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うちの雇い主の管理趣味が過ぎるんだが!

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 金が欲しかった。

 

 おれは別に何かに秀でてるわけでもない、得意はあるが才能があるかと問われると首を横に振るだろう。強いて言うなら体がでかくて、昔からやんちゃな奴に絡まれることが多かったくらい。顔だってこわもてなサメで、舐められたことなんて人生で一回もない。

 んで、それを活かそうと思えばやっぱり業種は限られるわけで。


 おれは格闘技もたしなんでたから、金持ちがSPを募集してると聞いてこれ幸いとすぐさま飛びついたのさ。

 だけどまさか、それがこんな職場だとは思わなかった――――


****


「うん、じゃあ今日もよろしくね」


 朝日に照らされた庭で、日課が行われようとしていた。広大な土地の一角には黒いスーツの男たちが並び立ち、噴水を囲んでいる。彼らは住み込みのSPであり、今は仕事の最中だった。


 彼らの口元が引き締まっているのは緊張のせいであり、その原因は雇い主である猫の男。人のいい笑顔を浮かべているが、その内心は毛皮と同じく真っ黒なことで、SPたちの間でも共通認識となっている。


「まずは……夢精した人」


 無邪気に告げられる声に、おずおずと数人のSPが手を上げる。射精を禁止されているためいつか訪れることなのだが、彼らはサングラス越しでも憂鬱を隠しきれていなかった。


「あーあ」にんまりと楽しそうな声で。「我慢できなかったんだ。私が駄目だと言ったのに」

「お、お許しを……」


 一人が小さな声で懇願するが、それが届くようならこんなことはしていない。性悪な雇い主、綾金 澄香(あやがね すみか)は哀れな下僕の声を笑顔で跳ねのけた。


「夢精した人は今日お留守番だね。もちろん、トイレは禁止で」


 黒猫の命令に上がった手の指先がしおれていく。朝食に利尿剤を飲まされた彼らの膀胱は、すでに限界に達している。澄香が戻ってくるのがいつになるのかわからない以上、もはやその命令は拷問だ。


 SPは誰もが屈強な雄であり、澄香と比べれば体の分厚さはまるで違う。

 だがこの場を支配しているのは、間違いなく黒猫だった。


 それでも馬鹿正直に申告するのは、隠しきれるものではないからだ。現に彼らの股間からはザーメンの雄臭い匂いが広がっていて、綺麗に整えられた庭とミスマッチを生んでいる。下着を変えることが許可されていない彼らは、ザーメンが付いたパンツのままスラックスに足を通さざるを得なかった。


「でもそれじゃあみんな大変だろうから……今だけ許可してあげるよ」


 本来なら、SPたちは安堵すべきなのだろう。利尿剤で膨らんだ膀胱を解放してくれるというのに。

 だが黒猫がそういう意味で言ったわけではないということ、この場の誰もが理解している。


 なぜなら彼らは『ズボンを脱ぐことを許可されていない』のだから。


「……ん? どうしたんだい?」


 肩を震わせるだけの彼らに、柔らかい微笑みが向けられる。一皮むけば真っ黒な表情を前に、選択肢など残されていない。


 朝日の差す庭でスーツを着たまま漏らせと、そう澄香は言っていた。


 ここを逃せば排尿の許可は得られない。だがこんな大勢の前でおもらしをするなど、大の大人としては苦痛以外の何物でもない。


 それでも彼らができることは黒猫の言う通りにすることだけ。綾金家の富と権力にたてつくことの愚かしさは、現代社会に生きる者ならだれでもわかっていることだ。


「早くしてくれないと、遅れてしまうよ。朝から会議も入ってるんだからさ。私は足を引っ張るSPなんていらないんだよ」


 などと言われてしまえば、肩を震わせて恥辱を受け入れるしかない。

 かわいそうにも手を上げた数人は、ややあって、黒いスラックスの股間にシミを広げていく。じょわじょわと、生暖かくなる感覚が広がって、雄たちは硬く目を瞑る。今は周りの顔も、猫の愉悦も、何も見たくないと言わんばかりに。

 黒い生地の変色によって、尿の流れは鮮明になっている。日光によって隠し切れない光沢が足元にも広がって、綺麗な革靴も排泄物によって艶を強めていた。


 利尿剤を投与されたせいで排尿は滝の如くで、裾まで流れ落ちるものだけではなく、股間からじょろじょろと滴るものもある。男たちはしゃがみ込んでしまいたいほどの羞恥に身を焼かれているが、雇い主の愉悦を孕んだ視線はそれを許さない。


「うぉ……おっおぉぉ……」


 誰かから屈辱と開放感の混ざった声がする。アンモニアとザーメンの混ぜ込んだ匂いをまき散らすなど恥でしかなく、胸中では早く終わってくれと切に祈っていた。


 澄香の集めた屈強な雄たちがおもらしをしながら、胸を張らざるを得ない状況に追い込まれている。それは黒猫の嗜虐心を満たしていき、尻尾を嬉しそうに躍らせるには十分だ。


 靴も制服も、部屋さえも支給品であり、彼らの失うものはプライドだけ。だけど、そのプライドによって彼らの心は引き裂かれていく。硬く噛みしめた口元がわななくさまが、いかに耐え難いかを物語っていた。


「……うん、よくできました。そんな服じゃ仕事なんてできそうもないから、今日は休んでていいよ」


 やがて彼らの股間を十分に変色させた後、猫は朗らかに言い切った。つんとくる尿の匂いが全員の鼻を刺激すれば、まだ排尿を許されていない残りのSPたちは股間をもぞもぞと動かした。


 自分たちも早く出したい。そんな生理的欲求に苛まれている雄たちを横目に、猫はわざとらしく悩むそぶりをする。どうしようかと言わんばかりの口元からは牙がのぞいており、残虐な精神性を露わにしていた。


「そこの君……たしか、湶川 陵善(あばらかわ りょうぜん)だったね。最近うちに入ったばかりの……」

「はい!」


 そんな猫が次に目を付けたのが、新米のサメ、陵善だった。広い肩幅がスーツにマッチしており、分厚い胸板に盛り上がったシャツのボタンがはじけそうになっている。首も太いため無理矢理締めたボタンが窮屈そうだが、いかつい風貌にサングラスがよく似合っていた。


「君はおしっこしたいかい?」

「したいです!」


 青空に抜けるような大声で、サメは叫ぶ。先輩から恥じらうよりも堂々としたほうが気に入ってもらえると教わっている。陵善は空色の頬に朱を散らしながら、人生で感じたことのない羞恥をなんとか嚥下しようとしていた。


「ちんぽからおしっこを出したいと?」

「はい! おれはちんぽからおしっこを出したいです!」


 わめきながらサメはなぜこんなことをしているのかと、自問自答で思考をそらしていた。

 自分は給金がいいからと申し込んだだけであり、決してこんな変態プレイのために来たわけではない。綾金家の格式から考えれば、陵善のようなどこの馬の骨とも知れない者が採用されたことは奇跡だとすら思った。

 だが、こんな扱いをされていたのなら、常に人手不足になるのは当然だ。サメは過去の自分に絶対この仕事はやめておけとくぎを刺しに行きたかった。


「そんなに出したいんだ。陵善みたいなガタイのいい男性が、そんなにねえ」

「はい! いくら体がでかくても膀胱はカスです! もう漏れそうでたまりません! おしっこ出させてください!」


 なんで自分がここまで言わなければならないのか。サメは怒りで頭が沸騰しそうだった。


 この綾金 澄香という男は他人を、特に屈強な男性を辱めることを至上としていた外道だ。自身の金と地位を使った様々な方法で弄び、陵善が済んでいる屋敷には彼のセフレまがいの雄たちが多数存在している。

 週刊誌にすっぱ抜かれて破滅しろと、いくらサメが怨念を飛ばしたところで、綾金家はびくともしないだろう。この澄香の兄は政治家で、父は財閥から生まれた会社の会長だ。多少の火遊びなど意にも返さないほど、澄香は盤石な地位の上に胡坐をかいている。


「うん、そこまで出したいのならいいよ」

「ありがとうございます!」

「もちろん、みんなもね」


 ようやっとお許しが出たところで、次々と雄たちがスラックスからちんぽを取り出していく。これはSPたちの間では朝のお許し当番と言われており、ここで機嫌を損ねればまた何があるのかわからず、さらには連帯責任のため非常に重要な仕事の一つだ。

 限界まで我慢させられた陰茎たちの矛先は噴水に向いている。浄水装置を備えたそこは、毎朝雄たちの尿を捧げられる祭壇でもあった。


 ふてぶてしく大きな萎えちんが何本もまろびでて、猫の許可を待っている。トイレのように隣同士のついたてもないため、それぞれの一物を彼らは見慣れてしまった。


 サメのちんぽは大きさも形も素晴らしく、先端が使い込んだ暗い肉の色をしている。

 熊のちんぽは大きいのだが皮を被ったドリル型で、トイレのために必死にむいている。

 ワシのちんぽは粗末なもので、大柄な体躯との落差のせいで滑稽に見えている。


 十人十色の物を差し出され、澄香は上機嫌に鼻歌交じりの指示を出す。


「みんな、待てだよ」


 調教師は噴水を回りながら、それぞれの顔をじっくりと観察し始める。彼らは皆従順で、膀胱の訴えを抑えながら尿道を閉めている。

 途中にはスラックスにおもらしした雄もいて、その顔は真っ赤な屈辱で花を咲かせている。早く帰って脱ぎたいだろうに、その許可すらも猫の掌の上なのだ。


 さんざん焦らして、堪能して、澄香はようやく許可を出す。


「……うん、もういいよ。全員、出せ!」


 その声を皮切りに、何本もの黄色い線が水面へと伸びた。

 勢いよく迸る放尿はジョボボと弧を描き、噴水の一部へと変わる。尿は太陽を受けてきらめき、嫌でも黄金の輝きを周囲へと知らしめていた。


 本来なら屈辱を感じるところだが、猫に管理されている雄たちは慣れていることもあり、解放感に酔いしれている。

 溜まった物を排出する行為はデトックスのようなもので、尿道を液体が駆け抜けるたびに得も言われぬ快楽が背筋を撫で上げるのだ。


 これが性悪な富豪綾金 澄香とそのSPたちの日常。人を人とも思わぬ所業を繰り返す猫と、膨大な恥辱を金に変換する雄たちの通常であった。


****


 黒猫の移動は基本的に自家用車だ。後部座席の真ん中を陣取って、左右に雄をはべらせている。


「んっふぅ……ふぅ、ふぅ……!」

「君のことを教えてくれないかい、新人さん? せっかく身の回りの世話をしてくれるのだから、親睦を深めたいのさ」


 澄香は隣にいるサメへと気さくに声をかけているが、その手はスラックスから伸びる一物を遠慮なくしごいている。手コキ用のゴム手袋はイボ付きで、そんなもので亀頭をこすられる陵善は射精しないようにするので精いっぱいだった。


「んおぉ……! ぐっ、うぅ……!」

「そんなに硬くならないでいいんだよ。私は君と仲良くなりたいだけなんだ。鴎林(おうりん)もそう思うだろ?」


 猫の反対側、サメに負けないくらい大きな熊の男もドリルちんぽをいじめられている。皮の余った先端をつまんで伸ばされれば、雄の象徴が屈辱的な形に変わる。大きさだけはあるため、まるで茶色いサツマイモのような見た目をさらされて、熊は歯を食いしばった。


「おっふぅ! んおぉ……」

「ねえ、鴎林。君はなんでこの仕事を受けたんだっけ?」

「じ、自分はコンプレックスの包茎を治療する金を稼ぐために、この仕事を受けました!」

「勃起しても完全に剥けないんだね。大きいのに子どもみたいなおちんちんだ。こんなおちんちんでセックスとかできるのかい?」

「し……したことはありません! 自分のちんぽは大きいだけでなく性欲も強いので、匂いもきつく……女性から嫌われているので……!」

「そうだった、そうだった。こんなおちんちんじゃ子どもなんて作れないよねえ。知ってるかい陵善、鴎林は性欲がすごく強くてね、二、三日射精を禁止すると、すぐ足元に泣きついてくるんだ。……鴎林、見せてあげて」

「はい……!」


 両手がふさがっている雇い主の代わりに熊がスマホを取り出して、何があったのかをサメへと見せる。

 そこには黒スーツのジッパーから真性包茎を勃起させて、必死に画面外から伸びた革靴にこすりつける熊の姿があった。ずれたサングラスからは蕩けたまなじりがのぞいており、垂れ下がった舌にはプライドなど全く感じられない。

 しかも動画になっているようで、再生すれば大きな熊がへこへこ腰を動かしながら情けなく射精を乞うている声も聞こえてくる。言葉の断片をつなぎ合わせると、どうやら一週間ほど禁止されていた時のようだ。


『澄香様……どうか、射精許可をください……! 金玉が破裂しておかしくなりそうです!』

『あははっ! そんなに射精したいんだ。私の靴にこすりつけたまま?』

『はい! おれは射精できるのなら靴オナでもいい変態です! おれの子どもちんぽを踏みにじっていかせてください!』

『ふーん、そこまで言われたら考えてしまうなあ』


 ソーセージをこすりつける熊の側には、外したばかりの貞操体が転がっている。これで我慢させられた熊ちんぽはようやく解放された嬉しさに硬くいきり立っているが、やはり先端は皮に包まれたままだった。


『なら踏みつけてあげるから、これでしこりなよ。それでいいでしょ?』

『はい! ありがとうございます! ありがとうございます!』


 あふれ出た性欲にプライドはつぶされて、輝く熊の顔に嫌悪はない。軽く踏みつける革靴の底と地面に挟まれて、無我夢中のへこへこ運動でオナニーを始める。


『うおおっ! おおぉっ! おっおっ! いぐいぐいぐいぐっ!』

『あはは、出せ出せ。情けなく足裏にザーメンぶっ放しちゃいなよ』


 元から限界だったのだ、それからすぐに射精するのは想像に難くない。鴎林はケダモノのような咆哮を上げながら、大量のザーメンを噴火させる。


『ぐるううぅぅおおおおぉぉぉぉっ!』


 鼻水を垂らした情けない顔で射精の多幸感に酔う熊を、サメは見ていられないと眉をしかめた。

 性豪な金玉は当然一発じゃ足りないため、腰はゆるゆると動いてちんぽをこすりつけたままだ。足裏を離されないよう、必死に媚びを浮かべておもねる姿はかなりきついものがあった。

 

「どう? かわいいでしょ? 鴎林は私の部下の中でも素直だから、ついかわいがってしまうんだ」


 連続射精まで見せた後、にっこりと笑う黒猫にサメは何と言っていいものか考えあぐねていた。正直に言うわけにもいかず、かといっておべっかなどを得意とはしていないため、濁した言葉しか喉を通ることを許されなかった。


「まあ、そうですね……」

「ああ、ちょっと刺激が強かったかな。でも鴎林は喜んで従ってくれているんだ。そうだよね?」

「はい……! 自分は澄香様に飼っていただけて幸せです! トイレも射精も、澄香様の指示に従うことが、自分の幸せです!」


 それが言わされているのか本心なのか、サメにはわからない。だが、この環境がくそだということはわかっている。

 ギリリと牙を噛んで嫌悪を飲みこもうとするのだが、勃起を手袋が撫でれば尻尾の先まで震えてしまう。雄の弱点を握られて、陵善になすすべはない。


「それで鴎林、今は射精禁止してから何日目だっけ?」

「み、三日目です!」

「そうだったね。貞操体もなしでここまで我慢出来て偉いね。どうすれば射精させるよって、私は言ったのだったか……」

「澄香様は……今日一日ディルドを入れて過ごせば、射精させてくれるとおっしゃいました!」

「ああ、忘れていたよ。じゃあ今はきちんと入れてくれているんだね?」

「もちろんです! 澄香様から頂いた、極太のものをしっかりとハメております!」

「それじゃあ後で見せてもらおうか。後輩君にも先輩の仕事ぶりをしっかりと教えないといけないからね」

「わかりました!」


 この熊は慣れているのか、猫の傍若無人な行いにきびきびと返事をするだけで、拒否反応などはうかがえない。それどころか嬉しそうに包茎をひくつかせており、サメはこうはなりたくないと心底思った。


 許可は与えないくせに、猫は丁寧に二本の一物を愛撫し、車内を雄臭く満たしていく。陵善も射精禁止は三日目であり、すでに頭の中は射精欲で埋め尽くされている。それでもプライドだけでこのサメは気概を保っていた。

 

「ふっ、ぐ……おおぉ……♡」

「陵善のちんぽは大きいね。しかも形もいい。使ったことはあるのかい?」

「んぐ……!」

「あるのかい?」


 ぎゅっとイボ付きゴム手袋で握られれば、拒否権なんて削られてしまう。許可もないのに射精してしまえば、悪質な嫌がらせを受けるに決まっているのだから。


「がっ……あります!」

「ふうん、じゃあ童貞じゃないんだ。男? 女?」

「……りょ、両方、です……!」

「あはは、ヤリチンだねえ。仕事では後輩だけど、私生活では鴎林の先輩なんだ。だってさ鴎林、可愛い後輩に負けてるの、恥ずかしいよね?」

「は、はい……」


 皮をぐちゅぐちゅといじられながら童貞を揶揄されれば、熊の顔で羞恥の赤が強くなる。茶色く整った毛皮に包まれた顔は精悍と言えるが、今は茹ったヤカンのような無様さしかない。


「ああでも」わざとらしく猫が首をかしげて。「脱処女は鴎林の方が早いんじゃないかな。陵善は後ろを使ったことあるのかい?」

「ありません……!」

「やっぱり。よかったね、鴎林。これで先輩の威厳が保たれたよ」


 屈強なサメは誰とするにもタチしか経験がなく、ましてやこんなSMじみた攻めなど受けたことがない。相手を丁寧にいたわりながら行ってきた陵善からすれば、この猫の行動は反吐が出そうなほど嫌いだった。


「鴎林はね、兄さんからも気に入られているんだ。でも兄さんったら、私が射精を管理してるのにすぐ手を出して、金玉を空っぽにしてしまうんだ。まったく、我が兄ながら、性欲が強すぎて困ってしまうよ」


 聞いてもないことをしゃべりながら、サメに想像を抱かせる。このたくましい熊がベッドでは雌のように扱われているのだと、そして、お前もこうなるのだと。

 そして嫌悪をにじませるサメの顔を見て、何とも嬉しそうに微笑むのだ。


「やっぱり上司からすれば素直な人の方がかわいいからね。君も目上の人には可愛気を見せたほうがいいよ」

「うっす……!」

「あっと、もう着いてしまうね。君のことをあまり聞けなかったのは残念だ。じゃあ最後に、どうしてこの仕事を受けたのか、教えてもらってもいいかい?」

「お、おれがここに来たのは……金のため、です!」

「確かに、そこそこいい給金を提示してるね。私や兄のお世話ができる人は限られているから、君のような前途有望な若者が来てくれて嬉しいよ」


 前途有望の意味は社会一般と猫が使うのでは違っている。それは左右の雄たちには自明なことであるが、口に出すことはない。

 なぜなら、その身をもって味わっているのだから。


 車が目的地に着くと、猫はゴム手袋に包まれた両手を二人へと向ける。射精したくて硬くなったままのちんぽなど、もうどうでもいいと言わんばかりだ。


「ほら、外して。君らの汚い汁で汚れているんだから」

「はい……」


 しごいたのはお前だろうという言葉を飲み込んでサメは手袋を外す。自分の泡立った先走りはすさまじい匂いを放っており、どうしたって羞恥が刺激されるが、それを表に出すと猫を悦ばせるだけだとぐっとこらえている。

 反対に、熊はてきぱきと外し終えた後、支給されているハンカチで猫のスーツや車内を拭いている。勃起したままのそこを弄ることなく、自らの役割に従順だった。


 見習ってサメも同じことをすれば、猫の笑顔が癪に障る。先輩を見て仕事を覚えると言えば聞こえはいいが、実際は調教のようなものだ。


「偉いね。新人は射精を我慢するのに精いっぱいで、あんまり気が回らない人も多いのに。これは兄さんにも気に入ってもらえそうだ」

「……恐縮です」

「これならここでやっていけるかもしれないね。お金がいるんだろう? 道場の再建、大変そうだからね」

「……っ!」


 まさか調べられているとは思っていなかったため、サメは思わず視線を上げ、猫と向かい合う形になる。隙を見せたと陵善が気づいたところで、もう遅い。

 特大の爆弾を落とせたことに満足したのか、澄香の顔からは意地の悪さが存分に発揮されていた。


「うちは由緒正しき家系だよ? 素行調査くらいするさ。君の目的も、大体把握済みだよ」

「そうですか」

「お父さんが病気で、大変だったんだろ? ここに来ることで、君はお金と綾金家のSPという経歴を得ることができる。道場を運営するにはうってつけだ」

「だから……頑張ろうと思ってます」

「うんうん、健気な若者の努力。私は応援するよ。さあて、どうやら着いたみたいだ。今日もよろしく頼むよ君たち」


 いけしゃあしゃあと言いながら腹の中でどんな算段を企てているのか。陵善は推し量ることすら脳が拒んで、表面を取り繕うことに努めた。

 

 自分の育った場所を守るために、サメはおぞましい悪意の沼に立っている。

 それでも絶対に折れないと誓い、ちんぽをしまって車を降りる。この猫を守ることが、今の陵善の仕事だから。


****


 湶川の家は代々続く柔道の専門家だった。決して大きいとは言えないながらも道場を持ち、警察の指南役などもこなしていた。そのため地元では少し名の通った家でもある。


 そんな湶川家に陰りが差したのは、少し前から。

 陵善の父は警察として働いた後、余生として道場を継いだのだが、病気によって運営が困難になってしまった。父の後を追って警察として働いていた陵善がそのことを知った時にはすでに遅く、門下もいない道場はひどくさびれたものになっていた。

 手入れのされていない道場は廃墟のようで、陵善は胸が張り裂けそうなほど心を痛めてしまう。その時になってようやく、サメは自分がここを愛していたのだと気づいたのだ。


 どうして相談してくれなかったのだと詰め寄る陵善に、そろそろ潮時だと、父は言った。


 このご時世に道場にこだわる理由はなく、自分の代でつぶれるならそれも構わない。お前は好きなことをしなさいと、親心から諭したのだ。

 だが父の想定外だったのは、彼の想像以上に陵善が自分の生まれ育った道場を愛しており、柔術に誇りを持っていたことだ。

 だから、彼が道場のために立ち上がるのはひどく自然なこと。立ち上がった時には、すでに腹は決まっていた。


「わかった、だったらおれは自分の好きなことをする」


 そう宣言した陵善は警察を辞め、金のために澄香の配下へと成り下がった。


 すべては、自分の場所を取り戻すために。


****


「君さあ、これから今日一日『ちんちん』しか言ったらだめだよ?」


 そんな命令をワシが下されたのは、昼食時を過ぎたあたり、猫の執務室でのことだった。


 SPの一人でありがっしりとした体躯のワシ、凋羽(しぼわ)は整えたスーツの股間から粗末な一物をぶら下げて、屈辱に肩を震わせていた。


 彼がこんなことになっているのは、ただ運が悪かったからだ。

 昼食に配られたものの中にランダムに仕込まれた利尿剤に当たってしまい、猫が許可を出すまで待てなくなってしまった。ここで漏らすわけにもいかず、慈悲を乞うたところで掌の上。待ってましたと言わんばかりに、上記の言葉を浴びせられるのだった。


「私の許可を得るには相応の対価がいる。知っているだろう?」

「はい、存じております……」


 執務室に備え付けられた大きな机をはさんで、猫とワシは向かい合っている。

 陵善や鴎林は部屋の端で直立不動しており、この茶番劇が終わるのを待つことしかできない。


「ふふっ、そうじゃないだろ?」

「ち……ちんちん!」

「あははっ! そうそうその調子。頑張れば漏れる前には許可をあげるよ。あ、その小さい子どもちんちんは隠しちゃ駄目だよ。漏らしたらスラックスが汚れるからね」

 

 租ちんがコンプレックスだと知っている澄香は、凋羽の効率的な辱め方法を熟知している。ワシを列に戻すと、にんまりと笑みを深めて指示を飛ばすのだ。


「ああでも、他のみんなも漏れると大変だろう? どうせだったら凋羽みたいにちんぽを出しておくといい」

「……っ!」


 そう言われれば動かざるを得ない。並んだ雄たちはスラックスの股間部を開き、それぞれの一物を外気へとさらした。


 サメの大きくて整った一物や熊の真性包茎だが大きなもの。他にも全員が体格に見合ったでかさを誇り、その中ではワシの租ちんがいっそうみじめになっている。


 陵善の記憶では、このワシは優秀なボディガードとして引き抜かれてきたはずだ。サメより少し上の30半ばで、前の職場ではSPのまとめ役までしていた。

 そんなワシが今、他の同僚と同じ立場で、ちんぽの大きさを比べられている。ひどい屈辱を感じているのだろう、くちばしからぎりぎりと噛みしめるような音が鳴っていた。

 だが、ワシの一物が小さいことは疑いようがない。どれだけ分厚い体と経歴で貫録を得たとしても、サメの小指ほどしかないそれを暴かれては権威など霧散する。鴎林と違い完全に剥けているため、これほど小さいのに大人のものなのだと分かられてしまうのもまた、ワシのプライドを傷つけていた。


「ふふ、いつ見ても可愛らしいね。金玉はこんなに大きいのにね。貞操体を付けてあげたいんだけど、なかなかサイズが無いのも納得だ」

「…………っ!」

「おっと、おしっこだったね。したいかい、凋羽?」

「……ちんちんっ!」

「何を言ってるのかわからないよ凋羽。そろそろ私の休憩時間も終わる。そうなったらもう機会はないだろうね」

「ちんちんっ! ちんちんっ!」


 膨らんだ胸板を張って、やけくそ気味に連呼するワシ。きっちりと決まった黒いフォーマルの中で、ぶら下がる小さなものだけが異端だった。


 やがてひとしきり笑い終えた猫に、仕事の時間が迫っている。クズではあるが仕事は真面目にこなす性分だ。お遊びもここまでと、華奢な指が部屋の一角を示した。


「いいよ凋羽。私が準備をして部屋を出るまでに、そこで済ませておいてくれ」

「……ちんちん」


 指示されたのはペット用の砂が置いてあるトイレだった。成人男性、それも平均よりもずば抜けて大きな雄に、そこで用を足せと言っている。

 当然澄香はペットを持ち込んでいるわけではなく、そこは利尿剤に当たった哀れな被害者専用の辱めスペースだ。部屋の隅で背中を丸めて排尿し、自分で砂を片付けさせられる屈辱はいかばかりだろう。


 ワシの握り拳が震えているのを、サメはしっかりと見た。こんなことパワハラと一言で片づけていい問題ではない。

 もともと警官だったこともあり、陵善は正義感が人一倍強い。配属初日に先輩たちから絶対に逆らわないよう釘を刺されていなければ、すぐにでも殴りかかっていただろう。


 サングラス越しでばれないのをいいことに、サメは眼光を鋭くし、猫への嫌悪を募らせる。こんな醜悪な人が存在していたなど、警官をしていた時でも想像できなかった。


 澄香が午後の仕事に向けて資料を集めている間に、ワシはそそくさと隅へと移動する。もう少しすれば秘書がやってきてしまう。見られてしまう前に済ませてしまおうと、猛禽類の体はトイレに向けてしゃがみ込んだ。


「…………くそっ」


 サメにできることは、つぶやかれた恨みを聞かなかったことにして、小刻みに振動する背中を見ないようにするだけだった。


 合間合間に嫌がらせはあるものの、仕事中の澄香は基本的に真面目だ。

 教育がいいおかげか公私は弁えているようで、彼らも普通に仕事ができている。法外な給金に衣食住完備と、内容だけ見れば破格の仕事であり、彼らにはそれ相応の振る舞いも求められる。

 陵善もこの時ばかりは新人でしかなく、先ほど辱められたワシなどから指示を仰ぎつつ、なんとか対応していた。護衛術には精通しているが、SPとしての仕事は初めてなのだ。


 そして、猫の仕事も終わり、屋敷に戻ればようやく彼らは解放される。


 ……わけでは当然ない。


「……まったく、ひどい目に合った」


 SPたちの休憩室でそうごちるのは、昼に辱めを受けたワシ、凋羽だった。


「本当にな、同情するぜ……あんなの毎日やって、飽きねえのかよ」


 サメはシンクで淹れたコーヒーをふるまって慰めながら、あの猫に対して口を尖らせた。

 澄香は家に戻ると必ず風呂に入ることを習慣化しており、護衛の人数はかなり減らされる。そのため、サメとワシ、それから熊は一息つく場所を求めて休憩室へと足を運んだのだった。


「まあまあ」コーヒーにミルクを淹れながら熊が。「慣れちまえばそんなもんだろ。最近は尿だけでよかったと思ってるくらいだ。あれで大までさせられたら、さすがにおれも無理だしな」

「うえぇ、考えたくもねえ……」


 もはや処女すら仕事に捧げている熊は平然とカップに口を付け、すました顔だ。

 朝に車の中で包茎を弄られて喘いでいた様子は影も形もない。切り替えが早いのか、慣れてしまっただけなのか、どちらにせよ、ここで仕事を続けるのならこうなるしかないのだろう。


「人としてどうかと思うがな。いくら金払いがいいとはいえ、やってられん」


 ワシはまだ人の心が残っているのか、渋い顔でブラックをすすっている。屋敷に戻ってからは朝までトイレも自由に行えるため、利尿作用を心配する必要はない。


「じゃあなんでここで働いてんだよ。やめるなら早い方が良いぞ」

「……娘が難病でな。金が要る」

「ああ、それは……」


 それを聞いてしまえばサメが言えることはない。ここで働いて長い鴎林は知っていたようで、準備していたように明るい声を出して場を和ませた。


「でも、もうそろそろ手術できそうなんだろ? なんでも、世界的な名医に頼めたとか」

「……澄香様のおかげでな。そもそもここに引き抜かれたのもそれが条件だった。だから私さえ我慢すれば、娘は助かるんだ」

「なら、慣れちまった方が早いぜ。ストレスで身体を壊すより前に、適応したほうが楽ってもんだ。お前もな、新人」


 熊の言い分には一理ある。サメには道場の復興という目的がある以上、ここで働くのが一番の近道だということくらいわかっている。

 だが培った正義感がそれを良しとしてくれない。あの悪を前に屈することを心が許してくれないのだ。


 その葛藤はすでに熊も通った道だ。鴎林はこの新人が折れないことを祈りながら、コーヒーを流し込んだ。


 胃を満たす温かさに一息ついている彼らだったが、明るい声が入ってきたことで終わりを告げられる。


「やあ、ここに陵善っていう新人がいると聞いたんだけど……ああ、彼だね」


 三人がリラックスしている場所にやってきたのは、白いスーツを着た黒猫の男。澄香に似た顔はより精悍ではあるが、常に笑顔が張りついたような顔をしている。


「は、晴田(はるた)様……! こんなところにわざわざいらっしゃらなくても、連絡さえいただければこちらから出向きましたが……!」


 雇い主の兄、晴田を見たワシが立ち上がりながら出迎える。元からSPをしていただけあって、切り替えの早さも彼らの中で最速だった。


 綾金 晴田。澄香の兄であり、生粋の男好き。配属初日から、この男にも注意するようにと陵善は言われていた。


「なに、デートのお誘いなんだ、自分の足で誘うのは当然じゃないか」

「デート……ですか?」


 意図をつかめていないのはサメだけのようで、熊はニヤニヤと、ワシは引きつった顔で苦笑いをしている。


 そんな二人に構うことなく、黒猫は優雅な足取りでサメへと近づいていく。頭一つ分以上小さな体でのぞき込まれれば、とっさにサメものけぞった。


「ふむ……やはりいい男だね君は。澄香に付かせるのはもったいない」

「恐縮です……」

「聞いた話、君はお金に困っているのだろう?」

「は、はあ……そうですけど……」


 それが先のデートと何の関係があるのか、サメはまだつながっていない。

 綾金家の長男であり政治家でもあるこの猫は、いったい何のつもりで陵善に声をかけたのか。


 その答えはすぐさま明かされた。


「百万」

「は?」

「一晩百万でどうだろう。もちろん君の誠意によっては色を付けてもいい。相性が良ければ、配属の変更も視野に入れよう」

「ま、待ってください……えっと、つまり……晴田様は……」


 思考をまとめようとするサメの顎下を、黒い指が撫でる。笑顔が張り付いた目の奥では、獲物を狙うぎらついた眼光がサメを貫かんとしていた。


「気軽にハルと呼んでくれてもいいんだよ。どうせすぐベッドで裸を見る仲になるんだからさ」

「やっぱり……晴田様は、おれを買うつもりですか……?」

「ああ、その通りさ!」


 ごつごつとしたサメの手を取って、美丈夫は微笑んだ。

 澄香とは違う意味でこの猫は面倒だと、その意味がやっとサメの腑に落ちた。

 人を金で買い抱き潰す男は、真っすぐに視線を向けてこう言った。

 

「私に抱かれてくれ、陵善!」


 臆面もなく言い放つ猫を前に、サメの脳内では倫理と利益の天秤がせわしなく揺れ動いている。金という目的のためならば、そうするのが一番の近道だとわかってはいるが、持ち前の正義感はその行為を良しとしてくれない。


 悩んだ時間は実際に数秒あるかどうかだろうが、陵善にとっては何倍にも感じられた。


「ありがたい申し出ですが……お断りさせていただきます」

「ふむ、金額が足りなかったかな。君も自分の価値というものをよくわかっている」

「いえ、金額の問題ではありません。これはおれのプライドの問題です」

「男に抱かれるのが許さないと?」

「そういうことではなく……」


 こうなればどうにでもなれと、ニヤついた猫の顔を真正面で受け止めて、サメはハッキリと言い放った。


「好きでもない奴に抱かれる趣味はねえってことです」


 横暴にさらされているうちに、サメの中で負けん気は強くなる一方だった。陵善が求める善人の反面教師として、彼ら兄弟は横暴すぎる。

 陵善はここでクビになるのならそれもしょうがないと腹をくくっている。いつか耐えきれず拳を出して、傷害事件になるよりずっと穏便だ。毅然と張った大きな胸の下から刺さる黒猫のぶしつけな視線にも負けじと、口元を引き締めていた。


「ふうむ……なるほど……それはなかなか。射精させてあげると言ってもかい? もう禁止されて三日目だろう。君くらいの雄になると、だいぶつらいはずだと思うのだが」

「それでも、です」


 断られるとは思ってもいなかった晴田は興味深くサメの全身を観察する。

 鍛え上げられた肉体は他のSPにも負けないくらい大きく、スーツの持つスマートなイメージに雄々しさを混ぜ込んでいる。ボタンが取れそうなくらいに膨らんだ胸に、特注のくせに肩幅の張ったジャケットが、いかに巨体かを物語っていた。


「いいね、君」


 武人というのに、陵善ほどふさわしい雄はいない。晴田の下した結論に、サメは困惑を隠せなかった。


「利益をちらつかせたのに断れる人は多くない。政治の世界ではなおさらね。過度な幸福を求めず、清く正しくあろうとする。本当に弟にはもったいない……よし決めた」


 そこで晴田は素早く電話をかけると、三人の目の前で別の会話をし始める。


「ああもしもし澄香? 私だよ、晴田。……うん、そうなんだ、君の陵善、私にくれないかい? ははは、怒らないでくれよ。今度伝手でどこかの特殊部隊から人員を見繕ってあげるからさ。えーもう飽きた? まあまあ今度は君も気に入るはずだって。そういうことだから、じゃあね」


 明らかに納得していない怒声が聞こえているにもかかわらず、晴田はにこにこ顔で通話を一方的に打ち切った。そして、ぽかんとするサメに向けて、臆面もなく言い放つ。


「というわけで、明日から君は私の下で仕事をすることになったから。よろしく頼むよ」

「は、はあ……」いきなりすぎて混乱中の陵善だが。「つまり、明日は晴田様の護衛をすればいいんですね」

「そういうことになるかな。澄香のところとはいろいろ勝手が違うだろうけど、すぐ慣れるはずさ」


 何が何だかわからないサメだが、一つだけわかっていることがある。

 それはこの猫もまたろくでもないということだ。

 面白そうにコーヒーを飲んでいる熊は置いておいて、凋羽の気の毒そうな視線を見てしまえば嫌でも察しが付く。同じ屋敷ということで噂などにも詳しいワシがこういう顔をするならば、一筋縄ではいかないのは明白だろう。


「詳しい仕事内容は明日教えるよ。私は政治家だから予定が日によって異なっていてね、澄香みたいに決まったルーチンがないんだ。明日は朝に時間が取れるから……この時間に私の部屋に来てくれ」

「部屋……? 体を売る話ならお断りしたはずですが……」

「んふ、ふふふ、いいんだよ君はそれで。私が君を最大限堪能するだけだから。それで君が私に抱かれてもいいと思ったなら、その時はいつでも声をかけてほしい」


 心底嬉しそうな顔で尻尾を振る猫はサメの手を持ち上げ、その手に口づけを落とす。

 大仰な挨拶に思わす尻尾が硬直する陵善だが、振り払うこともできず猫が去る背中を眺めているだけだった。


「それじゃあ陵善、明日待ってるよ」

「はい、わかりました……」


 毅然とした歩き方には品があり、表情も澄香に比べれば人好きのする優しい顔だ。整った顔と清潔感のある白いスーツのおかげで、見た目の第一印象も悪くない。

 だが忘れてはならない、彼は澄香の兄であり、この屋敷で恐れられている雇い主の一人だということを。


 サメはそのことを明日には思い知ることになるのだ。


****


「なんでお前までいるんだよ」


 言いつけ通りの時間少し前に部屋まで行けば、廊下で同僚の熊が待っていた。


「晴田様のご厚意だよ。陵善にしてみれば慣れる前に配属が変わったんだから、見知った顔は多い方が良いってな。おれはもともとご兄弟の間を行き来することが多いから、うってつけだってわけ」

「なるほどな。人がいいのやら悪いのやら……」

「まあ、少なくとも、澄香様とは違う意味で終わってはいるな。お前もすぐにわかるさ。ただ、ここは射精には苦労しないから、そういう意味ではまだ楽かもな」


 言外にそろそろ限界だろと労られると、気恥ずかしさになんと返答すべきか迷う。正義感だけでなく性欲も旺盛な陵善が四日も禁欲すれば、不意に勃起しそうになる頻度も上がり、金玉はいつでも射精準備万端だと言わんばかりにたぎっている。

 そろそろ夢精も間近で、朝のおもらしに加わっていただろうことを考えると、確かに渡りに船ではあるのかもしれない。もちろん、それを素直に認めることは絶対にないのだが。


「お前のおかげでおれも射精できそうだし、感謝するわ。昨日澄香様の手コキで相当やばかったんだよなあ。あの後お前を取られた澄香様がだいぶお冠で、結局射精させてくれなかったしな」

「ケツに入れっぱなしだったのにか? 約束事も守れねえ雇い主は御免だね」

「その代わりに今日ここへの出勤を認めてくれたってわけ。澄香様は終わってるけど、約束は結構守ってくれる方だぞ」

「そんなことをすまし顔で言えるお前がうらやましいよ……」

「なら早く慣れることだな。金払いはいいんだからさ」

「それこそ御免だな」


 適当に軽口の応酬を終えて、サメは扉にノックする。返事を待ってから開け放てば、サメの足はそれ以上進むことを拒んでしまった。


「おはよう。余裕を持った出勤だね。いい傾向だ」


 広い部屋の奥、横に長い机の向こうにいる晴田がサメたちに笑いかける。部屋を聞いて身構えていた陵善だが、実際は執務室のようだ。そばにある机には秘書らしき人がすでに着席しており、業務がもう始まっているのだと知った。


 だが、陵善の顔をひきつらせたのは、そんなありきたりの光景ではなかった。


「今日の業務は簡単さ。この屋敷にいる間、私の護衛をしてほしいんだ。あの先輩たちに見習って、好きなポーズを取っていいよ」


 晴田の大きな執務室は奥に猫の机があり、その手前に円形の台が並べられている。

 横一列に並べられた四つの台座の内、両端の二つはすでに虎とトカゲの雄が昇っており、鍛え上げた肉体を見せびらかしていた。しかも台座は発光もするうえ左右からライトが照っているようで、筋骨隆々の雄たちの全身が、余すことなく光り輝いている。

 彼らは紐のように細いパンツとサングラス、黒いラバーの手袋と足袋、さらには悪趣味なうさ耳をつけていた。下品なショーを前に閉口するサメに、猫は微笑みを崩さない。


「なんだ、これ……?」

「護衛だよ。ただ、スーツ姿のまま側にいられるよりか、こっちの方が私のテンションが上がるんだ。君たちの制服も準備してあるから、さっそく着替えておくれ」


 下品なボディビルコンテストに参加しろと言われてサメは躊躇するも、熊はそそくさと服を脱ぎ始めていく。

 そして、耳元で小さくささやいて陵善の背中を押すことにした。


「言っただろ? 澄香様同様に終わってるって。晴田様はドが付く変態なんだ。澄香様とは違う意味で、雄の痴態が大好きなのさ」

「う、だが、こんなこと……」

「まあ初めては恥ずかしいよな。けど、慣れとけよ。こっちの方が業務内容は楽だとおれは思ってるぜ」


 ひょいひょいっと鴎林は巨根真性包茎と屈強な体を露わにし、変態衣装を身に着けて台座へと昇る。紐パンの全面が巨根によって押されているせいで根元部分が隠せておらず、もさ毛が丸見えだった。


「うんうん、鴎林はいつ見てもおいしそうでいいね。その包茎も嫌いじゃないよ」

「恐縮です」


 お礼を言いながらもちんぽを揺らし、胸を張ってみせる。もはやSPというよりかは卑猥な店子のような醜態だが、確かに排尿をさせられることに比べたら気持ちは楽かもしれないと、サメは一考した。

 別に陵善とて、他人に裸を見せることにあまり抵抗はないタイプだ。常に堂々としている男であり、誰に恥じることもないと胸を張る。

 逆に手袋などの装備が下品さを醸しているから気後れしているだけで、覚悟を決めてしまえば、勢い良く服を脱ぎ捨てるのもためらわない。


「ああ、いいね……筋肉の形が綺麗だ。どこも鍛えたいい体をしている。澄香は性癖が最悪だけど、雄を見る目はあるんだよね」


 お前もだろという言葉をサメは何とか飲み込んで、うさ耳をかぶる。頭についたひれが邪魔にならないよう設計されており、手の込んだことをと内心ため息を吐いた。


 手袋などはサメにぴったりで、尻尾の付け根にある紐パンの留め具も問題なく入った。初出勤時に測った寸法はこんなところにも使われているのだと知る。制服支給のためとは聞いたが、確かにこれも制服だ。

 とはいえ、ポージングなど何をすればいいのか当然サメはわからない。雄に媚びるなどしたことがない陵善が行うポーズはやはりぎこちなく、他三人に比べれば初々しさが目立っていた。


 だが、そんな四苦八苦する様子を眺める晴田は満足そうだ。キーボードを打つ手は緩ませずに、じっとサメへと視線を注いでいる。


「ああ、可愛いね。雄を悦ばせたことのない仕草だ。雄とは経験済みなんだろう? 相手はこういうのを求めてこなかったのかい?」

「それは、まあ……」

「確かに陵善はタチしかしたことがなかったらしいし、こういった行為とは無縁か。ふふふ、楽しみだなあ。君のおマンコはどんな味がするんだろう。ふやけるまでしゃぶりつくしたいねえ」


 どうやら昨日車内で話したことはすでに共有されているようで、この兄弟は案外仲がいいのかもしれないと、サメは内心で舌打ちをする。

 陵善のキレのいい筋肉が下品なバニーをまとい、肌とは違うぎらついた光沢で彩られている。明らかに性的対象として注がれる視線に疎ましさを覚えても、サメに拒否権はなく、見様見真似のポーズで時間をつぶすだけだった。


「晴田様ぁ♡」


 隣で身をくねらせている鴎林が信じられないほど甘い声を出して、雇い主を誘う。陵善は普段の熊を知っているため、サングラス越しに目を見開いて思わず顔を向けてしまった。

 少なくとも澄香のところで働いているときには、こんな声を聞いたことはない。


「陵善ばかり見てないで、おれのことも見てくださいよ♡ほら、おれの情けない包茎ちんぽ♡すっげえエッチな音してますよ♡♡」


 熊はご自慢の分厚い体をそらし、紐パンから出したちんぽでオナニーをしていた。片手で包茎をぐちゅぐちゅと鳴らして、もう片方の腕を頭の後ろにまわして腋をさらす。

 しごく手に合わせて腰を揺らす鴎林はサングラスを投げ捨てる。そこからにたりとした好色そうな瞳が弧を描き、理性を完全に蒸発させたケダモノの相貌へと変わる。


「んおっ♡おっおっ♡♡晴田様、実はおれ、禁欲四日目で……♡ちんぽ♡ちんぽが限界なんです♡♡金玉ぱんぱんで♡射精したくておかしくなりそうなんですう♡♡」

「はは、鴎林は本当に性欲が強いねえ。ここに来る前は毎日おなってたんだっけ?」

「はい♡こんなソーセージちんぽで風俗も行けなくてっ♡毎日毎日♡一人でしこしこしてました♡♡」


 すぼまった皮の先端から先走りの糸が漏れ、台座に滴っていく。隣にいるサメは熊の雄臭さが強くなっていることに気づいており、昨日車内でしこられていた時はまだ抑えていたのだと知る。

 今の鴎林はザーメンや汗の匂いをまき散らす、フェロモン発散装置になっていた。


「おおぉぉ~♡晴田様……ちんぽ壊れそうです♡♡おれの射精、見てくださいいぃ♡」

「いい匂いだね。それに素直で可愛い。もう少ししたら予定まで仕事が終わるから、それまで待っててくれ」

「あっ♡はいぃ♡それまでいっぱい、金玉にザーメン溜めときますね♡」

「さすがの私も、鴎林がオナニーしながら我慢できるとは思ってないさ。だからその間、陵善に仕事を教えてあげておいてくれ」

「はぁい♡♡」


 媚びしかない返答を投げた熊は台座を動かしてサメとくっつけると、汗ばんだ毛皮で抱き着いてきた。

 とたん、濃い雄の匂いが陵善の鼻を殴りつけるが、顔をしかめる暇を与えずにキスが振ってきた。


「ん、むぅ……?!」


 とっさに振り払うが熊も承知だったようで、すぐさま身を引いて口を離していく。わざとらしく口周りを舐められると、サメの眉間で血管が反応を示した。


「んちゅぅ♡晴田様が仰せだ♡おれの仕事内容をたっぷり教えてやるからな♡」

「お前……いつもより汗臭いぞっ! あんまり近づくな!」

「そりゃ澄香様のところで働くときは制汗剤使ってるしな♡だけど、晴田様はおれの匂いを気に入ってくださるから、そんなもん付けない方がいいんだよ♡♡」


 猫の前で筋骨隆々とした雄二人が抱き合い、暑苦しい絡みを披露する。

 雇い主の指示となれば、陵善に断る権利はない。熊はそれをいいことに全身を丹念に嗅ぎ、サメから羞恥を引き出そうとわざとらしく鼻を鳴らす。


「ふごっ♡いつも思ってたけど、お前結構いい匂いしてるよな♡雄としてもいいし、ほんのり香る程度の……香水かこれ? それとも制汗剤か?」

「両方だよ……無香料の制汗剤に石けん系の香水を薄く使ってる。この仕事は人との距離が近いことが多いからな……」

「やっぱ非童貞ってのはちゃんとしてんな♡凋羽も毎日いい匂いしてるし……まあしょんべんさせられちゃ無駄だろうけど♡♡」


 こうして言葉にしてしゃべらされるのは、その方が恥ずかしいからだとサメも気づいている。鴎林がわざと非童貞などと口にすることで、二人の間で羞恥を膨らませているのだ。

 陵善はそんなたくらみに乗るまいと牙を噛みしめていたが、熊の鼻面が鼠径部にまで来ると、さすがに尻尾を硬直させた。


「あれ、お前」根元をふがふが嗅ぎながら。「ここも消臭してんのか♡」

「……」晴田の耳が反応を示し、沈黙を防がれたサメが。「昨日みたいにしごかれるかもしれなかったからな……念のためだ……」


 これだと自分が期待しているみたいだと、サメの頬に赤みが増す。だが実際クマと同じく禁欲四日目の脳みそは射精の誘惑に弱く、もしかしたらと期待してしまう。それが行動に現れたことを見透かされて、陵善は歯噛みしながらそっぽを向いた。


 だが、熊はそんなことお構いなしに根元の匂いを丹念に嗅ぎ、消臭された残骸からサメの雄を捕らえようとしている。どっしりと膨れた金玉も揉みこまれていけば、陵善のちんぽが反応を示すのは当然のことだった。


「んっ、お前……そこばっかり……!」

「うおっ♡やっぱ間近で見るとすげえ迫力♡♡ずる剥け巨根とかずりいぞ♡♡」


 ちんぽが持ち上がると、引っ張られたパンツが尻に食い込んでいく。ずらして解放したいとサメは手を伸ばすのだが、熊が阻むせいで亀頭に三角の布地が張り付いたままどんどん伸びてしまう。

 そのせいで元から隠しきれていなかった金玉がでろりと零れ、張り付いた袋が玉の大きさを誇示し始めた。体のでかさを加味しても目立つくらいの巨玉であり、凛々しいちんぽも相まって、陵善という雄性に熊は見入ることしかできなかった。


「ああ……」それは当然晴田も同じ。「やっぱり君はいいね。澄香に返すのはもったいないな。このままここで永久就職しないかい? 道場くらい、私なら簡単に買い取れるよ」

「……」


 自分の夢を引き合いに出され、サメはくそ野郎と言いそうになる口を抑えるのに必死だった。


「ありがたい申し出ですが、それはおれが自分ですべきことですから……」

「ふふ、君ならそう言うと思ったよ。愛人の席はまだ空いてるから、興味があればいつでも声をかけてくれ」


 この屋敷で働き始めた陵善は、どぎつい格好をした屈強な雄とすれ違うことがたまにある。同僚によれば、それは晴田が囲っている愛人たちだという。

 澄香に手を出されなくなる代わりに、雄としてのプライドをすべて捨てた人たちだと、陵善は聞いている。

 自分もそうなるのは御免だと、サングラスで隠した瞳に嫌悪をにじませたサメだが、そこに茶色くたくましい腕が伸びてきた。


「うらやましいな陵善♡おれもなれるなら晴田様の愛人になりてえよ♡♡」

「鴎林は口がうまいよ。だから澄香からも可愛がられている。じゃあ鴎林、私の愛人になったらどんな得があるのか、同僚に教えてあげるんだ」

「かしこまりました♡」


 熊はサメの背後に回り、ぬっと丸太のような腕を出してごつごつと盛り上がった筋肉を愛撫していく。そして目の前の雇い主に聞こえないように、場を盛り上げるための指示を出した。


「拳をわき腹に刺して、胸を張ってろ。そのほうがお前の体が大きく見えて、晴田様も喜んでくれる。返事はしなくていいぞ、雰囲気が崩れる♡」

「……っ!」


 言われた通りにラッドスプレッドの体勢を取った肉体を、熊はねっとりとした手つきで触る。いやらしくまさぐられるせいでサメは勃起が治まらず、それどころか先端にシミを作っても腰を引くことは許されていない。

 それでも鍛錬をかかしていない肉体は素晴らしく、下乳を持ち上げられれば、硬くなった胸筋が指をはじくほどに強い。だが、芋虫のような指が楚々とした乳首をつまむと、サメの喉からこらえきれない声が漏れた。


「ん、おぉ……!」

「晴田様の愛人になるとな♡毎日射精させてくれるんだ♡ほら、澄香様が朝にやってる排尿朝礼あるだろ?♡晴田様の場合、それが射精朝礼に代わるんだ♡お前も限界だろ♡♡」

「んっふぅ、ふぅ……乳首、やめろ……! んおおぉっ♡」

「でっけえおっぱいだよな♡減量はしてねえからむっちむちだ♡指が沈むスケベおっぱいが晴田様に見られてるぜ♡♡」


 鴎林も巨体の雄であるため掌は平均よりずっと大きいのだが、それよりもサメの胸筋はでかく、すべらかな肌に手形がしっかりと残っている。

 下向き乳首はどんどんと硬くなり、感度もよく実っていく。指の腹で転がされるたびに禁欲中のちんぽが何度もひくついて、射精させてほしいと泣きを入れていた。

 

「それに、仕事内容も楽なんだぜ♡毎日晴田様と朝食を取って射精して、後は帰ってくるまで筋トレとか鍛錬で男を磨くんだ♡そして、晴田様が帰ってきたらペットのように従順な雄になって、かわいがってもらう♡それだけだ、いいだろ♡」

「人として、終わってるだろ……! あぅ♡」

「あはは!」サメの反抗を猫は笑って受け入れて。「本人を目の前にして言うなんて、肝が据わっているね」

「……すみませんでした」


 乳首からの快楽にうっかり口を滑られたサメがとっさに謝るものの、晴田は特段気分を害した様子もない。青と茶色がまぐわう様を見ながら、時折秘書に指示を飛ばしている。

 左右の雄たちは負けじと自分らを見てもらおうと過激になっていくせいで、陵善を包む雄の臭気は密度を上げていた。わざと空調を緩くしている室内で、サメは自分の雄臭さすら鼻孔で感じる羽目になっている。


「澄香と違って私は気に入った雄を四六時中連れまわすのは好まないんだ。大事なものは隠しておくタイプだからね。でも一つ確かなことは、私たち兄弟は自分のお気に入りに手を出されることを良しとしない」

「ふぅ、おおぉ……♡おっおっ♡♡」

「いきたいだろ、陵善? 君のでかい金玉に溜まったザーメンをビュービュー噴き出して、すっきりしたいはずだ」

「いかせていただけるのなら、おぉぉん♡出したいですが……!♡」

「なら私の愛人にならないかい? 澄香からも守ってあげるし、給料も弾もう。朝は道場の主として働き、夜は私のためにベッドで働く。いい話だと思わないかい?」


 いいわけがない。乳首を弄られていなかったら、叫んでいただろう。

 だがここで歯向かうことは終わりを意味しており、反感を買えば道場がつぶされる可能性もある。サメはぐっと言葉をこらえて、射精することだけを考えることにした。


「おや、無視はよくないなあ。鴎林もそう思うだろう?」


 発破をかけろと暗に指示されて、熊の指が力む。サメの突起が変形すればそこから快楽が絞り出され、喉から歓喜が湧きだした。


「んおっ♡♡おおおぉ♡」

「今のはあんまりよくねえな。ごまかしたいのなら、もっといやらしいポーズをしないとな♡」


 この会話を続けたくはない。その意志は一貫しているため、熊のささやきに従って体をそらす。腰を下ろして腕を上げ、雄のためのポーズで媚びを放つ。前後の筋肉のせいでくぼんだ腋に熊の指が這えば、くすぐったさと微弱な快楽が発生して、のぼせてしまいそうだった。


 喉を震わす甘い声は途切れることなく、悪辣に屈しているようで気に食わないサメだったが、現状を受け入れるしかない。

 鴎林が調子に乗ってサメ尻を叩いて揺らせば剛直がブルンブルンと震え、パンツ越しに先走りをまき散らす。恥ずかしさのあまり晴田の顔を直視できない陵善だが、目をそらしたら負けだと自分を律し、こわばった表情を前へと向けた。


「んふぅ……♡ぅおおっ♡おぉん♡♡」

「先輩の言うことはよく聞いた方が良い。そっちのほうがずっとエッチで可愛らしいよ」

「あ、りがとうございま、うっおおぉぉ~♡♡今、乳首つねるなっ♡んっぐ♡」


 クマが密着したことで、どんなポーズをすればいいのか困っていたサメはもういない。

 屈強で綺麗な空色の体躯は台座の上でくねくねと煽情的な踊りを繰り返し、射精間際のちんぽを見せつけてへりくだる。こみ上げる射精欲をぐっとこらえながら吐く息は熱っぽく、性欲をなぶる熱のせいで玉のような汗を浮かび始めている。

 それは背後にくっつく肉厚な毛皮のせいでもあるのだが、鴎林はサメの首筋をおいしそうに舐め上げるだけで、離れる気配はまるでなかった。


「射精をおねだりしろよ。そうしないとまた会話を振られるぞ♡」

「んぐ……わかった」


 火照った思考は恥ずかしい提案をはじくだけの余力もなく、鵜呑みにするだけ。

 鴎林は自身のソーセージちんぽをサメの股下につっこみ、皮の窄まった先端を猫に見せつけて素股している。まるでセックスのように二人の腰がぶつかって、サメちんぽがさらに大きく揺れた。


「しゃ……射精させてください♡」

「ん? 何か言ったかい?」


 わざとらしく聞き返されて、陵善の中にある羞恥心がストップをかける。だが熊の恥骨が尻を打ち据えれば、禁欲された思考などすぐに緩んでしまう。


「射精させてください!♡」


 アブノーマルな経験など皆無な陵善に媚びのレパートリーがあるわけもなく、同じことを大声で繰り返すだけだ。素股の疑似セックスで尻から破裂音をたてながら、正義感は射精を乞う。


「射精を……させてくださいっ!♡♡」


 その汚れていない様子に晴田は満足している。でかく強い、さらには自分に恥じないように生きてきた陵善は媚びるという仕草とは無縁だ。だからこそ、そんな雄を支配しているという現状が、猫に甘い充足感を与えるのだ。

 このままでは無理だと悟った熊の手が助け舟を出すために、すべらかな肌を這いまわる。むっちりしたデカパイを荒々しく揉み、もう片方の手で口の中に指を入れて舌と戯れた。開いた牙の隙間から見える粘膜の赤に、茶色がくちゅくちゅとディープキスのように絡まり合っていく。


「んおぅ……ちゅぅ♡あぁ……♡♡」

「ふふ、いいねえ。こんなショーを目の前でされてしまえば、仕事どころじゃなくなってしまう」


 そう言いながらも、猫の仕事はとうに終わっている。今は新しい愛人候補を品定めする時間に過ぎず、コーヒーを飲みながら疑似セックスを楽しんでいた。

 そして、陵善という雄は晴田のお眼鏡に適う逸材だと、結論はすでに出ている。

 新雪を踏み荒らす楽しさを味わえるのは一人だけ。それは弟ではなく、自分であるべきだ。晴田はそう考えていた。


 だから、この青を自分の手に収めるための方法はとっくに準備が整っている。


「ねえ陵善」にこりと好ましい笑顔で。「君はお金がいるのなら、私の愛人はいい仕事だと思わないかい?」

「ふおぉ……♡おっおっ♡それは、そうかもしれませんが、んっ♡♡」

「君のことは調べてきたんだ、陵善は警官時代も評判はよくて、町のお巡りさんとしてみんなから好かれていたみたいだね。今は父の道場を再建するため、こうしてお金を稼いでいると」

「身辺調査は完璧って……わけですか、んおぉ♡」

「もちろん、そしてこれが君の道場の権利書」

「……は?」


 一瞬何を出されたのか、サメは理解ができなかった。あれだけ昂っていた熱も引き、唖然とする熊の腰も動きを止めていた。

 嘘だと信じたかったが、猫の自慢気な顔を前にその自信はなくなった。二の句が継げなくなったのをいいことに、猫は言葉を重ねていく。


「君の父はさびれた道場を息子に継がせたくなかったみたいだね。色を乗せて交渉したら、あっさり売ってくれたよ」

「な、んだ……どういう……」

「相続すべきだったんだよ。大事なものはちゃんと自分の懐に入れて守らないと、そうだろう?」


 性悪をのぞかせて笑う澄香と違い、晴田の笑顔に陰りは一切うかがえない。ただただ人好きのする笑みを浮かばせて、サメを地獄に叩き落す。


「あそこの価値で考えれば、結構な額を渡したよ。これで君はお父さんの医療費も、道場再建の費用も稼がなくてよくなった。自分のためにお金を使えるようになったんだよ」


 考えるべきだったのだ、サメは今更ながら後悔の念がぬぐえない。

 あの凋羽も娘の手術のために引き抜かれたのだと知った時、自分もそうなる可能性について少しでも考えていたら父に確認できていたはずだった。

 陵善が身体を売ることを断って、たった一日、その間にサメの大切なものは奪われてしまった。


「澄香に取られる前でよかったよ。あいつもその気になればすぐ行動できただろうし、そうなったらもっと懐が痛かったはずさ」


 サメは呆然と立ち尽くしたままで、背後の熊が息を飲むドン引きの音も聞こえていない。ただ鷗林は陵善が興奮して暴れることのないように、いつでも抑えられるように構えてはいた。このために自分を近づけたのだと、すぐさま察したからだ。

 

「おれに……何を望む……!」


 だが、陵善は場にいる全員の想像よりずっと冷静だった。サングラスの隙間から射殺さんばかりの視線を猫に浴びせながら、うなるように問いかける。

 凶悪犯と対峙したこともあるサメだ。どれだけ胸糞が悪くても、冷静さを欠くことの愚かさを十分承知している。


 鋭い牙をむき出しにする姿は凛々しく、侮蔑されているはずの晴田はうっとりと目を細めていた。鴎林のように金や権力におもねる輩には興味などない。毅然とした高潔な雄こそ、手に入れるにふさわしいのだ。


「さっきから言っているだろう? 配属変えさ。私もそろそろ新しい愛人が欲しいと思っていたんだ」

「それでその書類をくれるってのか?」

「まさか。それに、これは君よりも私が持っていた方が良いと思うよ。道場の再建に、宣伝、私に任せてくれればすべてうまくいく。綾金の力、存分に使うといいさ」


 それは実際にサメも痛感していたことだった。例え道場を再建できたとして、門下が来るとは限らない。いうなれば、記念のようなものだと覚悟もしていた。

 晴田がここに介入することで、道場は軌道に乗るのではないか。そう期待してしまう自分が、サメの中には確かに存在している。

 だがそれ以上に、こんな悪辣のいいようにされることが我慢ならない。すべて掌の上だと信じて疑わない猫に、拒否を突きつけたくてたまらなかった。


「くそ……!」


 しかし、それでは陵善の愛したものが返ってこない。

 そうわかっているのだが、彼はどこまでも自分に真っすぐな男だった。


 その逡巡を楽しそうに眺める晴田には特段急かすこともなく、正義感の苦悩をじっくり味わいつくそうと舌なめずりをしている。急所を抑えている以上、このサメはもうどこにもいけないのだから。


「存分に悩むといいさ。時間はたくさんある。私は待てる男だからね、澄香と違って」


 黒猫はデスクから立ち上がり、陵善の前へ。ぎんぎんにそそり立つ一物を指で撫で上げれば、太い血管が逃げるようにぐねぐねと蠢いた。


「おおぅ♡」

「ふふ、いつかこれを味わうのだと思えば、楽しみで仕方がないよ。私の仕事は終わった。次は外でのあいさつ回りに行かなくてはね。陵善には次の仕事をしてほしい」

「そ、外での護衛は不要だと……?」

「ちんぽがこんな状態では、さすがに人前に出せないだろ? それに、私はお気に入りを人目にさらすのは好きじゃないんだ」


 晴田は汗と先走りによって汚れた幹を愛おしそうに撫でた後、その指先を舌で舐めとる。弧を描いた目からのぞかせる捕食者の眼光でサメを吟味して、汗で輝く肉体を貪る妄想に口角を上げた。


「それじゃあ失礼するよ、仕事内容は担当から連絡するから、今は休憩するといい。ああ、もちろん、トイレはご自由に。澄香と違って、私は小スカに興味はないのでね」

「……わかりました」

「鴎林、射精まで付き合えなくてすまないね。お詫びに彼らを使ってもいいよ」

「ありがとうございます!」


 猫が指示したのは同じくポージングを披露していた虎とトカゲの二人。彼らも射精を陵善のスケベなショーで昂っていることから、三人で発散し合えと提案してくれていた。

 熊ら三人は嬉しそうにちんぽを震わせ、晴田が去った後セックスをするのだろう。だが、陵善にとってどうでもいいことで、頭を占めるのは射精のことではない。


 今の陵善は首輪を付けられた状態だ。手足をラバーで覆ったバニーの恰好をさせられ、射精を我慢させられても、文句ひとつ言うこともできない。

 だから拳を硬く握りながら、不承不承に首を縦に振るのだった。


****


 次に陵善が割り振られた仕事は、晴田が所有する別棟での筋トレだった。

 手足のラバーを外されたがうさ耳はそのままで、紐パンで汗だくになることを命じられていた。


「いったいなんで、こんなことを……!」


 バーベル上げを終え、顎に滴る汗を拭きながらサメはごちる。

 部屋の中は本格的な筋トレ部屋になっており、最先端のマシーンに加え高級プロテインが常備されている。ここは愛人たちが晴田好みの屈強な雄になるための部屋であり、広い空間には数人の雄しかない。


「晴田様が仕事中に見るためだ」


 答えてくれたのはサイの巨漢。晴田の愛人の一人である彼は、手にカメラを持ちながらサメへとドリンクを渡した。

 ここでずっと筋肉を鍛え続けているのだろう。その肉体は巌のようであり、小さな山を思わせるほど盛り上がっている。僧帽筋で首が埋まるほどの巨体に、いかつく不愛想な顔が乗っていた。


「……それだけか?」


 あまりに言葉が足りないとジト目を向けても、サイは表情を変えない。サメは説明もないまま、こうして筋トレを続けていた。

 何度か同じ会話を繰り返してようやく説明する気になったのか、サイはその重い口を開き始める。


「……晴田様は愛人を外に連れ出すことを好まれないため、こうして応援動画を撮って送るんだ」

「こんな筋トレしてるだけの動画をか? それでやる気になるもんなのか……」

「他にはオナニーやセックス配信もあるが、晴田様がお前に命じたのは筋トレだった」

「まあ、デスクの前でポージングさせるやつだからな……。それはそうと、この耳、いい加減外したいんだが……」

「晴田様から指示がきていない」

「お、おう……そうか……」

 

 そんなことにまで指示が必要なのかといぶかる陵善だったが、弟である澄香を思えば納得せざるを得ない。他人を管理することが趣味の澄香にとって、勝手な行動はひんしゅくを買うだけなのだ。


(晴田はもう少し融通が利くと思っていたんだが、この調子じゃ似た者兄弟ってところだろうな……)

「それに、おれも似合うと思っているからな。もう少しつけていろ」

「……は? いやお前の個人的趣味かよ!」


 このサイの男、角原(つのはら)はちんぽの形がはっきりとわかるような薄いパンツだけを履いている。もはや隠す気もないほどの布地で、カリの段差までまるわかりだ。

 しかも先端から染みだけでなく明らかに青臭い残滓を垂らしている。サメと合流する前に何をしていたのか、一目瞭然だった。


 そしてよく周りを見れば、雄たちはみんな似たような恰好であり、トレの合間にまぐわって嬌声を響かせている。器具に座ってのセックスなどが当然のように行われていて、あまりの退廃にサメはめまいがするほどだ。

 澄香の部署とは違う、明らかに倫理が崩壊した部屋の中で、サイは撮った動画を確認して満足そうに頷いた。


「……ふむ、いい感じに撮れているな。これなら晴田様も喜んでくださるだろう」

「そうかい……こんな筋トレ風景なんて、見て楽しいのかね……」

「晴田様は雄々しいものを好まれる。だからこそ、おれらも日々のトレーニングは欠かせない」

「はあ、おれは別に男に好かれるために鍛えてたんじゃねえんだけど……」

「だがここは楽園だ。お前も配属されればじきにわかる」

「どうだか……」

「この棟に呼ばれたということは、そういうことだ。動画を取り終わったら中を案内するように仰せつかっている。シャワーを浴びたら、案内しよう」

「完全におれをここに移す気だな……」


 だが首輪で自由を奪われたサメがここに来るのは時間の問題だ。逃げ道などあるわけもなく、サメができるのは敵愾心を保つことだけ。

 この先どうなるのか不安しかないが、表情に出すことをサメは良しとしない。ただ、覚悟だけはしておくに越したことはないと、自身の処女は半ばあきらめていた。


(別におれの体くらいであいつが満足してくれりゃ、もうそれでいい。これ以上親父に絡まれるくらいなら……っと?)


 サイを追ってシャワーへと向かっていたが、前を歩いていた背中がぴたりと止まった。

 いぶかったサメが広い背中越しに視線をのぞかせれば、そこには不敵に笑う黒猫が立っていた。

 ここは晴田の縄張りであり、弟が足を踏み入れることなどめったにない。サイは困惑を隠しきれず、鉄面皮をわずかに歪ませた。


「……澄香様、こんなところにどのようなご用でしょうか」

「用? そんなこと君に確認されるいわれはないのだが、だがあえて言うのなら、私の物を取り返しに来た。これでいいかい?」


 晴田と比べると底意地の悪さが目立つ笑みの後ろには、制服である黒スーツを着た鴎林と凋羽を引き連れている。熊から大体の話を聞いた黒猫は、兄の好きにさせるものかとこうして殴り込みに来たのだ。


「まったく、兄さんときたら、私の見つけた人材をすぐ横取りしようとするのだから。暴君もいいところだ。陵善、帰るよ」

「で、ですが……自分の今日の仕事は晴田様にお仕えすることで……」

「ああ、話は聞いてるよ。道場の権利書なんて、あくどいことをするもんだ。その権利書、私が取り返してあげようか?」

「……!」


 にたりとした醜悪な笑みを向けられて、サメは背筋を震わせる。

 なんてことはない、この兄弟は陵善の首輪を奪い合っているだけなのだ。

 本人の意志や人権を無視して、ただ兄弟同士のマウントを取るためだけに、澄香は陵善を利用しようとしている。ここで頷けば、さらなるいばらの道に進むことは明白だ。


「私に仕えてくれるなら、権利書を君の手に返そう。そうすれば、あの馬鹿兄が払ったお金で道場も再建できるし、お父さんの治療費も工面できる。いいことづくめだと思わないかい?」

「いつまで、仕えればいい……?」

「さあ、いつまでだろうね。私が飽きるまでかな。飽きたら正直どうでもいいからね、目の前から消えてくれるなら後腐れもなくていい。やりすぎるとずっと飼ってほしいって泣きつくやつもいて、めんどくさいんだよ」


 外道な言葉を臆面もなく吐く猫に、サメは嫌悪しかない。

 そして、この兄弟に翻弄されている自分のふがいなさが許せなかった。

 澄香の言葉に従ったとしても、権利書が返ってくる保証はない。実際、後ろに控えている鴎林はこっそり首を横に振って、やめておけと伝えようとしている。


 すでに権利書はなく、父には多額の金が入っている。後は自分が道場を諦めれば、こんなところに長居する理由はない。

 それでも、諦めきれないからサメはここに立っていた。


「お言葉ですが……」


 悪辣の掌の上で踊らされるのは御免だが、澄香に付くなら確たる保証が欲しい。確実に権利書がもらえるという保証さえあれば、いばらの道だろうと喜んで走る覚悟がサメにはある。

 たとえ道化が求められていようとも、自分の意志で選んだのなら耐えられる。陵善はそう信じていた。


 だが、決意を口にしようと開こうとしたところで、サイの持っているスマホから声が響いた。


『暴君だなんて、ひどいな澄香は。私はただ君の下で悪条件で働かされる人材が可哀そうで見ていられなかっただけだというのに』

「よく言うよ。昔からそう、兄さんは私が見つけたものをすぐに奪ってしまう」


 何ともタイミングのいい通話だ。サメはこのジムに設置されたカメラの映像は、晴田がいつでも見られるように配信されているということを思い出した。


「これまでは大人として許してあげていたけれど、さすがに限度というものがある。いい加減、大人になりなよ兄さん」

『はあ、お前の下にいる人材の離職率を鑑みてから発言してほしい。私は人材を大事にしているというのに。お前こそ、人に優しくすることを覚えた方が良い。大人になるんだよ、澄香』


 兄弟の会話にサメは呆れて何も言えなかった。金や地位にあかして人を管理しているのは、どちらも同じだというのに。


「はあ?! 言うに事欠いて、色ボケした兄さんにそんなこと言われるとは思わなかったよ。兄さんのそれは優しさじゃなくて性欲じゃないか。私が連れてきた雄に鼻の下を伸ばして……綾金家の長男として自覚が足りないんじゃないかい?」

『私の愛が色欲しか見えないのは、お前の感情が欠落しているせいだよ。蝶の羽をちぎって遊んでいた頃から、お前は何も成長していない。お前の側にいれば、人は不幸になる。いいかい澄香、お金だけじゃ人はついてこない。綾金の家にいながら、お前は何を学んでいたんだい?』


 どちらも一歩も引かず、喧々囂々と威嚇し合っている。仕事はいいのかと、この場の全員が思っているのだが、たしなめられる人がいるわけもなかった。


 こうして雇い主の兄弟喧嘩が始まってしまえば、周囲の人らに収めるすべはない。このままではらちが明かないと、サイはスマホを澄香に渡した後、サメの手を引いて奥へと移動し始めた。


「あ、おい……いいのか、放っておいて……?」

「構わない。ああなったらおれらが口をはさむ隙は無い」

「そりゃそうだが……」

「それよりも、晴田様から受けた命を果たせない方が問題だ」


 実際澄香はスマホに視線を奪われたまま、毛を逆立てて通話している。平静を装っているが、ひくついた口角やゆれる尻尾が爆発寸前なことを示していた。

 後ろの熊とワシは動くこともできず、早く終わることを祈るばかりだった。下手に動いてしまえば、八つ当たりされるとわかっているのだ。


 そんな同僚に憐憫の情を覚えつつ、陵善はシャワー室へと連行されるのだった。


****


 その後、兄弟間でどんなやり取りがあったのかサメが知る由もないのだが、結果として二人の間を往復して勤務に就くことが決まった。鴎林曰く、今回の喧嘩は結構長引きそうとのことだった。

 今日は澄香の護衛として、陵善はいつも通り朝の排尿を済ませてから車に乗り込んでいた。


 しかし、その席は澄香の隣ではなく、前。セパレートシートの間に、サメの巨体はすっぽりと収まっていた。


「……これはいったい、なんでしょうか」


 陵善が理解できないと言わんばかりに問う。

 澄香の車は前後に長くゆとりのある内装をしており、シートの間で線対称にくぼみがあり円を描く形になっている。

 前々から変わった形だといぶかっていた陵善だが、まさかここに雄をはめるためのものだと思いもせず、澄香に尻を向ける体勢で固定されていた。


「なにって、言わなくても理解できるだろう?」


 張りのある尻肉を撫でながら、喜色に弾んだ声がする。左右に座った熊とワシがサメのベルトを外していけば、青色のデカケツがさらけ出される。振り向いてもシートのせいで視界が不良となっており、陵善は後ろで何が起こっているのか理解できない状態だった。


「そろそろ陵善も後ろを使えるようになった方が良いと思ってね。兄さんに開発される前に、私が教えてあげよう」


 フロントガラス越しに狭い空を見上げて、サメは歯を噛みしめる。結局のところ首輪を兄弟で共有するようになっただけで、状況は何一つ改善されていないのだ。

 暴れないように尻尾や足は二人に固定されている。陵善は壁尻のような体勢で猫のされるがまま。


 むき出しになった肛門は綺麗で、初々しいピンクをしていた。使ったことがないという自己申告通りの、雄を知らない花弁だった。

 青と白の隆々とした尻肉の中心に咲く楚々とした花は、澄香の加虐心を引き出すにはうってつけの素材だ。恥ずかしそうに尻をくねらせる醜態と相まって、職場に着くまでずっと眺めていたいとすら思っていた。


 そこにローションを垂らすと、敏感な花がきゅっとしぼむ。ゴム手袋をした手が撫でて塗り広げると、角ばった尻肉が緊張してえくぼを作る。


「う、おぉ……♡」

「綺麗なお尻だね。鴎林とは全然違う。本当にタチしかしてこなかったんだね」

「んっふぅ……♡♡ふぅ♡」

「我慢しなくてもいいさ。ここには私たちしかいないのだから。それじゃあまずは、処女穴をほぐしていこうか」


 華奢な指が一本、穢れを知らない雄穴へと潜り込む。ローションをたっぷりとまぶした指にはすぐに腸液が絡みつき、我が物顔で内部を犯し始めていく。


「おおぉ♡……んっ♡」


 すぐさま二本目が挿入されて、サメの肛門からくちゅくちゅと粘着質な音が鳴る。左右からの手が無ければ、でかすぎる尻肉はすぐさま閉じてしまうだろう。無理矢理開かれた谷間には、こぼれた粘液が金玉袋まで滴っていた。


「ふっふっふっ♡♡ふぅ~♡♡」

 

 これで五日目となる禁欲は初めての刺激を快楽に変換して、貪欲に射精へと導こうとする。夢精していないのが奇跡であり、いけるのならすぐにでも出したいと願っていた。


 そんなサメちんぽはへそを打ち据えるほどに硬くなっており、猫の手に引き寄せられるとそれだけで先走りをこぼす。澄香はゴム越しに感じる熱の強さからため込んでいる欲望に思いを馳せ、残虐に口角を釣り上げた。


「出させてあげてもいいんだけど、それは今じゃないね。はは、すごいガチガチ。ちょっとでもしごいたらすぐ射精してしまいそうだね。ミルク絞りみたいだ」

「んくっ♡んおおおぉっ♡」

「鴎林から聞いてるよ、君はおねだりも苦手なんだろ? ここで働くならちゃんとした言葉遣いって言うのが必要なんだ。これから覚えていくんだよ」

「おっおっ♡ぐうぅぅぅ……♡♡♡」


 尻穴をかき混ぜられれば、感じたことのない刺激がサメの体中を駆け巡る。口を開けば情けない声を出してしまいそうで、歯を食いしばって耐えようと努めた。


 朝の朗らかな日差しがフロントガラスからサメの顔に差し込み、赤らんで感じている顔を照らしだす。我関せずを貫く運転手の隣で呻く醜態は、落差もあっていっそうサメをみじめにさせる。

 信号で止まれば横断歩道を行く人々が車の前を通過する。朝の時間は誰もがせわしなく、ばれる可能性は低いと分かっていても、前部席に挟まったサメは気が気ではなかった。

 上体をそって後ろを隠そうにも、穴に引っかかってそれもできない。左右に並ぶオフィスビルの窓からのぞけば、あっという間にばれてしまうかもしれない。


「あううぅうぅ♡♡♡」


 後部座席でしごかれていた時以上の羞恥がサメを襲う。引き締めた尻の内壁が悶えるように蠢き、それが脈動となって猫の指を舐めしゃぶる。陵善は一刻も早くこの地獄が終わるように祈っていた。


「鴎林、凋羽。叩いて」


 簡素な命令を受けて、サメの尻たぶに張り手が振り下ろされる。小気味良い破裂音が車内に響けば、澄香は嬉しそうにからからと笑った。


「ふぐおおぉ?!♡♡」


 陵善からすればたまったものではない。雄二人のスパンキングは痛みよりもより強い羞恥を引き起こし、サメは体を硬直させてしまう。

 手を離したせいでむちっと閉じた尻に、綺麗な紅葉が散った。汗で艶めいた臀部に赤い模様が押され、この辱めの記憶を体に刻み付けていく。


「安心して、本気で叩かせたら血が出るだろうけど、私はそこまで求めてないから」


 引き抜いた手で赤く腫れた尻を撫でながら、黒猫は落ち着いた声音で話しかける。まるで自分は優しいだろうとでも言いたげな態度に、サメは無言で反論を貫いた。


「本当は君ともっと遊んでいたいのだけど、着いてしまったからね。鴎林、私は先に行くが、陵善を引き抜いて身なりを整えてから合流して」

「かしこまりました」

「ああ、それとローションが余ってしまったね……」


 ようやく朝の地獄が終わったのだと一息ついた陵善だったが、背後で笑う黒猫に気づかない。猫はおもむろにボトルをサメ尻に突っ込んで、中身を注入し始めた。


「うおっ?!♡♡♡な、なんだっ♡♡おれの腹に、やめ……♡♡」


 肛門を逆流して満たしていく粘液に、サメは気持ち悪さを覚えて背筋を震わせる。だが体を抑えつけられた陵善に反抗の手段はなく、結局ボトルの中見のほとんどが腸へと送り込まれてしまった。


「ふぐぉ……おおぉ……♡」

「ふふ、せっかくだから有効利用しないとね。それじゃあ、また後で」


 澄香は凋羽を引き連れて悠然と車を降りていき、車内には二人だけが残される。

 熊は備え付けのウェットティッシュでサメを拭きながら、先ほど自分が叩いたところをいたわるように撫でた。


「悪い。痛かったか?」

「別に……この程度、大したことじゃねえ♡うぐぉ♡」

「お前も大変だな。澄香様どころか、晴田様からも目を付けられちまうなんて。おかげで兄弟喧嘩の出しにされちまってる」

「本当にな、とんだ、災難だ♡これ……いつまで続くんだよ、畜生……腹が♡♡」

「お前がどちらかに泣きつくまでだろうな。いくら仲が悪くても、あの兄弟は互いのお気に入りには手を出さないっていう不可侵条約を結んでいるからさ」


 ここで働く人には三つの末路がある。

 一つは二人の変態兄弟に耐えきれず壊れるか、逃げ出す者たち。

 一つは澄香の専属になり生活を管理される者たち。

 一つは晴田の愛人になり雄として終わった日々を過ごす者たち。

 

 鴎林のように要領よく立ち回れている者はまれであり、凋羽のようにどちらかにつく者か、そうでなければ陵善のように選択を迫られている者しかいない。


「ま、おれとしちゃおすすめは晴田様だけどな。権利書持ってるってのもあるし、あっちのほうが待遇はいい」

「それはわかってるが……ぐっ♡」

「プライドだけで迷ってるなら、とっとと捨てちまえよ。ここに来た時点で、そんなもん何の意味もねえんだから」

「お、お前は、こんなことを許してるのか……?」

「許すも許さねえもねえよ。あいつらは金も権力もあって、おれら程度なんて歯牙にもかけない存在だ。できることなんて、何もねえんだ」

「だが……うおおぉ♡下腹部は、丁寧に拭いてくれ……押されると、やばいっ♡♡」

「おっとわりぃ。んで、前職警官だったか? 認められねえのはわかるけど、折り合いは付けとけよ。そういうところが兄弟に気に入られたのはわかるが、あまりに不興を買うと最悪なことになるぜ」


 それからスーツを整えれば見た目だけは整ったサメが立ち上がる。

 だがその腹の中ではローションが溜まっており、一歩進むだけで尻から逆流しそうになっていた。思わず前かがみになりかけるが、そんなところ澄香に見られたら何をされるのかわかったものじゃない。

 サメは意地でも背筋を伸ばし、できる限り平静を装って歩き出す。


「……たく、意地っ張りめ。今日の仕事が終わったら、いくつか教えてやるよ。あの兄弟に目を付けられて、終わっちまった同僚の話をな」

「参考に、ふぅふぅ……させてもらうさ♡お前、案外お節介なんだな……♡♡」

「そりゃ、お前があの兄弟の気を引いている間は、おれが楽をできるからな。お前にはできるだけ長くもってほしいんだよ」

「スケープゴートかよ……ま、何にせよ、助かってるよ♡♡」


 そうして澄香の執務室へと足を運ぶ陵善だが、そこからも地獄だった。

 排泄を許されないままローションが暴れ出し、気を抜けば漏らしてしまいそうな中ずっと緊張を保つ必要があった。昼休憩になるまでの我慢だと脂汗を浮かばせながら耐え凌ぐ姿は、澄香の機嫌を大いに上げてくれた。


「ふぅ♡ふぅ♡ふぅ♡♡」


 もはや時間の感覚もあいまいで、ただ無心で耐え続けるサメは尻の穴を引き締めることに全力だ。腹が重くなり体中が排出しろと訴えは強くなる一方で、もはや歩くことすら困難になっている。

 こらえきれない呻きをこぼして荒く息を吐く姿に、同じ部屋の同僚たちは憐憫を注ぐ。はた目から見ても、このサメは限界だった。


 澄香の秘書が部屋を出て行ってようやく、陵善は時間が経っていたことに気づいたほどだ。


「ああ、もうお昼か。よく耐えられたね、途中で頭を下げると思っていたのに」

「澄香様の、ふぅ、お仕事を……邪魔するわけには、いきません、から……うぉ♡♡」

「そんな射殺しそうな目をしておいて、よくそんなことが言えるね。悪くないよ」

「顔が怖いのは、生まれ、つき……んおっおおぉ♡♡♡」


 肩を上下させて言葉を紡ぐのもおっくうそうだ。ずれたサングラスを直す余裕もないほどに、サメは追い詰められている。


「それ、誰かこっちに持ってきて」


 部屋の一角にあるペット用トイレをデスクの前に置く。これから公開処刑が始まるのだと、誰もが理解した。


「陵善、君は頑張った。ほら、ここまでおいで。もう出していいんだよ」


 陵善はぼやけた頭で、この猫にしては優しいなと首を傾げた。いつものことなら排泄を懇願させるところだろうに、どういうわけかすんなりと許可を出したのだ。


 訳がわからないままだが、それでも肛門は急かしている。もはや問答をすることもできず、サメは壁ぎわから部屋の中心に向けて歩き出した。

 そして一歩踏み出した途端、振動が何十倍にもなって肛門を襲った。


「んおおおぉぉ?!♡♡♡」

「どうしたんだい、陵善。まさか、出したくないなんて言わないよね」


 立っていればいいだけだった仕事中とは違い、今の徒歩は堤防決壊のリスクがかなり高い。我慢に我慢を重ねてきた肛門は、少しの振動ですら耐えきれないほどひびが入っていた。

 だからこそ、トイレを部屋の隅から中心に持ってきたのだと、ようやく陵善は気づく。歩く距離を少しでもかさましして、苦行を続ける算段だったのだ。


「ほら早くおいでよ。急がないと私の休憩時間が終わってしまう。もしかして、家に帰るまでこのままがいいのかい?」

「そ、んなことは、ありませ……おおぅ♡腹がっ♡ふぅふぅ♡♡♡」


 いつもならたった数歩の距離も、今はやけに遠い。

 サメは体内で暴れるローションを抑えつけて、また歩き出した。


「ぐぅおぉぉ♡おおっ♡ふぅー♡ふぅー♡この、程度ぉ……!♡」


 よろよろと、足を踏み出すたびにサメからは苦渋の声がにじみ出る。まるで肛門をノックされているかのようで、浮足立ったローションが早く早くと急かしてやまない。

 硬い腹筋で覆われた内部ではぎゅるぎゅると不平不満が渦巻いて、異物を吐き出したくてたまらない直腸がせっせと下に送り込んでいる。結果として腹痛が発生し、サメの額には脂汗が浮かんでいた。


「ぐおぉ♡♡んぐぅ♡うぅ……♡♡」


 呻きながらベルトに手をかけ、いつでも脱げる準備を進めておく。普段は手癖で解いている尻尾穴の留め具も、今はやけに煩わしかった。

 それでもなお足を止めず進めば、溜まったローションがどしんと肛門に圧をかけた。


「ふっおおおぉぉぉ♡♡♡♡♡」


 決壊寸前だった肛門を何とか食いしばり、おもらしは免れた。ここで漏らそうものなら、今日一日ローションまみれのスラックスで過ごさねばなかっただろう。


 そして、肛門からにじみ出そうな不快感を押しとどめ、何とか中心へとたどり着く。


 そこからスラックスを脱ぎ捨て、トイレをまたいでしゃがみ込む。もはや恥ずかしいという感情は排泄欲に押しつぶされている。これから解放されるのなら、サメにとって羞恥などなんのそのだ。


「お、お、おぉぉ……♡♡♡」


 ペット用トイレは人が座ることを想定していないため、サメは大股を開かねばならない。そのため開いた尻の合間から、限界を訴える肛門がのぞいている。汚れないようにと、いつもの癖で尻尾もぴんと立てれば、排泄の光景が丸見えとなっていた。


 窄まった緊張をほぐしていけば、透明な粘液が滲み出す。愛液のように滴るそれは噴火の前兆であり、すぐに下劣な濁流が肛門から放出される。

 ぶばっとつまりが解消された音を合図に、サメの背中を圧倒的な解放感が駆け抜けた。


「ふうぅぅぅぅ♡♡♡♡♡ふうううぅぅぅ♡♡♡♡」


 陵善はローションの感覚から、水便のようなものが出てくると想定していた。

 だが実際は何が起こったのか、サメの肛門をこじ開けて出てくるのは半固形ともいうべき粘度を持った白い物体だった。匂いもないそれはトイレの砂の上で水分を取られ、ゲル状のまま積もっていく。


 まるでスライムを産み落としているような光景だが、排泄に忙しいサメにとってそんなことはどうでもいい。異物を残らずひねり出そうと、力んで肛門を開くことに一心不乱だった。


「ふうううぅぅ♡♡んんんんっ♡♡♡♡止まんねえ……♡まだ、出るっ♡♡♡」


 食いしばった歯の隙間からよだれが一筋零れ落ちていく。こらえるような表情はすでに恍惚へと変わり、解放感を満喫している。

 あれだけ険しい顔をしていたサメが無防備をさらす。それは間近で見ていた澄香を興奮でゾクゾクとさせるのは十分だった。

 処女穴をこじ開けて飛び出すローションは汚い音を部屋中に響かせ、ペット用トイレへと流れ込む。

 

「んおおぉぉ……♡♡♡」


 やがてどろりとした残滓とぴすぴす空気を漏らすだけになると、陵善は安堵に息をついた。解放感からくる淡い快楽にちんぽは立ち上がっており、倒錯的な感情が性癖に傷を残す。

 このまま浸っていたいところだったが、にやけた顔の澄香に気が付くとサメはとっさに表情を取り繕ってそのまま立ち上がった。


「……許可を下さり感謝します」

「いいよ、私は優しい雇い主だからね。だけど自分の粗相はちゃんと片付けてくれよ」

「かしこまりました……」


 腹痛が治まると理不尽への怒りが沸き上がってくるが、それを表に出すことはできない。陵善は勃起を無理矢理スラックスに押し込んでから、トイレを片付ける。


 こんな生活が続くのなら、陵善も考えなければならない。

 兄弟を天秤にかけて、どちらにつくのかを選ぶ必要がある。

 誰もが勘違いをしているのだが、陵善は正義感ではあるが菩薩ではない。殴られれば怒るし、反撃もする。そして、怒りのボルテージは着実に溜まっていた。


****


「簡単に言うと、晴田様は甘えん坊で、澄香様はひねくれものだ」


 休憩室で鴎林が言う。今度は熊の淹れたコーヒーを飲みながら、サメはようやく一息つくことができていた。

 あれから何度もセクハラされたが射精は許可されておらず、金玉は破裂寸前だ。許されたなら今すぐにでもしこりたいところだが、舌に広がる苦みで理性を補強している。


「だから晴田様に頼る時は下出にでるのは逆効果だ。あの人は綾金の期待を背負って育ったせいか、頼れる大人に弱い。だからお前みたいな毅然としたやつを好きになるんだが……」

「ありがた迷惑だな……」

「ここまでされてありがたいと思ってるお前の根性がすげえよ」

「好かれるのは悪いことじゃないからな」

「そういうとこなんだよなあ……」

「だから」カップからくちばしを離した凋羽が。「鴎林は晴田様には飛びきり媚びるんだ。あの方が好まないとわかったうえでな。だからこいつは愛人になっていない」

「そういうこと。ポイントはあくまで過剰な媚びだ。ある程度は好物だからな、あの人。雄を抱き潰す時とか、かなり媚びさせてくるぞ。結局甘えん坊でも、ドSは兄弟共通ってこと」

「なるほどな」


 そう言われれば晴田のテリトリーで見たサイの角原も、あまり動じない性格だったと陵善は納得する。晴田は見た目も心も強い雄に甘えるのを好んでいるらしい。


「反対に、澄香様は晴田様と比べられて育ったせいか、コンプレックスが強い。その反動で、強い雄を下して隷属させるのが好きだし、晴田様に雄を取られることを何よりも嫌っている」

「そして、鴎林はすぐさま澄香様に泣きつくことで、いじめても面白くないと思わせている。禁欲させられた時とかがわかりやすいだろ?」

「澄香様対策のポイントは即堕ちだな。張り合いがない奴だと思わせておけば、適当に遊ばれて解放されるからな。ちょっとでも耐えるそぶりを見せると、ねちねち追及してくるから注意だぞ」

「お前……したたか過ぎるだろ。プライドはないのか……」

「だって金払いはいいんだ。処世術だよ、処世術。おれは別にどっちにも付いてないから、凋羽みたいに無理してこらえる必要ないし」

「はあ、私は澄香様に飽きられないよう、娘の手術が終わるまでは強い雄を演じるさ」


 二人の話を聞いて、サメは考えをまとめていく。自衛のためにも、情報はどれだけあっても足りないのだ。

 熊とワシは顔を見合わせて、いつになく真面目なサメへ心配そうに声をかけた。

 

「なんだ、辞めるなら早い方が良いぞ?」

「確かに道場も大事かもしれんが、お前が折れてはどうしようもないだろう」

「ん? ああ、違うって。別に逃げ出そうとか思ってるわけじゃねえ。ただ、一矢報いたいと思ってたんだが、そうなると二人にも迷惑がかかるなって」

「あはは! マジか! あれだけされてまだ歯向かう気でいたのかよ!」

「あのお二人が気に入るわけだ。手術が終わるまでは止めてくれよ。こっちに八つ当たりされるのは困る」

「わかってるって。ぶん殴って解決する問題じゃねえしな。どうしたもんか……」

「そもそも権利書は向こうなんだから、落ち着いとけって。焦ってもいいことないだろ」

「まあ、それはそうなんだが……」


 陵善としてはなんとか反撃しないと腹の虫がおさまらない。だが、権利書がある時点で不利なもの自覚しており、目的を見誤るほど馬鹿ではない。


「晴田様も言ってただろ。利用してやればいいんだよ。道場だってそのほうが安定する」

「鴎林らしい意見だが……そのとおりだ。一理ある」

「明日は晴田様のところで仕事だろ? 射精させてもらえよ。そんで、媚びを売っとけば澄香様からも守ってくれる。まあでも……」


 そこで熊は声を潜めて身を乗り出した。明らかな密談の構えで、サメとワシも慎重に耳をそばだてる。


「一矢報いるっていうの、それはそれで面白そうだし、乗ってやろうじゃん。おれも凋羽も損はしないだろし」

「ならいい。勝手にやってくれ」

「んで、具体的にはどうするんだ?」

「そりゃ――――」


****


「聞いたよ陵善、昨日澄香にひどいことされたんだって? かわいそうに」


 朝から開口一番に、晴田は痛ましそうな顔で憂いを表し、サメへの配慮を見せた。

 今日は執務室ではなく愛人たちのいる別棟での仕事ということで、陵善はすでに露出の多い格好に着替えていた。ボクサーパンツのような股の浅い下着で筋トレをさせられた後であり、空色の肢体にはいくつもの汗を浮かばせていた。


 シャワーを浴びようとした陵善を留め、近寄った黒猫は雄の匂いに酔いしれた。

 潤った肌を撫でる猫の顔は陶酔としており、パンプした筋肉から感じ取った雄性を堪能してるようだ。


「私のところに来てくれれば、そんなひどいことにはならないよ。こんな……ああ、彫刻みたいな美しい体をぞんざいに扱うなんて、澄香は君の価値がわかっていないんだ」

「恐れ入ります」


 あくまでも媚びない姿勢を貫くサメに、猫はおのずと距離を詰めていく。甘えたがりである猫を相手するには不動を貫いているだけでいいのだと、陵善はしっかり熊の教えを守っていた。


 だが、ある程度の媚は許容範囲。サメは兄弟への対策をばっちり頭に入れてある。

 

「今日は晴田様にお仕え出来て、ほっとしております。昨日は散々でしたから」

「そうだろうとも。澄香の性癖も救いようがない。排泄行為なんて見て、何が楽しいんだろう」


 気を良くした指の動きが早くなり、二人の距離が縮まっていく。サービスとばかりにサメが胸筋をひくつかせれば、好色な期待に猫の尻尾がゆらめいた。弟より自分を選びそうだという優越感が猫をさらに大胆にさせ、汗まみれのおっぱいを舐めて舌鼓を打った。


「いい味だ。陵善、君は射精できていないだろう? おとといも澄香が途中で君を連れて帰ってしまったのだから」

「はい、そうです。ですので……こんなふうになってしまっています」


 サメが示すのは己の股間であり、そこはボクサーを押し上げる巨根の存在がはっきりと盛り上がっている。変色しやすい布地のせいで、汗だけでなく先走りの存在が浮き彫りにされていた。


 窮屈そうに膨らむちんぽを前に、晴田はサメが十分に熟れていることを知る。そっと撫でるとわかりやすく震え、求めるような視線が降り注ぐ。


「……あっ♡」


 一週間弱の禁欲など陵善は人生でしたことがなく、今日夢精しないようにするためほぼ寝ていなかった。憔悴したところを見せて、だけど媚びすぎないように。鴎林の案を実行するため、サメはかなり気を使っている。


「すごい、金玉もずっしりとしているね。相当詰まっているようだ。射精したいかい?」

「はい、お願いします」


 晴田からこの言葉を引き出せたことで、内心でサメはよしと頷いた。そこから部屋へと連れていかれる間尻を撫でまわされていることも、今後のためを思えば耐えられた。


 澄香は心を折って篭絡するが、晴田は絆して篭絡するのだ。そのため、愛人たちからの評価も高く、猫は政治とは関係ない王国の頂点に君臨していた。

 いうなれば北風と太陽だと、鴎林は彼ら兄弟をそう表している。だからこそ澄香は晴田に勝てないのだが、サメはそこを利用して歩みよるつもりだった。


「今日は私も休みだ。存分に遊ぼうじゃないか」

「んっ……♡しかし、おれはウケは初めてで、あまり……♡♡」

「気にしないでいいさ。処女に快楽を教え込むことくらい、造作もない」


 長い禁欲の後には絶対抱かれるだろうという鴎林の読みは的中した。晴田はさわやかな笑顔を浮かべたままサメ尻を堪能し、愛人たちを下がらせる。

 これから二人で遊ぶのだという合図を受けて、角原たちは一礼して消えていく。てっきり多数の雄をはべらせるものだと思っていた陵善は、意外そうに視線を下ろす。


「ん、どうしたんだい? やはり陵善でも初体験は不安なのかな」

「いえ、そういうわけでは……。角原たちはいいのかと。自分一人で晴田様を満足させられるか、わかりませんし」

「気にしなくていい。それに、昨日人前で恥をかいた君を、大衆の前で抱くほど私は無粋な男ではない。澄香と私は違うのだよ」


 なるほどとサメはうなる。北風と太陽と評される理由がよくわかったのだ。

 二人に付き合ってみて、確かに選ぶなら晴田の方だとサメも納得した。それが消去法での答えだとしても、ましなのは確実だった。


 普段なら逃げ出している陵善だが、すでに腹はくくっている。あの猫に一発ぶちかますためなら、処女くらい捧げる覚悟は決まっていた。

 案内された部屋は大きなベッドがある寝室で、何が行われるのかを言語化の必要もないくらい明確にしている。


 清潔に整えられた寝室で、さわやかな芳香が高級感を醸し出している。サイドテーブルにはローションなどの道具だけでなく、高級そうなチョコレートと水のペットボトル、それに湯気の立った紅茶が置かれていた。


「疲れているだろう? まずはお茶でも飲むといい。リラックス効果のあるものを選んである。甘いものが欲しいならそれも食べていいよ」

「ありがとうございます。この水は……?」

「それは後で飲むことを想定しているよ。たくさん鳴いてもらう予定だからね。もっと必要なら、ウォーターサーバーも置いてあるから好きに飲んでくれ」


 温和な笑みの奥に獣の眼光を宿して、黒猫は雄を見せつけた。自分はこれから食われるのだと、肌で感じさせる強者の笑みだった。


(なるほどな、こりゃ澄香は勝てねえわけだ)


 今までずっと人の好い笑みばかりを浮かべていた晴田だが、個室では雄としてリードしようという気概を発揮している。恋愛経験も一通りある陵善から見ても、この兄がもてるのだと十二分にわからされた。

 

 初対面で行為をねだった時のようなお遊びではなく、この猫は本気でサメを落としにかかっている。


「まずはお茶をしようじゃないか。私たちはまだ出会って間もない。仕事以外で親睦を深めることがいいセックスのコツだと思わないかい?」

「仰せの通りに。ですが肌を合わせるならシャワーくらいは浴びたほうがいいのではないでしょうか」

「私は気にしないさ。むしろ君の匂いを濃く感じられて好ましいとすら思っているよ。そのためにたくさん運動してもらったのだからね」


 そうして備え付けのソファーに腰を下ろし、サメにも続くよう促した。目上としての態度が板についており、座る姿も堂に入ったものだった。

 晴田が差したのは隣ではなく向かいであり、余裕を演出しているのだろう。だがそれではせっかくかいた汗が乾いてしまう。攻めるのならここだと、サメは指示を無視して隣を選んだ。


「失礼します」

「おっと……思ったより積極的だね。そんなに射精したいのかい?」

「出来れば今すぐにでも。晴田様がおれの匂いを好きだと言ってくださったので、勝手に判断しました」

「自分で判断して動ける人は嫌いじゃないよ。実際君が隣に来てくれて嬉しいんだ」


 そっと黒い手がサメの太ももを撫で上げ、そのまま体重をかけてもたれかかる。本当に汗の匂いを気にしていないようで、むしろ嬉々として嗅いでいるようだ。

 それならと陵善が腕をまわして肩を抱き寄せると、猫は嬉しそうに収まった。どう見てもサメの方が捕食者のような構図だが、この場の支配権は猫が握っている。


 誰もが好印象をもつであろう芳香よりもサメの体臭を選び、晴田は口を開く。


「雇った雄を澄香と分け合う、これはなかなかうまくいかなくてね。君もわかっていると思うが、あれは人をつぶすことしか考えていない。活かし方を知らないんだ」

「……そういう風にお見受けしております」

「上に立つ者のくせに、人をうまく扱えない。結構致命的でね、私も困っているんだ。会社を運営するのに、あれは力不足だ」


 弟に対する愚痴をこぼすことで共感を得ようとしている。そのくらい陵善は察していた。

 自分は違うと言わんばかりの態度だが、どちらが厄介かと問われればこの兄の方だとサメは即答するだろう。権利書を抑えた手際といい、できれば敵に回したくはないと判断している。


「陵善、チョコレートを一つ、食べさせてくれないかい?」

「かしこまりました」


 テーブルにあるチョコレートを手に取って、猫の口元へと運ぶ。だが、晴田はそれを口に含んだまま微動だにせず、意図を読んだ陵善はキスを降らせた。


「いいよ陵善」

「んっ……はい♡」

 

 ぬるりと入り込んできた舌は甘く、おすそわけだとこすりつけてくる。蕩けたチョコレートを互いに塗りたくるようについばんで、深くつながって感想を共有する。

 晴田はサメの首筋に抱き着いて、甘味をむさぼっている。褐色が混じった唾液がシャツを汚しても、意に返すことなく上ずった吐息を漏らしていた。


「ん、むぅ♡♡陵善……♡」

「晴田様♡ちゅぅ♡んっんっ♡♡」


 唾液を飲めという指示だと受け取って、サメは猫を抱きしめながらキスを受け入れている。甘えん坊の猫を抱き潰さないよう手加減しているが、その気配りが悦ばせるのだとは考えが至っていない。

 あくまで陵善は他人に対する礼儀として、自分の怪力を制御していた。


「どうだい、陵善♡君のために、私のお気に入りを取り寄せたんだ♡んぅ♡」

「美味しいです♡今まで食べたチョコの中で、はむっ、一番♡ちゅうぅ♡♡」


 雇い主からのキスを受け入れてチョコレートを堪能しながらも、サメの手は止まらない。

 猫のシャツに手をかけてボタンを外すと、しなやかな体が露わになっていく。対して晴田も白い内皮に手を伸ばし、たくましく膨らんだ胸板へと指を沈ませた。


「んっ、もうおしゃべりはお終いかい♡私としては♡もっとしていても、構わないのだけど♡♡」

「ですが、んむっ♡言葉よりも、十分なおしゃべりを、ちゅ♡しているかと♡♡」

「それもそうだね♡だけど……」


 普段陵善がしている行為なら、そのまま相手を自慢の筋肉で抱えてベッドまで運ぶのだが、彼はこの場の主ではない。

 主たる猫は唾液まみれの口を舐めながら、サメの鼻面に口づけを落として笑いかけた。


「君はまだ話足りないだろ? 私に何を望むのか、きちんとおねだりしてごらん?」

「おれは射精を……」

「そうじゃないだろう? あれだけ嫌がっていたのに、わざわざ覚悟を決めてまで抱かれに来たんだ。本題は別にある、違うかい?」

「……っち、お見通しかよ」


 取り繕うのも面倒だと、サメは正解を告げる。上司に対する態度としては間違っているが、この猫なら大丈夫だと直感に従うことにした。媚びすぎるのが駄目だというのなら、普段の口調でも問題ないと踏んだのだ。

 それは間違いではなく、晴田は特に気にする様子もなかった。ただ正解したことを誇りながら、サメの膝に乗る。それでも陵善の方が高く、猫は巨躯を堪能するために正面から抱き着いて首筋を舐め上げた。


「これでも私は政治家さ。人を見る目を養うことは、必須だったからね」

「んじゃ、どうせおねだりの内容も当たりが付いてるんだろ?」

「澄香のことだね。わかっているとも、私が口を出せば澄香は君に手を出せない。それに、権利書がある以上、私と敵対することは損しか生まない。当然の判断だ」


 晴田の答えは間違っていない。澄香に対抗するべく、晴田を使おうというのが鴎林の提案だった。陵善は晴田にモーションをかけつつ、澄香にもアピールをすることで奪い合わせ、兄弟間の喧嘩を激しくしようと画策していた。

 魔性の女みたいで気が進まなかった陵善だが、一泡吹かせられるならと納得して受け入れた。慣れない媚びを浮かべながらも頑張ったというのに、それはすべてばれていたようだ。


 だが、いまだチョコレートの残り香が漂うサメの横顔に浮かぶのは、辟易とした表情。それは晴田の想定外だったため、おや、と眉を上げた。


「……そうやって澄香から雄を奪ってきたわけだ。用意周到なことで」

「なんのことだい?」

「鴎林だろ。あいつはお前の間者だ、違うか?」

「お見通しだったか」


 今度は晴田が正解を告げる番だった。兄弟間で雄の取り合いをする以上、その手の者を紛れ込ませるのは常套手段だ。陵善はある程度の辺りはついていたが、これで確信した。


「君の想像通り、鴎林には雄たちの情報を横流しするように頼んである。雇い主への感情はどうか、辞めたいと思っていないだろうか、とかを澄香にばれないようにね。ふむ、聞いてもいいだろうか、どうしてわかったんだい?」

「手際が良すぎるんだよ。おれがお前の誘いを断ってすぐ権利書が取られた。んで、おれが道場のために金が要るっていうことを知ってるのは、澄香と一緒に車にいた鴎林だけだ。調べりゃわかるだろうが、おれが朝出勤するまでに権利書を買うとなると、絶対に時間が足りねえ」

「事前に調べていたのかもしれないじゃないか、澄香と奪い合う以上、情報を握るのは当然のことだろう?」

「おれもそう思っていたさ、だから今まで確信が持てなかった。でもお前、おれのおねだりの内容を言い当てただろ。さぞお見通しですって態度で有利に立とうとしたみてえだが、澄香のことじゃなくて、権利書のこともあったはずだ。それさえ取り返せば、おれはここから逃げ出せるんだからな。そして、おねだりの内容をおれに吹き込んだのも鴎林だった」

「……なるほど、それは君を過小評価していたね。ばれないだろうと高を括っていたんだ、謝るよ」

「謝る必要なんかねえよ。別にばれても結果は変わらねえだろうが」


 結局力関係が変わることはなく、ただ晴田のからくりが明らかになっただけ。澄香の方も何か手は打っているのかもしれないが、陵善の周りに関してはこれが答えだ。


「鴎林はお金のためならいろいろやってくれて便利なんだ。したたかな雄も嫌いじゃないけど、ああいうのは手中で愛でるより一歩引いて見物してたほうがおもしろい」

「……そうかい。それなら、おれはどうだ?」

「君はもちろん、側に置いておきたい雄だ」


 猫は膝を立てることで、ようやくサメよりも高い視点を手に入れた。そして見下ろす口角を歪めた表情は、人の好さそうな好青年の雰囲気は霧散している。

 恍惚を張り付けた目にはサメしか映っておらず、剣呑に光る視線は宝物を見つけた少年のようだ。手はしきりにサメの頬を撫で、舌なめずりをしながら獲物へと狙いを定めていた。


 ここでようやく、陵善は猫の本性を知る。


「うちには到底及ばないまでも、道場という一国一城の主として生まれ、そのまま気高く育った君。ああ、澄香なんかにはもったいない。君を貶めるなんて澄香は愚かだ。君にふさわしいのは肉体を輝かせる汗と凛々しい相貌、そして快楽に蕩ける顔だというのに」

「やっぱり兄弟だな。嬉しそうな顔がそっくりだ」

「ふふ、ふふふっ、誉め言葉として受け取っておくよ。澄香にしてはいい雄を雇った。鴎林から聞いているのかは知らないが、私はほれた男には弱いんだ」

「知らねえよ。政治家としてはどうなんだって感じだけどな」

「心配してくれて嬉しいが、これでも男を見る目はあるつもりさ」


 本来の計画では陵善が兄弟をたぶらかして争わせるはずだったのだが、それは不可能だと悟った。もともと間者によって筒抜けだったのもあるが、晴田では澄香と競わせるには役不足だ。

 

 それに陵善は鴎林を疑っていたこともあり、代案を用意してきている。青い大きな手で猫の肩をつかみ、主導権を奪おうと牙をむいて笑う。


「なら、おれの本当のおねだりを聞いてくれるか、晴田様?」

「言ってみてくれ。考慮はしよう」

「おれは道場を守れればそれでいい。お前の手にあるのは気に食わねえが、逆に言えば綾金の力を使えると、お前は言っていたな?」

「そうだね、運営に関しては君よりも一日の長がある。プロモーションなら任せてほしい」

「なら、お前好みの雄がいたらおれの道場に送れ。おれが鍛えてやる。こんなところで使いもしねえ筋肉を育てるより、いい男にしてやるよ」

「交換条件ってことだね。それはそれで魅力的な提案だ。……うん、インストラクターは雇っているけど、武術の師範はいなかったな。悪くない」

「ただし、他のやつには手を出すなよ。おれは主として、望まない行為から守る必要がある」

「君が私から守れるとでも?」

「必要なら喉笛に食らいついてでもだ」


 本気だと言外に匂わせて、陵善は眼光で晴田を刺す。例え晴田の力添えで道場が軌道に乗ったとしても、門下を守れなければ意味がない。陵善にとって、これは絶対の線引きだった。

 

 そして同時に、晴田から雄を預かるということは、道場を澄香から守ることを意味している。互いのお気に入りには手を出さない。これは兄弟間の前提事項だから。

 陵善はそこまで考えて条件を作り、鴎林すら利用してこの場を作り上げた。晴田はその根性を高く評価する。金や地位のためにあがく汚い大人を見続けた猫からすれば、がむしゃらに夢を追う一本筋の通ったサメは何としてでも手に入れたい宝物だ。


「一つ、条件を追加しよう」

「なんだ?」

「私が望むとき、君は私に抱かれる。どうだろう?」

「安いもんだ。元から貞操なんて守れると思っちゃいねえよ」

「なら決まりだ。契約書を作成しよう」

「いらねえよ」


 想定外の発言を受けて、猫の言葉が一瞬止まる。


「……口約束だけでいいと? まさかそこまで信用されているとは思わなかった」

「逆だよ逆。例え契約書があったとしても、司法を掌握されたら意味ねえだろ。綾金と敵対して弁護士を雇えるかも怪しいもんだ。それに、お前なら契約書があったとしても何とかするだろ。そんな紙切れ一枚あったところで、安心できる要素が皆無だ」

「うーん、真理だね。実際どうにでもできるから、気休めにしかならないよ」

「だから、おれに誓えるかと聞いている」


 陵善は猫の手を自身の心臓に当て、誓いを求めた。

 視線をそらさず真正面から見据えるサメは嘘偽りを許さない。これまでに溜まったフラストレーションを飲み込み、静かな怒りを称えている。

 司法すらどうとでもできる晴田にとって、それは原始的だが効果的な方法だ。そして強い雄を見せられると、どうにも甘くなるくせがある。


 こんなに身も心も強い雄が道場のために澄香の言いなりになっていた。そして今度は自分が契約相手になった。弟からいい男を奪ったことで、晴田は胸がすく思いだった。


「誓おう。君は私の愛人として、道場で雄を磨くといい」

「お前のためじゃねえけどな」

「それならこれで私たちは同盟相手だ。ふふ、ここまでいい雄を手に入れたのはいつぶりだろうか。初体験の時よりも興奮しているかもしれないね」

「変態が。だがお前が契約を守ってくれる限り、好きに抱き潰せ」


 誓いを終えれば後は盛るだけだ。陵善は黒猫を抱えあげ、ベッドへと運ぶ。

 お姫様抱っこに晴田はご満悦で、シーツの海に沈めれば手を出して体を求めた。


「このまま食われたいってか?」

「ふふ、差し出せって意味だよ」

「聞いてみただけだ」


 対処法は鴎林から聞いている。黒猫から服をはぎ取ると、均整のとれた体からさわやかな匂いが飛び、生まれたばかりの姿へと変わった。

 次いで自分もと下着に手をかけたサメだが、そこに待ったをかけられる。猫に近づけば、小ぶりな鼻面が膨らみへと埋まった。


「んっ♡濃い匂いだ♡律儀にずっと我慢してきたのがわかるよ♡♡」

「お前ら兄弟のせいでな……」

「それも今終わる♡ふぅ♡すぅー♡♡たくさん筋トレさせたかいがあった♡君が凝縮されてる♡♡」


 男とベッドを共にしたこともある陵善だ。晴田の行為が心から楽しめるものだということは理解している。サメ自身は誰かのモノを嗅ぐことに興奮を覚えるたちではないが、その恵まれた体が持つ雄性を求められてきたことはあった。


 晴田も例に漏れず、そのためだけに汗を流させたくらいだ。下着を脱がせるより前の状態を堪能すべく、股間の付け根から玉袋まで、そこに宿る雄性をねっとりと肺に収めていく。

 

「すぅー♡ふんふん……♡はあ、たまらないね♡♡」

「はあ……」


 もどかしい刺激に心は浮足立つのだが、あくまで雇い主は晴田だ。契約を順守させるためにも、ある程度の好感度を稼ぐ必要がある。サメは熱心に嗅ぐ猫をひっくり返してから、その顔に腰を下ろした。

 こうすれば喜ぶ雄が一定層いることを、サメは知っている。鉄骨のような太ももで挟み、鼻面に体重と共にふぐりを押し付ける。顔面騎乗位で陵善の股間を余すことなく密着させると、猫のちんぽがびくびくと嬉しそうに振るえた。


「ふおぉ♡♡ふごっふごっ♡♡♡すぅーーーー♡♡♡」

「兄弟そろって変態なのは変わらねえな……まあ、好きに吸ってくれよ」


 やれやれとため息を吐く陵善に構うことなく、晴田は激しく呼吸して玉袋の裏を丁寧に換気する。それでも理性は健在で、パンツに浮かび上がる立派なちんぽの裏筋を爪先で優しくひっかいて、サメの性欲をたぎらせることを忘れていなかった。


「おっ♡♡んっ♡♡焦らしやがって……♡」

「君が暇をしないようにね♡萎えさせては申し訳ないだろ♡♡すんすん♡さすがにここは消臭してないね♡別に気を使わなくてもいいのに♡私は君の匂い、好きだよ♡♡」

「おれの気分の問題だよ。汗臭い自覚はあるんでね」


 たっぷり汗をかかせたのは香水を落とすためでもあったのだと、今更サメは気が付いた。確かにこの匂いフェチにとって、香水よりも体臭のほうがいい。

 なぶる指先のせいでサメちんぽの先端にシミが広がっていく。晴田は見えていないだろうが、ぬるつく感触から大体把握しているだろう。


 行為は自然と次に進み、猫の口が目指したのはサメの肛門だった。


「んおっ?♡」


 未知の感覚に背筋を震わせるサメだが、拒むことはしない。それを確認して晴田は舌先を伸ばし、布越しにアナルを舐め始めた。普段排出にしか使わない穴に逆から負荷がかかり、奇妙なくすぐったさが嫌悪を産む。


 だが、陵善は覚悟を決めている。もぞもぞとでかい尻が逃げようと動くが、それを意志の力で押さえつけていた。それはもっとと当てつけるおねだりのようで、晴田の舌が調子づいていく。


「く、ふぅ……♡そんなとこ、舐めるなよっ♡♡」

「いいじゃないか♡パンツ越しだ♡本当は直接舐めたいのだけど、さすがに早いと思って抑えているんだよ♡」

「慣れたとしても、ご免だがな♡んっ♡」

 

 初めてのアナル攻めに困惑を隠せない陵善を尻目に、晴田はわざとらしくちゅぱちゅぱと吸引の音を奏でていく。すでに穴部分の布地はべったりと濡れており、サメマンコにくっついて不快感を与えていた。


 やがて晴田は唾液の匂いしかしなくなると、満足そうに太ももをタップしてどくように指示を飛ばした。ぱつんぱつんに布を引き延ばした尻が浮くと、邪魔と言わんばかりに爪で下着を引き裂いていく。


「あ、おい……!」

「後で弁償するよ。今はこの体勢から変わるには名残惜しくてね♡」

「抑えてるんじゃ、なかったのかよ……」

「だから見るだけさ♡綺麗な穴をしている♡ここを私好みにするのが楽しみだよ♡」

「変態が……!」


 穢れを知らない桃色の秘孔をねっとりと観察されて、サメはむずがゆい気持ちで尻を揺らす。別にアピールのつもりではなかったのだが、眼前でそんなことをされた晴田は興奮をさらに硬くした。


 先ほどの唾液によって潤んでいるそこは艶やかで、うごめきが鮮明だ。これ以上見ているとしゃぶりつきたくなってしまうと、晴田は何とか視線を引きはがし、サメ尻から離れることにした。


「私ばかり楽しんでいては、君に申し訳がない♡今後は楽しんでもらえるよう慣らしていきたいが、今はまだ、初めてだからね♡」

「おれの未来が真っ暗で泣きたくなってくるよ。お前の雄よりも、お前自身を道場につっこんでその性根を叩き直した方が良い気がしてきたな」

「これでも護身術くらいは一通り学んでいるんだけどね。ただ最近は運動していないし、鍛え直してもらうのも悪くない。その時は澄香も連れて行こうか」

「……お前、自分のお気に入りを弟に自慢したいだけだろ?」

「ばれたか♡」


 そういうところが兄弟間の軋轢を生むのだと懇々と諭したい陵善だったが、晴田に体を押されると仕方なくベッドに横たわる。

 全裸になった筋肉の塊は分厚く、勃起するちんぽも立派な大きさをしている。禁欲されて膨らんだ袋は体温から逃げ出そうとしており、だらりとぶら下がって金玉のでかさを浮かび上がらせていた。


 晴田は脚から指を登らせて、一物の根元までくすぐっていく。サメの相貌には嫌悪の中に期待が芽吹いていき、ようやく精を放てるのだと肉塔がひくついていた。


「ああ、間近で見るとすごさがよくわかる♡立派なちんぽだ♡♡」

「そりゃどうも……」

「鴎林や凋羽のような個性的なものも好きだが、やはり雄々しいものがいい♡♡」


 晴田は脚の付け根に頭を預け、嬉しそうにちんぽを眺めている。雄を自尊心を満たす道具としか見ていない澄香と違い、晴田は心の底から雄を愛していた。


「カサの広がりも、浮かび上がる血管の太さもいいが、なんといっても形がいい♡均整のとれたちんぽじゃないか♡まるで陵善の心みたいだ♡どこまで行っても真っすぐで、図太い♡♡」

「そんな褒められ方をしたのは初めてだよ。お気に召したようでなによりだ。でも結局お前だけが楽しんでるじゃねえか」

「おっと失礼。君があまりに美しくてね、つい見とれてしまった」

「はいはい、いいからとっとと終わらせてくれ」


 さきほどから自身の恥ずかしいところばかり凝視されている陵善は、辟易と吐き捨てる。

 一物はずっと解放の時を待っているが、それを口にするのはプライドが許さなかった。


 それでも期待は隠し切れなくて、晴田はその強がりを愛おしそうに眺めている。華奢な指がちんぽを握ると、熱した声がサメから漏れる。


「っはぁ……♡」

「悪いが私にとっとと終わらせるつもりなんてないよ♡いい雄はちゃんと味わわないともったいない♡私なりの敬意だと思ってくれ♡」


 陵善という雄を堪能するには挿入は早計だ。晴田は黒い手でサメちんぽをしごき、精神を溶かそうとしていた。

 黒い手は巧みで、自分でオナニーするよりも強い快楽をサメに与えている。弱いところなどあっさりばれ、両手でサメを追い詰めていく。


「うっ♡はぁ♡♡んんっ♡♡」

「私ばかり楽しんでしまったからね♡君も存分に楽しんでくれ♡♡」


 先走りでぐちゅぐちゅと鳴く限界間近のちんぽに耐えられるわけもなく、サメはようやく煮詰まった白濁を出せるのだと安堵した。

 脳内は嫌悪や羞恥よりも射精欲を優先させ、このままいけばすぐにでも達することができる。


 だが、猫の手はすぐさま離れ、びくびくと不満を訴えるちんぽが解放された。


「……あっ?♡」

「せっかく溜めたんだ、あっさりいかれてはつまらないじゃないか♡♡」


 そうして晴田はサメちんぽを少ししごいては止め、絶対射精させないようぎりぎりに追い詰め始めていく。

 最初こそまだ余裕のあった陵善だが、猫の手に合わせて腰を振ったり呻いたりと、次第になりふり構わなくなっていく。ケダモノのように息を荒げ、剣呑な視線で猫を貫いた。


「ふぅー♡ふぅー♡てめえ……人で遊ぶんじゃ、ねえよ……♡♡」

「悪いね、君があんまりにも可愛いからつい♡普段はこんなにいじわるじゃないんだよ、信じてくれ♡」


 などと宣いながらちんぽを握って数回しごく。それだけで陵善の巨躯が跳ね、ベッドをきしませた。


「おおおぉぉっ?!♡♡♡」


 そこから手を離せば、真っ赤になった陰茎が射精もできずにもがきだす。痛いくらい張り詰めたちんぽは先ほどより血管をはっきりと浮かばせ、いつ爆発してもおかしくない。

 腰を浮かせる陵善はこんなやつに弄ばれている屈辱をにじませながら、歯を食いしばる。すでに噛みしめた隙間からよだれがこぼれて胸筋を流れ落ちているが、眼光だけは鋭いままだ。


「いつまで、するつもりだ……?♡んっ、ふぅ♡くそ……♡♡」

「もうそろそろいいかな、とは考えているんだ♡君の心を折るのはかなりの時間がかかりそうだ♡それに私の趣味じゃない♡君は反骨精神が強いから、手荒く扱えば扱うほど意志を固くする♡澄香とは本当に相性が最悪だね」


 太陽は北風をあざ笑いながら、幹に口づけを落として非礼を詫びる。泡立った先走りの染みこんだ雄臭い味が猫に唾液を作らせるものの、ここで興奮にあかせてしゃぶっては台無しだ。

 陵善には想像もつかないかもしれないが、これでも晴田は十分抑えている。初体験で男色に沈める心づもりであり、この強く気高い雄が自分から股を開くようにしたいと考えていた。


 だから丁寧に事を進めていく。ローションで肛門をほぐすために指を入れると、サメの眼光に陰りが差す。初体験への不安がにじんだ顔へ、猫は愛おしそうに笑いかけた。


「安心してくれ♡私は経験豊富なんだ、初めてを相手にするのだって慣れたものさ♡」

「そりゃそうだろうよ、うっ……変な感覚だ♡だが、おれはもういきてえんだ♡好きにしろ♡♡」

「さっき舐めたおかげですぐ済むさ♡後ろは初めてだそうだけど、興味はなかったのかい?♡」

「あんまりな。それに、今まで付き合ったやつらは、おれにウケを求めてこなかった。そんだけだ」


 曲がったことが嫌いな正義感で、見てくれも雄々しさの塊だ。その腕に抱かれたいと望む男女が多くいただろうことは想像に難くない。

 だが晴田のような者はそういう輩こそ抱きたい願望を抱えている。今まで誰にも荒らされなかった新雪を踏む気持ちよさが、猫の指を急かそうとしてしまう。


「二本目だ、私のものはそこそこ大きいから万全を期したいんだ♡もうちょっと耐えてくれ♡ここで出されると、すこし興ざめだよ♡」

「わかってるよ……んぁ♡そんな、情けない真似なんて、しねえから……♡っつぅ……やば、ケツって、こんな感覚だったのかよ……♡」

「今まで君がしてきたことだよ♡まあ君はどうせ全員を丁寧に抱いてきたんだろうけど♡私もそれに倣ってね♡」


 穴をこじ開けられる異物感にうめく陵善だが、言葉通り晴田の指は丁寧に慣らしていくため、声を噛み殺すことができていた。

 しかし、次第に中は雄を受け入れる体勢を整えていくことで、快楽が膨らんでいった。最初にあった異物感はだんだんと薄れ、三本目が入る頃には声音に艶が混ざりだしていた。


「おおぉ……♡んおっ♡良くなってきたぞ♡」

「思ったより素直だね♡早くほしくなったのかい?」

「ここまで丁寧にされちゃ、礼を返すくらいは当然だろ♡一応これは同意の上でやってんだ♡馬鹿な意地を張るほどガキじゃねえよ♡♡」

「それ、澄香に聞かせてあげたいよ」

「そんなことばっかりやってるから、弟からひがまれるんだよ♡自覚しろ、くそ兄貴♡」

「わざとやってるのさ♡あいつと比べられたほうが君みたいな人から好感度を稼ぎやすい♡」

「んっ♡そんなことだろうと思ったよ♡」


 会話で気をそらすのにも限界がある。陵善は強くなる快楽を前に、達しないようにするので精いっぱいだった。


「そろそろ限界のようだね。すでに十分ほぐれただろうし、入れようか」

「そうしてくれ♡」


 指を抜けば肛門との間に糸を引き、トロリと落ちていく。それを合図に、猫はサメへと覆いかぶさり、逸る剛直をあてがった。

 粘液で感じる他人の熱は想像以上に増幅されて、思わずサメの喉が動く。もの寂しさを覚える肛門はこれからを期待して、陵善は猫の顎を持ち上げて鼻面を重ね合わせた。

 身長差のせいで陵善は身を乗り出さねばならなかったが、晴田の驚いた顔を見れば悪くないとニヤついた。


「どうした、舌でも入れたほうがよかったか?」

「まさか自分からしてくれるとは思わなくてね。少し、驚いたよ」

「同意済みならこっちも盛り上げを手伝わないと、だろ?♡」

「思ったより淫乱なんだね♡嫌いじゃないよ♡」

「発情してるのは間違いないな♡無理矢理する方が好きだったか?♡」

「いいや、私は甘えるのが好きなんだ♡だから……」


 晴田は腰を動かして、サメの中へと入っていく。

 指よりずっと太い肉でこじ開けて、穢れを知らぬ柔肉のトンネルを掘り進む。濡れそぼった内壁は猫へとまとわりついて、蓄えた興奮を搾り取ろうとせわしなかった。


「これからたくさん甘えさせてもらうよ♡♡」

「ふっ、ふぅ……♡♡んんんっ♡♡入って……んあっ♡」


 圧迫感にあえぐ陵善の大きな体に抱き着いて、晴田は満足そうに耳を揺らす。鼻に馴染んだサメの匂いに包まれながら、手を伸ばして突き出た胸筋をつかんだ。リラックス状態の筋肉は掌に吸い付いて、少し力を入れるだけで指が深くまで沈む。

 なじむまでの間、サメの巨乳を枕にしながら、存分にもみほぐしていく。


「これで全部か……♡確かに、結構デカいな……♡」

「言っただろう♡だから少し時間を置こうか♡君が萎える心配はないだろうが、その間、こっちを触っておこう♡本当にでかくていいおっぱいだ、抱き着きがいがあるよ♡♡」

「男って、相手が男だろうと女だろうとおっぱい好きだよな……♡」

「あと尻や腹も好きさ♡でかいものほどいい♡」

「尻はわかるけど、腹はさすがにわかんねえよ」


 処女を無くしたところで陵善は動じないし、特段感情もわかなかった。こんなものなのかと、想像していたよりも呆気なく挿入が終わって、安堵すらしていた。

 自分を敷き布団にする猫の背中を抱きながら、異物の発する熱を感じている。もともと付き合った相手には優しい男だ。今回は例外とはいえ、手荒くするつもりはサメにはなかった。


「ああ、このまま熟睡できるよ♡毎晩私の布団になってほしいくらいだ♡」

「お断りだよ。おれは寝相が悪いんだ」


 相手は外道兄弟の片割れだというのに、陵善は猫を腕の中で優しく抱きしめている。情に絆されやすいのは人の良さの表れだ。かといって敵対すれば容赦されないだろうとは、晴田は冷静に分析していた。


「さて、そろそろいいだろう♡」


 存分にサメのおっぱいを堪能した晴田は体を起こし、軽く奥を小突く。

 小さな振動も禁欲したサメにとっては無視できない衝撃で、内壁がきゅうっと窄まって続きをねだった。

 

「んぅ……♡いいから、早く来いよ♡生殺しのまま自分だけ楽しむなんて、結局外道のすることだ♡」

「ふふ、それもそうかもしれないね♡おねだりする君がかわいいから、引き延ばしてしまうんだ♡」

「よく言うよ……♡」


 そして、晴田の腰が引いて行けば、粘液をまとった肉棒が排出される。


「おっおっ♡♡んおっ……んっ♡ああっ♡♡」


 わずかな動きが何倍にもなってサメの体で反響し、ようやく餌を与えられた性欲が快楽の咆哮をあげているようだ。しとどに濡れたマンコは排泄を拒絶し、役割を放棄してまでもむしゃぶりついている。

 引き延ばされた肛門は処女とは思えぬほど浅ましく、晴田はこのサメを自分好みにしたいという欲求を抑えきれなくなっていた。


「どうだい、ウケも悪くないだろ?♡♡ただ、君のような巨体に私のものは小さすぎるんじゃないかと不安になるよ♡」

「心配、するなっ♡初心者には十分だ♡♡」

「それは褒められてるのかな♡素直じゃないね♡」

「言ってろ……うおっ♡おおぉ♡」


 会話の最中に腰が動けば、陵善の言葉は嬌声にまぎれてしまう。とろかされた内部はだんだんと自分の役割を自覚しており、剛直をはんでは媚びをまとわせる。

 晴田程度の力ではびくともしない体がベッドに広がって、待ちきれないと揺れている。次第に抽挿の音は間隔を短くしていき、それに伴って断続的に甘い声が追従した。


「うっ♡♡あっあっ♡んぐぅ……♡♡」


 強く正しくと自分を律して生きてきた陵善が男を知り、身もだえている。羞恥によって顔を隠そうと腕を上げるものの、晴田につかまれて阻まれる。赤らんだ顔に潤んだ目を細め、煽情的な表情はただ猫を昂らせるだけだった。


「ううぅ、あぁ……♡隠すぐらい、いいだろうが……♡んあああっ♡」

「君の可愛い顔をよく見たいんだ♡それに……ね?♡」


 指を絡ませればまるで恋人同士のようだ。そんな関係じゃねえだろとサメがにらんだところで、威圧感などかけらもなかった。


「いいじゃないか♡君は私の愛人♡これも君の仕事さ♡もっと愛を紡ごう♡♡」

「なら……ふぅ、どうやってか、教えてくれよ、雇い主様♡」

「もちろんいいとも♡なら私を見習ってごらん♡」


 晴田は腰をゆっくりまわして中を刺激したまま、陵善の手の甲に口を付けた。


「愛しているよ陵善♡君ほどいい雄はなかなかいない♡私は君の勇猛さを心から愛している♡願わくば、ずっと私の側にいてくれないか♡♡」

「……いけしゃあしゃあと♡んっ♡ふぅ♡それをやれってか……♡」

「新人研修だと思えばいいさ♡非童貞の陵善には簡単だろ?♡」

「自分の気持ちに嘘をつくのとは、また別の話だろうが……♡」

「ひどいことを言うね♡」


 甘えん坊の晴田は陵善の答えに気を害した素振りもなく、手の甲にキスを降らし続けている。それから掌を口につけて、指の隙間から弧を描く瞳を向けた。

 そうしながらも剛直は中をえぐり続け、サメちんぽは歓喜に涙を流している。処女喪失から間もないというのに金玉が射精を急かすせいで、慣れない快楽を吸収しようと、体中が作り変えられていくような感覚だった。


 このままいけば射精までまもなくだろうというのに、晴田はだんだんと速度を緩め、絶頂を望む興奮に待ったをかける。


「ふうぅぅぅ♡言えって、ことかよ……♡」

「君の声が聞きたいんだ♡」

「くそが……♡んっ♡強制は良くねえぞ♡」

「君が素直じゃないのは知っているから安心してくれ♡」

「おめでたい奴だ……♡」


 これ以上の押し問答は射精権を握られているサメにとって、何の意味もない。しぶしぶ陵善は差し出された手を取って、恭しくキスを落とした。


「愛してるよ晴田様♡お前のそのくそったれな性根を、いっぺん叩き直してやりたいくらいにな♡」

「もっと♡」

「愛している♡好きだ♡ぶん殴ってやりたいくらい♡」

「ふふふ♡私も好きだよ、陵善♡」


 その答えで満足した晴田は、ご褒美がわりに腰を打ち付けて応えた。いきなりの衝撃にサメは息が詰まり、次いで膨大な快楽に喉を震わせた。


「んはああぁぁ♡♡♡」

「陵善、私は確かに甘えたがりだが、同時に嫉妬深いんだ♡お気に入りは澄香には触らせたくないし、誰の目にも触れさせたくなんかない♡♡」

「うおっ♡ああっ♡おふおぉ♡飼い殺しなんておれは……おほおおぉ♡♡」

「庭ならどれだけでも広いものを用意できる♡けど、君は拒むだろうね♡でも、一国一城の主として成長してもらえるのなら♡君はよりいい雄になる♡」


 愛をうたってやわらげた空気が抽挿音によって歪み、むき出しの欲望がぶつかり合う。

 本気を出した遊び人の腰つきは巧みで、雌の喜びを刻み付けていく。先ほどの小休止の間に、内部を探っていたのだと、陵善は息が詰まりそうな快楽の中で察した。


「んおっおっ♡ぐうぅうぅ♡♡あだる、あだっで……おおおぉん♡♡」


 晴田が突き入れるたびに、サメちんぽが脈打って先走りを噴く。この快楽に身をゆだねれば、ようやく射精することができる。サメは本能に従って、猫にペースを合わせていく。

 自身の結合部から卑猥な音が鳴ることにも慣れ、上ずった嬌声で吠える羞恥も馴染んできた。噴き出した汗がすべらかな肌を艶めかせ、筋肉の凹凸に沿って流れていく。

 血色のよくなった内皮は白を輝かせていて、作り物めいた雄々しさで雄を誘っている。だが、張り出した胸部の頂点に位置する赤い突起や、血管をグロテスクに走らせる赤い肉塔が、生々しさを追加して晴田の興奮を誘うのだ。


「いいね♡ああ、本当にかっこいいよ陵善♡もっと私好みにしたい♡もっとスケベな服を着せたり、かっこいい衣装で町を歩こう♡でも、君の体に触れることを許されるのは、私だけだ♡♡」

「好きに、言ってろよ……♡おおうぅ♡おっおっ♡♡恋人みてえなこと、言いやが……い゛いぃっ♡」

「君は私の愛人♡だからこそ、私からあふれる愛を♡受け取ってくれ♡♡」


 甘えん坊で独占欲の塊である晴田が、なぜお気に入りの雄たちを愛人と称すのか。その答えが行為に詰まっている。

 愛人一人一人にこんな行為をしているのだろうと、陵善は気づいていたが絶頂の近い今はそれどころではない。尻からほとばしる気持ちよさに翻弄されまいと、何とか口を噛みしめていた。


「いくときは一緒だ♡だから、もう少し耐えてくれ♡」

「ああうぅ♡なら、ここまで、我慢させるなよっ♡んおぉ♡おっおおぉぉ♡♡おれは、とっとと、出しちまいてえってのに……!♡♡」


 ちんぽ裏の尿道を押さえられ、いくなと命じられれば逆らうすべはない。どれだけ愛情深くとも、綾金の後継者。人を使うことに慣れた、帝王だ。


「ふぐうぅうぅうぅ♡♡早くいってくれ♡ちんぽが爆発する♡♡」

「もう少し、もう少しだよ……♡♡んふぅ♡」


 無様をさらさないようこらえようとしていた陵善だが、射精寸前のちんぽを押さえられては無意味になる。首を何度も横に振って呻き、ちんぽは空撃ちを繰り返して跳ね回る。


「耐えてくれ陵善♡愛してるよ♡」

「てめえ……そう言っとけば許されると思ってんじゃねえだろうな♡♡んんんっ♡早く、しろ……♡♡」

「もうちょっと、なんだ……♡♡君が締め付けてくれれば……♡」

「わかったよ♡んおっおおぉ♡畜生、ちんぽがおかしくなりそうだ……♡♡」


 射精をちらつかされて、陵善はできる限りマンコを締めようと努力した。シーツを硬く握りしめたせいでしわが深くなるが、そうでもしていなかったら猫の手を払いのけてしまっていた。

 処女の懸命な努力が快楽につながって、晴田のちんぽはボルテージを上げる。柔肉がプライドを捨てて絡みつくことで、終わりは着実に近づいている。


「早く……うっうぅう♡早くっ♡♡♡」

「気持ちいいよ陵善♡ああ、君を感じる♡いきそうだ……♡♡」


 だんだんと晴田の腰も早くなり、余裕がなくなっていく。甘い言葉を吐く頻度も下がり、生殖本能に脳が支配されていた。

 言葉を放棄して絶頂を目指す獣の交尾は、会話の代わりにぐちゅぐちゅと突き入れる音でコミュニケーションを取っている。汚いエコーロケーションは互いの興奮を丸裸にして、射精のために本音でぶつかり合った。


「そろそろ、出すよ……♡頑張ったね、陵善♡」

「褒めるくらいなら、あううぅ♡とっとと手を離せっ♡♡ちんぽが馬鹿になったら、どうしてくれる♡♡」

「そうしたらもちろん責任を取るさ♡当然だろう♡♡」

「もう、いいから♡早ぐっ♡♡おれを、いかせろ……!♡♡」

「わかったよ♡甘い言葉はピロートークに取っておこう……♡」

 

 そうして猫が手を離せば、ようやく陵善は射精できる。

 これまで無理に溜めてきた性欲は許容量を超えており、なりふり構ってはいられない。解放された瞬間に猫に合わせて腰を振り、一番深くを当ててもらおうとした。

 そうすれば快楽がもらえると、体は理解している。処女を失って、雌としての感覚を新たに覚えていたのだ。


「ふぐおおぉっ♡♡ほら、早くいくぞ♡締め付けて、やるから……♡んおっおおおぉ♡♡」

「優しいね♡そんな状態でも、エスコートしてくれるんだ♡なら、もっと優しくしてほしいね♡」

「言ってろ……♡んぐ、出すぞ晴田♡」

「ああ、いこうか陵善♡♡」

 

 そうして、陵善にとって長い射精禁止が、ようやく終わりを迎えた。


「うぐぅ♡出すぞ、出すっ出すっっっっ♡♡いくぞおおおおぉぉぉぉ♡♡♡♡」

「私も、出す!♡♡」


 晴田の要望通り、達したのは二人同時。だが、その量は明らかに違っていた。

 猫の射精は平均的な男性よりも多い程度で、サメを孕ませようと打ちあがる。晴田にしては十分な量で、陵善という雄にこれほど興奮していたのだと、自分でも驚くほどだった。


 しかし、陵善の射精は程度が違った。


「ぐおおぉおぉ♡止まんねえっ♡ちんぽ馬鹿になりそうだぁ♡♡出しても、出しても♡あふれてきやがるうぅっ♡♡♡」


 まるで噴火のようだと、猫がほれぼれ見惚れるほどの勢いが、ぶしゃぶしゃと噴出している。

 鈴口や尿道を限界まで広げて我先にと精子があふれ出し、猫の頭上すらも超えていく。粘度の高いザーメンは火山弾のようにまき散らされ、白い内皮の上で黄ばんだゼリー状の白が激しく揺れていた。


「おおっ♡すっげええぇ♡すっげ♡やっとだっ、ああくそ、たまんねえええぇぇ♡♡」


 どれだけ強くたくましい正義感も、射精の瞬間は無防備だ。特に溜めに溜めたこともあって、陵善の思考は射精一色に染まり、ちんぽから白色をおもらしすることに歓喜している。

 険しかった顔は緩んで解放感に酔いしれており、自分の顔にザーメンを振りかけても嬉しそうなまま。晴田は圧倒的な射精を前に飲まれており、興奮を吐き出し終えたというのにいまだ硬さを保っていた。


「出る……まだ出る♡♡おほぅ♡やべえぇ……♡♡」


 勢いこそ弱まったが、射精は終わらない。サメが筋トレでかいた汗の匂いも、晴田のまとう香水の香りも、すべてサメのザーメン臭に上書きされていく。

 あまりに濃い匂いに鼻をやられた晴田は、雄としての格の違いを本能で感じている。同じ女性に中出ししたら、絶対に勝てない。そう思わせるほど強い雄性を手に入れたのだと思えば、ちんぽが静まるわけもない。

 猫は労りを見せるために、ザーメンまみれの筋肉ベッドの上に体を預け、射精に合わせて震える体を愛おしそうに撫でていた。


「お……おぉ……♡出したぁ……♡」


 やがて射精が治まるころには、精液まみれの巨体が大の字になってぐったりとしていた。

 のしかかっている晴田の体重など意にも返さず、荒い呼吸で余韻を噛みしめている。


「おおおぉおぉ♡すっげえ出したな……♡やばすぎる……二度と禁欲なんてごめんだぞ……♡」

「お疲れ様♡すごい射精だったよ♡」


 いつの間に取っていたのか、晴田はサイドテーブルにあったペットボトルのふたを開け、水を口に含んでいく。

 それから巨躯を登って顔まで近づくと、陵善が嫌そうな表情を作った。


「……もう終わったってのに」

「…………ん」

「はいはい、わかったよ。お前、チョコの時もそうだけど、こういうのが好きなんだな」


 応えてキスをすれば、晴田の口から水が流れ込む。喉を潤すとともに舌が差し込まれ、精液まみれの体をこすりつけ合ってディープが始まった。


「んぐ、ちゅぅ♡んっんんっ♡」

「んー♡んむぅ♡」


 硬く大きな体で晴田をがっちりと抑え、キスの応酬を続けていく。

 肩幅からまるで違うため、猫は身動きも獲れないが幸せそうに尻尾を揺らしていた。陵善のでかすぎる体にとって、晴田程度はすっぽりと包み込めてしまうのだ。


「……ぷはぁ。満足したか?」

「十分にね。よかったよ、陵善」

「そいつはどうも。ウケなんて初めてだったが……まあ、おれもよかったよ。禁欲は二度とごめんだけどな」

「それは澄香に言ってくれ。もっとも、君があいつの所に帰ることはもうないだろうけど」


 独占欲の強い晴田は、契約を結んだ以上陵善を手放す気はない。サメもそんなことは承知しているが、めんどくさそうにため息を吐くだけだった。

 金も権力もある猛者たちではあるが、それはそれとして、この兄弟の性根は叩き直してやりたい。陵善はいつか絶対に道場に通わせようと心に決めた。


「さて、休憩はこんなところでいいかな。それとも、もっと水を飲むかい?」

「まだ続けるつもりかよ」

「もちろん。せっかくの休みなんだ、君をもっと知りたい。今日という日を君の中に刻み付けるんだ」

「性欲強すぎだろ、早く落ち着かねえとスキャンダルで失脚するぞ?」

「なら、発散に付き合ってくれてもいいだろう、私の愛人?」

「はあ……」


 陵善は猫の手からペットボトルをかっさうと、そのまま水を一気に飲み干して空になった容器を放り投げた。


「てめえがそう言うなら付き合ってやるよ。おれの雇い主」


 溜まった性欲は放出したが、サメはまだまだいける。無尽蔵の体力と精力を持つ陵善は萎えないものを押し付けて牙をむいた。

 その凛々しさに猫はにんまりと微笑んで、同じく硬いままのものを差し出した。射精済みで精臭いそれは夜が長いことを示している。汗も香水もどうでもいいと、二人は体を押し付け合ってベッドに沈む。


 陵善の異動が発表されたのは、次の日のことだった。


****


「うし、今日の鍛錬はここまで! お前ら、帰ってしっかり休んどけよ!」

『はい! ありがとうございました!』


 晴田の愛人になってからしばらくして、陵善は再建された道場で師範として働いていた。

 綾金がバックアップについているとはいえ、それだけに甘えることを陵善は好まない。師範にふさわしい存在になろうと研鑽を積み、元からたくましかった肉体をさらに発展させている。

 道着の隙間から見える胸板はより厚くなった、というよりかは、見る人が見ればむっちりとしていることがわかるだろう。定期的に揉まれているせいで、雄を誘う色香を出すようになっていた。

 本人は気づいていないが、幾人かからはスケベな目でしっかりと見られている。凛々しい相貌に淫らなおっぱいが道着によって際立っていた。

 

「先生」門下の一人が恭しく前に出て。「居残って練習していっていいですか?」

「あー……悪い、今日は来客があるから道場は閉めちまうんだ。また今度でいいか?」

「わかりました。じゃあ今度、ご指導お願いします!」


 熱心な柔道青年は陵善によく懐いており、将来はプロになりたいと目を輝かせている。そんな青年を陵善はかわいがっており、にかっと笑って身をかがめ、視線を合わせて語り掛けた。


「頑張り屋だな。次の大会も楽しみだけど、休むのも大事だぞ」


 青年はまだ中学生くらいで、その顔にはまだあどけなさが色濃く残っている。背丈も陵善の方が高いため、かがむと道着が緩んでサメの豊満なおっぱいがあらわになった。


「……っ!」

「今が成長期なんだから、無理は禁物だ。よく食べてよく寝る。これも鍛錬だと思え」


 晴田の要望で手入れをかかしていない肌はきめ細かく、手触りがとてもなめらかだというのは、門下の全員が知っているところだ。今は汗が滴って輝いていて、雫が曲線にそって流れる光景を前に、青年は喉を鳴らした。

 同級生の誰よりもでかいおっぱいは雄とは思えないほどエロティックで、思春期の青年は見るたびに胸の高鳴りを覚えている。

 寝技の練習で押し付けられ、勃起してしまったこともある。その時は陵善も、そういうお年頃だよな、と笑って流してくれたが、はだけた隙間から目をそらすのに必死だった。


「ん、どうした? 顔が赤いぞ?」

「あ、いえ……別になんでもありません!」


 そして少年は知っていた。サメのデカパイには青年の指先くらい大きな乳首がついていることを。

 それはたまたまサメの着替えを見てしまった時だ。陵善は青年の掌よりずっと大きな胸部の先端に、ニップレスを付けているところだった。道着とこすれないようにという配慮だろう。だが、それを見た日から、青年の性癖はねじ曲がってしまった。

 青年の知る誰よりもたくましい肉体に、自分の母親のような乳首がついている。その日は狂ったようにオナニーをして、隠し持っていたおかずは全部捨てた。


「風邪ひく前に帰った方が良いぞ。お前は頑張りすぎるところがあるからな」

「ひゃ、ひゃい……!」


 好きな人にいい格好をしたい。それだけなのだが、陵善には全く伝わっていない。そもそも年が離れすぎているため、まったく気にしてもいないと言ったほうが正しい。

 そしてその無防備さで、青年をときめかせていた。


 あの日以来たくましいサメをおかずにしている青年は、勃起がばれないようにそそくさと踵を返す。陵善が使っていると教えてもらった石けん系の香水を、お小遣いを貯めて買ったのだ。それを嗅ぎながらしこるのが、青年の日課だった。


「で、では失礼します!」

「おう、またな」


 やがて無人になった道場を確認し、戸締りをしたサメは舌打ちをしながら客間へと歩き出す。

 それは門下には絶対見せない険しい顔で、これから誰が来るのを明白にしている。道場から続いている廊下の向こうでは、すでに我が物顔でスポンサーがお待ちだった。


「待たせたな」

「いいよ、今来たところさ……これってデートの定番じゃないかい?」

「言ってろ」


 白いスーツに人のよさそうな笑みを浮かべた黒猫の男。綾金 晴田が背後にSPを引き連れてソファに座っている。スポンサー権限と言い張って柔道の鍵どころか陵善の家の鍵まで所持しているため、止めることなどできやしなかった。

 

「さっきの子、君の教え子なのかい?」

「見てたのかよ。そうだよ、将来有望だ。絶対に手を出すなよ」

「将来有望、ねえ……どっちの意味なのか気になるところだね」

「どういう意味だよ」

「別に。ただ君はやっぱり罪深い男だと思っただけさ」

「訳のわかんねえことを……」


 晴田の意味深な言動に付き合う気などサメにはない。向かい合ったソファに腰を下ろすと、猫の後ろに控えている雄たちに視線をずらす。


「んで、今度鍛えてほしいのはこいつらか?」

「そう。体はいいんだけど、SPとしては初心者でね。うちでする研修と合わせて柔術を教えてあげてほしい」

「また見た目で選んだのかよ……ちゃんとお前を守ってくれるやつを選べって、何度も言ってるだろうが」

「それは別にちゃんと選んでるさ。ただ知ってるだろ? 正規雇用は澄香が担当なんだ」

「はいはい、つまり性処理用ってことだろ」

「違うよ、愛人候補ってこと。君の後輩さ」


 晴田と契約を結んでから、陵善は一般人の門下だけでなく綾金家のSPを教えている。

 護衛術に関しては、道場生まれであることや警官、綾金家でのSP時代の経験なども含め、サメの能力はかなり高い。それを活かして道場の主としてだけでなく、臨時講師として晴田の所に出張することもある。


 もちろんそれだけではなく、こうして晴田自身が足を運ぶこともあり、二人の関係は当所陵善が想定していたより良好だった。


「候補多すぎだろ。どんだけおれに面倒みさせるつもりだよ……あと、お前はこっちに来すぎだ」

「いいじゃないか。私の息抜きも兼ねてるんだ。それに、愛人としての成功例を見せると彼らもやる気を出してくれるしね」

「くそみてえな理由どうも。ならもう全員囲っちまえよ、その方がおれも楽できる」

「私はそこまで安い男じゃないよ。それに澄香のせいで離職率が高くてなかなか定着しないんだ」

「澄香なあ……痛い目見る前に何とかしてやれよ、兄だろ。凋羽のやつも辞めちまったし、いざって時に誰も守ってくれなくなるぞ」


 陵善が道場を継ぐために辞めてすぐ、後を追うように凋羽も辞めた。今は恥辱を耐え忍んで得たお金で、家族水入らずで暮らしているそうだ。

 それでも病み上がりで体力のない娘のためにいい運動がないかと相談されたことで、縁が続いている。道場を継ぐつもりだった陵善はトレーナーとしての勉強もしているため適任で、たまに遊びに行くこともあった。

 今はその経験を活かし、子どもや老人のための軽い運動コースもいいかもしれないなと、道場運営のために試行錯誤をしている。いつか綾金の力に頼らず自立することが、陵善のひそかな目標だった。


「あれが私の意見を聞くと思うかい? 我が弟ながら、反抗期が終わらなくて困ってしまうよ」

「いっそのこと兄弟喧嘩でもしちまえよ。腹割って話せば少しは仲良くなれるかもしれねえぞ」

「そんなことをしたら私が勝ってしまうじゃないか」

「そういうとこだろ! ったく、どっちも大人気ねえ。早くうちに入門させろよ。その腐った性根を叩き直してやる」

「あいにく私らも暇じゃないんでね。デートに誘ってくれるのは嬉しいけど、もう少しロマンチックなのがいいよ」


 お茶すら出されていないというのに、サメと話す晴田の声は弾んでいる。数いる愛人たちの中で、これほど気さくに接してくるのは陵善だけだ。その態度が綾金で丁寧に育てられた晴田の関心を引いているのだと、陵善は気づいていない。

 おかげで場所さえ離せばすぐに飽きるだろうという陵善の見立てとは裏腹に、晴田は結構な頻度で遊びに来るようになっていた。


「ああ、そういえば、ニュースは見たかい?」

「はあ……見たよ。選挙勝ったんだろ。こんなやつが選ばれるとは、終わってるよ。パワハラセクハラでしょっ引かれてくれねえもんか」

「外面だけはいいんだ。だから君が元同僚の警官に密告したところで、何の意味もないよ。それで、お祝いの品を持ってきた。ぜひ使ってくれ」

「わかってる。さすがに同僚を危険にさらしたりはしねえさ。でも、いつか寝首をかかれないように祈っとけよ。っていうか、なんで買ったやつが祝いを持ってくるんだよ……」


 訳の分からない状況に警戒しながら渡された箱を開けると、サメはものすごく顔をしかめた。

 そこにある質素な指輪をつかんで投げ出したい衝動が渦巻いているが、一応話を聞く姿勢を見せる。質素ではあるが、晴田が持ってきたものだ。絶対途方もなく高いに決まっている。そのもったいない精神が、かろうじてサメの堪忍袋をつないでいた。


「なんだよこれ……」

「最近愛人を作りすぎていてね。父上からもそろそろ結婚の話が出ているし、丁度良いから愛人の中でランクを作ることにしたんだ」

「何が丁度いいかもわかんねえし、結婚するなら愛人無くせよ」

「無理を言わないでくれ、私のメンタルは彼らで成り立っているというのに。陵善、君には第一夫人の称号とその証の指輪を送るよ」

「んなことだろうと思った。要は正室ってことだろ、戦国時代かよ。お前と結婚とか、死んでも御免だね」

「別に本当に籍を入れるわけじゃないさ。ただの称号、そう思ってくれ。君は以前、自分の胸に誓えるかと言ったが、私にとっての証がそれさ。契約を続けたいと思うのなら、薬指にはめてくれ」

「クソ野郎だな……言い訳するのめんどいだろうが……」

「真実を言えばいい。私は綾金 晴田の第一夫人だと」

「言えるわけねえだろ!」


 道場は軌道に乗りつつあるが、まだ自立できるほどではない。陵善がしぶしぶ指輪をはめれば、あの青年の失恋が確定する。独占欲の塊である晴田は、好みの雄を誰かにとられることを絶対に認めない。


「第十まで作ったのだけど、まだ埋まらなくてね。これからのいい出会いに期待しよう」

「そうだな、おれより好きな奴に出会えるよう祈ってるよ」

「第二には鴎林を据える予定だ。あれはなかなか器用に立ち回るから、ご褒美をあげようと思っていてね。愛人たちの管理を任せるつもりだ。澄香のところでくすぶるくらいなら、私がうまく使うよ」

「大奥じみてきたな……まあ、あいつならそれなりにうまくやるだろ。金さえもらえれば、どうでもいいみたいだしな」


 お金を貯めるのが好きな熊だ。澄香からの嫌がらせもなくなり、夫人の地位がもらえるとなれば、喜んで尻尾を振るだろう。

 本人も包茎で弄られることに快感を覚えているようで、治療するつもりは毛頭ないと言っていた。辞める際、凋羽と共に説得したが、首を縦に振らなかった。マゾの才能を開花させたことで、綾金家での仕事を天職だと思っている節がある。


「だいたい、なにが第一夫人だよ。これで婚期を逃したらお前のせいだからな」

「その時はうちに嫁げばいい。昔からある道場の主で、地元での評価も高い。地盤固めにちょうどいいし、政治家としてはありがたい話だよ」

「死んでも御免だって言っただろうが。おれを巻き込むな」

「いいじゃないか、身内になるんだから。君たち、先に戻っておいてくれ。私はこれから陵善と二人きりの用があるんだ」


 後ろに控えさせていた雄の顔見せは終わった。後は盛るだけだと、客間には猫とサメだけが残された。


 心底嫌そうな顔をするサメだが、晴田に手招きされると断れない。膝に座るよう命じられれば、筋肉の塊が猫の太ももにのしかかる。


「ああ♡いつ嗅いでもいい匂いだ♡」


 晴田は道着を緩めながら、酔ったようにつぶやいた。腹筋の溝に鼻面を押し付けながら、サメの汗を必死に肺へと流し込む。

 帯を放り投げられたサメはめんどくさそうに鼻息を漏らし、自身の胸部へと手を伸ばす。これからのことを考えておけば、自分で外したほうが片付けやすいと判断したからだ。


 盛り上がった巨乳の先端には内皮と同化した白いニップレスがついている。それを外せば、晴田の哺乳瓶として肥育されたでか乳首が露わになった。

 すでにそこは性器であり、サメが自分でしこる時にも弄っているくらいだ。道着とこすれるだけで感じてしまうため、普段はこうして保護をしている。


 そして道着の前面をバッと広げると、指導後の蒸れた臭気が猫へと噴きかかる。晴田はすぐに勃起して、高級スーツが汚れるのも構わず汗まみれの巨体に抱き着いた。


「んん……陵善、愛しているよ♡君の匂いも、味も、全部を愛している♡♡」

「耳にタコができるほど聞いてるよ。誰にでも同じことを言って、良く飽きねえもんだ」

「大丈夫だ、私はいつか法を変え、一夫多妻を認めさせる♡そうすれば、君も私の言葉が真実だとわかるだろう♡」

「そこまですんじゃねえよ。ったく、愛が多いと大変だな。もっと早く飽きてくれると思ったんだが……」

「ふふふ、私の愛を舐めてもらったら困るよ♡だから君も、私のことはハルと気軽に呼んでくれ♡」

「はいはい、晴田は相変わらずだな」


 すでに何度もしたやり取りで、サメも慣れ切ってしまっている。独占欲と愛欲の化身である晴田にとって、甘えさせてくれる雄は多ければ多いほど良い。


 そうして今日もまた、サメは道場の師範から金持ちの愛人へと変わる。そうすることで、彼はずっと道場を守り続けていた。そのために自分の体など惜しくはない。

 誰にも言えない秘密を抱えた陵善は、それでも自分の夢のために。


 晴田の口に自分からキスを落とすのだった。



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POSTEDOct 23, 2024
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