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誰が淫魔を呼んだのか

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「貴様、悪魔だな。こんなところで何をしている?」


 剣を喉元に突きつけられ、おれは震えていた。

 月夜に照らされた街路は人気が無く、助けなんて絶対来ないことが明白だ。っていうかこの場合、成敗されるのがおれなので人はいない方がいいとは思うけど。誰か助けてほしいという感情は止められないんだ。


 黒い毛皮に白い縞模様を持つ黒虎のおれは図体こそでかいけど、完全な温室育ち。魔界を出たのも初めてだし、戦いなんて訓練以外したことない。平民っぽい粗末な格好でごまかしてたのに、すぐばれちゃうしさあ。どうしようこの状況。


「え、えっと、悪魔なのはそうなんだけど、これには事情があってぇ……」


 しどろもどろになって目の前の犬を見やる。全身金色の毛が綺麗に整えられていて、垂れた耳が温和なかわいらしさを演出している。

 のだけど、こちらに向ける目があまりに冷たい。瞳が青いだけじゃなくて視線が冷たい。

 騎士服に包まれた体は大きく、筋肉の塊のようだ。人のことは言えないけど、あっちは完全に実戦で鍛えたものだから勝てる気がしない。


「そうか、どんな事情があるかは知らんが、死ね」

「何してるか聞いたのはそっちだよね?! なんで即殺するの?!」

「答える気がなさそうだからな。殺したほうが早い」

「早くないよ! 大体おれみたいな悪魔は契約で動くんだから、召喚者が存在してるってことだよ! ねえ気にならない? おれはすっごく気になるな!」

「……お前、命乞いにしてはあまりに稚拙すぎないか?」

「しょうがないだろ! 魔界から出たの初めてなんだから! 授業で命乞いなんてやらなかったの!」

「道理で尾行もへたくそなわけだ」


 呆れの視線が刺さるけど、命には代えられない。だけど、殺気が萎えることはなく、いつでも殺せるぞと訴えている。

 そして尾行はバレバレだったと。だからこんなところまで誘い込まれたのか。しかも犬しかいないことから、一人でもいいって完全に舐められてる。そんなに雑な尾行だったんだ……ショック……。


「じゃあ聞くが、契約者はどこだ」

「……ひょっとして、君だったりしない?」

「死ね」


 一考の余地なく即殺は無情が過ぎるって!

 剣筋は素早く、命を刈り取るものとは思えないほど軌跡が綺麗だった。戦闘訓練は受けていたにもかかわらず全く反応できない速度。さすがこの国一番の騎士……。


 だけど、犬の剣はおれに当たる直前で止まる。

 ああよかった。授業で習った通りだった。駄目だったらどうしようと思ってびくびくしてしまった。

 これならもっと余裕を持った振る舞いでもいけたな。今度から気を付けよう。


「なにっ……結界か? いや、この感覚は肉体の支配権を奪われたのか? どちらにしても小癪な……」

「えっと、どちらでもなくって、ただこれは契約者は悪魔に危害を加えられないっていう契約なだけだよ。悪魔を呼び出して殺す人もいるからね、対策のために魔法に盛り込まれたんだ」

「俺が貴様といつ契約した!」

「わかんないよ! おれだってそれで困ってるんだから! けど契約者と繋がるパスは君を指してる! 君は間違いなくおれと契約してるの!」


 どういうことだとにらみを利かせる犬だけど、おれだって聞きたい。


「……おれが呼ばれた時には契約者はいなかった。だからパスを頼りに探してるんだ。君はそのうちの一人だよ」

「その口ぶりだと、契約者が複数いることになるな」

「そうなんだよ! 契約者が君を含めて三人もいる! こんなの授業で聞かなかったからおれもどうしていいのかわかんないんだよーー!」


 初めての世界なのに契約者がいないんだ。こうして平民の恰好をして尾行するだけでも、すごく大変だったんだからね。しかもみんなおれより小さいから悪目立ちするし……。この世界の人たち、栄養が足りてないんじゃないかな。


 でもようやく交流できた契約者の一人だ。おれはなんとかして、この犬の願いを叶えないといけない。


 おれはできるだけ悪魔らしく、余裕ぶって微笑んで、犬に誘いをかける。散々うろたえた今、頑張っても無理だとは思うけど、やっぱり物事は形から入るのが大事だよ。


「ねえ君、おれに願いをかけてみない? 叶えられる願いには限りがあるけど頑張るよ。契約さえ果たせば、おれは帰れるからさ」


 悪魔との契約は願いを叶える権利を得るということだ。対価さえあれば、おれがどんな願いも叶えてあげる。

 もちろん無理なものは無理だけど。


「ふむ、金貨一枚で叶えられる願いはなんだ?」

「露骨に退散させようとしないで!」即座に余裕の仮面は剥がれた。「何度も言うけど、おれにとっては初めての召喚なの! 父さんも母さんも期待してるの! もっといい対価を持って帰りたいんだよ!」

「知らん、死ね」

「待って待って! 君、魂をかけてでも叶えたい願いってない? 君の魂はすごく価値がありそうだから、持って帰ったらみんな褒めてくれると思うんだよね。後生大事にするからさー!」

「……悪魔とはもっとあくどいものだと思っていた。手練手管で騙して魂を取るとかしないのか」

「そういう悪魔もいるけれど、おれは自分が悪魔であることに誇りを持っている派なの。人を騙して楽して対価を稼ぐなんて、そんなの楽しくないだろ! やっぱりいい働きを続けていけば、継続的に召喚されると思うんだよね。悪魔も契約なんだから、イメージが大事ってわけ」

「……」


 おれがどれだけごねても、殺気は消えない。完全に疑ったままだ。

 まあ悪魔相手なんだからそれでもいいとは思うけど、話は完全に平行線になっちゃった。


「ううぅ……駄目だこの人……取り付く島もない。他の契約者の所に行った方が良さそうだな……」

「待て。まさかお前、帰れると思ってるのか?」

「……見逃してくれたりは? ほら、おれってまだ取引内容もわからない悪魔だから、言っちゃえば無罪なんだよ。しかも初召喚だから完璧に無罪。だから殺さないで!」


 契約によって危害は加えられないけど、それはこの犬に限った話で。増援を呼ばれると普通に死ぬ。初めての召喚が一番危ないって授業でも言ってたから、なんとか逃げないと。


 こうなったら魔法で逃げるしかない。これでもおれは悪魔だ。魔法に関してはそこらの人より断然熟達している自信がある。それに学校でも優等生だった。

 見たところこの犬はそこまで魔法に精通していないみたいだし、簡単に逃げられるだろ。


「悪いけど、逃げさせてもらうよ。でも君も契約者なんだから、何か願いがあればおれに連絡してね。初回の契約はサービスしちゃうよ」

「……」


 うわ、すっごい殺気。泣いちゃいそう。黙ってれば垂れ耳で可愛らしいのに、表情が全く可愛くない! 悪魔より悪魔みたいな顔してるな。もっと人生楽しんだ方がいいよ。

 いつ殺されるか分かったものじゃないので、ここは三十六計逃げるに如かず。すたこらさっさと踵を返したおれだけど、その背中に犬から声がかかった。


「待て」

「ん、願い事する気になった?」

「ああ。おまえは自分の契約者の場所がわかるのだろう?」

「それはね。傷害不可の契約もあるし、なによりおれは契約者と繋がっているバスがわかるから」

「つまりそいつが俺を使って勝手に契約を結んだわけだ」

「そうなるかも。おれも誰かはわかってないんだけどね。契約者が誰か知りたいってこと?」

「そうだ。最近誰の仕業か知らないが、悪魔召喚の知識が広まって風紀が乱れている。悪魔と契約するのは犯罪だ。俺はこの王都を守る騎士として、犯罪者を捕まえ、悪魔を根絶やしにする必要がある」

「犯罪~~? おかしいよ! 悪魔はちゃんと契約を守ってるだけなのに! いわば道具みたいなものだよ! 悪いのは間違った取引を結んだ人でありおれたちじゃない! 風評被害だ!」

「黙れ、殺すぞ。いいから対価を言え」

「暴君だ……悪魔にも基本的人権は保障されてしかるべきなのに……でも自分が願う分にはいいんだ……」

「契約はもう結ばれているのだろう? ならしょうがないと割り切って、使えるものは使うべきだ」

「ごもっとも……」


 うーん、でも取引を結べそうだしいいかな。簡単すぎる願いだから対価もしょぼいけど、まあ初召喚ならこんなものか。


「その願いだと……セックス一回分かなあ」

「は?」

「これでもだいぶ破格なんだよ。君は魔力も魂も優秀だから、一回ですんでるんだ。おれは公平な悪魔だからね、感謝してほしいくらいだ」

「……ふざけてるのかお前? 死ぬか?」

「なんでだよっ! おれは願いを聞いたうえで真っ当な対価を要求しただけだろ!」


 なんて言っても鋭い眼光が返ってくるだけ。いい加減眉間にしわができるよ。

 確かに悪魔に詳しくない人からすると、突拍子もなかったかもしれない。相手は契約者だ、おれは悪魔として礼を尽くす義務がある。


 おれはでかい黒虎の体を浮遊させて、月を背景に不敵な笑みを浮かべ犬を見下ろした。ふふふ、召喚されたらやってみたかった行動その2、悪魔らしい態度で浮遊だ。


「雄の精液は非浸食的に魂を取る方法の中で一番効率がいいんだ。だからおれは継続的な契約を勝ち取るためにも、契約者の寿命をできるだけ傷つけない方法で魂を取ることを研究している。ちなみに学位もこれで取った」

「そんな情報はいらん。その方法が、性行為だと?」

「そういうこと! まあ簡単に言えば精液をもらえればいいから、オナニーでもいいよ。君の優秀な魂なら、射精一回分で結構叶えられるんじゃないかな」

「頭が痛くなってきたな。だが俺の羞恥程度で叶えられるなら、安いものか……」

「ってことは……!」

「わかった、払おう」

「やったねー!」


 テンション上がりすぎて空中でくるくる回ってしまった。悪魔らしい威厳がまるでないから気を付けないといけないのだけど、今は初の対価獲得に興奮が冷めないんだ。

 なんてったってこんな優秀な魂と取引を結べたんだ。魔界の両親も鼻が高いに決まってる。もらえるのは魂すべてではないけれど、その価値はかなりのものだと思う。人で言うなら初任給すごくたくさんもらえた感じ。最高じゃない?


 おれは感極まって犬に抱き着こうとしたけれど、問答無用で殴られてしまった。


「ふっごぉ!」

「いいから、名前を言え」

「ええ、精液は……?」

「いいから」

「はい……」


 逆らえる雰囲気ではない。悪魔としての本能がそう叫んでいる。ここはおとなしく、後払いを認めよう。


 おれは契約者たちを尾行して得た情報から名前も大体把握している。この犬だけを見てたわけじゃないんだ。今回はばれたけど、魔法を使ってれば問題にはならなかった。おれがそろそろ契約者と接触しようとしたから、ばれちゃったって感じ。


「おれの契約者は、まずは君、王国騎士団長ユランデータ=オリーブ」

「不本意ながらな」

「それに近衛騎士団長タラタネラ=クィネル」

「……まさかあいつが? いや俺と同じで誰かの策略という可能性もあるな」

「あと、王太子スウェンガルだね」


 おれの上げた三人の名前を聞いた犬が、無言で剣を振りかぶったんだけどなに!

 そもそも飛んでるおれに届かないでしょ、と言いたいところだけど、ユランは斬撃くらい飛ばせる。魔力に似たオーラを使える天才だからさ。身体能力もおれより高いかもしれない。

 流石にオーラマスターの剣戟を受けるのは無理! そもそもおれは戦闘型の悪魔じゃないし! この図体は親譲りなだけ!


「その言葉に嘘はないな?」

「ないないないない! 絶対ない! だからおれは公平な悪魔だって言ってるでしょ! 契約者には長生きしてもらって、たくさん対価を稼ぎたいんだ! だから安心と信頼がモットー! 契約はちゃんと守るよ!」


 まあ国の中枢にいる三人が悪魔と契約を結んでいるなんて、スキャンダル以外のなにものでもないし、怒るのはわかるよ。けどその矛先は絶対おれじゃなくない?

 これ以上は危険だ。魂を少しもらえるのだから、とっとと次に行ったほうがいい。そもそも契約者が三人っていうイレギュラーな状況で長居する必要なんてないんだ。


「だから君も、ちゃんと約束を守ってよ」

「わかっているが、こんなところでするのは触りがある。家に付いてこい」

「え、ここでサクッと抜いちゃってよ。何なら口でしようか?」

「悪魔に口淫など、誰が許すか。それに候補の二人があいつらなら、お前の詳しい状況を聞きたい。事と次第によっては国が揺らぐからな」

「しょうがないなあ。アフターサービスってことにしとくよ。だから今後もごひいきに!」


 なんて言いながら、おれは大事なことに気が付いた。慌てて魔法を発動し、平民の服から悪魔らしい黒スーツへと変える。いつまでもみすぼらしい格好じゃ、威厳がないからさ。

 今のおれは黒虎なのは変わりないけれど、悪魔らしい角と尻尾がちゃんと生えている。そして広い肩幅に見合った立派なスーツに加えて、赤い目が爛々と輝いていた。誰がどう見ても悪魔、怖い怖い魔界の重鎮だ。


「何のつもりだ?」

「自己紹介がまだだったんだ、最初くらいは格好つけないとね。おっほん」


 召喚されたらやってみたかった行動その3、悪魔らしい自己紹介。おれは空中で大仰な一礼をして、不敵に笑う。鏡の前で何度も練習したから、仕草は完璧に決まった。

 一回目は誰もいない部屋で一人やってからノーカンだ。ちゃんと相手を見てこそ、自己紹介は意味を成すのだから。


「我が名はアスモ。精気を対価に願いを叶える悪魔なり。我を呼び出した召喚者よ、我は安心安全な契約をモットーに末永いお付き合いを求める所存だ。日常の小さな困りごとから、未来を見据えるお手伝いまで、このアスモを頼るがよい」

「後半完全にセールストークだろ」

「やっぱりお付き合いは第一印象が大事だから……怖がらせるのはよくないかなって……」

「はあ。お前と話していると緊張しているのが馬鹿らしくなる」

「それって親しみやすいってことかな!」

「なんだその無駄なポジティブは。もういい、早くついてこい」

「はーい」


 初任給に頭がいっぱいなおれは浮足立ってユランに付いていく。夜の町を歩く黒い虎と金の犬は誰が見ても堅気には見えないだろうな。ユランの顔が怖すぎる。絶対もっと笑ったほうが人生楽しいって。

 できればもっと絞れないかなー。こんないい魂そうそうお目にかかれないしさ。セックスでもできればもっと仲良くなれそうなんだけど。完全に人肌を知らない顔してるよこいつ。アフターサービスってことで童貞くらいもらってもいいかもね。おれも処女童貞だけど知識と練習は欠かしてないから多分大丈夫!


 折角の顧客一号だ。絞れるだけ絞るぞー!


****


 おれがこの世界に呼ばれた時の場所は、人気のない倉庫だった。


「ふははははっ! 契約者よ、よくぞ我を呼び寄せた。我が名はアスモ……あれぇ?」


 意気揚々と魔法陣から現れて悪魔らしい自己紹介を決めていたのに、目の前は無人。普通こういうのって契約者がいるもんじゃないの?

 だからおれは倉庫内を一生懸命探ったけど、人っ子一人見つからない。ただ朽ちた物がそこら中に散らばっているだけで、生命の痕跡なんてみじんもなかった。


 魔法陣を照らすろうそくの明かりが揺らめく中、おれは途方に暮れてしまう。


「えぇ……悪魔を呼んでおいていないってことあるぅ?」


 悪魔召喚は結構大変なのに、その成果すら見届けないなんて聞いたことない。大体、悪魔を呼ぶ人は多かれ少なかれ困りごとを抱えているはずだから、藁にも縋る思いで助けを求めてるんじゃないのかな。


「でもまあ、パスはつながってるし、これを頼りに探せば……んえええぇ?! 三人? なにそれ、どういう魔法で呼び出したの?!」


 聞いたことない召喚方法だ。おれはすぐさま這いつくばって魔法陣を調べることにした。召喚魔法の発達は悪魔にとって不利な契約を結ばされる可能性もあるんだから、調べるに越したことはない。

 授業でも魔法陣の制約や解析は必須科目だ。それだけ悪魔を唯一無防備にできる召喚魔法への理解は大事ってこと。


「ふむ、ふむ……契約者が三人になるように改良されてる……早く気づいてれば召喚に応じなかったのに……まさかこっちの世界でパスが分岐してるなんて思わなかった。魔界からじゃわからないように隠ぺいされてるんだね……でも、ここまでの腕前なのになんでいないんだろう? ……ちょっと待って?!」


 魔法陣を調べていくと、とんでもないことが発覚した。

 この契約、おれが魔界に帰るためには契約者三人との取引実績が必要になってる! なにこれ、こんな魔法初めて見た!


 あまりに悪辣で、完全に人側が有利になる契約だ。だって自分に有利にならないなら取引しないって言えばいいだけなんだから。

 こんなのが流行れば魔界じゃ大騒ぎになるはずだから、まだそこまで周知されていないはずだ。おれが被害者一号の可能性もある。


「うーん、しかもこんな改変を魔界側から隠してたのか、凄腕すぎる……ひとまず、魔界の両親に魔法陣の写しを送っておこう。連絡は取れるから現状を説明して……帰りは遅くなるから晩御飯はいらないですっと……」


 初召喚ってことで、ごちそうを用意してくれてたのにな……。ごめんねお母さん。でもその代わり、絶対いい対価を手に入れて戻るからね。


 これからの苦難を思って肩を落としていたおれは、魔法陣の近くに落ちているハンカチに気が付いた。それは朽ちかけているが、血に濡れていることから触媒であることは明白だった。


「なるほど、契約者とのパスを繋げる時に血を捧げたのか、けどこれには三人分の血がついているからパスも三つと……まあいいんだけど、どうせ願いを叶えるのにも対価がいるし。三人分の対価がもらえると思えば……」


 このハンカチを調査すれば契約者がわかるかもしれないけど、儀式が終わったことで役目を終えてボロボロになっていて、後は勝手に灰になるだけだ。それにおれにはパスがあるから、回収は別にいいかな。

 

「ってことは、三人が共謀して魔力を集めておれを呼んだってこと? でもそれなら誰もいないのはおかしくない? せめて一人はいてくれないと困るんだけど……なんかもう前途多難だよ……」


 けど、魔界で待ってる両親にいい報告がしたい。それに魔界に帰るためにも、この世界を調べて契約者を探そう。


「それにこの血……ずいぶんと良い物だね」


 ハンカチから漂う血はすべて極上だ。もう痕跡も薄くなっているのに、それらから芬々と漂う魂の残り香が素晴らしいというのがわかるんだ。きっと契約者たちはすんごくいい魂を持っているに違いない。


「誰がおれを呼んだのか、うーん、気になる! せっかくだし観光気分で探索しよーっと!」


 外に出るんだから角とかは隠したほうがいいかな。まずは使い魔を飛ばして服装を確認して、それっぽいものを仕立てないと。


「美味しいものあるといいな。この世界はどうなってるんだろう。あ、お金稼がないと。日雇いでいい仕事何かないかな」


 魔法でお金を出してもいいんだけど、この世界の労働を試すのも悪くない。溶け込むには働くのが一番。この世界の人の欲望を調べて、適切な契約プランを提示できれば継続的な召喚も夢じゃない。


 それに契約者について調べるためにも、仮の身分はあったほうがいいしね。魔法で何でも解決してたら、他の悪魔みたいに傲慢になってしまいそうだ。


「……ってわけで、君に会ったのが呼ばれてから一か月後だね」

「悠長に構えすぎだろ。もうちょっと危機感を持て」


 思い出話という事情聴取が終わって、ユランはあきれ顔でため息を吐いた。

 今おれはユランの家、オリーブ伯爵家にお邪魔している。貴族ではあるけれど騎士の家系であるオリーブ家は、華美というよりかは質素に格調高くまとまっている。ユランの部屋も余計なものがあまりない、言ってしまえば寂しい部屋って感じ。


「ちょっと楽しくなっちゃって。なにせ召喚されたら願いを叶えてすぐ帰るか、契約者周辺に固定されるのが常だから、こうして自由な時間があるとは思わなくてね。ついつい遊んでしまった」

「家で家族が待ってるんじゃなかったのか」

「まあ契約が長引くことなんて往々にしてあることだから、そんなに気にしないよ。おれらの寿命から考えれば誤差だからさ」


 おれは質の良いソファに横たわって満喫しながら、尻尾を揺らして会話に興じている。きっちり整えた黒スーツに似合わない姿勢だけど、こっちの方が楽だからしょうがない。

 平民として暮らしていたから、この部屋の豪華さが嬉しい。こういう小さな幸せをありがたがれるのも、ちゃんと働いていたからだ。


「一か月も平民として働いていたのか? 悪魔のお前が?」


 向かいのソファに座っているユランが胡散臭い話だと眉をしかめるけど、本当なんだからしょうがない。

 金色の犬は部屋着へと変わっており、薄くなった服装のせいで筋肉の圧がやばいことになっている。たまに目を瞑って何かを考えているときがあるけど、普通に可愛い顔をしている。ふかふかの毛皮に垂れ耳、そしてずんぐりとしたマッチョな体。うん、本当に目を開いてなければ愛嬌のあるイケメンって感じでもてそうなのにね。


「いい魂がないか調べるためにも、人にまぎれるのは悪くない案だと思わない? それに日雇いでいろんな職を転々とするのも楽しかったよ。同じ仕事は三日で飽きたし、仕事自体にも飽きたから君に接触したんだけど」

「俺の知ってる悪魔とはあまりにも違うな……変わったやつだ」

「よく言われる。天才っていうのは得てしてそう言うものなんだよ」

「馬鹿と紙一重だとも言うな」


 しれっと言葉でぶん殴ってくるの性格悪いよ。まあ剣で刺されるよりましだけど。

 それでも彼は騎士の中の騎士と名高いユランデータ。その優先事項はいつだって揺らがない。


「民にまぎれていたのならわかっているはずだ。彼らは己が本分をずっと全うしている、そして俺はそんな彼らを守ることが本分だ。だからその倉庫がどこにあるのか教えろ。俺が調査する」

「なんにも出てこないと思うけどね。自分でも調べたけど、既に使われていない場所で持ち主から契約者を探すのも無理だったし」

「念のためだ。それに魔法陣があるのなら消しておかねばなるまい」

「それはおれが消しといたよ。あんなのが流行ったら悪魔にとっていいことないからね。でも場所を知りたいならそれもおまけで教えてあげるよ。だって、こーんなにたくさんザーメンをもらえたんだからね」


 おれが指を振ると、テーブルに置いてある丸まった布がこちらに浮遊してくる。

 それを開いていけば、中にはユランの精液がべったりと付着しており、すさまじい雄臭さを放っていた。どれだけむすっとした強面でも、やっぱり出すものは出すんだ。しかもすごく大量に。結構むっつりなんだね。


「やめろ、開くな、殺すぞ」

「いいじゃないか。雄として強いってことなんだから、誇るべきだよ」

「殺す……」


 約束を果たすために、ユランは一人オナってくれた。手伝いを申し出たけど、射殺さんばかりの圧だったから大人しく諦めた。人にやってもらったほうが絶対多く出ると思うんだけど。まあ一人でこんなに出せるくらいだから、杞憂だったかな。


 おれは犬のザーメンに魔法をかけて、中の魂を保護しておく。ユラン本体に比べて微量すぎるから、放っておくとすぐ霧散しちゃうんだ。あとはビンに移し替えて保存してっと。


「さて、悪魔としての仕事はこれでおしまい。じゃあ帰ろうかな。後二人にも会わないといけないからね」


 いい魂のかけらも手に入ったし、後二人との取引がしょぼくてもこれで胸を張って報告できる。


「……待て」


 これからもご贔屓にと挨拶を投げようとしたおれよりも先に、ユランの方が待ったをかける。意外な言葉だったので、ちょっとびっくりして尻尾を伸ばしてしまった。


「どうしたの、まだ何か聞きたい事でもあった?」

「お前は精液さえ渡せば願いをかなえてくれるのか?」

「ものによるけどね。さすがに大それた願いなら魂本体をもらうよ。公平ってことはウィンウィンってことだから、そこは間違えちゃいけない」

「わかっている。俺とて悪魔相手だからといって無法を働くつもりはない」

「殺す気満々のくせに……?」

「悪魔を殺すのは我が国の法律的に何の問題もないからな」

「悪魔の労働環境最悪じゃん……」


 こういうのも悪魔が好き勝手してきたせいだ。先祖の罪を若者があがなうなんて不公平だと思うな。まあ大体の悪魔は今も変わってないからしょうがないんだけど。

 だけどそんな悪魔に確認を投げるくらいだ、まだなにか叶えたい願いがあるのだろう。おれとしては稼げるなら全然おっけーなので、話を聞く気満々だ。

 

「俺はお前を呼んだ奴を探したい」

「後の二人の中にいるんじゃないの?」

「あの二人がそんなことするわけないだろう」


 その言葉には絶対の自信があった。そして、少しの付き合いだけど、ユランがこうなったら絶対意見を変えなさそうだという確信があった。

 だからおれは特に異を唱えることなく、無言で続きを促すことにした。


「先ほども言ったが、最近巷では悪魔召喚が乱立しており、騎士団でも問題に上がっている案件だ。召喚者を探すことは召喚方法を流布しているやつを捕まえることにつながるかもしれん、協力しろ」

「悪魔の手を借りてもいいんだ」

「俺は悪魔に詳しくないからな。本来専門であるはずの神殿は今回の件で地位を上げようと協力を出し渋っているし、捜査の進捗は芳しくない」

「なるほど、それでおれという優秀で便利でエッチな悪魔に協力を要請したいってことか」

「お前の自己評価はどうでもいいが、おおむねそんなところだ。その場合対価はどうなる?」

「そうだね……さすがにどんな仕事になるのかわからないから、即答はできないな。悪魔召喚の方法を流してるってことは、本人が悪魔に詳しいし、なんだったら悪魔と戦いになるかもでしょ。おれの見立てだと、結構大変だよ」

「まあそうだろうな。騎士団でも行方をつかめていないんだ。難しい仕事なのは承知している」


 何度も言うが、おれは戦いが得意ではない。完全学者タイプの悪魔だから。

 だけどこれを成功させれば報酬がたくさんもらえるのは間違いない。ユランのザーメンをこれから数年分ももらえたなら、いい魂を作る糧になる。

 こんないい魂の持ち主にはなかなか会えないことを加味すれば、悪くない条件かな。その場合どういう取引がいいかな……。


 と、おれが損得勘定でうなっていると、ユランは視線を上げておれの肩を超えて、扉の方へと向けた。


「俺一人の精液では足りないというのなら、もう一人呼ぼう。そういうわけだタラタネラ。お前も手伝え」

「はあ、深夜に急に呼び出されて何事かと思ったら、まさか悪魔と取引しようだなんて……私以外に知られたら極刑だぞ」

「お前なら問題ないと踏んだ。そして、お前も当事者だ」

「どういう意味だよ……」

 

 やってきたのはリカオンの大男だ。広い肩幅に盛り上がった筋肉が乗っていて、全体の厚みもかなりのもの。最低限の支度だけしてきたようで、ユランとは違う色をした騎士服が窮屈そうに膨らんでいる。特に胸がすごいことになってた。

 さすが近衛騎士団の隊長。いつ見ても肉体の圧がすごい。


 だけどユランと同じ犬ではあるが、人当たりの良さは全然違う。やれやれと言った表情一つとっても、どこか親しみやすさがある。正直見習ってほしい。やっぱり近衛にするなら愛想がいい方が向いてるよ。


 ……でもあれ、なんでタラタネラがここに。


「うえええぇ! いつから!」


 ユランの精液が嬉しくて、完全に油断してた。パスをたどれば近くに来てることなんて、すぐに分かったのに!


「俺が対価を採取する前に、呼びつけておいた。どうせこいつにも関係ある話だからな」

「今すぐ来いと言われただけで、まだあまり話を理解できていないんだが……説明してくれるか?」

「まずはこいつを殴ってみろ。そうすればわかる」

「なんでおれ?!」


 言わんとしてることはわかるけど、初手暴力は知的生命体にあるまじき選択なんだよ!

 案の定タラタネラは得心がいってない顔をしているけれど、しぶしぶと拳を振り上げてから、勢いよく殴ってきた。


 そして当然止まる。契約があるからね。

 でも思ったより遠慮ない勢いだったな。契約が無かったら頭蓋骨陥没してたかも。ここの人たち悪魔に厳しすぎない? 泣くよ?


「止まった……? どういうことだ?」

「お前もこいつと契約をしているということだ。どうやら契約者は悪魔を傷つけられないらしい」

「私が?! いったいいつ?!」

「知らん。俺もいつの間にか契約を結ばされていた。民に知られたら大混乱は免れん。秘密裏に処理するのを手伝え」

「そういうことなら……確かにこれは直接来いとしか言えないな。詳しい話を教えてくれ」

 

 それからソファに腰かけたタラタネラも交えて、今後の計画を煮詰めることにしたようだ。タラタネラもいい魂を持ってるから、おれは内心小躍りしてるし尻尾は揺れてる。

 リカオンは神妙な顔をして話を聞いた後、重いため息を吐いた。国家中枢が悪魔と関わってることがばれたら、大変そうだからね。


「はあ……話は分かった。君、アスモと言ったね。本当に精液で願いを叶えてくれるのかい?」

「出来る範囲ならね。タラタネラの魂もユランと同等に質がいいから、射精回数もまけられるよ。二人とも契約者だから対価の折半は可能だし、だいぶ楽になるんじゃないかな」

「というわけだ」金色の犬が冷たい声で割り入って。「早急な解決が望まれる以上、射精回数を惜しむ必要はないと思っている。適当な女を買うつもりだったならやめておけ」

「そんなことしてないさ! それに、私も君も婚約者がいないんだ、それこそ余計なお世話だろうが!」

「冗談だ。お前がそんなことをしてるとは思っていない」

「君の冗談はいつもわかりにくいんだよ……」


 あ、ユランってコミュ障なんだ。悪魔以外に対してもこれなら婚約とか無理でしょ。


「お前、何か失礼なこと考えてるな?」

「いや……さすがに友人っぽい人にその冗談はなくない? 悪魔もびっくりだよ」

「おお、ユランに真っ向からそう言ってくれる人がいるなんて助かるよ。彼は部下からも怖がられているから、自分の冗談が下手なのを理解できていなくてね」

「お前はどっちの味方だ!」


 金色が牙をむいて吠えるけど、さすがに今回はおれに分があるでしょ。ユランもそれを悟っているのか、うなるだけで特に言及はしてこなかった。


 こげ茶のリカオンの方はしてやったりと嬉しそうだ。この様子だと、結構冗談にやられてたんだろうな、かわいそうに。


「まあでも、冗談はさておき、ユランの国に対する忠誠心を疑ってるわけじゃないさ。私も巻き込まれている以上、その話には乗るよ」

「助かる。俺一人で動くにも限度があるからな」

「いいや、助かったのはこっちさ。王太子様も名前が挙がっているのなら、近衛の職務でもある。あの方を巻き込んだ輩にはそれ相応の報いを受けてもらわないとね」


 にこやかに言っているけど怒気がすんごい。さっきのパンチもそうだったけど、やる時は徹底的にやるタイプだな。まあ今回は味方だから関係ないけどね。


 ユランは仏頂面のまま尻尾を一振り。さっきの下手な冗談から考えて、心強い味方を手に入れられたことで上機嫌らしい。わかりづら過ぎる。


「それで今はアスモと取引をするための対価を相談していた。この事件を解決するのに必要な対価だ」

「なるほどね。それなら私も惜しまないよ。悪魔と取引するのは気が引けるが……どうやらそうも言ってられないようだしね」


 よかった話はまとまった。これはがっぽり稼げそうなチャンスだ。

 おれは頭をフル回転させて、どういう取引をしようか考える。


「うーん、今回の取引は特定の物や知識と交換というよりかは、労働力との交換だよね。正直なにが起こるかわからない以上、その都度対価を要求するのは非効率的だ。だから……」


 おれは魔法を起動させて、二人のちんぽを包みこむ。ついでに形もわかってしまったけど、それは心の中だけにとどめておこう。二人共立派だったな……。


 性器に一瞬だけぞわりとした感覚が走るせいで、二人の毛皮が一気にぶわっと広がった。ユランから睨みつけられたので、早く説明してしまおう。


「日給制にしようと思うんだ。これで君らが射精するたびに、おれに精液が届くようになった。婚約者もいないなら子作りもしないだろうし、いいよね。二人合わせて一日最低五回は射精してもらうことを条件に取引しよう」

「う……魔法を使うなら先言え。危うく殺しかけたぞ」

「ごめんごめん。でもこれなら効率的だし、おれを契約で縛ることもできるから裏切る心配もないでしょ? もしおれが裏切ったなら取引もできない。そうなると股間の魔法も解かないといけないから、わかりやすくなるよ」

「それはそうだね」タラタネラが感心しながら。「しかし君……悪魔のわりに素直だね。まさか裏切りの可能性を自分でつぶすとは思わなかった」

「まあおれは公平な取引がモットーな悪魔だからね。契約者からの信頼を勝ち取るのも、仕事の内だと思ってる。相手にも公平だと思ってもらうためには、信頼がないと成り立たない」

「そこらの商人より真っ当で驚いてるよ……でも一日五回は多くないかい?」

「悪魔を四六時中使役できる権利が射精五回分って、どう考えても破格じゃない? これでも結構割引してるつもりだよ。君らの魂の質がいいことを踏まえて、さらに長期で収益が見込めること前提の取引だ。これが他の人らなら、さすがのおれもここまで自分を安売りしないって」

「そう言われたら、ぐうの音も出ないな……」

 

 そして射精回数を把握するため、二人のちんぽの根元には射精するたびに共通で線が引かれるようになっている。五芒星が完成すれば今日のノルマおしまいってこと。

 それを説明すると二人がこっそりズボンを伸ばして中を確認し始めた。さっきユランが射精したことで一本だけ線ができているはずだ。


「でも、いくら二人合わせても毎日射精するのは大変だよね。おかずの問題もあるし。そこで、おれは契約者とのスムーズな取引のために、性処理具の貸し出しを無料で行っているよ!」


 魔界ワームの口を参考に作ったオナホ、ちんぽを模した張り型や前立腺を押し付けるためのエネマグラ、振動する卵型の装置まで、魂を濃くするための道具は全部おれのお手製。契約者のことをこんなに考えている悪魔なんて、おれくらいしかいないかもしれない。

 だけど、胸を張るおれに返ってきたのは、二人のげんなりとした視線だけだった。


「あれ、お気に召さなかったかな。でも無料だから一度使ってみて! 頑張って作ったから! 効果もすごいから!」

「いや……それはぁ」タラタネラが困ってる、なんで?

「悪魔の作ったものだからって心配してる? それならおれがここで実演してもいいよ」

「やめろ馬鹿、殺すぞ。汚いものを見せるな」ユランの殺気が強くなった、なんで?

「絶対気持ちいいのに……ひょっとして、二人とも性経験なし?」


 なんて聞くと二人とも黙ってしまった。ユランはともかく、まさかタラタネラもだとは思わなかった。こっちはもてそうなのに。


「あ、なんかごめんね。でも射精に手間取って時間をつぶすくらいなら、使ったほうがいいよ。それに言ってくれれば、おれで初体験済ませてもいいからね。精液を濃くすることは魂を濃くすることだから、協力は惜しまないよ」


 処女童貞なのはおれも同じだけど、早く初体験したいと思ってるのに。セックスってどれだけ気持ちいいのか気になるからさ。なんでこの二人はこんなに奥手なんだ。セックスに興味ない雄なんているわけないだろ!

 それにおれは実戦こそ皆無だけどむちむちでむきむきないい体してると我ながら思ってるよ! 訓練はしてるし、あと悪魔として見栄えは気にする方だから、見た目だけは取り繕ってるんだ。

 おれとセックスしたいと思ってもらえるのが、取引としては一番楽だ。おれも気持ちいいし、なおかつ精液が集められる。

 だから二人には雄の味を覚えてほしい。契約期間中にセフレくらいにはなっておきたいな。


「今更だけど悪魔と契約して大丈夫なのか不安になってきたよ……」

「こいつはましな方だとは思うが、頭の方がな……」

「なんでだよ!」


 悪魔なんて享楽主義の集団において、おれはかなり理性的だと自負している。契約者を慮れるし、こうして公平な取引を提案だってできる。


 もしかして、ユランとタラタネラがお互いに気を使っているだけなのかもしれない。今度個別にこっそり提案してみよう。ふふふ、なんか唆してるみたいで悪魔っぽいな。ま、これくらいの唆しはかわいい提案ってことで。


「まあとにかく」タラタネラが咳払いでごまかして。「確認なんだけど、悪魔召喚なんて全く知らない私のような人でも契約者に仕立て上げることはできるのかい?」

「できるよ。やろうと思えばね」


 そもそも契約は召喚に紐づいているだけで、仕組みさえ分解できればすげ替えは可能だ。現場にあった血はそのための物だろうし、契約者としてパスを繋げるには十分すぎる。

 だけど、できるからと言ってそれをするかどうかは別問題。

 だって願いを叶えてもらうために呼びだしたのに、その権利を譲渡するってことだからね。普通は独占したいものだろうから、魔界の歴史で見ても稀有な事件なんじゃないかな。


「だが召喚自体が犯罪になるのなら、罪を擦り付ける意味でもありえない話ではない。悪魔という誰の目で見てもわかる証拠が、そこにいるのだからな」

「私たちは一応それぞれ騎士のトップだし、蹴落としたいと思ってる人はいるだろうね。それに王太子様の王位継承も絡んでくると、候補は絞り切れないなあ」

「うーん、でも逆に考えて、ここまで魔法を解析して実行できるのなら、相手は手練れだよ。言い換えれば、悪魔召喚にかなり詳しいってこと」

「つまり、犯人さえ見つけられれば、そいつは十中八九犯罪者だ」

「悪魔召喚の痕跡か、依頼した証拠が見つかれば、芋づる式で膿を一掃できそうだね」

「え、いや、おれが言いたかったのはそうじゃなくって、呼び出した悪魔に二人を消してもらったほうが楽じゃないってことなんだけど……」

「出来ると思うのか?」


 短い言葉だったけどユランの体を包む黄金のオーラが説得力を補強した。その密度はすさまじく、おれが全力で魔法を放っても致命打には絶対ならなさそう。

 そして、一撃でおれは死ぬだろうから、出来るかどうかと聞かれたら絶対無理と答える。少なくとも正面切った戦闘は自殺行為だ。魔法で姿を隠して尾行する時でさえ気を使って離れていたのに、暗殺とかできるわけがない。


 タラタネラも同じくらいの戦闘能力と考えれば、確かに悪魔をけしかけるのは意味がなさそうだな……。大悪魔と呼ばれる人らに依頼すれば可能性はあるけど、対価が膨大過ぎて割に合わない。そもそも悪魔ってすぐ裏切るし、暗殺の取引に失敗したら命乞いで依頼者暴露しそう。


 って考えると、婉曲的だけど社会的に殺したほうが楽なのか。犯人は本当に悪魔の使い方がうまいな。

 

 それからいくつか確認事項や捜査の方法も決めてから、タラタネラは立ち上がった。


「私の方でも調べてみるよ。王太子様の血が取られていたということは、相当中枢に犯人がいるってことだからね」

「頼んだ。危ない橋を渡りそうになったら、こいつを連れていけ。対価の分は働いてもらわんとな」

「まかせて! タダ飯食いは性に合わないから頑張るよ」

「悪魔の口から出ていい言葉じゃないだろ……」


 こうして悪魔召喚を広めた犯人を捜すために、おれたちは動き出す。

 これでたくさん稼いだらきっと、魂一つ分に近づくはずだ。なんて期待して、おれの尻尾はゆらりと揺れた。


****


 あれからおれたち三人での捜査が始まったけど、それよりも敵の方が早かったみたいで、ユランが殺気を振りまきながら牙をむいていた。


「俺や王太子様が悪魔と契約して圧政を強いていると噂になっている。大臣などの阿呆共は潔癖を証明しろと発破をかけてきた」


 部屋のソファに座っている金色の犬はうなりながら自分の腕を握って怒りをこらえていた。力が強すぎるから家具に同じことをしたらすぐに壊れるからね。逆に筋肉が硬い体の方が被害少ないって何? 強すぎでしょ。


「私の方にも来たよ。どうやら敵は私たちを完全に失脚させようとしているようだね」


 タラタネラも渋い顔をして、重いため息を吐いた。

 この国では悪魔と契約を結ぶのは犯罪だから、当然その責を問われるんだ。おれをすぐに帰らせないようにしたのもそのためだろうね。


 姿を隠してユランの仕事に同行したおれも話は聞いたから知っている。騎士団の中ではユランの性格が知れ渡っているから誰も信じていなかったけど、王宮では猜疑の視線が結構突き刺さっていた。


「だが、こちらにも収穫はあった」ユランが手の力を抜いて。「アスモに噂の出所を確認させた。その結果、やはり第二王子派に行きついた」

「まあ……そうだろうね」


 リカオンがまた重いため息を吐くのもしょうがない。どこの世界でも権力争いっていうのはめんどくさいよね。

 王太子である第一王子から王位を奪いたいと思っている第二王子派からすれば、第一王子派であるタラタネラは邪魔だろうし。


 ちなみにユランは中立派。相手が誰であれ、騎士として王に対して忠誠を誓うというスタンスだ。それは結構有名で、本人も公言してはばからない。自分は王ではなく国に仕えているだけだと。なので権力抗争に巻き込むなという姿勢を崩さない。

 しかも賄賂も色目も効かないうえに、権力に媚びない鉄壁で潔癖な騎士としても名高い。平民の間では最高の騎士として人気だけど、本人は殺意の塊なんだよなあ。ただの長い反抗期なんじゃないかとすら思うよ。


 だからユランは騎士団長で、タラタネラは近衛騎士団長なんだろうなっていうのがわかる話だ。


 そう考えるとユランに関しては結構とばっちりと言うか、ついでに蹴落とされそうになってる感じがある。この怒りもまあ妥当だ。


「ユランは私と仲がいいから、できるなら一緒に排除したほうが安全だからね」

「やめるか……友人を」

「今更遅いって。こうなったらもう一蓮托生じゃないか」

「お前、敵は第二王子派だからと俺と協力してつぶそうとしてるだろ」

「元から派閥なんて関係なくそのつもりだったくせに」


 確かにユランなら相手が誰だろうとも敵対したら殺してそう。

 とにかく、これで大体の敵対関係が把握できたけど、問題はそれだけじゃないんだよね。


 近衛隊長や騎士団長が悪魔とかかわりがあるなんて国の沽券にかかわると、潔白証明を求められている。

 その方法が、神殿での聖別だ。これは祝福を与えるとともに悪魔とのパスを調べる方法で、反応すると契約を結んでることがばれて一発アウトになるやつ。


 おれの契約者三人は近々神殿に招集されることが決まっていて、何としても対策を練らなければならなかった。


「こうなってくると、神殿が協力を渋っていたのもこのせいだと疑いたくなるな」

「十分あり得そうだよね。大神官に金でもつかませたんだろうさ。あそこはもう汚職の温床だ」

「ひょっとしなくても、この国って結構腐ってない?」

「悪魔に言われるとつくづく頭が痛くなるな……」

「本当だよねえ……」


 平民として生活してた時からなんとなく感じてたけどね。

 神殿も民のためにとか言ってたけど、特に何もしてくれなかったし。まあおれは悪魔なので近づかなかったんだけどさ。


「っま、それはユランたちに頑張ってもらうとして、聖別はどうする? タラタネラとの取引もしたし、後は王太子と取引すればおれは帰れるけど?」

「帰る? 馬鹿を言うな、殺すぞ」

「なんでだよ! 契約が無ければいいんだから、それが一番確実じゃないか」

「後手に回ってどうする。ただでさえお前が市井にまぎれていた一か月は対応が遅れていて、そのせいで噂の歯止めも効かなくなっている。だが神殿も動いた今、あいつらは確実に俺らを処分できると油断しているはずだ。その隙をついて全員殺す」


 まじで敵対者絶対殺す騎士じゃん……。その殺意は悪魔にだけじゃないのかよ。

 それにおれが一か月平民として遊んでいたせいで、二人の立場が悪くなってるのは本当だ。おれが悪いわけじゃないけど、ちょっと罪悪感があるのは否めない。


 明らかに攻撃的すぎる意見にどうしたものかとタラタネラへと助けを求めると、こっちも苦笑しながら頷いていた。どうやら同意見らしい。


「でも実際、これを逃せば尻尾をつかむのがかなり遅れるからね。王太子様の安全のためにも早い方がいいから、ユランには賛成なんだ」


 リカオンは優しく諭すように笑うが、薄着に浮かんだ筋肉がすごすぎてギャップがどうしても目につく。射精義務のせいでどんどんラフになっていった結果、もはや自分の家のような恰好になっている。部屋に着くなり脱ぎ始めるからね。

 本人は無自覚だけど巨乳から乳首が浮いてるんだよね。これ部下の性癖壊してるんじゃないかって心配になる。しかも最近はおれが育成してるので、伸びしろの塊なんだ。物理的にも感度的にも。


「えっと……」おれの視線に気づいたタラタネラが困ったように。「今日の射精ノルマはこの後するから、意見が固まるまでもうちょっと待ってほしい」

「今日はお前の番だからな。まったくなんでお前もうちで射精するんだ」

「しょうがないだろ。アスモが結界を張ってくれたところで会合をしたほうが安全だし、後片付けもアスモが魔法でしてくれるんだ。さすがにあの汚れをメイドに洗濯させるのは気が引けるよ」

「わからんではないがな。だがお前、最近声がやばいことになってるぞ。結界が無かったら事件かと思うほどだ」

「そ、そんなにかい……?」


 おずおずと視線を向けられたので頷いておく。ユランの寝室と私室周辺には結界があるので音は漏れないけど、ユランにはばっちり聞こえていると思う。

 けど、あれを聞いておいて鉄面皮なの怖いんだけど。射精してないのは管理してるおれが一番よく知ってる。こいつ性欲ある?


「アスモ……その……」

「わかってる、今日は寝室に防音の魔法かけとくよ。タラタネラには気にせず出してほしい。射精量を増やすのはおれのためでもあるから、これはサービスね」

「助かるよ……でもそんなにひどい声してるかな……」

「おれはちんちんに効くから好きだよ」

「それ絶対褒めてないよね……?」


 正直タラタネラは無自覚でスケベ垂れ流しすぎだとは思う。おれみたいな趣味の人なら放っておかないでしょ。

 全身筋肉を発達させた巨漢で、黙ってればイケメンでしゃべれば人当たりのいい表情。地位も名誉もあって紳士的で悪魔のおれにも優しい。比較対象がユランだからってのはあるけど。

 なんでこれで未経験なのか謎すぎる。むしろやりまくっててもよくないか。


「こいつは高嶺の花だからな。手を出そうとするやつなんていないんだ」

「そんなことはないと思うが……私のような汗臭い男はもてないだろ。婚約者も昔はいたが、破談になってしまったからな」

「あれは向こうが第二王子派に付いたからで、お前のせいじゃないって言ってるだろ」

「そうかもしれないが……」


 なるほど、それで今まで経験がないんだ。けどいい出会いならそこら中に転がってそうなんだけどなあ。

 たまにタラタネラにくっついて仕事に付き合うことがあるけど、周囲の視線を探ればたまに邪な目で見てる人いるよ。不思議なことにユランにもいるんだよね。まあ見た目だけならすごくいいからな……。


「いたとしても俺は別に気にしない。ただ手を出そうものなら返り討ちにするだけだ」

「これだもんなあ。まあでもタラタネラは最近積極的になってきてるし、初体験もすぐなんじゃ……」

「い、今はそんな話いいだろ! 大事なのは聖別をどうするかってことだ!」


 強引に話を戻されたけど、実際どうしようね。おれが戻らないのなら、どうにかしてごまかさないといけないんだけど。


「神殿に行く前に、犯人を捕らえればいい。そうすれば王太子への害をなそうとした事件を立証できるから、そのごたごたでなくなるだろ」

「後は神殿と悪魔のつながりを見ることだね。犯人と繋がっているのかはわからないけど、第二王子派と繋がってるのは確かだから、うまくいけば神殿の権威を下げられる。そうすれば聖別の結果にも疑問を持たせられるだろうね」

「なるほどね、つまり敵を白日の下にさらして、うやむやにしようってわけか。それならどうやって調べるの? 最近は悪魔召喚が流行ってるせいで、怪しい家には全部結界が張られてるから、おれは入れないんだよね」

「悪魔に頼らず確実に黒であるやつの懐に潜り込めればいいのだが……」

「それなら……」


 ふと何かを思いついたタラタネラが見たのはユランだった。友人相手というだけあって無防備に金色の犬が首をかしげると、戸惑いがちな提案が返ってきた。


「君の部下のニグレス、確か第二王子派の筆頭貴族の息子だったよね」

「ああ、あいつか……そうだな、確か第三子くらいだ」

「そして私の記憶が確かなら、ニグレスは君のこと……」

「愛人にしたいとふざけたことを言っていたな……おい、お前まさか……」

「その線からなんとかならないかなーって……」

「殺すっ!!!!!」


 拳を振り上げるどころかそのまま振り抜いてぶん殴ったよ!

 しかもオーラをまとった一撃だ。相手がタラタネラじゃなかったら死んでたかも。でもタラタネラが何事もなかったかのようにぴんぴんしてるのなに。こいつら悪魔より強いだろ。おれが学者型というのを加味しても勝てるビジョンが見えない。


 ……もしかして、初対面の時にあの勢いで殴られたの、十二分に手加減してた可能性があるな。


 でもユランが怒るのも無理はない。要するに身を売ってくれって言ってるわけだからね。……とはいえ殺意が高すぎる。タラタネラはよくこれと友人やってるね。


「ん? ユランは十分手加減してくれてるよ。この程度私なら問題ないしね。それに、怒るだろうなとは思ってた」

「当然だろ、俺にあの馬鹿へ媚びろというのか。あいつは親のコネでうちに入ってきただけで、やる気も技量も体力もすべて足りてないんだぞ。本来なら第一騎士団から蹴飛ばしてやりたいくらいだ」

「なら他に案はあるかい?」

「…………」


 好戦的だが騎士団長を務められる程度には頭が回るユランだ。第二王子派筆頭貴族へのコネを作るには、中立派の自分しかないのはおれらが言わなくてもわかっているだろう。


 黄金の犬はいらだちを隠そうともせずに貧乏ゆすりを激しくしているが、やがて重いため息を、本当に重くて長いため息を吐いた後、にらみつけながら口を開いた。


「ないな。ニグレスは考えの足りない時が多いから、情報源としても悪くない。それは分かっているのだが……気が進まないな」

「いっそのこと魅了でも出来たら楽なんだけどね。アスモはそういうのもできたりするのかい?」

「それくらいなら余裕。二人みたいにオーラで守ってたりしない限りは楽勝だよ。でも向こうは悪魔召喚に詳しい可能性があるから、ばれて解除されたら言い逃れできないよ」

「あいつは家でも特に期待されていない三男で、本人もそれを自覚して奔放に過ごしている。当主たちの目に留まることはないだろう」

「それなら魅了しようか。元から好意があるのなら、そんなに強く魔法をかけなくていいしばれにくくはできるよ」

「複雑な気分だな……」

 

 潔癖な騎士様は人の心を操ることを好まないみたい。殺意の塊だけど、常識人ではあるからね。だからこそ魂は綺麗に輝いているんだ。そこは尊重してあげたいけど、今回ばかりはどうしようもなさそう。


「でも、軽い魅了くらいで家を裏切るような行為をしてくれるかな? いくら浅慮とはいえ、さすがにそこまで短絡的に動いてくれるかどうか……」

「あ、別に情報を漁らせなくても、手はあるよ。おれに任せて、日当ザーメン五回分をもらってるんだ。このくらいはやらないとね」

「わかった、なら教えてくれないかい?」


 これでもおれは学者タイプの悪魔だ。戦闘よりこういうことの方が得意なんだよ。特に魔法の扱いに関しては悪魔全部の中で見ても上の方だという自負がある。だてに学校を首席で卒業してないんだ。

 おれが作戦を話すと二人はなるほどとうなずいた。これなら安全に結界内に入れるし、ニグレスにも悟られない。


「なかなかやるな。それなら問題なさそうだ」

「そうだね、魔法に詳しい君がいてくれて助かるよ」

「俺らが窮地に立たされてるのもこいつのせいだがな」

「おれは何もしてないですー! むしろ被害者なんだけど!」


 方向は定まったので、ニグレスを誘う算段を付けたところで今日の定例会は終了だ。犯人捜しを始めて以降、こうして毎日顔を合わせて成果を確認するのは習慣になっていた。


 そしてそれが終われば、おれへの報酬を払う時、すなわち射精の時間がやってくる。

 

「今日も頼むよ」


 リカオンは柔らかく笑って、ベッドに腰かける。すでに何度も射精に使っているユランの寝室は、勝手知ったる他人の家みたいなものだ。

 その股間ではすでに巨根が存在感を発揮し始めており、ズボンにくっきりと幹が浮き上がっていた。そこまで期待されちゃうと、やる気が出るってものだね。


「任せてよ。今日も最高に気持ちよくさせてあげるからさ」

「だんだん癖になってる自分が怖いよ。声もでかくなってるみたいだし……防音は忘れてない?」

「ばっちり。これでどれだけ喘いでもユランには聞こえないから、いつもみたいに獣じみた喘ぎを出しても大丈夫!」

「ほ、本当に私がそんな声を出してるのかい……?」

「じゃあ録音してみる? おれとの契約が切れた後のおかずにもいいかもしれないよ」

「いや、遠慮するよ……聞いたら立ち直れなさそうだ」


 騎士二人が話し合った結果、一日おきに五回射精当番を変えるということになった。清廉潔白な騎士である二人だが、鎧の中は性欲たぎった屈強な雄でしかない。一日あれば金玉に精液をチャージするなんて余裕だ。


 おれも堅苦しい黒スーツを脱ぎ捨ててベッドに上がり、タラタネラに抱き着く。ぶっとい首筋に鼻面をうずめて匂いを嗅げば、隠し切れない汗の匂いがおれを興奮させた。本人は香料で気を使ってくれてるんだけど、毛皮の根元にはタラタネラの色気が溜まっている。


「ん……」


 タラタネラも同じようで、鼻から漏れた息はすでに熱を帯びている。おれが衣服の下に手を差し入れると、幹が窮屈そうに震えた。

 服をめくりあげながらフェザータッチでマーブル模様の毛皮をくすぐると、リカオンはすんなりと両手を上げて脱がせることができた。すると盛り上がった太い体があらわになって、そこからいい匂いがする。


「いつ見ても立派だよねえ。全身骨太で筋肉の塊。抱き心地もすごくいい」

「こんな汗臭い私を喜んで抱くのは君くらいだと思うよ」

「違うんだよなあ……」


 価値観がノンケすぎる。騎士とかいう男社会で暮らしてるのに、なんでまだ理解できていないのか。高嶺の花扱いされているのは本当なんだろうな。


 こうして吐精の手伝いをするのも、おれの役目だ。ユランとは違って、タラタネラはおれのサポートを受けてくれている。その期待に応えるためにも、しっかりやらないと。

 あと単純に、こんないい雄とできる幸せを噛みしめてるのもある。

 

「タラタネラ、キスしよ」

「いいとも」


 もはや当然のようにおれらは口を合わせることだってできる。最初はぎこちなかったキスも、一日おきにやれば上達して、舌同士をくちゅくちゅと躍らせることだって余裕だ。しかもタラタネラはキスが好きだから、自分から言ってくることもある。

 

「んおっ♡じゅるぅ♡はふっはふっ♡♡んむぅ~♡♡」


 リカオンのぶっとい体を撫でまわしながら舌を絡ませると、お返しにと抱き着かれる。おれとタラタネラの膨らんだ胸同士がむにっと密着して、その上からこぼれた唾液が降り注ぐ。でも、もう慣れたものだからどっちも気にしない。


 おれもタラタネラも童貞だから、キスの時間が長いか短いかなんてよくわからない。

 だから満足するまで唾液を舐めしゃぶるんだ。


「んっちゅ♡タラタネラ、今日はどうする♡おれがする?♡」

「自分でするから……♡んむっ♡アスモには♡ちゅっ♡胸を頼んでもいいかな♡」

「了解♡」


 最低五回の射精がいるんだ、キス中に一発出すのは通例となっている。逆に言えば、一発出すまでキスが終わらない。ずーっと互いの口を吸ったままだから、おれらはもう唾液になんの忌避感も抱かない。


 タラタネラがもぞもぞとパンツを脱いでいる間に、おれは浮遊して正面へと移動する。普通だと難しい体位も、悪魔のおれなら問題ない。オナニーを邪魔しないようにしながら少し顔を傾けて、リカオンのマズルに深く噛みついた。


「んっふうぅ♡♡」


 すでにガチガチに勃起しているタラタネラのちんぽがパンツを飛び出して、自分の腹に当たる。巨根は見慣れない人が見たら凶器みたいな大きさで、リカオンのでかい両手握っても先端が余るくらいだ。

 でも、だからこそしごくのに問題はなくて、ぐちゅぐちゅと先走りの音が下から聞こえてきた。肩の動きから見て、相当強くオナニーしてるな。


「んっおおぉ♡♡おっおっおおぉ♡♡」


 すでに汚喘ぎの片りんが見えてきた。普段紳士然としたタラタネラだけど、やってる最中はすごく汚い声を出す。おれは好きだから全然いいんだけど、女性受けは悪いと思う。

 最初こそ遠慮がちだったのに、今じゃ誰にはばかることなく嬌声を振りまいてるんだ。それだけ気持ちがいいんだろうし、おれにも慣れてきたんだろう。嬉しいな。


 おれはタラタネラとするのが嫌いじゃない。むしろ好きだ。

 この国では珍しく悪魔相手にも優しいし、尊重してくれる。ユランで荒れた心を癒してくれるいい人なのだ。


 だからたくさん気持ちよくしてあげるね♡

 おれは最近開発中の両乳首をつまみ、一気に引っ張った。


「おおおおぉぉ~♡♡♡♡♡」


 リカオンはちんぽにくる声を上げて、体を仰け反らせた。そのせいで乳首がさらに引っ張られるから、わざとやってるんだと思う。

 普段騎士服の中に隠れている巨乳は豊満で、初めて見た時は思わず鼻の下を伸ばしてしまった。服越しからの想像を軽く超えて来たからね。筋肉もここまで詰め込めばスケベだよ。


 あまりにおいしそうだから丁寧に開発したら、タラタネラ本人も気に入ってくれた。今ではほぼ毎回いじり倒しているせいで、かなり敏感になっている。

 指先から弾力豊かな硬いゴムのような感覚がして、転がすと鼻息がおれに吹きかかる。鼻の穴を膨らませながら必死に口をついばむ姿は普段とはかけ離れているが、おれはかわいいので好き。喜んでもらってるってことだからさ。


「んおぉっ♡おほぉ♡気持ちいいよ♡乳首すごっ♡♡お゛っっっっっ♡♡♡」

「んーちゅ♡おっぱい気持ちいいでしょ♡男もここを弄れば雌イキできるようになるからさ♡おれに任せてよ♡♡」

「だが、これ以上は♡おっん♡♡んちゅっちゅっちゅっ♡♡近頃、服とこすれるだけでむずむずするんだ♡今も、おほおぉ♡気持ち良すぎるのに♡さらに敏感になったら大変じゃないかい♡♡」

「大丈夫大丈夫♡感度くらい魔法で下げればいいから♡それにオーラマスターなら♡自分の乳首くらい保護できるでしょ♡ちゅっ♡んはぁ♡おれみたいに開発しちゃおうよ♡」


 おれは処女童貞の一人遊び過激派なので、乳首もかなりでかい。乳輪が毛皮から浮き上がったお椀型で、しゃぶりつきたい淫乱乳首だと自負している。普段は魔法で感度を抑えてるけど、その気になれば乳首での雌イキは余裕。

 自分の作った淫具を試しながら、しこしこ遊んでたらこんな体になっちゃった♡


「乳首でアクメするのも気持ちいいよぉ♡性感帯は多ければ多いほどいいからね♡せっかくだから、タラタネラにも味わってもらおうかな♡」

「なにをするつもりだい♡♡」

「まずは一発出してからね♡そろそろでしょ?♡はふっ♡」

「ああ♡最初より一発目が早くなってる気がするよ♡♡乳首がずっとじんじんして♡じゅる♡手が止まらないんだ♡♡」

「いいことじゃん♡気持ちいいことに悪いことはないからね♡あ、もちろん健康の範囲内でね♡♡」

「んおっ♡そういうところは、おっおっ、悪魔だなって思うよ♡♡自分でいじるより♡手つき、すんごぉ♡こんなに、強く引っ張られてるのに゛ぃっ♡ぎもぢいぃなんて♡おっほおおぉ♡♡」

 

 タラタネラの乳首は順調に成長していて、ある程度の痛みは全部快楽に置換されている。キスの途中だからおれの口腔内にはふはふとした吐息と汚い嬌声が反響して、それが興奮を誘う呼び水になる。


 だからおれも我慢できなくなってきた。浮いている腰を落とし、おれのビンビンになった興奮をリカオンちんぽに近づける。


「タラタネラぁ♡おれも一緒にシコシコして♡」

「ああ、わかったよ♡」


 ぶっといリカオンの胴体を足で挟んだ腰ヘコでお願いすると、ごつい掌が二本の極太ちんぽを同時に握ってくれた。学者型のおれと違って、タラタネラの手は剣を握ったマメでごつごつとしている。だから自分でしごくより気持ちがいいので、おれは好きなのだ。


「ふわぁ♡」甘美な刺激におれがとろけた声を出して。「タラタネラの手、すごく気持ちいい♡淫具とは違う、んちゅぅ、良さがあるよ♡」

「そう言うアスモこそ♡んふうぅ♡お゛おおぉん♡♡乳首を触る手がうますぎて♡自分では満足できないんだよ♡あっ♡先端を引っかかれるの、弱いんだ♡♡両方一気は、乳首、すごすぎるよっ♡♡」


 おれらは唾液まみれの口を押し付け合って、泡まみれのちんぽをこすりつけ合って、快楽の最大化に努めている。二本のちんぽは太すぎてタラタネラのでかい手でも握り切れないけど、両手を合わせた大仰な動作でぐちゅぐちゅとしごいてくれて気持ちがいい。


 だけど、乳首を弄られているタラタネラの方が感じている快楽は大きい。

 大きなグミみたいな乳首をつぶせば、ちんぽ越しに振動が伝わってくるんだ。どうやらもう限界みたいで、獣さながらな鼻息がおれに吹きかかってくる。


「んふぅー♡おほぉ♡お゛っお゛っおおおぉぉ♡アスモ、出るよ♡まずは、一発目だ……♡♡」

「うん♡感じてるよ♡タラタネラのちんぽ、すごくびくびくしてる♡早く出して♡おれにザーメンをちょうだい♡♡」


 舌同士でぺろぺろ舐め合いながら、今度は乳輪を指先で優しくなぞってあげる。緩急付けた攻めにリカオンの喉から切ない声が漏れるけど、ちんぽへの直接的な刺激に、すぐ濁った音へと戻っていく。


「んごっ♡おおぉん♡♡出す、出すよアスモ♡♡だから乳首を、もっと強くっ♡それも、嫌いじゃないけど♡射精するなら、おっほぉ、強い方がいいんだ♡♡」

「わかってるよ♡そのほうが濃い魂が出るからね♡搾乳するみたいに、ぎゅってしてあげるよ♡♡」


 おれの役目はタラタネラが気持ちいい射精をできるようにすること。なのでこのフェザータッチは溜めみたいなものだ。おれだってこうしてじらされると濃いのが出るからね。悪魔と人とはいえ、性感帯が一緒なら感じ方も同じに決まってる。


 細めたリカオンの目は情欲で潤んでおり、もはや我慢も限界に来ているようだ。しごく手は止められないのに、最高の射精がしたいとちんぽに歯止めをかけて、おれに乞うているんだ。

 気持ちいい射精におれの乳首攻めがいるとなれば、期待に応えるしかないでしょう!


「タラタネラ♡」もはや常人より肥大化した乳首をつまんで。「いっぱい出してね♡」


 ぐいっと引っ張るのと同時に、魔法で微弱な電流を流してあげる。これをされるとおれはイキ狂うから、きっとタラタネラだって……♡


「んおおぉおぉ?!♡♡♡♡」


 案の定、リカオンは目を見開いて全身を硬直させる。駄目押しと言うには強すぎる刺激を受けて、タラタネラはキスを打ち切って顔をのけぞらせた。

 

「おっほおおぉおぉおおぉぉぉ♡♡」


 そして噴き出す濃い魂♡びゅるびゅると白く濃厚なザーメンが極太ちんぽから飛び出して、おれらの間を埋めていく。押し付けているおっぱい同士の下から熱源が当たって、その濃さもわかってしまう。

 魂がいいだけじゃなくて精液も濃いなんて、本当にタラタネラは最高の雄だよ。精気を回収する悪魔として、この二人のことは大好きになりつつある。初召喚は思い出に残るとは言うけど、彼ら以上の雄に出会えるのか今後あるか不安になるくらいだ。


 だからもっとキスをしたくて、のけぞった喉仏に寂しそうに鼻面をこすりつける。そうすると絶頂中のくせに、リカオンはすぐさま噛みつくようなキスをくれるんだ。


「んむううぅ♡んっ♡タラタネラ♡好きだよ♡だからもっと気持ちよくなってね♡」

「おふうぅ♡おっおぉおおぉ♡はむうぅ♡♡乳首、すごすぎるぅ♡♡電流なのに♡なんでこんなに、ぎもちいいぃ?!♡♡」


 本当は射精したらビンに転移するようちんぽに魔法をかけてあるんだけど、タラタネラとするときはオフにしている。だって、こうしてぶっかけられる方がテンション上がるからね。


 おれは指先の電流を調節して、最高の快楽になるようにしている。そのおかげか、リカオンちんぽから出る白濁はとどまることを知らない。たった一日の禁欲成果とは思えないほど、雄々しい射精が続いている。

 そりゃこの見た目とちんぽだ、性機能だって他よりずっと強いに決まってる。優しい紳士だけど、雄として強すぎるんだよね。


「ん゛、まっで♡それ、やばいいいぃ♡乳首だけで、いくのが、止まらないいいいぃいぃ♡♡♡ぎもぢよすぎるうううぅぅ♡♡♡」

「これすごいでしょ♡おれのお気に入りなんだ♡終わったら治療してあげるから、今はたくさん出すことに集中して♡」


 オナニーとかキスとか、それらは全部乳首の快楽に洗い流されて、タラタネラはアクメで全身をけいれんさせている。顔はもう酷いアクメ顔になっているけど、おれは好きだよ。


「こうやって開発すると、もーっと気持ちよくなるからね♡タラタネラなら、おれよりスケベなおっぱいになれると思うんだ♡♡」

「あんまり、おおおぉぉん♡なりたくはないけど♡最近は、おほおぉ♡そうなってるのは否めない……んぎいいぃ♡♡やっぱり良すぎるよこれええぇ♡♡」

「喜んでもらえて嬉しいよ♡これはもちろんサービスだから、欲しかったらいつでも言ってね♡」


 だけどやりすぎはよくないから、徐々に電流を弱めていく。タラタネラはまだ開発途中で、おれと同じようにできるのはまだ先だ。

 それに自動精液収拾魔法を切っている関係上、潮とか出されると回収が大変なんだよね。ただでさえおれらの汗が混ざってきてるのに。

 でも、いつか一緒に汗まみれの体で絡みながら、潮とかザーメンとかぶっかけ合ってセックスしたいな。なんて考えるけど、優先すべきは契約だ。おれ個人の感情は脇に置いておこう。


「うん、すごくたくさん出たね♡これなら二回分くらいにはカウントしてもいいかな♡」


 長い絶頂が終わって肩で息をするタラタネラから口を離して、おれは精液を回収する。リカオンちんぽの根元では二本の線が引かれ、ノルマの終わりが近づいていることを示していた。


「はぁ♡はぁ♡たくさん出したら二回分にしてくれるなんて、いいのかい? いや、この快楽を五回とか言われると、ちょっと困るのだけど……♡」

「もちろん。君らはうっすい精液を出して回数だけ稼ぐような射精をしないからね。おれもそれに応えただけだよ。誠意には誠意を返すのが公平の基本だと、おれは思ってるんだ」

「本当に、そこらの商人より真っ当だねアスモは……。魔界では君みたいな悪魔もいるなんて、知らなかったよ」

「おれは異端だからね。天才の悲しい性ってわけ。みんな目先の享楽ばっかり気にして、長い目で見れないんだ。ただ魂を取るだけなんて、続くわけがないのにさ」


 完全に精液を回収した後のタラタネラは汗まみれの巨体だけど、股間の匂いは取れやしない。おれの先走りと混ざり合った恥骨付近では、すさまじい雄臭さを放っている。

 おれは浮かんだままタラタネラに抱き着いて、もう一度キスをする。なんかキスしすぎなのかもしれないけど、おれらにとってはこれが普通なんだ。だって二人ともキス大好きだからね。


「ちゅっ♡もう次をしていい?」

「んっ♡ああ、構わないよ♡でも次は手加減してくれると嬉しい♡君としていると自分がどんどん淫らになっていきそうだ♡」

「いいじゃん♡この調子でおれと本番をしようよ♡魔界じゃ誰もおれと寝てくれなかったから、タラタネラとしたいんだ♡」

「そこまで率直に言われると照れるね……。こんな汗臭い私のどこがいいんだか……」

「タラタネラは魅力的だよ。魂も肉体も、全部がおれの好みだ♡あとおれはタラタネラの汗の匂い大好きだからね♡」

「君は本当に変わっているね、私の元婚約者は……いや、何でもないよ」


 もしかして、タラタネラが自分のことを汗臭いと卑下するのは、元婚約者のせいかも。まあ確かに女性受けって考えると、この肉体はごつすぎるよね。そこがいいんだけど。

 これはいったん、タラタネラには自分がどれだけ魅力的かを理解してもらったほうが良さそうだ。別に契約には関係ないんだけど……あくまで個人的な助言としてさ。おれはタラタネラのこと、好きだし。


「タラタネラ!」

「なんだい急に……真剣な顔をして」

「君は魅力的だよ! 悪魔としてではなく、アスモとして見ても、君はすっごく魅力的だから!」

「え、え、え……?」

「汗の匂いも、たくましい体も、イケメンなのにむっつりで乳首が弱いところも!」

「最後だけ余計じゃないかい?!」

「だからもっと自分に自信を持とう! 君のことを好きになってくれる人は、絶対いるから!」

「……ふふ」


 リカオンは微笑んで、おれにまたキスを降らせた。


「まさか悪魔に励まされるとは思わなかったよ。気にしないつもりではいたけど、なかなか難しいものだね」

「そうだよね、だからおれともっと気持ちよくなって、全部忘れよう! タラタネラがしたいこと、何でも付き合うよ! おれは本番がしたいけど!」

「……うーん、君はなんだかんだ欲望に正直だよね。本番は、まあ……別にしてもいいんだけど……こんなにキスばかりしてて、もう今更な気もするし……言っておくけど、初めてのキスも君だからね?」

「本当っ?!」


 いろんな意味で耳を疑ってしまった。タラタネラ、キスもしたことなかったの?!

 ひょっとしてこの世界の審美眼、相当曇ってる?


「でもさすがにまだ心の準備がね……。それよりも、さっき君が言ってた、性感帯の多さを味わってもらうっていうのは……?」

「あ、それね。じゃあ次はそれにしようか♡タラタネラには、おれと一緒にアクメ漬けになってもらうよ♡♡」

「……絶対ろくでもないことなんだろうけど、ちょっと期待している自分が嫌になるよ」


 だっておれはまだ出していないんだ。本番が無理なら、一緒に絶頂するしかない。おれの精液に魂は入ってないけど、生理現象として欲望は煮詰まっている。


 魔法を起動すると、タラタネラの体がビクンと跳ねた。それでもその顔には期待が浮かんでおり、萎えることないちんぽからは先走りがだらだらと零れている。

 

「これは……?」

「感覚共有の魔法で、全身開発したおれの快楽がタラタネラにも伝わってるはずだよ♡」

「アスモの、快楽……♡」

「そう、一人遊びに明け暮れてスケベに開発したおれと同じね♡タラタネラも頑張ればこうなるんだよって知ってほしいな♡♡」


 おっぱいの大きさはタラタネラに負けるおれだけど、乳首はおれの方が肥大化している。黒い毛皮からのぞく赤い山には快楽が埋まっているんだ。赤子のおしゃぶりみたい形は、しゃぶるために特化した証でもあった。

 そんなでか突起を見せつけると、リカオンは口を引き締めて喉を鳴らす。そして、こねくり回して膨らませたおれの淫乱乳首へと、武骨な指が伸びていく。


「触るよ……?」

「どうぞ♡好きにしていいからね♡」


 おれの乳首はタラタネラの行きつく先だ。ぷっくり膨らんだ肉芽に遠慮がいらないなんてこと、リカオンだってよく知っている。

 だから、さっきのおれがしたように、両方の乳首をつまんで思いっきり引っ張った。

 

「んああああぁぁぁ♡♡♡」

「んほおおおぉぉぉ♡♡♡」


 タラタネラが嬌声を上げるのは、おれと全く同じタイミングだった。

 感覚を共有しているおれらは快楽も同じ。リカオンのマメだらけの手にすりつぶされ、おれの脳みそに火花が何度も散っていく。


「んあ、あっ♡すごい♡タラタネラって、こんな強い手で、んふぅ♡乳首いじめてくれるんだ♡」

「おおぉ♡っほぉ♡君なら、遠慮は♡おほぉ♡いらないと思ってね♡♡実際、気持ちいいしか感じないっ♡どれだけ私が、強くつねっても♡♡お゛お゛っおおぉん♡♡ぎもぢいいじゃないか♡♡♡」

「だからもっと強くてもいいよ♡怪我なんてすぐ治せるんだから♡んおおぉ♡おれも、タラタネラみたいに汚い声でアヘオホしたいな♡」

「わ、私はそんな声を……出してるのか……♡でも、今はいいかと思ってしまうな♡アスモの乳首は私のよりずっと感度がいいから♡んっ♡本当に胸だけでいってしまいそうだ♡♡」


 まるで自慰をするかのように強い手つきで、タラタネラはおれの乳首を弄る。乳輪ごとつぶしたり、爪を立てたり、普通なら痛みを生む行為だけど、おれにとってはご褒美だ。


「ああぁぅ♡それ、それぇ♡♡おれのおっぱいを、こんなに気持ちよくしてくれるのは♡タラタネラだけだよ♡♡」

「ふふっ♡そうだろうね♡私は君に教え込まれているからっ♡んっふぅ♡いじり方も♡おおぉん♡わかっているつもりだよ♡♡」


 そう言ってリカオンは上気した顔で笑ってくれるけど、ごめんね、一人遊び過激派なおれにとってはまだ足りない。もっともっと欲しい。


 だからおれが魔法で取り出したのは、小さな緑のスライム塊とでっかいイボ付きのディルド。おれが丹精込めて作った、一人遊び用の淫具たちだ。


「そ、それは……?」

「見ての通り、おれが普段使ってるおもちゃだよ♡タラタネラにも、そろそろ後ろの快楽を覚えてもらわないとさ♡」

「いや、それは……さすがに……♡乳首だけでも道を踏み外しそうなのに、後ろまで開発してしまったら戻れない気がするんだ……♡」

「いいじゃん♡気持ちいい方が人生楽しいよ♡それに困ったときはおれを呼んでよ♡アフターサービスで安くしとくからさ♡」

「そういうところを見ると、やっぱり悪魔なんだなって思うよ……」


 だけどリカオンが視線をちらちらと向けていることはごまかしようもない。タラタネラ自身も、新しい快楽に興味津々なんだ。それに、おれも一人でするよりタラタネラとやりたい。


 褐色のたくましい毛皮に抱き着いて、鼻面をこすり合わせておねだりをしよう。タラタネラは人がいいから、こうされると弱い。しかも興味があるのなら、効果は抜群のはずだ。


「ねえ、いいでしょ♡おれと一緒に気持ちよくなろうよ♡もちろん強制じゃないし、嫌ならいいんだけど♡おれはタラタネラとしたいんだ♡」

「…………君は、私のことを気に入ってくれているんだね」

「当然♡さっきも言っただろ?♡おれはタラタネラのこと、大好きだよ♡」

「悪魔にそそのかされるっていうのは、こういうことなんだろうね……でも、まあ、いいよ。興味がないわけじゃないからね」

「やったね!♡♡」


 おれは感謝のキスを送ってから、射精への欲求に突き動かされるままに淫具をあてがった。

 小さな緑のスライム塊は乳首に付けるとすぐさま反応して、吸引しながら不規則に、だけどかなり強くこねくり回していく。強さは色ごとに決まっているけど、緑は最高出力だ。乳輪ごと吸い付いて、おれのおっぱいをよりスケベにしようと頑張ってくれる。


「んふううぅぅぅ♡♡♡これは、いつ使っても、やばすぎぃ……♡おっぱいがじんじんきて♡おおぉん♡ひもちいいぃ♡♡ね、タラタネラ♡♡」


 視線を向ければ、おれと快楽を共有しているリカオンはベッドの上で悶えながら嬌声をあげている。巨体が暴れるせいでベッドのきしむ音が大きくて、壊れてしまいそうだ。普段感じているより強い刺激に、尻尾を振ってご満悦みたい。


「おっほおぉぉお♡乳首、すごいいぃ♡待ってくれ♡これは気持ち良すぎるううぅ♡おお゛っ♡胸が、おかしくなるっ♡んおおぉおぉん♡♡♡♡」

「タラタネラのちんぽすっごいビクビクしてる♡♡太くてガチガチでおいしそう♡喜んでくれて嬉しいよ♡」


 リカオンの股間に堂々とそびえる肉の塔はグロテスクだが目を引く雄々しさに満ちている。真ん中が膨らんだ楕円になっているけど、亀頭の膨らみのせいで太った蛇みたい。柔らかく微笑むことが多いイケメンなのに、ちんぽは他を圧倒する雄らしさを放っていた。

 

 こんな美味しそうなちんぽを前に出されたら我慢できるわけもなく。おれはリカオンの股座に近づいて、幹をぺろりと舐める。さっき精液は回収しちゃったけど、残った先走りのえぐみが舌の上でじんわりと広がった。


「うおおぉ♡♡アスモ、今、フェラはちょっと♡♡きっついいぃ♡♡」

「んっ♡だっておっぱい気持ちよくて♡逆に口が寂しいんだよ♡タラタネラのでっかいちんぽも大好きだから♡しゃぶらせてよ♡♡」


 タラタネラは初キスがおれだと言ってくれたけど、おれもそう。しかも初フェラもこのデカちんなんだ。そりゃ好きになるでしょ。

 乳首攻めの快楽にびくんびくんとのたうつリカオンの口に、ちゅっちゅっとキスを落とす。おねだりを受ける顔はもはや蕩け切っており、押し倒そうと思えば簡単にできそう。

 だけどこういうのは同意が大事だからね。お互いにいい関係を築きたいんだ。


「あっあっ♡おっぱい気持ちいぃ♡ねえタラタネラ♡もっと気持ちよくなろうよ♡んあっ、乳首すっごい吸われる……っ♡♡♡」

「んおっおっおおおぉぉ♡♡おっぱいだけでいくっ♡♡このままだと、乳首、すごいことになるっ♡♡」


 乳首攻めがあまりに効きすぎて同意が取れそうもないなあ。リカオンのふかふかデカ金玉を揉みながら、おれは残念そうに鼻面を舐めて諦めることにした。

 共有する快楽にタラタネラの乳首は勘違いを起こしており、小指の先くらいの大きさにまでビンビン育っている。いつか乳輪もおれとおそろいのお椀型にして、誰が見てもスケベなおっぱいにしてあげたい。それがおれのひそかな目標だった。


 でも感覚を共有したうえで攻めると快楽過剰になるからね。今は同意が取れているものからやっていこうか。


 とか思っていたら、リカオンのでかい体がひときわ大きく震えて、ちんぽが濁った汁を吐き出した。もはや先走りの濃さがザーメン並だ。この調子じゃ、またすぐいっちゃいそうだね。


「あ、アスモっ♡これ、染みこんでないかいっ!♡スライムが、おっぱいの中にっ♡んおおぉ♡おおおおぉぉぉん♡♡♡♡」

「そう、だよぉ♡♡ああぅ♡これはっ、んっんっ♡乳腺を中から刺激してくれるから♡乳首の開発にも、いいんだよ♡♡」

「そ、そんなの使ったら♡本当に乳首が壊れてしまう♡うっほぉ♡中は駄目だ♡駄目、すんごいいからあああぁ♡♡」

「んふふっ♡その気になれば母乳だって出せるようにできるよ♡でも、んあっ♡そうするとちょっと♡後始末が面倒だし♡んんんっ♡あとおれ、実家暮らしだから♡そこまでできないんだ♡気持ちいいんだけどねえぇ♡」

「さすがに♡おほぉ♡母乳は出したくないよっ♡ただでさえ♡最近♡訓練で薄着になると♡視線が気になるのに♡♡んおおっ♡気持ち良すぎるよこれえええぇ♡♡」


 そりゃそうだろう。むしろ今までこんなスケベなおっぱい見せびらかして気にしない方が不思議だった。自分のおっぱいがスケベだという自覚が、ようやく芽生えてきたみたい。


「んっ、わかったよぉ♡でも母乳出したくなったら♡いつでも言ってね♡♡おれもタラタネラのおっぱい飲みたいからさぁ♡あっあっあっ……染みこむぅ♡♡」

「そんな日は、絶対来ない……♡と信じてるよっ♡♡中ぁ♡敏感にされてるっ♡乳首が、こんなに気持ちいいなんて♡あんまり、んおおぉ♡知りたくなかったよ♡♡」

「でも、まだ終わりじゃないからね♡」


 タラタネラの目の前に持ってきたのはイボ付きでかディルド。快楽でぼやけた視界でも十分な威圧感を持っているそれを見て、リカオンは息を飲む。

 凶器みたいなおれ専用の張り型を顔の間に置いて、お手本としてぺろぺろ舐めてみる。一人で遊んでた時は、こうするとテンションが上がるんだ。


「んっ♡ぺろっ♡んんっ♡タラタネラも♡一緒に舐めよう♡」

「き、君♡こんなデカいのを入れるつもりかいっ♡♡」

「そうだよ♡アナニーやってたらどんどんでかくなっちゃって♡これくらいないと満足できないんだよね♡」

「……私には無理だ♡せめてもうちょっと小さいのがないかい?♡頼むよ♡♡」


 眉を下げたリカオンに懇願されるとおれは弱い。別にいじめたいわけじゃないからさ。

 だけどタラタネラが入れるわけじゃないから、許してほしい。おれも正直昂ってて、おマンコでアクメを決めたいんだ。


「ね、お願いタラタネラ♡おれと一緒にアナニーしよ♡」

「ううううぅ♡だけど、こんなの入れられたら、絶対……♡」

「気持ちいいよぉ♡痛みはもう感じないけど、丁寧に舐めてあげると気持ちよくなるからさ♡んー……でも、こんなの舐めるよりキスしたいかも♡」


 やっぱり無機物を舐めても昂るのは一人遊びだからだ。目の前にタラタネラがいる状態だと、キスの方が好きだって強く思う。

 ディルドを魔法でどかしてから分厚いリカオンをぎゅっと抱きしめて、嬌声をお互いの口腔に反響させる。そうすると舌が絡みついてきて、深い深いキスが始まった。ディルドを舐めるのには難色を示すタラタネラだけど、キスならどれだけ下品でもしてくれるんだ。


「んっむうぅぅ♡んっ♡タラタネラ♡もっと♡」

「おおぉう♡おっ♡おっ♡むふうぅ♡♡ちゅぅ♡んちゅぅぅ♡♡」


 口を舐めしゃぶったままベッドに倒れ込み、おれらは硬く抱きしめ合う。そうするといきり立つ股間同士がぶつかって、ぬるぬるとした感触に微弱な快楽が走る。このくらいなら共有していても問題ない、どころか物足りないくらいで、二人して熱心にちんぽをこすり合っていく。

 快楽を追い求める姿は誰にも見せられないくらいはしたないけど、そんなことはどうでもいい。キスをしている間は、ずっと二人の世界なんだから。


「んっふうぅ♡♡」リカオンが大きく鼻息を鳴らして。「乳首、おおぉう♡改造されてる♡うあっ♡おおおぉぉ♡アスモ、これ、もう無理だよ♡乳首くせになる♡おっぱい触るのが、止められなくなるよっ♡♡」

「んーちゅぅ♡大丈夫♡実際開発されてるのはおれのおっぱいだから♡おおん♡きもひー♡タラタネラには♡一人遊びが行き過ぎると♡んっう♡ここまでになるんだってこと、ちゅっ、知ってほしいんだ♡♡」

「でも、こんなの知ってしまうと♡もう、自分の指じゃ♡満足できなくなる♡んふっんふぅ♡ちゅぅ~♡私は、相手もいないのにっ♡おっぱいを持て余すよっ♡」

「おれがいるじゃん♡タラタネラが望めば♡いつでも付き合ってあげるよ♡精液さえもらえれば♡おれはどんなプレイだって付き合うからね♡ちゅぅ♡ちゅっちゅ♡」

「そういうところ、本当に♡あううぅ♡悪魔だよね♡君が、私としたいだけな気がするよっ♡」

「だっておれ♡タラタネラのこと好きだからね♡本当は早く本番がしたいから♡じっくり布教してるんだよ♡はふっ♡ん~♡♡」


 口を吸って離して吸って。汗まみれの毛皮を一つにして、おれらはキスに耽溺する。

 なんだかんだ言いつつも、タラタネラはおれを放してくれないし、ついばむ口を止めたりもしない。シーツに唾液のシミを広げて、頬の毛が湿ってもお構いなし。

 顔を交差させてマズルに噛みつくようなキスをしたかと思えば、鼻面を合わせるだけの浅いキスもする。とにかく様々な角度や体勢で口づけを行って、興奮をねっとりとくすぶらせていく。


 そうしていくと乳首攻めに限界が来たのか、タラタネラのちんぽが大きくしゃくりをあげた。


「ふ、おおぉぉ♡♡アスモ、出すよっ♡乳首だけで、ああもう♡気持ち良すぎるよこれえぇ♡♡」

「うん♡ちゃんと回収するから、好きなだけまき散らしていいよ♡♡」


 さっきみたいに回収するにはいったん体を離さないといけないけど、今はキスをしていたい。体を重ねたまま、この雰囲気を打ち切りたくはないんだ。

 タラタネラもそう思ってくれたのかはわからないけど、特に言及することはなかった。射精前でそんな余裕がなかっただけなのかもしれない。


 とはいえ、リカオンは絶頂でのけぞろうとする体を抑えるために、おれを抱く手に力を籠める。少し痛いけどおれは悪魔なので問題ない。だけど、女の人相手だとこれから大変そうだなと、頭の片隅でちょっと思った。


「あっ♡出す♡出す出す♡ザーメン出すよ♡アスモっ♡」

「たくさん出してね♡タラタネラ♡キスしよ♡」

「ああっ♡♡いくっ♡んおおおぉぉ~♡♡♡おおおぉぉ♡♡」


 舌をぴんと突き出しておれの口へと刺すように伸ばし、タラタネラはまたいった。

 ぶしゃぶしゃと噴きかかる熱を感じると、心が嬉しくなってしまう。回収する手間は増えるけど、おれはぶっかけられるのが好きだからつい優先事項をずらしてしまうんだ。

 見えなくても管理できるよう射精量は把握できるようにしている。それによると、最初ほどじゃないけど、普通よりも多くの精液がリカオンちんぽからあふれているようだった。


 射精中の乳首攻めはきつそうだからちょっと弱めようかな。嫌になられたら困るし。

 だけどタラタネラはそれには気付かないみたいで、胸を押し付けながらよだれをまき散らしている。初めて内部を犯されたこともあって、巨乳はずっとけいれんしっぱなしだ。


「もっ♡きもちいぃ♡普通にオナニーするより♡ずっどおおぉ♡♡出る出るっ♡もう♡止まんなっ♡♡んほおおおぉぉぉ♡♡♡♡」

「んちゅる♡じゅぷ……んっ♡おいひい♡んおぉ♡乳首すんごぉ♡」


 おれは伸ばされたタラタネラの舌をしゃぶりながら、んふんふと快楽にあえいでいる。乳首が中から開発されるのは快楽が強くて、気を抜けばおれもいっちゃいそうになる。

 だけどまだだ。せっかくするならもっと気持ちのいい射精がしたい。


 タラタネラの巨乳を揉みながら落ち着くまで待とう。筋肉と脂肪の芸術品は掌に吸いついて揉み心地抜群だ。これで母乳が出るようになったらもっとでかくなるなんて夢のような話だよ。


「んぉぉ……アスモぉ♡おっ♡い、今は胸を揉まないでくれ♡敏感だからぁ♡♡」

「わかったよ♡もう落ち着いた?♡んっ♡」

「あと……乳首の♡外してくれ♡さっきからずっと♡中がむずむずしておかしくなりそうなんだよ♡」

「ああ、タラタネラの負担がすごそうだったからちょっと弱めてあるんだよ♡でも、むずむずって……もしかして足りないとか?♡」

「いや♡その……♡違うんだ♡さっきはもっと気持ちよかったから……♡でもこれ以上はいいよ!♡本当におかしくなるから!♡」

「んーじゃあ外そうか♡おマンコと乳首同時は、タラタネラにはまだ早かったかもね♡」

「できればずっと知らないままでいたいんだけど……♡」

「それはむーり♡タラタネラだって興味あるでしょ♡♡」

「それは……」


 口ごもってるところからまんざらでもなさそうだね。おれは胸を寄せてあげて、揉むようにと促した。タラタネラには及ばないけれど、おれだって筋肉が付いたでかい胸をしているんだ。乳首はおれの方がでかいけどね。

 半透明なスライム越しに浮かぶおれの乳頭は明らかに肥大化しているのがよくわかる。おっぱいだけ見せられたら女性に間違われるかもしれないね。まあ肩幅とか腕のごつさはごまかしきれないんだけど。


「タラタネラ♡いいよ♡」

「う、うん……♡」


 一人遊びの集大成みたいな肉突起を前に、タラタネラが喉を鳴らす。三発分出したのにまだ硬くなる一物は本当に優秀だ。これなら跡取り問題とは無縁だっただろうに。元婚約者も見る目がないなあ。

 おずおずと、だけどしっかりと胸に掌を沈ませれば、ちゃんと筋肉の弾力がリカオンの掌を包み込む。ここ最近の行為で揉みなれた手は遠慮が薄い。わし掴みにしながら、指が鉤爪のように食い込んでくる。それでおれが喜ぶってもうわかってるんだ。


「おっ……♡♡」


 でもそうすると、おれのおっぱいで内圧が高まるから、乳首に染みこんだスライムが押し出されるんだ。


「あひゃぁ♡おっぱい、出るううぅ♡♡」


 これこれ、この感覚がたまらない。乳頭の穴をこじ開けられて中をこすられる感覚に、おれは体をこわばらせて喜びの声を上げる。まるで本当に母乳が出たみたい。乳首全部が包まれているから視覚ではわかりづらいけれど、鋭い快楽に腰がカクカク動いちゃう。

 スライムの力よりもタラタネラの揉む力の方がずっと強いから、自動での攻めなんかとは比べ物にならない快楽が発生している。おかげで向かいのリカオンは驚きのあまり尻尾を伸ばし、鼻面を天井に向けて喉仏をおれに見せつけていた。


「んおおおぉおぉ~♡まっ、これ♡やばいいいいぃぃ~~♡♡♡」

「んふううぅ♡すっご♡これやばいよね♡母乳出したいときはっ♡代わりにこれをずっとやってたんだよ♡タラタネラのぉ、力が強いからっ♡本当に搾乳されてるみたいだろ♡♡」

「先に言ってくれよっ♡♡お゛っほおぉ♡おかしくなるって♡言っただろうにっ!♡♡あっ♡無理無理っ♡すごすぎるからああぁ♡♡おおおぉ♡おっ♡……おおぉ♡♡」


 しかもタラタネラにとって悪いことに、硬直した手が力んでしまったせいで、さらなる圧がおれの肉袋にかかっている。それは快楽を凝縮させる行為でしかないから、おれらは二人してベッドの上でのたうち回り、脳みそを多幸感で焼いている。


「んんううぅぅ♡さすがに、ちょっと、強いかもっ♡乳首、取れちゃいそうだっ♡♡」

「ふんごおぉ♡おおぉん♡おっ♡おっ♡今♡胸でいったばかりなのにっ♡おおぉぉぉ♡おっぱいが、くせになる♡こんなのおおぉ♡おっおおぉぉん♡」


 ミルクの代わりにスライムを出して、ここが気持ちいいのだと体に教え込む。危うくおれも出してしまいそうだったけど、何とかこらえた。メインディッシュの前におもらしするのはおれの好むところではないのだ。


 やがて全部出し切ったスライムがきゅぽんと抜け落ちれば、弄られまくって充血したおれのデカ乳首がわずかな痛みを訴えている。毛皮のない乳輪が汗を綺麗に反射しているから、淫靡な艶が肉赤を際立たせていた。

 今しゃぶられたら我慢が決壊しそうだったけど、タラタネラの目に浮かんだのは欲情より心配だった。


「はぁはぁ……まったく、やりすぎだよアスモは♡こんなに赤くなって……痛みは大丈夫かい?」

「調子に乗りすぎちゃったかも♡タラタネラとするのが楽しくて、つい♡」

「治療はするけど、無理は禁物だよ。まさか乳首にスライムを染みこませるとは思わなかったよ……まあ、気持ちよかったけどね……」


 そう言いながらタラタネラはほのかに赤いオーラを出して乳首を癒してくれる。これは生命力の増強などが可能だから、怪我をしてもすぐに治ってしまう優れ物だ。こういうところにオーラ使いの練度がうかがえる。

 でも、おれが嬉しかったのは真っ先に心配してくれるところ。一人遊びでは絶対に得られない充足感は相手がいてくれるからこそだと、おれは知ってしまった。

 

「……それで」うかがうようにリカオンが口火を切って。「あれ、本当に使うのかい?」


 控えめにおれを見る瞳には、あの極太ディルドをハメることに対する不安だけでなく、確かな期待がうかがえた。

 こんな太いものをタラタネラにハメるなんてことはしない。あくまでおれの快楽を共有するだけだから、安心してほしい。


「安心は……あんまりできないね……。乳首だけでもあんな……うぅ、ひょっとして、私はもう戻れないかも」

「おれがいるから大丈夫。おれなら精液さえもらえれば、いつでも付き合えるよ」

「またそんな甘い言葉を……」

「だから、やろ♡」


 にこりと笑いかけると、無言が返ってくる。それならと魔法で浮かせたディルドをアナルへとあてがうと、ひんやりした興奮への期待が粘膜を色めかせた。

 そうすると、不安がいまだくすぶるタラタネラの口から、気娘みたいな声が漏れる。処女という意味ではそうなのかもしれないけど、肉体の雄々しさからは想像もできない声色だった。


「ひぅ……!」

「かわいい声♡興奮しちゃうね♡♡」

「あまりからかわないでくれ……♡私にかわいいなど……んうぅ♡」

「本当なのに♡タラタネラはかっこいいけどかわいいよ♡」


 前に見たことあるけれど、タラタネラのアナルは完全に未使用なのがわかる綺麗なすぼまりだ。対しておれはアナニーでぐっちゃぐちゃにしすぎたせいで、ドーナツ状のふっくらアナルになっている。

 別に治そうと思えば魔法で治せるんだけど、その方がエッチだからそのままにしてるだけ。だからタラタネラが後ろの快楽を知ったとしても、おれがきちんとサポートするつもりだよ。


「タラタネラ♡」


 手を伸ばして屈強なリカオンに抱き着き、素肌を重ねる。寝ころんだままベッドで向かいあうおれらはまるで恋人同士のように毛皮を撫でて、性感を高めていく。


 ぐっぐっ、と中に入れていいよねと確認のために押し込めば、リカオンの耳が大げさに立つ。それからすぐに目を伏せてそらすと、小さく、本当に見間違いかと思うほど小さい幅で鼻を下へと向けて頷いた。


「じゃあ、入れるね……♡」


 不安を吸い取ろうと鼻面に軽いキスを落としてから、排泄器官から来る反発を押し切って、一気に中へと埋めていった。


「んおっおっ……いつ入れても、これ、太ぉ……♡♡でも、きもちいいねえ♡タラタネラ、これがおマンコの快楽だよ♡」

「んっくっ♡んほおぉお♡おおぉん♡♡待って……待ってくれ♡♡なんだこれ♡ぞくぞくと、こんなの知らない……♡アスモぉ♡♡」


 顔面を崩しながら、リカオンはおれにしがみつく。恐怖と興味が混ざり合って精神すら犯されているようで、たびたび快楽に浸った嬌声が漏れるのに目だけは切なく歪んだまま。


「おっおっおっ……おおおぉ……入る……入ってくるっ♡♡♡」

「ふうぅ♡あーすごいいぃ♡生ちんぽの方が欲しいんだけど♡これはこれで、やっぱり、きくねえぇ♡♡」

「んおおぉっ♡っほおおぉ♡し、尻をえぐられているはずなのにっ♡頭の中に、ごりごりってきてる♡なんだこれぇ♡」


 イボというイボがヒダを殴りつけながら、内壁を削岩しながら奥へと進む。タラタネラがごりごりって言うのも間違いじゃない。遊びなれたおれでもお腹の中で暴れられている感覚が抜けないんだ。

 腸を無理矢理こじ開けられて広げられる感覚は、自分が犯されているという実感を強くしてくれる。そこに恍惚を抱くかどうかは人それぞれだけど、気持ちいいってわかれば理解できると思っている。


 だから、不慣れた刺激に目を見開くタラタネラの新しい地平を開拓するため、おれはケツマンコでディルドを飲みこんでいく。


「ああぁ♡たまんないぃ♡最近はずっと君の手伝いばかりだったから、久しぶりのおマンコ気持ちいいねえ♡」

「んおっ♡っほおおぉぉ~♡それについては♡申し訳なく思うけどっ♡さすがに、これっ♡これは♡きついいいぃ~っ♡♡」


 入れたこともないのに自分の穴が広げられるってどんな感じなんだろう。おれは慣れてるし気持ちがいいけど、タラタネラは雄の尻穴がこんなに広がるなんて知らなかったに違いない。

 快楽に驚愕を混ぜ込んでは何も入っていない尻をもぞもぞと動かすけど、おれから見たら誘ってるようにしか見えないって。だから無自覚にスケベを垂れ流しすぎ。


「んっふぅ♡はぁ♡あっ♡おおおぉん♡♡」


 しかも吐息の艶がどんどん増してる。確かにおれの感覚だから快楽強めだけど、それにしては順応が早い。尻は気持ちいいっておれの布教の成果なのかもしれないが、タラタネラは尻で快楽を得ることにあまり忌避感を抱いていないようだ。

 それならもっと奥まで入れても大丈夫かな。ご無沙汰マンコの奥をどんどんとこじ開けると、リカオンの足先がぴんと伸びた。


「んおおおぉおぉぉ~~~~♡♡♡まだ入るのぉ♡それ以上はっ♡アスモのお腹が、裂けるんじゃぁ♡」

「んうぅぅ♡はぁ♡全然平気だよ♡タラタネラから比べたら小さいかもしれないけど♡おれだってガチムチの大男なんだからさ♡これくらいぺろりだよ♡♡」

「ひぅうぅ♡でも、駄目なところに入ってないかい♡♡ここっ♡お゛んっ♡圧迫感が強すぎて♡体に芯が通ったみたいだよっ♡♡」

「でも、気持ちいいでしょ?♡」

「それは、そうだけどさあぁ♡♡自分がこんな奥に、入れられる気はっ♡しないよっ♡んおっおっおおお~~♡♡」


 涙でぐずぐずになりながらも、顔はちょっと笑ってる。思った通り、タラタネラは結構スケベだ。間近で見てると股間が熱くなってくる。おれもスケベな自覚はあるから、共鳴を起こしてるみたい。

 だけど最初は誰だって怖いよね。おれはキスを繰り返しながら不安を吸い取ろうとして、リカオンのむっちりしたお尻を撫でる。タラタネラは胸だけじゃなくて尻もでかいから、騎士服の凹凸が前と後ろにわかりやすく突っ張っているんだ。


 訓練を後ろから見てるとデカケツの形が丸わかりだし、なんでこれで処女なのか不思議でならない。肉に押されて閉じた谷間に指を滑り込ませると、ありもしない刺激にけいれんしている蕾を感じられた。


「んほおぉぉ♡今は駄目だ♡なんだかすごく敏感になってるんだよっ♡」

「ここに入れてるのわかる?♡でっかいイボ付きディルドが尻穴を拡張してずぶずぶ入ってるの♡♡♡」

「んっ♡わかってるから♡でも、私は別に♡♡これ以上を望んでないからぁ♡♡」

「さすがにおれでも嘘だってわかるよ♡早くここを広げて、一緒に双頭とか咥えこんで遊ぼうね♡♡……ほら、もう全部入ったよ♡♡」


 感覚を共有しているタラタネラにもわかるはずだ。奥まで届く凶器みたいな張り型の存在を。苦しいと気持ちいいの相反したるつぼの中に、絶対充足感があるはずだ。

 

「はうぅ♡」呆けた吐息を向かいのリカオンへと吹きかけて。「すんごいねえ♡気持ちいい♡」

「う、おぉ、おおぉ……♡今日はもう、これで終わらないかい?♡それか魔法を解いてくれてもいいよ……♡」

「でも後二回分の射精が残ってるよ♡おれはタラタネラにもこの気持ちよさを味わってほしいんだ♡そうすると、拡張する楽しさもわかるからさ♡♡」

「ううぅ……だけど……♡」


 弱々しい拒絶は理性と本能のせめぎ合いだ。タラタネラが本気で拒めばおれができるわけもない。腕に至っては拒むどころかおれを抱き寄せてくるしまつだ。

 そうなると、もっとしてほしいってお願いしているようにしか見えない。リカオンの鼻をぺろりと舐めてから、ディルドをゆっくりと引き抜いていく。


「おぉぉ♡」案の定、タラタネラの声は甘くて。「すごっ……おおぉん♡これ、すごいいいぃぃ♡♡おっほおぉおぉぉ~♡♡♡」

「んううぅ……ああ、いいぃ……♡♡どう、タラタネラ♡これがアナニー好きのおマンコだよ♡」

「な、中、えぐられるっ♡ほひっ♡ちょっと、これ、やばすぎる♡今までのより、ずっとおおぉ♡んおおおぉぉぉ♡♡♡」


 タラタネラがのけぞって喉仏をさらすから、つい舐めてしまった。毛づくろいをしてあげると、肉盾のような体が震える。弱点を攻められながら得る快楽に先走りを飛ばして、おれの太ももの毛皮を湿らせた。


「抜けるっ♡おっ♡おおぉぉ♡お腹の中、全部、引っこ抜かれるううぅ♡♡」

「ふおおぉ……イボにマンコが引っかかるの気持ちいいねぇ♡♡んおっおっ♡ああぁ♡早くタラタネラとレズセックスしたいなあぁ♡♡そのためにすごい淫具作ってあげるからね♡♡」

「い、いらないっ♡尻がおかしくなるっ♡もう抜いてくれっ♡お願いだっ♡♡」

「ごめん♡ちょっと無理かも♡」


 さすがにここまで来てやめたなんて言わないで。おれはタラタネラと最後までしたい。一緒に気持ちよくなってくれる人がいると、喜びが全然違うから。


 だからぎりぎりまで抜いた凶器を、今度は一気に中へと押し込むんだ。


「ふおぉ――――」

「おほおぉ――――」


 今度はおれも背筋が伸びて、二人同時にのけぞる。暴力的な快楽を前に、悪魔と騎士は雄としての本能のままに叫びだした。


「「おおおぉおぉぉ~~~~♡♡♡」」


 気持ちいいっ♡脳みその中が白滅するくらいの衝撃に息が詰まるくせに、喉はずっとアヘオホと嬌声をまき散らしている。

 向かいのタラタネラも同じみたいで、今までで一番すごい顔をして喘ぎ狂っている。おれ以外に見られたらドン引きされるんじゃないかな。でもすごくちんちんにくる顔。おれはタラタネラのこういうところも大好き。


「んぎもぢいいぃいぃ♡アスモっ♡駄目だって♡私が、雄に戻れなくなるっ♡」

「大丈夫♡タラタネラの精神力ならちょっと性癖が拡張されるだけだって♡おれと一緒に♡アナル狂いになろっ♡♡」


 悪いけど、おれはもう待てない。タラタネラというとてもいい雄の射精をサポートし続けてきて、溜まった欲求が解放を訴えてる。今までずっと我慢してきたんだ。ちょっとくらい許してほしい。


 魔法のピストン運動を不規則なものへと変えて、おれの意思が絡まない悦楽を共有しよう。

 ズコバコするくせに、決して力任せじゃなくて、たまに浅いところをコスコス突いたりと、慣れさせないようないやらしい動き。おれが自分で遊ぶ用に開発した、おすすめのコースだ。


「ふほぉ♡おおぉ♡んっふっふっ♡しゅごぉ♡へひぃ♡♡♡」


 余裕ぶっていたおれの顔がどんどんとタラタネラに近くなる。今までリードできていたのは慣れた刺激ばっかりだったからで、本気でおマンコをえぐられたら耐えられるわけがない。

 それに、こうじゃないと満足しないしね♡


「おほおおおぉぉ~~~~♡♡」


 そして、おれでもぶっ飛んじゃうってことは、タラタネラにとって途方もない刺激ってこと。

 リカオンはもうスプリングが壊れそうなほどに体を弾ませて、全身からフェロモンを発汗させている。特に激しいのは腰で、種付け人形みたいに揺れ動く。おかげでおれらのデカマラたちが荒々しいぶつかり合いを繰り広げちゃって、その様はまるで雄比べみたい。


 でもこういうのも興奮するから、おれも便乗して股間を強く押し付けて兜合わせに勤しんだ。すると、ただでさえ硬かったリカオンちんぽがぐっと収縮して、すぐ後に熱い粘液がぶっかかる


「いーーぐっ♡♡いぐいぐいぐいぐぅうぅうぅ♡♡♡♡おっほぉ♡おっほおおぉぉぉ♡♡♡」

 

 あっ、おれの股間にザーメンが飛んでる。タラタネラ、もういったんだ。

 ザーメンを回収しないといけないのに、今のおれにそんな暇はない。気持ちよく脳みそがぶん殴られてて、魔法なんて組み立てられないよ。自動回収機能をつけるの忘れてたなあ。


 本当はおれのザーメンと混ざったら駄目なのに、目の前の射精欲に踊らされて腰ヘコが止まらない。だって、最高の射精をするために耐えてきたんだ。こんなところで終えられない。


「まっ、アスモ♡いってる♡いっでる゛がらああああぁ♡♡♡」

「ん、おおぉぉ♡もうちょっと、待ってえええぇ♡ひぅおおおぉ♡当たってる♡おれの前立腺っ♡きもちいいとこおおぉ♡♡」

「んおほおおおぉぉ~~~~♡♡♡なにここおぉっ♡いっでるのに♡こんなのされだらぁ♡ずっと気持ちいいの♡降りられないいいいぃいぃ♡♡♡」


 激情の奔流に溺れないようにか、タラタネラはおれをきつく抱きしめた。若く雄臭い汗の匂いはおれの発火剤で、それに加えて混ざった精臭が金玉に発破をかけてくる。女性なら眉をしかめるだろうけど、おれは好んで肺に取り込むよ。

 

 だけど匂いだけじゃ満足できない。おれはタラタネラともっとつながりたい。


「たら、たねらぁ♡♡キス、しよ♡いっぱい♡ねっ♡んっふうぅう♡♡おれと、おおおぉ♡口だけでも、つながってさ♡」

「ふおおぉ♡アスモ、アスモっ♡♡んぎおぉっほおおぉ♡♡キスっ♡するっ♡おおぉぉん♡♡♡」


 互いに性感を高めあった状態だから、行うキスも荒々しい。噛みつくようなって表現は聞いたことくらいあるけど、昂ると本当にそうなるんだと身をもって実感した。

 牙が何度もぶつかって変な振動が頭蓋に響くけど、それ以上に気持ちいいから気にならない。黒い手がリカオンの頭をつかんで引き寄せて、褐色の手が黒虎の頭を握って固定して、おれらは嬌声と唾液を胃に流し込んでいく。


「はふっ♡んっ、れろぉ……♡♡ひあああぁ♡気持ちいいねええぇえぇ♡キスしながらおマンコ弄られるの♡癖になりそうっ♡♡おっふうぅ♡」

「アスモ、ごめん♡うまくキスできなくて、んおおおぉ♡牙が、ちゅぅ……口に当たってる、よねっ♡♡おほおぉ♡♡」

「気にしないで♡怪我なんて……いくらでも治せるからっ♡それよりもっと、キスしよっ♡タラタネラ♡好きだよっ♡」

「わ、私も……好きだよ……♡」


 それが今この場の戯言だったとしても、好きと言われればやっぱり嬉しい。タラタネラもそうだといいんだけど。

 おれもタラタネラもキスが大好きだから、どれだけ脳がゆだっても口だけは離さない。おっぱい同士がつぶし合うくらいに強く抱き着いて、ずっとついばみ続けている。


「んふっ♡♡んちゅっちゅっ♡あふううぅ♡……あ゛っ♡あおおぉぉ♡いつもより気持ちいぃ♡タラタネラとキスしてると、すっごい幸せっ♡♡」

「おほっおほっ♡んむうぅ~♡そう言ってもらえると……んおおおぉ~?!♡♡すんごいのきたああぁぁ♡♡はへっはへええぇ♡♡」


 自動操作のディルドに遠慮なんて文字はないから、おれのおマンコはもう愛液でびしゃびしゃ。タラタネラは自分の嬌声で聞こえてないだろうけど、ぐっちょんぐっちょんってすごい音がしてる。

 だけどそれはおれらのキスも同じ。粘液の撹拌音とか肉の当たる音とか、セックスの汚さがベッドの上にぎゅっと詰まってる。

 一人でやるよりも汚さが強くて、それが股間にすごいくる♡満足そうに表情を崩しているおれの口から、よだれが滂沱とこぼれた。


「おっおっ♡♡んれろ♡」滴る唾液がリカオンの舌に絡めとられて。「ふおぉん♡あ~すごいっ♡おんぉおぉぉ♡♡私の尻、駄目になるっ♡奥までぇ、ずっと、ごんごんきでるっ♡♡♡」

「さいっこおぉだよねえぇ♡あぁ~♡い゛っおひぃ♡んっうぅ♡ふあぁ、あぁぁん♡♡んへへへぇ♡♡気持ちいぃ♡あっあっ♡ふおおぉぉぉぉ♡♡♡♡」


 たまに喘ぎ声で途切れることはあるけれど、黒虎とリカオンは深い口づけをして、息の続く限り舌を絡め踊らせる。鼻水のせいで呼吸が苦しいけど、おれは悪魔だしタラタネラはオーラマスターだ。多少の無理は肉体能力でごり押しできる。

 頭を固定したせいで、股間の恥ずかしい動きが目立っている気がする。さっきからずっと二本のちんぽが戦いを繰り広げているんだ。おれがタラタネラの上背に迫る体躯だからこそ、肉棒のつばぜり合いが可能なんだろう。


「タラタネラもさ、ついでにエッチな言葉を覚えようっ♡これから雄を誘う時とかにっ、あっはぁ♡役立つよっ♡♡♡」

「私は別に、そんなの……んおっ♡いらないからっ♡アスモが、付き合ってくれるんだろっ!♡♡んふぅ~♡♡ぢゅうぅ♡もう、こんな姿♡アスモ以外にいいぃ♡見せられないよっ♡♡♡」

「タラタネラ~♡♡♡……お゛っふおおぉおぉぉ?!?!♡♡♡」


 感極まって頬ずりしたら、そのタイミングで最奥がどつかれた。あれだけ蜜月のように親密だった口も快楽には勝てない、感謝の言葉も出せずにおれらは二人してのけぞりアクメを決める。


「お゛っっっっっっほおおおおぉぉぉぉ~~~~♡♡♡♡」


 やばい♡ディルドが完全にいかせるモードに入った♡孕ませようとする雄の動きで奥を、雄子宮をこじ開けようとしてきてる♡♡

 気分はさながら4Pだ。タラタネラと向き合ったまま雄ちんぽをハメられてる感じ。ここにユランも入ったら6Pで遊べるかも。


 なんておれの浮ついた妄想は、大振りなストロークで根元まで挿入される衝撃で一気に消し飛んだ。


「あううぅ?!♡♡んひゃあぁぁ~~♡♡♡」

「おほっ♡おほっ♡おっほおおぉぉぉぉ♡♡♡♡♡」

「すっご♡すっごぉ♡遠慮ない生ハメって感じっ♡♡おおおぉ~~♡♡きっくううぅぅぅ♡♡」

「おおおぅ♡お゛っおおっほおぉ♡♡♡広がるっ♡尻の奥、お゛、おおおぉぉん♡♡♡」


 ディルドの勢いはすさまじくて、おれのマンコがめくれるんじゃないかって心配になるほどずっぽずっぽ暴れまわっている。そんな勢いでイボが肛門をこするものだから、脊髄に直接快楽を流し込まれてる気がしちゃう。


 間のシーツは淫液の水たまりになっていて、おれらの先走りが滴っている。多分おれのほうは直接膀胱を押されてるから、ちょっとおもらししてるかも。


「ふっほおおぉぉぉおぉ♡♡♡」

「おっほおおおぉおぉぉ♡♡♡」


 もうどっちのものかわからないほど喘ぎ声は濁りまくっている。眼球がひっくり返っているせいで向かいあっていても顔がぼやけて映るけど、リカオンのオホ顔は何となく想像がつく。きっとおれもすさまじい顔をしてるんだろうな。


 キスを終えて用済みになった手はいつの間にか握られていて、指を絡めた恋人つなぎになっていた。剣を握って硬くなった掌には、おれとは違う男らしさが溢れている。冷静だったらときめいていたんだろうけど、今は脳がオーバーヒートでそれどころじゃない。


「おっおっおっ♡♡♡おおおぉぉぉぉ~~~~♡♡♡♡」


 大きなリカオンの体が反り返ると、でかい胸が水風船みたいに弾む。キスというくびきが無くなれば、解放された筋肉の塊がベッドの上で暴れまわるのは当然だった。

 ユランのベッドが貴族らしい大きさでよかった。そうじゃなかったら今頃どっちかは落ちてたはずだ。


「ぎもちいいぃいいぃぃぃぃ♡♡し、死ぬっ♡気持ち良すぎて死ぬうううぅ♡♡♡もういってるのかもわからないっ♡ずっときもちいいぃ♡いくの、終わらないいいいぃ~~~~♡♡♡♡」


 絶頂からマンコ攻めされ続けてるせいで、リカオンちんぽが狂ったように何かを吐き続けていた。

 精液なのか潮なのか尿なのかもわからない、ただただ雄臭い混合液をまき散らし、シーツやおれらのお腹を湿らせる。時折のけぞりアクメを決めては粘っこいものを放出しているし、もはや本人も絶頂なのかそうじゃないのかの区別はついてないだろう。


「もうちょっとで、終わるからっ♡あひゃああぁぁ♡♡んぅうぅ♡出ちゃう♡ああやっと♡すごい射精できるううぅ♡♡」


 ようやくだ。溜めに溜めたおれのザーメンが爆発し、最高の射精ができるんだ。


 ぐっと尻に力を込めると、マンコ肉たちをディルドにこすりつけさせる。イボ付きの抽挿はひだをミンチにするような勢いで、とどめとなって精巣の弁を開かせる。


 そしてすべての感覚がちんぽに集まってきて、おれは理解した。

 金玉から脳まで、すべての器官が射精へのゴーサインを出したのだと。


「い、いくよタラタネラぁ♡♡おれ、射精するからっ♡もう終わるから♡待っててねっ!♡♡」

「んほおぉ♡アスモ、の、射精いいぃ?♡わかったぁ♡」


 初めてのアナル攻めに思考なんてめちゃくちゃだろうに、それでもリカオンは口角を上げる。恋人つなぎをやめて油断したおれの乳に指を伸ばし、育ちきった淫乱乳首をきゅっとつまむ。


「ふへえぇ?!♡♡た、タラタネラっ♡何をおぉ♡♡」

「おっほぉ♡♡今までっ♡んふおぉ♡お世話になったからさ♡これは、その、お礼だよっ♡♡気持ちいい射精を♡んっふうぅ♡してくれよ♡♡♡」

「待って♡今感覚を共有中だから♡そんなことしたらタラタネラも――――」


 あれだけもう無理だとわめいていたのに、リカオンはおれのために両乳首を一気に引っ張った。奇しくも最初おれがしたのと同じような行為が、今日の締めくくりになったのだ。


「「お゛っお゛お゛ぉぉぉぉぉ~♡♡♡♡♡」」


 今度の雄たけびは二人分。どちらも腹から声を出した大音量で。


 そして射精も二本分。温泉でも掘り当てたのかと思うほどの水圧が、おれらの体に飛沫を立てる。

 特におれの勢いはすさまじかった。暇なときに一人で処理してたはずなのに、オナ禁してたのかと疑うほどの苛烈さが尿道に圧をかけてくる。


「ふおっおっ♡♡ちんぽ持ってかれるっ♡中から爆発してるみたい♡すごいいいぃいぃ♡♡♡」


 こんな気持ちのいい射精、したことない。初めてオナニーした時よりも、初めてアナルでいけるようになった時よりも、今が一番気持ちいいっ!


 それもタラタネラのおかげだ。おれは眼前のリカオンにしがみつくと、嬌声の合間に感謝を叫ばずにはいられない。


「気持ちいいよタラタネラぁ♡あふぅ♡はううううぅぅ♡♡♡」

「私も、だよ、アスモっ♡♡おほおぉ♡んほおぉおぉぉ♡♡♡」


 もはや自分が何を言ってるのかわからないし、タラタネラが何を叫んでいるのかもわからない。思考が全部真っ白になって、精液を吐き出すちんぽだけがおれのすべてになっていた。

 のたうつ巨大な肉塊が二つ、雄臭い汁を延々と吐き続ける。ベッドは水浸しになっていき、体をひねるたびに毛皮に何かが染みこんでくる気配がした。

 もうタラタネラの精液は分離回収が不可能だろうな。なんて脳の冷静な部分がそうつぶやいている。でもいいんだ。こんな気持ちよくしてもらったなら、おれが妥協すべきだから。

 

 やがて絶頂が終わったおれらは無言でキスへと戻っていく。そうするのが当然と言わんばかりに、甘い空気を漂わせて体をまさぐった。


「ちゅっ♡んっ♡タラタネラ♡♡」

「ん♡ちゅぅ……アスモ……♡♡♡」


 もぞもぞと余韻を噛みしめつつ、キスで感想を伝え合う。あれだけ怖がっていたタラタネラだったけど、終わってみれば満足そうに舌を差し込んできた。

 なんだかこうしていると恋人同士みたいだ。お互いにキスが大好きなせいで、錯覚しそうになる。おれは悪魔なのにね。


 だけど今だけはそんなことを考えるべきじゃないってわかるよ。少なくとも、タラタネラはそんなこと望んでないと思うから。


 だからおれらは満足するまで、延々と絡み合う。わめき声は鳴りを潜め、寝室には軽いリップ音と甘い声だけで満たしていく。事後のけだるさでぼんやりとした視界では、リカオンの優しい顔が微笑んでいる。


 ああ幸せだなって思う。魔界で味わえなかった幸福感はリカオンの唾液の味をしているんだ。すすればすするほど、おれの心は満たされていく。


「また、しようね……♡」

「…………ああ♡ちゅぅ♡」


 時間をかけすぎたせいでしびれを切らしたユランが殴り込んでくるまで、おれらはずっとキスしたままだった。


****


 それから悪魔召喚についての手がかりをつかむべく、おれらはニグレスを足掛かりにする作戦を実行した。


 手順は簡単、呼び出したニグレスに魅了の魔法をかけるだけ。ユランからの呼び出しと言うことで、ニグレスは疑いもなく執務室へとやってきた。

 この大柄なネズミは考えが足りないと言われているだけあって、今この状況で噂の渦中にいるユランから呼び出されても気負いなど全く見えない。白く整った毛皮だけを気にしているようで、きざな仕草が鼻に突く感じ。


「自分のことをお呼びでしょうか、隊長」

「……ああ、そうだな」

「何でも個人的に話があるとか。ついにおれの話を受け入れてくれるんですね!」

「……それに近い話ではある」


 姿を隠したおれはユランの近くに浮いているから、額の青筋がよく見える。相手はきっと自分に気があるはずだと信じて疑わないその自己肯定感はどこから来てるんだ? 浅薄の擬人化か?


 いいところの三男として甘やかされてきたんだろうなあ。悪魔からすればいいカモでしかない。こういう人とは公平な取引が出来なさそうだから、おれは遠慮するけどね。


「早くしろ、殺すぞ」


 ぼそっと黄金の犬が小声で脅してきた。このまま放置すれば血が流れること間違いなし。おれかねずみかのどっちかは分からないけど、確実な未来だ。


 ニグレスは確かにちょっと鍛えてそうだけど、ユランやタラタネラと比べれば全然弱そうだし、おれの魅了も簡単に通りそうだね。


 えいっと軽い魅了……というか催眠をかけて、言うことを聞かせるようにした。

 本当はユランが色仕掛けでたぶらかすところが見たかったんだけど、そんなことしようものならおれの首が飛ぶ。なので泣く泣く催眠に切り替えたんだ。


「ニグレス。今日帰る時はこれを持っていけ」


 ユランが持っているのか小さな指輪。悪魔祓いの結界を中和する、おれご自慢の発明だ。

 こういうところで学者型の力を見せておかないとね。戦闘以外はおれの領分だってことを示して、労働単価を上げるんだ。


 これでおれはニグレスと一緒なら結界を通り抜けられるようになったから、明日出勤するまでに家探しできるってわけ。ちなみに、中に悪魔がいた場合おれは死ぬので、しっかり救難信号は準備しないと……。


「わかりました……」


 催眠状態のネズミはぼーっとしたまま指輪を受け取って、ポケットにしまう。これで準備は万全。後はおれの無事を祈るだけ。ほんっとうに危険がないといいんだけど。


「気を付けろよ」


 ユランもそれを理解しているのか、珍しく心配してくれた。ここで死ねとか言わないあたり、根はまともなのがよくわかる。


「まあ任せてよ。おれが使える悪魔だってこと、ちゃんと示してみせるからさ」

「そうでなければ困る。なんのために射精してると思っているんだ」

「んふふ、君らからもっと絞り取るためにも頑張らないとね」

「この事件が終わったら殺す」

「なんでだよ!」


 でも契約がある限りは安全だし、他の人よりかはユランと気楽に付き合えるんだよね。正直安全装置が無ければ怖い。ユランは自分が他を圧倒する武力を持っているってこと、もうちょっと自覚してほしい。


「危なそうなら結界を壊してでも逃げてこい。俺が疑われるだろうが、どうせもとからはめられようとしている身だ。今と大した差はない」

「……思うんだけどさ、その優しさを少しでも周りに向けたらもてるんじゃない?」

「殺すぞ?」

「ごめんなさい!」

 

 そりゃ揚げ足とったらこうなるよ! でも思ったことだからつい口から出ちゃった。


 おれは逃げるように部屋を出て、ニグレスと一緒に屋敷まで向かうことにした。


「……その結果がこれでーす!」


 その翌日、おれは自信満々に成果をテーブルに広げた。前の前には書類や手紙など、個人上の山がこんもりと築き上げられている。書斎などに忍び込んで、大事そうなものを片っ端から持ってきたのだ。

 ユランの家に戻ってきたおれはそりゃもう得意満面よ。こんなに役立つ成果物を手に入れられたんだから、昇給も見込めるんじゃないかな!


「これは盗んできたのか?」だけどユランはいつもの威圧顔だ。

「いや、魔法でコピーを作ったよ。無くなったのがばれたらめんどくさそうだったし」

「そうか、ならいい。いざとなればこっちを証拠として提出すればいい話だしな。筆跡やサインがあれば、十分可能だ」


 ユランも団長なんだからさ、頑張った人に対しては褒めるってことをしたほうがいいと思うんだよね。信賞必罰は基本じゃない?


「頑張ったね、アスモ。おかげで助かったよ」


 だけどユランに足りない人情はタラタネラが補給してくれる。優しく笑って褒めてくれるタラタネラへの好感度がどんどん上がるだろこんなの。ニグレスが浅薄の擬人化なら、こいつらは飴と鞭の擬人化だよ。


 ちなみに急いでコピーを取ってきたので、中見はあんまり精査していない。どうせおれがいた痕跡はないんだから、必要ならまた行けばいい。ニグレスはあの指輪をこれ見よがしにユランへと見せつけるために、ちゃんと身に着けているからね。おかげでユランのストレスがひどいことになってるけど、おれは知らないっと。


「なら、これから中身の確認だな。今回の事件に限らず、いい交渉材料があればいいんだが」

「脅す気満々だね。君もうちの派閥に付くかい?」

「中立でいるための武装を欲しているという話だ。権謀術数に俺を巻き込むな」

「残念。ユランがいてくれれば軍部は大体スウェンガル様の味方になるのに」


 しかもユランは民からの信頼も厚いからね、支持を表明すれば勢力がかなり傾くと思う。もとから第一王子派が優勢なんだけど、味方は多いに越したことはない。

 王太子はもう決まっているのだから、それを崩すには相当なスキャンダルが必要だ。悪魔との契約はそういう意味でもうってつけで、だからこそ、ばれるわけにはいかないみたい。


 こうして二人とは一緒に事件を追ってても、おれもスウェンガルとは会話もできてない。近衛隊長であるタラタネラは個人的にはおれのことを好いているけど、そこのガードは硬いんだ。公私がきちんと弁えられている証拠だから、しょうがないとは思う。

 それに、スウェンガルと取引をしたら、おれが帰っちゃう可能性も加味されているんだろうな。おれの力が必要とされている。そう考えるとやっぱり悪い気はしない。


「……なんだこれは」


 三人で証拠の山を物色していると、ユランが怪訝な声を出した。

 おれとタラタネラは黄金の手にある紙をのぞき込み、その文章を追う。


 えっとなになに……この手紙、中身が今度の聖別についての話だ。

 それによると、近衛隊長――つまりタラタネラが悪魔と契約している可能性があるため、聖別の必要性を訴える内容だ。まあタラタネラの政敵当てだし、不思議でもない気がするけど。


「特に私はユランとは違って平民出身だからね。私が強いのは悪魔と契約しているからだとかなんとかで、こういうやっかみを受けることは少なくないんだ」

「ふうん、人って不便だよね。タラタネラの魂がこんなに綺麗で強いなんて見ればわかる。魂はオーラや魔力の源だよ。それが輝いていれば、実力に嘘がないなんて明らかなのに」

「そう言ってくれて嬉しいよ。腕を磨けばいつかみんなわかってくれると思っていたけど……現実は厳しいからさ」


 どこか哀愁を漂わせてはいるけれど、照れながら笑うタラタネラは可愛い。いやほんと、こんなに可愛くてエッチで強い雄なのに、もてない以前に嫌がらせとかこの世界はどうかしてる。もっとみんな取り入ったほうがいいよ。


「お前のことを馬鹿にするやつがいれば俺に言えと言ってるだろうが。全員ぶっ殺してやる」

「だからなんだけどなあ……」

「お前は俺と渡り合える唯一の騎士だぞ。そんなお前が近衛にいないとなれば、俺の職務も増えるのは明らかだ。だから、できるだけ長く騎士をしていろ」

「あはは、なら頑張らないとね」


 ちょっとの付き合いで、これがユランなりの励ましだってのがわかるようになってきた。相変わらず口下手だし冗談が壊滅的だけど、根はいい人なんだよね。

 ああ、だからタラタネラはユランと友人なんだ。最初はタラタネラならこんなコミュ障じゃなくてもっと他にいい人いるのにって思ったけど、逆にユランが平民だろうと気にしないから成り立ってるってことか。


「それで、お前らに見せたいのは中見じゃない、一番下のサインだ」

「これって……スウェンガル様のものっ?! なんで?!」


 え、待って。じゃあタラタネラを告発したのはおれの契約者の一人である王太子ってこと?! 王太子はタラタネラの味方じゃないの?!


「そうだと思っていたんだけど……これはいったい……?」

「不可解だな。そもそも、タラタネラを近衛の隊長に推薦したのはスウェンガル様だ。それが今になって掌を返すとは考えにくい」

「それに告発するにしても、わざわざ第二王子派筆頭貴族にする理由がない。これじゃあ悪魔憑きの証拠にしてくださいと言っているようなものだよ」

「ひょっとして、今更神殿が動いたのも、王太子による嘆願があったからなのか? いや、それなら自身が対象になるわけがない、これでは自殺行為だ……どうなっている?」

「考えてもこんなことをする理由が見当たらないね。整合性というものがない……」


 だったら悪魔の仕業かも。おれが呼ばれたように、他の悪魔が王太子を魅了とかそんな感じの魔法で操った可能性は?


「それについては近衛であるタラタネラの方が詳しいだろう。最近スウェンガル様の様子に変わったことは?」

「報告には何も上がっていない……。だが、私も四六時中側にお仕えしているわけではないから、こうなった以上断言はできないな。……アスモ」


 リカオンは神妙な顔つきでおれを呼んだ。


「私のようにオーラの強い者には魅了が効かないと言ったね」

「うん、そうだよ。オーラは魂の波動のようなものだし、精神の状態を恒常的に維持する機能もある。魂まで変質したんじゃなければ、不意を突いてかけたところで、タラタネラならすぐ戻ると思うよ」

「それでは、私の部下たちは……君から見て魔法がかかりやすく見えるかい?」

「……正直に言うと、みんな強いとは思うけど、おれならまあ……」


 姿を消してタラタネラについて行ったこともあるから、部下の数人は知っている。あのくらいだったら認識を阻害する程度なら簡単で、時間をかければ深く催眠をかけることだってできると思う。

 騎士の最高職である近衛でもこの程度なんだ、他の一般騎士については言わずもがな。おれが学者型で魔法が得意というのを差し引いても、ありえない話じゃない。


 つまりもしかしたら、王太子だけでなく近衛の何人かが悪魔に操られてる可能性があるってこと?! 確かに犯人は悪魔召喚に詳しいんだ、やろうと思えばできる。おれを召喚した時の技術が、この仮説に信ぴょう性を与えていた。


「それに……」タラタネラが重い口を開いて。「私たちとのパスを繋げたっていう血。スウェンガル様なら採取できるかも……」

「ああ、俺の血は遠征や魔物討伐の時に怪我をした後の装備からいくらでも取れるだろうから気にしていなかったが、近衛のタラタネラや王太子様はそうじゃない、だろ?」

「少し前、剣術指南で手合わせした時に……ちょっと事故があって……その時はスウェンガル様の怪我に頭がいっぱいだったけど、採取されたとしたらそこしか……」

「となると、アスモが呼ばれる前から、向こうの仕込みは始まっていたと考えるべきだ」


 真っ当に考えれば、悪魔のおれでも太刀打ちできない馬鹿強い騎士二人から血を採取するって、かなりの難易度だよ。それこそ、立場をうまく使わない限りは、どこかでぼろが出る。

 取引してからタラタネラがその線から調べていたのに収穫が無かったことを考えてみても、妥当な線と言わざるを得ない。

 

「……はあ、もしそうなら、状況は絶望だな。一か月手をこまねいていたのがやはり響いているか」


 うっ、おれがもっと早く合流できていれば、現状を認識した二人が的確に動けていたのは本当にそう。一か月の間に、近衛や王太子がどれほど汚染されていたのか、正直想像がつかない。


「アスモのせいじゃないよ」でもタラタネラは優しく諭してくれる。「本来なら私が気づくべき事項だったんだ。責任は私にある」

「過ぎたことを悩んでもしょうがない。それに、本当にそうなっていると決まったわけではない」

「そうだね、だからまずは裏を取るのが先決だ。アスモ、相手が魔法にかかっているのかどうかって判断はつけられる?」

「それなら……たぶんできる。おれはどんな依頼が来てもいいように、魔法探知の道具も作ってあるからね」

「ならとにかく確認を急げ。タラタネラは最悪の事態を考慮して、王太子への不信を悟られないようにしながらも、監視の目を緩めるな」

「わかってるよ。さすがにそんなところでヘマはしないさ」


 とにかく、今後の方針は決まった。おれらは素早く王太子周辺の状態を洗い流さないといけない。それによって動き方も、考え方も、全部変わってくるのだから。


「なんだか全部アスモに頼ってて、申し訳ないね。この情報も、部下たちの状態確認も、魔法に頼りっきりだ」

「まあ、そうだな。俺らは戦いこそ得意だが、魔法に関しては悪魔に勝てるわけもない」

「気にしないで。そういう取引を申し出たのはおれだから。でも、ねぎらいたいっていうのなら、たまにはボーナスをくれてもいいんだよ?」

「精液かい?」

「当然!」


 おれはすーっと飛行してタラタネラへと抱き着いた。もう慣れた匂いを吸い込めば、安堵と興奮の混ざった感情に股間が反応してしまう。

 タラタネラも当然のように抱き返してくれるから、ユランの前だというのにキスしたくなってしまった。本当はユランにも抱き着きたいのだけど、さすがに命は惜しい。


「これが終わったら、三人で一日中盛ろうよ! 気持ちいいうえに魂まで稼げるんだ。これ以上のボーナスはないね!」

「わ、私は別に構わないんだけど……」


 そう言うリカオンがちらりと見るのは金色の犬。いまだにおれに触れさせてくれない鉄壁の騎士は、憮然と鼻息を鳴らして殺意を表明している。


「どうして俺を巻き込む。二人でやってればいいだろ」

「ふっふっふっ、おれが気づいてないとでも思ってるわけ? 最近ユランから供給される精液の量も増えてるんだよ。おれの淫具、気に入ってくれてるんでしょ?」

「殺すぞ……!」


 実のところ、ユランはおれに触らせてくれない代わりに、提供する淫具を好んで使ってくれている。召喚される前の一人遊び過激派なおれと似たような状況だと考えれば、いい感じに開発されているに違いない。

 ユランは顔も怖いし殺意をたぎらせる騎士だけど、やっぱり雄だ。しかもタラタネラに負けない筋肉の塊で、雄々しさでは甲乙つけがたいほどたくましい。となればその性機能もさぞかし強いはず。


 ……うん、ユランの体から殺意だけじゃなくてオーラも出てきたからこれ以上の言及は控えます。やっぱり命は惜しいので。


「だけど、本番したくなったらいつでも言ってよ、おれはもう早く本番したくてしょうがないのにさー。タラタネラー、そろそろ本番しようよ。受け攻めどっちでもいいからさ」

「う、うーん、考えとくよ……」


 すでにマンコの快楽も知ったリカオンは拒絶もだんだん弱まっている。本人も気づいてそうだけど、この調子なら取引完了するころにはできそうじゃない?

 最近はキスしながらディルドハメたりとか、お互いの乳首を弄り合って射精とか。おれもタラタネラも毎回汗だくザーメンまみれで、ベッドで絡み合ってるからね。多分だけど、そこらの恋人よりすごいことしてる。

 正直本番してた方が健全なんじゃないかとすら思ってるよ。


「俺としてはそろそろ自分の家でやれと言いたいところなんだがな」

「うぅ……」

「だがまあ、声は聞こえないし掃除もしっかりしているようだから、好きにしろ。それに、俺が見張っておかないと、友人が道を踏み外しそうだ」

「そこまでじゃ……ないと思うんだけど……まだ……」

「大丈夫」おれがすかさずフォロー。「タラタネラは道を踏み外してなんかないよ。ただ真っ当に、スケベになってるだけだから!」

「だからそれはフォローになってないんだよ!」


 いいと思うんだけどな、いかつくてスケベな雄。しかも魂もたくさん! 本当にいい雄だよ二人とも!

 できればユランともやりたいから機会を虎視眈々とうかがってはいるんだけど、付け入る隙が全くない! くぅ、せめて一緒にベッドに入れさえすれば、もうちょっと仲良くなれそうなのに!


「は、話は変わるけどさ」照れたタラタネラが方向転換を図る。「アスモは魂を集めてどうするつもりなんだい? 悪魔は魂を集めるものだとは聞いてるけど、理由までは知らないんだよね」

「あ、そうなんだ。結構有名な話だと思ったんだけど……悪魔が魂を集めるのはね、同胞を作るためだよ」

「同胞……?」

「そう、ほら魔界ってそもそも神様から嫌われてるから、輪廻転生の対象外なんだよ。だから自分で魂を集めないと悪魔が増えないんだ」

「そうなんだ……それは初耳だったよ」

「俺もだ」

「おれたちは子作りをしても子どもを授からない。肉人形が生まれる可能性はあるけどね。悪魔の精液に魂のかけらがないのはそのため、あっても意味なんてないからさ」


 まさか悪魔についてそこまで無理解とは思わなかった。神殿ってところが知識を独占してるのかな。権力維持としては正しいかもだけど、倫理的には好きじゃないなあ。

 でもこれはアピールチャンスかも。悪魔としての知識を教えながら、おれがいかに優秀かを主張するんだ!


「だから悪魔は魂を集めて同胞を作るんだ。優秀な悪魔、それこそ大悪魔とか呼ばれてる方々は本人自体が強いだけじゃなくて、魂をたくさん集めて軍勢を作ってるから魔界での権力も高いわけ」

「同胞……というよりか、それだと配下だね」

「間違ってないよ。大体の悪魔は手に入れた魂で同胞を作る時、決して自分に逆らわないように枷をはめて作ることがほとんどなんだ。だから魂の数が悪魔の強さになるんだよ」

「それで悪魔どもは魂集めに固執してるわけだ。だがお前、最初会ったとき父さん母さんと言っていなかったか?」

「うん、おれの両親は魔界でも変わり者だからね。人の世界が好きでさ、家族ってものに憧れて、おれを作ったんだ。だからおれには枷が無いし、いつでも全力を振るえるよ」


 ……まあ振るえたからといってあの人たちに勝てるとは思えないけどね。育ての親とかいう以前に、そもそも格が違うから。


 おれの説明を聞きながら相づちを打っていたリカオンが、感心したようにつぶやいた。本当に全部初耳だったみたい。タラタネラはユランとは違って、感情が顔に出るからわかりやすい。ちなみにユランはずっと不機嫌面してる。


「なるほどねえ。アスモは悪魔にしては人らしいとは思ったけど、育ての環境が私らと似てるからだったのか」

「そうかも……まあ、おかげで魔界にはあんまり馴染めなかったんだけどねえ。魔界での権力に興味もないし、いいんだけどさあ」

「んん? それならなんでアスモは魂のかけらを集めてるんだい?」

「弟を作るためだよ! 両親から弟が欲しかったら自分で魂を集めるようにって言われてるんだ!」


 人と似たような環境で育てられたとしても、おれは悪魔だ。だから悪魔を作る経験が必要だということで、両親がおれに課題として出したわけ。


「それで召喚されて頑張ってるんだね。でも、魂を集めるってことは誰かを殺すことだから、私としてはあんまり応援できないんだけど……」

「ふふふ、そこで! 天才のおれは人の精液に含まれる魂のかけらを集めることで、魂を構築することを可能にしたわけ! これにより、おれは弟が作れるだけじゃなくて、人と悪魔の共存の道が切り開かれたんだ!」

「ひょっとして、アスモって結構すごい悪魔だったりするのかな……?」

「ただの色狂いではなかったんだな」

「おれのことなんだと思ってたの?!」

「頭のネジが飛んだ悪魔」

「ひどい!」


 確かに悪魔の中では異端だけど、人基準では結構いい人だと思ってるんだけどな!

 人の世界に呼ばれたのはこれが初めてだけど、いろいろ見て回った結果、やっぱりおれは真っ当だと思うんだよ! こんないい雄とエッチしたいってのは誰でもそうだろ!


「ふふ、ユランなりの誉め言葉だよ。わかりにくいけどね」

「コミュ障が……」

「うるさい、殺すぞ。それで、どれだけのかけらがあれば魂ができるんだ?」

「理論上はこの部屋いっぱいかな。精液に含まれるかけらも微々たるものだから、精液換算だとそれの数倍にはなるけどね」

「気の遠くなるような話だが、悪魔の寿命が長いからこそか。俺には関係ない話だな」

「魂が一つできる頃には、私たちはいなさそうだね」


 あーそっか、おれとこの二人の寿命は全然違うから……。

 それを考えると胸のあたりがきゅぅってなる。そんなことわかってたつもりだったのに。


「つまり、アスモの話を要約すると」ユランが考え込みながら。「魔界では悪魔が軍勢を持っていることがあるから、悪魔を殺すなら召喚されたこの世界で、ということか」

「本当にこの人、敵を殺すことしか考えてない……でもその通りだよ。召喚は魂を手に入れられるチャンスでもあるけど、同時に危険でもあるんだ。だから悪魔たちは自分の身を守るために、最大限の対策を講じてるはずだよ。召喚における互いの傷害不可の契約もその一環だからね」

「その結果が、今の俺たちの状況ってわけだ。悪魔本体が来てくれた方が楽だというのに……面倒だな……」


 まあ、直接挑んでも勝てないだろうし、スウェンガルを使った搦め手で来てるんだろうね。悪魔の策なのか召喚者の策なのかはわからないけど、かなり厄介なことに間違いはないんだ。


「……要するに悪魔を見つけたら殺せるってことだな」

「間違ってないけどさあ!」

「そいつらのせいで俺はうっ憤が溜まっている。その首であがなってもらうぞ」

「こっわ……」


 しかもタラタネラも無言だけど圧が強くなってるし。これは犯人の悪魔を見つけたら確実にやるな。その気持ちは分からなくもないけど。つくづく味方でよかったと思う。


「とまあ、それはまだ仮定の話として、まずは本当に悪魔の魔法があるのか確かめないとね。明日は頼むよ」


 リカオンが会話を締めくくってから、おれを抱き上げる。そういえば悪魔についての講釈を垂れている時も、抱き着いたままだった。

 それにしても、魔法もないのにおれみたいな巨体を楽々抱えあげるとはさすがすぎる。間近で見る胸板の分厚さからも、肉体のたくましさがわかるってものだ。

 

「今日は私が当番だからね。寝室を借りるよ、ユラン」

「ああ、好きにしろ。溺れすぎるなよ」

「……善処するとも」


 苦笑しながらもリカオンの尻尾は小刻みに揺れている。最近すごく積極的になったタラタネラとするのはおれも楽しみだから、気持ちはわかる。虎の尻尾もちょっとそわそわしてるかも。


 今日は何をしようかな♡

 巨木みたいな首に抱き着きながら、おれは尻尾をくねらせるのだった。


****


 結論から言うと、近衛の大部分はすでに魔法にかかっていた。


「はあ」ユランが重いため息を吐いて。「当たってほしくなかった予測だな。それで、どんな魔法なのかはわかるのか?」

「そこまではわからなかったよ。でも、精神に干渉する類なのは間違いない。肉体能力に関してはおれが検査したからね」


 タラタネラの権力を使って、部下を一人一人呼びだして確認してみた。面談というていで会話している間に、姿を消したおれがいろいろチェックした結果だ。


 いつも通りユランの私室にいるおれたちは、今自分が置かれている状況が良くないことを理解し始めている。どうしようもなく後手に回っているせいで、調査したところで外堀が埋められていることを実感するだけなんだ。


「スウェンガル様には接触できたのか?」

「それはまだだよ。今日は私の担当ではなかったから、部下たちを優先して診てみたんだ」

「この様子じゃ、おそらく似たような状況だろうな……」

「まず間違いなくね……」

「解除は可能か、アスモ?」

「もちろん、魔法はおれの得意分野だからね。それについてはタラタネラの報告を聞いたほうがいいかな」

「うん、変わるよアスモ。全員を一気に解除すると怪しまれるだろうから、犯人とスウェンガル様が繋がっているという前提を敷いて、スウェンガル様と接触予定の遠い者から数名選んで解除して、また魔法にかけられないように対処したよ」

「その前提はどこか来ている?」

「アスモが私の仕事に何度も同行しているし、私自身も近衛の詰め所や訓練場には不規則に顔を出している。その目をかいくぐって魔法をかけられるとするならば、候補はおのずと絞られると考えたんだ」

「なるほど、異論はない……が、それは近衛に犯人がいない可能性を高めただけだ。まだ侍女など側仕えの可能性をつぶしたわけじゃないだろ」

「そうなんだよねえ。私たちに聖別を強請している大臣たちについても調査できたわけじゃないから、それに関しては要調査ではある……んだけど」

「そんな悠長にしている時間はない。まあどちらにせよ、これでスウェンガル様が魔法の支配下にある可能性が高まったわけだから、次の調査目標は確定しているな」

「少なくとも、魔法の解除はしておくべきだからね。明日にはアスモを連れて謁見に行くよ」


 王太子の魔法を解いて、これ以上不利な行動をしないよう止めるのが優先だね。

 王宮の守りを貫いて魔法をかけようとすればおのずと経路がわかるだろうし、そこから敵の情報が抜ければいいんだけど。いざとなったら催眠療法で深層記憶にアクセスすることも視野に入れているよ。……タラタネラが許してくれればね。


「敵を排除できるならどれだけでもやっていいだろ。俺も明日は王宮付近にいる。何かあればすぐに呼べ。殺すから」

「また君はそういうことを軽々しく言う……私にとっては取り立ててもらった恩があるんだからさ……」


 聖別が近いということもあって、ユランに遠征の予定などは何もない。だから、今が最も自由な時期であると言える。ユランがこんなに長く王都に滞在しているのもなかなか珍しいみたいだからね。普段はいろんなところに出向いて、戦ってるらしいから。


「俺としては王都なんぞ権謀術数渦巻く息苦しい職場としか思ってないからな。外で戦っていた方がずっと気が楽だ」

「ユランらしいけどさ……よくそれで騎士団長にまでなれたよね。強いだけじゃ難しいと思うんだけど」

「……俺はこれでも名家であるオリーブ家の騎士だからな。俺の父も先代の団長だった」

「あ、そうなんだ。代々いい魂が宿るんだね……きっとお父さんもいい雄だったんだろうなあ」

「ふん、どうだか。あれは力に溺れた愚物だ。少なくとも、俺よりは弱い」

「一応」タラタネラがとっさにフォローをしてくれる。「高名な騎士だったんだけどね。平民の間では人気だったから……」

「はっ」


 友人の言葉もむなしく、ユランはくだらないと鼻で笑った。


「あれが高名なのはそうだろうとも。自分より強い奴を影で追い落としてきたんだから。あんなのは仮初の栄光にすぎん。息子の俺にも嫉妬するような凡愚、父として以前に、人として終わっている」

「私も近衛に入って初めて知ったけど、まあ、王宮ではそんなにいい噂は聞かなかったね……」

「だから俺が蹴落として後を継いだ。あんなのが上にいたら民や兵が不幸になるからな。俺が騎士団長なんぞやっているのはあいつのせいで乱れた軍紀を正すため、それだけのためにこんな面倒な職を選んだわけだ」

「選んだだけで成れるのは相当すごいことなんだけどね」


 その言い草にはとげが感じられて、家族仲が悪いことを匂わせている。普段の殺意とは違う憎々し気な声音が混ざっていて、これ以上踏み込むのはちょっとためらわれた。

 そもそも実の父親に嫉妬されていると聞かされれば、家庭環境が良くないことは想像に難くない。ユランの周りに対するトゲのようなものは、自衛の意味もあったのかもしれないね。

 確かに言われてみればここを拠点にしてからお父さんとは全く会っていない。家庭内別居みたいなものなんだろうな。


 なのでおれは茶化すようにユランの周りを浮遊して、後ろから抱きしめる。家族仲が悪いなら、こうされたこともないだろうしね。


「じゃあつまり、ユランの方がいい雄ってことだね。まあ確かに、ユランみたいな雄が溢れてたら今頃魔界じゃ大悪魔が跋扈してるか」

「悪魔にいい雄だと褒められたところで、何も嬉しくないがな」


 金色の柔らかい毛皮に鼻面を埋めていると、硬い言葉をもらう。だけど、そこに敵意が無いことくらいもうわかるようになってきたから、おれはにへらと笑って腕に力を込めた。

 振りほどかれないのなら、しばらく堪能しててもいいでしょ。


「ふふ、ユランもいろいろあったからね、新しい友人ができて私も嬉しいよ」

「悪魔を友に含めるな。これはただの同僚だ」

「そういうことにしておこうか、ね、アスモ」

「そうだね。ユランは素直じゃないから」

「殺すぞ貴様ら……!」


 友人。そう言ってもらえた。

 おれは悪魔で、この国では唾棄される存在なのに。


 魔界じゃ異端だったから、そう呼べる人がいるのが素直に嬉しい。

 自然と頬が緩んで、金の巨体を抱く手がさらに強くなる。ユランが鬱陶しそうに眉を広めるけど、どかされるまでは堪能しちゃおう。

 最初にいろいろ考えてた悪魔らしいことも最近じゃやってないし、肩ひじ張らなくなって、自然体で付き合えるようになってきたんだと思う。


 我ながら、悪魔に向いてないと痛感するけれど、それでも契約はしっかり守るよ。

 おれと取引してよかったって、そう思えるような悪魔になるんだ。


 そしたら、また呼んでもらえるし、また会えるからね!


****


 王太子スウェンガルは凛々しいシェパードで、生真面目そうに引き締まった口がおれの注意を引いた。絶対的な自分への自信が足りないせいか、どこか神経質にすら感じられる。タラタネラみたいに経験を踏めば、貫禄も増えるのかな。

 鍛えた肉体から見える若々しいこげ茶の毛皮も発色がよく、全身からお金持ちの匂いが感じられる。このまま順当に育てばいい雄になるだろうし、今のうちに唾を付けとくのはありかもしれない。そんなことしたら二人から本当に殺されそうだけど。


「話というのは、一体なんだろうか」


 人払いを済ませた執務室で、座ったままのシェパードはリカオンを見やる。共犯として聖別に呼ばれている相手から内密な話を打診されれば、まあこうなるのもしょうがない。近衛隊長に推薦した本人とはいえ、緊張は隠し切れないようだ。


 対してタラタネラはすました顔で立っている。普段は口を開けばほんわかしているお人好しなのだが、職務中は毅然とした態度を崩さない。

 整ったリカオンの顔は凛々しくて、肉体の分厚さも威圧感を助長している。騎士服の堅苦しさも加味すれば、これは高嶺の花って言われるのもわかるなあ。あんなスケベなおっぱいしてるくせに。


「王太子殿下もお耳に挟んでいることと存じますが、我らにあらぬ疑いがかけられ、神殿への出頭を乞われております」

「そうだな……まったく、どうして私が悪魔と契約しているなどと思うのか理解できん……」


 おっと、こうしちゃいられない。姿を消したおれはスウェンガルの周囲を回り、魔法の気配を確かめる。黒確定みたいな感じだけど、やっぱり確認は必要だ。


「ですが、こちらのつかんだ情報によりますと、どうやら告発には証拠があったようです」

「なんだと……!」


 肩を震わせてるところ悪いけど、これは黒だねえ。おれの魔道具は精確だから間違いないはず。問題は本人がそれに気づいてるかどうかってことだけど……。

 おれはタラタネラに向けて首を横に振って、結果を伝えた。タラタネラとユランだけはおれが見えるようになっている。


「これに見覚えはありませんか?」


 そう言って差し出したのは例の手紙だ。自身のサインがあるそれを、シェパードは驚いた顔で受け取ってから矯めつ眇めつして瞳を揺らす。


「こ、こんなものを書いた覚えは……」

「ないと、おっしゃいますか?」

「あるわけないだろう! 私がなぜ自ら失脚するようなことをせねばならん!」


 まあそうだよね。やっぱり、記憶はないってことだよねえ。

 タラタネラがこっちに頷き返してきて、解除してくれと頼んできた。混乱してるところ悪いけど、もっと混乱してもらうからね。


「だいたい、私がお前を裏切ることなどあるはずがないし、お前が私を裏切ることなどありはしないだろう! それを一番よく知っているのはお前のはずだ!」


 さーてとにかく魔法を解除しよっと。なんかこのままだと修羅場になりそうだし。

 おれは魔法が得意だから、こういうのは任せてほしい。丁寧にやりすぎるから戦闘中は全く使えないけど、少し時間がかかってもいいならお手の物だから。


「誓って、私はこのようなものを書いたりはしていない! だからタラタネラ、私のことを信じてくれ!」


 よし、これで何がかかっているのかはわからないけど、全部解除できたっと……。


「私、私は……わた、わ……クハ」


 ……ん? なんかスウェンガルの様子がおかしいぞ。

 必死に訴えていた声が歪み始めたかと思ったら、体も歪み始めた。まるで粘土をぐちゃぐちゃにしているかのように、スウェンガルという存在が不安定になっていく。

 なになにっ! 何がどうなってるの?!


「スウェンガル様っ?! どうなさいました?!」

「……クハハハ!」

「スウェンガル様、お気を確かに! ……アスモ!」

「わ、わかんないよ! おれはただ魔法を解除しただけ! それ以外のことはしてない! 本当だって!」


 一瞬だけ突き刺さるタラタネラの厳しい視線が、おれの心を貫いた。そんな目で、まるで敵を見るかのように見られると、おれは悲しくなってしまう。


「違う! そういう意味じゃない!」

「……え?」


 リカオンが眉を落としたおれに手を伸ばすと、思いっきり引っ張られる。急に抱きしめられて何が何だかわからなかったけど、シェパードからあふれる気配がその意図を教えてくれた。


「これって……!」

「ああそうだ、これは……!」


 スウェンガルはその存在を変質していき、体は大きく膨れ上がり、頭からは角が、犬の尾が消えた尻からは尻尾が伸びていく。

 

 その存在がスウェンガルを騙っていたのだと、おれらはようやく気が付いた。魔法によって巧妙に隠された真の姿がさらされていくにつれ、おれをつかむリカオンの指に力が入っていった。


「……悪魔の気配だ!」

「クハハハ! 周囲を漂っていたのには気付いていたが、よもやこの私の魔法が解かれるとはな! さすがクラリナ唯一の配下といったところか。噂通り魔法の腕はなかなかのものじゃないか!」

「クラリナ……?」

「おれの父さんだよ! でもおれは父さんの配下じゃない! お、お前は誰だ、答えろ!」


 言葉だけは勇ましいけれど、おれはタラタネラの後ろに引っ込んでいる。何か起こったらすぐに死ぬ自信があるから、このくらいは許してほしい。


 スウェンガルだったものは今や黒狼へと変わり、意地の悪い笑みを浮かべておれらを見つめている。上背はおれよりもでかく、タラタネラと並べば広い執務室が小さく感じられた。

 巨大な黒い狼の上半身は鎖骨から上だけを着飾っていて、襟と袖しかない。そこに白い蝶ネクタイをつけてフォーマルさを演出してるけど、胸元からへそ下まで毛皮がむき出しになっているせいで、ふしだらな雰囲気をごまかしきれていなかった。

 ベルトをかなり下で止めているせいか、ちょっとだけ根元が見えているし陰毛らしい茂みに至っては隠す気が感じられない。しかも乳首がでかい。セックスアピール過多すぎるでしょ、絶対淫乱だよあいつ。


「おっと失礼、自己紹介がまだだったな。私はベルフェ。会えて嬉しいよアスモ」


 ベルフェと名乗った悪魔は逆三角を誇張した大きな体をしている。よく見ると片乳首にはピアスをしていて、そこから小さな鳥かごのアクセサリーがぶら下がっていた。

 多分あの鳥かご、魔法のアイテムだ。でも普通ああいうのってネックレスとかにしない? 一見してど淫乱ってわかるくらい情報量が多すぎるって。


 でも今はそんなこと言ってる場合じゃないし、なんかタラタネラ越しにおれに向ける目がいやらしいから困る。完全に狙われてる気がする。


「お、おれは」タラタネラの背中にギュッとしがみついて。「君なんて知らないけど?」

「クハハ、まあそれはそうだろうね。私が一方的に知っているだけさ。君の研究は素晴らしかったからぜひ一目会いたくて、こうして呼び立てたってわけだ」

「呼び立てたって……おれを呼んだのはお前なのか! 悪魔が知恵を貸したならあの魔法陣の高度さもわかるけど……でもどうして召喚した時にいなかったんだよ!」

「あいつらが間抜けだからだよ。説明する義理はないけれども……私が阿呆だと思われても困るな」


 狼はやれやれと首を振った後、妖艶な笑みを浮かべて話し出す。

 かっこいい顔にエッチな表情が加わって、色気が溢れてるよ。だから絶対淫乱だってこいつ!


「私はアスモを召喚する知識を与える見返りにアスモの身柄を拘束し、私の召喚者が悪魔とのパスを繋げて三人を蹴落とすことができる。これはそういう取引だったんだ。それなのに……はあ、あいつらと来たら、召喚するなり恐れをなして逃げて行ってしまってさ」

「ベルフェの召喚者がおれを呼んだ……? でもパスは繋がってない」

「パスを繋げれば聖別で失脚するからね。でも、例えパスが繋がっていないとしても、召喚者がいればとりあえずついていくだろう? 君がそういう性格だってことくらいわかっているとも。召喚された時に悪魔が目の前にいたらすぐ逃げてしまうかもしれないから、罠を張って待っていたんだよ」

「まあ」タラタネラが頷きながら。「アスモならついていくだろうね。好奇心が旺盛だから」

「そうだろうけどさあ!」


 そりゃおれは気になったら無防備についていくこともあるけれども! そこまで計算されておれを呼ばれたら他の方法でも捕まってる自信があるよ!

 おれの主張を受けてタラタネラが困ったように目を泳がせる。反論する材料がないんだな。それはそれで寂しい。


「でも、悪魔を召喚したのに逃げてしまうなんて、よっぽど向こうは軟弱みたいだね」

「契約が結ばれていないことで安全に対する不安があったのだろうな。それに、何やら禍々しい気配が魔法陣からあふれてきたことで、恐れをなしたようだ」

「…………あ」


 そう言われたら思い当たることが一つだけある。

 初めての召喚ということもあって、おれは意気揚々と応じた。そして召喚されたらやってみたかった行動その1、悪魔らしい登場がしたくて結構盛った。おどろおどろしく噴き出す黒い靄とか禍々しい気配を演出するために向こうの気温を下げたりとか、まあ、いろいろ。

 ちょっと演出過剰かな、時間かけすぎかな、とか思うことはあったけど、まさかそれが怖くて逃げられるとは思わないじゃん!


「…………そっか」

「待ってタラタネラ! そんな呆れた目を向けないで!」

「アスモらしいとは思うけど……だけど、おかげで捕まらなかったんだから結果オーライだね」


 無理矢理褒めようとしてくれる気持ちは嬉しいけど、いたたまれなさは抜けない。まさか召喚者が誰もいないのはおれの登場シーンのせいとか想像もしてなかったよ!


「だから、はあ」狼が愁いを帯びたため息を吐いて。「この鳥かごを王太子に使う羽目になってしまった……おぉんっ♡」


 自分でピアスに付いた鳥かごを触って感じてる……。スケベが服着て歩いてるじゃん。無意識にスケベを振りまくタラタネラといい勝負かも。


「一緒にしないでくれ! わ、私はそこまでじゃないだろ……そうだよね?」

「大丈夫、おれはタラタネラの方が好きだよ」

「嬉しいけどそうじゃない! ……ごほん、そ、それでその鳥かごをスウェンガル様に使ったというのは、どういうことだ!」


 タラタネラって普段は理知的なのに、照れた時にする話の切り替えし方が強引すぎるよね。ベルフェもにんまりエッチな顔してるし、絶対狙われてるよ。

 このスケベなタラタネラはおれの取引相手だから駄目!


「クハハ、仲がいいことで。君もスケベで美味しそうだけど、これ以上はタダじゃ教えられないぜ♡私とベッドを共にしてくれれば、ちょっとは口も軽くなると思うんだけどな♡」

「悪いけど、君に見せる裸はないよ。別に、強引に口を割らせてもいいんだ」


 おれにはためらいなく裸を見せてくれるタラタネラの周りに、真っ赤なオーラが浮かび上がる。敵対者をはじく鉄壁の守りだけど、後ろでしがみついているおれを一緒に包み込んでくれた。

 タラタネラくらいになると手足のように動かせるから簡単な行為なんだけど、嬉しくなっちゃうおれはちょろい悪魔なんだと思う。


「さて、スウェンガル様はどこだ。素直に応えてくれるなら、命だけは助けてあげるよ」

「クハハ! これではどちらが悪魔かわからんな。だが、話には聞いていたが、お前のオーラは実に綺麗だ。血のように赤い禍々しい色、あはっ♡手元に置いて愛でたくなるな♡」

「お断りするよ。悪いけど、時間稼ぎに乗るつもりはないんだ」


 リカオンが剣を振るうだけで、迸る赤いオーラが相対者へと吹きすさぶ。

 ただ圧をかける行為でしかないけれど、彼我の実力差をわからせるには十分すぎる。おれならそれだけで戦意が喪失するけれど、ベルフェは余裕ぶった振舞いを崩さない。

 でも今までの回りくどい策から直接対峙したくない意図は丸見えで、腹の中ではどう逃げるかの算段を企てているに違いないんだ。


「はあ、やはり真正面からやり合うのは無理だな。悪魔より強い騎士が二人もいるなんて、反則だと思わないかい。アスモだけが目当てだったが、君らを手に入れれば私も大悪魔になること間違いなしだ」

「宣言はした。次はない」


 お前と話すことなどないと、タラタネラの顔は険しい。情報を出すか、死ぬか。強者による理不尽な二択を迫り、リカオンは無言で剣を構えた。

 ユランと違って普段優しい顔をしてるタラタネラだけど、やるときはやる。しかも王太子の命がかかっていることもあって、気迫が針のように周囲に満ちている。


 だけど悪魔とは計算高い生き物だから、最初から戦う気なんてないはず。ここで逃がしたら追跡は困難だから、絶対に身柄か情報を確保しないと!


「ねえ、アスモ」


 おれが魔法を組んでいると、狼がこちらを向いた。三日月に歪んだ目は醜悪で、だけど、あれこそが悪魔なんだとおれは知っている。


「君はずいぶん、彼らに入れ込んでいるようだね」

「それがなに? だから君の味方は絶対にしないよ」

「いやいや、気持ちはわかるとも。二人ともめったに見ないほど強い魂の持ち主だ。手中に収めれば、さぞかし魔界での地位も上がるだろうね」

「違う! おれは別に……」


 だけど、彼らの魂をいらないとも断言できなかった。ただ尻すぼみに言葉が小さくなるだけ。


「私は元から君が目当てなんだ。だから、私についてこいよ。そうすれば、彼ら二人を君の配下にしてあげよう」

「なんで、おれなんだよ……! おれは魔界でも異端で、友達なんてできたこともないのに!」

「友達ねえ……そんなものが必要なのかよ。これは取引だ、君は私のために働き、私は魔界での地位を得る。そうすれば、君の願いを叶える。だって私は悪魔だからね」

「おれが役に立つわけ……」

「いやいや、謙遜はよくないぜ♡精液に含まれる魂のかけらを集めて魂を作る、立派じゃないか。でもわからねえんだが、アスモなら配下を作るもっと簡単な方法があるだろ?」

「…………なんで、それを」

「クハハ、少し考えればわかる。君が魔界学園で研究していた経歴が目に入ったのは偶然だったが、それだけでも十分。そもそも考える頭があれば、何故人の精液に魂が含まれていて、何故悪魔に含まれていないのか、答えは明白だったんだ。タラタネラ、お前にはわかるか?」


 話しかけられてもリカオンは答えない。悪魔と話すことで弱みを見せまいとしているんだ。

 おれもそれがわかっているのに、ベルフェのペースに乗せられたら駄目だって思ってるのに、衝撃が身体から抜けない。

 

「アスモ。聞かなくていい。すぐに切り捨てるから」

「王太子の居場所がわからなくなるのにかい? 脅すならもっとちゃんとやらなければね、クハハ♡でも、今はアスモと取引をしたいんだ。少し黙ってくれていた方が都合がいい」

「おれはお前と取引なんて、しない……! それに王太子の場所だって、パスがあればすぐにわかるんだ! お前の話なんて聞くもんか!」


 おれがスウェンガルを本物だと思ったのはパスが繋がっているからだ。裏を返せば、ベルフェの周辺にいることくらいわかる。

 狼はそれくらいのことならすぐ見破られるとわかっていたのか、わざとらしく肩をすくめて話を続けていく。飄々とした態度は悪魔としての格の違いだ。戦闘力とは違うところで、こいつは強い。


「そうだろうね。だから捕まえたかったというのに、馬鹿どものせいで計画が狂ってしまった。アスモさえいれば、召喚されなくとも魂を捕まえ放題だったのに」


 その言葉にさしものリカオンも耳を動かした。聞き捨てならないというのも当然だろう。そして、それがもう狼の術中だった。

 武力で勝てない相手を口で翻弄する。これこそ悪魔だ。ベルフェはこれ見よがしに口角を上げて、口車に乗ってしまった相手を落とさないよう嬉々として答え合わせをし始める。


「アスモはね、輪廻転生の輪から直接魂を引っ張ってこれるんだよ」

「……っ! 本当なのかい……?」

「………………」


 沈黙で肯定を返して、おれはタラタネラの背中をつかむ。相手が確信を抱いている以上、嘘をついてもしょうがない。それに、訂正すべきことがあるのだから。


「まだ、無理だよ。おれはただ、理論を打ち立てただけで、検証はしてないんだ……父さん、魔界学園の学園長から、その研究はやめなさいと言われたから、精液を集めて魂を作る方法に切り替えたんだ」


 何故人の精液に魂が含まれているのか。

 それは微量の魂が輪廻転生の輪から魂を呼び込む触媒になっているから。おれはそう仮説を立てたんだ。そうじゃないと、人が子作りするだけで魂を呼べるわけがない。

 性行為というのは一種の儀式であり、男女の魂を重ねることで輪廻転生の輪から魂が呼ばれ、新たな命が生まれる。それが世界の法則であるなら、模倣が可能なのではないか。魂に男女の区別はなく、卵子より採取しやすい精液を代替に儀式が行えるのではないか。

 これがおれの仮説だ。


 他の悪魔は雄の精液に魂が含まれてるなんて知らなかったし、興味もなかったけど、おれは一人遊び過激派で雄の精液が大好きだったから。両親がたまに持って帰ってくる数々の人由来の物の中から精液を選んで研究して、発見したんだ。


 悪魔にはないのに、どうして人の精には魂が含まれているんだろう。

 その疑問を抱いてから、おれは研究に没頭した。学校では話し相手もいなかったから、それしかすることがなかったし。


 そうしてその仮説を立てて父さんに意気揚々と報告したら、真剣な顔で止められた。

 それは世界の仕組みを揺るがすからって。これは人の世も魔界も狂わせるって。


 今なら理由もわかる。おれが弟を欲している間はいいけれど、その気になれば輪廻転生の輪を狂わせて魔界で一番の軍隊だって作れてしまう。結果として魂が枯渇すれば、人の世は大混乱になるだろう。

 それは人を愛している両親やおれにとって、絶対に避けたいことだった。


「でも、研究は全部破棄したのに、どうして……」

「さっきも言ったが偶然さ。私はもともと、クラリナの弱みでも握ろうと思っていろいろ忍ばせていたからね。そのうちの一つに君が引っかかっただけだぜ♡他にも気づいた悪魔がいるかもしれないし、早めに確保しないとな」

「だから君はアスモを手に入れて、魔界に魂を呼び込もうとした……」

「その通り。だからアスモ、私と協力しよう。見返りにそこの二人は君に渡す。君は彼らを使って好きに過ごすといい。でも、たまには私も混ぜて4Pでもしてくれよ♡」

「そんなの取引にならない! お、おれは公平を尊ぶ悪魔だ! いくらこの二人の魂がいいからって、無数の魂とは天秤にかけるまでもない!」

「違うだろう?」


 愉悦を多分に含んだ耳障りな声がおれの脳みそを撫でる。思わず背筋に寒気が走り、まるでおれに首輪が繋がっているかのような錯覚にめまいがした。


「それは客観的な評価だ。アスモ、君の主観はそう言っていないはずだ」

「なに、を……言ってるんだ……そんなわけ……」

「わかるとも♡私は悪魔だぞ♡君の仕草、目の動き、声音から、君がこの二人を大事に、とてもとても大事にしているのはすぐにわかる。君は賢いが、悪魔としてはまだまだ未熟。私を騙せると思わないでもらおうか」

「違う……おれは、別に……」

「主観的に取引をしよう。君にとって二人の魂は無数の魂以上の価値がある。なら、私の方が損をしてしまうじゃないか」

「いや……そんなはずはない、それは、公平なんかじゃない……」

「じゃあ君は、この二人の魂はいらないのかい? ただ朽ちていく人の体を、眺めるだけでいいのかい?」

「あ……」


 おれの言葉が途切れた時、狼は勝ち誇った。決して知られてはいけない弱点を、おれはさらけ出してしまったんだ。

 おれはユランとタラタネラと離れるのが怖い。こんなに温かい人肌から離れてしまうのを恐れている。悪魔のくせに人らしく育てられたおれは、魔界に帰るのを拒んでいる。


 弟を作りたかったのだって、孤独を癒すためでしかない。兄弟ならおれと仲良くしてくれると思って、だから欲しかっただけなんだ。

 おれはもうそれ以上のものを手に入れてしまった。二人と過ごす時間は魔界にいた時よりもずっと幸せだったから。


「私なら」狼がおれの心に入り込む。「二人を不老長寿にできる。君が望むまで、ずっと側に置けるようにできる。君がいくら魔法が得意とはいえ、人を不老長寿にするには相当な準備が必要なはずだ。その間に彼らが死なないとも限らない」

「……だけど、それは」


 絡めとられている。会話の主導権はすでにベルフェの手中だ。

 狼の描く未来に好感を持っている時点で、すでにおれは負けている。わかっているのに、話を聞いてしまう魅力がベルフェの言葉には宿っていた。相手の欲求を引き出して有利に取引を進める手腕は、さすが悪魔と言わざるを得なかった。


 それを察して、赤いオーラをまとった剣が狼へと切りかかった。有無を言わせない気迫は確実に命を刈り取る強さをしており、執務室の机ごと悪魔を一刀のもとに切り伏せる。

 

 だけど、ベルフェも当然警戒はしていたから、きちんと下がって回避した。防ぐという発想が出ないあたり、ちゃんと威力をわかっているんだろう。これを受け止めようと思ったら、気合を入れて準備した結界が必要になる。


「アスモ、こんな奴の話は聞かなくていいから」


 鮮烈な赤に身を包むタラタネラがさらにもう一歩踏み出して、狼の首を狙う。

 息つく暇すら与えない速攻で、気が付けばリカオンは間合いを詰めていた。後ろ姿からでも感じられる気迫は強く、その背中がとても大きく見えた。


「クハハ、取引中に乱入とは、噂通り育ちが悪いな」

「あいにく敬意を示す人は決めているものでね。スウェンガル様にあだなす者を切るのが、私の職務だ」

「この鳥かごにその王太子が囚われていたとしてもかい?」


 やっぱり、乳首からぶら下がるあれこそ、捕縛するためのアイテムだったんだ。

 もしタラタネラが鳥かごを壊してしまったら、中の人の無事は保証できなくなってしまう。


 ベルフェはアイテムを身に着けることで盾として使うつもりだったんだ。だから、タラタネラを前にしても余裕を崩さなかった。


 それでも、烈火の剣筋は衰えたりしない。


「……は?」


 狼がそれをよけられたのは本能のようなものだろう。おそらくそこそこ戦闘経験があるんだと思う。おれなら首が飛んでる。

 だけど取引に乗ってくると思っていたタラタネラが剣を振りかぶったせいで、巨躯の黒狼は無様に尻もちをつく。リカオンを見上げる目は平静を取り繕おうとしているけれど、まぶたの下がわずかに震えていた。


「……まさかこんなに遠慮がないとは思わなかった。私の話が嘘だと思っているのか?」

「いや……ただ、別にどちらでもよいとは思っているよ。要は首だけを切ればいい話だからね。それが本当かどうかは、切ってから考えても十分じゃないかい?」


 あまりの暴論に狼の口からヒュっと言葉にならない吐息が漏れる。正直おれも同じ気持ちだから、本当に予想外の行動だったんだろう。


 倒れた狼に剣を突きつけるリカオンには油断も隙も見当たらない。鳥かごを傷つければ王太子にも被害が出るかもしれないのに、そんなことはしないと態度で語っている。自分ならそれができると信じているんだ。

 いつもは自信が無さげなタラタネラだけど、あれは好意とか地位とかの話で、剣に関してはこんなにも揺らがない。さすが平民から近衛隊長まで成り上がるだけはある。


「動くな」剣先からオーラを喉元まで伸ばし。「魔法を使おうとすれば首をはねる。鳥かごに触ろうとすれば腕を切り落とす。質問に答えなければ足を切り落とす」

「おしゃべりは許してくれるなんて……ぐぅ!」


 オーラが喉仏を押し込んで、ベルフェから苦悶の声が漏れる。赤い光が悪魔を包んでいけば、生殺与奪の権はタラタネラの手の中だ。


「誰がお前を召喚した?」

「さあ、人の名前なんていちいち覚えちゃ……がああああっ!」


 剣を突きつけたままリカオンは思いっきり狼の足を踏んだ。すごい音がしたから絶対骨は折れてると思う。

 悪魔って元から人より強く作られてる上に、魔法で身体を強化してるはずなんだけどな。それをあっさり折ってる。ユランが同格と考えれば、この二人、おれが思ってたより強いぞ。


「追加しようか、はぐらかそうとしたら骨を砕く。もう一度聞く、誰がお前を召喚した?」

「くは、はは……これは、予想外だった……真正面での戦闘は勝てないと思っていたが、まさかこれほどとは……」

「もう片方も折られたいか?」

「あーあー、降参だよ降参。これ以上はやってられない。私も自分の命は惜しいんだ、全部教えてあげるとも。私を呼んだのはその手紙の宛先と一緒だよ」

「なるほど、お前はスウェンガル様に成り代わり、ここで何をしていた?」

「君たちを失脚させる証拠作りと、近衛を誘惑して味方にしていたよ。ただ、成り代わったのは最近だけどな。あいつ、意志が強いせいで魅了への拒否反応も強くて、心が壊れたらたまったもんじゃないから、成り代わることにしたんだよ。それに、ここはいい雄が多いから食べ応えもあったしね♡」

「……気づけなかったのは私の不徳の致すところだね」

「クハハ、私は極力お前に会わないようにしていたし、成り代わる前もスウェンガルの行動には細心の注意を払っていた。お前とユランデータだけには、ばれちゃいけなかったからな。さすがに真っ向からの謁見申し込みを断ると敵対がばれると思ったし、アスモを引き込むためにも受けたが……こんなことなら断ればよかったよ」


 対峙すれば負けるのは確実だと分かっていたからこそ、回りくどい手を使って追い詰めていたんだ。実際この状況が、ベルフェの考えを肯定している。


「スウェンガル様はどこだ?」

「この鳥かごの中さ。これは対象を小さくして捕縛するアイテムなんだけど、こいつがなかなかうるさくてね。やれ出せだとか、絶対に捕まえるとか。頭に来たからセックス中に近衛のザーメンぶっかけて溺れさせたり、わざと強く抱き着いて汗まみれの毛皮で埋めたりして、可愛がってあげたよ♡」

「そうか」低くささやいて、タラタネラの足が上がる。

「で、でも、さすがに殺すのは契約違反だったから今は眠ってもらってるだけだ。かごから出せばすぐに元の大きさに戻るとも!」


 ようやくベルフェの声に動揺が混ざった。逆にここまで追い詰められなければ、悪魔は弱みを見せないんだ。おれよりずっと悪魔らしい悪魔の行動を前に、やっぱり自分が未熟なことを思い知る。


 おれだってただ何もしてないわけじゃない。転移魔法で逃げられないように結界を張ったり、遠目で鳥かごの解析をしてたりしている。タラタネラにもしもが起きないよう、万全の状態を維持しないと。


「クハハ……もういいかい? 今ならこの私がなんでも答えてあげるというのに。経験人数も、性感帯も♡なんだったらおマンコの貸し出しもいいぜえ♡」


 じっと狼を注視していると、黒い毛皮に包まれた目が弧を描く。一瞬剥がれた余裕がまた戻っていくのだけど、なんでだろうか。ここから逆転できる手があるとは思えない。


 だけど悪魔は狡猾だ。絶対このままじゃ終わらないはず。

 

 おれの予想を裏付けるように、突然執務室の扉が開いた。


「タラタネラ=クィネル!」


 そして流れ込んでくるのはタラタネラの部下である近衛兵たち。彼らは一様に強い敵意を宿した目で、リカオンとおれをにらみつけていた。


「悪魔と通じ王太子様を害した罪で、貴様を逮捕する!」

「な……っ! お前たち、何を言っているんだ! これのどこがスウェンガル様に……」


 おれらが視線を戻すとそこに黒狼の姿はなく、乱れた服を着たシェパードが青ざめた顔で震えていた。


 ……やられた! ベルフェはタラタネラの注意が近衛兵に向いた一瞬の隙をついて、また姿を変えたんだ!

 しかもタラタネラの後ろにはどう見ても悪魔のおれがいて、構図的に味方の立ち位置だ。ここだけを切り取れば、もう言い訳のしようがない。ベルフェと話すために透明化を解除したのが裏目に出ている。


 気丈に振舞おうと目に力を入れているシェパードはいかにも恐怖をこらえています風に見えるけど、その実、腹の中ではほくそ笑んでいるに違いない。

 集まった近衛の中にはおれが魔法を解除したはずの人もいるけど、こちらに向ける目は厳しい。この悪魔は謁見要望を聞いた時点で、根回しをしていたんだ。


「タラタネラは悪魔に惑わされている! 残念だが、殺すことも厭わない!」


 どの面下げてそんなことを言ってるんだ。おれは尻尾をわなわなと震わせて、はらわたが煮えくり返るという言葉の意味を噛みしめていた。

 タラタネラはシェパードをにらむけど、不利なことを悟っているんだろう。どうすべきかと必死に考えているはずだ。


 今ベルフェを殺しても、状況は改善しない。ただ王太子殺しの汚名を着せられる上に、後で本物が出てきても偽物扱いされる可能性がある。それは結局、第二王子派にとって嬉しいことでしかない。

 おれが魔法を解いても、逆におれが変化させたのだと難癖をつけられるのが目に見えている。何をしたところで現状を悪化させるだけ。


 どうしたものかと思考を回していると、近衛の方から小さな、悪意に満ちたつぶやきがおれの耳に届いた。

 

「やっぱり平民は信用ならん。スウェンガル様の信頼を裏切るとは……!」


 それは誰が言ったのかはわからなかったけど、タラタネラに向けてなのは明白だった。平民からの成り上がりなせいで、いい顔をされていないのは想像がついていたけど、その言葉は予想以上におれに刺さった。


 タラタネラはいい人なのに。そんなに生まれって大事なのかな。悪魔のおれにはよくわからない。

 おれが知ってるタラタネラはぶっきらぼうなユランの通訳をしてくれて、悪魔のおれにもしょうがないなって顔で付き合ってくれる優しい人だ。それは生まれなんかじゃ決まらないのに。


 無性に悲しくなって、イラついて、おれは感情のままに手に溜めた魔力をタラタネラへとぶっ放した。普通の人なら致命傷かもしれないけど、しょせんユランが突っ込みでする拳よりも弱い一撃だ。悪魔よりも強い近衛隊長に効くわけがない。


「何を……!」


 当然無傷だけど、それでいいんだ。おれは思いっきり息を吸い込んで、悪魔らしく高らかに笑った。


「ふははははっ! ばれてしまってはしょうがない!」

「アスモ……?」


 困惑するタラタネラを飛び越して、シェパードへと向かう。そして、魔法で身体を浮かせて、牙をむいて凶悪に見えるよう光らせる。悪魔らしくするのは得意だ。ずっと練習してたんだから。

 シェパードはうなるだけで何もしてこない。抵抗できないでしょ。今の君は王太子なんだからさ。それにタラタネラに折られた足も相当痛むはずだ。魔法を維持するので精いっぱいってところかな。

 しっかり魔法で拘束してやると、苦痛のうめき声に混じって小さな声が漏れた。ベルフェにとっても、おれの行動は予想外だったに違いない。

 

「どうしてこんなことを……?」

「君には一生わからないだろうね」


 疑問がつぶやかれるのも当然だ。外面だけ悪魔らしくしても、行動はちっとも悪魔らしくないからさ。友達を助けるために罪をかぶるなんて、どれだけの悪魔が理解できるだろう。

 おれはもう一度タラタネラに魔法を放つ。見た目だけは派手だけど、全く威力のない一撃を。


「ぐっ……!」

「こいつが我の契約者だと? はん、馬鹿を言え。むしろこいつはずっと、我の邪魔をしていたんだ」

「アスモ……待ってくれ、それじゃあ君が――」

「ふはははっ!」リカオンの懇願を打ち切って。「だが、ようやく取引を果たせる。こいつを持っていけば、我の契約は完了だ」


 乱入された時の状況を冷静に再現されると嘘がばれそうだけど、ここは勢いで押し切るしかない。タラタネラもおれを見捨てていいからね。

 狡猾で残忍な悪魔がまさか人をかばうなんて思わないだろう。この時ばかりは、悪魔の風評も役に立つ。おかげでおれとタラタネラが繋がっているなんてわからないはずだ。


 後はベルフェから鳥かごを奪い、解放した王太子と取引をすればおれは帰れる。そうすれば、聖別を受けたとしてもユランやタラタネラの立場が悪くなることはない。

 これでいいんだ。おれは二人の味方、そういう取引をしているからこの行動で間違いはない。

 近衛兵たちが武器を構えるけど、王太子を盾にすれば攻撃はできないはずだ。タラタネラの歪んだ顔は苦しそうで、心配しないでと心の中で言ってあげた。


 転移でも飛んで逃げてもいいけど、どこに行こうか。ユランの家は行けない。ずっとそこが拠点だったけど、おれはもう帰れないから。

 ああ、そう考えると、この世界におれの居場所は無くなっちゃったな。


 ようやく見つけたと思ったのに。

 泣きそうになるのをごまかすために、魔法を起動する。もうどこでもいいや。人目のない場所を目指して飛んでいこう。


「アスモ! 待ってくれ、アスモっ!」


 悲痛な声に後ろ髪が引かれる思いだけど、ここで返事をしてはおれの演技が無駄になる。タラタネラはあくまでおれの魔法による被害者でいてもらわないといけない。そうでないと、せっかく近衛隊長まで上り詰めたのが無駄になってしまう。

 おれはタラタネラの頑張りを否定したくない。だからこれが正解なんだ。


「……じゃあね、二人とも」


 聞こえないくらいの小さな声で、別れを告げる。転移の魔法が起動すれば、おれは悪魔アスモとして指名手配されるだろう。そうなったらもう、二人には会えなくなるね。

 二人と一緒に事件を追っている間はとても楽しかった。おれは生まれて初めて、対等に話せる友人に出会えたんだ。そんな思い出が、なんで今頭を巡るんだろう。


 胸の痛みを見ないふりして、泣きそうになる目に力を込めて、魔力を巡らせる。

 悪魔らしくするのは得意なはずなのに、今はうまくできている自信がないや。


 だけど、おれが魔法を放つより早く、心臓をわしづかみにするような声が響いてきた。


「――――不愉快だな」


 部屋に割って入ったのはひどく冷たい声だった。近衛たちが思わず道を譲るほどの気迫が後ろから近づいて来るのを感じる。つつけば破裂してしまいそうな怒気を恐れて人垣が割れ、生まれた道を黄金の犬が闊歩する。


「実に不愉快だ。殺すぞ」


 ユランは肩を怒らせて歩いており、普段よりずっと険しい顔をしていた。垂れた耳や毛並みが迸る金のオーラで揺れ、筋肉で包まれた分厚い肉体から出る威圧感が周囲を委縮させている。


 誰に止められるでもなく執務室へと足を踏み入れたこの国最高の騎士は、射殺しそうな視線をおれへと向けた。


「馬鹿が。死にたいのか、お前」

「ち、違うんだユラン! アスモは……」

「黙っていろタラタネラ、この状況……大体想像はついている」


 不機嫌を凝縮して殺意へと変えた声音だ。最近角が取れてきたユランだけど、最初会った時、おれに剣を向けた時はこんな声だったね。


 ユランならおれの意図を察してくれるはずだ。

 二人ともおれとは無関係だと示す必要があるから、来てくれて助かった。おれのこと、存分に悪者にしていいよ。今までよくしてくれたアフターサービスってやつ。


 観客の勘違いを助長させるため、悠然とした態度で浮かび、酷薄な笑みを意識する。召喚されたらやってみたかった行動その2、悪魔らしい態度で浮遊。まさかこんな意味で役に立つなんて思わなかった。……うまくできているといいんだけど。


「ふん、貴様も我の邪魔をするつもりか。だが、王太子がこちらにある以上、手出しできまい。貴様はそこで、我が凱旋する様を指でも咥えて見ているがいい」

「付き合いきれん。なに馬鹿げた茶番をしている、殺すぞ」


 黄金の犬は牙をむいてうなり、明らかな殺意を向けて来る。すくみ上がりそうなほど怖い視線だったけど、今のおれは不敵な悪魔なので何とか耐えれた。


 ……でも、もしかしてだけど、ユランはおれの意図を理解したうえで乗る気がない?

 そんなことある? 今この状況で、これ以上の選択肢なんてないでしょ。


 なんて考えていたおれに、答え合わせのように乱暴なパンチが飛んできた。全身をばねのように使った一撃だ。その気迫だけでも、おれの演技をはがすには十分だった。


「ひえっ!」


 明らかにおれの首を飛ばす勢いだよ! 食らったら体がはじけるって!


 だけど契約があるから、当然途中で止まる。そんなこと本人もわかってるだろうに、拳から力が消えることはなかった。


「そんなことしても、無駄なのに……!」

「無駄とか、どうでもいい……! 俺はお前の態度が気に食わん!」

「なんでだよ! これ以上の選択肢なんてない! おれが悪者になれば、全部丸く収まるのに!」

「馬鹿がっ! ぶっ殺すぞ!」


 ユランが何をしたいのかわからない。ここでおれと仲良しだとアピールすることに、いいことなんか一つもないだろ!


 犬の拳は契約に阻まれているが、じりじりと距離を詰めていく。悪魔との契約を力技で打ち消すなんて、聞いたことがない。おれはただ茫然と、ユランが食いしばるさまを眺めるだけだった。

 拳の周囲では火花が散り、契約がバチバチと悲鳴をあげている。いくらオーラで守っているとはいえ絶対痛いはずなのに、ユランは下ろそうとはしない。


「なんで殴ろうとするんだよ……! おれのことなんか、放っておけばいい!」

「お前は口で言っても……わからないからだろうが……! タラタネラが、なんであんな顔をしているのか、考えたことがあるか!」

「で、でも……タラタネラはせっかく近衛隊長になったのに……おれのせいで……駄目になったら……!」

「この……くそ馬鹿があああぁぁっ!」


 あまりの光景にシェパードも口を開けたまま固まっている。それはそうだろう、自分の作った契約が力で破壊されようとしているんだ。今まで悪魔として生きてきて、見たことない光景に違いない。


 前代未聞なことをしようとしている犬は、拳にオーラを集中させる。すると、小さな太陽のような光が生まれ、おれらを眩く照らし出す。

 嘘偽りを許さない鉄壁で潔癖な騎士。その性根が黄金のオーラによく表れていた。


「不正を正し、民を守り、人々の規範になる者こそが騎士っ! 俺は自身にそれを課し、ずっと貫いてきたっ!」

「だからなんだよっ! そんなの今関係ないだろ!」

「馬鹿がっ! 道を誤った騎士など何の価値もない! 我が父のように、権力を守ることに拘泥する愚物でしかない! お前は俺に、そんな騎士になれと……友を切り捨てる薄情者に成り下がれと言うのかっ!」

「……!」


 友と、言ってくれた。こんな大勢の前で絶対に放ってはいけない言葉のはずなのに。ユランはためらいもなくそれを口にする。


「だ、だって、おれは悪魔だよ……なのに、友達なんて、そんな……」

「悪魔だからなんだ! お前は何もしていない! それは俺が証明してやる! だったら、お前も、タラタネラも、生まれで差別されることがあっていいはずないだろうが!」

「それは、理想論で……結局誰も、そんなこと本気で……思ってないよっ!」

「ここにいるだろうが、馬鹿っ! お前と友諠を結んだことが罪になるというのなら! そんなもの、世界の方が間違いだ! なのに、お前は自分が悪魔だからと身を引くという! 本当に、ふざけるなよ……その勘違いを! 今ここで! ぶっ叩いて矯正してやる!」


 分かっていた。ユランの態度が最初よりもずっと優しくなっていることを。

 タラタネラと一緒に過ごしていくうちに、悪魔に対しての偏見が溶けていたことを。

 おれはそれが嬉しかったから、二人の役に立ちたかったんだ。


 執務室はユランの気迫に埋め尽くされ、誰も入ってくる気配がない。ただ、タラタネラだけが、決意を秘めた顔で立ち上がる。それからふわりと笑みを浮かべれば、いつもの優しいタラタネラがそこにいる。


 拳は煌めき、おれの嘘を暴こうとしてくる。逃げなきゃいけないと思っているのに、体は動いてくれない。契約が破られていく光景を前に、じっとしているだけ。


 わからない。なんでだよ。おれは、二人に迷惑をかけたくないだけなのに。


「なんで……なんで……おれ……」


 ――――こんなに嬉しいって思っちゃうんだろう。


 バキンと空間の割れる音が響く。ついにユランは契約をねじ伏せたのだ。

 前代未聞のことを成し遂げた犬はそのままおれの胸倉をつかむと、力一杯に引き寄せる。抵抗なんてできなくて、黒虎の巨体が軽々と動かされた。

 

 おれはこのまま殴られる。でも、気分はとても晴れやかだ。

 友人だと言ってもらえただけで内心は舞い上がってるから、拳の一発くらい全然受け入れちゃう。ユランも手加減するだろうから死なないはず……だし。


 だけど予想に反しておれの体は毛皮に埋まり、その下にある硬い筋肉に顔が押し付けられる。ユランの胸板だと気づいたけど、どうしてこんなことをするのかわからなくて何も反応できない。


 抱きしめられてるの……?

 あのユランに? おれが?


 これが現実だと教え込むように、頭がぽんぽんと叩かれる。ここで悪魔の味方をすることがどれだけ愚かなのかをわかったうえで、ユランは自分が正しいと思うことを選ぶ。

 だからこそ、彼は最高の騎士なんだ。


「これで分かったか。俺にお前を見捨てる選択肢はない」

「なに、それ……」


 さっきまでの悲しさが反転して、目が潤んできた。ちょっと優しくされて泣いちゃうとか、全然悪魔らしくないから嫌なのに。

 それでも涙が勝手に溢れて止まらない。いつの間にか、おれは自分からユランに抱き着いていた。


「あ、悪魔相手に、ほだされ、すぎだよぉ……おれらは、狡猾で、残忍で、人の感情を弄ぶ存在なんだからさあ……」

「そうだな。俺は馬鹿なんだろう」

「さっきから殴る殴るってさ……身構えてたのに、これは……ぐすっ、反則じゃん……」

「言葉の綾だ。気にするな」

「……コミュ障、仕事馬鹿、むっつり……おれとタラタネラのこと、うらやましいって思ってたくせに……」

「……殺すぞ」


 言葉だけは殺意にまみれているのに、仕草は優しくおれの頭の毛をすいてくれる。

 そんなことされると、涙が止まんないじゃん……。


「……ありがとう」


 おれは二人に聞こえるようにつぶやいた。こっちに近づいて来るタラタネラの手にはシェパードがぶら下がっていて、おれの味方になるつもりなのはすぐに分かったから。


「ありがとう、悪魔を……おれを信じてくれて……本当に、本当に……!」


 胸の中がいっぱいいっぱいで何をしゃべっていいのかも分からない。言葉は嗚咽につっかえて綺麗な形にならなかったけど、きっと伝わったはずだ。

 さっきから泣きじゃくって言葉にならないんだ。嬉しいって気持ちが溢れちゃって、抑えられない。魔界じゃずっと一人だったのに、おれのことを信じてくれる友達ができたことがこんなに嬉しい。


 涙でぼやける視界で、ようやく動き出した近衛たちがおれらを取り囲む。

 困惑から立ち直った彼らは武器を突きつけているけれど、この二人を相手にするには力不足だ。しかも想像もしなかった光景を見せられたせいか、剣先には少しの動揺が感じられた。

 それがわかっているのか、二人はすました顔のまま。目を合わせてからユランが口を開いた。


「こうなったら仕方ない。事の顛末をすべて語ろう。タラタネラもそれでいいな?」

「もちろん。アスモを裏切るよりかはそっちの方がずっといいよ。ただスウェンガル様の救出だけは急務だから、そこは強行させてもらうよ。……アスモ、お願い」

「う゛ん……わがった……」

「お前、ひどい顔だな」

「うるっさいなあ! 君のせいじゃないか!」

 

 ユランがハンカチでおれの顔をぬぐっている間に、魔法を起動させてシェパードの正体をさらしておく。近衛に衝撃が走り、その隙をついてタラタネラは鳥かごを外した。

 ベルフェはもう抵抗を止めて、されるがままだ。そりゃ状況が悪すぎるから、あがけば死ぬしかないってことわかってるんだろうね。流石にユランとタラタネラを二人同時に相手して勝つなんて、大悪魔でも難しいと思う。


 ここで出来ることはもうない。後は、みんながどれくらい二人を信じてくれるか、だね。


 だけど、もし駄目なら二人を魔界に誘おう。そして一緒に暮らすんだ。


 それはいい考えかも。なんて思いながら、おれは尻尾をゆらゆらと躍らせた。


****


 あれから二人はすべてを語った。

 おれとの出会いから、勝手に結ばされた契約。そして、第二王子派が悪魔を使ってスウェンガルを幽閉していたこと。

 鳥かごから救出されたスウェンガル自身の証言もあって、二人の話はある程度の信ぴょう性を持って受け入れられた。


 そしておれは悪魔ではあるが今回の事件解決の立役者であり、スウェンガル救出の功績も加味して、結論が出るまで結界の張られたユランの家で謹慎することになった。

 もともとスウェンガルと取引しないと帰れないからね。ユランが壊したのはあくまで相互傷害不可の部分だけで、おれの帰宅に関しては健在なのだ。


「……本当にいいの?」

「くどいぞ。何度確認するつもりだ」

「いや、だって……もし駄目だったらおれの首が飛ぶし……」


 黄金の犬が辟易とした視線を向けるが、おれは自分の命が大事なのでしょうがないよ。


 なにせベッドの上にいるユランは全裸で、何からナニまでを詳らかにしているんだ。

 柔らかい毛皮で隠し切れない筋肉が山のように盛り上がっていて、それが呼吸と共に上下している。こうして見ると、どうしてユランのベッドはこんなにでかいのかがよく分かる。この質実剛健な犬は決して贅沢しようとしたわけでない、この大きさが必要だったからだ。

 今まで事件を追ってから初めて見たユランの全身は、想像よりずっとたくましかった。

 

 事件を解決したとはいえ、悪魔召喚を流布した犯人はまだ見つかっていない。ベルフェから証言を搾り取っているけれど、果たしてどうなることやら。一応おれが魔法禁止の封印をかなり頑丈にかけたから、逃げるよりも素直に証言してくれるとは思う。

 さすがに殺すのはやめてほしいってお願いしたけど、悪魔のお願いがどれだけ効くのかは未知数だ。

 ……でも、多分駄目だろうな。ベルフェはおれの秘密を知っている。普通に考えれば生かす意味がない。魔界に戻っても父さんが手を回すだろうし、そう考えたらここで拘束されているのが一番平和かも。


 だから二人の日当ザーメン五回分の取引は未だ有効。もう取引なんてなくても手伝う気ではいるのだけど、おれは公平を尊ぶ悪魔なのでしっかりさせてもらっている。


 その結果が目の前のユランだ。

 薄暗い部屋でわずかな明かりを受ける金色は幻想的だというのに、鋭い視線と屈強過ぎる肉体が現実だとくぎを刺してくる。


「初体験、したかったのだろう?」

「それはそうだけど……まさかユランが付き合ってくれるとは思わなかったから……」

「俺では不服か?」

「まさか! すごくうれしいけど、現実味がないと言いますか……」


 だってあのユランだ。おれに指一本すら触れさせなかった鉄壁の騎士が、まさか自分から夜伽に付き合えなんて言うとは信じられなかった。


 こうしてまじまじと見る黄金の体はあまりにたくましく、隆起が半端ない。腕の太さも肩幅も、そこらの騎士なんか目じゃないくらいだ。垂れた耳のかわいらしさなんて何の意味もないほどに、雄々しいという言葉がよく似合う。

 タラタネラで慣れたつもりだったけど、鼻の下が伸びずにはいられない。おっぱいの大きさはリカオンに負けてるけど、小さいわけじゃまったくない。むしろがっちりしているため、男らしさでいえばこっちに軍配が上がる。まさに鉄壁を体現したような体だ。


「嫌だというのなら無理強いはしない。いつも通り、お前の道具で処理するだけだ」

「いやいやいやいや、こんな機会を逃すわけないよ!」


 目の前からご馳走を取り上げられそうになって、おれは必至に首を横に振る。これを逃したら二度と機会がないかもしれないんだ。絶対いただかなければならない。

 おれは使命感にも似た気持ちを持って、ベッドへと昇った。


「うわ……」


 間近で見ると分厚さすっご、肩幅でっか、四肢ふっと。どれだけの研鑽を積めばこんな体になるんだろう。タラタネラと並んでもそん色ない大きさだよ。


 しかものしかかっても横たわったままってことは、おれがタチってこと? 本当に?

 試しに恐る恐る手を伸ばして触ってみると、少しユランの口元が動くだけで、拳は飛んでこなかった。


 だから黒い手はだんだんと調子に乗って、毛皮の下で育った筋肉を堪能し始める。みっちりつまった肉が少しの身じろぎで硬くなり、隆起によって地殻変動が目に見えてわかるんだ。

 作られた悪魔とは違い、人であるユランは努力だけでここまでの肉体を手に入れた。そう考えると、こうして抱けることのありがたさは夢じゃないかと疑いたくなるほどだ。


「なんで……急におれとしようと思ったの?」

「お前から貰った道具にばかり頼っていると、そっちのほうが危なそうだったからな。それなら変な意地を張らずに、本番をしたほうが健全だろう」

「まあ、それはそうだね……」


 一人遊び過激派のおれが作る淫具は快楽過多なところがある。そのせいでおれもタラタネラもどスケベに直行してるから、ユランの危機管理能力はさすがとしか言えない。

 ずっとタラタネラがほだされるのを見ていたせいだろうな。あと、薄着越しに乳首がでかくなってるのとか気づいてそう。今のタラタネラ、本当にスケベを垂れ流してるから。


「それに、お前は悪魔だが無害だと判断した。後は俺も……まあ、興味がないわけではないしな」

「やっぱりユランも雄なんだねえ」

「茶化すな、殺すぞ」

「うっ……視線、怖いって! せっかくなんだからいい雰囲気でやろうよ!」


 あまりに普段通りだから照れ隠しなのかもわからない。なんでこれからセックスするのに地雷原にいる気分を味わわないといけないんだ。

 おれらはどっちも未経験で雰囲気作りなんてできるわけがないから、慎重にことを進める必要がある。


 太ももの付け根から毛皮に潜り込ませた手を上へと滑らせていくと、様々な冒険が待っていた。

 いくつもの丘が並ぶ腹筋から、硬くて張り出した山のような腹筋。それらを超えておれの両手でも回りきらない巨木のような首を登れば、こわばった表情筋へとたどり着く。

 そっと頬に手を添えると、視線がそらされる。さっきの言葉を真に受けて、雰囲気作りを意識しているのだろうか。

 それなら好都合だと、おれはずいっとユランの引き締まった口元へと顔を寄せた。


「だからさ、まずはキスから……いいよね?」

「……好きにしろ」


 許可をもらえば待てるわけもなく、黒と金が交差する。

 タラタネラでたくさん練習したおれと違い、ユランの動きはぎこちない。舌を入れる気配もないし、そもそも全身が微動だにしない。おれが舌先で小突いて初めて少しの空洞ができた。


 そこにすかさず潜り込んで、鋭い前歯に噛まれないかひやひやしながらダンスのお誘いをかける。ユランの舌はまるで巣穴に潜り込んだ小動物のようで、先っぽが触れるかどうかの距離までしか来てくれない。普段の態度とはまるで違うギャップに、ときめいてるおれがいた。


 多分、キスも初めてなんだろうな。タラタネラはどれだけ攻め込んでも応えてくれるスケベだけど、ユランは丁寧にしたほうが良さそうな気がする。

 何事も最初が肝心って言うし、ここはユランに気持ちよくなってもらうことを優先しよう。おれも初めてだけど、タラタネラとの経験が結構活きている。


「んっ……」大人しく口を離して。「ユランはキスがあんまり好きじゃない?」

「……考えたこともなかった。口を付けることが好きになる理由などあるのか?」

「それは人それぞれだから……今度おれとタラタネラのキスでも見る? すごいよ」

「この前踏み込んだ時に少し見たが、あんな汚いことをタラタネラが好むとは思わなかった」

「すごい言いよう……おれも好きなんだけどなあ」


 本人が聞いたら顔を真っ赤にしてそう。おれらはよだれまみれの汚いベロチュー大好きだから、暇さえあればずっとキスしてるのに。


 ユランは最低限の知識はあるけれど、実感がまるでないんだと思う。キスというものも知ってるけど、何のためにするのかも理解できてない。

 でも確かに改めて考えると、おれらはなんであんなにキスばっかりしてるんだろうね。好きな人と口づけを交わすと幸せな気持ちになるから……なんだけど、ユランがわかるとは思えなかった。


「ううむ、なら質問なんだけど、なんでウケをしようと思ったの?」

「そ、れは…………お、お前の渡してくる道具が、あ、あんなのばかりだったから……」


 待って、恥ずかしがって目を伏せるユランすごく可愛くない?

 いつもの射殺しそうな目じゃなくて気娘そのものの顔をされると、元からある柔らかい造詣が存分に活かされてる。首から下さえ見なければ、儚い美青年みたいだ。表情ですごく損をしているんだと、改めて理解できてしまった。

 垂れた大きな耳にふわふわとした金の毛皮、マズルは少し長めで細く、おれら三人の中で一番のイケメンだ。凛々しさでいうとタラタネラ、美しさでいうとユラン。そういう住み分けがされてる。この状態で並べたら眼福なんだろうなあ。

 黙って突っ立ってるだけで女性が放っておかないだろうに、いざ口を開けば殺意しか出ない。タラタネラとは違う意味で、あまりにもったいない。


 見た目を褒めそやすと絶対元に戻るので、できるだけ触れないようにしたほうがいいな。これでもユランの扱い方も大分うまくなってる自覚があるんだ。

 

「あんなのって、ディルドとか? 確かにいろいろ渡したけど……」

「しかもお前、俺が慣れたのを悟ってどんどん太いものを渡してきただろう」

「ああうん、ユランの身体能力とオーラの力があればちょっと無理しても大丈夫だと仮定して、脳内作成した拡張プランに従って渡したよ」

「そのせいでお前の作戦にまんまとはまったというわけだ」


 赤らんだ顔でにらむと殺意が戻ってきて、眼光の鋭さが刃並みになる。ほんと、一言でも話せばこれだよ。でもユランらしいから嫌いじゃないよ。


 ユランがディルドをちゃんと使っていたのは痕跡でわかるからね。いくら綺麗にして返したところで、おれの魔法はごまかせない。

 だからこれ以上の拡張は戻れなくなると思って、本番をすることにしたのか。アナニーで湧いた興味もあったことと、先の騒動でおれへの信頼ができたことも要因だとは思う。


「えへへ」信じてくれたことが嬉しくて。「それならしっかり気持ちよくしてあげるから。いいセックスをしようね」

「いいセックスとは何かわからんが、ほどほどにしろよ。あまりにやりすぎると、終わった後で首が飛ぶと思え」

「……はい、気を付けます」


 タラタネラと違ってユランなら本気でやる。しかも二度と抱かせてくれなくなるかもしれないんだ。慎重にしよう、おれは二人とずっと一緒にやりたいんだから。


 魔法で取り出したローションを指にまぶしてから、肛門へと伸ばす。むき出しになった粘膜は確かに遊びなれた感触があり、指の一本くらいならすんなりと入ってくれた。


「ぐぁ……!」

「きつくない?」

「この程度、問題ない……うぅぁ!♡」


 それが別に強がりでないことくらい、おれはもうわかるよ。


 謹慎を言い渡されてからおれとユランはずっと二人だったから、いろんなことを話した。

 慰めるでもなく嫌味を言いに来た父親に対する不満も、タラタネラを認めない周囲に対する失望も。中立派を貫くために婚約者を選べずにいたこととかも、ユランについて結構詳しくなったと思う。

 おれも自分の家庭環境とか、学校で一人だったこととか、だから二人のことがすごく好きなんだってこととかいろいろ話したから、その甲斐あってこうしてベッドインできてるんだろう。


 ユランの穴は二本目を難なく咥えこみ、それどころか早くくれと言わんばかりに締め付けてくる。おれの育成計画は順調だったようで、雄穴に関してはタラタネラより開発が進んでいた。


「ふ、おおぉ……♡♡お前、今っ、緩いとか思っただろ♡」

「えぇっ! いや、そんなことは……ないよ。ただ、結構自分でいじったんだなって……」

「あんなのを渡しといて、よく言う……♡俺はそういう知識をあまり持っていないが、お前の渡した物が普通じゃないことくらいわかるぞ」

「そうかな、おれは気持ちよくなるために渡してただけだよ。あんまり人と比べたことないから、普通かどうかは自信ないけど……」


 話して気分を紛らわせているのか、いつもより饒舌だ。ドーナツ状の筋肉はその間も異物の受け入れ準備を済ませていき、切れる気配すらなかった。


 だから三本目を入れると、うめき声が聞こえてきた。さすがにおれのずんぐりした指が三本も入れば圧迫感も相当だろうし、ユランの顔がこわばるのもしょうがない。


「ぐ、あ……♡ふううぅ♡」

「つらかったら抜くから、遠慮なく言ってね」

「問題、ない……♡お前が渡してくる玩具は、これよりもっと太かった♡だが、お前のあれは、こんなに太いのか♡♡」

「まあ……見たほうが早いかも」


 とはいってもユランの尻をほぐしている体勢じゃ、見せるのは難しい。

 なので、おれは魔法で自分のちんぽのコピーを作って、ユランの目の前に落とした。


「……んおっ?!♡」

「このくらいだよ」

 

 二人には負けるけど、そこそこでかい自信があるおれの一物。全体的なシルエットは流線型を描いていてきちんとむけているし、見栄えは整っている方だと思う。

 でも、ユランとタラタネラがでかすぎるんだよ! 騎士としてだけじゃなくて、雄として強すぎるでしょ! これで魔法による肥大化なしの天然物って意味わかんない!


 今日本番するって事前にわかってたら、肥大化の魔法で……いや、見栄張ってもしょうがないし、処女のユランとするんだからこのくらいでちょうどいいんだ。

 なんて自分を慰めている間にも、ユランの焦点はおれのコピーにくぎ付けだった。


「なるほど、んっ、これは確かにでかいか……♡むしろ、三本程度で入るのか?♡」

「大丈夫だと思うよ。ユランはもともと体が丈夫だし、おれも魔法で保護くらいかけられるからね。だから最低限広げておけばいけるはずだよ」

「そうか……あっ、うぅ……んぅ♡♡」


 ユランの声に悩まし気な吐息が混ざりだし、腰も揺れていく。だんだんと性欲に支配されてきたところに実物大のちんぽを見せられて、体が火照ってきたんだろう。

 股座にそびえるデカマラも臨戦態勢を維持しており、萎える気配もなく汁をこぼし続けている。大剣のように雄々しく太い肉棒を前に、おれの方が発情に負けちゃいそう。


 挨拶代わりにと、おれは鈴口から染みだす先走りをちゅっとすすることにした。


「うおっ?!♡舐めるなら、一言よこせ……殺すぞ……♡」

「いいじゃん♡これからもっとすごいことするんだからさ♡それにしても、ユランって先走りも濃いよね♡雄臭さだけじゃなくって味のえぐみも強いんだ♡♡」

「殺す……ふおっ♡おおぉ~♡♡」


 牙を噛みしめるけど中をえぐられれば隙間から漏れるのは甘い声だけ。緩さだけでなく中の開発もしっかりしていたみたいで、内壁をこすると素直に反応してくれる。

 このまま三本の指を乱雑に動かして中を開拓していけば、意地になった口が固く閉じられる。声を漏らすまいとしているせいで全身がこわばっていて、爪を立てたシーツから破れる音がした。


「ふっぐ……ん゛っ……ぐう♡♡」

「別におれしかいないんだから、無理に抑えなくても……」

「う、うるさい……♡恥ずかしいものは恥ずかしいんだっ♡お、俺があんな……タラタネラみたいな声を出すと思うと……♡♡」


 あー、そういえばおれが防音の結界張る前は、タラタネラの濁った喘ぎをばっちり聞いてたんだっけ。おれは好きだけど、確かに自分があれを出すかもって思えば心配になるのもわかる。

 でも、タラタネラはあれを完全無意識にやってるんだよねえ……末恐ろしいよ。真面目に誘惑されたら公平とか投げ出して襲っちゃいそうだもん。


 だけどユランは性に疎い堅物だ。タラタネラと違って、丁寧に扱わないといけない。


「いいよ、おれはユランがどんな声を出しても気にしないし、言いふらしたりもしないから♡ユランだって、おれがそんなことしないと思うから、こうしてやってくれてるんでしょ♡」

「うむ……しゃくだが、まあ、そうだ……♡」

「だから気にせず好きに声を出してよ♡声を出したほうが気持ちいいよぉ♡♡」


 ユランの中は大体把握した。前立腺付近を三本指で押し当てると、硬い胸板が大きく反応を示す。肉棒からは汁が増え、股間周辺で雄の臭気を濃くしていった。


「ふおおおぉ♡♡♡そこはぁ……♡あ、はぁ♡ぐぅ♡♡」

「ここでしょ、ユランの弱いとこ♡覚えといて、ここを攻められるとどんな雄も雌になっちゃうんだから♡♡」

「ぐがああぁっ♡殺す……殺す……♡♡」

「照れ隠しで殺意高めるの、普通に怖いからやめてよっ!」


 さすがにもういいかな。これ以上やってユランに射精されても困る。

 五発は最低でも出せるのはわかるけど、気分が萎えないとも限らない。せっかくなんだから、最初の一発は処女喪失後にしたい。


 指を引き抜けば透明な愛液がまとわりついている。ユランの体が雌になってる証で、記念だ。無味無臭のそれを舐めてみると、ユランから信じられない物を見るような目つきをされた。


「お、お前……そんな汚いものを……」

「汚くないよ♡ユランのだもん♡」

「意味が分からん……ベッドの側にタオルを置いてある。それでふけ」

「しょうがないなあ♡」


 鉄壁で潔癖な騎士はベッドの上でも健在だ。その牙城を崩すのは容易じゃないし、無理にするとおれの首が飛ぶのでじっくり攻めていこう。

 タラタネラはディルドハメたその日のうちに、互いのディルド交換からのフェラで綺麗にしてたんだけど、あれはやっぱりタラタネラがドスケベだったからなんだね。

 

 ……なんか、ユランとの行為が進むにつれて、タラタネラがやばかったんだって思い始めてきたな。おれのやってること、結構スケベだったんだ。


 しゅんとなって指を綺麗にしてから、ユランの綺麗でたくましい脚を持ち上げて、肉槍をあてがう。衝撃は受けたけどおれの一物は萎えてはおらず、そこに置かれたコピーの通り限界まで張り詰めている。


「んっ……優しくしろよ……じゃないと殺す……♡」

「わかってるよ♡でも、おれも初めてだから……失敗したらごめん♡」

「ふんっ♡別に俺とて初心者の失敗をあざ笑うような男ではない。だが殺す♡」

「照れ隠しがあまりに物騒だって!」


 正常位でおれを見上げる涙目は普通なら多少きつくてもかわいいと流せるだろう。

 だがユランの眼光は殺意マシマシのガチなので、シンプルに怖い。手を上げて顔を隠すとか、おれに握ってほしくて伸ばすとか、そんな殊勝なことを一切しない。

 ただシーツをびりびりに破りながら握り締め、牙をむいた睨みをぶつけるだけ。なんだか無理矢理してるみたいだけど、これ合意の上だよね?!


「アスモ……♡」


 だけどそんなユランから出る言葉は甘い。見た目に即してないから脳がバグるけど、それがユランの魅力なんだと思う。少なくとも、おれはユランとできて嬉しいから。


「わかってるよ♡ゆっくり入れるから、きつかったら言ってね♡」

「は……早く、しろ……♡」


 なんだかんだ言いつつ楽しみにしてくれているのがわかるから、おれはにへらと笑える。だってこんないい雄とできるんだ、嬉しくないわけがない。


 分厚くて硬い筋肉の鎧の中へ、今からおれは入る。

 どっちも初めてだから、どうしても緊張感が生まれるのはしょうがない。このまま腰を進ませれば、おれの童貞もユランの処女も消える。


 そんな簡単でいいのか? 人生で一度しかない初めてを、こんなあっさり捨ててしまって。

 おれは確かに初めてがしたいとずっと言っていたけど、もっと胸躍るような……いや、心臓はずっとバクバクしてるんだけど……。

 このさいだから、おれが夢見てたことをお願いしてもいいかな……?


「あ、あのさユラン……」

「なんだ」

「おれら初めてだよね?」

「それがどうした」

「だから、できればいい雰囲気でやりたくてさ……お願いがあるんだ」

「……言ってみろ」

「おれのこと、好きって言ってくれない?」

「心にも思ってないことを言えるほど、俺の口は軽くない」

「だよね……」


 まあわかってましたよ。ユランがこういうことに乗らない性格だってことは。

 タラタネラだったら照れながら言ってくれてさ、キスしながら挿入できてたんだ。ユランとするのが嫌ってわけじゃないけど、ちょっと味気なく感じているのは認めざるを得ない。


「だが……」


 ユランにしては珍しく小さい声音で。


「嘘でないのなら、言えるということだ……」

「え……?」

「あ、アスモ……俺は……召喚で来た悪魔がお前でよかったと思っている……」


 素直じゃないユランが頑張って伝えようと、顔を赤らめて語っている。真っすぐこちらを見つめる視線はユランらしいけど、口元は震えて恥ずかしさは隠しきれていない。


「お前じゃなければ、事件を解決できなかっただろうし……お前の献身のおかげで、俺とタラタネラは守られたんだ……俺はそれに感謝しているし……なんだ、まあ……」


 おれが呆然と口を開けて聞いている間も、黄金の犬の口は止まらない。絶対に言わないであろう言葉をいい機会だからと投げかけてくる。


「お前とだから、こういうことをしようと思ったんだ……だから別に、俺は、お前のことを嫌いではない、ぞ……」


 ここで好きと言わないのがユランらしいけど、その気持ちは十分に伝わった。

 だけどやっぱりユランは不器用だ。甘い空気でおねだりしてくれればいいのに、本気の感謝を伝えてくるんだから。

 こんなこと言われたら、おれの胸がいっぱいになっちゃうじゃん。


「だ、だいたい、俺をこんな体にしたのはお前だろうが……。変な玩具ばかりよこして。おかげで、本物がどういうものなのか知りたくなってしまった……! だからお前はその責任をだな――」

「ユラン」


 おれは金の毛皮に抱き着いて、言葉をふさぐ。おれ程度の体重なんてこの肉体からしたら羽のように軽いはずだ。ユランは邪魔だとどけようともせず、真剣な目をしたおれを見つめ返していた。

 ユランと初めてをするなら、もっとつながりたい。もっとしっかり互いの気持ちをつないで、最高の夜にしたい。


 そう思ったから、お願いはすんなり口から出た。


「キスしたい。キスしたまま、いれていい?」

「…………す」


 真っ赤な顔で、潔癖の騎士はそっぽを向いて。


「好きに……しろ」

「うんっ! ……ユラン」


 そっと添えるように鼻面をくっつけてささやくと、喉の奥でうなり声が返ってくる。それが照れ隠しだというのはもうわかっているんだ。眼光の鋭さも鳴りを潜めていて、潤んだ瞳が期待を匂わせる。


「うっ……♡」


 おれの意を汲みとって、金のまぶたが落ちていく。ユランほどの使い手になると視界が閉ざされててもわかるから、おれが嬉しそうにしてるのもばれてると思う。だって目を閉じたユランはかっこいいからね。


「入れるよ♡」


 そのままおれも目をつむったまま口を繋げて、舌は入れずに唇だけの軽いキスを。

 深くつながるのは気持ちだけでも満足だけど、おれはもっと欲しい。

 そんな気持ちに突き動かされて、ゆっくりと興奮をユランへと埋めていった。


「んっ……ふぅ、ふぅ……♡」

「はむっ♡入ってるよ♡ユラン♡♡」

「言わなくても、わかっている……♡あっあぁ……黙って、いろっ♡♡んむぅ♡」


 いつの間にかユランの方からおれの頭を抱きしめて、強く顔を押し当ててきていた。

 それが漏れ出ようとする嬌声を止めるためなのかはわからないけど、悪い気はしないから、されるがままにしておいた。


 肛門を超えた肉棒は指より深くへと向かい、まるで巣穴に潜り込む大蛇のように我が物顔でユランの処女を食い荒らしていく。

 三本分より強い圧迫感に押され、おれに鼻息が噴きかかる。ちょっとだけ薄く目を開ければ、眉間にしわを作るほどきつくまぶたを閉じるユランに愛しさを覚えた。


「……見るなっ♡こんなところをっ♡あっあっ……んぐおおぉ♡お前は目を、閉じていればいいんだっ♡♡」

「あ、ばれた♡やっぱり気配でわかるんだね♡」

「黙れ……おぉぉ……♡今、俺は……それどころではないんだ……♡んぐぉ♡♡」

「大丈夫、きつくない?」

「黙れと、言ってるだろうがっ♡気にせず入れろっ♡」


 薄く開いたユランの目は苦悶よりも快楽が強くにじんでいる。これなら遠慮はいらないと、鼻面をこすりつけながら腰を進ませよう。


 初めての肉穴は想像よりずっと温かくて、ちんぽが柔らかい粘膜に包まれていくのを感じる。でも緩いわけじゃなくて、おれの形に密着してくれてるみたい。気持ちいいというよりかは安堵なのかな。ユランが相手だからかもしれないけど、心が満たされてる感じがする。

 おれが妄想で作ってきた淫具たちのどれとも違う、これこそが人なのだと本能でわかる心地よさ。やっぱり道具の方が気持ちいいかもしれないけど、人とする方が好きだな。

 ユランにもそう思ってもらえたらいいな。ちょっとだけ舌を出して、鼻先を舐めてから離れる。すでに互いの腰は密着して、おれらは処女と童貞を捧げ終わっていた。


「入ったね……」

「ああ……」

「なんか、すごい……としか言えないんだけど、嬉しいよ。ユランはどう?」

「別に……こんなものなのかと思っているだけだ。うっ♡」

「そっか……」

「その不愉快なニヤニヤ笑いをやめろ……殺すぞっ」


 本当に素直じゃない。中はこんなに締め付けて離さないのに。

 ふわふわでがちがちな体を抱きしめて、おれはユランの肉布団になる。胸板を枕にしながら毛皮を指先で遊んでも、お小言は降ってこない。穴がおれに馴染むまで、心音を共鳴させるだけの時間が流れていく。


「……わかっていたことだが」

「なに?」

「俺は雰囲気作りが死ぬほど苦手だ」


 そりゃ今だって照れと殺意が2:8くらいの顔してるし。普段が十割殺意なことを考えると、これでも十分可愛いほうではあるけどね。


「だから……俺のことは気にせず勝手に盛れ。文句は言わん」

「えーせっかくの初体験なのにさあ。一緒に気持ちよくなろうよ」

「気持ちよくないとは言ってないだろ。い、今も……十分すぎるから、言っているんだ」


 あ、照れが四割くらいに増えた。普段からこれくらい素直ならもてそうなのに。

 顔をずらして伏せると垂れ耳が髪の毛みたいに顔を少し隠すから、ミステリアスな雰囲気が醸し出されている。なんでユラン相手に庇護欲をそそられないといけないのか。自分の勘違いにびっくりする。


 タラタネラはガンガン攻めても乗ってくれるから大丈夫だけど、ユランは本当にうぶな感じがする。意外な発見だ。こんな屈強な体で、オーラマスターで、おれより強いのに。


「ユラン、もう動いても大丈夫そう?」


 なんか、すごい心臓がやかましい。タラタネラと初めてキスした時と同じくらい、ドキドキしてる。

 同じ初体験とはいえ、おれはタラタネラとかなりやってるからユランよりは余裕だろうと高をくくっていた。だけどこうしていざ動く段階になると、どうしていいのかわからなくなる。


 頷きだけで返すのは口に出すのが恥ずかしいからだろう。ユランはそれ以上何も言わないので、おれは慎重に腰を引いてみた。


「うぁ……♡♡」

「ふぐっ♡♡」


 おれの肉棒が粘膜にこすれると、ぞくりと粟立つような快楽が背中に走る。淫具よりももどかしいのに、気持ちがいいと断言できるほどの刺激。理性を優しく削られるような気がして怖いけど、火照った欲望が先を望んでしまう。


「ああぁ~♡気持ちいいよ……ユラン……♡」

「黙っていろ……んあっ♡おおおぉ♡♡」


 ユランも気持ちよくなっているのは震える巨躯からもわかる。噛みしめた牙の隙間から漏れる吐息も荒くなり、劣情が内部で爆ぜているはずだ。


 そして今度は押し入れていくと、先端が閉じようとする柔肉を割り開いていく。熱源に包まれるとユランの体温が直に感じられて、ほうっとため息が漏れた。


 本当はもっと丁寧にしたかったのに、体は快楽を優先しようとしている。早く引き抜きたくてたまらない。

 こちらを薄目で見るユランもそうなのだろうか。引き締まった口元はわなないているだけだが、何かを言うまいとこらえているようにも見える。


「んっああぁ……奥までぇ♡お前から、もらった玩具でも、ここまで入れたことはないぞ♡ふぅ……♡♡ぐっ♡♡」


 でも考えてみれば、さっき勝手に盛れと言われていた。もしかして、期待をごまかす表現だったのだろうか。素直じゃないから正解を見失っているけど、性欲を優先させたい頭がそう都合よく解釈しようとするんだ。

 せっかくの初夜をおれの欲望で覆い隠すのはもったいない。喉元まで出かかった獣のような言葉を紳士的なものへと変えて、黄金の犬へと送る。


「もっと……早く動いていいかな。おれ、ユランとエッチしたい」

「だから確認なんぞいらんと……」

「おれ童貞だよ。言ってくれないと分からないって」

「あ、う……」


 少しの逡巡が途方もなく長く感じられる。だけど内壁から伝わる心音のような脈動が、沈黙を縫いつけて興奮を維持してくれていた。


「じゃあ」おれはユランの精いっぱいをさっき受け取ったから。「好きにしていいってやつ、本気にするからね」

「ふん……♡」


 挿入時の言葉すら素直を振り絞った物だろうから、これ以上は酷だ。

 おれはそう判断して、速度を上げていく。あんまり確認ばかりしてても、雰囲気壊しちゃうからね。


「うっあぁ……あううぅ♡ユランの中、温かいぃ……♡♡」

「うるさいっ♡しゃべるな♡黙って腰を、おおぉ、振れっ♡♡」


 おれが腰使いを強めると、様々なものが呼応して行為を盛り上げてくれる。

 ベッドの声援や結合部の嬌声、そしてユランの上ずってかわいらしい声。


 これら全部を合わせてセックスなんだ。道具を使っていた時とは違う、まぎれもない充足感。体を許してくれる相手がいるという事実が、快楽と合わせておれの寂しがりやな心を満たしていく。


「んぁ♡気持ちいいよユラン♡すごい♡これがセックスなんだね♡♡」

「だから……ぐうぅ♡ああもう♡そんなに話したければ♡がうぅ♡一人で勝手にしゃべっていろっ♡♡」


 だけどおれは相手を気持ちよくするにはどうすればいいのかわからない。お互いに初めてだから、ユランが満足してるのか不安になっちゃう。


 ネコ科の短いマズルを金の花畑に何度も押し付けて、下で支える筋肉へと懇願をささやく。へたくそかもしれないけど、気持ちだけはちゃんとあるんだってことを知ってほしいから。それは口に出さなきゃ駄目だと思ったんだ。


「ユラン♡気持ちよくなって♡んちゅ♡おれは気持ちいいから♡ユランも♡一緒に♡おれ頑張るからさ♡」

「がうううぅ……♡♡」


 どんどん抽挿に遠慮がなくなっていくのが自分でもわかる。硬く膨らんだ尻へと股間をぶつけ、本物をユランへと叩きつける。快楽は動きに比例して増えていくから、理性は反比例してしぼんでいく。


 だけどおれは自分を手放さないように努めて、首筋や頬、鎖骨などに口づけを降らせては甘い言葉をささやいた。別に返事を期待してたわけじゃなくて、ただ知ってほしかっただけ。おれはユランとできて幸せだよって、全身を使わないと表現しきれなかった。


「んっ♡ごめん♡腰止まんなくてっ♡気持ちいいよっ♡ユランは♡きつく、ない?♡」

「ふぐぅ♡んはぁ♡あっあっ……♡♡も、問題、あうぅ♡ない……♡♡んっっ!♡♡見て、察しろ馬鹿……♡」


 そんなこと言われても、気持ちよさに揺蕩うおれの思考回路はユランのどんな姿を見ても都合よくとらえると思うんだ。

 口からはみ出した舌をしまう余裕もない顔からは眉間のしわがとれ、下がった目尻に涙をため込んでいた。目元の赤みと合わさって、殺意はかなり薄れている。降り注ぐおれの汗に嫌悪の一つも出さず、呼吸を合わせて奥へ誘いこもうと健気に腰を揺らす。


 こんなのを、都合よく解釈するなと言うほうが無理だ。


「そんなこと言われたら、おれっ♡勝手に受け取っちゃうからね♡ユランがおれとできて嬉しいって♡もっと攻めてほしいって思ってるって♡」

「…………勝手に、しろぉ♡」


 きゅうっと締まった、ユランの中。涙目で怖くもない睨みを向けるのは、もっともっととおねだりをしているようにしか見えない可愛い顔。


 おれだって二人には負けるけどたくましい雄だ。本気を出せば力だって強い。

 だから加速度を上げていけば、おれらに響き渡る快楽の振動もボルテージを上げていき、とどめておけない感情が喉からは嬌声となってあふれ出していく。

 体を起こした腰を振りやすい体勢へと移行して、荒々しい突き上げで柔肉の奥を貫いた。


「あううぅ♡すごっ……おおぉ♡絡みつくっ♡セックスってすごいいいぃ♡♡」

「がふっ♡んおおおぉ♡がるっ♡ぐううううぅぅぅ♡♡♡♡」

「ゆ、ユランそんなに噛みしめると♡怪我しちゃうよ♡もっと声出していいって言ったよね♡防音の結界も張ってるからさ♡♡」

「うるさいっ♡がうぅ♡♡お前の腰が♡やばいから♡こんなことをせねばならんのだっ♡あぅ♡おおぉぅう♡♡」

「無理しないでいいから♡ね♡求めてくれるとおれも嬉しいよ♡♡」

「ふんっ♡なら……とっとと終わらせろっ♡♡」


 これがユランにとって最大限のおねだりなんだね。足を抱えられた正常位を甘んじて受け入れる最高の騎士は、そっぽを向いて目をつむった。

 体を作る分厚い筋肉がおれの動きに従って跳ね、胸板はふいごのように落ち着かない。視線を上げて気づいたけれど、ユランの一物は汁まみれになっていて断続的に先走りを噴いては血管をうごめかせていた。体は正直っていうの、こういうときに使うんだろうね。


「わかったよユラン♡なら、二人で気持ちよくなろうね♡」


 おれは金の騎士を犯すのに集中し、腰を動かすことだけに終始する。鼻から盛りのついた熱い息を吐き、ちんぽを思いっきり突き立てた。


「ふぐううぅぅぅ♡♡」


 ユランの全部が震え、中もひだで噛みついてきた。ここからがサビだということ、おれらは言わずとも理解している。

 今まで裸を見た雄はタラタネラしか知らなかったから、初体験ってもっと甘くなるものだと思ってた。キスを繰り返したりとか、おねだりしたりとかで、体中を刻み付け合うみたいな。


 でも今は全然そんなことなくて、言葉少なく腰を振るだけ。

 ただただ精神を集中させて、快楽にのみ意識を向けている。


 だけどそれが嫌ではない。ユランとするならこうなるんだろうなっていう納得があるし、気持ちが繋がってないわけじゃないからね。


「んっんっ……気持ちいい♡ユラン、ユラン……♡」

「ぐっ♡がうぅ♡ぐるるるる♡♡」


 一物が気持ち良すぎて他のことに構っている余裕がない。乳首とか触ってみたいけど、腰だけで手いっぱい。おれの造った淫具を使ったなら、絶対開発されてるはずなのに。

 

 鍛えてるからかわからないけど、ユランの締まりが良すぎる。柔肉なのに食いちぎられそうになる。締まりだけなら淫具にも負けてないくらい。ほぐす時に指を四本にしとけばよかった、こんなの我慢できないよ。


「あのさ、そろそろ、出そうなんだけど……♡」

「出せばいいだろっ♡……んふ♡ああっ♡くそ、口を開くとすぐこれだ……♡」

「ユランはまだかなって……♡おれだけ出しても、なんか、申し訳ないし♡」

「……ちっ♡」


 気遣ったらめちゃくちゃ大きな舌打ちが返された。口を開かなくてもいいコミュニケーションではあるけれど、今することでは絶対ないと思うな。

 

 それからユランは金の武骨な手を自分の股間へと伸ばし、そそり立ちばきばきに膨らんだ一物を指した。赤々とたぎる肉槍はむき出しの粘膜であり、噴火寸前の火山を思わせるほどいきり立っている。

 血管の膨らみがくっきりと浮かんで見えることから、ユランの体が勃起を最優先させているのがわかる。体中から血を巡らせて、硬度を維持しようとしていた。


「うわ、すごい……♡こんな硬く♡先走りも濃いし……感じてくれてるんだ……♡」

「だから、察しろと……言っただろうが、馬鹿っ♡んおおぉっおっ♡」

「だって初めてなんだよっ♡おれはユランにも気持ちよくなってほしいの!♡」

「う、ぐ……んううぅ……♡あのな、貴様……♡」

 

 不機嫌を興奮で覆い隠して、ユランは慎重に口を開いた。


「俺は、あっ、嘘を言わん♡気に食わないこともせん♡だから……んおっ、これ以上言わせるな、馬鹿がっ♡♡殺すぞっ♡」

「えへへ♡」


 こうして照れるユランはすごく可愛い。そして興奮する。内壁で向こうにも伝わったのか、ユランは押し黙って牙をむいたうなり声をあげていた。

 

 だったらもう言葉はいらない。頂上に向けて動くだけだ。


 もし今タラタネラが寝室に入ってきたら、汗まみれの雄二人が乱れた呼吸で絡み合っているのが見えるだろう。

 おれは金の太い脚を抱えながら腰を振り、ユランは声をこらえながらもびくんびくんとしている。黒い腰は機械的な動きを繰り返すだけではあるけど、そこに理性を介在させる余地はない。もう早くいきたい、おれらはそれしか考えれらなかった。


 黒虎の顔は情けなく歪んでるはずだ。射精に向けて必死に犯しているけど、ユランの中が気持ち良すぎるから、ずっと呆けた声が漏れている。ぼさぼさになった毛皮から汗を飛ばし、金の草原へと落ちていく。

 金犬の体も似たようなもので、体液のせいで毛の艶が良くなっている。重みを増した草原は筋肉の造形を浮き彫りにするから、あまりの迫力におれは興奮を隠せない。ユランが培ってきた鍛錬の証を前に、おれは突き上げで応えよう。


「ふぅ、ふぅ……♡もう、出るよ……♡」

「か……勝手に出せっ♡俺も、勝手に出すからっ♡」


 初夜を終えるのはできれば一緒がいい。だから柔肉を殴りながらそう訴えるんだけど、なかなかうまくいかない。

 向こうは最高の騎士、忍耐も最高峰だ。おれが誇る理性の牙城はユランからしたら、紙切れ程度のものだろう。


「ユラン♡一緒にいこ♡おれ、ユランと一緒がいい♡♡」

「そんなの、どうやって決めるっ♡好きにすればいいだろっ♡」

「おれがっ……ユランが出すまで耐えるから♡ユランは好きにいっていいよ♡♡」

「この馬鹿っ♡お前は悪魔のくせに、うぉ、奉仕しすぎだっ♡」

「あ、悪魔は関係ないよっ♡おれがユランと一緒がいいからそう言ってるだけ♡♡」

「ああもう……お前と言うやつは……!」


 ユランがぐっと力むと、おれのちんぽがさらに気持ちよくなっちゃう。尻尾が硬直し、口が窄まって体は射精しようと様々なところに許可を出す。

 応えた尿道は開いていくが、根元に力を込めて射精しそうになるのを何とかこらえた。

 

「待ってユランぅ♡それ、まずいから♡おれだけ先にいっちゃうっ♡」

「いかせようとしているんだっ♡どこぞの悪魔が、一緒がいいなど言うから……♡」

「あえ、それってぇ……」


 ちらりと視線を下ろせば、そこには何度もしゃくりを上げるデカちんぽが。さっきよりも色が赤い気がするし、膨らんでいる気がする。ちょっと触ればすぐにでも爆発しそうだ。

 顔を上げたおれに対して、ユランはわかったかと言わんばかりにふてくされた声を投げた。


「お、俺はもう限界だぞ……♡」

「ユランぅ……♡」

「情けない声を出すなっ♡とっとといけっ♡中に出していいから、ほらっ!♡」

「中でいいんだ……」

「誰かさんが、んあっ、粘液を吐き出す張り型など作ったせいだからな…………♡」


 真っ赤な顔で叫んでいるユランに声を抑えるという発想は残っていない。どうやら本当に限界が近いみたいだ。

 だったらおれが遅れるわけにもいかない。それに、こっちも限界だ。

 さっきから突き入れるたびに勝手に体が力んでお尻が締まってる。暴れ馬みたいな下半身を抑えるのはもう無理っ。


 だからひたすら奥を目指して、突き進むだけ。自分で言うのも何だけど、俺はものすごく必至だ。深いところに射精すれば何かが起こると信じているような敬虔さがある。悪魔は子どもを授からないのに、今は孕ませるという強い意志がある。これは魂に刻まれた本能なのかもしれない。


「ふっぐっ♡おおぉぉ♡ユラン、出すよっ♡一番奥に、おれ、全部出すからっ♡♡」

「んあ♡馬鹿♡こんな深くまで入ってくるな♡んおおぉ♡俺が先に、あぅ、決壊するだろうにっ♡ぐおぉっおおぉ♡」

「孕んで♡お願い♡おれいっぱい出すから♡ね♡ね♡」

「この阿呆……俺は男だぞ……♡♡いいから、とっとと、出せっ♡♡♡」


 普段なら拳でつっこむユランだけど、今に限っては肛門の締め付けだ。さらに圧を強めた括約筋に、腸壁が追従してまとわりついてくる。無数の舌で舐められてるみたいな感覚を前に、おれはすぐさま白旗を上げた。


「うあっ♡ユラン、それ、すっごいいぃぃ……♡♡ユランのここ、絶対名器だよ♡今度淫具作る時にはぁ、あっ、参考にしたいくらい♡♡」

「殺すぞ!♡んぐぅ♡くそ……我慢できんっ♡早く出させろっ♡」

「わかってるよっ♡おれも出すから……♡一緒に、ね♡」

「ふぅ♡ふぅ♡いくぞ……♡」


 最後の一突きはあっという間だった。

 限界まで引き抜いて膨らんだ肛門を一気に押し返す間、何をわめいていたのかも覚えていない。おれらの期待は風船のように膨らんで、そして、この抽挿ではじけた。


「ユラン、いく、いくっ……♡♡」

「ぐおおぉ……俺も、だ……♡♡」


 下半身に熱源が溜まっていく感覚がたまらなくて目を細めたくなるけど、一緒に打ち上げる姿が見たくてまぶたに喝を入れる。ユランも口をへの字に曲げてはいるが、睨むような視線は同じ気持ちだと言ってくれていた。


 なんだかんだ言いつつ、ユランはおれの希望を聞いてくれる。ぶっきらぼうに見えるけど、本当に素直じゃないだけなんだ。


 互いの様子をうかがう視線がかち合ったから、おれは無理をしてでも笑った。ちんぽは制御を振り切って膨張しているけれど、これから初めての射精なんだ、嬉しいなら笑顔がいい。


「出すよ……ユランっ!♡♡」

「俺もだ、アスモっ!♡♡」


 そうしておれらは一緒にいく。初めてを思い出に刻み付けて。


「うわああぁっ♡♡すっごい……あううぅ♡おれ、本当に♡ユランに注いでるんだっ♡♡」


 とめどなく尿道を駆け上がる白濁に、感心さえ漏れてしまう。ちんぽはずっとけいれんしながら射精していて、孕みもしないのに精液の生産に忙しい。おかげでユランの尻からは精液が逆流して、肛門周りの毛をどろどろに汚していた。


 少しでも動けば敏感になった一物が快楽を過剰に増幅するから、おれはただ体をこわばらせたまま、じっとユランに種を注いでいく。


「がううううぅぅぅ♡♡熱い、熱い……ああっ♡これが、本物かっ♡いつもより、量が……あぐ、多いぞ……♡♡♡」


 ユランの射精は間欠泉もかくやの勢いで、自分の顔にまでかかっている。綺麗な金色の上に濁った白が飛び散り、ぷるぷると震えていた。本人が言う通り、かなり大量に出したみたいだ。

 呆然とする口元に精液が染みこんで、大きな舌にまで入り込んでいく。だけどユランは眉をひそめるわけでもなく、何度も口元を舐めて、何かを探すような仕草をしていた。


「ユラン……♡ごめん、まだ出るかも♡♡」

「好きにしろ……♡がふっ♡俺もまだかかりそうだ……んおっおぉ……どうせ孕みはしない♡勝手に出してろ♡」


 とか言いながら殺気も見せてこないんだ、喜んでいるに決まってる。おれも嬉しいから、このまま出しきらせてもらおう。

 悪魔には不要な行為なのに、ユランに種付けしていると幸せな気持ちになる。これがきっと、魔界でセックスが廃れない答えなのかもしれない。


「ユラン♡好きだよ♡」

「……ふんっ♡」


 こうして口が勝手に言葉を漏らしていると実感する。おれはキスも好きだし、こうして甘い雰囲気でやるのも好きなんだ。

 おれが幸せだってこと、ユランにも伝わるといいな。


「アスモ」


 しばらく射精の余韻に浸っていると、口元を舐めながら犬がおれを呼ぶ。うろつく視線はどこか気まずそうで、言葉も煮え切らないものだった。


「どうしたの?」

「…………」

「さすがに何か言ってくれないと分からないよ」

「ええい、くそっ!」


 業を煮やしたユランはおれに手を伸ばし、胸倉をつかむ。急なことに目を丸くするけど、構うことなく引き寄せられた。


「な、なになに! なんなの?!」

「いいから口を閉じろ。怪我するぞ」

「なんでっ?!」


 聞きたいことはあったけど、そう言われたら閉じるしかない。調子に乗りすぎて殴られるのかもしれない……おれは内心で何が悪いのかと反芻しながら、ぎゅっと目も閉じた。

 だけど、おれの顔に当たったのは、引っ張られた勢いとはまるで違う刺激だった。


「……え」


 目を開けるとユランの顔が視界いっぱいに広がっていて、口先はさっきしたキスの感触があって……。

 思考が追いつかないおれの口にぬるりと入ってくるものがある。状況的にユランの舌しかないのだけど、なんでこんなことをするのかさっぱりわからなかった。


「んっ……んぅ♡」

「むぅ、んぅぅ♡」


 ユランの唾液は精液の味がしたけど、そんなことは気にならない。舌で応えて踊れば、二人の水音がリズムを取り出した。


 だけど、音楽は一瞬。ユランがすぐさまおれを突き飛ばせば、口同士をつなぐ銀の橋はぷつりと切れる。


「……ふん、こんなもんか」

「ユラン、今のって……」

「別に。タラタネラが好きとかいうキスを最後にしてみたくなっただけだ。他意はない」

「ふーん」

「なんだその顔は、殺すぞ」


 すまし顔のユランは気づいてないけれど、耳の先まで真っ赤になってるよ。絶頂の余韻で恋しくなったんだろうね。

 おれはつながったままユランの体へと倒れ込み、胸元の毛皮を指でいじる。せっかくの精液がお腹につぶされちゃうけど、回収を急ぐよりもこの時間を大事にしたかった。


「おれとしてはもっとキスしてたかったな」

「タラタネラとやってろ。俺はもういい」

「気に入らなかった?」

「……いや」


 鉄壁で潔癖な騎士は嘘を好まない。

 だから、出てきた言葉は恥ずかしそうで。


「……癖になりそうだったから、な」


 その言葉が嬉しくて、おれはユランの体を抱きしめることにした。

 初体験はすごく満ちたものになってくれたから、今日の五回分はおまけしちゃおうかな。それくらいユランとエッチはよかったんだ。

 次も付き合ってくれるといいな。なんて思いながら、おれはにっこりと笑った。


****


「……どうしてお前がここにいる。屋敷で謹慎してたんじゃなかったのか?」

「そのつもりだったんだけど、アスモが三人で話したいって言うから……」


 困ったように笑うタラタネラがいるのはユランの私室。いつもおれらが作戦会議をしていた馴染みの場所だ。


「おれが転送で連れてきたんだ。タラタネラと話したかったしね。ユランとずっと一緒だと息が詰まるんだよ!」

「ああ……それはそうだろうね。よく頑張ったね、アスモ」

「殺すぞお前ら! 大体、結界はどうした」

「あんなのおれにかかれば楽勝だよ。ほら、ニグレスの家に忍び込むときに使った魔道具があるじゃん。あれを使って外に出て、タラタネラの家と転移魔法陣をつないでおきましたー! これでいつでも遊びに来れるよ!」

「嬉しいけど、頻繁に謹慎を破るのはちょっと……」

「それなら心配しないで。ダミータラタネラを作ってベッドにもぐりこませておいたから」

「だ、ダミータラタネラ……ってなんだい?!」

「ふっふっふっ、おれは天才だからね。タラタネラのザーメンから本人そっくりのオナホ……じゃなくて人形を作るぐらい楽勝なんだよ! 自立型である程度の受け答えもできるから、安心して遊びに来れるよ!」

「今オナホって言ったよねっ! 本来の用途はそうなの?!」

「感度も本人のコピーなので……」

「…………っ!!!!」


 自分の乳首とアナルが敏感だと自覚の有るリカオンが、顔を赤らめて黙ってしまった。ちなみに一人遊び過激派のおれは自分姦をするときに使ってたけど、楽しかったよ。帰ってから使ってみるといいかも。


「使わないよ!」


 それから顔を伏せて小さく。


「……そ、そんなのよりアスモとしたほうがいいからさ」

「タラタネラー!」


 おれは肉厚でむちむちのリカオンを抱きしめ、頬ずりをかます。この事件でおれとタラタネラの距離はぐっと縮まったんだ。

 とっさにキスしようと顔を近づけたタラタネラだったけど、ユランの冷たい視線に気づいてすぐに離れちゃった。別に気にしなくていいのに。


「転送魔法陣を繋げるのが遅くなってごめんよ。淫具も渡せなかったし、ずっと手だけでザーメンしぼってたんだよね。これからは一緒に気持ちよくなれるよ!」

「あ、ああ……やっぱりもう自分だけじゃ、どれだけいじっても、その……満足しなくて……」


 それは五回以上の精液が転送されてるから知っている。だからおれはずっと、タラタネラが満足できてないんだろうなって心配してたから。けどさすがにユランの前で口に出せるほどデリカシーのない悪魔じゃないんだ。

 今日は存分にやろう。そしてあわよくばタラタネラの初体験を済ませよう。おれらの気持ちは通じ合っているし、もういいでしょ。


「いちゃつくなら向こうでやれ。それに、今日の当番は俺だろうが」

「じゃあ三人でやろうよ。ほら、おれへのボーナスでさ」

「却下だ。まだ謹慎中で、事件解決とは言えないからな。スウェンガル様が味方になってくれているとはいえ、俺らへの心象はあまりよくないんだぞ」


 とか言うけれど、ユランに後悔は見当たらない。自分が正しいと思うことをしたのだから胸を張ればいい。そう言わんばかりの態度だ。


「ああそう言えば」リカオンがちらちらと。「アスモと初めてをしたらしいね。どうだった?」

「ふん、思ったほどではなかったな。だが、玩具に頼るより健全だ」


 素直じゃない。あんなに楽しんでたくせに。


「なるほど……なら、私も……その……」

「いいよ。タラタネラならいつでも大歓迎だし、もっと激しくできると思うよ。ユランとやってわかったけど、タラタネラってすごいドスケベなんだよね」

「急になんだい?! わ、私は別に……普通じゃ、ないのかい?」


 リカオンがそうであってくれと希望を込めてこちらを見るけど、おれとユランは視線を逸らすだけ。正直タラタネラは自分が思ってるよりスケベだし、無意識にスケベをまき散らしてる。君は歩く煩悩だよ。


「そこまで言う?! 私はこれでも、平民から近衛隊長になるためにかなり努力をしたと思ってるんだけど……その、色恋沙汰とかいろいろ捨ておいてね」

「うんうん、その結果が今のタラタネラなんだね」

「お前……息抜きもしっかりやっておけよ」

「なんだよ二人して! ……え、もしかして、私は本当に、ユランから見ても淫らだったり……する……?」

「でもおれはそういうタラタネラが好きだよ」

「どんなお前でも友であることには変わりないぞ」

「嬉しいけどそうじゃなくってえ!」


 顔を真っ赤にしてつっこむリカオンもいつか自覚できるといいね。おれみたいに。

 ちょっとショックを受けてるみたいだから背中を撫でて慰めてあげる。ユランからもスケベだと思われてることに、動揺を隠しきれていない。


「大丈夫、おれはタラタネラがスケベで嬉しいから。いっぱいエッチしようね♡」

「だからそういうことじゃ……まあ、したいけど……」


 おれにだけ聞こえるように言ってくれるから、嬉しくなって肩をくっつける。手は指を絡めた恋人つなぎになって、リカオンの機嫌がちょっと直った。ついでにちょっと股間が膨らんでるのは、見ないふりをしておいた。本当にたまってるんだね……。


「はあ」ユランがしょうがないなとため息を吐いて。「だからいちゃつくなら寝室でやれ。今日の当番は変わってやるから、お前も初体験を済ませてくればいいだろ」

「う……ユランがそう言うなら、お言葉に甘えるけど……」


 ぼそぼそと言いながらも、尻尾が揺れてるよ。そういうところがスケベなんだけど、タラタネラはこのままでいてね。

 ユランが初体験を済ませたことで、タラタネラの枷も消えている。どうやら道具だけで済ませてきたユランに対して、ちょっと負い目があったみたい。別に気にしなくていいと思うのに。


「じゃあタラタネラはどっちを先にしたい? どうせどっちも卒業するんだろうけど、最初は決めていいよ」

「えっと……うん、決めとくよ……たぶんウケの方だけど……」


 最後の方はものすごく小さい声音でごにょごにょ言っていた。よほど恥ずかしいみたい。もうおれらは全員穴兄弟みたいなものだから、恥ずかしがる必要なんてないよ。


「それはお前の倫理観が狂ってるだけだ」

「そういうところはやっぱり悪魔なんだよねえ。魔界だとそれが普通なのかもしれないけど」

「いいじゃんいいじゃん! おれは大好きな二人とできて幸せなの! タラタネラの初めてもおれが欲しいの!」

「だとさ。うるさいからどっちもくれてやれ」

「それは、まあ、そうなるとは思うよ……ユランも両方渡したのかい?」

「俺は後ろだけだ」

「あ、じゃあ前は私が……そのぉ……」

「……はあ」一瞬ものすごい顔をしたユランが。「好きにしろ。別に処女だとか童貞だとか、他人の評価も区分も俺にとってはどうでもいいことだからな。欲しければくれてやる」


 一人で処理しきれなかった性欲が溜まってるせいで、タラタネラがかなり食い気味になってる。君、自分が思うよりムラムラしてるよ。我に返ったら絶対頭抱えるけど大丈夫なんだろうか。多分今日の初体験、ユランの倍以上すごいことになりそう。

 ユランもユランで、タラタネラはドスケベだという評価で固まってるな。あの一瞬だけ見せた、何を言ってるんだって顔、タラタネラが気づいてないのはいいことなのかな……。

 でもおれの目標は3Pなのでこのまま関係性をはぐくんでほしい。ユランとタラタネラがやってくれるなら、ハードルはかなり下がるだろうしね。


 それから浮ついたやり取りをいくつか繰り返した後、会話がひと段落して、おれはお茶を飲みながら新しい話題を投げかけた。


「でも、君らの処遇、軽くなるといいね。悪魔と取引したとはいえ、やってることは正しいことだったんだからさ」

「それでも罪は罪だ。今頃俺らを失脚させたい奴らが水面下で動いてるだろうな」

「私に至っては、多分もう駄目だろうね。やっぱり平民は後ろ盾が弱いから」

「そんな……」


 しょぼくれてひげを萎えさせるおれを見て、タラタネラは気にしないでいいよと抱き返してくれる。


「いいんだ。あの時君が悪役を買って出てくれたのに、それを拒んだ時点で覚悟はできてた。私もユランと一緒で、自分に恥じることはしたくなかったんだよ」

「別に地位などどうでもいいしな。俺はただ、愚かな父の尻ぬぐいのためにやっていたにすぎん。元から権力争いに興味などないし、僻地に飛ばされたほうが楽まである」

「私も……近衛隊長になれば変わるかと思ったけど、結局、生まれで蔑む人はどこにでもいるし、何も変わらないんだと知ったから……自分を大事にしてくれる人といたいと思ったよ」

「ならお前が失脚したら俺のところに来い。存分にこき使ってやる」

「ふふ、それはいいかもね。私を取り立ててくれたスウェンガル様には、もう少し恩を返したいからさ」

「あ、あのさ……!」


 今後の話をしている二人に割り込んで、おれは緊張で拳を握る。タラタネラから離れて二人の真ん中に浮かび、神妙な顔を向ける。

 ずっと考えていたんだ。全く寿命が違うおれが二人とずっと一緒にいられる方法を。おれだけが取り残されないで済むためには、どうしたらいいのかを。


 おれは二人と離れたくないんだ。


「おれは公平を尊ぶ悪魔だ。だから提案をするからには、それ相応のものを用意していないといけない」

「なんだ急に……」

「で、でも……!」


 だけど何度考えても答えが出ない。頭の中がぐちゃぐちゃになって、何もいい案が出なくて、おれは途方に暮れていた。


「わからないんだ……! おれは……二人の魂が欲しいのに、おれから渡せるものがない! 釣り合うものが何もないんだ!」

「私たちの魂? どうしてそんなものを?」

「そうじゃないと、おれが独りになっちゃうから……! 死んだ後でいいから、二人の魂が欲しい。おれと一緒に悪魔になって……なんてすごいことを頼んでる自覚はあるけど……でも、大事にするから。枷もはめないし、過ごしやすい環境を作れるよう頑張るから……だから……」


 悪魔は人になれないけど、人は悪魔になれる。こうするしかないんだけど、人をやめるなんて拒否反応が出て当然だ。それが悪魔となれば、嫌悪すらあるかもしれない。

 だからおれはそれに見合うだけの対価を用意しないといけないのに、何もない。最高の騎士であり悪魔よりも強い二人の魂なんて、青天井の価値が元々あるのに加えて、おれにとっては友人という付加価値まで付いている。

 本来なら客観的に価値を見るべきなんだろうけど、無理なお願いをしているのはおれの方だから、それは加味してしかるべきだと考えている。


 そう考えると、おれが差し出せる中で釣り合うものなんて、存在しない。

 おれにとって二人はそれほどまでに価値のある宝物なんだ。


「友人として悪い気はしないけど、魔界でも友人ができるかもしれないよ?」

「たとえそうだったとしても、おれは二人がいいんだ。おれのことを、悪魔でも受け入れてくれたから……。それに、おれが輪廻転生の輪を乱せることがばれたら、友達なんて絶対にできないと思う……」


 今のおれは悪魔らしくなんてない。ただおずおずと人の顔色をうかがって、不安気に瞳を揺らす迷子みたいだ。

 まさか自分がこんな不公平な取引を頼むなんて思わなかった。公平をモットーに、誠実な悪魔であろうと決めていたのに。本当に欲しいものを前に、駄々をこねる子どものようになっている。

 だからこそ、居心地の悪さに尻尾がしおれてしまう。だけどおれは自分のモットーなんかより、二人の方が大事なんだ。


 無言で考える二人が怖くて、おれは必至に頼み込んだ。失望されたのかもしれない、怖がらせたのかもしれない。そんな嫌な想像が潤滑油となって舌を滑らせる。


「何でもするよ! タラタネラの爵位を得るために手伝ってもいいし、ユランの家を代々守護してもいい! 今のおれに即物で返せるものはないから、長い年月の取引を結ぶのが妥当だと思う。おれの寿命を対価にすれば、まだ公平になるはずだから……!」

「もういい」

「待ってユラン。まだおれにできることはあるから! 確かに戦闘は駄目だけど、魔法の腕なら自信あるよ。だから時間さえもらえれば大抵の願いは叶えてあげる!」

「もういいと言っている」


 おれの提案は取りつく島もなく却下され、二の句を失った。やっぱり悪魔になるなんてこと、認められるわけがないんだ。

 そうしたら、この取引が終わったらおれらの関係も終わる。新しい取引が出てこない限り、おれはここにいる意味がないから。


 そう思っていたのに……。


「俺がお前に願うことは決まっている」

「え……?」

「輪廻転生の輪から魂を魔界に引っ張る理論。それを絶対に使うな、誰にも教えるな」

「え、え……でもそれって、君に全く関係ないじゃん……」

「この世界が乱れるのは困るからな。だが、その願いだとさすがに俺一人の魂では割に合わない。そうだろうタラタネラ?」

「ふふ、そうだね。輪廻転生の輪にある無数の魂とだと、ユラン一人じゃ割に合わないね。困ったなあ、これじゃあ私も加わるしかなさそうだ」

「それでも足りないだろうが、俺らが出せるものはこれくらいだ」

「そうだね、あとはアスモ次第だ」

「え、え、え……でも、いいの?」

「いいもなにも、お前が持ちかけた取引だろうが。死んだ後のことなど知るか、好きにしろ」

「相変わらず、ユランは素直じゃないね。でも私たち二人の魂で世界が守られるなら、なんだか勇者みたいで悪くないと思うよ」

「ほ、本当にいいの? おれと一緒に、魔界で過ごしてくれるの? う、ううぅ……うわあぁぁ……!」


 急に眼を潤ませたおれにユランがハンカチを持って近づいてきた。その顔はいつもより角の取れたもので、自然体のため息だった。

 タラタネラもこっちに来て背中を軽く撫でてくれるから、実感が喜びに代わって、涙腺を刺激してやまない。


 潤んだ視界の中で、二人は確かに微笑んでいた。


「なんだ、お前は案外泣き虫なんだな」

「ふふ、ここまで求められたのは初めてだから、私もちょっと照れてしまうね」

「だって、だってぇ……!」


 おれのことを大事にしてくれて、おれも大事に想っている。おれらはお互いを信じていて、今後ずっと一緒にいると誓ったんだ。この世界でそんな関係が築けるなんて思ってもみなかった。

 あの時、おれを友だと言って抱きしめてくれたユランの温かさが、まだ体に残っている気がする。これがずっと続くんだと思ったら、涙が止まらなくなってきたんだ。


 ぼろぼろ泣いてるせいで、毛皮がぐちゃぐちゃになってきた。これでもおれは怖い悪魔で、魔界の重鎮なのに。友達と一緒にいられるからってだけで、こんなに泣いちゃうものなんだって知らなかったよ。


「おれ、約束するよ……魂を引っ張る方法絶対使わないって!」

「いいのか、割に合わない取引だと思うが」

「いいよそんなの……おれにとっては二人の方が大事だから……! 二人の体も大事に作るよ。記憶も見た目も、今のままにするし……ぐすっ、枷もはめない。ちゃんと面倒みるから……」

「ペットでも拾うように言うな。まったく、そんなのは最低条件だからな。もし気に食わなかったら、殺してでも作り直させるぞ」

「ふふ、それもいいけど、せっかくだからもっとかっこよく作ってもらってもいいかもね。悪魔には美形が多いって聞くし……」

「もっと、胸とか乳首を大きく、とか……?」

「違うよっ?! できることなら小さくしてほしいくらいだよ?!」


 そんなもったいないことはできない。今だって薄着の向こうで巨乳と乳首が弾んでておいしそうなのに。タラタネラみたいな無自覚スケベを振りまく悪魔がいたら、召喚者の性癖が大変なことになりそう。


 二人とやいのやいの話していたら涙が引っ込んで、笑顔が出てきた。


 正直おれは魔界の地位とか興味はないし、ただ弟が作れればそれでよかったんだけど、もうそうは言っていられない。これからは魔界でちゃんと自分の立場を作って、二人を迎え入れるために頑張らないと。

 両親の庇護下も抜ける。おれはもう一人前になるから。

 そして、この世界で最後まで生きた二人がちゃんと安心して暮らせる場所を作るんだ。


 おれは感極まって、褐色と金の犬を抱きしめる。

 どっちもでかくて硬い筋肉の塊だから腕からはみ出しちゃうけど、二人は何も言わずに収まってくれた。


「……ありがとう」


 新しい目標を決めたおれの言葉に返ってくるのは二人の言葉。

 一人は不愛想で素直じゃないけどすごく優しい金の犬。

 一人は不当な扱いを受けてきたのにそれでも優しい褐色の犬。


 どっちもおれの大事な人だ。


「「どういたしまして」」


 こうしておれの初召喚は大成功を迎えた。

 のちに、魔界で公正取引委員会と名乗る三人の大悪魔が生まれることになるのだけど。

 それはまだ知らない話。


 今はただ、二人分の暖かを噛みしめるのに忙しかった。


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POSTEDDec 27, 2024
ARCHIVEDJun 10, 2026