氷の騎士と素顔の私:第9章 セリナとエレノアのクリスマス
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孤独な趣味だった沙織(セリナ)の美少女着ぐるみの活動。
しかし、大先輩である美穂(エレノア)との距離が、深い悩み相談を経て今やかけがえのない親友へと変わっていた。
クリスマス当日、二人はファン待望の共演生配信に挑んだ。
しかし、万全の準備で臨んだはずの生配信中に、セリナとエレノアを予期せぬトラブルが襲う――。
一人では見られなかった景色、一人では越えられなかった不安。美少女着ぐるみに魂を吹き込む二人が、聖なる夜に贈る最高のプレゼントと、深まる絆の物語。
※FANBOX / Pixiv 同時掲載
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偶然の再会
12月中旬の土曜日、表参道のショッピングエリアは師走の賑わいに包まれていた。
クリスマスまであと10日余り。
街はイルミネーションに彩られ、買い物客で溢れている。
午後2時半を過ぎた頃、野田沙織は人気のアクセサリーショップで、セリナに合わせる新しい小物を選んでいた。
最近のセリナ活動をより充実させるため、氷をモチーフにした新しいアクセサリーを探している。
手に持った候補は三つ。
雪の結晶型のシルバーブローチ、氷柱をイメージしたヘアクリップ、そして透明クリスタルのイヤリング。
どれもセリナのコンセプトに合いそうだが、決めきれずに迷っていた。
(セリナの衣装に合う新しいアクセサリー...氷の結晶系で、でも今のとは違うデザインがいいな)
と呟きながら、三つの小物を手に取っては眺め、また戻すという動作を繰り返していた。
膝の打撲はだいぶ良くなってきたが、まだ少し痛みが残っている。
長時間立っているのは少し辛いかもしれない。
同じ頃、同じフロアのコート売り場では、椎名美穂が新しい冬用コートを物色していた。
既にエレノアのメンテナンス用品は購入済みで、専用クリーナーやスポンジ交換用部品の入った袋を手に提げている。
(コート、どれにしようかな。でも最近ちょっと太ったから、体型カバーできるシルエットがいいかも)
と考えながら、何着かのコートを試着していた。
鏡に映る自分の姿を見ながら、少し溜息をつく。
教師という仕事柄、食事が不規則になりがちで、最近は体型が気になっていた。
そんな2人が、運命的な再会を果たすのは、それから10分後のことだった。
沙織がブローチ選びに迷っていると、隣の試着コーナーから見覚えのある声が聞こえてきた。
「すみません、このコート、もう一つ上のサイズはありますか?」
その声に、沙織は思わず顔を上げた。
「あの声...もしかして美穂さん?」
振り返ると、コート試着中の美穂と目が合った。
お互い一瞬、驚きの表情を浮かべる。
「沙織さん!こんなところで偶然ですね」
美穂が明るい声で挨拶すると、沙織も笑顔で応えた。
「美穂さんもお買い物ですか?奇遇ですね」
「冬用のコートを探してて。エレノアのメンテナンス用品も買いました」
「私はセリナ用の新しい小物選びです。実は、いつか新しい衣装も作ってみたいと思ってて」
新しい衣装という言葉に、美穂の目が輝いた。
「新しい衣装!羨ましいです。私も作ろうかな...」
「美穂さんなら、きっと素敵な衣装ができそうです」
「最近、SNSの広告収益がそれなりになってきたので、エレノアのために色々投資できるようになって」
広告収益という言葉に、沙織は少し驚いた表情を見せた。
「広告収益!そんなレベルまで...さすがです」
美穂は少し照れくさそうに笑うと、沙織に提案した。
「お邪魔でなければ、私もご一緒させてもらえませんか? 客観的な意見もあった方が良いと思いますし」
「ぜひお願いします! 美穂さんのアドバイス、信頼してますから」
こうして2人は、一緒に買い物をすることになった。
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美穂の的確なアドバイス
沙織が迷っていた三つの候補を見た美穂は、即座に判断を下した。
「氷柱のヘアクリップが良いと思います。セリナのコンセプトにも合うし、既存の雪の結晶髪飾りとも被らない」
「さすがです。私も何となくそれかなと思ってました」
「セリナの髪の色を考えると、シルバー系より透明クリスタルの方が映えそうです」
美穂の助言に、沙織は迷わず氷柱ヘアクリップを購入することに決めた。
レジで会計を済ませながら、沙織は改めて美穂のセンスの良さに感心していた。
自分一人では、もっと時間がかかっていただろう。
店を出て、次の目的地を探しながら歩く2人。
しばらく歩いたところで、美穂が気づいたように言った。
「少し疲れましたね。カフェで休憩しませんか?」
実は沙織も、そろそろ休憩したいと思っていたところだった。
膝の痛みが少しずつ戻ってきている。
「そうですね。実は膝をちょっと打撲していて、少し痛くて...」
「え、大丈夫ですか?」
美穂の声に心配の色が滲む。
「はい、軽い打撲なので。でも、休憩できたら嬉しいです」
「じゃあ、すぐ近くにいいカフェがありますよ」
美穂は慣れた様子で、沙織を近くのカフェへと案内した。
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カフェでの深い対話
表参道のおしゃれなカフェ。
店内は温かみのある照明と、落ち着いたインテリアで満たされていた。
窓際の席に座った2人は、それぞれホットコーヒーとスイーツを注文した。
沙織はキャラメルラテとチーズケーキ、美穂はカフェオレとティラミスを選んだ。
「ここ、素敵なカフェですね」
沙織が店内を見回しながら言うと、美穂は微笑んで答えた。
「たまに一人で来るんです。落ち着けるので」
注文した飲み物が運ばれてくると、美穂はカップを両手で包むようにして持ち、少し真剣な表情になった。
「実は最近、エレノア活動でちょっと悩みがあって」
「どんな悩みですか?」
沙織が身を乗り出すと、美穂は小さく溜息をついた。
「動画投稿のネタに困ってるんです。ピアノ演奏ばかりだと、どうしてもワンパターンになってしまって」
その言葉に、沙織は深く頷いた。
「分かります。私も動画撮影に挑戦してみたんですが、思った以上に難しくて」
「沙織さんも動画挑戦されたんですね!どんな感じでした?」
「膝を打撲してしまって...まだ完成には至ってないんです」
美穂は心配そうな表情で、沙織の膝に視線を向けた。
「無理しないでくださいね。でも沙織さんは、どんどん上達されてて羨ましいです」
「そんなことないです。美穂さんのレベルには全然及ばない」
沙織は謙遜するが、美穂は首を横に振った。
「フォロワー数とかは、たまたまタイミングが良かっただけで...」
しかし沙織は、そんな美穂の謙遜が本心ではないことを知っていた。
美穂のフォロワー数は6,200人、広告収益もある。
動画投稿の技術も習得済みだ。
一方、自分のフォロワー数は九百六十人程度で、技術もまだ習得途中。
新衣装への投資も決断したばかりだ。
この差は、決して小さくない。
しかし沙織は、その現実を受け入れていた。
むしろ、美穂の存在が自分を前に進ませてくれている。
「でも美穂さんを見てると、もっと頑張ろうって気持ちになります」
沙織の素直な言葉に、美穂は優しく微笑んだ。
「お互い、切磋琢磨していきましょう」
コーヒーを一口飲んだ後、美穂はふと思いついたように言った。
「そういえば、来週のクリスマスに何かコラボ企画やりませんか?」
「コラボ企画?」
沙織は驚いた表情で美穂を見つめた。
「セリナとエレノアの共演とか。対照的な2人だからこそ、面白い作品になりそう」
その提案に、沙織の胸は高鳴った。
しかし同時に、不安も湧き上がってくる。
「それはすごく魅力的です!でも私なんかが美穂さんと...」
「何言ってるんですか。セリナちゃんは本当に美しいし、きっと素敵な作品になります」
美穂の言葉は、心からのものだった。
沙織はその温かさに、少し目頭が熱くなるのを感じた。
「でも、どうしましょう。普通の撮影だとまたピアノ演奏になっちゃいそうで...」
「確かに。何か新しいことができたらいいですね」
2人は少し考え込んだ。
チーズケーキを一口食べながら、沙織は何か良いアイデアがないか頭を巡らせていた。
すると突然、美穂が顔を上げた。
「あ!クリスマスだから、セリナとエレノアの衣装じゃなくて、サンタの衣装を着て登場するのはどうでしょう?」
「サンタ衣装!面白そうです」
沙織の反応に、美穂は嬉しそうに続けた。
「でも、今から本格的な衣装を準備しても間に合わないし、予算もかかりますよね」
「コスプレショップで安価な既製品を買えばいいんじゃないですか?」
沙織の提案に、美穂の目が輝いた。
「それいいですね!カフェ出たら、一緒に見に行きませんか?」
「はい、ぜひ!」
こうして2人は、クリスマス企画の第一歩を踏み出した。
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コスプレショップでの買い物
表参道のコスプレ専門店「Costume Paradise」
クリスマス前ということもあり、店内のサンタ衣装コーナーは充実していた。
赤いワンピースタイプから、セクシー系、キュート系まで、様々な種類が並んでいる。
「サンタ衣装、結構種類ありますね」
美穂が感心したように言うと、沙織も頷いた。
「セクシー系からキュート系まで...どれがいいでしょう」
「私たちの体型に合うのを選びましょうか」
2人はそれぞれ試着室で確認し、最終的にシンプルで可愛らしいサンタドレスを選んだ。
赤いワンピースに白いファーが付いたデザインで、清楚な印象だ。
帽子やブーツカバーなども一式揃える。
レジで会計を済ませながら、美穂がふと呟いた。
「サンタ衣装は買ったけど、普通の撮影だとまだ物足りないかも」
「何か新しいこと、やりたいですね」
2人は再び「Winter Garden」に戻り、席に着いた。
温かいコーヒーを飲みながら、美穂は真剣な表情で沙織を見つめた。
「実は前からやりたかったことがあって...エレノアのアカウントでライブ生配信をやってみたいんです」
「生配信!」
沙織は驚いた声を上げた。
「はい。で、そこにゲストでセリナちゃんに登場してもらうのはどうでしょう?」
美穂の提案に、沙織の心臓が高鳴る。
生配信は、動画投稿とは比べ物にならないほど緊張するだろう。
しかし同時に、大きな可能性も感じられた。
「でも、声が出せないですよね?」
「ホワイトボードでリスナーとコミュニケーションを取ればいいんです」
「なるほど!それなら面白そう」
沙織の反応に、美穂は嬉しそうに笑った。
「配信は、2人で簡単なゲームで対決して、負けた方が『クリスマスの黒歴史』を発表するのはどうでしょう?」
「黒歴史!それは恥ずかしい...でも面白いかも」
沙織は顔を赤らめながら笑った。
「実は、何故か私の家に『指噛むワニ』と『ジェンガ』があるんです」
「何でそんなものを持ってるんですか?」
沙織が笑いながら尋ねると、美穂は少し恥ずかしそうに答えた。
「以前、学校のイベント用に買ったんですけど、使わずに家にあって...」
その理由に、沙織は思わず吹き出した。
真面目な美穂が、そんなグッズを持っているというギャップが面白い。
「クリスマスの二15日、二十一時から九10分の予定でどうでしょう?」
「私、翌日26日は先週の土曜日開庁の振替休日なので大丈夫です」
「私も冬休みに入ってるので問題ないです」
スケジュールも問題ない。
美穂は興奮気味に企画の詳細を説明し始めた。
「オープニングから対決中は、2人ともエレノアとセリナの姿で、声を発せずにゲーム対決をします」
「無言での対決、シュールですね」
沙織が笑うと、美穂も笑いながら続けた。
「罰ゲームの時は、2人ともカメラの画面から消えて、カメラにはセリナとエレノアのマスクだけが映った状態にします」
「マスクだけ?」
「はい。で、カメラの外から2人が普通にトークをするんです。正体は隠したままで」
「面白い!リスナーさん、きっと驚きますよ」
沙織の目が輝いている。
美穂は、そんな沙織の表情を見て、この企画が成功する予感を抱いていた。
「顔は絶対に映さない、声の加工はしない、でも正体は明かさない」
「リスナーさん、混乱しそうですね」
「それが狙いです。神秘性を保ちつつ、親近感も出せたらいいなと」
カフェでの長い話し合いの末、2人はクリスマス企画の大枠を決めることができた。
窓の外はすっかり暗くなり、街のイルミネーションが輝き始めていた。
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美穂の家での晩御飯
カフェを出る頃には、もう午後6時半を過ぎていた。
美穂が何気なく沙織に尋ねた。
「そういえば沙織さん、今日この後、予定ありますか?」
「いえ、特にないです」
沙織の返事を聞いて、美穂は少し躊躇いながら提案した。
「良かったら、ウチに来て晩御飯食べて行きませんか?」
「え、いいんですか?」
沙織は驚いた表情で美穂を見つめた。
「実は食材が大量に残っていて、一人では消化できないんです。それに、もっと色々話したいし、クリスマスの企画もちゃんと決めておきたいので」
「ありがとうございます。ぜひお願いします」
沙織の答えに、美穂は嬉しそうに微笑んだ。
美穂の家は、沙織の家から少しだけ離れた場所にある二LDKマンションだった。
駅から徒歩5分の好立地で、綺麗な外観のマンションだ。
玄関のドアを開けると、そこは想像以上に素敵な空間だった。
「素敵なマンションですね」
「ありがとうございます。どうぞ上がってください」
リビングは綺麗に整頓され、落ち着いたおしゃれな雰囲気に満ちていた。
白とベージュを基調とした明るい空間で、大きな窓から自然光が入る。
シンプルでおしゃれな家具が配置され、本棚には音楽関係の書籍とコスプレ・着ぐるみ関連の資料が並んでいる。
壁には控えめに、エレノアの写真が数枚飾られていた。
(こんなにセンスがいい部屋...美穂さん、本当にすごい)思いながら、リビングを見回していた。
「普段はリビングで過ごしてるんですけど、寝室とは別にもう一部屋あるんです」
「二LDKですもんね」
「その部屋、ほとんどエレノアのために使ってるんです。見ますか?」
「見せていただいていいんですか?」
美穂に案内されて、沙織は別の部屋のドアの前に立った。
ドアを開けた瞬間、沙織は息を飲んだ。
そこは完全な撮影スタジオ兼衣装部屋だった。
撮影用の照明機材一式が揃い、背景用の白い布や小道具が整理されている。
衣装ラックにはエレノアの衣装と予備パーツが掛けられ、マスクの専用保管ケースも見える。
小型三脚とカメラが複数台、そしてPC編集用のデスクまで完備されていた。
「すごい...完全にプロの撮影スタジオじゃないですか」
沙織は圧倒されたように呟いた。
「SNSの広告収益は全部、エレノアのために使ってるんです」
美穂は少し照れくさそうに答えた。
「だからこんなに本格的な...」
「個人撮影用の機材がほぼ揃ってるので、いつでも撮影できるんです」
「私も、いつかこんな環境を作りたいです」
「沙織さんなら、きっとすぐですよ」
美穂の励ましの言葉に、沙織は心から嬉しくなった。
リビングに戻ると、美穂はキッチンに向かった。
「晩御飯の準備するので、沙織さんは適当にくつろいでいてください」
「いえ、私も手伝います」
「ありがとうございます。じゃあ、一緒に作りましょうか」
キッチンに立った美穂は、冷蔵庫を開けながら提案した。
「女2人の宅飲みみたいなものだから、今日は楽しみましょう」
「いいですね」
「スパークリングワイン、開けちゃいますね」
「え、いいんですか?」
「もちろんです。飲みながら料理の準備しましょう」
美穂はスパークリングワインのボトルを開け、二つのグラスに注いだ。
冷蔵庫に残っていた食材で、簡単なおつまみを作り始める。
生ハムとチーズの盛り合わせ、カプレーゼ、アヒージョ。
手際よく作られていく料理を見ながら、沙織は美穂の家庭的な一面に驚いていた。
スパークリングワインを飲みながらの楽しい準備時間。
2人の距離がさらに縮まっていくのを、沙織は実感していた。
「美穂さん、お酒強いんですね」
「実は大好きなんです。普段は自制してるんですけど、今日は特別ですから」
美穂は笑いながらグラスを傾けた。
「意外です。いつも優等生なイメージだったので」
「そんなことないですよ。結構適当なところも多いですし」
その言葉に、沙織は親近感を覚えた。
完璧に見える美穂にも、こんな一面があるのだ。
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お泊り決定
テーブルを囲んで、スパークリングワインとおつまみを楽しむ2人。
一本目のボトルが空になる頃には、すっかり打ち解けた雰囲気になっていた。
「明日の日曜日も、美穂さんは空いてるんですか?」
「はい、特に予定はないです」
「私もです。今日は存分に飲んでも大丈夫ですね」
沙織が笑いながら言うと、美穂は二本目のボトルを開けた。
「そういえば沙織さん、明日予定が無いのならウチに泊まっていけば?」
美穂の突然の提案に、沙織は驚いて固まった。
「え...!でも、流石にそれは申し訳ないです」
しかし沙織の本音は違った。
本当は帰りたくない。
久しぶりに友人と一緒に過ごす夜が、とても楽しい。
しかも同じ着ぐるみの趣味を持っていて、その人は大人気キャラの中の人で大先輩。
こんな機会、滅多にない。
「沙織さんの荷物に下着ショップのバッグがあるから、着替えも大丈夫なんじゃないかな? 部屋着くらい全然使ってくれて大丈夫ですし」
確かに、今日買ったばかりの下着がある。
着替えの心配はない。
「本当に泊まっていってもらって大丈夫ですよ。沙織さんともっと一緒に話したいですし、こんなに自由な日なんてお互いほとんどないんだから、目一杯楽しみましょう」
美穂の言葉は、沙織の背中を押すのに10分だった。
「本当に...いいんですか?」
「もちろんです。むしろ、お願いします」
美穂の笑顔を見て、沙織は決心した。
「じゃあ...お言葉に甘えて、お世話になります」
「よかった!今日は朝までゆっくり話しましょう」
グラスを合わせて乾杯する2人。
スパークリングワインの泡が、2人の笑顔を照らしていた。
しばらく話していると、沙織がふと気になっていたことを口にした。
「あの...クリスマスは本当に私と一緒でいいんですか?」
「え? なぜ沙織さんと一緒じゃダメなんですか?」
美穂が不思議そうに尋ねると、沙織は少し遠慮がちに答えた。
「いや、ほら...美穂さん、彼氏さんとデートとか一緒に過ごしたりしなくていいんですか?」
その質問に、美穂は目を丸くした。
「は? 沙織さん、私は今お付き合いしている男性なんていませんよ?」
「ええええ!?」
今度は沙織が驚く番だった。
(こんなに美人で魅力的な人なのに、独り身...?)叫んでいた。
「あ、す、すみません...彼氏いると思ってました...」
「えっ!? では沙織さん、恋人は?」
「いえいえ、私は今彼氏なんていませんから」
今度は美穂が驚く番だった。
「そんな...沙織さんこそ恋人がいるとずっと思っていたのに...」
(独り身でこの美貌はどうやって...?世の中の男性は見る目がありませんね)思いながら、スパークリングワインを一口飲んだ。
「美穂さんはいつから彼氏いないんですか?」
「一年半くらい前に別れました。エレノアの活動をしていて、吹奏楽部の活動も忙しくて、疎遠になってしまって...」
「1年半前って、もうエレノアの活動してる時ですよね?その時の彼氏さんは、エレノアのことを知っていたんですか?」
「言ってませんよ。密かに活動してましたし、当分言うつもりもなかったですから」
「そうだったんですね...」
「沙織さんは?」
「二年位前に付き合ってた人がいるんですけど、今の職場に転職して、なんとなく疎遠になってしまって振られました...」
その言葉を聞いた瞬間、美穂の表情が変わった。
顔が強張り、目に怒りの色が浮かぶ。
「沙織さんを振るなんて、正気ではないですね!」
その強い口調に、沙織は驚いて美穂を見つめた。
「え...!」
「だって、こんなに素敵な人を振るなんて、どう考えてもその人の判断ミスです」
美穂の真剣な表情に、沙織は顔を赤らめた。
「美穂さん...ありがとうございます。でも、まあ、今となってはいい思い出ですけど」
スパークリングワインが進むにつれ、話題はさらに深いものになっていった。
「クリスマスやイベントの時には彼氏がいたこともあるんですけど、素敵な思い出なんてそんなにないですね」
「え、そうなんですか?」
「イベントに期待しすぎると、現実とのギャップでガッカリすることが多くて」
美穂は少し遠い目をして笑った。
「分かります。私も高校の時に初めて出来た彼氏とクリスマスの時にデートしたけど、あんまり良い思い出はないです」
「どんなデートだったんですか?」
美穂が興味津々で尋ねると、沙織は顔を赤らめながら答えた。
「浮かれちゃってて、思いっきりおしゃれしようと思ってミニスカートに胸元が開いた服着て行ったんですけど、外が寒すぎて早く帰りたいとしか思えなかったです...」
その告白に、美穂は笑い出した。
「学生さんがそんなに露出の多い服でデートなんて、あまり感心できませんね!」
教師口調になった美穂に、沙織は更に顔を赤らめた。
「美穂先生に言われると説得力凄すぎるんでやめてください...」
2人の笑い声がリビングに響く。
そして沙織は、反撃に出た。
「じゃあ、美穂さんの黒歴史も聞かせてくださいよ」
「え...それは...」
「私は話したのに!ズルいですよ!!」
沙織の勢いに、美穂は少し困った表情を見せた。
「当日、ゲームで私に勝つことが出来たらお話しします」
美穂は少し意地悪そうに笑った。
「えー!それまで待たないとダメなんですか?」
「笑いませんか?」
美穂の真剣な表情に、沙織も真面目に答えた。
「そんな、笑ったりなんてしませんよ!」
「本当に...?」
「本当です。約束します」
沙織の真剣な表情を見て、美穂は少し恥ずかしそうに語り始めた。
「実は...中学生くらいまでサンタクロースを本気で信じていて、友達に『今年はサンタさんに何をお願いしようか悩んでる』って真剣に相談したら、聞いていた友達に凍りつかれた、という...」
その告白を聞いた瞬間、沙織は堪えきれなくなった。
「あははは!!」
お腹を抱えて大笑いする沙織。
「中学生で!?サンタクロース!!」
笑いが止まらない沙織を見て、美穂は顔を真っ赤にした。
「だから笑わないって約束したじゃないですか!!」
「ご、ごめんなさい...でも、これは...!」
沙織はまた笑い出してしまった。
「私はあの時真剣だったんです!」
美穂の必死の抗議も、沙織の笑いを止めることはできなかった。
涙目になりながら笑う沙織を見て、美穂も次第に笑い出してしまった。
「これ絶対ウケるから、なんとしても勝たないと...!他には?他にもありますか?」
「もう言いません!私に勝てたら話しますよ!」
美穂はむくれた表情で言った。
「絶対勝ちます!」
沙織は笑いながら宣言した。
美穂は不敵な笑みを浮かべながら言った。
「その頃みたいに誘惑すれば、沙織さんならすぐに彼氏なんてできるのでは?」
その言葉に、沙織は顔を真っ赤にした。
「ゆ、誘惑なんてしてませんよ!やめてくださいよ〜」
「でも、沙織さんのスタイルなら、男性は放っておかないと思いますけど」
「もう!美穂さんの方が綺麗じゃないですか」
「お互い様ってことで」
美穂は笑いながら答えた。
2人の笑い声が、温かいリビングに響き渡っていた。
◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎
笑い声が収まった後、2人は真剣な表情でクリスマス配信の流れを詰め始めた。
「配信の流れを確認しましょうか」
美穂がホワイトボードを取り出し、流れを書き出していく。
「オープニングは5分くらいで、エレノアとセリナが無言で登場して、ホワイトボードで『今日はゲーム対決をします』って説明する」
「はい」
「ルール説明は、負けた方が黒歴史を語るってことで」
「恥ずかしいけど、楽しそうですね」
沙織が笑うと、美穂も笑顔で続けた。
「第一ゲームは指噛むワニで、三回勝負。負けた方がポイント獲得で、これは悪い方のポイントです」
「なるほど」
「第二ゲームはジェンガで、これは倒した方が負けですね」
「シンプルで分かりやすいですね」
「罰ゲームは10分くらいで。 2人とも画面から外れてトークみたいにしましょうか。」
「顔は、映せないですもんね」
「そうです。最後のエンディングは15分で、再びマスク装着して、視聴者へのお礼」
流れが決まったところで、美穂は黒歴史の準備について尋ねた。
「じゃあ、お互い黒歴史を用意しておきましょうか」
「うぅ..用意しておきます」
沙織が笑いながら困った表情を見せると、美穂は優しく提案した。
「中学・高校時代の恥ずかしい思い出とか、初恋の話とか」
「そんな感じがいいですね」
最後に、美穂は注意事項を確認した。
「顔は絶対に映さないけど、声の加工はしない」
「リスナーさん、混乱しそうですね」
沙織が笑うと、美穂も笑いながら答えた。
「普段応援してくれてますし、親近感も出せたらいいなと思ってます」
配信の流れが決まったところで、美穂は立ち上がろうとした。
「じゃあ、配信の流れも決まったし、機材だけ確認しておきましょうか」
その時、沙織がふと言葉を発した。
「美穂さんの黒歴史がもっとありそうだから、絶対に勝たないと!負けませんよ!」
沙織は笑顔でそう宣言した。
美穂は立ち上がりかけた姿勢のまま、沙織をじっと見つめた。
その視線には、少し妖艶な雰囲気が漂っている。
「そんなに、私の過去が気になりますか?」
その問いかけに、沙織は無邪気に答えた。
「だって、今だから笑えるエピソードって面白いですよね!私、好きなんですよ」
美穂の表情が、一瞬で変わった。
どこか妖美な雰囲気を纏い、沙織に近づいてくる。
「そうですか...じゃあ、今日は特別ですから、もう一つ教えてあげましょうか? 私の過去」
その言葉に、沙織の目が輝いた。
「え!? 聞きたいです!」
美穂はゆっくりと沙織に近づきながら、静かに語り始めた。
「昔、ものすごく仲の良かった友人がいて、いつも一緒にいるくらい親しかった人がいたんです」
沙織は真剣に聞いている。
「最初は親しい友人だったんですが、いつしかその人に恋心を抱くようになりました」
「それで...?」
沙織が身を乗り出すと、美穂は続けた。
「何度も告白しようと思ったんですが、今の親しい関係が崩れてしまうかもしれないと思うと、それができなかったんです」
美穂はさらに沙織に近づく。
2人の距離が、だんだんと縮まっていく。
「悩んだ末に、私はクリスマスの夜、その人に愛の告白をしました」
「結果は...?」
沙織は息を飲んで尋ねた。
「自分の告白は受け入れられませんでした。 私の恋は実りはしなかったけれど、気持ちを正直に伝えられたことに後悔はしていません」
沙織は思わず尋ねた。
「なぜ、だめだったんですか? 理由は聞いたんでしょ?」
美穂は、また少し沙織に近づいた。
2人の距離は、もう三十センチほどしかない。
そして妖美な笑みを浮かべながら、美穂は答えた。
「理由ですか? それはですね...その人は女性だったんですよ」
その言葉に、沙織は一瞬、何を言われたのか理解できなかった。
「...え?」
固まってしまう沙織を前に、美穂は沙織の長い髪の毛の毛先を軽く触りながら言った。
「その方は、こんな風にキレイな黒い髪をしていて、沙織さんのように、とても美しいプロポーションを持っておられました」
美穂の指先が、髪の毛から外れて沙織の肩に触れる。
「み、美穂さん?」
沙織は驚きながら呟いた。
「とても美しくて、いつも恋焦がれていたんです。 本当に美しい方だったんですよ? 沙織さんのように...」
美穂は、沙織の顔に顔を近づけてくる。
(え、美穂さんって...そうなの!?)
沙織は困惑しながら、どうしたらいいのか分からなくなってしまい思わず目を瞑る。
すると、顔の目の前で、美穂が笑い声を上げた。
「あはは、冗談ですよ!」
美穂は距離を取り直し、元の位置に戻った。
全身の力が抜けた沙織は、すぐに反撃に出た。
「もう!からかわないでください!美穂さん酔ってるでしょ!」
沙織は顔を赤らめながら抗議した。
「あはは、ごめんなさい、ちょっと面白かったので」
美穂は笑いながら謝ると、エレノアの部屋に向かうためにリビングのドアへと歩き出した。
「では、機材を取ってきますね」
沙織は揶揄われたと思いながら、顔が赤くなっている。
(冗談だったとしても...美穂さんのあの顔は、本当に演技だったのかな...?)と呟いていた。
リビングから出る時、美穂は沙織に振り返って言った。
「でも、沙織さんのことを美しいと思うのは、本当ですよ?」
沙織が咄嗟に美穂を見ると、一瞬、不敵な笑みが浮かんだかのように見えた。
しかし、すぐに美穂はエレノアの部屋の方へ行ってしまう。
「気のせい...だよね...」
沙織は、目の前のワイングラスの中のワインを一気に飲み干した。
◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎
数分後、美穂が機材一式を持ってリビングに戻ってきた。
カメラ、三脚、ノートパソコン、そしてエレノアのマスクも一緒に持ってきている。
「機材は問題ありませんでした。でも、せっかくなので実際にマスクを被っての画角テストをしてみませんか?」
美穂の提案に、沙織は目を輝かせた。
「それ、いいですね!当日の感覚を確認できます」
「では、まず私から試してみますね」
美穂はカメラを三脚にセットし、ノートパソコンと接続する。
画面には、リビングの配信スペースが映し出された。
「では、マスクを被りますね」
美穂は慣れた手つきで、エレノアのマスクを装着し始めた。
前面の顔パーツと後頭部パーツを合わせ、両耳上側の小さな金具で固定する。
数分後、美穂はエレノアの姿に変わっていた。
私服を着たエレノアという、不思議な光景だ。
エレノアになった美穂は、ゆっくりと椅子に座った。
沙織はノートパソコンの画面を見ながら、美穂の座る角度や椅子の位置を細かく確認していく。
「もう少し右に...そう、そこです」
「こうですか?」
エレノアの声が、マスクの中からくぐもって聞こえる。
「はい、完璧です。少し前に...いえ、そのままで大丈夫です」
沙織は何度も画面を確認し、最適な位置を探す。
照明の当たり具合、背景とのバランス、全てをチェックしていく。
「そこで固定してください。今から床に目張りをします」
沙織は白いマスキングテープを手に取り、椅子の脚の位置に目印をつけていく。
四本の脚、それぞれに丁寧に。
「これで美穂さんの位置は完璧です」
「ありがとうございます。では、次は沙織さんの番ですね」
沙織は少し緊張しながら、エレノアの横に座った。
「こんな感じですか?」
美穂はノートパソコンの画面を見ながら、沙織の位置を調整していく。
「もう少し左に...はい、そこです」
何度か微調整を繰り返し、最適な位置が決まった。
美穂も同じように、沙織の椅子の位置に目張りをする。
「これで完璧です」
2人並んで座った画面を確認する。
ノートパソコンの画面には、私服を着たエレノアと私服の沙織が並んで座っている。
エレノアの横に普通の服を着た人が座っているという、不思議な光景だ。
「当日は、ここに2人並んで座ることになりますね」
沙織が画面を見ながら言うと、美穂も頷いた。
「位置のセッティングはOKですね」
美穂がエレノアのマスクの中から言った。
「マスクの視界からでも画面は確認できますが、コメントは流石に画面に近づかないとほとんど見えないですね」
美穂は画面に少し近づいて、コメント欄を確認する仕草をした。
《まあ、それは近付けば済む事だし問題ないでしょう》
沙織も画面を見ながら、少し不安そうに言った。
「やっぱり流石にこの文字サイズのコメントは読みづらいですよね?」
その言葉を聞いて、美穂はエレノアのマスクを外し始めた。
金具を外し、前面のパーツと後頭部のパーツを分離する。
「沙織さんも見てみてください」
美穂は外したエレノアのマスクを、沙織に差し出した。
「いや、そんなマスクまでは!当日確認しますから大丈夫ですよ!」
沙織は慌てて手を振った。
エレノアのマスクを被るなんて、そんなことできない。
「大丈夫ですよ、確認はしておいた方がいいでしょ?」
美穂は優しく微笑みながら言った。
「で、でもさすがにエレノアさんのマスクを...」
沙織はまだ躊躇している。
「あ、沙織さんでしたら大丈夫ですよ!もしかして気を遣ってます?でしたらお気になさらず。もう仲間じゃないですか」
美穂は笑顔で、エレノアのマスクを沙織に預けた。
その言葉に、沙織の心が温かくなった。
仲間。
美穂は、そう言ってくれた。
「では...失礼します」
沙織は少し迷いつつも、エレノアのマスクを受け取った。
エレノアのマスクを装着する。
前面のパーツを顔に合わせ、後頭部のパーツを重ねる。
両耳上側の小さな金具で固定する。
エレノアのマスクは、しっかりと顔にフィットして固定される。
少し圧迫感があるが、不快ではない。
視界が確保されているが、やはり普段より狭い。
マスクの中は、美穂の独特の、上品で綺麗な匂いがする。
ノートパソコンの画面を見る。
そこには、沙織の私服を着たエレノアが映っていた。
不思議な気分だった。
自分がエレノアになっている。
マスクから見える光景は、何か夢の中のようだ。
「どうですか?」
美穂が優しく尋ねる。
《視界は確保されていますが、やはりコメント欄は少し読みにくいですね》
沙織はマスクの中から答えた。
「そうですよね。やはり近づかないと難しいですね」
沙織はすぐにマスクを外して、美穂に返した。
「ありがとうございました。エレノアさんのマスク、初めて被りました」
「どうでした?」
「不思議な感覚でした。でも、美穂さんの気持ちが少し分かった気がします」
沙織の言葉に、美穂は嬉しそうに微笑んだ。
「今の確認で分かったこともありますね」
美穂は真剣な表情で言った。
「配信中は、どちらかがホワイトボードに文字を書いている時は、もう一人がコメントを気にしながら、気になるコメントがあったら身振りで反応してあげたり、相手に何か告げるようにしましょう」
《いいですね。役割分担ができます》
《声を出して伝える時は、声が聞こえないように耳元で小さく囁く感じで》
《分かりました》
2人は笑顔で頷き合った。
機材確認と画角テスト、全て完了した。
これで当日は、スムーズに配信ができるだろう。
◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎
既にスパークリングワイン三本目に入っており、2人ともかなり酔いが回ってきた。
「私たち、なんで恋人いないんでしょうね」
美穂がしみじみと呟くと、沙織は笑いながら答えた。
「美少女着ぐるみに夢中すぎるから?」
「それもありそう。でも、後悔はしてないです」
「私も。セリナに出会えて本当に良かった」
2人は笑顔でグラスを合わせた。
「良い人いたら紹介してくださいね」
「こちらこそお願いします」
美穂は笑いながら答えた。
「来年は、お互いもっと成長しましょう」
「はい。美穂さんと一緒なら、どんな挑戦でもできそうです」
「沙織さんの新衣装、楽しみにしてます」
「完成したら、真っ先に美穂さんに見せます」
温かい会話が続き、2人の友情はさらに深まっていった。
「今日は本当に楽しいです」
沙織がそう言うと、美穂は優しく微笑んだ。
「そうですね。じゃあ、もう少しゆっくり話しましょうか」
「はい!」
時計を見ると、もう十一時を過ぎていた。
美穂が立ち上がった。
「そろそろ寝ましょうか。明日もゆっくりしていってくださいね」
「ありがとうございます。お世話になります」
美穂は沙織をエレノアの部屋に案内し、ソファベッドを整えた。
「ここで寝てください。何か必要なものがあったら言ってくださいね」
「本当にありがとうございます」
部屋着を借りた沙織は、美穂に深々と頭を下げた。
こんなに充実した一日は、久しぶりだった。
◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎
お泊り翌朝
12月15日、日曜日。
朝九時を少し過ぎた頃、沙織は美穂の家のゲストルームで目を覚ました。
窓の外を見ると、冬の澄んだ朝の光が差し込んでいる。
(久しぶりに友達の家に泊まった...高校生の時以来かも。昨日は本当に楽しかった)呟きながら、ゆっくりと体を起こした。
昨夜の出来事が、走馬灯のように蘇ってくる。
偶然の再会、買い物、カフェでの話し合い、そして美穂の家での楽しい時間。
着替えを済ませた沙織がリビングに向かうと、既に起きていた美穂が朝食を準備していた。
エプロン姿の美穂が、キッチンで手際よく動いている。
「おはようございます。よく眠れましたか?」
「はい、ぐっすりでした。ありがとうございました」
「朝ごはん、一緒に食べましょう。簡単なものですけど」
「手伝います」
2人でテーブルに朝食を運ぶ。
トーストとサラダ、スクランブルエッグ、そしてコーヒーとオレンジジュース。
シンプルだが、心のこもった朝食だった。
テーブルに向かい合って座り、2人は朝食を食べ始めた。
「昨日は楽しかったですね」
「はい。こんなにゆっくり話したのは久しぶりでした」
「また遊びに来てくださいね」
「ぜひ、お願いします」
朝食を食べながら、美穂がふと思い出したように尋ねた。
「そういえば沙織さん、膝の打撲は大丈夫ですか?」
「あ、はい。大分良くなってきました。昨日も痛みはほとんど感じませんでしたし」
「無理しないでくださいね。クリスマスの配信までにしっかり治しておかないと」
「ありがとうございます。気をつけます」
美穂の優しい気遣いに、沙織は心が温かくなった。
朝食を終え、コーヒーを飲みながらゆっくりと過ごす2人。
昨夜の話の続きや、クリスマス配信への期待を語り合う。
午前10時半を過ぎた頃、沙織は帰る準備を始めた。
「昨日から今朝まで、本当にありがとうございました。すごく楽しかったです」
「こちらこそ。沙織さんと過ごせて本当に良かったです」
「次はクリスマスですね。楽しみです」
「はい。一緒に頑張りましょう」
玄関での別れ際、2人は笑顔で手を振り合った。
「それでは、失礼します」
「気をつけて帰ってくださいね」
午前11時過ぎ、沙織は美穂の家を後にした。
充実感と温かい友情を胸に、自宅への帰路についた。
冬の澄んだ空気が、心地よく頬を撫でていく。
◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎
プレゼントの準備
12月23日、水曜日。
クリスマス配信の二日前、沙織は市役所での仕事を早めに切り上げた。
いつもお世話になっている美穂に、感謝の気持ちを込めたプレゼントを用意したかったからだ。
「今日は少し早く失礼します」
上司に挨拶をして、沙織は市役所を後にした。
夕方の街は、クリスマス前の賑わいに包まれている。
向かった先は、表参道のショッピングエリア。
美穂へのプレゼントを探すために、いくつかの店を回った。
美穂の分と、エレノアの分。
二つのプレゼントを用意したかった。
最初に訪れたのは、アンティークショップ。
美穂がお酒好きだということを思い出し、素敵なワイングラスを探す。
店内を見回していると、金メッキの装飾が美しいアンティークのワイングラスが目に留まった。
繊細な彫刻が施され、光を受けると金色に輝く。
品があって、美穂に似合いそうだ。
(これ、美穂さんに似合いそう)呟きながら、ワイングラスを手に取った。
店員に確認すると、十九世紀のヨーロッパ製だという。
少し値は張るが、美穂への感謝の気持ちを考えれば、これくらいは当然だ。
次に向かったのは、アクセサリーショップ。
エレノア用の髪飾りを探す。
エレノアの世界観やイメージを損なわないよう、シンプルで使いやすいものを選びたい。
何より、エレノアのイメージカラーであるエメラルドグリーンが入ったものがいい。
店内を丁寧に見て回る。
様々な髪飾りを手に取っては眺め、イメージと合うか考える。
そして見つけた。
小さな金の髪飾りに、エメラルドが埋め込まれたデザイン。
シンプルで上品、そしてエレノアのイメージにぴったりだ。
「これなら、エレノアの雰囲気を壊さない」
沙織は満足そうに頷いて、その髪飾りを購入することに決めた。
二つのプレゼントを購入し、丁寧にラッピングしてもらう。
会計を済ませた沙織は、充実感に満ちた表情で店を出た。
帰宅すると、沙織はプレゼントを大切にしまった。
クリスマス当日、美穂に渡すのが楽しみだ。
(喜んでくれるといいな)願いながら、その夜を過ごした。
◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎
クリスマス・イヴの告知
12月24日、日曜日。
クリスマス・イヴの夜、美穂は自宅のリビングでスマートフォンを手に取っていた。
明日のクリスマス配信の告知を投稿するためだ。
エレノアのマスクとサンタ帽子を並べ、照明を工夫して写真を撮影する。
何度か角度を変えて撮り直し、満足のいく一枚が撮れた。
投稿文を考える。
初めての生配信。
特別ゲスト。
どんな言葉で視聴者の期待を高めるか。
美穂は慎重に言葉を選び、投稿ボタンを押した。
「メリークリスマス 明日12月25日、21時から初のライブ配信を行います! 特別ゲストもお呼びしていますので...お楽しみに!」
投稿ボタンを押した瞬間、美穂の心臓が高鳴った。
初めての生配信。
うまくいくだろうか。
視聴者は喜んでくれるだろうか。
そんな不安を抱えながら、美穂はスマートフォンの画面を見つめていた。
すると、投稿から数分で反応が爆発的に増え始めた。
いいねの数が、みるみる増えていく。
50、100、200、300...
10分後には、500を超えていた。
コメント欄も賑やかだ。
《エレノア様の初配信!!》
《特別ゲストって誰!?》
《絶対見る!!》
《クリスマスプレゼント最高》
《明日仕事だけど見る》
《リマインダーセットした》
予想以上の反応に、美穂は驚きと喜びを感じていた。
同時に、プレッシャーも増していく。
これだけ期待されている。
失敗は許されない。
同じ頃、自宅のリビングでくつろいでいた沙織も、何気なくSNSを開いていた。
エレノアの投稿が目に入る。
「美穂さん、告知したんだ...」
投稿を開くと、すでに大量のいいねとコメントが付いていた。
「え...こんなに反応がすごいの!?」
沙織は驚きながらスマートフォンの画面をスクロールしていく。
コメント欄は、期待に満ちた言葉で溢れていた。
沙織は慌てて美穂にLINEを送った。
「美穂さん!告知見ました!反応がすごいことになってますね...!明日、本当に大丈夫でしょうか...緊張してきました」
数分後、美穂から返信が来た。
「沙織さん、見てくれたんですね!思った以上に反応があってびっくりしてます。大丈夫ですよ。2人で楽しくやりましょう! 明日、17時に来てもらえますか?」
17時。
配信開始の四時間前だ。
余裕を持って準備するつもりなのだろう。
「17時ですね!了解です!頑張りましょう!」
沙織は返信を送ると、スマートフォンを握りしめた。
「明日...こんなに期待されてる配信に、私が出ていいのかな...でも、美穂さんと一緒なら大丈夫」
窓の外を見ると、クリスマス・イヴの街はイルミネーションに彩られていた。
明日への期待と不安を抱きながら、沙織は夜を過ごした。
◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎
クリスマス当日
12月25日、月曜日。
クリスマスの朝、美穂は中学校での仕事を終えた。
今日は午前で授業が終わり、吹奏楽部も自主練のみだったため、早めに帰宅することができた。
自宅に着くと、すぐに配信の最終準備に取りかかる。
昨夜のうちに大まかな準備は完了していたが、細かい調整が必要だった。
カメラの位置とアングルを何度も確認する。
照明の明るさを調整し、ホワイトボードと筆記用具を手の届く位置に配置する。
ゲーム道具の指噛むワニとジェンガも、テーブルの上に置いた。
音響チェックも入念に行う。
マイクの感度を調整し、雑音が入らないか確認する。
サンタ衣装とマスクも、エレノアの部屋から運び出して準備完了。
時計を見ると、午後3時を過ぎていた。
沙織が来るまで、あと二時間ほどある。
美穂は深呼吸をして、緊張を和らげようとした。
初めての生配信。
しかもゲストにセリナを迎えての配信。
うまくいくだろうか。
不安と期待が入り混じる中、美穂は最終確認を続けた。
午後5時。
インターホンが鳴った。
「こんばんは。今日はよろしくお願いします」
玄関のドアを開けると、少し緊張した表情の沙織が立っていた。
「沙織さん、ようこそ。緊張してます?」
「めちゃくちゃ緊張してます」
沙織は笑いながら答えた。
「私もです。でも、楽しみましょう」
リビングに入った沙織は、完璧に整えられた配信スペースを見て驚いた。
「もう準備が全部できてるんですか!?」
「はい。今日は学校が午前で終わって、吹奏楽部も自主練のみだったので早めに帰ってこれたんです」
「準備、大変じゃなかったですか?」
「準備自体は昨日の夜に完了してたので、今日は最終チェックだけでした」
既に完璧にセットされた機材を見ながら、沙織は美穂のプロ意識の高さに感心していた。
カメラの位置もアングルも完璧に調整され、照明もベストライティングが確保されている。
ホワイトボードと筆記用具は手の届く位置に配置され、ゲーム道具も準備完了。
音響チェックも済んでいる。
「美穂さん、本当にすごい...完璧ですね」
「ありがとうございます。初めての生配信なので、失敗したくなくて」
美穂の真剣な表情に、沙織は改めてこの配信の重要性を実感した。
「あ、そういえば...」
美穂はふと思い出したように、リビングの棚から二つの包みを取り出した。
「沙織さん、これ。クリスマスプレゼントです」
二つの包みを差し出す美穂。
一つは大きめで、もう一つは小さめだ。
「え...!?」
沙織は慌てて自分のバッグを見た。
実は、沙織も美穂へのプレゼントを用意していた。
しかし、美穂が先に渡してくれたことに驚いていた。
「開けてみてください」
美穂に促されて、沙織は大きい方の包みから開けることにした。
丁寧にラッピングを解いていくと、中から美しいタンブラーが現れた。
氷の結晶のステンドグラスが施された、透明感のあるデザイン。
光を受けると、青白く輝く。
「わあ...!綺麗...」
沙織は思わず声を漏らした。
「沙織さん用です。氷の結晶のデザインが、沙織さんのイメージに合うかなと思って」
「ありがとうございます...本当に嬉しいです」
沙織の目が潤む。
「もう一つも開けてください」
美穂に言われて、沙織は小さい方の包みを開けた。
中から出てきたのは...
「これは...!」
セリナを四頭身にデフォルメした、可愛いぬいぐるみだった。
漆黒のネイビーブルーの髪、灰青の瞳、そして氷の騎士の衣装。
細部まで忠実に再現されている。
「セリナ...!」
沙織はぬいぐるみを手に取り、じっと見つめた。
愛くるしい表情のセリナが、そこにいる。
「実は、かなり前からエレノアのぬいぐるみが欲しいと思っていて、オーダーする際にエレノアとセリナの二体分をオーダーしたんです。セリナは沙織さんにプレゼントするつもりでいました」
美穂は少し照れくさそうに説明した。
「びっくりさせたくて言わなかったんですけど、配信の時にこの子達を飾りましょう」
「飾る...?」
沙織が不思議そうに尋ねると、美穂は続けた。
「罰ゲームで黒歴史を話す時、マスクだけを置いてフレームアウトするのはちょっと生々しい映像になってしまうので、この子達を置くのはどうでしょう?」
その提案に、沙織は目を輝かせた。
「それ、素敵です!」
沙織は涙が出るほど嬉しかった。
セリナを忠実に模したぬいぐるみが愛くるしくて、本当に嬉しい。
何よりも、美穂の気持ちが嬉しい。
こんなに自分のことを考えて、準備してくれていたなんて。
「美穂さん...ありがとうございます。本当に...」
沙織の声が震える。
美穂は優しく微笑んだ。
「喜んでもらえて良かったです」
沙織は涙を拭いながら、自分のバッグからプレゼントを取り出した。
「あの、私も、大したものではないんですけど...」
二つの包みを美穂に差し出す。
「え、沙織さんも!?」
美穂は驚いた表情で、包みを受け取った。
「開けてもいいですか?」
「はい、どうぞ」
美穂は慎重にラッピングを解いていく。
最初の包みから現れたのは、金メッキの装飾が美しいアンティークのワイングラスだった。
「わあ...!素敵...」
美穂は思わず声を上げた。
「沙織さん、私ワイングラスが欲しいって話したことありましたっけ?」
「いえ、でも美穂さんお酒が好きだって聞いて、素敵なワイングラスがあったら喜んでもらえるかなと思って」
沙織の説明に、美穂は感動した表情を見せた。
「丁度デザインの凝ったワイングラスが欲しいと思っていたところで、本当に嬉しいです!」
美穂は二つ目の包みも開ける。
中から出てきたのは、エメラルドが埋め込まれた金の髪飾りだった。
「これは...エレノア用ですか?」
「はい。エレノアのイメージに合うかなと思って」
美穂は髪飾りを手に取り、じっと見つめた。
シンプルで上品なデザイン。
エメラルドの緑が、エレノアのイメージカラーと完璧に合致している。
「これも...セリナさんのような綺麗な髪飾りが欲しいと思っていて、ずっと探していたけどなかなか見つけられずにいたんです」
美穂の声が震える。
「イメージにぴったりです!沙織さんに頭の中を覗かれているみたいで恥ずかしいですね...」
美穂は照れくさそうに笑った。
「早速今日の配信で使わせてもらっていいですか?」
「もちろんです!ぜひ使ってください」
沙織は嬉しそうに答えた。
2人はお互いの感謝の気持ちを伝え合い、温かい時間がリビングに流れていた。
◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎
変身準備とリハーサル
2人はそれぞれ、サンタ衣装のインナーを着用した。
メイクは控えめにする。
どうせマスクで隠れるからだ。
全身タイツを装着し、鏡で確認する。
いつもの感覚が蘇ってくる。
準備を進めながら、美穂がふと重要なことを思い出した。
「あ、そういえば沙織さん」
「はい?」
「配信中は、お互いの本名を絶対に呼ばないように気をつけましょうね」
その言葉に、沙織ははっとした。
「そうですね...!気をつけないと」
「お互いのことは、『セリナ』『エレノア』って呼びましょう。『さん』も付けずに」
「分かりました。でも、つい口に出してしまいそうで怖いです...」
沙織は少し不安そうな表情を見せた。
「大丈夫ですよ。配信中は基本的にホワイトボードでのやり取りですし、声を出すのは黒歴史を話す時だけですから」
「そうでした...」
美穂は優しく微笑んだ。
「でも、本当に気をつけましょうね。本名を呼んでしまったら、お互いの身元がバレてしまいますから」
「はい。気をつけます」
「ネットは怖いですからね...」
2人は真剣な表情で頷き合った。
「じゃあ、一度流れを確認しましょうか」
美穂の提案に、沙織は頷いた。
マスクを被る前に、2人は簡単なリハーサルを行った。
まずはカメラ前での立ち位置を確認する。
2人が並んだ時に、画面にどう映るか。
どの角度から見ても美しく見えるか。
次にホワイトボードの持ち方と見せ方を練習する。
「ホワイトボードは、こう持つと見やすいですね」
「なるほど。こうですか?」
「完璧です」
沙織は美穂の指示通りに、ホワイトボードを掲げてみる。
カメラに映る自分の姿を確認しながら、角度を調整する。
ゲームの動作確認も行う。
実際にワニとジェンガを触ってみて、マスクを被った状態でどれくらい動きにくいか確かめる。
「ジェンガ、マスク被ってると視界が狭いから難しそうですね」
「そうなんです。だからこそ面白いと思って」
美穂は笑いながら答えた。
画面の映り具合もチェックする。
お互いの動きが画面内に収まっているか、照明は適切か。
リハーサルを終えた2人は、満足そうに頷いた。
「よし、バッチリですね」
「はい」
時計を見ると、午後6時半を過ぎていた。
配信開始まで、あと二時間半。
◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎
夕食休憩
配信前の軽いご飯として、美穂が用意した軽食を2人で食べることにした。
「今のうちに、軽く食べておきましょう」
「ありがとうございます。食べ過ぎると苦しくなりますよね」
「適度にしましょう」
美穂が用意したのは、サンドイッチとフルーツ、そして温かいスープだった。
軽すぎず重すぎず、ちょうど良い量だ。
2人はテーブルを囲んで、ゆっくりと食事を楽しんだ。
「沙織さん。 黒歴史、ちゃんと用意しました?」
美穂が尋ねると、沙織は顔を赤らめながら答えた。
「はい...恥ずかしいですけど」
「私も恥ずかしいですよ。でも、楽しみましょうね!」
2人は笑顔で食事を続けた。
食事を終えた後、2人は少しリラックスした時間を過ごした。
配信前の緊張をほぐすために、軽い雑談を交わす。
午後7時を過ぎた頃、美穂が立ち上がった。
「じゃあ、そろそろ装着しますね」
「はい」
いよいよ、セリナとエレノアに変身する時間だ。
◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎
マスク装着と待機
エレノアの部屋に移動した2人は、それぞれ自分のマスクを手に取った。
「じゃあ、装着しますね」
美穂は慣れた手つきで、エレノアのマスクを装着し始めた。
髪を束ねて首元に集め、全身タイツのフード部分を被る。
前面の顔パーツと後頭部パーツを合わせ、両耳上側の小さな金具で固定する。
超小顔設計の全頭面タイプマスクは、装着すると頭部を完全に覆う。
密着度と密閉性が高く、一度金具で固定したらマスクがズレることはない。
沙織も同じように、セリナのマスクを装着していく。
フード部分を被り、前面と後頭部のパーツを合わせて金具で固定する。
マスクを装着した瞬間、世界が変わった。
視界が狭くなり、呼吸が少し苦しくなる。
しかしそれは、いつもの感覚だった。
むしろこの感覚が、2人をセリナとエレノアに変えていく。
お互いの装着状態を確認し合う。
金具の固定は問題ないか、視界は確保できているか。
「沙織さん、大丈夫ですか?」
美穂の声が、エレノアのマスクの中からくぐもって聞こえてくる。
「大丈夫です。頑張りましょう」
沙織もセリナのマスクの中から、くぐもった声で答えた。
ホワイトボードでの意思疎通を再度練習する。
配信中は声が出せないため、身振り手振りとホワイトボードだけが頼りだ。
配信開始の21時まで、2人はマスクを被ったまま待機することにした。
お互いに身振り手振りで励まし合う。
エレノアがセリナの肩に手を置き、親指を立てる。
セリナも同じように、エレノアの肩に手を置いて親指を立てる。
(初めての生配信...緊張するけど、沙織さんと一緒だから大丈夫)
(美穂さんと一緒なら、きっとうまくいく)
沙織も心の中で、同じように呟いていた。
マスクの中で深呼吸を繰り返しながら、2人は本番の時を待った。
◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎
配信直前の最終準備
午後8時半を過ぎた頃、美穂はカメラの録画機能で映り具合を最終確認した。
エレノアとセリナが並んだ姿が、画面に美しく映っている。
照明も完璧だ。
ゲーム道具も、カメラに映る位置に配置されている。
「配信10分前に予告の投稿しますね」
美穂はエレノアの姿のまま、スマートフォンを操作した。
「まもなく21時から初のライブ配信スタート!特別ゲストと一緒にクリスマスを楽しみます お楽しみに!」
投稿ボタンを押すと、すぐに反応が返ってきた。
《もう少し!》
《あと10分!》
《誰がゲストなんだろう》
《ドキドキする》
コメント欄は、期待に満ちた言葉で溢れていた。
マスクの中で、2人は深呼吸をする。
(さあ、始まる...)
(楽しもう)
美穂も心の中で、自分を励ました。
時計の針が21時に近づいていく。
2人の心臓が、激しく鳴り響いていた。
◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎
配信開始
21時ちょうど。
美穂がエレノアの姿でカメラの前に座り、配信スタートボタンを押した。
画面に「LIVE」の文字が表示される。
コメント欄が、一気に動き出した。
《エレノア様!!ついに!!》
《初配信キター!!》
《待ってました!》
《リアルタイムでエレノア様が見られる!!》
そして次の瞬間、視聴者は気づいた。
エレノアが、いつもと違う衣装を着ている。
真っ赤なサンタクロースの衣装。
白いファーが襟元と袖に施され、エレノアの清楚な雰囲気と絶妙にマッチしている。
赤と白のコントラストが、エレノアの美しさをさらに引き立てていた。
コメント欄が一気に盛り上がる。
《サンタエレノア!!》
《衣装可愛い!!》
《クリスマス仕様!!》
《エレノア様のサンタ衣装最高!!》
《赤が似合う!!》
《天使みたい!!》
エレノアの初めての生配信ということもあり、コメント欄には期待と興奮のコメントが次々と流れていく。
視聴者数もみるみる増えていき、配信開始から3分で500人を超えた。
エレノアが無言でホワイトボードを掲げる。
《メリークリスマス! みなさん、素敵なクリスマスをお過ごしですか?》
《こんなにたくさんの方が見てくれて、嬉しいです!》
エレノアはホワイトボードに書いた文字をカメラに向けながら、少し間をおいて文字を消し、また書いたものをカメラに向けてオープニングを進めている。
《今日は特別ゲストをお呼びしていますので、早速来てもらいましょう!》
その瞬間、画面の端から、セリナがゆっくりと登場した。
そして視聴者は、さらに驚いた。
セリナも、エレノアと同じサンタクロースの衣装を着ている。
真っ赤なサンタ衣装に白いファー。
セリナの氷の騎士としての冷たい雰囲気と、サンタの温かい衣装が不思議なコントラストを生み出している。
2人が並んで座ると、赤いサンタ衣装を着た2人の騎士という、夢のような光景が画面に映し出された。
コメント欄が完全に爆発した。
《おおおおセリナさんだ!!》
《セリナ×エレノアのコラボ!!》
《これは奇跡!!》
《クリスマスプレゼント最高!!》
《夢のコラボ!!》
《二大騎士の共演!!》
《2人ともサンタ!!》
《衣装お揃い!!》
《可愛すぎる!!》
《赤が2人とも似合ってる!!》
《セリナのサンタ姿初めて見た!!》
《エレノアとセリナのサンタコンビ最高!!》
《これは保存案件》
《スクショ撮りまくり》
視聴者数がさらに増えていく。
1,000人、1,500人、二1,000人...
エレノアが再びホワイトボードを掲げる。
《これから、2人でゲーム対決をします。負けた方が『クリスマスの黒歴史』を語ります!》
コメント欄がさらに賑やかになった。
《黒歴史!!》
《これは面白そう!》
《どっちが勝つかな》
《両方の黒歴史聞きたい!》
セリナもホワイトボードを掲げる。
《よろしくお願いします!》
2人が無言で頭を下げると、コメント欄には温かい言葉が並んだ。
《頑張って!》
《応援してます!》
《楽しみ!》
配信は、順調なスタートを切った。
その時、コメント欄にある言葉が流れた。
《エレノア様の髪飾り綺麗!》
《新しい髪飾り!?》
《エメラルドが輝いてる》
《いつもと違う髪飾り素敵》
沙織からプレゼントされた髪飾りに、視聴者が気づいたのだ。
エレノアがホワイトボードを掲げる。
《この髪飾りはセリナがプレゼントしてくれました》
その言葉に、コメント欄がさらに盛り上がった。
《セリナが!?》
《2人仲良し!!》
《プレゼント交換してるの!?》
《美しい2人が仲良しでこっちまで嬉しい》
《友情素敵》
《セリナちゃんセンスいい》
セリナもホワイトボードを掲げる。
《エレノアにぴったりだと思って選びました》
コメント欄には、温かい言葉が続々と投稿されていった。
《2人とも素敵》
《こういう関係いいな》
《お互いを尊重してる感じがする》
(美穂さん、喜んでくれてる...)と思いながら、温かい気持ちに包まれていた。
◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎
第一ゲーム:指噛むワニ
エレノアがホワイトボードを掲げる。
《第一ゲームは指噛むワニです。ハズレを引いて噛まれたら負けです。三回勝負!》
テーブルの上に、指噛むワニが置かれた。
緑色のプラスチック製のワニが、口を開けて待っている。
コメント欄には、期待の声が並ぶ。
《懐かしい!》
《これ難しいんだよね》
《どっちが勝つかな》
エレノアがホワイトボードを置くと、少しマスクの位置を調整した。
両手でマスクの側面を持ち、わずかに動かして視界を確保する。
(視界、ちゃんと確保できてるかな...)と呟きながら、マスクの中から画面を見つめた。
セリナも同じように、少しマスクの位置を調整している。
2人とも、ゲームに集中するための準備だ。
第一回戦が始まった。
その前に、視聴者は改めて2人の姿をじっくりと見つめていた。
画面に映る2人の騎士。
真っ赤なサンタのワンピースは、予想以上にタイトなデザインだ。
エレノアの体のラインが、衣装に完璧に映し出されている。
細いウエスト、女性らしい胸の膨らみ、しなやかな腕のライン。
セリナも同じだ。
タイトな衣装が、スタイルの良さを際立たせている。
2人とも、驚くほどスタイルが良いことが分かる。
そして、衣装の下には肌色のタイツが見える。
袖は短めで、腕のほとんどが肌タイツの状態だ。
しなやかな腕の曲線、細い手首、繊細な指先。
マスクの視界は明らかに狭そうだ。
2人とも、時々マスクの位置を調整している。
でも、その動作すらも美しい。
女性らしい、しなやかな動き。
コメント欄には、新しい気づきが流れ始めていた。
《衣装タイトすぎない!?》
《2人ともスタイル良すぎる》
《エレノア様の体型やばい》
《セリナちゃんも細い》
《腕のラインが美しい》
《指先が繊細》
《マスクの視界狭そう》
《露出多め》
視聴者の興味は、単なるキャラクターから、その中の「人」へと移り始めていた。
一体どんな女性が、この美しいキャラクターを演じているのだろう。
その想像が、視聴者の心を掴んで離さない。
セリナが慎重に歯を選んで押す。
カチッという音。
セーフだ。
次はエレノアの番。
少し躊躇いながら歯を選ぶ。
カチッ。
セーフ。
交互に歯を押していく。
セリナ、エレノア、セリナ、エレノア...
四手目まで、両者ともセーフが続いた。
そして五手目、エレノアが歯を押した瞬間。
ガブッ!
ワニがエレノアの指を噛んだ。
その瞬間、エレノアの体が小さく跳ねた。
タイトなサンタ衣装が、その動きに合わせて揺れる。
セリナは必死に笑いを堪えようとするが、肩が激しく震えている。
胸元が上下に動き、呼吸の激しさが伝わってくる。
マスクの中から、2人の荒い呼吸音が聞こえてくる。
「ふっ...フフ...ふっ...」
笑いを必死に押し殺す、苦しそうな呼吸。
深く息を吸って、短く吐く。
その繰り返し。
「はぁっ...フフ...」
視聴者は、その呼吸音を聞いて、改めて認識する。
マスクの中には、確かに人間がいる。
呼吸し、感情を持つ、生身の女性が。
エレノアがマスクを両手で押さえながら、前かがみになった。
その時、細い指がマスクの側面を掴む様子が見える。
女性らしい、繊細な指。
セリナも顔を伏せて、肩を震わせている。
タイトな衣装を着た体が、笑いで震えている。
普段の投稿写真では見られない、人間味あふれる動き。
完璧にポーズを取ったセリナではなく、笑いを堪える一人の女性。
神秘的で女神のようなエレノアではなく、ゲームに負けて動揺する一人の人間。
数秒の沈黙。
2人とも、深呼吸をして落ち着こうとしている。
「すぅ〜〜...はぁ〜〜...」
深く息を吸い込む音。
そして、ゆっくりと吐き出す音。
マスクの中で、必死に呼吸を整えているのだ。
そして、マスクの中から小さく声が漏れた。
「ふふっ...」
女性の笑い声だ。
明らかに、中の人は女性だと分かる声。
コメント欄が一気に動く。
(美穂さん、弱っ!)
沙織は心の中でそう叫びながら、必死に笑いを堪えていた。
コメント欄は既に大爆笑だ。
《エレノア様www》
《五手目でやられたw》
《セリナちゃん笑ってる!》
《マスクから息が聞こえるw》
《エレノア様かわいいw》
《笑い声漏れてるw》
《声可愛すぎる》
《呼吸音生々しい》
《人間味があっていい》
《普段と全然違う動き》
《中の人どんな人だろう》
《笑ってるセリナちゃん可愛い》
《エレノア様次頑張って!》
エレノアは少し落ち着くと、セリナの方を向いた。
そして肩に手を置いて、軽く叩く。
「大丈夫、落ち着いて」というような仕草。
その時、エレノアの細い腕が伸びる様子が画面に映った。
しなやかな腕のライン。
肌タイツ越しに見える、女性らしい滑らかな曲線。
セリナも同じように、エレノアの肩に手を置き返した。
2人の手が、お互いの肩に優しく触れ合う。
繊細な指先が、サンタ衣装の生地に触れている。
2人は肩を寄せ合って、笑いを鎮めようとしている。
タイトな衣装を着た二つの体が、寄り添う。
その親密な様子に、視聴者は改めて気づく。
これは、単なるキャラクターのコラボではない。
2人の女性が、本当に仲良く、信頼し合って、この配信を作り上げている。
その人間らしさ、女性らしさが、画面を通じて伝わってくる。
コメント欄が温かく反応する。
《2人仲良し》
《スキンシップいいね》
《友情感じる》
《腕のライン綺麗だな〜》
《仲良いね》
《こういう人間味が好き》
エレノアは納得がいかない様子だ。
セリナに「もう一回!!」と言う身振りをする。
両手を合わせて懇願するような仕草。
セリナは優しく頷いて、もう一回勝負に応じた。
第二回戦が始まる。
セリナが一手目を押す。
カチッ。
セーフ。
次はエレノアの番。
慎重に、慎重に歯を選ぶ。
そして...
ガブッ!
たった二手目で、エレノアがハズレを引いてしまった。
エレノアが両手で顔を覆う。
いや、正確にはマスクを覆う。
細い指が、マスクの表面に触れている。
セリナは完全に崩れ落ちそうになり、テーブルに手をついた。
その時、細い手首から肘にかけてのラインが、画面に映る。
肌タイツ越しに見える、しなやかな腕。
2人とも笑いを堪えきれない。
タイトな衣装を着た体が、笑いで大きく揺れている。
マスクの中から、2人の苦しそうな呼吸音が聞こえる。
「ふっ...フフ...はぁっ...フフ...」
笑いを堪えるための、短く荒い呼吸。
マスクの中で、10分な空気が吸えない苦しさ。
「あっ...フフ...んっ...」
途切れ途切れの吐息。
笑いと呼吸の狭間で、もがいている。
視聴者は、その生々しい呼吸音に、改めて実感する。
マスクの中は、想像以上に過酷な環境なのだと。
でも、2人はそれでも楽しんでいる。
そして、ついに堪えきれなくなった。
「ふふっ...あはっ...」
マスクの中から漏れる笑い声。
「あはは...!もう...!」
エレノアの笑い声。
日常的な、素直な女性の笑い。
視聴者は、その声を聞いて想像する。
マスクの中には、どんな笑顔があるのだろう。
どんな表情で、笑っているのだろう。
エレノアとセリナは、お互いの肩を掴み合って支え合っている。
まるで親友同士のような、自然なスキンシップ。
タイトな衣装を着た2人の体が、密着している。
肩と肩、腕と腕が触れ合う。
その様子は、普段の完璧なポーズとは全く違う。
これは、生身の人間同士のリアルな触れ合い。
(もう...無理...)
美穂は心の中でそう叫びながら、セリナの肩にもたれかかった。
沙織も同じように、エレノアの肩にもたれかかる。
画面には、お互いに支え合う2人の姿が映っている。
人間らしい、弱さと温かさ。
マスクの中は、もう笑いすぎて少し息苦しい。
美穂が小さく咳き込んだ。
「こほっ...」
マスクを通して聞こえる、小さな咳。
そして、深呼吸をする。
「すぅ〜〜...ふぅ〜〜...」
深く、長く息を吸い込む音。
そして、ゆっくりと吐き出す音。
その呼吸音さえも、視聴者にはドラマチックに聞こえた。
コメント欄は完全にカオス状態だった。
《エレノア様弱すぎwwww》
《二手目wwwww》
《セリナの勝ちー!》
《笑い声出ちゃったw》
《エレノアさんの弱点はワニ》
《かわいすぎるw》
《咳き込んでるw》
《マスクの中大変そう》
《2人とも女性の声》
《仲良しすぎるw》
《呼吸音生々しい》
《深呼吸してる》
《人間味が最高》
《中の人絶対美人だろ》
《体のラインやばい》
《こんなリアルな配信初めて》
エレノアは、もう一度!という身振りで三回目を要求した。
手を合わせて、必死にお願いする仕草。
セリナは笑いながら了承した。
エレノアが少し画面に近づいて、コメント欄を確認しようとする。
マスクの視界が狭いため、かなり顔を近づける必要がある。
画面には、エレノアのマスクがドアップで映し出された。
灰色がかった美しい髪、精巧に作られた顔の造形。
視聴者は、まるでエレノアが画面から飛び出してきそうな臨場感を味わった。
《エレノア様近い!!》
《ドアップ美しい》
《マスクの造形すごい》
エレノアが画面から離れると、今度はセリナも同じように画面に近づいた。
漆黒のネイビーブルーの髪が、画面いっぱいに広がる。
《セリナちゃんも近い!》
《2人とも美しすぎる》
《マスクの完成度高い》
2人がお互いを見合って頷き合う。
さあ、最後の勝負だ。
第三回戦。
エレノアが一手目を押す。
ガブッ!
いきなりハズレを引いてしまった。
もう、2人とも笑いを堪える気力すら残っていなかった。
エレノアは完全に崩れ落ち、テーブルに突っ伏した。
タイトなサンタ衣装が、その動きに合わせて体のラインを浮き彫りにする。
セリナも同じように、テーブルに額をつけて笑っている。
2人の背中が、笑いで激しく上下している。
胸元が大きく動き、呼吸の荒さが視覚的にも伝わる。
「はぁっ...フフ...あはっ...」
マスクの中から聞こえる、荒い呼吸と笑い声が混ざった音。
「ふふっ......ダメ...」
完全に力が抜けた、素の女性の声。
2人の肩が、笑いで激しく上下している。
マスクの中で、呼吸を整えることすら困難なほどだ。
「すぅっ...はぁっ...フフ...フフ...」
短く、荒く、苦しそうな呼吸。
笑いと酸欠の狭間。
「アハハ...!!」
「フフ......!」
マスクの中から漏れる、完全に素の女性の笑い声。
もう隠す余裕もない。
完璧なキャラクターではなく、ただの女性2人の素直な笑い声。
エレノアが顔を上げると、セリナの手を握った。
その瞬間、視聴者は2人の手に注目した。
細い指。
繊細な手首。
肌タイツ越しに見える、女性らしい滑らかな手の形。
セリナも握り返す。
二つの手が、しっかりと握り合っている。
その手の繋ぎ方は、形式的なものではない。
本当に励まし合う、支え合う、友人同士の手の繋ぎ方。
2人は手を繋いだまま、お互いを見つめ合って笑い合っている。
まるで学生時代の親友同士のような、屈託のない笑顔が想像できた。
視聴者は、その手を繋ぐ姿に、様々なことを想像する。
マスクの下には、どんな笑顔があるのだろう。
どんな表情で、お互いを見つめ合っているのだろう。
どんな女性が、この美しいキャラクターを演じているのだろう。
想像は、膨らむばかり。
マスクの中で、美穂と沙織は涙が出るほど笑っていた。
マスクの視界が、笑いの涙で少し滲んでいる。
そして、2人とも深呼吸をする。
「すぅ〜〜〜...はぁ〜〜〜...」
長く、深い呼吸。
マスクの中の酸素を、必死に補給している。
その呼吸音が、マイクを通じて配信に乗る。
視聴者は、その音を聞いて、改めて実感する。
この2人は、想像以上に過酷な環境で、それでも楽しんでくれている。
コメント欄はもう、笑いと感動の嵐だ。
《一手目wwwwwwww》
《エレノア様運なさすぎwwww》
《ワニに勝てない聖騎士wwww》
《セリナちゃん優しいw》
《もうエレノア様のファンになったwww》
《笑い声かわいい》
《こんなエレノア様見たことないw》
《手繋いでる!!》
《2人の友情素敵》
《女性の声が聞こえる》
《中の人も仲良しなんだな》
《呼吸音がリアル》
《マスクの中大変そう》
《それでも楽しんでくれてる》
《手のライン綺麗》
《指が繊細》
《こんな生々しい配信最高》
第一ゲームの結果は、セリナ三勝、エレノア零勝。
セリナの圧勝だった。
エレノアがホワイトボードを掲げる。
《第一ゲームはセリナちゃんの勝ちです...》
落ち込んだ様子のエレノア。
セリナが優しく肩を叩いて慰める。
コメント欄には、温かい言葉が並んだ。
《ドンマイ!》
《次頑張って!》
《まだ第二ゲームがある!》
《エレノア様応援してます!》
視聴者数は、1,500人を超えていた。
◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎
第二ゲーム:ジェンガ
2人は少し休憩を取った。
エレノアが小さく咳き込む。
「こほっ...」
マスクの中は、さっきの笑いで少し息苦しい。
美穂はマスクの位置を少し調整して、呼吸を整えた。
セリナも同じように、深呼吸をしている。
マスクの中の2人は、次のゲームに向けて集中力を取り戻そうとしていた。
エレノアがホワイトボードを掲げる。
《第二ゲームはジェンガです。交互にブロックを抜いていきます。倒した方が負けです!》
テーブルの上に、ジェンガのタワーがセットされた。
整然と積み上げられたブロックが、今にも崩れそうに見える。
2人は画面に少し近づいて、コメント欄を確認した。
エレノアのマスクが画面いっぱいに映る。
次にセリナのマスクも。
視聴者は、2人の真剣な表情(マスク越しだが)を感じ取った。
コメント欄には、期待の声が並ぶ。
《ジェンガきた!》
《これは熱い!》
《エレノア様、巻き返せ!》
《2人とも真剣モード》
《ドアップ綺麗》
ゲームが始まった。
視聴者は、改めて2人の姿に注目していた。
ワニゲームとは違い、今度は真剣な表情(マスク越しだが)が伝わってくる。
最初は順調にブロックを抜いていく2人。
エレノアの慎重な手つき。
細い指が、ブロックに触れる。
力加減を確かめるように、そっと押してみる。
その指の動きが、画面に大きく映る。
繊細で、女性らしい指先。
肌タイツ越しに見える、滑らかな手の形。
セリナの少し大胆な抜き方。
しなやかな腕が伸び、ブロックを掴む。
タイトな衣装の袖から見える、細い手首。
タワーがどんどん不安定になっていく。
マスクの視界が狭いため、2人ともタワーに顔を近づけて慎重に見ている。
その時、2人の体が前傾姿勢になる。
タイトなサンタ衣装が、その動きに合わせて体のラインを浮き彫りにする。
細いウエスト、背中のライン、肩の曲線。
視聴者は、その姿に見入る。
これは、単なるキャラクターではない。
生身の女性が、全身全霊でゲームに集中している。
時々、マスクの位置を調整する仕草が見える。
細い指が、マスクの側面に触れる。
その仕草すらも、美しい。
コメント欄には、新しい気づきが流れる。
《集中してる2人かっこいい》
《手の動きが繊細》
《指先が美しい》
《体のライン綺麗すぎる》
《前傾姿勢の時のシルエット》
《本気モードいいね》
十手ほど進んだところで、エレノアが奇跡的なプレイを見せた。
誰もが「これは崩れる!」と思うような難しいブロックを、奇跡的なバランス感覚で抜き取ったのだ。
タワーが大きく傾く。
セリナが思わずエレノアの腕を掴んだ。
「危ない!」という気持ちが伝わる。
でも、タワーは何とか持ちこたえた。
エレノアとセリナが同時に安堵の息をつく。
マスクの中から、「ふぅ...」という吐息が聞こえた。
2人は顔を見合わせて、小さく頷き合う。
セリナがエレノアの肩を軽く叩いて、称賛の意を示した。
コメント欄が沸いた。
《すごい!》
《神業!》
《エレノア様本気出した!》
《これはすごい》
《セリナがエレノアの腕掴んだw》
《2人の息ピッタリ》
次はセリナの番。
セリナも負けじと、崩れそうなタワーから絶妙な力加減でブロックを抜き取る。
タワーが揺れる。
エレノアが思わず両手を合わせて、祈るような仕草。
タワーは何とか持ちこたえた。
2人は同時にガッツポーズをして、お互いの健闘を称え合った。
エレノアがセリナの手を握り、セリナも握り返す。
その親密な様子に、視聴者は2人の友情を感じた。
《おおお!》
《セリナもすごい!》
《形勢逆転の予感!》
《2人仲良し!》
《手繋いでるw》
ゲームはさらに白熱していく。
エレノアがまた画面に近づいて、コメント欄を確認する。
マスクが画面いっぱいに映り、その精巧な造形が視聴者を魅了した。
画面から離れると、エレノアはセリナに小さく頷いた。
「頑張ろう」という意味だろう。
セリナも同じように頷き返す。
2人の呼吸が、マスクの中から少し荒く聞こえる。
緊張と集中で、心拍数が上がっているのだ。
再びエレノアが、視聴者を驚かせるスーパープレイを見せた。
ほとんど支えのないブロックに手を伸ばす。
その瞬間、画面には、エレノアの細い腕が大きく映った。
肌タイツ越しに見える、しなやかな腕のライン。
手首から肘、そして肩へと続く、美しい曲線。
セリナが思わずエレノアの肩に手を置いた。
「大丈夫?」という気持ちが伝わる。
2人とも、息を殺している。
マスクの中から、集中した呼吸音が聞こえてくる。
「ふっ...」
短く、浅く、静かな呼吸。
極限まで集中している証拠。
エレノアは慎重に、ゆっくりと、ゆっくりとブロックを抜き取る。
その時、エレノアの体が完全に静止している。
タイトな衣装を着た体が、まるで彫像のように動かない。
ただ、指先だけが繊細に動いている。
細い指が、ブロックを慎重に引き抜いていく。
視聴者は、その指先の動きに釘付けだ。
女性らしい、繊細で美しい指。
そして、呼吸音。
「すぅ...ふぅ......ふぅ...」
規則正しく、静かな呼吸。
完全に集中している、アスリートのような呼吸法。
マスクの中から聞こえるその音が、緊張感をさらに高める。
タワーが大きく傾く。
その瞬間、2人とも息を呑んだ。
「...っ」
完全に呼吸を止めている。
マスクの中からも、音が聞こえない。
一秒、二秒、三秒。
視聴者も、固唾を飲んで見守っている。
でも、エレノアの指先の繊細なコントロールで、タワーは何とか持ちこたえた。
成功した瞬間、2人は抱き合って喜んだ。
タイトなサンタ衣装を着た2人の体が、密着する。
肩と肩、腕と腕が触れ合う。
そして、2人とも大きく息を吐いた。
「はぁ〜〜...」
「はぁ...」
溜めていた息を、一気に吐き出す音。
マスクの中から、安堵の吐息が聞こえる。
「ふぅ〜〜...」
長く、深い安堵の息。
その呼吸音に、視聴者は改めて気づく。
2人は、どれだけ集中していたのか。
どれだけ緊張していたのか。
マスクの中から、小さな歓声が漏れた。
「やった...!」
「すご...!」
女性の声だ。
完全に素の、喜びに満ちた声。
視聴者は、その声を聞いて、また想像する。
マスクの下には、どんな笑顔があるのだろう。
《うおおお!》
《エレノア様すごすぎる!》
《これは勝負決まったか!?》
《2人抱き合ってるw》
《友情素敵》
《声可愛い》
《呼吸音の集中力やばい》
《息を殺してた》
《一気に吐き出す音w》
《本気モードかっこいい》
《体のライン美しすぎる》
《指先の動きが繊細》
《ジェンガはプロの腕前w》
コメント欄は大興奮だ。
次はセリナの番。
緊迫の最終局面。
エレノアがセリナの手を握って、励ますように軽く握った。
その時、画面には2人の手がアップで映った。
細い指が、絡み合っている。
肌タイツ越しに見える、女性らしい手の形。
セリナも握り返す。
しっかりと、力強く。
視聴者は、その手の握り方に、2人の絆を感じた。
2人は一度手を離し、セリナがブロックに向き合う。
セリナが慎重にブロックを選ぶ。
その時、セリナの手が震えている様子が画面越しに伝わる。
細い指が、小刻みに震えている。
緊張。
極限の緊張。
エレノアがセリナの肩に手を置いて、そっと支える。
その瞬間、タイトな衣装越しに、2人の体温が伝わり合っているような気がした。
マスクの中で、沙織は極限まで集中していた。
呼吸を整える。
「すぅ〜〜...はぁ〜〜...」
深く、ゆっくりとした呼吸。
集中するための、準備の呼吸。
視界が狭い。
手が震える。
呼吸が荒い。
でも、やるしかない。
(落ち着いて...落ち着いて...)と心の中で呟きながら、ブロックに手を伸ばした。
画面には、セリナの細い腕が大きく映る。
しなやかな腕のライン。
震える手首。
繊細な指先。
視聴者も固唾を飲んで見守っている。
コメント欄すらも、一瞬止まったように見えた。
セリナの呼吸音が、マスクの中から聞こえる。
「ふぅ...ふぅ......ふぅ...」
短く、浅く、緊張した呼吸。
そして、息を殺す。
「...」
完全に呼吸を止めている。
マスクの中からも、何も聞こえない。
静寂。
セリナがゆっくり、ゆっくりとブロックを引き抜く。
その指先の動きが、スローモーションのように見える。
繊細で、慎重で、美しい動き。
タワーが傾き始める。
危ない...
でも何とか...
エレノアが思わずセリナの腕を掴んだ。
細い指が、セリナの腕を掴む。
肌タイツ越しに伝わる、温もり。
2人とも、祈るような気持ちで見守っている。
そして...
ガラガラガラ...
タワーが崩壊した。
セリナが崩れ落ちるように、テーブルに突っ伏した。
タイトな衣装が、その動きに合わせて体のラインを浮き彫りにする。
エレノアが優しくセリナの背中をさすっている。
細い手が、背中を優しく撫でる。
「お疲れ様」という気持ちが伝わる仕草。
マスクの中から、疲労の吐息が聞こえる。
「はぁ...はぁ...」
荒い呼吸。
極限まで緊張していた証拠。
そして、深く息を吐く。
「ふぅ〜〜〜...」
全ての力が抜けていくような、長い吐息。
視聴者は、その呼吸音を聞いて、感動していた。
2人とも、本当に全力でゲームに臨んでいた。
コメント欄が爆発した。
《おおおおお!!》
《エレノア様の逆転勝利!!》
《これは熱い!!》
《ジェンガ強すぎるw》
《まさかの展開!》
《引き分けになる!?》
《2人とも全力すぎる》
《呼吸音がリアル》
《緊張感やばかった》
《手が震えてたね》
《エレノアがセリナの背中さすってる》
《優しい》
《友情が美しい》
《体のラインが美しすぎて集中できないw》
《2人とも本当にプロ》
《こんな配信初めて見た》
《中の人リスペクト》
エレノアが両手を上げて喜びを表現する。
セリナは崩れたブロックを見つめながら、肩を落とす。
でもすぐに、セリナはエレノアの手を取って、健闘を称えた。
コメント欄には、温かい言葉が並ぶ。
《両者お疲れ様!》
《素晴らしい戦いだった!》
《エレノア様おめでとう!》
《セリナちゃんも頑張った!》
エレノアがホワイトボードを掲げる。
《第一ゲーム:セリナの勝ち 第二ゲーム:エレノアの勝ち 一勝一敗で引き分けです!》
コメント欄がさらに盛り上がった。
《引き分けー!!》
《両方の黒歴史が聞ける!!》
《2人とも話すの!?》
《これは期待!!》
《クリスマスプレゼント最高すぎる》
視聴者数は、2,300人を超えていた。
◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎
休憩中のハプニング
エレノアがホワイトボードを掲げる。
《少し休憩してきますね》
セリナも同じように、ホワイトボードで《少しお待ちくださ〜い》と書いて見せた。
2人がカメラの前から姿を消す。
画面には、「休憩中」という文字と、美穂が作ったエレノアとセリナのコラボ写真のサムネイルが表示された。
2人が並んで立っている美しい合成写真だ。
コメント欄には、休憩を待つ視聴者のコメントが流れる。
《お疲れ様!》
《ゆっくり休んで》
《2人とも頑張った》
《次も楽しみ》
しかし、美穂はマイクをミュートにするのを忘れていた。
カメラの外で、マスクの金具を外す音をマイクが拾う。
カチャッ。
カチャッ。
二つの金具が外される音。
そして、2人の安堵の吐息。
「ふぅ....」
「はぁぁ....」
マスクを外した直後の、深い安堵の息遣い。
コメント欄が反応し始めた。
《あれ?音聞こえる》
《マイク入ったまま?》
カメラの外から、2人の女性の素のトークが微かに聞こえてくる。
「エレノアさん、ワニ弱すぎwww」
沙織の明るい声。
「セリナさんが強いんですよ!w」
美穂の笑い声混じりの返答。
「いやいや、いきなり噛まれる方が難しいですってw」
「でも、ジェンガは私が勝ちましたよ!」
「あれ、絶対練習してたでしょ!」
「してませんよ」
「いいや絶対してた!エレノアさんズルい〜!」
「してませんって!!w 私、こう見えても指先が器用なんです!」
「あぁ、ピアノ弾いてますもんね〜」
「2連敗はさすがに悔しいですからね、集中しましたw」
2人の楽しそうな会話が、遠くから微かに聞こえてくる。
完全に素の、女子トークだ。
コメント欄が盛り上がり始めた。
《なんか聞こえる》
《女子の普通の会話wwwwww》
《ここは騎士の楽屋か?w》
《初配信だから、オフるの忘れちゃってるんだな》
《2人とも仲良しだな》
《声めっちゃ可愛い》
《マイクの切り忘れはたまにある》
《エレノアさんとセリナさんの女子トーク》
《もっと聞きたいwwww》
《これも演出だったらマジで神》
会話は続いている。
「はぁぁ暑かった〜」
沙織の声。
「無言のゲーム対決ってなんかシュールですねwwww」
美穂が笑いながら言う。
「私何回も笑いそうになってましたwww」
「セリナさんは声出てましたからね!」
「エレノアさんだって思いっきり笑ってたじゃないですか!w」
「でも楽しかったですね」
「ね!こういうのいいですね!またやりたいです」
「あ、お水飲みますよね?」
「ああ欲しいです、ありがとうございます」
水を飲む音が聞こえる。
ゴクゴクと、喉を潤す音。
コメント欄はさらに盛り上がっている。
《騎士の楽屋トーク最高》
《お〜い!声拾っちゃってますよ〜》
《中の人の声癒される》
《こっちからは教えてあげられないけど、それがいい!!》
《スタッフとか居ないんだな》
《2人でやってるだけだったら気付けないか》
《途中参加したらエレノアさんとセリナさんの声聞こえててビビった》
《もっと聞かせて〜》
さらに会話が続く。
「そろそろですかね?」
沙織の声。
「私は大丈夫ですよ」
美穂が答える。
「あ!この子達置かないと」
「ああそうですね!えっと、この辺?」
「そう、ですね。大丈夫だと思います」
ぬいぐるみを置く音が聞こえる。
「じゃあ、切り替えますよ?」
「は〜い」
少しの沈黙。
「.....あ...」
美穂の声が小さく聞こえた。
「どうしたんですか?」
沙織が尋ねる。
「あ、えっと....取り敢えず再開します!」
美穂の声に、少し慌てた様子が滲んでいる。
数秒の沈黙。
そして、画面が切り替わった。
テーブルの上には、四頭身にデフォルメされたセリナとエレノアのぬいぐるみが並んで置かれている。
美しく照らされた二つのぬいぐるみ。
愛くるしい表情で、カメラを見つめている。
コメント欄が反応する。
《ぬいぐるみ!!》
《可愛い!!》
《欲しい!!》
《これいいな〜》
《セリナとエレノアのぬいぐるみ! 可愛い!》
しばらくして、セリナとエレノアがカメラの前に戻ってきた。
2人ともマスクを装着している。
しかし、エレノアの動きが少しぎこちない。
セリナも、何か落ち着かない様子だ。
《お待たせしました〜》
セリナがホワイトボードを掲げる。
しかし次の瞬間、エレノアが画面に近づいてきた。
マスクがドアップになる。
コメント欄を確認しているのだ。
セリナも同じように、画面に近づいてくる。
2人が交互に画面に顔を近づけ、コメント欄を必死に読んでいる様子が伝わる。
数秒後、エレノアが少し後ろに下がった。
マスクの中から、小さなため息が聞こえた。
「ふぅ....」
安堵とも困惑ともつかない吐息。
セリナがエレノアの肩に手を置いた。
「大丈夫」という気持ちが伝わる。
エレノアも、セリナの手を軽く叩いて応える。
2人は少しの間、お互いを見つめ合った。
そして、小さく頷き合う。
視聴者には、何が起こったのか分からない。
でも、何かハプニングがあったことは伝わった。
コメント欄には、気遣いの言葉が並ぶ。
《大丈夫?》
《何かあった?》
《2人とも落ち着いて》
《気にしなくていいよ》
マスクの中で、美穂と沙織は少しほっとしていた。
視聴者は怒っていない。
むしろ心配してくれている。
《よかった...》
2人は心の中で、同じことを思っていた。
そして、配信は続いていく。
◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎
罰ゲーム:2人の黒歴史
エレノアがホワイトボードを掲げる。
《引き分けなので、2人とも黒歴史を一つずつ語ります。2人とも一旦カメラから消えますね》
コメント欄は歓喜の声で溢れた。
《両方聞ける!!》
《これは神展開》
《クリスマス最高》
《ありがとう!!》
セリナとエレノアがカメラの前から姿を消す。
テーブルの上には、四頭身にデフォルメされたセリナとエレノアのぬいぐるみが並べられた。
美しく照らされた二つのぬいぐるみ。
愛くるしい表情で、カメラを見つめている。
視聴者は、その演出に息を飲んだ。
《やっぱぬいぐるみ可愛い!!》
《欲しい!!》
《神秘的》
《買えないのか?》
カメラの外から、美穂の地声が聞こえてきた。
「では、私...エレノアの大学時代のクリスマスの話です」
その声に、視聴者は驚いた。
《エレノアの素の声!?》
《初めて聞いた!》
《優しそうな声》
美穂は少し恥ずかしそうに語り始めた。
「大学の時、クリスマスに予定が無くて、一人で寂しく過ごすのが嫌だったんです」
「分かります...」
沙織の声も聞こえてくる。
「それで、どうせならいつもと違う自分に変身して街に繰り出してみようと思って、金髪のウィッグを被って、ギャルメイク、ギャルファッションで街を歩いたんです」
「え! エレノアがギャル!?」
沙織の驚いた声。
「美穂さん」と呼びそうになるのを必死に堪えた。
コメント欄も驚きの声で溢れた。
《エレノア様がギャル!?》
《想像できないw》
《見たいw》
美穂は続けた。
「誰かに声かけられたらどうしようとか思いながら、でも少し大胆になった自分に酔いしれながら歩いてたら...」
「どうなったんですか?」
「彼氏とデートしてる親友と偶然すれ違ってしまって、すぐに私だとバレてしまいました」
「あらら...」
沙織の同情する声。
「クリスマスの夜にいつもと全然違うギャルメイクとファッションで...必死にナンパ待ちしてる女だと思われたみたいで」
「あははは!!」
沙織の大爆笑が響き渡った。
コメント欄も大爆笑だ。
《ナンパ待ちwww》
《親友に見つかるのは辛いw》
《エレノア様www》
美穂は恥ずかしそうに続けた。
「心配してくれた親友に同情されたり、『いつも通りの方が可愛いよ』って必死に説得されたり...」
「それは恥ずかしい...!」
沙織の笑いが止まらない。
コメント欄には、温かい言葉が並んだ。
《エレノア様のギャル姿見たいwww》
《想像できないw》
《親友優しいw》
《良いクリスマスw》
《でも可愛い黒歴史》
沙織は(美穂さんのギャル姿とか、めっちゃ見てみたいw)思っていた。
次は沙織の番だ。
「では、私も...セリナの高校時代のクリスマスパーティの話です」
沙織の声が緊張気味に響く。
「高校の時、友達とクリスマスパーティをして、プレゼント交換をすることになったんです。テーマはファッションアイテムでした」
「はい」
美穂が相槌を打つ。
「それで、自分に回ってきたのが...イタズラ好きな子が用意した、ものすごくエッチな下着だったんです」
「え!?どんな下着だったんですか?」
美穂の興味津々な声。
コメント欄も騒然とした。
《エッチな下着!?》
《高校生で!?》
《これは気になるw》
沙織は恥ずかしそうに答えた。
「とりあえず、高校生が身につけてはいけないようなデザインで...」
「それで?」
美穂が続きを促す。
「全員、プレゼントを身に付けようってことになって、みんなは可愛いアクセサリーや可愛い部屋着なのに、私だけエロい下着...」
「それは...さすがに...」
「でも、その場のノリに逆らえなくて身につけることに...」
「その場で!?」
「さすがに別室ですけど、めっちゃ恥ずかしかったですw」
「でしょうねw」
美穂の声に驚きと笑い声が滲む。
「そして、そのままパーティが終わって家に帰って、お風呂から出た後、その下着を回収することをうっかり忘れてしまって、そのままいつものように洗濯カゴに入れたままにしちゃって...」
「あぁ...」
美穂が察した声を出す。
「次の日、お母さんに呼び出されて、ものすごく怒られました」
「それは辛いw」
美穂は同情しながらも、笑いを堪えている。
コメント欄は大爆笑だ。
《セリナちゃんwwww》
《お母さんかわいそうw》
《大人びた高校生w》
《エロ下着www》
沙織は続けた。
「自分で買ったものじゃないし、彼氏もいないって何回も言ったんですけど、全然信じてもらえなくて...しかもお母さん、ちょっと泣いてました...」
「お母さん...!」
美穂が笑い出した。
コメント欄も笑いと同情で溢れていた。
《お母さん...w》
《親に怒られるのは辛いw》
《でもかわいいエピソード》
《セリナちゃん人間らしい》
2人の笑い合う声が聞こえてくる。
「さ... セリナ、それは確かに黒歴史ですね」
美穂は「沙織さん」と呼びそうになるのを必死に堪えて、キャラ名で呼んだ。
「エレノアも、ギャルメイクはすごいですよ」
沙織も同じように、キャラ名で返す。
「黒歴史ですねw》
「はいw」
2人の笑い声が、温かく響いていた。
コメント欄には、温かい言葉が並んだ。
《2人とも最高www》
《黒歴史ありがとう》
《親近感湧いた》
《人間らしくていい》
《また聞きたい》
《素の声も素敵》
視聴者数は、配信開始時を上回っていた。
◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎
エンディング
数分後、セリナとエレノアが再びカメラの前に戻ってきた。
マスクを装着した姿で、2人が並んで座っている。
エレノアがホワイトボードを掲げる。
《2人とも黒歴史ありがとう!》
セリナもホワイトボードを掲げる。
《恥ずかしかった...でも楽しかったです》
エレノアが再びホワイトボードを掲げる。
《今日は初めての生配信でした。見てくれてありがとう!》
コメント欄には、感謝の言葉が並んだ。
《こちらこそありがとう!》
《最高の配信だった!》
《初配信大成功!》
《また見たい!》
その時、カメラの外から美穂の声が聞こえてきた。
《そういえば、私の新しい髪飾りみなさん気づいてくれました? これ、セリナさんがプレゼントしてくれたんですよ!》
エレノアが髪飾りに触れて、カメラに見せる。
エメラルドが美しく輝いている。
コメント欄が反応する。
《気づいてた!》
《素敵な髪飾り!》
《セリナさんからのプレゼント!?》
《2人仲良し!》
《センスいい!》
沙織の声も聞こえてくる。
《とっても似合ってて私も嬉しいです》
美穂が嬉しそうに答える。
《ありがとうございます。宝物にします》
2人の温かいやり取りに、視聴者は心が温まった。
コメント欄には、祝福の言葉が並ぶ。
《2人の友情素敵》
《プレゼント交換いいね》
《仲良しが伝わる》
《こういうの見てると幸せになる》
エレノアとセリナがお互いを見て、小さく頷き合った。
最後に、2人がそれぞれホワイトボードを掲げる。
エレノア:「メリークリスマス!また会いましょう」
セリナ:「メリークリスマス!またね」
2人で手を振る。
画面の向こうから、視聴者も手を振っているような気がした。
配信終了ボタンを押すと、画面が暗くなって沈黙が訪れる。
そして数秒後、2人は同時にマスクを外した。
「お疲れ様でした!」
「めちゃくちゃ緊張しました」
沙織の声は、少し震えていた。
美穂も、疲労と安堵の表情を浮かべている。
2人はすぐにスマートフォンを手に取り、配信の反響を確認した。
最大同時視聴者数:約3,300人。
コメント数:約9,000件。
高評価:約1,800件。
「こんなにたくさんの人が見てくれてたなんて...」
沙織は信じられないという表情で画面を見つめていた。
「初めての生配信で、こんなに盛り上がるなんて」
美穂も驚きを隠せない。
「美穂さんの黒歴史、すごかったですねw」
沙織が笑いながら言うと、美穂も笑い返した。
「沙織さんのエロい下着もすごかったですよw」
「もう!それは言わないでください!」
沙織は顔を赤らめた。
配信後のコメントを確認していく。
「セリナ×エレノア最高!」
「2人の黒歴史最高だった」
「次回も期待!」
「ギャルメイクとエロ下着www」
「引き分けで両方聞けてラッキー」
「エレノア様の初配信成功おめでとう!」
「素の声も素敵だった」
「2人とも人間らしくて好き」
温かいコメントが、次々と投稿されていた。
「沙織さん、今日は本当にありがとうございました」
「こちらこそ。また一緒にやりましょうね」
「はい!絶対に」
2人は笑顔で握手を交わした。
時計を見ると、もう23時半を過ぎていた。
沙織は帰る準備を始めた。
「気をつけて帰ってくださいね」
「はい。今日は本当に楽しかったです」
玄関での別れ際、沙織は深々と頭を下げた。
「美穂さんのおかげで、素晴らしい経験ができました」
「沙織さんと一緒だから、成功したんですよ」
美穂は優しく微笑んだ。
午後11時半過ぎ、沙織は充実感に包まれながら美穂の家を後にした。
冬の冷たい空気が、火照った頬を冷ましてくれる。
クリスマスの夜空には、星が輝いていた。
自宅に着くと、沙織はセリナの衣装とマスクを大切にテーブルに置いた。
少し疲れていたが、それ以上に心が満たされていた。
リビングの照明を落とし、ソファに座る。
目の前には、セリナのマスク。
今日、自分はこのマスクを被って、多くの人の前で笑い、楽しみ、時には失敗もした。
沙織はセリナのマスクを手に取り、じっと見つめた。
漆黒に近いネイビーブルーの髪。
灰青の瞳。
端正な顔立ち。
「あなたと出会えて良かった」
沙織は静かに呟いた。
セリナがいなかったら、美穂さんとこんなに親しくなることもなかった。
こんなに楽しい時間を過ごすこともなかった。
そして、こんなに多くの人に応援してもらうこともなかった。
(もっと頑張ろう。美穂さんの期待に応えられるように)
(エレノアのファンの人たちにも、セリナを認めてもらえるように)
(そして、セリナを好きでいてくれる人たちのために)
沙織はマスクを優しく抱きしめた。
今日は本当に特別な日だった。
セリナとして、そして野田沙織として。
窓の外を見ると、クリスマスの夜空に星が輝いている。
沙織は静かに微笑んだ。
◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎
配信終了後の投稿
しかし、その前に。
配信終了後、美穂と沙織はまだやるべきことがあった。
「沙織さん、投稿用の写真を撮りましょう」
美穂がそう言って、2人はエレノアの部屋に移動した。
部屋の中は、美しく整えられている。
照明も完璧にセットされ、撮影スペースとして最適だ。
「まずは2人のコラボ写真からですね」
美穂がカメラを三脚にセットする。
2人は、サンタ衣装のままマスクを装着した。
赤いサンタ衣装を着たエレノアとセリナ。
クリスマス配信の余韻が、まだ残っている。
「全身が映るように撮りましょう」
美穂がタイマーをセットする。
まず最初は、2人が美しいポーズを取る。
エレノアが左手を腰に当て、セリナが右手を胸に当てる。
騎士らしい凛々しいポーズ。
カシャッ。
次は、仲の良さそうな自然なポーズ。
2人が肩を寄せ合い、手を繋ぐ。
まるで親友同士のような、温かい雰囲気。
カシャッ。
何枚か撮影し、美穂が画像を確認する。
「いいですね。これで投稿できます」
次に、リビングに戻る。
配信で使った機材やおもちゃがまだ置かれたままだ。
「オフショット風に撮りましょう」
美穂が言う。
テーブルの上には、指噛むワニとジェンガが置かれている。
ホワイトボードも、そのままだ。
美穂は、沙織の顔が映らないように上手く構図を考えた。
肩から下と、テーブルの上のおもちゃ、ホワイトボード、機材を納める。
沙織が、セリナのマスクを手に持ってテーブルに置く。
美穂がエレノアのマスクも同じように置く。
二つのマスクが並んで置かれた写真。
その奥には、配信で使った道具が見える。
カシャッ。
「これはエレノアのアカウントで投稿しますね」
美穂が画像を確認しながら言った。
次は、沙織の番だ。
「私はセリナのマスクを被って撮ります」
沙織がセリナのマスクを装着する。
自撮り風に、カメラを構える。
配信終了直後の様子が分かる背景。
セリナの顔がアップで映り、微かにエレノアの足元が画面の端に入る。
完璧な構図だ。
カシャッ。
撮影が終わり、2人は投稿文を考え始めた。
美穂がエレノアのアカウントで投稿する。
投稿内容を画面で確認しながら、美穂が文字を打ち込んでいく。
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《エレノア・サンクティス》
今日は初めての生配信でした!
セリナさん(@selina_gravefrost)とのコラボ、本当に楽しかったです!
見てくれたみなさん、ありがとうございました!
#美少女着ぐるみ #エレノア #セリナ #コラボ配信 #クリスマス配信 #生配信 #初配信
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写真は、コラボ写真とオフショット写真。
沙織もセリナのアカウントで投稿する。
沙織が慎重に文章を考えながら、投稿内容を作成していく。
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《セリナ・グレイヴフロスト》
エレノア様(@eleanor_sanctis)のアカウントにお邪魔してきました!❄
初めての生配信、緊張したけど本当に楽しかったです!
見てくれたみなさん、ありがとうございました!
#美少女着ぐるみ #セリナ #エレノア #コラボ配信 #クリスマス配信 #生配信 #初配信
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写真は、自撮り風のセリナマスク写真とコラボ写真。
投稿ボタンを押す。
すぐに、反応が返ってきた。
いいねの数がみるみる増えていく。
コメント欄にも、温かい言葉が並ぶ。
《お疲れ様でした!》
《最高の配信だった!》
《2人の仲良しが伝わった》
《また見たい!》
2人は笑顔で、スマートフォンの画面を見つめていた。
「成功ですね」
「はい。沙織さんと一緒だから」
美穂と沙織は、お互いを見て微笑んだ。
その時、美穂がふとスマートフォンを見て声を上げた。
「あ、沙織さん! フォロワー数がもう増えてますよ!」
美穂がエレノアのアカウントを確認する。
「エレノアは6,200人から...6,498人になってる!配信中と配信直後で298人も増えました」
沙織も慌ててセリナのアカウントを確認する。
目を疑う数字がそこにあった。
「920人から...1,307人に!」
沙織の声が震える。
387人もの増加。
「すごい...こんなに...」
「良かったですね、沙織さん」
美穂が優しく微笑む。
「これは...美穂さんがセリナのことをアピールしてくれたおかげです」
沙織は感謝の気持ちでいっぱいになった。
でも、それだけじゃない。
エレノアのファンの人たちが、セリナを受け入れてくれた。
その証なんだ。
(美穂さんの顔に泥を塗るわけにはいかない)
沙織は心の中でそう決意する。
(もっと頑張ろう。もっと楽しんで、セリナとして活動していこう)
「沙織さん?」
「あ、すみません。嬉しくて、少しぼーっとしてました」
沙織は照れくさそうに笑った。
長い一日が、ようやく終わろうとしていた。
◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎
配信の反響
12月26日、火曜日。
配信翌日の朝、沙織が目を覚ますと、スマートフォンに大量の通知が届いていた。
セリナアカウントの状況を確認する。
フォロワー数が一気に増加していた。
920人から、1,480人へ。
配信直後に387人増えて1,307人になり、その後も増え続けて560人の増加。
DMには多数のメッセージが届いている。
エレノアとの共演を喜ぶコメントが多数。
「こんなに反響があるなんて...昨日の配信、本当に成功だったんだ」
沙織は心の中でそう呟きながら、一つ一つのメッセージに目を通していった。
同じ頃、美穂もSNSでの反響を確認していた。
エレノアアカウントのフォロワー数も増加していた。
6,200人から、7,000人へ。
配信直後に298人増えて6,498人になり、その後も増え続けて800人の増加。
配信のアーカイブ動画の再生回数は、既に二万回を超えていた。
「次回のコラボはいつ?」という質問も多数寄せられている。
(沙織さんと一緒だから、こんなに盛り上がったんだな)思いながら、微笑んでいた。
昼過ぎ、美穂から沙織にLINEが届いた。
「沙織さん、昨日の配信、すごい反響ですね!」
沙織もすぐに返信した。
「本当ですね。私のアカウントもフォロワーがすごく増えました」
美穂からまたメッセージが来る。
「また一緒に何かやりましょう。来年も楽しみです」
沙織は笑顔で返信した。
「はい!美穂さんと一緒なら、どんなことでもできそうです」
2人のやり取りは、温かい友情に満ちていた。
◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎
年内最後の振り返り
12月30日、金曜日。
沙織は自宅のリビングで、今年一年のセリナ活動を振り返っていた。
ソファに座り、スマートフォンに保存された写真を眺める。
沙耶香との再会と初の本格撮影。
愛美、さくらとの秘密共有と理解。
屋外撮影という大きな挑戦。
コスプレイベントでの新たな出会い。
アイデンティティクライシスと復活。
美穂との深い友情の構築。
そして、クリスマス共演配信の大成功。
(本当に濃い一年だった...)
一年前は、一人で楽しんでいただけのセリナ。
それが今では、こんなにたくさんの人とつながっている。
理解してくれる友人たち、共に活動する仲間、そして応援してくれるフォロワーたち。
テーブルの上には、新衣装の契約書が置かれていた。
安くはない、中々大きな出費。
しかし沙織は後悔していなかった。
「ちょっと大きな出費だったけど、きっと新しいセリナに会える」
ソファに座りながら、新衣装への期待を膨らませる。
今後の目標も明確だ。
新衣装での撮影。
動画撮影技術の継続練習。
美穂との更なる協力関係。
そして、より充実したセリナ活動。
現在の衣装を見つめながら、沙織は感謝の気持ちを抱いた。
「今の衣装にも感謝しなくちゃ。たくさんの思い出をくれたんだから」
窓の外を見ると、年の瀬の街が静かに暮れていく。
(来年はもっと成長したセリナに会えるかな...みんなで一緒に)呟きながら、新しい年への期待を膨らませていた。
◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎
新たな扉の向こうへ
1月15日、月曜日。
市役所の昼休み。
沙織は愛美、さくらと一緒に昼食を取っていた。
いつもの休憩室で、いつものようにお弁当を広げている。
その時、スマートフォンが鳴った。
衣装制作業者からの連絡だった。
『野田様、お待たせいたしました。セリナ・グレイヴフロスト新バージョンの衣装が完成いたしました。ご都合の良い時にお受け取りにいらしてください。』
その文面を読んだ瞬間、沙織の顔がぱっと明るくなった。
「え...もう?」
思わず声に出してしまった。
愛美とさくらが、沙織の変化に気づいた。
「沙織さん、何かいいニュースですか?」
愛美が尋ねると、さくらも続けた。
「表情が明るくなりましたよ」
沙織は少し含みのある笑みを浮かべて答えた。
「ちょっと...楽しみにしていたものができたみたい」
2人は何のことか察したようだった。
それ以上は聞かず、温かい笑顔を向けるだけだった。
昼休みが終わり、沙織は自分の席に戻った。
窓の外を見つめながら、心の中で呟く。
(新しいセリナ...どんな風になるんだろう。美穂さんにも沙耶香ちゃんにも、きっと驚いてもらえる)
(これから、またどんな物語が始まるのかな)
窓の外には、冬の澄んだ青空が広がっていた。
一年前とは比べ物にならないほど成長した沙織の前に、新たな可能性の扉が開かれようとしていた。
セリナ・グレイヴフロストの物語は、新たな始まりを待っている。
--- つづく---