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ナレ死するモブ令嬢に転生したので魔導人形になります

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「お嬢様! お嬢様! お怪我はございませんでしたか?」

狼狽える使用人たちの声は私の頭に届かなかった。転んで石に頭をぶつけたその瞬間、私の脳内には膨大な知らない世界の記憶が湧きだして、意識がグチャグチャにかき乱された。

(これ……は……?)

思い出したと言うべきか知ったと言うべきか……。私の頭の中に蘇った記憶。それは前世の記憶だった。日本という国で三十近くまで過ごした女性の人生を、僅か数秒の間に私は再生し終えた。この記憶というかイメージが本物ならば……私は……。

(転生……しちゃったのかあ……)

私は使用人たちに運ばれながら、今の自分の状況も思い起こし、力なくへこたれた。

状況を整理しよう。私はレナータという名で、この伯爵家の令嬢として生まれた。現在五歳。それはいい。問題は前世の記憶で得た知識。それが正しければこの世界は……ゲームの世界だ。そこそこ話題になっていたソシャゲの世界……に違いない。国の名前とか魔法のせって……原理とか用語とかを見る限り、間違いない……と思う。前世の世界では異世界転生ものというのが流行っていたけど、まさか自分の身にそれが起こるとは。ただ、大きな問題が一つ……いや二つ。例によってと表現していいのかわからないけど、私はこのままだと……若くして死んでしまうということ。何故なら、もしもこの世界の歴史がゲームの筋書き通りに進むのならば……。私は暗殺されてしまうからだ。次の問題は、暗殺の詳細もこの世界の詳細も私は知らないということ。前世の記憶を得たのに何故かって? そんなもの決まっている。私はこのゲームを遊んだことがない。フォロワーさんからの受動喫煙でしか知らない。だからクリア方法とか知らないし、結末がどうなるか、メインキャラクターの詳細もわからない。

(どうしよう……)

私はふかふかのベッドの中で頭を抱えた。二つ目の問題点……それはこの令嬢が、この私は……「モブキャラ」だということ。レナータとは、ナレ死する運命にあるモブ令嬢なのだ。この世界の貴族たちが通うことになっている学園に魔手が迫っていることを知らせるための導入として、伯爵令嬢が一人何者かに殺されたという情報が主人公の元に届けられ、緊張が走る……という場面。その殺された、殺されることになる令嬢が私、レナータである。犯人は勿論、その後のミッションで主人公に倒されるはずだけど、私の死は所詮導入の説明に過ぎない。よって、暗殺の詳細はわからないのだ。ナレ死モブの中で何故かレナータだけ名前が設定されていることがちょっとネタとして弄られた時期があり、私はフォロワーからそれを知った。それが……私がこの世界について知っている前世記憶の全て。

(ああ~)

私はベッドの中でのたうち回った。こんなことになるならあのゲーム遊んどくんだった……。でもでもだって転生するとか思わないじゃん……それもモブに。ナレ死する。

勿論、私は死にたくない。が、犯人のことも知らないので手の打ちようがない。こういうのって普通ちゃんと知識があってそれを活用して運命を回避するものなんじゃないの……? 最悪。

周囲に言ったって信じちゃくれないだろうし。大して格も高くない我が伯爵家が上の家々よりもゾロゾロ護衛を引き連れて学園生活するわけにもいくまい。

(何か……何か方法あるはず……)

齢五歳にして死の運命を知らされるなんて、神はなんと残酷なことをするのだろう。いや、慈悲だろうか。可哀相だし何とかして生き延びなさいというお告げなのかなぁ……?

ミリしら知識をまさぐりながら、私はうんうんうなり続けたが、五歳の小さな脳みそからは、大したアイディアはついぞ生まれてこなかった。

それからしばらく経った後のこと。私は廊下でケイトとすれ違った。鮮やかな黄色の髪を持つ魔導人形。この屋敷で以前から用いている人形だ。私もたまに要らなくなったものを片付けるよう命令することがある。魔導人形とは魔法で動かしている人形たちのことで、この世界では貴族やたまに商人が運用している。前世の世界で例えるとマネキンみたいな艶々した硬い肌を持ち、その動きはロボットのようにぎこちない。人間のような高度な思考はできないが、ごく簡単な指示ならこなしてくれる。そんな存在だ。

前世の知識に囚われて、視野が狭くなっていたかもしれない。私はレナータだ。この世界の力で、知識で運命に立ち向かう方法だってあるはず。私の脳裏に、全く新しいアイディアが閃いた。しかし……それを現実にするには越えなければならないハードルがある。高い高いハードルが。でも、具体的にいつどんな方法で来るかわからない暗殺から確実に生き延びる方法って、これしかなくない? ……身代わりを立てるのだ。影武者を。

影武者を立てるというだけなら考えなかったわけではない。でも……私の代わりに他の誰か、それも同世代の女の子を犠牲にするだなんて、私には絶対できない。……モブ令嬢だし。

でも、死んでもいい存在だったら……? いや、最初から生きていない存在だったら。人形を影武者にすればいい。だったら、死んでも……壊されても諦めがつく。私そっくりの魔導人形を作らせて、それを学園に通わせれば……。

「ケイト」

追いかけて呼びかけると彼女は立ち止まり、ブリキ人形並にぎこちない動きで振り返った。そして、返事もしない。正面を見てジッとしている。メイド服のスカートの上に手をそろえて。その顔はまだまだ背丈の低い私の姿を捉えていない。

(うーん……)

一見、いい考えに思えた。が、流石にこれを見て人間だと思う暗殺者はいまい。動きが固く、喋りもしない。見た目もマネキン人形みたいにテカテカしていて、生きた人間の肌とは比べるべくもない。もし魔導人形を身代わりにするのであれば、暗殺者だけはなく学友や教師たちでさえ騙しとおせるクオリティである必要がある。

人のように喋り、動き、生気溢れた容姿を持った魔導人形。そんなものが果たして製作可能なのだろうか。私の入学前に……。

私は両親にお願いして、魔導人形の工房を見学させてもらうことにした。うちに魔導人形を納めている工房はここ一つ。まあ、基本は貴族や大商人相手の嗜好品だから、数はない。よその領地にも一軒あれば多い方だ。

人間のような魔導人形を作れるか親方さんに尋ねると、いつかはそんな人形を作るのが職人の夢だと笑った。……うーん、ダメそう。このアイディアも駄目かなあ……やっぱり。

その時、工房の奥から大きな舌打ちが聞こえた。親方は慌ててその発生源を引きずりだして、無理やり頭を下げさせた。

「ふん……」

私たちに舌打ちしたのは、小さな少年だった。真っ黒な髪に輝くような赤い瞳。彼は孤児で、親方が面倒を見ているのだという。

前世倫理観をインストールされてしまった私としては、子供に舌打ちされたからって処罰したりはしたくないし、腹も立たない。むしろこのツンツン感を可愛いとさえ感じる。ぱっと見私よりちょっとだけ年上なのかな?

「……なんだよ」

年下の女の子に慈しむような眼差しを向けられたのが気に食わなかったのだろう。彼は親方に思いっきり頭を殴られてしまい、私は慌てて静止した。

その後、私は彼を庇うための話の流れで、彼の作った魔導人形……の部品を見せてもらうことになった。そこで、私はすごいものを見せられてしまった。首の試作が喋ったのだ。

「わっ、すごーい!」

机上に固定されているマネキンの首だけが口を動かして言葉を紡いでいるのは中々不気味な光景ではあったけど、私はそれ以上に彼の技術に惹かれた。親方ですら、なぜこの首が喋るのかはよくわからないという。一緒についてきていた私の付き人たちは明らかに彼と彼の作った首を恐れていた。闇の魔術ではないかと。普通はそうだよね。そうかもしれない。しかし、彼は恐れられることを誇りに感じてさえいるようだった。闇のように黒い髪の奥から妖しく光る彼の赤い瞳は、揺るぎない自信と尊厳に満ちている。

「決めました」

彼が追放とか処刑とかされる前に、今この場で言っておかなければならない。

「アルマスと言いましたね。あなたを私の専属の人形職人に任じます」

その場にいた誰もが驚愕し、やめた方がいいと申し出た。当のアルマスくんは一瞬呆気に取られていたが、すぐにツンツンな態度を取り直し、貴族のガキの道楽になど付き合ってられねえよ、と不敵に微笑んだ。親方が蹴りを入れる前に私は進み出て、彼の手を握った。

「道楽じゃないわ」

アルマスは突然のことに戸惑い、ちょっと頬が紅潮していた。可愛い。

「作りなさい。人間と見まがう魔導人形を。十年以内に」

それから約十年。私は両親に我儘を言って、アルマスのために専用の工房を屋敷の近くに作ってもらい、必要なものも随時揃えさせてもらった。私は足繁く彼のもとに通い、進捗を確認しつつ彼と遊んだり話をしたりして、友好を深めていった。彼は遂に貴族相手に礼儀を弁えることなく、生意気なままだった。が、彼の顔を一分もみていると、父上でさえしおらしくなってしまうような不思議な迫力があった。まるでドラゴンを相対しているかのように。敵わない。そう私たちの本能に訴えてくる何かが彼の瞳の奥に宿っている。その何かが彼の作る魔導人形に魂のような何かを込めさせているのかもしれない。

そんなわけでいつまでたっても彼はぶっきらぼうで生意気だったものの、仲良くなっていく中で私は彼に真の目的を打ち明けることができた。前世とかソシャゲとかは通じるわけないから、夢のお告げ、予言ってことにして。彼は半信半疑だったものの、私の要求に限りなく近い魔導人形を作ってくれた。それを可能にしたのは……私の協力だった。彼が作った空洞の魔導人形のパーツを全身に装着してしばらく過ごす。私の思考や動きを魔導人形のコアに記録していくのだ。そのコアは彼にしか作れず、彼も感覚で作っているらしく技術の原理はよくわからない。でもまあ、動けばそれでいい。そしてこの協力の過程で、身代わり計画をより強固にできそうなアイディアも生まれた。いくら魔導人形を鍛えたところで、やはり四六時中ずっと自然な受け答えをし続けるのは困難。それを私が身近でサポートするのだ。……魔導人形に化けて。

魔導人形を私に、私はお抱えの魔導人形という設定で付き従う。要するに、入れ替わるのだ。誰にも知らせず、こっそりと。両親にすら教えずに。だって、誰が暗殺に関わってるか知らないし。実際やってないゲームの一ミッションの背景とか知る由もない。

ただ、アルマスくんには流石に教えておく必要があるけど。私そっくりの魔導人形を作ってもらわないといけないし、それに何より……私を魔導人形に化けさせる作業も、彼一人にしか頼めない。

十年後。私は領地を離れ、ゲームの舞台である学園に行くことになった。王都へ移るにあたり、私はアルマスを付き人として指名し一緒に連れて行った。リリーのメンテも必要だしね。

「本気かよ? せっかくの学園生活を……コネとか作らねーといけねーんだろ?」

馬車の中で、アルマスは窮屈そうに自分の服を引っ張っていた。背は高く伸び、手足は細いが妙に筋肉質。ずいぶんとイケメンに成長してしまったもんだ。まあゲーム世界ならモブもデフォルト美形か……。

「平気よ。私もずっと傍についてるんだから」

私の身代わりを務めるリリーをレナータということにして、私は彼女の所有する魔導人形という設定で側にいることにする。お付きや護衛を連れてる人は多いから、そこに関しては大丈夫。ただ、流石に魔導人形を連れているのは私が初めてになるだろうな……。

傍にいて授業を見聞きし、リリーが築く交友関係を把握していれば、暗殺事件終了後、元通り私がレナータに戻っても、何事もなかったかのように生活できる。とはいえ身近にいたら暗殺に巻き込まれる危険はあるけど……爆破みたいなことにはならないと思うからまあ。何故って、校舎が損傷するような暗殺だったら死傷者一人は不自然。それにその後のゲームでもちょっと支障が出たはずだし。いやゲームだから細かいところは無視されただけと言われればそれまでかなあ……。でも、どちらにせよ流石にリリーを一人で私としてほっつき歩かせるわけにはいかない。私と伯爵家の名誉のために。まだまだ受け答えや動作には不自然なところあるもんなあ。

入学式の前日。私とアルマスは学園内の自室で二人きりになった。死ぬほど心臓が高鳴る。自分から言い出したこととはいえ……信じらんないことをしようとしている。バレたら処刑されちゃう……アルマスが。

彼が工房化した付き人の部屋で準備を終えたのを確認し、私は……部屋の扉に鍵をかけた。そして、高鳴る心臓を抑えながら、薄暗い蝋燭だけが光る密室の中で、全ての服を脱ぎ捨てた。

(う……み、見ないで……そんな目で)

貴族の淑女が全裸を晒す。庶民の付き人の前で。それもどこの馬の骨とも知れなかった孤児の。ありえてはいけないことだけど、しょうがない。私自身死ぬほど恥ずかしい。小さいころから友達だった彼の前でこんな風になるなんて。暗い部屋の中でも彼の赤い瞳は輝き、私の肢体をジッと見ているのがわかってしまう。

「ほら、やるぞ」

彼は肌色の塗料を一杯に用意して、シーツの上に寝転がるよう指示した。うー、何その冷たい反応は……。もうちょっと反応あっても良くない? 目のまえで貴族の令嬢が裸になってるのに。二人きりで。いや変な空気になられても困るんだけどさ!

アルマスくんは終始可愛い反応は示してくれず、淡々と私の肌に魔導人形用のうわぐすりと塗料を丹念に塗り付けていった。刷毛の毛先がこそばゆい。が、変な声を出さないよう私は頑張った。死なないため、死なないため……もう後戻りはできない。

背中に塗り終わり、ひっくり返って前面を晒す時は流石に私は我慢できず、愚図ってしまった。お前が言い出したんだろうが! と怒鳴るアルマスに半ば無理やり押し倒され、私は乳首や股間を含む全てを彼の前にさらけ出し、それらをテカテカした人形の肌に塗りつぶされていった。

(も、もうお嫁にいけない……)

恥をかいた甲斐あり、私は見事な魔導人形の容姿を手に入れた。テカテカ艶々したマネキンのような肌。肌色一色で血管も見えず、毛穴の一つも存在しない。そして髪を鮮やかな水色に染める。魔導人形は遠目からでも見分けがつくように、派手な髪色にすることが多い。ていうか、同じだと流石にバレちゃうし。

(わぁ……)

鏡を見ると、そこに立っているのは伯爵令嬢レナータには見えなかった。顔は同じだけど、マネキン化した顔はだいぶ印象が違う。アニメみたいな水色の髪も相まって、私は見事な生き人形に生まれ変わっていた。

「明日から、あなたがレナータよ。頑張ってね」

「はい、レナータ様」

「違うでしょ」

「わかったわ、リリー」

リリーの出来栄えも上場。顔は私そっくりで、肌も生きた人間のそれを上手く再現できた。私と逆に血管も見えるし。実際は血管なんかないのにね。

「ありがとう、アルマス。私の馬鹿な計画につきあってくれて」

「……フン」

アルマスはプイっと顔をそむけた。素直にならなかったなあ。十年経っても。

入学後、私の計画は一応上手くいった。私の領内ですごい魔導人形を作っているという噂は広まっていたので、誰もがそれを見せびらかしているのだと解釈し、不自然には思われなかった。

「すごいじゃないレナータ。あなたのお人形。噂は本当だったのね」

「ええ。もう人間に付き人なんていらないわ。リリーがいるんですもの」

皆がかつてなく人間に近い魔導人形を見て驚嘆する。……つまり、私を。

(……なんか騙してるみたいで申し訳ないなあ)

と内心思いつつ、私は背筋をピッと伸ばし、スカートの前に両手を重ねたまま、見当違いな賞賛を一身に浴びていた。皆が私を見て素晴らしい魔導人形だと褒め称える。実際の魔導人形はあなたの目の前の「レナータ」の方ですよと言ってやりたくなってしまう。どんな反応するんだろう。

誰も私が本物のレナータだとは気づかず、レナータが魔導人形だと気づかない。それはつまり、アルマスはそれだけすごいことをやってのけたということでもある。私は内心嬉しかった。

リリーの機能は見た目と応対だけでなく、食事機能もついている。本来魔導人形は魔力で動かすので飲み食いしないが、食べたものを魔力に変換する装置を体内に仕込んであるのだ。おかげで会食だって行える。……逆に辛いのは私。人前で食事しているところを見せてはいけないので、リリーと友人が食べているところを後ろに突っ立ったまま眺めていることしかできない。……ううぅ。お腹すいた……。

食事タイミングは「トイレ」の時。トイレという名目で二人して自室に戻り、そこでそそくさと昼食を取る。食事はアルマスが用意してくれている。

「だいぶリリーも人間らしくなってきましたね。まだ学習するんですね……すごいです」

私がリリーの成長を褒めると、アルマスが可笑しそうに噴き出した。

「プッ」

「……何ですか」

「口調」

「あっ」

ずっと魔導人形の振りをして、メイド服を着て生活しているうちに、私の立ち居振る舞いも「成長」していたらしい。うっかりメイド人形っぽく動いてしまうし、アルマス相手に敬語で会話してしまったりする場面も増えてきた。やだもう。

しっかしいつまでこんなおかしな入れ替わり生活を続けなければならないのか……。メインキャラたちも入学しているから、そろそろだと思うんだけど……。正直、髪をカラフルに染めてメイド服を着て他の貴族たちの前で過ごしていること自体相当に恥ずかしいしバレれば末代までの不名誉。結構キツイ。きついけど、慣れだしちゃってる自分もいる。このまま貴族の振る舞いを忘れて、すっかりメイド人形が板についてしまったらどうしよう。……流石にないか。

ある日、待望の(?)Xデーが訪れた。一階の通路を歩いている時、突如草むらから飛び出してきた黒ずくめの男がリリーを……「レナータ」を襲ったのだ。一瞬のことだったので、私は何も反応できなかった。人形のように。

目の前で、男はリリーの懐に瞬時に潜り込み、掌底でリリーを吹き飛ばした。次の瞬間ぱっとその場を走り去り、姿は見えなくなった。一瞬の沈黙の後、学園中が騒然となった。私も我を取り戻し、急いでリリーのお腹を隠すように覆いかぶさった。お腹が半分近くひしゃげている。近距離から魔法を打たれたらしい。

しかし、流石にこうなるともう隠し通すことはできず、医務室に運ばれてしまったリリーは人形であることがバレた。私は死ぬほど気まずい思いをしながら自分が本物であることを打ち明け、混乱に更なる混乱を上乗せすることになってしまったのだった。

「直ったぞ」

「わー、良かったです! さすがアルマス様ですね!」

主人公たちが犯人を捕まえるまで、私は自室に引きこもり外に出なかった。そして、壊れたリリーもアルマスが修理してくれた。これで全てが……五歳のころから私を悩ませていた問題全てが解決。ようやくレナータとして、堂々と学園生活を送ることができるんだ。

ところが、浮かれる私にアルマスが冷静な通告を放った。

「お前、その肌で出るのか?」

「え?」

一瞬、何のことだかわからなかった。そして、自分がまだ曇り一つない肌色一色の姿であることに気づいた。危ない危ない。こんな格好のまま部屋から出たら本当に物笑いの種だ。が、お風呂に入って入念に洗っても、私の肌はツルツルテカテカのまま、光沢を放ち続けた。

「アルマス様、これ、落ちないんですけど……」

「だろうな」

「へ?」

「まだ作ってねえし」

「へぇ?」

私の弱弱しいうめき声を聞いた瞬間、彼は吹き出した。面白い見世物でも見たかのように。彼曰く、私に塗りこんだ魔導人形の塗料は身体に浸透していて、除去できないと……除去するための薬はまだ作っていないと、あっけらかんと言い放った。

「……か、身体に悪影響はないって言ったじゃないですか!」

「ねえよ。病気にはならなかったろ?」

「困ります!」

「口調」

「あ……と、とにかく、冗談言ってないですぐに落としてください! ……?」

彼がまた笑った。対照的に、私はパニック状態になった。この冗談みたいな肌でこれから学園生活過ごせって言うの!? という憤りと、何故か敬語になってしまうことへの困惑。アルマスの推測だと、私に塗りこまれた魔導人形の素材に、私自身の魔力が変に浸透し合い、魔導人形のコアと同じ役割を果たしているかもしれない、と告げられた。

「つまり、どういうことでしょうか?」

「お前は今、本当に魔導人形ってこった」

「は……はいいぃいーっ!?」

結局、肌は元通りにならなかった。生きたマネキン令嬢として見世物になるよりかは、まだ恥をかかなくて済む方法が一つだけある……。私は屈辱ながらもアルマスに頼み込み、最後の手段を取らざるを得なかった。

「まさか、魔導人形と入れ替わっているとは思いませんでしたわ」

「本当、貴方の家の魔導人形は凄いのね。人間じゃないなんて思いつきもしませんでしたわ」

「うふふ、今まで騙していて悪かったですわね。でも、今日からは元通りですから」

「じゃあ、そっちのお人形が……この前までの『レナータ』なんですの?」

「リリーと申します。改めてよろしくお願いいたします」

私はスカートの裾をつまみ、お辞儀した。世紀の恥辱に耐えながら。……そう、私たちは元通りになってない。これまで通りリリーがレナータとして、そして私が……魔導人形リリーとして生活する道を選んでしまったのだった。だって……だって、こんな肌で笑い者になるなんて耐えられない。しかも肌が元通りにならなかっただなんて、一生以上馬鹿にされ続けちゃう。

……メイド服着てお人形の演技をし続ける方がもっとみっともない気もするけど……。

とにもかくにも、こうして私の「日常」は戻ってきた。これまで通り、まるで変わりのない日常が……。

(ま、まさか私……このまま本当に魔導人形になってしまうんじゃないでしょうねえ……)

相変わらずこの馬鹿げた入れ替わりを続けていることを知っているのはアルマスだけだけど……。日に日に、私は彼に逆らえなくなりつつある。身体が勝手に従順なメイド人形としての振る舞いを強めているのだ。何とかしてと彼に言っても、元に戻す研究は遅々として進まない。元々感覚派の職人だった彼のことだ、ひょっとしたら二度と戻せないかも……。

「よう、おかえり」

「ただいま帰りました、アルマス様」

ペコリと彼に頭を下げる。どこの世界に庶民上がりの付き人に頭を下げ、様付けする貴族令嬢がいるものか。でも、身体が勝手にこうなっちゃう……。

(早く何とかしてください~)

最近はそれを言葉にすることすら何故かできなくなってきた。彼はニヤニヤ腹の立つ笑いを浮かべるばかり。まさかこうなるとわかってて……いや或いは意図的に……。

「飯あるぞ」

「……いただきます」

時間遅れの夕飯を取りながら、私は部屋の片隅で静止している「レナータ」を眺めつた。こうして人食事をしている時間が、人であることの最後の証明なような気がする。或いは……アルマスが私の髪をくるくる巻いて遊ぶこの時間が。

「……私はアルマス様のお人形ではありません」

「そうだな、お前はレナータ様のお人形だもんなぁ」

彼はクックックッと、いつものように笑いながら、私の水色の髪をクシャクシャになるまで撫でまわした。愛おしいペットに対するように。

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POSTEDJun 8, 2024
ARCHIVEDJun 10, 2026