エピソード3 支配
「これをあたしが読めばいいのね?」
「え、えぇはい……そうです」
「ふふ、えっと……元に肉と心、樹に記憶との契約――
洞窟より女神の世界へ、ヴァルトブルクの谷を通り、レガリアよりきよ、女神の賛歌を聞き入れよ――
乱れ(成れ)。乱れ(成れ)。乱れ(成れ)。乱れ(成れ)。乱れ(成れ)。
繰り返し五度、時の彼方に刻印されし者に問いかける。
――告げる。
汝の身は我が元へ、汝の身体は我が歯牙へ。
杯の寄るべは力を破棄し、理はこの賛歌にて湾曲せよ。
誓え、凌辱を。
我は汝を呼び得る者。
汝は我に汚される者。
七天より言霊を欲望より引き込まれよ、
抑止の輪よりヴェーヌスベルクを経て来たれ、天秤の守り手よ――!」
可愛らしい声とは裏腹に私の背筋は凍り付いたままだった。
召喚の詠唱をしているのは身長130cm程度の幼女、いや幼女なんて話じゃない。
彼女の名前は南本美津華(みなみもとみつか)、一度没落したが500年前に復刻した魔術師の家系だ。
その子孫は日本で武官貴族の右腕として生きてきたそれはもう格式のある家系だ。
それだけならまだいいだろう、しかし彼女はその上で特別だ。
一見すれば幼女に見えるがその年齢は実に300歳、何らかの方法で半世紀に一度体を作り変えて子供の姿に戻っているらしい。
なのでその力は私では足元にも及ばない、粗相をすれば土下座の前に塵になっているだろう。
さて、そんな彼女は何を召喚したのだ――
「公太!!!」
即座に叫び腕に魔力の鎧を纏う。
公太、私の魔術の根幹を担う動物霊、エゾヒグマの公太。
私の魔術は動物の力を使う魔術、詳しい説明は今省くがエゾヒグマの腕の力を振るえる、とだけ言っておこう。
「ちっ……」
「ぐ、う……!! 鎖よ!!」
魔法陣から飛び出してきたサーヴァントは召喚されて直ぐ美津華さんの首を狙って刀を振るっていた。
弱体化したとはいえサーヴァントの一太刀、魔力で強化された私の腕でなければそのまま美津華さんの首を切り落としていただろう。
一太刀を受けられて舌打ちをし、また動こうとしたがこっちの方が早い、即座に鎖でサーヴァントを縛り上げる。
「わぁ、ありがとうございます。エーナさん♪ 危ない所をどうもです」
……いや、多分この人の場合なら首が落ちても平気だと思う。
見た目が幼女なので思わず助けてしまった。
「ぐ、う……虫の如き悪意を切り捨てるべきと動きましたが、ここまで弱体化してる、とは……」
鎖に縛られながらもその眼光は今にも美津華さんを射殺そうとしている。
これはこれで背筋が凍る、冗談抜きで凍傷にでもなるんじゃないかと思うくらいだ。
「うふふ、やっぱりうちに伝わった口伝通り、源頼光は女性でしたね」
「口伝……? そうですか、貴女は父上の……」
「今はそんな事どうでもいいんです。うふふ……自分が何をされるか、それは勿論理解していますよね? ふふ、うふふふふ……」
父上? えっと、源頼光の父上っていうと……源満仲で――あ、いやこれ以上突っ込んで考えるの止めよう。
きっと気になって聞いたところで答えて貰えないだろうしまだ塵になりたくないし。
「……こんな不埒な事を、何のために行うんですか?」
「いくつか理由はありますけど……その内の一つは、"わたし"がしたいからですね♪ 一度貴女を弄んで見たかったんですよ、口伝であった絶世の美女……そんな貴女をね?」
頼光を見ている美津華さんの眼は恐ろしくもいやらしい。
いや、まあ確かにその気持ちは理解できる。
美しい髪、整った顔立ち、そして、そして――
(いや、でっかくね?)
思わず口から出そうになった言葉を飲み込む。
でも凄いんだって、もう両手でも片乳掴み切れない程おっぱいでかいんだって。
「まぁ解っていると思いますけど、今から貴女をそれはもう滅茶苦茶にくすぐります……うふふ、くすぐられるのはどうですか? 頼光様?」
「くすぐられる、など……あんな物児戯や子へのお仕置き程度の事でしょう? 耐えればいいだけの話しです」
「ふふ、並みのサーヴァントならその発言を簡単に後悔するでしょうけど……貴女程精神力がある御方なら違うでしょう……」
美津華さんの言いたいことは何となく解る。
源頼光はどこか異常だ、セイバーの霊基で召喚し弱体化しているのに油断すれば此方の首を切り落としかねない程の気力を感じる。
まるでバーサーカー、狂戦士の様な暴走具合だ。
「ですが、ええ、この為にあたしも準備をしてきたんですよ? うふふ」
そう微笑む美津華さんも、同じような狂気を宿してた。
「さて先ずは、基礎の基礎から……その勘違いを正して、貴女の立場を解らせてあげましょう」
美津華さんが最初に召喚したのは自分と同じくらいの大きさの手。
浮遊する子供の手をいくつか召喚した。
それぞれが独立している様な動き、本来ならある程度自分の動きと連動させるのが基本なのにまるで別人のように動いている。
「……そのような矮小な手でくすぐるだけ、ですか?」
「ええ、早速始めましょう♪」
小さな腕達はまず頼光の服を脱がし始めた、両腕を上げ、足を広げるように拘束されている以上抵抗できずその素肌を晒していく。
自らの素肌が晒される感覚に彼女はほんのりと頬を染めている、へぇあの程度で恥ずかしがるんだ、以外。
「……破廉恥な」
「まぁ、これは辱める為の行為ではありません。調教、なのですよ?」
そういえば、私は美津華さんに一つ言われていた事がある。
頼光をくすぐり調教している間は喋ってはいけない。
曰く彼女には言ってはならない言葉、所謂地雷が多く何かの表示にその地雷を踏めばこの優位状態が崩れる可能性があるとの事だった。
正直、その言葉には頷ける。
源頼光の力は此方が完全制御可能なサーヴァントとは思えない、何かの拍子に此方の首が落ちていいても不思議では無いだろう。
「んっは……!?」
「あら、身体は敏感なんですね? うふふ、手がくっついただけでビクン、と跳ねて……本格的なくすぐりに、耐えられますか?」
「い、今のは、油断した、だけです……この、程度……!」
正直あの様子じゃ長くは持たないだろう。
美津華さんのくすぐる腕がどの程度のモノか解らないけど頼光の体が敏感なので勝負にもならない筈だ。
彼女自身の精神力が今後を左右するだろう。
「そうですか、それでは――先ずは軽く」
「く、んひ、ふ、ぐぐ、うぐぐぐぐ……! は、うう!」
先ずは軽く、撫でるように頼光の体をくすぐっていく。
彼女の体はかなり敏感でこれだけでも結構な反応をしている。
本当に、勝負にもなってない。
「うふふ、身体が敏感なんですね? それじゃあこの先辛いですよ?」
「ひふ、だま、りな……さ、いぃ……! この、ていどぉ、なんと、も……んひひぃ……! なんとも、ないぃ……!!」
歯を食いしばって震えながら耐える。
体を震わせるとその豊満な胸がぷるぷると揺れる。
わぁすげぇ、私も結構自信あるつもりだけどあれと比べちゃうと私でも貧乳扱いだよ、なんだよあれ、長期運営でインフレしたソシャゲかよ。
「本当に何ともないんですかぁ? なら、もう少しくすぐる手を早くしても、耐えられますよね?」
「んひぃ!? くぁ、あっひひっひひひひひひひひ……!? ふ、ぐ、ぐうううう……!!」
「あらあら、もう吹き出してしまいそうです? 武士として京を守ってきた貴女の姿、皆にも見せたかったですね?」
「ひ、ぐぅ、うひひひひひひひ!? お、のれ……! むし、がぁあっひひひっうぅひひひひひひひひ!!」
(うわぁ、えげつなぁ)
彼女の全てを崩す、と言っていたが何をするつもりなのか大体わかってきた。
あの源頼光を、自分より立場が下だと分からせるのだろう。
英霊として平安時代最強の怪異殺しと言われた彼女を下にする、と言っている。
それは、それはなんて。
(私の望む、『栄光』を汚す行為……)
「ふぁ、ああっああ、ひひひひひ……! ぐ、ぐぅうう、あっあ、あひひひひひっひゃ、うふふふ……! この、ていどぉ……!」
「ふっふっふ……確かに? この程度なら耐えられるかも知れませんね? でもぉ、本当に貴女が屈服するまで……じっくり楽しみたいと思うの♪」
「く、んあ!? あっあっあ、うぅぅぅぅ!! んぅひ、ひひひひひひひ……!! ま、また、うごきがぁひゃひゃひゃひゃひゃひゃ……!!」
また手の動きが早くなっていく。
美津華さんの動きは魔術師としても、くすぐる側に立つ人間にとっても感心するようなモノだった。
魔術師として、手を浮かせて相手をくすぐらせる、と言うのは私でも出来るだろう。
しかしあんなに多くの手を制御できるかと言われると話が変わる、多分同じ数を動かすのなら動きが単調な物になってしまう。
次にくすぐる側に立つ者として、なのだがこれも熟練の腕だ、その手の店でどっちも深めに経験している私でも上手いと思う。
(長く生きてるってだけあって経験豊富って事なのかしら? どうやってあの体になってるのかは、怖くて聞け無いけど)
「ふぐぅ、うんぅひひひひひっ、あ、あっくぅはっふふふふふふ……!! ふぐぅ! んぐぅううう……!!」
「あらら、もう我慢の限界って感じですね? くすぐったいですよね? くすぐったいですよねぇ? 何時まで我慢できますかぁ? 虫の様なあたしのくすぐりなんかで爆笑しちゃわないですよねぇ?」
おおいい煽り。
こういう武人、と言うべき人は自身が情けない姿を晒す事を忌避する人が多いからあえて自分がどうなってるかを煽るのはとても大事なのよね。
我慢をさせるように誘導して、その後に責めを強くして墜とす。
貴女の我慢は無駄でした、と嘲笑う行為。
「こ、の……! てい、どぉひひひひひひ、むし、ていどにぃひひひふふふふふふふ……!! あ、あぐぅ、ふーッ! ふーッ! ふぐぅふふふふ……!!」
美津華さんや私から見えてもとっくに限界は来ているのは解っている、あれは只の強がりだ。
なぜそんな強がりを出させているのか、というのにも理由はある。
余裕をドンドン無くして何も考えられなくする、そこに全力でくすぐる事で敗北感を植え付ける。
あんなに耐えていたのに、あんなに我慢したのに、全部は手のひらの上で踊っていただけだった。
その敗北感で心を折るのだろう。
(若干初心っぽかったしこの手の駆け引きは知らないんだろうなぁ……サーヴァントなのにその辺がちょっと歪というか……多分美津華さんが私に黙っていろって言ったのもそこが理由なんだろうけど)
不満がある、と言えばあるのだが源頼光の地雷は自分には解らない。
何かしらのスイッチがあるのだろう、セイバーという所謂王道のクラスに当てはめてなお残る狂気が。
その狂気の正体が解らないのなら下手な口を出すよりは黙っていた方がいい。
納得はしているが、まぁ暇なのだ。
「うふふ、頼光様……そろそろ本気でくすぐってあげますね?」
「は――? ほん、きいいいいっひゃひゃひゃひゃひゃ!? あ、ああっああああっはっはっはっはっはっはっはっはっ!?」
焦らしはここまで、と言わんばかりに美津華さんの操る手の動きが早くなっていく。
今までの様なお遊びの動きではない、くすぐられる苦しさを本格的に与える動きだ。
マゾならばその苦しさに快楽を感じるがそうでない物には本格的な拷問にも匹敵するだろう。
「あらあら、やっぱり耐えられませんでしたねぇ♪」
「んああっあははははははは!! いひゃひゃ、いいぃっひゃははははははははは!? やめ、やめぇへへへへへへへへへへへへ!!」
ひたすら苦しそうに悶える源頼光。
だがこれですら始まりでしか無い、そう彼女が自覚するのはもう少し先の話しだ。