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4.依存の始まり
次の日の朝。
梨花が席に着くと、待ち構えていたかのように奏子が近寄ってきた。
「ねっ、ねっ、梨花ちゃん、どうだった?……」
そう尋ねる奏子の目は、期待に満ちて大きく見開いていた。
声の調子もわずかに上ずっている。
「……」
奏子とは対照的に、梨花は無言のまま、目を細めうつむいてしまっていた。
奏子の問いかけに答えを返すでもない。
そんな梨花の様子に気がつくと、机に手をついて身体を傾け、顔を横にしてうつむく梨花の顔を覗きこんだ。
その顔に満面の笑みが浮かんでいる。
「ね、私の言ったとおりでしょ!すっごくキモチ……」
「うわっ、奏子!ちょっと!」
梨花は慌てて奏子を制した。
皆の注意を引いてしまっていないだろうか。
梨花のあせった様子に奏子は、まるで楽しんでいるかのように目を細めた。
それから今度は小声で囁く。
「うふふっ……ね?その反応。すぐわかったよ、梨花ちゃん……我慢できなくて、試しちゃったんだよね?アレを」
完全に見透かされてしまい、梨花の顔が赤く染まった。
「ふう……」
シャワーを浴びてパジャマに着替え、自室に戻ってきた梨花は、ため息をついてイスに腰かけた。
机の上に置いた瓶にちらりと視線を走らせる。
奏子とのやりとりを経た後では、梨花にとって、それに何の興味もない、と言いきるのはウソになってしまう。
奏子の言う通りそれは、スゴイ、ものなのだろうか。
(うーん……)
これが単に自慰のための道具、ということであれば、奏子にからかわれているだけなのかもしれない。
どちらにしろ、梨花がそれを実際に使ったかどうかなど、奏子にはわかりようがない。
(ちゃんと洗って返せばね……)
梨花は、シャワーを浴びている間もずっと続いていた葛藤にけりをつけることにした。
イスから立ち上がるとそっと瓶を手に取り、ベッドの横に腰かけてから、蓋を開く。
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「う……」
梨花の口から思わず声が漏れた。
気のせいだろうか、どことなく生臭いような匂いが、ほんのわずかに漂ったような、気がしたからだ。
……不快だが、本能を突き刺すような、匂い。
しばし迷った後、梨花は瓶の中のどす黒い、卑猥な形のモノに手を触れた。
それに触れた瞬間、ぞくっとした刺激が身体に走ったような気がした。
まるで、知らぬ手に自分の身体に触れられた時のような感覚だ。
(どうして……?)
そんな風に感じられるのだろうか。
梨花は戸惑った。
(……柔らかい)
だが内側は固く、それでいて弾力性がある。
本物も、こんな感じなのだろうか。
そんなことを考えてしまったことに頬が赤らんでしまう。
片手でその表面をすりっと撫でた梨花は、ぶるっと震えてしまった。
明らかに胸の鼓動が高鳴っている。
こんなにグロテスクで気持ち悪い物を手にして、どうしてこんな風に感じてしまうのだろうか。
下半身から、じわりと疼くような感覚が伝わってきた。
自分の身体がこれを使ってほしいと、訴えてきている。
梨花は頬を染め、潤んだ瞳で目の前で屹立するそのモノを眺めた。
「これって……」
改めてその形を眺め、梨花はしばし戸惑う。
ちょうどL字となった棒状の長い方は、男性器を模したような外観をしている。
先端に向かって紡錘形となっている短い側には、表面に細かい線状のスリットが無数に存在している。
自分の中に押し入れる、というのはわかるにしても、どちら側を、入れればよいのだろうか。
梨花は、長い側に目を沿わせた。
(こっちは……ちょっと……)
大きすぎて、入る気がしないし、その勇気もわかない。
それにL字の角の部分にあるスカート状のヒダは、短い側の面を押し入れた場合にちょうど秘所にきれいに被さるような形状をしている。
そうなれば、まるで、自分が男性器を生やしたような収まりになるはずだ。
「う……ん……」
長い側を握り、こじ入れるように押し入れていく。
「あ……」
ぴりぴりと痺れるような、それでいて甘い感覚が股間に走る。
それが充分に奥まで押し込まれると、ヒダがまるで吸い付くように梨花の股間に張りついた。
同時に、それに触れたときから感じている、それが自分の身体の一部であるかのような感覚が、急激に強まっていく。
「あっ……!」
秘所にじりっとした不思議な刺激を感じた後、敏感な器官が握られている感覚に襲われ、梨花は思わず吐息を漏らした。
握っているのは、自分の手だ。
それは今や、単に自分の身体の一部ではなく、特別敏感な一部だった。
息を速め、ほんのわずか、その切ない感覚に身をゆだねた後、梨花は握っていた手でそれを撫でさすった。
「は!ふっ!」
ひとさすりするたびに、粘膜を刺激するような強烈な快感がびくびくと身体をかける。
それは梨花が今までに体験したことがないものだった。
「こ、これ……すごっ!……はぁぁ……ぁん……」
梨花はのけぞるようにベッドに仰向けに倒れ込むと、さらに手を動かした。
その動きは撫でさする、というよりももっと乱暴なものになっている。
しごく、という表現がふさわしいだろう。
梨花は、夢中になって自らのモノをしごき続けた。
「おっ!?……おぉっ!……」
絶え間なく続く強烈な快感に浸る梨花の口から漏れる喘ぎは、徐々に異様なものになっていた。
梨花の脳はこれほどの刺激を受け止めきれず、オーバーフローしてしまったのようであった。
理性や羞恥心のような感情は吹き飛んでしまい、頭が真っ白になり、まったく抑制が効かなくなってしまっていた。
モノだけではなく、全身が性感帯になったようにすら感じられていた。
頭のねじがはずれてしまったかのように、夢中になって梨花はひたすらシコり続け、異常なまでの快楽に耽った。
「あひっ、あひっっ!あひひっ!」
その顔はだらしなく歪み、狂ったかのような笑い声ともつかないような、喘ぎが口から漏れる。
このままシコり続ければ、本当に発狂してしまうのではないかとすら思われた。
だが、体力の限界がそれを許さなかった。
「は……ひぃ……ひぃっ……」
ついに手が止まり、梨花はベッドに横たわったまま、完全に脱力した。
頭が朦朧としている。
体は熱を帯び、全身から汗が噴き出している。
その汗の香りが、かぐわしく感じられる。
梨花の興奮はまったく治まっていなかった。
もっと、もっと、続けていたい……私のモノをしごいて……キモチヨクナリタイ……
真っ白になった頭の中に浮かぶのは、そんな衝動だけだった。
やがて呼吸が徐々に落ち着く。
梨花はそろそろと股間に手を伸ばした。
「あ……」
触れただけで、じわりと甘い感覚が立ち上ってくる。
ぞっとしながら梨花は再び手を動かし始めた。
手を動かせば、極上の快感を得ることができる。
今の梨花が考えているのは、それだけであった。
まさに自慰を覚えたサルと変わりがない。
刺激に身体を震わせながら、体力が持たなくなるまでひたすらシコり続ける。
何度も、何度も。
「も……も、らめ……」
そしてついに、梨花は自分が本当に限界に達したと感じた。
それは本能的なものだった。
これ以上これを続けたら、身体がもたない。
本当に死んでしまうかもしれない。
いや、身体だけではない。
このままだと、意識がとんでしまいそうだ。
意識がとんでしまうというよりもむしろ、完全に頭が真っ白になって、訳が分からなくなりそうだった。
梨花が感じたのは、自分という人格が洗い流され、発狂してしまうではないかということへの、本能的な畏れだった。
朦朧としながら、梨花は必死にぼんやりとする頭で思考した。
何をどうすればよいのか、わからなくなっている。
「ぬ……ぬ、かにゃきゃ……」
梨花は、とにかく股間のモノを抜こうと考えた。
これがそこにある限り、それが生み出すものを我慢することは、できない。
梨花はのろのろとおぼつかない手つきで、おぞましいモノを握った。
身体を猛烈な快感が走った。
「は……ふひゃあ!」
梨花は身体をのけぞらせ、異様な喘ぎ声をあげた。
両手に込められた力は、意識して、というよりもほとんど快感に対する反射のようなものだった。
腰を引いたために、ずりっという感じで梨花が掴んでいる醜い物が股間から糸を引きながら引き剝がされた。
それとともにぴりぴりと痺れるような感覚が、梨花の股間に走る。
表面にあった無数のスリットからごく細い糸のようなものがうねうねと動いていた。
それが彼女の粘膜に刺激を与えていたとでもいうのだろうか。
梨花の殻体から引きはがされたことが解ったかのように、無数の糸は、スリットの中に引っ込んでしまった。
「ほぁぁぁっ」
梨花は霧がかかったような頭の中が急速に晴れていくのを感じていた。
頭が驚くほどクリアになっていく。
肩で息をしながら梨花は、自分が握りしめていたモノを側に置いた。
「はぁっ……はぁっ……」
火照りの残る消耗した体をがっくりと横たえる。
横を向くと、纒めていた長い髪がいつの間にかほどけて梨花の顔の前に垂れてくる。
それをかき上げるのも億劫なほど梨花は疲れ切っていた。
梨花は横たわったまましばらくの間、その疲労と、先ほどまでまさに狂おしいほど感じていた快楽の余韻に、浸った。
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そんな昨夜のことを思い出して赤面する梨花に、以外にも奏子はどういうことになったのかを詳しく尋ねるということはしなかった。
もちろん、尋ねなくともどういうことになったのかはだいたい分かるのだ。
奏子は腕組みをして、満足そうな顔で頷いた。
「楽しんでくれたのであれば、よかった、よかった」
それから、少し真面目そうな顔をしてみせながら、奏子は梨花の顔を見た。
「でも使い過ぎはダメだからね。何度かイッたら必ず一度外さないとダメだよ」
「え、なんか怖いんだけど……昨日と言ってること違ってない?」
昨日の電話では奏子は、何も危ないことはない、という感じのことを言っていたはずだ。
「いやほら、使うと頭のぼせたみたいにホワッとになっちゃうでしょ。外さないでそのまま繰り返して使ってくとどんどんそれがスゴくなって、頭真っ白になってっちゃうよね」
梨花は頷いた。
「そのうちワケがわからなくなって、頭パーになってシコリ続けるサル女が一丁あがり……みたいになっちゃうワケ」
「いや……なんでそういう重大な事を後から言うかな……」
危ういところだった。
まさに昨夜、梨花はそんな感じに陥ってしまっていた。
もし自分で止められなければ、大変なことになるのではないか。
「どっちにしろ外しちゃえば、すっきり元通りだから、別に大丈夫だけどね」
あ……そうなんだ、と思ってから梨花は、それも昨日まさに自分自身がそうであったことを思い出した。
昨夜、確かに梨花は、自分で思い返しても狂ったように盛っていた。
頭がぼっとして霧がかかったように朦朧として、ほとんどわけがわからなくなりそうな状態でモノを引き抜いた瞬間、嘘のように頭の霧が晴れていったのである。
「外せばいいんだって自分で判断できなくなっちゃうとこまでいっちゃったら……恥ずかしい姿を他の人に晒すことになっちゃうかも」
「……そ、そうね……確かに……」
そう答える梨花の顔はやや引きつっている。
たぶんあれ以上続けてしまっていたらまずかったかもしれない。
股間に卑猥なモノをぶらさげて狂ったように自慰をする梨花を帰宅した母親にでも見られたらいったい自分はどうすればいいだろう。
そんな梨花の様子に気がついたのか、奏子は大丈夫だよ、とでもいうように手をひらひらとさせて続けた。
「ま、もうこれ以上は限界!ってところがあるはずだから、そこで止められるし、心配ないよ」
確かにそう言われてみると、昨日も実際のところあれ以上続けることはできなかっただろう。
あのとき、気持ちよすぎて、身体が限界で、これ以上はもう耐えられない、という感じになってしまっていたのは確かだ。
そこでの自分の意思は、もう止めないとムリ、というものだった。
これ以上続けたら、頭がぶっ飛んでしまうか、身体が持たずに卒倒してしまうか……そこまでいったらどうなってしまうのか、ということへの畏れのような感情を抱いていたのも確かだ。
だから多分、そのことを知らなかったとしても、限界のその先に行ってしまうことは無理なのだろう。
そういうことがわかっていれば、なおさらである。
そこまで考えを進めて、奏子の言葉に梨花が抱いた不安はようやく落ち着いた。
(大丈夫なら……良かった……)
梨花は自分が何に安堵しているのかを気がついていなかった。
あのモノをまた使ってもどうやら大丈夫そうだということに、彼女は安堵しているのだ。
だがそれはある意味で当然のことだろう。
昨夜、梨花が体験した快楽は、今まで味わったことがないような凄まじいものであったのだ。
実際のところ、梨花の頭の中は、もう一度あの快楽を味わうことへの欲求でいっぱいだった。
そう、少しでもはやく帰宅して、何もかも忘れて、ただ快楽に耽るのだ。
(つづく)