苛立ちも見受けられるようになっていた。
「これだけ無駄だとわかっていながら、攻撃をするなんて……。地球人は思っていたよりも愚かな生物のようですね……」
そう呟くと彼女はおもむろに、右腕を街の中心に伸ばして掌を外に向けた。するとその手のひらに光のようなものが集まりだしたではないか。
「こちらから動かないからいい気になって。私が少しでも本気を出したらどうなるか、見せてあげます」
あの光がどんどん集まってゆく、地上に展開していた陸軍もサーモグラフィーや赤外線センサーで、それがとてつもない高出力の熱エネルギーを帯びたものだとわかり、慌しく動き始める。もし、あの熱エネルギーが地上に打ち放たれれば、核攻撃かそれ以上の被害は免れない。
絶望が地上を埋め尽くしたその時、
「やめ、やめてくれ!!朱里……!!」
結人の悲痛なまでの声が朱里に届いた。
「なぜですか?この矮小な生き物は、私だけでなく結人様にも危害を加えようとしたのですよ?これは万死に値します」
「ダメだ!そんなことをしたら、朱里は怪獣と同じになるだろう?」
「?」
「俺は朱里と一緒に過ごした学校生活が楽しかったんだ。もし、朱里が怪獣になってしまったら、もうあの時の楽しい時間は過ごせなくなってしまう。だから、やめてくれ」
「結人様……」
「俺は朱里をずっと愛している。巨人になっても、朱里が朱里じゃなくなったとしても、俺はいつも俺でいるから!だから!」
「……わかりました。結人様がそうおっしゃるなら」
その言葉を聞いて結人はようやく安堵の表情を浮かべるのだった……。
「それでは……」
少し考える素振りを見せて、朱里はその手を下ろした。それを見て地上部隊の緊張が一気に解けてゆく……。
「地上の地球人どもに告げます。今日のところは見逃してあげましょう。ですが、次にこのようなことをしでかしたら……」
朱里が指をパチンと鳴らす。すると指先から先ほどの高エネルギー体のような球体がすぐに形成され、上空に打ち上げられた。
ずどおぉぉぉぉ……ん!! その球体が上空で爆発すると、地上付近にまで強い風が吹き荒れ、巨大な火柱が上がり、衝撃波と轟音が地上に届いた。
「次はないと思いなさい」
そう言い残して1500mの巨人は姿を消したのだった。
***
あれから数日。あんなことがあったのに、結人と朱里は何事もなかったかのように学校に登校している。あれだけ朱里とべた付くことに僻んでいた男子たちは、たちまち2人から距離を取ってしまう。
女子も結人に話しかけるとどこからともなく、朱里の突き刺すような視線を感じて、話しかけるのを躊躇ってしまった。
そんな、学校生活だが結人自身、朱里がいることと教職員の努力により、なるだけ今まで通りの学校生活が遅れていることにある程度満足していた。
それよりももっと気がかりなことが起きている。それは、日本を中心とした都市に巨大生物の襲来が頻発するようになっていたからだ。どうも朱里が言うには、一族への調査報告をすっかり止めてしまったがために、消息不明となった彼女を捜索・確認と、地球人への攻撃を兼ねた侵攻準備のため、故郷の星から巨大生物を送って地球の破壊活動をするためなのだそうだ。
その怪獣たちは、朱里にとっては子犬や子猫くらいの攻撃力にしか感じられないが、地球の軍隊にとっては天変地異のような破壊をもたらす大怪獣たちだ。その出現に、日本だけでなく、全世界からの派遣軍も協力して撃退に応じているが、結果は芳しくなく、日本の政府は大打撃を受けていた。
そして、ついに政府高官たちが朱里と唯人のもとを訪れ、巨大怪獣撃退のために手を貸してほしいと懇願してきたのがつい最近。
こうして、朱里に出会い、絵にかいたような素晴らしい青春を送るはずだった結人は、巨大少女の戦いに巻き込まれることになってしまい、それを振りほどくことも出来ずに、また朱里と一緒の楽しい日々を過ごせることに喜びを感じてしまっていた……。
「結人様、今日の学校も楽しかったですね♡」
「そうだな……なんだかんだ、いつも通りの日常を送れて俺もうれしいよ……」
「それはよかったです。私も結人様と過ごせて、とってもうれしいですよ♡」
二人並んで下校する姿はまさに青春そのもののような甘酸っぱい光景。
だが、ふたを開けてみると一筋縄ではいかない様子。
「それにしても、今日は結人様に話しかける女子が多かったですね……?」
「ああ、文化祭が近いからね。俺も実行委員だし、彼女たちも任された仕事をこなすために、一生懸命なんだよ」
「そんなことはわかっています。でも、結人様に馴れ馴れしくする女子が多くて……」
朱里は不満そうに口をとがらせる。
「それに……最近、私の事を疎んじているような気がします……」
「そ、そんなことないよ……」
「……ふうん」
「た、確かに、文化祭の準備でいつもより朱里と過ごす時間が少なくなってたかもしれないね、ゴメンね。お詫びに何でもするからさ……」
「なんでも、ですか?」
「うん。あ、でも、街を壊したり、人を気付つけたりはダメだからね」
「はい♡、ちょうどさっきまでこのまま結人様が構ってくれなかったら、どの街を使ってストレスを発散させようか考えてたところですから♡」
「あ、ああ……それは、よかった。のか?」
「はい。結人様に構っていただけるのなら、それが一番ですから♡」
そう言って朱里はにっこり微笑んだ……。
急に現れた美少女に一目ぼれした、その日から結人の生活は非日常の毎日を過ごすことになり、そして、これからもっと大きな非日常が結人に襲い掛かるのであった……。
***
無限に広がる宇宙の一角。その中を小惑星ほどの巨大船が航行していた。その船は箱をいくつも繋げたような無骨な船体であるが、よく見ると、その表面は光沢を帯びており、かなり硬質な印象を受ける。
「シュバ・リタ・ブルックス……彼女からの返事も何もないのだな……」
その船の中に置かれた司令室。そこにたたずむ軍服姿の女性が報告書に目を通して、つぶやく様に言った。
「はっ、彼女が定期通信を止めてから数か月間何の反応もありません。」
指令室の中にいたオペレーターが敬礼しながらこたえる。シュバ・リタ・ブルックスを地球調査に行かせてから半年、ある日を境に彼女からの報告が絶たれてから随分時間がたった。
女王陛下からの特殊任務を帯びているとはいえ、地球での諜報活動がこれほどまで手こずるとは、例の地球人はそれほどまで厄介な存在なのか。
「それどころか、こちらが襲撃用に送っている攻撃生命体も、すべて破壊されております。地球人に破壊されるとは考えにくいので、もしかしたら……」
「それは言うな」
「はっ、失礼しました」
報告書に目を通していた女性が食い気味にオペレーターの言葉を遮る。
女性は指令室の主らしく、黒と赤を基調とした高貴な軍服姿で、長い金髪の髪に整った顔立ちだが、真っ赤な切れ長の目にキツイ目つきが近寄り難い雰囲気を醸し出している。
「ここまで手こずるならば、私が行って見てこよう」
「しかし、アレイナ指令自ら行かれなくても、誰か他の者に行かせればよろしいのでは?」
「もし、仮にシュバ・リタ・ブルックスが寝返っていたら?彼女に敵うものなど、ここでは私以外いないだろう」
「それは、そうかもしれませんが……」
アレイナは席を立ち、ゆっくりとオペレーターのそばによる。
「時間を無駄にしたくない。直ぐにでも、調査に向かう」
「……わかりました。部下に準備を進めさせます」
この金髪の女性は船を指揮している女性であり、名前はアレイヤ・デ・コドーニュ。最強の戦士であり、地球調査の最高指揮官。そして地球へ先立って降りたシュバ・リタ・ブルックスの上官だ。
シュバ・リタ・ブルックスに彼女のあだ名をもじった、地球でのコードネーム朱里と名前を与え、調査に降りてから数か月間、ずっと連絡のない彼女の捜索の捜索ももちろんだが、地球にいる危険な人物とやらも調査しなければならない。
地球の科学力程度では朱里の妨げには全くならないはず。ましてや撃退など出来ようもないだろう。
だが、アレイヤの頭の中には一つの懸念事項が浮かんでいた。
(もしも、朱里が地球人に心を奪われていたら……。何としてもその前に始末しなくては)
その考えを振り払うように頭を左右に振り、司令室を後にした。
新たな資格の訪れを知る由もない星、地球。巨大怪獣による襲撃という未曽有の災害に見舞われているが、朱里と唯人による協力で何とかしのいでいる。しかし、アレイヤの襲撃でどうなるかは全く見当もつかない。
まだまだ地球が安らかになるには時間がかかりそうだ。