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【全体公開版】うちの雇い主の管理趣味が過ぎるんだが!

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 金が欲しかった。

 

 おれは別に何かに秀でてるわけでもない、得意はあるが才能があるかと問われると首を横に振るだろう。強いて言うなら体がでかくて、昔からやんちゃな奴に絡まれることが多かったくらい。顔だってこわもてなサメで、舐められたことなんて人生で一回もない。

 んで、それを活かそうと思えばやっぱり業種は限られるわけで。


 おれは格闘技もたしなんでたから、金持ちがSPを募集してると聞いてこれ幸いとすぐさま飛びついたのさ。

 だけどまさか、それがこんな職場だとは思わなかった――――


****


「うん、じゃあ今日もよろしくね」


 朝日に照らされた庭で、日課が行われようとしていた。広大な土地の一角には黒いスーツの男たちが並び立ち、噴水を囲んでいる。彼らは住み込みのSPであり、今は仕事の最中だった。


 彼らの口元が引き締まっているのは緊張のせいであり、その原因は雇い主である猫の男。人のいい笑顔を浮かべているが、その内心は毛皮と同じく真っ黒なことで、SPたちの間でも共通認識となっている。


「まずは……夢精した人」


 無邪気に告げられる声に、おずおずと数人のSPが手を上げる。射精を禁止されているためいつか訪れることなのだが、彼らはサングラス越しでも憂鬱を隠しきれていなかった。


「あーあ」にんまりと楽しそうな声で。「我慢できなかったんだ。私が駄目だと言ったのに」

「お、お許しを……」


 一人が小さな声で懇願するが、それが届くようならこんなことはしていない。性悪な雇い主、綾金 澄香(あやがね すみか)は哀れな下僕の声を笑顔で跳ねのけた。


「夢精した人は今日お留守番だね。もちろん、トイレは禁止で」


 黒猫の命令に上がった手の指先がしおれていく。朝食に利尿剤を飲まされた彼らの膀胱は、すでに限界に達している。澄香が戻ってくるのがいつになるのかわからない以上、もはやその命令は拷問だ。


 SPは誰もが屈強な雄であり、澄香と比べれば体の分厚さはまるで違う。

 だがこの場を支配しているのは、間違いなく黒猫だった。


 それでも馬鹿正直に申告するのは、隠しきれるものではないからだ。現に彼らの股間からはザーメンの雄臭い匂いが広がっていて、綺麗に整えられた庭とミスマッチを生んでいる。下着を変えることが許可されていない彼らは、ザーメンが付いたパンツのままスラックスに足を通さざるを得なかった。


「でもそれじゃあみんな大変だろうから……今だけ許可してあげるよ」


 本来なら、SPたちは安堵すべきなのだろう。利尿剤で膨らんだ膀胱を解放してくれるというのに。

 だが黒猫がそういう意味で言ったわけではないということ、この場の誰もが理解している。


 なぜなら彼らは『ズボンを脱ぐことを許可されていない』のだから。


「……ん? どうしたんだい?」


 肩を震わせるだけの彼らに、柔らかい微笑みが向けられる。一皮むけば真っ黒な表情を前に、選択肢など残されていない。


 朝日の差す庭でスーツを着たまま漏らせと、そう澄香は言っていた。


 ここを逃せば排尿の許可は得られない。だがこんな大勢の前でおもらしをするなど、大の大人としては苦痛以外の何物でもない。


 それでも彼らができることは黒猫の言う通りにすることだけ。綾金家の富と権力にたてつくことの愚かしさは、現代社会に生きる者ならだれでもわかっていることだ。


「早くしてくれないと、遅れてしまうよ。朝から会議も入ってるんだからさ。私は足を引っ張るSPなんていらないんだよ」


 などと言われてしまえば、肩を震わせて恥辱を受け入れるしかない。

 かわいそうにも手を上げた数人は、ややあって、黒いスラックスの股間にシミを広げていく。じょわじょわと、生暖かくなる感覚が広がって、雄たちは硬く目を瞑る。今は周りの顔も、猫の愉悦も、何も見たくないと言わんばかりに。

 黒い生地の変色によって、尿の流れは鮮明になっている。日光によって隠し切れない光沢が足元にも広がって、綺麗な革靴も排泄物によって艶を強めていた。


 利尿剤を投与されたせいで排尿は滝の如くで、裾まで流れ落ちるものだけではなく、股間からじょろじょろと滴るものもある。男たちはしゃがみ込んでしまいたいほどの羞恥に身を焼かれているが、雇い主の愉悦を孕んだ視線はそれを許さない。


「うぉ……おっおぉぉ……」


 誰かから屈辱と開放感の混ざった声がする。アンモニアとザーメンの混ぜ込んだ匂いをまき散らすなど恥でしかなく、胸中では早く終わってくれと切に祈っていた。


 澄香の集めた屈強な雄たちがおもらしをしながら、胸を張らざるを得ない状況に追い込まれている。それは黒猫の嗜虐心を満たしていき、尻尾を嬉しそうに躍らせるには十分だ。


 靴も制服も、部屋さえも支給品であり、彼らの失うものはプライドだけ。だけど、そのプライドによって彼らの心は引き裂かれていく。硬く噛みしめた口元がわななくさまが、いかに耐え難いかを物語っていた。


「……うん、よくできました。そんな服じゃ仕事なんてできそうもないから、今日は休んでていいよ」


 やがて彼らの股間を十分に変色させた後、猫は朗らかに言い切った。つんとくる尿の匂いが全員の鼻を刺激すれば、まだ排尿を許されていない残りのSPたちは股間をもぞもぞと動かした。


 自分たちも早く出したい。そんな生理的欲求に苛まれている雄たちを横目に、猫はわざとらしく悩むそぶりをする。どうしようかと言わんばかりの口元からは牙がのぞいており、残虐な精神性を露わにしていた。


「そこの君……たしか、湶川 陵善(あばらかわ りょうぜん)だったね。最近うちに入ったばかりの……」

「はい!」


 そんな猫が次に目を付けたのが、新米のサメ、陵善だった。広い肩幅がスーツにマッチしており、分厚い胸板に盛り上がったシャツのボタンがはじけそうになっている。首も太いため無理矢理締めたボタンが窮屈そうだが、いかつい風貌にサングラスがよく似合っていた。


「君はおしっこしたいかい?」

「したいです!」


 青空に抜けるような大声で、サメは叫ぶ。先輩から恥じらうよりも堂々としたほうが気に入ってもらえると教わっている。陵善は空色の頬に朱を散らしながら、人生で感じたことのない羞恥をなんとか嚥下しようとしていた。


「ちんぽからおしっこを出したいと?」

「はい! おれはちんぽからおしっこを出したいです!」


 わめきながらサメはなぜこんなことをしているのかと、自問自答で思考をそらしていた。

 自分は給金がいいからと申し込んだだけであり、決してこんな変態プレイのために来たわけではない。綾金家の格式から考えれば、陵善のようなどこの馬の骨とも知れない者が採用されたことは奇跡だとすら思った。

 だが、こんな扱いをされていたのなら、常に人手不足になるのは当然だ。サメは過去の自分に絶対この仕事はやめておけとくぎを刺しに行きたかった。


「そんなに出したいんだ。陵善みたいなガタイのいい男性が、そんなにねえ」

「はい! いくら体がでかくても膀胱はカスです! もう漏れそうでたまりません! おしっこ出させてください!」


 なんで自分がここまで言わなければならないのか。サメは怒りで頭が沸騰しそうだった。


 この綾金 澄香という男は他人を、特に屈強な男性を辱めることを至上としていた外道だ。自身の金と地位を使った様々な方法で弄び、陵善が済んでいる屋敷には彼のセフレまがいの雄たちが多数存在している。

 週刊誌にすっぱ抜かれて破滅しろと、いくらサメが怨念を飛ばしたところで、綾金家はびくともしないだろう。この澄香の兄は政治家で、父は財閥から生まれた会社の会長だ。多少の火遊びなど意にも返さないほど、澄香は盤石な地位の上に胡坐をかいている。


「うん、そこまで出したいのならいいよ」

「ありがとうございます!」

「もちろん、みんなもね」


 ようやっとお許しが出たところで、次々と雄たちがスラックスからちんぽを取り出していく。これはSPたちの間では朝のお許し当番と言われており、ここで機嫌を損ねればまた何があるのかわからず、さらには連帯責任のため非常に重要な仕事の一つだ。

 限界まで我慢させられた陰茎たちの矛先は噴水に向いている。浄水装置を備えたそこは、毎朝雄たちの尿を捧げられる祭壇でもあった。


 ふてぶてしく大きな萎えちんが何本もまろびでて、猫の許可を待っている。トイレのように隣同士のついたてもないため、それぞれの一物を彼らは見慣れてしまった。


 サメのちんぽは大きさも形も素晴らしく、先端が使い込んだ暗い肉の色をしている。

 熊のちんぽは大きいのだが皮を被ったドリル型で、トイレのために必死にむいている。

 ワシのちんぽは粗末なもので、大柄な体躯との落差のせいで滑稽に見えている。


 十人十色の物を差し出され、澄香は上機嫌に鼻歌交じりの指示を出す。


「みんな、待てだよ」


 調教師は噴水を回りながら、それぞれの顔をじっくりと観察し始める。彼らは皆従順で、膀胱の訴えを抑えながら尿道を閉めている。

 途中にはスラックスにおもらしした雄もいて、その顔は真っ赤な屈辱で花を咲かせている。早く帰って脱ぎたいだろうに、その許可すらも猫の掌の上なのだ。


 さんざん焦らして、堪能して、澄香はようやく許可を出す。


「……うん、もういいよ。全員、出せ!」


 その声を皮切りに、何本もの黄色い線が水面へと伸びた。

 勢いよく迸る放尿はジョボボと弧を描き、噴水の一部へと変わる。尿は太陽を受けてきらめき、嫌でも黄金の輝きを周囲へと知らしめていた。


 本来なら屈辱を感じるところだが、猫に管理されている雄たちは慣れていることもあり、解放感に酔いしれている。

 溜まった物を排出する行為はデトックスのようなもので、尿道を液体が駆け抜けるたびに得も言われぬ快楽が背筋を撫で上げるのだ。


 これが性悪な富豪綾金 澄香とそのSPたちの日常。人を人とも思わぬ所業を繰り返す猫と、膨大な恥辱を金に変換する雄たちの通常であった。


****


 黒猫の移動は基本的に自家用車だ。後部座席の真ん中を陣取って、左右に雄をはべらせている。


「んっふぅ……ふぅ、ふぅ……!」

「君のことを教えてくれないかい、新人さん? せっかく身の回りの世話をしてくれるのだから、親睦を深めたいのさ」


 澄香は隣にいるサメへと気さくに声をかけているが、その手はスラックスから伸びる一物を遠慮なくしごいている。手コキ用のゴム手袋はイボ付きで、そんなもので亀頭をこすられる陵善は射精しないようにするので精いっぱいだった。


「んおぉ……! ぐっ、うぅ……!」

「そんなに硬くならないでいいんだよ。私は君と仲良くなりたいだけなんだ。鴎林(おうりん)もそう思うだろ?」


 猫の反対側、サメに負けないくらい大きな熊の男もドリルちんぽをいじめられている。皮の余った先端をつまんで伸ばされれば、雄の象徴が屈辱的な形に変わる。大きさだけはあるため、まるで茶色いサツマイモのような見た目をさらされて、熊は歯を食いしばった。


「おっふぅ! んおぉ……」

「ねえ、鴎林。君はなんでこの仕事を受けたんだっけ?」

「じ、自分はコンプレックスの包茎を治療する金を稼ぐために、この仕事を受けました!」

「勃起しても完全に剥けないんだね。大きいのに子どもみたいなおちんちんだ。こんなおちんちんでセックスとかできるのかい?」

「し……したことはありません! 自分のちんぽは大きいだけでなく性欲も強いので、匂いもきつく……女性から嫌われているので……!」

「そうだった、そうだった。こんなおちんちんじゃ子どもなんて作れないよねえ。知ってるかい陵善、鴎林は性欲がすごく強くてね、二、三日射精を禁止すると、すぐ足元に泣きついてくるんだ。……鴎林、見せてあげて」

「はい……!」


 両手がふさがっている雇い主の代わりに熊がスマホを取り出して、何があったのかをサメへと見せる。

 そこには黒スーツのジッパーから真性包茎を勃起させて、必死に画面外から伸びた革靴にこすりつける熊の姿があった。ずれたサングラスからは蕩けたまなじりがのぞいており、垂れ下がった舌にはプライドなど全く感じられない。

 しかも動画になっているようで、再生すれば大きな熊がへこへこ腰を動かしながら情けなく射精を乞うている声も聞こえてくる。言葉の断片をつなぎ合わせると、どうやら一週間ほど禁止されていた時のようだ。


『澄香様……どうか、射精許可をください……! 金玉が破裂しておかしくなりそうです!』

『あははっ! そんなに射精したいんだ。私の靴にこすりつけたまま?』

『はい! おれは射精できるのなら靴オナでもいい変態です! おれの子どもちんぽを踏みにじっていかせてください!』

『ふーん、そこまで言われたら考えてしまうなあ』


 ソーセージをこすりつける熊の側には、外したばかりの貞操体が転がっている。これで我慢させられた熊ちんぽはようやく解放された嬉しさに硬くいきり立っているが、やはり先端は皮に包まれたままだった。


『なら踏みつけてあげるから、これでしこりなよ。それでいいでしょ?』

『はい! ありがとうございます! ありがとうございます!』


 あふれ出た性欲にプライドはつぶされて、輝く熊の顔に嫌悪はない。軽く踏みつける革靴の底と地面に挟まれて、無我夢中のへこへこ運動でオナニーを始める。


『うおおっ! おおぉっ! おっおっ! いぐいぐいぐいぐっ!』

『あはは、出せ出せ。情けなく足裏にザーメンぶっ放しちゃいなよ』


 元から限界だったのだ、それからすぐに射精するのは想像に難くない。鴎林はケダモノのような咆哮を上げながら、大量のザーメンを噴火させる。


『ぐるううぅぅおおおおぉぉぉぉっ!』


 鼻水を垂らした情けない顔で射精の多幸感に酔う熊を、サメは見ていられないと眉をしかめた。

 性豪な金玉は当然一発じゃ足りないため、腰はゆるゆると動いてちんぽをこすりつけたままだ。足裏を離されないよう、必死に媚びを浮かべておもねる姿はかなりきついものがあった。

 

「どう? かわいいでしょ? 鴎林は私の部下の中でも素直だから、ついかわいがってしまうんだ」


 連続射精まで見せた後、にっこりと笑う黒猫にサメは何と言っていいものか考えあぐねていた。正直に言うわけにもいかず、かといっておべっかなどを得意とはしていないため、濁した言葉しか喉を通ることを許されなかった。


「まあ、そうですね……」

「ああ、ちょっと刺激が強かったかな。でも鴎林は喜んで従ってくれているんだ。そうだよね?」

「はい……! 自分は澄香様に飼っていただけて幸せです! トイレも射精も、澄香様の指示に従うことが、自分の幸せです!」


 それが言わされているのか本心なのか、サメにはわからない。だが、この環境がくそだということはわかっている。

 ギリリと牙を噛んで嫌悪を飲みこもうとするのだが、勃起を手袋が撫でれば尻尾の先まで震えてしまう。雄の弱点を握られて、陵善になすすべはない。


「それで鴎林、今は射精禁止してから何日目だっけ?」

「み、三日目です!」

「そうだったね。貞操体もなしでここまで我慢出来て偉いね。どうすれば射精させるよって、私は言ったのだったか……」

「澄香様は……今日一日ディルドを入れて過ごせば、射精させてくれるとおっしゃいました!」

「ああ、忘れていたよ。じゃあ今はきちんと入れてくれているんだね?」

「もちろんです! 澄香様から頂いた、極太のものをしっかりとハメております!」

「それじゃあ後で見せてもらおうか。後輩君にも先輩の仕事ぶりをしっかりと教えないといけないからね」

「わかりました!」


 この熊は慣れているのか、猫の傍若無人な行いにきびきびと返事をするだけで、拒否反応などはうかがえない。それどころか嬉しそうに包茎をひくつかせており、サメはこうはなりたくないと心底思った。


 許可は与えないくせに、猫は丁寧に二本の一物を愛撫し、車内を雄臭く満たしていく。陵善も射精禁止は三日目であり、すでに頭の中は射精欲で埋め尽くされている。それでもプライドだけでこのサメは気概を保っていた。

 

「ふっ、ぐ……おおぉ……♡」

「陵善のちんぽは大きいね。しかも形もいい。使ったことはあるのかい?」

「んぐ……!」

「あるのかい?」


 ぎゅっとイボ付きゴム手袋で握られれば、拒否権なんて削られてしまう。許可もないのに射精してしまえば、悪質な嫌がらせを受けるに決まっているのだから。


「がっ……あります!」

「ふうん、じゃあ童貞じゃないんだ。男? 女?」

「……りょ、両方、です……!」

「あはは、ヤリチンだねえ。仕事では後輩だけど、私生活では鴎林の先輩なんだ。だってさ鴎林、可愛い後輩に負けてるの、恥ずかしいよね?」

「は、はい……」


 皮をぐちゅぐちゅといじられながら童貞を揶揄されれば、熊の顔で羞恥の赤が強くなる。茶色く整った毛皮に包まれた顔は精悍と言えるが、今は茹ったヤカンのような無様さしかない。


「ああでも」わざとらしく猫が首をかしげて。「脱処女は鴎林の方が早いんじゃないかな。陵善は後ろを使ったことあるのかい?」

「ありません……!」

「やっぱり。よかったね、鴎林。これで先輩の威厳が保たれたよ」


 屈強なサメは誰とするにもタチしか経験がなく、ましてやこんなSMじみた攻めなど受けたことがない。相手を丁寧にいたわりながら行ってきた陵善からすれば、この猫の行動は反吐が出そうなほど嫌いだった。


「鴎林はね、兄さんからも気に入られているんだ。でも兄さんったら、私が射精を管理してるのにすぐ手を出して、金玉を空っぽにしてしまうんだ。まったく、我が兄ながら、性欲が強すぎて困ってしまうよ」


 聞いてもないことをしゃべりながら、サメに想像を抱かせる。このたくましい熊がベッドでは雌のように扱われているのだと、そして、お前もこうなるのだと。

 そして嫌悪をにじませるサメの顔を見て、何とも嬉しそうに微笑むのだ。


「やっぱり上司からすれば素直な人の方がかわいいからね。君も目上の人には可愛気を見せたほうがいいよ」

「うっす……!」

「あっと、もう着いてしまうね。君のことをあまり聞けなかったのは残念だ。じゃあ最後に、どうしてこの仕事を受けたのか、教えてもらってもいいかい?」

「お、おれがここに来たのは……金のため、です!」

「確かに、そこそこいい給金を提示してるね。私や兄のお世話ができる人は限られているから、君のような前途有望な若者が来てくれて嬉しいよ」


 前途有望の意味は社会一般と猫が使うのでは違っている。それは左右の雄たちには自明なことであるが、口に出すことはない。

 なぜなら、その身をもって味わっているのだから。


 車が目的地に着くと、猫はゴム手袋に包まれた両手を二人へと向ける。射精したくて硬くなったままのちんぽなど、もうどうでもいいと言わんばかりだ。


「ほら、外して。君らの汚い汁で汚れているんだから」

「はい……」


 しごいたのはお前だろうという言葉を飲み込んでサメは手袋を外す。自分の泡立った先走りはすさまじい匂いを放っており、どうしたって羞恥が刺激されるが、それを表に出すと猫を悦ばせるだけだとぐっとこらえている。

 反対に、熊はてきぱきと外し終えた後、支給されているハンカチで猫のスーツや車内を拭いている。勃起したままのそこを弄ることなく、自らの役割に従順だった。


 見習ってサメも同じことをすれば、猫の笑顔が癪に障る。先輩を見て仕事を覚えると言えば聞こえはいいが、実際は調教のようなものだ。


「偉いね。新人は射精を我慢するのに精いっぱいで、あんまり気が回らない人も多いのに。これは兄さんにも気に入ってもらえそうだ」

「……恐縮です」

「これならここでやっていけるかもしれないね。お金がいるんだろう? 道場の再建、大変そうだからね」

「……っ!」


 まさか調べられているとは思っていなかったため、サメは思わず視線を上げ、猫と向かい合う形になる。隙を見せたと陵善が気づいたところで、もう遅い。

 特大の爆弾を落とせたことに満足したのか、澄香の顔からは意地の悪さが存分に発揮されていた。


「うちは由緒正しき家系だよ? 素行調査くらいするさ。君の目的も、大体把握済みだよ」

「そうですか」

「お父さんが病気で、大変だったんだろ? ここに来ることで、君はお金と綾金家のSPという経歴を得ることができる。道場を運営するにはうってつけだ」

「だから……頑張ろうと思ってます」

「うんうん、健気な若者の努力。私は応援するよ。さあて、どうやら着いたみたいだ。今日もよろしく頼むよ君たち」


 いけしゃあしゃあと言いながら腹の中でどんな算段を企てているのか。陵善は推し量ることすら脳が拒んで、表面を取り繕うことに努めた。

 

 自分の育った場所を守るために、サメはおぞましい悪意の沼に立っている。

 それでも絶対に折れないと誓い、ちんぽをしまって車を降りる。この猫を守ることが、今の陵善の仕事だから。


****


 湶川の家は代々続く柔道の専門家だった。決して大きいとは言えないながらも道場を持ち、警察の指南役などもこなしていた。そのため地元では少し名の通った家でもある。


 そんな湶川家に陰りが差したのは、少し前から。

 陵善の父は警察として働いた後、余生として道場を継いだのだが、病気によって運営が困難になってしまった。父の後を追って警察として働いていた陵善がそのことを知った時にはすでに遅く、門下もいない道場はひどくさびれたものになっていた。

 手入れのされていない道場は廃墟のようで、陵善は胸が張り裂けそうなほど心を痛めてしまう。その時になってようやく、サメは自分がここを愛していたのだと気づいたのだ。


 どうして相談してくれなかったのだと詰め寄る陵善に、そろそろ潮時だと、父は言った。


 このご時世に道場にこだわる理由はなく、自分の代でつぶれるならそれも構わない。お前は好きなことをしなさいと、親心から諭したのだ。

 だが父の想定外だったのは、彼の想像以上に陵善が自分の生まれ育った道場を愛しており、柔術に誇りを持っていたことだ。

 だから、彼が道場のために立ち上がるのはひどく自然なこと。立ち上がった時には、すでに腹は決まっていた。


「わかった、だったらおれは自分の好きなことをする」


 そう宣言した陵善は警察を辞め、金のために澄香の配下へと成り下がった。


 すべては、自分の場所を取り戻すために。


****


「君さあ、これから今日一日『ちんちん』しか言ったらだめだよ?」


 そんな命令をワシが下されたのは、昼食時を過ぎたあたり、猫の執務室でのことだった。


 SPの一人でありがっしりとした体躯のワシ、凋羽(しぼわ)は整えたスーツの股間から粗末な一物をぶら下げて、屈辱に肩を震わせていた。


 彼がこんなことになっているのは、ただ運が悪かったからだ。

 昼食に配られたものの中にランダムに仕込まれた利尿剤に当たってしまい、猫が許可を出すまで待てなくなってしまった。ここで漏らすわけにもいかず、慈悲を乞うたところで掌の上。待ってましたと言わんばかりに、上記の言葉を浴びせられるのだった。


「私の許可を得るには相応の対価がいる。知っているだろう?」

「はい、存じております……」


 執務室に備え付けられた大きな机をはさんで、猫とワシは向かい合っている。

 陵善や鴎林は部屋の端で直立不動しており、この茶番劇が終わるのを待つことしかできない。


「ふふっ、そうじゃないだろ?」

「ち……ちんちん!」

「あははっ! そうそうその調子。頑張れば漏れる前には許可をあげるよ。あ、その小さい子どもちんちんは隠しちゃ駄目だよ。漏らしたらスラックスが汚れるからね」

 

 租ちんがコンプレックスだと知っている澄香は、凋羽の効率的な辱め方法を熟知している。ワシを列に戻すと、にんまりと笑みを深めて指示を飛ばすのだ。


「ああでも、他のみんなも漏れると大変だろう? どうせだったら凋羽みたいにちんぽを出しておくといい」

「……っ!」


 そう言われれば動かざるを得ない。並んだ雄たちはスラックスの股間部を開き、それぞれの一物を外気へとさらした。


 サメの大きくて整った一物や熊の真性包茎だが大きなもの。他にも全員が体格に見合ったでかさを誇り、その中ではワシの租ちんがいっそうみじめになっている。


 陵善の記憶では、このワシは優秀なボディガードとして引き抜かれてきたはずだ。サメより少し上の30半ばで、前の職場ではSPのまとめ役までしていた。

 そんなワシが今、他の同僚と同じ立場で、ちんぽの大きさを比べられている。ひどい屈辱を感じているのだろう、くちばしからぎりぎりと噛みしめるような音が鳴っていた。

 だが、ワシの一物が小さいことは疑いようがない。どれだけ分厚い体と経歴で貫録を得たとしても、サメの小指ほどしかないそれを暴かれては権威など霧散する。鴎林と違い完全に剥けているため、これほど小さいのに大人のものなのだと分かられてしまうのもまた、ワシのプライドを傷つけていた。


「ふふ、いつ見ても可愛らしいね。金玉はこんなに大きいのにね。貞操体を付けてあげたいんだけど、なかなかサイズが無いのも納得だ」

「…………っ!」

「おっと、おしっこだったね。したいかい、凋羽?」

「……ちんちんっ!」

「何を言ってるのかわからないよ凋羽。そろそろ私の休憩時間も終わる。そうなったらもう機会はないだろうね」

「ちんちんっ! ちんちんっ!」


 膨らんだ胸板を張って、やけくそ気味に連呼するワシ。きっちりと決まった黒いフォーマルの中で、ぶら下がる小さなものだけが異端だった。


 やがてひとしきり笑い終えた猫に、仕事の時間が迫っている。クズではあるが仕事は真面目にこなす性分だ。お遊びもここまでと、華奢な指が部屋の一角を示した。


「いいよ凋羽。私が準備をして部屋を出るまでに、そこで済ませておいてくれ」

「……ちんちん」


 指示されたのはペット用の砂が置いてあるトイレだった。成人男性、それも平均よりもずば抜けて大きな雄に、そこで用を足せと言っている。

 当然澄香はペットを持ち込んでいるわけではなく、そこは利尿剤に当たった哀れな被害者専用の辱めスペースだ。部屋の隅で背中を丸めて排尿し、自分で砂を片付けさせられる屈辱はいかばかりだろう。


 ワシの握り拳が震えているのを、サメはしっかりと見た。こんなことパワハラと一言で片づけていい問題ではない。

 もともと警官だったこともあり、陵善は正義感が人一倍強い。配属初日に先輩たちから絶対に逆らわないよう釘を刺されていなければ、すぐにでも殴りかかっていただろう。


 サングラス越しでばれないのをいいことに、サメは眼光を鋭くし、猫への嫌悪を募らせる。こんな醜悪な人が存在していたなど、警官をしていた時でも想像できなかった。


 澄香が午後の仕事に向けて資料を集めている間に、ワシはそそくさと隅へと移動する。もう少しすれば秘書がやってきてしまう。見られてしまう前に済ませてしまおうと、猛禽類の体はトイレに向けてしゃがみ込んだ。


「…………くそっ」


 サメにできることは、つぶやかれた恨みを聞かなかったことにして、小刻みに振動する背中を見ないようにするだけだった。


 合間合間に嫌がらせはあるものの、仕事中の澄香は基本的に真面目だ。

 教育がいいおかげか公私は弁えているようで、彼らも普通に仕事ができている。法外な給金に衣食住完備と、内容だけ見れば破格の仕事であり、彼らにはそれ相応の振る舞いも求められる。

 陵善もこの時ばかりは新人でしかなく、先ほど辱められたワシなどから指示を仰ぎつつ、なんとか対応していた。護衛術には精通しているが、SPとしての仕事は初めてなのだ。


 そして、猫の仕事も終わり、屋敷に戻ればようやく彼らは解放される。


 ……わけでは当然ない。


「……まったく、ひどい目に合った」


 SPたちの休憩室でそうごちるのは、昼に辱めを受けたワシ、凋羽だった。


「本当にな、同情するぜ……あんなの毎日やって、飽きねえのかよ」


 サメはシンクで淹れたコーヒーをふるまって慰めながら、あの猫に対して口を尖らせた。

 澄香は家に戻ると必ず風呂に入ることを習慣化しており、護衛の人数はかなり減らされる。そのため、サメとワシ、それから熊は一息つく場所を求めて休憩室へと足を運んだのだった。


「まあまあ」コーヒーにミルクを淹れながら熊が。「慣れちまえばそんなもんだろ。最近は尿だけでよかったと思ってるくらいだ。あれで大までさせられたら、さすがにおれも無理だしな」

「うえぇ、考えたくもねえ……」


 もはや処女すら仕事に捧げている熊は平然とカップに口を付け、すました顔だ。

 朝に車の中で包茎を弄られて喘いでいた様子は影も形もない。切り替えが早いのか、慣れてしまっただけなのか、どちらにせよ、ここで仕事を続けるのならこうなるしかないのだろう。


「人としてどうかと思うがな。いくら金払いがいいとはいえ、やってられん」


 ワシはまだ人の心が残っているのか、渋い顔でブラックをすすっている。屋敷に戻ってからは朝までトイレも自由に行えるため、利尿作用を心配する必要はない。


「じゃあなんでここで働いてんだよ。やめるなら早い方が良いぞ」

「……娘が難病でな。金が要る」

「ああ、それは……」


 それを聞いてしまえばサメが言えることはない。ここで働いて長い鴎林は知っていたようで、準備していたように明るい声を出して場を和ませた。


「でも、もうそろそろ手術できそうなんだろ? なんでも、世界的な名医に頼めたとか」

「……澄香様のおかげでな。そもそもここに引き抜かれたのもそれが条件だった。だから私さえ我慢すれば、娘は助かるんだ」

「なら、慣れちまった方が早いぜ。ストレスで身体を壊すより前に、適応したほうが楽ってもんだ。お前もな、新人」


 熊の言い分には一理ある。サメには道場の復興という目的がある以上、ここで働くのが一番の近道だということくらいわかっている。

 だが培った正義感がそれを良しとしてくれない。あの悪を前に屈することを心が許してくれないのだ。


 その葛藤はすでに熊も通った道だ。鴎林はこの新人が折れないことを祈りながら、コーヒーを流し込んだ。


 胃を満たす温かさに一息ついている彼らだったが、明るい声が入ってきたことで終わりを告げられる。


「やあ、ここに陵善っていう新人がいると聞いたんだけど……ああ、彼だね」


 三人がリラックスしている場所にやってきたのは、白いスーツを着た黒猫の男。澄香に似た顔はより精悍ではあるが、常に笑顔が張りついたような顔をしている。


「は、晴田(はるた)様……! こんなところにわざわざいらっしゃらなくても、連絡さえいただければこちらから出向きましたが……!」


 雇い主の兄、晴田を見たワシが立ち上がりながら出迎える。元からSPをしていただけあって、切り替えの早さも彼らの中で最速だった。


 綾金 晴田。澄香の兄であり、生粋の男好き。配属初日から、この男にも注意するようにと陵善は言われていた。


「なに、デートのお誘いなんだ、自分の足で誘うのは当然じゃないか」

「デート……ですか?」


 意図をつかめていないのはサメだけのようで、熊はニヤニヤと、ワシは引きつった顔で苦笑いをしている。


 そんな二人に構うことなく、黒猫は優雅な足取りでサメへと近づいていく。頭一つ分以上小さな体でのぞき込まれれば、とっさにサメものけぞった。


「ふむ……やはりいい男だね君は。澄香に付かせるのはもったいない」

「恐縮です……」

「聞いた話、君はお金に困っているのだろう?」

「は、はあ……そうですけど……」


 それが先のデートと何の関係があるのか、サメはまだつながっていない。

 綾金家の長男であり政治家でもあるこの猫は、いったい何のつもりで陵善に声をかけたのか。


 その答えはすぐさま明かされた。


「百万」

「は?」

「一晩百万でどうだろう。もちろん君の誠意によっては色を付けてもいい。相性が良ければ、配属の変更も視野に入れよう」

「ま、待ってください……えっと、つまり……晴田様は……」


 思考をまとめようとするサメの顎下を、黒い指が撫でる。笑顔が張り付いた目の奥では、獲物を狙うぎらついた眼光がサメを貫かんとしていた。


「気軽にハルと呼んでくれてもいいんだよ。どうせすぐベッドで裸を見る仲になるんだからさ」

「やっぱり……晴田様は、おれを買うつもりですか……?」

「ああ、その通りさ!」


 ごつごつとしたサメの手を取って、美丈夫は微笑んだ。

 澄香とは違う意味でこの猫は面倒だと、その意味がやっとサメの腑に落ちた。

 人を金で買い抱き潰す男は、真っすぐに視線を向けてこう言った。

 

「私に抱かれてくれ、陵善!」


 臆面もなく言い放つ猫を前に、サメの脳内では倫理と利益の天秤がせわしなく揺れ動いている。金という目的のためならば、そうするのが一番の近道だとわかってはいるが、持ち前の正義感はその行為を良しとしてくれない。


 悩んだ時間は実際に数秒あるかどうかだろうが、陵善にとっては何倍にも感じられた。


「ありがたい申し出ですが……お断りさせていただきます」

「ふむ、金額が足りなかったかな。君も自分の価値というものをよくわかっている」

「いえ、金額の問題ではありません。これはおれのプライドの問題です」

「男に抱かれるのが許さないと?」

「そういうことではなく……」


 こうなればどうにでもなれと、ニヤついた猫の顔を真正面で受け止めて、サメはハッキリと言い放った。


「好きでもない奴に抱かれる趣味はねえってことです」


 横暴にさらされているうちに、サメの中で負けん気は強くなる一方だった。陵善が求める善人の反面教師として、彼ら兄弟は横暴すぎる。

 陵善はここでクビになるのならそれもしょうがないと腹をくくっている。いつか耐えきれず拳を出して、傷害事件になるよりずっと穏便だ。毅然と張った大きな胸の下から刺さる黒猫のぶしつけな視線にも負けじと、口元を引き締めていた。


「ふうむ……なるほど……それはなかなか。射精させてあげると言ってもかい? もう禁止されて三日目だろう。君くらいの雄になると、だいぶつらいはずだと思うのだが」

「それでも、です」


 断られるとは思ってもいなかった晴田は興味深くサメの全身を観察する。

 鍛え上げられた肉体は他のSPにも負けないくらい大きく、スーツの持つスマートなイメージに雄々しさを混ぜ込んでいる。ボタンが取れそうなくらいに膨らんだ胸に、特注のくせに肩幅の張ったジャケットが、いかに巨体かを物語っていた。


「いいね、君」


 武人というのに、陵善ほどふさわしい雄はいない。晴田の下した結論に、サメは困惑を隠せなかった。


「利益をちらつかせたのに断れる人は多くない。政治の世界ではなおさらね。過度な幸福を求めず、清く正しくあろうとする。本当に弟にはもったいない……よし決めた」


 そこで晴田は素早く電話をかけると、三人の目の前で別の会話をし始める。


「ああもしもし澄香? 私だよ、晴田。……うん、そうなんだ、君の陵善、私にくれないかい? ははは、怒らないでくれよ。今度伝手でどこかの特殊部隊から人員を見繕ってあげるからさ。えーもう飽きた? まあまあ今度は君も気に入るはずだって。そういうことだから、じゃあね」


 明らかに納得していない怒声が聞こえているにもかかわらず、晴田はにこにこ顔で通話を一方的に打ち切った。そして、ぽかんとするサメに向けて、臆面もなく言い放つ。


「というわけで、明日から君は私の下で仕事をすることになったから。よろしく頼むよ」

「は、はあ……」いきなりすぎて混乱中の陵善だが。「つまり、明日は晴田様の護衛をすればいいんですね」

「そういうことになるかな。澄香のところとはいろいろ勝手が違うだろうけど、すぐ慣れるはずさ」


 何が何だかわからないサメだが、一つだけわかっていることがある。

 それはこの猫もまたろくでもないということだ。

 面白そうにコーヒーを飲んでいる熊は置いておいて、凋羽の気の毒そうな視線を見てしまえば嫌でも察しが付く。同じ屋敷ということで噂などにも詳しいワシがこういう顔をするならば、一筋縄ではいかないのは明白だろう。


「詳しい仕事内容は明日教えるよ。私は政治家だから予定が日によって異なっていてね、澄香みたいに決まったルーチンがないんだ。明日は朝に時間が取れるから……この時間に私の部屋に来てくれ」

「部屋……? 体を売る話ならお断りしたはずですが……」

「んふ、ふふふ、いいんだよ君はそれで。私が君を最大限堪能するだけだから。それで君が私に抱かれてもいいと思ったなら、その時はいつでも声をかけてほしい」


 心底嬉しそうな顔で尻尾を振る猫はサメの手を持ち上げ、その手に口づけを落とす。

 大仰な挨拶に思わす尻尾が硬直する陵善だが、振り払うこともできず猫が去る背中を眺めているだけだった。


「それじゃあ陵善、明日待ってるよ」

「はい、わかりました……」


 毅然とした歩き方には品があり、表情も澄香に比べれば人好きのする優しい顔だ。整った顔と清潔感のある白いスーツのおかげで、見た目の第一印象も悪くない。

 だが忘れてはならない、彼は澄香の兄であり、この屋敷で恐れられている雇い主の一人だということを。


 サメはそのことを明日には思い知ることになるのだ。


****


「なんでお前までいるんだよ」


 言いつけ通りの時間少し前に部屋まで行けば、廊下で同僚の熊が待っていた。


「晴田様のご厚意だよ。陵善にしてみれば慣れる前に配属が変わったんだから、見知った顔は多い方が良いってな。おれはもともとご兄弟の間を行き来することが多いから、うってつけだってわけ」

「なるほどな。人がいいのやら悪いのやら……」

「まあ、少なくとも、澄香様とは違う意味で終わってはいるな。お前もすぐにわかるさ。ただ、ここは射精には苦労しないから、そういう意味ではまだ楽かもな」


 言外にそろそろ限界だろと労られると、気恥ずかしさになんと返答すべきか迷う。正義感だけでなく性欲も旺盛な陵善が四日も禁欲すれば、不意に勃起しそうになる頻度も上がり、金玉はいつでも射精準備万端だと言わんばかりにたぎっている。

 そろそろ夢精も間近で、朝のおもらしに加わっていただろうことを考えると、確かに渡りに船ではあるのかもしれない。もちろん、それを素直に認めることは絶対にないのだが。


「お前のおかげでおれも射精できそうだし、感謝するわ。昨日澄香様の手コキで相当やばかったんだよなあ。あの後お前を取られた澄香様がだいぶお冠で、結局射精させてくれなかったしな」

「ケツに入れっぱなしだったのにか? 約束事も守れねえ雇い主は御免だね」

「その代わりに今日ここへの出勤を認めてくれたってわけ。澄香様は終わってるけど、約束は結構守ってくれる方だぞ」

「そんなことをすまし顔で言えるお前がうらやましいよ……」

「なら早く慣れることだな。金払いはいいんだからさ」

「それこそ御免だな」


 適当に軽口の応酬を終えて、サメは扉にノックする。返事を待ってから開け放てば、サメの足はそれ以上進むことを拒んでしまった。


「おはよう。余裕を持った出勤だね。いい傾向だ」


 広い部屋の奥、横に長い机の向こうにいる晴田がサメたちに笑いかける。部屋を聞いて身構えていた陵善だが、実際は執務室のようだ。そばにある机には秘書らしき人がすでに着席しており、業務がもう始まっているのだと知った。


 だが、陵善の顔をひきつらせたのは、そんなありきたりの光景ではなかった。


「今日の業務は簡単さ。この屋敷にいる間、私の護衛をしてほしいんだ。あの先輩たちに見習って、好きなポーズを取っていいよ」


 晴田の大きな執務室は奥に猫の机があり、その手前に円形の台が並べられている。

 横一列に並べられた四つの台座の内、両端の二つはすでに虎とトカゲの雄が昇っており、鍛え上げた肉体を見せびらかしていた。しかも台座は発光もするうえ左右からライトが照っているようで、筋骨隆々の雄たちの全身が、余すことなく光り輝いている。

 彼らは紐のように細いパンツとサングラス、黒いラバーの手袋と足袋、さらには悪趣味なうさ耳をつけていた。下品なショーを前に閉口するサメに、猫は微笑みを崩さない。


「なんだ、これ……?」

「護衛だよ。ただ、スーツ姿のまま側にいられるよりか、こっちの方が私のテンションが上がるんだ。君たちの制服も準備してあるから、さっそく着替えておくれ」


 下品なボディビルコンテストに参加しろと言われてサメは躊躇するも、熊はそそくさと服を脱ぎ始めていく。

 そして、耳元で小さくささやいて陵善の背中を押すことにした。


「言っただろ? 澄香様同様に終わってるって。晴田様はドが付く変態なんだ。澄香様とは違う意味で、雄の痴態が大好きなのさ」

「う、だが、こんなこと……」

「まあ初めては恥ずかしいよな。けど、慣れとけよ。こっちの方が業務内容は楽だとおれは思ってるぜ」


 ひょいひょいっと鴎林は巨根真性包茎と屈強な体を露わにし、変態衣装を身に着けて台座へと昇る。紐パンの全面が巨根によって押されているせいで根元部分が隠せておらず、もさ毛が丸見えだった。


「うんうん、鴎林はいつ見てもおいしそうでいいね。その包茎も嫌いじゃないよ」

「恐縮です」


 お礼を言いながらもちんぽを揺らし、胸を張ってみせる。もはやSPというよりかは卑猥な店子のような醜態だが、確かに排尿をさせられることに比べたら気持ちは楽かもしれないと、サメは一考した。

 別に陵善とて、他人に裸を見せることにあまり抵抗はないタイプだ。常に堂々としている男であり、誰に恥じることもないと胸を張る。

 逆に手袋などの装備が下品さを醸しているから気後れしているだけで、覚悟を決めてしまえば、勢い良く服を脱ぎ捨てるのもためらわない。


「ああ、いいね……筋肉の形が綺麗だ。どこも鍛えたいい体をしている。澄香は性癖が最悪だけど、雄を見る目はあるんだよね」


 お前もだろという言葉をサメは何とか飲み込んで、うさ耳をかぶる。頭についたひれが邪魔にならないよう設計されており、手の込んだことをと内心ため息を吐いた。


 手袋などはサメにぴったりで、尻尾の付け根にある紐パンの留め具も問題なく入った。初出勤時に測った寸法はこんなところにも使われているのだと知る。制服支給のためとは聞いたが、確かにこれも制服だ。

 とはいえ、ポージングなど何をすればいいのか当然サメはわからない。雄に媚びるなどしたことがない陵善が行うポーズはやはりぎこちなく、他三人に比べれば初々しさが目立っていた。


 だが、そんな四苦八苦する様子を眺める晴田は満足そうだ。キーボードを打つ手は緩ませずに、じっとサメへと視線を注いでいる。


「ああ、可愛いね。雄を悦ばせたことのない仕草だ。雄とは経験済みなんだろう? 相手はこういうのを求めてこなかったのかい?」

「それは、まあ……」

「確かに陵善はタチしかしたことがなかったらしいし、こういった行為とは無縁か。ふふふ、楽しみだなあ。君のおマンコはどんな味がするんだろう。ふやけるまでしゃぶりつくしたいねえ」


 どうやら昨日車内で話したことはすでに共有されているようで、この兄弟は案外仲がいいのかもしれないと、サメは内心で舌打ちをする。

 陵善のキレのいい筋肉が下品なバニーをまとい、肌とは違うぎらついた光沢で彩られている。明らかに性的対象として注がれる視線に疎ましさを覚えても、サメに拒否権はなく、見様見真似のポーズで時間をつぶすだけだった。


「晴田様ぁ♡」


 隣で身をくねらせている鴎林が信じられないほど甘い声を出して、雇い主を誘う。陵善は普段の熊を知っているため、サングラス越しに目を見開いて思わず顔を向けてしまった。

 少なくとも澄香のところで働いているときには、こんな声を聞いたことはない。


「陵善ばかり見てないで、おれのことも見てくださいよ♡ほら、おれの情けない包茎ちんぽ♡すっげえエッチな音してますよ♡♡」


 熊はご自慢の分厚い体をそらし、紐パンから出したちんぽでオナニーをしていた。片手で包茎をぐちゅぐちゅと鳴らして、もう片方の腕を頭の後ろにまわして腋をさらす。

 しごく手に合わせて腰を揺らす鴎林はサングラスを投げ捨てる。そこからにたりとした好色そうな瞳が弧を描き、理性を完全に蒸発させたケダモノの相貌へと変わる。


「んおっ♡おっおっ♡♡晴田様、実はおれ、禁欲四日目で……♡ちんぽ♡ちんぽが限界なんです♡♡金玉ぱんぱんで♡射精したくておかしくなりそうなんですう♡♡」

「はは、鴎林は本当に性欲が強いねえ。ここに来る前は毎日おなってたんだっけ?」

「はい♡こんなソーセージちんぽで風俗も行けなくてっ♡毎日毎日♡一人でしこしこしてました♡♡」


 すぼまった皮の先端から先走りの糸が漏れ、台座に滴っていく。隣にいるサメは熊の雄臭さが強くなっていることに気づいており、昨日車内でしこられていた時はまだ抑えていたのだと知る。

 今の鴎林はザーメンや汗の匂いをまき散らす、フェロモン発散装置になっていた。


「おおぉぉ~♡晴田様……ちんぽ壊れそうです♡♡おれの射精、見てくださいいぃ♡」

「いい匂いだね。それに素直で可愛い。もう少ししたら予定まで仕事が終わるから、それまで待っててくれ」

「あっ♡はいぃ♡それまでいっぱい、金玉にザーメン溜めときますね♡」

「さすがの私も、鴎林がオナニーしながら我慢できるとは思ってないさ。だからその間、陵善に仕事を教えてあげておいてくれ」

「はぁい♡♡」


 媚びしかない返答を投げた熊は台座を動かしてサメとくっつけると、汗ばんだ毛皮で抱き着いてきた。

 とたん、濃い雄の匂いが陵善の鼻を殴りつけるが、顔をしかめる暇を与えずにキスが振ってきた。


「ん、むぅ……?!」


 とっさに振り払うが熊も承知だったようで、すぐさま身を引いて口を離していく。わざとらしく口周りを舐められると、サメの眉間で血管が反応を示した。


「んちゅぅ♡晴田様が仰せだ♡おれの仕事内容をたっぷり教えてやるからな♡」

「お前……いつもより汗臭いぞっ! あんまり近づくな!」

「そりゃ澄香様のところで働くときは制汗剤使ってるしな♡だけど、晴田様はおれの匂いを気に入ってくださるから、そんなもん付けない方がいいんだよ♡♡」


 猫の前で筋骨隆々とした雄二人が抱き合い、暑苦しい絡みを披露する。

 雇い主の指示となれば、陵善に断る権利はない。熊はそれをいいことに全身を丹念に嗅ぎ、サメから羞恥を引き出そうとわざとらしく鼻を鳴らす。


「ふごっ♡いつも思ってたけど、お前結構いい匂いしてるよな♡雄としてもいいし、ほんのり香る程度の……香水かこれ? それとも制汗剤か?」

「両方だよ……無香料の制汗剤に石けん系の香水を薄く使ってる。この仕事は人との距離が近いことが多いからな……」

「やっぱ非童貞ってのはちゃんとしてんな♡凋羽も毎日いい匂いしてるし……まあしょんべんさせられちゃ無駄だろうけど♡♡」


 こうして言葉にしてしゃべらされるのは、その方が恥ずかしいからだとサメも気づいている。鴎林がわざと非童貞などと口にすることで、二人の間で羞恥を膨らませているのだ。

 陵善はそんなたくらみに乗るまいと牙を噛みしめていたが、熊の鼻面が鼠径部にまで来ると、さすがに尻尾を硬直させた。


「あれ、お前」根元をふがふが嗅ぎながら。「ここも消臭してんのか♡」

「……」晴田の耳が反応を示し、沈黙を防がれたサメが。「昨日みたいにしごかれるかもしれなかったからな……念のためだ……」


 これだと自分が期待しているみたいだと、サメの頬に赤みが増す。だが実際クマと同じく禁欲四日目の脳みそは射精の誘惑に弱く、もしかしたらと期待してしまう。それが行動に現れたことを見透かされて、陵善は歯噛みしながらそっぽを向いた。


 だが、熊はそんなことお構いなしに根元の匂いを丹念に嗅ぎ、消臭された残骸からサメの雄を捕らえようとしている。どっしりと膨れた金玉も揉みこまれていけば、陵善のちんぽが反応を示すのは当然のことだった。


「んっ、お前……そこばっかり……!」

「うおっ♡やっぱ間近で見るとすげえ迫力♡♡ずる剥け巨根とかずりいぞ♡♡」


 ちんぽが持ち上がると、引っ張られたパンツが尻に食い込んでいく。ずらして解放したいとサメは手を伸ばすのだが、熊が阻むせいで亀頭に三角の布地が張り付いたままどんどん伸びてしまう。

 そのせいで元から隠しきれていなかった金玉がでろりと零れ、張り付いた袋が玉の大きさを誇示し始めた。体のでかさを加味しても目立つくらいの巨玉であり、凛々しいちんぽも相まって、陵善という雄性に熊は見入ることしかできなかった。


「ああ……」それは当然晴田も同じ。「やっぱり君はいいね。澄香に返すのはもったいないな。このままここで永久就職しないかい? 道場くらい、私なら簡単に買い取れるよ」

「……」


 自分の夢を引き合いに出され、サメはくそ野郎と言いそうになる口を抑えるのに必死だった。


「ありがたい申し出ですが、それはおれが自分ですべきことですから……」

「ふふ、君ならそう言うと思ったよ。愛人の席はまだ空いてるから、興味があればいつでも声をかけてくれ」


 この屋敷で働き始めた陵善は、どぎつい格好をした屈強な雄とすれ違うことがたまにある。同僚によれば、それは晴田が囲っている愛人たちだという。

 澄香に手を出されなくなる代わりに、雄としてのプライドをすべて捨てた人たちだと、陵善は聞いている。

 自分もそうなるのは御免だと、サングラスで隠した瞳に嫌悪をにじませたサメだが、そこに茶色くたくましい腕が伸びてきた。


「うらやましいな陵善♡おれもなれるなら晴田様の愛人になりてえよ♡♡」

「鴎林は口がうまいよ。だから澄香からも可愛がられている。じゃあ鴎林、私の愛人になったらどんな得があるのか、同僚に教えてあげるんだ」

「かしこまりました♡」


 熊はサメの背後に回り、ぬっと丸太のような腕を出してごつごつと盛り上がった筋肉を愛撫していく。そして目の前の雇い主に聞こえないように、場を盛り上げるための指示を出した。


「拳をわき腹に刺して、胸を張ってろ。そのほうがお前の体が大きく見えて、晴田様も喜んでくれる。返事はしなくていいぞ、雰囲気が崩れる♡」

「……っ!」


 言われた通りにラッドスプレッドの体勢を取った肉体を、熊はねっとりとした手つきで触る。いやらしくまさぐられるせいでサメは勃起が治まらず、それどころか先端にシミを作っても腰を引くことは許されていない。

 それでも鍛錬をかかしていない肉体は素晴らしく、下乳を持ち上げられれば、硬くなった胸筋が指をはじくほどに強い。だが、芋虫のような指が楚々とした乳首をつまむと、サメの喉からこらえきれない声が漏れた。


「ん、おぉ……!」

「晴田様の愛人になるとな♡毎日射精させてくれるんだ♡ほら、澄香様が朝にやってる排尿朝礼あるだろ?♡晴田様の場合、それが射精朝礼に代わるんだ♡お前も限界だろ♡♡」

「んっふぅ、ふぅ……乳首、やめろ……! んおおぉっ♡」

「でっけえおっぱいだよな♡減量はしてねえからむっちむちだ♡指が沈むスケベおっぱいが晴田様に見られてるぜ♡♡」


 鴎林も巨体の雄であるため掌は平均よりずっと大きいのだが、それよりもサメの胸筋はでかく、すべらかな肌に手形がしっかりと残っている。

 下向き乳首はどんどんと硬くなり、感度もよく実っていく。指の腹で転がされるたびに禁欲中のちんぽが何度もひくついて、射精させてほしいと泣きを入れていた。

 

「それに、仕事内容も楽なんだぜ♡毎日晴田様と朝食を取って射精して、後は帰ってくるまで筋トレとか鍛錬で男を磨くんだ♡そして、晴田様が帰ってきたらペットのように従順な雄になって、かわいがってもらう♡それだけだ、いいだろ♡」

「人として、終わってるだろ……! あぅ♡」

「あはは!」サメの反抗を猫は笑って受け入れて。「本人を目の前にして言うなんて、肝が据わっているね」

「……すみませんでした」


 乳首からの快楽にうっかり口を滑られたサメがとっさに謝るものの、晴田は特段気分を害した様子もない。青と茶色がまぐわう様を見ながら、時折秘書に指示を飛ばしている。

 左右の雄たちは負けじと自分らを見てもらおうと過激になっていくせいで、陵善を包む雄の臭気は密度を上げていた。わざと空調を緩くしている室内で、サメは自分の雄臭さすら鼻孔で感じる羽目になっている。


「澄香と違って私は気に入った雄を四六時中連れまわすのは好まないんだ。大事なものは隠しておくタイプだからね。でも一つ確かなことは、私たち兄弟は自分のお気に入りに手を出されることを良しとしない」

「ふぅ、おおぉ……♡おっおっ♡♡」

「いきたいだろ、陵善? 君のでかい金玉に溜まったザーメンをビュービュー噴き出して、すっきりしたいはずだ」

「いかせていただけるのなら、おぉぉん♡出したいですが……!♡」

「なら私の愛人にならないかい? 澄香からも守ってあげるし、給料も弾もう。朝は道場の主として働き、夜は私のためにベッドで働く。いい話だと思わないかい?」


 いいわけがない。乳首を弄られていなかったら、叫んでいただろう。

 だがここで歯向かうことは終わりを意味しており、反感を買えば道場がつぶされる可能性もある。サメはぐっと言葉をこらえて、射精することだけを考えることにした。


「おや、無視はよくないなあ。鴎林もそう思うだろう?」


 発破をかけろと暗に指示されて、熊の指が力む。サメの突起が変形すればそこから快楽が絞り出され、喉から歓喜が湧きだした。


「んおっ♡♡おおおぉ♡」

「今のはあんまりよくねえな。ごまかしたいのなら、もっといやらしいポーズをしないとな♡」


 この会話を続けたくはない。その意志は一貫しているため、熊のささやきに従って体をそらす。腰を下ろして腕を上げ、雄のためのポーズで媚びを放つ。前後の筋肉のせいでくぼんだ腋に熊の指が這えば、くすぐったさと微弱な快楽が発生して、のぼせてしまいそうだった。


 喉を震わす甘い声は途切れることなく、悪辣に屈しているようで気に食わないサメだったが、現状を受け入れるしかない。

 鴎林が調子に乗ってサメ尻を叩いて揺らせば剛直がブルンブルンと震え、パンツ越しに先走りをまき散らす。恥ずかしさのあまり晴田の顔を直視できない陵善だが、目をそらしたら負けだと自分を律し、こわばった表情を前へと向けた。


「んふぅ……♡ぅおおっ♡おぉん♡♡」

「先輩の言うことはよく聞いた方が良い。そっちのほうがずっとエッチで可愛らしいよ」

「あ、りがとうございま、うっおおぉぉ~♡♡今、乳首つねるなっ♡んっぐ♡」


 クマが密着したことで、どんなポーズをすればいいのか困っていたサメはもういない。

 屈強で綺麗な空色の体躯は台座の上でくねくねと煽情的な踊りを繰り返し、射精間際のちんぽを見せつけてへりくだる。こみ上げる射精欲をぐっとこらえながら吐く息は熱っぽく、性欲をなぶる熱のせいで玉のような汗を浮かび始めている。

 それは背後にくっつく肉厚な毛皮のせいでもあるのだが、鴎林はサメの首筋をおいしそうに舐め上げるだけで、離れる気配はまるでなかった。


「射精をおねだりしろよ。そうしないとまた会話を振られるぞ♡」

「んぐ……わかった」


 火照った思考は恥ずかしい提案をはじくだけの余力もなく、鵜呑みにするだけ。

 鴎林は自身のソーセージちんぽをサメの股下につっこみ、皮の窄まった先端を猫に見せつけて素股している。まるでセックスのように二人の腰がぶつかって、サメちんぽがさらに大きく揺れた。


「しゃ……射精させてください♡」

「ん? 何か言ったかい?」


 わざとらしく聞き返されて、陵善の中にある羞恥心がストップをかける。だが熊の恥骨が尻を打ち据えれば、禁欲された思考などすぐに緩んでしまう。


「射精させてください!♡」


 アブノーマルな経験など皆無な陵善に媚びのレパートリーがあるわけもなく、同じことを大声で繰り返すだけだ。素股の疑似セックスで尻から破裂音をたてながら、正義感は射精を乞う。


「射精を……させてくださいっ!♡♡」


 その汚れていない様子に晴田は満足している。でかく強い、さらには自分に恥じないように生きてきた陵善は媚びるという仕草とは無縁だ。だからこそ、そんな雄を支配しているという現状が、猫に甘い充足感を与えるのだ。

 このままでは無理だと悟った熊の手が助け舟を出すために、すべらかな肌を這いまわる。むっちりしたデカパイを荒々しく揉み、もう片方の手で口の中に指を入れて舌と戯れた。開いた牙の隙間から見える粘膜の赤に、茶色がくちゅくちゅとディープキスのように絡まり合っていく。


「んおぅ……ちゅぅ♡あぁ……♡♡」

「ふふ、いいねえ。こんなショーを目の前でされてしまえば、仕事どころじゃなくなってしまう」


 そう言いながらも、猫の仕事はとうに終わっている。今は新しい愛人候補を品定めする時間に過ぎず、コーヒーを飲みながら疑似セックスを楽しんでいた。

 そして、陵善という雄は晴田のお眼鏡に適う逸材だと、結論はすでに出ている。

 新雪を踏み荒らす楽しさを味わえるのは一人だけ。それは弟ではなく、自分であるべきだ。晴田はそう考えていた。


 だから、この青を自分の手に収めるための方法はとっくに準備が整っている。


「ねえ陵善」にこりと好ましい笑顔で。「君はお金がいるのなら、私の愛人はいい仕事だと思わないかい?」

「ふおぉ……♡おっおっ♡それは、そうかもしれませんが、んっ♡♡」

「君のことは調べてきたんだ、陵善は警官時代も評判はよくて、町のお巡りさんとしてみんなから好かれていたみたいだね。今は父の道場を再建するため、こうしてお金を稼いでいると」

「身辺調査は完璧って……わけですか、んおぉ♡」

「もちろん、そしてこれが君の道場の権利書」

「……は?」


 一瞬何を出されたのか、サメは理解ができなかった。あれだけ昂っていた熱も引き、唖然とする熊の腰も動きを止めていた。

 嘘だと信じたかったが、猫の自慢気な顔を前にその自信はなくなった。二の句が継げなくなったのをいいことに、猫は言葉を重ねていく。


「君の父はさびれた道場を息子に継がせたくなかったみたいだね。色を乗せて交渉したら、あっさり売ってくれたよ」

「な、んだ……どういう……」

「相続すべきだったんだよ。大事なものはちゃんと自分の懐に入れて守らないと、そうだろう?」


 性悪をのぞかせて笑う澄香と違い、晴田の笑顔に陰りは一切うかがえない。ただただ人好きのする笑みを浮かばせて、サメを地獄に叩き落す。


「あそこの価値で考えれば、結構な額を渡したよ。これで君はお父さんの医療費も、道場再建の費用も稼がなくてよくなった。自分のためにお金を使えるようになったんだよ」


 考えるべきだったのだ、サメは今更ながら後悔の念がぬぐえない。

 あの凋羽も娘の手術のために引き抜かれたのだと知った時、自分もそうなる可能性について少しでも考えていたら父に確認できていたはずだった。

 陵善が身体を売ることを断って、たった一日、その間にサメの大切なものは奪われてしまった。


「澄香に取られる前でよかったよ。あいつもその気になればすぐ行動できただろうし、そうなったらもっと懐が痛かったはずさ」


 サメは呆然と立ち尽くしたままで、背後の熊が息を飲むドン引きの音も聞こえていない。ただ鷗林は陵善が興奮して暴れることのないように、いつでも抑えられるように構えてはいた。このために自分を近づけたのだと、すぐさま察したからだ。

 

「おれに……何を望む……!」


 だが、陵善は場にいる全員の想像よりずっと冷静だった。サングラスの隙間から射殺さんばかりの視線を猫に浴びせながら、うなるように問いかける。

 凶悪犯と対峙したこともあるサメだ。どれだけ胸糞が悪くても、冷静さを欠くことの愚かさを十分承知している。


 鋭い牙をむき出しにする姿は凛々しく、侮蔑されているはずの晴田はうっとりと目を細めていた。鴎林のように金や権力におもねる輩には興味などない。毅然とした高潔な雄こそ、手に入れるにふさわしいのだ。


「さっきから言っているだろう? 配属変えさ。私もそろそろ新しい愛人が欲しいと思っていたんだ」

「それでその書類をくれるってのか?」

「まさか。それに、これは君よりも私が持っていた方が良いと思うよ。道場の再建に、宣伝、私に任せてくれればすべてうまくいく。綾金の力、存分に使うといいさ」


 それは実際にサメも痛感していたことだった。例え道場を再建できたとして、門下が来るとは限らない。いうなれば、記念のようなものだと覚悟もしていた。

 晴田がここに介入することで、道場は軌道に乗るのではないか。そう期待してしまう自分が、サメの中には確かに存在している。

 だがそれ以上に、こんな悪辣のいいようにされることが我慢ならない。すべて掌の上だと信じて疑わない猫に、拒否を突きつけたくてたまらなかった。


「くそ……!」


 しかし、それでは陵善の愛したものが返ってこない。

 そうわかっているのだが、彼はどこまでも自分に真っすぐな男だった。


 その逡巡を楽しそうに眺める晴田には特段急かすこともなく、正義感の苦悩をじっくり味わいつくそうと舌なめずりをしている。急所を抑えている以上、このサメはもうどこにもいけないのだから。


「存分に悩むといいさ。時間はたくさんある。私は待てる男だからね、澄香と違って」


 黒猫はデスクから立ち上がり、陵善の前へ。ぎんぎんにそそり立つ一物を指で撫で上げれば、太い血管が逃げるようにぐねぐねと蠢いた。


「おおぅ♡」

「ふふ、いつかこれを味わうのだと思えば、楽しみで仕方がないよ。私の仕事は終わった。次は外でのあいさつ回りに行かなくてはね。陵善には次の仕事をしてほしい」

「そ、外での護衛は不要だと……?」

「ちんぽがこんな状態では、さすがに人前に出せないだろ? それに、私はお気に入りを人目にさらすのは好きじゃないんだ」


 晴田は汗と先走りによって汚れた幹を愛おしそうに撫でた後、その指先を舌で舐めとる。弧を描いた目からのぞかせる捕食者の眼光でサメを吟味して、汗で輝く肉体を貪る妄想に口角を上げた。


「それじゃあ失礼するよ、仕事内容は担当から連絡するから、今は休憩するといい。ああ、もちろん、トイレはご自由に。澄香と違って、私は小スカに興味はないのでね」

「……わかりました」

「鴎林、射精まで付き合えなくてすまないね。お詫びに彼らを使ってもいいよ」

「ありがとうございます!」


 猫が指示したのは同じくポージングを披露していた虎とトカゲの二人。彼らも射精を陵善のスケベなショーで昂っていることから、三人で発散し合えと提案してくれていた。

 熊ら三人は嬉しそうにちんぽを震わせ、晴田が去った後セックスをするのだろう。だが、陵善にとってどうでもいいことで、頭を占めるのは射精のことではない。


 今の陵善は首輪を付けられた状態だ。手足をラバーで覆ったバニーの恰好をさせられ、射精を我慢させられても、文句ひとつ言うこともできない。

 だから拳を硬く握りながら、不承不承に首を縦に振るのだった。


****


 次に陵善が割り振られた仕事は、晴田が所有する別棟での筋トレだった。

 手足のラバーを外されたがうさ耳はそのままで、紐パンで汗だくになることを命じられていた。


「いったいなんで、こんなことを……!」


 バーベル上げを終え、顎に滴る汗を拭きながらサメはごちる。

 部屋の中は本格的な筋トレ部屋になっており、最先端のマシーンに加え高級プロテインが常備されている。ここは愛人たちが晴田好みの屈強な雄になるための部屋であり、広い空間には数人の雄しかない。


「晴田様が仕事中に見るためだ」


 答えてくれたのはサイの巨漢。晴田の愛人の一人である彼は、手にカメラを持ちながらサメへとドリンクを渡した。

 ここでずっと筋肉を鍛え続けているのだろう。その肉体は巌のようであり、小さな山を思わせるほど盛り上がっている。僧帽筋で首が埋まるほどの巨体に、いかつく不愛想な顔が乗っていた。


「……それだけか?」


 あまりに言葉が足りないとジト目を向けても、サイは表情を変えない。サメは説明もないまま、こうして筋トレを続けていた。

 何度か同じ会話を繰り返してようやく説明する気になったのか、サイはその重い口を開き始める。


「……晴田様は愛人を外に連れ出すことを好まれないため、こうして応援動画を撮って送るんだ」

「こんな筋トレしてるだけの動画をか? それでやる気になるもんなのか……」

「他にはオナニーやセックス配信もあるが、晴田様がお前に命じたのは筋トレだった」

「まあ、デスクの前でポージングさせるやつだからな……。それはそうと、この耳、いい加減外したいんだが……」

「晴田様から指示がきていない」

「お、おう……そうか……」

 

 そんなことにまで指示が必要なのかといぶかる陵善だったが、弟である澄香を思えば納得せざるを得ない。他人を管理することが趣味の澄香にとって、勝手な行動はひんしゅくを買うだけなのだ。


(晴田はもう少し融通が利くと思っていたんだが、この調子じゃ似た者兄弟ってところだろうな……)

「それに、おれも似合うと思っているからな。もう少しつけていろ」

「……は? いやお前の個人的趣味かよ!」


 このサイの男、角原(つのはら)はちんぽの形がはっきりとわかるような薄いパンツだけを履いている。もはや隠す気もないほどの布地で、カリの段差までまるわかりだ。

 しかも先端から染みだけでなく明らかに青臭い残滓を垂らしている。サメと合流する前に何をしていたのか、一目瞭然だった。


 そしてよく周りを見れば、雄たちはみんな似たような恰好であり、トレの合間にまぐわって嬌声を響かせている。器具に座ってのセックスなどが当然のように行われていて、あまりの退廃にサメはめまいがするほどだ。

 澄香の部署とは違う、明らかに倫理が崩壊した部屋の中で、サイは撮った動画を確認して満足そうに頷いた。


「……ふむ、いい感じに撮れているな。これなら晴田様も喜んでくださるだろう」

「そうかい……こんな筋トレ風景なんて、見て楽しいのかね……」

「晴田様は雄々しいものを好まれる。だからこそ、おれらも日々のトレーニングは欠かせない」

「はあ、おれは別に男に好かれるために鍛えてたんじゃねえんだけど……」

「だがここは楽園だ。お前も配属されればじきにわかる」

「どうだか……」

「この棟に呼ばれたということは、そういうことだ。動画を取り終わったら中を案内するように仰せつかっている。シャワーを浴びたら、案内しよう」

「完全におれをここに移す気だな……」


 だが首輪で自由を奪われたサメがここに来るのは時間の問題だ。逃げ道などあるわけもなく、サメができるのは敵愾心を保つことだけ。

 この先どうなるのか不安しかないが、表情に出すことをサメは良しとしない。ただ、覚悟だけはしておくに越したことはないと、自身の処女は半ばあきらめていた。


(別におれの体くらいであいつが満足してくれりゃ、もうそれでいい。これ以上親父に絡まれるくらいなら……っと?)


 サイを追ってシャワーへと向かっていたが、前を歩いていた背中がぴたりと止まった。

 いぶかったサメが広い背中越しに視線をのぞかせれば、そこには不敵に笑う黒猫が立っていた。

 ここは晴田の縄張りであり、弟が足を踏み入れることなどめったにない。サイは困惑を隠しきれず、鉄面皮をわずかに歪ませた。


「……澄香様、こんなところにどのようなご用でしょうか」

「用? そんなこと君に確認されるいわれはないのだが、だがあえて言うのなら、私の物を取り返しに来た。これでいいかい?」


 晴田と比べると底意地の悪さが目立つ笑みの後ろには、制服である黒スーツを着た鴎林と凋羽を引き連れている。熊から大体の話を聞いた黒猫は、兄の好きにさせるものかとこうして殴り込みに来たのだ。


「まったく、兄さんときたら、私の見つけた人材をすぐ横取りしようとするのだから。暴君もいいところだ。陵善、帰るよ」

「で、ですが……自分の今日の仕事は晴田様にお仕えすることで……」

「ああ、話は聞いてるよ。道場の権利書なんて、あくどいことをするもんだ。その権利書、私が取り返してあげようか?」

「……!」


 にたりとした醜悪な笑みを向けられて、サメは背筋を震わせる。

 なんてことはない、この兄弟は陵善の首輪を奪い合っているだけなのだ。

 本人の意志や人権を無視して、ただ兄弟同士のマウントを取るためだけに、澄香は陵善を利用しようとしている。ここで頷けば、さらなるいばらの道に進むことは明白だ。


「私に仕えてくれるなら、権利書を君の手に返そう。そうすれば、あの馬鹿兄が払ったお金で道場も再建できるし、お父さんの治療費も工面できる。いいことづくめだと思わないかい?」

「いつまで、仕えればいい……?」

「さあ、いつまでだろうね。私が飽きるまでかな。飽きたら正直どうでもいいからね、目の前から消えてくれるなら後腐れもなくていい。やりすぎるとずっと飼ってほしいって泣きつくやつもいて、めんどくさいんだよ」


 外道な言葉を臆面もなく吐く猫に、サメは嫌悪しかない。

 そして、この兄弟に翻弄されている自分のふがいなさが許せなかった。

 澄香の言葉に従ったとしても、権利書が返ってくる保証はない。実際、後ろに控えている鴎林はこっそり首を横に振って、やめておけと伝えようとしている。


 すでに権利書はなく、父には多額の金が入っている。後は自分が道場を諦めれば、こんなところに長居する理由はない。

 それでも、諦めきれないからサメはここに立っていた。


「お言葉ですが……」


 悪辣の掌の上で踊らされるのは御免だが、澄香に付くなら確たる保証が欲しい。確実に権利書がもらえるという保証さえあれば、いばらの道だろうと喜んで走る覚悟がサメにはある。

 たとえ道化が求められていようとも、自分の意志で選んだのなら耐えられる。陵善はそう信じていた。


 だが、決意を口にしようと開こうとしたところで、サイの持っているスマホから声が響いた。


『暴君だなんて、ひどいな澄香は。私はただ君の下で悪条件で働かされる人材が可哀そうで見ていられなかっただけだというのに』

「よく言うよ。昔からそう、兄さんは私が見つけたものをすぐに奪ってしまう」


 何ともタイミングのいい通話だ。サメはこのジムに設置されたカメラの映像は、晴田がいつでも見られるように配信されているということを思い出した。


「これまでは大人として許してあげていたけれど、さすがに限度というものがある。いい加減、大人になりなよ兄さん」

『はあ、お前の下にいる人材の離職率を鑑みてから発言してほしい。私は人材を大事にしているというのに。お前こそ、人に優しくすることを覚えた方が良い。大人になるんだよ、澄香』


 兄弟の会話にサメは呆れて何も言えなかった。金や地位にあかして人を管理しているのは、どちらも同じだというのに。


「はあ?! 言うに事欠いて、色ボケした兄さんにそんなこと言われるとは思わなかったよ。兄さんのそれは優しさじゃなくて性欲じゃないか。私が連れてきた雄に鼻の下を伸ばして……綾金家の長男として自覚が足りないんじゃないかい?」

『私の愛が色欲しか見えないのは、お前の感情が欠落しているせいだよ。蝶の羽をちぎって遊んでいた頃から、お前は何も成長していない。お前の側にいれば、人は不幸になる。いいかい澄香、お金だけじゃ人はついてこない。綾金の家にいながら、お前は何を学んでいたんだい?』


 どちらも一歩も引かず、喧々囂々と威嚇し合っている。仕事はいいのかと、この場の全員が思っているのだが、たしなめられる人がいるわけもなかった。


 こうして雇い主の兄弟喧嘩が始まってしまえば、周囲の人らに収めるすべはない。このままではらちが明かないと、サイはスマホを澄香に渡した後、サメの手を引いて奥へと移動し始めた。


「あ、おい……いいのか、放っておいて……?」

「構わない。ああなったらおれらが口をはさむ隙は無い」

「そりゃそうだが……」

「それよりも、晴田様から受けた命を果たせない方が問題だ」


 実際澄香はスマホに視線を奪われたまま、毛を逆立てて通話している。平静を装っているが、ひくついた口角やゆれる尻尾が爆発寸前なことを示していた。

 後ろの熊とワシは動くこともできず、早く終わることを祈るばかりだった。下手に動いてしまえば、八つ当たりされるとわかっているのだ。


 そんな同僚に憐憫の情を覚えつつ、陵善はシャワー室へと連行されるのだった。


****


 その後、兄弟間でどんなやり取りがあったのかサメが知る由もないのだが、結果として二人の間を往復して勤務に就くことが決まった。鴎林曰く、今回の喧嘩は結構長引きそうとのことだった。

 今日は澄香の護衛として、陵善はいつも通り朝の排尿を済ませてから車に乗り込んでいた。


 しかし、その席は澄香の隣ではなく、前。セパレートシートの間に、サメの巨体はすっぽりと収まっていた。


「……これはいったい、なんでしょうか」


 陵善が理解できないと言わんばかりに問う。

 澄香の車は前後に長くゆとりのある内装をしており、シートの間で線対称にくぼみがあり円を描く形になっている。

 前々から変わった形だといぶかっていた陵善だが、まさかここに雄をはめるためのものだと思いもせず、澄香に尻を向ける体勢で固定されていた。


「なにって、言わなくても理解できるだろう?」


 張りのある尻肉を撫でながら、喜色に弾んだ声がする。左右に座った熊とワシがサメのベルトを外していけば、青色のデカケツがさらけ出される。振り向いてもシートのせいで視界が不良となっており、陵善は後ろで何が起こっているのか理解できない状態だった。


「そろそろ陵善も後ろを使えるようになった方が良いと思ってね。兄さんに開発される前に、私が教えてあげよう」


 フロントガラス越しに狭い空を見上げて、サメは歯を噛みしめる。結局のところ首輪を兄弟で共有するようになっただけで、状況は何一つ改善されていないのだ。

 暴れないように尻尾や足は二人に固定されている。陵善は壁尻のような体勢で猫のされるがまま。


 むき出しになった肛門は綺麗で、初々しいピンクをしていた。使ったことがないという自己申告通りの、雄を知らない花弁だった。

 青と白の隆々とした尻肉の中心に咲く楚々とした花は、澄香の加虐心を引き出すにはうってつけの素材だ。恥ずかしそうに尻をくねらせる醜態と相まって、職場に着くまでずっと眺めていたいとすら思っていた。


 そこにローションを垂らすと、敏感な花がきゅっとしぼむ。ゴム手袋をした手が撫でて塗り広げると、角ばった尻肉が緊張してえくぼを作る。


「う、おぉ……♡」

「綺麗なお尻だね。鴎林とは全然違う。本当にタチしかしてこなかったんだね」

「んっふぅ……♡♡ふぅ♡」

「我慢しなくてもいいさ。ここには私たちしかいないのだから。それじゃあまずは、処女穴をほぐしていこうか」


 華奢な指が一本、穢れを知らない雄穴へと潜り込む。ローションをたっぷりとまぶした指にはすぐに腸液が絡みつき、我が物顔で内部を犯し始めていく。


「おおぉ♡……んっ♡」


 すぐさま二本目が挿入されて、サメの肛門からくちゅくちゅと粘着質な音が鳴る。左右からの手が無ければ、でかすぎる尻肉はすぐさま閉じてしまうだろう。無理矢理開かれた谷間には、こぼれた粘液が金玉袋まで滴っていた。


「ふっふっふっ♡♡ふぅ~♡♡」

 

 これで五日目となる禁欲は初めての刺激を快楽に変換して、貪欲に射精へと導こうとする。夢精していないのが奇跡であり、いけるのならすぐにでも出したいと願っていた。


 そんなサメちんぽはへそを打ち据えるほどに硬くなっており、猫の手に引き寄せられるとそれだけで先走りをこぼす。澄香はゴム越しに感じる熱の強さからため込んでいる欲望に思いを馳せ、残虐に口角を釣り上げた。


「出させてあげてもいいんだけど、それは今じゃないね。はは、すごいガチガチ。ちょっとでもしごいたらすぐ射精してしまいそうだね。ミルク絞りみたいだ」

「んくっ♡んおおおぉっ♡」

「鴎林から聞いてるよ、君はおねだりも苦手なんだろ? ここで働くならちゃんとした言葉遣いって言うのが必要なんだ。これから覚えていくんだよ」

「おっおっ♡ぐうぅぅぅ……♡♡♡」


 尻穴をかき混ぜられれば、感じたことのない刺激がサメの体中を駆け巡る。口を開けば情けない声を出してしまいそうで、歯を食いしばって耐えようと努めた。


 朝の朗らかな日差しがフロントガラスからサメの顔に差し込み、赤らんで感じている顔を照らしだす。我関せずを貫く運転手の隣で呻く醜態は、落差もあっていっそうサメをみじめにさせる。

 信号で止まれば横断歩道を行く人々が車の前を通過する。朝の時間は誰もがせわしなく、ばれる可能性は低いと分かっていても、前部席に挟まったサメは気が気ではなかった。

 上体をそって後ろを隠そうにも、穴に引っかかってそれもできない。左右に並ぶオフィスビルの窓からのぞけば、あっという間にばれてしまうかもしれない。


「あううぅうぅ♡♡♡」


 後部座席でしごかれていた時以上の羞恥がサメを襲う。引き締めた尻の内壁が悶えるように蠢き、それが脈動となって猫の指を舐めしゃぶる。陵善は一刻も早くこの地獄が終わるように祈っていた。


「鴎林、凋羽。叩いて」


 簡素な命令を受けて、サメの尻たぶに張り手が振り下ろされる。小気味良い破裂音が車内に響けば、澄香は嬉しそうにからからと笑った。


「ふぐおおぉ?!♡♡」


 陵善からすればたまったものではない。雄二人のスパンキングは痛みよりもより強い羞恥を引き起こし、サメは体を硬直させてしまう。

 手を離したせいでむちっと閉じた尻に、綺麗な紅葉が散った。汗で艶めいた臀部に赤い模様が押され、この辱めの記憶を体に刻み付けていく。


「安心して、本気で叩かせたら血が出るだろうけど、私はそこまで求めてないから」


 引き抜いた手で赤く腫れた尻を撫でながら、黒猫は落ち着いた声音で話しかける。まるで自分は優しいだろうとでも言いたげな態度に、サメは無言で反論を貫いた。


「本当は君ともっと遊んでいたいのだけど、着いてしまったからね。鴎林、私は先に行くが、陵善を引き抜いて身なりを整えてから合流して」

「かしこまりました」

「ああ、それとローションが余ってしまったね……」


 ようやく朝の地獄が終わったのだと一息ついた陵善だったが、背後で笑う黒猫に気づかない。猫はおもむろにボトルをサメ尻に突っ込んで、中身を注入し始めた。


「うおっ?!♡♡♡な、なんだっ♡♡おれの腹に、やめ……♡♡」


 肛門を逆流して満たしていく粘液に、サメは気持ち悪さを覚えて背筋を震わせる。だが体を抑えつけられた陵善に反抗の手段はなく、結局ボトルの中見のほとんどが腸へと送り込まれてしまった。


「ふぐぉ……おおぉ……♡」

「ふふ、せっかくだから有効利用しないとね。それじゃあ、また後で」


 澄香は凋羽を引き連れて悠然と車を降りていき、車内には二人だけが残される。

 熊は備え付けのウェットティッシュでサメを拭きながら、先ほど自分が叩いたところをいたわるように撫でた。


「悪い。痛かったか?」

「別に……この程度、大したことじゃねえ♡うぐぉ♡」

「お前も大変だな。澄香様どころか、晴田様からも目を付けられちまうなんて。おかげで兄弟喧嘩の出しにされちまってる」

「本当にな、とんだ、災難だ♡これ……いつまで続くんだよ、畜生……腹が♡♡」

「お前がどちらかに泣きつくまでだろうな。いくら仲が悪くても、あの兄弟は互いのお気に入りには手を出さないっていう不可侵条約を結んでいるからさ」


 ここで働く人には三つの末路がある。

 一つは二人の変態兄弟に耐えきれず壊れるか、逃げ出す者たち。

 一つは澄香の専属になり生活を管理される者たち。

 一つは晴田の愛人になり雄として終わった日々を過ごす者たち。

 

 鴎林のように要領よく立ち回れている者はまれであり、凋羽のようにどちらかにつく者か、そうでなければ陵善のように選択を迫られている者しかいない。


「ま、おれとしちゃおすすめは晴田様だけどな。権利書持ってるってのもあるし、あっちのほうが待遇はいい」

「それはわかってるが……ぐっ♡」

「プライドだけで迷ってるなら、とっとと捨てちまえよ。ここに来た時点で、そんなもん何の意味もねえんだから」

「お、お前は、こんなことを許してるのか……?」

「許すも許さねえもねえよ。あいつらは金も権力もあって、おれら程度なんて歯牙にもかけない存在だ。できることなんて、何もねえんだ」

「だが……うおおぉ♡下腹部は、丁寧に拭いてくれ……押されると、やばいっ♡♡」

「おっとわりぃ。んで、前職警官だったか? 認められねえのはわかるけど、折り合いは付けとけよ。そういうところが兄弟に気に入られたのはわかるが、あまりに不興を買うと最悪なことになるぜ」


 それからスーツを整えれば見た目だけは整ったサメが立ち上がる。

 だがその腹の中ではローションが溜まっており、一歩進むだけで尻から逆流しそうになっていた。思わず前かがみになりかけるが、そんなところ澄香に見られたら何をされるのかわかったものじゃない。

 サメは意地でも背筋を伸ばし、できる限り平静を装って歩き出す。


「……たく、意地っ張りめ。今日の仕事が終わったら、いくつか教えてやるよ。あの兄弟に目を付けられて、終わっちまった同僚の話をな」

「参考に、ふぅふぅ……させてもらうさ♡お前、案外お節介なんだな……♡♡」

「そりゃ、お前があの兄弟の気を引いている間は、おれが楽をできるからな。お前にはできるだけ長くもってほしいんだよ」

「スケープゴートかよ……ま、何にせよ、助かってるよ♡♡」


 そうして澄香の執務室へと足を運ぶ陵善だが、そこからも地獄だった。

 排泄を許されないままローションが暴れ出し、気を抜けば漏らしてしまいそうな中ずっと緊張を保つ必要があった。昼休憩になるまでの我慢だと脂汗を浮かばせながら耐え凌ぐ姿は、澄香の機嫌を大いに上げてくれた。


「ふぅ♡ふぅ♡ふぅ♡♡」


 もはや時間の感覚もあいまいで、ただ無心で耐え続けるサメは尻の穴を引き締めることに全力だ。腹が重くなり体中が排出しろと訴えは強くなる一方で、もはや歩くことすら困難になっている。

 こらえきれない呻きをこぼして荒く息を吐く姿に、同じ部屋の同僚たちは憐憫を注ぐ。はた目から見ても、このサメは限界だった。


【続きは来月の支援者限定公開となります】

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POSTEDSep 30, 2024
ARCHIVEDJun 10, 2026