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「ねえ、冷蔵庫のペットボトル取って」
リビングのソファに座りながら、テレビから目を離さずにそう依頼してくる女子中学生がいた。
「自分で取りに行けよ」
「……うざ」
少し顔をしかめながらそう呟いたその中学生は、俺の3歳下の妹。むすっとした表情でソファから立ち上がり、無言で冷蔵庫に向かっていく。そんな生意気な後ろ姿をソファの端に座りながら見送った俺は、短くため息をついた。
反抗期真っ只中の妹は、高校生の兄と話すのも気だるいようで。最近は家の中で世間話などほとんどしていない。おはようやおやすみの挨拶もロクにしていない気がする。…会話があるとすれば、今のように事務的な依頼があるときぐらいだった。
「早くお風呂入ってきなさいよー」
「うんー」
キッチンの方で皿洗いをしていた母の呼びかけに妹は空返事をして、たった今冷蔵庫から取り出したペットボトルのお茶を飲んでいる。ピンク色のTシャツに、白色のハーフパンツ。ラフな格好で家をうろつく中学2年生の妹は、どうやら学校ではそこそこ人気があるらしい。世間的に見たら顔が整っていて可愛らしいと思われているのだろうか。…少なくとも、家で仏頂面でいる妹を見ている限りは、可愛いなどという感情は到底湧いてこなかった。ただただ、生意気な妹というだけ。
「先入ってくるから」
「…おう」
妹は俺に風呂の順番の交渉もしないまま、そう宣言して風呂場へと向かっていった。
(…はあ)
まあ、年頃の中学生なんてこんなものなんだろう。俺も別に、妹とそんなに仲良くしたい訳でもない。これぐらいが丁度よい距離感なのかもしれないと思いながら、そのままソファに座ってテレビを見続けた。
『次は、最近中高生の間で人気の小人ペットについてです!』
テレビの中の女子アナが口にしたワードは、最近聞き飽きるくらい聞いているものだった。
"小人ペット"。今、世間の中高生の中で流行っている愛玩動物だ。動物と言っても、元の正体は普通の人間。今の日本では、重大な犯罪ではないが軽くもない、中程度の犯罪を犯した人間に対して、"縮小刑"という刑法を適用していた。その刑が確定した囚人は身体を1~2cm程まで縮められ、その状態で釈放されてしまう。圧倒的に小さな身体のまま、残りの人生を生きていかなければならないのだ。
そんな縮小刑者の活用方法として、"小人ペット"なるものが1年程前から流通し出していた。流通業者は、釈放された直後の縮小者を一方的に捕まえ、愛玩動物の一つとして店頭に並べ始めたのだ。縮小刑者の人権ははく奪されているため、そのような行為は決して違法ではなかった。
『特に最近では、10何匹も小人ペットを飼ってインスタに上げている中高生が多いみたいですね~』
(…なんか、すごい世界だな)
人間の意識を持っているが、何の害もない小人サイズまで縮小された人間たちは、愛玩動物として特に女子中高生の間で大ヒットしていた。普通のペットとは違い、同じ人間であるという事実が面白がられたのだ。さすがにサイズ差がありすぎて意思疎通は図れないが、犬や猫などのペットとは違う感覚が女子たちにはウケているらしい。
(俺にはよく分からないけど……)
妹もそのブームに例外なく乗っかっていて。店で売っている小人の単価が安いのをいいことに、ことあるごとに新しい小人を買ってきては自分の引き出しの中で飼っているらしい。「小人と遊ぶから」といって、何時間も自分の部屋に籠ることも珍しくは無かった。…何がそこまで面白いのかはよく分からないが。そういう時、小人と遊んでいる自分を見られるのが恥ずかしいのか、「絶対に部屋に入らないで」ともはやキレ気味に忠告されるのが常だった。
『プレゼントとして小人ペットを選ぶ人も増えているみたいです』
(………)
情報番組をぼーっと眺めながら、ちょっとした悪戯心が芽生える。あの家では生意気で仏頂面の妹が、小人と遊んでいる様子を隠し撮ってやりたい、と。
(確か、縮小スプレーって売ってたよな…)
最近の100均では人体を縮小させるスプレーが売っている。例えば俺が小さくなって、プレゼント用の小人の中に紛れたらどうなるだろうか。1cm程度の小人の顔なんて見えないはずだから、気づかぬまま小人を愛でる妹の間抜けな顔を拝めるかもしれない。幸い、縮小スプレーは人体だけでなく服やモノも縮小できる効果があるらしく、スマホを持ったまま縮小できそうだった。
(隠し取った写真でゆすってやるか)
何だか楽しくなってきた。童心に返ったような気持ちになった俺は、今週末の休日に100均ショップに出かけることを決めたのだった。
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「…よし」
日曜日。両親と妹が買い物に出かけたタイミングで俺は、鍵がかけられた妹の部屋のドアの脇に、ケーキを買ってきたときのような白い小さな箱をそっと置いた。
実はこの中に、縮小刑者である小人が10人ほど入っている。ついさっきペットショップで買ってきたものだ。10人セットで2000円。人の命はなんて安いのだろうか。
この箱をドアの脇にこれ見よがしに置き、俺からのプレゼントである旨を紙に書いて一緒に置いた。後は…。
「これで……」
プシュゥゥゥ……!!
同じくついさっき買ってきた縮小スプレーを、自分めがけて吹きかける。白い気体が全身を包み込み、少し遅れて平衡感覚がぐらついてくる。
(っ……!!)
頭がぐわんぐわん回る感覚。視界が少しづつ白くなり、まともな意識を保てなくなっていく。何か、周りの廊下の景色が伸びていくような、奇妙な感覚。
そして。
……。
…。
「え………」
気づけば俺は、果てしなく広いフローリングの大地に立っていたのだった。
(す、すごい……)
明らかにそこは、10秒前まで立っていたはずの家の廊下だった。廊下の幅は1メートルちょっとしかなかったはずなのに、今見えているフローリングの大地は果てしなく向こうの方まで続いている。
本当に、俺は1cmほどのサイズまで縮むことに成功したらしい。
(服もスマホも、持っていたスプレーもそのままだ……)
スプレーを自分で使うと、手に持っていたスプレーそのものも小さくなる。これはそういう"仕様"であり、元の身体に戻りたいときはその持っていたスプレーの赤いボタンを押しながら噴射すれば、縮小解毒用の気体が中から出てくる仕組みなのだ。そうすることで、自分一人でスプレーを使った際に身体を戻せなくなる事故を防いでいるのだという。
「……入るか」
準備が整ったため、俺は今や一軒家サイズとなった白い箱に向かって歩いていく。普通サイズだった時はあまり見えなかったが、組み立て式の白い箱は角のところに隙間が開いており、今のサイズであればそこから中に入り込むことができそうだった。
「よっと……」
1cmサイズの小人となった俺は、その隙間から簡単に白い箱の中に入り込んだ。
すると。
「……」
「………」
「……」
(あ……)
暗い箱の中の空間に、何人もの人間が入っていた。隅っこで座っている者や、何となく立っている者。10人の小人たちは、何故か箱の中に急に入ってきた新しい小人を見て、怪訝な顔をしている。
「えっと……」
何か、話さないといけないだろうか。10人分の視線を受けた俺は、しどろもどろになって何か言葉を探そうとする。
しかし、小人たちの興味はすぐに失われたようで、それぞれ俯いたり目線をそらしたりしてしまった。
(………)
異様な雰囲気ではあった。見た目には本当に普通の人間にしか見えない。普通に服や靴を身に着けていて、やや歳のいったおじさんもいれば、若そうな女の子もいる。しかし全員目が虚ろで、俺がこの箱に入ってからただの一人も声を発していなかった。何か、この状況に対して色々なものを諦めているような、そんな雰囲気が感じられた。
俺はその雰囲気に気圧され、20畳ほどの広さの箱の中の一番隅っこにそそくさと逃げ、こっそりと座り込んだのだった。
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ドンッ!!ドンッ!!
「「ただいま~」」
「っ!!!」ビクッ!!
突然身体を激しく揺らす地響きに襲われ、跳ね起きる。思わず周りを見渡すと、そこには20畳ほどの広さの白い空間が広がっている。
(そうか、寝ていたのか…)
妹たちの帰りがあまりに遅かったので、待ちくたびれて寝てしまっていたらしい。…しかしこの振動は、どうやら帰宅した妹が階段を上がってくる動作によるものに思える。
(まさか、こんな……)
ズンッ!!ズンッ!!
ぐらぐらぐらっ!!
「ひっ!!あっ……!!!」
巨大な人間の歩行による衝撃が、白い箱の中を襲う。感じたことのない縦揺れが容赦なく襲いかかり、とても立ってはいられなくなる。俺は床にへたり込み、振動で身体が転がっていかないように丸まることしかできなかった。
ズンッ…!!!
「「…ん?なにこれ…」」
ひときわ激しい縦揺れが響いた後、かなり上空の方から妹の声が響いてくるのが聞こえた。その声は一人の人間が発したものとは思えず、全世界に響き渡る放送のような拡散率で、白い箱の中にもガンガンと響いてきた。
「「プレゼント……?…兄貴から……?」」
普段聞きなれているはずの妹の声が、聞きなれない音量で響き渡っている奇妙な感覚。ほとんど呟きに近いような声の出し方なのに、一体どれだけの体格差があればこれだけの音量に聞こえてしまうのだろう。
「「…めずらし……まあいいか」」
ガタンッ!!
「ぎゃあっ!!!??」
突然箱の中の空間が激しく揺れ、フワッと浮き上がるような気持ち悪い感覚に襲われる。床が大きく左右に傾き、為す術もなくずるずると床の上を転げ回される。妹がこの箱の取っ手を掴んで持ち上げたのは明白だった。
ズンッ…ズンッ……
ぐらんっ、ぐらんっ…!!
「ひぎっ、ぐっ、……」
(き、きもちわるい……)
海に浮かんだ船の揺れなど比じゃないくらいのひどい揺れ。妹の歩行に付き合わされる10人+1人の小人たちは、無抵抗のまま箱の中でのたうち回る。この一軒家くらい大きな箱が、中学生の手で運ばれているという現実。
ドスンッ……!!
「ぐえっ……!?」
激しい振動と共に、箱の揺れが納まる。自分の机の上にでも置いたのだろうか、もう箱に与えられる振動は止んでいた。…正直吐く寸前だった俺は、振動が終わったことに安堵する。
「「ふう……」」
ドスッ…ドスッ……
するするっ……ぱさっ……
束の間、箱の外から色々な音が響いてくる。自分の部屋に帰ってきた妹が、恐らく部屋着に着替えているような布擦れの音。
(………)
なんとも言えない気まずい気持ちと、別に興味もない妹の着替えの音を聞かされている苛立ちが混ざる。これじゃまるで、俺が妹の生活音を盗み聞きしているみたいではないか。
ドスンッ…!!ジーー…
何かに足を通して踏み下ろす大きな音や、チャックを閉める音。年頃の女子中学生なら普通は他人に聞かせたくないであろう音を、少なくとも小人ペットたちには平気で聞かせているという事実を、今知った。
(一応、人間なんだぞ……?)
周囲の小人たちは特に無反応に見えたが、少なくとも妹はこの音を小人ペットたちが聞いていることに気づいているはず。いくら小さくなって人権が失われているとはいえ、れっきとした意識を持った人間たちなのだ。そんな人間たちに対する妹の意識は、一体どんなレベル感なのだろうか。
ズンッ、ズンッ、……
その後着替えが済んだのか、妹の歩行による振動は遠くなっていった。時間的にも夜ご飯が近い。1階のリビングにご飯を食べに行ったのだろう。…ちなみに、俺は今日友達の家に泊まりに行くことになっている。そのためここに長時間いても問題ないのだが、
(早めにネタばらしして終わりたいな…)
この箱の中の空間で、何もやることは無い。周囲の小人たちも、コミュニケーションを取ろうとするような素振りは一切見えない。…あまり長時間いるのはさすがに退屈だ。
(小人ペットって、いつもこんな感じなのか…?)
妹の手によって一方的に運ばれ、箱から出されるタイミングも妹の手にかかっている。何歳も年下の、人によっては何十歳も年下の中学生の生活リズムに、完全に振り回されるしか術がないのだ。…そんな生活を送るなんて、どんな気持ちなんだろうか。
(…とりあえず、待つしかないか……)
妹が再び部屋に帰ってくるまで、しばらくかかるだろう。俺は箱の壁に寄りかかって座り、何もない退屈な時間を堪えしのぐしかなかった。
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ズンッ…ズンッ……
(……あ……)
遠くの方から近づいてくる歩行音に反応する。
あれからどれくらい経っただろうか。1時間、2時間くらいあったかもしれない。おそらく夕食を食べて、そのままテレビを見ていたであろう時間の経過があり、ようやく妹が2階にあがってくる音が聞こえてきた。
(やっとか…)
退屈を打ち払ってくれる妹の歩行音が、少し嬉しかった自分がいた。…これが、たった一人の中学生の生活に振り回される小人の気持ちなのだろうか。
ガチャッ……パチッ……
バンッ……カチャッ……
妹が部屋に入ってくる音、電気を付ける音、ドアを閉める音、鍵をかける音。全ての生活音が、鮮明に箱の中まで響いてくる。
ドンッ!!ドンッ!!
ギィィ…ドサッ!!
「「んーっ……」」
明らかに学習机の椅子に座った音の後、妹が伸びをするような間の抜けた声が聞こえてくる。あきらかに声が大きくなった。やはり、この箱は学習机の上に置かれているらしい。
「「開けちゃおうかな」」
ガサガサッ!!
(っっ…!!)
箱の上部で大きな音が鳴り始める。妹が、箱を開けようとしているのだ。ケーキが入っているような箱と同じく、取っ手の部分の引っかかりを外して左右に開けるような構造になっている。…今から開封されると思うと、にわかに緊張してくる。周りの小人たちも、さすがに立ち上がって上空を不安そうに見守っている。
そして、
パカッ……
箱が開封され、上空からまばゆい光が差し込んでくる。暗闇に慣れていた目には眩しく、その先の景色がすぐには認識できない。
数秒経って、箱の外の景色が見え始めたとき。
「「………」」
「っ……!!」
箱の床面積よりも広い、巨大な妹の顔が見下ろしていた。
(でっか……!!)
人生では見たことのない巨大な人間の顔を目の当たりにし、唖然とする。箱から見える景色を埋め尽くすその顔は、間違いなく見慣れた妹の顔。しかしそれがありえないサイズ感であるというギャップが、脳に混乱をきたす。
「「こんにちはー」」
その巨大な顔が、ふっと微笑む。兄である俺には絶対に見せたことのない柔らかな笑みを、小人たちに浴びせかける妹。いつもの態度と違いすぎる妹の表情に戸惑ってしまう。しかし、微笑まれて照れるとか、気持ち悪いとか、そういった感情の前に、あまりに巨大な顔に表情を向けられる迫力に少し怯えている自分がいた。なにせ、微笑んで少し口角の上がった唇でさえ、自分の身体全体よりも大きいのだから。
この巨大な存在に、自分たちはどうとでもされてしまう。そんな諦めに近い絶望感を、少し微笑むだけで妹は小人ペットたちに与えているのだ。
「「じゃあ、ちょっと出てきてもらえる?」」
妹は箱の壁の一面を完全に外側に倒し、小人たちが出てこれるようにして言う。周りの小人たちはあっさりとその言葉に従い、外の世界へと歩いていく。外の大地、すなわち妹の学習机の上だ。
(ちょ、ちょっと……)
外の小人たちがあまりにさっさと出ていくので、俺は怪しまれないように慌ててついていく。…この小人たちに、怯えとか、怒りとか、そういう感情は無いのだろうか。
きっと、そんな感情はもう無いのだろう。人権を奪われた小人が今までどんな扱いを受けてきたのか俺には分からないが、自分の大きさに絶望して諦めてしまうだけの過去があることは何となく伺えた。
「「ふふっ」」
学習机の中央付近にわらわらと集まった、11人の小人。その様子を椅子に座りながら眺めていた妹が、少し楽しそうに笑っている。その顔もまた、家の中で俺に決して見せることのない表情だった。…小人ペットが本当に好きであることが表情に滲み出ている。
「「じゃあみんな、服脱いでもらっていい?私は裸で飼うようにしてるから」」
そう告げた妹の言葉が、一瞬理解できなかった。
ごそごそっ……
(え………?)
思考停止した俺の周りで、小人たちが無言で服を脱ぎ出している。そんな、まさか。とっくに成人しているはずの人間たちが、妹の言葉一つに従って、服を脱ぎ出していた。何も抵抗せず、文句を言わず。
なんだ、この世界は。
「「早く脱いでねー?」」
催促するような妹の声に、ハッとして上空を見上げる。
「ひっ……」
見上げた妹の大きな瞳が、こちらを見ているような気がした。…いや、本当のところは分からない。あまりに瞳が大きすぎて、どこを見つめているのか分かりづらい。それでも、一人だけ脱ぎ遅れている俺と言う存在は、明らかに周りから浮いていた。
どうする。もうネタばらしするか。さすがに妹の前で裸になるわけにはいかない。ここでスプレーを使って、驚かせてやれば…。
ごそごそっ…
(あれ…?)
ズボンのポケットをまさぐった俺は、そこに目当てのものが入っていないことに気が付いた。いや、確かにポケットに入れていたはずなのに。
「あっ……」
心当たりがして、後ろを振り向く。…やっぱり。白い箱の中に、小さなスプレーの缶が転がっているのが遠巻きに見える。座り込んでいた時に、ポケットの中から落ちてしまっていたのだ。
(ど、どうする……)
あれを取りに行かないと、元の身体に戻れない。でも取りに行ったら、逃げ出した小人の姿を妹がどう思うか。いや、最終的に元に戻りさえすればどうでもよいのだ。
俺が白い箱の方に向かって走り出そうとした、その時。
「「もー、遅いから脱がしてあげる」」
ぎゅむっ……
「ひぃっ…!??」
俺の身体の両側を、生暖かい巨大なものが強く挟み込んだ。
「「ん……」」
ぐにっ…ぐにっ……
「ぐえっ!??」
肌色の暖かな物体は、明らかに妹の巨大な指だった。固いようで柔らかな指の表面が、小人の強度を確かめるようにぐにっ、ぐにっ、と俺の全身を容易に摘んで押し込む。内臓ごと押し込まれる感覚に、勝手にうめき声を上げさせられる。指の腹から香ってくる匂いが、嗅ぎ覚えのある妹の匂いそのもので。この現実離れした大きさの指の持ち主が、間違いなく俺が知っている妹であることを認識せざるを得なかった。
「「……」」
ぐっ……!ぎちちちっ……!!
「いたぁっ!??やめっ…!!」
俺が来ていたTシャツの裾を、でっかいでっかい親指と人差し指が器用に摘まみ込む。そのまま強引に引っ張れば、Tシャツはありえないくらいパツパツに伸びていき、今にも千切れそうになる。Tシャツが身体に食い込む痛みと、引っ張る力の強靭さに対する恐怖感。妹の力の強さに、心の底から怯える。
「「ほら」」
ぶちぶちっ…!!びりびりっ!!
「いぎぃっ!!」
ついに耐えきれなくなったTシャツが、無残にも引き裂かれる。ぐちゃぐちゃのただの布になってしまったTシャツを、巨大な指の腹でくるくると丸められる。そのまま、学習机の脇の方に粗雑に投げ捨てられる。
俺は今、実の妹に強引に服を脱がされているのか。
「「こっちも」」
「っ…やめろっ!!おいっ、俺だからっ!!おいっ!!」
びりびりびりっ!!!
「いたいいたいいたいっ!!!??」
履いていたズボンも、ぷにぷに柔らかな巨人の指によって簡単に引きちぎられる。俺は必死で叫び、自分が兄であることをアピールしようとする。しかしその声は全く妹の耳には届いていない。
よく考えれば当たり前だ。俺は今、1cm程度の小人でしかない。どれだけ叫ぼうと、何十メートルも上空にそびえ立つ妹の顔についている耳に届くはずがない。そして、こんな小さな小人の顔を、認識できるはずもない。
「「はい、最後ね」」
ぐいっ……
「やめろっ、そこはっ!!」
パンツ一丁になった俺の、最後の砦が妹の指に摘ままれる。妹の前で裸にされるなんて、絶対にされてはいけない。妹の手でそんなことをされてしまっては、何か今までの関係性が崩れてしまうような、そんな恐怖感。第一、裸に剥かれた後にネタばらしをして元の大きさに戻っても、まるで忍び込んだ俺が変態のようではないか。
焦りから激しく抵抗して暴れる俺を、しかし妹の指は華麗に包み込んで拘束する。
「「ほら、暴れないの」」
ビリビリビリッ…!!!
「ああっ…!!……う……」
自分の身体くらい太い指の力に勝てるはずもなく、俺は妹の手のひらの中で全裸に剥かれてしまった。必死で股間を隠す俺の姿を、妹は何でも無さそうに無表情に見つめる。
「「………」」
「う……」
なんだ、この状況は。自分の裸を、妹の圧倒的な視線で見つめられている。羞恥、屈辱。それ以外の何でもない。最悪だ。
「「これでおっけーかな」」
羞恥に震える俺を指から解放し、小人全体に向かって話しかける妹。気づけば、他の10人の小人は全員自ら裸になっていた。…中学生女子の前で、裸にされているほぼ全員成人の小人たち。この格差は、あまりに残酷だ。体力も、知識も、自分たちより及ばないはずのJCに、学習机の上で裸にされて支配されているのだ。ただただ、体格差が違うだけで。なんて残酷な、立場の差なのだろう。
「「ふふ」」
さわっ…さわっ…
妹の大きな指が伸びてきたかと思うと、俺の隣に立っていた小人の頭を優しく指の腹で撫でている。その撫で方はあくまで優しくて、小人の頭にもほとんど負担は無さそうに見える。妹は慈愛の表情を浮かべながら、年上の人間をなでなでし続ける。それはまさに、愛玩動物に対する接し方そのものだった。
「「やっぱり可愛いなあ」」
一人一人の頭を優しく撫でながら、頬杖をついてそう呟く妹。妹が小人に向けている愛情は歪んでいながらも嘘ではないようで、小人と接するのを楽しんでいるように見えた。
「「………♪」」
(え……)
恍惚な表情を浮かべたまま、妹の巨大な顔がこちらの方に近づいてくる。どんどん、どんどん、異常なまでの近さまで顔が近づいてくる。同じ家に住んでいながらも一度も見たことのない距離感で、妹のまつ毛、唇のシワ、肌に生える産毛が見えるくらい接近してきて。
「「んー…♡」」
ふにぃ……♡
俺の隣に立っていた小人の全身に、巨大な唇を押し当てたのだった。
(な……あ……)
裸になった小人の身長は、妹の下唇と上唇の高さと丁度同じくらいで。押し当てられた唇に、全身がふにっ…♡と埋もれてしまっている。人の唇に人が埋もれているというありえない光景を見せつけられ、言葉が出なくなる。
周囲に立ち込める、女の子らしい甘い香り。いつも家の中で嗅いでいるはずなのに、その匂いとは濃さのレベルがあまりにも違う。吸う空気全てが妹の成分でいっぱいで、肺の中までその匂いで満たされるような感覚。
「「ちゅっ……ん…♡」」
優しく、可愛らしく、ついばむように唇を小人に押し当てる。その動作はあくまで小人を気遣っていて、唇の表面が優しく小人の全身に貼りついては、にちっ…♡と音を立てて離れていくのだ。
妹のセクシャルなコミュニケーションをいきなり目の当たりにして、俺は気が気ではなかった。確実に見てはいけないものを見てしまっているような気がして。妹の唇ってこんな色をしてたんだ、とか。妹の顔から発せられる匂いはこんな香りなのか、とか。兄として知る必要のない、知ってはいけないような事実を強制的に知らされているような感覚。
「「んっ……ちゅ……んー…♡」」
ゆっくりと小人が学習机の床に仰向けに押し倒され、妹の巨大な唇がその上からのしかかる。時折可愛らしいリップ音を立てながら、唇の柔らかさを小人の裸に教え込む。
想像してしまう。あんなに大きなリップについばまれたら、どんな感触がするのか。普通に生きていたらまず味わうことのないキスに、あの小人はどんな感情で浴びせられているのか。まだ青い女子中学生の唇に支配されるのは屈辱なのか、既に受け入れてしまっているのか。
そんな想像をしている自分にハッと気づき、あまりに兄として気持ち悪い想像をしていることに嫌悪感を抱く。この巨大な顔は、俺の実の妹なのだ。ちょっとでも性的な想像が入るだけで、嫌な気持ちになる。だいたい、こんな生意気でいつも仏頂面の妹に愛でられることの、何がいいんだ。そう、心の中で思う。いや、自分に言い聞かせていた。
「「ちゅぷっ……ちゅうぅ……んんー…♡」」
(………ちょ……)
どんどん、巨大な唇のキスが激しくなっていないか。仰向けになった小人は既に全身をバタつかせていて、むちむち巨大なリップの下で苦しそうに悶えている。当たり前だ、さっきからずっと唇に吸い付かれていて、空気を吸う間も無いように見える。
…しかし、圧倒的なフレンチキスの猛攻は止まらない。バタバタ抵抗する小人の全身を丁寧に唇で押さえつけ、少しだけ口を開けては「「はあっ…♡」」と生暖かい吐息を浴びせる。かと思えば唇がすぼめられ、「「ちゅぷっ…♡」」とわざとらしくリップ音を響かせて、小人の身体の表面でぷにぷにのリップを弾けさせるのだ。
(………)
何故か、自分の心臓がバクバクしていることに気がついた。自分の知らない妹の姿を見せつけられたことへの驚きもある。こんな姿を見せつけられて、この後元に戻った時にどう話せばよいのか、という焦りもある。しかし、それよりも…。一人の人間が、巨大な中学生の唇に圧倒的に弄ばれている衝撃的な光景に、胸が変に締め付けられるような感情を抱いていた。あの小人が自分だったら、どうなっていたのか。唇の表面の空気しか吸えなくて苦しいのか。全身に刻みつけられるむにむにのキスの感触が気持ち良いのか。
そして。
「「れぇー…♡」」
むわあっ…♡♡
巨大な唇の間から現れた濡れ濡れの巨大なベロが、小人の全身に容赦なく押し当てられた。
「ああ……あ……ひ……」
恐ろしいほどに性的な光景が、繰り広げられていた。人間が食べ物の味を感じるためのピンク色の舌が、同じく人間だったものに覆いかぶさっている。唾液でベトベトなそれは、決して人前に出すようなものではない。そんな、自分の体液まみれの部位を、躊躇なく見知らぬ人間に塗りたくっているのだ。
「「じゅぶっ…♡ちゅうぅぅ……れろぉっ♡」」
あたりに響き渡る卑猥なリップ音が、自分の妹のものだと信じられない。あたりに立ち込める唾液の濃厚な匂いが、自分の妹のものだとは思えない。一度も見たことのない妹の淫らな唇の動きと、一度も嗅いだことのない濃い体液の匂い。生意気な子どもの中学生でしかなかった妹が、こんなにも淫らなキスを人間に浴びせるなんて。普段憎まれ口ばかり叩いているあの小さな唇が、こんなにも巨大で強くて、圧倒的に人間を捻じ伏せている。
「「れろれろっ……ちゅうぅぅっ……♡…あはっ…♡」」
分厚い舌先を小人の首元に当てながら、なんども往復させて唾液を塗りたくる。唇全体で小人を思い切り圧し潰し、激しい音を立てながら小人の身体を吸い上げる。あまりに爆音で鳴り響くえっちなリップ音に、思わず耳を塞いでしまう。あの音を唇の下で聞かされている小人の鼓膜は、既に破れているかもしれない。
目が、離せなかった。何も言えないまま、巨大な妹のディープキスによる蹂躙劇をただただ目の当たりにするしかなかった。
「「ちゅうぅぅぅ………♡♡」」
最後にトドメと言わんばかりに、小人の全身を強烈に吸い上げる妹。小人の身体はその吸引で浮き上がっていて、妹の唇に吸引の力だけで貼りついてしまっている。
「「ちゅぱっ…♡」」
ぽとん、と。巨人のキスから解放された小人が、こと切れたように学習机の床に落とされてへたり込む。息はしているようだが、ほとんどグロッキー状態でピクピク動くだけだった。
「「あはは、痕ついちゃったね…」」
衝撃的な吸引により全身痣だらけになった小人を見ながら、妹が苦笑する。その態度はいたって平然としていて、我を忘れているわけでもなく、悪びれているわけでもない。まるで、今行われた蹂躙は日常であるとでも言いたげな、そんな雰囲気。
「…………」
そんな妹の姿を見上げながら、口を開けたまま唖然とする俺。…そして。自分の股間が、異常なまでに固くなっていることに気づいてしまった。
(っ……なんでっ……!!)
そんなわけがない。相手はあの妹だ。一切恋愛感情など抱いたことがない、ただの子どもでしかない妹。性的な興味を持ったことなど、ただの一度もない。そんなの、兄妹として気持ち悪すぎる。
なのに、なのに。圧倒的な大きさの唇で蹂躙される小人を目の当たりにして、何故こんな感情になってしまっているのか。
「「じゃあ、これ片付けちゃうね」」
ガサッ……
自分の感情が分からなくなって動揺していた俺は、あの白い箱が妹の手によって持ち上げられたことに気づくのが遅かった。
「っ…!!ちょっとまっ…!!」
しかし、既に手遅れで。妹は白い箱を、強靭な握力でぐちゃぐちゃに丸めて。自分の部屋のゴミ箱にポイと捨ててしまった。…俺が元の大きさに戻るために必要なスプレーも一緒に。
「「みんなは引き出しの中で過ごしてねー」」
「うわあっ!!??」
妹は、学習机の上に固まっていた小人たちを、右の手のひらだけで無造作にかき集める。ブルドーザーのように迫りくる指に簡単に絡めとられ、さきほどの白い箱くらい広い手のひらの上に乗せられる。その中には、妹の唾液でべとべとになった瀕死状態の小人も含まれていた。手のひらから立ち上る熱気の中に、11人の小人が捕らわれる。
「「落とすよー」」
ぼとぼとぼとっ……
「ぐえぇっ!??」
手のひらに乗せられた俺たちは、開け放たれた学習机の引き出しの上から乱雑に落とされる。5,6メートルほどの高さから落とされた俺は、痛みに悶えながらも何とか立ち上がって上空を見上げる。
そこには、ビルのようにそびえ立つ妹の上半身が見えていた。
「まてっ!!俺だからっ!!気づいてっ!!」
「「じゃあ、明日までおやすみ♪」」
「まてっ!!おいっ!!まっ「「ガラガラガラッ……」」
俺の叫びなど届くはずもなく。妹の手によって引き出しが閉められ、俺は引き出しの中の暗闇の世界に閉じ込められた。
「「お風呂入ってこよ」」
ズンッ!!ズンッ!!
妹の独り言と、何気ない歩行の音と衝撃が引き出しの中に響く。それは、再び小人たちが妹の生活リズムに振り回され始めることを意味していた。次に引き出しを開けられるのがいつかは、妹にしか分からない。
(どうすれば…どうすれば……)
縮小スプレーを失ってしまった今、元の身体にすぐに戻ることができない。早くここから逃げ出して、妹に気づいてもらわないと…でも、どうやって…。
(………)
先程の妹の蹂躙劇を思い出し、身体が震える。もしあれが、俺の身に降りかかってきたら。一生、妹と元の関係ではいられない気がする。絶対に、そんなことにはなってはいけない。
(絶対、ここから逃げなければ……)
俺は身体を震わせながら、何も見えない引き出しの中でそう誓うのだった。
---続く---