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シュナになったお姉ちゃん 〜 私が私を消した、秘密の姉妹空間〜 【後編】

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シュナになったお姉ちゃん 〜 私が私を消した、秘密の姉妹空間〜 【後編】
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正体を知りながらも、妹の加奈は「シュナ」として姉を慈しみ、支配する悦びに耽っていく。

灼熱のマスクの中で意識を朦朧とさせる優奈は、妹の望むまま「理想の聖女」を演じ続ける。


汗ばんだタイツ越しに伝わる、かつてないほど密接な体温。

立場が逆転したリビングで、重なる吐息と歪な愛が二人を包み込む。

もう戻れない、秘密の姉妹関係の先にある結末とは――。

===============



「シュナちゃん、私ちょっと用事があるから、少しだけ自分の部屋に戻るね。服も着替えたいし」


加奈の声が、マスクの中に響いてくる。

優奈はシュナのマスクの狭い視界の中から、加奈を見つめた。


「1時間〜1時間半くらいかな? ちょっと用事済ませてくるね」


(部屋に帰る?)

(もしかして、休憩していいよってこと?)


優奈の心の声が、マスクの中で響く。


(確かに、もうさっきから息が苦しくて、今すぐにでもマスクを外したいと思ってるけど...)


マスクの中は、もう灼熱地獄だった。

自分の息で顔全体が蒸され、額から、頬から、顎から、汗が滝のように流れている。

呼吸のたびにマスクの内側に息が跳ね返ってきて、顔中に熱い息がかかる。

視界は白く霞んでいて、もうほとんど何も見えない。

体も、限界に近い。

立っているだけで、膝が震える。

意識が、少し遠のきそう。


(でも休憩しないと、ホントに倒れそう...)


シュナ(優奈)は黙って加奈の言う事を聞き入れて、小さく頷いてみせる。


「じゃあね、シュナちゃん。行ってくるね」


加奈が立ち上がる気配。

優奈はシュナのマスクの中で、自分の部屋に帰っていく加奈の後ろ姿を見つめていた。

霞んだ視界の中で、加奈の姿がぼんやりと見える。

廊下に消えていく加奈。

そして、ドアの開く音。

閉まる音。

静かになった。


加奈が自分の部屋に入ってから、数分。

リビングのソファに座ったシュナは、必死に呼吸を整えていた。

マスクの口元から、激しい呼吸音が漏れ続ける。


「ハァ…ハァ……スゥ…ハァ……スゥ…ハァ…ハァ……」


肩が大きく上下し、呼吸のたびに胸のあたりも膨らんだり縮んだりを繰り返す。

マスクの中はもう灼熱地獄で、自分の息で顔全体が蒸される。

額から、頬から、顎から、汗が滝のように流れていく。

目に入る汗を何度も何度も瞬きして払おうとするが、瞬きをすればするほど余計に視界が悪くなる。

シュナの視界はもうほとんど白く霞んでいて、マスクのスリットからわずかに見える景色がぼんやりと滲んでいる。


(苦しい…)

(本当に、苦しい…)


優奈の心の声が、マスクの中で響く。


(一旦、休憩しよう…)

(マスクを、外さないと…)


シュナは、ゆっくりとソファから立ち上がった。

でも体がふらつき、立った瞬間に視界が暗くなる。

膝が笑い、足が震えている。


(大丈夫… 自分の部屋まで…)


シュナは壁に手をついて体を支え、そして一歩一歩、慎重に歩き始める。

視界はもうほとんど機能しておらず、床も前も見えない。

ただ感覚だけを頼りに、足を前に出す。


廊下に出ると右側が壁で、手を壁に添えながらゆっくりと進む。

加奈の部屋の前を通り過ぎる。

静かで何の音も聞こえず、加奈は部屋で何をしているのだろうかと思うが、今は考えられない。


ただ前に進むことで精一杯。


自分の部屋のドアにようやくたどり着き、ドアノブを探す。

視界が悪くて位置が分からず、手を伸ばすが空振りする。

もう一度慎重に伸ばすと、ドアノブに触れた。

ゆっくりと回してドアを開け、部屋に入ってドアを閉める。


そしてベッドの方向によろよろと歩いた。

ベッドに倒れ込むように座ると、ドサッという音とともに体が沈み込む。

柔らかいベッドの感触。

シュナは、マスクの中で、大きく息を吸い込んだ。


「ハァ…ハァ…ハァ……」


少しだけ呼吸を整えてから、両手を上げる。

マスクの後ろ、両耳の上側にある金具に手を伸ばし、指先で金具を探る。

右側の金具を見つけてカチッと外し、続いて左側の金具もカチッと外す。

その瞬間、マスクが頭から離れた。

シュナは前面のマスクパーツをゆっくりと顔から引き離すと、瞬間、外気が顔に触れた。


「ハァ…!」


優奈は大きく息を吸い込み、冷たい空気が口から、鼻から、肺に流れ込む。


ああ、息ができる。

ちゃんと、息ができる。


マスクを両手で持ったまま、優奈は何度も何度も深呼吸を繰り返した。

その時、マスクの内側から汗が数滴、床にポタリポタリと滴り落ちた。


マスクの内側は汗でびしょびしょで、スポンジが貼られた部分から大量の汗が滴っている。


優奈はマスクをベッドの上に丁寧に置いてから、まだ頭に被ったままのフード部分に手をかける。

首の後ろから頭頂部へと続くファスナーを探し、指先でファスナーの金具を掴む。


ジジジジ


という音とともに頭頂部、後頭部、首と完全に開いた。

フード部分を頭から外し、髪の毛を束ねていたヘアゴムを外すと、髪がばさりと広がる。


汗でびしょびしょだ。


額に張り付いた髪を手で払うと、顔全体が汗でぬるぬるしている。

頬も、顎も、額も。


そして顔には、スポンジの跡がくっきりと残っていた。

額、頬、顎、鼻の周りに赤く、くっきりと。


優奈は部屋の隅に置いてあるティッシュボックスを取り、何枚も引き抜いて顔を拭いた。

汗がティッシュにどんどん吸い込まれていき、何枚も何枚も使う。

ようやく少しすっきりして、時計を見る。


13時50分


そっか、シュナに変身したのが10時だから、約4時間。

4時間近くも、シュナの着ぐるみの中に入っていたことになる。


その瞬間、優奈の体が異変を訴えた。


(喉… 渇いた…)


ものすごい喉の渇きを感じる。

口の中がもうカラカラで、舌も乾いている。

今すぐに水が飲みたい。


優奈は、ふらつく足でベッドから立ち上がった。

ゆっくりと部屋を出て廊下を歩き、キッチンに向かう。

首から下は、まだシュナの姿のままだった。

ベージュ色の全身タイツに白い巫女装束、薄ピンクの花柄の羽織、赤い袴スカートに帯飾り。


でも頭部だけは、マスクを被っていない優奈の素顔のまま。

汗で濡れた髪にスポンジの跡が残った顔。


この姿で今、加奈がリビングに戻ってきたら完全に見られてしまう。


でも、それでもいい。

まず水分を補給しなければ。

このままでは、本当に倒れてしまう。


キッチンに到着して冷蔵庫を開け、お茶のペットボトルを取り出す。

棚からコップを取ってお茶をコップいっぱいに注ぎ、そして一気に飲み干した。


ゴクゴクゴク…


冷たいお茶が喉を通っていき、カラカラだった口の中に潤いが戻る。

ああ、生き返る。

1杯では足りず、もう一度コップにお茶を注いで、また一気に飲み干す。

ようやく、少し落ち着いた。


優奈はコップにもう一度お茶を注ぎ直すと、それを持って自分の部屋に戻った。


部屋に戻ると、ベッドの上にはシュナのマスクが丁寧に置かれている。

ピンク色の長い髪に、優しく微笑んでいる表情、切長の綺麗なピンク色の瞳。

優奈はコップを机の上に置くと、PCデスクの椅子に座った。

そして、ゆっくりと、さっきまでの出来事を振り返る。


(加奈が… 帰ってきた)

(そして、シュナの姿の私を見た)


最初、加奈は驚いていた。


当然だ。

姉がアニメキャラクターの着ぐるみを着ている姿を見たのだから。


でも加奈は、受け入れてくれた。

シュナとして扱ってくれて、一緒にソファに座ってテレビを見た。

昔、小さい頃、よく一緒に遊んだ時のようなあの感覚。


楽しかった。

本当に、楽しかった。


(加奈のこと、昔から大好きだった)


優奈は、心の中で呟く。

可愛くて、スタイルも良くて、自分なんかより頭が良くて性格も良い。


自慢の妹で、密かな憧れ。


そんな加奈がシュナとして私を見てくれて、それが嬉しくて。

もう、他のことなんてどうでもよくなった。

ただ加奈に構ってほしくて、自分だけのものにしたくて。


(それで… 気づいたら…)


優奈の記憶が、少し曖昧になる。

加奈を思い切り抱きしめていたが、何であんなことをしたのか、自分でもよく分からない。

その時の記憶はほとんどない。

覚えているのは、加奈の柔らかい体、シュナの着ぐるみの中の暑さと苦しさ、マスクの視界から見える加奈の表情。

驚いているけど拒否もせず、優しく受け入れてくれる加奈がたまらなく愛おしかった。


(私には…)

(自分も知らない、もう1人の自分がいるのだろうか?)


優奈は、ベッドの上のシュナのマスクを見つめた。

このマスクを被ると、優奈は優奈ではなくなってシュナになる。

そして、シュナとして振る舞う。

その時の自分は、いつもの自分とは違う。

もっと大胆で、もっと積極的で、もっと感情的。


(シュナになった時の私は、誰なんだろう)


答えは、分からない。

でも、ひとつだけ、確かなことがある。

シュナでいる時の自分は、幸せだった。


優奈はお茶を一口飲むと、ベッドの上のシュナのマスクをもう一度見つめた。

ピンク色の長い髪に、優しく微笑んでいる表情、切長の綺麗なピンク色の瞳。

時計を見る。


14時5分


加奈が部屋に入ってから、30分が経過している。

あと30分から1時間くらいで、加奈がリビングに戻ってくる。


その時、自分はどうしていたい?


優奈の視線が、再びシュナのマスクに向けられる。


◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎


加奈の部屋

13時35分


加奈は部屋に戻ってすぐ、PCを開いた。

週明けに提出する講義のレポートはまだ半分くらいしか書けていない。

今日中に仕上げないと。

加奈は、キーボードに指を置く。


でも、文字が打てない。


頭の中が、シュナの着ぐるみとその中に入っているお姉ちゃんのことでいっぱいだった。

あのピンク色の髪、優しく微笑んでいるマスクの表情。

でもその内側では、お姉ちゃんが必死に呼吸している。

汗だくになって、苦しそうに。

それでも、シュナとしていようとするお姉ちゃん。


(お姉ちゃん…)

(今、ちゃんと休憩できたかな?)


加奈は、壁の向こうを想像する。

優奈の部屋はこの部屋の向かいで、今お姉ちゃんはあの部屋で何をしているんだろう。

マスクを外してベッドに倒れ込んでいるのだろうか、それともまだシュナのままなのだろうか。


(倒れたりしてないかな?)


少し、心配になる。

あんなに苦しそうだったのに、あんなに疲れていたのに。


その時


カチャリ、と音がした。

ドアの開く音。


加奈の手が、キーボードの上で止まる。

お姉ちゃんの部屋から?


そして、ゆっくりとした足音。

廊下を歩く音。

少し、ふらついているような。

その足音は、リビングではなく、廊下を真っ直ぐキッチンの方に向かっていく。


(お姉ちゃん、今、部屋から出た?)


加奈は、じっと耳を澄ます。

足音は、キッチンの方で止まった。

冷蔵庫を開ける音。

何かを取り出す音。

水を飲んでいるのだろうか。


(リビングじゃなくて、キッチンに行ったんだ)

(ということは、今、お姉ちゃんは…)


加奈の頭の中に、いくつかの可能性が浮かぶ。

マスクを外して、シュナの衣装だけ着た状態でキッチンにいるのか。

それとも、まだマスクを被ったまま、シュナの姿でキッチンにいるのか。


(もし今、リビングに行ったら…)

(シュナちゃんがいるのかな?)

(それとも、お姉ちゃん?)


加奈は、少し立ち上がりかけた。

でも、すぐに座り直す。


(今は、邪魔しない方がいいかな)

(お姉ちゃん、多分、水分補給とか、休憩してるんだよね)

(そっとしておいてあげよう)


しばらくして、また足音がした。

キッチンから、お姉ちゃんの部屋の方へ。

ゆっくりとした足音。

そして、ドアが閉まる音。

静かになった。


(部屋に戻ったんだ)

(少しは、楽になったかな?)


加奈の胸が、少しだけ温かくなる。

お姉ちゃんが、少しでも楽になっていますように。

でも同時に、疑問も湧いてくる。


(この後、お姉ちゃんは、どうするんだろう)

(普通の格好で、リビングで待ってるのかな?)

(それとも…)

(また、シュナちゃんに…?)


加奈は、想像する。

もし、この後リビングに戻った時。

そこに、またシュナちゃんがいたら。

それは、お姉ちゃんが、私のためにもう一度シュナになってくれたということ。

その想像だけで、加奈の心臓が少し高鳴る。


(お姉ちゃん…)


加奈は、小さく笑った。

そして、気持ちを切り替えてレポートに向き直る。


(お姉ちゃんに、あんなに激しく抱きしめられたこと、今まで無かったな)


加奈の胸が、少し温かくなる。

あの時のシュナの腕の力は、強く強く抱きしめて、まるで離したくないとでも言うように。

シュナちゃん、可愛かったな。

そしてその中に入っていたのは、間違いなくお姉ちゃん。

加奈はシュナの着ぐるみのことを思い出しながら、少しずつレポートをまとめていく。

でも全然捗らず、数行書いては手が止まり、またシュナのことを考えては、また数行書く。


(っていうか、お昼ご飯、食べてないな)


加奈はお腹に手を当てて空腹を感じる。

お姉ちゃんもまだだと思うが、今はそれどころじゃないかな。


(後になってもいいから、ご飯、一緒に食べよう)


加奈は、そう思いながら、レポートに集中しようとした。


◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎


90分後

15時ちょうど。


加奈はようやくレポートをまとめる作業をキリの良いところまで終わらせた。

PCの画面に表示された文字数を確認すると、必要な文字数に到達している。

あとは明日、もう一度見直して提出すれば大丈夫。

加奈は伸びをして、肩が少し凝っていることに気づく。

時計を見る。


15時


思いのほか集中して作業していたことに驚くが、すぐにお姉ちゃんのことが気になった。


(あれから、90分も経った)

(今からリビングに戻ると…)


シュナちゃんか、お姉ちゃんか。

どちらかが、いるはず。


(どっちかな?)

(お姉ちゃんは、今日、この後、どうしたいのかな?)


加奈の唇に、小さな笑みが浮かぶ。


(楽しみだな)


それから加奈はお腹に手を当てた。


(っていうか、お腹すいた)

(何か、食べよう)


加奈は、部屋のドアを開けた。

廊下に出ると静かで何の音も聞こえず、ゆっくりとリビングに向かう。

リビングのドアの前で少しだけ息を整えてから、そしてドアを開けた。


◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎


14時15分



優奈は、もう一度、変身の準備を始めた。

まず髪をヘアゴムで束ねて後頭部でひとつにまとめ、首の後ろに垂らす。

それから、全身タイツのフード部分を再び頭に被って顔だけを外に出した状態にする。

首の後ろから頭頂部へと続くファスナーを、ゆっくりと上げていくとジジジジという音とともに完全に閉まった。

次にシュナのマスクを手に取る。

前面の顔パーツと後頭部パーツ。

優奈は、深く息を吸い込んだ。


(いこう)


前面の顔パーツを自分の顔に当てると、瞬間、世界が変わる。

視界が一気に狭くなり、額、頬、顎にスポンジが密着する。

鼻が押し潰されて口呼吸になる。

後頭部パーツを後ろから当て、両手を上げて両耳の上側にある金具を探る。


右側、カチリ。

左側、カチリ。


マスクが、完全に固定された。

優奈は、口で大きく息を吸い込む。


「ハァ…」


吐き出す。


「スゥ…」


その吐息がマスクの内側に跳ね返ってきて、顔全体に熱い空気がかかる。

マスク内部の温度が、じわじわと上がっていく。


(これでいい)


優奈は、いや、シュナは、部屋を出た。

廊下を歩き、リビングに向かって一歩一歩、慎重に進む。

リビングに到着し、ソファに向かって歩いてから、丁寧に、上品に、腰を下ろす。


膝を揃え、背筋を伸ばし、両手を膝の上に置く。

完璧なシュナの座り方。


シュナはテレビのリモコンを手に取り、電源ボタンを押すと画面が明るくなる。

チャンネルを変えて、あるチャンネルで手を止めた。


アニメのチャンネル。


今、ちょうどシュナが登場するアニメの再放送が流れている。

画面の中で、可憐で優しくて上品なシュナが動いている。

シュナは、じっと画面を見つめた。

そして、いつの間にか意識が遠のいていった。


◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎


リビングに足を踏み入れて視線をソファの方に向けると、そこには1人の女性が座っていた。

加奈がゆっくりとソファの方を見ると、そこにはさっきと変わらないシュナが静かにテレビを見ながらくつろいでいる。


でも、よく見るとシュナの頭が少し前に傾いている。

テレビにはシュナが登場するアニメが流れているが、シュナは動かない。


(お姉ちゃん…もしかして寝ちゃってる?)


加奈の胸が、きゅっとなる。


(でも、そっか)

(今日は、私のおもちゃになることを選んだんだね)


加奈は微笑みながら、静かに後ろからゆっくりとシュナに近づいていく。

マスクから、規則正しい呼吸音が漏れている。


「スゥ…ハァ…スゥ…ハァ…」


寝ているのに、その呼吸はまだ少し荒く、肩が上下している。

衣装を見ると、脇の下や背中のあたりが少し濃い色になっている。

タイツに染みた汗が、衣装の表面にまで滲み出ている。


(こんなに、疲れているのに)

(シュナのままで、いてくれたんだ)


加奈はシュナの隣に、そっと座った。

シュナは目覚めず、マスクの中で深い眠りについている。

加奈はじっとシュナの顔を見つめた。

ピンク色の長い髪、小さな角、優しく微笑んでいる表情、切長の綺麗なピンク色の瞳。


可愛い。

本当に、可愛い。


でもその内側では、お姉ちゃんが苦しんでいる。

加奈の手がそっとシュナの肩に触れると、温かい、いや熱い。

マスクの中、どれだけ暑いんだろう。


「おはよう、シュナちゃん」


加奈が優しく声をかけると、その瞬間シュナの体がピクッと反応した。

マスクの中で優奈が目覚め、シュナの頭がゆっくりと持ち上がる。

姿勢が崩れていたことに気づき慌てて背筋を伸ばそうとするが、体がふらついてバランスを崩しそうになる。

加奈が咄嗟にシュナの肩を支える。


「大丈夫?」


シュナは加奈の方を向いて、小さく頷く。

大丈夫、という仕草。

でも、その動きはさっきよりももっと弱々しかった。

加奈は少し考えてから、何気なく呟いた。


「お腹、空いたな」


シュナは、じっと加奈を見つめる。

加奈はシュナの顔を見ながら、続けた。


「ねぇ、シュナちゃん。お腹空いたんだけど、何か作ってくれない?」


その瞬間、シュナの動きが止まった。

マスクの中で優奈が混乱している様子が、何となく分かる。

シュナはゆっくりと自分の手を見て、全身タイツに包まれた手を確認してから、ゆっくりと首を横に振る。

できないかも、という仕草。

加奈は、優しく笑った。


「あ、手が滑るから心配なの? 大丈夫だよ、薄いゴム手袋すれば滑らないし」


加奈は立ち上がるとキッチンに向かい、引き出しを開けて薄い調理用ゴム手袋を取り出す。

そしてシュナの前に戻ってきて、手袋を見せた。


「ほら、これ」


シュナは手袋を見つめて、少し考える仕草をする。

マスクの中で、優奈が何かを決意している。

加奈は、続けた。


「シュナちゃんって、アニメでも料理上手だよね? 一度、食べてみたいって思ってたんだ」


シュナは加奈を見つめてから、ゆっくりと小さく頷いた。

やってみる、という仕草。

加奈の顔に、笑顔が広がる。


「やった! 楽しみ!」


◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎


シュナは、ゆっくりと立ち上がった。

体がふらつくが、何とか踏ん張る。

加奈が、心配そうに見守る。


「大丈夫?」


シュナは小さく頷いてから、一歩一歩、慎重にキッチンに向かって歩き始めた。

狭い視界の中で、キッチンの位置を確認する。

壁際の棚、その下の引き出し。

シュナは引き出しを開けて、中からエプロンを取り出す。

たまにしか使わない、姉妹兼用のエプロン。

薄いベージュ色の布地。

シュナはエプロンを広げると、首にかけようとした。

でも視界が狭くて、うまくいかない。

何度も、何度も、失敗する。

加奈が、立ち上がった。


「シュナちゃん、手伝おうか?」


でも、シュナは首を横に振った。

自分でやる、という仕草。

加奈は、少し心配そうに見守る。


シュナは何度目かのトライで、ようやくエプロンを首にかけることに成功した。

そして後ろに手を回して紐を結ぶが、見えない。

手探りで紐を探って結ぶが、ほどける。

また、結ぶ。

ようやく、結べた。


シュナは加奈が持ってきたゴム手袋を全身タイツの上から装着した。

二重の手袋で感覚が鈍いが、これで滑りにくくなる。

シュナは冷蔵庫を開けて中を覗き込み、狭いスリットから見える冷蔵庫の中身を確認する。


卵、玉ねぎ、ハム、ケチャップ。

シュナは一つずつ慎重に取り出していく。

そして炊飯器からご飯をよそい、調理器具を準備する。

まな板、包丁、フライパン、ボウル、お玉。

ひとつひとつ、確認しながら。

加奈は少し離れたダイニングテーブルから、じっと見守っていた。


◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎


シュナは、まず、玉ねぎの皮を剥き始めた。

ゴム手袋で、滑る。

何度も、落としそうになる。

でも、慎重に、慎重に。

ようやく、皮を剥き終える。


次に、みじん切り。

シュナは、包丁を手に取った。

まな板の上に、玉ねぎを置く。

左手で、玉ねぎを押さえる。

右手で、包丁を持つ。

狭いスリットから見える、包丁の刃先。

距離感が、掴めない。

シュナは、ゆっくりと、慎重に、包丁を動かし始めた。


「トン」一切れ。

「トン」また一切れ。


いつもの、半分以下の速度。

その時汗が、目に入った。

優奈は、何度も瞬きをする。


視界が、さらに悪くなる。

でも、続ける。


トン。

トン。

トン。


切り方が、不揃いだ。

でも、何とか、みじん切りにできた。

加奈は、ダイニングテーブルから、じっと見守っている。


(お姉ちゃん、すごく慎重に切ってる)

(いつもなら、あっという間なのに)

(手が、震えてる…)


シュナは、次に、ハムを切った。

玉ねぎよりは、楽。

でも、視界の問題は同じ。


サイコロ状にようやく切り終える。

次に、炒め始める。


フライパンに、油を引くが油の量が見えにくくて多めに入れてしまう。


火をつけて玉ねぎとハムを、フライパンに投入する。


ジュワッ


音が響く。

そして、フライパンから、熱気が立ち上る。

その熱気が、マスクに直撃した。

マスク内の温度が、急激に上昇する。

顔全体に、熱風がかかる。


「ハァ…ハァ……」


呼吸が、荒くなる。

シュナは、お玉で必死に炒める。


手が、震える。

体力の限界を、感じる。

汗が、滝のように流れる。


額から。

頬から。

顎から。


汗が目に入り続け視界がどんどん悪くなる。


でも、続ける。

炊飯器からご飯をよそってご飯を加える。

量が分かりにくく、また少し多めに入れてしまうが、構わずフライパンに投入する。


炒める。

腕が重い。


お玉を持つ手が、震える。


でもシュナとして、完璧に。

ケチャップで味付けをするために、ケチャップの容器を持つ。

どれくらい入れればいいか、見えない。


控えめに入れて炒め続ける。

もう意識が、遠のきそう。


でも、踏ん張る。


お皿を準備する。

お玉で、ケチャップライスを盛るが、手が震えて形が崩れる。

何とか、盛り付けて次に卵。


ボウルに、卵を割る。

でも片手で割るのが、困難。

ゴム手袋でも滑る。


1個目。

何とか割れた。


2個目。

また割れた。


3個目。

ようやく、割り終える。


箸で、卵を溶くが手が震える。

もう体力の限界で腕が上がらない。


でもシュナなら、完璧にやるはず。


一度フライパンをさっと洗う。


お湯が熱い。

視界が悪いても続ける。


油をき卵液を、流し込む。


ジュワッ。


また熱気で意識が朦朧とする。

もうタイミングが、分からない。


いつもなら簡単にできる「半熟」の加減が分からない。


少し焼きすぎたかも。

卵が硬いけど、箸で上手くまとめてケチャップライスの上に、載せる。


手が震えて、危うく落としそう。

何とか、成功。


完成!


シュナはお皿に盛られたオムライスを持った。

そしてゆっくりと慎重に、ダイニングテーブルに運ぶ。


シュナは加奈の前にオムライスを置く。

加奈の分の1皿だけ。


◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎


加奈は、お皿を見つめた。


「わぁ、美味しそう!」


でもすぐに気づく。

シュナの分がない。

加奈はシュナを見上げた。


「シュナちゃん、あなたの分は?」


シュナはゆっくりと自分のマスクを指差した。

そして加奈は、すぐに理解した。


ああ、そうか。

マスクを被ってるから、食べられない。

加奈の胸がきゅっと締め付けられる。


(一緒に、食べたかったな)

(こんなに頑張って作ってくれたのに)

(お姉ちゃん、何も食べてないんだよ)


加奈は、シュナを見つめた。


「もういいよ、お姉ちゃん。分かってるから」

「食べるときくらいさ、いいじゃん! 一緒に食べようよ」

「お姉ちゃん、朝から何も食べてないんでしょ?」


でもシュナは、ゆっくりと首を傾げた。

そして両手で自分を指差す。


首を横に振りながら身振りで必死に伝える。


私はシュナだよ?

遠慮せずに食べて。

私は大丈夫だから。


何度も何度も。


加奈は、俯いた。

どうしたらいいのか、分からない。


(残酷なことを、させてしまった)

(でも、これがお姉ちゃんの選択)

(シュナとしていたい、その気持ち)


その時シュナが、加奈の隣に移動した。


ゆっくりと。


そして加奈の耳元に顔を近づける。

マスクの口元が、加奈の耳のすぐ近くにくる。

そしてくぐもった、小さな声が聞こえてくる。


「加奈、いいから、温かいうちに食べてよ」

「私は、大丈夫だから」


少し間を置いて。


「あとね、お姉ちゃんて言うのやめて。 なんだか恥ずかしくなるから」


加奈はシュナを見上げた。

シュナが可愛らしく、小さく頷く。

加奈は涙を堪えて笑顔を作った。


「うん、いただきます!」


スプーンを持って一口、口に運んでしっかりと味わう。


いつもの、お姉ちゃんの味。

でも卵が少し硬くて、味がいつもより少し薄い。


でも。

とても、美味しい。

涙が出そう。


「美味しい…」


加奈は小さく呟いた。

シュナは隣で静かに見守っている。

マスクからは絶えず呼吸音が漏れているる。


「ハァ…ハァ……スゥ…」


肩が上下しながら、でもじっと加奈を見守っている。

加奈が、一口、一口、大切に食べる。


シュナが時々小さく首を傾げて「美味しい?」:という確認をする。


「うん、美味しいよ」


やがて、お皿が空になった。


「ごちそうさま!」


加奈は、そう言って、シュナを見た。


「美味しかった。ありがとう、シュナちゃん」


シュナが、嬉しそうに、でも疲れた様子で頷く。

そしてシュナは突然立ち上がった。


加奈の前のお皿とスプーンを持って、キッチンに運んでいく。

加奈は、その後ろ姿を見つめる。


シュナはまたゴム手袋を着けて、今度は洗い物をしようとしている。

加奈は、慌ててキッチンに駆け寄った。


「そのくらい、私がやるよ! っていうか、危ないでしょ」


加奈は、シュナから、洗い物用のスポンジを取り上げた。

シュナは少し考えた後、加奈にありがとうという身振りをした。


代わりにテーブルの上を片付け始める。

調味料を棚に戻して、まな板や包丁をシンクに移す。


加奈は、黙って洗い物を始めた。


(まるで、本当にシュナちゃんと暮らしてるみたい)

(お姉ちゃん、これから、ずっとシュナちゃんでいる気なのかな?)

(そんなこと、流石に無理だよ?)

(シュナちゃんは可愛いけど、私はお姉ちゃんが…)


加奈は、そう思いながら、黙々と洗い物を続けた。


◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎


加奈は、キッチンのシンクで食器を洗っていた。

オムライスの皿、フォーク、フライパン。

一つ一つ丁寧に洗う。


その時、背中に視線を感じた。

振り返ると、シュナがキッチンの入り口付近に立ってじっとこちらを見ている。

加奈は少し微笑んだ。


「大丈夫だよ、シュナちゃん。ちょっと待っててね」


シュナは小さく頷き、加奈は、再び食器洗いに戻る。

でもまた背中に視線を感じる。

ちらりと振り返ると、やはりシュナがじっと見つめている。

マスクからは規則正しい呼吸音が聞こえている。


「スゥ…ハァ…スゥ…ハァ…」


加奈は、少し気になった。


(シュナちゃん、どうしたんだろう)

(何か、言いたいことがあるのかな?)


でも洗い物を中断するわけにもいかず、加奈は作業を続ける。

フライパンを洗い終わり、水を切る。


また、視線を感じる。


振り返ると、シュナはまだ同じ場所に立ってじっとこちらを見つめている。


(ずっと、見てる…)


加奈は、少しドキドキした。

シュナの視線が、ずっと自分に向けられている。

その視線の中にいるのは、お姉ちゃん。


マスクの小さなスリットから、優奈が自分を見つめている。


どんな顔で見ているんだろう。

どんな気持ちなんだろう。

加奈は、最後の食器を洗い終わり、水気を拭き取る。

そして、食器を棚に戻す。


シンクを軽く拭いて、ふきんを絞る。


全部終わった。

加奈は、振り返った。

シュナが相変わらず、じっと加奈を見つめている。

加奈はシュナの方に歩いて近づいた。


そして、シュナの前で立ち止ま理、2人は向かい合って立つ。


「お疲れ様、シュナちゃん」


加奈が、優しく笑いかける。


「手伝ってくれて、ありがとう」


シュナは小さく頷く。

そして、ゆっくりと、加奈の方に近づいてきた。


一歩、また一歩。


加奈との距離が縮まっていく。

シュナは、加奈の目の前で立ち止まった。


そして、モジモジと体を揺らしている。

両手を前で組んで、少し恥ずかしそうに。


何か、言いたいことがあるような。

でも、言えないような。


そんな仕草。

マスクから、呼吸音が漏れる。


「ハァ…ハァ……スゥ…ハァ……」


加奈は、じっとシュナを見つめた。


「シュナちゃん? どうしたの?」


シュナは少し躊躇うような仕草を見せた後、ゆっくりと手を伸ばしてきた。

そして、加奈の右手をそっと握る。


肌色のタイツに包まれた手。


でもその手の温かさは、ちゃんと伝わってくる。

シュナは、加奈の手を握ったままゆっくりと持ち上げていく。


胸の辺りまで。

そして、そのままシュナが、加奈に体を密着させてきた。

胸と胸が、触れ合う。

お腹とお腹が、触れ合う。


シュナの体温が、ダイレクトに伝わってくる。


シュナは、そのまま加奈の方を見つめている。

マスクの切長のピンク色の瞳が、じっと加奈を見つめている。

その奥、小さなスリットから、優奈が加奈を見ている。

マスクから、はっきりと呼吸音が聞こえる。


「ハァ…ハァ……スゥ…ハァ……」


加奈の耳に、その音が、生々しく響く。


近い。

とても、近い。


加奈の心臓が、激しく鼓動する。


加奈は、少し考えた後、ゆっくりと両腕をシュナの腰の辺りに回した。

そして、そのままシュナを見つめる。

向かい合って、立ったまま2人の体が、完全に密着している。


加奈は、シュナを少し見下ろすような形になっている。

優奈は加奈よりも少し小柄で、背も加奈より低い。


だから、こうして向かい合うと、加奈の方が少し高い位置から見下ろす形になる。

シュナは、加奈を見上げるような角度で、じっと見つめている。


甘えているような。

何かを求めているような。

そんな仕草。


加奈は、ふと思った。


(なんだか、不思議)

(シュナちゃんが妹で、私が姉みたい)

(でも、本当は…)


実際は、シュナの中に入っている優奈が姉で、加奈が妹。

立場が、完全に逆転している。

なんだか、おかしい。


でも。


加奈は、もう一つ、別のことを考えた。


(もしかして…)

(お姉ちゃんは、姉としての立場から、解放されたかったのかな)


いつも、しっかりしなきゃいけない姉。

妹の面倒を見なきゃいけない姉。

弱音を吐けない姉。

そんな立場から解放されたかった。


だからシュナになることで甘えることができる。

守られる側になれる。

そう思うと、加奈は、余計にシュナの中に入っているお姉ちゃんが愛おしくなってきた。


(もっと、構ってあげよう)

(今日は、私がお姉ちゃんを守ってあげる)


加奈は、シュナの腰を抱きしめる腕に少し力を込めた。

シュナが、少しビクッと反応する。

そして、加奈にさらに体を寄せてくる。

マスクが、加奈の肩のあたりに触れる。


硬いプラスチックの感触。

でもその中には、お姉ちゃんがいる。

加奈は、シュナの背中を、優しく撫でた。

シュナの体が、少し震える。

マスクから声が漏れる。


「ふ……ハァ……」


小さくか細い声。

でも、確かに優奈の声。

加奈は、少し微笑んだ。

そして、シュナの手を握ったまま、ゆっくりとソファの方を向いた。


「シュナちゃん、ソファで休もう?」


シュナは小さく頷く。

加奈は、シュナの手を優しく握ったまま、リビングのソファへとゆっくりと誘導していく。


シュナは、加奈に手を引かれながら、一歩一歩、慎重に歩く。

視界が狭くて、足元が見えない。


でも、加奈が手を引いてくれているから安心。

2人は、ソファの前に到着した。


加奈は、シュナを優しくソファに座らせる。

そして、自分もその隣に座った。

2人で並んで座る。


その光景は、午前中にもあったような光景。

テレビには何かのバラエティ番組が流れているが、2人ともあまり見ていない。

シュナはマスクの中で必死に呼吸を整えている。


「ハァ…ハァ……スゥ…ハァ……スゥ…」


肩が大きく上下していて、料理で体力を使い果たしたのだ。

加奈は、そんなシュナを横目で見つめる。


(お姉ちゃん、大丈夫かな?)


その時、シュナがゆっくりと体を動かした。

加奈の方に近づいてきて、加奈の腕にそっと手を置いた。

加奈がシュナを見ると、シュナは甘えるように加奈の肩に頭を預ける。

マスクの重さが加奈の肩にかかるが、加奈は嫌じゃなかった。


「シュナちゃん?」


シュナは小さく頷いて、もっと構ってほしいと言っているような仕草を見せる。

加奈は少し考えて決めた。


(よし、今日はシュナちゃんでたくさん遊ぼう)


加奈の顔に、いたずらっぽい笑みが浮かぶ。


「ねぇ、シュナちゃん」


シュナが、加奈の方を向く。


「シュナちゃんの、お気に入りのグッズとか、持ってきてくれない? 見せてほしいな」


シュナは、少し首を傾げる。

でも、すぐに頷いた。


そして、ゆっくりと立ち上がり、優奈の部屋の方へ向かう。

ふらつきながら、壁に手をつきながら、慎重に歩いていく。


数分後


シュナが戻ってきた。

両手に、いくつかのグッズを抱えている。

シュナのフィギュア、ぬいぐるみ、クリアファイル、缶バッジ。

シュナは、それをテーブルの上に、そっと置いた。

加奈は、目を輝かせる。


「わぁ! すごい! これ、レアなやつじゃない?」


加奈は、フィギュアを手に取る。

シュナの限定版フィギュア。

髪の色が微妙に違う、特別仕様。


「これ、プレミアついてるやつだよね?」


シュナは小さく頷く。

加奈は、フィギュアとシュナを交互に見る。


「本物のシュナちゃんと、フィギュアのシュナちゃん。並べてみたいな」


加奈は、フィギュアをシュナの隣に置いた。

そして、スマホを取り出して写真を撮る。


「はい、チーズ!」


パシャリ。

シュナは、じっとカメラを見つめている。

加奈は、撮った写真を確認して、満足そうに笑う。


「かわいい!」


それから、加奈はぬいぐるみを手に取った。

小さなシュナのぬいぐるみ。

高さ20センチくらい。

加奈は、そのぬいぐるみをシュナの膝の上に置く。


「はい、シュナちゃん。シュナちゃんのぬいぐるみだよ」


シュナは膝の上のぬいぐるみを見下ろすと、そっと手を添える。

加奈はその様子を見て、また写真を撮る。


「シュナちゃんが、シュナちゃんを抱っこしてる!」


加奈は、楽しそうに笑った。

それから加奈は別のことを思いついた。


「ねぇ、シュナちゃん」


シュナが、加奈を見る。


「シュナちゃんの髪、すっごく綺麗だよね。触ってもいい?」


シュナは、少し躊躇ったが、小さく頷いた。

加奈は、シュナの後ろに回り込む。


そして、ピンク色の長い髪にそっと触れた。

サラサラしていて、柔らかい。

人工毛だけど、すごく質が良い。


「わぁ、すごい。本当に綺麗」


加奈は、髪を手に取って、ゆっくりと撫でる。

そして、ふと思いついた。


「ねぇ、シュナちゃん。髪、アレンジしてもいい?」


シュナは、少し戸惑うような仕草を見せたが結局頷いた。

加奈は、嬉しそうに立ち上がると、自分の部屋からヘアゴムやヘアピン、リボンなどを持ってきた。


「じゃあ、いろいろ試してみるね!」


加奈は、シュナの髪を丁寧に梳かしてから、まず三つ編みを作り始めた。

右側の髪を取って、三つ編みにしていく。

シュナは、じっと座って待っている。

マスクから、規則正しい呼吸音。


「スゥ…ハァ…スゥ…ハァ…」


加奈は、三つ編みを完成させると、左側も同じように三つ編みにする。

そして、鏡を持ってきて、シュナに見せる。


「どう? かわいいでしょ?」


シュナは、鏡を見つめる。

両側に三つ編みが下がっている自分の姿。

いつもと違う髪型。


シュナは、小さく頷いた。

でも加奈はそれで終わらなかった。


「次は、お団子ヘアにしてみよう!」


加奈は、三つ編みをほどいて、今度は髪を頭の上でまとめ始める。

高い位置でお団子を作る。

シュナは、じっと座ったまま。

完成したお団子ヘアを、また鏡で確認する。


「うん、これもかわいい!」


加奈は、いろいろな髪型を試していく。

ツインテール、ポニーテール、ハーフアップ。

シュナは、ずっと座ったまま、加奈のヘアアレンジの練習台になっている。


30分ほど経った頃。

加奈は、髪型を元に戻した。


そして、ふと思いついて、ヘアピンをいくつか手に取った。

キラキラした可愛いヘアピン。


「シュナちゃん、ちょっとテレビ見ててね」


シュナは、テレビの方を向いた。

ちょうど、シュナのアニメの再放送が流れている。


シュナは、画面を見つめている。

加奈はその隙に、シュナの髪にヘアピンをつけ始めた。


一つ、二つ、三つ。


どんどん増えていく。

シュナは、気づいているのか気づいていないのかじっとテレビを見ている。


加奈は、ヘアピンを全部で10個以上つけた。

そして、シュナのぬいぐるみを手に取る。


シュナの頭の上に、そっと置く。

バランスを取りながら、もう一つ乗せる。


2つ、3つ、4つ。


シュナの頭の上に、ぬいぐるみのタワーができていく。

シュナは、頭の上の重さに気づいて少し動きが止まる。

でも、じっとしている。


頭を動かすと、崩れてしまう。

加奈は、その様子を見て、クスクスと笑った。


「シュナちゃん、動かないで〜」


シュナは、必死に頭を固定している。

マスクから、少し荒い呼吸音が漏れる。


「ハァ…ハァ……」


緊張しているようだ。

加奈はスマホで写真を撮る。


ヘアピンだらけで、ぬいぐるみを4つも頭に乗せたシュナ。

とても可愛い。


そして、少し滑稽。

加奈は、満足してぬいぐるみを一つずつ下ろしていく。

シュナはようやく緊張から解放されて、少し肩の力を抜いた。


加奈は、シュナの隣に座り直す。

そして、ふとシュナの腕を見た。


二の腕。


衣装の上から見ても、柔らかそう。

加奈は、そっと手を伸ばして、シュナの二の腕に触れた。


柔らかい。

プニプニしている。

加奈は、軽く押してみる。

指が、沈み込む。

そして、離すと元に戻る。


「わぁ…」


加奈は、夢中になってシュナの二の腕を触り続ける。

まるで、スライムをこねるように。


プニプニ、プニプニ。


シュナは、少し戸惑ったような仕草を見せるが拒否はしない。

加奈の手が、二の腕から肩へ、そして胸の辺りへと移動する。


衣装の上から触ると、やはり柔らかい。

加奈は、両手でシュナの胸のあたりをそっと触る。


柔らかくて、気持ちいい。

加奈は、しばらくそのまま触り続けた。

シュナのマスクからは少し荒い呼吸音が漏れる。


「ハァ…ハァ……」


恥ずかしいのか、緊張しているのか。

加奈はようやく手を離した。

そして、ふと思いついてシュナに甘えるような声で言った。


「ねぇ、シュナちゃん」


シュナが、加奈を見る。

加奈は、わざと赤ちゃん言葉で甘えてみる。


「なでなでして〜」


シュナは、一瞬固まった。

そして、マスクの中で優奈が混乱している様子が伝わってくる。


どうしたらいいのか、分からない。

そんな様子が加奈は面白くて、クスクスと笑ってしまった。


「うそうそ、冗談だよ」


シュナは、少しホッとしたような仕草を見せる。

でも加奈はまだ続ける。


「でも、膝枕してほしいな」


加奈は、シュナの膝に頭を乗せようとする。

シュナは、慌てたように体を引く。

でも、加奈は構わずシュナの膝に頭を乗せた。


「あ〜、気持ちいい」


シュナは、どうしたらいいのか分からず、ただじっとしている。

手をどこに置いたらいいのか。

加奈の頭を撫でた方がいいのか。

迷っている様子が、動きから伝わってくる。

加奈は、その様子が面白くてまた笑った。


「シュナちゃん、固まってるよ?」


シュナは、ゆっくりと手を動かして、加奈の頭に手を置く。

そして、ぎこちなく撫でる。


全身タイツに包まれた手が、加奈の髪を撫でる。

加奈は、しばらくそのままでいたが、不意に起き上がる。


「ありがとう、シュナちゃん」


シュナは小さく頷く。

加奈はシュナをじっと見つめた。

そして、ふと思い出す。


(そういえば、お姉ちゃんの弱点…)


加奈は、優奈の弱点を完全に把握している。


脇腹と首筋。


そこをくすぐると優奈は悶絶する。

加奈は、いたずらっぽく笑った。


そして、シュナが油断している隙に手を伸ばす。

シュナの脇腹に、指先を這わせる。


コチョコチョコチョ


「!!!」


シュナの体が、ビクッと跳ねた。

マスクから激しい呼吸音とともに微かに声のようなものが漏れる。


「ハァ…!」


優奈の声だ。

シュナは、慌てて加奈の手を押さえようとする。

でも、加奈は逃げない。

さらに、脇腹をくすぐる。


コチョコチョコチョ


「ハァ…ハァ…ん…ハァ…ハァ…」


マスクから、激しい呼吸音が漏れる。

その呼吸音に混ざって、微かに何か声のようなものが聞こえる気がする。


必死に我慢しているのが分かる。

でも、くすぐったくて、声が漏れそうになっている。

シュナの体が、くねくねと動く。

逃げようとするが、加奈は離さない。


「えへへ、シュナちゃん、くすぐったい?」


加奈は、楽しそうに笑いながらさらにくすぐる。

今度は、首筋。

マスクの下、衣装の襟元から手を入れて、首筋をコチョコチョ。


「ハァ…ハァ…ハァ…!」


シュナは、完全に悶絶している。

体をくねらせて、逃げようとする。

でも、加奈は容赦しない。

マスクの中から、荒い呼吸音とともに微かに笑い声のようなものが漏れる。


「ハァ…ん…ハァ…ハァ…」


ほんの少しだけ、我慢しきれない声が、呼吸音に混ざっている。


加奈は、ようやく手を離した。

シュナは、荒い呼吸をしながら、ソファに倒れ込む。


「ハァ…ハァ…ハァ…」


肩が激しく上下している。

加奈は、少し申し訳なく思いながらも楽しかった。


「ごめんね、シュナちゃん」


でも、加奈はもう一つ試したいことがあった。


「ねぇ、シュナちゃん。他にも、くすぐったい場所ってあるのかな?」


加奈は、そう言いながらシュナの体に手を伸ばす。

まず、太ももに触れる。


コチョコチョ。


シュナは、少しビクッとするがそこまでじゃない。

次に、膝の裏。


コチョコチョ。


「ハァ…ん…ハァ…」


少し反応がある。

呼吸音に、微かに声のようなものが混ざった。


加奈は、さらに探っていく。

足首、ふくらはぎ、腰、そしてお腹。

衣装の上から、お腹をコチョコチョとくすぐる。


「ハァ…ハァ…!」


また少し体が跳ねる。

どうやらお腹も弱点らしい。


加奈は、楽しくなってさらにいろんな場所を試していく。

シュナは、マスクの中で、必死に声が出るのを我慢している。

でも、時々呼吸音に混ざって、微かに声が漏れる。


「..ん…ハァ…ハァ…」


ほんの少しだけ、我慢しきれない声が呼吸の合間に混ざっている。

加奈は、その声を聞くたびに思う。


(やっぱりこの中には、お姉ちゃんが入ってるんだ)


マスクを被っているから顔は見えない。

でも、呼吸音の中に、微かに混ざる声が聞こえる。


優奈の声。


くすぐられて、必死に我慢しているけど少しだけ漏れてしまう優奈の声。

それが、とてもリアルに感じられる。

加奈は、ようやく手を止めた。

シュナは、完全に脱力してソファにもたれかかっている。


「ハァ…ハァ…ハァ…」


激しい呼吸音。

加奈は、少し笑いながら、シュナの肩に手を置く。


「ごめんね、シュナちゃん。でも、すっごく楽しかった」


シュナは、疲れ切った様子で小さく頷いた。

加奈は、シュナを見つめながら思う。


(今日は、本当に、たくさん遊んだな)

(シュナちゃんで、たくさん遊んだ)

(でも、このシュナちゃんの中には、お姉ちゃんがいる)

(お姉ちゃんが、私のおもちゃになってくれた)


加奈の胸が、温かくなる。

そして、少しずつ、別の感情も湧いてくる。

加奈は、満足そうに、小さくため息をついた。


「ふぅ… 楽しかった」


◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎


加奈が満足してソファにもたれかかったその時。

今度はシュナが、ゆっくりと体を起こした。


疲れ切っていたはずなのに。

シュナは、加奈の方を向いてじっと見つめている。

マスクのピンク色の瞳が、加奈を捉えている。

加奈は少し不思議に思った。


「シュナちゃん?」


シュナは、何も答えない。

ただ、ゆっくりと、加奈に近づいてくる。

そして、加奈の体にそっと手を置いた。

加奈の肩に、肌色のタイツに包まれた手。

シュナは、そのまま加奈の体に密着してきた。

胸と胸が、触れ合う。

お腹とお腹が、触れ合う。

加奈は、少しドキッとした。


「シュナちゃん…?」


シュナは、加奈を抱きしめるように、腕を回してきた。

甘えているような仕草。


でも、何か違う。

さっきと何か違う。


加奈は、その違和感に気づいた。

シュナの手が加奈の背中をゆっくりと撫でている。


上から下へ、下から上へ、優しくゆっくりと。


でもその動きには何か意図があるような。

やがてシュナの手が加奈の耳の辺りに移動し、耳の裏に指先が触れる。

そっと優しく。


「ん…」


加奈の体がビクッと反応した。

耳の裏、そこは加奈の弱点で、敏感な場所。


(え…?)

(何で…?)


加奈は戸惑った。

シュナがなぜそこを知っているの?

でもすぐに気づく。


(お姉ちゃん…)

(お姉ちゃんは知ってる)

(小さい頃から私の体のこと全部…)


シュナの指先が耳の裏をそっと撫で、加奈の体がまた反応する。


「ん…」


小さく声が漏れる。

シュナはその反応を確認するようにさらに耳の裏を撫でる。

そして今度はシュナの顔が加奈の耳元に近づいてくる。

マスクが加奈の頬に触れ、硬いプラスチックの感触。

やがてマスクの口元の隙間から熱い息が加奈の耳にかかった。


「ハァ…」


熱くて湿った息がそれが直接加奈の耳にかかる。


「ん…!」


加奈の体が、大きく震えた。

耳に息をかけられるのは、加奈にとって、とても敏感な刺激。


シュナは、それを知っている。

マスクの中の優奈は、それを知っている。


そして、わざと、やっている。


加奈の反応を楽しんでいる。

シュナの手が今度は加奈の胸の辺りに移動してきた。

服の上からそっと触れた時、加奈の心臓が激しく鼓動する。


(お姉ちゃん…?)

(何を…?)


でもシュナは止まらない。

手が、ゆっくりと加奈の胸を撫でる。

優しく、ゆっくりと。

それに加奈の体が反応してしまう。


「ん…ハァ…」


思わず、声が漏れる。


次にシュナの手が、今度はウエストの方に移動する。

そっと、触れるだけ。

でも、その触れ方が絶妙。


加奈の敏感な場所を、ピンポイントで触っている。


(お姉ちゃん…!)

(そうだ、私の弱い所、全部知ってるんだ…!)


加奈は気づいた。

これは仕返しだ。


さっきシュナをくすぐって、おもちゃにして遊んだ。

だから、今度はシュナが加奈をおもちゃにしようとしている。

でもシュナの攻め方は、くすぐるのとは違う。


もっと直接的で。

もっと危険で。


シュナの手が、加奈の体のいろんな場所を触っていく。


耳の裏、首筋、鎖骨、胸、ウエスト。


全てが加奈の敏感な場所。

全てが加奈の弱点。

加奈の体が、どんどん反応していく。


「ん…ハァ…ん…」


声が漏れる。

抑えようとしても、抑えきれない。


シュナの攻めは、段々とエスカレートしていく。

手の動きが少しずつ、大胆になっていく。

触れる時間が、長くなっていく。

圧力が、強くなっていく。

加奈は、必死に理性を保とうとする。


(だめ…)

(これ以上は…)


でも、体が反応してしまう。

不思議な感覚が、襲ってくる。

フワフワと、浮いているような。


自分が、シュナに取り込まれていくような。

そんな感覚。

シュナの手が、また胸に触れる。

今度は、さっきよりも、少し強く。


「ん…ぁ…」


艶めいた声が、出てしまった。

加奈は、ハッとした。


(今の声…!)

(私、今…!)


女としてこんな声を出すなんて。

しかも相手は、お姉ちゃん。


悔しい。

恥ずかしい。


でも、気持ちいい。

その矛盾が、加奈を混乱させる。


(だめ…!)

(お姉ちゃんに、こんな…!)

(気持ちよくされるなんて…!)


加奈は、咄嗟に自分の口を片手で塞いだ。

声が、漏れないように。

これ以上恥ずかしい声を出さないように。


でもシュナはその様子を見て、さらに攻めてくる。

手が、ウエストから腰へと移動する。

そして、背中。

敏感な場所を確実に触っていく。


「んん…!」


また声が出そうになる。

でも、口を塞いでいるからかろうじて抑えられる。


ただ、鼻からは荒い呼吸音が漏れる。

シュナは、加奈の耳元でまた息を吹きかける。


「フゥゥ…」


熱い息。

湿った息。

それが、加奈の耳を撫でる。


「んん…!!」


声が出そうになる。

もう片手では追いつかない。

加奈は、両手で口を塞いだ。

必死に、声を抑える。


でも両手で口を塞いだことで首から下が、完全に無防備になった。

シュナは、その隙を見逃さなかった。

手が、加奈の胸に、直接触れる。

服の上から、でも、確実に。


「んん…!!」


加奈の体が、大きく震える。

声は、両手で抑えているから出ない。

でも、体は正直に反応してしまう。


シュナの手が、胸をゆっくりと撫でる。

優しく、でも、確実に。


加奈の敏感な場所を知り尽くしている手。

そして、また耳に息を吹きかける。


「フゥゥ…」


(お姉ちゃん…!)

(やめて…!)


加奈は心の中で叫ぶ。

でも、口は両手で塞がれている。

声は出せない。

ただ、鼻から荒い呼吸音が漏れるだけ。


「ん…ん…ん…」


シュナの攻めは、止まらない。

むしろ、加奈の反応を見て、楽しんでいるように見える。


加奈は、シュナの顔を見た。

マスクの表情は、変わらない。

優しく微笑んでいる、いつものシュナの顔。


でも。


加奈には、何故か。

その表情が、不敵な笑みに見えてしまう。

小悪魔のような。

自分の反応を楽しんでいる。

そんな表情に。

そして、加奈は、思い出した。


(そうだ…)

(小さい頃…)


子供の頃。

お姉ちゃんと、よくゲームをした。

トランプ、すごろく、テレビゲーム。

そして、負けた方は、罰ゲーム。

お姉ちゃんは、罰ゲームで、いつも加奈をこうやって攻めてきた。

耳を触ったり、くすぐったり。

加奈が、声を出して、恥ずかしがるのを見て、楽しんでいた。

あの時は、まだ、お互い小さかった。

子供だった。

だから、ただの遊びだった。


でも今は、違う。

お互い成熟した大人の女性。


同じことをしてても意味合いが全く違ってくる。


そんなことはお姉ちゃんもわかってるはずなのに、シュナは手を緩めてくれない。

むしろ、さらに攻めてくる。


胸を撫で、ウエストを触り、背中を撫でる。

そして、耳に、何度も息を吹きかける。


「フゥゥ……ハァ…」


加奈の体は、もう限界に近かった。

両手で口を塞いでいても、声が漏れそう。

体が、震えている。

シュナに完全に支配されている。

そんな感覚。


(お姉ちゃん…!)

(お姉ちゃん…!)


加奈の目に、涙が浮かんできた。

悔しさと、恥ずかしさと。


そして、何か別の感情。

それが混ざり合って、涙になる。


シュナは、その涙を見てようやく手を止めた。

そして、加奈を優しく抱きしめた。

もう、攻めない。

ただ抱きしめるだけ。

加奈はようやく、口から手を離した。


「ハァ…ハァ…ハァ…」


荒い呼吸。

体が、まだ震えている。

シュナの腕の中で、加奈はしばらく呼吸を整えていた。

そして、小さく呟く。


「お姉ちゃん… ひどい…」


シュナは、何も答えない。

ただ加奈を優しく抱きしめているだけ。

でもマスクから、小さく声が漏れる。


「うぅ……ハァ……ごめん……ハァ……」


くぐもった声。

でも、確かに聞こえた。


ごめん。


お姉ちゃんが謝ってる。

加奈は少し笑った。


「もう… お姉ちゃんのばか…」


そして加奈も、シュナを抱きしめ返した。

2人は、そのまま、抱き合ったまま。

しばらく、動かなかった。


◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎


(今度は、私がお返しする番だね)


加奈は、そっと、シュナの体を抱き寄せた。

シュナが、びっくりしたように、体を強張らせる。


でも、拒否しない。


その瞬間、加奈の手のひらに伝わってくる熱。

シュナの背中は、衣装越しでも分かるほど、熱かった。

まるで、熱を持った何かを抱いているような。


(こんなに、熱いんだ…)


加奈は、さらに、大胆に。

シュナの背中に、両手を回す。

ぎゅっと、抱きしめる。

シュナの体温が、ダイレクトに伝わってくる。


熱い。

とても、熱い。


加奈の腕に、じんわりと熱が伝わってくる。

そして、マスクから、激しい呼吸音。


「ハァ…ハァ……スゥ…ハァ……」


その呼吸音が、加奈の耳に、直接響いてくる。

シュナのマスクは、加奈の肩のすぐ近く。

だから、その呼吸音が、生々しく、はっきりと聞こえる。

マスクの中で、優奈がどれだけ苦しんでいるか。

どれだけ必死に呼吸しているか。

それが、音となって、加奈の耳に届く。


シュナは、少しの間、固まっていた。

加奈に抱きしめられて、動けないでいる。


でも、やがて。

シュナの腕が、ゆっくりと動いた。

加奈の背中に手が回る。


そして、シュナも加奈の体を抱き返してきた。

両腕で、ぎゅっと。


その瞬間、加奈は気づいた。

シュナの腕の力が、午前中よりも弱くなっている。

疲労で、力が入らないのだろう。


それでも必死に、加奈を抱きしめようとしている。

そして、シュナはさらに大胆に。


加奈の首に、顔を埋めてきた。

マスクが加奈の首筋に触れる。

硬いプラスチックの感触。


冷たいと思っていたプラスチックが、熱を持っている。

マスク自体が、熱くなっている。


中の優奈の体温で、マスクが温められているのだ。

そして、その隙間から熱い吐息が漏れてくる。


「ハァ…ハァ……」


加奈の首筋に、直接、熱い息がかかる。

その息は、湿っていて、熱くて。

マスクの中がどれだけ蒸されているか、容易に想像できた。

加奈の心臓が、激しく鼓動する。


ドクン、ドクン、ドクン。


自分の心臓の音が、耳に響く。

シュナは、加奈の首筋に顔を埋めたまま、動かない。

ただ、荒い呼吸を続けている。


「ハァ…ハァ……スゥ…ハァ……ハァ…」


その呼吸のたびに、加奈の首筋に、熱い息がかかる。

湿った、熱い息。

加奈の肌が、その熱で、じんわりと温まっていく。


2人は、ソファの上で、抱き合ったまま。

時間が、止まったように感じられた。

加奈は、そっと、シュナの背中を撫でた。

手のひらに伝わるシュナの体温。


衣装越しでも、その熱さは明らかだった。

そして、背中の動き。


呼吸のたびに、大きく上下する背中。

肩甲骨が、動くのが分かる。

それだけ呼吸が荒いのだ。


加奈は、ゆっくりとシュナの髪に触れた。

ピンク色の長い髪。

柔らかくて、ふわふわしている。


でも、その髪の下には硬いマスク。

約2キロの重さが、優奈の頭にかかっている。

それを何時間も。


加奈の手が、シュナの頭を優しく撫でる。

その瞬間。


シュナの体が、ビクッと反応した。

そして、加奈を抱きしめる腕に、少しだけ力が入る。

もっと、という意思表示。

加奈は、シュナをさらに強く抱きしめた。

シュナも、加奈をさらに強く抱きしめる。


2人の体が、完全に密着する。

胸と胸が、触れ合う。

お腹とお腹が、触れ合う。

太ももが、重なり合う。


シュナの熱が、加奈の体全体に伝わってくる。

加奈は、だんだんと、楽しくなっていた。


いや、楽しいだけじゃない。


目の前の存在が、たまらなく愛おしくなっている。

このシュナの中に、お姉ちゃんが入っている。

そのことが、不思議で、でも、たまらなく愛おしい。

シュナのマスクからは、もう隠すつもりがないというくらいの、激しい、苦しい呼吸音が漏れ続ける。


「ハァ…ハァ……ハァ…ハァ……スゥ…ハァ……ハァ…ハァ……」


その呼吸音は、もう、規則正しくない。

荒く、不規則で、苦しそう。


でも、それでも、シュナは加奈を離さない。

むしろ、さらに強く抱きしめてくる。

加奈の耳元で、シュナの呼吸音が響く。


そして。

その呼吸音に混ざって何か、別の音が聞こえてきた。

最初、加奈は気づかなかった。


でも耳を澄ますとはっきりと聞こえる。


声だ。

優奈の声。


マスクの中から、漏れてくる、優奈の声。


「ん……ハァ……」


小さく、か細い声。

でも、確かに優奈の声。

呼吸音に混ざって、時折、漏れてくる。


「ハァ…ハァ……ん…ハァ……」


それは、苦しそうな声でもあり。

でも、どこか、甘えるような声でもあった。


「ん……ハァ……ハァ…ぅ……」


加奈の心臓が、さらに激しく鼓動する。


お姉ちゃん。


今、マスクの中でどんな顔してるんだろう。

苦しそうな顔?

それとも、何かを我慢してるような顔?


加奈には、見えない。

でも、声は聞こえる。

マスクの隙間から漏れてくる優奈の声。


「ハァ…ハァ……ん……ハァ……」


その声は、だんだんと頻繁になってきた。

呼吸のたびに、小さく声が漏れる。


「ん…ハァ……ん……ハァ…ハァ……」


加奈は、思った。


(今、お姉ちゃんは、シュナになって、また自分を解放してきている)

(でも、私たちは、姉妹)

(これ以上は、もう取り返しがつかないかもしれない)


加奈は、理性を保とうとする。

頭の中で、必死に、冷静になろうとする。


でも。


体が思考とは裏腹に反応してしまう。

目の前のシュナ。

その中に入っている優奈。


たまらなく、愛おしい。

加奈の手が、シュナの背中をゆっくりと撫でる。


上から、下へ。


背骨のラインを辿るように。

シュナの体がビクッと震える。

そして、マスクからまた声が漏れる。


「ふ……ハァ……」


加奈は、その反応に少しドキッとした。

もう一度、背中を撫でる。

ゆっくりと、優しく。

シュナの体がまた震える。


「う…ハァ……ハァ……」


シュナの呼吸が、さらに荒くなる。


「ハァ…ハァ…ハァ……あ……ハァ…ハァ……」


加奈の耳に、その音が、生々しく響く。


呼吸音、声。

全てが、混ざり合って加奈の頭の中を、満たしていく。


シュナは、加奈の首筋に顔を埋めたまま。

その状態で、必死に呼吸している。

加奈の首筋に熱い息がかかり続ける。


「ハァ…ハァ……」


湿った、熱い息。

その息が、加奈の首筋を撫でるように、流れていく。

加奈の肌が、その熱で、じんわりと汗ばんでくる。


シュナの体温。

シュナの呼吸。

シュナの声。


全てが加奈を包み込んでいく。

加奈もシュナをさらに強く抱きしめた。


もう理性なんてどこかに行ってしまいそう。


ただ、この瞬間を。

このぬくもりを。

このシュナを離したくない。


シュナも加奈をさらに強く抱きしめる。

2人の体が、完全に一体化したように密着している。


どこまでが加奈で、どこからがシュナなのか。

もう、分からなくなりそうだった。


時間が、どれくらい経ったのか分からない。

ただ、2人は、抱き合ったまま。

シュナのマスクからは、相変わらず、激しい呼吸音と時折漏れる声。


「ハァ…ハァ……ぅ…ハァ……ふ……ハァ…ハァ……」


その音だけが、リビングに響いていた。

加奈の手が、シュナの髪を、優しく撫でる。


ピンク色の長い髪。

その髪越しに、マスクの重さを感じる。

そして、シュナの頭が少しだけ動いた。


加奈の首筋から、顔を離す。

でも、完全には離れない。

加奈の頬に、シュナのマスクが触れる位置。


そこで、止まる。

加奈は、目を開けた。

目の前に、シュナの顔。


切長の綺麗なピンク色の瞳。

優しく微笑んでいる口元。

その表情は、変わらない。


でも、その奥。


マスクの瞳の上にある小さなスリット。

そこから今、優奈が加奈を見ている。


加奈も、そのスリットを見つめた。

2人の視線が、交わる。

マスク越しに確かに交わった。


そしてシュナの手がゆっくりと動いた。


加奈の頬に、手を添える。


肌色のタイツに包まれた手。

でも、その手は優しかった。

加奈の頬をそっと撫でる。

加奈の心臓が、また激しく鼓動する。


シュナは、加奈の頬を撫でながらじっと加奈を見つめている。

マスクから荒い呼吸音。


「ハァ…ハァ……スゥ…ハァ……」


でも、その呼吸音の中にまた声が混ざる。


「ふぅ……ハァ……」


小さく、か細い声。

優奈の声。


シュナは加奈の頬を撫でながら、じっと加奈を見つめている。


マスク越しに、スリットの奥から。

優奈も加奈を見つめている。


そして。

シュナの口からくぐもった声が漏れた。


「あ……ハァ……加奈……ハァ……」


加奈の名前。


マスクの中からくぐもった声で、加奈の名前を呼んでいる。

その瞬間、加奈の心臓が大きく跳ねた。


胸が熱くなる。

目に涙が浮かんできた。


(お姉ちゃん…)

(お姉ちゃんが、私を呼んでる…)


涙が頬を伝って落ちる。

加奈は涙を拭おうともせず、ただシュナを見つめていた。


シュナは、加奈の涙に気づいたのか、手を加奈の頬から髪へと移動させる。

そして優しく髪を撫でる。

まるで、子供をあやすように。


優しく、優しく。


全身タイツに包まれた手が、加奈の髪を優しく撫でる。

加奈は、その優しさに涙が止まらなくなった。


「お姉ちゃん…」


加奈が小さく呟く。

シュナは、それに応えるようにさらに優しく髪を撫でる。

そして、また声が漏れる。


「ふぅ……ハァ……大好き……ハァ……加奈……」


マスクの中からくぐもった声。

でもはっきりと聞こえた。


大好き。


お姉ちゃんが、私に大好きって。

加奈の涙が、さらに溢れる。


シュナは加奈をさらに強く抱きしめた。

もう離したくない。

そう言っているように。


加奈もシュナを強く抱きしめる。

2人はそのまま、抱き合ったまま時間が止まったように感じられた。

マスクから、シュナの呼吸音が聞こえる。


「ハァ…ハァ……スゥ…ハァ……」


荒い呼吸。


でも、シュナは加奈を離さない。

加奈の首筋に顔を埋めたまま、必死に呼吸している。

熱い息が、加奈の首筋にかかる。


「ハァ…ハァ……」


その呼吸音の中に、また声が混ざる。


「あぁ……ずっと……ハァ……こうしたかった……ハァ……」


くぐもった声。

でも、確かに聞こえた。


ずっとこうしたかった


加奈の胸が、さらに熱くなる。


(お姉ちゃん…)

(ずっと、私を、こうして抱きしめたかったの?)

(でも、姉妹だから、できなかったの?)


加奈は、シュナの背中を優しく撫でた。

シュナの体が、少し震える。

そして、また声が漏れる。


「うぅ……ハァ……加奈……ハァ……愛してる……ハァ……」


愛してる。

その言葉に、加奈の涙がさらに溢れる。

加奈は、シュナの背中に顔を埋めた。


「私も… 私も、お姉ちゃんのこと、大好き…」


加奈の声が、震える。

シュナは、その声を聞いて、さらに強く加奈を抱きしめた。

2人の体が、完全に一体化したように、密着している。


心臓の鼓動が、互いに伝わってくる。


ドクン、ドクン、ドクン。


シュナの心臓。

加奈の心臓。


2つの心臓が、同じリズムで鼓動している。

マスクから、シュナの呼吸音が響く。


「ハァ…ハァ…ハァ……」


でも、その呼吸音が、少しずつ、荒くなっていく。


「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ……」


肩が、大きく上下し始める。

シュナの体温が、さらに上がっている。

加奈に密着しているシュナの体が、どんどん熱くなっていく。


マスクの中は、もう限界に近いはずだ。

自分の息で蒸され、汗でびしょびしょで。

でも、シュナは加奈を離さない。


このまま、ずっと、抱きしめていたい。

そう思っているように。

加奈も、シュナを離したくない。

でも、お姉ちゃんの体が心配だった。


「お姉ちゃん、大丈夫…?」


加奈が、優しく声をかける。

シュナは、小さく頷く。

でも、呼吸音はさらに荒くなっている。


「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ……スゥ…ハァ……」


不規則で、苦しそう。

そして。

マスクの中から、また声が漏れる。


「ぅ……ハァ……もう少し……ハァ……このまま……ハァ……」


優奈の声。

加奈を、まだ離したくない。

その想いが、声に込められている。

加奈は、涙を流しながらシュナをさらに強く抱きしめた。


「うん… もう少し、このまま…」


2人はそのまま、抱き合い続ける。


1分、2分、3分。


時間が、どれくらい経ったのか分からない。

ただ2人は抱き合ったまま。

シュナのマスクからは、相変わらず激しい呼吸音と、時折漏れる声。


「ハァ…ハァ……あ…ハァ……加奈……ハァ……」


加奈の名前を、何度も何度も呼ぶ。

まるで、確認するように。


今、ここに、加奈がいる。

自分が、加奈を抱きしめている。

それを確かめるように。

加奈もシュナの背中を優しく撫で続ける。


「ここにいるよ、お姉ちゃん」


加奈が、優しく囁く。

シュナの体が、少し震える。

そして、また声が漏れる。


「ふぅ……ハァ……幸せ……ハァ……」


幸せ。


その言葉に、加奈の胸が温かくなる。

お姉ちゃんが、幸せだって。

私を抱きしめて、幸せだって。


加奈も、幸せだった。

こうして、お姉ちゃんを抱きしめていることが。

お姉ちゃんの温もりを感じることが。

お姉ちゃんの声を聞くことが。

全てが、幸せだった。


でも。


その幸せな時間は。

永遠には、続かなかった。

シュナの呼吸音が、さらに荒くなる。


「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…ハァ……」


もう、規則正しくない。

荒く、不規則で、苦しそう。

肩が、激しく上下している。

体が、震えている。

加奈は、心配になった。


「お姉ちゃん、もう、マスク外した方が…」


でも、シュナは、首を横に振った。


まだ、大丈夫。

まだ、このまま。


そう言っているように。

でもシュナの体は、もう限界に近かった。

抱きしめる腕の力が、少しずつ、弱くなっている。

体が、ふらついている。


そして。

突然シュナの腕の力が、完全に弱まった。


加奈から、離れる。

シュナは、加奈に背中を向けるようにして、両手でマスクを支えながら、体を丸めた。

そして、激しい呼吸音。


「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ……スゥ…ハァ……ハァ…ハァ……」


もう呼吸を整えるので精一杯。

肩が激しく上下している。

背中が呼吸のたびに大きく動く。


加奈は、シュナの様子に中に入っているお姉ちゃんのことが心配になった。

ゆっくりと、背中に手を伸ばす。

そして、優しく、さすってあげる。


「お姉ちゃん、大丈夫…?」


加奈の声が、震える。

シュナは返事ができない。

ただ、必死に呼吸している。


「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ……」


マスクの中は、もう地獄だろう。

熱くて、息苦しくて。


でも、優奈は限界まで加奈を抱きしめていた。

ずっと、こうしたかったから。

加奈と、こうして抱き合いたかったから。

姉妹だからできなかったことを、シュナになることでできた。


その幸せを、限界まで味わっていたかった。

加奈は、シュナの背中を優しくさすり続ける。

そして、小さく囁いた。


「ありがとう、お姉ちゃん」

「私も、幸せだったよ」


シュナの背中が少しだけ震えた。

そして、荒い呼吸の中小さく声が漏れる。


「あ……ハァ……ありがとう……ハァ……加奈……ハァ……」


加奈は涙を流しながらシュナの背中をさすり続けた。


「もう、無理しなくていいよ」

「ありがとう」


加奈が、優しく告げる。

その言葉に、シュナの体が、少しだけ震えた。


そして。


シュナの呼吸が、少しだけ和らいだかと思うとゆっくりと、体を動かし始めた。

加奈の背中から、離れる。


そのまま、体ごと加奈に向き直る。

2人は、向かい合う形になった。


目の前に、シュナの顔。

優しく微笑んでいる、いつもの表情。

でも、マスクの小さなスリットの奥。

そこから、優奈が加奈を見つめている。


加奈も、そのスリットを見つめ返す。


「お姉ちゃん」


マスクの中の、お姉ちゃん。

シュナの呼吸音が、静かに響く。


「ハァ…ハァ……スゥ…ハァ……」


まだ、荒い。

でも、さっきよりは、落ち着いている。


そしてシュナの両手が、ゆっくりと動いた。

加奈の肩に、手を置く。


そして、ゆっくりと首の方へと移動していく。

肌色のタイツに包まれた手が、加奈の首筋に触れる。


柔らかく、優しい触れ方に加奈の心臓が、再び激しく鼓動する。


ドクン、ドクン、ドクン。


シュナの手が、加奈の首を、そっと包み込んだ。

両手で優しく、でも、しっかりと。

加奈は、じっと、シュナを見つめている。


何も、言えない。

何も、できない。


ただ、シュナを見つめているだけ。

シュナも、加奈を見つめている。


マスク越しに。

スリットの奥から。

2人の視線が、交わる。


時間が、止まったように感じられた。


そしてシュナの顔が、ゆっくりと近づいてくる。

加奈の方へ少しずつ、少しずつ。


加奈の心臓が、さらに激しく鼓動する。

もう、頭の中が真っ白。

何も、考えられない。


ただシュナの顔が近づいてくる。


10センチ。

5センチ。

3センチ。


シュナのマスクの口元がもうすぐ目の前。

加奈の呼吸が、止まる。


そして次の瞬間。


加奈の唇に、何かが触れた。

硬くて冷たいプラスチックの感触。


シュナのマスクの口元が、加奈の唇、触れている。

加奈の頭の中が、完全に真っ白になった。


目の前には、シュナの綺麗なピンクの瞳が、数センチの距離にある。

その上に見える、小さなスリット。

この中から今、お姉ちゃんは私を見ている。

マスクの口元の隙間から、熱い吐息が微かに漏れてくる。


「ハァ……」


その息が、加奈の唇に直接かかる。

熱くて、湿っているお姉ちゃんの息。


加奈の唇に続く硬いプラスチックの感触。


でも、その奥。

マスクの内側。

そこに、優奈の唇がある。


今、このマスクを挟んで2人の唇が、重なっている。


直接ではない。

でも、確かに、重なっている。


加奈は、目を閉じた。

もう、何も見えなくていい。

ただ、この感覚だけを。

この瞬間だけを感じていたい。


プラスチックの硬さ。

その奥から伝わってくる、優奈の温もり。

唇にかかる、熱い吐息。

全てが、加奈を包み込んでいく。


時間が、完全に止まった。

リビングには、静寂。

ただ、シュナの呼吸音だけが小さく響いている。


「ハァ……ハァ……」


その音が加奈の耳に優しく響く。

どれくらいそうしていたのか、1秒か5秒か10秒か。

時間の感覚が分からない。

ただ永遠のように感じられた。


やがてシュナの顔がゆっくりと離れていき、加奈の唇からマスクの感触が消える。

加奈はゆっくりと目を開けた。


目の前にはシュナの顔、いつもの優しく微笑んでいる表情。

でもマスクの小さなスリット、そこから見える優奈の目が濡れているように見えた。


泣いている。


お姉ちゃんが泣いている。

加奈の目にも涙が溢れてくる。

そしてシュナは加奈を強く抱きしめた。

もう離したくない、そう言っているように。

加奈の耳元にシュナのマスクが触れ、そこから激しい呼吸音が聞こえる。


「ハァ…ハァ……ハァ…」


でもさっきまでとは何かが違う。

呼吸音に混ざって別の音が聞こえる。

鼻を啜るような微かな音。


泣いている。


マスクの中で優奈が泣いている。

とても苦しそうに、でも必死に声を出さないように。

ただ鼻を啜って、涙を堪えて。


「うぅ……ハァ……ハァ……ぁ……」


小さくか細い声が呼吸音に混ざって漏れる優奈の声。

泣いている優奈の声。


加奈は何も言えなかった。

何も言えない。


ただシュナを抱きしめ返すことしかできなかった。

シュナの加奈を抱きしめる力はどんどん強くなっていく。

もう限界まで、腕に力を込めて加奈を自分の中に取り込もうとするように。

加奈もシュナを強く抱きしめる。

2人はそのまま抱き合ったまま動かない。

ただ抱き合っているだけ。

シュナのマスクからは相変わらず激しい呼吸音と泣いている音。


「ハァ…ハァ……ぅ……ハァ……」


その音だけがリビングに響いていた。

加奈は呆然とシュナを受け入れながら考えた。


(お姉ちゃん…)

(お姉ちゃんは今…)

(私にキスを…)


マスク越しだった。

直接じゃなかった。


でもそれでも、お姉ちゃんは私にキスをした。


姉妹なのに。

姉妹なのにキスを。

加奈の胸がきゅっと締め付けられる。


(お姉ちゃん…)


加奈は、そっと目を閉じた。

そして、もう一度思い出す。


さっきの感触。


唇に触れた、硬いプラスチック。

その奥から伝わってきた、優奈の温もり。

熱い吐息。


全てが、鮮明に、蘇ってくる。


加奈の涙が、また溢れてくる。

でも、今度は悲しいからじゃない。


嬉しいから。


お姉ちゃんが、私をこんなに想ってくれている。

その気持ちが、嬉しくて涙が、止まらない。


加奈は、シュナの背中を優しく撫でた。

シュナの体が少しだけ震える。

そして、また声が漏れる。


「ぅ……ハァ……加奈……ハァ……」


加奈の名前。

泣きながら、加奈の名前を呼んでいる。

加奈はもう何も言えなかった。

ただシュナを抱きしめることしかできなかった。


(そっか、お姉ちゃん)


加奈は、何も出来ず、呆然と、シュナを受け入れながら、ある事を考えた。


◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎


(そっか、お姉ちゃん)

(この人格を作ったのは、私だったんだ)


加奈の胸が、きゅっと締め付けられる。

お姉ちゃんのこと、大好き。

昔から、子供の頃から、本当に仲良く、一緒に遊んでた。

でも、中学に上がり、高校生になると、友達も増えて。

私は、お姉ちゃんよりも、友達と遊ぶことを選んできた。

普通のことだと、思っていた。


お姉ちゃんは、いつも、私を構ってくれて。

お母さんやお父さんがいない時も、自分のことなんてほったらかして、私の面倒を見てくれた。


お姉ちゃんが、アニメにハマっていくのを見た時、正直、気持ち悪いと思った。

良い年して、グッズを買い漁るお姉ちゃんを、軽蔑したこともある。

それでも、お姉ちゃんは、私にだけは、いつも楽しそうに、優しく、昔と変わらず接してくれていたのに、私は、ほとんど相手にしなかった。


家にだって、タダで居候させてくれてるのに、一回も文句も言わずに、ずっと面倒を見てくれて。


人を避けて、暗いお姉ちゃんを作り出したのは、私だったんだ。

ごめんね、お姉ちゃん。


本当は、ずっと、こうして仲良く遊びたかったんだよね。

年齢なんて、関係なかったよね。

加奈の目には、涙が浮かんできた。

ゆっくりと、優しく、シュナを抱きしめ返す。


「ごめんね、お姉ちゃん」


小さ、呟く。

シュナは、さらに強く加奈を抱きしめた。


◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎


しばらくして。

加奈は、ゆっくりと、シュナを誘導した。


ソファから立ち上がる。

シュナの手を取り、優奈の部屋に連れていく。


廊下を、ゆっくりと歩く。

シュナは、加奈の手を握ったまま、慎重に足を進めながら優奈の部屋を目指す。


中に入ると後ろからシュナも、続いて入る。

加奈は、ドアを閉めてシュナを見つめた。


「ねぇ、シュナちゃん。 私、そろそろお姉ちゃんと話がしたいんだけど」


加奈がそう言うと、シュナは加奈の目の前で嫌だという感じの身振りをした。


首を横に振る。


そして、もっと構ってほしいと言わんばかりに密着してくる。

加奈の体にぴったりと。

シュナのマスクが加奈の肩に触れる。


「シュナちゃん…」


加奈は、少し考えた。

そして決めた。


「もうどうなっても、知らないからね」


加奈は、そう言うと、自分からシュナを脱ぐまでは、自分のおもちゃとして扱おうと思った。


シュナはゆっくりと加奈をベッドに誘導する。

2人は並んで優奈のベッドに座った。


そして加奈はベッドに横になった。

シュナもその隣に横になる。


2人は並んでベッドの上に。

加奈はそっとシュナの方を向いた。

シュナも加奈の方を向く。


2人は向かい合う形でベッドに横になっている。

加奈はシュナに少し近づいた。

そしてシュナの腕を取る。


「ねぇ、腕枕してよ」


加奈が、甘えるように言う。

シュナは、少し戸惑うような仕草を見せたが、やがて腕を伸ばした。

加奈は、その腕を枕にして、横になる。


シュナの腕の上に、頭を置く。

柔らかくて、温かい。

全身タイツ越しでも、その温もりは伝わってくる。


加奈は、シュナの顔を見上げた。

すぐ近くにシュナの顔。

優しく微笑んでいる変わらない表情。


でも、その奥。

マスクの小さなスリット。

そこから、優奈が加奈を見下ろしているはず。


加奈は、シュナを見つめながら、小さく微笑んだ。


「ねぇ、お姉ちゃん」


加奈が、優しく呼びかける。

シュナは、何も答えない。

ただ、じっと加奈を見つめている。

加奈は続ける。


「覚えてる? 2人でゲームとかして遊んだ後、負けた方がさっきみたいに身体中を触って攻め立てて戯れ合ってたこと」


その言葉に、シュナの体が少しだけ震えた。

そして小さく頷く。


覚えてる。

その仕草がそう言っている。

加奈は少しいたずらっぽく笑った。


「じゃあさ、今から、私とじゃんけんしない?」


シュナが、少し首を傾げる。


「負けた方が、攻め立てられる。昔みたいに」


加奈は、そう言って、シュナの反応を待った。

シュナは、少し固まった。


動かない。

何も、反応しない。


そして、やがて。

シュナは、そのまま加奈を抱きしめる形を取った。

腕枕をしている腕に、少し力を込める。

もう片方の手で、加奈の体を引き寄せて、加奈の体がシュナの体に密着する。

シュナのマスクから、呼吸音が漏れる。


「ハァ…ハァ……」


少し荒い。

加奈は、シュナに抱きしめられながらもう一度言った。


「ほら、ちゃんと勝負しようよ、ね?」


シュナは、加奈に抱きついたまま少しだけ震えた。

そして、小さく頷く。

加奈は、心の中で少しだけ笑った。


(私、じゃんけんでは、ほとんどお姉ちゃんに負けたことない)

(だから、今度は私がお姉ちゃんを、目一杯攻め立てて)

(耐えきれずに、目の前で、マスクを外す姿が見たい)


加奈の胸が、高鳴る。

シュナはゆっくりと加奈から離れて起き上がる。

加奈も、起き上がった。


2人はベッドの上で、向かい合って座る。

シュナが、手を出す。

加奈も、手を出した。


「じゃあ、いくよ」


加奈が、言う。


「じゃん、けん…」


2人の手が、動く。

そして。


「ぽん!」


加奈は、グー。

シュナは、パー。


次の瞬間、加奈の目が見開かれた。


「え…」


負けた、信じられない。

じゃんけんで、お姉ちゃんに負けることなんて、ほとんどなかったのに。

シュナはじっと加奈を見つめている。

加奈は少し焦った。


「も、もう一回!」


加奈が言う。

シュナはしょうがないなという仕草をして、小さく頷く。

2人はもう一度手を出した。


「じゃん、けん、ぽん!」


加奈は、パー。

シュナは、グー。


今度は加奈が勝った。

加奈は、ホッとした。


でも次の瞬間、シュナが加奈の手を指さして首を横に振った。

そして、ジェスチャーで、何かを主張している。


ズル。

後出し。


加奈は、慌てた。


「え、違うよ! ズルなんてしてない!」


加奈が否定する。

でもシュナは首を横に振り続ける。


ズルした!


そう主張している。

加奈は少し焦った。


(確かに、ほんの少しだけ、シュナちゃんの手を見てから出したかも…)

(でも、視界が悪いシュナちゃんならバレないと思ったのに…)


シュナは加奈をじっと見つめている。

その視線がなぜか鋭い。

加奈は観念した。


「わかった、わかったよ。じゃあ、最後の勝負」


加奈が言うと、シュナは小さく頷いた。

2人は、もう一度、手を出す。

加奈は、今度こそちゃんと勝とうと思った。

お姉ちゃんは、最初にチョキを出す癖がある。

だから、グーを出せば…。


「じゃん、けん、ぽん!」


加奈は、グー。

シュナは、パー。


また負けた。

加奈は、呆然とした。


「え…嘘…」


信じられない、という感じでシュナを見つめる。

シュナはじっと加奈を見つめている。


そして次の瞬間、シュナが加奈に襲いかかってきた。

加奈の体をベッドに押し倒す。

加奈は背中からベッドに倒れ込んだ。

そしてシュナが加奈の上に覆いかぶさる。


「ちょっ…シュナちゃん…!」


加奈は慌てているがシュナは聞いていない。

手が、加奈の体に触れる。


耳の裏。

首筋。

鎖骨。

ウエスト。


全てが加奈の敏感な場所。

さっきソファでやられた場所。


「んっ…!」


加奈の体が反応してしまう。

また声が出そうになる。


加奈は慌てて自分の口を片手で塞いだ。

そしてソファでの出来事を、思い出す。


やばい...


このままじゃ、また、声が出てしまう。


でも、シュナの攻めは止まらない。

むしろ、さっきよりも、激しい。


さっきはまだ手加減していた。

でも今度は違う。


加奈の弱いところを知り尽くしている的確な攻め。

的確に、ピンポイントに感じる部分を攻めてくる。

耳に息を吹きかけながら。


「フゥゥ…」


熱い息。

加奈の体が、ビクッと跳ねる。


「んん…!」


声が、出そうになるのを必死に抑える。


その時、加奈の頭の中にいろんな想いが溢れ出てきた。


(お姉ちゃん…)


普段のお姉ちゃん。

地味で、おとなしくて、誰とも関わろうとしない。


服装は地味。

メイクも最低限。

休日はずっと家にこもってアニメ鑑賞か、グッズ鑑賞。

典型的な、ヲタク気質。


学校でも職場でもきっと目立たない存在。

誰も気にも留めない。

そんな、お姉ちゃん。


でも


加奈は知っている。

本当はお姉ちゃんは、私なんかよりもずっと美人。


スタイルも良いし、顔立ちは整っている。

肌は綺麗で髪はツヤがあって。


何もしなくても素の状態で綺麗な女性。

それが、お姉ちゃん。


加奈はそれが悔しかった。

だからメイクを頑張った。

おしゃれな服で自分を着飾った。

自分を、磨いた。


頑張って、頑張ってやっと「可愛い」って言ってもらえる。

そんな自分。


でも、お姉ちゃんは何もしなくても、素の状態で綺麗。


その辺の男たちも、お姉ちゃんをちゃんと見ればその魅力に気づくはず。

でも、お姉ちゃんは自分から隠している。


地味な服、最低限のメイク。

誰とも関わらない態度。

全部自分で自分の魅力を隠している。


もったいない。

そう思う反面、少し安心している自分もいる。


お姉ちゃんが、その魅力を表に出さないから、私が目立てる。

私が可愛いって言ってもらえる。


そんな、ずるい気持ち。


(悔しい…負けたくない…)


でも、今。

そんな、美人なお姉ちゃんがその姿を消して。

こんなに可愛い着ぐるみの中に入って、私の性感帯を的確に攻めて気持ちよくしてきている。


シュナの手が、加奈の胸に触れる。

服の上から。

でも、確実に。


「んんっ…!!」


加奈の体が、大きく震える。

もう片手で抑えるだけでは足りない。


両手で、口を塞ぐ。


でもシュナはその隙を見逃さない。

手が加奈の背中に回る。


そっと、優しく。

でも確実に。


加奈の背中を撫でながら、ある場所を探している。

そして見つけた。


一瞬の出来事だった。

加奈の背中で何かが外される。


プチッ


背中でブラジャーのホックが外された。

加奈は咄嗟に目を見開いた。


「んん…!!」


口を塞いでいるから声は出せないが、目は驚きを表している。


「シュナちゃん、それはさすがに…!」


加奈は、口から手を離した。


「それはさすがにダメ! ね? シュナちゃん!!」


加奈が必死に訴える。

でもシュナは加奈をじっと見つめている。


マスク越しに、スリットの奥から。

その視線。


加奈はその視線に射抜かれた。


凍りつく。

動けない。


ただ見つめられている。

シュナのピンク色の瞳。


その奥にある小さなスリット。

暗い、その奥。


そこから誰かが加奈を見つめている。


お姉ちゃん。

でもその視線はいつもの、お姉ちゃんの視線じゃない。


何かが、違う。

何かが、変わっている。


加奈の心臓が、激しく鼓動する。


ドクン、ドクン、ドクン。


その視線が、何かを言っている。


「あなたは、私に負けたでしょ?」


そう。

でもそれだけじゃない。


もっと、深い。

もっと、暗い。

もっと、熱い。


何か別の感情がそこにある気がした。

加奈はゆっくりと気づき始めた。


この視線。

この熱い視線。

これは姉が妹を見る視線じゃない。


もっと、違う。

もっと、危険な。


これは1人の女性が、愛する人を、欲する人を、求める人を見つめる。

そんな視線。

獲物を、狙う、肉食獣の視線。


加奈の背筋に、ゾクッと、何かが走る。


怖い。でもそれだけじゃない。

何か、別の感情も、湧いてくる。


期待。

興奮。

そして少しの喜び。


(お姉ちゃん…)

(これが、お姉ちゃんの本当の姿…)


普段は地味でおとなしく、誰とも関わろうとしないそんなお姉ちゃん。

でも今はこのシュナの姿になって、マスクの中に隠れてお姉ちゃんは本性を、本当の自分を解放している。


この熱い視線、この情熱的な手の動き。

これがお姉ちゃんの本当の姿。


普段は隠していて抑えている。

でも今シュナになって、マスクの中に隠れて誰にも正体がバレないから。

だからお姉ちゃんは本当の自分を出している。


私を欲している。

私を求めている。

私を愛している。


その想いを隠さずにぶつけてきている。

加奈は言葉に詰まった。


何も言えない。


ただシュナを見つめ返すしかできない。


シュナの視線。

その奥の優奈の視線。

それが加奈を貫く度に、加奈の心が震える。


(怖い…)


でも。


(嬉しい…)


お姉ちゃんがこんなに、私を求めてくれている。

こんなにも、私を欲してくれている。


その事実が嬉しくて。

そして、加奈は気づいてしまった。


自分も


お姉ちゃんのこの姿を求めていた?

普段の地味でおとなしいお姉ちゃんじゃない。

この情熱的で攻撃的で、私を貪欲に求めてくる、そんなお姉ちゃんを私は求めていた。


(ずっと…)

(私はずっと、こうして欲しかった…)


お姉ちゃんに私を見て欲しかった。

私だけを見て欲しかった。

私を求めて欲しかった。


その願いが今叶っている。

シュナの姿でマスクの中に隠れて、でもお姉ちゃんは私をこんなに求めてくれている。

加奈の目から涙が溢れてくる。

嬉しくて、切なくて、でも幸せで。


(私…)


加奈は気づいてしまった。


(私いつの間にか…)

(お姉ちゃんのこと…)


いつからだろう。

小さい頃から? 中学生の頃? 高校生になってから?

いつからこの想いは始まっていたんだろう。

姉妹としてじゃない。

もっと深い、もっと強い、この胸を焦がすような想い。


(私、お姉ちゃんのこと…)

(深く愛してしまってる…)


その事実に気づいてしまった。


もう隠せない。

もう誤魔化せない。


私はお姉ちゃんを愛している。

1人の女性として愛している。


そしてお姉ちゃんも私を愛してくれている。

1人の女性として。


今この瞬間、2人は確かに通じ合っている。

言葉はない、でも視線だけで全てが伝わってくる。

お互いの想い、お互いの愛、全てが。


加奈の唇が震える。


何か言わなきゃ、何か伝えなきゃ。

でも言葉が出てこない。

ただ涙が溢れるだけ。

そして加奈は小さく頷いた。


(いいよ、お姉ちゃん)

(私を好きにして。 私を、あなたのものにして)


その想いを込めて、小さく頷いた。


(お姉ちゃん…その目は…)


シュナのマスクから、荒い呼吸音が漏れる。


「ハァ…ハァ……」


興奮している。

加奈を攻めることに。

加奈を気持ちよくすることに。

マスクの中の優奈が、興奮している。


そしてシュナの手が、動いた。

ゆっくりと、でも迷いなく。


加奈の服の裾に、手が触れる。

そして、服の中へシュナの手が滑り込んでくる。


直接、肌に触れる。

お腹。

肋骨。

そして胸へ。


外されたブラジャーの下。

何も遮るものがない。

シュナの手が、加奈の胸に直接触れた。


「あ…!」


声が、出てしまった。

加奈は慌ててまた口を塞ぐ。


でも、もう遅い。


シュナの手が加奈の胸を直接触っている。


柔らかくて、温かい。

全身タイツ越しでも、その感触は、はっきりと分かる。

いや、むしろ全身タイツ越しだからこそその感触が、生々しく伝わってくる。

加奈の体が、震える。

シュナの手がゆっくりと動く。


胸を撫でる。

優しく、優しく。

でも確実に。


加奈の敏感な場所を知り尽くしている。

その手が胸を撫でていく。


上から、下へ。

下から、上へ。

円を描くように。


シュナの手の動き合わせて加奈の体が、ビクッと反応する。


「んぁ…!」


もう我慢できない。

声が漏れる。


「んん…あぁ…んっ…」


どんなに手で口を塞いでいても声が漏れてしまう。


シュナの手がさらに動く。

今度はもっと大胆に、シュナの指先が胸の先端にそっと優しく、でも的確に触れてくる。


「ん...あぁん…!」


加奈の体が、大きく跳ねた。

背中がベッドから浮く。

敏感な場所を触られて、体が勝手に反応してしまう。

シュナは、その反応を確認するように。

もう一度、同じ場所に触れる。


「あぁ..んっ…!」


また体が跳ねる。

シュナは加奈の反応を楽しんでいる。

マスクからは荒い呼吸音が漏れ続けている。


「ハァ…ハァ……ハァ…」


興奮している。

加奈を攻めるごとに、加奈が気持ちよくなるごとに、マスクの中の優奈が夢中になっているのが分かる。


加奈のために。

加奈を気持ちよくするために、必死で攻め立てている。


1人の女性として。

まるで、愛する人を気持ちよくしたいと言うような想いで必死に。


加奈は、気づいた。


(お姉ちゃん…)

(お姉ちゃんは、今…)

(私を、気持ちよくしようとしてくれてる…)


これはきっと、姉としてじゃない。


1人の女性として愛する人を、満たそうとしている。

その想いがシュナの動きから伝わってくる。


手の動き。

触れ方。

全てが、優しくて。

でも、情熱的で加奈を求めている。


加奈の体がどんどん熱くなっていく。

シュナに触れられるたびに体が反応してしまう。


(だめ…)

(体が、言うことを聞かない…)


加奈は、必死に自分を抑えようとする。

でも体は正直だった。


シュナに触れられるたびに。

体が熱くな理、心臓が激しく鼓動する。

声が、自然と溢れ出てしまう。


「あ…んん…ぁん…!」


もう、止められない。

お姉ちゃんに。

気持ちよくされてしまっている自分が、恥ずかしい。


でも同時に加奈は気づいてしまった。


自分がシュナを求めている。

体がシュナを求めている。


(もっと…)


その想いが、心の奥底から、湧いてくる。


もっと、触れて欲しい。

もっと、感じたい。


お姉ちゃんにもっと。

加奈の手が、口から離れた。


もう、声を抑えることを諦めた。

どうせ、抑えきれない。


ならば、そのまま受け入れよう。


お姉ちゃんを。

この気持ちを。


加奈の手が、シュナの背中に回る。

そして、シュナを抱き寄せる。


もっと、近くに。

もっと、密着して。


シュナはその動きに応えるように加奈をさらに強く抱きしめる。


そして、手がまた動く。

今度は、両手で加奈の胸を包み込むように。

優しく、でも的確に。


「うぁ!..あ...はぁ…!」


加奈の声が、部屋大きくに響く。


気持ちいい。

お姉ちゃんに触られて気持ちいい。


加奈の体が、シュナに、もたれかかる。

もう力が入らない。

ただシュナに身を任せるしかできない。

シュナの手は加奈の体を愛撫し続ける。


胸を。

お腹を。

腰を。

背中を。

全身を愛おしむように。

そして加奈は、もう観念した。


(もう…)

(いいや…)


頭では、ダメだと思っている。

姉妹なのにこんなこと、ダメだって分かっている。


でも体は正直にシュナを求めてしまっている。


もっと、触れて欲しい。

もっと、感じたい。

お姉ちゃんに、もっと、気持ちよくされたい。


その想いが体中を駆け巡る。

加奈の腰が少しだけ動いた。

シュナの手に、押し付けるように。


「もっと!」という意思表示。

シュナはその動きを理解して、手がさらに大胆に動く。


加奈の体を、もっと、深く、触っていく。

加奈の声が、さらに大きくなる。


「あぁん!…お、お姉ちゃん…!」


ついに、口に出してしまった。

お姉ちゃんという言葉。


その言葉に、シュナの体がビクッと震えた。

そして、マスクから声が漏れる。


「か…ハァ……加奈…ハァ……」


くぐもった声。

でも、はっきりと聞こえた。


加奈と呼ぶ声。

優奈が、加奈の名前を、呼んでいる。


マスクの中で、必死に。

愛おしそうに。


加奈の涙が、溢れてきた。


嬉しくて。

切なくて。

幸せで。


(お姉ちゃん…大好きだよ…)


その想いが心の奥底から、溢れ出てくる。


ずっと、ずっと。

小さい頃から。

お姉ちゃんが、大好きだった。


一緒に遊んで。

一緒に笑って。

一緒に泣いて。


いつも、そばにいた大好きなお姉ちゃん。


(もっと…)

(もっと、攻めて欲しい…)


そんな気持ちが湧いてくる。


もっと、触れて欲しい。

もっと、感じたい。


お姉ちゃんに、もっと。

加奈の体が、シュナにさらに密着する。


胸と胸が、触れ合い、足が絡み合う。

シュナの手が、加奈の体を撫で続ける。


優しく、優しく。

愛おしむように。

加奈を、大切に、扱っている。

その優しさが、加奈をさらに高めていく。


「あぁ…お姉ちゃん…もっと…」


加奈の声が、甘く、とろける。

もう、理性なんて、どこかに行ってしまった。


ただ、この瞬間を。

このぬくもりを。

このシュナを。

お姉ちゃんを求めている。


シュナも、加奈の想いに応えるように。

さらに、情熱的に加奈を攻め立てる。


2人はベッドの上で抱き合ったまま。

お互いを求め合っている。


(でも…)

(このままじゃ…)


加奈は、少しだけ、怖くなった。

このまま、進んでいったら、私たちの関係は。


きっと、姉妹を通り越してカップルのようになってしまう。

もう、後戻りできない。

そんな関係になってしまう。


(でも…それでも...)

(それも、いいかな…)


加奈は、思った。


だって、私はお姉ちゃんを愛している。

姉妹として、じゃない。


もっと、深く。

もっと、強く。


このお姉ちゃんを、心から愛している。

この想いは、もう誰にも止められない。

加奈の目から、涙が溢れてきた。


嬉しくて。

切なくて。

苦しくて。

でも、幸せで。

いろんな感情が、混ざり合って涙になる。


シュナの手が、加奈の体を触り続けている。

加奈は、もう抵抗する気力もなくなっていた。

ただ、シュナにされるがまま。


お姉ちゃんに。

気持ちよくされている。

自分を、受け入れている。

お姉ちゃんが、大好き。

もう、隠せない。


この想いは、もう隠せない。

加奈の心臓が、さらに激しく鼓動する。


ドクン、ドクン、ドクン


お姉ちゃんに、気持ちよくされてしまっている。

姉妹同士で。


それが、恥ずかしくて。

でも、嬉しくて。

加奈は、思った。


(もう、いいや…)

(このまま、お姉ちゃんと…)


そして、加奈は、決めた。


(もう…!お姉ちゃんてば..さっきから...ホントに的確に攻めてくるんだから!)

(今度は、私が、お姉ちゃんに仕返ししてやる…!)


悔しさと、愛情と。

いろんな感情が、混ざり合って。

加奈を突き動かす。


加奈はシュナの手を掴んだ。

そして、力を込めて自分の方に引っ張る。

シュナの体勢が崩れ、その一瞬の隙に加奈は体を入れ替えた。


今度は加奈がシュナの上になり、シュナが下に。

シュナは「なんで!?」という感じで加奈を見上げている。


「なんで、私が、攻められるの!?」


そう言いたそうに。

でも、加奈はもう聞かない。


加奈の手が、シュナの体に触れる。


首筋。

胸。

太もも。

腰。


シュナの体が、ビクッと跳ねる。

シュナは、抵抗しようとする。

腕を動かして加奈の手を払おうとする。


でも加奈の力は強く、シュナの手を押さえつける。

そして、もう片方の手でシュナの体を触り続ける。

シュナのマスクから、荒い呼吸音が漏れる。


「ハァ…ハァ…ハァ…」


そして、時々、声が混ざる。


「ぅ…ハァ…あ…ハァ…」


シュナの中の優奈が、妹に気持ちよくされてしまっている。

その声を聞いて、加奈は、さらに攻め立てる。


でもシュナも負けていない。

シュナは、加奈の手を掴み返した。

そして、加奈と同じように力を込めて、思いっきり引っ張る。


今度は加奈の体勢が崩れ、シュナはその隙にまた体を入れ替えようとする。

でも加奈も必死に抵抗する。


2人は、ベッドの上で、絡み合う。

押し倒して、押し倒されてお互い、譲らない激しい攻防。


シュナの手が、加奈の胸に触れる。

加奈の手が、シュナの胸に触れる。


2人とも、無我夢中で相手を攻め立てる。

ベッドの上で、2人の体が、絡み合う。


もうどっちが上で、どっちが下なのか分からない。

ただ、2人は抱き合ったまま、触れ合ったまま。


それは、まるで恋人が愛し合っているように。

そう見えてしまう。

でも加奈は、考える。


(これは、姉妹の戯れ)

(ただの、戯れ)

(昔みたいに、遊んでるだけ)


そう、自分に言い聞かせる。

でも体は、正直に、反応してしまっている。

シュナに触れられるたびに体が、熱くなる。


心臓が激しく鼓動する。

呼吸が荒くなる。

加奈も、シュナも、2人とも呼吸が荒い。


「ハァ…ハァ…..ハァ…ハァ…..ハァ…ハァ…」

「ハァ…ハァ…」


2人の荒い呼吸音が、重なり合う。


そして。

やがて。


2人はそのまま抱き合ったまま動かなくなった。

疲れ果てて、ただ抱き合っているだけ。


加奈の頭は、シュナの胸に。

シュナの腕は、加奈の背中に。


2人は、そのまましばらく動けなかった。

ただ、2人の荒い呼吸音だけが部屋に響いていた。


◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎


加奈は、思った。


さっきよりは、呼吸が落ち着いている。

でも、まだ少し荒い。


加奈は、ずっと、シュナの頭を撫で続けた。

時間が、ゆっくりと流れていく。


(可愛い)


加奈は、そう思いながら、シュナを見つめていた。

でも、だんだんと眠気を感じてきた。


目が、重い。

だんだんと、瞼が閉じていく。


加奈は、そのまま眠りに落ちてしまった。


◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎


しばらく経って、加奈はふと目を覚ました。

目の前は、真っ暗だった。

外はもうすっかり陽が落ちたみたいで、部屋が真っ暗だ。

今何時なのかも分からない。


(あれ、私、いつの間にか寝ちゃってた)


加奈はそう思ったが、右腕には人が絡み付いているような感覚。

暗闇の中、目を凝らして見ると。

そこには、シュナの顔があった。

加奈は、びっくりして、起き上がろうとした。


「お姉ちゃん、まだマスク被ってたの!? 大丈夫なの!!?」


でもシュナの腕が強く絡み付いて腕を離してくれない。


「お姉… シュナちゃん、大丈夫?」


加奈はシュナの体を見た。

さっきまで着ていた白い巫女装束や、赤い袴の衣装は、脱いでいるみたいだった。

代わりに、お姉ちゃんがいつも着ている、Tシャツとスウェットパンツの部屋着に着替えているみたいだった。


でも、その下に肌タイツは着て、シュナのマスクは被ったまま。

あくまでも、シュナとして居続けようとしたのが分かる。


次の瞬間、シュナの顔が動いて、加奈の方に目線を向ける。

そしてまた、シュナは加奈を引き寄せた。


また再び、強く加奈を抱きしめる。

シュナのマスクから、ゆっくりとした、落ち着いた呼吸音が漏れている。


「スゥ…ハァ…スゥ…ハァ…」


そして、くぐもった声が、聞こえてきた。


「加奈。 このまま、ちょっとだけお話ししてもいいかな?」


加奈は、少し驚いて、聞いた。


「えっと、シュナちゃんとして? それとも、お姉ちゃんとして?」

「.......お姉ちゃんで..いいよ」

「大丈夫? 苦しくない? それ、外さなくていいの?」

「うん、大丈夫。このまま聞いて欲しい。 今ね、多分私の顔.....酷いことになってると思うから、加奈には...まだ.....見られたくないし…」


加奈はシュナを見つめながら続ける。


「本当に、苦しくないの? 大丈夫?」

「まぁ…正直ちょっと、苦しいかな… でも、大丈夫だから...聞いて...」

「...うん」


加奈はシュナを、いや優奈をそっと抱きしめた。

暗闇の中、マスク越しに2人は向き合っている。

優奈がゆっくりと話し始めた。


「…加奈…あのね…ハァ…」

「うん」

「…私ね…シュナが…本当に好きなの……」

「うん、知ってる」

「でも…ハァ…ただ好きなだけじゃ…なくて……」


優奈の声が少し震える。


「シュナに…なると……私…変わるみたいなの…ハァ…ハァ..」

「変わる?」

「うん……いつもの自分じゃ…なくなる…感じ…もっと…自由に…なれる……もっと…素直に…なれる……」


加奈は黙って聞いている。


「マスクの中ではね…ハァ…別人格に…なれる感覚が…あるの……優奈じゃなくて…シュナに…なれる……」

「お姉ちゃん…」

「でもね……今日…分かったの……」


優奈の声がさらに震える。


「シュナに…なっても……けっきょく...私は…私なんだって……」

「ただ…素直な…自分を……出せる…だけなんだって……」

「そして……その素直な…自分は……加奈のことが…ね…大好きなの……」


加奈の目に涙が浮かぶ。


「私も、お姉ちゃんのこと、大好きだよ」

「ごめんね…加奈……」

「え?」

「私……ずっと…孤独だったの……」


優奈の声が震える。


「友達も…いなくて……会社でも…誰とも…話さなくて……」

「でも…それは……自分で…選んだことだって…思ってた…ハ…」

「でも…本当は…寂しかったの……」

「誰かと…ハァ…繋がりたかったの……」

「でも…どうやって…繋がればいいか……もう...分からなくなってた……」


加奈は優奈をぎゅっと抱きしめた。


「ごめんね、お姉ちゃん。私が、お姉ちゃんを一人にしちゃってたから...」

「もっと構ってあげれば良かった。もっと一緒にいてあげれば良かった...」

「ううん…違うの……」


優奈が首を横に振る。


「加奈は…何も…悪くない……」

「加奈は…普通に…友達と…楽しく...遊んでただけ……」

「それは…当たり前の…ことだから……」

「でも…私は…それが…できなかった…」

「だから…シュナに…逃げた…んだと思う…ハァ…ハァ...」

「シュナに…なれば…ハァ…違う自分に…なれるから……」


加奈は涙を流しながら言った。


「お姉ちゃん、これからもっと一緒にいようね」

「シュナとしても、お姉ちゃんとしてももっと一緒にいようね!」


優奈はマスクの中で微笑んだ。


「うん…ハァ…加奈......ありがとう…ハァ…」


しばらく沈黙が続いた。

2人は抱き合ったまま、暗闇の中で互いの温もりを感じていた。

やがて優奈が震える声で話し始めた。


「ハァ….それと..加奈…ハァ…もう一つ…私は...加奈に言わなきゃ…いけないことが…ハァ…ある…ハァ…」

「うん、ちゃんと聞いてるよ」

「ハァ…私ね…ハァ…加奈のこと…ハァ…愛してる…ハァ…」


加奈の心臓が激しく鼓動する。


「私もお姉ちゃんのこと、愛してるよ」

「違うの…ハァ…妹として…じゃなくてね…ハァ…」


優奈の声がさらに震える。


「1人の…女性として…ハァ…愛してしまってる…ハァ…」

「こんな…気持ち…ハァ…おかしいって…自分でも...分かってる....だけど…ハァ…」

「だけど…ハァ…もう...止められない..みたい…ハァ…加奈…ごめんね…ハァ…」


加奈の目から涙が溢れ出る。

でもそれは悲しみの涙じゃない。


「お姉ちゃん…」

「一緒に…ハァ…住んでるのに..こんなこと...言われたら..…ハァ…困っちゃうよね…ハァ…」


加奈はシュナをさらに強く抱きしめた。


「私もお姉ちゃんを心から愛してる。1人の女性として」

「こんな風になりたいって、ずっと思ってた」

「お姉ちゃんが私を求めてくれて、本当に嬉しかった」


その瞬間、シュナが加奈を抱きしめる力がより一層強くなった。

もう限界まで、腕に力を込めて加奈を自分の中に取り込もうとするように。

マスクの中から、泣き声が漏れる。


「うぅ…ハァ…加奈....こんな…お姉ちゃんで…ハァ…ごめんね…ハァ…」

「こんな…変な…お姉ちゃんで…ハァ…ホントに....ごめんね......」


声が途切れ途切れで、泣きながら苦しそうに告げる優奈。

加奈はシュナを優しく抱きしめて、その背中を撫でた。


「そんなお姉ちゃんを、私は本当に愛してる」

「嬉しいよ、お姉ちゃん。こんなに想ってもらえて」


シュナのマスクから、嗚咽混じりの呼吸音が聞こえる。


「ハァ…ハァ…うぅ…ハァ…」


加奈は少し笑いながら言った。

そして2人はしばらく無言で抱き合ったまま、時間だけが流れていく。

加奈がゆっくりと口を開く。


「ねぇお姉ちゃん。 私たち、姉妹じゃなくて恋人同士になっちゃったね」


その言葉に、シュナの体が少し震えた。

そしてマスクの中から、泣き声で笑うような声が聞こえてきた。


「ハァ…あはは…ハァ…そうなのかな…ハァ…私のせい?…ハァ…」


加奈も笑った。


「それは多分...お互い様かもしれないね...」


2人はしばらく幸せそうに抱き合っていた。

暗闇の中、マスク越しに、でも心は完全に繋がっていた。

姉妹という関係を通り越して、2人は恋人になってしまった。

それは禁断かもしれない。

でも2人にとっては、これ以上ないほど自然なことだった。

お互いを深く愛している。


それだけが、今、確かなことだった。


◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎


しばらくして。

優奈が、ゆっくりと言った。


「加奈、そろそろ、マスク外すね」

「うん」


優奈は加奈から離れて、ベッドの端に座った。

そして両手を上げて、マスクの金具に手をかける。


カチッ。

右側が外れる。


カチッ。

左側が外れる。


優奈は前面のマスクパーツをゆっくりと顔から引き離した。

外気が顔に触れる。


「ハァ…」


大きく息を吸い込む。

そしてフード部分のファスナーを下ろす。

フードを頭から外す。

髪がばさりと広がる。

汗でびしょびしょだ。

加奈は部屋の明かりをつけた。

パチッ。

部屋が明るくなる。

そして優奈の顔を見た。

疲れ切った顔。

汗でぐっしょりと濡れた髪。

顔は赤く紅潮していて、長時間マスクを被っていた影響が色濃く残っている。

額、頬、顎、鼻の周り、マスク内部のスポンジの跡がくっきりと赤く残っている。

目は充血していて、まだ苦しそうに肩で息をしている。


「ハァ…ハァ…」


それでも加奈は思った。

お姉ちゃんはやっぱり美人だ。

汗に濡れた髪、紅潮した頬、充血した目、疲れ切った表情。

それでもその顔立ちは整っていて美しい。

こんな状態でもお姉ちゃんは綺麗。

加奈の胸がキュンと締め付けられる。


優奈も加奈を見つめている。

2人は無言で見つめ合った。

何も言わない、何も言えない。

ただ見つめ合っている。

優奈の目にはまだ涙の跡が残っていて、加奈の目にも涙が浮かんでいる。

2人の視線が交わる。

その視線には、もう何の迷いもない。

ただ、深い深い愛情だけがある。

姉妹として、じゃない。

もっと深い、もっと熱い、愛。


加奈の心臓が激しく鼓動する。

ドクン、ドクン、ドクン。

もう、抑えられない。

この想い。

この熱さ。

ずっと、ずっと心の奥底に秘めてきた想い。

それが今、溢れ出そうとしている。


優奈も同じだった。

疲れ切った体。

苦しい呼吸。

でも、その目には、燃えるような熱さがある。

加奈を見つめる、その目。


愛おしい。

可愛い。

大好き。

もう、隠せないこの想いを。


その瞬間、2人は同時に動いた。

加奈が優奈に、優奈が加奈に。

まるで引き寄せられるように。

抱き合う。

そして唇が重なった。


今度はマスクのプラスチックに阻まれることなく、直接。

優奈の唇と加奈の唇が触れ合う。

その瞬間、2人の体に電流が走った。

ビリッと。

全身を駆け巡る、熱い感覚。


柔らかい。

温かい。

お姉ちゃんの唇。

加奈の唇。

2人の唇がゆっくりと重なり合っていく。

最初は優しく、そっと。

でも、やがて。

その優しさが、熱さに変わっていく。

抑えてきた想いが、溢れ出す。


加奈の手が優奈の髪に触れる。

汗で濡れた髪。

でも、そんなこと気にならない。

優奈の手が加奈の背中に回り、強く抱きしめる。

もっと近くに。

もっと密着して。

2人の体が、ぴったりと重なる。


長い長いキス。

マスク越しのキスとは全く違う。

直接触れ合う唇の感触。


お互いの温もり。

お互いの息遣い。

お互いの鼓動。


全てが伝わってくる大人のキス。

恋人同士のキス。


加奈の唇が、少し開く。

優奈もそれに応える。

より深く。

より熱く。

2人のキスは、どんどん深くなっていく。


もう、止まらない。

止められない。


ずっと、こうしていたかった。

ずっと、こうしたかった。


お姉ちゃんと。

加奈と。


優奈の手が加奈の背中を撫でる。

上から下へ。

優しく、でも情熱的に。

加奈の体が震える。

気持ちいい。

お姉ちゃんに触られて。

こんなに気持ちいい。


加奈の手も優奈の背中に回る。

全身タイツ越しに感じる、優奈の体温。

心地よい。

愛おしい。


もっと、触れたい。

もっと、感じたい。


2人は強く抱き合いながら唇を重ね続ける。

呼吸をするのも忘れそうなほど。

苦しくても、離れたくない。

このまま、ずっと。

永遠に。


やがて、息が苦しくなって。

2人の唇が、ほんの少しだけ離れる。

でも、顔は近いまま。

お互いの息が、顔にかかる。


「ハァ…ハァ…」

「ハァ…ハァ…」


荒い呼吸。

でも、その目は、まだ熱い。

まだ、求めている。

もっと。


そして、また唇が重なる。

今度は、さらに深く。

さらに熱く。

もう、姉妹じゃない。


恋人。

2人は、恋人なんだ。


加奈の涙が溢れる。

嬉しくて。

幸せで。

愛しくて。

優奈の目からも涙が流れる。

同じ気持ち。

同じ想い。


禁断。

そう、これは禁断かもしれない。


姉妹同士で。

こんなに求め合って。

こんなに愛し合って。


でももう、どうでもいい。

この想いは本物だから。

この愛は、真実だから。


時間が止まったように感じられた。

いや、時間なんて、もうどうでもいい。

ただ、この瞬間。


この人と。

この愛を感じていたい。


この瞬間、2人は確かに理解した。

姉妹ではなくなった。

恋人になった。

禁断の一線を完全に超えた。

もう後戻りはできない。

でも後悔はない。

お互いを深く愛している。

1人の女性として、愛している。

それだけが確かなことだった。


やがて、ゆっくりと唇が離れる。

2人は少しだけ離れて、お互いの顔を見つめた。

優奈の顔はさらに赤く染まっていて、加奈の顔も紅潮している。

2人とも呼吸が荒く、体が熱い。

でも、その顔は、幸せそうだった。

満たされた顔。

愛し、愛された顔。


そして2人は、涙を流しながら、少し笑った。


「なんだか、久しぶりに、お姉ちゃんに会ったみたい」


加奈が言う。

優奈も笑った。


「そう、だね」


でも、2人とも分かっていた。

もう、以前の関係には戻れない。

戻りたくもない。

これからは、恋人として。

お互いを愛し合っていく。

そう、心に誓った。


時計を見る。

20時を、回ったところ。

加奈は、優奈の隣に座った。

そして、しばらく、2人で黙って座っていた。

やがて、加奈が、口を開いた。


「ねぇ、お姉ちゃん」


「ん?」


「お願いがあるんだけど」


◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎


午後21時半


優奈は、シュナの着ぐるみを脱いで、ソファでくつろいでいる。

いつもの部屋着で、髪や体からは、ソープの良い匂いが漂っている。


シャワーを浴びて、さっぱりした。


優奈は、リビングのテーブルの上に置かれた一つのパッケージを見つめていた。

この前買った、限定版。


シュナの物語を描いた、スピンオフのアニメ。

実は妹の加奈と、一緒に見ようと思ってずっと我慢していた。

だからまだ見ていない。


その時リビングのドアがゆっくりと開く音がした。

優奈はドアの方に視線を向ける。


そこには、まるでアニメから飛び出してきたかのような、綺麗で可愛いシュナの姿。


ピンク色の長い髪。

白い巫女装束。

薄ピンクの花柄の羽織。

赤い袴スカート。

紫色の帯飾り。


シュナはリビングのドアの前で立ち止まり、ゆっくりと周囲を見渡している。

マスクのスリットから覗く視界は狭く、首を左右に動かしながら慎重に確認しているようだ。


そして一歩、ゆっくりと足を踏み出す。

でもその動きはとてもぎこちない。

足元を何度も何度も確認するように、視線を下に向けては一歩進み、また止まる。

袴スカートの裾が見えづらいのか、手で裾を少し持ち上げながら、慎重に床を確かめている。


片手を前に伸ばして、壁やドア枠を探るように触れ、距離感を確認している。

視界が悪いのだろう。

マスクの中から見える世界は、きっと狭くて暗いはず。

シュナはゆっくりと、本当にゆっくりとリビングに入ってくる。


一歩。

また一歩。


その度に立ち止まって、周囲を確認する。

そして優奈の姿を見つけた。

シュナの動きが、少し止まる。


マスクのスリットの奥から、優奈を見つめている。

そして、シュナはぎこちなく、でも精一杯の身振りで優奈に向かって可愛らしい仕草とお辞儀をする。

マスクから、呼吸音が漏れてくる。


「ハァ…ハァ……スゥ…ハァ……」


もう既に、苦しそうな呼吸音。

マスクを被ってから、どれくらい経つのだろう。

まだ数分のはずなのに、もう呼吸が荒い。


優奈はその姿を見て、軽く微笑むとソファから立ち上がった。

そしてゆっくりとシュナの方へ歩いていく。

シュナは優奈が近づいてくるのを見て、少し嬉しそうに体を揺らす。

でも動けない。

ただ、その場で待っている。


優奈はシュナの前まで来ると、優しく声をかけた。


「大丈夫?」


シュナは大きく頷く。

そして手で丸を作って、大丈夫というサインを送る。

でもマスクからは相変わらず苦しそうな呼吸音が漏れている。


「ハァ…ハァ……ハァ…」


優奈は優しく微笑むと、シュナの手をそっと取った。

肌色のタイツに包まれた手。

温かい。

シュナの手が、優奈の手を握り返す。

しっかりと。

信頼しているように。


「じゃあ、ソファまで行こう。ゆっくりでいいからね」


優奈はゆっくりと、本当にゆっくりと歩き始める。

シュナもそれに合わせて一歩を踏み出す。

でもやはりぎこちない。

足元を何度も確認しながら、慎重に歩く。

優奈はシュナの手を優しく引きながら、時々立ち止まってシュナが足元を確認するのを待つ。


「そう、そのまま。大丈夫、私がいるから」


シュナは優奈の声に安心したように、少しずつ優奈に体を寄せてくる。

肩が触れ合う。

そして、もっと密着してくる。

優奈の腕に、シュナの体が寄りかかる。

信頼している。

優奈を、信頼している。

だから、体を預けている。


2人は慎重に、一歩一歩、ソファへと向かう。

優奈はシュナのペースに合わせて、決して急がない。

シュナが足元を確認する度に止まり、シュナが歩き出したらまた動く。

まるで、ダンスを踊っているように。

ゆっくりと、優しく。


「あと少しだよ。もうすぐソファ」


優奈が優しく声をかける。

シュナは頷いて、また一歩を踏み出す。

マスクからは相変わらず苦しそうな呼吸音。


「ハァ…ハァ……スゥ…ハァ……」


でもシュナは頑張っている。

優奈と一緒に、ソファまで。


やがて、ソファの前に到着した。

優奈はシュナの手を優しく握ったまま、もう片方の手でシュナの背中をそっと支える。


「じゃあ、座ろうね。ゆっくりでいいから」


シュナは頷いて、ゆっくりとソファに腰を下ろす。

袴スカートの裾を気にしながら、慎重に座る。

ドサッという音とともに、シュナの体がソファに沈み込む。

優奈もその隣に座った。


その瞬間、シュナが動いた。

優奈の方に、体を傾ける。

そして、優奈に体を密着させてきた。

肩が触れ合い、腕が触れ合い、体がぴったりとくっつく。

シュナが優奈に寄りかかる。

甘えるように。

優奈の腕に、シュナの頭を軽く乗せる。

マスクのプラスチックが、優奈の肩に触れる。


優奈は微笑んで、シュナの肩に手を回した。

そっと、優しく抱きしめる。

シュナは嬉しそうに、さらに優奈に体を寄せる。

2人は、ぴったりと寄り添って、ソファに座っている。

まるで恋人同士のように。


マスクからは、相変わらず苦しそうな呼吸音が漏れている。


「ハァ…ハァ……スゥ…ハァ……」


でも、シュナは幸せそうだった。

優奈も幸せそう。


優奈はテーブルの上のパッケージを手に取った。

シュナが見えるように、マスクのスリットの方に近づける。


「ねぇシュナ、これ見える? これね、この前買った限定版で、シュナの物語を描いたスピンオフのアニメ」


シュナは、ぎこちなく、小さく頷きながら、理解するような素振り。


「実は、妹の加奈とね、一緒に見ようと思って我慢してて、まだ見てないんだよね」


シュナは、びっくりしたように、優奈の顔を見つめる。


「でも、もう我慢できなくなっちゃった… よかったら、一緒に観ない?」


シュナは、少しの間固まった。

そして、大きく頷いて喜んでいるようだった。


優奈は微笑むと、ソファから立ち上がった。

ディスクをセットして、再生ボタンを押すとすぐに映像が、始まる。


優がシュナの隣に座り直すと、シュナが優奈の腕にそっと腕を絡めてくる。

優奈もそっと、シュナの太ももに手を置く。


2人は、仲良さそうに、腕を組んで、肩を密着させて、静かに、アニメを見ている。


2人の微笑ましい光景。

ただ、少し違うのは。

シュナのマスクから、激しく、苦しそうな呼吸音が、漏れ続けている。


「ハァ…ハァ……スゥ…ハァ……スゥ…ハァ…ハァ……」


でも、2人、気にしていない。

ただ、一緒にアニメを見ている。

その時間が幸せだった。


◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎


それから、この姉妹の家には時々、シュナが登場するようになった。


加奈と一緒に仲良く戯れるシュナ。

優奈と仲良くグッズ鑑賞したり、他のアニメを見たりして過ごすシュナ。


まるで3人目の家族のように、暖かい空気で日常が過ぎていく。


ただ何故か。

優奈と加奈とシュナの3人が、同時に姿を表すことは無かった。





— 完 —

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POSTEDDec 19, 2025
ARCHIVEDJun 10, 2026