なんだか四天王って単語が独り歩きしている。
それがここ最近における、おれの感想だった。
最初は軽い気持ちだったんだ。三銃士とかもいいけど、元の世界ではこういうのもあって、みたいな。
だけど今はどうだ。名のある人が皆その称号を狙っている。おれのたわいもない話を、みんな真に受けている。
「単純に、あいつらにとって都合がよかったってことだな。お前は利用されたにすぎんから、そんなに悩むなよ」
フォグがそう言って慰めてくれるのが救いだ。仕事場のベッドに腰掛けて、何やら記帳しながらこちらの様子を確認してくれる。
あの変な夢を見て以来、ちょっと過保護になった気がする熊は、おれの憂鬱をそうやって一蹴した。
「『神風』『土神』『鉄塊拳』と、あの三人の誰かを蹴落とすより、もう一席あるってほうが夢も膨らむだろ」
「まあそれはそう」
蹴落とすなら最強三人衆とかじゃなくて、そこらの二つ名持ちの方が楽だろうしね。
いや、二つ名持ちも世界的に見れば相当上澄みなんだけどさ。あの三人は上澄みの上澄みなので、基準がバグってるだけ。
「それに、トリドスの奴もいろいろ動いてるからな。わからなくもねえけど、よくやるよ」
「なんかやる気だよねえ。そんなに肩書が欲しいのかな」
「そりゃそうだろ。そもそも、おれらの部隊はエロで隊員を強化するのが目的だ。だったら四席目は成果を示す場としてはうってつけだろ」
「ああ……確かにそうだね……」
そこまで考えてなかったけど、言われると納得しかない。トリドスが狙っているのも道理だ。
「とまあそんなわけで、トリドスはかなり本気で狙っている。前回やった演習でのインパクトもあるしな。……懸念がないわけではないが、順当にいけば座るのはあいつだ。『戦勝鬼』の名はだてじゃねえ」
バッファーデバッファーとしての能力は他三人と差別化できてるし、元々の名声もかなり高い。四席目を考えるなら、真っ先に候補に挙がるのは想像に難くない。
「実際他の国も目を光らせてる現状だ。今うちは過去最高に二つ名持ちが多く、その中での四人を決めるとなると目立たないわけがない。対外的にも収まりがいいのはトリドスで間違いないだろう」
「そう言ってもらえると嬉しいが、私ですらまだ壁はあるよ」
すっと伸ばしたごつい手がおれを極楽へと引き寄せる。柔らかくも硬い豊満な胸部に頭が当たると、深い谷間に吸われていく。最近はおれの隣を定位置にしている全裸の黒牛が、武骨な指先で甘く皮膚をなぞる。
デカパイにおれを埋める件の牛、トリドスは優しい声で補強した。
「そもそも私が傭兵街で最強の座を奪われたのも、単騎性能が低いせいだ。対軍戦闘に特化しているせいで、一騎打ちというものに弱い。それではあの三人と並べば見劣りしてしまうだろう」
対軍戦闘はできるのに一騎打ちが弱いから最強じゃない理論なに?
それだけ求められる基準が高い、というよりかはあの三人がそれくらいできるという話なんだろうけど。ゴライザだってジェルやトリドス相手じゃなかったら、傷一つ受けずに大量の相手を制圧できるしな。
相性の問題もあるけれど、前回の演習ではゴライザといい戦いしたのにまだその評価が覆っていないことに驚く。ハードルの高さがおれの遥か頭上にありすぎる。
まるで寝物語を聞かせるような声音だが、低い男の声であることに変わりない。雌性を開花させてから、母性もおまけで強化されている牛だ。甘い匂いを振りまきながら哺乳瓶みたいな乳首を差し出してくる。
もう仕事は終わっただろうに、まだ盛る気か。参加していないフォグは涼しい顔で仕事をしているが、足元にはいきまくってぶっ飛んでる隊員たちが転がっているというのに。演習が終わってからというもの、訓練という名のエロも白熱していて大変なんだ。
おれが授乳を拒んだら頭を撫でて受け入れてきた。完全におれのこと赤ん坊だと思ってないかこいつ……。
「フォグ君、良ければこれから模擬戦をお願いできないかな。無効化持ち相手への対策を練りたいんだ」
「構わねえよ。お前が副隊長として優秀で、かなり楽ができているからな。それに、おれも今日は書類仕事ばかりだったから、鍛錬したいと思ってたんだ」
「ふふっ、娼館の運営も大変だね。私はもともとギルド長だったから慣れたものだけど、盛況すぎて嬉しい悲鳴だよ」
「でも、『竜の爪』にいた時より時間ができてるのは確かだ。その分鍛錬ができて都合がいい。おれの目標はいつだってジェル様だからな」
『竜の爪』にいた頃はグリッジから理不尽な量の仕事がジェルに来てて、それを必死でさばいてたんだった。それに比べたら、今は楽な方だろう。
「だからもう少し待ってくれ。娼館から上がってくる報告には目を通しておきてえんだ」
「わかったよ。それならここで君とまったりしていようか。私たちほどになると、相手を探すのも一苦労だね。ここはそれが楽でいい。おかげで私はまだ腕を磨ける」
女の子になったけど、根っこはやっぱりバーサーカー。いつだってこの牛も熊も、自分の腕を高めることを怠らない。
そういうところすごいよなあ。と思ってのんびりしていたら、急に扉が勢いよく開いてきた。
「失礼するぞ! ここが異世界人率いる部隊で間違いないか?」
弾丸のように飛び込んできたのは『騎士道走行』グランド。筋肉と脂肪によって全身を膨らませた、見た目も砲弾みたいなサイの男。
前回の騒動ではリブラにいたぶられたものの、比較的軽傷で済んだこともあり、いまだ部隊の長に就いている。隠密特化のガニスは例外として、ファンダルとゴライザ共々軍部をまとめる柱の一人だ。
「なんだ、グランドか」フォグがベッドから立ち上がって。「お前が来るなんて珍しい。どうした?」
「頼みがあるんだ。ここではスケベをしてスキルの向上を目指す部隊なんだろ?」
「そうだが……まさかお前……」
「そのまさかだ」
サイはきびきびとした動きでおれを向き、同時にドーム状に膨らんだ腹のでかさも見えた。特注の鎧は灰色に光る山そのもので、高さだけでなく厚みもすさまじい。
フォグやトリドス、モウダンもいるおれの部隊は巨乳が多いから腹がでかいと結構目立つ。胸のでかさを選考基準にしたつもりはないんだけど、自然とそうなっているんだよなあ。
性格はまっすぐな曲がったことを嫌う直情型で、たまに見かけた時はいつだって堂々としている。リブラに決闘を申し込んだことからも、本当に砲弾という言葉が似合う人だという認識だ。
そんなサイはどういう心境か、おれに向かって大声で頼み込んできた。
「頼む! おれをめちゃくちゃにしてもいいから、もっと強くしてくれ!」
****
「最強の四人目を、と求める動きが活発になっている」
そう発言したのは橙色の毛皮を持つ虎、ウィザロンだった。脂肪の少ない体は凹凸がすさまじく、鍛えあがった筋肉は研鑽の極致だと人は言うだろう。
いたるところにある傷跡と眼帯が、高い背丈と相まって威圧的な雰囲気を醸し出している。地位を得てから立派な軍服を与えられたこともあって、誰もが目を向けてしまう存在感を放っていた。
とある会議室で虎が話しかけるのは犬と狼。同じ国内とはいえ、最強と名高い三人がそろうのはあまりないことだった。
「そもそもそんな名称を作ることに意義などないと思うのだが、コハク王子が面白そうだからと乗り気でな。確かに我らはそれぞれ畏怖を込めて呼ばれているが、公的な名称というわけではない」
「前置きはいいんだよ」
腹も背丈も体も何もかもがでかい犬、ゴライザが吐き捨てる。
グランドを一回り大きくしたような、まさに山のような男。濃い灰色の毛皮もサイより黒く、立っているだけで周囲を威圧する風格を纏っている。巨体が多い軍部の特注の椅子ですら、彼にとっては窮屈そうだ。
「そんな動きがあることは知ってるさ。だからって、なんで俺らが招集されてんだ。最強なんてのは自分で名乗るもんじゃねえ。俺の力に畏怖した有象無象どもが勝手に呼び出したにすぎねえんだ。ほっときゃいいだろ」
「それも間違いではない。私もそのような名称に興味はないのでな」
「しかし、コハク王子がそう言うのであれば、無視もできません」
凛とした狼、ジェイルラルが虎に賛同を示す。ゴライザにはため口の狼だが、先輩ということもありウィザロンにはしっかりとした言葉遣いを怠らない。
引き締まった体に屈強な下半身を持つ狼は、シルエットだけなら腰が括れているように見えるだろう。だが近づけばその腰回りさえ太すぎるのがわかる。スタイルの良さはあれど、それは比率だけの話で。絶対評価だとやはり巨躯という部類になる。
「つまりウィザロン様はこの動きに対して、何かしらの対応をしたいと。そういうことでしょうか?」
「うむ、前回の演習でゴライザが引き分けたことで、四席目に座る可能性を見出したものは多い。最強に手が届くのだと、彼らは気付いたのだ」
「……ちっ」
忌々し気に舌打ちをする犬だが、事実であるため反論はしない。わざわざ負け戦に付き合う気など毛頭なかった。
それに、そんなことは本人が一番よくわかっている。口惜しさに訓練を増やし、次こそはと怒っているほど。
「よって、これを機に軍の育成をしてはどうだろうか。歴史で見ても二つ名持ちが多い我が国の戦力を補強するうえで、四席目という餌は十分刺激になるだろう」
「……それは否定しませんが、大臣たちが頷くとは思えません。ただでさえ前回の演習で圧を感じている者は大勢いるでしょうし、コハク王子が権力を持ちすぎるなど元老院も警戒するでしょう」
「でも、やるなら今だろ。グリッジのおかげで元老院もごたついている。権力にうるさい爺どもの手をかわすなら、この好機を逃すのはもってのほかだ」
ゴライザが腕を組みながらうなる。彼は駄犬ではあるが馬鹿ではない。そもそも一派の頭を張っていたこともあり、政治的な考えはジェイルラルより得意だった。
「そもそも軍部を掌握していたグリッジが失脚したせいで、元老院もこっちを抱きこもうとしてんだ。けん制できるならやっとけ。リブラが臨時で治めているとはいえ、傭兵街との兼ね合いもあって目が届かねえ時もある。その隙を狙ってこられるとうぜえんだよなあ」
「そして、そうなるとコハク王子の権力基盤が揺らぐ。戴冠はほぼ確定とはいえ、今後の統治を考えると地盤は固めておくに越したことはない。そのために四席目の話をしたのだ」
「なるほどな。四席目を俺らの息がかかったやつにするっていうのは賛成だ。最強ってのは所詮他人の評判にすぎねえ。あいつらが世論を操作して雑魚が並べば、俺の名にもけちがつくからな」
「狂犬という割には話が通じるのは意外だった。だが、お前は元老院から熱烈なアプローチを受けていたはずだろうに」
「はっ。雑魚が俺に媚を売ってるだけだ。俺は新参者だからな。抱きこめるかどうか値踏みされてんだよ。くだらねえ、俺が自分の決めた奴以外に尻尾を振るわけねえだろ」
ゴライザが思い浮かべる人物を彼らは当然知っている。だからこそ、裏切ることはないと信頼できていた。この犬が求めるのは思い人との幸せであり、他者など知ったことではないのだ。
そしてそれはウィザロンも同じ。コハクと共に隠れ里で長年過ごしていた忠誠心に加えて、今は最愛の異世界人もいる。あの二人が結託している以上、裏切るなどあり得ない。
よって、あまり仲がいいとは言えない虎と犬だが、利害は完全に一致していた。
「んで、そうなると誰にするんだって話だよな」
「それを決めるために育成するのだ。有用な者を選び、彼らの指導を我らが担当することで元老院の介入を防ぎ、全体の強化と軍部の保護を同時に行う」
「指導ねえ……いくらご主人の強化があるとはいえ、俺らに並ぶ奴がでるとは思えねえけど……まあ悪くねえ。同時に育成すりゃ、誰が強いもわかりやすいし、こっちである程度印象も操作できるしな」
二人の話を狼は無言で聞いている。口を挟むつもりがないようで、用意されたお茶を飲みながらほっと一息までついていた。
狼は政治に弱いと言われているし、本人もその自覚がある。権謀術数は得意とするところではなく、二人のようにできないと理解している。
(しかし、ここでヤードが四席目に座れば我らが『竜の爪』は安泰であるうえに……あの子へのアピールとしても申し分ない。実際最近は鍛錬に精を出しているし、私としても嬉しいのだが……あの子が好きなのはフォグ……私はどうすれば……)
「ジェイルラル、異論はないか?」
虎に話を向けられて、狼はきりっとした顔で応えた。
「なにもありません。ですが、誰を鍛えるかの分担ははっきりさせるべきかと。例えばグランドやファンダルといったあの子と面識の少ない人は、そちらに回した方が効率もいいでしょうし……本人が望めばですが」
性癖が捻じ曲がるという欠点さえ除けば、異世界人による強化は最も手早く最も効率が良い。我が子に仕事を振ることのできる誇らしさはあれど、方法が方法なだけに勧めづらいという躊躇が狼の言葉を濁した。
「一理ある。それに加え、フォグのように二つ名持ちではないが十分猛者の存在もあると考えれば、まずは候補者のリストアップからだな」
「なら、候補者を各々絞ってからまた集まるのがいいだろ。どうせ強い奴らなんて決まってるんだ、すぐ次の会合を開けばいい」
候補を持ち寄ろうという発言に狼は頷き、すぐ後に虎も続く。少しの逡巡が垣間見えたが、狼は特に言及しない。
ジェイルラルはまったく気づいていないのだが、実はこの犬と虎、火花をバチバチと散らしている。最強の名の持つ名声を理解しているが故に、ここが勝負どころだと理解していた。
(四席目を俺の味方に付けりゃ、軍部で発言力が上がる。そうすりゃ誰も俺を新参だと馬鹿にできねえだろ。ご主人との合同訓練も入れやすくなるし、いいことづくめだ)
(軍を統括する元帥は今でこそ血筋や経歴などを考えてリブラ様が担当されているが、あの方の性格上、いつ奔放するかわからぬ。それに、リブラ様にずっと権力を握らせておくのはリスクが大きい)
(ってことはここで発言権を持っときゃ、次の元帥も夢じゃねえってことだ)
(歴史上類を見ないほど強い我が軍部のトップとなれば、その権力は必ずやコハク王子の役に立つだろう。少なくとも、この犬には絶対渡せん)
(軍で一番偉くなりゃ、ご主人はもーっと俺のこと褒めてくれるよな❤ご主人のために、わんちゃんは頑張るぜ❤)
などとこの先まで見据えた腹の探り合いをしている二人だが、狼は違うことを考えていた
(四席目か……誰であろうと共に肩を並べて国に尽くすだけだが、責任重大だな。訓練メニューなど個々人に合わせた方が良いだろうし、得意分野などの把握などもした方がいいだろう。私が誰を担当するのかわからないが、きちんと向かい合わないとな)
温和で真面目な狼は頭の中でリストアップ作業をしながら、職務について考え込んでいる。誰が四席目に座ろうとも受け入れるつもりで、自分にできることをしようと決めていた。
(……ゴライザもウィザロン様もあの子による強化を受けている。特にゴライザの飛躍は著しい。今は最強と言われているがこのままでは……いや、それであの子を頼っては父として不甲斐ない。私は自らの信じる方法で鍛え上げ、あの子に背中を見せる義務がある)
父として、騎士として、気合を入れ直して狼は顔を上げる。
眼前で行われているにらみ合いなど、当然気付くはずもなかったが。
****
「つまり要約すると、だ」
ベッドの前で直立不動の体勢を取っているグランドに、熊は話しかける。
「お前は何が何でも四席目に座りたいから、強くなりたいということか?」
「ああ、このままだとおれは選ばれねえ。そのくらいわかってる。だから何でもいいから試しておきたいんだ」
「なるほど……だが、それはおれらも同じだ。特にトリドスが本気で狙っている。敵に塩を送るには、おれの一存じゃ決められねえな」
そもそもエロをするのはおれなので、まずおれの許可がいるのでは?
「お前は目の前にケツさえあればだれでもいいだろ」
「そんなことねえよ! おれだって選ぶ権利くらいあるだろ!」
「じゃあグランドとするのは嫌か?」
「……まったく」
この膨らんで逞しい肢体とセックスできるのに、嫌がる必要がないだろ。フォグに負けないくらいのむちむち、というかぱっつんぱっつんだぞ。体が空気で膨らんでるんじゃねえのと思うくらいだ。
「ほらな。だからおれが防波堤にならないと、お前は無差別にやっちまうんだよ」
「うぐぐ……言い返せない……!」
フォグは副隊長というよりかはおれの秘書だから、こういうところはしっかりしている。強化を無差別にばらまくのは、コハクの意図するところじゃない。混沌になるだろうなとは、おれもわかるから。
「それに、勝手にエロしちまったらリンドンの計画も崩れるだろうしな。あいつが効率を研究してくれてるなら、相談は必須だ」
「まあそれもそうなんだけどさあ。っていうか、グランドは何で四席目に固執するんだ?」
伝聞でしか知らないけど、聞いた感じグランドは地位や名誉よりも義を重んじるタイプだと思ってた。だからふと気になったんだよね。
「おれも二つ名持ちとして興味があるっていうのは大前提なんだが……」サイの言葉は煮え切らない。「リブラの奴、ファンダルを四席目にすえようと狙ってんだよ」
「あー……やりそー……」
最強の名誉とかには全く興味がないけど、最強の名を冠した雄をいたぶるのは好きだからなあいつ。ファンダルのことをおもちゃだと思ってる節もあるし、やるかやらないかで言ったらやる。想像は余裕。
「まあそうだろうな」手元の書類を確認しながら熊が。「リブラからの要請で、今度ファンダルを招くことが決まっている。リンドンも前から二つ名持ちで試したいと言っていたから引き受けたが、こんなことだとは思っていた」
「んで、ファンダルがさらに強くなっちまったら、おれは追いつけねえ。ただでさえおれの結界はあいつにさくっと切られちまうからな。だからこのまま手をこまねいていたら、おれは絶対選ばれねえんだ」
「だが、あそこの部隊はランドが副隊長になっただろ。リブラが何かしてもこっちに報告が来るし、守っているものだとばかり思っていたが……」
「リンドンからの要請もあったから、リブラの独断ってわけじゃねえんだ。おれもファンダルも他の二つ名持ちに置いていかれるかもとは感じていたし、断る理由がないのもわかっている。特にあいつは平民で生まれが弱いから、二つ名持ちという名誉が大事なのもわかっている。けどこのままじゃ、リブラの奴が何をしでかすかわかったもんじゃねえ!」
まあ前回の騒動の時に、ファンダルが手を抜いていたとはいえ二人がかりでリブラに押されてたからね。結果的には勝ったけど、リブラに二つ名がないことを加味して相当立場は悪いのかも。
「立場というか、不甲斐ない自分が許せねえんだ。おれがもっと強ければ、ファンダルにもジェル様にも、あんな目にあわせなかったってのに!」
おお、すごく燃えている。熱血漢なタイプだ。案外おれの周りには珍しいんだよなあ。一番近いのはヤードかも。やさぐれてたけど、最近は初心を取り戻しつつあるし。
「だからおれはもっと強くなりてえ! 今はまだ無理だが、いつかはジェル様にも勝てるようになって、元帥になりてえんだ!」
「おお」ずっと聞いていたトリドスが感心しながら。「めったなことを言うものだ。聞く人が聞けば、反抗ともとられかねないのに」
「構わねえよ。潰されたらおれはそれまでの男だったってことだ。今回のことでわかったんだ、いくら二つ名があろうとも隊長の地位だけに甘んじていても状況はよくならねえって」
そう語るサイは強く拳を握りしめた。ファンダルのことはおれも聞いている、グリッジが家族を人質に取って傀儡にしていたことも、配属が近くて仲がいいグランドはかなり悔いているらしいということも。
「今までは国のためだからと隊長としての責務ばかりを考えていた。でも、それだけじゃ駄目だ。おれはファンダルみたいな立場の弱い奴が搾取されるようなことがない国を作りたい。コハク王子ならそれが叶うと信じているが、それでも、おれは自分にできることがしたいんだ!」
「ふふっ。いいじゃないか、育てがいがある若者は好きだよ。はあ、本来ならもろ手を挙げて歓迎してあげたいところだが、あいにくと私にも目標があってね。今はライバルと言ったところか」
牛はまぶしそうに眼を細めて笑うが、気持ちはわかる。
このサイはどこまでもまっすぐで、見ていて気持ちがいいのだ。さすが友人のためにリブラに決闘を申し込むだけはある。
「だから扱いやすいって判断されて親父の下に就かされたんだけどな」
「……わからなくはないけどさ」
そういう目で見ちゃうのは親子って感じがするけど、口に出すとフォグが傷つくのでさすがに言わない。フォグは根が善良だからいいけど、やろうと思えばグリッジみたいに動けるんだろうなあ。
「まあ大体話は分かった。おれとしても、リブラがファンダルを抱え込むのはめんどくさそうなので避けたいな。あいつが権力をおもちゃにし始めると、ぜっっっったいろくなことにならんのは目に見えてる」
今はおとなしいけど、それがいつまで続くのかはわからないしね。このまま真っ当になってほしいけど、絶対無理だとはおれら全員が思っている。
リブラは性格さえよければスペックは最高だから、元帥として文句なしなんだよなあ。問題は性格が終わっているということなんだけど。
多分コハクもいつリブラから地位を取り上げようかとは考えてると思う。継承権のある王族が軍の力を持っているなんて、普通に考えたらやばいだろう、特にリブラだとね。
「あの子はやんちゃだからね。権力に拘泥している風でもないし、ファンダル君を抱え込んで何をしようとしているのか……」
「絶対ろくでもねえな。でも、グランドもファンダルもこいつに抱かれるのは時間の問題だし、構わないだろトリドス」
「そうだな。強化を独占するのはこの子の意思に反する。私も異論はないとも」
熊と牛の許可が下りて、サイは拳を振り上げる。
……おれの意思は、と文句を言いたかったけど、巨乳に包まれて言いそびれてしまった。トリドスの胸で口封じされると、大抵のことは流してしまう。毎日味わっているのに、慣れる気はまったくしていなかった。
「よしゃ、ありがとうな!」
「だが、さっきも言ったがリンドンによる監修が必要だ。おれらはこいつを使った強化の法則を調べている。一回きりの機会、それも二つ名持ちを素体にするんだ。慎重にさせてくれ。それにどんなスキルを覚えるのかは選べねえ。それはわかってるな?」
「もちろん。だが、なんであれ強化されるなら悪くねえ。おれも鍛錬を続けているが、追いつけねえからな……全くふがいねえ限りだ」
それからサイはおれに視線を向ける。
「なあ、前から聞きたかったんだけどよ」
「なに?」
「お前は雄を操って、なおかつ強化できるスキルホルダーだろ。その気になればこんなハーレム作り放題じゃねえか。それが何でおれみたいな外部の奴にも恩恵を分け与えようと思ったんだ? 普通こういうの、独占したがるもんだろうに」
この部隊を作るにあたって、結構聞かれたことだ。おれのスキルで強化された雄を囲えば、相当な権力を得られるのになぜコハクの下につくことにしたのか。
「別に大した話じゃないよ。おれは異世界から来たけど、最初は知り合いが誰もいなくて、世界の理すらわからなかったからかなり不安だった。でも、こうして今はみんなが好きだし、誰にも傷ついてほしくない。おれが皆に安全を配れるなら、それでいいと思ったんだ」
「そっか……部隊発足時の演説でも言ってたが、あれは本心か」
「じゃなきゃこんな話引き受けないでしょ」
「だな。お前がいい奴で安心した。やっぱ体を預けるからには聞いときたかったんだ」
それはそうだ。なにせ『華炎』とか『影に満ちた鏡』とか性癖がぶっ壊れた雄が大勢いる。不安になるのはしょうがないだろう。おれがいい奴かどうかはさておいてね。いろいろやりすぎてる気がするので、自分ではそう思ってないんだ。
あとはまあ、この前見た夢がひどすぎて、おれならしそうだなと思ってしまうのも拍車をかけている。
「正直に言えば、おれもああなるかもとは心配してる。けど、それでもおれは強くなりてえ! おれの結界はみんなの盾だ! 誰よりも前に! 誰よりも硬く! そんなおれがしり込みしてちゃ、誰も守れねえし、最強なんてのは夢のまた夢だろ!」
お、おお……すごい熱気。聞いてたよりも実際に相対すると熱血具合が違いすぎる。
こんな直情型、本当に珍しいな。やっぱり『竜の爪』ってほんわかした人が多かったんだな。
「だからお前も、遠慮なくおれをぶち犯してくれ! おれの貞操、お前に任せた!」
がしゃんと鎧を鳴らしながら力み、グランドはおれに信頼の視線を注ぐ。鼻面にある立派な角は雄々しく、軍服ではなく鎧姿なのがこのサイにとても似合っている。
結界と重装備によってすべてを薙ぎ払って進む『騎士道走行』。確かにこれ以上ない二つ名だわ。
それから二、三言葉を交わして去っていくときでさえ、堂々とした背中だった。ジェルに引き取られてからいろんな騎士を見てきたけど、あれほど騎士然とした人は中々お目にかかれない。
「それがあいつのいいところだよ」サイが見えなくなってから熊が。「人格者で腕もいい。ファンダルもジェル様もそうだが、この国の二つ名持ちは結構人がいいんだ」
「そう言われれば確かに。力に溺れた感じの人っていないよね」
あのグリッジでさえ血のにじむ努力をして二つ名を手に入れているんだ。人格者ではないが。そう考えれば力を振りかざすわかりやすい小物っていないよね。
「ジェル様がいるんだ、力に溺れようにも現実を突きつけられて終わりだろ」
「あー、納得しかない」
「だからみんな努力を怠らない。『華炎』だって昔は死に物狂いだったんだが……まあそれはいい。親父はあんな奴だったが、ジェル様の存在によって軍部は安定していたんだ」
騎士らしいという点で、フォグはグランドのこと結構好きそうだな。喋ってるところを見ても気さくだし、慣れてる感じがする。
「そもそもおれらは家が家だからな。グランドのアノマリス家は元帥を排出することが多い軍の名家で、将軍貴族家とも呼ばれてるくらいだ。小さい頃から面識はある」
「じゃあ生粋のエリートなんだ」
「ああ、家系的にも才能豊かだし、幼い頃から努力家だからな。二つ名をもらえたのも納得だった……」
ここでフォグが少し言いよどんだ。ちょっと表情が陰ったけど、どうしたんだろうか。
「なんでもねえ。ちょっと嫌なこと思い出しただけだ。グランドもエフィルもソムニティも、おれの知り合いは二つ名持ちが多いからな、当時は結構嫉妬したんだよ」
多分それ、グリッジに詰められたんじゃないかな。確かに周りから二つ名持ちが出てきて本人も二つ名持ちだと、どうして自分の息子は違うんだと思っても不思議じゃないし、あいつなら直接フォグに言ってそう。
よし、この話題止めよう。フォグの精神衛生上悪い。
「んな顔するなよ、もう過ぎたことだから、そこまで心配しなくていい。実際ジェル様に会ってから、そんな感情持ってねえしな」
「フォグ君」同じ結論に達したであろう牛が。「困ったらいつでも私の胸に飛び込んでくるといい。何の慰めにもならないだろうが、泣き声を隠すくらいはできる」
「覚えとくよ。ありがとうな」
前向きになってもたまに過去が足を引っ張るんだよなあ。でも、今のフォグは独りじゃないから、きっと大丈夫。おれもいるしね。
それにしても、四席目かー。本当に話がでかくなってきてると実感する。
いったいどうなるんだろう。
そして、グランドのセックス予約を受け付けてからしばらく、今軍部はある話題でもちきりだった。
「なあなあ、お前はトリドスが本当に四席目に選ばれると思うか?」
のんびり屋の牛、モウダンは褐色で包まれた霜降りの肉体でおれを抱きながら聞いてきた。トリドスもそうだけど、おっぱいに埋もれるだろ。
ここでのおれの役割が抱き枕なのか、手慰みに抱かれることが多すぎる。いや、おれが嬉しそうな顔するのが悪いんですけどぉ。だって肉感最高だし……。
「本人を前にして聞くとは、なかなか肝が据わっている。嫌いではないな」
そして反対側から黒の霜降りおっぱいが迫ってくる。なんだこの状況。
やることやったベッドは雄臭いが、もう慣れたもの。デカパイの牛二人はおれを間に挟んでピロートークに忙しい。
「いやさー、だって有力候補にあの三人の個別指導が入るんだろ。こうなると誰が選ばれてもおかしくねえじゃん。絶対強くなれるのはうらやましい限りだ。おれも選ばれたかったなあ」
「君は戦闘より回復に特化しているからね。とはいえ、頑張れば私のようになれるだろうとも」
「補助を極めた男が言うと説得力が違うなあ。おれも腐ってないで、もっと訓練頑張らないとー」
モウダンが言っているのは、最強三人衆による特別訓練のことだ。四席目を作りたいという要望を受けて開くことにしたらしい。
うちからはトリドスとフォグ、それに『華炎』エフィルとソムニティが招集されている。フォグは二つ名こそないが実力は確かだからな。これを機にもっと伸ばしたいというのはわかる。
「あとは誰が呼ばれてるんだっけ?」
「他はヤード、グランド、ファンダル、ガニス……は訓練こそ受けるらしいが四席目は辞退したんだった。隠密するのに名声は邪魔だとか」
「へえ、『影に満ちた鏡』って神出鬼没くらいしか知らないんだけど、結構強いんだ」
「まあな。周りに二つ名持ちが多いから感覚が狂うけど、気配を消すぐらいじゃ二つ名はもらえないって。実際戦ってもかなり強いぞ」
まあ戦うより暗殺の方が得意だから、めったに見れないらしいけど。
「それくらい? 思ったより少ないね。ランドとかノインとか、もっと呼ばれると思ってた」
「ランドはおれと似たような理由だろ。あれはサポート特化だし、ノインは洗脳や暗示の専門家でタイマン性能に難がある。『竜の爪』は強化はされてるけど、ヤード以上の奴はいない。後、リンドンやコハク王子は能力的には問題ないが、そもそも軍部じゃないから呼べないだろうしな」
「なるほどねえ、そう考えるとこのくらいなのか」
一緒に行動した時間の長さから、『竜の爪』でスキルが成長してるのはヤードたち傭兵街に行った面々だ。選ぶとしたら確かにそうなる。実際ヤードは二つ名をもらってるしね。
「ふふっ」雄臭い母性が補足を投げて。「それにおそらく、あの三人は軍での地盤を固めるために軍所属の人らから選んだんだろうね。フォグも、誰に付くのか考えておいた方がいい」
「わかってるさ、それくらい」
いつも通りベッドに腰掛けながら書類を読んでいた熊が応える。
「ジェル様はともかく、他二人は元帥まで見据えて動いてるに決まってる。おれとお前は担当が違うが、仲たがいをする気はねえぞ」
「それは私も同じだよ。今の私たちにとって、ここが土台だ。大事にせねばね」
あれ、四席目の話ってそんなところにまで波及するの……?
これって最強の四席目を決めようってだけだよね?
思ってたより話がでかくなりすぎていたので、おれは解説を求めるよ。なんて頼むといつも通りフォグが教えてくれた。
「二つ名持ちの処遇を考えてみろ。基本的には隊長職だ。統率力とか必要ではあるが象徴という意味でも強さは必要で、その中での最強となれば軍で偉そうにできるってのは想像できるか?」
「ああ、まあ……ジェルを見てるとそんな気はしないけど、確かにみんな偉いよね」
「それでその四席目……例えばおれが座ったとして、『おれはジェル様のおかげで強くなれたので、次の元帥はジェル様がいいです』と言ったら、誰もそれを無視できないわけだ」
「ええっと……わかる、でも元帥って軍の統括で一番偉い人で、前がグリッジで今はリブラがやってるんだよね」
そしてその下に隊長たち、つまりグランドやファンダルたちが付いているって構造だったはず。おれとかジェルは王家直属ってことでコハクが直接指揮できる。例外が単独で将やってるガニスと、元帥補佐に着いたウィザロン。そんでウィザロンは隠れ里のメンツをそのまま部下にしてる。
……今の軍部は大体こんな感じ。フォグから叩き込まれたのでさすがに覚えている。
「あのリブラだぞ? いつ奔放するかわかったもんじゃねえだろ」
「ぐうの音も出ない……」
急に飽きたってぬかして投げ出しても誰も驚かない。だから次の元帥がいつ必要になるのか想像できないから、準備だけはしておこうってことか。
「そういうこと。だからあの二人は四席目に座れそうなやつらに恩を売るために、こんなことをしてるってわけだ。ジェル様は……担当を見るに押し付けられた感がある。もうすでに水面下では始まってんだよ」
「そうなんだ……」
正直全然実感が湧かない。元の世界でも政権争いとか無縁だったし。
「お前には縁のない話ってわけじゃねえぞ。今はコハク王子の子飼いではあるが、ある程度自分で立ち回れるようにならないと利用されっぱなしだからな」
「う……頑張ります」
「わかればいい。だからおれらの仕事ぶりを見て、ちょっとずつでもいいから学べよ。というわけでほら、お前宛の書類だ。読んどけ」
「ん、なになに?」
渡された紙に目を通す。そこには四席目のための育成計画に協力してほしいということが書いてあった。
「ふむ、まあ当然だね。我らは元々そのための部隊だ」
「だなー。つまり今回はあの三人が主体で、おれらがその補助ってわけか」
「招集された私たちは別枠らしいが……そうなると副隊長がいなくなってしまうね」
待って、それってつまりおれが一人で仕事するってことか?!?!
「そうなるな」フォグが心配そうに。「お前はまだ仕事を覚えたてだし、おれとしても不安なんだが……」
「一応各人の業務を考えて指導時間は融通が利くらしい。あの三人も暇ではないだろうし、訓練の時間帯はバラバラになるはずだ。私も協力するから問題はないだろう」
「だといいんだが……おい、これから毎日確認するから、きちんと仕事しとけよ。リンドンとの打ち合わせとか、今度来るファンダルとグランドへのプレイ内容の確認と、あと予算の使い道とか……」
「フォグ君、そんなに一気に詰め込むと抜けてしまうよ。ここは私に任せて、君は訓練予定の調整をお願いできるかな?」
「……わかった、それでいこう」
人を教育するという意味では、ギルド長をやっていたトリドスの方が上手い。しかも女の子になってから教え方も柔らかいし、教育者としても成長している。
フォグはどうしても自分がやられた地獄の教育を引きずっちゃうから、実のところあんまり向いてないんだよね。本人もわかってるし、可哀そうではあるんだけど……。
「お前も大変だよなー」
モウダンに人ごとのように言われた。お前も同じ所属だろうが!
フォグも同じ考えだったのか、目を光らせて逃がさないと訴えた。こいつがスパルタなのは『竜の爪』所属だったら全員知っている。
「モウダンにも手伝ってもらうぞ。おれらの部隊は人数が少ない。その分個人の仕事量が多くなるのは当然わかっているよな?」
「はい……」
「それにお前、前の演習で賭けに負けてひもじいからっておれにおごらせたよな。その借り、今返してもらうぞ」
「はい……」
何やってるんだこの牛。そりゃ前の演習でおれが出ないと知った時、めちゃくちゃ泣きついてきたけど。あれ結構な損額出してたんだ……。
完全に言い包められてしょぼくれる牛とは対照的に、熊は晴れやかな顔で笑う。
……血は争えないな。絶対本人には言わないけど。
「良かったな。例えおれとトリドスの予定が合わなくても、モウダンが手伝ってくれるそうだ」
「わかったよー! やればいいんだろやればー!」
「頼んだぞ。エフィルもソムリティもいないんだ、ここを回すにはあいつ一人だとさすがに辛い」
モウダンはのんびりマイペースではあるけど、仕事ができないわけじゃない。なので何とかなるかな。
「助かったー……ありがとうフォグ」
「業務を円滑にするのもおれの仕事だ、気にするな」
責任感の強い熊は当然のように言ってくるけど、絶対おれのことを考えてくれていると断言できる。こういうところはグリッジと違う、フォグのいいところだ。
四天王なんて言葉が独り歩きしててなんだか怖いとは思うけど、やっぱり興味はある。
最強の四席目にいったい誰が座るのか。それにおれらの部隊にとって、初めての大仕事だ。うまくやろうと意気込んで、二人のおっぱいに手をうずめる。
やる気が満ちたからといって、ヤることは変わらないのだ。
****
そして始まった最強たちによる個別指導。おれらは裏方として駆り出され、セックスを含めて様々なことで忙しくなっていた。
最初はおれ一人になることも多く、どうしたものかと不安だった。フォグもトリドスもいない仕事を前に身構えたけど、案外何とかなっている。モウダンも手伝ってくれているし、ノインも来てくれたしね。助かるー!
ジェルを始め、三人とも地位が高いから人に教えるということにも慣れている。一兵卒に対するものとは違う本気の特訓は、参加者たちのいい刺激になっているみたい。
やっぱりライバルを一つにまとめるっていうのも効果あるんだなあ。おかげでフォグたちも生き生きしてる。
だけどただ一つ、全員の想定外だったことがあるとすれば……。
「遅かったな。おれ様は忙しいというのに、わざわざ時間を作ってきているのだぞ。礼儀というものが足りないのではないか? くふふっ」
「お邪魔しています。すみません、勝手にお風呂を使わせていただきました。本日はよろしくお願いしますね」
呼んでもない獅子が白竜宮の一室で偉そうに座っている。その隣にはこげ茶色の毛皮を持った大きい犬が立っていて、丁寧にお辞儀をしてくれた。
がっしりとした獅子はバスローブのようなものを羽織り、隙間から硬い筋肉をちらつかせている。整った相貌にたてがみが良く映え、見た目だけなら人に好かれそうだと思う。
対して、犬の方は温和な表情で少し恥ずかしそうにはにかんでいて、バスローブを押し上げる股間からいたずらされたことがうかがえる。
「リブラも一緒に来るとは思わなかった。ファンダルの様子が心配だった?」
今日はファンダルとエッチしてスキルの強化を図る日だ。本人からのお願いで、二人っきりがいいとのこと。だからおれだけが部屋にやってきたわけ。
だから犬がいるのはわかるんだけど、なんでお前までいる。
「まさか、こんな頑丈な奴を心配することなんてあるはずないだろうが。ここに来たのはお前に言いたいことがあったからだ」
「またかき回そうとしてるな……でもリブラってジェルたちの訓練に顔を出してるんだっけ? そこまで最強の座を欲しがるとは思わなかったよ」
「くはっ。そんなものはいらん。だが、おれ様抜きで面白いことをされるのは不愉快だ。ただでさえ最近は元帥としての仕事と傭兵街との橋渡しで忙しく、面白いことに飢えているんだ。どうせならひっかきまわした方が楽しいだろう?」
「ほんっとお前、そういうとこなんだよなあ……」
そう、この獅子は最強の四席目を決める争いに嬉々として乱入してきたのだ。全員がこいつにだけは渡しちゃ駄目だと思ったに違いない。おれもそう思っている。
忙殺されているにも関わらず、リブラはすました顔だ。お風呂に入って身なりを整えているおかげで、ぱっと見は優雅そのものって感じ。
愉快犯で手に負えない獅子だけど、おれも慣れている。テーブルにお茶が用意されていることから座れってことだろう。多分用意したのはファンダルかな。こいつ、二つ名持ちをメイドみたいに使うなよ。
無言で腰掛けると、よくできましたと言わんばかりに口角を上げて返された。人の神経を逆なですることにかけては本当に天才だと思う。
「お前はすべての候補者を鍛えているだろう。正直に答えろ、誰が座れると見ている?」
「うーん、正直全員に可能性はあると思う。それぞれ得手不得手があるけれど、単騎性能で考えると全員が破格だからね。誰が選ばれても不思議じゃない」
一騎当万のバッファーデバッファートリドスを始め、タンク性能が高いくせに『強制テレポート』で移動力も高いフォグ。
防御力ではフォグに劣るが広範囲結界を駆使することで一人でも大多数相手に防衛できるグランドに、おれの強化なしでも単騎性能がずば抜けているおかげでタイマンに強いファンダル。
遠距離攻撃で広範囲をせん滅する威力を連打できる破壊の化身みたいな兄弟に、索敵から治癒から防御から攻撃まであらゆるものを高水準で万能にこなせるヤード。
指導現場を見て、改めて彼らの強さは規格外じみていると感じた。だから誰とは決められないなあ。
「優等生ぶった答えだな、つまらん」
「そいつはどうも。じゃあリブラは誰だと思うのさ」
「ファンダルだ。おれ様が政治的な都合で選ばれないとすれば、これしかおらんだろ。ユニークスキルなしであの強さ。お前の強化をもらって何か一つでもスキルを開花させれば、頭一つ抜けるとおれ様は見ている」
「だから囲ってるわけね、っていうか自分が選ばれないことはわかってるんだ」
「当然だろうが。おれ様はあいつらに一抹の不安を与えるために遊びに来ているにすぎん。四席目など興味はないしな。くっふっふっ」
「相変わらず性格が終わっている……もしかして、ここに来たのはファンダルについて?」
「なんだ、お前も少しは物わかりが良くなってきたじゃないか。地位を持つと人は変わるものだな、くふふっ」
この人を馬鹿にしながらしゃべる感じ、リブラだよなあ。
変わらない嫌味に安心感すら覚えていると、獅子が指を振った。それに従ってファンダルがそそと前に出て、バスローブのひもを解き始めていく。
骨太でたくましく、むっちりとした肉体を差し出しながら、犬は楕円の眉をハの字に下げて恥ずかしそうにしている。ランドが守ってるらしいから、あんまり男を知らないんだろうな。そう思わせる清楚な立ち振る舞いだった。
「今日はファンダルを抱く日だろうから、おれ様から一つ指示を与えに来た。……徹底的にやれ。『華炎』以上に壊すつもりで抱きつぶせ。そうすればこいつも何かスキルを手にするだろう」
「いや、それはさすがに……ただでさえあの兄弟には手を焼いてるのに……」
コハクの腋大好きになったガニスもそうだけど、今後が大変なんだ。だからここで特訓と称して抱くときは、かなり手加減をしている。そうしないと怖い。
「ふん、お前が聞いているかは知らんが、こいつはおれ様が心を折ったうえで暗示をかけたくせに、善意を失わなかった。だから問題ないだろう。意思の強い雄だ、お前が本気で遊んでも壊れない。そうだろう、ファンダル?」
「はい。私もその方が嬉しいです。強くなれるのでしたら、手段は選びませんから。あまりこういうことは得意ではありませんが、一生懸命頑張ります。ですのでどうか、君の全力をぶつけてください」
優しそうな顔をしていながらも、瞳に宿る意思は強い。温和で流されやすそうでいて、決して折れない芯を宿している。そういうタイプなんだろうな。
「……だからファンダルのこと気に入ってるんだ」
「くふふ、そういうことだ。遊びがいがあっていい。お前もきっと気に入る」
お気に入りのおもちゃを共有しよう、みたいな感覚で来るな。おれはそこまで落ちてねえ。
「でも、参考になるよ。ありがとう。正直加減がわからなくて困ってたんだ」
「モウダンやあの兄弟のようにお前に慣れたやつは楽だろうが、そうじゃないやつに対しての塩梅をいい加減に覚えておけ。成果を上げねば、何のためにコハクが新設したのかわからんだろうが」
「耳が痛い……」
ものすごい真っ当なお叱りをいただいた。嬉しそうな顔が腹立つが、言い返す言葉はない。リブラは正論で人を殴るのも好きだからなあ。
そしてこいつ、だからファンダルには本気でやれって繋げてきてる。おれは強化を成果にでき、ファンダルは四席目に座れる可能性を高め、リブラはファンダルを通して影響力を強めることができる。ファンダルの性癖が終わる可能性を無視すれば、三方良しが実現するんだ。
「……ものすごく断りづらい提案じゃねえか」
「くふふ、交渉とはこうするんだよ。リンドンからは限界を攻めたコースをもらっただろう。あれはおれ様が通達を出しておいたんだ。それを見て実践すればいい」
「外堀まで埋めたのかよ……」
こんなムーブばかりしてるから警戒されるんだろうが。でもこいつの場合、好きでやってるからなあ。
「さて、言いたいことはこれで全部だ。お前が日ごろ溜めた鬱憤を晴らしてやれ。手ぬるいセックスばかりで飽き飽きしていただろう」
「だから一緒にしないでって……おれは別に……」
「悪いがおれ様はまだ、お前を使って遊ぶことに飽きていないんだ。『忠犬』の性癖をぶっかけたのはお前だ。だから躾けのなっていない犬が粗相をしても、飼い主のせいということだな、くっふっふぅ」
美麗な相貌がおれに迫り、熱っぽい目で見つめてくる。忙しくて最近セックスできてないから、溜まっているのだろう。普通のセックスだと性欲は発散できるが、解消できない性癖というものもある。
ゴライザから抽出した『忠犬』の性癖を吸わせたら、リブラはこんな性格でも犬プレイが大好きという性癖になってしまった。そのせいで殺されるかと思ったけど、案外本人は楽しんでいるからおれの首はこうしてつながっている。
もっとも、性癖の祖であるゴライザよりかは欲求が弱いので、普段はしっかり隠せている。生粋の忠犬と比べると目立たないが、この獅子も二人きりでセックスをするときは結構甘えてくるんだ。
「ここに戻ってからというもの、お前のセックスは本当に生温くて退屈だ。おれ様のご主人であるというのなら、肉の食い方くらい教えてもらわねばなあ、くふふっ❤」
でもそれは二人っきりの時だけ。ファンダルがいる今は圧倒的加虐者の側面しか出ていない。
「では頼んだぞ。ファンダルを徹底的に食い散らかしていけ」
「あれ、参加しないんだ」
「これがどうしても嫌だとぬかしてな。強行してもいいが、そうするとグランドたちがやかましいんだ」
「あ、あの、すみません。他の人に見られるのはちょっと……」
「リブラが人の言うことを聞くなんて珍しい」
「今はまだ目立つ時期ではないというだけだ。特にグランドの奴はおれ様の動向を監視している。波風立てられると、ウィザロンらがここぞとばかりにおれ様を除外するのが目に見えているしな」
うーん、あまりに人望が無くて四面楚歌になってる。それでも楽しそうなのはもう才能だわ。人の恨みを買う天才か。
適当に着替えて去っていった獅子を見送ってから、おれはファンダルと向かい合う。騒動の後始末の時に何度か喋ったことがあるくらいだけど、この犬がすごくいい人なのは知っている。だから本気で抱くのはちょっと罪悪感あるんだよなあ。
「えっと、本当に大丈夫? リブラに脅されてない?」
「ふふ、大丈夫です。心配してくれてありがとうございます。私の意志でもあるので、気にしないでください。それにみんなはリブラ様のことを警戒していますが、あの方は少し茶目っ気があるだけでいい人なんですよ」
すごい、あの獅子をいい人なんて言い切る人初めて見た。聖職者の方が向いていると言われるわけだ。
「じゃあ本当に脅されたりとかじゃないんだ……」
「はい、安心してください。あれでリブラ様、私のことを気遣ってくれているんです」
「へ、へえ……そうなんだ……」
絶対騙されてるってそれ! あとで痛い目見るからさあ!
これは確かにランドも心配するわけだ。善性の塊すぎる。ジェルと並んで王国の良心と呼ばれるだけはある。
「いえ、そんな……ただ、リブラ様はお母様のこともありますから、仕方ない部分もあるんです」
「え?」
そういえば、リブラってコハクの腹違いってことくらいしか知らないや。妾の子らしいとは知ってるけど、あんまり触れない方がいいかなと思って、今まで聞いたことはなかった。
詳しく聞きたかったけど、それより早くファンダルが不安そうにこちらを見つめ返してきた。
「私としては、君が興奮してくれるかの方が心配です……私はいかついですし、男臭いとはよく言われるので……」
なんか予想外な杞憂してる。経験がないから自分の魅力というのが全くわかってないんだ。
前面がはだけたバスローブから覗く肉体は柔らかそうでいて固そうだ。筋肉が多めのガチムチなので、弾力で言うならフォグより強かったはず。腹筋もしっかり割れていて、明るめな茶色の体毛が股間と腋、胸にも茂っており、温和な顔がミスマッチに思えるほどだ。
男臭いのは誉め言葉なんだけど、本人はそう思っていない。ちんぽもぶっといし、尻もでかい。堂々と立ってるだけで衆目が集まるほどカッコいいのに。
なんて伝えると、こげ茶の犬は嬉しそうに、でも恥ずかしそうにバスローブの前を閉めた。
「あ、ありがとうございます……そんなこと言われたのは初めてです。軍に入りたての頃は、体だけの軟弱者とか言われていたので……」
入りたてってことは二つ名をもらう前か。平民出身だとそういうの言われるんだろうな。だからヤードがやさぐれたし。
それにランドから聞いた話、グリッジの下で隊長やってた時も結構陰口とか言われてたらしい。類は友を呼びすぎ。そもそもグリッジがトップだったんだ、風紀が終わってたのは想像も余裕。
グランドとかは褒めてただろうけど、こうして性的魅力について言われたのは初めてなんだろうなあ。勿体なさすぎる。
だけどうぶさはごまかしきれないほど発露されているので、ベッドに座って隣を叩いて呼べば、おずおずと座ってくれる。見た目通りの巨漢で、並べば肩の位置が全然違うところに来た。
「それでも訓練を続けて二つ名持ちになったって考えるとすごいよね」
「そんなことはないですよ。あの頃は兄弟たちを食べさせるためにがむしゃらでしたから。最初は敬語も全然できなくて、しゃべるだけで田舎者がばれてました。頑張って慣れようとしてたら、この喋り方が定着しちゃいまして……」
「ああ、それで……」
何度か後始末のために話したことがあるけれど、所作に生まれを感じさせたことはない。かなり努力したんだろうな。スキルだけじゃなくて、礼儀作法まで。
ファンダルにはいくつも呼び名があるが、努力の人もそのうちの一つだ。生まれをものともせず上り詰めた努力の人。それでこの謙虚さ、すごいよなあ。もっと誇ってもいいのに。
「確認なんだけど、本気でやるってことはあの……エフィルとかガニスとかみたいになるかもってことだよ?」
「そうですね……でも強くなれるのなら構いません。ご存じの通り、私は生まれも弱いうえに前の騒動での立場もよくなかったので……このまま取り残されれば軍に居場所がなくなってしまうかもしれません」
「いや、ジェルたちに比べたらってだけで、ファンダルも十分強いでしょ」
「ありがとうございます。ですが、私がこうして二つ名をもって隊長ができているのは、ジェル様やコハク様が恩情をくださったからです。特にジェル様には許していただきましたが、私としてはまだ恩返しができたとは思っておらず……」
あ、そうだ、ファンダルは優しいけど少し自罰的だった。
ジェルを裏切っていたことについて、ずっと罰してほしいと思ってた。一応あのパーティで仲直りはできたけど、それでいっそうやる気になってるのかもしれない。
「ですので、もっと強くなってみんなに恩返しがしたいんです。そのためなら、私の性癖が終わろうとも構いません」
「あのさ……ジェルは別にファンダルのこと怒ってないのは知ってるでしょ。そんな自暴自棄になられたら、逆に悲しむよ」
「……ふふ、ランドと同じことを言うんですね。わかってます。ですが、自暴自棄なんかではありませんよ、これはただの自己満足です。私にだって二つ名持ちとしてのプライドがあるんですから」
それがわかってればいいかな。ランドがちゃんと言ってくれてるならこれ以上言うことはない。
「それに、その……」
「いいよ、今リブラもいないんだし、言っちゃいなよ」
「初めて人としたのがあの時のリブラ様とで、それ以来まったくなので……ちょっと、ほんの少しだけですけど、興味がありまして……」
「え、ランドとかとは……」
「してないです! ランドとは別にそういう仲ではありませんから……!」
意外だ。あの食い意地の張った虎が手を出してないなんて。よっぽど大事にしてるんだろうな。むしろ友達だと気を使うのかもしれない。意外にランドは気配りができるから。
「じゃあ後ろはいじってたり?」
「……少し、試しはしたのですが、あの時ほど気持ちよくはなれなくて。ですが、今日のためにほぐしてきたので、問題なく腰を振れると思います」
おれは別にスキルを使えば未使用でもトロマンにできるのだけど、こういう健気さは嫌いじゃない。だけど本気で抱くことにちょっと罪悪感が出るけど。
「えっと、じゃあ、事前に説明はあったけど、やる内容に関しては大体決まってるし、通達もしてる。あれで本当にいい?」
「はい、わ、私はその……ランドに言わせると結構被虐癖があるらしいので、激しい方がいいかと………」
「あーまあ、確かにMっぽい。だったらそういうスキルが芽生えたりするのかも」
トリドスやコハクが自分の特技を伸ばすような強化をもらったり、フォグやヤードがエロに関係したスキルを突発的に覚えたりと、何が発露するかは本当に未知数。
リンドンはそこも制御したいと考えているらしく、今回の行為はそこも加味されている。要はエロを訓練にしようってこと。
「ならまずは……全部のスキルを最大限起動して。おれがそれをぶち抜いて犯すから」
「わかりました」
するとこげ茶の犬から立ち昇る威圧感が爆発した。
『剣技』や『肉体強化』といった基礎スキルを常人とは比べ物にならないくらい鍛えたファンダルだ。それらを全部最高出力にすれば、目に見えない圧がすさまじいことになる。
本人の顔が優しいことが救いだ。これで睨まれたら吐いてたかもしれない。
というか、これだけの出力を誇りながら涼しい顔ができるんだ。さすが元からの二つ名持ち、二つ名というのがどれだけすごいことなのかがよくわかる。
「あの、すみません……今は『剛力』なども最大なので、触れると吹き飛ばしてしまうかもしれません」
「そんなに強いの?!」
おれは逆に基礎スキルというものが皆無なので、今本気で殴られたら吹き飛ぶよりも体が爆ぜる。身を守る手段がまるでない、エロ特化なのがおれだ。
「ちなみに、その状態でどこまで壊せる……?」
「試したことがある範囲ですと、グランドさんの結界は殴って壊せます。訓練時の感触では、フォグさんの霧は何度か殴ればあるいは……補充されないという前提ではありますが」
タンク性能が高いフォグの『乳霧』を殴って壊せるのはもう人の域じゃねえんだわ。いくらあのおっぱいミルクの霧は補充が簡単とはいえ、壊す速度によっては体に拳が届くぞ。
しかも本来ならファンダルは大剣使い。背丈ほどある武器に『剣技』とかが乗るわけでしょ? 暴力の化身か?
「ちなみに守備力はどのくらい……?」
「そうですね……『華炎』の最大火力なら一発は耐えられるかと」
あの灼熱を食らって生き残れる人類存在してたんだ。いくら範囲優先とはいえ、ジェルですら風で守るくらいなのに。
単体性能がいいとは聞いていたけど、本当にステータスの暴力じゃねえか。
「ですがその分能力の応用が利きません、戦うことしかできない男なのです」
「それだけ強ければ十分だと思うよ……」
これがユニークスキルなしで二つ名を手に入れた男かあ……。温和な顔からは想像もできないほど、肉体が強すぎる。
「リブラが有力だと推すわけだ。本当に四席目に座るかもね」
「そうだと嬉しいのですが……私は多数を相手取るのが得意ではありませんので、他の方に比べると見劣りするのです」
「トリドスと逆パターンか、求められる基準が高すぎる……」
なんでタイマンと対軍ができて当然みたいな風潮なんだ。あの三人が狂ってるだけなのに。
「話を戻しますけど、このままだと身をよじった時に体が当たったら、君が大変なことになると思うのですがどうしましょう……」
「うーん、本当にそう。どうしようかな……リンドンからの指示は、ファンダルの全力を性癖や『暗示』など精神を変性しないもので打ち破るってものだから、体位とかは任せられてはいる……」
この圧倒的な肉体能力でスケベをすることで、それが特化されるんじゃないかって言うのがリンドンの仮説だ。だから能力を解除すると前提が崩れてしまう。
『操作』で解除させれば簡単なのに、今回は中々難しい指示だな。ロープで縛っても絶対破られるし、『操作』は短期間しか効果がない。下手なスキルで動きを制御しても、打ち破られた瞬間おれは死ぬ。さすがにリスキーすぎるって。
「だったらファンダルに動いてもらうしかないか。騎乗位とかでいい?」
「わかりました。初めてですけど、頑張ります……!」
むっと気合を入れた顔は愛嬌がある。見た目のごつさを性格で打ち消しているが、体だけで見るとやはり雄臭い。股間とか腋の毛もそうだけど、そもそも全身が分厚すぎる。
はちきれんばかりに実った体に手を伸ばし、軽く押すとこげ茶がベッドに横たわる。喋っているときはあれだけ優しかった顔も、今は緊張に口がこわばっている。最近スケベな雄ばかりだったから、こんな反応は久しぶりだった。
「じゃあ本気で抱くから。一応確認なんだけど、スキル耐性ってオンオフできるタイプ?」
「あ、いいえ……私のは常時発動していて、おそらく『愛撫』なども弱まるかと思います。特に今は全力ですので……」
「わかった、ならこっちも全力でスキルを使うね」
とは言ったものの、まずは常時発動してる『愛撫』のまま触ってみるか。いきなり感じすぎて驚かれると、緊張が解けないだろうし。
張り出した胸は弾力が強く、毛皮の下にある肌の触り心地を良くしている。見た目通り筋肉が多めで、うちの巨乳たちよりもしっかりした感触だ。
乳首は綺麗な色をしていて、触ってこなかったのがわかる。もっともそれは亀頭も同じだが、禁欲でもしてきたのか、一物はすでに張り詰めて興奮を示していた。
「あうぅ……あの、騎乗位をするのでは……?❤」
「挿入時はね。でも入れて終わりってだけだと、快楽に浸らないからスキルも発現しないらしくてさ。だからどっぷり気持ちよくなってもらうよ。それに、本気でやるって約束したしね」
「わかりました……んっ❤なら、よろしくお願いします……」
前戯は大事だ。やっぱりどうせやるのなら嬉しくなってほしい。強制的な快楽は与えられるけど、それだけだとさみしいからね。おれはリブラとは違うんだよ。
「『愛撫』使ってるけど、効いてるかな?」
「はい……誰かに触られてこんなに気持ちよくなったのは初めてです……あっ❤むずむずしているような、ぞくぞくしているような……これ、あぅ、体が溶けていきそうです❤❤」
なるほど、程よく気持ちがいいってことか。うっとりして、このまま寝そうな気もする。
ってことは想像通りかなり減衰されてるな。無抵抗だったらこれだけでいかせることができるんだけど、耐性のせいでそこまでの威力が出ていない。
ここから出力を上げるか、他のスキルを使うか……ううん、どうしようか。
「すごい防御性能だな……単純に強いってこういうことかあ」
「ありがとうございます。でも私はどちらかと言うと、攻撃の方が得意で、防御面は課題なんです……」
「これでっ?!」
こんなに打ち消されてるのに、攻撃よりの性能なのかよ。やっぱ暴力だわ。
怒らせないようにしよう。おれはひっそりと決めた。
「あ、ファンダルってキスとか嫌だったりする? 事前の聞き取りだと禁止はなかったはずだけど……」
「大丈夫です。好きにむさぼってください。私は全部を受け入れます。いえ、その、嫌々というわけじゃないですよ? キス、少しだけしてみたいですし……」
言葉が硬かったと気づいたのか、わたわたと補足を投げてきた。行動全部に不慣れな感じが出ている。
やっぱりまずは緊張をほぐした方がいいなこれ。出力を上げるより慣らすのが先決だ。性感帯を避けて、腹を撫でることにした。
「あぅ❤」
「キスはまだしないから、力抜いて。こうもガチガチだと楽しめないでしょ」
「わかってはいるのですが、どうしても……❤」
腹は割れているだけあって硬い。毛皮の下にはしっかりとした筋肉が蓄えられているが、その上にうっすらと脂肪が乗っている。これが無かったらウィザロンみたいに切れた肉体だったんだろうな。けど、この少しの柔らかさがファンダルの魅力だと思う。
こうしていると腹を出した駄犬を撫でている気分になるが、そこまでわしゃわしゃとはしていない。あくまで落ち着かせるような、丁寧な手遣いを心掛ける。
「すみません、お手数をおかけします……❤」
「いいよ、おれとするのは初めてなんだし。リブラに犯されたのが最初じゃ身構えて当然だよ」
手を下に持っていくと、明るい茶色の陰毛に当たる。けど、質感自体は他の毛皮と変わらずふわふわだ。興味をそそられてへそ下の毛をくすぐっていると、先走りが甲に垂れてきた。興奮してくれてはいるんだな。
「うぅ、すみません……❤」
「いいって、これからもっと汚れるんだし。興奮してくれて助かってるよ。その防御力を突破して興奮させるの大変そうだからさ」
発情して逆レされでもしたら、おれになすすべはないのでこのくらいを維持していきたい。メンタルが強いとはいえ、騎乗位まではおれがリードしていたいんだ。
陰毛は腹筋の毛より量が多く、ふかふか度が高い。何度か押して遊ぶと、シャワーを浴びたばかりなこともあって、芳香に雄が少し混ざったいい匂いが広がってくる。
「ん、ぁあ❤股間の毛をモフモフされるなんて、恥ずかしい……です❤」
「それは……慣れてほしいかな、もっとすごいことするし。でもいい手ざわりだね」
「この予定が決まってから、熱心に手入れをしましたので……それに、見た目がみすぼらしいと、どうしてもその……私はいろいろ言われてしまいますから」
生まれが平民だと必要以上に見た目に気を付けないといけないのかよ。だからファンダルはこんなに手ざわりがいいんだ。こういうところも努力してたんだなあ。
こうなってくると他の部分も気になってきたな。前戯はまだ続けてもいいだろうし、ちょっと触ってみたい。
「こことか」おれが手を伸ばしたのは胸の谷間、胸毛の部分だ。「駄目かな?」
「構いませんよ……目立つ部分ばかりで恥ずかしいですが……❤」
手を沈めるとやっぱり毛量が多くてふかふかだ。おかげで谷間は見えないけど、下乳のでかさから十分想像ができる。それにうちの牛や熊で巨乳成分はお腹いっぱいだから、こっちの方が新鮮だ。
乳首を触るのはまだやめた方がよさそうだし、指先で明るい茶色の胸毛を遊んだ。
「う、んぅ……あの……❤」
「嫌だった?」
「いえ、そうではなくて……❤君が緊張を和らげようとしているのはわかりますが、さっきから、すごくドキドキして……❤苦しいんです❤」
犬の顔は真っ赤になっていて、困ったように眉が下がっている。腕が所在なさげに動いているせいで、綺麗な茶色の腋毛が見え隠れしていた。
「私は、性行為というものを……リブラ様がしたようなものだと思っていたので、こういうのは……全然想像していなくて❤恋人みたいだなと……あ、いえ! 君は仕事でしてくれているのに、うぬぼれたことを言いました! 忘れてください!」
「気にしないよ。リブラと比べたら、誰でもこういうセックスになる。断言してもいい」
「あうぅ、そうですか? こんな優しく、あの、君が嬉しそうに笑ってくれて……リブラ様とは全然違うので……」
「一緒にしてほしくなさすぎる……いや、おれもかなりいろいろやってきたけどさ……」
反面教師って大事なんだなと痛感する。我が身を振り返らないとな……もう遅い気はするが。
「でもファンダルはMなんだっけ、無理矢理の方がいいとか?」
「いえ、私は自分ではそう思ってないのですけど……❤ただ撫でられるなんて、小さい時以来ですから❤う、むずむずしてしまいます❤」
忠犬適性があるのかどうかわかりづらいけど、優しいから言ったら従ってくれそうではある。別に忠犬を増やしたいとかはない。
「ちょっと『わんっ』って言ってみてくれる?」
「はい、わんっ! わんわんっ!」
素直すぎる……。そしておれはこういうところを抑えろって話だわ。
でもファンダルはあまりわかってないようで、きょとんとしている。こういうの侮辱とか思わないのかな。
「あ、いえ、こういう行為もあるのかと……すみません、あまり興奮はしませんでした……」
「うんいいよ、それが健全だから……」
どうやら忠犬適性はあんまりないみたいだ。でも嫌々やってくれるのもそれはそれで……ではないぞ、おれ。
ちょっと遅いかもだけど、おれはリブラみたいにはならないと、手つきでわからせよう。その気持ちが通じたのか、毛皮をすくように撫でていると、ぎゅっと目をつぶったファンダルが意を決して口を開く。
「あの、えっと……キスを、してみたいのですが……いいでしょうか……❤」
「うん、もちろん」
じれったくなったのかもしれないが、積極性があってありがたい。
おれは横たわる分厚い肉体に覆いかぶさって、手首をつかんでベッドに押し付ける。おれ程度の力じゃ何の意味も無いだろうけど、抑えてという意図は伝わったはずだ。この雰囲気だったら恋人つなぎとかの方がいいんだろうけど、指の骨が折れそうだから止めといた。
それから武骨な顎をさすると、さらにきつくつむって目頭のしわが濃くなる。緊張をほぐすのはなかなか難しそうだ。
「舌はどうする?」
「い、入れてください……❤」
「わかった」
お望み通り、キスを降らせてから舌を差し込むと、おずおずと粘液が応えてくれる。
舌使いからしてやっぱりぎこちない。歯茎を舐めて発破をかけると、上ずった嬌声がおれに注がれた。
「ん、ふぅ❤はふぅ❤んっんっ❤❤」
さてと、キスを楽しんでくれているうちに、おれはスキルを使おうか。
今回のセックスは互いの全力をぶつけることで、スキルの発現を促す予定だ。今までは前哨戦でしかないなんて、ファンダルもわかっている。それにリブラからも抱きつぶせと言われている。
スキルを全力解放しながら全く疲労してないのは大したものだ。おれは無効化とか威力減衰に弱いから、どこまで通じるのかわからないなあ。
でも、やれるだけやってみよう。できればファンダルが壊れないでくれると嬉しいんだけど……そういう約束だったし本気を出すよ。
おれは唾液を注ぎながら、スキルを起動した。
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