skeb様にて依頼いただきました「立てば息切れ、腹は太く、休む姿は乱れすぎ」(https://www.pixiv.net/novels/unlisted/Go2ex6gp3o4rreCqCVuy)の続編で、「西住しほがリバウンドする」作品です。
改めてご依頼ありがとうございました。
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「はぁ・・・はぁ・・・!!」
走る・・・というよりはドタドタと歩く回ると言った方が正しい速度と足音で、一人の女性が荒い息と共に走っていく。
早朝の涼し気な気温と澄んだ空気の中、汗を滝のように流しながら特注サイズのジャージに目深くかぶったつば付きのランニングキャップに身を包んだ女性は押し寄せる雑念を振り払うようにしながら走る。
「おはようございます」
「お、おはよう・・・ぜぇ・・・はぁ・・・ご、ございます・・・!!」
途中で同じ様にジョギングをする初老の男性が話しかけて来たのにビクッと反応して、思わず足を止めてから答える女性。
男性は自分と同じくダイエットかなと最近前に出てきた腹を気にしながら、それでも自分よりずっと太っている女性を見てああはならないようにしようと決意する。
それを見送りつつ、女性は呼吸が落ち着くまでその場で立ち尽くしていた。
大した距離を走ってないのにも関わらずに震え、疲れで今にも座り込みそうになる足を気合だけでなんとか伸ばしたままにする女性は、男性が自分に気付いてないことに安心していた。
「・・・ここまで変われば・・・はぁはぁ・・・わかるはずもないわね」
そう言って既に汗で湿っているリストバンドで額の汗を拭きながら、女性──西住しほは自分の体を今一度確認した。
たっぷりと肉がついた胸は今もなおその存在感を表し、腹と合わせて激しく揺れるがゆえにジャージのファスナーが徐々に開き始めている。
その下の腹は今でもたっぷりとの贅肉を付け、伸縮性のあるズボンに包まれそのデカさをよく見せている。
同じくズボンに包まれた足は娘二人の腰周りをあわせても足りるかどうか・・・それが二本もアレばその幅は推して知るべしだろう。
ギリギリで収まってる尻は以前よりは一回りか二回り程は小さくなったが、それでもなおその大きさは特大であり、戦車のハッチ等通れるはずもない。
背中はジャージで見えづらいがそこにも確かに肉が存在し、汗で張り付いた分その脂肪が浮かび上がっているのがわかる。
首は未だその姿を戻してはおらず、顎肉と一体化したままであった。
だがその太さは以前よりは大分細く、つながる頬を見ればその肉量は大分落ち着いたのがわかるだろう。
「ふぅ・・・ふぅ・・・よし、続きを!」
息が整い、再び走り出すしほ。
以前帰省したまほとみほに醜態を見せつつもある程度わだかまりが溶けたあの一件からしばらく。
二人に会ったことで西住流としての在り方を自分に問うたしほはこのままではいけないと一念発起し、ダイエットを敢行。
この歳になって今更始めるダイエットに、慣れないうちは大分苦戦していた。
そもそもまともに運動できる体型ではなく、歩くのすらやっと・・・起き上がるのだって自分だけじゃ無理だったのだ。
それをかなり厳しい食事制限と動かし安い腕を中心とした風呂等を使った軽度の運動から始め、徐々に徐々に痩せていった。
ようやくある程度走れる程まで痩せた彼女は、走り込みを中心に切り替えようやくここまで痩せたのだ。
今もこうして朝・昼・夕と毎日欠かさず走り込みをしているお陰か体重は今も減り続けている。
一日ごとに軽くなっていく体重に心もどこか軽くなる思いのまま、しほは残ったコースを走り続けていくのだった。
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「ふぅ・・・少し・・・距離を・・・はぁはぁ・・・伸ばしすぎたかしら・・・」
その日の午後。
いつも通りの菊代が用意した制限された食事を食べ終え、食後の休憩を挟んでからしほは再び走り込みに来ていた。
気温もあまり上がらず、涼し気な風に包まれたしほは朝よりもやや長めに走り、気づけば街の近くまでやってきていた。
走っている途中はある程度気分良く走れていたが、こうして休憩してしまうとどっと疲れが出る。
「・・・少し休憩を長く取りましょう」
流石に膝が笑っているため、これ以上無理すれば怪我に繋がりかねない。
そもそも普通の人間だったらゆっくり歩くので手一杯な体型なのにここまで走れているのが異常であり、それが西住しほという女なのだが・・・
とにかくどこかで腰を下ろしたいと思ったしほは辺りを見回し、なにか飲食店かなにか無いかと探す。
とはいえ街からすればまだまだ外れの方。
いくつかぽつぽつと見える建物は民家が多く、喫茶店の様な物もなさそうである。
仕方無しにゆっくりと歩きながら街の方へと足を進めるしほ。
そうすれば流石になにかあるだろうと思いつつ歩いて十数分、いよいよ足が動かなくなりそうな頃しほの目に一軒の店が見える。
少し寂れて入るが看板はしっかり出ており、商い中の立て札もある。
見れば軽食の文字と一緒に見えるは手書きのサンドイッチの絵。
それを見た瞬間、ぐぅぅぅぅぅううう!としほの腹が唸り声を上げる。
この体でガス欠は無いだろうと思い、それこそコーヒーかなにかを一杯だけ頂くつもりだったしほだが、体の奥底から響く音はいつまでも鳴り止まない。
「・・・まぁ少しならば」
軽食ともあるし、流石に一切れ二切れ位ならば・・・と店に入るしほ。
腹がつっかえるギリギリだったが、とりあえず通れて一安心のしほに店員が慌ただしそうに近寄ってくる。
「い、いらっしゃいませ!!」
「ええ・・・一人、なのだけれど」
「か、かしこまりました!こちらへどうぞ!!」
まだまだ新人なのだろうか・・・随分とぎこちない様子でしほを店の奥へと案内する店員。
通された席はボックス席の中でもかなり広めな席で、その事に自分の体のサイズを改めて実感するしほ。
相変わらず緊張気味の店員が持ってきた水を一口口に含んでから、テーブルにあったメニューを手に取りパラパラとめくる。
そんな中、一つしほの目に止まったのはサンドイッチセットの文字。
サンドイッチとサラダとコーヒーのセットで、それぞれ対応するメニューから1品ずつ選べる仕様だ。
これなら丁度いいだろうと思い、テーブルに置いてあるベルで店員を呼ぶしほ。
丁度近くを通りかかった例の新人店員がしほの近くにやって来たので、しほは指差しをしながら注文をする。
「このサンドイッチをお願い。飲み物はアイスコーヒーで」
「は、はい!!サンドイッチセットですね!?サンドイッチはどうしますか!?」
「これを」
さっきからサンドイッチの写真を見ているせいか、空腹が限界に近づいているしほは何でもいいかと適当に【ハムと玉子サンド】の文字を指差す。
「は、はい!!かしこまりました!!」
メニューの復唱もせず、あわあわとしながら戻っていく店員。
それを見ながら、ふと自分の娘であるみほの事を思い出した。
小さい頃はお転婆だったがここ最近は大人しくなりすぎた程変わったみほ。
もし彼女がアルバイトやらでこんな事をしていたら・・・?
(あの子もああやって慌てるのかしら?・・・いえ、あれで芯が太い子だからそうはならないわね)
慌てる姿に一瞬みほが重なったが、でもああ見えてと思い直すしほ。
そんな事を考えたり窓から見える景色を適当に見ていた頃、ガチャガチャと大量の皿が小さくぶつかるような音がする。
「お、おまたせしましたぁ!!」
その声にしほが顔を上げると、そこには先程頼んだ店員の他にも何人かが幾つも手にした皿を持って並んでいた。
セット一つを運ぶにしてはいくらなんでも仰々しいいだろうと思うしほの前に次々と並べられていく皿。
想像しない光景にあっけにとられるしほを横目に、店員が持ってきた全ての皿がテーブルに並び、そして埋め尽くした。
オマケに置かれたアイスコーヒーはジョッキサイズである。
「こ、これは・・・?」
「え・・・サンドイッチセットのスペシャルセットです・・・けど・・・」
聞き覚えのないスペシャルの言葉に慌ててメニューを手元にやりページを確認するしほ。
そこにはハムと玉子サンドの横に【スペシャルセット(大食いチャレンジメニュー)】の文字があった。
自分の指が太かったのか、はたまた店員の確認ミスか。
どうやらいつの間にやら自分はとんでもないものを頼んだ事になっている事実に愕然とするしほ。
頼んだものが違うと文句を言おうと思い新人店員の方を見れば、その顔は既に青ざめていた。
どうやら間違ったオーダーを受けてしまったのではないか?という考えに彼女も至ったらしく、よりによって一番間違えてはいけないメニューを出してしまった事に声も出てないようだ。
その様子を見て、以前のみほが再び重なって見えるしほ。
みほも一度は戦車道をやめる話となり、それが彼女をかなり追い詰めていた事がある。
「い、いえ・・・思った以上に多いから驚いただけよ」
「そ、そうでしたか!!良かった・・・ではごゆっくりどうぞ!」
そんな考えからか、つい口から出たのは彼女をかばう言葉だった。
よく見れば周りの店員もどこかホッとした様子である。
それはそうだろう・・・これだけの廃棄が出るとなれば店側の損失はかなり辛いはずである。
しかし・・・辛いのはしほも変わらない。
当然資金的な意味や胃の容量的な意味ではない。
「・・・はぁ。ダイエットに来てこれでは・・・」
目の前に並ぶサンドイッチを全て食べた時のカロリーを考えれば、手を伸ばしたくなくなる・・・のだが。
体は正直と言うべきか、空腹に鳴く胃袋が早く入れろと叫びだす。
頼んでしまったのだし・・・と、仕方なく手をのばすしほ。
だが一口食べればそんな思いもどこへやら。
軽く焼いてパリッとしたパンと丁寧に刻まれた玉子と混ざったマヨネーズの旨味。
そこにほんの少しカラシの風味が乗り、懐かしさと美味しさを同時にしほは感じていた。
そのままの勢いで1つ目の玉子サンドを食べ終えれば、その刺激で本格的に稼働し始めた胃袋が更に騒ぎ出す。
ハムサンドも一緒に挟まったレタスは鮮度がよく、BLTサンドはカリカリ直前まで焼かれたベーコンの旨味とトマトの酸味が余計な脂感をなくしとても美味だ。
ツナサンドは中にきゅうりが挟まり、その食感と清涼感がツナとマヨネーズの重さを軽くして食べやすくしてある。
焼いたパンはその分食材の余計な水分を吸い取り、程よくしっとりした部分がコレまた絶妙である。
次々に食べ進めるしほだが、そうなればいくらなんでもパンのパサパサ感が顔を覗かせる。
そこにアイスコーヒーが程よく口を潤し、その苦味と酸味が同時に口をリセットさせる。
こうなれば最初は多いと思ったジョッキサイズも逆に頼もしい事この上なく、その力も借りつつしほは次々とサンドイッチ食べ進める。
気づけばアレだけ有ったサンドイッチも全て胃の中に収まり、アイスコーヒーを飲み干したジョッキの中で氷がカランッと音を立てる。
「う・・・ぷっ・・・」
と、食べ終えたは良いものの・・・しほは急激に来る満腹感に襲われていた。
そもそも1時間半程前に食事をきちんと食べたばかりである。
ある程度消化していたとはいえ食べ物が確かに残っていた所にこの量のサンドイッチとジョッキのコーヒーを流し込めば、いくら胃が大きくなったとはいえ流石に厳しい物がある。
「これは・・・歩いて帰れる状態じゃ無いわね・・・」
ぼっこりと膨らんだ腹を抑え、久々の満腹感を味わうしほ。
そのまま歩けるまで回復した彼女はなんとか立ち上がると、チャレンジ達成の記念品として貰った割引券を持ってよたよたと店を出てタクシーを拾うのだった。
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「はぁ・・・はぁ・・・」
通行の関係──それと自宅から自分がわかるのを恐れて──で少し離れた所にタクシーを停め、よたよたと歩いていくしほ。
元々今の彼女の足で歩ける程度の距離であり、タクシーを使えばものの数分で着く距離だ。
とすればその数分で胃袋が回復するわけもなく・・・彼女は朝よりもずっと重くなった腹を抱えながら家へと向かっていく。
裏手に回ろうとゆっくり路地へと回ろうとした時、しほは玄関に続く道に宅配のトラックが停まっているのが見えた。
どうにも大勢の人間が幾つもの荷物を自宅に運んでいるらしい。
しほは嫌な予感を受けつつ、重い体を引きずるようにしながら走り、脇腹を痛くしながら勝手口へと入り込む。
「はぁ・・・ぜぇはぁ・・・菊代・・・何事ですか・・・?」
次々に運び込まれてくる荷物の振り分けをしている菊代を呼び、事情を問いただすしほ。
菊代も随分と困った顔をしながらしほに事情を話し始める。
どうやら例の文科省の進める選手強化トレーニングの結果がどうなるかをデータとしてまとめ、まほが各学園や関係各所に提出したらしい。
当然誰が実験体になったかは伏せてはあるが、そのデータそのものは一切改ざんせずに出したのだ。
その結果もう少しで文科省に騙されるところだったと戦車道の選手達が声を上げ、それで騒ぎが大きくなりかなり大きな問題に発展しかねたのである。
当然文科省はしほに対して渡した資料とは別のものを出すつもりだったのだが、先にまほがデータを出した為に今更何を出しても後出し状態に。
結局強化トレーニングは色々見直しをせざるを得なくなり、更に言えばトレーニング設備なども特定の業者に買わせる動きも有ったことが判明し本格的な問題へと発展。
一応未遂ということもありまだ関係者だけで止まっている為世間では大きく騒がれては居ないのが文科省はせめてもの救いだろう。
と、これで終わればしほも心穏で澄んだのだろうが・・・
「どうやらまほお嬢様にお礼をと皆さん色々お送ってくださったみたいで・・・」
戦車道は乙女のたしなみ。
ならばこそ礼儀関係はかなり重要視される。
つまるところ、問題を解決したまほに何もしないのは戦車道に関わるものとしてよろしくないのだ。
ならばどうするかといえば、通常なら彼女の所属する学校や団体に御礼の品を送るのが通常なのだが、彼女は現在ドイツに留学中。
黒森峰女学園に送っても良いのだが、今回の活躍はほぼまほ一人のもの。
となれば残った手段は唯一、実家である西住流本家である彼女の自宅に送るのが一番なのだ。
幸い西住流本家となれば住所は戦車道雑誌などで掲載されたこともあり、知っている人間が多かった。
その結果、あらゆる戦車道に関わる組織・学園からこうして荷物が届いているのである。
最初の荷物が届いてすぐに菊代もまほに連絡を取ったわけだが、まほもそう簡単に地元に帰れるわけがない。
『手紙や戦車のパーツやらそういった物は今度帰ったときに確認するので、賞味期限などがある食品なんかはそっちで処理をして下さい』
結局まほもそう言うしか無く、仕方なく菊代も食品とそれ以外で分けてとりあえず倉庫やらなんやらに運び込ませている・・・というのが現状なのだ。
「・・・そう。とりあえず運び込みが終わるまでは任せます。私は少し休んでから今回のことについて確認するから何かあれば呼びなさい」
「かしこまりました」
そう言って自室に戻るしほ。
嫌な予感はこれだったかと思いつつ、しかし未だ離れない悪寒を背負いながらしほは児玉七郎の元に電話をかける。
挨拶もそこそこに文科省が今後どうなるかの連絡等を受け、今回の決着の大体の見通しが立った頃にようやく児玉との通話が終わったしほはその体を床に下ろした。
ともあれ今度こそこれで決着し、後は送られてきた荷物の処理をどうするかどうかだけ。
やれやれとため息をつくしほに、襖を開けてしほが恐る恐る声をかける。
「失礼します・・・荷物の整理が終わったのですが」
「そう・・・ご苦労様です」
「それで・・・少し確認していただきたことがありまして」
「・・・?」
家の仕事は殆ど菊代がやっている。
そんな彼女が自分に確認しなければならないことなどそう無いはず。
訝しみながらもしほは重い体をなんとか持ち上げ、菊代について歩いていく。
そして着いた先でしほが見たのは・・・
「・・・これ、全部そうなの?」
「はい・・・全部食料品関係です」
一部屋丸々使ってもなお溢れ出す大量の食料品の山であった。
これには当然理由がある。
まず第一に、まほは西住流の娘だ。
となればそれなりに裕福であり、なおかつ本人が余りお洒落に気を配るタイプでもない。
ならば下手にアクセサリーや服を送るのは憚れるし、戦車のパーツ等はそれこそ西住流の家に送るものではない。
第二に、今回影響を大きく受けたのは主に学園に所属する面子であること。
学生が戦車道をすれば当然金はカツカツになりがちであり、それでなくとも学生が稼げる額で送れる物など限られてくる。
ではどうするかとなれば、『そこそこ安く見栄えもよく、なおかつ有って困らないもの=食べ物』となるのだ。
その結果、約8割以上のお礼が食料品となったわけである。
そして、更に悪いことに・・・
「それで・・・賞味期限が短いものが多く・・・」
「・・・そう」
そう、賞味期限が短いのだ。
というのも、そこそこ良いお礼をしようとすれば当然良い物を送ることとなる。
学生が手を出しやすく、なおかつ学生に向けて送るならば当然お菓子類が多くなる。
ここで見落としがちなのだが、焼き菓子=長持ちというのは絶対の法則ではないことだ。
品質に拘るがゆえに賞味期限を短めに設定している所も数多くある。
だが、どうにも日本人は焼き菓子は長持ちというイメージが強くあるらしく、『まほが留学していることは知っていても焼き菓子なら持つ』という思い込みからかなりの量のクッキー等が届いた。
中には『まほが食べなくても家族の誰かが食べるだろう』位の気持ちでより賞味期限が短い物を送る者もおり、それが更にしほを悩ませる。
当然、これを捨てろというのは簡単である。
だが、それを是とする程しほは人でなしではない。
となればどうするか?当然食べるしかない。
では誰が食べるのか?
菊代か?彼女も勿論食べるが彼女の胃の量では追いつかないだろう。
まほか?彼女は今ドイツだし、一人増えたとしても余り変わらないだろう。
みほか?彼女も学園艦に乗り今はどこにいるのか・・・それにみほも大食いというわけでもない。
ならば・・・
「・・・ダイエット中だというのに」
ならば自分しかいない・・・そうしほは結論づける。
当然高カロリーの菓子類なんてダイエットの敵でしかない。
せっかく痩せてきたのに、こんな物を大量に摂取すれば元の木阿弥・・・いや、それ以上かもしれない。
だが・・・同時に彼女は戦車道の中でも有数の西住流の家元でもある。
礼には礼を尽くす。
相手の礼を無下にするのが果たして乙女のするべきことだろうか?
いかなる犠牲を払ってても勝利する。
「西住流に逃げるという道はない・・・」
西住流の家元として、決して安くない代償を支払ってでも解決するべきだろう。
もしかしたら、心のどこかで先程の大食いが糸を引いているのかもしれない。
それを考えないようにしながらしほは菊代に菓子の処理についてを伝えると、意を決して近くの菓子箱を手に取るのだった。
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さて、そんな菓子漬けの生活をして果たして体型を維持できるのか?
答えは否である。
追加で届く食料品。
減っていく運動量に反比例して増えていく食事量。
今までとは逆で、そして懐かしい日増しに増える体重で重くなる体の感覚。
今までの最大体重を超え、それでもなお増え続ける体重。
服が入らなくなり、それでもなおしほは食べることをやめることはない。
しほに合わせるように徐々に丸くなる菊代と、その倍近い速度で太っていくしほ。
いつしかそれに合わせるように食欲の際限は無くなっていき、菓子だけではなく食事もしっかりと摂るようになっていく。
そして数ヶ月がすぎる頃には・・・
「ぜぇふゅー・・・菊代・・・次を・・・」
「は、はい・・・」
のそのそと菊代から受け取った菓子を手にし、食べるしほ。
その体は戦車道の最古にして最大流派である西住流の家元とは思えないほどの肉に覆われていた。
たっぷりと、片方だけでも数十キロはあるであろう胸は大きく前に突き出し、以前と違いその肉量が故に球体に近くなっていた。
それを支える腹はほぼ体の全てと言ってもよく、背中の肉と合わせてとんでもない贅肉の固まりがそこにあった。
ギリギリ見える足はもう動かせるところなど無いと言わんばかりに肉で覆い隠され、『可動』なんて言葉はもう無い。
尻は常に床に居るからか横にあふれるように育ち、飛び出た部分がまるで逆に自分がソファだとでも言いそうなほどの分厚さをほこる。
腕は極度に肥大化した二の腕が分厚すぎる脇腹と干渉しまっすぐどころか斜めに降ろすのでさえ厳しい。
首は新たに肉の段が生み出され、顔と合わせて一つなった顎を逆に目立たせるようになっている。
咀嚼のために口を動かす度に揺れる頬肉は顔のラインを丸どころか大きく膨らませ、押し上げられた頬肉で細まった目はその鋭さを更に厳しいものにしている。
まさに肉の塊と言うにふさわしい状態にしほはなっていたのだ。
「・・・」
新たに渡された菓子を食べながら、しほは自分の体について思う。
まさに怠惰の固まりであり、これでは西住流の名が泣く。
それは分かっているが、同時にこの体にならなければしほの中の西住流は死んでいた。
果たしてどちらが正しかったのか・・・しほも分からない。
「あっ・・・」
そんな事を考えていたからだろうか、手にしていた焼き菓子の一つがぽろりとしほの手からこぼれ落ちる。
深い深い胸の谷間に落ちたそれを拾おうとして手を伸ばし・・・そして全然動かせない事に気づく。
体のあちこちが脂肪で覆われ、それがぶつかり合う事でまともに体が動かせないのだ。
「・・・菊代。ふぅふぅ・・・悪いのだけれど・・・」
「わかってます。少し失礼いたしますね」
菊代はそう言うと、彼女も大分太くなった腕でしほの胸の間に手をのばす。
ぬるりと、しほの汗が菊代の腕を濡らし、そして柔らかく重い肉がその腕を挟み込む。
「んっ・・・」
「ありました・・・でもこれは・・・」
「いえ、それは私の責任です」
菊代の腕が胸をまさぐる感覚に少し違和感を感じながら、ようやく取れた焼き菓子を受け取るしほ。
それは既にしほの汗で少し湿り気を帯びており、食べるのには少し躊躇がいるものだ。
だがしほはそれを食べると、ふぅと息を吐く。
責任と言いながらもただ自分の欲望で食べるというあまりにも浅ましい様子。
食欲に負け、怠惰の余りまともに動くことすら出来ない重い体。
戦車に乗るどころか足すら上がらないのだから、最早痩せることなどかなわないだろう。
しほは西住流の心意気が書かれた掛け軸をちらりと見ると、まほに譲る日も近いのだと考えるのだった。