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すいません、寡黙無愛想ラーメン屋店主ガチムチ虎オスケモの特製ザーメン大盛り顎髭濃いめ汗臭め尻重めのちくピ入りをお願いします!

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 お釣りとともに排出された食券を拾って、俺は案内された席に着いた。

 七月に入り暑さを増してきたこの頃は、少し外を歩いただけで肌が汗ばんでしまう。

 冷房からごうごうと流れる強風に熱のこもった体を冷ましながら、予め置かれていたお冷やを一口飲む。

 ほぅ、と一息ついて、軽く周囲を見回した。


 店には自分の他にも五、六人ほど客が入っていたが、ランチタイムを過ぎているとはいえこの入りなら空いている方だろう。

 L字のカウンターに十二席ほどのキャパシティーしかないこの店が、『ラーメン宮幸屋(みやこや)』がオープンしたのはほんの数か月前のことだった。

 店内の備品はまだ新品同然というところだが、テーブルに残る細かい傷や椅子の座面のくたびれ具合が店の繁盛を物語っている。


「……はい、特製醤油白湯ラーメン中、海苔トッピング……っすね。少々お待ちください……」


 カウンターの立ち上がり台に置かれた食券を手に取った店主が、低い声で注文を読み上げる。

 ストレート中細麺に濃厚な鶏白湯スープと香り豊かな醤油ダレを合わせたラーメンは人気が出るのも納得のクオリティで、グーグルの口コミでも常に四つ星以上を連発しているほどだ。

 スープや麺、トッピングの全てにおいて丁寧な仕事が施された一杯と出会ってからというものの、こうして炎天下の中わざわざ食べにくるくらいには病みつきになっていた。

 しかし俺がこの店を頻繁に利用しているのは、ラーメンが美味いこと以外にも密かな理由があった。


「……白湯つけ麺大盛、お待たせいたしました。つけダレの器お熱くなってますンで、お気をつけください。ラーメンのお客様、もう少々お待ちください」


 抑揚のない低音と共に、俺の視線の先で湯気を立てている丼をカウンターに置く腕は太く、黒い縞が走った山吹色に覆われている。

 頭にいかにもラーメン屋らしくタオルを巻いた虎は、俺の視線などまるで気づいていない様子で忙しなく寸胴鍋と調理台の前を行き来していた。


 もちろん家から店が近いというのもある、この店を気に入っている理由には。

 リモートワークは便利で気楽だが、毎日の食事をどうするかが面倒だ。そんな折に徒歩数分のところでこの店を見つけたときは、退屈な在宅ワーク中の昼飯や夕飯候補が一つ増えたらいいな程度に考えていた。

 だが予想を超えたクオリティに、俺はすぐに虜になった。

 家から近い上に味もいい、それだけで俺がリピートする理由としては十分で。


 その上、ごく個人的な理由だが、店主はどうにも俺好みの虎獣人と来た。我ながらミーハーだとは思いつつも、こうして足繫く通っているのは彼のことが気になっているからというのもあった。

 鉢巻風に白タオルを巻き、黒いTシャツを着て腰にサロンを巻いた姿はラーメン屋としてはありふれた格好だろう。

 だが、黒いジャージの上からゴム長靴を履いて麺を湯切りする真剣な眼差しや、丼にさっとトッピングを載せて仕上げる横顔はなんとも言えぬカリスマに溢れていて、俺はその姿を一目見た時からラーメンと共にこの店にこだわるようになっていった。


 その腕はTシャツの袖口がぴったりと張り付くほど太く、単なる飲食店経営者というにはその肉付きは逞しすぎた。

 衣服の上からでもわかるほど膨らんだ大胸筋や、そしてかつては引き締まっていたのだろうと想像ができる脂の乗った腹回りもボリューミーで、きびきびと動き回る豊満な体をついつい目で追ってしまうのをやめられない。

 ゆさゆさと揺れる豊満な尻をこちらに向け、しかめ面のまま麺を茹でる虎への想いは募りに募ってこうして抑えるのがやっとだ。

 さらに言えば客に対して変ににこやかな猫撫で声を使わず、無愛想なところもポイントが高い。

 端的に言えば何もかもがツボでタイプだった。


「……お待ちどおさまです。特製醤油白湯の中盛り、海苔増しです」


 他の客に対するのと同じ調子で、虎は俺の前のカウンター台へ丼を置く。

 ありがとうございます、と小さく呟いてそれを受け取る俺は内心憧れの人がすぐ前に立っていることに緊張していたが、これ以上何か言うつもりはなかった。


 例えば知り合いがやっている店を贔屓にするのだとしたら、それは正当な理由と言えるだろう。友人付き合いで来店するのは何もおかしくはないし、それを心から応援しているのならなおさらだ。

 では、単純に好きな人が……いや、単に見た目が好みというだけの他人がやっている店を贔屓にするのだとしたら、どうだろうか?

 そこで提供されている商品よりも、そこで働いている人物を目当てにしているという意味では前者と同じはず。

 応援しているのだって同じことなのに、動機がただの下心である以上、その来店は何だか失礼なことのように思えてしまうのは俺だけだろうか。


 それが、俺がこの想いを秘している理由だった。

 相手だって俺のことはただの客の一人としか見ていないだろうし、この関係にこれ以上を望むべくもない。

 客と店主の関係でしかないことは重々承知で、立場も弁えているつもりだ。

 俺はその領分を侵してまで、彼に自分を見てもらおうという気はなかった。


 ただ、今日も変わらずラーメンはうまそうで、店主はいつも通りムチムチとしていてかわいい。

 腹を満たすために来ているのだから、それだけで俺は満足できるはずだ。

 自分にそう言い聞かせながら熱々の器を受け取る俺は、そのラーメンを見て違和感を覚えた。


「……あれ?」


 この店で『特製』と冠するラーメンはトッピングの種類を通常より増したもので、単品で追加するよりも手頃にトッピングを楽しめるスタイルとして提供されている。

 海苔に味付き煮卵と山盛りの九条ネギ、そして鶏と豚の各種チャーシューといったトッピングをそれぞれ半人前ずつ足して、通常よりボリュームを増したメニューだ。

 俺はそこへ、普段なら一つしかないはずの煮卵が二つ並びあっていることに気づいた。

 なんで二つも、と思ってテーブルに丼を下ろした俺が顔を上げると、提供する姿勢のままそこに立っていた店主と目が合った。


「……お代はいいんで、そのまま食ってください」


 短めのマズルに黒縞と同じ色の顎髭を蓄えた虎はそれだけ言って、そそくさと踵を返す。

 流れるように他のテーブルに向かい、食べ終わった客の器を下げながら「ありがとうございました」と挨拶を口にしたかと思えば、そのまま次の麺を引き上げて湯切りを始めるものだから、どういうことかと問い返す余地もなかった。


 タイミングを逸した俺は、予想外のサービスにその意図を勘ぐってしまう。

 可能性として高いのは、単なるオペレーションミスか手違いで増やしてしまっただけだろう。

 だが、俺が購入した特製ラーメンは既に味玉のトッピングがデフォルトで含まれているはずだ。

 そこにさらに誤って足すようなミスをこの店主がするだろうか、いやそんなことはしないはずだ。


 ではどういうつもりなのか、答えは簡単だ。

 この味玉は、つまり俺に対しての贔屓に他ならない。

 あの虎も俺のことを悪しからず想っていて、しかし一人の客と従業員でしかない関係上、こうして不器用で迂遠な愛情表現で好意を示すしかないのだ。

 そう思うと彼の表情が強張っている意味も推して知るべしというもので、あぁなんといじらしいことだろうか!


 ……それがどれだけあり得なく、能天気でお花畑な発想かというのは反省するまでもない。


「……いただきます」


 俺はとりあえず、好物の味玉が二つも食べられる喜びに素直に感謝して、割り箸を割った。


◇◆


 鶏ガラ以外にもわざわざ一度焼いた手羽先から煮出すというスープは絡みつくように粘度が高く、まさに液状化した肉というほど味わい深い。

 よく焼いた鶏肉そのものを飲んでいるようなコクがあり、鶏の旨味以外にも昆布や干し椎茸の香りといった豊かな風味を感じられる。

 トッピングはこだわり抜かれた海苔と九条ネギ、刻み玉ねぎを鶏脂で揚げたものとフレッシュのものがそれぞれ匙一杯分ずつ盛り付けてあった。

 そして目玉となるのが、二種の鶏チャーシューとローストポーク風の豚肩ロースのチャーシューだ。

 低温調理した鶏ハム調のしっとりとした鶏胸肉と、よく煮込んでから皮目を炙って仕上げたとろとろの鶏腿肉のチャーシューはそれぞれ食感が異なり、鶏肉ながらも十分な食味がある。

 そこへ、同じく低温調理で仕上げた豚チャーシューを更に相盛りにしていて、特製というに相応しいボリューム満点の一杯だ。


 実のところ俺はこの黒コショウが効いたロースポーク風チャーシューが好きなのだが、これは本来この店の通常トッピングのラーメンには載っていない代物で、わざわざ特製ラーメンの食券を買うのはこのためでもあった。

 しっとりとしながら豚肉らしいジューシーさと、染み込んだタレが肉の脂と溶け合った味わいは濃厚で、しかし薄切りのシルキーな舌触りのためにくどすぎないバランスになっている。

 そのうえ表面に塗された黒コショウのピリッとしたスパイシーさがアクセントになって格別で、時々単品のトッピングでも追加するほど気に入っていた。


 麺についても、加水率低めの歯切れの良いストレート麺は重たいスープと適度に絡み合っていて、油断するといくらでも啜れてしまいそうだ。

 こってりとしたスープをまとわせた麺は、玉ねぎを揚げた香味油の風味が鼻に抜けて、時折じゃくじゃくとしたフレッシュな刻み玉ねぎの食感と爽やかな辛味の清涼感が口に楽しい。

 プツッとした食感の麺を海苔で巻いて食べると鶏と磯の風味が口中に広がって絶品だった。俺は夢中になって食べ進める。


 相変わらず、ラーメン宮幸屋(みやこや)の一杯はレベルが高い。

 それもこの白湯系のラーメンだけが美味いわけではなく、煮干しの香る魚介出汁でダブルスープにしたあっさりテイストの鶏魚介出汁ラーメンや、それを使ったつけ麺などどれを食べても外れがないほど仕上がっている。

 休日は行列ができるのも納得で、こうして平日ふらりと食べに来れる自分は幸せ者かもしれない。


 そして、出来の話をするならそれはこの店主についても同じことが言えた。

 無論それは見た目の話ではない、いや見た目も俺にとっては十分にレベルが高いのだが、ともかく。


「いらっしゃいませ。……お先に食券からどうぞ」

「お待ちどおさまです。海苔味玉白湯並盛り……です。お熱いンで、お気をつけください」

「ありがとうございました……また、お待ちしております」


 虎宮幸平(こみや こうへい)という名の店主は、今日も変わらず厨房に立ってきびきびと仕事をこなす。

 たった一人で店を切り盛りする虎の仕事ぶりはどこまでも淡々としていて、ワンオペだろうと一切それが滞ることがなかった。

 接客はもちろん、調理のオペレーションにも無駄がない。客にその仕事ぶりを見守られながら、流麗な手捌きで次々とラーメンを仕上げるさまはまさに職人技と言っていいだろう。

 ピークタイムには僅かに従業員やバイトが入ってたりするものの、基本的には一人で淡々と接客をこなし、ラーメンを作る。

 その態度は不必要に客に謙ることはなく、しかし礼節を欠かさない。

 感情が希薄で、けして愛想がいいほうではない厳ついネコ科の髭ヅラも、こうして無垢の木材を用いたカウンター席から見ると威風堂々としたカリスマを感じさせた。

 声を張り上げるほど威勢が良いわけではないし、にこやかな人当たりの良さなんてまるで感じない厳めしい顔立ちだが、却ってそれが客と店主は対等だと感じさせるところがある。

 自ずと客も畏まる、というほど格式高い店構えではないが、なんだかワクワクしてしまう適度な非日常感と、それに相応しい味を供してくれるお気に入りの店だった。


「お客さん、食券咥えるのやめていただけますか。……ご協力ありがとうございます」


 横目で見れば、財布をしまっているところだった男性客が少し慌てた様子で口から食券を放していた。

 手で受け取る以上、店側としては食券に客の唾液がついたりするのは衛生的に看過できないのだろう。

 とはいえ、声を張り上げるわけではないにしろ、不思議とよく通る低い声でニコリともせずこんなことを言われては委縮してしまう人もいるかもしれないが、俺にとってはどんな店内BGMより落ち着く声音だった。

 自分も気を付けよう、と思いつつ、丼に残ったとろみのあるスープをレンゲでかき集める。


 コラーゲンと油で光る丼の底は何だか誇らしかった。

 スープを完飲した丼をカウンター台に上げて、備え付けの布巾でテーブルを拭く。

 向こうにとって俺はただのいち顧客でしかない。そう知りつつも、この店に、そして彼にとってはせめて良客でありたいという思いがただの下心であることは否定しきれなかった。


「ごちそうさまです」

「……いつもありがとうございます。助かります」


 がた、と席を立つと、カウンターの内側でチャーシューか何かをスライスしているところだった虎と目が合う。

 食べ終わった食器をカウンター台に上げておくと、従業員がわざわざ客席に回って下げる必要がない。

 そのことについて礼を言っているだけとは知りつつも、この虎に見つめながらそう言われるとなんだか俺は人の命でも救ったような気分になってしまう。


 それで、ふと思いついた。

 あのトッピングについて、おそらくサービスしてくれた味玉について何か言ったほうがいいのだろう。

 いや、でもただのオペレーションミスかもしれない。他に客がいる前で、そんなことをひけらかすように言うのは気が引けた。

 少し悩んだ俺は、包丁から手を離した虎がカウンター台に上げられた丼を下げている間に、顔がまだこっちを向いているうちにと、早口で言う。


「あの……味玉、美味しかったです。また来ます」


 言った後で、しまった、と思った。

 他の客がいる手前サービスされたことに言及しないよう気を遣った結果の発言だったが、これでは再訪するからもう一回サービスしろと要求する厚かましい客のように思われやしないだろうか。

 そういう意味で言ったんじゃない、しかし何と言ったものかと逡巡する俺に、カウンターの内側の虎は空いた丼を持ったまま少しだけ驚いたように目を丸くして……それから俺を見たままぺこりと会釈する。


「……っす。またいつでも、お待ちしてます」


 そう言ってあっさり踵を返すと、虎は仕事に戻るのだった。

 もう少し何かを言って弁明したほうがいいのではないかと思いつつ、ふらふらと店を出る。

 のれんを潜って入店する体格の良い鮫とすれ違いながら、俺は帰路についた。


 またいつでもお待ちしてます、とタオルを巻いた頭を下げる虎が頭から離れない。

 丼を下げた時も、いつもありがとうございますって言っていた気がする。

 そうなるとただの客じゃなくて、一人の常連として認識されていると見ていいのかもしれない。

 だとすればあのトッピングはやはり相手が俺だからのサービスということでいいのだろうか。


 ……答えはない、代わりに遠くで蝉が鳴いていて、そんなことを考える頭に七月の陽射しは容赦がない。

 照り付ける太陽の下で答えのない疑問に頭を悩ませ続ける俺の口には、いつまでもこってりとしたコクが残っていた。


 ◆◇


 その日は早朝からサーバーのリブート作業があり、昼飯も食わずに取り組んだのもあって予定していた作業は早々に片付いた。

 社内連絡チャットに引継ぎと退勤の旨を残し、俺は伸びをする。

 時刻は昼過ぎで、今から昼食にするには遅く、かといって夕食には早い時間だった。

 適当に出会い系アプリで近所の男や遊び相手を募ろうにも、いまいちそういう気分にもなれない。


 こういう時は、あのラーメン屋で飯でも食べよう。

 仕事用のパソコンを閉じてから家を出た俺は、昼下がりのムッとした熱気に蒸されて、せっかく早く終わったしどうせならビールでも飲んでしまおうか、と思い至った。

 暑い中を歩くのは億劫だが、あのしっとりとしたローストポークチャーシューをツマミにキンキンに冷えたビールで体を冷やすのはきっと爽快だろう。

 ラーメン屋でビールを飲む行いについては回転率が悪くなったり店側の儲けが減るなど賛否両論がある。

 最低限のマナーとしてその辺りのことはわかっているつもりだが、今日みたくピークタイムをズラした時間なら許されるのではないか、と早朝から作業に当たっていた自分を甘やかすことにしたのだった。


 砂漠の中のオアシスを探す旅人のような気分で歩いて数分、店の入り口が見えてきた俺はその違和感に気づいた。

 普段なら入口に掛かっている暖簾が見当たらず、店のドアも半開きになっている。


 その時点で、まさか休みかと思ってぎくりとした。

 毎週木曜日が定休であることは知っているが、今日は水曜日のはず。

 俺が知らないうちに定休日が変わってしまったのだろうか? それとも、何か急用で店を閉めることにしたのだろうか?


 さりとてここまで来たからには自分の目で確認するまで諦めきれず、店の前までやってきた俺は中を覗いて確信した。

 店内は暗く、キッチンと一部の照明以外は落とされている。

 カウンターテーブルには下げられた暖簾が横たわっていて、すぐ傍の食券機も全て赤字に点灯して停止していた。

 店の引き戸に特に張り紙があるわけではないが、明確に店じまいの様相であった。


 せっかくのデートをふいにされたようなショックを受けつつ、どうしたのだろう、何かあったのだろうかと店内を窺う。

 すると、キッチンの奥から両手にゴミ箱を抱えて現れる虎と目が合った。

 しまった、と内心で気まずい思いをするものの、そのまま立ち去るわけにもいかない。

 それに、虎はついさっきまで営業していたと言わんばかりに普段と同じタオルと黒Tシャツというルックスで、ちょうど今が後片付けの最中であることは明らかだった。


 目が合った以上このまま無視して素通りするのもなと思っていると、俺の存在に気付いた虎がぺこりと頭を下げる。

 そして、あろうことか抱えていたゴミ箱をその場に置くと、カウンターを回って出入り口に立つ俺に近づいてくるではないか。

 急なアプローチに胸を高鳴らせつつ、覗き見していたのがバレたようで少し気まずい。

 ここは先手を打つことにしよう。戸が半分開いているのをいいことに、俺は店の敷居を跨ぎながら店内に向かって声をかける。


「ど、どうも。今日は……もうおしまいですかね?」


 ゴム長靴をぎゅむぎゅむと鳴らして近づいてきた虎は、顔を覗かせている俺がそのまま通れるくらい引き戸を開く。

 冷房の効いた店内の空気にふわりと新鮮な汗臭さを漂わせる虎は、頭一つほども違う俺のことを見下ろしながら少しだけ申し訳なさそうに言う。


「……どうも。すンません、今日は昼のみなんですよ」

「あ、そうなんですね。定休明日のはずだからどうしたのかなって思って……」

「っす……ここンとこちょっと機材の調子が悪かったんで。それで買い出しに行こうかと」


 へぇ、と思いつつ食券機を見ると、手書きで今日の午後は休業するという旨の張り紙がされていた。

 ここ数日食べに来てなかったので、その間に貼られていたのだろう。そういうことなら仕方ないと俺は頷く。


「……せっかく来てくださったのに、すみません」

「あ、いえいえ。仕事が早く終わったからビールでも飲もうかなーと思ってふらっと来てみただけなんでお構いなく……」


 冷房の空気とラーメンは惜しいが、休みだというのなら仕方がない。

 少し距離はあるが、駅のほうまで行って適当なファミレスか何かにでも入るとするか。

 じゃあまた来ますね、なんて言って俺はその場を結ぶ。

 それに、なんだかんだこの虎と話せたのでそれだけでも店に来た成果はあったと思おう。

 諦めて潔く踵を返そうとする俺を……虎は「あ」と引き止める。


「……こ、このまま帰すのもなんで……よかったら中上がっていきませんか」

「えッ」


 体を横向きにして、虎は入り口に立ち尽くしたままの俺を店内に誘う。

 俺は突然のことに戸惑って、中途半端に振り返ったまま足を止める。

 そんな俺に、虎はいつもと変わらぬぶっきらぼうな様子で……いや、どことなく申し訳なさそうな声音で続けた。


「ラーメンはシメちゃったンすけど……ビールとツマミくらいなら出せますんで」

「い、いいんですか?」

「えぇ……まあお客サンさえよろしければ。片付けの途中なんで、うるせえかもですが」


 こちらとしては万々歳だが、本当にいいのだろうか。

 邪魔になってしまわないだろうか、そこまで無理しなくても俺は別にクレームとか口コミ評価で星一つとかつけたりしないぞ、と思うものの、その誘いにどこか喜んでいる自分がいるのも事実だった。

 そして、タオルを巻いた虎は言う。

 今度ははっきりと恥ずかしそうに、自分のマズル下に蓄えた顎髭を片手で撫でながら。


「……その、お客サンにはいつも来ていただいてるんで……サービスみたいなモンだと思ってください」


 ◆◇


 夢じゃなかろうか。

 カウンターテーブルの下で自分の手の甲をつねる。

 痛い、夢じゃない。

 大手ビールメーカーの中瓶から注いだビールも手に冷たく喉越しは爽やかだ。確実に、これは現実だ。


「……どうぞ。こんなモンですいませんが」

「あ、ありがとうございます……いえいえ、全然十分ですよ!」

「んじゃ、おれちょっと電話してくるんで……ゆっくりしててください」

「あっ、お代は……?」


 ビール瓶とグラスの次に、ツマミらしい肉類を盛った小皿をカウンター台に置いた虎は、スマートフォンを片手に店の奥へ向かう。

 その背中に俺が慌てて声をかけると、肩越しにひらひらと手を振って「結構です」と応えた。


「そ、そういうわけには……」

「いえ、急に店閉めちゃったお詫びみたいなもんなんで……余りモンで申し訳ないですがよかったら食ってやってください」


 そう言って、虎はどこかへ電話をかけ始めた。

 取り付く島もない様子に呆気に取られる俺は、この虎にもてなされている状況をまだうまく呑み込めずにいた。

 俺程度の客をそんな軽々しく閉店後の店に入れていいのか、どうしてここまで良くしてくれるのか、というかそういうことを言うからには俺のことを認識していたのか。

 そう思っていると奥で電話をかける声が聞こえて、疑問は山ほどあったがひとまず棚上げにしておく。

 本当にいいのかなと思いつつ、俺はカウンター台の小皿をテーブルに下ろした。


「……あぁ、もしもし。どうも、ミヤコ屋のコミヤです……こないだのメンテの件でして……」


 換気扇と冷房の音しか響いていない店内に話し声は思ったより響いていて、聞いてしまっていいのだろうかという思いと、やっぱりいい声だなという思いを抱えながら箸を割った。

 皿には、普段トッピングで使われている三種類のチャーシューがネギと醤油ダレと共に盛られていて、脇には半分に割られた味玉が添えられていた。

 そのままでも美味しい鶏と豚のチャーシューにカエシを含んだネギを巻いて食べると、強い塩気とジューシーな肉の旨味の中からシャキシャキとして爽やかな食味が噛みしめるほどに顔を出して、なるほど確かにツマミにぴったりだった。


「……いや、それはハナシが違うンじゃねぇすかね……。……こっちは……それを今初めて聞いた……、……ってのは、困るんすよね」


 断片的に届く虎の声は普段と同じ淡々としたものだが、どことなく詰めるような口ぶりになっている。

 機材の調子が悪いと言っていたし、何かトラブルがあったのかもしれない。

 虎が困っているというのに自分はこんなご機嫌なツマミとビールにありついていると思うと、それが本人からの誘いであったとしても罪悪感で胸がちくりと痛んだ。


「……はぁ。……はい」


 一転して相槌だけ返す店主が電話を続けている間ずっと聞き耳を立てているのも心苦しくて、俺は手元のスマートフォンで最新のニュースやSNSをチェックしつつ暇を潰す。

 ビールを手酌で注ぎながら味玉に箸をつけると、完璧な半熟具合の黄身がとろりと溢れた。

 店主の毛色に似た濃い橙色が皿に広がってもったいなかったので、ローストポークを絡めて食べる。

 塩気の強い醤油ダレと濃厚な黄身が溶け合い、その中でピリッと際立つ黒コショウと豚肉の旨味が渾然一体となって極上だった。

 舌の上に残るこってりとした肉の脂と卵の黄身をビールで洗い流すのがこれまた格別で、閉店後の店先で飲んでいるという特別感のあるシチュエーションもあって思いのほか有意義なひと時となった。


「……いや、だから……、……はぁ。……わかりました、もう結構です。ええ……」


 声のトーンは一貫しているが、「それでは」とどことなく不機嫌な様子で電話を切った虎が、ぎゅむぎゅむと足音を鳴らして店の奥から戻ってくる。

 タオルの下の目つきは普段よりムスッとして見える。その表情に、今の電話について聞いてもいいのだろうか、むしろ話しかけてもいいのだろうかとしばし逡巡する。

 しかし、後片付けや店じまいがあって忙しいだろうが閉店後の店内に招待されている身なので、ここで話しかけても迷惑ではないはず。

 その厚意に甘えさせてもらおうと思って、俺は顔を上げて電話を終えた虎に目を向けると、向こうもこっちの視線に気づいたようで先手を打たれた。


「……すんません、うるさくて」

「いえっ、全然大丈夫です。勝手にくつろがせてもらってました」


 虎は「ならよかった」と言って蛇口にホースを繋げると、足元の排水溝目掛けて床を流し始める。

 じゃばじゃばと水音が店内に響き渡る。掃除中と知りつつも、俺はいくらかの打算で今度こそ話しかけることに成功する。


「あの、今のってさっき言ってた機材の業者さんとかですか?」


 すると、俯きがちに足元を流していた虎はタオルの下の耳をぴるっと震わせて、「まあ、そうです」と答えた。

 言葉尻が刺々しかったから薄々見当はついていたが、あまり聞いてほしくない話題なのかもしれない。

 俺は様子を見ながら状況によっては早々にこの話題を引き上げるつもりで、言葉を続ける。


「その、何かトラブったのかなって思って……大変そうですね」


 他人事すぎるかなと思いつつそう言うと、虎はデッキブラシでゴシゴシと厨房のタイル床を掃除しながら応える。


「そう……っすね。……というか、今のに関してはちょっと向こうの対応が悪くて」

「というと……?」

「……先週くらいから、メンテとか代替品について聞いてたンですが……忘れてたのかなんなのか、どうも対応を先延ばしにされちゃってて」

「あぁ……」


 その業者とやらのことをよく知らない俺は、伝達ミスや何らかの理由であればそういうこともあるのかもしれないと相槌を打つ。

 虎は「まあ、ただの愚痴っすけど」と言いながら丹念に厨房の床を洗剤で擦ると、流しっぱなしにしていたホースで水を撒いて濯ぎ始めた。


「それならもう新しく買ってきた方が早いなって思ったんで、今日この後買い出しに行こうかと……」

「ああ、それでお休みだったんですね」

「えぇ。明日の定休に買いに行ってもいいンですが……それだと仕込みがズレちゃいそうなんで」


 ラーメン屋はその日売り上げるためのスープは前日から仕込んでおく必要がある。

 普段なら営業中も炊いてスープを用意するところだが、機材が壊れたのもあってそのサイクルが乱れてしまう、という理由なのだろう。

 ふーん、と頷きながらビールを空ける俺は、水の跳ねたストッカーやガス管周りを丹念に雑巾で拭いていく虎の手つきを眺めている。


 そして、ふと思いついた。

 もしかして、これはチャンスではないか?

 今この場には二人きりで、しかもわざわざ閉店後に店に上げてくれるという特別扱いを受けているところだ。

 営業中はここまで言葉を交わす機会なんてないし、またとないチャンスであると言えた。

 ラーメンのスープが仕込めなくなるほどの機材と言えば、それなりに大掛かりなものだろう。それを新調するとなると、結構な大ゴトのはずだ。

 もしかしたら俺でも何か力になれることがあるのではないか。このまま店と客の関係だけで終わらせていいのか。

 意を決して、カウンターの内側で背を向けている虎に問いかける。


「あの……」

「……はい、お代わりっすか?」

「あ、いえ……その、差し出がましいようでアレなんですが、よければその買い出しについて行ってもいいですかね……?」


 それまで淀みなく掃除していた虎の体が、ピタッと固まる。

 その反応に、俺は慌てて言葉を続ける。


「あ、いえ……その、興味があって! それに俺今日はもう暇なんで、虎宮さん困ってるみたいだしビールとツマミのお礼に荷物持ちでもしましょうか、って思いまして……」


 言いながら、かなり苦しさがあると自分でも理解していた。

 たかだか一人の客でしかない分際で、店の何を手伝おうというのか。

 向こうにとっては遊びでもなんでもなく、営業を止めなければいけないほどの死活問題なのだ。

 そこへ素人に興味本位で首を突っ込まれて、気分がいいはずもないだろう。

 善意のフリをして申し出ながら、下心を隠し持っている自分について辛辣に考えた。しかし、ただの客がついていってもプロの邪魔になるだけではないのかとは知りつつも俺は虎の反応を窺う。

 いっそ断ってくれれば笑い話にして流せる。そうであってくれ、と祈る俺は長い沈黙に耐え切れず茶化すように口を開く。


「や、やっぱダメですよね、お仕事の邪魔になっちゃうかもですし」

「……、……いえ、その」


 しかし、一瞬だけこちらを見た虎は、また視線を大型の冷蔵庫へ戻す。

 それから、拭き掃除を再開しながらいつもの調子で呟いた。


「……面白くはないかもっすけど、それでもイイですか?」



 ◇◆


「……そういえば、おれ名前言いましたっけ……?」

「あっ、いや……その、ホームページとかで見かけて、実は一方的に知ってました……!」

「そうでしたか。……改めまして虎宮幸平(こみや こうへい)です、今日はよろしくお願いします」

「あっ、どうもご丁寧に……天本達哉(あまもと たつや)です」


 こちらこそよろしくお願いします……と言葉を返す俺を白塗りのアルファードに乗せて、虎は国道を走らせる。

 店の前で待っていた俺を迎えに来たのはレンタルかと思ってしまうほど運転席周りが綺麗で殺風景な大型車だった。

 後部座席に虎の私物らしい着替えや使っていない鍋などが乱雑に積まれていなければ、このミニバンが彼の愛車であるとは思えなかったかもしれない。


 俺はその助手席に座りながら、自分を落ち着かせるように慎重に呼吸を繰り返す。

 シャツの袖をみっちりと埋める太い腕でステアリングを操る虎の横顔はほとんどしかめっ面というか普段と変わらぬ無愛想な様子で、変に動じた素振りはない。

 なので、俺だけが妙に動揺するわけにはいかなかった。

 それがドライブデートのようだと思っていくらときめいても、そんな下心をおくびに出すわけにはいかない。

 俺は努めて冷静に、アクセルを踏む虎に投げかける。


「く、車持ってるんですね。仕事の時はいつも車なんですか?」


 低いエンジン音に心臓まで揺らされているようで、落ち着かない。

 その声に虎目はルームミラー越しに俺を探して一瞥をくれる。しかし次の瞬間にはその注意は運転に向けられていた。


「……えぇ、まあ。やっぱ車あると便利なんで」

「まあ、確かに……」


 俺はそう言って、わざとらしく後部座席を見る。

 替えのゴム長靴や軍手、それにツナギにも似た上下一体型の服やTシャツの替えなんかがシートに鎮座した中型の鍋の上で乱雑に積まれていた。

 突起のように飛び出しているのはおそらくお玉か何かの柄だろう。店で使っているものの予備かな、と思いながら俺は頷く。


「歩きで持ち運ぶの、大変そうですもんね」

「……片付いてなくて、すンません」

「あっいえ、こちらこそ無理言った身なのにわざわざ乗せてもらっちゃって申し訳ない……」


 見苦しいところを見られたと思ってるのか、虎の声は沈み調子だった。

 そうは言うが、後部座席の二シートほどを備品で埋められているものの元々七、八人乗りのミニバンはまだまだ十分なキャパシティーがあるように見える。

 そこまで物がぎゅうぎゅう詰めにされて散らばっているというわけでもないので、むしろ店の主としてちょうどいい積荷の量だった。

 あるいは、単純にだらしないところを見られるのを嫌ったのかもしれない。俺は何となく、そんな気がした。

 虎はハイブリッドモデルのアルファードを追い越し車線に乗せながら、口を開く。


「……元々車の予定でしたから。お気になさらず」


 俺の配慮に優しい言葉を返す声は、ともすればそれ以上詮索するな、と突っぱねるような冷たいトーンにも聞こえた。

 そんなはずはないと思いたいが、内心では俺が同行するのを嫌がっていたらどうしよう。

 実は常連でもある俺に気を遣って、本当は嫌だけど断り切れず車に乗せて買い出しに向かっていたら……という不安を拭いきれない俺は、そんな想像を振り払うべく今回の目的地について尋ねる。


「え、えっと……遠いんですか? これから行くところって」

「……そうですね、車で四十分くらい……か、一時間はかからねェと思いますが」

「結構ありますね、でも確かにそういう業務用のお店って近場で見たことないな……」


 カーナビの地図は目的地まで二十キロ程度を示しており、都内の端へ向かっているようだった。

 業務用の販売店と言えば近年話題の倉庫一体型の会員制スーパーマーケットやプロ御用達という肉屋発祥の食料品店などが思いつくが、今回の目的が食品でないことは俺にもわかっている。

 家電量販店のように飲食店や店舗経営のために必要な什器や機材が売られている店を想像するが、明確なイメージは浮かびづらかった。


 やがて車が緩やかなカーブに差し掛かると、虎は「店舗が」と呟いてハンドルを切る。

 黒い衣服越しにもわかる肉厚な胸にシートベルトを食い込ませて、片手だけでハンドルをぐるりと回す仕草からは何とも言い難い色気を感じてしまって落ち着かない。


「……多いわけではないですからね。そう頻繁に売れるようなモンでもないでしょうし」


 パイスラッシュですね、なんて茶化すような空気でも、そんな関係性でもないことは相槌を返す俺にもよくわかっているつもりだった。

 そのつもりがまったくなかったとは言わないが、こうして世間話をしているだけでも虎の一挙手一投足に下心が騒いでしまうのは自分でも見境がないなと呆れてしまう。

 その太い腕や逞しい脚に手が伸びそうになるスケベ心を自分で罰し続けるのには限度がありそうだった。


 軽やかなステアリングで車はカーブを抜ける。

 この懊悩からも同じように抜けられればいいのにと一人悶々としている俺を他所に、虎はそのまま続ける。


「扱ってるモノも……ストッカーだったり、コンロだったりでデカかったりするんで。今から行くところ以外だと、おれもあとは二つか三つくらいしか知らないっすね」

「へ、へえ……まあ買っていく人も限られてそうですし、それなら郊外というか、十分なスペースがないと無理っぽいですもんね」


 そういうもんかぁ、と白々しく口の中で呟く俺は運転席のシートに押されてむにっとした肉質を強調する虎の太腿を見ないようにするので必死だった。

 背中を丸めて窓の外やカーナビのパネルに視線を移し、別のことに意識を向けるよう努力を続ける。


「そんなわけなんで……お客サンにとっては退屈でしょうが、もうしばらくご辛抱ください」


 それが俺を指して言っているのだと理解すると、口からは「退屈だなんてそんな」と反射的に言葉が紡がれていた。

 この時間が俺にとってつまらないものであるはずがない。

 どうにかしてそのことをわかってもらいたい俺は、そんなに気を遣う必要がないことをアピールするのに良い文句がないかと探す。

 気取らず、さりとて嫌味のないフレーズが望まれる。

 そうなると、これか。俺は変わらず前を向いたままの虎に向き直ってかぶりを振る。


「いやいや、俺は別に……こうやって車乗ってるのも、虎宮さんとお出かけしてるみたいで楽しいですよ!」


 赤信号を前に、車がゆっくりと停車する。

 デートみたいで、と本当は言いたかったがそれはさすがにやめておいた。

 だが、これならば天真爛漫な響きもあって心から楽しんでいるという説得力があるはずだ。


 しかし、それなりに勇気を出してのアピールに虎は照れも笑いもせず「そうっすか」と低く唸るように返すのみで、その反応が逆に俺を冷静にさせた。

 さすがに露骨過ぎたか、と反省した俺はすかさずリカバリーを図る。


「まあその、勝手についてきておいて何をって感じですけど……勝手に楽しませてもらってますし、退屈とは思ってないので……」


 重たい沈黙が流れる。

 アイドリングしたままのエンジン音だけがやけにうるさくて、俺は赤く光ったままの信号とカーナビの地図を交互に見つめていることしかできない。

 隣に座る存在感のある肉体をちらとでも見てしまえば、また自分の好色が騒ぎ出すだろうから。


 変なやつだと思われてないだろうか、それとも気持ち悪いやつだと軽蔑されてないだろうか。

 せめて彼が俺の随行を許可して車に乗せたことを後悔してないといいのだが、と目を逸らしたまま虎の様子を窺っていた俺は、その手がぴくりと動くのに気付いた。


「……音楽でもかけますか」

「あッ……い、いいですね!」

「……なンか聴きたいの、あります?」

「あー……いえ、ここは虎宮さんの好きなやつとか、いつも聞いてるやつでお願いします!」


 先程の俺のアピールがどう思われたのかというのは気になるところだったが、スマートフォンを操作する虎は特に気にしていなさそうで、その本心はともかくひとまず安心しておくことにした。

 赤信号をいいことに片手にスマートフォンを持つ虎は、少しだけ悩んだように眉根を寄せると、手早く画面をタップする。


 すると、車内のスピーカーから聞き覚えのあるイントロが流れ出した。

 九十年代の夏ソングといえば必ず名が上がる名ナンバーだ。

 骨太な歌声の有名曲は何となく予想外で、大きな親指でハンドルの音量ボタンを調整する虎に俺は話題を振るつもりで尋ねる。


「おっ、サザンとか聴くんですね」

「……まあ、世代なンで。苦手でしたか?」


 パッ、と青信号に切り替わる。ちょうどいいタイミングだった。

 いや全然、と返事をしつつ、言葉を重ねる。


「俺も好きです! ちょうど夏歌ですしね!」

「……確かに」

「でもほら、お店だと結構流行りの曲とか流れてたりするじゃないですか? なのでちょっと意外だったっていうか……」

「ああ……有線っすからね。おれ自身は今時の曲とかあんまりわかんねェんで……」


 それで、虎が車をゆっくりと発進させる。

 まあ確かに、ランキングの流行曲を片っ端から流すよりも今流れている九十年代ポップスのほうがこの虎のイメージに合うことは間違いない。

 俺は「なるほど」なんて言って運転する虎の邪魔にならぬよう、サビに差し掛かる歌に聞き入る。


 ただ、それはそれで……誰よりも愛している、と歌うラブソングをエアコンの効いた二人きりの車内で聞くのは別の緊張を伴うようだった。

 外はじりじりと陽が照っていて、せめて名前を呼びあう仲にはなりたいなぁと考える俺の頭をじんわりと熱していく。

 運転する横顔やハンドルを切る太い腕を気にしないよう努めるのはそれなりの苦労を要したが、なんとなく顔が熱いのは車内に射し込む太陽のせいに違いなかった。


 ◆◇


 到着した店舗は、看板にでかでかと厨房機器、店舗用品販売と掲げており、ちょっとしたホームセンターほどの広さがあった。

 しかし内装や陳列の様子はどちらかというと専門的な家電量販店、あるいは家具店という印象だ。タンスやテーブルが売られているように、サイズ違いの冷蔵庫(ストッカー)やシンク付きの調理台がずらりと並ぶさまは圧巻である。

 飲食店でよく見かける冷蔵庫と調理台が一体化したような台下冷蔵庫だけでも、二ドアのものから三ドアのもの、あるいはドア部分がガラスになっているものとかなりの種類があった。

 それだけでなく、コンロ付きのガステーブルから製氷機、さらには寿司屋のカウンターでしか見ないような寿司ネタ用のコールドケースなんてものまであって、こういうところで買えるものなのかと素直に感動してしまう。


 俺は周りをきょろきょろ見回しながら、店を出るときにゴム長靴からクロックスに履き替えた虎の後ろをついて歩く。

 大型の厨房機器類から、棚に陳列された包丁売り場、製菓用具の売り場を抜けて、虎が角を曲がって棚の列に入っていく。

 俺も後に続くと、まさしくという景色だった。


「うおぉ……」


 まず目につくのは、ずらっと並んだ笊の類だ。

 テニスのラケットを思わせる、一般的な平らな笊のほかに、底が深くなって中に麺がすっぽり入る振り笊、それに蕎麦や素麺なんかに使いそうな竹の大笊なんかがラックにかかって売られている。

 その他にも漉し笊からボウル、レードルやお玉に木ベラまでがサイズ違いで大小陳列されており、この中からどれか一つ選べ、と言われたら目を回してしまいそうだった。

 虎はポケットに手を突っ込んだまま棚の上下を舐めるように検めながらのしのしと歩を進めていく。お目当てのものがあるかどうかを探しているのだろう。


「これ、どう違うんだ……?」


 平笊に振り笊、木ベラにゴムベラといったおおよそ同じような用途で使われるだろう商品を見比べる俺は、そんな感想を呟く。

 それをキャッチしたのか……前を歩く虎の耳がぴくりと動いて、タオルの下の目がちらりとこちらに向けられるのがわかった。


「どれっすか?」

「えっ」


 まさか拾われるとは思わなかった俺は、「ええと」と言葉を詰まらせながらすぐ真横にかかっている笊の行列を示す。


「これとか……湯切り用の笊だなってのはわかるんですけど、なんで平らなのと深いのがあるんだろうって思って」

「平笊とテボ笊ですか」

「は、はい。何か違うんですか?」


 虎は大きな図体には似つかわしくないほど丁寧な手つきで売り物に触れると、金属製の平笊を一つ手に取る。

 それなりに大判のはずだが、虎の手が持つとそれこそしゃもじか何かと同じサイズのように感じた。

 金網状のそれを軽く上下に揺らして、彼は淡々と言葉を続ける。


「色々違うっすよ、いっぺんに何人前茹でられるかとか、どういう仕上がりになるか……とか。例えば、コイツは……平笊は湯切りが難しいンすけど、この形なだけあってあっちのテボ笊よりはしっかり茹で上がりの水分を切ることができますね」

「あぁ、まあ確かにそんなイメージありますね」

「基本スープは薄めたくないんで、茹で汁はちょっとでも少ないほうがいいっていう意味では魅力っすね……。それに、この笊だと麺を茹でるとき大鍋で泳がすことになるンすけど、それだと麺もムラなくしっかり茹るんで仕上がりが安定する……みたいなところもありますかね」


 虎は「逆に」と言って振り笊のほうを見る。

 俺はただの笊にそんな意図と違いがあるのか、と驚きながらも未知の分野に相槌を打つので精一杯だった。


「テボだと麺を入れて鍋に突っ込んでおくだけなんで、気を付けないと麺がダマになったりしますし、しっかり湯切りしようと思ったらある程度のコツが必要っすね」

「はぁー、上級者向けなんですか?」

「……まあ、扱い自体は簡単ですけど、ある意味そうっすかね。こうやって……平らな面で湯切りをするよりも深い笊で振る方がやっぱ簡単なんで……一長一短って感じっす」

「でも簡単なだけなら、多少難しくても平笊のがいいんじゃないですか?」


 手に持っている金属製の平笊を上下させて湯切りの真似をする虎に俺が尋ねると、虎は少しだけ神妙な顔で「一概にもそうとは言えなくて」と続ける。


「確かに味も湯切りも平笊のが上なんですけど……その分難易度が高いのと、いっぺんに茹でれる数が少ねぇンですよね。コイツだと」

「あー……なるほど……?」

「追加で注文が入ったときにすぐに茹で始められなかったり……逆に、いっぺんに何人前も茹でちゃうと湯切りしてる間にどんどん次が伸びちゃったりして難しいんすよ」


 平笊の場合麺は大鍋を泳ぐと言っていた。ならば確かに、二分茹でたところに追加注文が来たからといって新しい麵玉を追加しては麵同士の茹で時間がごちゃごちゃになってしまうだろう。

 かと言って最初に複数人前を茹で始めては、湯切りをすればするほど残りの茹で時間が長くなって麺同士にバラつきが生まれてしまう。

 確かに、と頷く俺に虎はなおも語り続ける。


「その点テボだと……注文のたびに麺を入れてテボの中で茹でればいいだけなんで、デカい鍋か茹で麺機さえあればある程度対応できるのが長所っすね」

「ははぁー、鍋の中を区切るみたいな感じですね?」

「まあ……そういうことっすね」


 虎に同意されて、俺はまるでクイズに正解したみたいに小さくガッツポーズした。

 専門分野だからか、これまでとは打って変わって饒舌に解説を語る虎はまさにプロという印象で、あれだけの味のラーメンを作るからにはやはりそれなりに知識も必要なのだなと感心する。

 そしてその横顔はどことなくウキウキしているようにも見えて、タオルの下の目つきは相変わらず半眼で眠たげだが、尻尾をうねうねと躍らせているさまからは少なくとも俺の質問を鬱陶しく思っているとは感じなかった。


 語り口と声のトーンこそ淡々としているものの、台詞にどことなく熱がこもって聞こえるからこそ俺は気兼ねなく虎に言葉を重ねる。


「そう聞くと結構違うんですね……はえー……」

「そうすね……その上で、自分の店とラーメンに合ってンのはどっちかを考えて選ぶ必要がありますね」


 そう言われて、ふとこの虎が働いている風景を思い返した。


「虎宮さんのとこは……こっちのテボ笊、でしたよね。やっぱあれだけ人気だと、こっちじゃないと間に合わないんですかね?」

「……えぇ、まあ。ただあれくらいの入りなら、極めれば平笊でも提供できるはずなんすけどね」


 それじゃあ何故、という目を向ける俺に、虎は売り物の平笊をフックに掛けて戻しながら呟く。


「……まあ、おれ……不器用なんで」


 えっ、と思った俺を余所に、虎はのしのしと再び売り場の奥へ進んでいく。

 今のは果たして冗談だったのか、あるいは本当のことかと判然としない俺は、まともなリアクションも取れぬまま虎を追うのだった。


 厨房機器の売り場を過ぎた時から、そう大きなものを探してはいないだろうと思っていたが、虎が手に取ったのは俺の予想よりも更に小さなものだった。

 温度計というより体温計のようなそれについて尋ねると、虎は濃度計だと教えてくれた。

 出来上がったスープの塩分や濃度を測るためのもので、虎の作る白湯スープの仕上がりはいつもこの計器でチェックしているのだとか。

 それがここ数日調子が悪く、業者に連絡しても対応が悪かったため、それならばいっそ新調してしまおうというのが今回の買い出しの目的だった。


 計器に頼らなくてもスープの仕上がりは確認できるのでは? という俺の質問は今となっては不躾だったなと後悔しているが、虎は怒りも呆れもせずに首を振ってこう答えた。


『……できるとは思いますが、自分の舌だけだと不安じゃないっすか。おれがいつも通りだと思っても客がそう思うとは限らないんで。だからこういうものに頼らないと、安心できねェんすよね』


 虎は自分が未熟だからとでも言いたげで、まるで恥ずかしいことのように語っていたが、俺はその妥協をしない姿勢こそ尊ぶべきものだと思った。

 それと同時に、やっぱり元々几帳面なんだろうなと思って、商売や味作りに真摯な態度に好感を抱く自分がいるのを認めざるを得なかった。


 カウンターの外から見ているときも思ったが、外見や体型が好みというのは言うまでもないが、何だかんだ言ってその真面目な顔つきが一番好きかもしれない。

 こういう人は多分貞淑そうな奥さんをもらって、清らかな家庭を築くんだろうなとしみじみと思った。つくづくこの人と二人きりで出かけていることを幸運に思うのであった。


 が。


「じゃあ……帰りましょう」

「えっ、も、もういいんですか?」

「……? はい。目当てのものも……買えたんで」


 濃度計一つを買って、長方形の厚紙ケースを袋にも入れず手に持ったまま店を出た虎に俺は言う。


「い、いや、それだと荷物持ちとして俺が来た意味は……」


 そう、元々俺はこの虎が買い出しに行くと聞いたからその手伝いのつもりでここまでついてきたのだ。

 それを、こんな片手で持てる濃度計一つで済ませられてはただ見学に来ただけの野次馬同然ではないか。

 そう思って慌てる俺に、黒Tシャツ姿で俺に振り返る虎はどこ吹く風であっけらかんと答える。


「はあ……まあ、ないンじゃないっすかね」

「そ、そういうわけにはいきませんよ……! なんか……ほら、紙ナプキンとか、洗剤とか必要だったりしませんか?!」

「そういうのは明日配達してもらう予定なんで、別に……」


 確かに、不足していたとしてもその補充を怠るような虎には見えない。

 しかし俺はなおも食い下がる。このままだと本当にただのガヤでしかないからだった。


「じゃ、じゃあ帰りの運転くらい……」

「いや……呑んでますよね」

「そうでした……」


 運転席に入ってシートベルトを締める虎の横で、俺は諦めたように助手席にかける。

 なんということだ、これでは来た意味が……と思いながらシートベルトに手を伸ばすと、隣から「くふッ」と声がした。


「……別にいいっすよ、最初からお客サンに何かしてもらおうとは思ってないンで」

「で、でもそれだと……マジただついてきただけですよ、俺……」


 虎はルームミラー越しに俺を一瞥する。そして、ぽつりと呟いた。


「いいじゃないすか、それで。……別に、ただ居てくれるだけでも十分っすよ」


 直後、エンジンが力強く唸り声を上げる。

 ETCカードを確認した機械音声に混じって、虎が「送ります」と言うので、俺は頷くしかなかった。


 今のは、聞き間違いだろうか。

 何かものすごく、俺にとって都合のいい台詞のように聞こえたのだが。

 いや、この虎がそんなことを言うだろうか。

 ちょっと仲良くなれたくらいでノンケ相手に何を期待しているのか、今のはきっと俺の願望が聞かせた幻聴だろう。

 そう思いながらも、俺はやたらうるさい鼓動を鎮めるのにそれなりの時間を要した。

 そして、まるで噎せたようなあの声が、もしかしたら笑い声だったのではないかと思い至ったのは、もうしばらくしてからのことだ。


 ◆◇


 ──愛想無しの 君が笑った  

 ──そんな単純なことでついに 肝心なものが何かって気づく


 往年のビッグバンドをアーティストごと流しているのかと思っていた車内BGMは、意外にもこの虎が編集したプレイリストを再生しているようで、今はまた別の歌声が車内に響いていた。

 その選曲はどれもが世代を感じさせる名盤ばかりで、若輩の俺でも耳に馴染みのある曲が流れるものだからついつい口ずさんでしまいそうになるほどだった。


 騒がしすぎない渋めの男性アーティストは今の気分にちょうどよく、目的地も近くなった頃に車窓からの景色を眺めながらまったりと会話を交わすのに適しているように感じられた。


「やっぱ毎月新作出すのってめちゃくちゃ大変なんですね……」

「まあ……そうっすね。新作に関しては趣味でやってることなんで、それほどでもないっすけど……定期的に新しいもの作ンねぇと鈍っちゃいそうなんで」

「いや~すげえなあ、プロだなあ……めっちゃ大変そうですよ、聞いてる限りだと」


 ラーメン宮幸屋で扱っているスープは主に三種類ある。

 一つは鶏の旨味を最大限に生かした白湯スープ、そして中華そばやつけ麺系統に扱っている煮干し類の魚介と野菜出汁のスープ、最後は一日限定五十食程度しか提供していない月替わりラーメンの限定スープだ。

 ちなみに今月は『えびそば』と題されたラーメンで、ビスクをヒントにした濃厚な海老スープに従来の二種類のスープをブレンドしたトリプルスープ方式の一杯だった。

 風味を魚介スープ、コクを白湯スープで補強したもので、味わいと香りを計算するためにスープを注ぐ順番までこだわるというのだから俺は感服するばかりである。

 あっさりした若鶏の油で海老の殻と桜エビを煮た香味油を浮かべた一杯は濃厚なスープを売りにしたレギュラー陣に負けず劣らずの力強い味わいで、真っ先に売り切れることもあるほどだ。

 もちろん俺もお気に入りの一杯だが、それらを一人で仕込むとなると間違いなく重労働だろう。

 どうやって毎日スープ作りをしているのか、新作はどうやって作っているというのかと話を振ったのがきっかけで今は虎のラーメン作りについて話しているところだった。


「じゃあ明日も来月の新作試作するんですか?」


 話によれば毎週定休日に毎月の新作ラーメンのスープを試作しているそうで、休日返上で仕事をするその職人っぷりには頭が下がるというものだ。

 ちなみに、そんな生活をしていたら恋人は大変だろう、という俺の問いには「独り身なんで、好き勝手やらせてもらってますね」とのことで、ニヤつかないようにするのに苦労したが、ともかく。


「……えぇ、まあそのつもり……っすけど」


 俺は来月の新作はどういうものなんだろうかと気になる思いもあって尋ねてみたのだが、とうの本人は珍しく歯切れの悪い返答を返す。

 何か悩んでいるのだろうかと尋ねるべきかどうか逡巡していた俺は、ふと車が国道から曲がって見慣れぬ路地へ入っていくことに気づく。

 そして、違和感を覚える。駅というか、虎のラーメン屋は今の国道を逆方向に曲がった反対側のはず。

 目的地からわざわざ遠ざかるようなルートに入る虎に、どこへ向かっているのか尋ねようとして、俺の疑問に先回りした虎が種を明かす。


「……その、ご迷惑でなければ、なンすけど」

「あ、はい……なんでしょう?」

「今日一日付き合ってもらったついでと言っちゃなンですが……よければ、ウチで新作食べていってくれませんか。これから」


 えっ、と俺が驚いたのも無理のない話だった。

 それは願ってもない話だった。この虎と親しくなりたいと思っていた俺が、なんなら下心すら持っていた俺が、どうにかして距離を縮めて家に上がるほどの仲になれればと考えた回数は十や二十では利かないだろう。


 それがこんな形で、こんなタイミングで叶うとはそれこそ夢にも思わなかった。「いいんですか?」と思わず虎に向き直る俺は、同名のポップスが流れ出しやしないかとわけのわからぬ危惧を抱きながら尋ねる。

 虎はこっくりと頷くと、車を減速させて答える。


「まだ全然形になってないモノなんで、お口に合うかわかりませんが……お客さんが食ってどう思ったか、聞きたくて」

「そっ、それは……全然、大丈夫ですが、そんなに悩んでるんですか……?」


 虎は「ええ、まあ」と言って駐車場に入る。

 俺の座る助手席のヘッドレストに手を添えて、ハンドルを切りながらバックで駐車する虎にドキドキしているのか、それともこれから俺が向かう先へワクワクしているのかというのは判然としない。


「……お待たせしました。じゃあ、どうぞ」


 ただ、ものすごい勢いで何かが進んでいく。それも、俺が予想もしなかった好ましい方向へ。

 そんな気配に、漠然とした高揚を覚えながら俺は車を降りるのだった。


 ◆◇


 さて、どうしてこうなったのだろう。

 大型の獣人でも過不足なく入れるだろうという大きさの湯舟を備え広々とした浴室を見回して、勢いの強いシャワーに体を流す。

 夏の気温にじんわりと汗ばんだ肌を適温の湯に打たれながら、俺はどうして風呂に入ることになったのかを思い返していた。


 意外にも、というのも変な話だが、虎の住居は普通のマンションの一室だった。

 エレベーターに二人きりという妙な緊張感を抱えたまま通された部屋は白木のフローリングが美しく、虎の几帳面さを表したように清潔である。

 リビングへ続く廊下の途中で半開きになっているドアをちらっと覗くと、部屋の窓際に鎮座する大きなダブルベッドが目に入った。

 中途半端に傾いた枕と毛布が乱れたベッドメイキング前の寝室は得も言われぬ生々しさを孕んでいて、あそこで寝起きしているのかと思うと今すぐそのマットレスに横になって虎の生活臭と滲みついて揮発した寝汗を肺いっぱいに取り込みたい衝動に駆られるが、そんなことをする勇気があるわけもなかった。


 聞けば虎は長いこと一人暮らしだというが、それも納得のインテリアだった。

 通された居間は十何畳程度と広々としているが女っ気も飾り気もない殺風景なもので、目立つ家具は部屋の隅に置かれたローテーブルと中型の液晶テレビを備えたテレビボードくらいである。

 申し訳程度に敷かれた厚手のラグの上を座布団やクッションが千々としていて、空間の広さに反してリビングスペースはその三割程度というところだった。


 代わりに、壁と接していない洗い場と三口のガスコンロが特徴の巨大なアイランドキッチンと、二百何リットル規模のでかでかとした冷蔵庫に、クーラーボックスを巨大化したような冷凍庫が壁に沿って設置されていた。

 その他にも天井まで届く業務用の無骨な銀色のラックに大小の丼や鍋、『煮干し』『鰹節』などと書かれた段ボールが積まれていて、どちらかというと談笑スペース付きのキッチンという印象だった。

 なるほど、何を思って一人でこんな家に住んでいるのかと思ったが、おそらくはキッチン目当てなのだろう。

 ラーメン屋の厨房をそのまま持ってきたような光景に圧倒された俺は、もはや下心もなくただただそのストイックさに感心してしまうばかりだった。


 おっかなびっくり足を踏み入れた俺が部屋の様子を見回して立ち尽くしているうちに見慣れたエプロンを腰に巻いた虎は、大きな冷蔵庫から一斗缶のようなキッチンポットを取り出しながら言う。


『じゃあ、準備するンで……よかったらその間、風呂でも入って待っててください』


 一瞬聞き間違いかと思ったが虎は『上がってくる頃にはできると思うんで』と続けるので、俺の耳が壊れたわけでも、勘違いでもなさそうだった。

 動揺する俺は、しかし風呂を貸し借りするくらい何もおかしくはないかと思って、ぎこちなく頷く。

 一緒に入るわけでもないし、ノンケ同士ならなおさらだ。


 客人へのもてなしのつもりかもしれないし、シャワーを借りるなんて親しい間柄ならではというイベントに思える。

 まともに言葉を交わしたのは今日が初めてだというのに、一日で急接近しすぎではないかとも思ったが、俺はこの虎にそれほど信頼されているのだろうと思うと浮足立つ気持ちもあって。

 そう考えると、この申し出を断れる理由もなどあろうはずもない。


『着替えとタオル出しておきました、着れそうならどうぞ』

『あ、は、はい……じゃあ、遠慮なく……』


 そんなわけで俺は一人、浴室でシャワーを頭に浴びていた。

 やたら広く感じるのはきっと気のせいではないのだろう。

 これくらいのマンションなら獣人も人間も住めるようユニバーサルな設計を心掛けていそうだ。

 だからきっと、この空間であの虎は裸になって体を洗うのだろう。

 一日中ずっと厨房で働き続けて熱されたあの肉厚な体を、汗ばんだ獣毛を、その蒸れた股間を!


 俺は頭に水を受けながらかぶりを振る。

 正直なところさっきからずっとこの調子で、浮かれ切った俺の頭は下世話な妄想をやめられずにいる。

 脱衣所に置かれた洗濯機の蓋を開けようとしたり、洗面台の化粧品置きにいかがわしいものがないか確かめようとする自分を律するのは苦労した。

 終いには浴室の入り口に置かれた大判な珪藻土バスマットにうっすらと残った大きな足跡にすら胸が高鳴ってしまうほどだった。


 だがそれも仕方のないことかもしれない。誰だって、好きな人の家でシャワーを浴びて冷静でいられるはずがない。

 それに、たまたま店の前で見かけた俺をその流れのまま家にまで上げるということは確実に心を許されていると考えていいだろう。

 ラーメンの試食だって、本来ならもっと親しそうな常連や従業員といった身内に頼むはず。

 ということは、少なくとも俺はあの虎にとってそれなりに特別視されていると思っていいのだろうか。ただの客と店の関係から友人へ、もしくは一足飛びで恋人にだってなれるのではないか。


 ……なんて、馬鹿な話があるはずもない。俺は虎の家の様子を思い出す。

 店だけでなく家にまでラーメン作りの道具と材料が溢れているような男だ、それほど仕事に真摯でストイックな彼がそんな下心を持つはずもない。


 逆に考えれば、その手慣れた様子に鑑みるに閉店後の店に常連を呼んだり、あるいは家で試作を食べさせることなどいつもやっていることなのだろう。

 これくらいフットワークが軽いのが普通のことなのだ。

 俺はたまたまその他大勢の一人になっただけで、何も特別なことなどない。

 浮かれるのは勝手だが、期待するのはまた話が別だ。


 それに、彼はラーメンの試食が目的で俺を必要としているはず。

 本分を蔑ろにして、下世話でいかがわしい期待を抱くのはいくら何でも失礼だ。

 都合よく同性愛者で、都合よく俺のことを好いているはずがあるはずもない。分を弁えて、改めてしっかり一線を引いておく必要がある。

 今日のことは、親しくなれてラッキーくらいに思っておくほうが良いだろう。


 そう自分に言い聞かせるといくらか気持ちが落ち着いてきたように思えて、俺は種族フリーのボディソープに手を伸ばす。

 さっさと体を流して、試食を終えて帰ろう。

 そう思いつつも、下半身だけは丁寧に洗う自分が惨めだった。


 ◇◆


 用意されていた着替えは、やはりというかなんというか虎が着ているような黒Tシャツにスポーツブランドのジャージだったが、虎のウエストにぴったりなサイズのジャージを俺が穿けるわけもなくて。

 その生々しいサイズ感には胸が騒いで仕方なかったが、結局Tシャツだけを借りて下には自前のジーンズとパンツを穿くことにした。

 それでも頭に被ったTシャツからは自分の家とは違う洗剤のにおいがして、あの虎のにおいだと思うとドキドキして落ち着かない。

 オーバーサイズのそれを着込んだ自分を何度も洗面台の鏡で眺めて、まるで彼シャツだと上機嫌に体を拭いたタオルを指示通り洗濯機の中に放り込んだ俺は、浴室を後にして虎の待つリビングへ向かったのだった。


 そして、ラグの上に座り込んだ俺は持っていた箸を置く。

 香りをひと嗅ぎして、魚介出汁であることはすぐにわかった。

 俺は吟味しながら慎重に食べ進め、半玉分のラーメン一杯を食べ終えると、ローテーブルの上のティッシュに手を伸ばして口元を拭く。


「美味しい、とは思います。スイカの皮をきんぴらにしてトッピングにするっていうのは目新しいし、食感も風味もよくて、夏っぽい爽やかさを感じて面白いと思いました」


 虎はローテーブルの隣り合う辺に腰を下ろしたまま胡坐をかいて頷いていた。

 その目は真剣そのもので、俺は何と言ったらいいのか言葉を選びながら紡ぐ。


「……ただ、俺もそんなに口が肥えてるほうじゃないんですけど」


 虎が用意したのは、夏が旬のタチウオやカンパチ、イシモチといった白身の魚を炊いた乳白色のスープに、スイカの皮をきんぴら風に仕上げたトッピングを乗せた魚介の塩白湯ラーメンだった。

 試作なので味玉もチャーシューも海苔もないが、この二つを軸に八月の新作を仕上げようとしているのは伝わって、俺もそのつもりで試食に臨んだ。

 白いスープに瓜を思わせる緑のトッピングは高級中華を思わせるグラデーションで、同じような白濁の鶏出汁にマスカットを乗せた一杯を出す繁華街の人気ラーメン店を彷彿とさせる。


 スープの仕上がりも魚介の味わいが強く、乳化したスープのまろやかさはこってりとしながら上品なコクに溢れている。

 しかし、これが口の中でトッピングのスイカの皮と一緒になったときに、想像より一体感を欠いた味として感じられるように思えた。

 スイカの皮のきんぴらは火を通した瓜らしくシャキシャキとした食感で、ゴマ油の香ばしさと清涼感のある青臭さはいいツマミになるだろう。

 だがそれが魚介白湯スープと一緒になると、豊かな風味をゴマ油が邪魔をして、瓜科の青臭さで魚の生臭さが逆に引き立てられてしまうような不和を生み出しているように感じたのだ。


「別々で食べるほうが美味しいような気がして……トッピングにする意義があんまり、ちょっとわからない感じだったんですよね……」

「……やっぱ、そうっすよね」


 店で出している濃厚極まりない鶏白湯に生の刻み玉ネギを乗せるのは、きりっとした食感と爽やかな辛みを与えながらそれ自体がスープと調和したアクセントになるからだ。

 山盛りの九条ネギだって色合いを鮮やかにするだけでなく、同じように食感とスッキリした風味を楽しんでもらうためである。

 だが、このスイカの皮と魚介スープはそれぞれが独立して感じられるだけで、溶け合った味わいにはなっていない。

 恐らく季節のものとして合わせてみたのだろう。その試みは面白いが、一緒に食べてこそがトッピングという意味では、これでは既存のメニューとは比肩し得ないと感じた。


「あと、これは完全にお客というか俺の意見なんですけど……ほら、虎宮さんとこのラーメンってこってりで濃厚感があるのが多いじゃないですか?」

「まあ……そうっすね」

「そこに来ると、このスープは濃厚は濃厚なんですけど麺と一緒に食べるにはちょっと上品すぎるというか……味わいのヒキ? みたいなものがもうちょっとあると嬉しいかなって思いました、まあ俺の舌の趣味ってだけかもですが」


 虎は胡座をかいたまま腕を組むと、神妙な顔で顎髭を撫でながら「なるほど」と呟いた。

 好き勝手言い過ぎたか、気分を害してないだろうかと危ぶみながら彼を見守っていると丼を見つめたまま、はぁっと溜息を吐いた。


「……そんな感じはしてたンすよね、どうもまとまりがないなって思ってたんで。……思い付きとはいえ、これじゃあダメだな……」


 背中を丸めて、タオルの下の丸い耳をぺたりと寝かす虎からは、気落ちしている印象を受ける。

 俺が意外に思ったのはその弱気になっている姿ではなく、無根拠にこの虎は傑作しか作り出さないと思い込んでいた節があったからだ。


 やり手の職人である虎は作り出すもの全てが傑作に近しくて、俺なんかでは違いもわからないくらいの味の地平を彷徨っている。

 そんな風に思っていたところがあったので、このラーメンに俺が抱く違和感を虎も感じていたとわかって、少なからず衝撃を受けた。

 失敗をしない人はいないと言うが、やることなすことが全てめちゃくちゃ完璧のプロフェッショナルのように感じていたこの虎でも失敗はするんだなと思うと、憧れの人を急に近くに感じるような身勝手な愛しさが胸の内で騒ぐのを感じた。

 だが、そこまで肩を落とすほど手に負えない代物というわけでもない。幼子を勇気づける時のような心地で、俺は「でも」と口を開く。


「スープ自体は完成度高くて美味しいですし、あと一歩って感じですよね……! 多分スイカの皮のアイディアといきなり合わせちゃったから噛み合わなかっただけで、まずは変に季節感とか意識せず作りたいようにまとめてみてもいいんじゃないですかね?」


 一つのモジュールを完成させないうちに、他の機能と連結したためにこんがらがってバグを生む。あちらを立てればこちらが立たない、というのはどこでもよくあることだった。

 そういう時はまず一つ一つを独立させて考えて、完成させてから連結を試みると案外問題点がすぐにわかることがある。

 まずは問題の切り分けが大事ではないか、という旨の文句を口にする俺はスイカの皮は一旦置いといて、浅漬けとかにして添えてみてもいいんじゃないかなどと調子に乗って語り出す。

 そんな俺を前に、虎は黙って耳をピクつかせて傾聴していた。次第に一人で語っている気分になって、急激に恥ずかしくなった俺はふと我に返って言葉を翻す。


「ま、まあほんと素人が何をって感じですけど……すいません、色々ベラベラと喋っちゃって」


 今度は俺が背中を丸める番だった。試食を頼まれたとはいえ、勝手にアレコレ批評して物知り顔で語ってる自分を図抜けた恥知らずのように感じて、それ以上何かを言えそうにはなかった。

 だが、予想に反して虎は力強く「いえ」と呟く。小さくかぶりを振って背筋を伸ばすと、丼を見つめたまま口を開く。


「……確かに、少し驕っていたのかもしれねェっす」

「えッ……?」

「ここ最近、ちょっと売れてるからって変わったことをしよう、洒落たことをしよう……って気負っていた気がするンすよね」


 そんなこと……と口をもごもごさせる俺は、さっきまでの思いつめた顔とは打って変わってしっかりと前を見据えた虎の精悍な顔つきに、それ以上口を挟めない。


「不器用なくせに色々やろうとしちゃダメっすね……初心に返って、どんなもんが作りたいかイチから考え直してみますわ。アドバイス、ありがとうございます」


 ひねくれている俺は、一瞬皮肉のつもりかと勘ぐってしまった。

 だが、それが本心からの言葉であることは照れも笑いもしないその表情と、俺に向けられた眼差しから痛いほど伝わってくる。


「そんな、お礼言われることのほどじゃ……! スイカの皮だって漬物とかなら食べたことあるけど、きんびらで食ったのが初めてだったから驚いただけで……他の人なら相性バッチリって言うかもしれないですし」

「まあ、その辺はおれもしっくり来てなかったんで。それも含めて……こんなもんかなって思ってた節はあったンすよね。やっぱ自分で納得できるものを出さねェと試食してくれたお客さんにも失礼っすよね……でも、そうか、漬物か……」


 そう言ったきり、虎は腕組みして考え込む。

 ただの一顧客に過ぎない俺の意見をそんなにも真摯に受け止めてくれるのか、と恐れ入ってしまうのは、逆の立場ならとてもじゃないがそんな態度は取れないだろうという自覚のためだ。

 何も知らない素人に好き勝手言われていい気分になるはずもない。

 それなのに、この虎は一体俺の何をそこまで信用してそんな殊勝な態度を取っているのかと逆にこっちが申し訳なくなってしまうほどだ。

 それと同時に、その誠実は店先を離れても変わらないんだなと思い知る。

 憧れの人は、どこにいても憧れのままでいてくれるのだと思うと、無性に嬉しくなった。

 だからだろうか。


「ま、まあ……でもほら、そうは言いますけど俺はそんな虎宮さんが好きですし……」

「……エッ?」


 器に残ったスープをレンゲで掬いながらしみじみとそう呟いた俺は、その声に顔を上げる。

 ん? と思ったのは俺を見る虎の目が丸くなっていて、普段まったく表情の変わらない縞々顔が珍しく驚愕に染まっていたからだ。

 何か変なことでも言っただろうかと思考を巡らせるまでもなく、喉と口が言葉を反芻する。

 発した声を思い出して、舌の動きの名残に違和感を覚えた。

 あれ、今俺……と思い返して、ようやくとんでもない言い間違いをしたことに気づいた俺は「あッいや」と慌てて弁解を図る。


「そのッラーメン! ラーメンのことでして……! 今のは全然、そういう意味じゃ……っ」


 そこまで口にした俺は、言い訳のために開いた口を半開きにして言葉を止める。

 今のはただの言い間違いで、そういう意図はない。

 俺はただ、自分を卑下している虎のラーメンが好みだと伝えたかっただけだ。

 俺とあなたは客と店の関係で、それ以上でも以下でもない。


 ……本当に、それでいいのか? と囁く声があった。


 馬鹿な、俺は何を考えているんだ。

 彼はそのつもりで俺を呼んだわけではないし、ノンケ相手にそんなことを言っても相手を困らせるだけだ。

 今日一日で仲が深まったように思っているのは俺だけで、相手は数多くの顧客の一人としか見ていないはず。

 思い上がるんじゃない。仮に伝えるとしても、もっと他に相応しいシチュエーションがあるだろう。

 なぜこんな、言い間違いを笠に着て居直り強盗のように伝える必要がどこにある。

 告白はもっとロマンティックであるべきだ。

 いつか、どこか別のタイミングのほうがベターだ。


「……? お客サン? ……天本、サン?」


 では、そのいつかというのはいつなのか。どこかはどこなのか。今日より適した明日は、いつの明日なのか。

 虎に名を呼ばれて、何か自分の体に一本芯が通ったような気持ちになる。

 その声でもっと名を呼んでほしいという思いはこれ以上偽りようがない。

 いつ来るかどうかもわからない最善を待ち続けるよりも、今この時をより良くするほうが賢明なように思えた。

 相手にとって迷惑な話であるのは百も承知だ、性急すぎるのもわかっている。

 それを口にしてしまえば、これ以降互いの関係性が交わることもないだろう。

 気まずくて店にももう行けないかもしれない。この行いはどこまでも独善的だ。それを申し訳なく思いながら、この衝動に抗えない。


 だが、先人に倣うならば、所詮恋なんてエゴとエゴのシーソーゲームだ。

 その中で少しの夢を見るくらい、許されやしないだろうか?


 ……答えはない。だが、懊悩はもう十分だった。

 がっと持ち上げた丼に口をつけて、残っていたスープを勢いよく飲み干す。

 少しぬるくなったスープの脂は、俺の喉を滑らかにしてくれると信じたい。


「っ……その、突然何言ってんだって思うかもしれないんですけど」


 相手の顔は怖くて見れない。

 視線を丼の底に落として、「実は」と続ける。


「ずっと前から俺、はじめてお店行った時から虎宮さんのことが好きで……!」


 ここに来てようやく、ノンケ相手に付き合ってくださいなんて大それたことを言えるわけがないと気づいた俺は、そこで言葉を止めるしかなかった。

 何を相手に望むのか、むしろ何ならオーケーしてくれそうか。

 恋仲などと高望みをするべくもない俺は、深々と頭を下げて言葉を結ぶ。


「その……迷惑でなければ、今後も仲良くしてもらえない、でしょうか……?」


 自分で言いながら、なんと締まらない告白だと気が抜けるようだった。

 その証拠に、虎が俺に何か言葉を返すことはなく、重苦しい沈黙がその場を包む。

 大舞台で完全に滑って沈黙の中に立つ芸人のような心地で、この空気の収拾を図る。


 すいません、試食に招いてもらっただけなのに急にこんなこと言って。

 やっぱり今のは忘れて下さい。

 そう言うだけで許してもらえるかどうかというのは難しい賭けだったが、ひとまず何も言わないことには始まらないだろう。


「……えっと、すいませ……」

「それは、つまり……」


 そう思って顔を上げるのと、虎がぽつりと呟くのは同じタイミングだった。

 冷ややかな声に思わず背筋が伸びる。「は、はい」と俺が虎を見上げると、胡坐をかいて腕を組んだ存在感に溢れる巨体の注意がこちらに向けられるところで、黒Tシャツ越しに盛り上がった大胸筋が腕に押し潰されて柔らかそうに歪んでいた。


「おれのことを……そういう、エロい目で見てるってことっすか」

「……えっ?」


 聞き間違いか? いや、そんなはずがない。

 むしろそうであってほしかったが、今のはけして緊張や焦燥で俺の耳がイカれたわけではなさそうだった。

 頭に巻いたタオルの下で、眇められた虎の目が品定めするように俺を射抜いている。


「え……っと……その」


 彼がどういう意図でそう言ったのかが読めない俺は虎の顔色を窺うが、力強く見下ろす視線にぶつかってたまらず視線を泳がせる。

 その表情を盗み見た限り、返事を引き延ばしたとて折れてくれるような優しさは感じない。

 永遠とも思われる沈黙に耐えかねて、俺は顎を引くように僅かに頷いてしまう。

 コク、と俺の肯首を見て、虎はフゥッと鼻で大きく息を吐く。

 まるで溜息のように聞こえたそれは、俺の心臓をぎゅっと縮み上げるのに十分だった。


 軽蔑されてしまっただろうか。気持ち悪いと思われただろうか。

 どちらにしろ、ただの客に急にこんなことを言われて嬉しいはずもない。好意だけならまだしも、その気のない相手から急に下心をぶつけられて気色悪くないはずがない。

 さっきまで俺の心に漲っていた独善的な情熱はあっという間に冷めて、今や見る影もない。

 どうしてこんな短絡的な行動に出てしまったのか、今は自分に行いに対して後悔するばかりだった。

 だが。


「……そうっすか」


 虎が唸るように言う。

 胡坐をかいていた足で膝を突いてのっそりと身を乗り出すと、俺の両肩に大きな手を添えた。

 山吹色の毛並みを帯びて五指を丸めた手は焼き立てのクリームパンのようだった……と現実逃避する俺は、虎の両手に押されるままにラグの上へ仰向けになる。


 ん? 俺は一体何をされてるんだ? と真っ当な疑問を抱くころには、眼前に迫る気配があった。

 顔に影が落ちる。マズルの顎下に蓄えた黒髭が俺の顎に触れる。横から覆い被さるように押し倒した俺に顔を寄せた虎は、そのふさふさとしたマズルで唇を擽っていた。


 事態をようやく正しく理解できたとき、動揺に声を上げようとして口を開いた俺は柔らかい肉質に唇を食まれるところだった。

 毛が触れてちくちくとした感触がくすぐったい。虎のマズルを縁取る黒々とした唇が俺の上唇を食んで、温かい粘膜がぬるりと口内に忍び込む。


「んッ……ん、ぐっ……?!」


 がぱぁ、っと開いた虎のマズルが、互いのおとがいを嚙み合わせるように俺の口へ横からかぶりつく。

 少し傾いた虎の顔が目の前にあって、動転する俺は魚介のコラーゲンで粘ついた舌と唾液をざらついた粘膜に撫でられるのを感じていた。

 少し伸び気味の虎の猫髭が俺の頬と擦れる。どことなく硬く、プラスチックにも似た感触だった。


 虎宮さんにキスされている、どうして、と疑問符が頭を埋め尽くす。

 まさか逆に押し倒されるなんて思いもよらなかった俺は、酷く狼狽して仰向けになった体に圧し掛かる巨体を押し返すこともできずにいる。


 しかし、体は正直というか、本能は欲望に忠実である。

 押し倒してきた理屈もキスしてきた理由も何一つとして判然としないが、この虎から唇を重ねてきたことは確かだ。

 それはつまり、俺のことがイケるという証左ではないかと沸々と歓喜が胸中を熱するものだから、殆ど無意識に俺の舌も動く。


「……ふ、ぅッ……ん、っぐ……るるる……」


 虎の喉からエンジン音にも似た唸りが響いて、お互いの肌越しに伝わってくる。

 動揺で遅滞した舌筋を持ち上げると、俺の口内に侵入した分厚い粘膜がじゃれつくように撫で上げてきた。

 俺はそれを迎え入れるように舌を出して、虎の舌とぬちゅぬちゅと交わしあう。互いの粘膜が擦れ合って、微かな塩味を伴った柔らかい感触を唇と舌に感じた。


 開きっぱなしの口から涎が垂れて頬と首を汚す。

 鼻で酸素を求めると、夏場の部室を思わせる汗臭さがほのかに目の前のマズルからにおってきた。

 昼間は店を開けていたというし、一日中働いていた男のにおいとしては当然で、むしろ俺にはほかのどんな香水よりもセクシーなフェロモンとして感じられた。


「っぐ……こ、こみやさん……っ!?」

「……んん゛、っぷは。……すんません、イヤでしたか?」


 口を離した虎は、俺の口端から溢れた涎を犬のように舐め取って、舌なめずりしながら尋ねる。

 突然の接吻に慌てていた俺は、落ち着きを取り戻そうと思って虎の名を呼んだまま身を強張らせる。

 吐息すら感じる至近距離で囁かれた声が、仰向けになっている俺を見下ろす粘っこい半目がちの目つきが俺を落ち着かなくさせる。

 彼に組み敷かれて密着している、と実感するたびに鼓動が早鐘を打って心臓が口から出てしまいそうだった。


「イッ、イヤじゃないです!! で、でもなんでっ……た、確かにっエロい目で見てましたけど、急にこんな……! 嬉しいですけどっホント、なんで……っ??」


 動転している俺の横に手を突いて、虎は本格的に俺の体の上に跨る。

 丼が置きざらしにされたローテーブルもいつの間にか後方へずらされていて、俺は腰の上に居座る虎を見上げながら、意外と厚めなラグが敷かれたフローリングの床をベッドに仰向けになっていた。

 その表情を読み取ろうにもTシャツ越しにむっちりと張った大胸筋が視界に入って、思わず心拍数が上がる。


「……その、実はおれも……お客サンのこと、天本サンのこと……イイなって思ってたんですよ」


 言いながら、虎は俺の体を衣服越しに撫でる。

 学生時代ならともかく、ここ最近週に一、二回ジムに通っているだけの俺の体は虎と比べたら子供と大人ほども違う。

 それでも、彼は俺の肉付きを確かめるように胸や腹に触れて、終いにはその手つきは下腹部を経て股間に至る。

 ひどく狼狽して腰が定まっていないにもかかわらず、この虎とキスをするほど密着して馬乗りされているというシチュエーションだけで下半身に熱が滾ってしまうのは半ば反射的な生理反応だった。

 その重量感も、前掲する胸の膨らみも、意外と汗臭いことも、俺は何一つとして知らなかった。

 それらひとつひとつを思い知る都度に強烈な興奮がついて回っているので、現実味を抱くにつれ俺の股間は何をされるでもなく半勃ちになっている。

 ジーンズ越しにそこを撫でる虎には、むくむくと容積を増す俺のちんぽのことなどとっくにバレていることだろう。

 きっと虎は、そういうつもりで俺にのしかかってきている。しかし、仮にそうであったとしても俺はこの降って湧いたチャンスに身を任せる気にはなれなかった。


「え……えっ? いや、でも……」


 据え膳食わぬは……とは言うが、これは俺の告白はOKということでいいのだろうか。

 だとしたら今日は人生最良の日と言っても過言ではないが、それはそれとして付き合っていきなりセックスなんて少し、というかかなり、はしたないのではなかろうか。


 思えば俺達はお互いのことを何にも知らない。

 このシチュエーションに興奮することも、またとない好機であることも否定する気はない。

 だが、それ以上に異常事態に近しくはある。

 告白してその場で押し倒されることなんて、フィクションであっても近年ではベタな展開として敬遠されがちだ。

 それをこんな、棚からぼた餅もいいところという展開が現実にあり得ていいのかと躊躇する俺に、虎は言う。

 投げ出されている俺の脚を足で抑え込んで、股間の膨らみから竿の輪郭を探るように握りながら、いつもと変わらぬ愛想のない顔で。


「……よかったら、このままどうですか」

「ど、どう……って」


 しかし、瞳には紛れもない情炎が灯っていた。精悍な虎の顔は舌舐めずりして、僅かに目を細めたまま俺を閨事に誘っている。

 俺の好きな人が、俺の好意を無下にせず、言葉も程々に肌を重ねたがっている。

 彼にもそんな即物的なところが、性欲にほだされるようなことがあるのだと思うと、ショックだった。

 ショックだが、俺の下半身はそれを嬉しく思ってギンギンに喜んでいるのもまた事実で。


「……おれと、えっちしませんか。ちゃんと、サービスするんで」


 だからこそ、その申し出を断れるわけがない。

 なんでそんなラーメン大盛り無料ですけどみたいなノリで、と思いつつその誘いに頷くのだった。


 ◇◆


 意外にも急いた様子で俺のジーンズに手をかけた虎はそのまま力を込めてずるりと脱がしにかかる。

 腰を浮かした俺の下半身からボクサーパンツごと衣服を下ろし、爪先から脱がして完璧に体から取り去ると、そのまま脇に放って背中を丸めた。


「う、ぁ……こ、虎宮さんっ……」

「……ふーっ……♡ っふぅ、んん゛……っはあぁ……」


 中途半端に血を通わせて鎌首をもたげている俺のちんぽに顔を寄せた虎は、動物っぽく鼻をスンスンと効かせて熱っぽい息を漏らした。

 鉢巻のように額に巻いたタオルもそのままに、半開きの口をちんぽに近づけて黒鼻をヒクつかせる。

 その光景に、まさかあの虎が男性器を前にこんな顔をするなんて思ってもみなかった俺の中でムクムクと劣情が勢いづいてしまう。

 虎の鼻先ですぐにギンッとそり立った俺のちんぽに、マズルの毛並みがちくちくとして擽ったい。

 だがその獣毛の感触こそが誰の前でちんぽを晒しているのかを強く実感させる。びくんびくんと脈打つちんぽが虎の鼻先を叩きそうなほどに震えると、虎は呻くように囁く。


「……っ♡ ……まだ、何もしてねえのにガチガチ……っすね」


 その声は必ずしも意地悪なものではなく、どこか愛着を持った響きがあったが、俺にとってはどちらであっても同じことだった。

 まるで節操なしの好きモノのように思われていると感じた俺は、恥ずかしさにたまらず口を開く。


「だ、だって……虎宮さんが、こんなことしてくれるなんて思ってもなかったんで……」

「……まあ、萎えちまうよりは良いと思いますよ。……おれで興奮してくれてんなら、嬉しいっす……ん、ぁむっ……♡」


 ぱくり、とソフトクリームでも食べるような気軽さで虎は俺の亀頭を咥内に収める。

 暖かく、ぬるりとした粘膜に歓待を受け、思わず「うあっ」と声が漏れた。

 虎は分厚い舌を波打たせてちんぽの裏スジを揉むように舐め回しながら、ゆっくりマズルの奥まで飲み込んでいく。

 吸い付くように咥内の圧力を高めて、ちんぽのどこを口の肉が滑っているのか、どこを唇と毛で擦れているのかが認識できるような緩慢さで咥え込むものだから、俺のちんぽは快楽に悦び跳ね回るのを止められない。


「ん、ん゛ふぅ~っ……♡」


 だが虎は目を細めて、むしろもっと悦べとばかりに裏筋を舌先でチロチロと上下に擦り上げてくる。

 突起を感じる舌はしかし愛用のシリコンオナホを思わせる柔らかさで、唾液で滑りながら性感帯を刺激されると思わず腰が浮きそうになった。


「う、ううっ……こ、これ、すっげ……!」

「ん゛っ……ふゥ~っ、はむ……じゅるる……っ♡」


 ちんぽを根元まで咥え込んだ短いマズルは鋭い歯列を伴っていたはずなのに、それらが全て噓のように消え失せてしまったような感触だった。

 どろどろに蕩けた軟体が口の中に詰まっていて、その中を舌が自由にうねり動き回って俺のちんぽを慰撫していた。

 敷物になっている虎の舌は、ラップサンドでも作るように俺のちんぽを包み込んで、その舌先で竿の根元と玉袋の境界を突いている。

 俺は中途半端に起き上がって虎の肩に手を添えたまま、快楽に歯を食いしばった。

 この虎にちんぽをしゃぶられていると思うと、いくらも我慢できそうになかった。


「んはぁ……んべ、きぉちいいっふか?」


 俯いた虎が、睨むように細めた目つきを俺に向ける。

 あざとさよりもむしろ俺を試しているような上目遣いと、発声にうねる舌と口肉に思わず下半身に力が入ってしまう。


「っぐぅう……! は、はひっ……き、気持ちいいですっ……!」

「ほっふか、んん゛っ……はっ、ふぅ……れろっ……♡」


 素っ気ない返事だが、その声がどこか弾んで聞こえるのは俺が好意的に解釈しているだけだろうか。

 だが、虎は俺が息も絶え絶えに快楽に呻いている様子を一瞥すると、視線を俺の下腹部に戻してそのままじゅぼじゅぼと頭を上下させ始めた。

 ぬらぬらとした舌でちんぽを摩擦し、吸啜する口内圧で竿を扱くピストンフェラに虎の肩へ添えた手にも思わず力が入る。


「っ、うおぉ……! そ、それっ、フェラやばいっす、虎宮さんっ……!」

「んぶっ、っじゅるっ……ふぅっ、ん゛んっ……んぐぉっ……♡」


 喉奥までちんぽを導き、えずくような声を上げながら虎は俺のちんぽをしゃぶり続ける。

 大きな頭部のストロークに併せてじゅっぽじゅっぽと卑猥な水音がエアコンの効いた室内に響き渡って、俺はこっそりご馳走をつまみ食いしている気分になってしまう。

 この行為を、こんな虎宮さんを他の誰にも見られるわけにはいかない。そう思うと、なおさら下半身に血が溜まるような気がした。

 名前を呼んだ俺の声に反応しているのか、タオルを嫌がるように外に逃げ出した虎の丸耳がぴるぴると動いていて、その愛嬌に胸がきゅうっと切なくなる。


「ん゛ごっぉ、っぇほ、はあッ……♡ んむ゛っ、じゅるっ……ぉごっ、っはぁ~……っ」


 その愛らしい耳の持ち主は積極的に喉マンでちんぽをしゃぶり、嘔吐反射に肩を震わせて耐えていた。

 口周りどころか顎髭までもを喉奥から分泌したねばつく唾液で汚し、獣毛を張り付かせている。俺の竿の根元に溜まった虎の唾液が金玉や足の付け根まで汚すのがわかった。


 依然頭の中は混乱でいっぱいで、このシチュエーションにまだまだ戸惑いを隠せないが次第にこの空間に順応していくのがわかった。

 上下するネコ科の頭を他人事のように眺めながら、そんなに必死になって咥えなくても、と思う俺はしかしこの虎が恥も外聞もなく夢中になってちんぽにむしゃぶりついている様にじわじわと悦びを抱き始めていた。

 溢れ出る涎を堪えることもせず、虎は喉の奥まで汚らしい男性器を飲み込んでは分泌される先走りを我先にと舐め取るように舌を遣う。

 ちらちらと俺の様子を確かめながら、ちんぽに汚れた口を押し付ける光景のなんと愚かしく愛しいことか。

 ぐっと奥まで咥えた虎が「んぶッ」とくぐもった声を上げて肩を跳ねさせる。口からちんぽを放す虎がハァハァと必死に酸素を取り込むさまに、俺は思わず口を挟む。


「そ、そんなに、ガッつかなくても……」

「っはぁ、はーっ……♡ すんません、つい……久しぶりだったんで、おれも我慢できなくて……」


 その言葉に、俺は複雑な気持ちになる。

 これほどまでに鍛え抜かれた肉体を有しているこの虎が、今日まで性的な行為を一切経験してないはずもない。

 きっと若いころはモテにモテただろう。俺と同じ同性愛者と判明してもその認識に変わりはなく、相手が女か男かという違いできっと遊ぶ相手には困るようなことはなかったはずだ。

 いや、今だってそれは変わらないだろう。

 だからこそ、その他大勢の相手の中に俺も含まれてしまうような気がして、理不尽な嫉妬心を覚えた。


 だが、それと同時に、久しぶりなのかと意外に思った。

 彼の言葉に嘘がなければだが、嘘を言うようなタイプには見えない。

 であればきっとフェラどころか他人とそういう行為をすること自体ご無沙汰のはずだ。

 それがどれくらい、というのは気になるが、少なくともその相手に俺が選ばれたことには間違いない。

 それどころか、久しぶりであれ何であれ、俺程度の相手にここまで熱中してくれるとは、と嬉しく感じてしまう自分がいた。


「っあ、ぐぅ……そ、それ、気持ちいいっ……!」

「んん゛ぅ……っぶふぅ、ん゛っうぅ……♡」


 たまたま告白してきた俺を都合の良い性処理相手としているのか、それとも本当に最初から俺にそういう気があったのかというのは確かめてみたいところだが、張り出したエラの段差を均すように舌で繰り返し舐られて俺の質問はうまく声にならない。

 虎は俺の亀頭をぱっくり咥えたかと思えば、根本まで飲み込んでしゃぶりつくものだから全神経が下半身に集中してしまって、思考がまとまらなかった。


 互いの息と、じゅぼじゅぼという水音だけが響く室内で、虎の腕がそっと横に伸びる。

 テレビボード下部の戸棚から引っ張り出されたドレッシング容器にも似た半透明のソフトボトルに目を向けると、それは既に半分ほどしか入っていなかった。

 とても新品とは思えないそれを、誰が使ったのかというのは考えるまでもない。

 だから俺は、必死に頭を上下させてちんぽをしゃぶる虎につい尋ねてしまう。


「ろ、ローションとか、使うんですね……」


 俯いている虎の丸耳が、その声にぴくんっと反応する。

 ちゅぽん、と口から俺の一物を吐き出すマズルの間に粘っこい唾液の橋をかけながら、虎は答える。


「んんっ……っすね、自分でケツいじるときに、必要なんで……」

「ほっ……う、なんですね……」


 そこですかさず、ほかの人とヤるときに使ってるんじゃないのか、とは……聞けなかった。

 そんなことを聞いて彼の機嫌を損ねてしまっては、これから得られる快楽が失われてしまうかもしれないからだ。

 それに、仮にそうであったとしても俺がそれに何かを言う権利があるはずもない。

 プライベートでこの虎がどんな男と何回セックスしていたとしても俺には関係のない話で、むしろそれならそれでおこぼれにあずかれているだけマシというものではないか。

 俺は自分にそう言い聞かせながら、自分の手指にローションを絞り出す虎を見ていた。

 ぶじゅ、と透明な粘液が肉球に水溜まりを作ると、虎の拳はそれを握りつぶすように指の毛を濡らしていく。

 やがて指の間にまでねっとりと糸引く粘液がまぶされたころ、膝をついて前傾している虎はその丸太のような腕をゆっくりと背中へ回すのだった。


「……さっきも、言ったンすけど」

「えっ、あ、ひゃいっ?」


 ウエストに親指を引っかけて、ずるりと虎のジャージが下ろされる。

 露わになった自らの尻へ虎の腕が悠然と向かうのを見ていた俺は、腰の下からの声に慌てて返事をする。

 その手は大きく、思い切り開いて平手を作ればちょっとした団扇ほどもあるだろう。

 だが膝を突いて後方へ突き出た虎の尻たぶはそれよりも大きく、片方だけでも手のひらからこぼれ落ちそうなボリュームがあった。

 そこに添えた手を、手に取った粘液を、ローションまみれの指をどうするのかというのは想像がつく。

 だからこそ、俺は興奮しすぎて呼吸のリズムすらおかしくなりそうだった。


「人とすんのは久しぶりなんで……うまくできなかったら、すいません。……ん゛、ぅっ」


 そう言って、腕に引っ張られるように体を傾ける虎は、自分の尻孔を指でなぞる。

 毛むくじゃらの尻と無毛の窄まりがくちゃくちゃと粘っこい水音を立てるのを聞いて、俺はちんぽが強くいきり立つのを感じた。


 虎は目の前のちんぽ越しに俺を見上げて、じろりと睨むような一瞥をくれる。それから、鼻先でビンッと勢いづくそれを「んぁ」とか言って口に咥えて、自分の尻から淫靡な水音を奏で始めた。

 その指先は明らかにアナルの中を出入りしていて、何のためにそうしているのかというのはもちろんアナルセックスのためなのだろうが、憧れの虎が厳めしい顔のままちんぽをしゃぶりケツを慣らしているその光景には眩暈すら覚えるほどで、俺の頭は沸騰しそうだった。


 こんなエロい人だったのか、これはどこのアダルトビデオか、カメラでも回っているのかと思ってしまうほど、筋肉の隆起した広い背中をくねらせる虎の姿は煽情的だ。

 肉厚で、逞しい背中と広い肩幅に負けじとぼぼんと豊かに膨らんだ尻はバスケットボールを二つ並べたように丸々としていた。

 骨太な腰と肋骨の間を埋める脇腹は相対的に引き締まって見えるものの、ラーメンによって形成された確かな脂が目立っている。

 それらを一望する俺には、ただでさえその体が魅力的に映るというのに、涎を垂らしながらちんぽをしゃぶってくるどころか自ら尻孔を弄って念入りに下拵えする好色さに衝撃を受けた。

 口でするだけで終わるのだろうかと思っていたこともあって、まさか俺に挿れさせてくれるのか、という驚愕にちんぽが喜んで涙を流す。


 屈強で、無愛想なこの虎は傍目にも男らしさに溢れているし、味の求道者らしいストイックさもあってとてもじゃないが性欲にうつつを抜かすイメージは持てない。

 それが今、男のちんぽ欲しさに自ら尻を弄っている光景に、虎宮幸平という虎がどういう雄なのかとその本質を思い知らされるようで、頭がどうにかなりそうだった。


「お、俺もすぐイっちゃったらすいませんっ……! 虎宮さんエロすぎるから、我慢できないかも……っ」


 でっぷりとした腰を揺らし、自分のデカケツを割るように背中に回していた手で尻を弄っていた虎は、やりづらさを覚えたのか今となっては体の前から腕を股間に伸ばしていた。

 股の下から自分の秘所をまさぐる虎は、自分の指を尻に突き立ててちんぽを咥えたまま俺の声に「フッ」と鼻を鳴らすので、下腹部を鼻息の風圧が撫でるのを感じた。


 ちんぽを舌で緩慢に撫でながら、じっと耐えるようにフゥフゥと鼻で呼吸を繰り返す虎は、察するに指を複数本突き込んで無理やり穴を拡げているに違いない。

 なんとなくその所作が手馴れているように感じて、俺はさらにちんぽを跳ねさせる。

 もはや嫉妬しているのか、単純に興奮しているのかというのはわかりそうもなかった。

 ぷは、と口からちんぽを放した虎が言う。


「……いっぱい、イっていいっすよ。そのほうが……嬉しいんで」


 その口元がわずかに微笑んでいるように見えたのは、おそらく気のせいなどではないのだろう。

 のっそりと体を起こし、俺のちんぽから距離を取った虎は、仰向けになって中途半端に身を起こしたまま固まっている俺を跨いでしゃがみ込む。

 立ち上がりざまに足の関節に溜まっていたジャージとパンツを行儀悪く足だけで完全に脱ぎ去って、パイル生地の白靴下を履いたまま蹲踞する虎は明らかに騎乗位で挿れる気で、それを拒もうなんて考えもしなかった。

 俺はただ、ちんぽを濡らす唾液にぬちゃぬちゃとローションを溶かしながら垂直に立たせてくる虎の手に身を任せるしかない。


「……ふーッ、ふっん゛ん……ッ」


 鼻息荒く腰を落としてしゃがみ込んだ虎は、その容姿もあってとてもじゃないがこれからケツにちんぽをハメようとしているとは思えない。

 頭にタオルを巻いて、黒いTシャツも着たままの虎は現場で休憩を取る土木作業員のようでもあった。このままタバコでも持たせたら、その柄の悪さは完成されるだろうなと思った。多分、吸わないんだろうけど、ともかく。

 そんなナリをしていながら、虎は下半身丸出しのまま俺の腹に自分の金玉を押し付け、重力に負けて項垂れている竿をヒクつかせつつ股を開く。

 大根のようなサイズの虎砲は立派に黒ずみ、赤らんで腫れ上がった亀頭を俺に向けて腹の上数センチというところで揺れていた。触れてもいないその先端にはすでに滴が浮いていて、脈を打って跳ねる拍子にどろりと糸を引いて借り物のTシャツに垂れ落ちた。

 どこかじっとりとして熱を持つ毛皮の感触は、俺の下腹部に体を預けている虎の玉袋の仕業だ。

 むっちりとして重たげな睾丸はまさに鶏卵大というサイズで、俺はいつだったかサービスしてもらった味付き煮卵がラーメンに二つ並んでいる光景を思い出した。


「……ん、ん゛ぅっ……」


 虎が呻いたのは、手を添えている俺のちんぽに腰を落としたからだ。

 膝を折ったことで圧し潰された太腿の肉がムチッとはみ出していて、紐で縛られたチャーシューを思わせた。

 そして、特大の寸胴鍋もかくやという太い腰が軽々と持ち上がって、ゆっくりと俺の竿目掛けて着地する。


 尻たぶや足腰と同様に、尻の谷間もびっしりと覆う獣毛をちんぽにこそばゆく感じたのも束の間、むちゅっと盛り上がった粘膜を亀頭に感じた。

 既に濡れそぼった陰唇はヒクついて、開閉を繰り返して俺のちんぽを擽る。

 拒んでいるのか、それとも歓迎しているのかというのはわからなかったが、快感であることに違いはなかった。


「っぉ、おぉ゛ぉ……っ♡」

「う、うわ、すっご……!」


 虎の体は俺よりも頭一つほども大きく、プロレスラーもかくやという肉付きをしている。

 ただでさえ全身が筋肉で分厚くなっているというのに、獣人は骨の密度や毛皮のために身長ごとの体積が人間よりも多いと聞いたことがある。

 なのでその体重は百や百十では利かないだろうし、四肢の太さや胴体の肉の付き具合を考えれば百三十、いや百四十キロにも及ぶかもしれない。

 それなのに、そんな質量でスクワットでもするように膝を折ってコンパクトにしゃがみ込みながらも、その体はフラつくこともなくどっしりとした力強さに漲っていた。

 手を添えていたちんぽの亀頭がじゅぷっと肛門に埋没すると、虎は背中を反らせて後方にぐっと突き出した尻を慎重に落としていく。

 前傾したまま俺の顔の両側に手を突いてラグを汚すと、ハァハァと重く、深い呼吸を繰り返していた。


「っぐゥ……っうぅ、フーッ……ふぅッ……!」

「だ、大丈夫ですか……?」


 鼻息が俺の顔にかかるほどの呼吸を繰り返す虎に、思わず尋ねる。

 しかしそれは気遣いのためばかりではなく、熱っぽく息を漏らすたびにふわふわとした腸壁が蠢くのに耐えきれず、危ういところで自分勝手に腰が揺れてしまいそうになるのを堪えるためでもあった。

 問われた虎は、すぐ真下にいる俺を探すように視線を彷徨わせて、やがてその眠たげで愛想のない目に俺を捉えると、口から舌を覗かせながら嘯く。


「……思ッ、たより、デカかったんで……ちょっと、びっくりっす……腹の奥、すげえッ当たってて……っ」


 ぎらりとした歯列に鮮やかな肉色を覗かせて喘ぐ口元はまさしく肉食のそれだ。

 しかしそれが余裕なさげに呻く理由が俺のちんぽにあるというのだから、何ともむず痒かった。

 体格で勝る獣人がいち人間の性器程度に何を、とは思わなくもないが、俺のは太さはそこそこだが長さは人並み以上のモノがあると自負している。

 一時はそれを出会い系アプリでアピールしてセックス目当てにやってきた獣人とワンナイトラブを繰り返したものだったが、さておき。


 ちんぽがデカいと言われて嬉しくない男はいない。

 それも、一生自分とは縁がないと思っていた虎に言われることほど胸が躍ることはないだろう。

 俺は自分のペースをようやく取り戻せそうだったが、次の瞬間それは吹き飛ぶこととなる。


「ッはあ……あっちぃ……」


 虎がねっとりと汚れた指に引っ掛けたTシャツをぐっと捲り上げる。

 脱ぐのか、と思った俺は彼がシャツの袖に両腕を通したまま、裾を首に引っ掛けて中途半端に脱いだことに動揺したわけではなかった。

 その腹周りが飲食業らしい脂肪で意外とむっちりとしていたことでもない。

 白い体毛で覆われた体に、ぷっくりと浮いて主張する肉芽を貫通して光る銀のアクセサリーがあったからだった。


「こッ、虎宮さん、それッ、胸っ……ピ、ピッ……?」


 衝撃でうまく声にならない。

 それも仕方のないことだ、ノンケだと思っていた憧れの人が、実は自分からちんぽをしゃぶりケツを慣らすほどドスケベだった上に、Tシャツの下の乳首は摘まみやすいサイズにまで肥育され金属まで通っていたのだから。

 つまりは何食わぬ顔でラーメンを作っていたあの時も、俺の隣で車を運転していたあの時にも、その乳首にはピアスが入っていたのだ。

 これにショックを受けずしていられようか。


「……あぁ、まあ……若気の至りっすね。……お嫌いでしたか?」

「い、いやッ全然……え、エロくて好きです!」


 平然とそう言い放った虎は俺の声に少しだけ目を丸くすると、ぶっきらぼうに「そうっすか」と呟く。それから俺の着ているシャツを乱雑に引っ掴むと、無理やり上に引っ張って脱がせるのだった。

 完全に全裸になった俺とは反対に、袖から腕を抜くのが億劫だったのか、虎は靴下も脱がずに黒いTシャツで両肩の周りをスポーツボレロのようにぴっちりと保護しながらふさふさとした体毛に覆われた体を晒している。

 両脚で跨いでいる俺が全裸になると、輪っか状のピアスが通った乳首ごとその胸を揺らして、ようやく腰を浮かせた。

 椀状に丸々と膨らんで、大きめのボウルを二つくっつけたようなボリュームの大胸筋が振動でたゆんっと揺れると、ぷらぷらと銀の乳環も一緒になって振れていた。

 それだけで十分俺には悩ましく、一生ネタには困らないというのに、虎は俺のちんぽを的確に責め立てる。

 ぬちゅっ、と虎の膣熱でぬくまった俺のちんぽには、冷房の効いた空気は冷ややかに感じられた。


「そんなら、何よりっす……ぅっ、んん゛、ふぅん゛ッ」

「あッ、ぉあっ……っくぅ、す、すげっ……!」


 前掲したまま床に手を突く虎が、バスケットボールのように尻を上下に弾ませる。

 ぬちゅっぬちゅっと俺のちんぽが蜜壺を出入りすると共に、太腿が押し付けられる尻たぶを叩く音が室内に響き渡った。


 虎の腰使いは激しいものではなかったが、却ってそれがよくなかった。

 ひと呼吸ごとに虎の胎内を突き込み、肉を抉り出すようなピストンをゆっくりと繰り返されて、俺はちんぽの表面に感じる摩擦に歯を食いしばる。

 みっちりと閉じた腸壁を亀頭がかき分けて進み、返し状に張り出したカリ首で柔らかい粘膜をこそいでいく様子がありありと伝わってくる。

 まるで尿を我慢しているときのようなもどかしさと、亀頭責めされているようなむず痒さを虎の尻が上下するたびに感じて、たまらず「ううっ」と呻くしかない。

 急激に喉がカラカラになるような渇きを覚えたのは、何もラーメンの塩分のためばかりではないのだろう。


「ふゥ~……すっ、はあ……すげ、当たるッ……♡ 天本サン、イイちんぽしてますね……ッ」

「そ……そっちも、虎宮さんのケツすっごいです……! あったかくてふわふわしてるのに……っぐぅ! し、締め付けもすごくて……っ!」


 ぐっぽぐっぽと自らの肉をかき出させるように、重たい尻肉を振りかぶった深く長いストロークを繰り返す虎は、俺の顔に息をぶつけるほど前屈みになって上下運動を続ける。

 両手と両足の四点から床板に体重を逃がしているために、ラグの敷かれたフローリングがぎしぎしと軋むのがすぐそこで聞こえた。


「そう、っすか……おれのケツマン、そんなに気持ちイイっすか?」

「き、気持ちいいっです……! こ、こんなの、すぐイっちゃうかも……!」


 その口振りと所作から窺えた通り、初心というわけではないのだろう。

 虎の尻孔はちんぽと見ればすぐに受け入れ、とろりと緩むようによく練られているばかりか、故意に力んで締め付けてくるほど括約筋の扱いに慣れて感じられた。

 騎乗位で自らのしかかってちんぽを迎え入れているというのに、虎は排泄するようにいきんで俺のちんぽを押し出そうと膣肉を立体的に絡みつかせてくる。

 かと思えばふわりと緩んでむちゅむちゅと粘膜を擦り付けて媚びてくると、まるで吸い付くように締め付けてくるのだ。

 もはやそれはただの排泄器官では足り得ない、男のちんぽを喜ばせる新種の何かに成り果てていると思えた。


「ん゛ッふぅう……イイっすよ、たくさんイってもらっても……♡ おれのケツに……天本サンのザーメン、いっぱい出していってくださいっ……♡」


 しかもそれを、こんな見た目の虎が備えているのだ。

 日中あれほど冷めた目つきで、己の作るラーメンにのみ心血を注ぐ現代の職人が、熱っぽい吐息で男の子種をねだりながら腰を振っている。

 色事や女遊びなんかよりも大事なことがある、と言わんばかりの求道者が、性欲に夢中になってあられもなく乱れている……それも、俺の前で!

 そう思うと、金玉がグツグツと煮えるように熱くなって、ちんぽに注がれる血流が一層勢いを増すのを感じた。


「す、すげっ……! 虎宮さんのケツ、超トロトロなのにめっちゃ動いてる……っ! や、やべえっこれ……!」

「っふー、フゥッ……っぐ、うぅうッ……♡」


 虎はどしんっと深くまで振り下ろした自分の尻をぐりぐりと俺の下半身に押し付けて、のっそりと起き上がる。

 頭に巻いたタオルで逆立てられた獣毛が毛束を作って乱れているのは、きっと汗ばんでいるからだろう。

 太腿に触れている虎の尻はそう思わせるほどの体温を伴っていて、内に熱がこもった虎の膣肉はまさに溶けそうなほど温かかった。


「うわっ……!」

「ぅっ……ふぅ、ふぅ~ッ……♡」


 俺が声を上げたのは、体の上で蹲踞する虎が上体を起こし、背筋を伸ばした拍子にぐりぐりと尻肉が押し付けられたからだ。

 完全に両足の二点だけで体重を受け止める虎の足は絶えず力強さに漲って、一回り大きくなって張り出している。

 虎はそのまま胸の前で腕を組む。まるで寄せて上げるように、自らの大胸筋を押し潰していた。


「ふ~ッ……どうッすか。重く……ねえっすか?」

「だ、大丈夫です……それ、めちゃくちゃエロいです……!」

「……そうっすか」


 俺に跨ったまま腕を組む虎は、素っ気ない言葉と共に尻孔をきゅっと締め付けて返事としてくれた。

 まさかそのまま動くのか、という期待に股間を熱くした俺のちんぽが虎の体内を掻くように跳ねて、そのマズルから「ぅぐぉ……ッ」と呻き声が漏れた。

 虎は地面を確かめるように靴下を履いた足指をぐにぐにと動かし、爪先を外に軽く開いて踵を引くと、そのふくらはぎを一際大きく膨らませる。


「っふゥ……ふん、ん゛んッ……!

「わ、うあっ……! す、すげっ……!」


 腕を組んだ虎がその足腰だけで巨体を持ち上げると、下半身は逞しさに漲って俺のちんぽを力強く扱いた。

 それまでの締め付けが噓に思えるほど俺のちんぽをキツく抱きしめる虎の腸壁は、しかしどれだけ熱く抱擁したとしてもその柔らかさがある限りむちゅむちゅとちんぽに媚びているに過ぎない。

 どすんと床を揺らして腰を落とされると、亀頭が腸の行き止まりのような、虎の最深部を突くのが尿道にこそばゆくて、射精の予行のように先走り汁が溢れて止まなかった。


 胸に光る金属輪が慣性に浮くほどの勢いの屈伸運動を行いながら、俺の腰を砕くことなくぎりぎり体一つ分の空間を開けるその腰遣いは流石だった。

 彼がどのようにしてそれを体得したのかというのは議論の余地があったが、今の俺は肝心の議論に用いるだけの頭が残っていなかった。


「ふんっ! ふッ……ふん゛んッ!」

「う、うわっ……すげっ、ちんぽ搾り取られるっ……!」


 ばちゅっどちゅんっと自重のみで跳ねるようなスクワットを繰り返す虎は、いつしか全身の体毛にじっとりと汗を滲ませているのがわかった。

 俺の体をチクチクとくすぐる尻毛もどこかじっとりと湿って感じられて、二人を包み込んで鼻を突く汗臭さは先程より濃厚さを増しているように思える。


 好きな人の体臭は煮込んだ鶏ガラの蒸気を思わせる獣臭さと、ツンとして饐えた男臭さに海産物にも似た生臭さが混ざっていた。

 においの発生源は明らかに目の前の巨体からだろうが、俺の鼻はそれ以外に何らかの臭気を捉えていた。見れば、俺の腹に寝そべる大根のようなシルエットに気づく。

 虎のちんぽはほとんど水平になって勃起しながら、太い腰が上下するたびにべちべちと俺の腹を叩いて、その先端からだらだらと半透明の体液を溢れさせ続けていた。


「っふぅう……はあっ、ふん゛ッ、フンッ……!♡」


 腰を浮かせた虎が、尻から抜けたちんぽの上にばちゅんと腰を落とす。

 引き締まって弾力のある尻肉が俺の前腿を叩き、一気に奥まで滑り込んだちんぽが折れ曲がった結腸の行き止まりにぶつかると亀頭をこねくり回されるような感覚があった。

 竿全体をぬくまった軟肉に包まれながら的確に亀頭を責める膣肉のうねりに歯を食いしばるが、快楽を享受しているのは虎も同じらしく。

 俺の竿に自重を掛けて自らの胎内を抉る虎は、その弾みで俺にびたびたと打ち付けている剛直を伸び上がるようにギンッと血に滾らせると、鈴口からぴゅるっと粘液を跳ねさせる。

 弾道を調整するように砲口を跳ね上げて俺の顔に向けると、ヘソを超えて鳩尾の辺りにびちゃりと水溜まりを作った。

 空気を吹き込んだように太腿を膨らませて再び虎が腰を浮かせると、腸の奥で輪っか状になった筋肉にカリ首の段差に引っかけながら引き抜くような心地があって、その鮮烈な刺激には思わず目をしばたたかせるしかない。


「やっべ、き、気持ちよすぎる……! 虎宮さんのデカケツで犯されてるみたいでっ、すげえエロいです……!」

「ん゛ふーッ、ふぅ~ッ……天本サンのちんぽもっ、イイとこ当たって……っぐぅう♡ おれも、気持ちいいっす……! 腰止まんねぇッ……っぐ、ふぅッ、ふんんッ……!」


 体の前で交差した腕は二の腕の肉をむちっと強調していて、ただでさえ俺の太腿ほど太い腕がさらに一回り太くなって見える。

 腕組みして潰された大胸筋はその分の質量で寄せて上げられていて、虎の図体が上下するたびに艶めかしくたぷんっと揺れていた。

 ラーメン丼というよりはボウルを逆さにしたような大きさで、丸みを帯びた膨らみがどのくらい柔らかいのかというのを想像して止まない俺は、この虎を抱いた男も同じようなことを思ったのだろうと漠然と考えた。


 きっとそいつは、衝動の赴くままに虎の豊満な乳房を鷲掴みにして、まだピアスの通っていなかった頃の慎ましい乳首を丹念に育て上げたのだろう。

 おかげで白く被毛された胸板の中にありながらぷっくりと黒ずんだ肉芽はツンと勃って存在を主張していて、芯を貫いてぷらぷらと揺れる銀の輪っかがよく似合っていた。


 若気の至りと言っていたが、自ら望んで改造したのだろうか。それとも、させられたのか。

 どちらであっても、この虎の乳首が下品に肥大化しているのを目の当たりにするのはまた別の角度から彼の好色性を示しているようで、どういうわけか俺はそれにひどく興奮を覚えたのだった。


「うあっ……すげ、おっぱいめっちゃ揺れてる……! ケツマンも、トロトロなのにめちゃくちゃ締めつけてきて……が、我慢できないかもっ。まだっイきたくねえのに……っ!」

「はふっ、ふぅーッ……! イイ、っすよっいつでもイってください……ッ! ん゛っ、ふんッ……!♡」


 虎はそう言いながら、胸の前で組んだ腕を軽く浮かせた。

 脇を上げて自分の腕と胸板の前に僅かなスペースを作り、その両手で乳首を探る。

 両脇に挟むように腕組みしていた手指に輪っかの通った乳首を捉えると、ぷっくりとした突起を金属輪ごと弾いて自ら快感を貪っていた。


「んッぐぅ……♡ っはーッ、は、っふぅー……! っぐ、るるるっ……ち、ちくびすげっ、ぅお゛ッおぉ~ッ……♡」


 ぐっと宙に向かって両肘を突き出すように腕を交差させる虎の口から熱っぽい吐息が漏れる。

 はしたなく膨らんだ胸芽をつまみ、指の腹で転がすと俺のちんぽを包む腸壁も連動してきゅうきゅうと締め付けてくる。

 尻をほじられるだけで自分のちんぽをガチガチに勃起させて、赤子の拳ほども大きな亀頭から絶えず我慢汁を溢れさせるくらい快感を得ているというのに、虎はそれに飽き足らず更なる性感を自ら得ようとしていた。

 だからこそ、この行為に、俺との性交にそこまで夢中になっているのかと胸が熱くなる。

 高鳴った鼓動でぎゅんぎゅんと股間に血流が集中する。この情欲は、偏に悦びのためでもあった。


「っはぁ、乳首もケツも、やっべぇ……♡ ふぅッ、ふん゛っ……ふーッ!♡」

「っう、あ……すげ、ヤバいです……! ほ、ほんとにっ……イっちゃうかもっ……!」


 自ら乳首を擦りながら下半身の力のみで屈伸運動を続ける虎にちんぽを責められ続けて、もう何分経ったのかは定かではない。

 たったの数分かもしれないし、数十分こうしているような気もする。

 だが、俺は絶頂を迎えてしまえばこのひと時が終わってしまうような気がして、懸命に金玉の裏に力を入れて堪え続けた。

 熱が冷めてしまうのを惜しんで、この光景と快楽を記憶と魂に刻み込む。

 それでも、いつまでも食べ続けられるご馳走などありはしないように、俺のちんぽはどんどん血流と感度を増して射精に備えていた。


「ぐるるるッ……イ、イっすよ、おれのケツん中……ザーメンでいっぱいにしてくださいっ。おれのことっ中出しでイかせてほしいんで……遠慮せずびゅうびゅぅ出してくださいっ……♡ っぐぅ、ん゛ぅうッ……!♡」


 耳朶に響く低音に、俺の強情がじわじわと緩んでいく。

 喋りながら腰を深く沈めてデカケツを俺に押し付ける虎は低く唸ると、乗馬鞭のように俺の体を叩く巨砲から再びぶぴっと粘液を飛ばした。

 閉め忘れた蛇口のようにとろとろと流れ出ている体液は、虎の腰が沈む拍子にどぷっと勢いよく溢れ出る。それは次第に白く濁り始めているようで、虎は背中を僅かに丸めたまま半開きにした口を涎でいっぱいにしてハァハァと息を荒げていた。

 まさかずっとケツイキし続けているのか、という疑念はすぐに確信に変わった。

 というのも、指先でぐにぐにと乳首を潰している虎の腸壁が俺のちんぽを押し出すようにうねって、「オ゛ぉッ♡」という野太い呻き声とともにびゅるりと潮とも精液ともつかぬ体液をその太いちんぽから分泌させたためだ。


 余裕を持って見えた虎の顔は今や快感に乱れていて、毛皮で見えずとも確かに上気していた。

 ここまで散々叩きつけられた虎の好色さが、ここで牙を剥く。

 あれほど手慣れた様子で男に跨る虎が、ぷっくりと腫らした乳首に装飾具を貫通させるほど淫らな虎が、俺なんかのちんぽでイき続けている。

 その上、更に凡俗なる俺程度の子種を欲して尻を振っている。

 ならばくれてやろう。今すぐにでもこの雌の体に遺伝子を残さねばそれは自分史上最大の損失になる、と理外の衝動に全細胞が同意する。


「ぅ、い、イきそう……マジっ、イく、イきます……ッ!」


 助けを求めるような俺の声に、虎が言葉を返すことはなかった。

 ただ俺を見下ろしながらコクリと頷くのみで、腕を組んだままどちゅんどちゅんと苛烈にちんぽを尻肉と腸壁で扱き立てる。


「ぐぅっ、っふ~ッ……! ふんぅっ、フンッ! ふん゛んっ……ふーっ、フゥーッ♡」


 上体を起こしたまま背筋を伸ばして、寝転がった俺の体に対して垂直に跨りながらも、その鼻息は俺の顔にまで届くほどだった。

 振りかぶったハンマーを振り下ろすように、虎の尻はだぷんだぷんと上下する。

 激しさを増す虎の腰遣いと、うねる腸壁、そして俺に向けられた情熱的にギラついた視線の全てが俺に『早くイってしまえ』と告げていた。

 そんなにこの行為を終わらせたいのか、あるいは俺の精液にただ飢えているだけなのかというのはわからなくて、これっきりで終わらないでほしいという願いだけを抱いた。


「んォ゛ッ……ッ?!♡ っぐぉ、そ、そこッ……奥ッやっべぇ……ッ!♡」


 そんなことを思ったからか、せめて虎の体の奥深くに俺という存在の証を遺そうとした俺の腰がぐっと浮いて突き出る。

 腕を組んだまま打ち下ろされる虎の尻がいつもの調子で沈んできたところを逆に突き上げるようになって、ちんぽがより深くまでずっぽりと沈み込んだ。

 その瞬間、突き当りだと思っていた壁を突き破るような、あるいは閉じていたものを亀頭で無理やりこじ開けたような官能が俺の下半身を駆け抜けた。

 弁状になっている腸壁の門が亀頭をぱっくりと掴んで離さない。

 その腸ヒダに裏筋を擦り付けるように俺は腰を前後させて、全てを解き放つ体反射に身を任せた。


「あーッ、ダメだっ、イくっ、イきますっ!」


 虎がコクコクと頷く。もしかしたらただ快楽に揺さぶられていただけかもしれないが、今更どうでもいいことだった。

 下から腰を浮かせて突き上げた俺は、とろとろの虎膣の中にぐちゅんっと奥までちんぽを突き立てたのを最後に、視界が弾けるのがわかった。


「っぐ、くうぅぅッ……!!」

「ぉ゛おっ……ぉッ、ほぉぉぉお……♡♡♡ ク……クるっ、ザーメン入ってくるッ、ぅおおっおおぉ~~……っ!♡♡」


 かつて、これほど気持ちいい射精があっただろうか。

 ものすごい勢いでビュッと初弾が飛び出て、虎の腸奥を叩く。勢いよく噴き上げるために内腿が筋痙攣で震えて、びゅるびゅるとちんぽから溢れ出る精液は、体内の水分の全てのように思えた。

 心臓の音が大きくなって、喉がカラカラになって、鼓動と共に大量の子種が尿道から押し出されていく。

 俺はぐいぐいと腰を浮かせるように突き上げて虎の柔らかい尻を押し潰し続けると、前腿と足の付け根にちくちくとこそばゆい毛皮を感じて歯を食いしばった。

 どれほど奥で射精しようとも相手が孕むことなどないのに、それでもこの虎のどこかに自分の遺伝子が残ってほしいと脈打つちんぽからは鉄砲水のような勢いで精液が迸っていた。


「っん、ぐるるるぅ……す、っげぇ……!♡ ケツの奥にザーメン当たって、天本サンのザーメンっすっげえ出てるっぅう……ぉ゛おっ、たまんねぇ……♡」


 その声は落ち着いていながら、どこか耽溺した印象を受けた。

 それもそのはずで、虎は猫のように喉を鳴らしながら、だらだらと自分の一物から精液を垂れ流していたからだ。

 俺の腹に広がったどろっとした半透明の水溜まりは、俺が身じろぎするのに合わせて揺れて脇腹を伝ってラグに点々としたシミを作る。どろりと滴が腹を滑るのがくすぐったかった。

 結腸の奥深いところへびちゃびちゃと種をまき散らす俺は、忙しなくヒクつかせる粘膜越しに吐精を知覚する虎に胸の内側がカッと熱くなって、腰の奥までその熱が及ぶようだった。


 たまんねぇと漏らした声は、ぶっきらぼうだが丁寧な接客を心掛ける虎には似つかわしくない粗暴な響きを持っていた。

 雌のように犯されて胎内に射精されながら、屈強な雄としての男性性を垣間見せるそのチグハグさに俺はすっかりメロメロになっていて、勢いを失いつつも精液をゆるゆるとこぼしているちんぽをぐいぐいと奥へ押し付け続けた。


「うおぉっ……め、めっちゃ出るっ、っくぅ……!」

「すーっげえ……ケツん中にめちゃくちゃ熱っちィの入ってきてますよ……♡」

「い、今そんなこと言わないでっ……ただでさえ、エロすぎるんですからっ……!」


 囁くように言われた俺はそれだけで胸をかきむしりたくなるような切なさに襲われて、射精しながら股間が熱く脈を打つのを止められない。

 虎はそんな俺の胸中を知ってか知らずか、尻孔をヒクつかせつつ、腹腔をいきませて腸壁をぐねぐねと動かして敏感になっている俺のちんぽを慰撫し続けていた。


「くふっ……イったのにまだガチガチっすね。……これなら、もっかいくらい……イけるンじゃないっすか?」

「えっ……」


 その言葉が意外だったのは言うまでもない。

 この虎の真意をいまいち掴めずにいるのは、都合のいい男として性処理のために使われているだけだと自分に言い聞かせていた節があるからだ。

 だが、このまま二回戦を申し込まれるほど俺のことを気に入ってくれたとは、あるいは単に俺を気遣ってそう言わせてしまっているだけかもしれなくて、俺は思わず聞き返す。


「い……いいんですか? その、実は迷惑だったりとかしませんか……?」

「迷惑……? ぜんぜん?」


 虎はオウム返ししながら、威圧的に組んでいた腕をゆっくりと解く。

 散々自分で弄り続けた乳首はひと回りほど勃起して膨らんでいて、豊かな大胸筋が形を歪めるのに合わせて芯を貫通したピアスを揺らしていた。

 前のめりになって、片手を床に突きながら俺の頬に手を添えると「言ったはずっすよ」と切り出す。


「おれも……天本サンのこと、イイなって思ってたんで」


 その無骨な親指が俺の唇を撫でる。

 肉球を伴う指の腹はどこかごつごつとしていて、手の全体を覆う短い獣毛がちくちくとこそばゆい。


「もっと中出しして、おれの腹ン中ザーメンでいっぱいにして……ガキ孕ませてほしいっす。……ダメ、っすか?♡」


 射精の余韻でどこか冷えた自分が、男同士で子供ができるわけがないだろうと嘲笑う。

 だが、もし叶うならば、万に一つもあり得るならば。

 俺の種で孕んでほしい、この虎と一生添い遂げるための既成事実が欲しい。

 となれば、この誘いを断れるはずがないというのも……当然といえば、当然だった。


 ◇◆


 調子に乗った申し出をした自覚はあるが、虎は快く受け入れてくれた。

 それだけでもやっぱり好きだなぁと思ってしまうのは現金なことだろうか、ともかく。


 じゃあせっかくだから、と俺が指示した通りの体勢を取る虎を眼下に見据えて、俺は思わず生唾を飲んだ。

 俺の目がカメラだったら瞬きのたびにシャッターを切っていただろう。

 それくらいその光景は……両手両膝を突いて尻を突き出した虎は俺にとって扇情的で、蠱惑的で、これだけでもう一生ネタには困らないと思えてしまうほどだった。


「……これで、イイっすかね……?」

「さ、最高です……あの、超ドエロいです……!」


 正座するように足を折り畳んで両膝を突きながら、つま先を揃えて立てた姿勢で座り込んだ虎は力強く頷く俺に「そうっすか」とお馴染みの返事をする。

 剣道や武道で用いられる跪座と言われる体勢から土下座でもするように手を突いた虎は、尻を後方にいる俺に向かって突き出したまま尻尾を揺らしていた。

 もちろん何度味わっても、何時間眺めても飽きることなどないだろう。だが敢えて趣向を変えて、今度は虎の肉厚な体をバックから眺めることにした俺は、想像以上の威力に下半身がぎゅんぎゅんと滾るのを感じていた。


 ただ四つん這いになるのとは違って、靴下を履いたままの足を折って座り込んでいるので扁平だが大きな足裏の上に丸々とした尻肉が重なっていて、球状の肉がむっちりと形を歪めるさまにたまらなく食指がそそられる。

 でっぷりとした尻の下敷きになった足指が靴下越しにきゅっと丸まると、ペアを組んだバランスボールのようなデカケツの谷間で肉井戸がヒクつくのが目についた。

 唇のように血色よく捲れ上がった土手肉が毛皮を押し返す虎の肛門は立派に縦に割れ、こってりと泡立った粘液に汚れている。

 電灯に照らされた尻孔は使い込まれ、よく練り込まれた色素の沈着具合をしていて、処女ではないだろうとは思っていたもののここまで立派に育ったそれはもはやただの排泄器官に留まらない。

 あるいは、ただ男を悦ばせるためだけの器官と言うべきか、ともかく。


「すっげ……ケツ穴丸見えですよ、虎宮さん……」


 タイムリーな抽挿で、潤滑液と体液に濡れた虎膣はもはや窄まりというには盛り上がりすぎていて、こうして何もせずとも既に指二本分くらいは易々と受け入れそうなほど拡がっていた。

 慎ましさの欠片もない下品な陰唇に視線を感じたのか、虎は気まずそうにぐんにゃりと尻尾を躍らせる。

 肛門から門渡りを経て繋がっているふくよかに実った玉袋が、表面の黒縞を隠すようにぐぐっとせぐり上げるのがわかった。


「あ、あんまり見ねえでください……」


 虎は居づらそうに腰を揺らし、肩越しに俺へ振り返って弱々しく声を上げる。

 普段のぶっきらぼうな調子や、堂に入った印象とはかけ離れたトーンの声にゾクゾクと心の仄暗い部分が満たされるのを感じる。

 自分は彼の好意に甘えている立場なのだから、増長してはいけないと思いつつも、虎が自分の思い通りの格好をしてくれていることにすっかり舞い上がったこの口は無責任に言葉を紡ぐ。


「なんでですか? 恥ずかしいんですか?」


 アレだけのことをしておいて何を今さら、と言外に含めた俺は、虎の尻たぶを撫でる。

 空気を吹き込んだようにでっぷりと膨らんだ尻肉は、押せば押すほど手が沈みそうなくらい軟らかい。

 しかし肉に食い込む俺の指に息を呑んだ拍子にがっちりと強張って俺の手を押し返すので、立派な筋肉で構成されているのだと思い知る。

 必ずしも脂肪だけではないのが伝わってくる肉感を、俺は贅沢にも片手で握りこむように堪能しながらその表面を覆う縞々の毛並みを指間で楽しむ。


「は、はい……恥ずかしくて、その……ケツ、疼いちまうんで……っ♡」


 身じろぐように虎が腰を揺する。

 コンパクトに脚を折り畳んだまま、ぴっちりとした黒いシャツに覆われた肩甲骨と広背筋をぼこぼこと隆起させながらも背中にゲレンデのような艶めかしい斜面を作り、ちらちらと背後の俺を見ている。

 正直な話、一回射精したにもかかわらず俺の股間は既に再びの臨戦態勢を取っていて、心の声に従うままむっちりとした腰を両手で掴んでラフに腰をぶつけたいところだったが、危ういところでグッと堪える。


「っぃ……!!♡ っあ、指っ、指ちんぽきたっぁ……♡」

「やっぱあんだけローション減ってたってことは……普段からケツ弄ってるんですか?」


 捲れ上がった陰唇や尻毛を汚す粘液を突き戻すように無遠慮に人差し指を差し込むと、きゅっと虎の腸壁が窄まった。

 みっちりと肉が詰まった直腸は細指を括約筋で締め付け、押し出すように腸壁を迫り上げてその身を押し付けてくる。

 先程まで人のちんぽを咥えて好き勝手しゃぶりつくしていたくせに、何とも欺瞞に満ちた蠕動をするものだと感心した。


「し……してるっ♡ ケツでっイかねえと……スッキリできないんでっ……っあ、あぁっ……♡」

「うわ、エッロ……何かディルドとか使ってるんですか? それともやっぱ誰か引っかけたり?」


 言いながら、自分の声が少し意地悪な響きを持ったことを自覚していた。

 抑えきれぬ嫉妬心が滲み出たことを後悔するが、虎はふるふるとかぶりを振って丸耳をぺったりと寝かせたまま答える。


「い、いや……最近はずっと、一人で……っ。ベッドにいろいろ置いてるんで、寝る前にケツ弄ったり、とか……♡」


 へぇ、と俺は感情を押し殺して相槌を打つ。頭の中で先程チラ見したベッドルームの様子を思い返しながら、突き出される尻をほじり続けた。

 高さの低いダブルベッドに全裸で寝転がって、どのような体勢で自分の尻孔を弄るのだろうか。ベッドに放置するほど日常的に玩具を使っているのなら、きっと様々な相棒を所持しているのかもしれない。

 俺の知らない虎の痴態を思い描くのは、これが初めてではない。だが、何故その場に俺がいなかったのかという理不尽な思慕が今この場では強く俺を突き動かす。

 人差し指に中指を合流させて、二本指で円筒状の腸壁をこそぐように円を描くと「んお゛ぉッ♡」と虎の尻が跳ねた。

 肉厚な質量がゆさゆさと揺れて空気の流れを乱すと、饐えた汗臭さが俺の鼻まで立ち上った。一日働いた男の体臭はけして良い香りとは言えなかったが、ベッドでアナニーしている虎を想像するのにぴったりの男臭さだった。


「虎宮さんのアナニー、エロそうですね……!」

「はうっ……ん、ぅぅ……っ♡」


 床に拳を突いて上体を中途半端に起こしたままの虎が言う。

 できれば直接、もしくは撮影した動画でも構わないから見せてほしいと申し出るのはさすがに調子に乗りすぎだろうか。

 俺は二本指を鉤状に軽く曲げて、虎の膣内を前後させて出入りを繰り返す。

 むっちりとした尻が弱々しく震えて、「んぐぅうう~っ♡」と唸り声が聞こえた。


「こんなケツしてるからアナニーもすごいんだろうなぁ……虎宮さんのえっちなとこ、全部見せてほしいです……っ!」

「っふぐうぅ、うぅ~~~っ……♡」


 ずぼずぼと虎の尻孔をほじるのに夢中になっている俺は、この拡がりきった淫肉をベッドで一人シリコンの玩具に犯させる虎を懸想する。

 仕事終わりの熟れた肉体を一人で慰めるその光景はとんでもないエロティシズムに満ちているように思えて、俺はこれまでその機会を損失していたことを惜しんで虎の尻から指を引き抜く。

 ぱっくりと口を開けて物欲しそうにヒクつくアナルに、今度は親指を突き込んだ。あっという間に母指球近くまでずっぽりと咥え込んだ虎の尻は、これまでとは質の違う手マンに驚いているようだった。


 俺は親指以外の手で虎の尻肉を指の腹に捉えると、握りこぶしを作るように親指に力を込めた。

 母指が腸壁をみちみちと押し拡げて、俺は指の腹でふわふわとした内臓を味わう。

 手のひらにはふさふさとしていながらじめっと汗ばんだ尻毛に覆われた尻肉がむちむちと触れていて、なんとも贅沢な気分だった。

 サムズアップしたまま手首を回して肛門を無理やり外側に拡げながら、前後にずぼずぼと抜き挿しを始める。


「っん゛ぎ、ぃい~~ッ……! け、ケツ拡がっちまうぅう……♡」

「すっげえ拡がってる……やっぱ慣れてるから、これくらい余裕ですね……!」


 そのうち、出入りする指に抗って蠢く腸壁が、中に出された精液をひり出してぶぴっと白濁が虎の肛門を汚す。

 もったいない、と俺はそれを指にまとわせて、再度中に送り返してやる。二度と出てこないように、腸壁に摺り込むつもりで指の腹で柔肉を撫で続ける。


「んぐぅう……っ♡ あの、そ……その……」


 虎が言うので、手を止めて顔を上げる。

 肩越しに俺を見る虎は、頭に巻いたタオルに片手を添えながら言う。


「ケツ、いじるところ見たかったら……今度、動画でも送りましょうか……?」

「いッ、いいんですかっ……!? ていうか、動画……?!」

「う、うっす……♡」


 まさか自分からそんなことを言ってくるとは。

 やっぱ自撮りとかストックしているのか、それを他人に送るのも慣れっこなのかと動揺する俺を他所に、虎はタオルの下から懇願するような目つきを俺に向ける。

 それから、期待と劣情とがないまぜになった雌の顔で続ける。それは明確なおねだりだった。


「そンで……エロいと思ったら、興奮できたら……おれのケツに、本物ちんぽハメてほしいっす……♡」


 殺し文句というのはこういうことを言うのだろうか。

 例えそれが、俺のことをアナニー用の都合のいいディルド扱いしているだけだとしても、このケツにちんぽをハメる栄誉を授かれるのであれば、それは人生において掛け替えのない喜びだと思った。

 俺は矢も楯もたまらず指を引っこ抜くと、膝立ちになって虎の尻の谷間にちんぽを押し付けた。


「も、もちろんです! こ、コレがいいんですよね……?!」

「っあ……すっげ、硬ってぇの当たってる……♡ あんなに出したのに、まだこんなに……♡」

「こ、虎宮さんのケツがエロすぎてずっと勃ってました……な、生意気言ってすいません……!」


 毛並みの色合いもあって、ホットドッグのように尻肉に挟んだちんぽを前後させてケツズリする俺は、虎が俺のちんぽを欲していることの興奮と、そんな虎を前に優位を気取っていたことの罪悪感に押し潰されてわけのわからない謝罪を口にする。

 尻の谷間の毛皮は湿っていて、豊満な臀部を感じながらじゅりじゅりと濡れた毛束にちんぽを擦りつけるのはまた別種の快感だった。

 虎は「そうっすか」とまた気のない返事を呟いて、しかし照れ臭そうに続ける。


「……うれしいっす、おれのケツでちんぽ硬くしてもらえて……もっといっぱい、使ってください……っ♡」


 声は淡々とした調子だったが、高揚を抑えきれていなかった。囁くような低音は俺を誘うようにどこかうっとりとしていて。

 何かが爆発するような、あるいは千切れるような感じがあった。

 かつてないくらい股間に血流が集中して、全身が血液不足で脳がくらくらするほどの勃起に俺はもう何も考えられない。

 たった一つの重要なことを除いて、あとはもうどうでも良く思えた。


「じゃ、じゃあ遠慮なく……挿れますっ……!」

「うっす、ケツにちんぽ欲しいっす……っお゛♡」


 膝立ちになって陰唇の中心に亀頭をあてがっただけで、虎の肉壺がヒクヒクと喜ぶのがわかった。

 餌に食いつく魚のように口をパクパクさせるそのはしたない肉孔めがけて腰を突き出すと、執拗な、あるいは入念な準備でしとどに濡れた腸壁の間に俺の屹立がにゅるんっと滑り込む。


「ぉッお゛ほぉお~~っ……き、キたっ、あ~ちんぽたまんねぇっ……♡」


 ちょうど俺のちんぽの形になるように型取りしたみたいに、あと一ミリも動かす隙間がないというくらいに突き込まれたちんぽに腸壁が密着してくるが、それがこの虎の欺瞞だということは知っている。

 だから俺は、理不尽にも近い怒りを腰に滾らせて思い切り腰を引くのだ。


 散々ちんぽを咥えてきたくせに、今更初心ぶってんじゃねえ、と。

 そんな見た目のくせに、ドエロいマンコを隠しやがって、と。

 言えるわけもない不条理でちんぽには青筋が浮かんでいる。

 ガチガチになった怒張はまさに天を衝く勢いで、代わりに虎の膣奥をこじ開けて破城槌のように叩き込まれた。


「んぐぉ゛ッ、おぉぉおっほぉおおぉ~……ッ!♡♡」


 びくん、と虎の背筋が弓なりに反る。

 それでいて綺麗に跪座のまま膝を折っていて、逞しい背中が艶めかしいラインを作るのがますます股間に悪かった。

 もはや俺は自分のちんぽをこの虎の体で気持ち良くすることしか考えられず、でっぷりと肥えた腰を無遠慮に後ろからホールドすると、膝立ちになってガツガツと腰をぶつけ始める。


「っはひぃ、すっげ……は、はげしっ、ケツめくれちまうっぅ……!♡」

「す……好きにっ、使っていいんですよね……?!」

「う、ぅっす、もちろんっす……♡ おれのケツ、オナホに使ってくださいっ……♡♡」


 両手に感じる虎の腰肉は、硬く重々しい腰骨を骨組みにして厚い筋膜を張りながらも、その上に脇腹や腰の肉がむっちりとした脂の層を作っていた。

 俺が二人並んでちょうどいいくらいの腰回りは堅牢で、何よりも重厚なのに尻孔の奥までちんぽを突き込まれただけで情けなくぶるぶると震えるのが何よりも痛快だった。

 腰をぶつける度に巨大なスープボウルを二つ並べたような尻の表面が振動に波打って、触れずともその尻たぶの軟らかさを俺に伝えてきていた。


 同時に、醜い悋気の業火が俺の内を焼き付ける。

 一体この虎をここまで淫乱に育て上げたのはどこのどいつなんだ、と無辜の怒りを凝らせても矛先を向けるべき相手は見当たらない。

 結局八つ当たりのように、虎を突き回す俺の腰遣いは荒々しく、独善的だった。


「おっ、おぉぉ゛おっ♡♡ っすげ、すぅ、ぐぅうううッ……んぎッ♡♡ お゛ッほぉおッ……♡♡」


 それでも虎は嬉しそうに尻尾を躍らせて、嬌声ともつかぬ濁声を上げていた。

 蜜で溢れかえる肉壺を熱杭が突くたびに悩ましい水音が響く。

 俺の腰が虎の尻を叩く打擲音とそれが混ざって、ぱちゅんぱちゅんと一定のリズムで拍を取る。

 縦に割れて捲れ上がった虎のアナルはかき混ぜられて泡立った精液に汚れ、抽挿にかき出されたこってりとしたホイップが玉袋まで垂れていた。

 足裏の肉球をぐっと反らせ、爪先だけを立てた足先が快楽に緊張すると、虎の丸々とした尻肉も力強く引き締まるのがわかった。


「はふ♡ っはぁーっ♡ や、やべぇ♡ ケツたまんねええッ♡♡ んん゛ッ、っぐおぉぉお~~ッ……♡♡」

「す、すげえ声……! 虎宮さん、ケツ気持ちいいですか……っ?!」

「っぅ♡♡ うぅっす♡♡ ケツマンにちんぽズボズボされんのぉ気持ちいいっすぅ……♡♡♡ ん゛っぅう、も、もっとぉお゛っ……♡♡」


 両手で保持している太い腰がぐらつく。膝を突いている虎が尻を振って俺に媚びたのだ。

 男のくせに尻孔を犯されたいがためだけに腰を振って、男相手に媚びを売る虎の様子が胸の内と腰の奥を劈いた。

 その媚態が俺に向けられているのだと理解すると、自重を支えて体を前後させる膝に更に力が入る。

 自分が気持ちよくなるためだけにしていることが、この虎を悦ばせているという一体感で腰がヘコヘコと前後して止まらなかった。


「んっはぁぁあ♡♡ ちんぽっ、チンポすっげっぇえ゛♡♡ すげ、ケツからぐちゅぐちゅエロい音してっ……お、おれのケツ穴めくれちまぅっうぅぅ……♡♡♡」

「っはぁ、はーっ、虎宮さんっ……! 虎宮さんがエロくてっ腰止まんないっす! 虎宮さんも、ケツ気持ちいいっですか……っ!?」

「ぉ゛っぉぉおおっほぉおぉッ♡♡♡ ぅぎっ♡♡ きもぢいぃっ♡♡♡ ナマちんぽでケツ穴ほじられて気持ちいいっすぅぅう♡♡♡ んはあっ♡♡ すごっ、奥やっべえ♡♡ ごんごんキてっ、マジ気持ちいいッすっこのおちんぽすっげえぇ゛ッ♡♡」


 背中をぐっと反らせた虎の頭は、腰をぶつけられる振動で首の据わっていない赤子のようにがくがくんと揺さぶられていた。

 その口からは、あられもない悦びの声が堰を切ったように溢れ出す。これまでの彼の印象からは全く考えられない、淫語のオンパレードだった。


「こ……虎宮さんでもそんなこと言うんですね……!」

「ぅうっすぅう♡ こ、これっ、ケツヤバくてっぇ♡♡ 声っ出ちまうっ……ご、ごめんなさいぃっぃ♡♡ 声、うるさいのにっぃ♡ ちんぽすごくてっ抑えられねぇっえ゛ぇっ♡♡」

「いいですよ、声出してくれて俺も嬉しいです……! もっとエロいこと、いっぱい言ってください!」


 虎の行き止まりを槌に見立てた亀頭で無理やり掘削するように長めのストロークで腰を振ると、弓なりに背中を反らせた虎の肩がビクンと跳ねる。

 ちんぽをふわふわとろとろとした軟肉で締め付けるこの腸管は、行き止まりと思っていたところから更に奥へ折れ曲がり、窄まりながら続いていることを俺は知っている。

 指では届かない最奥を目指してちんぽを突き込むと、亀頭に吸い付くように締まる狭い肉のリングがカリ首に引っかかってぞくぞくとした官能が背中を駆け抜けた。


「んん゛ぉぉおっほぉおお~~~っ♡♡♡ そこッ♡♡ そこやっべえ♡♡ 奥っ、奥だめっすぅぅ♡♡ ケツッ気持ち良すぎてぇっ声出ちまうんでぇっ……♡♡」

「い……いいですよ。もっと声出してください、もっと虎宮さんのエッチな声聞きたいです……!」

「だ、だめぇ♡ おれっおれ声でかいからぁっ♡♡ は、恥ずかしっ、恥ずかしいっすぅ……んん゛ぅ♡♡♡」


 確かに声は小さいほうではないが、かといって大音声を上げるような印象もない。

 淡々と抑揚なく喋る虎の声はどちらかというと控えめなほうだと思っていたが、その口ぶりから察するにもしかしたら声に何かしらのコンプレックスでもあるのかもしれない。

 普段は声が大きくならないよう意識的に抑えていて、それがベッドの上だと出てしまって恥ずかしいのだろう。


 根拠はないので半ば思い込みに近かったが、そんなことを推察した俺はもはや体当たりでもするような勢いで腰を前に突き出す。

 俺ごときの体重がどれほど勢いをつけてぶつかっても平然としているだろう堅牢で屈強な虎の体は、じゅばんっとちんぽで一息に雄膣を貫かれただけで嫋やかに震えていた。


「大丈夫です、虎宮さんがっエロ声出してるのすげえ興奮するんで……! お、俺のちんぽでいっぱい気持ちいい声出してください!」

「んごぉ゛ぉおおおぉッ!♡♡♡ っあぅ♡♡ そンっにゃぁ♡♡♡ 恥ずかしっのにぃっ、声♡♡ ッぁんん゛♡♡ 声っ出ちまうっぅう……!♡♡ んぉっほぉ゛ぉおぉ~~ッ♡♡」

「うあっ……! す、すっげ、ケツの肉に押し出されるっ……!♡」


 突き出した尻の会陰部をこんもりと膨らませていきんだ虎は、尻を穿っている俺のちんぽに対抗するように膣肉をぐっと迫り上げて腸壁をうねらせる。

 しかし立体感を持って迫る軟肉の圧力はたかが知れている。

 いくらいきもうとそれは突き出される俺のちんぽにむちゅむちゅと媚びる程度にしか作用せず、その動きに反して抽挿を繰り返すとちんぽが溶けそうな心地よさがあった。


「ぅっほぉぉおお゛ぉ~~~ッ♡♡♡ まんこっ♡♡ まんこ肉引っぱられりゅっぅう♡♡♡ ぉっふん゛っ♡♡、ケツがぁ、ケツマンバカになっちまうぅぅっ……♡♡」


 自ら尻穴を開閉させて腰を揺らす虎は、嘆くように言いながらもそれを望んでいると思えた。

 もっとこの虎を乱れさせたい、もっと俺の手で与えられる快楽に浸ってもらいたい。

 そんなことを考えた俺は、視界にチラついていた尻尾に目を向ける。

 丸々とした虎の尻が揺れるのに合わせて、それが左右にくねくねと振れるのが目障りだったからとかそういうわけではない。

 ただ、この虎の気持ちいいところをもっと知りたい。そう思ったまでだった。


「っ、ひッ?!♡ し、尻尾はぁ……っ♡♡」

「っあ……す、すいません! 触っちゃダメでしたか……?」

「ん、んぅ……♡♡ だ……大丈夫っす、あの……あんま自分で触ったことないんで……っや、やさしくしてぇ……♡」


 その言葉は意外だったが、考えればすぐに納得できることだった。

 自分で尻尾を触るためだけに腕を背後に回すのは体勢的に無理が生じやすいだろうし、自分でそこまでするほどのものでもないのだろう。

 だから、俺はふさふさとした山吹色の毛並みで隠された尻尾の付け根を指先で探り当てると、太さを測るように片手を添えた。

 まるで刺さった剣でも抜くように握りこむと、意外と根元は太くなっていることに気が付く。

 親指と人差し指でギリギリ輪っかを作れないほどしっかりした尻尾を、俺は軽く力を加えて前後に扱いてみる。


「んぃ゛いっ♡♡♡」

「い、痛いですか?」

「だっ♡♡ だいじょーぶっ♡ っすぅ♡♡♡」


 虎は思いっきり仰け反って唸ったかと思えば、がくんと項垂れてふるふると首を振る。

 ラグが敷かれた地面に手を突いた背中は、床を押す力の反作用で黒い布地越しに肩をぐっといからせていて、その雄々しさに生唾を飲んだ俺は虎の尻尾を揉むように手に力を込めてみる。


 確信があったわけではない。だが、獣人の……とりわけネコ科の尻尾は、根元付近が性感帯になりやすいと話に聞いたことがあったのだ。

 痛くしては本末転倒なので、凝った部位をほぐすように揉む手を動かしながら、腰のピストンを緩める。


「ど、どうですか? 痛いとか、くすぐったいとか……?」


 尻尾を触られるとどんな感じかとヒアリングを行うと、ゆっくりとした動作で虎の肉壺を出入りするちんぽを急かすように括約筋がきゅっと締まる。

 上の口と同じくらい饒舌なそこは、スローテンポで突き込まれるのが物足りないとばかりに管状の粘膜をヒクつかせて裏筋をねっとりと舐め上げてくるので、焦燥感にも似た劣情に下半身が熱くなるのがわかった。


「へッ♡♡ ヘンなっ感じっす♡♡♡ なんかっ、ぁっ……はあ゛ッ♡♡ ケツ、ケツの奥がっじんじんしてぇ……全身っ、ぞくぞくします……っ♡♡♡」

「やっぱくすぐったいですか?」

「す、少しだけ……♡♡ で、でもっ、なんか……むずむずしてっ気持ちいいっす……っ!♡ ぅ、お゛ッぉほお♡♡♡」


 ぶるり、と虎の巨体が身震いして、尻孔が再び収縮を繰り返す。尾骨はそもそも脊椎とも繋がりのある部位だ。神経が束になっているそこは、人間でいえばうなじをくすぐられるようなものなのかもしれないが、ともかく嫌ではないのなら重畳だ。

 手指に触れる毛並みが心地よいのもあって、俺は虎の尻尾を手綱のように力を入れて軽く引っ張りながら腰の動きを加速させる。

 まるまると肥えてうねる縞々の蛇を、ロープを手繰るように手に一周分巻き付けながら尻尾を引っ張ると、虎の膣壁が驚きにきゅっと締まった。


「ん゛おぉぉッぉ゛おぉっほぉぉお~~~~ッ♡♡ こ、これっえ、すっげ♡♡♡ し、しっぽぉ引っぱりゃれてっおにゃほにされてるぅっ、しゅげえぇっ♡♡♡」


 普段の……カウンターに立ち無愛想に接客をこなす姿からは到底想像できない乱れっぷりだった。

 握り拳を押し付けるように地面に手を付いて背筋と首に艶めかしいラインを描く虎は、揺さぶられるままにガクガクと頭を揺らす。


 肉厚な尻を俺に向かって突き出して、姿勢よく跪座を保つ虎の背中の黒縞は背骨を中心に左右対称だ。

 後頭部のタオルの結び目と、背中に広がるスイカのような黒縞を見つめながら、彼が今どのような顔で快楽に喘いでいるのかが気になった。

 寡黙で精悍な顔つきをどう歪めているのか、いやむしろ見られていないと思ってるから存分に喘いでいるのか。


 そんなことを考えていたから、俯きがちに肩越しにこちらへ振り返った虎と目が合って少し驚いた。

 伏し目がちに俺を見る虎は、喘ぎ混じりの大きな口で必死に酸素を取り入れながら口を開閉させている。

 睨んでいるように眉間に力が入った目つきのまま、マズルから涎を垂らして舌を覗かせた表情からは厳つさや威圧感などは微塵も感じられない。

 堪えきれない情欲を色濃く滲ませた目は、淫蕩な期待に満ちて俺を見つめていた。


「ん、ん゛ぅっ……♡ あっあの……もう、イきそうっすか……?♡」

「っえ……も、もうちょっとかな……? な、なんで? キツくなってきました?」

「あ、いえ……」


 虎がふるふるとかぶりを振ると、頭に巻いていたタオルがずるりとズレる。

 結び目が緩んで、一枚のタオルとなってぱさりと落ちるのを虎は手に取りながら、「その……」と続ける。

 体を捻って後ろを向いたまま雌伏し、中途半端に脱いで首に引っ掛けたTシャツに覆われたままの肩ともう一方の腕で上半身を支えながら、タオルを握った手で口元を隠す虎はぼそぼそと続ける。


「あのっ……おれが、先にイっちゃいそうなんで……その、天本サンと一緒にイきたくて……♡」


 そう宣った虎を前に、腰の動きを緩めていた俺は即座にトップギアに入るのを感じた。

 俺を呼ぶ呼称もあって、まるで遊女のような文句を口にする虎の好色さにくらくらと眩暈すら覚えた。


「い……いいんですか? またっ、ナカでイっちゃっても……?!」

「う、うっす♡ お、おれのケツに天本サンのガキ汁仕込んでほしいっす……おまんこに種注いでケツイキさせてくだしゃぃぃ……♡」


 そこまで乞われておいて何もしないのは男が廃るというもので。

 俺はぐっと力強く尻尾を引っ張って、引き寄せられる虎の下半身目掛けて力強く腰を突き出す。

 じゅぶんっとちんぽが蜜壺に滑り込んで、亀頭が虎の結腸までめり込んで締め付けられるのがわかった。


「っぃぎぃぃンッ♡♡ おっ、奥キたっぁ゛♡♡ っこ、これ、すっげぇぇえ♡♡♡」

「わ、わかりました……! 虎宮さんのケツから溢れちゃった分、またいっぱい中出ししますからね……!」

「っはぁ♡♡ うぅっす♡ うれしいっすぅ♡♡ ぁぁん゛っ♡♡」


 腕を伸ばす余力がなくなったのか、上半身を伏せて肘から先の前腕で自重を支える虎の尻はもはや拡がりきっており、ちんぽを挿れたまま指を一本増やせそうなありさまだった。

 捲れ上がった陰唇は立派に盛り上がり、生臭いホイップクリームに汚れてヒクついている。

 虎の腸壁はどこまでも拡がるようで、しかし虎の尻に力が漲ると途端にみっちりと狭まり、ふわふわとした軟肉で突き込まれるちんぽを圧迫し続けていた。

 虎は「ん゛ううぅ♡」と唸りながら足指を丸めると、下腹部をいきませて腸肉を迫り上げる。

 ぐっと膨らんだ粘膜がちんぽを押し出そうと圧力をかけてくる中を、亀頭で無理やりかき分けて最奥に触れると快美感で思わず涎が垂れそうになった。


「んっん゛ぐぅぅうぅ~~~ッ♡♡♡ っぐ、っふぅ~~っ♡♡ フーッ♡♡♡」


 はたと気が付いて見てみれば、伏した虎がマズルに何かを噛んでいるのが横から見えた。

 白くて薄っぺらい生地状のそれが、先程まで頭に巻いていたタオルであることはすぐにわかった。何のためにそれを噛んでいるのかというのも、考えるまでもないことだった。


「声我慢しなくていいですよ、虎宮さん」

「ふぐゥッ……♡♡♡ っふぁ、で、でも……う、うるさいから、おれの声っ……♡♡」

「そんなことないですよ……! 虎宮さんがケツで気持ちよくなってる声、めっちゃエロいんでもっと俺に聞かせてください……!」

「そっ、そんにゃぁっ、ぁ゛んっ♡♡」


 言われた虎は、ちらりと背後の俺を振り返って、「あうぅ」なんてタオルの端を噛んだまま声を上げる。

 俺はまるでちんぽでも扱くように虎の尻尾を握る手をごしごしと上下させて、ただ上り詰めるために腰を前後させ続けた。


「っんぎィい♡♡♡ し、尻尾シコられんのっやっべぇっ♡♡♡ っぉ、っほぉ゛オ~ッ♡♡」

「気持ちいいですか? いいですよ、遠慮しないでいっぱい声出してください……!」

「ん゛ひぃっ♡♡ っひ、き、きもちいいっ♡♡♡ ケツ犯されながらっしっぽシコりゃれんのぉっ、きもひいぃっすぅ♡♡♡」


 のけ反った虎の頭が、舌を突き出して快感に吠える。

 虎の尻孔からは、腰の引き際に腸壁に押し出された精液がすっかり泡立った状態で逆流していた。

 その大部分がどろりと垂れて互いの結合部を汚すのを無視しながら、俺は溢れたマグマを押し戻すように虎の噴火口に熱杭を突き立てる。


「ふぅうっ、ん゛ぐぅぅう♡♡♡ ん゛んっ、っふぅ~ッ♡♡」

「あっ、また我慢して……」


 歯を食いしばってる虎を責めるつもりで、尻尾の付け根をぎゅっと握りしめた俺は硬さを確かめるように力を入れる。

 ぐにぐにとした神経束を押し潰しながら腰を突き込むと、虎の口からは「ん゛はあぁあ゛っ♡♡」と熱っぽい息が漏れた。


「だ、だってぇ……お、おれっ声でかいからぁっ♡♡ うるさくして、嫌われちまう、からぁっ……♡♡」

「そんなことで嫌わないですよ……! 虎宮さんのことは変わらず大好きですっ、かっこいい声いっぱい聞きたいです……!」

「う、ん゛うぅッ……♡ ひぁあ♡♡」


 やはり過去に声が原因で何らかのトラブルがあったのだろう。それを気にして声を我慢する虎がいじらしくて、思わず腰にも力が入る。

 口に出して好意を伝えたからか、体内のボルテージが一段階上がったような感じがして、もう幾らも我慢できないように思えた。

 上り詰めるために、苦しいほど張り詰めた怒張を虎の腸壁に何度も何度も擦り付ける。

 先端から突き込むような大きめのストロークではなく、テンポと速度を重視した小刻みな腰遣いに虎の声の質も変わる。


「んお゛っ、ぉッおぉっほぉお~~~……ッ♡♡♡ っす、すっげえ♡♡ ちんぽっ、ちんぽにケツマンずぼずぼされてるっぅう♡♡ っや、やべぇっす♡♡ ケツでっイっちまいそうっぅッ、ケツイキしちまいそぉ゛っぉおっすぅ……♡♡」

「は、はいっ……! いっぱいイってください、俺もそろそろ……また、中に出しますからっ……!」

「お゛っォッスぅ♡♡ おれのっ腹にタネくださいっ♡♡ おまんこン中にザーメンびゅーびゅーぶっかけてイかせてほしいっすぅ♡♡♡」


 射精を目前にして急にのさばり出した雄性が、俺の中で当たり前だろと吠えている。

 中に出さなきゃ交尾じゃない、子作りではない。こんないやらしいマンコしやがって、今まで何人に使わせたんだ、なぜそれが俺じゃなかったんだ、いつもそうやって男に媚びていたのか。

 支離滅裂な感情が腰の奥からせぐり上げる。胸騒ぎにも似た動悸に喉が渇いて、息が荒くなる。

 経験豊富な虎の膣肉はよく練られていて、俺の稚拙な感情が挟まる余地もないほど肉厚で、理屈や感情を抜きにして本能に訴えかけてくるほど煽情的で……とにかく、極上だった。


「はーっ、はぁっ……! やべ、出そうっ……こ、虎宮さん、イきますっ! 中に出る、イぐっ……!」

「っぅう♡♡ おっおれもぉ♡♡♡ ナマちんぽでっ、おまんこイぐっぅ♡♡ イっちまうぅうッ♡♡ ぐるるるっ♡♡」


 奥の方から迫り上げたり、入り口を締め付けたりしていた虎膣が、それまでとは違う表情を見せる。

 かつてなかった蠢き方は痙攣しているようでもあり、輪っか状になった筋肉による締め付けと、膨れ上がった腸壁の押し出しとを反復するように俺のちんぽを苛む。

 絶頂時の筋収縮ではなかろうか、とちんぽで知覚すると、途端に達成感にも似た充足感で胸の内がいっぱいになる。

 俺がこの人をイかせたのだ、好きな人を絶頂させたのだ、という多幸感は何にも代えがたくて、頭の中が幸せな感情で強制的にいっぱいになっていく。

 脳内に出来上がってしまった、虎を求める神経回路が快楽物質でびしゃびしゃになるのがわかる。

 そして、腰から下が溶けたような浮遊感。

 射精のために高まった圧力と張り詰めた下半身の筋肉に押し出されて、装填された砲弾がビュッと尿道のレールを駆け上がって放たれる。


「だめだっ……イきますっ、イくっ……!! ぐっ、くぅうっ……!♡」

「ん゛おぉほぉ゛おぉぉおぉお~~~ッ♡♡ す、すげえ♡♡♡ ざーめんっ腹の奥にキてるっ……♡♡ んん゛ぅっ、っふぅ♡♡ っふーっ♡♡♡ すげ、まんこっ、おまんこすーっげぇぇ……♡♡♡」


 感度を増した亀頭をねぶるような蠕動に歯を食いしばる。絶頂で過敏になった俺のちんぽから精液を余さず搾り取るように虎の腸壁はぐねぐねとうねっていた。

 ねばねばとした泡液に汚れた尻毛がぬちゃりと俺の肌に張り付くのも気にせず、俺は腰を押し付けながら虎の直腸に二発目の種を注ぎ込む。

 二人の熱気にイカ臭さと生臭さが立ち上って鼻をつくほど虎の尻は淫らに汚れていて、それが自分の仕業とはすぐには信じられなかった。


「ぐっ……っぐぅっ……!」

「ふあぁ♡♡ ま、まだぁ出てるぅっ♡♡♡ まんこにザーメン入ってくるっ、種付けされて孕んじまうぅ……♡♡♡ んん゛ぅっ、っごるるるる……♡♡」


 虎の体内に染み込ませるようにどぷどぷと子種を吐き出す俺は、同時に自分の体にもこの快楽が深く刻み込まれるのを自覚していた。

 もう後戻りができないことをはっきりと思い知る。俺はこの快楽無しに、この虎無しには生きていけないだろう。

 それが自分本位な感情だと知りつつも、この虎も同じように感じていてほしいと思ってしまう。彼にとっての特別を奪い取りたいと思う本能が好き勝手に遺伝子をまき散らす。

 俺のちんぽは虎の腸肉を押しのけながらびくびくと跳ね回り、天井を掻いて脈を打ち続けた。

 そんな俺を他所に、虎は「ぁ゛ッ♡」と声を漏らす。


「ん゛んっ♡♡ や、ぁっクるっ♡♡ ま、またっ、イっ……~~~ッ!♡♡♡」


 少し慌てた調子の声だった。

 えっ、と思った頃には突っ伏すように床に手を突いた虎の背中が丸まって、その腸壁がヒクつき始めていた。


「っい、イぐ♡♡ おまんこっ、またイッ……っぐぅうううううッ♡♡」

「う、わっ……!」


 力強く締め付けたかと思えば、奥のほうからぬっと迫り上げた腸壁に俺のちんぽが押し出される。

 その軟肉がちんぽにむず痒かったのも束の間、いくらか硬さを失った性器は力強い虎の蠕動にじりじりと後ずさる。

 靴下を履いたままの足指がぎゅっと丸まると、それを下敷きにしている虎の大きな尻がぶるぶると痙攣するように小刻みに震えて、太い喉から「ぉおぉおぉ゛~……っ♡」と浸るような声が漏れた。

 やがて俺のちんぽがずるんっと完全に抜けると、半萎えの亀頭で虎の尻毛を突くちんぽの形にぽっかりと開いた尻孔からブポッと間抜けな音を鳴らして空気が漏れて、ボレロ状になったTシャツに包まれたいかり肩を上下させる。


「ぉッおぉ゛♡♡♡ っふぅ、ふーっ♡♡ ぐぅっ、フーッ……!♡♡♡」


 痙攣の波は断続的に虎の巨体を跳ねさせて、伏した大きな背中ごと振動させている。

 その度に口を開けたままの赤黒い噴火口から粘膜が覗き、うねるように蠢いているのが見えた。

 深く呼吸を繰り返しながら、虎は陰唇を突き出すようにぐっと腹に力を入れると、奥に出された精液が摩擦で泡立った粘液と共にブピッと排泄される。

 同じく息を荒げながら、半ば呆然とその光景を見守っていた俺は膣口から逆流した精液が俺のちんぽにどろりと伝うのを見て我に返る。


「だ……大丈夫ですか……?」

「っふーっ、フゥッ……んぐぅっ♡ だ、大丈夫……っす、ちょっと……イってて、戻れないだけっなんで……♡♡」


 肛門性交に習熟した雄は、前立腺や腸壁で快楽を享受して強く絶頂した後もそれが尾を引くと聞いたことはある。

 尻を穿つ棒がなくなった後も、挿入されたままの形で順応してしまった直腸と体が絶頂したままの状態で固定されてしまうのだ、と。

 押し潰したスポンジが時間をかけてゆっくり膨らむように、圧迫され続けた虎の腸壁は今まさに元の形に戻ろうとしている最中なのだろう。

 そして、拭いきれぬ異物感に尻孔がヒクつくたびに物欲しがりな膣肉が蠢いて、それだけで快楽が生じてしまう。

 既に引き抜かれて存在するはずもないちんぽが入っているときの体感覚を思い出しては繰り返し絶頂に至る。


 虎がその境地にあることを見抜いた俺は、苦しいくらいの愛しさで胸の内が詰まっていっぱいになる。

 彼の体に触れたいという原始的な欲求のままに、ゼラチン質を思わせる揺れ方をしている虎の双丘を撫でる。むっちりとして重たい尻肉はメスイキの波紋が伝わるように散発的にぶるぶると震えていた。

 俺はせめて彼の呼吸が整うのをこのまま待とうと思って手にひと巻きしていた尻尾を解放すると、毛並みを整えるように優しく撫でる。

 さらさらとして指通りのいい毛並みは手触りがよく、上等な絨毯を思わせた。


「はっ、はぁっ♡♡ ふぅぅ~ッ……♡」


 俯いて息を整えていた虎が、のっそりと上体を起こす。

 撫でている尻がぐっと引き締まって、俺のちんぽから遠ざかる。

 激しくまぐわってから考えるのも何だが、この後どうしようと俺が二人の展望を危惧するのと同時に、虎は膝の向きを入れ替えるように振り返る。

 完全に俺に向き直ると何かを言われる前に……その場に屈んだ虎はまだ完全に呼吸の戻ってない体を伏せる。


「あ、あの……? 虎宮さん……?」

「ふぅッ……。そのままでいいんで……ちょっと、腰上げてください」


 虎はそう言って、俺に向かって首を垂れたかと思えば、ごろんと身を捻って仰向けになった。

 寝転がってなおドーム状に膨らんでいる大胸筋の頂点で銀の輪っかが上下に震える。

 俺の眼下ではしたなく寝そべる虎の全身を眺めてしまうのは、視線の先にその股間があるからだ。

 びっしりと蔦のような青筋を浮かべた赤黒い巨砲はまだ熱を持ったままで、ぱっくりとカサを開いて著しく充血して勃ち上がっている。

 ごろっとした金玉を内包した陰嚢が丸太のような脚の間に垂れて、呼吸するように伸び縮みしているのが辛うじて見て取れた。


 その体をもっとよく見たいと騒ぐ本能のまま、俺は尻を上げて膝立ちになる。

 仰向けになった虎の顔前に股間を突き付けるのは些か恥ずかしく感じたが、虎はお待ちかねとばかりにシックスナインでもするように俺の股下に潜り込む。

 ハァハァと息も荒いままマズルの鼻先に俺の股座を捉えると、Tシャツの半袖を通したままの腕で下から俺の腰に抱き着いてきた。


「う、うぅっ……!」

「んん゛っ……♡♡ っは、がふっ♡ ぐっ、んん゛ぅ~ッ……♡♡」


 そのまま舌を出してぺろぺろと俺の股間をねぶる舌遣いに俺が呻くと、虎は鼻先を俺の局部に押し付けたままフンフンと昂りを隠さない鼻息をぶつけてくる。

 たまらず前掲する俺は、マズルの鼻先から喉を直線に均すように仰け反る虎の口に欲しいものをくれてやることにした。


「ん、ぶっ♡♡ ぉごっぉ……ぐ、ふぅーッ♡♡ んん゛っ、ちゅぶっ♡♡♡」


 黒鼻で必死に酸素を取り入れながら、粘液まみれでねとねとのちんぽを口に受け入れた虎は丹念に舌を遣う。

 相変わらず口の中は負けず劣らずの軟らかい粘膜に満ちていた。竿にまとわりついた汚れを洗うように吸い付いて、虎は口をいっぱいにする不快な粘液を喉を鳴らして嚥下する。


「ふーっ、っふぅ♡♡ んっぐぅ♡♡♡ っぐ、ごっぉぉ♡♡♡ んぐぉッ……♡♡」


 自分の尻の中に入っていたモノだというのに、自ら進んでお掃除フェラを買って出た虎は、しかしそれだけに飽き足らず太い腕で自らの胸板を探る。

 ピアスの通った乳頭を自ら弾き、かと思えば摘まんで刺激する手つきは性感の得方をよくわかっているようだった。

 しばらく両手で自らの胸をまさぐっていた虎は、しかしその内の片方を自分の股間に伸ばす。

 雄大な竿は十全に膨張した状態で仰向けになった腹にもたれてふんぞり返るようにピクピクと期待に脈を打っていて、既に自分の腹毛を湿らせるほど涙をこぼしていた。

 散々ケツでイっただろうに、今度は扱いてイくつもりかと思った俺の予想は外れることとなる。


「んっぅう……♡♡ っぶぁ、すげ……はぁーっ♡♡ ん゛ごぉっ……じゅぶっ♡♡」


 口からちんぽを離した虎は、僅かな息継ぎの後に再び口いっぱいに半勃ちのそれを咥え込む。

 仰向けになって俺のちんぽにしゃぶりつきながら、今度は自分の股間どころか尻孔に手を伸ばしていた。

 毛皮の上からでも大腿筋が隆起して見える太い脚を持ち上げて、がばっと大きく股を開くさまはダイナミックだが、同時にひっくり返したカエルのようで滑稽でもあった。

 しかし自分がどう見られているかなど意に介さず、虎は靴下を履いたままの足先を宙に漂わせてぐちゅぐちゅに熟れたケツへ手を伸ばすと、おっかなびっくりという手つきで濡れた尻毛と陰唇に触れる。


「ふぅ~っ♡♡ ん゛ぶっふうぅ……♡♡ っじゅぶ、ぁぐ……ん゛、むぉお……っ♡♡」

「う、うわ……! すっげ、エロすぎますって……!」


 くちゅくちゅとわざと音を立てるように、虎の指が浅く自らの尻孔を出入りする。

 中から溢れた精液を指に絡め、毛むくじゃらの手指で柔らかな粘膜を擦る手つきは段階的に激しさを増していって、注がれた子種を押し戻しているようにも、あるいは掻き出しているようにも見えた。


「ん゛っんん♡♡ っぐ、ふ~ッ♡♡ ぶふぅっ、じゅるるっ♡♡ っふん゛ん♡♡」


 やがて自らの手で得られる性感の最大値を求めて、虎は乳首ではなく自分の性器を握りしめると俺に見せつけながら扱き始めた。

 尻をほじられながら分泌したらしい半透明の粘液に濡れてテカテカと光を跳ね返す亀頭は立派にカサが開いて赤黒く、熟れたプラムのように丸く膨らんでいる。

 血管が蔦のように絡みついた幹も摩擦慣れして黒ずんでいて、ペットボトルと遜色ない大きさだ。

 虎の大きな手でも指が回るのがやっとというその剛直をがっしりと握りしめ、豪快に上下に動かす。ぐちゅぐちゅとすぐに濡れた音が響き始めて、傍若無人な雄棒は虎の武骨な手の中で跳ね回って涙を流して悦んでいた。


「んぶっ♡♡ っふ~♡ っんぐぇ、じゅるるっ♡♡ んん゛っ……ふぅーッ♡」


 その光景は、既に二回も絶頂した俺にとってはなおも煽情的に映った。

 寡黙で無愛想ながらも、あれだけ実直にラーメンと客に向き合っていた男がここまで淫奔だったとは思わなかった。

 いや、プライベートな一面など知る由もなかったのだから、それがどのようなものであってもおかしくはないはずだ。

 そう知りながらも、頭に巻いていたタオルすらかなぐり捨てて貪欲に快楽を求めるさまはやはり意外で。

 彼もまた一人の男であると身近に感じると同時に、予想していなかった乱れように衝撃を禁じ得ない。


 だが、それに対してマイナスな感情は抱かなかった。驚きこそすれ、引くようなことはなかった。

 俺の手で、俺の前で淫らなプライベート姿を見せる虎を好ましく思うのは他に何も考えずに済むからだ。

 快感に喘いで、自ら性器を擦って、他人のちんぽを求める姿は浅ましく、そしてわかりやすい。

 余計な思惑も感情もここには何もない、と信じられるシンプルな情動に身を任せる虎は間違いなく本能のままに一次的欲求を満たす一匹の雄だ。

 タブーと知りつつどろどろに蕩けて悦に浸るその姿は知的生命体とは思えないただの動物と同じである。


 だからこそ俺は嬉しかった、憧れだった虎が途端に自分より程度の低い生き物になってしまったようで。

 それなら俺の手も届くかもしれないと思えた。

 ならば、共に彼と同じところまで堕ちようと内に燃え盛る情欲へ身を投げ出すのは脳が痺れるような陶酔感を伴った。

 俺は倒れこむように虎の体に折り重なる。

 表皮に染み込んだイカ臭さがうっすらとしたアンモニア臭を伴ってツンと俺の鼻を痺れさせた。竿の根元で蒸れた汗が揮発しているのか顔を近づければ近づけるほど強烈で、特に玉袋と竿の付け根の間はもはや魅惑の雄臭に満ちて感じられた。


「んぐっ……♡♡ っぶぁ、すげ♡♡ またっおっきくなってきた……ん゛ん♡♡ ちゅ、じゅるっ……♡♡」

「っう……! そ、そりゃあ、こんなの見せられたらっ、んぐっ……勃ちますよ……!」

「んはぁっ♡♡ す、すげっ、ちんぽっ気持ちいぃっ……♡♡」


 お互いの身長差はあったが、虎の一物が大きいためにぎりぎり口には届きそうだった。

 俺はまるきりシックスナインでもするような体勢になると、ちんぽを扱いていた虎の手から奪い取るように自分の手を重ねて、その巨大な肉砲に口付ける。

 亀頭ですら大きく口を開いてやっとという大きさで、根本まで咥え込んでしゃぶるのは難しそうだったが、それでも構わなかった。

 込み上げる愛しさのままにどっしりとして熱い虎の胴体に腕を回すと、虎の腕も俺の腰を抱え込んで、俺達は逆さまのまま抱き合う。

 互いのちんぽを互いの顔に押し付けて、じゅぼじゅぼと口淫の音と荒い呼吸音だけがお互いの耳に届いた。


「んっ、ぐぅ……すげ、虎宮さんのちんぽでっかくて……我慢汁も止まんねえ……っあぐ……!」

「んんぅ~ッ♡♡ っは、ぐるるっ♡ じゅるっ、んぶぁっ♡ こ、これすーっげ……こ、興奮するっ……♡♡ ふ~ッ♡ ふぅッ♡♡」


 その言葉には同意見だった。

 俺の股下から声を発する虎の息がちんぽに当たってくすぐったい。

 抱きしめた胴体の厚みを、毛皮の下でじんわりと蒸れた筋肉を、どくどくと響く鼓動を抱きしめた両腕と折り重なる体越しに感じるたび、目の前の全てを貪りたい衝動に駆られそうになる。

 下敷きになってなおじゅぶじゅぶと俺のちんぽに吸い付き奉仕を続ける虎が愛しくてたまらない。

 彼の全てを食べてしまいたい。彼の感じる性感の全てを担いたい。

 そんな思いで、俺はパツパツにカサの開いた亀頭に次から次へと分泌される虎汁を舌と唇で塗りたくり、手で竿を扱き上げる。

 大きく股を開いた尻の間を虎の手がくちゅくちゅと弄り、ぱっくりと割れた陰唇を撫でるさまを特等席で眺めるのはかなり興奮した。

 しかもちんぽどころか我慢汁飲み放題のおまけ付きだ。塩気のあるねとねとした体液はどことなく生臭くて、ムッとした男性器独特の猥臭とケツからかき出されたザーメン臭と共に味わうと倒錯した臨場感にぞくぞくした。


「んんっ♡♡ っちゅ、じゅるっ……ぶふぅ~♡ んふーッ……ぉごッ、んはあッ……♡♡」


 やがて、虎は充血しきって三度ガチガチに反り立った俺の一物を吐き出し、その先端へ口付けを落とす。

 窄めたマズルから尿道を吸うようにキスをして、黒々とした唇とその周りの毛を濡らしたまま俺のちんぽに息を吹きかけながら言う。


「すっげ、硬ってぇ……♡♡ あの、もっかい……いいっすか?♡」

「んぐっ……えっ、そ、それって……?」


 虎にのしかかっていた俺も口からちんぽを吐き出し、身を起こす。

 人の股の下からそんなことを宣った虎は、自分の尻を弄っていた手で顔の前のちんぽを扱いていた。

 中に満たされていたローション混じりの精液を塗りつけるようにちゅくちゅくと擦る手つきはすっかり俺のちんぽの扱いを覚えたようで、手で輪っかを作って表面を摩擦するのがたまらなかった。

 思わずビクンと股間を跳ねさせると、俺が何かを言う前にその脈動を返事と受け取ったらしい虎が身じろぐ。

 暖簾でもくぐるように股下から退くと、手早く俺に向き直ってその場に座り込んだ虎は、そのまま重心を後ろに預けた。

 そして、呆然としている俺の前で仰向けになりながら、中途半端に脱いだTシャツに袖を通したままの太腕で自らの脚を抱えて、待ちきれない様子で俺を誘うのだった。


「今度は正常位で、おれのケツに挿れてほしいっすっ……またたっぷり種注いでください……♡」


 頭のタオルを解き、靴下を履いたままの足先をぷらぷらと揺らしながら快楽に蕩けきった顔で虎が言う。

 生殖欲に飲まれすっかり落ちてしまった虎に、俺は生唾を飲む。

 少し考える。……だが、どう考えても断る理由がなかった。

 彼が俺のことをどう思っていても、過去に誰とセックスをしていようと。

 今、目の前の物欲しそうな虎を満足させてやれるのは俺だけだった。

 ならば、そうしよう。彼が欲するままに、今夜は行くところまで付き合うつもりだ。俺はほとんど呆然としたまま頷く。


 この頃になると、もはや俺は頭ではなく下半身で物を考えるようになっていた。

 目の前にいるのが好きな人だとか、他ならぬこの虎に求められているとかそういうのはもうどうでもよくって、ただこの雌を孕ませなくてはいけないという使命感のみを携えて、膝立ちになって虎のでっぷりとした下半身ににじり寄る。

 すでにガチガチに勃ち上がった一物をこんもりと盛り上がった陰唇の中央にあてがうと、土手状に盛り上がった肛門に亀頭がぬちゅりと触れ合う。

 まるでキスを交わす新郎のような緊張感で、俺は腰を振り始めた。


「っおぉ゛おぉ……き、キたっ、生ちんぽがぁっおれのケツマンとちゅーしてるぅ……っんあ゛……♡♡」


 虎膣は自らちんぽにしゃぶりつくようにヒクついて、腰を突き出す俺を急かす。

 ぐっと腰に力を入れて突き出すと、虎は俺の腋の下から背中へ手を添えて直腸内を満たす異物に息を漏らす。

 抱きしめられているのを認識すると、この屈強な体が情けなく俺に縋りついているという事実に腰が沸騰しそうになる。

 全身が切なくなって、俺は衝動のままに虎の巨体に体重をかけて自分が種を出すためだけのピストンを敢行する。

 逆流するくらい大量に精液を注がれた蜜壺は抽挿を繰り返すと汁が跳ねるほど濡れそぼっていて、ちんぽを擦るその滑りの良さに思わず唸ってしまった。


「う、っぐう……! すっげ、虎宮さんのケツめっちゃ気持ちいいです……!」

「お゛っ、んぉお゛お~~ッ……♡♡ ん゛んっ、お、おれもっ……天本サンのちんぽっぎもちぃっす……っお゛おぉ♡♡」


 膝を突いたふくらはぎにさらさらとした毛並みを感じる。目をやって確かめれば、縞々の蛇が俺の脚に絡みついていた。

 目の前の雄は両腕で抱き着くだけに留まらず、尻尾ですら俺を求めている。理由や経緯はどうあれこの虎にセックスをせがまれていることが何よりも俺の活力となって、既に二回絶頂したと思えぬ漲りようで俺のちんぽは跳ね上がる。


「っうぐ、ふぅうぅ~~~ッ♡♡ すげっ、三発めなのにっ、おちんぽガッチガチでったまんねえっす、っん゛おぉ……♡」

「っはぁ、はあっ……! 虎宮さんがっ誘うからですよ……!」


 仰向けになった虎の脇に手を突いていた俺は、腰をぶつける振動でたぷたぷと前後に弾む大胸筋に目が留まった。

 十分に鍛えられて膨らんだ筋肉に柔らかそうだと感想を抱いた俺の頭にはとっくに遠慮などなくて、自然と手が伸びた。


「っん゛ぐうぅ♡♡ おっおれのおっぱい、いっぱい触ってくださいっ……んおぉ゛ぉ♡」


 発達した大胸筋は乳房ほども分厚く、しかし立派に張りを感じる軟らかさをしていた。

 むっちりと程よい弾力で指を押し返し、むにむにとした感触が指に楽しい。

 まるで女性の乳房のように扱っていると、虎の体が身じろいだ拍子に一瞬だけがっちりと硬くなって、ただの脂肪ではないんだぞと主張していた。


「すっげ、おっぱい軟らかくて……乳首もデカくて、全身エロすぎますっ……!」


 手のひらに金属の感触を覚えて、俺は胸の突起を指先に捉える。

 ダイヤルを摘まむように人差し指と親指で挟んで、指に力を加えて遠慮なく押し潰した。


「ぁ゛ぎっ♡♡ ちっ、ちくびっ♡♡ ちくびっだめぇ♡♡ ぎもちぃっからぁ♡♡」

「うわ……モロ感乳首にこんなピアスなんか開けちゃって、ここまでえっちな人だと思いませんでしたよ……!」

「っひぃん♡♡ そ、そうっすぅ……♡ え、えっちなこと、好きでっぇ♡♡ ごめんなしゃいぃ……♡」


 俺の口調から責められていると思ったのか、自ら脚を抱えたまま虎が謝罪に喘ぐ。

 別に怒る気のなかった俺は、弱弱しい虎の声に逆撫でされて付け上がる。

 手の中の乳首を引っ張ってみたり、指の腹を擦り合わせるように擦りながら腰を振ると、虎の声がひと際大きくなって愉しい。

 抽挿されるちんぽにかかる膣圧も強まって、怒張を慰撫しながら締め付けてくる膣肉を突き潰すように自分のちんぽを擦り付け続けた。


「だ……だめですっ、許しません……! かっこいいのに、こんなエロい体してっ……そうだと知ってればもっと早くからアピールしてたのにっ!」

「んひゃあ゛ぁっ♡♡ ごっ、ごめんなしゃっあ゛っ♡♡♡ ゆ、ゆるしてぇぇ……♡♡」


 眉間に入っていた力が緩んで、虎の目は完全にとろんと蕩ける。口の端からは舌まで垂れていて、酸素を求めて喘ぐのに忙しくて涎を飲む暇すらないようだった。

 そのだらしない表情を目に焼き付ける。この先一生使えるネタになるだろうと確信していた。

 倒れ込むようにがばっとその体に圧し掛かると、虎の一物がぐいぐいと脈動して俺の腹を押し返すのがわかった。

 熱くてぬるぬるとした虎のちんぽは絶えずトロトロと粘液を垂れ流していて、俺が一突きすると伸び上がるように膨らんで反応を見せるのが愉快だった。


「んんっ……でもっ、淫乱な虎宮さんも好きです……っ! 許さないけど、好きですっ!」

「っぃぎ♡♡ っひあ、ちくびっ♡♡♡ ちくびっすごっぃい゛♡♡ ん゛っ、ぐぅぅうぅ~~ッ♡♡」


 虎の体の上に寝そべるように思いきり体重をかけても、その体はびくともしなかった。

 それどころか俺の背中に腕を回し、むしろもっと密着するように腕に力を込めてくるので、俺も遠慮せずにその胴体に抱き着く。

 腹や胸の表面にもっちりとした脂肪が乗った虎の体は、しかしそれ以上の筋肉を土台にしていて、多少のにおいはするものの全身を覆うふさふさとした体毛もあって極上のマットレスのようだった。

 ちょうど顔の前でたぷんたぷん揺れる大胸筋を覆った汗臭い獣毛に顔を擦り付けながら、俺はその乳首を口に含んで腰をぶつけ続ける。


「ぐるるる♡♡ ん゛ッぐうう♡♡♡ こ、これっ、ケツもっ乳首もっぉ♡♡♡ 犯されてるっ、た、たまんねぇえっ♡♡」


 金属が貫通している突起部分を唇に挟んで、舌で弾くようにねぶる。

 虎の喉から嬌声が迸り、俺の背中に回された両腕に力が入って反応を見せてくれるのが何よりも嬉しかった。


「はぁ♡♡ はぁーッ♡♡ や、やべっ、ケツでっまたイっちまうかもっ♡♡ ざーめんっ漏れちまう……っ♡♡」

「っちゅ、んんっ……イイですよ、ケツで気持ちよくなってる顔、ちゃんと見せてくださいっ」

「んはあぁぁっ♡♡」


 虎はぎゅっと俺の体を抱きしめながら、ぶんぶんとかぶりを振る。

 もしかしたらまだ恥ずかしいなどと思っているのだろうか、だとしたら自分で尻孔を見せつけて誘っておいて今更何をと言わざるを得ないが、さておき。

 完全にハイになっている精神が肉体的疲労を置き去りにして俺の腰を奔らせて、汁気の多い打擲音を室内に響かせる。

 赤子になった気分でちゅぱちゅぱと乳首に吸い付く俺は、ギンギンに反り立ったちんぽを慰撫するとろとろとした膣肉目掛けて雄の本能のまま腰を振り続けた。


「や、やべっ、イきそっ……♡♡ い、イぐっ、出るっ出ちまうっ……!♡♡」


 そのうち、虎がそんなことを言って俺の体をきつく抱きしめる。

 尻でアクメしたりメスイキするだけでなく、手で触れずに射精までこなすのかと驚いたが、セックス巧者であるこの虎ならさもありなんと俺は頷く。

 この状態でイけば虎の腹の毛皮はもとより、俺の体までべちゃべちゃに汚れるだろうというのはわかっていたが、むしろそれを厭う理由はなかった。

 全身に虎の精液を浴びたい、彼のザーメンまみれになりたいという思いもあって、そのままイってしまえと腰で促す。


「い、イっちまう……イっ、ん゛っぐぅぅうぅうぅ~~~……ッ♡♡♡ っぐるるっ、ッフー、フーッ……!♡♡♡」

「っうあ、す、すげっ……!」


 お互いの胴体で挟んだ虎の肉砲からびゅるっと飛び出して互いの腹を叩く粘液を感じると、腸壁がぐねぐねと不規則にうねって俺のちんぽを舐め上げる。

 射精による筋痙攣が引き起こす蠕動は苛烈に俺のちんぽを責め立てていてただでさえ極上なのに、縋りつくように抱き着いてくる虎の体の温度とむわっとした汗臭さに加えて体の間から立ち上るイカ臭さまで感じるといよいよ俺も我慢の限界だった。

 互いの腹に撒き散らされた虎の種汁を塗り合うように体を前後させると、にちゃにちゃと粘っこい水音を腹に感じた。

 裏筋を俺の腹に擦り付けながら、ドプドプと未だに噴き続けている精液の勢いは、俺の胸や顎下のすぐそこまで達しているように思えた。


「っぐぅうぅう、出るっ、ケツマンずぼずぼされてっぇザーメン止まんねっぇええ♡♡ すーっげぇ、このちんぽっやっべぇえ……っ♡♡」

「お、俺もっ、虎宮さんのケツマンコすごすぎて……もう、出ちゃいそうです……!」

「うっす♡♡ い、いっぱい勃起してくれてうれしいっ、うれしいっすぅ♡♡♡ 三発目くだしゃいっ、おれのケツん中っザーメンでいっぱいにしてくだしゃいぃいっ♡♡」


 体の脇から天井に向かって伸びていた虎の足が、ぐっと俺の体を挟み込む。

 丸太柱のようなそれはカニの鋏のように俺の腰をがっしりとホールドしていて、背中に感じる靴下の生地と脚の筋肉、そして熱を持った毛並みにぞくぞくと背筋が騒ぐ。

 粘度の高い重たげな精液をお互いの体になすりつけあうと、互いの境目が曖昧になって一つに溶け合うような感覚があった。

 腕だけでなく脚も使って俺を抱きすくめる虎は、全身全霊で俺が必要だと叫んでいると錯覚して、多幸感と射精欲で頭がどうにかなりそうだった。


「ぅうっ、俺も、もう、イくっ……! イきますっ……ぐぅッ、~~~っ!」

「ン゛ォ゛ぉおっほぉぉおおぉ~~~ッ♡♡♡」


 既に二回射精しているのに、思いのほか早く上り詰めてしまったのは体質のせいもあるが、それ以上にこの虎があまりにも煽情的だったからだ。

 人のことを煽り、誘ったことを責めるように腰を打ち付ける俺は、もはや液状に蕩けた軟体がみっちりと詰まっているだけだと感じられる虎の腸内に三発目の精液を注ぎ込む。


「っんはぁあ~~~っ♡♡ や、やべえ♡♡ で、でるっ、おれもぉっションベン、出ちまうっ……♡♡」

「ぐっ、うぅ……イイっすよ、出してください、全部っ……! 虎宮さんの全部、見せてくださいっ……!」


 幾らか水っぽくなった精液を虎の胎内にびゅくびゅくと注ぎ込む俺は、虎が新たな境地に至ろうとしているのを知って、射精したばかりの遺伝子を腸壁に擦り付けるように抜き差しを繰り返す。

 絶頂を迎えて敏感になったちんぽを無理やり腸壁と摩擦させるのは莫大な刺激を生じて、思わず歯を食いしばった。

 海綿体に満ちた血が引く前に、体に鞭打って前後させる腰は情けなく震えていて、ぎこちないリズムでずぼずぼと抽挿して虎の膣肉を押し上げる。


「しゅげぇ♡♡、ザーメン出てんのに、このちんぽっすっごぉ♡♡ あッ、ほんとにっ、だめぇっ♡♡♡ 出るっ出ちまうっぅうんん゛ッ♡♡♡ っふぐぅんん゛ぅうう~~~ッ♡♡ だ、だめっ、とまんにゃぃぃい゛っ♡♡♡」


 水の流れるホースのように、種汁塗れになって俺の腹と擦れるちんぽの尿道をさらさらとした液体が流れるのが体越しにわかった。

 俺を押しのけるように脈を打つ虎槍から、じょろ……と溢れ出した体液は次第に勢いを増して互いの腹をびたびたと叩く。

 生暖かい飛沫は俺の腹を温めて、ぬちゃぬちゃとした虎の子種を洗い流すように互いの体を濡らす。

 やがて虎の腹毛から脇腹を伝ってラグにシミを作るそれは、抱き着いている俺の腕や胸にまで及んだが、それでも俺は虎の体をきつく抱きしめて離さなかった。


「んごっぉ゛ふぅんん゛ううぅ~~~ッ♡♡ ふ~ッ♡♡ っぐ、ぐるるるっ……♡♡」

「あっ、す、すげっ……押し出されるっ……!」

「っあ、ぬ、抜けちまうっ、ちんぽがっあぁ……♡♡」


 慌てて腰をぐっと突き込むと、虎もそれを手伝うように両脚で挟み込んだ俺にしがみつく。

 だが射精も落ち着いて硬さを失いつつ俺のちんぽは、いきむような腸肉の圧力に負けてずるりと抜けてしまう。

 まるで自ら吐き出すように肛門肉を外に突き出して、俺のちんぽはついに排出されてしまった。


 虎の太脚は依然俺の体をきつくホールドして尻孔からちんぽが抜けてしまうのを惜しんでいたが、尿道から押し出すために腹圧をかけてしまう体反射には抗えないようだった。

 俺の体が下敷きにしている逞しい胴体は小さく痙攣の波に襲われていて、その度に俺の体もビクンと揺れる。

 じょろろろ、と勢いのいい排尿が密着している虎の毛並みをぐちょぐちょに濡らしていくのを感じて、思わず鼻を利かせていた。

 スンスンと鼻を鳴らすが、目の前の山状に盛り上がった大胸筋の谷間から感じる汗臭さが邪魔でアンモニア臭などは感じられない。

 まあ仮ににおったとしても、この虎のものならば喜んで受け止める覚悟だった。


「っはーっ、はぁ~ッ……!♡♡ っう、うぅう……♡♡ ごめっなさぃぃ……び、びしょびしょにしちまって……♡」

「い、いいですよこれくらい……虎宮さんがそれくらい気持ちよくなってくれたんなら、嬉しいくらいです」


 だから、その言葉に嘘はなかった。

 ケツで三種類のイき様を見せてくれた虎に対してむしろ達成感すら感じていた俺は、のっそりと起き上がって二人の体の間に空間を作ると、その惨状を確かめた。

 腹を濡らすまだ温かい体液を冷房の空気が冷やしていく。虎の潮をまともに浴びた俺の体は、特に胸から下はすっかり濡れてところどころにぷるんとした精液がこびりついていた。


 だが、毛皮を持つ虎に比べればまだマシというところだろう。

 虎の体は胴体や腰回り、脇腹や尻までもがずぶ濡れのタオルのように水分を吸ってしまっていて、身じろぐたびにぐちょりと音を立てていた。

 見れば肩回りを覆うTシャツも水を吸って色を濃くしている。俺はこの後片付けをどうしたものか、ラグは大丈夫なのかと思いつつまだ仰向けになったまま息も絶え絶えに胸を上下させている虎を見た。

 鶏卵大の金玉をせぐり上げて強調している玉袋を備えた虎の肉砲は既に止水していたが、精液だか潮だかわからぬ体液に濡れてピクピクと気怠そうに脈を打っていた。


「っは、はう……はふっ♡♡ ま、マジで……気持ちよかった、っす……♡」


 そして、虎はそんなことを言う。

 うっとりとして言うものだから、そこまで感じ入ってくれたことを誇らしく感じてしまう。

 しかし、それと同じくして行為の最中に熱に浮かされて口走ったことをちょうど思い出したところだったので、俺は素直に喜べず曖昧な笑顔を浮かべた。


「そ……それなら、よかったです、へへ……」

「ん、ぐぅるる……ふへ、ぇへへ……♡」


 虎は小さく唸りながらも俺につられたのか空気が漏れるような笑みを浮かべて、身を起こした俺の背中に回した腕と脚に力を込める。

 抱き寄せようとしているのを感じて再び前屈みになると、腹直筋に力を漲らせた虎がぐちょりと濡れた毛皮を鳴らして身を起こす。

 完全に仰向けに寝ているのなら難しいが、頭を持ち上げた状態なら届きそうだった。

 虎の意図を察した俺は、その申し出に応じて顔を寄せる。

 互いの半開きの口を近づけて、生臭い呼気をぶつけ合って。

 どちらからともなく唇を合わせようとした俺達は……冷房に冷やされた虎のくしゃみをきっかけに、体を流すことにしたのだった。


 ◇◆


 そっぽを向いたシャワーヘッドから、ざあぁ、と適温の湯が絶えず流れている。

 本日二回目の訪問となる風呂場は二人で入るのに十分なスペースがあって、ボディソープにまみれた手で体を撫でる虎の手つきは心地よい。

 だが、先程肌を重ねた相手に触れられていると思うと妙に体が強張ってしまう。劣情のボルテージも今となっては鳴りを潜めて、これまでこの虎とはどんな関係性で何の会話をしていたのかを思い出そうと必死になって思考を巡らせていた。


 だが、長いこと腰を振った上に三回もイったために体は鉛をまとっているようで、倦怠感で思考すら遅滞している。

 シャワーを浴び始めて自分の胸にボディソープを塗りたくる虎が、そのまま俺の体を流し始めても拒めないほど俺は疲れ果てていた。

 さすがにもう軽々しく勃起するような精力は残されていないが、ぬるぬるした泡塗れになった虎の腹を背中に感じるとどこか落ち着かない気持ちになってしまう。

 他人に背中を流されている心地よさもあって、何も言い出せないまま背中を向けていると、シャワー音にかき消されそうな声量で虎が呟く。


「……すんません、ちょっと……ヤりすぎましたかね」


 虎が申し訳なさそうに言うのも納得できるほど、彼の乱れっぷりはすさまじかった。

 自ら三回戦目を希望して俺にケツを差し出し、自ら両足を抱えたまま手も触れずに精液を噴き上げるどころか、そのまま潮まで漏らして自分の毛皮どころか首に引っ掛けていたTシャツから敷かれたラグまでベッタベタに汚したのだ。

 アダルトビデオでもあそこまで淫らな雄は見たことがない。俺は俺の記憶を動画として保存しておきたい気持ちで答える。


「い、いえ……めちゃくちゃエロくて最高でした。まあ、ちょっと意外でしたけどね……虎宮さんこんなにエッチだったんだ、って」

「ひ……久しぶり、だったんで、つい……」


 だが、それが悪いかどうかというのはまた別で。

 好きな人が度を越えた淫乱であると知って、嫉妬でいくらかモヤついたものの今ではむしろそのプライベートな一面を惜しげもなく見せてくれたことを嬉しく思っている。

 普段ストイックに仕事に打ち込んでいる反動なのだろうか、あそこまで性欲に忠実になってくれるとむしろその相手に選ばれたことを光栄に思うほどだった。


 だが肝心の本人は性欲に浮かされタガが外れていたことを自覚しているのか、肩越しに振り返る俺の視線から逃れるように俯いてゴシゴシと脇腹を流してきていた。

 ちらり、と浴室の姿見越しに盗み見た顔はもう普段通りの無愛想ヅラに戻っていて、先程までの蕩けっぷりは影も形もない。

 それなのに、涎まみれになったマズルからはしたなく舌を垂らして、蕩けた目で濁声を響かせる記憶の中の表情とどうしても重ねてしまうのも、俺が背中を向けている理由の一つだった。


 しかし、天然の毛皮に覆われた虎の腕は泡立ちもよく、洗体ブラシとしては極上の質感で俺の体を撫でる。

 セックスの疲労でくたびれながら、ちらちらと虎の様子を窺ってその手つきに妙な動悸を覚えている俺は、今のうちに告白の件を蒸し返すべきか悩んでいた。


 セックスの発端は俺の告白からだが、結局この虎が俺の好意をどう受け取ったのかははっきりとわかっていなかった。

 体の熱を抑えきれずついセックスが先立ってしまったが、実は両想いで虎は告白を受け入れたつもりなのかもしれない。

 いや、もしかしたら俺が好意を持っているのをいいことに、ただ都合の良いセフレとして扱われているだけかもしれない。

 恋人として認められたのか、それともただの性処理相手としてしか見られていないのか。

 ぐるぐると考えを巡らせている俺の頭の中では、ゆさゆさと揺れる虎の尻と、ピアスのぶら下がった乳首、そして下品な嬌声を上げる虎の顔がチラついていまいち思考に集中できない。

 その上疲労もあって、俺は足元がどこかふわふわとして定まらない感じがあった。

 なので、「あの……」と呟く虎への反応が数拍遅れる。


「……っあぁ、はい、何でしょう?」

「あ、いや……ちょっと、シャワー止めてもらってもいいすか」


 言って、虎は泡まみれの手をカランに向ける。適温とは言え温かいお湯はもくもくと蒸気を発して浴室の温度を上げていた。

 じんわりと汗ばんでいた俺はあぁ、とかはい、とか曖昧な返事をして、シャワーを止める。

 途端に、シンとした静寂が訪れる。

 ぽたぽたとシャワーヘッドから滴の落ちる音すら聞こえる中では、互いの呼吸音どころか鼓動まで意識してしまいそうだった。

 すると、俺の脇からぎゅっと抱き着く腕があった。むっちりとした肉質がボディソープでぬるぬると俺の背中と擦れ合う。

 俺が驚いて振り向こうとすると耳のすぐそば、後頭部の方から囁く声を感じた。


「……おれ、結構性欲強いみたいで」


 泡立った毛皮で俺の胸や腹を緩慢に撫でる虎が言う。わしゃわしゃとした毛足はモップのようでもあり、少しこそばゆい。

 裸のまま背後から抱きしめられている動揺の中にありながら、あの様子を見ればわかるけど……と思う俺は虎が何を言おうとしているのかを慎重に見極めるために口を噤む。


「一回おっ始めるとあんな感じになっちゃうんすよ。声もデカくなっちゃうし……それがイメージと違うって言われることも多くて」

「そんな……」


 それはきっと、過去にこの虎と関係を持った誰かのことを言っているはずだった。

 ということは俺以外の相手にもあのような喘ぎ声で尻を犯されたことがあるのだろう。覚悟はしていたが、大人げなくそれに嫉妬したりする気持ちはどうあってもつきまとうようだった。


 だが、どこの誰ともわからぬ馬の骨にこの虎のそういう一面をよく思われなかったのは僥倖だったのかもしれない。

 イメージと違うのはわかるが、俺にとってはマイナス足り得ない。

 むしろギャップを感じて素敵だと思う、そんなことを言おうとした俺を制するように、虎は続ける。


「そのくせこの通り、ラーメンのことしか頭にないんで……休みなンてないようなつまんねえ人間ですけど」


 俺の体を抱きしめる腕に力が入って、押し付けられる腰にふにふにとした軟らかいモノを感じた。

 もうすっかり密着感にドキドキしている俺は、彼が何を言おうとしているのか続く台詞を予想して、もしかしてと勝手に浮足立つ。

 そして、それがただの希望的観測でないことは、すぐにわかった。


「それでも……いいンすか? 付き合っても面白くないと思いますし、あんまりご期待には沿えないかもですが……」


 それが俺の告白を指して言っているのだというのはすぐにわかった。

 変なところで自己評価が低いのだな、と思う俺は、しかしそれが逆に腑に落ちるようなところがあった。

 経営者として忙しい虎にとって、自分の時間を確保するのは難しいだろう。

 だが、俺は別にこの虎を自分の生活に組み込みたいわけではない。むしろ逆で、彼の生活を一番近いところで支えたいと思っていた。

 誰かに言わないと抱えきれない悩みや、思わず話したくなってしまう日常のニュース、それに初めて作ってみた試作のラーメンなんかもそうだ。

 それらを共有する相手は俺であって欲しい、たったそれくらいのことでいいのだ。

 だから、俺は背後から抱きしめてくる虎の腕に逆らうようにその場で身を翻す。

 拘束を緩めた虎の腕の中で裸のまま向き直って、視線を泳がせている虎の手を取って答える。

 もしかしたら背後から抱き着いてきたのは、顔を見られないようにするためだったのかもしれない。そう思ってしまうのは、これまでに見たどんな表情よりも頼りなく消沈して見えたからだった。


「……そんなこと、ないです! 俺はむしろ、虎宮さんのそういうところに惚れたんです!」

「……ホント、っすか? 恋人らしいことなんて……セックス以外、何もできないかもっすよ」

「そりゃもちろん、ヤりたいときに呼んでくれるってだけでも嬉しいですけど……虎宮さんがラーメン第一なのは承知の上ですから! 俺もそれを邪魔したくはないんで、無理に時間割いてくれなんて言いませんよ」


 言いながら、虎はむしろ俺に告白を取り下げてほしいのではないかと思い至る。

 実はこれを迷惑だと思ってて、付き合う気はないが角を立てぬよう引き下がらせようとしえいるのではないか。

 俺は小さくかぶりを振る。馬鹿馬鹿しい、仮にそうであったとしても自分がそれしきで彼を諦められるはずもない。

 それくらい、あの逢瀬は鮮烈で、忘れられぬものだったのだから。


「虎宮さんがその気じゃないなら断ってください、でももし可能性があるなら……虎宮さんのこと、一番近くで応援させてください!」


 顔を上げた虎は目を丸くして俺を見る。

 その表情は驚いているようでも、固まっているようでもあって、一番近くで応援、というフレーズだと意味が伝わりにくかったのではないかと思い至った。


「あっ、その……応援ってのは、恋人としてってことでして……! お邪魔でなければ、食べ歩きとか試食くらいいくらでも付き合いますし、恋人じゃなくても別にお友達とかからでもいいんで……!」


 わたわたと補足を繰り返す俺に虎は……はっきりとマズルの口端を吊り上げる。


「わかってますよ」

「あっ、そ、そう……ですよね……」


 うまく告白が決まらなかったこともそうだが、笑われてしまったことが気恥ずかしくて今度は俺が視線を泳がせる番だった。

 男子として、せめて想いを伝える際はスマートに決めたかったがなかなかうまくいかないものだった。

 背中を丸めて、裸のまま気まずそうに目を逸らす俺に虎はいつもの調子で「そうですか」と相槌を返す。

 まるで試験の結果を待つ学生のような気分だった俺は、ぬるり、とボディソープまみれの腕が俺の体を滑る感覚に顔を上げた。


「その……おれも、好きです」

「……えっ」


 そして、目を丸くするのも俺の番だった。虎は少し熱の入った声で続ける。


「さっきも言った通り、天本サンのこと店で見るたびいいなーってマジで思ってたンで……。ただ、あんまり恋人とかいたことないんで自信ないのもホントなんすけど……それでも良ければ、おれと……付き合ってもらえますか?」


 両想いだったらいいなと思っていたくせに、実際そうであると告げられると途端に騙されているのではないかと不安になってしまうのはどういうことなのだろう。

 いや、あそこまでセックスしたのだから何の気もないはずはない、と高を括っていたところはあるが、単に性的にイケるだけで性処理相手としてしか見られてないのかもしれない、という不安はずっと付き纏っていた。

 故に、自分で始めた話なのに俺はいまいち状況が飲み込めない。ただ、震える唇で何度も頷いた。


「もっ、も、もちろんですっ、あの……マジですか? その……無理せず、嫌なら嫌って言っても……」

「マジっすよ。ちゃんと好きです。……そりゃいくらおれでも、」


 虎は泡を蓄えたぬるぬるの体を腕の中の俺に押し付けて、そっと唇を寄せる。俺の体に押されて、むにっと豊満な乳房が形を歪める。

 押し付けられる大胸筋のボリュームの中に金属の感触を覚える俺は、密着する体に気を逸らされながらもその顔を見上げる。

 そして、無愛想な表情の虎の目つきは……どこか慈しむように細められていることに気が付いた。


「……好きでもねェ相手に、ここまでサービスしないんで」


 言って、虎のマズルが俺の唇に触れる。シャワーの飛沫で濡れて毛束を作る獣毛が鼻にくすぐったかった。

 俺は虎の背中におそるおそる腕を回して、濡れた胴体をしっかりと抱きしめる。

 今この瞬間が、何か都合のいい嘘や夢でないことを確かめるように腕に力を込めると虎もそれに応えて力強く俺を抱き返してくる。

 何かを予感して静かに高揚する自分自身を落ち着かせるように息を吐くと、俺は目を閉じて虎と舌を交わす。

 ぬちゃぬちゃとした唾液は生臭く、粘ついたものだったが……どんなスープよりも、俺を夢中にさせた。


 ◆◇


 後で聞いたことだが、虎はマッチングアプリで顔出ししている俺のことを見かけたことがあるという。

 ラーメン屋を営む虎がおいそれと顔を出して近隣住民と関係を持つわけにはいかない。

 そのため虎のプロフィール写真は本人とは到底思えない無関係の写真が設定されていたが、それでもネギや鶏ガラ以外にもっとあるだろうというのが率直な感想だ。

 その上自己紹介文もないとなればそのアカウントが虎のものだと特定するのは不可能というもので、ほとんど閲覧専用だと言う通り出会うためのツールとしては機能してなさそうに思えた。


 そんな中で、見覚えのあるアカウントと同じ顔が現れた時から気になっていたと虎は言う。

 それならそれでもっと早く教えてくれればと思わなくもないが、人と出会うことに積極的なようには見えないし、虎の中でラーメン作りは何よりも優先すべき事項だ。

 それを差し置いて他人に時間を割くような余裕がなかったのだろう。

 彼が特別扱いするものはすでに決まっていて、あとは押し並べて同等の価値しかない。


 逆に言えば、同じくらい特別に思えないのなら恋人を持つべきではないとすら思っていたのだろう。

 そのストイックさというか、自信の無さには呆れそうになるが、そのおかげで今があると思えば……まあ、結果オーライというところか。


「おうぃーっすどもー、食券お預かりしゃーす。え~、限定の魚介スイカつけ麺とビールっすね、少々お待ちくだっさーい」


 夕飯時のピークタイムに備えて増やしたらしいアルバイトの鮫人が、威勢よく俺の出した食券を読み上げる。

 傷だらけの鮫肌にヒレにピアスまで入った鮫は虎に負けず劣らずの体格の良さで、その厳めしさはとても客商売向きじゃないように思えたが大きな口からは意外にも気さくな声が発せられて、他人の警戒を緩めるような響きがあった。


 その奥で寸胴鍋に雪平鍋を突っ込んでスープを汲み上げる虎と目が合ったので軽く手を振っておくと、会釈で返された。

「限定並みモリ、ワンでーす」とオーダーを読み上げる鮫の声に、虎は手早く麺玉を茹で鍋に放り込む。

 虎一人だけならまだなんとかなるだろうが、それが二人となると互いの図体の大きさもあってキッチンは流石に狭く見えた。

 しかし互いの体捌きは見事なもので、お互いがお互いの作業の邪魔にならぬようてきぱきと調理を進めるさまを手元のスマートフォンを片手に眺めていた俺は、屈んだ虎が下段の冷蔵庫から瓶ビールを取り出したことに気付いた。


「瓶ビール、お待たせしました」


 小ぶりなグラスと大手ビールメーカーの瓶ビールをカウンター上に置く虎に、俺は「どうも」とよそよそしく返す。

 台上に手を伸ばして机にグラスと瓶を下ろす俺の前に、虎が小皿を置く。なんだ、と思って見てみると、低温調理されたローストポークのスライスをたっぷりと盛ったものに、粗挽きの黒コショウと青ネギを添えたものだった。


「あっ、これ……」

「どうぞ。つけ麺、もう少々お待ちください」


 それだけ言うと、虎は踵を返す。カウンターにかけた客がスープ割りを頼む声に「スープ割りのお客様、丼上げて少々お待ちください」なんて言いながら既に茹でていた麺を上げにかかるのだった。

 俺の前に置かれた小皿が、ビールを頼む客向けのネギチャーシューというツマミメニューであることは一目瞭然だ。

 だが、普段は単価の安い鶏チャーシューを相盛りにするはずなのに、これは俺の好物のローストポークしか乗せられていない特別仕様だった。

 もちろん俺からオファーしたわけではない。ということは、これは彼なりのサービスなのだろう。

 やはりここのローストポークチャーシューが絶品だと彼の前で褒めちぎったのはよくなかったか。

 そういうつもりで喋ったわけではないのでなんだか申し訳ないなと思いつつ、この一皿が嬉しいことに変わりはなくて、他の客に気取られる前に俺はそれを卓上に下した。


「白湯ラーメン中盛りのお客様、どうぞ。器お熱くなってますんで、お気を付けください」


 虎がそう言ってトッピングの海苔を乗せたラーメンをカウンター台に乗せると、まだ四歳かそこらだろう子供を連れた女性が礼を言って受け取る。

 スープが入って重たく、熱い丼を女性は苦労してテーブルに置くと、そのまま思い出したように顔を上げる。

 だが、虎はそれを先回りしていた。ご飯モノに使っている茶碗と小さめのレンゲをカウンターに置いて、とどめに透明なグラスに注がれたスイカジュースまで置いて「ごゆっくりどうぞ」と調理に戻る。

 それを受けて「ごゆっくりぃどうぞーぉ」なんてアルバイトの威勢の良い声も輪唱するので、女性は少し面食らった後にどこか安心した素振りで小さく会釈しながら子供用に取り分け始めるのだった。


 その一連の光景を視界の端で見届けた俺は、飲食業として如才ない虎の振る舞いが何故か自分のことのように誇らしかった。

 しっとりとしたローストポークのシルキーな舌触りを楽しみながらビールを傾ける俺は、今ならいくらでも飲めそうな気分で店内の喧騒に聞き入る。


「お待ちどおさまです。限定魚介スイカつけ麺の並盛りです。つけダレの器大変お熱くなってますンで、お気を付けください」


 虎から意味ありげな目配せをされつつ、丼と小鉢を台から下ろす。

 スープの色味は豚骨や鶏白湯を思わせる白濁色だ。しかし箸で触れるとそれほど粘度がなく、どちらかというとさらりとして見える。

 冷水できっちりシメられたのちに渦を描くように盛られた中細麺には、器に沿うように海苔がトッピングされている他に、赤々としたスイカの身が添えられていた。

 三角形に切り出されたそれをいつ食べるかを考えつつぷるんとした麺を数本掴んだ俺は、つけ汁にくぐらせて一息に啜った。


 この時期が旬のタチウオやカンパチ、イシモチといった魚の肉がどろどろに溶け込むほど煮込んだスープは、圧倒的なコク深さと粘度で口腔内を風味で満たす。

 常設である鶏白湯ラーメンと同系色ながらも、その味わいは正反対の鮮烈な魚介出汁だ。

 マグロ節の出汁で淡白な身の魚にパンチを加えつつ、魚特有のコラーゲンでねっとりと乳化させたつけダレは口当たりがよく、濃厚な後味が口の粘膜にいつまでも残っていた。

 お得意の鶏油で魚介のアラを煮出した香味油も風味が良く、とろっとしていながらもあっさりした味わいのスープに印象を残すのに一役を買っている。

 つけ汁に潜らせた麺を咀嚼しつつ、俺は小鉢に箸を伸ばす。


 醬油皿ほどの小鉢には、青々としたウリ科の浅漬けが盛られている。これこそが、試作品ではきんぴらにされていたスイカの皮だ。

 口に運ぶと、カリコリとした食感と共に塩気と青々とした風味が鼻に抜ける。こってりとしたつけダレのコラーゲンや油脂で重たくなった口にちょうどいい口直しだった。

 俺の発言からヒントを得たらしい虎は、スイカの皮とラーメンの融合を諦めて大人しく別添えにした……というだけには留まらなかった。

 スイカの皮本体をラーメンに使うのではなく、その浅漬けから染み出した汁をつけ汁に使う塩ダレとして活用したというのだ。

 白濁するまで魚介を煮出したスープに残るクセや生臭さを発酵食品らしい酸味と塩味で中和し、青々としたウリ科の香りのみを爽やかにまとめた一杯は傑作の一言に尽きる。

 既にラーメン好きの間ではある程度の話題になっているようで、ここ最近は昼営業の時点で売り切れていることも多々あった。

 今だって有名になりつつあるこの店を初めて訪れたらしい客がちらほらと見えていて、外には数人が行列を作っている。

 そんな連中に身勝手な優越感を覚えてしまうのは、ここにいつでも食べに来られるほど家が近いから……というだけではないのかもしれなかった。


「いらっしゃいま……おう、来たのか」

「う、うん。暇だったし、様子見に。どう、ちゃんとやってる?」

「へっ、まだなんも悪さしてねェよ」


 新たに来店したハイエナの食券を受け取りながら、バイトの鮫が親しげに言葉を交わしているのを横目に見つつ、俺は残りの麺を手繰った。

 友人がバイト先を訪ねてきたという状況だろうか。鮫は私語もほどほどに、「限定麺並み一丁!」とオーダーを読み上げて作業に戻る。

 忙しなく客が出入りし、「ありがとうございました!」と威勢よく声が飛び交うと食事中だが何となく急かされるような気分で、俺は一心不乱に食べ進めた。

 あるいは、それほどまでにこの一杯に夢中だったのかもしれないが、さておき。


 口の中に残るスイカの身をシャクシャクと咀嚼しながら、割りスープを足してもらったつけ汁をレンゲで啜る。

 塩気の強いスープは瑞々しいスイカを甘く感じさせる対比効果を十分に発揮しているようで、夏らしい爽やかさを堪能した俺はお冷を一口飲む。

 口内の塩気ととろっとしたスープとスイカの名残が冷水で洗い流されると、口の中はスッキリするが舌の上が物足りなくなって、もう一口スープを口に運んでしまう。

 そのループを何往復か繰り返していると、やがてつけ汁は空になって、俺の心に一抹の寂しさをもたらした。


 うまかった、素直にそう思った。

 汁まで完飲してしまったのはもちろん試作段階を知っているという思い入れもあるが、その味わいに夢中になっていたところはある。

 これだけの品の開発に携われたこと、そして店主のこれまでの苦労に敬意を表しつつ、俺は空いた丼をカウンターに上げる。


「どうも、ご丁寧にありがとうございます」

「あ、ごちそうさまです」


 ちょうど近くにいたのか、俺の前に立つ虎が手早く丼を受け取る。

 がちり、と器同士が触れ合って音を立てて、俺はタオルを巻いた虎に言う。


「今日も美味しかったです、また来ます!」

「……っす、いつもありがとうございます」


 虎の反応は事務的だ。

 俺も彼の仕事を邪魔する気はないし、今以上の特別扱いを望むつもりもない。

 うまいつけ麺が食えただけでなく、真面目に仕事している恋人の様子も見れたので、満足度は星五つ以上、という気分だった。

 そんな俺が立ち上がると同時に、カウンターの内側から手を伸ばしてテーブルを拭くために前掲した虎がぼそりと囁く。


「……達哉サン、明日の夜ヒマっすか」

「えっ、あ、はい……?」

「よかった。……また、後で連絡します」


 えっ、と思った俺が顔を上げる頃には、虎は台拭きを丁寧に畳み、踵を返して下げた丼をシンクに持っていくところだった。

 それで、頭に巻いたタオルの下の目がちらりと俺を一瞥するので、今のは聞き間違いなどではないんだなと即座に理解する。


「ありがとうございました、またお待ちしてます」

「あっりぁとうっぉざいやした~ッ。……おう、限定つけ麺並盛一丁お待ち。器熱いんでお気を付けてくださァい」


 席を立つ俺を見つめたまま、シンクから水を流しながら虎が挨拶を口にした。

 丼にトッピングを乗せて客に提供していた鮫の声も後に続いて、俺は会釈しつつ店を出る。


 むわっとした夜の熱気に耐えながらスマートフォンを取り出すが、当然まだ何の通知もない。

 ラーメン宮幸屋は今日も盛況だ、限定ラーメンが人気を博しているのもあって普段より忙しいだろうということは想像に難くない。

 そんな中で貴重な自由時間を割いてまで俺を誘ってくれるのが申し訳なく、しかし嬉しくて仕方がなかった。

 今から楽しみでしょうがない。明日は何をするのだろう、これまでのパターンに鑑みるに車で何か食べに行ったり二人でスーパー銭湯に行ったりというプランが考えられる。

 せっかくだし何か手土産でも用意しておこうか、スイーツなどのちょっとしたお菓子でもいいし、疲れを取るような健康グッズでもいいかもしれない。

 そんなことを考えながら帰路に着く俺の腹だけでなく、心までもいっぱいに満たされたことは、言うまでもなくて。


 夏の始まりを予感させる夕凪を歩く俺の口の中には、病みつきになるコクとどこかあっさりとして清々しい後味がいつまでも残っていた。




「幸平さん、俺のことイイなーって言ってましたけどどこが好きだったんですか?」

「……そりゃあ、色々ありますけど……おいしそうに食べるとことか、食べ終わったあと丁寧に台拭いたりするところとか、イイなって思ってましたよ」

「……でも、それくらいなら他のお客さんも同じことしそうですけど……ほんとにそんだけですか? その顔、なんか隠してません?」

「……、…………その。達哉サンの……か、顔が、好みで……」

「…………そ、そう、なんですか……」

「……う、うっす……」

(このあとめちゃくちゃ子作りした)


 ~おわれ~

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POSTEDJul 12, 2023
ARCHIVEDJun 10, 2026