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「ぐッ……!?」
壁に埋められた金澤が顔を歪ませ、なんとか抜け出そうと震える腕で藻掻く。
「はは…もう少し手加減しないといけなかったか?ん?」
竹中が悠然と金澤に向かっていく。
俺は呆然とその背中を見つめた。
身長は175cmとその年代にしては…いや、よく考えると竹中の正確な年齢は知らない。75歳は超えていると思うが…、かなり長身だが、高齢者らしい肉のそぎ落とされた体躯。
恐らく俺より軽く、50kgもないだろう。
そんな老人が男盛りの120kgオーバーのボディービルダーを投げ飛ばした…?
到底理解できない状況に、俺はベッドの上で呆然とする。
壁の金澤の前に竹中が立つ。
やはり、まるで勝負にならない体格差だ。
壁に貼り付けになっているとは言え、金澤の方が背は20cmは高く、体重は3倍、80kgは重いだろう。
だが。
助けてやろう、と竹中が薄ら笑いを含んだ声で言ったかと思うと、宙を彷徨う金澤の手を掴み、ぐわっ!!!と重機のような有無を言わさぬパワーで、ドシャッ、グシャッ、と壁の残骸を撒き散らしながら金澤の巨体を軽々と引っ張り出した。
物理法則を無視したかのような怪力に俺も金澤もされるがまま、慄き、混乱した頭で竹中を見上げる。
メキッ……メキッ……と竹中がそのまま高々と腕を伸ばすと、あろうことが金澤の巨大な体躯が、ふわりと宙に浮かび上がった。
「なッ……!?」
金澤は自分が吊るし上げられていることを確認するように、恐る恐るといった風情でその逞しい脚で宙を掻く。
先程まで意気揚々と俺を犯していたペニスは萎え、ぷらん…と困惑するように縮こまり垂れていた。
「金澤クン。流石に恩人に向かって先ほどの態度はどうなのかな?うん?」
竹中が吊るし上げた金澤に顔を寄せ、唇を歪ませるようにして笑う。
「えっ!?いやっ、あの…っ!?」
信じられない怪力と、権力者である竹中の機嫌を損ねているらしい状況に金澤が先程までのオラつきはどこへやら、おたつき口ごもっていると、すっ、と竹中が目を細めた。
「私の質問にはすぐ答えろ」
そう言うとその華奢な拳を金澤の腹筋がボッコボコに盛り上がる腹にぶち込んだ。
当然分厚い筋肉の壁が骨ばった竹中の拳を弾き飛ばすものと思われた。だが最早……。
「げほぇッ……!?!?」
カタパルトのように、竹中の拳が深く、深く金澤の腹に食い込み、金澤は目をかっ開き、頬を膨らましたかと思うと、耐えられず、ゴホッ…!?と嘔吐した。
竹中が吊るし上げていた手を離し、ゴギュッ…メキョッ……と腹にめり込ませた拳だけで金澤を折畳蒲団のように宙吊りにする。
信じられない筋力。
俺は知らず震え始めた体を自分で抱く。
俺の目がおかしくなければ…白いバスローブに包まれた竹中の後ろ姿が、グムッ…ゴギュッ…!!と肥大し始めているように、見えた。
汚いぞ、と竹中が眉をひそめ拳を引き抜き、金澤を落とす。
ゴヘッ……と潰れた蛙のような声を出した後、金澤は竹中の一撃のダメージに震える腕をなんとか突いて顔を上げ、「な、なに…なんで……」と混乱がそのまま出た言葉を漏らす。
俺も同じ心境だった。
何が置きているのか分からない。
何がどうして、痩せた老人が超ヘヴィー級のボディービルダーを片手で投げ飛ばし、ぶちのめせるのか…。
「わけがわからないという顔だな」
竹中はうっそりと笑うと、見上げる金澤の顎を掴み、その上半身を当然のように引きずり上げた。
スカスカだったバスローブの腕が、いつの間にやら、パンパンになっている。
ちょうどだった丈が、足りなくなり、モリモリと筋肉の盛り上がったふくらはぎが見え隠れし始めていた。
ゴギュッ…!!!メゴォッ……!!!メキメキメキッ…!!!
と聴いたことのないような音が、竹中からする。
「お前、まさか私がくれてやったサプリメントが、本当にお前専用のモノだと思っていたのか?」
おめでたいやつだな、と竹中が笑う。
いつの間にか70代半ばに見えた風貌から皺が消え、引き締まり、50歳程度の壮年の男の風貌に変化している。
胸板が厚く盛り上がり、バスローブを引き伸ばす。
金澤も俺も、目の前で起こる信じられない光景に、竹中の言葉の意味が追いつかない。
「あれは私用に長年、大枚をはたいて研究してきたモノの試薬品だ。私が、私に相応しい肉体を獲得するためのな」
フン、と竹中が鼻で笑う。
広背筋がメリメリと分厚さと広さを増し、後ろから見るバスローブがバツンバツンに貼る。
尻も筋肉が大きく発達し、盛り上がっている。
「だってそうだろう?私のような支配者になるべくして生まれた優れた男には、それ相応の肉体がなくては。私が老い細ろえていくなど、あってはならぬことだ。なぁ、そう思うだろう?」
最早、超ヘヴィー級ボディービルダーの金澤を軽々と超越する体躯-背丈も身幅も厚みも-を誇る50代の規格外の筋肉隆々たる雄に変貌した竹中は、高々と金澤を吊るし上げていた。
だが、その筋肥大はまだまだ治まる気配がなかった。
自分より圧倒的な雄に変貌した竹中に吊し上げられ、その迫力と理解できない状況、未だバルクアップを続ける竹中への恐怖に、金澤は「あ……すんません、スンマセン…!!!」と必死の形相で謝った。
120kgの筋肉隆々の肉体が、虚しく宙を掻く。
フン、と竹中が雄臭い表情で笑った。
濃い揉み上げにラウンド髭、黒黒とした堅そうな髪、濃い目鼻立ちに大振りな口、分厚い唇。
精力漲る男性ホルモンムンムンの、雄。
「謝る必要はない。元からお前"も"実験台にするつもりで呼んだのだからな」
そのままブンッ!!!と金澤をズタ袋のように俺の這いつくばるベッドの方へ投げ飛ばした。
ズダンッ!!!と床に叩きつけられた金澤が勢いを殺せず跳ね上がり、転がり、ベッドにドガッ!とぶち当たってようやく止まる。
軋むほど激しくベッドが揺れ、俺は耐えられずに転がった。
ベッドに背中を押し付けるようにしてガクガクと震えながら竹中を見上げる金澤に思わず隠れるように身を寄せてしまう。
その容姿に竹中が目を細めた。
メゴッ!!!メギョォッ!!!と肩幅が広がり、大玉でも突っ込んだかのように大胸筋が隆起する。
メキメキと背丈が伸び、足首まであったバスローブは最早膝上まで来ていた。
太りきったマグロのような脹脛とゴツゴツとした膝、鉄板でも入れたかのような堅そうな毛むくじゃらの向こう脛。
はち切れんばかりのバスローブの隙間から浅黒い肌が覗く。
「そろそろか」
竹中はニヤッと笑うと、ズシッ!!!ズシッ!!!と床が揺れているのではと思わせる重量で俺達に近づいてきた。
一歩ごとにダイナミックに全身の極厚の筋肉が躍動し、筋肉量を増していく。
見上げる影は更にデカくなり、深い暗がりに落とされたように錯覚しそうになる。
俺達のすぐ前で竹中が仁王立ちになった。
ムワッ!!!と雄フェロモンとでも言うべき臭いと熱気、汗と性の臭いに包まれる。
「見せてやろう」
竹中が白い歯を見せて笑うと、フンッ!!とダブルバイセップスのポーズを取ったかと思うと、ただでさえ規格外の筋肉量を誇る大男と化していた竹中の肉体が更にゴギュゥゥゥッ!!!!!!とバルクアップし、バスローブが弾け飛んだ。