■ 箱詰倶楽部の社長は、如何にして箱詰倶楽部の社長になると至ったのか。頑なに本名を明かさない訳とは。かつての恋人とはどうなったのか。いま、彼女の秘密のベールが脱がされ――るわけではないかもしれません。彼女が箱詰倶楽部を立ち上げたのは、大体皆さんが想像している通りだと思いますーw-ウム
■ 今回でこのお話は終わりです。箱詰倶楽部の秘密がひとつ明らかになりましたーw-ウム 社長の名前? それはまたいずれということで……考えてないとかじゃないよ?ーw0;アセアセ
■ 今回、実験的に文章の書き方というか、行間の取り方を普段とは変えてみてます。「読みやすい」か「読みにくい」かご意見いただけたら幸いです。コメントでも色々ご指摘いただけると嬉しいですーw-ペコリ
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懐かしい夢を見ていた。
私が意識を浮上させると、体はほとんど身動きが取れない状態にあった。
「んっ……」
微かに漏れた声は口の中に詰め込まれたものに吸収されて誰にも届かない。
喉の奥まで貫いているそれには、空気を循環させる装置と喉の振動を感知する機能がある。
また流動食などの生きるために必要な栄養を補給するための機能もあり――何日でもこの箱の中で過ごすことが出来るようにしてくれている。
実際、私がこの箱に入ってから、すでに数日は経過していた。
それでも全く問題にならないのは、技技名が作ってくれた数々の装置のおかげだ。
「……んんっ」
私は体に巻き付けるようにしている両手の内、片方の手に握り込んでいるリモコンを操作する。
すると、目を覆っているゴーグルの内側に映像が映し出された。
それは箱詰倶楽部の建物を高いところから見下ろしているような映像で、まるで各所の紹介画像のように、主要な場所の光景が横に浮かぶ小さな画面に移し出されていた。
(うんうん、皆順調にやってくれてるみたいね……♡)
技技名が新しい箱を作って居たり、会員の人が箱詰めプレイを体験していたり、しずなちゃんが受付で来客に対応していたり、私の作った箱詰倶楽部のいまの様子が一目でわかるようになっていた。
それを見ながら、私はその隣に別の映像を展開する。
パソコンの画面がそこに浮かび上がり、新着メールなどで重要なものが来ていないかをチェックした。
手に握り込んでいるリモコンはそれぞれの指を動かすことで、様々な動作をさせることが出来る。
本当は手の先まで厳重に拘束して箱詰めを楽しみたいところだけど、日々の仕事をこなすためには仕方ない。
全身が箱詰め状態なのに仕事が出来る時点で、かなり恵まれているので贅沢は言えなかった。
(特に重要な連絡はなし、と。それじゃあ、お楽しみに入ってもいいけれど……)
何となく私はもう一度箱詰倶楽部の様子を確認する。
丁度受付のしずなちゃんがフリーになっているのが確認できたので、受付のところにアクセスした。
すると、私の耳の中に押し込んでいる耳栓兼イヤホンから、しずなちゃんの声が聞こえてくる。
『相変わらず、なんだかんだ利用者はとぎれないんですよね……そんなに需要があるとはいまだに思えませんが……」
しずなちゃんは箱詰倶楽部で働いてくれているけれど、箱詰め願望はない人だ。
何度か仕事で箱詰めになってもらったことはある。それでも覚醒することもなく、あくまでフラットな視線と立場でいてくれている。
忌避するでもなく、受け入れるでもなく。
それはとても得難い素養であると思う。
そんな彼女が私は大好きだった。
(……よし!)
私はリモコンを操作して、音声機能をオンにした。
私の喉を貫いている装置には、私が声を出そうとする動きを解析して、そのまま音声を再現してくれる機能がある。
これのおかげで、全身ギチギチに拘束されて箱詰めされた状態でも、外の人と喋ることが出来るのだ。
しずなちゃんの独り言に応える形で、私は彼女に話しかける。
箱詰倶楽部には毎日のようにたくさんの箱詰め希望者が訪れる。
その会員たちをそれぞれの希望に合わせて捌き、予約の者たちを全員送り出した受付嬢・真藤馬しずなは、受付の中でこっそりと伸びをした。
「相変わらず、なんだかんだ利用者は途切れないんですよね……そんなに需要があるとはいまだに思えませんが……」
倶楽部で働いている以上、多くの利用者がいること自体はありがたい。
しかしその内容の特殊性から、そんなに利用者がいること自体が驚きではあった。
とはいえ、しずなも受付をするようになってからそれなりの時間が経っている。
初めて倶楽部にくる者たちを何人も見てきているため、この業界にもそれなりの需要があることは理解できていた。
中には倶楽部に来るために、海を渡ってくる者もいるのだ。
英語圏の言語だったため、問題なく案内できたが。
「社長の趣味でやってるようなものなのに、ほんとよく人が集まりますよね……」
『それは逆で、趣味でやってるからよね』
しずなの独り言に返事があった。
受付内のパソコン画面に、社長の顔が映し出される。
実際の社長の顔を映しているわけではなく、箱詰めされている社長の脳波を読み取り、浮かべている表情を事前に作成された社長のCGモデルに表現させているという形だ。
箱詰めされたままでも、ビデオ通話などを活用することで仕事ができるようになっている。
これは「箱詰めされたままで仕事がしたい!」という社長の変態的な執念が成立させた仕事のやり方である。
『どういう意味ですか?』
『そのままの意味よ。同好の士である私自らが活用するために作られた設備や人員、そしてシステムなんだから、下手な営利企業よりずっと安心できると思わない?』
「それは……人によるとしか言えませんが」
『しずなちゃんらしすぎる答え! ほんと冷静でフラットで……だからしずなちゃんは信頼できるのよね〜』
手放しで褒められ、しずなは少し気まずそうに視線を逸らす。
彼女にしてみれば、そこまで特別なことを言っているつもりはないため、反応に困ってしまうのだ。
それこそが彼女が評価される得難い素質なのだが。
「……いまだに不思議なのですが、社長は何でこのような形態の企業を作ろうと思われたのですか?」
『みんなが安全に気兼ねせず箱詰めを楽しんでくれたらいいなって思って』
「それはわかりますが、それだけで技技名さんや雷麗寺さんのような方々を集められますか?」
技術部主任の技技名も、専属医師である雷麗寺も、どちらもそれぞれの分野で大成しておかしくない人財だ。
二人はそれぞれの分野で箱詰め倶楽部以外にも活動しているらしいが、それでも箱詰倶楽部を第一に活動しているのは間違いない。
技技名は多少箱詰願望を持っているため、まだわからなくはないが、雷麗寺の方はそう言う気配もない。
そんな人材を確保するのには並々ならぬ苦労があったはずで、社長がそこまでのことをする理由にはなっていない気もする。
『お一人でここまでの組織を作るのは大変でしたでしょう』
『まあ、それはそうねぇ。……本当は、二人でやるつもりだったし』
「二人……ですか?」
『ええ。箱詰倶楽部の構想は彼女がきっかけで生まれたの。私を初めて箱詰めしてくれた人でもあるのよ』
「その方はどうされたのですか?」
しずなは何気なくそう尋ねた。
すると画面に映し出されている社長の顔が泣きそうに歪む。
『……彼女は、SMでいうとS側でね。私を箱に詰めてくれたのだけど……本当は、自分も詰められてみたかったみたいなの』
「……なるほど」
『私に言ってくれてもよかったのにね。そういう関係にあったからこそ、私には言えなかったみたい。でも私を箱に詰めたことで、その気持ちが抑えきれなくなったみたいでね。一人で箱詰めプレイをしちゃって……』
「……」
「私がもう少し早くに気付けたらよかったんだけど、気づいたときには三日も経っちゃってた」
「それは……」
箱詰倶楽部には長期箱詰プランというものが存在する。それなら三日三晩ぶっ続けで箱詰めされ続けても問題はない。
ただそれは技技名の超技術と雷麗寺の医療技術があってこそのプランだ。
そう言ったものがない、ただの箱詰めプレイではそう長く保ちはしない。
水を飲めないだけでも、人は死ぬ。
社長は無理に声を明るくして告げる。
『そういうこともあって、一人でも安全に箱詰を楽しめる倶楽部を絶対作ってやる! ……って思ったのよね』
「なるほど……そういった経緯があるなら、社長の執念も少しは理解できます。その方については、残念でしたが……」
『そういうことがあってから、クラブを作るまでには何年もかかっちゃったから、どうやっても間に合わなかったけどね……そもそも、当時に箱詰倶楽部があったとしても、私がトップにいたんじゃ、彼女は利用してくれなかっただろうし』
ままならないことはあるのだ。
しずなは社長の執念に納得出来た。
「この倶楽部があることで、そういう方が出なくなればいいですね」
『そうね! それがなによりだわ。……さぁ、今日も箱詰めを楽しむわよ〜!』
そう宣言した社長の顔が画面から消える。
それを確認したあと、しずなはいつも通りの受付業務に戻るのだった。
社長が倶楽部にかける執拗なまでの執念の理由がわかった。
だからといって、彼女はいい意味でも悪い意味でも変わらない。
新しく倶楽部にやってきた利用者に向け、受付嬢として笑顔を浮かべる。
「いらっしゃいませ。箱詰倶楽部へようこそ。初めてのご利用ですか?」
様々な者が関わって、今日も箱詰倶楽部は運営されている。
おわり