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ガシャッ!!!
最後まで気を抜かず、丁寧にバーベルを下ろすのが信条だがギリギリまで追い込んだ最後の1回は流石に乱れた。
フーッ……と息を吐きながらベンチから体を起こす。
大胸筋がパンパンにパンプアップしているのがわかる。
身長178cm、体重75kg。
ミドル級である俺のオフの状態としては申し分ない、と思う。
普段から節制しオフでも体脂肪5%をキープしているのでかなりの筋肉量だ。
この期間に更にパワーをつけたく、最近はウエイトにも比重を置いている。
座ったまま鏡に映る自分をを見る。
ナイロンのトレパンにグレーの綿のタンクトップ。
生地に皺が寄るほど胸の筋肉が隆々と盛り上がったタンクトップは汗で黒く滲み、剥き出しの腕はロードワークで焼け、引き締まり、みっちりと筋肉が詰まり、盛り上がっている。
……いい状態だ。クールダウンも兼ねてサンドバッグ打つか。
ぐっ、と膝に手を当て立ち上がろうとしたとき、ぬっ!と黒い影が俺を覆った。
顔を上げると、大柄な男が俺の前に仁王立ちになり、俺を見下ろしていた。
逆光で表情は見えない。
「お疲れさまです!もう終わられちゃいますか?」
爽やかで邪気のない男の声。
目が慣れ、男がグレーのスウェットとこのジムのロゴの入った紺のTシャツ、名札を首に下げているのがわかる。
ここのトレーナーだろう。
「はい。すみません、長く占領してしまっ……て……」
立ち上がりながら答えた言葉が思わず途切れたのは、目の前に立つトレーナーの体躯が、予想外に大きかったからだ。
「いえいえ、補助必要かなと思って来ただけなので。遅すぎましたね」
まだ20代に見える爽やかな風貌と声。
だが、トレーナー、名札によると加瀬、は178cmある俺より頭1つデカかった。
肩幅も段違いに広く、圧迫感を覚えるほど隆起したはち切れんばかりの大胸筋は俺の3倍以上の厚み、筋肉量がありそうだった。
ギチギチに引き伸ばされたシャツは今にも引きちぎれそうだ。
メリメリッと前横に押し広がる大胸筋とは反して、胴回りはズッシリと堅く肉厚に引き締まり、ボッコボコの腹筋の形がシャツ越しにも見て取れた。
腕は俺の腿よりも太く、伸ばしているにも関わらず岩のような上腕二頭筋と上腕三頭筋がボゴォッ!と太い血管を浮き上がらせたまま盛り上がり、シャツの袖をミシミシと拷問していた。
……格闘技の世界で生きてきたが、これほどまでに全身の筋肉を猛々しく発達させた男は見たことがなかった。
しかも2m近い大男。
筋肉を鍛えるのに長身は不利だが、加瀬はまるでそのハンデを感じさせない。
これだけの若さでどうやって…。
テストステロンの権化のような、アルファ雄として究極に完成された男。
目の前に立たれると覆われるようで、縦、横、厚み、何一つまるでかなわず、鍛え上げた自分の体が貧相なものに思えてくる。
「はは……またお願いします」
俺は気圧されたことを隠すように曖昧に笑うと、すっ、と加瀬の体とベンチの隙間から離れる。
そのままくるりと背を向けようとすると、ぬっ、とデカい手が伸びできてガッ!と乱暴ではないが有無を言わさぬパワーで肩を掴まれ、そのびくともしない腕力に俺はひっくり返されそうになった。
思わず驚いた顔で振り返ったが加瀬はまるで気づいていないように爽やかに笑った
「はい、ぜひ。桐生さん」
……名前を把握されていることに一瞬ドキッとするが、気づかれないように笑い返す。
加瀬は表情を変えないまま、グッ!と念を押すように俺の肩を砕かんばかりに一度抑え込み、そして俺を解放した。
…俺は肩をさすろうとするのをなんとか堪え、サンドバッグがあるゾーンへ移動した。
……背中に、ずっと加瀬の視線が張り付いているような気がした。
体力が尽きるまでサンドバッグをド突き、本当のクールダウンとしてランニングマシンをこなした。
ゆうに1時間以上。
すっかり閉館時間になってしまった。
十二分にやり切ったはずだったが、達成感はなかった。
更衣室でノロノロとタンクトップを脱ぐ。
……どうしても、加瀬の雄としてあまりにも圧倒的な肉体が脳裏をよぎる。
極厚の上背に目を奪われていたが、下半身も凶悪な重量感だった。腿の太さなど、俺の胴よりも太かった…。
寒気がするほどの筋肉量。
もちろん、あれは魅せるために鍛えた筋肉だろうし、事によっては増強剤のようなものにまで手を出しているかもしれない。
……いやそうに決まっているだろう。
あの長身、あの若さであの体はありえない。
2m近くであのバルク。
身近で感じた容積と迫力は、俺の倍以上もあるようなウエイトを感じさせた。
そうなるとつまり……。
そう考えると、普段は小気味よくサンドバッグの音も、小さく軽いものに思えてきてしまう。
ボクシングは体重で細かく階級を変える競技だ。
加瀬は……。
いや、でも実際あれだけの筋肉量で運動量やスピードは期待できない。
実際の闘いではウドの大木、サンドバッグになるしかないだろう…。
1人頷き、自分を納得させる。
さあもう閉館時間だ。
さっさとシャワー浴びて帰ろう。
人がいないことをいいことに堂々と全裸になる。
いや、別に普段から人目を気にしてはいない。
全身均整のとれた筋肉隆々の体、それも闘う実用的な逞しい体であると自負しているし、男性器のサイズも並の男より一回り、二周りはデカいし、包皮は完全に剥けている。
肩にタオルをかけ、バチンッ!バチンッ!と腿にペニスをぶち当てながらシャワールームに向かう。
と、その時。
ガララッ!と更衣室の引き戸が空いた。
トレーニングルームには他の利用者はもういなかったと思うが……と肩越しに振り返り、固まった。
「桐生さん!」
相手も驚いたように声を上げる。
加瀬、だった。
先ほどと変わらぬ筋肉ではち切れんばかりのTシャツ姿で目を丸め、すぐさま、爽やかな笑顔に変わる。
なぜかゾクッ、とした。
「あ、あぁ、遅くまですみません、すぐシャワー浴びるんで…」
と踵を返そうとすると、「いや、ラッキーだなぁ!」と加瀬が大きな声を上げ、ズンッ!ズンッ!!と勢いよく近づいてきた。
思わず向き直る。
満面の笑みの加瀬の目が、俺の全身を舐めるように見た気がした。
「何がですか?」
俺は後退しそうになるのをぐっと堪え、恥ずかしいことなど何もないようにグッ!と胸を張り、近づいてくる加瀬の前に立った。
目の前で加瀬が仁王立ちになる。
俺の倍以上あるズッシリとした大胸筋の隆起が、俺に触れそうだった。
加瀬の巨体の影に覆われる。
顎を上げて見返す俺に、加瀬は変わらぬ爽やかな笑顔で白い歯を見せながら俺を見下ろし、言った。
「抱かせてください」
「……はァ?」
低く凄んだ俺の声に、加瀬の笑みが益々深まった。
メゴォッ…!!!とその腕の筋肉が膨れ上がった。