no preview
DESCRIPTION
館に戻ってからのエマは、どうしようもない感覚に苛まれていた。
それは虚無感というのか、焦燥感というのか、そういったものが入り混じった感覚だ。
あの日、フェイとノルンがどうしてあんなことをしたのか、わからない。
悪ふざけというには、あまりにも危険が多い行動だった。
好奇心が先走ってしまうフェイはともかく、ノルンまでがあんなことをするとは、思わなかった。
とはいえ、館の自室で意識を取り戻した自分に平謝りのふたりに対して、エマは何も覚えていない、と答えたのだ。
もちろん、それは嘘だ。
宝玉の魔法によって汚らわしいゴブリンの姿に変えられている間のことを、彼女はすべて覚えていた。
普段の自分自身とは正反対の醜悪で汚らわしい存在に成りきって、欲望と衝動のまま、これまでの自分が大切にしていた美しいものごとを、汚し、貶め、破壊することに歪んだ悦びを感じていた間のことを。
自分の意思でフェイやノルンに劣情を向けたということなどを、ふたりに言えるはずがない。
もちろん、それは自分の意思でなかったのだ、と言い訳することはできるかもしれない。
宝玉の魔力で、本来の意思を捻じ曲げられていただけなのだ。
だが、そういう言い訳をしても自分自身を騙すことはできない。
宝玉の魔力から解放された後も、エマが依然としてあるひとつの感情に苛まれているからだ。
もう一度、あのときの快感を味わってみたい、という欲求だ。
ゴブリンのだらしない体と吐気を催すような悪臭に全身をびっちりと包みこまれたい。
汚らわしいゴブリンに成りきって、欲望のまま自分自身を貶め、思う存分汚らわしい精をまき散らしたい。
そんな風に考えてしまっている。
無理やりにゴブリンにされたというのに、今はもう一度そうなることに恋い焦がれている。
自分はおかしくなってしまったのだろうか。
どうしようもなくなったエマは一人であの巣穴に向かうと、巣穴の奥を探した。
フェイが言っていた通り、巣穴の中にはいくつもの宝玉が転がっていた。
エマは、そのうちのひとつをこっそりと自室に持ち帰った。
それからしばらくの間悩みに悩みぬき、最終的にエマは自分のこころに従うことを決めた。
心がそのように切望してしまう以上、ずっと我慢をしているのは、身体にも心にも、良くない。
何も永遠にゴブリンになってしまうわけではない。
精を放出すれば、元の姿に戻ることができるのだ。
ただの気分転換の遊びのようなものだ。
もちろん結界の内側でゴブリンになってしまえば、ほかのしもべ達に気がつかれて大騒ぎになってしまう。
それにこんなことを自分がやっているということを遊跳やほかのしもべ達に、知られるわけにはいかない。
それはどんなに恥ずかしいことだろうか。
だから、エマは普段は誰も訪れることのない、結界の外の丸太小屋をこの秘密の行為の舞台として選んだのだ。
[newpage]
小屋の中を満たした禍々しい光が収まった時、そこに立っていたのは木々や森を愛する優しい精霊の少女の姿ではなかった。
あらゆる生き物や大地を汚す、醜く下劣な障魔の姿だった。
自分の身体を見回して、あるべき姿に変わっていることを確認し、エマはその醜悪な顔ににやけた笑みを浮かべた。
まずは部屋の隅の木箱に近づく。
木箱の底に敷かれた汚い布地の上には、持ち手に申し訳程度にぼろ布を巻き、いくつもの尖った石片を打ち付けた粗末なこん棒だった。
これも、エマが用意した、ゴブリンに成りきるための小道具だった。
箱からこん棒を取り出すと、エマは底に敷いてあった汚れた布地を取り上げ、わざとおぼつかない手つきで、布地を腰に巻いた。
こうしておかないと、少しの刺激で精を放出してしまうからだ。
すぐに元に戻ってしまうのでは、あまりにもったいないではないか。
できるだけ長い間この解放感を味わいたかったし、思わず精を放出してしまった状況によっては、元に戻った時に危険があるかもしれない。
この一週間の間、結局毎日のようにここにやってきては何度も変身を繰り返すうちに、エマはゴブリンに成りきったうえで、そういう抑制を働かすようになっていた。
最初変身を終えたあとに感じた自分のしていることへの罪悪感も薄くなり、変身そのものもスムーズになってきている。
どんどんとゴブリンであることに慣れてきていると感じる。
そうだ。
少しでも長い間、ゴブリンであることを、楽しむのだ。
「あの、イマイマしい、ドライアドのオンナの、スキにサセル、ものか」
狡猾なゴブリンに成りきって、そんな風につぶやくだけで興奮してくる。
鼻を引くつかせ、小屋の中の匂いを嗅ぐ。
知っている匂いが充満している。
美しい精霊の残り香だ。
「ウホっ!」
ベッドの上に畳んで置かれた一組の衣類の束に目を向けた。
残り香は、そこから発している。
醜いゴブリンは鼻息を立てながらベッドに近づくと、一番上に置かれていたショーツを手に取った。
繊細なデザインのシルクのショーツだった。
ショーツを顔の近くに持ってきて、うっとりと匂いを嗅ぐ。
「……あ……アノ、オンナの、ニオイだ……クヒヒ」
ゴブリンに化けて、自分自身の身に着けていた下着の匂いに興奮する。
そうやって、思う存分にエマの存在を貶める行為を、堪能するのだ。
戻ったときに困るから、ほかの衣類には手をつけず、手にしたショーツだけをにぎりしめて、ゴブリンに成りきったエマは小屋の外に飛び出した。
そのままどんどんと、森の中を歩んでいく。
この遊びを始めた当初は、小屋の中かそのごく周辺を歩き回るだけだった。
だが、すっかり状況に慣れた今は、こころの赴くままに森の中を跋扈することができる。
フェイの巡回さえ避けていれば、この森の中に危険はほとんど存在しない。
「フホホッ~、ヒィホォ!」
興奮したゴブリンのあげる雄たけびをあげながら、すっかりゴブリンに成りきったエマは森の中をひたすらに駆け巡った。