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被害妄想(その1)

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被害妄想(その1)
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「ベンチ」の続き。わりとずっと書/描きたかったやつ。

「では大体そんな感じでお願いします」

「わかりました、出来たらDM送りますので」

「了解~またね~」

ブツリと音が鳴って通話が切れる。綺麗に整えられた後付けの効果音だろう。


「あちら」の人は無意識になのか、こちらを子供扱いしてくる節がある。

最後の声のトーンなんてまさにそんな感じだ。ひらひらと振った手は

画面越しにはわからないが、実際には子供から見た大人の手よりもずっと大きくて

あの手で、あの大きな手で私を……


いつの間にか膨らんでいた股間に手を伸ばす。

会議中は特にそんな気にもならないのが不思議だと思う。

向こうもそうなのだろうか。周囲に他の人も居るオフィスだから

そんな余裕などないかもしれない。いや、それ以前に彼は

「あいつ」とは別の人間なのだ。あれこそがまさに子供なのであり、

身体だけがそこから抜けだそうとして、持て余していたのだろう。


こちら側の大人を遥かに上回る膂力でこちらの動きを封じ、

視界を塞ぎ、その欲望を、自分よりも弱く小さな者に注いだのだ。

あの少年が捕まったという連絡はまだ聞いていない。

幸いにも、後遺症が残るようなことはなく、垂れ流しの憂き目は避けられた。

それでも事件の後は酷い有様だったようだ。自身ではあまり覚えていないが

全身に無数の傷跡や痣が残ったし、何か所か骨折もしていた。


現場は血だらけではあったようだが、肛門の損傷がそれほど酷くなかったのは

まだ子供だったからではないか、と人間の医者が含みを持たせて面白そうに言うのに

どういうリアクションを返すのが正解だったのだろうか。不愉快ではなかったが。


これよりも大きかったのか小さかったのか。今では思い出せないし、

あいつもあの頃より成長しているのだろうから、思い出したところで意味もない。


こちらとて、今ではこのサイズも無理なく入れられるようになってしまった。

実のところ、恐怖感が身体を固く強張らせる最大の要因なのだが

あの一件が良かったのか悪かったのか。これがそこに入ることが

「当たり前」のことだと自分の体が受け入れているようなのだ。


周囲の人々はまさかそんなことになっているとは思ってもみないだろう。

巨人たちに対する恐怖感で残っているのは純粋に生理的なものだけで、

気持ちの上ではむしろ、以前よりも関心を向けているに違いないのだ。


こちらの事情を配慮してくれているとは言え、行く行くはあちらに

出向しなければいけないこともある。もしこんなことをしているとバレたら……。


「ピンポーン」


玄関のドアホンが来客を知らせる。宅配は頼んでいないし、

特に来客の予定もない。勧誘やセールスだったら居留守で構わないが

念のためにとカメラ映像を確認する。


「は!?」


そこに映っているのは先ほどまでリモート通話をしていた相手。

共存区域ですらないこんな場所に居ていい人物ではなかった。


状況が呑み込めずフリーズしていると、画面から相手が消える。

そして……


ドンドンドンドン!


ドアが物凄い強さで叩かれる。そのまま壊されてしまうのではないかと

錯覚してしまうほどの強さで。いや、彼らにしてみればちょっと強めに

ノックしただけなのかもしれないが。いや……


ガチャガチャ、バキン


「あっ、開いた。ってかやべ、壊れた?」


大は小を兼ねるとはよく言ったものだ。

ここは単身者住宅で、つまりは自分だけが住むための部屋なのだから、

当然ながら何もかもがこちら側のサイズに合わせて作られている。

そこに無理やり侵入してきた彼はあちら側で会うときより更に大きく見える。


「あ、やっぱ居るじゃん。居るよねさっきの今だし」

「え、なんで……」


彼の靴を置くと玄関のスペースはほぼ埋まってしまった。

元々並んでいた私の靴を踏まないように置いてくれているのは有難いが、

こちらに何か問答する隙も与えず、四つん這いになって上がり込んでくる。


「うわー、めっちゃ狭いね。面白ぉ~」


ずりずりと這いながら、洗面所やトイレ、風呂場と、端から一つずつ

見分してはいちいちそのサイズに驚き、面白がっている。

そう古い物件でもないのに床板はみしみし言っているし、

壊れるから便座に座ろうとするのはやめてほしい。


向こうの社屋にも私達用のトイレ等はあるのだが、色々な意味で

彼らには入れない場所で、本来ならここだってそのはずなのだ。


内心で色々考えはするが、そもそもこの状況が何なのかもわからなければ

何を言えばいいのかも纏まらず、これまで私の方は一言も発していない。


満足したのか、更に奥へと入り込んでいく。四つん這いでも大きさがある分、

こちらより素早いのだ。リビングに移動した時点で、まずいことに気づいた。

気づいたのだが……気づいた時にはもう遅かったようだ。


「ね、これ何~?」

「えっ、いや、あの」

「ずいぶん小ぶりだと思ったけど、これ一応俺らサイズなんじゃないの?」

「あ、はい……」

「たしかウチ来ることになった事情って……あっ、えー、マジ?そういう?」


彼の中で何かしら答えは出たようで、恐らくそれは当たらずとも遠からずで。


「いやでもこんなの入んないでしょ。そんなちっちゃいところに」


こちらの下半身を目を細めてじーっと見つめる。

お互いに無言で睨みあう形で、このタイミングでの静寂は気まずいことこの上ない。


「あっ、そっか。試してみればいいんだ」


そして辿り着いた最悪の結論。

内心で期待していたのかもしれないと思うと自分が嫌になってくる。


ひょいと、重さを感じさせないような動作でこちらをお腹の前に抱きかかえると

リビングと続き部屋になった寝室に、座ったままずりずりと這って移動する。

そして寝室の片隅に置いてあるシングルのベッドを背もたれにして

ごろりと寝転がった。伸ばした足が部屋の隅に着きそうになっていて、

もう何が何だか、目で見たものの正しささえ揺らいでいるような気持ちになる。


彼が身じろぎするたびに、ぎしぎし、みしみしと嫌な音を立てるベッド。


「潰れちゃったらごめんね。弁償はするから」


どちらかといえばドアの方が困るのだが。


「さて、何から始める?リクエストある?」


先ほどと何も変わらない、好奇心に満ちた目で彼は聞いてきた。

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POSTEDSep 6, 2024
ARCHIVEDJun 10, 2026