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俺の護衛のくせに態度も口も悪いギザ耳顎髭俺様ガチムチ虎オスケモ冒険者がうっかり呪われてデレデレになる話

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 “手紙をありがとう。そして、興味深い推論だった。それについてだけど、書庫を調べるよりもぴったりな情報があるんだ”

 “南東にある故王朝の城跡については知ってるね? 数年前に注目を集めたあの廃都のことだ”

 “既に探索され尽くしたその地に、隠された地下室があるという噂を聞いた。亡国の魔術師達が古代の魔術やその秘密を秘匿した資料室のようなものとされているが、誰も調べたことがなく明らかでないことは確かだ”


 “本来なら僕も同行したいが、ここのところ忙しくて事務所を離れられそうにない”

 “こっちで手に入れた地図を含め情報を送るから、このことが他の誰かに知られる前に調査に行ってきてもらえないだろうか?”

 “きっとお互いに興味を惹くものが眠っているはずだ。無理な頼み事をしていることは承知の上だが、君なら無事辿り着けると信じている”

 “何か見つかったらいつでも連絡してくれ。必ず力になるよ。その探求に希望があることを祈っている、君の学友より”



 ◇◆



 埃っぽい台座の上にランタンを置き、俺は壁一面の石棚に手を伸ばした。

 手に取った革装丁は風化し、紐で綴じられたページはカビや砂塵でボロボロになっている。


 開いてみる。劣化は著しいが、そこに綴られた内容は辛うじて読み取ることができそうだ。

 古い文字だが、見覚えがある。

 幾何学的な図形を無作為に羅列した象形文字のように見えるそれは数百、あるいは千年ほども前から実用されていた古代文字だ。


 台座の上にばさりと広げた古書に書かれた文字を、ランタンで照らす。

 ざっと目を通して、数年前に王立書庫で読んだ史料の写しに似た綴りがあったのを思い出した。

 俺の読解が正しければ、どうやらこれは当時の魔術師達が手ずから書き上げた魔術理論書のようなものだろう。

 独特の固有名詞や読解不可能な文字が多いため判然としないが、かつてこの国で研究されていた、あるいは用いられていた魔術についてをまとめているように読み取れた。


 適当に手に取った一冊がこれなら、眼前の本棚に並ぶそれにらは一体何が記されているのだろう。

 この地下室に辿り着くまでの苦労が、ようやく報われるようで感無量だった。

 瓦礫に埋もれたタイルを順番に踏んだり、魔力を流し込んだ壁のクレストに正午の日時計を当てたりという悪ふざけにしか思えない地道な手順はすべて意味のあることだったのだ。


 そして、その先に隠されていたこれらの遺構はただならぬ何かを秘匿していると期待してもいいはずだ。

 魔術書や年代記なら類似したものが既に発見されているが、何故これらだけがこんな地下に安置されているのかというのは考察の余地がある。

 もしかしたらこの書物の全てを解読できれば答えが見つかるかもしれなかった。


 ……遥か古の時代に栄華を極めた城塞は、今や見る影もない。

 ひび割れた城壁には蔦が絡み、緑のカーテンが壁一面を覆い苔生している。

 どこからか入り込んだ魔物や、あるいは朽ち果てた死体に宿ったアンデッドがあちこちを蔓延り、ただ探索するだけでも危険がつきまとう。

 その中にあって、これだけの史料を無事に発見できたのは奇跡と言えた。


 かつて、この一帯の森林地帯を統べる強国があった。

 現代の暮らしを支える魔術の基盤となる理論を編み出したとされる古の城邑は、その優れた技術により数百年続く富と繁栄をもたらした。

 頭の先、脳の奥から来たる魔力を思考という回路に乗せて魔術を行使するように、モノに刻んだ文字を回路として魔術を扱う。

 今ではこの理論は現代の魔法科学の始祖とされており、古の時代から既に我々と同じ技術を用いていたという歴史的発見はこの遺跡に対する価値を急速に引き上げた。


 太古の昔から伝わる魔術の理論を求めた調査団のほかにも、魔力を込められた道具や装飾品といった古代の遺物……アーティファクトを求めて一攫千金を狙った冒険者など、人々はこぞってこの遺構を探し回った。

 今では考えられないような理論で魔術の発現にアプローチした遺物は身に着ければ人智を超えた力を手にすることができる、と高値で取引され、魔術師ギルドの連中と宮廷魔術師らが一緒になって複製品を取り締まるほど市場を騒がせた。

 そんなわけで、密林を切り開いた広大な都市部や、当時の文化水準からは考えられないほど大規模な城跡は既に隅々まで探索されきっており、今では駆け出し冒険者の腕試しとして遠征先に選ばれるくらいには人々の興味は薄れていた。


 我々の王国とその城下町から人を取り除き、周囲から植物を繁茂させたらこのようなありさまになるのだろうか。

 石を積み上げ粘土で固めた建物は城壁であっても雨風に晒され続けて朽ち、劣化した天井なども自重に耐え切れず崩落している。

 その隙間に蔦が入り込み、日光を遮って鬱蒼と茂っているために、俺が探る地下の階層などは一面に苔が生して殊更に湿度を高く感じた。


 全盛期なら現代の都市国家にも引けを取らないだろうという規模の城を築き、魔術の基礎を編み出したとされる古の王朝。

 長年に渡り繁栄を約束されていたはずの文明が、遥か昔にあっさりと滅びたというのは誰もが知っているが、その全容は明らかにされていない。

 魔物に滅ぼされたとも、流行り病があったともされているが、いずれの説も確たる証拠を欠いて定かではなかった。


 それは過去を知るための技術がなかったからではない、と俺は思っている。

 無論、決定的な物的証拠が出土していないだけということもあるだろう。

 だが、それだけではないはずだ。

 というのも、今を生きる人々にとっては、過去に滅んだ亡国のことなど明日食べるパンよりもどうでもいいことだったからだ。

 そんなことを気にしてどうなるんだ、という無関心。

 嘆かわしいとは思うが、その衆愚があるからこそ俺は使命に燃える自分がいることを自覚していた。


 俺が手に入れた情報が、かつて共に学んだ友の後押しが、埋もれてしまったただ一つの真実を解き明かすかもしれない。


 大発見の予感に口元が綻ぶ。

 それでこそ、探掘されきったこんな遺跡に足を運んだ甲斐があった。

 ここには魔術の研究のため訪れている、という本来の目的を忘れたわけではないが、古代のロマンに思いを馳せる自分がいるのを否定できない。

 部屋の中央にある台座の上に置かれたランタンに照らされ、壁一面の石棚に所狭しと詰め込まれた書物は俺にとって煌びやかな金銀財宝よりもよっぽど価値のある宝の山に見えた。


 特別な力を持つ古の遺物でも、意匠を施された豪華絢爛な装飾品でもない。

 それでも、カビ臭い書物一つ一つが悠久の時を経て太古から現代に届く声だ。

 ついにそれを探り当てた。この声を聞くのが自分であることに、騎士の栄誉にも似た誇らしさを感じる。

 もしかして俺は、積もり積もった歴史を紐解く瞬間に巡り合うことができたのかもしれない。


 一体何か綴られているのだろうか、一刻も早く解き明かしたい気持ちで鼓動が逸る。

 このままその全てを手に取り確認したい気持ちはあったが、ランタンがなければ数歩先も見えない地下に長く籠っていたくはない。

 階層全体がいつ崩れるかもわからない緊張感もあって、俺は頁の風化がひどくない冊子を選んで運び出そうと思って一歩踏み出した。


 その瞬間だった。

 長い間、誰も足を踏み入れることのなかった静謐な空気にそぐわぬ音がしたのは。


 ガシャンと砕けたガラスが飛び散る音に俺はサッと血の気が引く。

 まるで場末の酒場で喧嘩が始まる合図のように、前口上代わりに威勢よく叩き割られる瓶のように。

 今日まで連綿と続く時の流れを飛び越えついに古代に触れるロマンを……勢いよくブチ壊す音だった。


 本をその場に置いて、ランタンを引っ掴んだ。ぎゅむっと苔生した石畳を踏みしめて、踵を返す。

 薄暗い廊下に出ると、少し先の部屋から光が漏れていた。


「ヴァレリ、今の音は……お前か? いったい、何の音だ?」


 扉もない戸口に手をかけ、俺は勢いよく部屋の中を覗く。

 そこにいる人物に厳しい目を向けると、背中を向けていた彼は肩越しに鬱陶しそうな視線を返した。


「……ピーピーうるせェな、俺が何かするのにお前の許可を取る必要があンのか?」

「あ、あるに決まってるだろう……!? 俺は雇い主だ、勝手な行動は慎んでくれ!」


 部屋の中にいたのは、パンを折り畳んだような耳にざっくりと入った切れ込みが特徴的な大柄な虎だった。

 体中を覆う縞に負けじと古傷だらけの彼は、肩を竦めて俺の非難を黙殺する。

 腰に俺が持つものと同じランタンを提げ、質素な綿服の上に革の軽鎧を身に着けた虎は、武骨な両刃剣を手にしたまま物色するように室内を見回していた。


 ツンとした酸味のあるにおいが立ちこめているのを感じる。ランタンにセットされている魔石に照らされた石畳の一部が、不自然に色が濃くなっていた。

 細い破片が四散した上を、虎のブーツがじゃりっと踏みしめる。何かの液体か、と理解すると同時に、尋ねていた。


「このにおいはなんだ……? 酢、いや……酒、か?」

「酒、だったものだ。試しに栓を開けてみたんだが……酸っぱくなっててダメだな、熟成も何もあったモンじゃねェ」

「だからって、割って捨てたのか……?!」


 地面に叩きつけて割ったのか、と思わず語気が強まる。そうだとしたら、なんてもったいないことをしてくれたんだと怒りに似た感情が喉の奥をグツグツと焼いていた。


 俺の追及に、ヴァレリと呼ばれた古傷だらけの冒険者は目に見えて不機嫌そうに舌を鳴らす。

 まるで年頃の子供が親に向けるような態度で俺を見下ろすその目つきは、歴戦のプロと聞いていた印象からは考えられないほど不遜なものだった。


「いちいち喚くなタコ、手が滑っただけだっつの。言っとくが、割りたくて割ったわけじゃねェよ」


 剣呑な目つきは明らかに嫌悪の色を帯びている。

 思わず臆しそうになるが、それが雇い主に対する目つきかと糾弾したい気持ちもあって、俺は彼の非を責める語気が強まるのを止められない。


「……故意でないなら仕方ないが、どうして勝手に栓を開けたりしたんだ? 古代に瓶詰めされた酒が飲めるわけないじゃないか!」

「うッ……るせェな、本気で飲もうなんて思っちゃいねェよ。中に何が入ってるか確かめようとしただけだ」

「それだったらまず俺に言ってくれ、当時から現存するボトルというだけでどれほどの歴史的価値があるのかわからないのか?」


 当時から硝子のボトルを精製する技術が広く普及していたとは考えにくい。

 であれば、こんな地下室に秘匿されていることもあって、それはきっと何らかの意味があるボトルだったのだろう。

 それを調べる機会が永遠に失われてしまったかもしれない喪失感で、俺は八つ当たりするように虎に言い含める。


「今、お前は個人的な好奇心でそれを無駄にしたんだ。もう一度言うが、勝手な行動は慎んでくれ!」


 しかし、俺の問責に虎はわかりやすく気分を害したようにゆっくりと振り返る。


「……あぁ? 一人じゃここまで来れもしないザコガキのくせに言うことだけは立派だな、テメェの好奇心で消費してんのはお前もおンなじことだろうが」


 虎は不機嫌さを隠そうともせず、威圧的に捲し立てる。


「それとも何か? 学者サマなら堂々と盗掘していいってか? 墓荒らし野郎のくせにご高説垂れてンじゃねえぞ、他人を責める前に棚に上げた自分の行いを見直せってンだボケが」

「そ……それとこれとは話が別だろ?! それにさっきから俺の言っていることは同じだ、もっと慎重に行動しろ! お前にとっては探索され尽くした退屈な遺跡かもしれないが、この辺りにはまだ何があってもおかしくないんだぞ! あと、俺はガキじゃない、もう二十四だ!」


 虎は俺の誹りに眉根を寄せ顎髭を蓄えたマズルで牙を剥くと、「カスの分際で俺様に指図すんじゃねェ」と低く唸る。

 持っている剣をこれ見よがしに振り上げて肩に担ぐと、一層険しい顔で睨みつけながらずいっと俺に詰め寄ってきた。

 その態度と表情は、殺されたくなければ黙っていろと明確に俺を脅しており、酔っ払いが声を荒げて恫喝するよりも大変に恐ろしかった。


 得物を担いで構える髭の虎男が、魔物や獣相手というだけでなく人間相手の荒事にも慣れているだろうということは、体中の傷跡が物語っていた。

 彼と違って旅用のローブに綿服しか身にまとっていない俺が武器にできそうなものは小ぶりのナイフくらいで、振り下ろされる剣を止められるイメージは持てそうにない、俺は彼の気まぐれで殺されてしまうかもしれない。


 生殺与奪の権を握られ、思わず一歩退きそうになるがそんな脅迫に屈するわけにはいかなかった。

 むしろ、金をもらってる護衛が雇い主を脅すのかと俺は強気に前に出る。

 お互いの鼻息が当たるほどの距離……というのは比喩で、俺より頭一つは大きい虎の顔をそのくらいの勢いで睨みつけながら、黒い鼻に向かって言い返した。


「そんな顔で脅しても無駄だぞ。改めて言うが、何か見つけたら俺に教えてくれ。特に、アーティファクトの恐ろしさはお前も知っての通りのはずだ、もっと慎重に行動しないと何があってもおかしくはない。お前にとっては不満かもしれないが、お互い万が一のことなど考えたくはないだろう。二人で生きて帰るためにも、協力してくれないか」

「ンなことテメェに言われるまでもねェんだよ」


 少しはこちらに歩み寄ってくれないものかと期待しての説得だったが、それは徒労に終わった。

 虎はこちらを少しも顧みることはなく、傷のある耳をうざったそうに震わせると俺の横をのしのしと通り抜けて部屋から出る。

 その態度に頭を抱えたくなる思いはあるが、今に始まったことではない。

 ここまで気難しいとは思ってもみなかったが、彼を護衛に選んだのは俺だ。

 この場で優先すべきは俺の目的を果たすことで、同伴者の機嫌を取ることではないはず。


 そう思って、背を向けて廊下を進む巨体にもう一度声をかける。


「……そうだ、ヴァリー。悪いんだがそこの部屋にある本を運び出すのを手伝ってくれないか?」

「その名で呼ぶンじゃねえっつっただろ、ブッ殺すぞ」


 だが、何度聞いても忌々しげに鳴らさられる舌打ちには慣れそうになかった。



 ◇◆



 探索され尽くした遺構とはいえ、その道のりは一筋縄ではいかなかった。

 それもそのはず、本来その遺跡にはそれなりの人数の調査団やパーティを組んで挑むのが一般的で、駆け出し冒険者の腕試しに使われる場合も五人、六人ほどの徒党を組んで挑むのが当たり前だからだ。


 しかし、それを俺はたったの二人でこの場に臨んでいた。

 大勢雇えるだけのコストがなかったというのもある。しかし一番は目当ての内容が内容なだけに口の堅く信の置ける人員を求めたからだった。


 物質に刻む文字に効果を持たせ、魔術的効能をもたらす魔具のうち、古くに作られた遺物についてはアーティファクトと呼ばれている。

 手紙を送ってくれた友人によれば、かの亡国にはその理論について記した何かが隠されているかもしれないという。

 魔術によって栄えた国が魔術に関する記録を残すのは、国の強みそのものを形にして保管することになる。


 故に知る人ぞ知る場所に隠したのではないかというのが友人の見解で、この特ダネが他人の手に渡る前に俺に調べてきてほしいというのが話の発端だ。

 元々は俺が研究している分野について古代の魔術を参考にするのはどうだろうかと相談したのがきっかけで、とうの俺もこうして発見するまでは半信半疑だったし、そんな怪しい話に二つ返事で乗ったわけではなかった。


 とはいえ、もしその話が本当ならこの上なく魅力的であることには間違いなかった。

 研究が進歩するという職務上の動機だけでなくなぜその国が滅亡の一途を辿ったのかを知る、またとない好機と言える。

 知的好奇心を満たす趣味と実益を兼ね備えたこともあって、友人からの手紙を片手に俺は冒険者ギルドへ旅の相棒を求めたのだった。


 秘匿された遺跡の隠し部屋を探すことになるということもあって、パートナー探しは慎重にならざるを得なかった。

 何しろ噂の隠し部屋については俺自身半信半疑だったからだ。

 それがただのホラ話でまったくの空振りであったとしても笑い飛ばして、探索され尽くした遺跡まで嫌な顔一つせずついてきてくれるほど人が良く、歴史的な発見があってもけしてそれを奪おうとしない誠実な相棒が必要だった。

 その上で、遠方への旅路に慣れていない男一人を連れて遠方の遺跡まで難なく辿り着くほど腕が立つ者を探した。


 初対面で信頼できるかどうかなどというのは判断に難しいので、ギルドの受付に他薦された冒険者に片っ端から声を掛け続けたのだが、しばらくは空振りが続いた。

 もう散々荒らされまくった遺跡に価値があるわけもないし、そんなところへ少人数で赴こうというきな臭い男を護衛しようという冒険者がそうそういるわけもなく。

 その上、大した報酬を用意できる財力もない俺の依頼が受付係を大いに困らせたことは言うまでもない。

 現場を知らぬ学者ならではの依頼と皮肉られるほど、候補者はなかなか現れなかった。


 そんな時だった、ヴァレリという西方生まれの虎人を紹介されたのは。


『なンだ、まだガキじゃねェか。まあいい、依頼だろ? 聞いてるぜ、前金でワイズ金貨十枚、生還してからの報酬に二十枚。それで飲めねェなら他を当たれ』


 ワイズ金貨は一枚あればふわふわの白い小麦パンが一か月分も買えるほどの価値がある貨幣だ。

 報酬にそれを三十枚というのは、俺が王宮から受け取る年俸の一年分に当たり、提示していた額の二倍ほどの値段だった。


『そんなに取るのか?!』

『当然だろうが。旨味もねえ遺跡に行けってだけならまだしも、ズブの素人の学者サマをたった一人で連れて戻ってこいっつうンだぞ。それも依頼者相手になーんか隠してやがる、並の冒険者なら怪しすぎて近寄ることもしねェよ』

『そ、そんなことは……』

『ま、そんなきな臭ェ仕事でも貰えるモン貰えンなら俺ァ受けてやっても構わねェぜ。何企んでようが興味もねェし、まんまとやられるつもりもねェしな』


 そう語って木のジョッキに並々注がれたエールを煽る虎の姿は、聞いていた印象とはかけ離れて感じられた。

 指折りの実力者で、義に厚く、俺のようなヒトにとっては信頼のできる男と聞いてきたのに、これではその辺のテーブルに座っているゴロツキどもと何も変わらないではないか。


『それが飲めねェなら諦めな。さてどうする?』


 だが、彼の言う通り自分が無理な依頼をしていることには違いない。

 報酬だって予算のギリギリ、辛うじて払えないことはなかった。


 ここまで自信たっぷりに言うからには、相応の実力があるということなのだろう。

 聞けばこの虎は四十近い歳だが、冒険者としては十年以上依頼をこなしているベテランだという。

 確かに、体中を走る黒縞と同じ色の顎髭を蓄えて、全身にそこだけ毛皮が削がれたような古傷を持つ風体からはいかにもな貫禄が感じられる。

 歴史あるギルドから太鼓判を押されるほどの人物なのだ、それくらい地位があって名も知れているなら衝動的な過ちを犯すこともないだろう。


 足元を見られていることは承知の上だったが、背に腹は代えられない。

 同じ金額で他の冒険者を雇う考えもあったが、ここまで自信満々に言うからには彼を信じてみようという気になった。


 提示された額で了承した俺に虎は『契約成立だな』とエールを呷る。


『その値段で構わない、よろしく頼む。……あと、俺はガキじゃない、もう二十四だ』

『フン……ヒトの歳なんてわかるかよ』


 今にして思えば、この虎の上機嫌な姿を見たのはあれは最後だった。

 この選択が正しかったのかどうかはわからない。

 だが、街を発った俺がすぐに後悔したのは間違いなかった。


 ギルドでの初対面から数日後、街を出発した俺達は陸路で馬車を乗り継ぎ四日、一日かけて河を渡り、さらに一週間近く歩き通した先にある遺跡を目指す。

 その道のりは、俺が危惧した通り過酷なものとなった。

 しかし、俺が苦しんだのは何も道なき道を行く疲労のためばかりではない。

 その理由のいくらかは、この虎の態度の悪さにあった。


『改めてよろしく、ヴァレリ。ええと、ギルドじゃヴァリーって呼ばれていたな、俺もそう呼んで構わないかな?』

『……駄目だ。俺様をその名で呼ぶな、わかったな』

『……エッ。あ、わ、わかった……』


『あー……ヴァレリは、これから行く遺跡には行ったことがあるのか? どうしてあれだけの国が滅んだのか、考えたことはあるかい?』

『……なァ、この会話は依頼の内か?』

『え? いや、そういうわけではないけど……』

『だったら喋ってねェで黙って歩け、無駄口叩いてンじゃねェぞ』


『す、すまない。水か何か分けてもらえないか……?』

『あ……? もう飲み干したのか? ……ったく』

『悪い、助かる……それと、何か食い物もないだろうか……?』

『……おい、まさかとは思うがメシの準備と水の確保も俺が世話しなきゃいけねェのか?』

『いや、それは……その……すまない、頼めないか……?』

『マジかよ、素人とは聞いちゃいたがガキ以下だなテメェ……こんな足手まといとしばらく一緒か、泣けるぜ』


 このようにとにかく気難しい男というか、こちらと協調する姿勢を著しく欠いているのだった。

 もちろん旅に慣れていない俺が足を引っ張っているというのも理解している。

 しかし、それを織り込んでの依頼のはずだ。

 それなのに、初対面から社交的な印象は受けなかったとはいえ、沈黙に耐えかねて口を開けば黙って歩けと罵倒され、助けを乞おうものなら物乞いを見る目で呆れられるとまでは思わなかった。


 キャンプ地を築き水場を確保した今となっては飲み水に困ることはないが、移動用糧食も少なくなった今となっては虎に食事の用意は一任していた。

 相変わらず文句を言いたげではあるが、何も言わずに二人分用意してくれる辺り雇い主の意向に従う最低限の意志は存在するようだった。


 だが、こちらが何か口を開く度に罵倒されるのはやはりというかなんというか、精神的にキツいものがある。

 かと言って実際に彼に世話をされている以上、売り言葉に買い言葉で言い返して機嫌を損ねられても厄介だ。


 一体俺の何が気に入らないのか、それとも単に虫の居所が悪いのか。

 良好なコミュニケーションを図ろうにもその糸口は一切見つからなくて。

 結局俺は極力この虎の不興を買わないよう、腫れ物にでも触るように気を遣って何を言われても我慢に我慢を重ねてここまで来たわけだった。


『……あと、何日くらいで着きそうかな』

『知るかボケ。この調子なら三日くらいってところじゃねェか』

『……そうか』


 途中からは俺も無駄に喋りかけることはなく、このような事務的なやり取りに留めたのだがそれでも一言多い虎と和解することはもはや不可能に思えた。

 とにかく、旅の目的を果たそう、探索を終わらせようとそれだけを考えて俺は長い旅路をやり過ごす。


 そんな状況にありながら、教えられた情報と閃きを元に隠されていた地下階段へ繋がる仕掛けを解くことができたのは僥倖だった。

 これでようやく目的を果たせると、目当ての遺構の探索に着手し始めて半日というところだった。



 ◇◆



 カタカタ、カラカラと硬い枝がぶつかり合うような乾いた音に気付いた虎が足を止める。

 それに倣って足を止めた俺は、薄闇の中から徘徊する老人のように現れた姿を見て振動が直に骨に伝わっている音だとすぐに理解した。

 体を動かす筋肉も腱も何一つとして残っていない体でどうやって動いているのかというのは興味があったが、目玉を失って落ち窪んだ眼孔をじっとこちらに向けてくる姿には流石に薄ら寒いものを感じた。


 闇の中から現れた骸骨をどう撃退するか、と俺はこの狭い地下回廊で使えそうな魔法の幾つかを頭の中で思い描くが、目の前の虎が猛る方が先だった。


「フン!」


 豪腕炸裂。

 骨とぼろ布だけの体で、丸太のような腕から放たれる一撃を受け止めきれるはずもなく、乱雑に袈裟に振りぬかれた両刃剣に一閃された骸骨の魔物は呆気なく無力化された。


 手にしていた錆びた剣と共に、砕けた骨が骨粉を巻き上げてその場にガランガシャンと崩れ落ちる。

 錆びた剣が苔塗れの石畳を転がる金属音が閉所に響くと、一閃の下に切り捨てられて全身の骨を両断されるように砕かれた彼が再び動き出すことはなかった。


 姿を見せた骸骨の戦士はここで朽ちた誰かに宿った魔物なのか、あるいはこの地下室に組み込まれた装置なのかというのは判然としない。

 それを調べる機会はもう無さそうだが、俺はそんなことより前を歩く虎を呼び止めざるを得なかった。


「行くぞ」

「ちょ、ちょっと待ってくれヴァレリ」

「あ? ……今度は何だ、タコ」


 地下を巡る回廊は立派なもので、石煉瓦を組み合わせた壁には等間隔に朽ちた燭台の残骸が残っている。

 ランタンがなければ完全な闇が覆いつくすだろう空間では、気を抜けば自分がどこを歩いているかもわからなくなりそうだった。


 今でこそ暗く、カビと埃臭いこの階層はさぞ静謐な空間だったのだろうと当時に思いを馳せる俺を他所に、虎は足元に散らばる骨をブーツのソールで砕いてズンズンと進む。

 俺に命じられるままに塵と埃まみれの書物を運び出すその足取りに次の襲撃を警戒する躊躇はなく、一寸先から何かが飛び出してくるかもしれないという恐怖は欠片も見られなかった。


「お、お前は……さっきの俺の話を聞いてなかったのか? ここに入るのは俺達が初めてなんだ、上の階層と違ってここらには何があるかわからないんだぞ!?」

「だったらどうした」

「だから、もっと警戒しながら進んだほうがいいんじゃないのか? 今みたいに何かが襲ってきたり、別の罠か何かがあってもおかしくはないだろう?」


 虎は後ろを追いかける俺にも聞こえるような溜息を吐いて、ぴたりと足を止める。

 それから大儀そうに踵を返し、冷ややかな目を俺に向けた。


「じゃあどうしろってンだ、テメェが前を歩くか? 先に何があンのか、この壁はいつ作られたのか逐一観察しながら進むってか?」

「そうは言ってないだろ! ただ……その、忠告しただけだ、手遅れになってからじゃ遅いと思って」

「余計なお世話だ、いっちょ前に人に気遣ってる場合か? ザコのくせに俺様に意見しようなんざ百万年早えっつの」


 虎は俺の忠告など意に介さず、フンと鼻を鳴らして続ける。

 その理屈は正しいのかもしれないが、かと言って感情を逆撫でするような口振りを前に大人しく黙っていることもできなかった。


「いちいちビビってンじゃねえ、罠なんかあるに決まってンだろ。そんなもんに足止めされるくれェなら正面から罠ごとぶっ壊して進むほうが手っ取り早いだろうが」

「だからって……お前は護衛なんだぞ?! そんな力業で、雇い主ごと罠に嵌まるようなことをしていいと思ってるのか?」

「うるせェな、だから他に代案でもあンのかって聞いてんだろうが。あるかどうかもわからねえ罠を的確に避ける手段が、お前にあンのか? ねえだろ? 思い通りにならねェからっていちいち口出ししてくンじゃねェよタコが、死にたくなきゃビビってねェで黙ってついてこいってンだ」


 これだけ厳重に秘匿されていたのだ、保管されている何かを守るために侵入者防止の罠などがあってもおかしくはない。

 そう思ってのことだったが、虎は迷惑そうに肩に担いだ剣先を揺らす。


「これだから素人は参るぜ……次勝手に口開いたらブン殴るからな、黙って歩けザコカスが」


 吐き捨てるようにそう言って、虎は前に向き直る。

 不機嫌な表情にぴったりの横暴な物言いで、もう俺には目もくれていなかった。

 俺はというと、そこまで言われたからには大人しく口を噤むしかない。

 内心穏やかではないが、他に何か案があるわけでもないのは事実だ。

 それに、実際彼が言うようにこの虎が俺の言葉に従わないことに苛立って口を挟んだだけかもしれないと思えてしまって、黙っていることにしたのだが。


 それでもまだ何か言い返そうと言葉を探して虎を睨んで見上げていたからか、視界の端に映るそれを捉えた。

 足元を照らす光が及ばぬ天井で、何者かが動く気配があった。

 最初は腰から提げているランタンの光に照らされた影かと思ったが、それが不自然に垂れて一歩踏み出した虎の頭部にドンピシャで迫るのを見た瞬間、衝動的に叫んでいた。


「うッ、上に何か……いるぞ!」

「ッ、……!?」


 俺の声にヴァレリは咄嗟に足を止めたが、仰ぎ見た瞬間頭の上に流動体の何かが降り注いだ。

 バタタッと戸に水を打ち付けたような音、そして、虎の体がびくんと跳ねる。

 おそるおそるその顔を見ると、虎の頭は透き通った粘液に包まれていた。

 俺の明かりに照らされたそれは不気味に光を跳ね返し、不自然に蠢いては伸び縮みを繰り返している。

 それがスライムの類であることは疑いようもなかった。


「う、うわっ……!」


 俺が狼狽えると、虎が小脇に抱えていた書物がばさばさと石畳の上に散乱して、その巨体が苦しそうに前掲する。

 平地では愚鈍で人に利用されるほど単純な思考を持つこの魔物が、洞窟の天井から降ってきてうっかり窒息死、というのは冒険者の間ではよくある話だ。


 その間抜けな見た目とナメクジが這うようなのろまな動きに騙されがちだが、この魔物はその透き通った体でどう相手を死に至らしめるかを熟知しており、腐っても魔物らしい悪意に満ちている。

 一度呼吸器を塞がれてしまえば逃れる術はない。そして、虎は今まさにその餌食になってしまったのだ。


 あれだけ自信満々に俺をこき下ろしていた虎が、目の前でまんまとスライム程度の罠にかかって死に至ろうとしている。

 その様子を、だから言わんことではないと笑えるような余裕はなかった。

 宙に浮かぶ水牢に頭だけ囚われている虎の巨体に駆け寄り、俺は血相を変えてぶよぶよとして顔を包むスライムを取り除こうとするが……それを制する手があった。


「えッ、ヴァ、ヴァレリ……?」


 前掲した虎の手が、俺の体を軽く押し退けるように前に突き出される。まるで離れろと言っているようで、俺は一歩踏み出したまま間抜けな体勢で固まる。

 そして気づいた。絶体絶命の状況にあって、虎の全身からは慌てた様子が感じられなかった。


 ぴたりと止まった虎の体に、諦めてしまったのかと俺が気を揉むのと時を同じくして、ヴァレリが動く。


「ッ、ふんん゛っ!!」


 直立していた虎が軽く前屈みになったまま力んだかと思うと、少し離れていた俺にもわかるほどの風が吹き抜けた。

 体にまとった筋肉の鎧へ空気を吹き込んだように全身を膨らませて、埃とカビ臭い地下の空気をかき混ぜる風圧を放つ虎にたじろぐ。

 それと同時に、頭を包んでいたスライムがバッと四散する。

 粘液があちこちにびちゃびちゃと飛び散って、虎の頭を包んで兜のようになっていたスライム塊がズルンと側頭部を滑ってこぼれ落ちる。


「ザコ魔物が……鬱陶しい真似しやがって」


 虎はそのまま犬猫がするようにぶるぶるとかぶりを振って、黒い鼻からフンッと強くスライム混じりの鼻水を吹き出す。

 頭の獣毛や折り畳んだギザ耳にへばりついていた粘液がびちゃびちゃとあちこちにまき散らされて、虎はもう一度深く息を吐いた。


「だ……大丈夫、なのか?」

「気分良さそうに見えるか?」


 虎は剣を握ったままの手で片方の鼻孔を閉じるように親指を当てて、フンと鼻を鳴らす。

 鼻水ともスライムの残滓ともつかぬ粘液を床にべちゃりと飛ばして、虎は忌々しそうにマズルの先を手の甲で拭った。

 仕留めた獲物だけでなく、透明な体に付着した不純物すら緩やかに消化してしまうというスライムの体が清潔かどうかはともかく、ぬるぬると粘ついた液体に顔を包まれて毛を濡らす虎は不愉快そうに呼吸を繰り返す。

 虎は取り落とした書物束を再び拾い上げると、視界の端で千々になりながら蠢いているスライムに目を向けた。


「い、今のは、いったい……魔法か何かか?」

「フン、ただの……鼻息だ。そっちは、何ともねェか?」

「あ、う、うん……大丈夫だ」


 鼻息、ただの鼻息だと? それでまとわりつくスライムを吹き飛ばしたというのか、そんな芸当が同じ人類に可能なのか?

 唖然としている俺を他所に、虎は少しだけ深く呼吸を繰り返しながら、拳大程の体積になって緩慢に這いずっているスライムに足を向ける。

 そして、少し逡巡した後に持っていた剣を一息に突き立てた。


 意志を持つだけの粘液でしかないスライムの体を刃は易々と貫く。

 水のような体組織に対して刃物は必ずしも有効打にならないと思えたが、虎の剣は蠢くスライムの体を石畳まで貫通しながら、パキリと心核を砕いていた。

 硝石を割るような音がしたと思ったら、地面に這っていたスライムの体はそのまま脱力し、ピクリとも動かなくなってしまった。


 頭にまとわりつくスライムを払うのは、海に沈みながら酸素を求めるようなものだ。

 誰であっても逃れる術はない……というのが定説なのだが、この虎はそれを事も無げに払って見せた。

 ただの鼻息で吹き飛ばしたというが、失敗していたら肺に残っていた息を全て吐き出して死んでいたのではないかと戸惑ったままの俺を尻目に、虎は先を急ぐ。


「フゥーッ……このまま一旦戻るぞ、いいな」

「あ……あぁ、わかった」


 深く息を吐きだした虎の顎と髭から粘液が糸を引いており、その表情は目に見えて不機嫌さが増していたので話しかけるのも躊躇われた。

 もしかしたら失態を演じたと思っているのかもしれないが、一連の突破劇を目の当たりにした俺は確かにどんな罠や仕掛けであってもこの虎なら力ずくで乗り越えそうだと逆に納得してしまった。

 地下の隠し通路を出口目掛けて進む虎の足取りは変わらず堂々としたものだったが、僅かに緊張感を高めた空気に下手に口出しする気にはならなかった。



 ◇◆



 今でもこんこんと水が湧いている泉から汲んだ水を沸かした湯冷ましを一口飲んで、焚火の傍に座る俺はカビ臭い本を置いて首を回した。

 あの後、地下通路の散策を切り上げた俺は、食事の準備をヴァレリに任せて運び出した書物の確認をしていた。


 古文書はどれも手つかずで保存されていたとはいえ、途方もない時間が経っている。

 表紙や装丁が無事に見えても、中には紙が朽ちてページを開くだけで崩れるほど風化したものもあり、とてもじゃないが持ち帰れそうにない。

 書物として体を成していないものは、残念だがこの場に残しておくことにしたのだった。


 俺たちが野営している場所は城門を潜った先のかつて中庭だっただろう空間で、周囲を城壁や瓦礫に囲まれながらぽっかりと開けた広間になっていた。

 仔細に地面を観察してみれば、ちらほらと焚火の痕が残っているのがわかる。

 灰かぶりの雑草と石畳からはここを訪れた先駆者達も同じように野営したのだろうという歴史を感じさせた。


 俺たちはその中でも、辛うじてヒビだらけの壁と敷居だけを残した廃屋に居を構え、持参したタープテントを張って即席の屋根付きの野営地としていた。


 半壊しているとはいえ周囲を壁に囲まれている環境で腰を落ち着ける安心感は思いのほか強く、密林の真ん中で野営するよりはよっぽど気が休まる空間だった。

 部屋の隅には天井が崩れてできた瓦礫が積みあがっているが、男二人が焚火を囲んで座り込むくらいの余裕はある。

 それに、見上げれば崩れた屋根とタープの隙間から空が覗くのは開放感があって悪い気はしなかった。


 虎は木椀に捌きたてのウサギ肉を塩と野草で煮込んだものを注ぎ、何も言わずに俺の前に置く。

 それから幅広な一枚葉を皿代わりに、洗った野苺を数粒と、小麦粉を水で練って枝に巻き付けて焼いた不格好なパンを差し出した。


「ありがとう、いつもすまないな」


 護衛や身の安全だけでなく食事や野営の世話を含めて今回の仕事を依頼したつもりだ。

 だから支払っている対価を考えればこれらを受け取るのは当然なのだが、それを笠に着るのはなんとなく男子としてのプライドが許さない。

 いち冒険者である彼にこんな雑用までさせる心苦しさもあって、俺は毎度のように礼を言うものの虎がそれに応えたことはなく、手早く自分の分をよそうと黙したままスプーンでガツガツと食べ始めた。


 あれだけ毛嫌いしている相手の食事を賄っているのだ、面白くないのは当然かもしれない。

 しかし、渋々俺の分まで用意しているという割にはしっかりとした献立と、十分な食事の量を供してくれていた。


 この虎のことだ、パンのひとかけらだけを渡してそれでも食ってろ、と言いながら自分だけ贅沢に腹を満たしそうなものだが、雑に主食を出すだけでなく野苺や木の実なども与えてくれるマメさには正直驚いた。

 しかもいつの間にか食用になりそうなものをキャンプ地に摘んで溜め込んでいる辺り、手慣れているのは当然として変なところで律儀なのだなと感心したものだった。


 木を削って湾曲させたその場しのぎのスプーンで汁を掬い、口を濡らす。あっさりとした肉の脂と骨から出た出汁が溶け合ってなかなかコク深い。

 塩気が効いたスープに散らされた野草から豊かな香気を感じると、更に食欲が増すような感じがあった。


「……うん、今日も美味いな。有り合わせの材料でこれだけ作れるなんて、やっぱりすごいな!」

「……黙って食え、タコ」


 こちらに目もくれず虎が言う。

 茶色い焼き目の付いた練りパンを枝からちぎり、丸めてスープに浸して食べるのに倣ってひたひたにしたそれを口に含んだ。

 直火に炙られ香ばしいパンはほとんど空気を抱くことなく、隙間なくみっちりとして食いごたえがある。

 そこへ余すことなくスープを吸わせると、歯を立てた瞬間にそれがあふれ出して口の中を火傷しそうになった。


 咀嚼するとふやけたパンの中からカリコリとした食感を感じて、馥郁とした木の実の味わいが口の中に広がる。

 砕いた胡桃を練りこんでいたのだろう、その心遣いに溢れた丁寧な仕事っぷりは本当にこのガサツな虎の仕業なのかと疑いそうになるが、言葉にするとまた嫌な顔をされるだろうから胸中で称えるだけにしておいた。


 日中の俺への態度や悪辣な物言いがこれで帳消しになるわけではないが、あれはあれで態度は問題だが結局俺に何か被害が及ぶことはなかった。

 結果だけに目を向ければ仕事はこなしてると言えるし、なるほど前情報通り仕事に対してだけは少なくともプロとして律儀なところがあるというのは最近になって実感してきたことだった。

 もっとも、雇い主に対するパフォーマンスとして見ればその態度の悪さと差し引いてギリギリ最低限の満足度というところで、もっと敬意を払えという気持ちもなくはないのだが、今更そのことに文句を言うつもりもなかった。


 互いに無言のまま食事を済ませると、虎は鍋や木椀を飲み水で軽く洗い流して焚火の傍に放る。

 後片付けもほどほどに、食ったら寝ろ、と言わんばかりに枯れ葉を重ねた寝床に横になった。


「もう寝るのか?」


 またうるせえだの黙れだのと言われるかと思ったが、予想に反して返事はない。

 背中を向ける虎が尻尾をゆらりと揺らして、俺はそれを返事として受け取った。

 食べ終わった食器を片して、虎に倣って飲み水で軽く濯ぐ。

 羊の膀胱を加工した革袋に詰めた水はもうだいぶ少なくなっていて、明日の朝にでも飲み水を沸かしておくかと俺は心に留めておく。


 食器をまとめた後、タープテントの下に積んだ荷物から今日発見した書物の整理と解読を進めようと思って、立ち上がった俺は見慣れないものがそこにあることに気づいた。

 水分を固めたような、ぷるんとした透明な塊。

 俺の頭ほどの大きさをしたそれが、スライムの死骸であることはすぐにわかった。

 鼻息で吹き飛ばしていたものが、まるで食料のように干した野草や摘んだ木の実と一緒に乱雑に放られていて、まさか食べるのかと思って尋ねる。


「これ……昼間の、あのスライムか?」


 虎は依然無言を貫いている。

 無視されるなんていつものことだ。

 俺は返事を期待せずにこのスライムの衛生面を問題ないのか、本当に死んでいるのかとまじまじと眺めているところだった。


「何かに……役立つかと思って、持ってきただけだ。勝手に使うンじゃねェぞ」


 すると、珍しく虎から返事があった。

 声はどこかゆっくりとして歯切れが悪いが、単に眠いだけかもしれない。


 あるいは、実際何か用途があって持ってきたわけでもないのだろう。

 魔物や魔獣の死骸や毛皮を採取して売却する冒険者は多い。

 それは単に金になるからというよりは、無駄にするのがもったいないという思いから来るものだと聞いたことがある。


 現に虎は、今日狩猟した野ウサギの毛皮を瓦礫の上で干していて、野宿をしながら手に入った素材を最大限に活用する姿勢はなるほどベテランらしいと納得した。

 きっとこれについてもその手癖が出たのだろうと想像するのは簡単で、思い付きで持ってきただけのものにそこまで興味があるわけでもない俺は、そういうものかと結論づけてそれ以上ぷるぷるとしたスライム塊について考えるのをやめた。

 勝手に使うな、と言っていたが触るな、ということだろう。もともと大した興味もないし、スライムのことはそれっきり忘却することにした。


 そのまま焚火の傍に腰かけた俺は、手に取った書物を開く。

 しかし、湿気か何かで劣化した頁がぎっちりと溶けて接着しているのに気が付いて、嘆息しながら天を仰ぐのだった。



 ◇◆



 それから数日が経った。

 暗くなってくる前に休み、日の出とともに行動を開始する。

 野外で安心して眠れるようになるにはまだもう少しかかりそうだが、この生活リズムにもそろそろ慣れたつもりだった。


 頼もしく薪を燃やしていた焚火はすっかり萎れ、焼けた枝木が今にも崩れそうに白く炭化している。

 辛うじて枝の太い部分が赤く熱を帯びているものの火というには心もとないありさまで、瞼を閉じてからそれなりの時間が経ったことを教えてくれた。

 切り取ってきた枝葉を重ねた寝床に外套を敷いて横向きに眠っていた俺は、尿意を催して起き上がる。


 空はまだ暗く、満月を過ぎて欠け始めた月は高い。

 用を足してもうひと眠りできるだろうか、と思ったところで、妙な静けさに気が付いた。


 風に木々が揺れ、遠くで虫と梟が鳴いている。

 燻っている薪がパチパチと僅かな音を立てて灰を飛ばすのがわかるほどの静寂に包まれながら、俺は闇に慣れた目で斜向かいにいるはずの虎を見る。

 普段ならうるさいくらいのいびきをかいて寝ているはずの姿がそこになかった。


 古文書にあった魔術理論の中に興味深いものを見つけた俺は、ここ毎晩遅くまで解読に勤しんでいた。

 反対に、探索を進めて日中次々と遺物を運び出す肉体労働をこなして疲れ果てた虎は早々に寝入っていたし、俺が眠りに落ちる瞬間までそのいびきは聞こえていたはず。

 忽然と消えたその姿を探して首を巡らせてみるが、近くには姿も見えず気配も感じない。

 どこに行ったのだろうと考えて、自分と同じようにトイレに立ったのだろうかと思い至った。


 だとしたら少し困ったことになる。

 お互い暗黙の了解でキャンプ地から離れたところで用を足していたが、そこに出くわすのはなんというか気まずい。

 それに、あれだけ人のことを毛嫌いしている虎と並んで仲良く小便をするような気にはなれない。

 男子の中には連れ合って便所に行くことで仲を深める交流方法もあると聞くが、あの虎とその手のコミュニケーションを図れるとも思えなかった。


 下手に鉢合わせるのも居心地が悪いし、帰ってくるまで待ったほうがいいだろうかと思いつつ、一度気になった尿意はじわじわと俺の下腹部を苦しめる。

 しばらく逡巡した後で、キャンプ地から離れたところで用を足せばそうそう出くわすこともないだろうと俺は寝床を抜け出した。


 中庭から出て崩れた城門をくぐり、城下町方面ではなく城を取り囲むように生い茂る森林に向かった俺は、適当な木の根元目掛けて用を足す。

 膀胱が空になってスッキリすると、鳴りを潜めていた眠気が再び顔を出してきたようでついつい欠伸が漏れてしまった。

 さっさと帰って朝まで寝よう、地下の探索もそろそろ大詰めだ。


 そう思って来た道を戻ろうとする俺は、木々のざわめきに紛れて夜闇の中から妙な音と唸り声が聞こえた。

 腐葉土と枯れた木の葉の上を獣が行ったり来たりして歩き回っているような、一定間隔のリズムで何かが擦れるような音。

 それに、獣の唸り声に似た低い声がごくわずかに感じられて、聞き間違いかと思って耳を澄ませる。


 しかしそれは、帰り道とは反対方向、森林の藪の奥から確かに聞こえてくる。

 枝を伸ばす低木の間を縫うような獣道が、月明かりに照らされて闇の中で俺を手招きしていた。


 根源的な恐怖を抱きそうになる闇の中で、明らかに生物が発する気配に思わず背筋が寒くなる。

 魔物か何かがすぐそこに潜んでいて、獣道の奥から今にも俺に襲い掛かろうとしているのではないかと尻込みしてしまう。


 何も見ずに帰ろうと思ったが、学者としての好奇心がそれを邪魔した。

 このまま怯えて野営地に逃げ帰るより、そこに何がいるのかを明かしてから帰ったほうが熟睡できるのではないか。

 それに、もし魔物ではなく兎や鹿などの動物であれば明日の食糧にもなるかもしれない。


 そう思って、俺は音のする方向へ足を進めてしまう。

 よせばいいのに、律儀にも忍び足でゆっくりと歩み寄る。低木の間を慎重に分け入った先には、森の中にありながらぽっかりと開けた原っぱがあった。


 密生する木々がそこだけ避けたように開けた空間は、宿の一部屋ほども広い。

 木々が周囲に植えられていないために直に月明かりが差し込んでおり、藪の隙間の獣道とは反対に明るく照らされて見える。

 まるで演劇の舞台上と、その客席というような照明の具合である。ここに火を起こし、野営地にしてもよかっただろうと思えるくらいには広々とした空間だった。


 俺が驚いたのは、そこに見知った虎の顔があったからだ。

 こんなところで何を、トイレに行ったはずではなかったのか、という俺の疑問は、すぐに解決した。


「……ふぅーッ……♡♡ ふっ、ン゛ん……ぐるる……♡♡」


 急所を守る革鎧を外し上半身に綿服のみを召した虎は、用を足す時のようにその場に屈みこんで荒い呼吸を繰り返していた。

 唸るような声の正体を見た俺は、しかしそれが見知った男のものであると知ってなお素直に安心することはできなかった。

 むしろ、そうであったからこそ、俺は全身が凍り付いたように強張ってしまう。


「っぐ、クソッ……♡ ん゛ッ、ふぅ~っ……♡♡」


 上衣をそのままに下半身を外気に晒した虎は、太い右腕を股間に伸ばして小刻みに動かしている。

 何をしているんだと目を凝らして、夜の闇の中で虎の下半身にヌッと突き出て猛るシルエットに気づくと、その雄槍を一心不乱に擦り上げているのだとすぐに理解した。


 あろうことか、虎は排泄するようにしゃがみ込んだまま、自分の腿に手を当てて傍若無人に自慰に励んでいる。

 黒い縞々の走る黄獣毛に覆われた太ももと脹脛をぐっと膨らませて、両足で落ち葉を踏みしめた下半身がその前後運動に揺れているのがわかった。


 その光景を目の当たりにした俺は、自ら覗いておきながらひどくショックを受けた。

 この悪辣な虎とどれだけ反りが合わず、いくら罵倒されようとも、彼は一流でプロのベテラン冒険者である、という最低限の敬意は払っていたつもりだ。

 口も態度も悪いが仕事に私情は挟まず、俺の依頼に応えてくれる。

 紹介された通り、俺を裏切るようなことはせず仕事を果たしてくれるはずだ、と。


 これまで短くはない時間をつかず離れずで過ごしたこともあって、一方的にこの虎のことを理解した気になっていた。


 だが、今。

 俺が予想だにしていなかった淫奔な一面を目の当たりにしたことで、自分の中の何かが音を立てて崩れていくような。

 それこそ目の前でボトルを割られた時のような喪失感にも似た衝撃が走った。


 見てはいけないものを見てしまった。

 背徳感が俺を焦らせる、早くこの場から立ち去らないと。

 だが、その瞬間。


 俺の焦燥を感じ取ったのか、蝙蝠か何かがバサバサと音を立てて頭上の枝から飛び去って行く。


 しまった、と思ったが時は既に遅く。

 虎はぐるりと首を巡らせこちらを見る。暗がりの中、藪の隙間から顔を出している俺と目が合う。


「……、……?」


 しかし、虎は音がした木を見上げて怪訝そうな顔をしたまま、俺に気づくことはなかった。

 俺は口から心臓が飛び出そうなほど大きな鼓動を胸に手を当てて落ち着かせながら、呼吸音が漏れぬよう慎重に深く息を繰り返した。


 咄嗟に口走ったのだが、ぶっつけ本番でどうやら成功していたらしい。

 俺がここ数日の内に解読した、古代から伝わる『光逸らし』の呪文は。


 球体に垂らされた液体は、球体の表面を伝って落ちていく。

 この理論を自らの体に適用し、全身を球体に、注がれる視線や光を液体として考えた魔術は、俺の体を空気のように透明にしていた。


 胸を押さえながら慎重に呼吸を繰り返して、自分の顔の前に手をかざす。

 表面に向けられる視線を外に逸らす俺の体は、俺の目にも映らない。

 そこには変わらず原っぱの風景が映るだけで、なんだか妙な感覚だ。

 手の平を返したり指を曲げても、それは変わることはなさそうだった。


 これならこの虎に見られることなく、姿を消したままこの場を脱することができる。

 安心したのも束の間、虎は明らかに俺の方から気配を感じたように視線を泳がせていた。

 姿は映らずとも存在が消えるわけではない、俺が発する音や呼吸はそのままであることに気づいて、結局その場でじっと動かずに耐えることにした。


 こうなったら隙を見てここを離れるしかない。

 警戒の薄くなるタイミングを見計らって、それまではここにいるほかなさそうだった。


「……っふー……♡ っぐ、はぁ……♡」


 だが、それはつまりこのまま虎の自慰を見届けることになるということで。

 見ていたくはないのに、目を離すことはできない。

 でなければ、ここから逃げ出す機会が永遠に失われてしまうだろうからだ。


 虎は周囲に静寂が訪れるのを確認すると、安心したように手の動きを再開させる。

 血が滾った虎の性器はその大柄な肉体に見合う立派な肉砲で、虎が両手で握りしめてもなお余ろうという長大さだった。

 膝を折り曲げてしゃがんでいるから太腿の陰になっているものの、俺の位置からは赤子の拳ほども存在感がある亀頭が脈動するのがはっきりと見える。


 薄暗い闇の中でぼってりとしたシルエットを作る竿はサツマイモのようだ。

 性器がそれなら、付随する陰嚢もさすがの大きさで、俺は股座に丸々として膨らんだ白毛の玉袋がぶら下がっているのを認める。

 だらんと伸びた毛むくじゃらの玉袋をドクンと鼓動に震わせて、虎は自らの竿を扱くのに夢中になっていた。

 周囲には規則的な摩擦音が響いて、やがてそれはクチュクチュと濡れたものに変わっていく。


「っ、お、オォ……♡♡ ぐっ、気持ちいいぜ……♡」


 溢れた我慢汁を竿全体に塗り付けて、虎は遺跡に絡む蔦のように血管を浮かせた欲棒を手で擦る。

 海綿体を包む皮膚を掴んで引き延ばすのではなく、手のひらの肉球で表面を擦るように上下させると、先端からは更に雫が滲んだ。


「ふッ、フーッ……♡ っす、ふ~っ……♡♡」


 やがて虎は後ろに片手を突くと、体重を逃がすように体の重心を傾けた。

 両股を大きくおっぴろげた状態のまま、自分の性器を擦り続ける。

 ぐちゅぐちゅとした音は今や夜風にざわめく木々の葉擦れに負けじと原っぱに響き渡っており、興奮したような鼻息も徐々に荒く激しくなっていった。


「ぅおっ、おォ゛~……♡♡ た、たまンねッ……♡」


 浸るような虎の声は甘く、聞いたことのない声色だった。

 その目は刀剣のような鋭さを失い、どろりと濁って蕩けきっている。

 威圧感のある傷入りの丸耳をぺったりと寝かせ、髭を蓄えた口を半開きにした顔は精悍さとはかけ離れていて、理性の欠片も感じられない。

 その道のプロで、凛々しいベテラン冒険者とはとても思えないだらしない顔で、垂らした舌から涎が滴るのもそのままに虎は淫蕩に耽っていた。


「っがふ、ぐるるっ……!♡ っうお、ぉ゛っほ、おぉ~~ッ……!♡♡」


 月明かりに照らされてきらきら光る虎の黄色い毛皮は闇の中であってもなお目立つ。

 目が離せないのはきっとそのせいだと思いたい。

 虎は間抜けな咆哮を上げると、ぐっと身を起こしてその場に膝立ちになる。

 前掲して地面に手を突き、ほとんど四つん這いになると一層苛烈に己の肉棒を扱き始める。


「っお、おぉッ……♡♡ ふゥッ、フーッ……!♡♡」


 膝をつきながら、地面と水平になって反り返る虎砲を根元から先端まで扱く手つきはダイナミックで、ともすれば握ったナイフを繰り返し突き刺しているようでもある。

 そのうち、俺の拳よりも大きな玉袋がぐっとせり上がるほど虎の下半身に力が入るのがわかった。

 片方だけでも円熟したチーズ塊のような大きさの尻にえくぼが浮くほど引き締まって、ただでさえ逆台形を作る幅広い虎の背中が力強さに漲る。


「ぐっ、やッべ……♡♡ イ、イくぞッ……!♡」


 自分の体の下に誰かを押し倒しているかのような姿勢のまま虎が呻く。

 もはや跳ねるほど分泌した先走り汁で右手の獣毛はぐっちょりと濡れていて、竿全体にそれをまぶして絶えず前後に動かされていた。


「ぐッ、おォ……ッ♡♡ 出るっ、ザーメン出っぞォ……!♡♡」


 虎の全身が強張り、僧帽筋がぼこりと隆起する。

 膝を突いた太腿は空気を吹き込んだように膨らんで、汲み上げたものを飛ばすためのタメを作っていた。

 ふさふさした玉袋に包まれた鶏卵大の金玉がドクドクと胎動して、その瞬間に備える。


「イぐっ、イくイくイくッ……!♡♡ っう、ぐォオおおッほおおお~~~~~~っ……!♡♡♡」


 低く、長い咆哮は溜息のようであった。

 吸い込んだ息を吐き切って声を漏らす虎の体が痙攣するように跳ねると、熱を持って跳ね回る長大な肉砲から白いマグマが発射された。

 雑草と落ち葉をバタタッと叩く音が聞こえるほど勢いよく飛び出た子種に、虎は背筋を弓なりに反らしたまま歯を食いしばって唸り続ける。


「っおッおぉおおお~~~、ぉごッ♡♡ っふぅ、ふぅう~~~っウッ、ぐぅう♡♡」


 ぼってりとした麦粥のように濃厚で糸を引く体液が、筋肉の収縮に押し出されて尿道を焼きながら噴き上がる。

 そのたびに、虎の太い喉が震えて声の音程が調子外れに跳ね上がった。


 その股座で飛沫が迸り、白濁がまき散らされているのが離れていてもわかるほどの射精はこっちまで音が響いてきそうだ。

 ぶびゅぼびゅと半ば固形化した虎汁は濃厚なだけでなく量も多く見える。

 握りしめられた竿がしゃくり上げながら種を散らす様子は鳳仙花のようでもあった。


「っふー、ふぅっ……ぐるるるっ……♡♡」


 虎は喉の奥から唸りながら、根本から包皮を掴んで熱を持つ肉芯を扱き上げる。

 尿道に溜まったままの精液の最後の一滴まで絞り出すような手の動きに、ぷりっとして粒状に凝固した雄汁は飛び出ることなく鈴口に滲んだ。

 ぼたぼたと垂れ落ちる精液が指の毛に絡んで汚すのも厭わず、虎はゆっくりと自分の性器を上下に扱いていた。


 射精まで見届けてしまった俺は、彼が息を整えている間にその場を離れられないかとタイミングを見計らう。

 今なら多少物音を立てても気づかれないはず。

 しかし、そう考えた俺の存在を見抜くように、虎はのっそりと上体を起こしてその場に膝立ちになる。


 フゥフゥと息を吐きながら、僅かに首を巡らせた虎が脇に手を伸ばす。その先には虎が放り捨てたのだろう下衣や見慣れた両刃剣が置かれていた。

 このまま服を着て戻るのだろうか。それなら先に帰っておきたいが、この目敏い虎に悟られることなくこの場を離脱できるだろうか。

 そう思った俺の予想に反して、虎が手に取ったものは意外なものだった。


「フーッ……ふぅっ……おッ、すッげえ……♡」


 あれは、と息を呑む。

 虎が手にしていたのは、探索を開始して間もないころに彼を襲ったスライムの死骸だった。


 ぷるぷるとした体を成す粘液そのものが消化液であるスライムの体は、朽ちた遺跡や埃だらけの地下室にあっても透明なままだ。

 生きていれば人の呼吸器を塞ぎ、殺した後でゆっくり肉を溶かす悪意に満ちたぷるぷるも、体を動かす原動力となる核を潰されてしまえばただのぷるぷるした物体でしかない。

 煮込んだ鶏のスープを冬空に放置した時のように柔らかそうに揺れるスライムの死骸を、虎は我慢汁と精液塗れの手でそれを引っ掴む。


 何をするつもりだ、なんて思うまでもなかった。

 むしろ、亀頭から精液の残滓が糸を引いている虎の雄棒がまだまだ元気十分な様子で息づいているのを見て、やっぱりかと思った。


 手の中で形を歪めるスライム塊を、べちゃりと精液が水たまりを作って残る地面の上に置く。

 よく実ったカボチャほどの大きさをしたぷるぷるの塊は、イカ臭くにおい立つ虎の怒張を誘うようにぷるるんと揺れていた。


「ぉおッ……すっげ、柔らけェ……♡♡」


 耽溺した様子で、虎が呟く声が風に乗って俺に届く。

 膝の毛やスライムが落ち葉や土に汚れるのもお構いなしに、虎は膝立ちになったまま屹立の根元に片手を沿えて、何も知らぬぷるぷるに打ち付けるように上下にブルンブルンと振るわせていた。


 スライムの体は死してなお個体と液体の中間のような感触で、貫いたり千切ったりしても互いを押し付ければ再びひとつにまとまる粘着力があった。

 水を入れて練った小麦粉のような具合だが、手にべとつかない適度な粘性と冷たく湿った感触はまさに凝固した水そのもので、虎にとってはさぞ都合がよいことだろう。


 透き通る体に真っ赤に腫れた亀頭を打ち付けられ、べちんべちんと打撃音が高らかに響く。

 波打ってぷるぷると震えるそれはキャンプ地に荷物と一緒にまとめられていたはずだ。

 俺が寝てる間に持ち出したのかと訝しむが、そもそもこのためにわざわざ持ち帰っていたのかと思うと、この虎を見る目が変わってしまうのも無理のない話だった。


「おッおぉっ♡♡ 入るっ、チンポが入っちまうぞ♡ おぉ……ッ♡」


 虎はいきり立つ自分自身の根元に手を添えて、ぐっと照準を定める。

 張りのある半固形のぷるぷるは、怒張が押し付けられる圧力に多少の抵抗を見せるが、却ってそれが虎の腰を漲らせた。

 ぐいぐいと太い腰を突き出して、ぬるぬるした性器が表面を滑らないよう手を添えて固定したまま物言わぬスライムに擦り付ける。


 透き通った粘液塊は質量を押し付けられるがままに表面を凹ませて、ついに穿たれるとずぶずぶと体内への侵入を許してしまう。

 俺の位置からは、地面と膝立ちになった虎の股下、ふっくらとして大きな睾丸がぶら下がったその隙間から、スライム目掛けて透き通った軟体を下向きに穿つ男根がはっきりと見えた。


「うぉッ……♡♡ 雑魚魔物の分際で、柔らけえじゃねェか……ッ!♡」


 挿入した自身の性器を膝立ちになって俯きながらまじまじと見つめる虎は、こちらまで聞こえるような勢いの鼻息を繰り返している。

 俺にはわからないが、一説によればスライムのむにむにとした体は女性の乳房や臀部の肉に似た柔らかさとも言われている。


 ひんやりとしていながら、そのような柔らかさに股間の一物を包まれた虎はそこをぐんぐんと脈打たせて、尻尾をぐねぐねとうねらせていた。

 俺はそのスライムが虎の性器をどろどろに消化してしまえばいいのにと思ったが、スライムの消化は元来長い時間をかけてゆっくりと溶かしていくものだ。

 少し触れるだけなら、むしろ表面の垢を取るのにちょうどいいとされているし、そもそもその活動を死骸に望むべくもないだろう。

 それがわかっているからか、虎は自分の性器を包むひんやりとしたぷるぷるを堪能するように、ゆっくりと腰を前後させる。


「ぐっ、ォオ♡♡ チンポっ擦れる♡ なかなかっイイおまんこしてるじゃねェか♡」


 何週間も野営が続いているのだ、そりゃあ女を抱く肉の悦びに飢えたりもするだろう。

 それでも、意思も理性もない魔物の死骸相手にまるで娼婦に言うような文句で腰を振る虎の姿は何とも惨めに映った。

 代替とも言えない得体の知れない魔物の体に劣情を催し、恥も外聞もなく傍若無人に快楽に喘ぐ虎からは日中の悪辣さや剣呑な頼もしさは微塵も感じられない。

 弱々しく唸りながらヘコヘコと腰を前後させる情けない姿を見れば見るほど、禁忌に触れた罪人のような心地で息苦しさが募った。


「ぐぅううッ♡♡ オッすっげ♡ チンポがぬるぬるしやがるッ、濡れてきてんじゃねェか♡ 無理やり犯されて興奮してんのかァこの変態め♡」


 さらにボルテージを上げて、人間を相手にしているような口ぶりで腰を振る虎の姿はもはや滑稽だった。

 膝で体重を支えながら、体を揺さぶるのに必要な筋力で太腿ははち切れんばかりに膨らんでいる。

 丸太のごとく太い腕で腰を掴むようにがっちりとスライムを保持して、上腕の筋肉が毛皮の上から浮かび上がるほど力を込める虎から逃げられる女はいないだろう。


 その逞しさは全て性器を摩擦することに用いられ、虎は分厚い尻肉にえくぼを作って腰を突き出し、たっぷりと蜜の詰まった玉袋を揺らして腰を引く。

 生きていようが死んでいようが、全身が水分で構成されてるスライムが自ずから粘液を分泌することはない。


 それでも虎の腰がグラインドするのに合わせて熱杭が抽送されるたび、結合部位からはぐちゅぐちゅと耳をふさぎたくなるような濡れた音が夜闇に響く。

 性器を汚す自前の虎汁と、挿入しながら絶えず分泌し鈴口から溢れ出した先走り汁が混ざってスライムの膣壁に塗りたくられているためだろうというのは俺が学者でなかったとしてもわかることだった。


「ッオ、おぉ~~~……っ♡♡ っふぅ♡ フンッ♡♡ すっげ、ヌルついてッ♡♡ たまらん゛、腰止まンねえッ♡♡ ぉお゛ッ♡」


 既に事切れ、自由意志などあるはずもないスライム相手に腰を振る虎の姿を見ているのは、居たたまれないものがあった。

 だが、思うことがあるのも事実だ。

 それは、一体あの行為はどれほどの快楽を生み出しているのだろう、という好奇心に近い疑問だった。


 腕利きの冒険者であっても生殖欲には負けるというのか、あの虎が夢中になるほどの味わいとは一体どのようなものなのだろう?

 その粘着質な水音が生み出す快楽はどれほど気持ちいいのだろうと仄暗い興味が俺の下半身に熱を灯す。

 相手を突き殺さんばかりの豪快な腰つきと、虎の浸りきった声に触発されて、俺まで良くない昂ぶりを催してしまうのを懸命に押し殺して息を潜め続ける。


「フーッ♡♡ ふゥッ♡♡ ぐるるっ♡♡ 犯すッ、お前が孕むまで犯してやるッ♡♡ 俺様のザーメンで子宮いっぱいにしてやるからな♡♡ ありがたく受け取れよぉッ♡♡」


 女陰を突くにはあまりに荒々しい腰遣いが、却って俺に想像させる。

 もし組み敷いているのがスライムでなく生きた人間であったなら、それは喜んでいるだろうか、それとも泣いて叫んでいるだろうか。


 どちらであってもこの虎は自分本位なピストンを止める気はないだろう。

 相手が泣こうが喚こうが、長旅でろくに洗ってもいないペニスを膣に擦り付けて、こびりついた恥垢をこそぎ落すように摩擦を楽しむのだ。

 それどころか、相手の反応にますます力強く腰をぶつけては血管がビキビキと浮かび上がった虎槍を女の鞘目掛けて出し入れを繰り返すのかもしれない。


「ぐぅッ、キンタマ上がってきたぜ♡♡ オラッ俺様の子種が欲しけりゃ気合い入れておまんこ締めやがれ♡」


 虎は保持していたスライムから手を離すと、枯れ葉のベッドに両手を突いてわずかに重心を前傾させた。

 膝頭をつけた足を浮かせて膝を立て、その足裏でしっかりと体重を地面に逃がしてしゃがみ込む。


 そのままカエルのように深く屈み込んで手を突いて前掲するものだから、自然と尻の位置も高くなる。

 虎は性器を包む股座のスライム塊をまるで体全体で隠すように覆いかぶさり、全体重をかけてぷるぷるの膣を押し潰していた。


 俺より頭二つほども大きな体で、それこそ頭部と同じくらいのサイズしかないスライム塊を全身でプレスする虎から俺は目が離せない。

 後ろからは虎の玉袋どころか、膝を立ててしゃがみ込んだ足に引っ張られて割り開かれた尻肉の谷間まではっきりと見えた。


 せぐり上げる睾丸で凝り固まった玉袋と、その裏で力が入ってこんもりと膨らんだ会陰部。

 そして丸々とした豊満な臀部を四角く強張わらせた尻の谷間どころか、そこに茂る白い尻毛に覆われながらにおい立つようにヒクついて収縮を繰り返すピンク色の窄まりまで、俺の位置からははっきりと見えてしまうのは不運なことだった。


「おぉッエッロい音させやがって♡♡ 俺様のガキ欲しくて興奮してンのか?♡ 淫乱まんこめ♡♡ フンッ♡ ふぅっん゛ん♡♡」


 とろみのある液体で満たされた壺の中を拳が出入りするような、摩擦された粘液を感じさせる打擲音が響く。

 ぱちゅばちゅと蕩けた音は穿たれたスライムがそのまま溶けてしまったのではないかと疑ってしまうほどで、しかし虎は構わず自分の前腿と腰を組み敷いたスライムに打ち付けていた。

 地面に両手を突いて俯き、ぷるぷるの死骸に覆いかぶさった虎の表情は暗闇の中で定かではなく、俺からは広々とした広背筋の中で翼のように隆起した肩甲骨と、こんもりとした僧帽筋がかろうじて見えるくらいだった。

 そんな声で物言わぬ無生物を責め立てる虎がどのような表情をしているかというのは、きっと知らないほうがいいのだろう。


「ふ、ぅーッ♡♡ ふッ、ぐぅうう♡ オッ、す、すっげぇ♡♡ チンポっ、チンポ擦れてたまん゛ねえ♡ くっ、クソッ♡♡ イくッ、こんな雑魚魔物にチンポ擦り付けてッイっちまう♡♡」


 俺に背中と尻孔を見せつけながら腰を振る虎が絶頂間近であることは、その声だけでなく腰つきが加速する様子からも見て取れた。

 一定のリズムで前後していた腰は、今やパンパンと拍手でもするようなリズムで圧し潰しているスライム塊にぶつけられている。

 俺は今のうちに抜け出せないかと思いつくが、頭で考えつくばかりでどういうわけか体がそれに従おうとしなかった。


「ォッ、やべっ♡♡ 出るッ出るぞ♡♡ ザーメン出るッイくっ♡♡♡ ウッ、ぐぉッぉおぉぉおおおおッ!♡♡」


 虎の下半身がぐっと力強く膨らんで、再び絶頂を迎える。

 背中が丸まって、そこにいるはずのない誰かを両腕に抱え込むようにその体が倒れ伏す。

 一物を押し付けるように腰を突き出し、先走りと精液と恥垢が体温で溶け合ったスライム膣に根元まで包まれた竿から白濁が迸ると、透き通ったぷるぷるの体を勢いよく濁らせていった。


「ぐぉッ、おぉぉおおぉ~~~~ッ……♡♡♡ フッ、フーッ♡♡ ザーメン止まンねぇ゛っ、一滴もこぼすンじゃねえぞッ♡♡ ぅぐっ、ぐるるるるっ……!♡♡」


 筋肉で角ばって見える尻肉をビクビクと痙攣すると、透明なスライムに包まれた虎の竿も連動するように跳ねていた。

 あっという間に二回目の吐精を俺の前で果たした虎は、しかし一回目と遜色ない量の精液をまき散らしていて、随分長い時間をかけて子供ができるはずもない膣に子種を注ぎ込んでいた。


 ビュルビュルと射精しながら、虎の玉袋はきゅっと縮まったり、ふわりと緩んで伸びたりしてポンプのような収縮を繰り返している。

 臀裂の中心で息づく蕾はそのおちょぼ口を一層窄めて、会陰部の筋肉と連動してヒクつくさまを無防備に晒していた。


「ふぅーっ♡♡ ふ、ぐぅう……っ♡♡ っおぉ、すげぇ……♡♡ まんこン中、俺様の子種でぐちょぐちょじゃねえか……♡♡」


 肩で息をしながら、虎はのっそりと上体を起こしてそう呟く。

 ぐりぐりとスライムに押し付けていた腰を軽く引いて、まだ萎えそうにない赤黒い肉杭をスライム膣に擦り付けると放出した白い粘液塊がねっとりと虎の竿にまとわりついた。


「しっかりガキ孕むようにまんこに種擦りつけてやるからなァ……♡♡ っお~すっげ、ぐっちゅぐちゅ言ってチンポ気持ちいいぜェ♡♡ っぐお、ぉお~ッ……♡」


 スライムとの間に子供ができるはずもない。

 そんなことは虎も知っているはずなのに、興奮と熱に浮かされた虎の頭はシチュエーションの構想に余念がないようだった。

 どくどくと注がれ続ける精液は虎によって穿たれた穴を満たすばかりか、スライムの胎内に染み入って濁していく。

 グラスの中の水に一滴の葡萄酒を垂らした時のように、大理石に浮かぶ紋様に似たマーブル模様を描き、スライムの一部となっていった。


「ふーっ、ふぅ~っ……おっぉ~出る出るっ♡ まだザーメン出るぞぉ……あーたまんねェ……♡♡」


 靴を脱いだ足の裏でしっかり地面を踏みしめ、ぐっぽぐっぽと欲棒をスライムに擦り付ける虎が唸る。

 引き抜かれる男根はこってりとした精液で汚れていて、まるで麦粥に指を浸して引き抜いたようなありさまだ。

 そのうち腰を前後させるたびにぶちゅんばちゅんと汁が跳ねる音がするので、引き抜かれたスペースに留まった精液が再び突き込まれる性器に押されて逆流しているのだと推測できた。

 正直想像しないほうがマシだったが、ともかく。

 それでもなお青筋を浮かべて膨張したままの虎槍からはまだ精液が溢れていて、虎は尿道に残ったものの一滴まで絞り出すつもりのようだった。


「っはぁ、スライムまんこもなかなかイイじゃねェか……♡♡ っふぅ……♡」


 まだ盛りがついている虎を見守っていた俺の前で、性器を引き抜いた虎がごろんと仰向けに寝転がる。

 斜め上に伸びて脈を打つ竿を隠すことなく、虎は足裏と玉裏を俺に向けて大の字に寝ると、それっきり黙り込んでフゥフゥと息を整えることに集中していた。

 そのまましばらく時間が経ち、もしかしたら寝てしまったのだろうか、ならばその隙に離れられないかと俺は虎の様子を窺う。


 しかし俺の予想に反して、虎はのっそりと首を起こすと傍らのスライムを持ち上げた。

 穿たれたまま閉じない膣穴からボタボタと粘液がこぼれ、自らの脚を汚すのも気にした様子はなく、虎は再び両手でむんずと腰を掴むようにスライムを保持すると躊躇なく自分の竿に被せた。


「おぉ゛ぉッ♡♡ すっげ、とろっとろじゃねェか……♡♡ クソッ、こんなおまんこ見せられちゃいつまで経ってもチンポが収まンねェ♡」


 ずぶぶ、と両手で保持されたスライムに虎の屹立が再び突き立てられる。

 中に溜め込まれて泡立った粘液がどろどろと流れ出し、虎の竿を伝って玉袋の毛に絡んでこってりと汚す。

 虎は自らの毛皮のことなど一切顧みない様子で、足裏で地面を掴むとがっしりと掴んだスライムを女の腰に見立てて下から腰を跳ねさせ始める。


「うぉッ、お゛ぉッ♡♡ キンタマ空っぽになるまで種付けしてやるっ♡ まんこから溢れるくらいザーメン注いでやるからなぁッ♡♡♡ ありがたく思えやっ♡♡ ぐぉおおおッ♡♡」


 そう言って虎は、仰向けになったまま膝を折って山を作ると、足裏と背中で体重を支えて腰を上下にバウンドさせ始めた。

 腰が上下するたびに股間にぶら下がった玉袋がゆっさゆっさと揺れて、豊満で肉厚な臀部がクッションとなって弾む。


 まだヤる気なのかと半ば呆れてしまうが、闇の中で俺に足を向けて寝ている虎の注意はお世辞にも周囲に向けられているようには思えなかった。

 彼は今や自分の昂ぶりと粘膜を包む透明なぷるぷるに夢中で、それ以外のことに気を配っているとは思えない。

 このまま彼の眼を盗む機会を窺っていてもキリがないだろう、今なら、あるいは……。


 そう思った俺は、とうとうその場を離れることにした。

 極力音を立てぬよう、あるいは風の葉擦れに紛れるように、腐葉土を踏みしめて一歩後ずさっては、ゆっくりと時間をかけてもう一歩下がる。

 踏むと簡単に折れて乾いた音が鳴る小枝がたまたま落ちているわけもなく、意外にも俺はあっさりとその場から離れることに成功した。


「うぉおおッ♡♡ チンポッ♡♡ チンポ気持ちよくて腰止まらんん゛っ♡ お前も俺様に犯されて気持ちいいだろっこの淫乱まんこめッ♡♡ ふんっ♡♡ フンッ♡♡♡ っふ~ッチンポッずるずるに擦れてたまらん゛っ♡♡♡ またたっぷり中出ししてやるからなっ、しっかりガキ孕みやがれ♡♡ ぅおぉおお゛ぉおッ!♡♡♡」


 背後からは淫蕩に耽る一匹の獣の声と粘着質でリズミカルな水音がいつまでも響いて感じられた。

 十分離れた俺は、早足でキャンプ地に戻り、敷布団代わりの外套と掛け布団代わりの簡素な毛皮に包まって目を瞑る。

 日が昇るまであとどれくらいが、いつまで寝てられるかというのはわからなかったが、やけにうるさい鼓動を落ち着かせるのにとにかく必死だった。


 見てはいけないものを、見た。

 あれはきっと、あの虎が一生涯かけても俺に見せることはない一面だ。

 だから俺は見なかったことにして、早く忘れるべきなのだ。


 頭ではそうわかってはいるものの、いつまで経っても戻ってこない虎の姿をつい探してしまう。物音に敏感になって、やたらと目が冴えている。

 頭の中で虎の腰が、性器が、声がエンドレスに再生されて、俺の頭にこびりついて離れない。


 自分の体がほとんど透明なまま、呪文を解除することも後回しにして、今はただ焼き付いた光景を忘れて寝てしまおうと努力するが、それが実を結ぶことはなく。

 空が明るくなるころにかろうじて寝付くことができたが、それまで俺の耳と瞼から一連の痴態が離れることはなかった。



 ◇◆



 ――おいおい、そんなにガチガチにしやがって♡ そんなに俺様の体で興奮してンのか? このエロガキめ♡♡ しょうがねえな、こっち来いや♡ めんどくせえけどこれも依頼の一環だ。俺様のココで気持ちよくしてやるよ……♡♡


 とんでもない悪夢で飛び起きた。

 そして、雨音に気が付く。タープを打つ雨粒は穏やかだが、周囲の石造りの廃墟や木々を叩く音に俺は防水加工を施した覆い布の隙間から空を見る。


 陽は薄い雲に覆われていて、まだ夜が明けてから数時間という陽の高さをしていた。

 普段だったら風や木々のざわめき以外に、森林に住む鳥や生物の鳴き声が絶えずしているのに、今は雨の音以外に何も聞こえない。

 まるで滅びた都に自分一人だけが生き残ったような気分になるのは、傍で寝ているはずの虎の姿がなかったからだ。


 周囲を見回し、気配を探っても近くにはいないようである。

 まさかまだ盛っているのかと思い至って、そうだとしたら俺が探す必要はないだろう。

 もしかしたら何らかのトラブルに巻き込まれているかもしれないが、昨晩の乱れっぷりが頭を過る以上、積極的に彼の安否を確かめに行こうとは思えない。


 そのうちひょっこり帰ってくるだろう。日中は遺跡を探索するという本来の依頼を蔑ろにするような男でないことは知っているはず。

 まさか逃げたのではないかと不安に思う気持ちはあったが、気を揉むよりも俺は俺にできることをしよう。見れば、飲み水のストックが底を尽いていることに気づく。


 そして、昨晩古文書の解読中に飲み干してしまったことを思い出した。おかげでトイレに起きる羽目になって、散々な思いをしたのだが、ともかく。

 野宿における水の有無は命に直結する。

 それを切らしたままにしているところを見られたら、何を言われるか分かったものではなかった。


 雨は降っているが、雨水は大気中の魔素や塵を多く含んでいることがある。

 最悪の場合利用することもあるが、近くに水源を確保している今となってはわざわざ雨水が溜まるのを待つこともない。


 そういうわけで俺は近くの泉に向かったのだが。

 結論から言うと、虎は地下水が溢れ続けている泉の傍にいた。

 近くの廃屋の軒下に脱いだ服と得物を置き、一糸まとわぬ姿で全身に雨粒を受けた状態で。


「なッ……なにをっしているんだ?」


 その背中に掛ける声が、思わず裏返ったのは何も驚きのためばかりではない。

 筋骨隆々な縞々の体躯に、一気にフラッシュバックする光景があったからだ。

 虎は俺の声に尻尾をぴくりと持ち上げると、「あー?」と言いながらゆっくりと肩越しに振り向いて……きょろきょろと周囲を見回す。


「……な、なンだ? テメェ、どこにいやがる?」


 虎の顔が俺を捉えていないことに気づいて、俺はふと昨晩かけた呪文の効力を切っていないことを思い出す。

 頭の中でそれを形作って、姿を消すために必要な術式の逆の工程を思い描いていると、雨の中に存在する俺に気づいたのか虎は俺の頭があると思わしき場所を見つめながら言う。


「……わざわざ姿を消して、人のこと覗きに来たのか?」


 裸のまま、股間のモノをぶらつかせて前のめりになった虎が訝しむように透明になった俺の体を見る。

 雨粒が落ちるシルエットと、浮いているように見えているだろう鍋から当たりをつけて全体像を把握したのだろう、その勘の良さは流石だったが、そんなことはどうでもよかった。


「そんなわけないだろ! こ、こんな雨の中で脱いで何してるんだ?!」


 姿を現した俺に虎は少しだけ目を丸くして「おぉ」と言いながら、自分の二の腕をひと撫でする。


「見てわからねェか? 風呂だ風呂、珍しいモンじゃねェだろ」


 鬱陶しそうな声音はいつもの虎の憎まれ口で、何となく安心した。

 泉から汲んだ水を浴びて体を洗うことは俺もしていたし、確かにそれ自体は珍しいことではない。

 しかし、雨の中で裸の虎を見つけた俺の動揺は、昨晩とてもじゃないが口に出しては言えないほど珍しいものを見たからに違いなかった。


「い、いや……それは、そうだが……なぜ、今になって?」

「不潔な体じゃモテねェからな」


 虎の返答はどこか上機嫌で、雨を吸って濡れた毛皮を手のひらでごしごしと擦って汚れを落としている。

 もしかして体を洗っているのは激しく自慰をして毛皮が精液で汚れたからではないのか、と聞いてみたい好奇は悪魔のささやきに違いなかった。


「そ……そうか。あ、鍋……使うか?」

「いらねェ」


 泉から水を掬って水浴びするとき、俺はよくこの鍋を柄杓代わりにしていた。

 ヴァレリも使うだろうかと思って聞いてみたが、虎はどうやら雨水だけで十分のようだった。

 俺は「そうか」なんて言って、横で体を洗う虎へ無関心を装いながら泉に近づく。


「さっきの消えてたのは、何なんだ? テメェ、そんな芸当ができたのか?」

「あ、あぁ……いや、ここで手に入れた本に描かれていた理論にあっただけだ。まだ試運転程度だけど、うまく使えてたみたいだな……」

「ほーん、てっきりそいつで俺様の裸を覗きに来たのかと」


 だからそんなわけないだろ、と言い返しつつ、もしかして昨晩あの場に居合わせたことに感づいているのか、と肝を冷やす。

 いや、そんなはずはない。俺に見られていると知りつつ、あんな痴態を演じるはずがない。

 だが、気配くらい察せられていてもおかしくはなかった。

 そう思わせるだけの実力と雰囲気が、このベテランの虎からは感じられる。


 探りを入れられているのかもしれないと思うと、一刻も早くその場から離れたくなった。

 雨粒が落ちて波紋の走る泉からちゃぽん、と水を汲んで両手でそれを持つ。

 鍋に汲まれた水の質量はずっしりと重く、おそらく虎が扱っていたスライムの塊ほどもあるはずだった。


 俺はぶんぶんとかぶりを振って、立ち上がる。


「じゃ、じゃあ、先戻ってるぞ。支度を済ませたら奥の探索を始めよう、今日もよろしく」


 虎がそれに返事をしないのはいつものことだ。

 しかし俺は踵を返して俯きながら腹の毛を雨で濯ぐ虎の姿を視界に収めて、思わず歩みを止めてしまう。

 俺の太腿ほどもある腕が動いて、わしゃわしゃとその胸毛を濯ぐのに合わせて虎の股間でそれが揺れていた。


 萎えた男性器は昨晩見たものより萎んで頼りなく思えるが、それでもサツマイモのようなふてぶてしさと存在感があった。

 包皮にすっぽりと包まれながら、左右に揺れてどちらかの太腿にべちべちと竿が当たる様子は、網膜に焼き付いた光景を想起させる。

 一夜が明けてなお重々しそうにぶら下がる玉袋もまだまだ健在のようで、果たして昨晩彼がどのくらい愉しんだのか、スライムの具合はどうだったのかと聞いてみたい気持ちはあった。


「……なンだ? まだ何かあンのか?」


 しかし、怪訝そうな不満顔で言う虎の声に我に返る。

 そんなこと聞けるはずもない。勝手に覗き見したプライベートな一面について、自らアレコレ聞こうと思えるほど無鉄砲なつもりはなかった。


「あ、い、いや。悪い、なんでもない」

「覗きはやめて堂々と視姦しようってか?」

「ち、違う!!」


 ちゃぷっと鍋の中の水を揺らし、足早に去る俺に虎は「フン」とつまらなそうに鼻を鳴らす。

 いけない、自分は何を考えているんだ。あんなことは忘れてなかったことにするべきだとわかっているはずだ。


 あれほど俺を邪険にしているんだ、毛嫌いしている相手と下世話な話を喜んで共有するような性分とも思えない。

 風呂に入っているところならまだしも、自慰に耽っているところを覗き見された羞恥で激昂し衝動的に俺を殺すかもしれない。


 どちらにせよ、これは俺の中に秘めておくほうがよい。

 誰のためにもならぬことは間違いなく、同じように虎の名誉のためにも黙っておくべきなのだ。

 ただ、俺だけが、彼も一人の男子なのだと思うくらいでよい。

 きっとそれくらいがちょうどいいはずだ。



 ◇◆



 どうにも不自然な様子の男が去った後で、虎は雨に濡れた股間の汚れをこそぐように手で表面を浚う。

 それから水を吸って濡れた足の付け根や玉裏の毛を撫でた手をひと嗅ぎする。……汗臭いのはともかくとして、まだ少し精液臭い気もする。

 まさか臭いでバレやしなかっただろうかと危ぶむが、あのボーっとした様子の人間なら気づくようなこともないだろう。


 ただ、姿が消えていることには驚かされた。

 ここで手に入れた本に遺されていた魔法と言っていたが、そんなことができるのか。

 あれほどはっきりと自分の姿を消せるのか、どういった理論なのか、自分でも扱えそうなものなのか。

 てっきりその辺りを自分からベラベラと語ると思ったのに、とその場をあっさり後にした青年に虎は不満げだった。

 最初はそれで人の風呂を覗きに来たのかと思ったが、あの様子なら違うだろう。

 それで、もしかしたら昨晩の情事は覗かれていたのか、とようやく思い至る。


 そんな気配はなかったと思うが、もし見られていたとしたら……それはそれで、虎は何も思わなかった。

 むしろ男同士の下半身の付き合いから意気投合できるなら別に構わないとも思えたのだが、あの男に限ってそういうことはしないだろう。せっかくいい顔をしているのに、それだけの度胸と性欲があるとは考えにくい。


 虎はかぶりを振って、頭を濡らす雨水を飛ばす。

 そんなことに期待するのはもうやめると決めたはずだ。

 それより、一体どういう魔法で姿を消したのかというのは気になるところだった。

 今更あの軟弱者に尋ねるというのも気まずいしプライドが許さないが、姿を消すというだけで応用が利きそうだ。

 一体古代の魔術というのはどのような理論だろう、聞けば教えてくれるだろうか。

 いや今更あの頭でっかちに頭を下げるのも癪だし、あの目で見つめられるだけで落ち着かなくなってしょうがない。

 極力会話はせずに、あの男を介在せずに魔術の理論だけ知ることはできないだろうか……。


 虎はそう思いながら雨で体の汚れを落としていると、次第に雨足が弱まっていくことに気づく。

 雲の切れ間から朝の陽射しが降り注ぎ、直に雨は止むだろうと直感した。


 そして、視界の端で何かがきらめくのに気づく。

 振り返ると、水源として使っている泉が太陽に照らされていた。

 水面に陽光が跳ね返ったのか、と納得しかけた虎は、しかし違和感を覚える。

 頭の奥、理屈ではない何かがどうもそれだけではないと訴えていた。


 首を揺らして泉を見つめる角度を変えてみると、水面だけでなく水底で何かが光を跳ね返しているように見える。

 金品や宝石類に目がない冒険者としての経験が、それは単なる気のせいではないと言っている。

 虎は知っていた、こういう時の直感は大体当たるのだと。


 どうせ湧き水なのだからと、全裸のまま泉に入る。水は冷たく、雨水より澄んで感じられた。

 飲み水に使っている水源に体の汚れを溶かすのは気が引けたが、どうせ今日一日分の水分はあの男が確保しているはず。

 ならば今自分が多少汚したとて、しばらく手を付けないだろうからその間にきれいになるはずだ。

 根拠なくそう考えた虎は、このまま肩まで浸かって泳いでいたい気持ちをぐっと堪えながら、ざぶざぶと底の浅い泉の中を進む。

 足裏で苔と藻を踏む感触はくすぐったく、気持ちのいいものではなかったが、感覚を集中させて何か変わったものを踏んでないか注意して探す。

 そして、俯いて水面を見つめる虎の視界にそれが光った。屈みこみ、緑色の藻の塊に手を伸ばす。指先が、硬質な何かに触れた。


 引き上げると、それは金でできた細輪だった。中心部に澄んだ青色の宝石が嵌め込まれ、輪の表面はツルッとしていて錆びたり朽ちた様子は見られない。

 裏側は何やら幾何学的な図形がびっしりと書き込まれているが、意味を持つものには見えなかった。


 虎はしばらくそれを水の中で眺めていたが、やがて完全に雨が上がるころにそれを指に引っ掛けたまま泉から上がる。

 あとであの男に渡せばいいだろう、と廃屋に置いていた着替えのポケットにそれを突っ込み、濡れた体で荷物を抱え上げると隙間に雑草が茂った石畳の上に肉球の足跡を残しながらキャンプ地に戻るのだった。



 ◇◆



「オイオイ、こんなゴミまで持って帰る必要あンのか? 正気かよ」

「どこをどう見たらこれがゴミに見えるんだ!? これは数千年もの昔からこの硬度の素焼き物を作る技術が発達していたことを示す証拠品だぞ!?」

「ただの破片じゃねェか、テメェこれで何個目だよ。ただでさえ荷物が多いってのにこれ以上増やすンじゃねえよボケが」

「そ、それはわかっているが……それ込みで依頼しているんだ、できる限り持ち帰れるよう協力してもらうぞ」

「チッ……」


 持ち帰るべきかどうか、遺構から運び出したものを仕分けながら荷物にまとめ、帰り支度を進める。

 誰も足を踏み入れたことのない地下遺跡の探索は八割がた完了したというところで、採取や狩猟でうまくやりくりしてきたがじきに塩や小麦粉などの食料が尽きることもあって、俺達は帰還することにした。


 目当てとなる古文書の類は根こそぎ持ち帰ることにして、それ以外にも土器の破片や武器の一部、金属製の水盆など歴史的価値のあるものを重点的に持ち帰ることにした。

 しかし虎には無作為に、それも手当たり次第に選んでいるようにしか見えないらしく、重量を増していく荷物に不満が絶えない様子だった。

 とはいえ荷物の運搬も護衛任務のうちということは理解しているようで、文句こそ言うものの反発することはなかった。

 それに、虎自身いくつかの金品を持ち帰っているので、私欲のために荷物が増えているのはお互いさまというのもあるはずだった。


「一応遺跡で見つけたものに怪しい魔力はなかったから持って帰っても大丈夫……だと思うが、何があるかわからない。念のため俺以外の者にも鑑定してもらったほうがいいぞ」

「わかってるっつの、テメェは俺の母親かよ」


 俺が興味のある魔力を伴ったアーティファクトや、古代の暮らし向きを物語る出土品以外で、古代の宝飾品や金品などは虎に処分を任せていた。

 発見したものについては俺が魔術の痕跡や意匠を検めており、ただ珍しい宝石を使っただけのチョーカーや、黄金でできた盃などについては、虎の報酬の足しにするべく個人的に持ち帰ることを許可していた。

 こう見えても鑑定学にはギルドからお墨付きをいただいている身だ。自分の地位と誇りにかけて、虎には何の効力もない金品財宝しか手渡していないと言える。

 それらは俺にとって価値がなく、ただの金品でしかない。だからこそ、護衛任務の報酬に加えて、それらを換金した際にはそれなりの額になるだろう。

 守銭奴らしい虎にとってこれらの副収入は願ったり叶ったりのはずで、いそいそと自分の荷物にしている辺り納得しているように見える。

 この共存関係がある限り、虎も強い態度で俺の荷運びを拒否できないのだろう。

 粛々と荷物を手持ちの麻袋に突っ込み、背負子に縛り付ける虎に俺は忠告するように言う。


「それ以外に何か、黙って持ち出したりしているものはないか? 一見美しい装飾品でもアーティファクトはアーティファクトだ。呪われている、なんて言われているように古代のルーン字によって刻まれた魔術がどんな効果をもたらすかはまだまだ解明されきっていないからな。うっかり身に着けてしまってからでは遅いんだぞ」

「あーあー最後までうっせェなテメェは。だからわかってるっつってんだろうが、それとも何か? テメェには俺がうっかり呪われるような間抜けザコにでも見えるってのか?」

「そ、そうは言ってないだろ!?」

「そう言ってンだよテメェのその口ぶりはよォ!」


 ぐるる、と牙を剥いて唸る虎に俺は思わず半歩下がってしまう。

 確かに、この虎は腕利きも腕利きの冒険者なのだろう。

 地下に現れた骨魔物(スケルトン)や屍魔物(グール)にも眉一つ動かさず無力化する姿は圧巻で、例え何が起ころうともこの虎なら跳ね除けるだろうという無類の頼もしさを感じさせた。


 それを軽んじるつもりはないし、俺はただ自分の都合で連れ合ったこの虎が最後まで無事に帰ることを願っているだけだ。

 だが、それが彼の自尊心を傷つけるのなら、もう何も言うべきではないのだろう。

 結局最後まで、俺はいらんことを言うだけの男だったということだ。


「……わかった、悪かった。お前のことを甘く見るつもりはなかったんだ。じゃあ、俺はタープを片付けてくる。荷造りが終わったら発とうか」


 そう言って、俺は虎の傍を離れた。顔を突き合わせているとどうにも言い争いばかりしてしまうのは、最後まで同じことだった。

 もし俺がもうちょっと伝えるのが上手ければ、彼への心配を素直に伝えられたのだろうか。

 そんなことを考えるべくもない、俺はすっかり荷物を運び出された後のキャンプ地で、タープを縛る紐を解きにかかるのだった。



「……フン」


 遠ざかる背中を見て、虎は鼻を鳴らした。

 何故信じて任せてくれないのか、それとも魔法に関しては自分のほうが上だとでも思っているのか。

 言っていることは的を射ているとしても、その態度が鼻持ちならなくてつい反発してしまう。

 もし自分がもう少し素直なら、彼の心配を素直に受け取って礼を言えたのだろうか。

 もし自分がもう少し謙虚だったのなら、彼を認めて、この旅の間だけの関係を健全に楽しむことができただろうか。

 だが、そんなこと考えるまでもない。虎は手に入らないものに労力を割くようなことはしない主義だった。

 それどころか手が届かぬように自ら遠ざけるようなところがある虎は、これからもあの男に対する態度を改めるつもりはなかった。


 愛用の鍋の中に重ねた金盆をしまって、背負子に括り付ける。

 それからふと、ズボンのポケットに違和感を覚えた。

 そういえば、と手を突っ込んで、硬いそれに指が当たった。

 取り出したのは金の腕輪だった。いつだったか雨の日に水浴びしている時に、泉の中で見つけたものだ。

 そういえばこれは遺跡の中で見つけてないし、あの男に見せていないな、と虎は荷造りする手を止めて考える。


 これも見せに行くべきだろうか。

 万が一彼の言うアーティファクト、つまりは呪われた装備だとしたら迂闊に持ち運ぶべきではないだろう。

 だが、わざわざそのためだけにあの男と会話をするのも面倒だ。

 あの男ときたら一人で水も食料も確保できない頭でっかちの世間知らずのくせに、こと魔術に関してはまるで自分が世界で一番偉いかのような物言いをするのだから。

 自分が世話をしてやっているはずで、自分の下にいるべき男が上に立ったような態度を取るのが許せない。

 わざわざこれを見せに行くのは、それを認めるように思えて気が引けた。


 しばらく逡巡して、虎はあの男に見せるまでもないだろうと結論に至る。

 この腕輪を見つけてから数日の間ポケットに入れて持ち運んでいたのだ。もし何かあるとすれば、その間に自分に異変をきたしているはず。

 であればこれは何の変哲もない腕輪なのだ、持って帰って金にしてしまおうと思考を切り上げた虎は、その腕輪をもう一度ポケットにしまおうとして、また忘れたら面倒だなと手を止める。

 そして、金の細輪は手首も通りそうにないが、尻尾ならぎりぎり通りそうなことに気が付く。


 あの男の忠告を無視してちょっとした腹いせをするつもりで、試しに前に回した尻尾の先端を通してみると、なかなかどうしてジャストフィットする付け心地だった。

 尻尾の根元まで輪を滑らせると、ずり落ちそうもないフィット感に虎は満足そうに尻尾を躍らせる。

 それから、荷造りを再開するのだった。


 輪っかに嵌め込まれた青石が、不自然に光を放つのも知らずに。



 ◆◇



 俺は彼と友人になりたかったわけではないはずだ。

 信頼してもらいたかった、というわけでもない。

 だったら、俺は彼とどういう関係を望んでいたのか。今ではわからなくなってしまっていた。


 どんな伝え方をしていれば、何の話題であればあの虎と円滑なコミュニケーションが図れたのだろうか。

 最初はあの虎にこそ問題があると思っていたが、それで思考を打ち切ってしまえば彼我の関係は途絶したままだ。

 それでも何か心を開かせる手段があったのではないかと可能性を探って思考を巡らせるのは、学者としての性分のようなものだった。


 褒めたり尋ねたりして彼に取り入ろうとしたり、忠告したり相談することで対等であることを示そうとしたりもした。

 だが、そもそもで虎が交流に前向きでない以上、全ては徒労に終わった。

 水に浮く菜種の油のように、交わらぬものは往々にして存在する。

 彼は彼なりにうまくやってきたのだろう、それを曲げる気がない以上俺が合わせるしかないのだ。


 プロの手を借りてこの場を訪れている以上、ここは彼らの管轄で、彼らなりの流儀がある。

 それに従うのが道理だということは重々承知だが、それにしたってもう少し健全なコミュニケーションがあってもよいのではないかと思ってしまうのは……現場を知らぬ、素人の贅沢な悩みなのだろうか。


「……荷造りは粗方済んだぞ、そっちはどうだ?」


 背中から声をかけられて、俺は振り向くまでもなくそこに虎の姿があることを認識する。

 廃屋の入り口にいるだろう彼に、俺は乾溜液を塗って防水加工した麻布を畳みながら答える。


「こっちも……これを積み込めば上がりだ」


 元々は船の貨物を覆う防水用の覆い布を用いたタープテントは、俺が両手を広げてもその幅に足りないくらいで、折り畳むとずっしりとした重さがあった。

 半分崩壊しているとはいえ天井のある廃屋に構えたこともあり目立った汚れは見当たらない。

 四つ折りにされて分厚い布を持ち上げるのに苦労していると、穏やかな声が投げかけられた。


「こっちに寄越せ、まとめンの手伝ってやるよ」

「……えっ?」


 思わず肩越しに振り返ると、すれ違うように虎が俺の隣にスッとしゃがみ込む。

 てっきり片付けるのが遅いと悪態をつかれるのだとばかり思っていた俺は明確に戸惑った。


 この虎が文句も言わず自分から手伝いを申し出るとは到底思えない。

 どういう風の吹き回しだと思ってその顔を見る俺の手から、虎は普段と変わらぬ仏頂面で折り畳んだ布束を力強く引き取る。


「あーあ、こんなんじゃダメだ。運ぶのに適した形にしてやらねェと」


 ただ単に半分に折るのを繰り返しただけのそれを広げて、長方形になるよう畳み直した虎は端からロープの伸びる布束を手際よく丸めていく。

 ちょっとした切り株のようなサイズ感にまとめると、布の四隅から伸びていたロープでぐるぐると縛った。


「あ……ありがとう」


 俺の手つきが遅かったから、その当てつけにこんなことをしているのだろうかと戸惑いながらも俺は礼を言う。

 この退屈な仕事に終わりが見えて機嫌がよくなってるのかと、虎が親切にしてくれる理由を探している俺は、次に発された虎の声音に眉をひそめた。


「……これで、ここでの生活も終わりだな」


 ようやく終わる、せいせいする……といった様子ではなく、どこか懐かしむような、寂寥感すら感じられる声だった。

 俺の片付けを手伝うだけなら、手が空いたからとか早く帰りたいからとかいくらでも解釈の余地がある。


 だが、今まで見たことない穏やかな目つきでこの虎が畳まれたタープとキャンプの跡を眺める理由はまったくもってわからない。

 やっぱり何か変だな、と訝しみながらも俺は言葉を返す。


「そ……そうだな。いつまでもここにいるわけにはいかないしな、お互い」

「あぁ、確かにそろそろベッドが恋しい頃だ」


 自分で会話を続けながら、違和感を覚えていた。

 虎は至って落ち着いた様子で言葉を返していて、その素振りや声音からは嫌悪も拒絶も感じられない。

 俺と言葉を交わすのにこんなに穏やかだったことがあるだろうか。いや、ない。

 きっとこれは仕事に終わりが見えたことでリラックスしているだけなのだろう、と自分に言い聞かせる。


「だったらなおさら、早く帰りたいんじゃないか? それとも、もう少し探索していたかったとか?」


 しかしそうだとしても、こうしてまともに会話をするのは初めてじゃなかろうかと少しばかり感動してしまう自分がいた。

 今だけこの虎と気の置けない友人になれたようで、俺は先程の寂しそうな声を引き合いに出して言葉を返す。


 そう思っているからこそ尋ねた俺に、虎は「いや、というか……」と歯切れ悪く返す。

 そして、小首を傾げるようにしゃがみ込んで隣り合っている俺に視線を送る。


 その目は、とてもじゃないが普段の虎からは想像もつかないような、甘い目つきをしていた。


「せっかくお前と二人きりだったのに、勿体ねえなって思ってな……♡」


 背中を擽ってくる尻尾の感触に、ぞわっと鳥肌が立つのを感じた。

 何を言ってるんだこの虎は、冗談にしても気色悪い。

 というか、そんなこと言うタイプだったか?!


 混乱する俺を他所に、虎はふいっと視線を丸めた布に戻す。

 顔を引きつらせたまま固まっている俺の横ですっくと立ち上がって、そこそこの重量のあるタープを軽々と持ち上げた。


「んじゃ、準備できたら行くか」


 その声は比較的普段通りの、ぶっきらぼうな響きだったので俺はなおさら呆気にとられる。

 今のは何だったんだ? 聞き間違いか、それとも冗談のつもりだったのか?

 だとしたら、どう返すのが正解だったんだ? と、まだ整理のついていない俺は、自分の担当であるタープテントを虎が運ぼうとしていることに気づいて声を上げた。


「あッ、それ……俺が持つんじゃないのか?」

「いーっていいって、持っていってやるよ。それより、お前も色々持って帰ンだろ? 荷物重くないか?」


 なんだ、何を言っているんだ。

 この虎が自分から俺の荷物を持ってくれる、それも俺のことを心配してのことだなんて、そんなことこれまで一回もなかった。

 どうしたというのだろう、なんでそんなに上機嫌なのかと困惑が止まらない俺は、曖昧に返事をすることしかできない。


「あ、う、うん、大丈夫だ、あり……がとう?」


 そんな俺に……驚いたことに、信じられないことだが、虎はにっこりと歯を見せて人当たりよく笑みながら「おう、そうか」と答える。

 そして、言うのだ。

 まるで酒場の看板娘のように、ぱちんっと片目を瞑ってウインクしながら!


「無理はすんなよ、しんどかったり何か持ってほしかったら遠慮なくおれさまに言ってくれよな♡」


 本当にどうした!? 誰だ、こいつ?!

 機嫌や冗談などでは説明がつかない、別人のような言動に俺は言葉もなくて、口を半開きにして突っ立っている。

 丸めたタープを抱えてのしのしと崩れかかった石造りの小屋を出ていく背中を、ただ見守ることしかできなかった。



 ◆◇



「大丈夫か? ほら、軽く水飲んどけ。疲れてねェか?」

「あ、あぁ……大丈夫だ、ありがとう」

「休憩したかったら早めに言えよ、お前に何かあったらおれさまが困るンだからな」


 人が変わったように優しく気を遣ってくれる虎に、何があったというのか。

 心境の変化というだけでは片付けられない、明らかに何か異変が生じているのは一目瞭然だ。

 だが、その豹変の理由を解明できずにいるのは俺自身の弱気と妥協のためだった。


「その……悪いな、そんなに持ってもらって。重くないか?」

「フン、これくらい余裕だっつの。おれさまのがデケェんだから当然だろ? それとも、お前の荷物も持ってってやろうか?」

「い、いや。これくらいは運ばせてくれ、でも助かるよ。頼りにしてる」

「任せとけって」


 フフン、と自慢げに鼻を鳴らす虎は……俺への態度こそすっかり軟化してしまっているものの、言葉遣いや声の調子が変わった様子はない。

 今目の前にいる相手がさんざん毛嫌いしていたいけ好かない依頼人であることだけスコンと抜け落ちて、まるで数年来の友人を相手にしているような気の回し方は、正直なところ邪険にされるより数倍心地よかったのだ。


 一度通った道とはいえ、道とも言えぬ道が続く密林を行く不慣れな旅路にあって、頼れる仲間がいるというのはこんなに安心できるものかと驚いた。

 何しろ行きでの道中は人気のないところで置き去りにされやしないかと疑心暗鬼になっていた節すらあったからだ。

 それが今は、背負子に荷物や食料、見つけた遺物を入れた麻袋を括り付けて運ぶ虎の背中をこの上なく頼もしく、これ以上ない旅の仲間のように感じる。


 全身から発していた、こちらを針のように刺す嫌悪感が嘘みたいに消え失せながらも、普段と語調の変わらぬ虎のマズルから飛び出す軽口は小気味よく響いた。


「もう少し歩いたら今日は休むぞ。日が暮れる前にメシの準備と行こうぜ」


 その言葉に我に返る。

 いくら居心地が良いとはいえ、異変は異変だ。

 わかったと返事をしながら、前を行く虎の姿をもう一度よく眺めた。


 膝下まであるズボンに厚手の長袖。そして肩や心臓を守る革鎧に、腰に剣を佩いた姿に変わりはない。

 俺はぶらぶらと一定間隔で揺れる両腕に目を向ける。俺の脚よりも太い二の腕はともかく、黄色い毛並みに黒い縞々が走った肘先から手指の先に至るまでを後ろから注視する。

 ……手首、そして五指に変わったものは見られなかった。


 ならば今度は大木のような脚に目を向けて、牛革のブーツに隠れた足を見る。

 足首が曲がる瞬間、ブーツの縁から見える獣毛に覆われた肌にも目立ったものは見当たらなくて、俺は自分の中の仮説を疑う。


 俺が考えたのは、もしかしてあの遺跡から持ち帰った何らかの装飾品で呪われてしまったのではないか、というものだった。

 呪いの遺物、と一般的に言われているそれらは、何てことはない現代に存在しない古代魔術の粋を集めたものに過ぎない。


 呪いと聞くと悪魔や霊魂による仕業のように考えてしまいそうだが、その実オカルトでもなんでもなくれっきとした科学魔術の応用である。

 そうとは知らずにうっかり身に着けた人々が、その魔術によって心身に何らかの異常をきたすことはありふれた話だった。


 誰もいないのに声がする、誰かが自分を監視している気がする、怒りやすくなった、気分が毎日落ち込んで猜疑心に満ちる、などなど。

 その症例は多岐にわたり、それぞれ別個の対症療法を必要とする。

 学術的な興味や個人的な好奇心とも関連しているために、そのような呪い被害にはプロとして人よりは詳しいつもりだった。


 ゆえに、あれほど俺に対して厳しく冷たかった虎が、まるで人が変わったように優しく穏やかになるというのも、まあ呪いとしてはあり得る話かもしれない、と考えたのだ。

 なので手っ取り早く見慣れぬ装飾具を身に着けていやしないかと、特に指輪なんかは指の毛に埋もれて見落としてしまいそうなので注意深く確かめてみたが、そういった装備は見られなかった。

 であれば単に、機嫌がいいだけで済む話なのだろうか……?


「どうした? 疲れたか、少し休むか?」

「あッ……い、いや、少し考え事をしていただけだ、大丈夫」


 いや、そんなはずはない。絶対に何か理由があるはずだ。

 そうでなければ、この虎が後ろを歩く俺を気遣って声をかけるなどあるはずもないからだ。親切にされておかしいと感じるのも妙な話だが、ともかく。

 持ち帰ることを許可して彼に持たせた金品の中に見落としがあったのかもしれない。あとで荷物をもう一度確認させてもらったほうがいいだろう。


「そうか。……どんなこと考えてたんだ? さては俺のことだな?♡」

「あー……えーっと、まあそうとも言えるんだが……その、ヴァレリこそ体の調子とかは、どうだ? 何か変わったこととか、ないか?」


 彼に異変が生じている、お前は正気ではない……と、正直に言えないのはまだ確信がなかったからで、けして人当たりの良くなった虎を好んだわけではないはずだ。

 それにしても迂遠な尋ね方をしてしまったなと少し反省する。もう少し包み隠さず聞いたほうが良かったかもしれない。

 しかし虎は肩越しに俺を一瞥して、それから事も無げに言う。


「あー、ちょっと腹減ったぐれェかな。それ以外はなんともねェよ、まだまだ歩けるぜ♡」

「そ、そうか……というか、そんなにたくさん荷物を持って、タープまで積んでるのによく平気で歩けるな……」


 自覚症状はない。いや、自覚できなくなっているのか?

 彼の中で起きている何かを、何と断ずることができなくて煩悶している俺は、聞き取りを行うつもりで会話を続ける。


「あぁ、これか。コツがあってな、重たい荷物を背負うときは、重てェやつをピッタリ背中にくっつけるように積むほうが歩きやすくなンだよ。そうしねェと重心の塩梅が悪くなって尻が勝手に座りたがるみてェに足が重くなるし、腰も痛めちまうからな」

「へえ……なるほど」

「あとはなるべくケツより上に積むことだな。腰から上で感じる重量と、腰から下で感じる重量とでは違って感じられっからなァ」


 ここまで饒舌に語ってるところは今まで見たことはないが、語り口は普段と変わらないように思える。

 やはり機嫌が良いだけか、いやそんなはずはない、と判然としない問いと並列して、俺は虎の荷物を見る。


 彼が言うには、重たいものは上に積んだほうが歩きやすいとのことだった。

 なんとなく察しが付く、重心より上に積んだほうが足を進めるのに邪魔しないという理にも適っていると思えて、俺は「確かに」と頷きながら虎を苛んでいるだろう症状について考える。

 そんな俺を虎は肩越しにちらちらと見て、「それに」と言葉を続ける。


「ただでさえおれさまのケツはデケェからな、さらに重てェモンをぶら下げてられねェだろ?♡」

「ッ……」


 その言葉に、思わず前を歩く虎の尻に目が行ってしまう。

 尻尾を左右に揺らしながら、膝丈のズボンに詰め込んだように膨らんだ尻は虎が一歩踏み出すたびにゆっさゆっさと揺れていた。


 その光景にフラッシュバックする記憶があった。

 劣情のままに腰を振り、この尻が上下に弾むあの月明かりの夜を。

 俺は咄嗟に足元へ視線を逃がして、「そ、そうだな」なんて返すので精いっぱいだった。


「ン?♡ おれさまのケツがどれくらい重いか気になってんのか?♡ 確かめてみるか?♡」

「そ……そんなことは、ない、だいじょうぶだ」

「ふゥん……♡ ま、我慢できなくなったらいつでも言えや♡ ひと触り銀貨二枚にまけといてやるからよ♡」


 はは、と乾いた笑いを返すしかない。

 それはただの軽口で、ただの冗談だ。

 虎が自分の体を娼婦のようにネタにして、ともすれば自虐的にも聞こえる冗句を口にするのは確かに意外だし、今までの彼なら絶対に考えられないことだが。


 それよりも俺は忘れようにも忘れられないあの衝撃的な発散を思い出してしまい、彼の症状を確認するどころではなくなってしまった。

 ひとまず虎の豹変っぷりについては棚上げして、俺は瞼に焼き付いた漲る雄性を、耳に残る絶頂の唸り声を忘れようと努めた。


 ゆえに、かぶりを振って虎の尻から目を逸らした俺は、気づかない。

 ズボンに穿たれた穴から伸びる尻尾……衣服の陰になっているその付け根で、きらりと光る輪があったことなど。

 気づけるわけもなくて、その日は森の出口手前で野営することとなった。



 ◆◇



 虎の心変わりは一時的なもので、時間を置けばいつも通り不機嫌な顔に戻った。


「足とか疲れてねェか? 後のことはおれに任せてゆっくり休んでてくれ♡」

「あ……あぁ」


 ……というわけもなく、焚火を前にして座る俺の周囲で薪を集める虎の様子は依然としておかしかった。

 残念なことに、虎の荷物に怪しげなアーティファクトが紛れ込んでいたり、俺がただの金品と判断したものの中に見落としているものがあったりということはなかった。


 食事を終え、飲み水を補給した俺たちは丸めていたタープを伸ばし、敷物代わりに腰掛けていた。

 柔らかい土や芝の上とはいえ、葉が腐ったにおいのするベッドで寝るのは気が引ける。

 そこで、ある程度の厚さがありつつ防水処理もされているこの覆い布の出番だった。一回か二回折り畳んでなお十分な大きさのそれは、座布団でもあり俺たちの敷布団でもあった。


 万策尽きた俺はその上にぼーっと胡坐をかきながら、せっせと周囲を往復して薪になりそうな枝を積んでいく虎の様子を見守っている。

 手伝いを申し出る気になれないのは、虎の豹変っぷりをまだ飲み込めていないからだ。

 和解したとか心を開いたとか、その程度ではない。

 この変わりようは理屈ではなく、確実に何かがあったに違いない。


 だが、遺跡から持ち出した代物に特に怪しいものは見つからなかった。

 俺だってその道のプロだ、この見立てに疑いようがない以上もう打つ手がなかった。

 俺の見えないところに身に着けているのか、あるいは何か悪いものでも食べたのか。

 世の中には一度起動して、使用者を登録してしまえば遠隔でも作用するアーティファクトというのもある。

 俺の知らない間にそういった原因となる魔具を一度でも身に着けて外してしまったのかもしれない。

 そうなると原因となる遺物が手元にない以上手に負えないが、果たしてそんなケースでも治すことができるのだろうか。

 闇の中を模索するように仮説を立てる俺は、不安に耐えかねて虎を呼ぶ。


「その、ヴァレリ。ちょっと首元見せてくれないか」

「ん、いいぞ♡ ほら♡」


 普段なら『は? イヤに決まってンだろ』なんて言ってくるだろう虎は、まるで心を開いた親友でも相手にしているように俺の傍でしゃがみ込む。

 そのまま着ている衣服の襟ぐりを指に引っ掛け、ぐっと伸ばして見せてくれた。

 帯状に浮かび上がる首の筋肉とぼこっとした鎖骨だけでなく、ドーム状に膨らんだ大胸筋に刻まれた谷間すら見えたが、首輪の類は見当たらなかった。


 ……長らく洗濯していないからか、それとも水浴びばかりでまともな風呂に入っていないからか、ツンとした汗のにおいが鼻をつく。

 まるで服が生乾きになったような饐えたにおいに俺が眉をひそめるのを察したのか、虎は恥ずかしそうに言う。


「も、もういいか……? あんまりジロジロ見んじゃねェよ……♡」

「えっ、あ、あぁ悪い。ちょっと確認したかっただけだ」


 襟ぐりから覗く首元や胸板は背中や顔とは違って白い毛に包まれており、焚火に照らされて赤味を増して映る。

 太い首に巻き付くチョーカーもないし、僧帽筋に掛かって胸元にぶら下がるネックレスの類もない。

 装飾品の類が毛皮に埋もれていないことを確認した俺は、思い違いか、と空振りにわずかに肩を落とす。


「や……やっぱにおうか……?♡ 出る前に水浴びはしたんだがなァ♡」

「あ、いや……そういうわけじゃない、呼び止めて悪かった。もう大丈夫だ」


 しゃがみこんだ状態で身を寄せてくる虎から俺が仰け反るように距離を取ると、虎は「そうか……」とどこか寂しそうに作業に戻る。


 そのほかにも、俺はさりげなく虎の精神がどういう状況にあるのかを探り続けた。

 虎の精神が何らかの影響で、俺とのコミュニケーションに前向きになっていることは間違いない。

 であれば俺のことを彼と親しい誰か別の存在と誤認しているのではと思って確認したが、虎が今回の仕事と依頼人である俺を忘れた様子はなかった。

 その認知に問題がないとすれば、異常があるのは当人の精神構造か。

 だが、何によってそれが引き起こされているのかだけは皆目見当もつかない。


「なあヴァレリ、本当に……俺に内緒で持ち出しているようなものは、ないんだな? 妙なアクセサリーだったり、宝石だったりとか。そういうものは、隠してないな?」

「…………ないって言ってンだろ?♡ どうしたんだ、急に♡」

「いや……何でもない。何回もすまない。それなら……いいんだ」


 この虎が嘘をついている可能性はないわけではないが、自らをおかしくさせてメリットはないはずだ。

 あるいは、誰か虎以外の人格が芽生えでもしているのか。そんな症例は聞いたこともないし、どういった術式を刻めばそんなことになるのか想像もつかない。

 まさか本当に、地下墓を暴いたことで霊魂の類に呪われでもしたのだろうか。

 あるいは、あの時口を付けたワインに何か入っていたのか。それとも、あのスライムに憑りつかれたか……。


 かぶりを振った。どちらにしろ、今はどうしようもないことは確かだ。

 原因が確かではないが、何らかの異変が生じているのは間違いない。

 であれば早急に街に戻って彼の精神と内面を形作るエーテルを診てもらうしかないだろう。


 それに、まあ確かに差異に戸惑いはするものの、進んで交流を図ろうとする虎の態度は必ずしも悪くはないのでは、と感じてきているのも事実だ。

 軽口や冗談も自ら言う上に、俺を過保護なまでに気遣ってくれる態度は邪険にされ罵られるより何倍もマシだ。

 俺の手に負えない以上、この状況を前向きに考えよう。そうなると、彼には悪いが道中はしばらくこのままでもいいかもしれない。

 もちろん何か目に見えて異常が起これば対処するが、毛嫌いしている俺と愉快そうにお喋りする虎の精神的苦痛を無視すれば、この状況は俺にとって何か問題があるわけではなかった。


「しっかし本当に地下なんてあったとはなァ、退屈だと思ってたがいい暇つぶしになったぜ」

「あ……あぁ。俺もまだ驚いているし、興奮してるよ」

「お、そうなンか?♡」

「当然さ! あの姿を消す呪文もそうだ、もしかしたらこれらには俺が考えていた以上の発見があるかもしれない。帰って解読するのが今から楽しみでならないよ」


 ほーん、と虎は興味のなさそうな返事をしつつ、集めた薪を傍に置いてどっかりと俺の隣に腰掛ける。

 まるで天然の巨岩が隣に出現したような存在感に、思わず腰が引けてしまう俺に虎はずいと肩を寄せて囁く。


「……ま、お前が満足できたンならおれさまも何よりだ♡ 前は色々迷惑かけて悪かったな♡」


 肩と肩が触れ合うどころか、腕を俺の腰に回しそうな勢いで身を寄せながら虎がそう宣う。

 ツンとした雄のにおいは、どことなくイカ臭いようにも感じて、俺は身をこわばらせながら虎を見る。


「前は……って、記憶はあるのか?」

「あ? 当然だろ?♡」


 何らかの原因で精神が変容したとして、その前後の記憶がどうなっているのかは俺にも想像がつかなかった。

 ならば、変容する前の自分をどう認識しているのか。彼を元に戻す糸口を探るため、と誰にともなく言い訳しながら俺は口を開く。


「その……ヴァレリは、どうして急にそんなに優しくなったんだ? やっぱり、何かの影響で……」

「そんなんじゃねェよ♡ 単に、身の振る舞いを考え直しただけだっつの。それとも前みてェにおれさまに馬鹿にされ続けてェのか?♡」


 思わずかぶりを振ると、虎は「だろ?♡」と上機嫌にクツクツと笑う。

 悪戯っぽく笑う虎に俺はなんだかドキドキしてしまって、視線を焚火に逃がす。

 それから、これは彼を元に戻すため、と頭の中で繰り返しながら尋ねる。


「その……じゃあ、どうしてあんなに冷たかったんだ? やっぱり、俺のこと嫌ってたからか?」

「ンー?♡ それはだなぁ……」


 ぺろ、と唇を濡らした虎が流し目を向けてくる。どういう理由なのだろうと息を呑む俺に、虎は事もなげに言う。


「実はおれさまはお前みたいなヒトが好きなんだけどよぉ、どうせ……ノンケだろう、って思っ……て……」

「え?」


 口を開いた虎の声が尻すぼみになって、終いにはびくんと雷に打たれたように跳ねる。

 体を強張らせたまま焦点の合わない目を俺に向けて硬直する虎に驚いて、俺はその目が何を見ているのか探るように見つめる。


「ど……どうしたんだ? ヴァレリ、大丈夫か……?」

「……て……」


 虎は一転して暗い調子でもごもごと口の中で言葉を詰まらせる。

 何かあったに違いない、と俺がその両肩を掴んで揺さぶろうとしたところで……俺は胸倉を掴まれた。


「テメェみたいなクソ人間が、大ッッッ嫌いだからに、決まってンだろ、このタコナスが!」


 喉の奥からヒュッと息が漏れた。

 目の前にいた虎に胸倉を掴まれたのち、敷いてある布の上に突き飛ばされたと理解したのは、ものすごい形相の虎が俺の前で立って見下ろしていたからだった。

 焚火に照らされた顔は赤い。

 毛皮があるから染まらぬ頬も、今は激情の色に染まって見えた。


「くッだらねえお喋りしてねェで、ザコはとっとと寝やがれ!」

「待っ……ヴァレリ、お前、戻って……」

「うるせェ、俺様はなんともねェっつの。詮索すンなカスが、黙って目ェ閉じてろ、次に勝手に起き上がったらブッ殺すし勝手に目を開けてもブッ殺す質問しても殺すわかったらとっとと寝ろ」


 怒涛の捨て台詞を口にしてのしのしと去っていく虎を薄目に感じながら、俺は半ば呆然としていた。

 どう声をかけるべきか、あるいは彼に何があったのかと考えていたが、やがて諦めたようにその場に横になる。


 間違いない、今の虎は見知った様子の虎だった。情緒不安定では説明のつかない、もはや二面性とすら思える変貌っぷりにまだ少し心臓がバクバクしている。

 やはり何らかの精神改変の影響下にあったが、自力で解術したということだろうか?

 俺のようなヒトが好きと言っていたが、あの状態で吐かれたセリフをどこまで信用していいのかはわからない。


 それに、これまでの態度を思うに先程のすごい剣幕の捨て台詞が本音のように思える。

 であれば、彼は完全に元に戻ったのだろうか、本当に一人で大丈夫なのか。

 心配は心配だが、スライムから自力で脱したようにプロのベテラン冒険者である虎ならこの程度の呪いは慣れっこなのかもしれない。


 それに、もしかしたら明日には先程までのフレンドリーな顔はなく、見慣れた不機嫌顔がそこにあるかもしれない。

 彼なりの考えがあるのだろう、ならばその意思を尊重してやるべきか。


 本当にそれでいいのだろうかという思いはありながら、俺は虎の言いつけを守って目を瞑る。

 ベテランの彼に、プロの言葉に逆らうわけにはいかない。

 すっかり躾けられた悌順さで俺は森の地面に寝転び、帰ったら彼を誰に診せるべきかを考えている内にパチパチと焚火の爆ぜる音が遠ざかっていく。


「……クソ、こいつを……取りさえ、すれば……! やめ、ろ……入って、くんな、俺のッ、中に……!」


 そして、遠くでそんな声が聞こえたような気がしたが、それを確認するには既に瞼は重く。

 俺はあっという間に眠りに落ちていった。



 ◆◇



 日の出ている間はひたすら足を動かし歩き通した疲労は、ちょっとやそっとの休息で回復するものではない。

 旅人や冒険者が日が暮れる前に野営を始めて体を休めるのは、夜闇の中を強行する危険性を考慮しただけでなく、次の日に疲れを持ち越さないようにするためなのだろう。

 ろくに開かれてもない道なき道を進むのも、靴に入り込んだ砂や背中に当たる小石が気になってなかなか寝付けない夜にも慣れたわけではないが、体にまとわりつく鉛のような疲労は一番の入眠剤だった。


 足首が強張って、じんじんと足裏が痛む。行きの時は痛みで眠れないこともあったが、こうして横になって焚火に当たっていると凝り固まった足の筋肉がゆっくりとほどけていくようで、少しずつ楽になっていくのがわかる。


 完全に眠りに落ちた俺は、夜行性の何かが飛び立つ音や、その鳴き声でも目が覚めないほど熟睡していたはずだ。

 だから、ふと目を覚ましたのは夢うつつながらも体に違和感を覚えたからに違いなかった。


「んッ、ん゛ぅ……っちゅ、はぁ♡ くっせぇちんぽしやがって……ったく、しょうがねえ野郎だな……あッむ、んじゅっ♡♡」


 勢いを失って灰勝ちになった焚火は明かりにするには心もとない。

 俺は闇の中で聞こえた低い囁き声は、途切れ途切れであることもあってまだ夢を見ているのだと思った。

 何せそういう類の悪夢を見たばかりだ、今回も同じようなものだろうと思ったが、どうも現実に響いて聞こえる。

 ならばこれはあの虎の寝言かと思ったが、目を数度瞬かせて、闇にその目が慣れるにつれ意識もはっきりと覚醒してくると、耳にした音声を脳が正しく理解した。


「んんっ、すべすべなくせにここは立派な……オスのにおいさせやがってぇ♡♡ っんむ、じゅるるっ♡♡」


 今のはけして寝言や、気のせいなどではない。

 それどころか、俺は下半身から生ずる感覚を認めて、思わず身を強張らせた。

 濡れた感触が外気に触れてひんやりとしている。

 一瞬、自分は寝小便でも漏らしたのかと思った。だが、そうではなかった。


「ヴァ、ヴァレリ……?! な、なにをしているんだ……!」


 目を疑う光景だった。

 厚手のタープテントを畳んだまま簡易ベッドにして仰向けに寝るのは俺だけで、虎はいつも俺から離れた位置で身を休めていたはずだ。

 ただでさえ俺のことを嫌っているのだ、寝床を共にするのも耐えられないのだろう。そのことに異論を言うつもりもないし、むくつけき獣人の大男とわざわざ隣り合って寝る趣味もなかった。


 しかし今、虎はまるで雌猫のように四つん這いになって俺の股座に顔をうずめながら、「んん♡」とくぐもった声を返す。

 後ろに手を突いて上体を起こすと、股間にねっとりと柔らかい粘膜の感触をはっきりと認めて、思わず全身を強張らせた。


「なにってそりゃ……雇い主サマのナニの世話をしてるだけだが?♡ あむっ♡」


 虎は事も無げにそう言って、一度は口から離した俺の性器に横からかじりつく。

 黒々とした唇はフニフニとして柔らかく、その咥内は鋭い牙が並ぶ恐ろしい歯列を伴っているとは思えないほどねっとりと温かい。

 かぶりついた亀頭のエラをくすぐるように、虎の分厚い舌がチロチロと細かく往復していた。

 舌の表面をびっしりと埋める細かい肉の凹凸は、唾液で濡れながらも強い刺激を与えてくる。

 俺がウッと呻いて背中を丸めると、虎は上機嫌そうに更に身を屈める。

 まるで俺の内腿に頬ずりするように股間に顔を寄せると、そのままじゅぷじゅぷと上下にしゃぶり始めた。


 何という事だ。いくら熟睡していたからとは言え、いったいいつズボンを脱がされたのだろうか。

 ベテランの、それも腕利きの冒険者ともなれば相手に気づかれず衣服を脱がすことくらいワケはない、ということか? いや、そんなことを言っている場合ではない。

 この状況には大きく分けて二つ、深刻な問題があった。


「ヴァレリ、落ち着け……! お前は今、明らかに正気じゃないんだ、何らかのアーティファクトの……呪いの影響を受けている可能性が高い。治してやるから、こんなことはやめるんだ!」

「あぁ?♡ そンなもん知るかよ、おれさまがちんぽしゃぶってやるってンだからありがたく思えっての♡♡」


 この虎が、こんな媚態に満ちながら人の寝込みを襲うような男であるはずがない。

 予兆は確かにあった。普段と違い、ざっくばらんに打ち解けた様子を見せていた虎はまだ正常そうに見えていたが、まさかここまで正気を失っていたとは。

 呪いによる精神の変容は目に見えにくいと言うが、まさか色情の類のものだとは予想だにしていなかった。

 俺の落ち度だ、と己の見通しの甘さに歯噛みする俺は諦めずに説得を試みる。


「落ち着け、お前は今、ちょっとだけ冷静じゃないんだ。こんなことするような男じゃないだろ……? 一回落ち着いて、そこから離れるんだ」


 俺の性器の根元を舐めるように顔をうずめていた虎が、ぴたりと動きを止める。

 経緯はともあれ、何らかの魔術によって精神を汚染されている可能性が高い。しかしそれは、元々の人格がすべて損なわれてしまったわけではないはずだ。

 まだどこかにいる。呼びかければ答えてくれるはず。

 俺は普段通りの悪辣な虎を呼び戻すために根気よく彼に呼びかける、そのつもりだった。

 だが。


「……、…………うる、せェな♡ テメェもこンだけギンギンにおっ勃ててるくせに、今更何言ってやがる♡♡」

「うッ……! ヴァレリ、ダメだっ……!」


 ゆっくりと面を上げた虎は、そそり立つ怒張を下から舐め上げるように舌を這わせながら俺を恫喝する。

 尿道に沿って裏筋をなぞり、その鈴口を尖らせた舌で突く。この虎がどうしてそんな舌遣いができるのかどうかは気になるところだが、俺の抱える問題の助けにはならないようだった。


 そう、俺は自分の寝込みをあの憎たらしい虎に襲われ、下半身の衣服を脱がされて一物を咥えられているという異常事態にありながら、血流著しく勃起してしまっていた。

 寝起きだからとか疲れていたからとか、言い訳ならいくつも思い浮かぶがそれら全ては本質から外れているように思える。


 何故なら、股座に顔をうずめて頬ずりするように甘えながら雄根を口に含む虎に、俺は驚きこそすれ嫌悪を抱くことはなかったからだ。

 男同士で何を、という衝撃は当然ある。あの虎がこんな顔で俺の性器を口にするなんて、というのはとてつもなくショックだ。


 しかし、そのぬるぬるとして肉厚の舌が血管を浮かべた屹立を撫でるたびに、抵抗感は腰が浮きそうになる快楽で薄められてしまう。

 とはいえ、その行いに嫌悪感も不快感も抱けそうにないのは、それが彼の本心でないと知っているからだ。

 この虎がそういうことをする男ではないと知っているからこそ、これは彼が何らかの外的要因に操られての行動なのだろうというのは言われるまでもなく理解できる。

 故に、この虎が遊女のような顔つきであれほど毛嫌いしていた男の洗ってもない男性器をべろべろと舐め回すさまは痛々しく、同情の余地すらあった。

 だから俺は、この虎の行いについて素直に気色悪い、不快だと断罪できずにいる。


「んぶっ、むはぁ♡ 我慢汁溢れてきてンぜ、あ~しょっぺえ……♡♡ それに、ゴチャゴチャ言ってる割にはよォ……お前もっ、んん゛ッちゅ♡ ずいぶんっ、れろっ♡ 期待してる、みてえじゃねェか♡♡ じゅぶぶっ♡♡」


 そしてそれは、由々しき問題であった。

 それではまるで、俺自身もこの事態を歓迎しているようではないか。

 彼の名誉のためにも、そしてお互いの健全な関係のためにも、こんなことは許されない。

 のしかかってくる体を押し退けようと思って分厚い両肩に手を添えるが、重厚な骨格と一筋縄ではいかぬ質量を手指に感じてすぐに無理だと悟った。


 俺の体を跨いで両膝を突いた姿勢で四つん這いになって、虎は床に頭でも擦り付けるように項垂れている。

 自重を腕に逃がしている虎の上半身は、闇の中にあってなお僧帽筋と広背筋とが盛り上がってちょっとした小山のような存在感を発していた。

 そして首だけが上下に動いて、じゅぶじゅぶと水音を夜の森林に響かせる。

 開きっぱなしのマズルから言葉が発されると、パンッパンに腫れた亀頭へ息がかかってむず痒かった。


「っはぁ~♡ 意外といいモン持ってるじゃねェか♡♡ 太かァねェが、これくらいならイイとこ届きそうだぜ……♡」


 彼のためにもこんなこと辞めさせなければ、と思いつつ、俺が打てる手は皆無と言って良かった。

 説得を諦めて力ずくで退かそうにも、膂力で勝てるはずもない。

 八方手塞がりで、俺はいまいち力の入らない両手で掴み切れないほど肉厚な肩に縋りつく。


「っぐ、も、もう……やめろ、こんなっこと……!」

「やめねェよ♡」


 虎はそう言って、上目遣いで俺を笑いながら窄めた口でフーッと息を吹く。

 唾液に濡れた性器に感じる吐息は冷たく、充血した竿を撫でる感触にぞくぞくと脈打ってしまうのを止められない。


「素直になれよ、おれさまのおクチは気持ちいいだろ?♡ お前が喜んでくれるンなら、なんだってしてやるぜぇ?♡」


 腰が浮きそうになる俺の太腿を腕でぐっと抑えて、虎はべろべろと俺の性器を舐る。

 竿の輪郭をなぞるように舌を動かし、根元や金玉までぺろぺろと舐め回していく。


 虎と違って、この探索は俺にとって十分生きるか死ぬかの大冒険だった。

 途中で息抜きとばかりに堂々と自慰をしていたベテランと違ってずっと気を張っていた俺は自ら劣情を催すこともなく、数週間ぶりの性感に身悶えするほどの快美感を見出していた。

 そのうち、俺の尿道からじわりと先走り汁が滲むと、虎は再び亀頭ごとぱくりと咥えこむ。

 窄めた口の中で、舌腹を使って分泌された粘液を舐め取っては全体に塗り伸ばすように舌を使うものだから、俺は呻くしかなかった。


「う、っぐぅ……!」

「んぶっ♡♡ っはぁ……オイオイ、溜まってるのはわかるけどよォそう簡単にイくンじゃねェぞ♡」


 虎はそう言ってのっそりと起き上がる。そのまま膝を立てて大儀そうに立ち上がるので、俺の両足に掛かっていた圧力が失せて一瞬だけ自由を取り戻した。

 その隙を突いて逃げ出そう、距離を取ろうという考えは頭を過ぎるだけで、とてもじゃないが実行に移すことなどできなかった。

 何故なら俺の目は、何も召していない虎の下半身に釘付けだったからだ。


「お前っ、下……どうして、脱いでるんだ……!?」

「ンー?♡ 眠ィこと言ってンなよ、これから本番ヤるために決まってんだろォが♡」

「本番、って……」


 もはやそれが何を意味するのか、聞くまでもなかった。

 立ち上がった虎の股間でぶるんっと揺れるサツマイモのようなボリュームをしたそれは、地面とほとんど水平になりながらまだ半勃ちと言った様子で、しかし脈を打つたび順調に容積を増して鎌首をもたげて見えた。

 その下で垂れ下がっている玉袋は、鶏卵ほども大きな二核を内包して白い毛に覆われながら表面に黒い縞毛を走らせている。

 焚火の弱々しい光に赤く照らし出された虎の下半身が俺の眼前にあって、俺は目を逸らすこともできない。


 そして、尿臭さにも似たツンとした刺激臭が鼻を突いた。

 亀頭のカリ首から下を包皮に覆われた虎の一物は、脈動するたびにその衣を脱いでムクムクと膨らんでいる。

 皮に包まれていた肉竿が露出するにつれ、蒸れた雄の猥臭が俺の鼻孔で存在感を増していく。

 その顔を見上げると、たわわに実った大胸筋の上から見下ろしてくる嘲笑うような視線とぶつかる。


「へへ、おれさまのちんぽがそんなに気になンのか?♡ におい付けしてやるよ、おらッどうだ?♡♡ くせェか?♡」

「んッ、ぐ……! や、やめっ……!」


 虎は呆然と腰かけている俺の前で立ったままガニ股になると、あろうことか股間の棍棒を俺の顔に擦り付けてきた。

 毛皮のある獣人の体温をダイレクトに伝えるような熱杭はどこかじっとりと湿っていて、重々しい亀頭がぶにぶにと俺の頬や鼻を突く。

 もはやガチガチに充血しきって勃起した虎の雄槍は硬く、便所で嗅ぎ慣れた強い尿臭さと、虎の包皮の中で熟成された恥垢の生臭さを伴っていた。

 それだけでなく、下半身の獣毛が汗で蒸れた強烈な生乾き臭が俺の頭を包むようににおって、思わずえづきそうになった俺は咄嗟に顔を背ける。


「うっへへ♡♡ 嫌がる顔もそそるじゃねェか、ますますちんぽが硬くなっちまうぜ……っおぉ♡♡」


 汚らしい、なんてことをするんだ、信じられない。

 顔を背けた俺は、直前までそう思っていたはずだ。

 だが、まるで場末のチンピラじみたセリフで自身の雄棒をゴシゴシと扱き上げる虎の手つきに、どういうわけかその長大な一物から目が離せずにいる。


 これは、あの日覗き見た時と同じ一物だ。

 あの時は暗がりで、遠巻きにしか見れなかったが、こうして眼前に突き付けられると思わず注視してしまう自分がいた。


「っぉ゛~たまんねぇ♡♡ っぐぅ、このままテメェの顔にぶっかけてやりてェとこだが……♡♡」


 汗が皮脂と尿の残滓と混ざり合って包皮の中で熟成された恥垢はまだ乾き切っていないようで、それが濡れた音を立てているらしい。

 虎の手がグッと包皮を剥くたびにツンとした雄臭さが鼻を突いて、まるで射精しているように先走り汁が跳ねているのがわかった。

 虎は上半身にシャツを一枚着た格好のまま、ガニ股で自らの性器を片手でぐちゅぐちゅと扱きながらくるりと踵を返す。

 その場の空気がかき混ぜられると、新鮮な雄臭さが俺に届く。背を向けた虎の腰の汗臭さも相俟って嗅覚が痺れておかしくなりそうだった。


「おれさまのケツも疼いて我慢できそうにねェからなァ、テメェのザコちんぽにおまんこ使わせてやるよ♡♡ ありがたく思えや♡」


 その言葉を、素の虎に……今まで連れ合っていた虎に聞かせたらどんな反応をするのかというのは気になったが、ともかく。


 後ろを向いた虎の尻が目の前にあって、俺は息を飲む。

 ただの脂肪の塊、というだけでは到底説明のつかない大きさをしたそれは、丸々とした優美な曲線を描きながら力強く重力に逆らって上向きに突き出ていた。

 むっちりとした肉塊からはどこか角ばった印象を受ける。それでありながら、虎がその場で手淫を続け腰を揺らす振動に併せて、重々しくぶるんぶるるんと震えていた。

 肉厚な尻たぶは片方だけでも俺の頭ほどあって、それが贅沢に二つも実って揺れているさまは圧巻である。

 その存在感は、熟成した巨大なチーズ塊やでっぷりとした寸胴の樽を俺に思い出させた。


「っとぉ、その前に……」


 男同士の性交に造詣のない俺が、まさか尻を使うのか、と驚目に瞠らせるのを他所に、虎はその場に更に腰を落とす。

 膝が直角を作るくらい中腰になると、背後に座る俺へ差し出されるように虎の尻が揺れた。

 俺の腰ほどもある太腿が毛皮越しでもわかるほど筋張って隆起する。

 部位ごとの筋肉をぼこっと浮かび上がらせて、ガニ股になった自分の自重を堅牢な足腰で支える虎は、漲る太腿に臀部の肉が引っ張られるのも意に介さない。


「しっかり準備してきてやったンだからな、親切なおれさまに感謝しろよ……ん゛んッ♡」


 準備とは何のことか。尻を使うなんて汚くないのか。

 もはや自分がどのような感想を抱いているのかもわからない。

 俺はめくるめく虎の痴態に情動を置いてけぼりにされて、ただ目の前で揺れる虎肉を眺めるばかりである。

 そして、開脚された脚の筋肉に割り開かれた尻の谷間でヒクつく肛門が井戸のようだなと思うのみであった。


「っお゛ほ、やべ♡♡ 出るッ♡♡ お、ッおれさまのクソ穴からぁっザコスライム出るっ♡♡ 出ちまうッ♡♡」


 後ろから見ていても、ガニ股になって腰を落とす虎の腹部が前後するのがわかった。

 それに合わせて、白い毛に覆われた尻の谷間で肉色を晒す窄まりが忙しなく収縮するのも見て取れた。


「あっぁ゛おぉおお~~~~ッ♡♡♡」


 そして、獣のような咆哮と共に、ブピッと不快な音が響いた。

 忙しなくうごめいていた括約筋が、グッと突き出るように開くのが俺にはよく見えた。

 一瞬、俺はとんでもなく不潔で汚らしい想像をするが、その肛門からぬっと放り出された固形物は予想と反して透き通った透明な色をしていた。


「でるっ、出るぅ♡♡ ケツ穴からっスライム出てるっ♡♡ すっげ、止まんねッ、おっほぉ゛おぉおお♡♡♡」


 みちみちと音を立てて、焚火の灯りを怪しく跳ね返してぬらついた固形物を排出する虎の肛門が、ブポッとガスか空気かもわからぬ気体が音を立てる。

 迫り上がった尻孔は立派な肉の冠を作り、その中央からぼたぼたと水を凝固させたような透明な塊が放り出されていく。

 虎の括約筋は収縮を繰り返し、きゅっと窄まったかと思えば下腹部に力を込めていきみ始める。

 すると再び外に突き出して噴火口のような肉井戸を作るのが、透明な塊……おそらくはスライム越しによくわかった。


 虎の腸の太さに型取りされたスライムは、ぶりゅぶりゅと大量に排泄されながらも一つも濁った様子はない。

 俺は目の前で一体何が起こっているのかわからなくて、ブスッと気体を漏らしながらスライムの残滓に濡れて糸を引く虎の肛門を見ていることしかできなかった。

 物欲しそうに口をぽっかりと開けて、蠢く腸肉を見せつけるそこから目が離せないのは、目の前の光景が理解の範疇を遥かに超えているからだと思いたい。


「っはぁー♡♡ はぁっ♡ すっげ、こんなに開いちまってるぅ♡ おれのおまんこがぁ♡♡ おらっ、指出せ♡ お前にも触らせてやるよ♡♡」


 虎は足元にほこほこと湯気を立てる透明なスライム塊を踏まないようガニ股になったまま身を捻り、唖然として硬直した俺の手を取る。

 強張りながらも力の入ってない俺の腕は、虎に引かれるままその尻を目指す。

 虎もまた、その巨桃を俺に差し出すように近づくので腕を十分に伸ばさずとも届くようだった。

 尻尾を立てながらゆっくりと揺らし、期待に震える分厚い尻たぶの谷間を俺の指先が触れる。

 表面を黄色地に縞々の走った体毛に覆われた尻肉と違い、白い毛並みで秘された尻の谷間はじっとりと熱を持って湿って感じられた。


 排泄行為を見せつけられたばかりというのに、俺はその核心に導く手を払えないでいる。何を触らせるつもりだ、と拒絶できるほど心がこの現実に追い付いていない。

 尻肉を割り広げ、焚火の微かな明かりをてらてらと妖しく跳ね返しながらヒクつく肉井戸を不潔で汚らしいと跳ね除けられないのは、おそらく俺の許容量がとっくにオーバーしているからに違いなかった。


「おほっぉ♡♡」

「えっ……う、わ……」


 ちゅぷ、と蕩けた淫肉に指先が浸る。

 肉が盛り上がって突き出た肛門はすぼめた唇のようで、円環上の噴火口に俺の指が触れると収縮を繰り返し蠢いて反応を返す。

 俺は何を馬鹿正直に指を突き出しているのだと自分に呆れるが、手首をがっしりと掴まれて逃げられそうにもない。

 俺の手首を軽々と一周して握れるほど大きな手は、きっと人間の細腕なんて小枝のようにへし折れるだろう。

 その膂力の差を実際に感じて、俺はこの場で虎の機嫌を損ねないほうが得策かとすっかり抵抗に対して消極的になっていた。


「おッおぉ♡♡ すっげ、指入ってくるっ♡♡ ぅ、ぐううぅ~っ♡」


 虎は唸りながら、俺の手をまるで玩具か何かのように扱って深くまで突き刺す。

 虎の尻穴はあっという間に指の第二関節まで飲み込んで、興奮に荒ぶる呼吸と共に膣内がぐねぐねと動くのがわかった。


「うわっ……」


 声を上げたのは、嫌悪のためだ。

 そのはずなのに、俺は俺の指へまとわりついてむちゅむちゅと絡みついてくる柔肉に何か別の意義を見出しそうになっている。


 盛り上がって開いた肛門の縁肉がその唇をすぼめたり噤んだりしてヒクつくのに連動して、虎の腸壁も収縮を繰り返していた。

 本来なら排泄のためにのみ使われるだろう筋肉が腸壁をグッと迫り上げたかと思えば、次の瞬間には奥へ引っ込んできゅうっと締めつけてくる。

 腸の管がその直径を閉めたり緩めたりするだけでなく、ふわふわと柔らかい粘膜が異物を排するように存在感を増して俺の指を押し出そうとしてくるのだ。

 それが体内の老廃物を排すための動きだというのは頭ではわかっている。

 それでも指に感じる蕩けた肉の熱が、表面にえくぼを作る豊満な尻を震わせて喘ぐ虎の声が、俺に錯覚させる。

 これは、この穴は男に媚びる淫乱な雌穴である、と。


「んはぁっ♡♡ お~~すっげぇ、おまんこに指っきてる♡♡ オイ、そのまましっかりおっ立てとけよ……♡」


 俺の手首を放すと、虎は中腰になって深く腰を落としたままの膝に手を当てて前掲する。

 肘がグッと外に向かって開いて、まるで翼を得たかのようだった。


「おぉおっ♡♡ すげ、指ちんぽすっげ♡ おまんこと擦れて気持ちいいぜェ♡♡ んっほぉ♡♡」


 すると、虎の尻が更に深く沈み込む。

 俺は一瞬その場に座り込むつもりかと慌てるが、そうでないとすぐにわかった。

 虎はそこに固定された棒を自分の尻奥に咥え込むように腰を落とし、大きな尻を俺の手にぐいぐいと押し付けていた。

 中途半端に開いていた俺の手は、突き出される質量に怯えてとっさに指を握りこもうとするが、間に合わず指が二本犠牲になってしまう。

 折り曲げた薬指と小指の背にちくちくとした虎の尻毛を感じながら、俺は虎の直腸の中でピースでもしているような気分だった。


 肉の詰まった蜜壺は抵抗なく俺の指を咥え込みながら、身動きを許さないようにぎっちりと窮屈に締め上げてくる。

 まだ困惑している俺が指を開いたり抜いたり何か行動を起こす前に、虎の膝がぐっと膂力に漲るのがわかった。


「ふぅうんッ♡♡ おぉッ♡♡ こすれるっ♡♡ おまんこ肉引っかかれて、すっげ♡ お~~~気持ちいいっ♡ まんこすっげ♡♡ っふぅ~~~♡♡ ん゛ふぅ~ッ♡♡♡」


 今度は逆に椅子から立ち上がるかのように腰を浮かせた虎の尻から、俺の指がずろぉっと抜ける。

 しかし解放感も束の間、指を濡らす粘液が外気に晒され冷える暇も与えずに虎の腰は再びどっかりと落とされた。


 丸々と太った巨大な質量が俺の眼前で軽やかに上下し、ゆっさゆっさと反動で弾む。

 突き出された尻の向こう、ガニ股に開かれた両足の間では垂れ下がった玉袋と重たげに首をもたげている虎の一物が派手に振り回されているのが見える。

 この虎は、人の指で自慰をしているのだとすぐにわかった。

 それも肛門を膣に見立てて、男に跨った女のように腰を振るはしたない動きで。


「おッぉお♡♡ たまんねッ、ガキにデカケツ振って指ちんぽ咥えてるとこ見られてるっ♡ クソ穴ほじられてっ気持ちよくなってるとこ見られてるぅっ♡♡ 見られてんのにっ腰止まんねェ♡♡ 恥ずかしいのがったまんねえぇッぇ♡♡」


 けして激しい動きではないが、見た目に相応しい力強い腰使いで虎の尻が上下する。

 今となっては指を包み込む柔肉を濡らす粘液で、俺の指どころか手までべったりと汚れてしまっていた。


 それが腸液や排泄物の残滓などでなく、スライムの欠片が溶けて液状になったものだということはにおいで察しがついた。

 俺は一連の光景や目の前にある縞々の尻を眺めながら、実はこれは夢ではないのかとどこか呆けていた。

 何故ならそれくらいあり得ないことで、どこか現実味を欠いて感じられたからだ。

 しかし、虎が深く沈み込むたびに指の背にちくちくとした獣毛を感じるのが、粘ついた液体で濡れた手指と腸壁とが摩擦してぐちゅりぐちゅりと音を立てるのが、これは紛れもない現実だと俺に訴えかけている。

 この痴態は他でもないあのヴァレリのものだと受け入れるには、まだ少し飲み込み難かった。


 自分の膝に手を当てて腰を深く落としながら、ゆさゆさと尻を振る虎が身を捻り肩越しに俺へ振り返る。


「んっふぅ~~♡♡ ふうっ……おらッどうだァおれさまのケツマンは♡ えっろい音してるだろぉ♡♡ このおまんこでテメェのちんぽをたーっぷりしゃぶってやるぜ♡ どんだけ気持ちいいか想像してみろよ♡ 楽しみだろ?♡♡」


 そう言われて、俺は自分の腰の奥で疼く熱を自覚する。

 頭や心で考えるロジックに依らない、原始的な鼓動。

 男として生まれついたから抱いてしまう愚かしい発想、俺はそれを振り切ることができない。


 ぬるぬる、ふわふわとまとわりつきながら、時折強く締め付けて指に絡みついてくる柔肉に満ちた虎の尻孔。

 それを彼自身がおまんこと表現するならば、この穴に性器を突き入れたらどれほど気持ちいいだろうかと想像してしまうのは自然のことだろう。


 一度でもそれを想像してしまえば、終わりだった。

 俺は虎の痴態とぎらついた目つきに当てられて、急速に喉が渇いたように感じる。

 最初に異変が訪れたのは、未だに虎の膣内に飲み込まれたままの手指だった。

 指先にぴくりと力が入って、俺は俺の意思を超えて手が動くのを止められない。

 人間の体の内で特に触知覚に敏感な指先で、ぬめる粘膜の輪郭をもっと確かめたいという好奇心のまま、俺は曲げるように指の腹をぐっと押し付ける。

 ぬるつきながら襞を持つ粘膜は圧力のままに凹み、それと同時に虎の下半身がびくりと強張るのが突き出された尻伝いにわかった。


「おッほおぉ♡♡♡ ゆ、ゆびっ♡♡ 指で人のおまんこ擦るンじゃねえ、気持ちよくて声出ちまうだろうが♡♡」


 台詞とは裏腹に、その声音は俺にもわかるほどの媚態に満ちていた。

 責めているのか、あるいは褒めているのかわからぬ文句を言いつつ、虎は尻孔をヒクつかせてきゅうきゅうと俺の指を締め付けている。

 直腸で吸い付いてくる吸啜を指全体に感じながら、俺は型を取るように指を押し付けながら手首を回す。

 指の腹が天を向いて半回転もしないうちに、虎の膝が情けなくがくがくと震えるので驚いた。


「んひゃぁあああッ♡♡ そ、それっ♡♡ たまんねっ、おれのぉッまんこ肉なでなでされてるっ♡♡♡ すっげ、ケツマンヒクついちまうぅ♡♡」


 別に意図があったわけではないが、結果的に彼の気に召したようだった。

 俺は虎の反応に気を良くして、手首をぐりんぐりんと返す動きを繰り返して虎の胎内に半円の軌跡を作る。

 その度に虎が尻尾を膨らませて、尻肉を腰ごと跳ねさせて反応するものだからすっかり調子に乗ってしまうのだった。


「おッお゛っおぉ♡♡ あ~~ッ手マンたまんねえ♡♡ クソ♡ おまんこ拡げンの、うめえじゃねェか♡♡」


 この頃になると俺の中に抵抗感はなく、あの生意気で口の悪い虎を片手で鳴かしている事実に確かな高揚を覚えてしまっていた。

 数週間歩き通してもビクともせず、筋肉達磨の自重を受け止めて支えるに相応しい堅牢で強固な縞々の足腰が、まるで風に煽られる細枝のように揺らいでいる。

 それを俺が引き起こしているのだと思うと、知ってはいけない充足感に胸の内が満たされていくようだった。


 ぬるぬるに汚れた虎の尻を夢中になって好き勝手に指でほじくり返す。不規則にうごめく腸壁はただ締め付けるだけでなく、時折そのおちょぼ口を力強く突き出して拡がりを見せながら、奥のほうが隙間なくみちみちに閉じて指を心地よく圧迫してくるのだ。


 もしこの指が自分の性器ならば、と思うと頭がぼーっとして何も考えられなくなる。

 もしかしたら俺も何かしらの術中にあるのかと思ってしまうほど、俺はこの行為に違和感も嫌悪も感じなくなってしまっていた。


「ぐぅっ、ぅるるるっ……あ~~~クソ♡ ザコのくせに焦らしやがる♡♡ いい度胸してンじゃねェか、テメェ……♡♡」


 虎が言って、伸び上がるようにぐっと腰を浮かせて直立する。

 尻肉がぎゅっと中央に寄せられたのもあって、虎の尻が浮き上がるとそこへ咥え込まれていた俺の指はぬぽっ、と抜き去られてしまう。

 抜けた拍子に虎は「んお゛っ……♡」と熱っぽい吐息を漏らして、着ていたシャツを中途半端に脱いで首に引っ掛けながら俺に向き直る。


「お、なんだァテメェ♡♡ ひとのケツマンほじりながらおっ勃ててンのか♡♡」

「えっ。あ、いや……これは、その、違うんだ……!」

「あぁ?♡ ナニも違わねェだろ♡ ったく、エロガキがよォ……話が早くて最高だな♡」


 髭を蓄えた口元に笑みを浮かべると、責めるような荒い口ぶりで、褒めるような媚びた声音を使うので俺はどうすればいいのかわからなくなって頭がおかしくなりそうだった。

 しかし虎はまるでボレロでも着ているかのようにシャツに腕を通したまま脱ぐと、その場ですっと膝を折ってしゃがみ込む。

 何をしようとしているのかは、聞くまでもなかった。


「おッ、イキがいいじゃねェか……おらッ逃げンじゃねェ♡♡」


 俺の股間が……ちんぽがびくんびくんと充血して脈を打つのは、ろくに性処理をしていないところをしゃぶられて、久しぶりの快楽に飢えているためだと思いたい。

 そうでなければ、こんな見た目もむさ苦しくむわりと雄臭い虎相手に勃起するなんて、あり得ないはずだからだ。


 仰向けになった俺に跨って腰を浮かす虎は、自分の尻の下で脈を打って跳ねる俺のちんぽをがっしりと掴む。

 手を添えたまま上向きに固定すると、ちょうど先ほど俺の指を自ら咥え込んだ時のように、浮かせた尻をその場にゆっくりと下ろしていく。

 そして、ぬっと突き出た縁肉が俺の亀頭に触れたところで、虎は太腿を力強く張らせて腰を止めてしまった。


「くぅ、熱っちぃな……ほーれ、わかるか?♡ お前のちんぽとおれさまのケツマンがちゅーしてるンだぜ♡♡」


 盛り上がった土手肉がキュッと締まって、亀頭をあてがわれながらその口をむちゅりと窄める。

 唇で吸うように窄められた陰唇は会陰部から力が抜けると同時にふわりと緩んで、ぬらぬらとした唇が敏感な先端をねっとりと撫でる。

 それはまさに、接吻を交わしているようだった。


「おっ、お前、本気か……ッ?」

「あ?♡ 今更何言ってンだ、伊達や酔狂でおまんこさせるワケねェだろ♡」


 虎は言いながら、俺の上で浮かせた尻を揺すって粘っこい水音を立てた。

 敷いたテント布を踏み締め、あるいは押し返して自分の体を浅く上下させる虎は、俺の亀頭に自分の尻穴をつつかせて遊んでいる。

 超重量級の体が深く沈みこまない屈伸運動を繰り返す動きは軽やかだが、俺を跨いで立てた足から逃がしている体重は相当のようで、寝ている俺には虎の質量で大地が僅かに揺れるのがわかった。


 唇でちゅぷちゅぷと亀頭だけが舐られているような、挿入に至らないもどかしい快楽に俺が「うぅっ」と唸ると、虎の尻尾が上機嫌に波打つのが見える。

 虎は俺のちんぽにあてがっていた手を放すと、眼下の俺をまっすぐ見下ろす。

 腰を中途半端に浮かせて屈伸を繰り返す動きは脚や前腿に多大な負荷がかかるだろうに、玉座の肘置きのように自分の腿で腕を休める姿はどこまでも余裕がありそうだった。


「おぉすげぇ、硬ってェのが当たってるぜ♡ 辛抱たまんねえってビクビクしてやがる♡」


 しゃがみ込むというより中腰の姿勢を維持して、俺の性器の先端を擽りながら虎が言う。

 今となってはぶにぶにと捲れ上がった肛門の肉と擦れるのも、虎の尻を覆う汗臭い体毛がちくちくと刺さるのも、俺にとっては等しくもどかしかった。


 しかし、それ以上を欲している自分がいることに俺は何よりも戸惑っていた。

 男同士で、それも正気でない相手とこんなことをするなんて、という嫌悪感が快楽で希釈されて、心地よい背徳感として俺の鼓動は早める。

 虎はゆさゆさと豊満な大胸筋を揺すりながら、見たこともない甘い目つきをしながら意地の悪いニヤけた笑みを浮かべる。


 熱っぽい表情をする虎の熱が俺の思考回路に伝播して、ぼんやりと靄がかかったように抵抗も拒否も嫌悪も形にならない。

 ただ思うのは、入り口だけでこれほど柔らかい穴に自分の性器を突き入れたら、ということと、虎の大胸筋が立派すぎてまるで胸板に尻がついているようだ、ということくらいだった。


「おーおー、ガキのくせに期待した顔しやがって……しょうがねェエロガキだな♡♡ そろそろちゃんと気持ちよくしてやるか……っと、おッ♡」


 虎は言いながら、再び腿肉を力強く張り詰めるとむっちりとした尻をゆっくりとその場に落としていく。

 噴火口のように盛り上がった肛門に突き立てられた俺の性器が、虎の胎内に埋没する。

 亀頭で入り口を無理やり拡げ、みっちりと肉が詰まって閉じた蜜壺の中をかき分けていく。


 粘膜同士が擦れ合って、思わず歯を食いしばる。

 閉じた腸管の中に滑り込んだ俺の性器が……ちんぽが、未体験の快楽にようやくありつけたことに悦び跳ね回っていた。


「うわッ、う、うあッ……なんッだ、これ……!」

「っぐぅ♡♡ イキの良いちんぽしてンなァ……ほーれ、奥まで入っちまうぞぉッ♡」


 虎の腰が落とされるままに、ぬぷぷ、と俺のちんぽは何の抵抗もなく腸内に沈んでいく。

 先ほど指先で思い知った柔らかい肉を、スライムの粘液で滑りを良くした俺のちんぽが擦り上げてどんどん奥を目指す。


 視界が眩むほど鮮烈で、記憶を超越して魂に刻み込まれるような快楽の一切がこの虎によって与えられているとは驚きだった。

 極上の肉を供するこの虎には、その快楽の担い手には二度と逆らえなくなってしまいそうな、原始の欲求に訴える官能の前に俺は抗えない。

 生得した倫理も、貞操も理性も本能には通用せず、俺は俺が一匹の雄でしかないことを思い知らされるようだった。


 ずぶんっ、と虎の尻毛が俺の腿を擽って、突き出た尻が無事に俺の腰の上に着陸する。

 虎の両足はベッドシーツ代わりの覆い布を力強く凹ませている。そのためか、腰の上に座るように屈んだ虎の質量に俺が苦しむことはなかった。


「ぉッほおぉおぉ゛ぉ~~~ッ……♡♡♡」


 浸るように虎が息を漏らす。寒い北の地で、湧き出る温泉に浸かったような声だった。

 だがそんなことよりも、俺は初めて体験する感覚に全神経を集中させていた。

 充血し腫れ上がった性器の表面は敏感で、かつての俺は手で触れたり擦るだけで生じる快楽で満足していた。

 それら全てが過去のものになってしまった。


 虎の胎内は一切の隙間なく、ともすればそれが管状の器官であることすら忘れてしまいそうになるほど肉厚だ。

 まるで先刻排出したようなスライムを尻の中にまだ飼っているのではと思ってしまうほど、円を描く腸壁はすっぽりと俺のちんぽを包みぬるぬるとその身を擦りつけてきている。


 指を入れさせられた時と同じように、虎の呼吸や筋肉のうねりに合わせて柔肉が胎動するのがちんぽ越しにわかる。

 こんなもの、いくらも耐えれそうにない。

 俺はひどく酩酊した時のように焦点が定まらず、喉が渇いて呼吸すら覚束なかった。


「っふ、ククッ♡♡ たまらねェって顔してるな、そんなに気持ちいいか?♡ とんだエロガキだな♡♡」


 すっ、と俺の顔に影が差す。自らの膝と腿を肘掛けにしていた虎の片手が、俺に向かって伸びていた。

 分厚く、節くれだった肉球を伴う手が頬を撫でる。

 思ったより優しい手つきに、まさか頬を張られるのでは、と身構えた俺は戸惑いを隠しきれない。


「いっちょ前にオスの顔しくさりやがって。そんなにおれさまのことを犯したいってか?♡ 百年早ェっての♡♡」

「そっ、そんな、こと……っ、うわ、中、すっご……!」


 別に気持ちよくなんてない、男を犯す趣味なんてない。そう言い返してやりたいが、抵抗が声となって顕れることはなかった。

 何故なら喋る虎の膣肉は発声による呼吸と筋肉でうねり、俺のちんぽにむちゅむちゅと絡みついて締め付けてきたからだ。

 筒状の筋肉はあちこちが不規則に収縮して締め付けてくる。

 まるで口で吸われるかのような刺激に意識を割かれて、俺は満足な答弁ができずにいた。


「エロガキがよォ、野郎のおまんこにちんぽ突っ込ンでこんなにいきり立たせやがって……ったく、嬉しいじゃねェか♡♡」


 下卑た笑みを浮かべながら、しかし情熱的な視線を俺に向ける虎は親指で俺の頬骨をなぞるように頬を撫でる。

 手はそのまま側頭部を抜けて俺の髪をわしゃわしゃとかき混ぜるものだから、胸中は複雑だった。

 子供扱いしているのかと自尊心に声を張り上げたくなるものの、心を許した手つきにはついつい絆されてしまう。

 荒っぽい語調はこちらを責めているようで、その実好意的な文句を口にしている。


 この虎が喜んでいるのは明白で、俺はその出汁にされているだけだというのに、満足そうな笑みを前にするとこっちまでそれなら良いかと全ての問題を棚上げしてしまう謎の魅力に溢れていた。

 脳裏を過る仏頂面の虎と、目の前で頬を緩める虎の二つの顔が重なって、つい腰が揺れてしまう。


 そして、思った。

 ちんぽを擽る淫肉を、虎の尻穴を犯せば、まだ俺が見たことのない表情をしてくれるかもしれない。

 あの憎たらしい顔を歪めて、女のように縋り付いてくる姿を見るのは、きっと楽しいことかもしれない、と。


「む゛おっ……♡ 急かすな急かすな♡ 慌てるエロガキは貰いが少ねェぞ♡」


 虎はどっしりと腰を下ろしたまま、身動ぎ一つせずにそう宣う。

 でっぷりした尻肉とちくちくした尻毛を俺の腿に押し付け、一つも動く素振りはない。

 しかし挿入された俺のちんぽを包む柔肉はぐねぐねと自在に動いていて、体に掛かる圧迫感がなければ虎の直腸の仕業ではなく、何か得体の知れない軟体動物が取りついていると思ってしまうだろう。

 重心となって突き出た臀部や会陰部の筋肉が収縮を繰り返すのが体越しに伝わって、わざと動かしているのだ、と理解した。


「っがふぅ♡♡ あ~~たまんねッ、熱っちぃちんぽでケツん中いっぱいになってやがる……♡」

「ぅ、ううっ……?」


 あるいは虎の体内に潜む筒状の柔らかいスライムが勝手に動いてちんぽを扱いていると言われても疑問は抱かないだろう。

 そのうち、下腹部に触れた感触にようやく気が付いた俺は、頭を撫でる手を無視して呻きながら首を起こす。


 虎の腰回りは過不足なく鍛えられた筋肉で迫り出ているが、しゃがみこんだ脇腹では脂が段を作っていて、発酵用の酒樽のように存在感があった。

 膝を折ってしゃがみ込んだ太腿の筋肉がふくらはぎと圧し合い、さらにボリュームを増して見える。

 開かれた両腿の中心に目をやれば、深々と腰を落とした虎の陰嚢とふてぶてしい性器が俺の陰毛を隠すようにもたれかかっていた。

 黒い縞を走らせた白袋はその表面を小さく伸び縮みさせているのがわかる。

 充血してなお重々しく首を垂れる虎の一物は大人しく見えるが、顔を向けた俺の鼻にツンとした発酵臭を感じさせるほど蒸れているようだった。


「おらっ、どうだ?♡ 気持ちいいか、おれさまのおまんこは♡ オイ♡」


 そんなものが俺の衣服に押し付けられていることに嫌悪感を抱く間もなく、虎は深く屈んだまま腰を前後にがくがくと揺らし始める。

 まるで尻の肉をぐいぐいと押し付けるような腰つきに、俺のちんぽは蜜壺の中でぐるぐるとかき回される。

 巨大な輪っかを体で回して遊ぶようにカクカクと虎が腰を振ると、俺の体にその身を預けていた立派な雄棒と玉袋までもが前後に揺れて腹と擦れて、ヘソを犯されている気分だった。

 俺の手首ほども太い虎の包茎ちんぽから半透明の粘液が溢れ、俺のシャツにシミを作るのを認めながら、俺は虎の視線に応える。


「へっ、ちんぽガチガチにしやがって♡♡ もうすっかりおまんこに夢中って顔してンなァオイ♡ そんなにイイならちゃんとおまんこ気持ちいいって言ってくれよ♡♡ そしたらも~っとヨくしてやるぜ♡」


 俺の髪を擽っていた虎の手が再び頬に降りてくる。

 節くれだった肉球を帯びた親指が伸びて、俺の唇をなぞった。


 ただしゃぶられただけならまだ抵抗のしようもあった。

 男同士で何を考えているんだ、不潔だと冷静な判断に基づいて、虎の言葉を拒絶できたかもしれない。

 だが、ただの一度でも知ってしまった。その指で、その性器で温もりに触れてしまったからには、もう手遅れだった。

 卵の殻は割れたっきり、戻ることはない。俺は虎の腸壁を引っかくようにちんぽを脈打たせながら答える。


「ひッ……きもちいい……! ヴァレリのっ、まんこが気持ちいいんだ……!」


 そして、虎が笑う。俺の唇を指先で割って、歯列をなぞりながら牙を剥き口角を上げた顔は、威嚇にも似て獰猛だった。

 もはやこの虎がどうしてこんな振る舞いをするようになったのかを解明する知能はない。

 彼の名誉のためにも正気に戻さねばという使命感も消え失せてしまった。

 金玉と原始の鼓動から去来する劣情が、そんなことはどうでもいいと我が物顔で俺の頭の中を埋め尽くす。

 この瞬間、はっきりと自分が何かに屈したのを理解した。


「おぉ♡♡ じゃあ、もっと気持ちよくしてやらねェとな♡♡」


 虎が言って、頬から手を離す。

 俺のシャツを中途半端に捲り上げた赤黒い剛直をぴくりとわななかせて、ボレロのように中途半端に脱いだ衣服を首に引っ掛けたままその場で腕組みする姿は何とも言えぬ貫禄があった。

 俺が倫理と理性をぼろぼろに打ち滅ぼされた敗者なら、生殖の本能に訴えかけた虎は勝者と言えるだろう。


「お待ちかねだ。天国、見せてやるよ♡♡」


 そして、いつだって敗者は蹂躙されるものだった。

 仰向けになった俺とそこに跨る虎が体重を預けている地面は、ふかふかの土と芝でできた豊かな大地に露と虫防止にタールを染み込ませたテント布を敷いて簡易ベッドとしたものだ。

 寝床としてはけして固くはない地面が、ぐっと凹む。腕を組んだ虎が両足で体重を押し返したのだ。

 腕の支えを必要とせず、屈強な足腰のみで腰を持ち上げる。

 その動きで俺のちんぽが摩擦しながら肉孔から抜けて、たまらずうっと声を上げた。


「お゛ぉっ、すっげ♡♡ 硬ってェのが、おまんこに擦れて……ッ♡♡ ふっ、ぅん゛ッ♡♡」


 頭のてっぺんから伸びる糸に引っ張られるように腰を上げた虎は、棍棒ほども太い一物が完全に浮く頃に重たい自重を支える脚を再び折り畳んで屈み込む。

 ほこほこと温かい虎のまんこから抜けて、ひやりとした外気をちんぽに感じたかと思えば、次の瞬間には逆再生するように虎の体内にじゅぷんっと沈み込んでいた。

 虎の質量が落下する運動を受け止めた地面が局所的に揺れるのがわかる。

 腰を落とす勢いで虎のちんぽが俺の下腹部をぺちんと叩き、シャツを擦った。


「ん゛ぉお♡♡ ちんぽっ♡ ちんぽがケツマンの奥にっ、じんじん来やがる♡♡ くそッ、ガキのくせにイ~イちんぽしてるじゃねェかッ♡♡」


 虎は自分の尻穴に自ら異物を受け入れ、天を衝く屹立に蕩けた腸肉を押し付けるように腰を下ろす。

 ふわふわと俺のちんぽを包む柔肉は滑りのいい粘液にまみれており、たったの一往復の抽挿で俺は金玉がぐんぐんと縮まってせぐり上げるのを感じていた。


 虎が噛み締めるように息を漏らすのに合わせて、まんこの中がきゅうっと感慨深そうに締まる。

 咥えこんだちんぽの根元を窮屈に締めて逃がすものかとしがみついておきながら、竿の中ほどから亀頭の先端までを包む淫肉はどこかゆとりを見せていた。

 俺のちんぽに代わる代わる絡みつきながら放任する大らかさに溢れた腸内は、万の舌で舐め上げるように絶えず蠢いている。

 伸び上がるように俺のちんぽが脈を打つと、敏感になった亀頭やカリ首がずるずると滑る腸ひだを擦ってたまらなかった。


「ふんっ、ふーッ♡♡ ふぅん゛っ♡♡♡」


 虎は胸の前で腕を組んだまま、尻を穿ったちんぽを体全体で扱くように屈伸運動を始める。

 焚火の灯りに照らされて、どこか赤らんで映る虎の肢体に目を奪われるのはどういうことか。

 丸く椀状に張り出した大胸筋は太い両腕に押されて行き場を無くし、ただでさえ肉厚だった胸板で乳房のように丸く寄せて上げられていた。

 腕を組んだ虎の手の甲や手首に乗り上げるほど実った大胸筋は、上下する体の運動に巻き込まれてゆっさゆっさと縦に揺さぶられている。

 鎖骨の下辺りからぐっと膨らみ、曲線を描いて突き出たそれは、虎が快感に身を強張らせて脇を締めるたびに一回り大きく張り出して岩肌のように硬くなるのが傍目からわかった。


「ふぅ~ッ♡♡ っふんん゛♡ っおぉ、ちんぽすっげ♡♡ まんこ引きずり出されてっ捲れ上がっちまう♡♡♡ ふんッ♡♡ 腰っ、止まんねェ♡♡」


 例えこれがなし崩し的に合意を得た行為だとしても、虎の腰遣いは独善的なものだと言えた。

 他人の性器をまるで都合の良い棒として扱い、体内の性感帯に押し当てるように自ら跨って腰を振るその素振りからは、俺のことを慮った様子は見られない。

 だからこそ、そんなことはあってはならない。

 自分が気持ち良ければ良いと言わんばかりに大地を踏みしめ、両腕を組んだまま下半身の膂力のみで屈伸を続けて尻を上下させる姿を身勝手だと思いこそすれ、逞しさを覚えるようなことはあってはならないのだ。


「がふぅッ♡♡ っぅぐるるる♡♡ ふ~~ッ、フーッ♡♡ お゛っおぉお゛~ちんぽっ♡ このっちんぽたまんねぇ、気持ちいぃッ♡♡ おまんこズボズボすんのたまン゛ねぇ♡♡ ケツ穴がっバカになっちまうぅうっ♡」


 腕の支えも無しに巨体を持ち上げる下半身の力強さや、腕を組んで強調される大胸筋の豊かさから目が離せない。

 俺のことを一切顧みる様子もなく、暴力的に体を上下させて抽挿を繰り返す振る舞いからは、俺に尽くして満足してもらうための奉仕精神など微塵も感じられない。


 そこにあるのは暴力的な搾取だ。

 子を孕むための種を搾り取ろうという有無を言わせぬ腰遣い。

 まるで知性のない動物だと思ってしまう。

 だが、倫理も理屈もない、本能のまま虎の尻が弾むリズムに身を委ねるのが何とも心地よくて抗えない。

 もしかしたらこの虎を変容させた何かは、俺にも作用してしまっているのかもしれない。

 そうであったら一大事だが、そうでないかもしれないから、もうどうでもよかった。


「へ、へへぇっ♡♡♡ なんだ、てめぇ♡♡ もう種ブチまけてェって顔しやがって♡♡」

「だ……だって、こんなの初めてでッ……!」

「駄ァ目だ♡♡ まだイくンじゃねェぞ♡ ザコちんぽから種漏れねェようしっかり堪えやがれ♡♡」


 無理言うな、という声は言葉にならなかった。

 深く腰を沈めた虎膣が俺のちんぽを四方八方から揉みこんで、ずるずると滑る淫肉を擦り付けてきたからだ。

 虎は腕を組んだままぐりぐりと肉厚の尻を俺の腰に押し付け、出し入れを繰り返して擦り付けるのとは違う味わいで俺を魅了する。

 俺が顔を歪めて呻くさまをニヤニヤと舌なめずりして見下ろしながら、虎は再び両脚で体を持ち上げる。


「すぐイくンじゃ勿体ねェだろ♡ おれさまのおまんこ、もっと楽しみてェよなぁ……?♡ ふん゛んッ♡♡」


 言いながら、虎は力強く腰を落としてちんぽが抜けてできた空白を埋めるので、ぱちゅんっと汚い破裂音が響いた。

 もはやヘソを超えて鳩尾に届くかという勢いでいきり立った虎の剛直から汁が跳ねるのがわかった。

 容積を増した虎の一物は脈を打って跳ねるたびに自らを覆い隠そうとする肉皮から徐々に脱し、完全に充血して漲った今となってははっきりと露茎していた。

 腫れ上がって立派にエラの張った亀頭は包皮の手に負えず、カリ首の下にだぶついて溜まっている。

 馥郁とした発酵臭がより頻繁に鼻を突くのは、おそらくそのためだろう。

 見れば、張り出したエラの陰には包茎の中で蒸された恥垢が白カビのようにねっとりとこびりついているのがわかった。


 俺はそんな虎の一物が粘ついた我慢汁を射精のような勢いで飛ばし、腹をびたびたと打ってシャツを汚すのを知覚していながら、しかしそれを厭う余裕はなかった。

 ただ漠然と、あの日スライムを相手にしていたように女を犯し慣れているだろう黒ずんだベテランの性器が、俺の前で無用の長物と化して振り回されているさまに仄暗い優越感を覚えるのみだった。


「っふん♡♡ ふーッ♡ あ~ッすっげ♡♡ 奥ッ当たって……ッくそ、ケツマンにビリビリ来やがる♡♡ たまんねェな、ザコのくせにいいちんぽしやがってテメェ、ずりぃぞ♡♡ この野郎♡」


 体の前で組んだ腕に押されて乳房状に丸まった大胸筋をたゆんっと揺らして、虎が俺を見る。

 眠たいのかと思ってしまうようなとろんとした目つきのまま、黒々とした唇をべろりと舐めて吐かれた文句には恫喝されているのかと身構えてしまいそうになる。

 熱に浮かされた頭で褒められているのだと理解するのは時間がかかった。

 他ならぬこの虎に評価されるのはまるで認められたようで、下半身のこととはいえなんだかむず痒い。

 いや、下半身のことだからむず痒いのか。

 どちらであっても、同じことのように思えた。


「ヴァ、ヴァレリ、もう……ほんとにっ、まずい、かもッ……!」

「あンだ、堪え性ねェやつだな♡ やっぱザコはザコかぁ?♡」


 なるべくこの行為について考えないようにしたり、頭の中で解析中の魔術理論を諳んじたりして耐えようとしていたが、槌のように振り下ろされる虎の尻がもたらす暴力的な快感には抗えなかった。

 俺が限界を伝えると、虎は残念そうに、あるいは愉快そうに宣う。

 まるで他人の弱みに付け込む小悪党のような表情だった。


「ったく、しょうがねェな……んじゃ、ちょっとひと搾りしてやるとするか♡♡」

「ぅ、あッ?!」


 腕を組んでいた虎が、屈伸運動を繰り返していた脚をビキリと膨らませると、そのまますっくと完全に膝を伸ばして立ち上がってしまう。

 ちゅぽんっと蕩けた肉壺からすっぽ抜けた俺のちんぽを摩擦するのを最後に、尻の谷間の毛を感じる隙も与えず虎は組んでいた両腕を解いて俺を跨いで立つ。つかえが取れた大胸筋が解放感にゆさっと弾んでいた。


 射精間近だったところを急にお預けされて、俺のちんぽが抗議するように二度三度と脈動する。

 パンパンに腫れた亀頭は最高潮に感度を増して、濡れた表面に感じる風ですらむず痒かった。

 搾るって、どうするつもりなのだろう。

 快感でぼーっとした頭ではろくな仮説も立てられず、俺は虎が何をするかを見守る。

 虎は寝たきりで餌を待つ俺の態度に文句も言わず、あろうことか俺の膝裏を持ってぐっと両足を持ち上げた。


「うわっ、お前っ、何を……!」

「いいからいいから♡」


 まさか俺に挿れる気か、そんな巨大なモノを、と肝を冷やすが、虎はどこ吹く風で仰向けになった俺の体を折り畳むように足腰を浮かせる。

 頭が下で尻が上という、まるで肩で倒立するような姿勢になった俺の狼狽も他所に、虎は天に向かって両足を伸ばす俺の下半身を跨ぐ。


 そして、そのまま腰を下ろした。

 ひっくり返った俺の腿裏、それもほとんど尻に近いところへちくちくとした体毛が触れる感触があって、何をしようとしているのかまったく見当がつかずに虎を見る。


「イくならおれさまが孕みやすい体勢でイってもらわねェとな……せっかくの種がもったいねェだろ♡」


 月を背負った虎がそのようなことを言った。

 ガニ股になった虎は、腰を中心に体を『く』の字に折り曲げた俺の下半身を跨ぐ。

 そのままぐっと前掲して俺の両手を取っては「持ってろ」と言って両足を抱えさえた。

 自分から股を開き尻を晒すような姿勢を取らされた俺が羞恥に頭を冷やす前に、虎は股下に手を伸ばす。

 そして腹に沿って反り返っている俺のちんぽを掴むと、まるでレバーでも引き上げるように乱暴にぐいっと上向きに引っ張り上げた。


「ぃッ……!」


 腱を無理やり伸ばされるような引きつりを覚えて、思わず身じろぐ。

 すると、腰の下にいつの間にか丸めた布の塊が添えられていることに気づく。

 立ち上がり際に暗闇でごそごそやっていたのはこれか、と思いながらそこに体重を預けると、引っ張られる股間が多少楽になった気がする。

 後ろからは尻が丸見えだろうと危惧するが、それはガニ股になって俺を跨いでいる虎も同じことだと思えば少しは気が紛れそうだった。


 虎は折り畳んだ俺の両足の間から、無理やり上向きにした俺のちんぽを玉ごと引っ張り出すと、ぐっと根元をつかんで照準を合わせる。


「おッ、まだガチガチじゃねェか。えらいえらい♡♡」

「お前、まさかっ」

「んじゃ、お待たせした分も遠慮なく搾り取ってやるか♡ おれさまのケツに我慢せずぶっ放しちまいな♡」


 言いながら、用を足すように虎の巨体が屈み込む。

 折り畳んだ俺の下半身にずっしりとした尻の圧迫感を感じると、ちんぽが盛り上がった陰唇にぬぷりと触れた。

 俺が何かを言うまでもなく、虎は無理やり引っ張って上を向かせたちんぽを自分の膣内に沈めていく。

 本来なら充血して腹を打つように反っている性器は、脈を打つたびに元の位置に戻ろうとして跳ね上がる。

 その動きが虎の内側を引っかけるように抉るので、俺は亀頭にぞわぞわとしたむず痒さにも似た官能を覚えた。


「っぉ゛お♡♡ すっげ、おまんこにゴリゴリ来やがるっ♡♡ 俺のケツん中でちんぽが暴れてッたまんねえぇ♡♡」


 虎は中途半端に股を開かせて組み敷いた俺の脚を持ったまま、まるで女を犯すように自分の下半身でプレスしては尻を上下させる。

 無理な姿勢で内臓が窮屈な俺が首を起こすと、虎の剛直が思ったより近くでぶるんぶるんと上下に振り回されていて、ツンとした発酵臭が目にしみた。

 虎の腰が持ち上がるたびに、俺の腿と縞々の尻の隙間から焚火によっておぼろげに照らされた周囲の景色が覗く。

 視線を外して空を見れば木枝の隙間から真っ暗な空に光る星が輝いて見える。

 一体全体野外で何をやっているのだと思う冷静な俺は、どこにもいなかった。


「どうだァ?♡♡ おれしゃまのぉッケツマンは♡」

「ど、どうだって……言われてもっ、あっ……!♡」

「強がっても無駄だぜ♡ テメェの雑魚ちんぽは気持ちいい気持ちいいって悦んでンのがバレバレだからなァ♡♡」


 そう言われると、否が応でも意識してしまう。

 自分がまるで女のように股を開かされて大男にのしかかられているという事実から目を背こうとする俺は、しかしちんぽにまとわりつくぬるついた快楽に現実に引き戻される。


 虎の尻が槌を振り下ろすようにだぷんだぷんと上下して、俺の腿を叩くたびに濡れた打撃音が響く。

 俺のちんぽが虎の腹側の腸壁をこそぎながら進入し、すっかり蕩けたヒダヒダに亀頭やカリ首を引っかけながら後退していく。

 ばちゅんぐちゅんと汁気のある果実を何度も何度も執拗に踏みつけるような、破裂音にも似た水音をリズミカルに奏でながら俺は上り詰めていく。


「どーだ、気持ちいいか?♡ ン?♡」


 膝裏に手を添えて、俺の両足をぐっと力強く押し込んで抱える虎が言う。

 でんぐり返しするように腰を上げ、股を開かされた屈辱的な姿勢は息苦しく、羞恥心を煽られる。

 だがそれ以上に、ドーム状に張った大胸筋をゆさゆさと揺らし、汗でじっとりと張り付いた毛皮に浮かぶ腹筋を震わせて俺のちんぽに跨る虎の姿は征服的だった。


 女を組み敷き、無理やり晒させた女陰を貫くように覆い被さって相手をプレスしたまま腰を振る姿はどこまでも男性的で、あの夜見た腰振りと相違なく結びついて見える。

 その逞しさが、あれほど憎たらしかった日頃の虎の姿と結びつく。

 変わり果てた虎の振る舞いに、普段通りの男らしさを見出してしまって、妙に興奮するのを止められなかった。

 一体全体俺はどうしてしまったのかと問う冷静な自分も不在だった。


「き……気持ち、いいッ……!」

「おぉ♡♡ そーかそうか♡♡ んじゃ遠慮なくザーメン出しちまえ♡♡ 外に溢したらタダじゃおかねェぞ♡♡」


 押し付けられた虎の尻の中がぐねぐねと蠢くのがわかる。

 腹筋を張っていきむたびに、腸の内側をみっしりと満たす柔肉が膨らむように質量を増してちんぽが押し出されそうなほどの圧迫感を感じた。

 閉じたり開いたりを繰り返してヒクつく陰唇に竿の表面をふわふわと締め付けられて、尿道からじわりと我慢汁が滲む。

 出入りを繰り返すにつれぱっくりと開く鈴口に掻痒感にも似た切なさを覚えて、俺は仰向けになったまま息を荒げるのみだった。


「ん゛おぉッ♡ まんこっ♡ まんこ肉が引きずり出されちまうっ♡♡ くそっ、生意気なちんぽしやがってよォ♡♡ ガキのチンポにゃまだまだ負けねェぞッおらッおらぁ゛ッ♡♡ どうだッたまんねェだろ♡♡」

「あッうわっすっげ……! ま、まずいッもう……!♡」

「っふぅ♡♡ んふーっ♡♡♡ っぅぐるるる♡ おぉッ出せ出せ♡♡ おれしゃまのおまんこにッざこざーめんビュービュー出しちまえ♡♡♡」


 言いながら、虎は俺の両足から手を放して両手を挙げてその肩をいからせる。

 腕を曲げて、まるで勝ち誇った戦士のように上腕の筋肉を誇示したまま、俺の尻の上でちんぽに尻を打ち付けるのだった。

 俺はもはやどういう理屈で自由になった両足を自ら抱えているのかもわからないまま、下半身の上で軽やかに上下する巨体に追い立てられる。

 肩と腰に感じる二人分の体重が軽くなったり重くなったりして、その都度竿を包む柔肉が行き来して扱き上げてくる。

 唇を舐めた舌を出しっぱなしにして屈伸運動に喘ぐ虎の締まりは良く、限界だった。


「だ、だめだ……出るっ! もう……い、イく……ッ!」

「っふー♡♡ フーッ!♡♡ だせっ出しちまえ♡♡♡ おれさまのケツマンでイっちまえ♡♡ たっぷり溜めたザコザーメンで腹いっぱいにさせてみやがれ♡♡」


 中で出して本当にいいのか、と思ったが、そもそも男同士で何を心配するというのか。

 いや、というか男同士で何をしているんだ俺は。そもそも俺とは何だっけ。

 簡単なこともわからないほどこの熱に絆されていた。

 ガチガチに反り立った性器に血液を取られて頭がぼーっとする。

 絶頂の間際、本当に男相手に射精するんだなと理性が諦めたようにこちらを見ていることに気づくが、押し寄せる絶頂感に飲み込まれてすぐに見えなくなった。


「あっだめだっ、ほんとにっイく、出るっイッ、~~~ッ……!!」

「ッお、くるッ♡♡ 来たっザーメン来たぁッ♡♡♡ お、ぉぉ゛ッ♡♡♡ ぉぉお゛おおぉっ、ほお~~~~ッ……!♡♡♡」


 視界が弾ける。血管を流れる血流が急激に増進したようで、こめかみがズキズキと痛んだ。

 下半身が浮くような感覚だった。

 俺は竿の先から夥しい勢いで精液が放たれるのを体感覚だけで辛うじて知覚する。

 金玉がせぐり上げて、竿と連動してドクドクと脈を打っている。

 下半身の筋肉が収縮して、虎が射精するところを見届けたあの晩、あの景色と俺の体が重なるようだった。


 放尿にも似た解放感と共に、こってりと重たい粘液をびゅるびゅると虎の腸壁にぶちまける。

 それは永劫続くかのように思えた。一生涯をかけても終わらないほど、長い時間をかけた気がする。これまで生きてきて、こんなにも長く気持ちのいい射精は初めてだった。

 これほどの量の精液が、自分から出るとは驚きだ。

 伸び上がるように脈を打って、亀頭や裏筋に感じる柔らかい肉ひだにちんぽをぐりぐりと擦り付けながら吐精するのはまさに目も眩む快美感を伴った。

 組み敷かれのしかかられながらも、擦り込むように腰が震えてしまうのは少しでも深いところへ種を残そうとする雄の本能だろう。

 胎内の奥、筒状になった直腸の突き当り目掛けて俺のちんぽが次々と精液を噴き上げると、虎の柔肉は喉を鳴らしてそれを飲み干す。


「っう、ぐうぅ……ッ!♡」

「ぉッおお゛♡♡♡ すげっ、熱っちィのがクるっキてるぅ……ッ♡♡♡ ふぅッ、ぅぐるるるるぅ~……ッ♡♡」


 短い口吻を窄めながら、地響きにも似た低い喉鳴らしが俺の呻き声と重なる。

 深々と腰を落として俺のちんぽを根元まで咥え込んだ虎は、肘を直角に折って掲げた握りこぶしをふるふると震わせていた。


 ちくちくとした毛が腿にくすぐったいほど密着しながら、虎の腸壁は嚥下するように上下に蠢いて精液を受け入れる。

 それどころか尿道に残ったわずかな子種すら吐き出させるために俺のちんぽを圧迫し、ヒクつく蠕動で搾り出すようにむちゅむちゅと膣肉を絡めてくるので、噴き出す勢いを失いながらも鈴口から体液が漏れるのをぼんやりと感じていた。

 恍惚として忘我の境地にあった俺は、自分の意識や思考といった主体が全てちんぽにあるような心地で、こってりとした粘液で更に潤った腸壁に亀頭が揉みしだかれる刺激に思わず呻く。


「あ~あ、たっぷり出しやがって……♡♡ 胎ン中いっぱいだぜ、ザコザーメンで孕まされちまったじゃねェか♡♡」

「う、あッ。い、今、そんなに動かさないでくれッ……!♡」


 射精したばかりで感度の増した俺のちんぽの上で、虎が揺するように腰を振る。

 ぶにぶにとした粘膜らしい肉質できゅっと締め付けながら一層敏感になった亀頭の表面や裏筋を撫でるものだから、その強烈な刺激に思わず体が強張ってしまう。

 虎も自分の胎内で跳ねるように暴れるちんぽの存在に「お゛ッ♡」と声を漏らしながら、恍惚としながらギラついた目を俺に向ける。


「ン?♡ 聞こえねえなァ、何だって?♡」


 まるで玩具を見つけた子供のように弾んだ声だった。

 両腿を張って腰を浮かせると、虎は自分の尻に埋没していたちんぽを引き抜いて浅い挿入深度のまま体を上下させる。

 口でちんぽをしゃぶるように尻孔でじゅぼじゅぼとピストンするので、亀頭を重点的に刺激された俺は苦悶に似た声で喘ぐ。


「ん、ぎッ……! ヴァリーっ、やめッ……!♡」


 咄嗟に呼んだ名に、虎はぴくりと動きを止める。

 俺はというと、輪っかになった括約筋に何度も繰り返しカり首の段差を引っかけるようでもどかしくて気が狂いそうになる快感から解放されて、ハァハァと息を荒げていた。


 蕩けた膣肉に包まれる平穏を取り戻しながら、鮮烈な刺激を身に刻み込まれた今となってはそれが物足りなくもある。

 絶頂を迎えたばかりだと言うのに、まだ萎える様子のないちんぽを膣内でビクつかせる俺は、ぐっと虎の両足が膂力に漲る気配に気づかなかった。


「……ったく、しょうがねェな♡ ほれ、お前も立て♡」

「っうあ……!」


 じゅぽんっと間抜けな音を立てて、ちんぽが抜けた。

 虎が立ち上がって、屈辱的な姿勢をさせていた俺の上から退く。

 体を折り畳むようにくの字のまま固定されていた俺は、体重を受け止めていた腰と肩がぎしぎしと痛むのを感じながら足を伸ばし、上体を起こした。

 後片付けでもするのか、と漠然と思いながら起き上がった俺は、腰の下に敷かれていた布の塊を取り去って脇に除けながらその場に膝を突く。

 しかし、俺がその場に膝立ちになるのと入れ違うように、虎は空いたスペースに座り込み、そのままごろんと仰向けになった。


 何をするつもりか、と考えるまでもなく、虎は自分の膝に腕を挟み込むように両脚を抱えて、俺に向かって股を開く。

 ちょうどさっきまで俺が強いられていたのと似た体勢になると、虎は足先を夜空に向かってぶらつかせながら股の間から首を起こす。

 試すような視線と、ぶつかる。


「んじゃ、今度はお前から挿れてきな♡ 遠慮しねェでガンガン突いてこい♡」


 何の捻りも情緒もない、直球の肛門性交の誘いに俺は戸惑った。

 勃起するのが自分の意志かどうかはともかく、寝ている間にしゃぶられて上に跨られて腰を振られるのはほとんど事故のようなものだ。

 だからこそまんまと射精させられたとは言えそれは相手に強いられたからで、仕方のないことだったと罪の意識が薄く、まだ俺に非はないと思えた。


 だが、今は違う。

 これまでとは違って、自由意志がはっきりとした状態で誘われている。

 どうにかしてこれを跳ね除け、断らなければいけないのは明白だ。

 何せ俺には男同士でサカる趣味はなく、泡立った粘液と白濁に汚れながら指二本分ほども拡がって捲れ上がった陰唇が目立つグロテスクな尻穴に興奮する性癖などないのだから。

 そのはず、なのに。

 

「……おぉ、どうした?♡ 早く挿れろやザコ♡」


 虎はそう言って、待ちくたびれたように両手を頭の後ろで組む。

 そして、呆然としている俺の腋の下に足を挿し入れると、そのまま膝を曲げて俺を抱き寄せたのだった。

 背中に回した足先で抱くように急かしてくる虎の足癖の悪さに面喰らいながらも、まんまと体を寄せてしまった俺は眼下で無防備に腹を晒す虎から目が離せない。


 仰向けになるだけでなく腕を挙げているので胸筋は引っ張られて伸びているが、それでも平べったくなるどころかしっかりと山形に膨らんで存在感がある。

 むしろ腋を晒すように頭の後ろで手を組んでいるので、分厚い二の腕は元より、背中から回り込む厚みのある広背筋や腋の下をこんもりと肉付けする前鋸筋までもが覗いていて、惚れ惚れとしてしまった。

 鍛え抜かれて発達した筋肉が両腋の下から腰に向かうにつれ引き締まり、逆三角形……というより逆台形を描くボディラインは男性らしさの極致にあると言っても過言ではない。

 いったいどのような鍛錬を繰り返せばそんな体になるのかというのは見当もつかないが、もしかしたら股間でふてぶてしくふんぞり返る赤黒い巨砲と同じように、持って生まれた資質なのかもしれなかった。


「なんだァ?♡ やり方がわからねェってか、ったくこれだから童貞は……♡」

「どっ……」


 童貞じゃない! と言い返そうとして、実際女性との性交経験はなかったので、否定しきれなかった。

 虎は俺の抗議の声などどこ吹く風で、ぐっと首を起こして腕を股間に向けて伸ばす。大きな手で金玉を覆い隠し、太い手首の陰からぬらぬらと光を跳ね返して脈を打つ剛直が覗いた。


「腰突き出して、」

「うっ、わ」

「ココに、挿れるだけだっつの♡ 簡単だろ?♡」


 俺の胴体を挟んでいた虎の足が、踵で腰を押したのだとわかった。前につんのめる俺の眼下で、腰が密着するわずかな隙間に滑り込んだ虎の手指がくちゅくちゅと音を立てて秘所を弄っている。

 ぽっかりと開いた尻孔に難なく指を滑り込ませて出入りさせているのが音の原因だろう。ぶぴっ、と音を立てて白濁がヒクつく肉井戸から逆流すると、虎は「ぉお゛♡」なんて声を漏らしてそれを指の毛に絡めて更に奥へ突き込む。


「あ~あ、ケツ穴拡がっちまってザーメン溢れっちまうな♡♡ もったいねえ、早く栓しねぇと全部漏らしちまうぜ♡」


 そこは排泄器官だと言うのに、こってりと汚れた虎の指が盛り上がった陰唇を押し退けて進入する様子を目の当たりにして股間に熱を滾らせてしまう。


 今度は誰かのせいとかではない。

 自分の意志で、トロトロに濡れて拡がった柔肉でちんぽを扱いたらどれほど気持ちいいのかと囁く声があった。


「おほぉ♡♡ そうそう、その調子その調子……あぁ、イイぜ……♡」


 虎が熱っぽい声を上げる頃には、俺は膝立ちになったまま身を寄せて虎の尻穴に亀頭を押し付けるくらい密着していた。

 俺の腰がやる気に漲るのを察して、虎の手がスッと股間から退く。俺はというと、いざ突き入れようとしたもののうまく照準が定まらなくて、精液に濡れた尻毛や陰唇に亀頭をじゅりじゅりと擦るばかりだった。


「うっ……あ、あれ……?」

「ばァか、ココだココ♡」


 見かねた虎が、再び股の間に手を伸ばし、俺の一物を掴む。親指と人差し指と中指でつまむように俺の竿に手を添えると、充血して硬いままのそれを自らの入り口へ導いた。

 アレほど拡がって見えたのだから簡単に入ると思ったが、意外にうまくいかないものだなと反省もほどほどに、俺は両膝で地面を押して腰に力を入れる。


「い、挿れるぞ……っ」

「おう、来い来い♡ こっちはずーっと子種欲しさにケツマン濡らして待ってンだよ♡」


 収縮を繰り返してヒクつく陰唇にむちゅむちゅと亀頭を吸われると、裏筋や竿幹をすぐにでも扱きたくなる掻痒感にも似た欲求が肥大化するのを止められない。

 快感で病みつきになった俺はもはやこの行為に一切の疑問を抱けず、虎を犯すと腹に決めて腰を突き出した。


 今となっては、この虎の変容の原因や彼がどういう心境の変化でこのような振る舞いをしているのかなどと考える余裕はどこにもなく。

 彼を元に戻そう、救ってやろうなどという人助けの精神は遂に落ちぶれ、俺の中にあるのは復讐心にも似た劣情だった。


 そう、今となっては……俺はこの虎を、精神が呪われてもなお憎たらしい傍若無人な虎を女のように犯すことしか頭になかった。

 売り言葉に買い言葉。上に跨られている時に味わった表情、快楽、絶頂、それが全てで。

 あの時のような顔で喘がせてやりたい、あの時のような快楽で気持ちよくなりたい、あの時のような絶頂をもう一度味わいたい。

 鮮烈な初体験と共に思い知った性交の熱で茹った頭では、正常な思考などできやしない。


 あるいは、この虎が普段から殊勝な態度で、俺にとって誠実であったなら彼の助けになろうと性欲に飲まれることなく事態の収束を図ったかもしれないが。

 それこそ今となっては……もはやどうでもいいことだった。


「う、わ……っ」

「うっはぁ……ッ♡♡ すげ、硬ってぇの来たっ、ちんぽ来たぁ♡」


 腰と腰がぶつかる衝撃に尻と玉袋が揺れる。

 胎内を満たす膣肉は変わらぬ媚態に満ちていて、みっちりと閉じている肉壁をかき分けて進む俺のちんぽ一本分のスペースを都合よく空けてくれる魔性の肉壺だった。

 虎は片腕を変わらず頭の後ろで枕にしながら、俺のちんぽを導いた手で自分の腹筋を撫でていた。

 その手つきが腹の中を抉る異物を触診しているようで、俺はこの割れた腹の下に自分の性器を挿入しているんだなと退廃的な現実感を覚える。

 屈強な雄を女のように犯している背徳感、それは征服欲にも似て俺の雄の色濃い部分に訴えかけていた。


「ほれ動け動け♡ 腰の振り方まで面倒見てやれねェぞ、おちんちん気持ちよくなりたかったら一生懸命腰ヘコヘコさせてみやがれ♡♡」

「う、うるさい……っ!」

「っお、おぉ゛おッ♡♡ そうだッ、その調子だ♡♡」


 言われるまでもなく俺は腰に力を漲らせ、この悍ましい快楽に身を投じる。

 目に焼き付いた知識が、膝立ちになって挿入した俺の体に経験となって結びつく。

 このように体を動かせばいいはず、と雄の本能に支えられて、俺はぎこちなく腰を前後させる。


「ん゛んっ♡♡ くぅうう~♡♡ っへ、へへ♡♡ スジがいいじゃねえか、テメェのザコちんぽがっ腹の奥までぐんぐん来てるぜ♡♡ 遠慮すんな、どんどん来いッ♡♡♡」


 眼下で虎の太棍棒からぶびゅっと何かが噴き上がる。白く濁った粘液は虎の下腹部に着弾して、腹の毛に絡んでいた。

 俺はそれを他人事のように見守ることしかできない。

 ただ、快感だった。

 自分が欲するままに施されるような、虫に刺されて痒い所を搔きむしるような、そんな多幸感で脳が痺れた。

 ぬちゅぬちゅと摩擦を感じさせないほど潤った虎膣は、突き入れる俺のちんぽを押し出すように腸壁をいきませたり、かと思えば抜き去られるのを惜しんできゅっと締まって表情を変える。

 その全てが俺にとって気持ちよく、手で扱くのとは比べ物にならぬのは当然ながら、上に乗られて相手の裁量に委ねるより直接的に本能に訴えかけてくる何かがあった。


「っお、お゛っほぉ♡♡ が、ガッツきやがって、エロガキがよぉ♡♡♡ 野郎のケツがッそんなにイイのかよ♡♡♡」

「さ……誘ったのは、ヴァリーの方だろう……っ!」

「んっぎッ……♡♡♡ そ、その名で……よ、呼ぶんじゃねえッ♡♡」


 言い返された虎は、眉間に力を入れて俺を睨む。

 だが、息も絶え絶えな調子からは快感に堪えているようにしか見えず、俺は腰の勢いとともに増長する自分を止められない。


「どうっ……して、ダメなんだ。愛称……なんだろ?」

「だから、だ……っ♡♡ お前に呼ばれると、嬉しくてっおまんこが疼いちまうだろうがっ……♡♡」


 理解に苦しんだ。

 それはつまり、ダメではないということだろうか。だが、何故?

 愛称で呼ばれるだけで嬉しさを覚えてもらえるなら、今後もそう呼んで構わないということか?

 いや、むしろそれで喜ぶというのはいつからの話だ。最初から愛称で呼ぶことを許さなかったのなら、最初から嬉しく感じていたということか?


 おそらく正気ではない虎の言葉を真に受けても栓の無いことだったが、その言葉をぼんやりと呑み込めずにいる俺を他所に、虎はいつの間にか俺の背中に回していた腕にぐっと力を込める。


「うおっ……?!」


 パンパンとリズミカルにぶつけていた腰を止めて、倒れこむように地面に手を突いて前傾する俺を、腹直筋を張って身を起こした虎の体が受け止める。

 膝立ちになっていた俺を力ずくで引き倒すように抱き寄せた虎は、仰向けになりながら背中を曲げて首を起こし、俺の頬をべろりと舐めた。


「んん、しょっぺえな……それに、顔中ちんぽくせえでやんの♡♡」

「だ、誰のせいだと……!」

「はいはい、いいからとっとと口開けろや♡」


 自分の巨根を擦りつけた頬や鼻頭を遠慮なく舐めるので、俺は生臭い呼気に顔中が包まれた気分だった。

 どうして口を開ける必要があるのか、と疑問を抱く余地はなく、催促するようにべろべろと舐めてくる虎に従って口を開く。


「チッ、ニンゲンの口は平てえな……♡ 舌も出せ、おれさまとちゅーしてえだろ?♡ とっととしろやザコ♡」

「んがッ……!」


 半開きの口からでろんと舌を出す、はっきり言って滑稽な顔をしていることだろう。

 だが、虎は「よーしよし♡」と上機嫌に言うだけで、笑うようなことはなかった。

 割れた腹筋をさらにぼこぼこと強調させて、俺と同じように口を開けて長く肉厚な舌を垂らした虎は、躊躇いもせず舌腹同士を擦り合わせた。


「んん゛っ♡♡ はぁっ、ぇろっ……んん、ふ~ッ……♡♡」


 ぴちゃぴちゃと軽やかな水音が頭蓋の中で響き渡る。

 擦り合わせていた舌を互いに吸い、舌先で突き合うように絡め合わせた。

 男とキスしているんだぞと理解はしているものの、それがどういう意味で、なぜそれがダメなのかはよくわからない。

 ただ、至近距離にある一対の虎目に射竦められて、俺はその瞳が快しとばかりに細まるのを嬉しく感じた。


「ん、っちゅぅ♡♡ っじゅるる……っはあ、オイオイ休んでンじゃねェぞ♡♡ ピクつかせてねェでちゃんと腰振れ、エロガキ♡♡」


 窄めた口先で俺の舌を吸い、唾液を啜る虎が息継ぎの間に俺を責める。腰を押し進めて竿の根元まで沈めたっきりそのまま動きを止めていたちんぽにふわふわの虎肉が押し寄せていた。

 排するように押し出そうとする腸壁の動きは、しかし頑として動かないちんぽにとってはむちゅむちゅと柔肉を擦り付けて媚びる動きと相違ない。

 俺は好き勝手に舌と唾液を吸われたまま、虎に言われるがままに腰をぎこちなく前後させ始める。


「んぐっ♡♡♡ ちゅっ、んん゛っ♡♡ っふぇ、いいじゃねぇッ、か……ん、ふ~っ♡ っじゅ、ふぅっ♡♡」


 至近距離にある虎の顔が、その瞳がとろんと蕩ける。

 密着させたおとがいや体越しに、虎の筋肉が快楽に強張るのがわかる。

 そして何より、息がかかるほど近くで感じる虎の熱っぽい吐息は、間違いなく俺が上げさせているのだと自覚させるには十分すぎた。

 これには俺も腰に力が入ろうというものだった。


「んぐっ……!」

「んぎッ、~~~ッ♡♡ っぷあ、あッは、すっげ♡♡ 急に、ハリキリやがって、コイツぅ♡♡♡ んん゛~っ♡♡」


 前掲したままなので、思い切り腰を引くことは難しかった。代わりに、中途半端に竿を抜いて浅く抽挿を繰り返すことで奥を重点的に小突くことにしたのだが、それが気に入ったようだった。

 虎は背中に回していた腕で俺の頭をかき抱くと、俺の口に舌をねじ込んで歯列をなぞり、じゅるじゅると唾液を啜る。

 俺は口を開けて虎に顔を向けたまま、自分が喰われているような心地で下半身から去来する衝動のままに腰を振り続ける。


「ヴァリーっ……!」

「だから、呼ぶんじゃねえっての……!♡ ったく、しょうがねえやつだな……!♡♡」


 べろべろと顔中舐め回す勢いのそれは、もはや愛し合う者同士の接吻というより動物同士のじゃれあいに近かった。

 腰を振る運動に息の上がる俺は呼気を虎にぶつけ、互いに開きっぱなしになっている口と舌とを絡めあう。

 自分の体の境界線が曖昧になって一つに溶け合うような妙な連帯感をなぜか心地よく感じた。


「んん゛ッ♡♡♡ っはぁ~♡♡ いいぜッ奥にガンガン来やがるっ♡♡ っおぉ゛♡♡♡ おまんこの奥に響きやがる♡♡♡」


 腹筋を鋼のように固めて上体を中途半端に起こしていた虎が俺の唇をちゅっと吸う。

 それを最後に、持ち上げていた頭を力尽きたように地面に預けてその場に仰向けに寝る。

 首を支えていた筋肉の柱を緩めて、毛皮の敷物のようにその場に寝る虎の脇に手を突いていた俺は、後頭部に添えられた手に抱き寄せられて思わず前につんのめる。

 その力強さに抵抗するまでもなく、俺はばふんっと虎の上半身に倒れ込む。

 倒れた勢いで汗ばんだ胸毛に顔を擦ると、強い獣臭にも似た雄臭さが鼻腔に忍び込んだ。


「っお゛おぉお♡♡ たったまんねぇッ、雑魚ちんぽのくせにいいちんぽしてるじゃねえか♡♡ もっとガンガン突いてこい♡♡♡」


 虎は威勢のいい媚態を浮かべながら矛盾を孕んだ文句を口にするが、それを指摘する余裕はなかった。

 小刻みな抽挿を繰り返されている虎の後孔は、かき混ぜられた精液が泡立って互いの結合部をこってりと汚しており、俺がちんぽで突き込んで腰をぶつける度にぶちゅぐちゅと間抜けな水音を立てている。

 虎は掲げた両足で俺の胴体を緩く挟みながら、仰向けになった自分の体へ押し付けるように俺の後頭部と背中に腕を回す。


 こうなるともう俺達は二人の存在ではなく、一つになった新しい生き物のように思えて、体重を完全に虎の胸板へ預ける。

 両頬をちくちくと擦る毛皮の奥にたゆんとした柔らかい肉質を感じて、頬ずりするように顔を押し付けた。


「ん゛ッ……♡♡ へ、へへっなんだなんだガキみてえに甘えてきやがって♡♡♡」


 揺れる乳肉を顔の両側に感じるのは、俺の顔がちょうど虎の谷間に収まっていたからだ。

 仰向けになってなおふっくらと張っている大胸筋は、虎が腕を前に出して俺を抱きしめたことで寄せて上げられ、こんもりとして明確な双丘を描いている。

 張りのある肉感はただ柔らかいだけでなく、むっちりとした肉の奥に確かな筋肉の鼓動を感じるほど逞しい。

 押せばどこまでも沈んでいきそうな柔らかさと、しっかりと押し返す弾力の塩梅が丁度よく、俺は突き出るように膨らむ乳房の感触を頬で確かめた。

 ふさふさとした毛皮の汗臭さを吸えば喫うほど脳の奥が痺れるような心地がある。

 そもそもこの男臭さが不快だということも忘れてしまうほど、俺は夢中になって鼻を使う。


「すっかり夢中だなァおい♡♡ ガキならガキらしく、そのままおれさまのおっぱいでも吸ってな♡♡」


 虎の手が俺の後頭部と顎下に添えられる。一瞬捩じ切られるのではと思ったが、逞しい手に導かれるままに俺の顔は虎の大胸筋を探る。

 やがて唇にぷっくりと膨らんだ果実が触れると、俺はそれを躊躇せず口に含んだ。


「んぉお♡♡ む、むしゃぶりつきやがってぇこのエロガキ♡♡♡」


 虎の豊満な上半身がびくりと強張って、大胸筋が一瞬だけ鋼のように硬くなるのがわかった。

 密着している肌と毛皮越しに虎の動揺が伝わるのが無性に嬉しくて、前に倒れ込んで体重を預けたままヘコヘコと腰を振り続ける。

 竿の中ほどから先端を扱くような短めのストロークが、虎の膣内をかき混ぜる音を立てる。

 ばちゅんぐちゅんと粘っこい音が下半身から響くのを感じながら、唇に捉えた肉芽を舌で突き、赤子のように吸啜した。


「ぉ゛ッぉおほぉお♡♡♡ ちっちくび吸われンのやっべえ♡♡♡ 女みてぇにおっぱい吸われてっおまんこ疼いちまうっ♡♡♡ マンコにっガキほしくなっちまううぅぅ♡♡」


 蕩けた淫肉が俺のちんぽをきゅうきゅう締め付けてくる。

 狭まった筋肉のリングを無理やりちんぽでこじ開けて出入りするような心地よい窮屈さを感じて、性器の表面にビキビキと血管が浮き立つのがわかった。


 唇で獣毛を濡らし、舌でぷっくりとした乳頭を突くと男臭い塩味を感じる。

 垢と汗の味だと知っていながら、ツンと立った乳首にむしゃぶりつく口が止まらない。

 俺が赤子だとしてもここまで熱心に乳を吸うことはないだろうと確信できるほど、俺は確かな劣情を持って、窄めたおとがいで虎の大胸筋を歪め続けた。


「んん、っちゅ、じゅるっ……っはあ、ヴァリーっ、ヴァリー……!」

「っぐぅ♡♡♡ っぐるる♡♡ うっるせぇ♡♡♡ その名でッ呼ぶんじゃねえ♡♡ もっと呼べっ♡♡ あ゛ぁっ、くそっくそぉっ♡♡♡」


 背中に回された太腕に力が入って、俺の体はより強く虎と密着する。

 押し付けあう体同士がそのまま一つに接着されるのではないかという密着感に言いようのない安心感を覚えた。

 その間もじっくりと確かめるように腰を前後させ続ける。

 ちんぽを引き抜くとうねる腸壁が裏筋をぬらぬらと舐めるのが気持ちよくて、俺はたまらず組み敷いた虎の胴に抱き着く。

 両腕が回りきらないほど逞しい体は、俺がちんぽを突き入れるたびに、あるいは俺が乳首をべろりと舐めるたびに小さく跳ねて反応を返していた。


「ん゛っぉおぉ♡♡♡ っぉ、やべっイっちまいそうだあ♡♡ ちくび舐められながらっちんぽハメられてぇイっちまうぅう♡♡♡」


 虎の体が快感に跳ねるように、覆いかぶさった俺の体に挟まれて隠れた虎の一物がびくびくとわななくのが肌越しに伝わる。

 胸や膣だけでなく、こっちも気にしてくれと言わんばかりに熱を持って硬くそそり立つ虎棒がわなないて俺の腹を押しのけてくるのがわかった。

 存在感のある虎の剛直と擦れ合う腹がぬちゃぬちゃと濡れているのはつまりそういうことなのだろう。虎を喘がせることに男性的な喜びを見出した俺はすっかりその味の虜になって、虎の体を押しつぶすように体重を預けながらちゅぱちゅぱと乳首を吸って腰を振り続ける。


「おっぉお゛♡♡ イぐっイっちまう♡♡ い、いいのかっ?♡♡ ホントにっイっちまうぞ♡♡♡♡」


 こちらを気にするようなことを口にしながら、虎の両腕は元より両脚ですら俺の胴体をがっちりとホールドして離す素振りはない。

 言動が一致していない虎に伝わるかは不明だが、俺はコリコリと勃起したもう片方の乳首を口にしながらコクコクと頷いて虎を犯し続ける。

 口を放してフリーになった乳頭が唾液で濡れているのをいいことに、指先に捉えたそれを回すように弄ると虎の体が魚のように跳ねて面白かった。

 俺に抱き着く腕に力が入ると胸板には一層深い谷ができて、ムッと饐えた汗臭さが強く香った。


「やべっやべぇ゛えぇ♡♡ イぐっ♡♡♡ 出ちまうっ男に犯されてケツでイっちまうぅうん゛っ♡♡♡♡」

「っぐ……お、押し出される……っ!♡」


 虎の腿や下腹部が力強さに漲ると、挿入されている俺のちんぽを押し返すように腸壁が迫り上げる。

 排出しようと外へ押す動きに逆らってちんぽを無理やり押し込むと、竿の全体を締めつける柔肉に竿のあちこちが擦れ合ってたまらなかった。

 ツンと充血して勃ち上がった乳首を口の中で甘く噛みながら、俺は虎を情けなく鳴かせる愉しさに夢中になって腰を振り続ける。


「っあ、あっあ゛あ~~~ッ♡♡♡♡ イぐっイくイくイくぅぅうんん゛っ♡♡♡ しょんべんっ出ちまうぅうう♡♡♡♡」

「ふぐっ……!♡」


 虎は喉元を晒すように仰け反って、俺の頭をがばっとかき抱いて自分の胸に押し付ける。

 ものすごい腕の力で顔や体を虎の全身に押し付けられて潰されそうになりながら、俺はこの虎をそこまで余裕なく喘がせていることに誇りにも似た喜びを覚えていた。

 すると、密着した体の下で、別の生き物のように脈動する虎の一物から何かが溢れて俺の体を汚すのがわかった。

 暖かく、多量の液体が互いの体を汚し、虎の脇腹を伝って流れ落ちていく。

 それが精液であるのか、それともただの尿なのか、はたまた何か別の体液なのかというのは、もはやどうでもいいことだった。


「っぐぅ、すごい、締まる……っ俺も、もう我慢の限界だ……!♡」

「んん゛っぐぅぅうるるるる~~~♡♡♡ っふあ、出せぇ♡♡♡ おれしゃまの中にザーメンだしちまえ♡♡♡ ケツマンでっお前のザーメン浴びてもっとイかせてくれぇ♡♡♡」


 知性のある生物の生殖行動とは言い難かった。

 体をこすりつけあう蛞蝓のように互いを求めあい、体を押し付けあう姿はもっと原始的な欲求に基づいている気がする。

 それでも今はこの激情に身を委ねるのがたまらなく心地よかった。


 俺はスパートをかけて腰の動きを加速させる。

 排尿するように下半身をいきませた虎の膣内は、柔らかい腸壁が膨れ上がって存在感を増しており、その肉をちんぽでかき分けて隙間を進むのがたまらなく気持ちいい。

 液状化した肉が詰まっているのかと思ってしまいそうになる肉壺でむちゅむちゅと性器を摩擦させるのは、手で扱くのとは比べ物にならない快感を与えてくれる。


 思わず知能が低下するのもやむなしという快楽に俺は抗えず、虎の分厚い体に縋りつくように抱き着く。

 男同士なのに、憎たらしい虎相手なのに、彼には何かしらの異常が起きているのに。

 原始的な欲求のままに虎の体に体重を預け、汗臭い体に全身を擦り付けるのは、心の隙間を埋めてくれるような心地よさがあった。


「ぉ゛っお゛ッおぉ゛おおおっ♡♡♡ すっげ、すっげぇ♡♡♡♡ テメェのちんぽがっおれさまのケツにズボズボ入ってりゅぅ♡♡ まんこ肉引っ張り出されちまうっ♡♡♡ ケツ穴拡がっちまうよぉ♡♡♡」


 ぐちょぐちょと濡れた体が摩擦に音を立てるのは、何も結合部だけではない。

 虎の一物は今もじょろじょろと潮を吹き続けて互いの体を汚しているので、今となっては濡れた腹毛と俺の体が擦れ合っていた。

 着たままのシャツが濡れて汚れるのも、それがまさか小便によって汚されているということも、今ではどうでもよかった。


「っぐ……! も、もう……出るぞっ……!♡」

「ぉお♡♡♡ 出せっ♡♡ おれのケツでイっちまえぇ♡♡♡ テメェの種でおれさまの子宮ン中いっぱいにしてくれ♡♡♡ 外に溢したらっブッ殺すからにゃぁ♡♡」


 物騒な文句を媚態としか捉えていない俺は、言われるまでもないと腰に拍車をかける。

 虎の体に抱き着いて上半身を完全に預けながら、腰の動きだけに注力する。

 狭まった肉筒を竿の全体で感じれるような長めのストロークで、思い切り引いた腰を突いては引いてを繰り返す。

 一突き一突きを繰り返すリズムはけして早いものではなかったが、刻み込むように力強く、そして確かな腰遣いだった。


「っはあ、イくっ、出る……っ!♡」


 思考に靄がかかって、頭の中が射精でいっぱいになる。

 腰の奥がむずむずする感覚に耐えて腰を振っていた俺は、最奥まで突き入れた瞬間、ついに上り詰めたのを感じて全身が強張った。

 溜め込んでいた尿をようやく排するときにも似た解放感で腰が勝手に突き出て、ぐいぐいと虎の膣奥に亀頭を押し付けたまま、絶頂が弾けた。


「ぉッおぉお゛ほぉおおお~~~ッ♡♡♡ き、キたぁ♡♡♡ ざ、じゃーめん来てるっすっげ、しゅっげえぇ熱っちぃいいっぃ゛♡♡♡♡」


 虎は俺の胴体を四肢の全てでキツいくらいに抱きしめながら、膣肉をヒクつかせて射精を歓迎する。

 跳ね上がりながら脈を打つ俺のちんぽを緩く扱くように淫肉を絡ませて、根元から搾り取るように括約筋を締め付けてくる。

 俺は膝を突く下半身が震えて、金玉から直接精液を汲み上げているような気分で大量に吐精する絶頂感に酔いしれていた。


「はっ、はあっ、くぅうっ……!!♡」


 びゅるびゅると精液が迸って止まらない。尿道を勢いよく擦りながら放たれていく感覚に腰が震えて、絶頂に流されそうになった俺は縋るように虎を抱きしめ返した。

 虎の膣内は確かに一発目の精液が残っていて、そこに更に子種を継ぎ足したのでもちんぽでわかるほどの粘液に満たされていた。


「ぉっおぉおお゛♡♡ すげっまだ出てるっぅ♡♡♡♡ マジでっまんこン中いっぱいになっちまうっ、男なのにっ、オスなのに中出しされてっガキできちまうぅぅぉ♡♡♡」


 スライムとの間にできないように、男同士で子供ができるはずもない。

 だが、この時ばかりは出来てしまえと願ってしまう自分がいて、少し驚いた。

 視界に結ぶ像を、縞々の毛並みに包まれた体を正しく認識できるようになってくるころ、俺は深く呼吸を繰り返してゆっくりと上体を起こす。

 まだこめかみがずきずきと痛む。尿道からは勢いを失った精子がまだだらだらと溢れているのを感じる。

 俺はそのまま離れようとして、虎の脚がそれを許してくれそうにないことに気づいた。


「……離すつもりは、なさそうだな」

「あぁ?♡♡ ダメに決まってンだろ♡♡♡ おれがしっかり着床するまで挿れたままだ♡♡」


 俺の腰をカニ挟みする脚を指して言うと、虎はまだ快楽に蕩けた顔で宣う。

 性行為は確かに気持ちいいが、いつまでもこれを続けているわけにはいかない。

 体と頭を満たしていた熱を虎の胎内に放つと、いくらか射精で冷えていく。

 棚上げしていた問題と、いよいよ向き合う時が来た。


 虎の腹はべったりと濡れていて、その雫は膝をつくテント布どころかお互いのシャツまでびしゃびしゃに汚していた。

 しかし透き通って見える体液からは予想していたよりも汚い印象はなく、特に不快なにおいがすることもなかった。

 ただ、俺の体に伝わるほこほことした熱が生々しくて、何とも言えない気分になったが、ともかく。


「それに、お前のちんぽもまだまだこれからって言ってるぜ♡♡ 我慢すンなよ、もっと気持ちいいことしようぜ♡♡♡ なあ♡♡」


 虎の膣肉がうねって、射精したばかりの俺のちんぽを揉むように締め付けてくる。

 ずるずると滑る粘膜は露に濡れて、性器を擦るのにぴったりの柔らかさだ。

 この数時間ですっかり病みつきになった快楽に絆されそうになる下半身を、調伏するのは苦労した。


「だ……ダメだっ、もう、終わりだ! ……今日は!」

「え~♡」


 男同士でこんなこと、二度とごめんだとは言えなかった。

 俺の妥協と譲歩を目ざとく感じ取った虎は、両足の拘束を緩める。


「んじゃ続きはまた今度か?♡ 俺は構わねェけど、お前はほんとにそれでイイのかな~?♡♡」


 腰を引いて離れようとする俺を虎は引き止めず、仰向けになって股を開いたままにやにやと見つめるばかりだった。

 ちんぽを引き抜く俺を手伝っているつもりなのか、虎の膣肉がぬっと迫り出して異物を排そうといきんでくる。


 質量を増して外に捲れ上がる腸壁に逆らい、性器を押し込みたくなる欲求をぐっと堪えて、押し出されるままにちんぽを抜いた。

 ぬちゅっ、と糸を引く粘液にまみれたちんぽが粘っこい音を立てて、泡立った粘液に汚れてすっかり口の開いた肉井戸がヒクヒクと惜しむように開閉を繰り返す。


「次におれさまがおまんこさせてやるのはいつになるか、わかンねェぞ?♡ 今日キンタマ空っぽになるまで中出ししなかったことを後悔しても知らねえぜ?♡♡」


 虎はそう言いながら、自分の両脚を抱えてカエルのようにひっくり返ったまま自分の股座に手を伸ばす。

 中途半端に鎌首をもたげている潮と半透明の粘液まみれの竿を無視して、ドーナツ状に陰唇が捲れ上がった尻孔に触れると、二本指でわざとらしく音を立てて弄り始めた。


「ほぉら♡♡ すっげえ拡がってンぜ、お前のちんぽくらいならすっぽり入っちまうだろうな♡♡」


 口を窄めた肉壺からぶぴっと間抜けな音を立てて粘液が弾ける。

 泡立った体液とは違い、粘つきながらも卵の白身のように流動的な白濁を壺口から逆流させた虎は、指にそれを絡めると躊躇いもせず自分の口に運んだ。


「んはぁ♡♡♡ ざーめんくっせ♡♡ 相当溜まってたなぁこりゃ♡♡♡ ここんとこちっとも抜いてなかったんだろ、まったく真面目なこって♡♡」

「か……関係ないだろっ、お前には」

「あ~そうかもなぁ♡♡ でも、それならまだまだ出したりねえンじゃねえのか?♡♡ ほんとにこれ以上使わなくていいのか?♡ おれさまの極上おまんこ♡♡」


 ねちゃねちゃと子種を咀嚼しながら、イカ臭い息でのたまう虎に俺は即答できずにいる。

 後ろ髪を引かれるのは、俺自身その快楽を忘れがたく思っているからだ。

 そんなもの必要ない、と撥ねつけるほど心を強く持てない俺は、段々と虎の言い分に心が傾いているのを自覚していた。


 確かに、都までの旅路はまだ長い。

 探索も無事終えたことだし、今日一日くらい休息に充ててもう一発くらい、と俺の下半身が意を固める。

 むちゃぬちゃと次々逆流する精液を指にまとわせて虎が自らの後孔をほじるので、辺り一面に強い生臭さが漂っていた。

 虎の体臭と混ざって、噎せ返るような饐えた雄の臭いは鼻の奥にこびりつく。


 俺は自分がここまで淫奔な人間だと思わなかった。

 自分に対して辛辣に考えるものの、甘やかで退廃的な誘いを拒絶できるほど心が強くない。

 そんな俺が、虎の尻を撫でようとした手を止めたのは、酒樽みたいな臀部の下、泡立って逆流した粘液で汚れた谷間の下敷きになってにょろりと伸びた尻尾に目が行ったからだ。


「……ヴァレリ、その……」

「ほらほらっ、早くハメてくれよぉ♡♡ おまんこにザーメンびゅるびゅる出して気持ちよくなりてえだろ?♡♡ 次はイヌみてえに四つん這いでヤるか?♡♡」

「……これは、どこで手に入れたものだ?」


 そして、ようやく気付いた。

 粘ついた泡液で汚れた虎の尻尾の付け根に、尻と腰の毛に埋もれて光る金の輪があることに。

 どうして今まで気付かなかったのか、いや、なぜ今になって気づいたのか。

 粘ついた体液で虎の尻と尻尾の毛が濡れて張り付いたことで、埋もれていたそれが浮かび上がってきたからだろう。

 虎がかねてから身に着けているものだという可能性もあったが、俺は半ば確信を得ていた。

 これは間違いなく、この虎の異変に関係する品だと直感していた。


「ん?♡ あー、あそこの遺跡でよぉ、泉の中に沈んでたからもらってきたやつだな♡♡」

「お前、だからそういうのは俺に……っ! いや、いい、それよりいつごろコイツを身に着けたか思い出せるか? 探索に来て何日目だとか、覚えてるか?!」

「おぉ、当たり前だろ♡♡ つい最近だからなぁ、遺跡を発つ直前だったかな?♡ 荷物の整理してたら思い出してなぁ、腕にはつきそうもねえから尻尾に通しておいたっつぅだけだ♡♡」


 遺跡を出る直前といえば、虎の様子がおかしくなった頃合いと合致する。

 間違いない。より強固な確信を得た俺は、これが彼の変容の原因だと結論付けた。

 どうして言わなかったのだと彼を責めそうになるが、およそ正気でないものを謗っても仕方がない。

 これが原因とすれば、どうにかして外すことで彼を元に戻すことができるだろう。

 俺はひとまず、友好的な関係ではなかったとはいえ呪われてしまった仕事仲間を助ける目途が立ったことに安堵の溜息を漏らす。


「な、ンなことより早くぅ♡♡ なんならこの輪っかにキンタマごとちんぽ通してバッキバキにしてやろうか?♡♡ 乳首だけじゃなくておれさまのちんぽも好きにいじめていいぜ♡♡ な、いいだろ♡♡♡」


 ただ、元に戻った彼がすっかり変わり果てたこの言動を覚えてないことを祈るばかりであると共に。

 どういうわけか魅力的に思えてしょうがないその申し出を、断る勇気が俺に備わっていることを願うばかりである。



 ◆◇



 結局、虎の身に起きた異変は尻尾の付け根まできっちりと嵌め込んだ腕輪を取り去ることで元通りになり、特に後遺症も残ることなく無事に仕事を果たし都へ帰りましたとさ。

 めでたしめでたし。


 ……そうであったならどんなに良かったか。現実は、そう都合よくできてはいないようだった。


「な……ンでだ、どうしてだよぉ♡ 取ったのに、戻んねえじゃねえか♡♡」


 精神に働きかけ、他者を操る魔法を呪いと呼ぶのは、魔法の心得がないものから見たらそれはオカルト的な事象として映るからだ。

 だが、それは本質とは異なっている。

 悪魔が憑いてしまった、呪われてしまったと言われる症状の多くは、単なる脳機能の障害だったり体内エーテルの乱れが主な原因だったりするからだ。


 つまり、超自然的な現象は存在しなく、全てに原因と結果のロジックが存在する。

 学者の端くれとして、オカルティズムの前に屈するわけにはいかないのだ。

 だから、腕輪を尻尾から外した虎が自我を取り戻しつつも情動に戸惑いを覚えている様子に、彼の身に何が起きているのかを推測することは容易かった。


「後遺症……だな。精神汚染が進んだ結果、とも言える」

「あ、あぁ……?♡ 原因はソイツだろ、なんで取っ払ったのに俺はまだ『こんな気分』になってンだよぉ♡♡ どうなってんだぁ♡」


 彼なりに嘆いているのだろうが、四つん這いになって胡坐をかく俺の股間に全裸で尻を振って頬ずりしている姿は何というか煽情的な媚態に満ちている。

 もっとも、自意識だけがハッキリと戻っているのに身のほてりがそのままというのも耐え難い地獄だろう、彼のプライドを尊重して俺は目に見えて発情している虎を笑うことはしなかった。


「見たところ……このアーティファクトは、誰かが身に着けることで起動し、刻まれた術式を装備者の体内エーテルに刻み込む……いや、焼き付けるというほうが正しいか?」

「つっ、つまりどういうことだよ……♡」

「版画印刷を知ってるか? 版木がこの腕輪、墨は魔力、そしてお前は印刷紙になったというわけだ」


 腕輪の内側に刻まれた術式を眺める俺にそう告げられて、「そんにゃあ♡」と虎は俺のちんぽをぺろぺろと舐りながら嘆く。

 正直集中を削がれるのでやめていただきたいが「テメェが出しっぱなしにしてンのが悪ィんだろぉが♡♡ 責任とれやぁ♡」と泣きそうな声と甘ったるい目で恫喝されたのでそのままにさせておいた。


 あれだけ嫌っていた相手の体と性器に発情してしまうのを止められないというのは彼にとって屈辱だろうが、そんなことに同情しても仕方がない。

 今は一刻も早く、この腕輪を解析して彼の症状を治療する必要がある。

 でないと、俺はどんどんこの虎を淫らな目で見てしまいそうだったからだ。


「そ、それでぇ……おれはっ、俺は元に戻るんだよなぁ?♡♡」


 縋るように雌伏しながら虎が言うが、無責任な返答はできなくて、俺は黙っている。

 元に戻る、と言えたのならどれほどいいことか。俺は夜の闇の中でまだ淡く光を発している手元の腕輪を検めながら、慎重に所信を述べる。


「……正直な話、わかりかねる。この手の精神汚染は紙に版を押すようなものと言ったが、押された側がどうなるのかは、人の心がどう変化するのかは未知数すぎるんだ」


 人間には恒常性というものが備わっている。

 体が適度な体温を保つように、折れた骨が元通りくっつくように、決められた形に戻ろうとする体の働き方をそう呼んだものだ。

 これに従えば、変容した精神は今虎が自我を取り戻したように、日が経つにつれ落ち着いていく可能性がある。

 下半身の発情も、亢進した生殖欲も灰汁が抜けるように消えていくかもしれない。

 だが、元に戻るべき形まで歪められてしまっていた場合、この虎は一生このまま色情魔として生きていかなければならない。

 それも、心と体が乖離した状態のまま。


 故に、予断ならぬ状況であると言える。何もしなくとも元通りになる、という可能性もあるが、それが希望的観測でしかないことは否定しきれない。

 ここで初期対応を誤れば、この虎の今後の人生を左右することになる。

 発端となる遺跡探索を依頼した者として、そして何より魔術師の端くれとして、このまま見過ごすつもりはなかった。


「な、なんだよそれぇ♡♡ な、なんとか、んぶっ♡ じゅるっ♡♡ っぷあ、ならねえのかよぉ♡♡♡ ちんぽぉ♡♡」


 気が散る、けどしゃぶらせている間は大人しくしてくれているのも事実だ。

 膂力に物を言わせ、無理やり押し倒されては腕輪の解析どころではない。

 彼とて無理やり跨りたいのを必死に堪えているはず。

 それを思えばこそ、淡く発光する細かな刻印を調べる手にも力が入ろうというものだった。


「……刻まれているのは、服従……いや、隷属の文字か? 身に着けたものの魔力を識別して、対象に従うように作用する……というところか、あの時代にこんなレベルの代物があるとはな……」

「感心してンじゃねェ♡♡ んぶっ♡ ちゅっ♡♡」

「う、うるさい! こうでもしないと、集中できないんだ!」


 わざとらしく声に出しているのは、魔法を唱える際に集中力を高めるべく詠唱をするのと同じ理論だ。

 そうでもしないと、ちんぽをねっとりと包んで鈴口に吸い付く粘膜を意識してしまって、何も手につかなくなりそうだったのだ。


「……待て。これが光っているのは、何故だ? ヴァリー、これはずっとこの状態だったか?」

「んぶっ♡ 知らねェよぉ、俺が見つけたときはっ光ってなかったンじゃねえか♡♡」


 そういえば尻尾から取り去るまで光っていた様子はなかったし、そのせいで発見が遅れたのだ。

 あの時俺が性欲に流されずもっと目を凝らしてれば早期に発見できたのかもしれないが、過ぎたことを考えてもしょうがない。

 首を振って、俺は虎に言う。


「ヴァレリ、ちょっと……尻尾をこっちに向けてくれるか、尻ごと」

「えっ、は、ハメてくれンのか?♡♡」


 違う、と断じながら、彼の重症っぷりに同情する。虎は口からちゅぽんっと俺のちんぽを離して、いそいそと四つん這いになってこちらに尻を向ける。


「い、いつでもいいぜ♡♡ いくらでもハメてお前のザーメン便所にしていいからな……っあ♡ ち、違うっ、いいから早く治してくれっ、お前がどうしてもっていうなら、俺のおまんこ好きに使ってくれ!♡♡」


 なまじ中途半端に自我を取り戻しているだけに、虎のセリフからは理性と劣情とがせめぎ合っているのが伝わる。

 もはや痛ましいくらいだが、むっちりとした巨尻の間でイカ臭く泡立って濡れながらヒクつく陰唇はどうしたって悩ましい。

 俺はうっかり手が伸びそうになるのを堪えて、虎の尻尾の付け根、腕輪の幅だけ毛並みがへたれた箇所に目をやる。


「……もしかして」

「な、なんだよぉ♡♡ そんなにジロジロ見ンじゃねえ、おまんこヒクついちまうだろうが♡♡」


 確かに傍から見れば虎の尻孔をまじまじと見つめる変態だが、そんなことを恥じている暇はなかった。

 頭の中で仮説が組み上がる。アーティファクトによる症例を何度も見てきた学者としての矜持が、間違いないと告げている。


 俺は彼と友人になりたかったわけではないはずだ。

 信頼してもらいたかった、というわけでもない。

 ただ、俺が彼をプロだと認めるように、彼にも俺をプロだと認めてもらいたかった。


「……ヴァレリ、先に謝っておく。もし治らなかったら……俺が責任を取る」

「えっ……は、な、なんだよぉ急に♡♡ それより、ちんぽ挿れてくれよぉ♡」


「あぁ」俺は虎の尻を前に深く深呼吸して、ここ数日何度も読み込んだ術式を頭の中で復唱する。

 このままでもいいか、なんて思ったがそれはとんでもない間違いだった。

 プロを名乗るなら、これは俺がやらねばならないことだ。

 使命や偽善などではない。プロならば、魔術に携わる者としての矜持にかけても彼を元に戻さねばならない。


「うまくいかなかったら、な」


 そして、今がその時だった。



 ◇◆



 結論から言えば、今度こそ虎の身に降りかかった呪いは解けた。

 とはいえその全てを解呪したわけではなく、まだまだ予後に注意する必要があるが、ひとまず精神汚染の進行は食い止めたはずだった。


 虎が身に着けた腕輪は、身につけた者の魔力に反応して、性的興奮や生殖欲を脈拍レベルで亢進させるほか、他人に隷属したり服従するように精神構造を作り変えるものと見て間違いないだろう。

 それだけでも昨今の奴隷市場に出回っている質の悪い隷属化呪術のルーツと言える貴重さだが、この遺物が優れているのは取り外しても遠隔で効果を発揮することにあった。


 虎の尻尾は毛並みを押さえつけられた痕だけでなく、腕輪に宿る魔力と同じものが色濃く残っていた。

 同期した魔力回路同士で交信する念話の呪文のように、離れていても対象の精神を緩やかに書き換えて交信することができるのでは、と閃いてからは、対応するのは簡単だった。


 まず、虎の尻尾と腕輪の接続を断ち切った。

 しかしそれは目に見えない水の流れを断つようなもので、以前までの俺ならばその方法は皆目見当もつかなかっただろう。

 だが、探索中に見つけた書物に残されていた『光逸らし』の理論が助けとなった。


 腕輪と虎の体の間を行き交う魔力を、素通りするように遮断する。

 金属の球の表面を水が滑るように、腕輪に注がれる魔力を誤認させることで何とかなった。

 術をかけ終えてからしばらくして、腕輪の発光が止まったのでおそらく見立て通りだろう。


 となると、あとは虎の体に残った呪いの作用だ。

 正直これに関しては、地道な治療を要した。

 発光と動作を止めた腕輪に刻まれた術式を一から読み取って、その反対呪文を構築して一つずつ虎にかけてやる必要があったからだ。


 自制心の低下や脈拍の亢進、精力や性的欲求の増進など現代でも売春宿で使われていそうなチャームはともかく、隷属や服従にも似た洗脳操作レベルの術式は複雑で、旅の道中で解析して治療するには至らなかったが、身体に影響を及ぼすものについては読み取れるだけ読み取って治療を試みたが、ともかく。


 困難を極めたが、都に近づくにつれ発情しきりだった虎の様子も、徐々に憎まれ口を叩く素面でいられる時間が長くなり、ついに一晩何事もなく夜を明かせたときは達成感から拳を握りしめたものだった。

 虎も思考を苛む熱が引いたことに最初は戸惑っていたようだが、「元はと言えばテメェが元凶だろうが」「いい気になんじゃねえぞボケ」と俺の頭を懐かしい憎まれ口で小突いてきたときは思わず喜んでしまった。

 その後に、小さく「悪かったな、色々」と呟かれた感動は今も忘れられない。


 色々と目も当てられない、人には到底言えないことをしていたが、それでも今度こそ俺達は冒険の終わりに心を通じ合わせて大団円を迎えることができたのだと。


 俺がそう思えたのは、いつものように不機嫌そうな仏頂面をした虎と一緒にクエストの終了を報告しにギルドの入り口を潜るまでだった。



 ◇◆



「オイクソガキ! いねェのか!!」


 今回の探索の結果とその功績を称された俺は、国の魔術師組合にこれまでの活動と治療を評価されて街中に小さな事務所を持つことを許された。

 表向きは太古から伝わる魔術について追い求める研究室だが、同じ時代の遺物から呪いと言われる魔術の影響を受けた人々やその症例についての治療と研究を行う診療所としても運用していくつもりだ。

 というのも、俺が習得した『光逸らし』の理論はアーティファクトによる影響を断ち切ることに使えると確信したからだ。

 身に着けたアーティファクトが体に流れる魔力に反応しないよう、その流れを逸らし無効化する。これにより、安全に着脱できるようになるばかりか、魔力を感じ取り人に影響を及ぼすアーティファクトの取り扱いも安定することだろう。

 上層部の判断がどうなるか不明だが、俺の持ち帰った魔術書の解読が進めばこの理論も一般化するだろう。

 それまでは第一人者として、そしてプロとして人々のためにこの力を使うつもりった。

 その傍らで太古のロマンや歴史を追い求めるくらいは許されるだろうか、ともかく。


 この間の探索の結果や、他人にはガラクタにしか見えない歴史的価値の高い古物を所狭しと並べて、レイアウトどころかまともに整頓も手についていない事務所の扉を乱暴に蹴り開けるその姿に、俺も声を荒げる。


「だから、俺はもう二十四だ! ガキじゃない!」

「十分ガキだろうが、タコが」


 肩紐に繋いだ剣を肩にかけながら、新調したらしい衣服に身を包んだ虎がずかずかと俺の事務所に立ち入る。

 切り込みの入った耳をぴくつかせた虎は、赴任したばかりでまるで片付いていない室内を睥睨する。


「まったく……一体どうしたんだヴァリー。そっちから来るなんて、珍しいな」


 俺は室内の机にかけたまま、今朝届いたばかりの手紙を手に取る。見知った印の封蝋を解き、文面を斜め読みしながら応える。


「どうしたもクソもあるか。テメェこそ浮かれやがってよォ、いい部屋がもらえて満足か? よっぽど昇進が嬉しいと見えるな」

「そう見えるならお前の見る目もたかが知れてるな、ちょうどこの間の遺物の調査結果が届いたところだ」


 手紙はこの間の腕輪を鑑定してもらっている友人からのもので、俺とは違う見解がいくらか述べてあった。

 俺がその長い走り書きを読み込んでいると、どかっと机に揺れた。


「そうか、んじゃ治療方法もわかったンだろ? 今度こそ俺の体は治るんだろうな?」

「ま、待て待て。ちょうど手紙を開けたばかりなんだ、お前の気持ちもわかるが無茶言うな」

「気持ちもわかる、だとォ?」


 事務所の窓際にある俺の机まで無遠慮に歩み寄ってきた虎は、その肉厚な尻でどっしりと机に腰掛けながら俺を見下ろす。

 それで、前のめりに俺を睨みつけて唸る。


「こンな体にした俺を好き勝手犯しといて、テメェに俺様の気持ちがわかるってか? 責任取るっつったのは噓だったのか? あァ?」


 それを言われると苦しい俺は、元はといえばお前が腕輪を隠すから、とかお前がエロい体で誘うから、とかそういうことを口でもごもごと反論するしかなくて。

 すっかり聞き慣れた憎まれ口を叩くようになったヴァレリは、何もかもが元通り……というわけではなかった。



 というのも、無事に街へ帰還してギルドに戻ってきたときのことだ。

 任務の完了と帰還を報告し、精算しようという俺達の意見は合致し、二人で冒険者ギルドの扉を潜る。

 そして窓口に立ち、見知った受付に声をかけた……まではよかった。


『えぇと、それでは……任務は完了、ということでよろしいでしょうか』

『あ、あぁ……大丈夫、のはずだ……』


 俺と受付の声がぎこちないのはそれもそのはず、俺の隣にはムスッとした顔で威圧感のある髭の大虎が不機嫌そうに立っている……こともなく、むしろべったりと俺の腕を組んで肩に頬を寄せて喉を鳴らしていたからだ。


『おぉ♡ もう報告も終わりでイイだろ♡♡ なっ♡ ちょっと休憩しに行こうぜ♡♡ 長旅でお互い疲れちまったしな、いいだろちょっとくらい♡♡ きゅーけーしようぜっ♡♡』


 そこが公衆の面前であるというのに、虎はまるで上客に擦り寄る遊女のようにしなを作って俺に覆いかぶさってくる。

 ぐるぐると喉を鳴らし、その短いマズルで長い間洗ってもいない俺の髪やうなじを擽っては頬ずりするのを、受付係はおろかギルド内の冒険者は信じられないものを見る目で見ていた。


『あの……ヴァリーさんに、何が……?』

『あぁ?♡ コイツ以外がおれさまをその名で呼ぶんじゃねえよ♡』

『えぇと、すいません……その、現地でアーティファクトに呪われてしまったようで……』


 かいつまんで事情を説明する間、俺の体に顔どころか腰までぐいぐい押し付けて媚びてくるものだから視線が痛かったのは言うまでもない。

 あれ、ヴァレリだよな……? あの態度は一体……と噂されているのが断片的に聞こえてものすごく居心地が悪かった。

 しかし受付係は俺の説明で粗方察しがついたらしく、『では任務中の魔術事故として処理しておきますね、治療費の請求書をお持ちいただければ経費と共に精算できますので、よろしくお伝えください』と言うのだった。

 俺が彼を手籠めにするべく罠にかけたのではと疑われたらどうしようかと思っていた俺が肩透かしを食らっていると、受付係はそれもお見通しのようだった。


『ヴァリーさんほどの冒険者を騙せる人がそうそういるわけもないですし、あなたはそれなりの身分がおありのようですからね。一応記録はさせていただきますが、事故というのは信じますよ』


 その口ぶりは単なる推測を超えているように聞こえる。もしかしたら秘密裏に依頼人である俺の身辺調査でもしたのかもしれない。

 だが、そのおかげで人に信じてもらうことができたのなら万々歳だった。礼を言う俺に、受付係はそれにしても、と視線を上に向ける。


『話終わったか?♡ 早くベッド行こうぜ♡ なっ♡』


 渦中の虎は完全に俺の後ろへ回り、体を重ねるように抱きしめては腰を押し付けてきていた。

 フンフンと鼻息を荒げて、顎下で俺の頭部を擽っている虎に受付係が一言。


『その……どっちが抱く側なんですか?』


 何聞いてるんだこの人?! と思った俺を無視して、虎は『ン?♡』と応える。


『そんなんおれさまがケツで抱いてる側に決まってンだろ♡ 仕方ねえからコイツにおまんこ使わせてやってン……だ…………』


 その沈黙に薄ら寒いものを感じたが、時すでに遅かった。


 後遺症に苛まれている虎の体は、今では素面のままでいる時間の方が多いものの時折このような発作を起こすことが多々あった。

 コインが裏返るように我に返った虎は、両腕で俺に抱き着きながら勝手知ったる冒険者連中にその変貌っぷりを注目されていることにすぐに気づいたことだろう。


 その後の荒れようは……あまり思い出したくない。

 とにかく、今目の前で気勢を荒げている虎がマシに見えることは間違いなかった。


 そんなわけで、虎の体や発作についてはまだ詳細に検査する必要があり、持ち帰った品を調査する傍らで方々のコネと人脈を片っ端から当たって治療の糸口を探っていたところだった。

 今はちょうど、事の発端でもあり一番頼りにしている友人からその返事が来たところだ。

 内容次第ではこちらから虎を呼ぼうと思っていたので、まったく間が悪いというかちょうどいいというか、俺は諸手を挙げて椅子から立ち上がる。


「わ……わかったわかった! それなら、今から出よう。あの遺物についての話は、お前も一緒に来てほしいそうだからな」


 手紙の内容を全文読み込んだわけではないが、重大な発見が二つほどあることと、それに関して当事者を交えて話し合いたいからいつでも来てくれ、という旨が記されていた。

 虎はフンと鼻を鳴らして、「わかりゃいいんだよ」とぶっきらぼうに言う。

 まだ半分と読み込んでいない手紙を机の上に放って、俺は開けていた窓を閉めて手早く戸締りを済ませる。

 財布代わりの巾着袋にはいくらかの路銀が入ったままだ、友人のいる街までは十分足りるだろう。


「今から出れば……明日の朝には着くかな。それでいいか?」

「くどい、とっとと行くぞ」


 事務所の入り口に突っ立ったまま腕を組んでいる虎は、既に旅装を整えているように見える。

 今回は軽い日程になるが、それでもまたこの虎に罵倒されながらの旅が始まるのだと思うと、些か憂鬱な気分だった。


「それに」と虎が言う。

 数日前まで空き家だった事務所の木扉に手を伸ばしていた俺が振り返るまでもなく、虎の太腕が後ろからするりと蛇のように巻き付いてくる。

 身を屈めて俺を抱きしめた虎はべろりと舌舐めずりして、耳元で囁く。


「戻ってからここ数日、テメェに会えずじまいだったからなぁ♡ 夜はたーっぷり、埋め合わせしてもらうぜ……♡♡」


 背後から体を撫でながら抱き着いてくる虎は、そのまま俺の耳に息を吹きかけてくる。

 ぞくりと身震いして、俺は体を強張らせながらも肩越しに振り返ろうと身を捩るところだった。

 紙一重で我に返ったらしい虎が、きつく抱きしめていた腕をフッと緩める。ごく僅かな時間の発作から戻ってきたようで、その顔はひどく狼狽していた。


「とッ……とにかく、早く行くぞ!! もうあんなことになるのは御免だからな、治るまでテメェの自由はねェと思えこのタコ!」


 俺の体を突き飛ばすように放して、虎はぴゅうっと外に出る。

 勢いよく開かれた扉の風圧で部屋の中の史料を舞い上げて、俺は帰ってきたら整理のし直しだなと気が重くなった。

 このまま虎を放っておいてもいいが、それはそれで文句を言われるし後がひどいだろうことは目に見えている。


 それに、困ったことに……あの虎となし崩し的に肉体関係を持って以来、自分の中の性癖がすっかり歪んでしまったのは事実だ。

 あの太い四肢を、丸々と肥えた大胸筋を、ゆさゆさと揺れる尻に劣情を催す自分がいるのは自覚している。そのせいで、普段通り悪辣な虎をそこまで憎く感じなくなってしまっていた。

 今回の件について責任の所在を問うなら十中八九ヴァレリの過失で俺に非はないはずだが、それでも俺が大人しくあの虎の治療に振り回されるのは少なからずそういう理由があるのかもしれなかった。

 ともかく、当事者としてあれほど情緒不安定になっている虎をそのままにしておくというのは心苦しい。

 またしばらく罵倒されっぱなしの日々が続くのか、と俺は肩を竦める。

 しかし、虎の後を追う足取りは軽く、どこか活力に満ちていたのだった。


「遅ェぞカス、さっさと行くぞ!」

「ヴァリー、待てって! お前、場所わかってるのか?!」

「うるせェ、だったらテメェが先行きやがれボケ! 俺ァとっととこのクソ呪いとおさらばしてェんだよ! それまできっちり、責任取ってもらうからな……もちろん、夜も、な♡ ……あぁクソ!! うるせェ!!」

「何も言ってないだろ?!」


 そして……誰もいなくなった事務所の扉がゆっくりと閉まる。

 風に煽られた手紙が机の上から舞い上がって、ぺらりと開いたまま地面に落ちる。

 興奮した様子の長い走り書きには、こうあった。



 “預けてもらった遺物だが、いいニュースと悪いニュースがある。いいニュースは、君が見つけた腕輪の正体がわかった。というのも、実は地下室の話を聞いた時にこれと似たものについて話を聞いたことがあったんだ”

 “使われている翠宝石と、刻印されている魔術回路を解析して確信したよ。身に着けると生殖欲が高まると言っていたがそれもそのはずだ、この腕輪は相手を服従させる道具ではなく、自ら身に着けて相手に忠誠と永遠の愛を誓って体を差し出し、子を授かる儀式用の道具なんだ”

 “それと、君の見解では隷属と言っていたけど、これは増幅の刻印だね。件の廃城と同じ大陸にあるルォ国で見たことがあるんだが、感情を増幅し、勇気を鼓舞する戦士のタトゥーに似ているんだ”

 “おそらく地理的に同じ魔術文化が伝わって、ルォ国にそれが今も息づいているんだろう。これについてもいつか調べてみると面白いかもしれないが、まあともかく”


 “これがどういうことかというと、他人に対して、それも好意的に思っている誰かに対して素直になる程度の効果しかないんだ。つまり、あくまでその人が元々抱いている感情を増強するだけで、存在しない感情は足せない。無理やり好きにさせるような効果はないってことだね”

 “さらに驚くことに、子を授かる儀式、と言ったがこれは愛し合うことの比喩ではない。実際僕も調べてみるまで半信半疑だったけど、身に着けた雄の体が子を宿せるよう短時間で体を作り変えるための魔力が込められていたことがわかった”

 “おそらく回数は一回きりという容量だが、腕輪一つに人体を物理的に変化させるほどの力を込めるなんてはっきり言ってものすごい技術だ。それをたかだか生殖のために使い、身を捧げて愛を誓うことに用いていたと思うとなんだかワクワクしてこないかい? もしかしたらこの腕輪があったあの国は、女性が少なく跡継ぎに恵まれなかったのかも、そういう背景まで見えてきそうだ”

 “ともかく、これに関しては一度直接話したほうがいいかもしれない。近いうち僕の事務所を訪ねてほしい、身に着けてしまったというその不幸な冒険者さんの容態も診てみたいからよければ一緒に来てくれ”


 “というのも、悪いニュースについてだが……この腕輪に込められた魔力は既に空っぽになっていた”

 “なるべく早く、君とその冒険者くんと会えることを祈っているよ。まだ見ぬ魔術へ愛と希望を込めて”



 ~おわり~


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POSTEDJun 10, 2023
ARCHIVEDJun 10, 2026