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「フヒ……」
ゴブリンの顔に浮かんだのは、何とも言えないいやらしい笑みのような表情だ。
自分のことはしっかりと覚えている。
豊穣を司る[[rb:大地と樹木の精霊 > ドライアド]]の少女、エマであることは、覚えている。
その自分が今や、正反対の存在といってもよい、下劣な[[rb:腐れる地の精霊 > ゴブリン]]に変じているのだ。
背徳感が胸いっぱいにこみあがってくる。
「オ…オデ……ゴブリンに……なッチまった……」
あえて、知能の低いゴブリンそのもののように、たどたどしく言葉を発した。
そうやって自分自身を汚していくことが、たまらなく、心地よい。
当然だ。今の自分は下劣そのもののゴブリンなのだ。
大地や樹木、あらゆる美しいものを汚し、貶め、破壊するために生まれたきた存在なのだ。
心が解放されたようだ。
立ち上がろうとして、エマは、自分の着ていた外套とメイド服が邪魔になっていることに気がついた。
それを脱ぎ去ろうと裾に手をかけた後、ゴブリンのエマは唐突に思いなおして手を止めた。
もっと良い方法を思いついたからだ。
衣類に爪を立てると、乱暴に力を込める。
低級の障魔といっても、ゴブリンは普通の人間をはるかに凌駕するほどの膂力を持っている。
たちまちエマの着ていた衣類は破り捨てられ、エマは美しいものを破壊したということにふつふつと喜びが浮かんでくるのを感じながら、その残がいから抜け出した。
そして、ノルンとフェイの方にじろりと視線を向ける。
「エ、エマだよね?」
たじたじとした様子で、フェイが尋ねた。
エマは何も答えず、ゆっくりとふたりとの距離をつめた。
じっとりとした視線を、交互にふたりに向ける。
フェイの褐色をしたしなやかな肢体と愛らしい顔立ち。
ノルンの健康美に満ちた白い肌と美しい銀色の髪。
どちらも、ホントウに、いいオンナだ。
エマは弄るような視線をふたりに向けながら、ふつふつと湧き上がる欲望に身を焦がし始めていた。
このふたりを、汚したい。貶めたい。
露わになっているエマの、ゴブリンの股の間から、グロテスクなものが頭をもたげた。
それはゴブリンに備わっている、美しいものを汚すための、器官だ。
「うわ。こいつ興奮してるぞ……」
興奮し荒い息を吐き、我慢することなくよだれを垂らしながら、エマはさらにふたりに詰め寄った。
自分がこうなったのは、ふたりのおかげだ。
だから、ふたりとも、汚しつくしてやる。
そうすれば、どんなに気持ちがよいことだろう。
ふたりの精霊の少女の発する得も言われぬ芳香に鼻を引くつかせ、ゴブリンのエマはまずはフェイを組み敷いてしまうことに決めた。
フェイの方に向き直り、一歩足を踏み出した瞬間。
「グホォ……」
背後から腕をねじり上げられ、ゴブリンのエマは情けない悲鳴をあげた。
視線をはずされた瞬間に素早い動作でノルンがエマの腕を取ってねじり上げたのだ。
足さばきにからめとられ、ゴブリンのエマにはノルンをふりほどくことはできそうになかった。
そうなのだ。
クラウストラムの守護者である彼女達に、ゴブリンごときが、一対一で抗えるわけがない。
「うわ、臭いな。こりゃたまらん」
醜い緑色の障魔のことを押さえこんだ姿勢のまま、ノルンは顔をしかめた。
老廃物や糞尿の混ざったような近寄りがたい悪臭が、ゴブリンとなったエマから発しているのだ。
「やりすぎたらダメだよ、この子、エマなんだからね」
おろおろとした様子でフェイがノルンに声をかける。
がっちりとゴブリンのエマを押さえこんだまま、ノルンは頷いた。
「わかってるって。でも元に戻す方法は見当がついてるんだ。フェイにやってもらわないと」
「わかった。どうすればいいの?」
ノルンは、あごでゴブリンの股間のものを指し示した。
先端からこぼれだしたぬらりとした液体が表面を垂れ落ちて濡れぼそり、艶かしくそそりたっている。
「そいつをこすってやるんだ。ゴブリンの精気を抜いてやるんだよ。そうすればエマは元通りだ」
それを聞いたフェイの表情が変わる。
「ええ、アタシがやるの。やだ、絶対やだよっ」
ぶるぶると首を振って、拒絶の意思を示す。
当然の反応だ。
「いいから、やれっての。エマを元に戻したくないのか」
ノルンにそう言葉をかけられ、フェイは困ったような表情に変わる。
猫耳がしゅんと垂れ下がる。
しばし逡巡した後、フェイは押さえつけられたゴブリンの横にかがみこんで、恐る恐るその股間に手を伸ばした。
眉をひそめて、屹立する器官を、ひとさすりする。
次の瞬間。
「オホっ!」
ゴブリンに成りきったエマが間抜けな咆哮をあげるのと同時に、それ自体が意思をもったかのように器官が上下にびくびくと暴れた。
その先端から、すさまじい勢いで黄色く濁った精が噴き出す。
「うわっ」
フェイがその様子に目を丸くする。
横ではなく正面に位置していたら、噴き出す精を全身に浴びていたことだろう。
濃厚な匂いが、辺りに漂う。
ゴブリンは放心したような様子になり、脱力してしまった。
その様子を見て、ノルンがゴブリンへの縛めをゆるめた。
支えを失ったゴブリンはゆっくりと地面に倒れ伏した。
精を放出して、意識を失ってしまったのだ。
意識を失ったゴブリンの身体が形を変え始める。
宝玉を額に当てた時とは、逆回しのようにそれは醜いゴブリンの形から、精霊の少女の美しい肢体の形に変わっていく。
やがて醜悪な肌が、粒子のように変質し、額に向かって、流れ始める。
その下からは、滑らかで柔らかい、エマ本来の肌が姿を露わした。
額に集まった粒子は、黄色みを帯び、球体の形に凝集していく。
すべての粒子が凝集すると、それは元の通りのゴブリンの瞳にも似た宝玉に戻った。
エマの額から、ころりと宝玉が落ち、地面に転がる。
意識を失ったエマは、一糸まとわぬ姿で、地面に横たわっていた。
何事もなかったように元の通りの[[rb:大地と樹木の精霊 > ドライアド]]の少女の姿だった。
「さて、何とかうまくいったみたいだな」
横たわるエマの顔を見つめながら、そう言ったのは、ノルンだ。
その顔に、何とも言えない不思議な微笑を浮かべている。
ノルンの横に立つフェイも同じような表情を浮かべながら、頷いた。
「エマは、[[rb:大地と樹木の精霊 > ドライアド]]なんだから。きっと時間がかかるよ」
「どうかな。さっきの様子をみたろ。あたしは逆に時間はかからないような気がするなぁ」
ノルンの反論に、フェイは肩をすくめた。
「ま、そのうちわかるって。ね、今日はもう戻ろう」
フェイがそう促すと、ノルンは頷き、横たわるエマに自分が着ていた外套を被せてやってから彼女を抱き上げて背負った。
(続く)