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「浩太さん、この後飯食ってスーパー銭湯行きませんか?」
「ん、え?」
金曜の夜、珍しく休日出勤しなくて良い週末を迎えた安心感と、振動を感じさせないエレベーターにぼんやりしていた俺は慌てて隣に立つ後輩、岸野を見上げた。
「浩太さん、ボーッとしてたでしょ」
180㎝以上ある体育会出身のがっしりした体の岸野が、白い歯を見せて爽やかに笑う。
「ご、ごめん。銭湯?急になんで…」
「浩太さん、後輩の俺が言うのもあれですけど、頑張りすぎですよ」
正志さんとの出張から数ヶ月、新年度を迎えた俺には初めて後輩ができていた。
正志さんは昇進し、会社の中心部署の管理職に異動。
まだ40代なのに次期社長の声も出てきた。流石だ。
あの夜から正志さんを見ると、高級スーツとパリッとしたシャツの下に隠された完璧に雄として成熟した極厚の筋肉と巨根、そしてとんでもない絶倫ぶりが思い出されてドギマギしていたから、異動された時はほっとしたような、寂しいようなだった。
「い、いや普通だと思うけど…」
俺がごにょごにょ言うと、岸野が怖い顔を作って顔を寄せてきた。
「残業時間が他の人の倍ですよ。異常です」
「そ、それは俺が要領が悪いからで……」
と俺が言いにくいのをなんとか口にすると岸野がすぐさま「アホですか!」と突っ込んできた。
「ア、アホ……」
普段礼儀正しい岸野の暴言に呆然とする。
「成果物の量が1人だけ段違いでしょう。なのにみんな浩太さんが一番詳しくて言いやすいからってあれもこれも頼んできて……」
ブツブツと言い募る岸野に、そう思っていてくれたのかと感動する。
初めて岸野が来た時は、その爽やかなイケメンぶり、180cmの長身に筋肉質な体、とその眩しさにだいぶ気後れしたものだ。
「お、おおー、ありがとう……」
思わず顔を見れずにぼそぼそと言う。
岸野が、んぐ、と言葉を詰まらせ、「だ、だから…」と再開する。
「うまいもん一杯食って、温泉入ってサウナ入って、疲れとって欲しいんですよ…」
先程とは裏腹のボソボソとした口調。
ぴんとくる。
「あー、それで今週朝早くから頑張ってくれてたの?」
俺はいつも9時出勤だが7時過ぎには会社にいる。
単純に他に人がいなければ何か頼まれることもないし、1番仕事が進むからだ。
普段は1人のところ、今週から急に岸野も出てくるようになった。
「……まあそんなとこです」
微妙に不貞腐れたように岸野がそっぽを向いて言う。
そうされると身長差で表情が見えない。
「うおお……なんかごめんな、俺なんかのために」
俺がそう言うと、バッ!と岸野がこちらを向き
「だから好きでやってるだけなんで!で!?行くでいいっすか!?」
顔を赤らめ逆ギレ気味に言う岸野の勢いに押され、俺は思わず「も、もちろん」とカクカク頷いていた。
エレベーターが開き、「よし」と小さく拳を握る岸野の、俺より大きい背中をちょこちょことついて行く。
……この気遣いといい、どっちが先輩かわからないな、と心の中で呟きながら。
「おー、やっぱイイ体してんなぁ……」
俺の知ってるスーパー銭湯とはだいぶ違う豪華な施設で、まずは食事を終え、俺達は温泉に入ろうとしていた。
バサッ!もカッコよくシャツを脱ぎ去り、鍛え上げられた上半身を露出した岸野を見て思わず言う。
岸野がフフン、と鼻の穴を広げ、
「今でもジム通いしてますから!」
そう言って大胸筋をピクピクと動かして見せる。
すごいすごい、と俺は笑う。
去年の俺なら動揺しただろうが、正志さんのむせ返るような雄味溢れる体を見た後では、なんというか……大丈夫だ。
だって目の前の岸野の体は正志さんに比べれば……。
俺の反応が物足りなかったのか、岸野は俺の手を取り、
「腹筋が1番自信あるんですけど……どうですか?」
と触らせていた。
滑らかな肌の感触と、それに覆われたカチカチの石のような腹筋の感触に、流石に慄く。
「う、お、や、やめろよ……」
なにか気恥ずかしく手を引こうとするが、岸野は俺のその様子ににんまり笑い、
「ほら。ただ痩せて割れてる奴と違って、分厚いでしょ?」
そう言って弄らさせる。
「わかった、すごいすごい!」
俺が顔を赤くして必死になっていると、やっと岸野が解放してくれた。
「まったく……さ、騒ぐなよなこんなところで」
平気を装ってシャツを脱ぎながら言う。
「デカい声出してたのは浩太さんですが」
という岸野のからかいに、俺はシャツをたたみながら言い返そうとしたが、「細っ!」と俺の腰を掴んできた岸野に驚いて「うわっ!?」と声を上げてしまう。
「浩太さん細すぎですよ……女でもこんな…」
確認するように触ってくる手を振り払う。
……俺の腰を完全に掴みかかっていた、グローブのような分厚い手を思い出す。
「ス、スキンシップ多くないか?運動部ってみんなそうなの」
ブツブツ言う俺に、俺の体をじっと見ていた岸野がはっと顔を上げる。
「え?あーまあそうですね……ん?みんな?」
首を傾げる岸野の頭をタオルで叩き、「というか早く温泉行こう。寒い」と促した。
「あ、すみません」
と岸野がスラックスを丁寧に脱ぐ。
ブランド物っぽいボクサーブリーフ。
正志さんもカッコいいパンツ履いてたな…とぼんやり思い出す。
股間の規格外の質量と重量ではち切れそうだったが。
岸野が俺をちらっと見てから、ズルッとボクサーを下ろす。
ブルンッ、と飛び出る立派な逸物。
下着モデルかと見紛う均整の取れた細マッチョな体に反して、やや黒ずんだ使い込まれた風情の、平均より明らかに大きいソレ。
ぼてっとした亀頭は半分剝け、その丸々とした表皮を晒している。
俺は慎ましく目をそらし、自分も脱いですぐタオルを巻く。
岸野が待っていたので、
「……なんか脱いでも恥ずかしくない体って感じたな」
と言うと、ははは…と照れくさそうに、でもどこか満足気に笑い、「行きましょうか」とタオルは手に持ったまま大浴場に向かっていった。
俺は数ヶ月たっても褪せぬ正志さんの、到底下着モデルなど努められない、強すぎる精力と性欲が表面化したような浅黒い極厚の筋肉ボディと、大きすぎる男性器を思い出していた。
「あっつ……マ、マジでこれ入んの?」
体を洗い、しばし温泉に浸かり、連れてこられた初めてのサウナの熱に俺は慄いていた。
「慣れれば平気っすよ、とりあえず10分弱くらい、試してみましょうか」
洗った髪を書き上げ、スッキリと額を出した岸野がタオルを首にかけ、フルチンでブラブラさせたまま言う。
自分の体に自信があるのか、一貫して隠さないし、その長身で筋肉質な体と巨根に、温泉の男達は目をそらすか逆に凝視するかだ。
並ぶと貧相な自分な体が虚しくなるところだが……正志さんとの夜(こう言うと意味深だ)を経験して何か吹っ切れたのか、あまり気にならない。
ショック療法というか……あんな、とてつもない体を見せつけられたらみんな同じというか……。
ふー、と岸野がタオルを敷き、ドカッ、と勢いよく檜板に座る。
タイミングが良かったのか、他に人もいない。
ぼてっとその人より大きな逸物がタオルの上に投げ出される。
俺は少し距離を置いて横に座る。
熱い。思考が強制的に停止させられるような気がする。
「…どうっすか?」
ぼんやりしていると岸野が一つ上の段に肘をついて俺の方に体を向けていた。
「どうって…あっついよ。俺の方にそんな普段汗書かないけどほら」
と俺の細腕を突き出してみせる。
「……俺も白い方っすけど、浩太さんマジで白いっすねぇ…毛もないし」
岸野の言葉に俺は「悪かったな」と腕を引く。
「いやいやいやいい意味で!」
と岸野が身を乗り出してくる。
「浩太さん楽しめてますか。俺は今日一緒に来れてすごい嬉しいっすけど」
真正面から問いかけられてなんか気恥ずかしい。
近い、と顔を押し返そうとしたが、逆にその手を捕まえられた。
「な、なに……」
「というか浩太さんって今……」
岸野が真剣な顔で何か言いかけたとき、誰かがサウナに入ってきて慌てて揃って座り直した。
入ってきた人影に岸野が目を見張り「で、でっか…」と呟くので視線を追い、俺は予想外の事に驚き、「えっ」と目を見開いた。