no preview
DESCRIPTION
5.奏子への懇願
「それじゃあ、なるべく夕方には帰ってくるからね」
そう言って、休日だというのに梨花の母は仕事に出かけてしまった。
それ自体はよくあることと言ってもよいが、今の梨花にとって家に自分だけで他人の目が無いということには、大きな問題があった。
母を見送った後、自室に戻った梨花は、すぐに机の引き出しを開け、中からそれの入った瓶を取り出した。
ほんの少しの間も、我慢することができない。
この数日、家に一人で居る時は……ほとんどそうなのだが、梨花はずっとこの秘密の行為に夢中になっているだ。
ベッドに座って履いていたショーツを脱ぎ捨てると、もどかしげに瓶の蓋を開け、グロテスクなそれを取り出すと、秘所に押し当てる。
ぬぷり……という感じで棒の根元がひだの辺りまで秘所の中に沈んでいくのに呼応して、ぴりぴりっと、痺れるような甘い感覚が梨花の股間に湧き起こった。
「あ…ふぅ……」
梨花は頬を桃色に染め、吐息を吐いた。
それと神経がつながり、それがまるで自分の身体のとりわけ敏感な一部分に変わったように感じられる。
梨花はごくりとつばを飲み込み、その股間のグロテスクな一物に、自らの細い指先を這わせた。
切ないような快楽が湧き上がってくる。
「あ、はぁぁ……」
梨花はたまらず愉楽の声をあげた。
家には自分ひとりなのだから何をはばかるということもない。
徐々に手指の動きは激しさを増していき、それにつれて快感も激しさを増す。
梨花はただ我を忘れてその快感に酔いしれた。
絶頂の度にほとんど気絶寸前の様相でベッドに倒れ込みながらも、荒い呼吸がある程度静まると少しの我慢もできずに手がそろそろと股間に伸びていくのだ。
そうやって何度も何度も絶頂を繰り返し、その度に梨花は全身をビクビクと悶絶させた。
体の感じるままに、梨花は体をのけ反らし、震わせ、くねらせる。
その身体の動きはだんだんと激しくなり、ひきつるようなものになっていった。
「……う!……うへっ……うへっ!……うひっ!……」
いつしか顔の筋肉は弛緩し不気味な笑い顔となり、喘ぎ声も徐々に異様な様相を呈していく。
その表情には普段の梨花の理知的な品の良さはほんの少しも見られない。
長い髪を顔にかかるのも少しも気にすることなく振り乱し、視線は焦点を失って彷徨っている。
さえずるような少女のソプラノの声も抑制を失って、下品な低い声調に変わってしまった。
「ほへっ……ふへっ!……フヒヒッ!……」
半開きになった口から気の触れたような笑い声が漏れる。
いまや梨花は完全に正気を失い、何も判らずにただ快楽を貪るだけの状態に陥ってしまっていた。
つい昨日、奏子に注意されたにも関わらず、梨花はいとも簡単に止めるべき一線を超えてしまったのだ。
奏子の言葉通りなら、このままでは梨花は衝動の求めるままに自身を辱める行為を果てしなく続けるということになる。
「あー、心配した通りだわ……」
前触れもなく部屋のドアが開いて、梨花の部屋にひとりの少女が入ってきた。
奏子だ。
ドアの横にカバンを置くと、奏子は腰に手をあててベットの上の梨花の痴態を眺めて、呆れたような表情を浮かべた。
その奏子にもまったく反応することなく、梨花は異様な嬌声をあげながら一心不乱に股間のモノをしごき続けている。
奏子はそっと梨花に近づくと、横合いから梨花の股間に手を伸ばし、彼女の肉色の棒を掴んだ。
「ひぁ!」
思わぬ刺激を感じて梨花は大きくのけぞった。
だが奏子は少しのためらいもなく、すっと手に力を込めてそれを引き抜いた。
ズポっという感じで糸を引きながらそのグロテスクなモノは梨花の股間から引き剥がされた。
「ふわぁ……」
梨花は気の抜けたような声をあげて、動きを止めた。
ベッドの上に仰向けになったまま、放心状態になっている。
奏子は梨花の視線を妨げるようにその目の前に顔を押しこんだ。
「ね、梨花ちゃん。だいじょうぶ?私のこと、わかる?」
呆けたような梨花の目が徐々に焦点を取り戻す。
「……か、なこ?」
「……何が、かなこ?、よ。まったくもう」
奏子は、腰を伸ばして姿勢を戻した。
状況が掴めず、目をパチクリさせた梨花を呆れたように見下ろす。
「私、言ったよね。そのまま繰り返して使ったらダメだって」
腕を組んで諭すように奏子は言った。
「……いつも私が来れるとは限らないんだから」
梨花はおずおずと半身を起こして奏子の顔を見上げた。
聞きながら梨花はようやっと状況を認識し始めていた。
奏子の言う通りだった。
どうして彼女がここに現れたのかはわからない……おそらく着信に答えが返ってこないとか、そういうことからこの事態を想定したのだろうが……とにかく奏子がやってこなければ梨花は失神するまで堕落した行為に耽溺し、いずれにせよ帰宅した母親に救いようのない醜態を晒してしまっっていたことだろう。
奏子は梨花を狂わせたその元凶を顔の横に掲げた。
「コレは私が持って帰るから。いいよね」
当然の判断だろう。
梨花は奏子に忠告された限度の範囲を超えてしまったのだ。
これまでと同じように、ぎりぎりの段階で止めることはできたはずだ。
増し続ける快楽に身を任せ朦朧とした意識の中、ある時点でこれ以上続ければ抑制が利かなくなるであろうことを自覚することはできた。
だがその時、その限界の先を体験したい……たとえその結果、正気を完全に失ってしまっても……そのような欲求に梨花は歯止めをかけることができなかった。
今まで自分が立っていた世界から完全に解放されと、それと異なる未知の世界に達することを望んだのだ。
奏子を見上げる梨花の瞳が潤んだ。
視線が奏子の顔とその手に持つモノとの間をさまよう。
「だ、ダメ……」
「ダメ……じゃないでしょ」
梨花の口から震えるような言葉が漏れた。
奏子はふるふると首を振って、言下に否定した。
「……ホントに。私が勧めておいてなんだけど。私、梨花ちゃんがこんなに我慢の利かない子だとは思わなかったよ」
梨花はこみあげる感情にのどを震わせ、奏子にすがるような視線を向けた。
「お願い……」
震え声で懇願しながら身を乗り出す梨花を、奏子は困ったような目で見下ろした。
「ダメだって」
梨花は両手を前に出し、奏子に縋りつきながら懇願を繰り返した。
「……お願いよぅ、奏子……それが、ないと、わたし……」
プライドもまるで捨て去りひたすらに懇願を続ける梨花の悲痛とも言えるその様子に、奏子はついに根負けしたのか、今度は仕方ないとでも言いたげに首を振った。
「……わかった、わかったよ。それなら今日のところは置いて行くけど……」
その言葉に梨花の顔がぱっと輝いた。
奏子は、空いた手を伸ばし、梨花の額に触れた。
顔に貼りついた髪の毛をかきあげてやりながら、梨花に言い聞かせる。
「……だけど、約束して。次にこんなことがあったらもう終わりだからね。そうしたら……」
いったん言葉を区切り、奏子は梨花の顔をじっと見据えた。
「……そうしたら、梨花ちゃんはもう二度とコレを使えなくなっちゃうんだよ。そんなのいやでしょ?」
目を潤ませた悲痛な面持ちのまま、梨花はこくこくと頷いた。
だが、奏子が自分の手元にそれを残してくれるというのなら、今の梨花はどんな約束でもすることだろう。
そして梨花がそんな状態にあることに、奏子も気がついていないはずはない。
このまま梨花の手元にそれを置いていくことの危うさについても同様だ。
奏子は梨花に背を向けると、机に歩みよりその上に置かれた瓶に手を伸ばした。
手にしたモノをそこに納め、蓋をしてから机の上に戻す。
そうして奏子は梨花の方を振り向いた。
「さ、まずはシャワーを浴びて。熱いお湯で気持ちを鎮めるといいよ。家の人が帰って来る前にね」
奏子はにっこりと微笑むと、梨花にそう告げた。
(つづく)