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氷の騎士と素顔の私:第8.5章 愛美への誕生日サプライズ【FANBOX限定】

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氷の騎士と素顔の私:第8.5章 愛美への誕生日サプライズ【FANBOX限定】
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この物語は、先週のイベントでの成長を経た沙織が、支えてくれた人たちへの感謝を行動で示す物語。

言葉だけでなく、実際にセリナとしての時間を提供することで感謝を表現し、一人でも活動できるようになった成長を見せた。

職場の同僚たちとの信頼関係がより深いものに発展し、セリナとしての活動が他者の喜びにもつながることを実感できた。


先週のイベントでの経験と、今回の活動への新たな展望を示すエクストラストーリーとして、沙織の人間的な魅力と、美少女着ぐるみ活動の素晴らしさを描いた物語。


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初めてイベントへの一人参加で得た自信と、新しい仲間たち。

あのイベントから1週間が経ったある平日。

昼休みの市役所休憩室で、沙織は持参した弁当の蓋を開けたところだった。

今日のメニューは鶏の照り焼きと野菜の煮物。


先週のイベントの余韻がまだ心地よく残っている。

ミクさんとの出会い、美穂とアウラとしての再会、そして絵梨花との交流。

SNSのフォロワー数も950人を超え、コメントも以前より増えた。


一口食べようとした瞬間、山田さくらが息を弾ませながら駆け寄ってきた。


「沙織先輩!お疲れ様です!」


さくらの声には普段以上の明るさがあった。

何か大切な話があることを、その弾んだ声音が物語っている。

沙織が微笑みながら振り返ると、さくらが少し恥ずかしそうに手をもじもじと動かしていた。


「さくらちゃん、お疲れ様。どうしたの?なんだか嬉しそうね」

「実は...お話があって。沙織先輩にお願いがあるんです」

「お願い?何でも聞くよ、言ってみて」


さくらが一度深呼吸をしてから、意を決したように口を開く。


「来週の土曜日なんですけど、私の家で愛美さんの誕生日のお祝いをしようと思ってるんです」


その言葉に、沙織の表情がぱっと明るくなった。

愛美への感謝の気持ちを、どう伝えようかと考えていた矢先だったのだ。

第6章の危機の時、愛美とさくらの二人が温かく応援してくれた。

あの支えがあったから、今の自分がある。


「愛美ちゃんの誕生日!それは素敵ね。私も何かお手伝いできることがあれば」

「それで...沙織先輩も是非来てください!愛美さんも絶対に喜んでくれると思うんです」


沙織は少し驚いた表情を見せてから、嬉しそうに頷いた。


「もちろん!ぜひ参加させてよ。愛美ちゃんにはいつもお世話になってるし、お祝いできるなんて嬉しい」

「本当ですか?やった!」


さくらが小さく手を叩いて喜ぶ。

その純粋な喜びの表情を見て、沙織は心が温かくなった。


「でも、来週の土曜日なら時間も空いてるし、ちょうど二人にお礼をしたいと思ってたとこだったんだよね」


そう言いながら、沙織の脳裏に一つのアイデアが浮かんだ。

先週のイベントで得た経験。

一人で準備し、マスクを装着し、セリナとして活動する自信。

そして、愛美とさくらへの特別なお礼の形。


「そうだ、さくらちゃん」

「はい?」

「サプライズとして...セリナを連れて行ってもいいかな?」


さくらの目が大きく見開かれた。

一瞬、何を言われたのか理解できないという表情を浮かべる。


「え!?セリナちゃんを!?本当に良いんですか?」

「でも、そういうつもりでお呼びしたんじゃないんです。純粋に大好きな先輩としてお呼びしたかっただけで...」


沙織が手を振ってさくらの言葉を遮る。


「いつも応援してくれてる二人への感謝の気持ちとして、セリナとしても参加させてほしいんだ。邪魔じゃなければ」

「邪魔な訳がないです!愛美さんも絶対に喜びます!私もセリナちゃんにまた会えるなんて...」


さくらの声が興奮で上ずっている。

頬が上気し、目が輝いている。


「じゃあ、今日の夕方、詳しい計画を立てましょうか?いつもの居酒屋で」


沙織の提案に、さくらが大きく頷く。


「はい!お時間いただいてありがとうございます!」


◆ ◆ ◆


沙耶香とよく通う馴染みの居酒屋「かえで」。

暖簾をくぐると、温かい照明が心地よい店内に、常連客の笑い声が響いていた。

沙織とさくらは奥のテーブル席に向かい合って座っている。

壁には手書きのメニューが貼られ、焼き鳥の香ばしい匂いが漂っていた。


「それで、具体的にはどんな感じでお祝いするつもりだったの?」


沙織がビールを一口飲んでから尋ねる。

冷たいビールが喉を通る心地よさに、一日の疲れが少し和らぐ。


「愛美さんには『ちょっとした誕生日会をしたいから来て』って言ってるだけなんです。私の家で手料理でお祝いして、プレゼントを渡すくらいの予定で」

「なるほど。それじゃあ、こんなプランはどうかな?」


沙織が少し身を乗り出す。

先週のイベントでの経験が、自信を与えてくれている。

一人でマスクを装着する方法も、今ならわかっている。


さくらも真剣な表情でメモを取る準備をする。


「まず、私が事前にさくらちゃんの家に行って、料理の準備を手伝う。愛美ちゃんが到着する1時間前に、私は寝室でセリナに着替える」

「そして?」


さくらの目が輝いている。

ペンを持つ手に力が入る。


「愛美ちゃんが到着したら、まずはさくらちゃんが普通に誕生日会を始める。しばらく二人で会話した後、『実はサプライズでもう一人友達を呼んでるんだけど』って確認を取って」

「それから?」

「さくらちゃんの合図で、寝室からセリナが登場。二人でお誕生日プレゼントを渡す」

「わあ!素敵です!愛美さん、きっと驚いて喜んでくれます!」


さくらが思わず声を上げ、周囲の客が一瞬こちらを見る。

さくらは慌てて声のボリュームを下げた。


「そして、私のタイミングでセリナから着替えて、3人で普通にお祝いを続ける」

「完璧な計画ですね!」


沙織が少し照れたような笑顔を見せる。

グラスの中のビールを見つめながら、小さく呟いた。


「愛美ちゃんとさくらちゃんには、いつも本当にお世話になってるから。何か特別なことをしてあげたくて」


先週のイベントで、一人で活動できるようになった自分。

でも、その自信を与えてくれたのは、愛美とさくらの応援があったから。


「沙織先輩、本当に優しいです。愛美さんも私も、沙織先輩のこと大好きですから」


二人はグラスを合わせて乾杯し、詳細な計画を練り始めた。

時間、準備するもの、サプライズのタイミング。

一つ一つを丁寧に確認していく。

気づけば、2時間が経っていた。


◆ ◆ ◆


水曜日の夜、沙織は自宅のクローゼットでセリナの衣装を整理していた。

部屋の照明を少し落とし、いつもの作業用BGMを流している。

クローゼットの中には、セリナの衣装が丁寧に保管されていた。


先週のイベントで着た衣装は、既にクリーニングに出して戻ってきている。

エナメルドレスの光沢も、マスクの髪も、完璧な状態だ。


(普通のセリナの衣装も持参しよう)


沙織の心には、二人への特別なお礼の気持ちがあった。

第6章の危機。

あの時、もう少しで全てを失うところだった。

でも二人の温かい応援が、自分を救ってくれた。


(愛美ちゃんとさくらちゃんが私の誕生日にプレゼントしてくれた黒いロングスカートとグレーのニットを着たセリナでサプライズした後、今度は本格的なセリナの姿も見せてあげたい)


彼女は通常の騎士ドレスを見つめながら、計画を練る。

青と白銀のエナメルドレス。

黒革の装具。

そして、デュランディールの剣。


先週のイベントで、一人でマスクを装着する方法も習得した。

汗で金具が固まりやすいこともわかった。

でも、事前に準備しておけば大丈夫。


(セリナから普通の服に着替えるって言って寝室に行った時、実はもう一度、今度は本格的なセリナの衣装を着て戻ってくる)


沙織の目が優しく輝いた。

マスクを手に取り、その精巧な造形を指先でなぞる。


(今日は二人が満足するまでセリナとして過ごして、写真も撮り放題。ただし、SNSへのアップロードはなしの条件で)


(その分、最後まで完璧にセリナを演じてあげよう)


沙織にとって、これは第6章の危機を乗り越えさせてくれた二人への、心からの感謝の表現だった。

そして先週のイベントで得た、一人でも活動できるという自信の証明でもあった。


キャリーケースとトートバッグを用意し、衣装を丁寧に詰め込んでいく。

マスクは髪の毛が乱れないように専用の保護袋に入れ、キャリーケースへ。

エナメルドレスや装具類もキャリーケースに収納。

トートバッグには、アクセサリーや小物、そして愛美へのプレゼントを入れる。


沙織は土曜日が待ち遠しくなっていた。


◆ ◆ ◆


土曜日の朝10時。

沙織はさくらのマンションの前に立っていた。

エントランスで部屋番号を押すと、すぐにさくらの明るい声が返ってくる。


「沙織先輩!お疲れ様です!」


玄関ドアが開くと、エプロン姿のさくらが出迎えた。

1DKのアパートは、誕生日会の準備で既に飾り付けがされている。

壁には「Happy Birthday」のバルーン文字。

テーブルの上には色とりどりの紙皿と紙コップ。


「お邪魔します。準備、順調そうね」


中型のキャリーケースとトートバッグを持ちながら、沙織が部屋を見回す。

キャリーケースにはセリナの衣装とマスク。

トートバッグには愛美へのプレゼントとアクセサリー類が入っている。


「荷物、けっこうありますね。お手伝いします」


さくらがキャリーケースを持ってくれる。


「ありがとう。セリナの衣装、意外とかさばるのよ」

「はい!でもお料理は沙織先輩に教えていただきたくて」


二人は台所に向かい、愛美の好きな料理を作り始める。

沙織の手際の良さに、さくらが感心している。

包丁を使う手つきは慣れたもので、野菜があっという間に切り揃えられていく。


「沙織先輩、お料理上手ですね」

「一人暮らしが長いからね。愛美ちゃん、唐揚げが好きだって言ってたから、特製の唐揚げを作ってみよう!」

「特製ですか?」

「にんにくと生姜をたっぷり使って、二度揚げするの。外はカリカリ、中はジューシーに仕上がるわよ」


さくらが目を輝かせながら、沙織の手元を見つめている。

鶏肉に下味をつけ、丁寧に衣をつけていく作業。

その一つ一つが愛美への思いやりに満ちている。


午後1時、料理の準備がほぼ完了した。

テーブルの上には、色とりどりの料理が並んでいる。

唐揚げ、ポテトサラダ、野菜のマリネ、そしてさくらが用意したバースデーケーキ。


二人はテーブルに向かい合って座り、最終確認を始める。


「じゃあ、もう一度作戦を確認しましょうか」


さくらがメモを取り出す。

几帳面な性格が表れた、細かく書き込まれたスケジュール表だった。


「愛美さんの到着は3時の予定なので、沙織先輩は2時位にはセリナちゃんへの着替えをお願いしますね」

「了解。1時間あれば十分だから大丈夫」


沙織が頷く。

先週のイベントとは違い、今日は焦る必要がない。

十分な時間がある。


「まず私がリビングで愛美さんと普通にお祝いを始めます」


さくらが確認していく。


「で、適当なタイミングで『もう一人ゲストがいる』って伝えて...」

「寝室から私が登場する」


沙織が続きを言う。

二人の息がぴったりと合っている。


「セリナちゃんとして愛美さんにプレゼントを渡して、しばらく一緒に過ごす。それで、適当なタイミングで一度マスクを外して素の沙織先輩に戻る」

「そこで普通にお喋りして、お酒も飲んで」


沙織が付け加える。


「で、『着替えてくる』って言って寝室に行った時に、今度は本格的なセリナの衣装に着替えるんですよね」


さくらが確認する。


「そう。今度はデュランディールを持った完全装備のセリナで登場」


沙織の目が輝く。

計画を口にするだけで、ワクワクしてくる。


「完璧です!愛美さん、絶対に喜びますよ!」


さくらが手を叩く。


「でもちょっと緊張するな〜。久しぶりに2人の前でセリナになるから」


沙織の表情に、少しの不安と大きな期待が混在している。


「大丈夫ですよ。先週のイベントであんなにたくさんの人の前で堂々とセリナちゃんを演じてたじゃないですか」

「そうだけど...あの時とは違う緊張感があって」

「愛美さんには、あの時すごく励まされたもんね」


さくらが優しく言う。

アイデンティティクライシスの時、愛美とさくらの応援が沙織を救ってくれた。


「そう。だからこそ、完璧に喜ばせたいんだ」


沙織が決意を込めて言う。


「じゃあ、私は2時前に寝室に行って着替え始めるね」

「はい!私はその間にテーブルセッティングの最終確認をしておきます」


二人は顔を見合わせて、にっこりと笑った。

完璧な計画。

完璧なサプライズ。

愛美の喜ぶ顔が目に浮かぶようだった。


◆ ◆ ◆


午後2時。

さくらの寝室に、沙織はキャリーケースとトートバッグを持ち込んだ。

小さな部屋だが、清潔で整理整頓されている。


まず、キャリーケースを開ける。

中には、セリナのマスクが専用の保護袋に入れられている。

髪の毛が乱れないように、丁寧に梱包してある。

エナメルドレスや装具類も、シワにならないように畳まれている。


トートバッグからは、プレゼントされた服を取り出す。


黒いロングマキシスカートとグレーのノースリーブニット。

愛美とさくらが私の誕生日にプレゼントしてくれた服。

二人が選んでくれた大切なコーディネートに、今日は特別な意味がある。


(二人がプレゼントしてくれた服でセリナになるなんて...きっと喜んでくれるわね)


まず、いつものようにスポーツブラに着替える。

そしてクローゼットの奥から取り出した全身タイツを、足先から丁寧に引き上げる。

肌色のタイツが体を包み込む感覚が、沙織に安心感を与える。

この感触が、セリナへの変身の始まりを告げている。


先週のイベントで何度も経験した、この一連の流れ。

体が自然と慣れた動きで進んでいく。


髪をゴムで束ねて首の後ろに一つにまとめる。

フード部分はまだ被らず、胸元に垂れ下げたままにしておく。

鏡に映る自分の姿は、まだ沙織だが、もうセリナへと変わり始めている。


(久しぶりだけど、体が覚えてる)


次に、黒いマキシスカートを履く。

いつものエナメルドレスとは全く違う、カジュアルで女性らしい印象。

布の柔らかさが、いつもと違う感覚を与えてくれる。

その上にグレーのノースリーブニットを着る。


(いつもと違う感じだけど、これはこれで素敵)


鏡の中の自分を見つめながら、沙織は満足そうに微笑む。

髪は後ろで一つにまとめられ、フードは胸元に垂れている。

あとはマスクを被るだけの状態だ。


時計を見ると、14:20。

思った以上に早く変身が終わってしまった。


(まだ40分もある...)


このまま外に出るのも、フードを被らずに肌タイツ姿でいるのも何となく嫌だ。

沙織はキャリーケースから通常の騎士ドレスを取り出し、準備とチェックを始めることにした。


青と白銀のエナメルドレスを広げ、シワや汚れがないか確認する。

黒革の装具も一つ一つ点検。

デュランディールの剣は分解された状態で収納されている。

組み立てて、刀身の状態を確かめる。


(後で着替える時に慌てないように、ちゃんと準備しておかないと)


一通りチェックを終えると、まだ時間がある。

沙織はふと思いついて、セリナのマスクを手に取った。


(そういえば、フードを被らずにマスクを被ったことないな)


試しに、フードを被らないまま、マスクを装着してみる。

前面パーツを顔に当て、後頭部パーツを合わせ、両耳上の金具を固定していく。


カチリ、カチリ。


視界が一気に狭まり、マスクの小さなスリットからしか外が見えなくなる。


「スゥ...ハァ... スゥ...ハァ...」


呼吸を確認する。

問題なさそうだ。


でも、何か違和感がある。

マスクの内側の密着感が、いつもよりほんの少しだけ緩い気がする。


(あれ?)


沙織は金具を外してマスクを外し、内側を確認する。

マスクの内側に貼られたスポンジを触ってみると、特に頬の部分が少しへたっている。


(使い込んできたからかな...でも今日、二人の前でマスクがずれたりするのは嫌だな)


沙織はトートバッグの中を探り、予備のスポンジを取り出した。

全部交換する時間はないが、一番気になる頬の部分だけなら応急処置できる。


慎重に古いスポンジを剥がし、新しいスポンジを頬の部分だけ貼り付ける。

左右のバランスを確認しながら、丁寧に作業を進める。


(これで大丈夫...のはず)


再度、フードを被らないままマスクを装着する。


カチリ、カチリ。


「スゥ...ハァ... スゥ...ハァ...」


密着感が戻った。

頭を左右に振っても、マスクがずれることはない。


(よし、これなら大丈夫)


安心して金具を外し、マスクを外す。

時計を見ると、14:40。

ちょうど良い時間になっていた。


(あと20分か)


沙織は椅子に腰を下ろし、手元のセリナのマスクを静かに見つめた。

この美しいマスクが、自分を別の存在に変えてくれる。


ふと、以前のことを思い出す。

愛美とさくらに、セリナの正体が自分だと詰め寄られた時のこと。


あの時は本当にパニックになった。

二人にどう顔を合わせたらいいのか、わからなかった。

秘密を守りたい気持ちと、二人の応援が嬉しい気持ちが交錯して、混乱していた。


でも、そのおかげで今がある。

二人に秘密を打ち明けて、理解してもらって。

そして今日、こうして特別なサプライズを一緒に計画している。


(今となっては、良い思い出だな)


沙織は静かに微笑んだ。

セリナのマスクを優しく撫でながら、もうすぐ始まる特別な時間を待った。


時計を見ると、14:45。

まだ15分ある。


椅子に腰を下ろし、静かに待機する。

黒いマキシスカートとグレーのニット姿。

髪は後ろで一つにまとめられ、フード部分は胸元に垂れ下がっている。

あとはフードを被ってマスクを装着すれば、セリナの完成だ。


膝の上には、セリナのマスク。

美しい顔のパーツが、静かに光を反射している。


(愛美ちゃん、喜んでくれるかな?)


小さく呟きながら、沙織はマスクを見つめる。

もうすぐ、特別なサプライズの時間が始まる。


◆ ◆ ◆


愛美の到着15分前。

リビングでソワソワと待っているさくら。


テーブルの上の料理やプレゼントの準備は完璧に整っている。

唐揚げは保温容器に入れて温かさをキープ。

ポテトサラダと野菜のマリネは冷蔵庫で冷やされている。

バースデーケーキは別の箱に丁寧に保管。


でも、寝室にいるセリナのことが気になって仕方がない。


さくらはソファに座ったり立ったり、落ち着きがない。

時計を見る。14:45。

窓の外を見る。まだ愛美の姿はない。

またソファに座る。でもすぐに立ち上がる。


(セリナちゃん、ちゃんと準備できてるかな...)


寝室のドアを見つめる。

中では沙織先輩がセリナに変身しているはずだ。

その姿を想像するだけで、胸が高鳴る。


(会いたい...)


さくらの心の中で、その気持ちが大きくなっていく。

愛美さんが来る前に、一度だけでいいから、セリナちゃんに会いたい。


でも、邪魔しちゃいけない。

準備の最中かもしれない。

集中している時に声をかけるのは失礼かもしれない。


さくらは寝室のドアの前まで歩いていき、立ち止まる。

ドアの向こうから、何か音が聞こえるわけでもない。

静かだ。


(どうしよう...)


ためらいながらも、さくらは意を決して軽くノックした。


コンコン。


小さな音。

心臓がドキドキしている。


「どうしたの?」


すぐに沙織先輩の声が返ってきた。

ドアが少し開き、そこから沙織先輩の顔が覗く。


「あ...」


さくらの目に飛び込んできたのは、首から下は肌色の全身タイツを着た沙織先輩の姿。

黒いマキシスカートとグレーのニット。

髪は後ろでゴムで一つにまとめられ、フード部分は胸元に垂れ下がっている。

顔だけが普通の沙織先輩で、でも体はもうセリナの準備ができている、という不思議な状態。


「すみません...どうしてもセリナちゃんに会いたくなっちゃって」


さくらが申し訳なさそうに言う。

頬が熱くなる。

こんなお願い、おかしいよね。

でも、我慢できなかった。


「あら」


沙織先輩が優しく微笑む。

その微笑みに、さくらは少しホッとした。

怒られなかった。


「じゃあ、ちょっと待ってて。すぐにセリナちゃんに会わせてあげるから」

「本当ですか!?」


さくらの目が輝く。


「うん。1分だけ待ってね」


沙織先輩がウィンクをして、ドアを閉める。


寝室では、沙織が椅子に置いていたセリナのマスクを手に取った。


(さくらちゃん、待たせちゃ悪いもんね)


まず、胸元に垂れていたフード部分を頭に被る。

髪は既に後ろで一つにまとめてあるので、フードがスムーズに収まる。

首の後ろから頭頂部へ続くファスナーを、下から上へ引き上げていく。


シュルシュルシュル...


ファスナーが閉まる音。

首元がしっかりと密閉され、体全体が肌タイツに包まれた。


鏡を見る。

顔以外は完全にタイツに覆われた状態。

あとはマスクを被るだけ。


セリナのマスクを両手で持ち、前面パーツを自分の顔に当てる。

この動作は、先週のイベントで何度も繰り返した。

スポンジが頬、額、顎に優しく密着する感触。

体が覚えている。


右手で前面パーツを顔に押さえながら、左手で後頭部パーツを持ち上げ、頭の後ろに回す。

前面と後頭部、二つのパーツの縁が合うように調整。


(よし)


両耳の上あたりで、金具の位置を確認する。

左側から。


カチリ。


一つ目の金具が固定される。

マスクが少し安定する。


続いて右側。


カチリ。


二つ目の金具が固定される。

マスクが完全に頭部に固定された。


「スゥ...ハァ... スゥ...ハァ...」


マスクの中で、沙織の呼吸音が響く。

密閉された空間。

視界が一気に狭まり、マスクの瞳の上にある小さなスリットからしか外が見えない。


でも、もう慣れたもの。

この感覚が、セリナになった証。


軽く頭を左右に振って、マスクのズレがないか確認する。

問題なし。

頬のスポンジを交換した効果で、密着感は完璧だ。


鏡の前に立ち、全身をチェックする。

普段着姿のセリナ・グレイヴフロスト。

髪はバレッタで上品にまとめられ、いつもと違う都会的な雰囲気。


(いつもと違うセリナも素敵)


マスクの中で沙織が満足そうに呟く。


深呼吸を一つ。


「スゥ...ハァ...」


さあ、さくらちゃんを待たせちゃった。

セリナとして、ドアを開けよう。


ドアノブに手をかけ、ゆっくりとドアを開く。


ドアが開き、普段着姿のセリナがさくらの前に現れた。


「セリナちゃん!」


さくらの目が輝く。

間近で見るセリナの美しさに改めて感動している。


そして、セリナが着ている服に目が留まる。

黒いロングマキシスカートとグレーのノースリーブニット—それは、自分と愛美が沙織先輩の誕生日にプレゼントした服だった。


「あの服...!」


さくらの胸が熱くなる。

私たちがプレゼントした服を、セリナが着てくれている。

沙織先輩が、この特別な日にこの服を選んでくれた。


普段SNSでしか見ることのできないセリナが、今、目の前にいる現実に心が躍る。

手を伸ばせば触れられる距離に、憧れのセリナがいる。


「本当に...本当にセリナちゃんなんですね」


さくらが感動で声を震わせながら呟く。


セリナが優雅にお辞儀をして、さくらに向かって手を差し出す。

その所作は騎士らしい品格に満ちており、普段着を着ていても氷の騎士としての威厳を失わない。

背筋の伸びた姿勢、指先まで神経の行き届いた動き。

全てが完璧に計算されている。


「会いたかったです」


さくらがセリナの差し出された手を両手で大切に握る。

肌タイツ越しに感じる確かな温もりと、手のひらの柔らかさ。

普段は画面越しでしか見ることのできないセリナの手を、今こうして握っている現実に胸が躍る。

手のひらの温度が、直接心臓に伝わってくるようだ。


「私も...ずっとお会いしたかったです」


さくらの声には感動と緊張が混じっている。

セリナの手の温もりが、さくらの手のひらを通じて心臓まで届いているようだった。


そう言いながら、さくらは思わずセリナに軽くハグをする。

肌タイツ越しに感じるセリナの体温と心臓の鼓動に、さくらの心が弾む。

セリナの体は思っていたよりも華奢で、でも確かな生命力を感じる。

抱きしめた腕の中に、確かに人がいる温かさ。


「セリナちゃん...本当にここにいるんですね」


ハグをしながら、さくらが小さく呟く。

セリナの髪の香り、体の温かさ、全てが現実のものとして感じられる。

これは夢じゃない。

本当にセリナが、ここにいる。


しばらくセリナに近寄っていると、セリナのマスクからは沙織のゆっくりとした呼吸音が聞こえてきて、中には確実に沙織が入っているということを痛感する。


「スゥ...ハァ... スゥ...ハァ...」


落ち着いた息遣いが、マスクの口元の小さなスリットから静かに漏れている。

まだ着用して間もないため、呼吸も穏やかだ。

その規則正しい呼吸音が、さくらにとっては不思議と心地よかった。

セリナの中に沙織がいる証拠。

二つの存在が重なり合っている証。


マスクをもう一度見つめると、美しい瞳の上に小さなスリットがあり、そこから今沙織がこちらを見ているのだということに気付く。

この精巧なマスクの向こうに、確かに沙織先輩の目がある。


「もしかして、ここの部分から外を見ているんですか?」


さくらが小さく呟く。

セリナの美しい瞳の奥に、沙織の視線を感じる不思議な感覚。

見られているのか、見つめ合っているのか、境界が曖昧になる。


セリナが小さく頷くと、その仕草がとても人間らしく、確かに中に沙織がいることを実感させる。

頷く動作に合わせて、髪が軽く揺れ、マスクがほんの少し動く。

その微細な動きが、生きている証。


初めて生の着ぐるみを間近で見るさくらにとって、その構造はとても新鮮だった。

でも、ふと我に返って、つい失礼な質問をしてしまったのではないかと心配になる。

セリナの世界を壊してしまったかもしれない。


「あ、すみません...変なこと聞いちゃって」


さくらが慌てて謝る。


セリナはゆっくりと首を横に振り、両手をパタパタと振って「気にしなくていいよ」という素振りを見せる。

その仕草がとても沙織らしくて、さくらは安心する。

いつも職場で見る、沙織先輩の優しい仕草そのまま。


そして、セリナが再びさくらの方に近づき、優しく抱きしめる。

その温かい抱擁に、さくらの心配は完全に解けていく。

胸に顔を埋めると、セリナの心臓の鼓動が聞こえる。

一定のリズムで打つ鼓動が、さくらを安心させる。


この抱きしめ方。

この優しさ。

この温もり。


全部、沙織先輩だ。


マスクの向こうに、確かに沙織先輩がいる。

このセリナの中に、沙織先輩が入っている。

美しいマスクの下には、いつも優しく笑ってくれる沙織先輩の顔がある。


「優しい...本当に、さお...セリナちゃんですね」


さくらがセリナの胸に顔を埋めながら呟く。

危うく「沙織先輩」と言いそうになった。


その瞬間、セリナの肩が小さく揺れる。

笑っているようだ。

マスクの中で、沙織先輩が微笑んでいるのが伝わってくる。


セリナがさくらの背中から手を離し、そっとさくらの肩を掴んで少し体を離す。

そして、セリナはゆっくりとさくらの耳元に顔を近づけた。


マスクの口元が、さくらの耳のすぐ近くまで来る。

そして、マスクの中からくぐもった小さな声が聞こえてくる。


「沙織じゃなくて、セリナ。わかった?」


その声は、マスクに遮られて少しこもっているけど、確かに沙織先輩の声だった。

優しく、でも少しだけ注意するような、でもどこか楽しそうな声。


さくらの顔が一気に真っ赤になる。


「す、すみません!セリナちゃん!」


さくらが慌てて謝る。

心臓がドキドキしている。

こんなに近くで、セリナちゃんの声を聞けた。

いや、沙織先輩の声を、セリナちゃんとして聞けた。


セリナが満足そうに頷き、再びさくらを優しく抱きしめる。

その仕草がとても沙織先輩らしくて、さくらの胸が温かくなる。


「本当に美しいです...写真で見るよりもずっと」


さくらがセリナの顔を見上げながら呟く。

間近で見るセリナのマスクの精巧さ、一本一本が丁寧に植えられた髪の美しさ、全てが夢のように完璧だった。

芸術作品を見ているような感覚。

でもそれが、今動いて、呼吸して、自分を抱きしめてくれている。


そして、その中には沙織先輩がいる。

セリナという存在と、沙織先輩という存在が、一つになっている。


「この髪、本当に手が込んでますね。沙織先輩がご自分で?」


さくらが恐る恐る髪に触れながら尋ねる。

髪の一本一本が、丁寧に植えられている。


セリナが照れたように小さく頷く。

その仕草に、マスクの奥にいる沙織の表情がほんの少し透けて見えるような気がした。

きっと、マスクの中で頬を赤らめているのだろう。


「すごいです...こんなに美しいセリナちゃんを作り上げるなんて」


セリナも嬉しそうに小さく頷き、さくらの頭を優しく撫でる。

その手つきは姉のように温かく、さくらは目を細めて幸せそうな表情を見せる。

肌タイツ越しに感じる手のひらの温度、指の動き、全てが優しくて愛情に満ちている。


「セリナちゃんの手、とても温かいです」


さくらが目を閉じながら言う。

セリナの手が髪を撫でる度に、心が安らいでいく。

まるで子供の頃、母に頭を撫でられた時のような安心感。


その時、さくらは気づく。

セリナの手の動きに、時々見覚えのある仕草が混じっているのを。

髪を撫でる時の手の角度、指の動かし方—それはまさに普段職場で見る沙織先輩の癖だった。

書類を整理する時の手つき、コーヒーカップを持つ時の指の形。

全てが重なり合う。


「あ...」


その瞬間、さくらの中でセリナと沙織先輩が重なる。

美しいセリナの中に、確かに優しい沙織先輩がいる。

二つの存在が一つになって、今ここに立っている。

別々のようで、でも同じ。

同じようで、でも別々。

不思議な感覚がさくらを包む。


「不思議です...セリナちゃんなのに、沙織先輩も感じる」


さくらが素直な感想を口にする。


セリナが微笑むように小さく頷く。

その反応が、まさにさくらの言葉を肯定しているようだった。

どちらも本当。

セリナも本当、沙織先輩も本当。


「あの...触ってもいいですか?」


さくらが恥ずかしそうに尋ねる。


セリナが微笑むように頷くと、さくらは恐る恐るセリナの髪に触れる。

指先に伝わる髪の質感。

一本一本が丁寧に作られている。


「わあ...本当にきれい。この髪の色、写真で見た通りです」


漆黒に近いネイビーブルーの髪と白銀のメッシュを指先で優しく撫でるさくら。

光の加減で色が変わって見える、その美しさに見惚れている。


「私服のセリナちゃんも素敵ですね。いつもと違って、お姉さんみたいです」


セリナがクルリと回って見せると、黒いマキシスカートがふわりと広がる。

その動きは優雅で、まるでダンサーのよう。


「わあ!」


さくらが小さく手を叩いて喜ぶ。


「すごく似合ってます!私と愛美さんがプレゼントした服を、セリナちゃんとして着てくれて...本当に嬉しいです」


さくらの目が潤む。

自分たちが選んだ服を、こんなに美しく着こなしてくれている。

しかもセリナちゃんとして。


「この私服のセリナちゃんは、私たちにだけ特別に披露してくれるものなんですよね?」


さくらが恐る恐る尋ねる。

少し不安そうな表情。


セリナが大きく、力強く頷く。

そして、両手を胸の前で合わせて、深くお辞儀をする。

感謝の気持ちを込めた、丁寧な礼。


その仕草を見て、さくらの胸が熱くなった。

マスクの奥にいる沙織先輩の優しさが、セリナの動き一つ一つから伝わってくる。

私たちのためだけの、特別なセリナ。


その時—


「ピンポーン」


突然のインターホンの音。


さくらとセリナが同時にピタリと動きを止める。

時が止まったかのような一瞬。

二人の視線が絡み合う。


え?

もう?


さくらの目が見開かれる。

セリナのマスクが、わずかに傾く。

マスクの奥の目が、驚きを表しているように見える。


「あ...あ...愛美さん!」


さくらが慌てて時計を確認する。

15:00ちょうど。

いや、予定は15:00。

でも心の準備が...!


「セリナちゃん、急いで!寝室に!」


さくらが小声で、でも必死に訴える。

手を伸ばしてセリナの手首を掴む。


セリナが大きく頷く。

声は出せない。

マスクを被っている以上、絶対に声を出してはいけない。


でも、その頷きから伝わる「わかった!」という意思。

セリナが慌てて立ち上がろうとする。


しかし—


「あっ」


スカートの裾が椅子の足に引っかかった。

バランスを崩しかけるセリナ。


「危ない!」


さくらが咄嗟にセリナの腕を掴んで支える。


セリナが申し訳なさそうに、両手を合わせて「ごめんなさい」のポーズ。

その仕草が可愛らしくて、こんな緊迫した状況でも、さくらの顔に一瞬笑みが浮かぶ。


「大丈夫です、急ぎましょう!」


さくらがセリナの手を取って寝室に向かう。

小走りで、でも音を立てないように。


セリナもついていこうとするが、黒いロングマキシスカートが足に絡まる。

普段のエナメルドレスは動きやすいように計算されているけど、この私服スカートは長くて布が多い。


一歩、二歩。

スカートの裾を気にしながらの移動。


「あ...」


セリナが小さく声を出しそうになって、慌てて口を押さえる。

いや、マスクの口元に手を当てる。

声を出してはいけない。


さくらが振り返る。

心配そうな顔。


「大丈夫ですか?」


セリナが慌てて頷く。

そして、スカートの裾を両手で少し持ち上げる。

まるで舞踏会に向かうお姫様のような仕草。


その姿が、普段の凛々しい騎士セリナとは全く違って、とても女性らしい。

さくらの心に、「可愛い...」という思いが浮かぶ。


でも今はそれどころじゃない。


「急ぎましょう!」


さくらが再びセリナの手を引く。

セリナもスカートを持ち上げたまま、小走りで続く。


マスクの中で、沙織の呼吸が少し速くなっている。


「ハァ、ハァ、スゥ、ハァ」


緊張と、急な運動で。

でも、楽しい緊張。

ドキドキする緊張。


やっと寝室の扉に到着。


さくらが扉を開けて、セリナを中に入れる。


「ここで待っていてください!」


小声で伝えるさくら。


セリナが頷く。

そして、両手で「わかりました」というジェスチャー。


「声は絶対に出さないでくださいね」


さくらが念を押す。


セリナが大きく頷いて、人差し指を立てて口元(マスクの口元)に当てる。

「シーッ」のポーズ。


その仕草に、さくらがクスリと笑う。


「合図するまで静かにしてくださいね。多分15分くらいでお呼びします」


セリナが理解したという風に、親指を立てて「OK」のサイン。


でも、その手が少し震えている。

緊張しているのがわかる。


さくらはセリナの肩に手を置く。


「大丈夫です。きっと愛美さん、すごく喜んでくれますよ」


セリナの肩が、少し上下する。

深呼吸をしているようだ。


「スゥ...ハァ...スゥ...ハァ...」


マスクの中から、落ち着こうとする呼吸音が漏れる。


セリナが、もう一度大きく頷く。

今度は力強く。

「頑張ります」という意志が伝わってくる。


「それじゃあ、少しお待ちください」


さくらがセリナに向かって小さく手を振る。

セリナも手を振り返す。

その仕草が、なんだか子どもみたいで微笑ましい。


さくらが寝室のドアを静かに閉める。


カチャリ。


小さな音。


ドアの向こうでは、セリナが一人、静かに待機している。


「ピンポーン、ピンポーン」


インターホンが再び鳴る。

愛美が待っているのがわかる。

少し焦っている様子が、ボタンの押し方から伝わってくる。


「はーい!今開けます!」


さくらが玄関に向かって返事をしながら、最後にもう一度寝室のドアを確認する。

中は静かで、セリナが待機していることを確かめて、深呼吸をしてから玄関に向かった。


寝室では、セリナが一人静かに座っている。

マスクの中で沙織は少し緊張していた。


「スゥ、ハァ、スゥ、ハァ」


自分の呼吸音だけが、マスクの中で反響している。

まだ息苦しさはないが、緊張のせいか呼吸のペースが少し早い。


「愛美ちゃん、喜んでくれるかな...」


小さく呟きながら、愛美との初対面への期待と不安を感じている。


先週のイベントで、たくさんの人の前でセリナとして立った。

ミクさんや他のキャラクターと交流した。

でも今日は、それとは違う緊張感がある。


愛美とさくら。

第6章の危機を乗り越えさせてくれた、大切な二人。

その二人に喜んでもらいたい。


マスクの中で、いつものように自分の呼吸音が響いているが、今日はいつもより少し早い気がする。

心臓の鼓動も、いつもより速い。


玄関の方から、愛美とさくらの明るい声が聞こえてくる。

もうすぐ、特別なサプライズの時間が始まる。


◆ ◆ ◆


リビングでは、愛美とさくらが和やかに会話を楽しんでいた。

テーブルの上には、色とりどりの料理が並んでいる。


「本当に美味しそう!さくらちゃん、こんなに準備してくれて」


愛美が目を輝かせながら料理を見つめている。


「沙織先輩も手伝ってくれたんですよ。この唐揚げ、沙織先輩の特製です」

「沙織先輩が?わあ、後でお礼言わなきゃ」


二人は料理をつまみながら、楽しく会話を続けている。

15分ほど経過した頃、さくらが話題を変えた。

心臓が早鐘を打っている。

いよいよ、サプライズの時間だ。


「実は愛美さん、サプライズでもう一人友達を呼んでるんですけど...連れてきても良いですか?」


さくらが少し緊張した様子で愛美に尋ねる。

セリナが待機している寝室のドアをちらりと見ながら、この瞬間を心待ちにしていた。

手のひらに汗が滲む。


「え?誰ですか?でも、もちろん大丈夫ですよ」


愛美の少し驚いた声。

まさかこんなサプライズが待っているとは夢にも思わない。

友達なら誰でも歓迎だ。


「じゃあ、呼んできますね」


これがセリナ登場の合図だった。

さくらが寝室の方に向かって小さく手を振る。


寝室のドアがゆっくりと開き、まず黒いマキシスカートの裾が見えた。

優雅に揺れる黒い布。

続いて、グレーのノースリーブニットに包まれた華奢な体、そして—


バレッタで上品にまとめられた漆黒の髪と、美しいマスクに覆われた顔。


セリナ・グレイヴフロストが姿を現した。


「...え?」


愛美の声が止まった。

目の前の光景が現実なのか、夢なのか判断がつかない。

これは何?

誰?

いや、でも、まさか—


セリナは普段の騎士衣装ではなく、カジュアルな服装。

黒いロングマキシスカートとグレーのノースリーブニット—それは、愛美とさくらが沙織の誕生日にプレゼントした服だった。


「あれ...あの服...」


愛美の目が見開かれる。

まさか、あの服を着てセリナが現れるなんて。

私たちがプレゼントした服を、セリナが着てくれている。


でも、その立ち姿には氷の騎士としての品格が滲み出ている。

歩く度にスカートが優雅に揺れ、一歩一歩が絵になる美しさ。

まるでファッションショーのモデルのような歩き方。


「お誕生日おめでとうございます」


セリナが愛美に向かって、深く丁寧にお辞儀をする。

その所作は完璧に計算されており、首の角度、手の位置、すべてが上品で美しい。

マスクの向こうから、沙織の温かい気持ちが伝わってくる。


「セリナ...ちゃん?本物の?」


愛美が椅子から立ち上がり、信じられない表情でセリナを見つめる。

足がふらつき、テーブルに手をついて支える。

これは夢じゃない。

本当に目の前にいる。

セリナが、ここに。


セリナがゆっくりと愛美に近づく。

その動きは猫のようにしなやかで、でも騎士らしい堂々とした歩き方。

マスクの奥の灰青色の瞳が、愛美を優しく見つめているように見える。


「愛美さんへの誕生日プレゼントです」


さくらとセリナが息を合わせて、美しく包装されたプレゼントボックスを愛美に差し出す。

セリナの手の動きは流れるように美しく、指先まで神経が行き届いている。

一つ一つの動作が、まるで舞台演技のよう。


「本当に...本物のセリナちゃんなんですか?」


愛美の目に涙が浮かんでいる。

声も震えている。

感動と驚きで、言葉が上手く出てこない。


セリナが小さく、でも確かに頷く。

その仕草はとても人間らしく、温かい。

そして愛美の震える手を両手で優しく包み込むように取り、そっと自分の唇...いや、マスクの唇の部分に近づけてハンドキスをする。


騎士が淑女に捧げる、最も礼儀正しい挨拶。

中世の騎士物語から抜け出してきたかのような、優雅な所作。


「きゃあ!」


愛美が小さく声を上げ、頬を真っ赤に染める。

セリナの手の温もりと優しさに、心臓が早鐘を打っている。

手のひらに伝わる温かさが、全身に広がっていく。


「夢みたい...本当にセリナちゃんが私の誕生日に...」


愛美の言葉に、セリナが愛美の誕生日を心から祝福するように、両手を胸の前で合わせて小さくお辞儀を重ねる。

その仕草は祈りを捧げる聖女のように神聖で美しい。

光に包まれているような、神々しささえ感じる。


さくらは横から見ていて、改めてセリナの美しさに見惚れている。

中に入っているのは確かに沙織先輩だと分かっているが、今目の前にいるのは紛れもなくセリナ・グレイヴフロスト。

完璧な氷の騎士。


普段職場で見る沙織先輩の面影は一切感じられない。

それどころか、セリナとしての完璧な美しさと優雅さに、さくらの心も奪われている。

これが同じ人だとは、とても信じられない。


愛美も同じような感覚だった。

これが沙織先輩だと頭では分かっているのに、目の前にいるのは完全に別の存在。

美しくて、優雅で、神秘的で、手の届かない高貴な存在。


でも同時に、とても温かくて、優しくて、愛美の誕生日を心から祝ってくれている。

矛盾しているようで、でも両方とも真実。


「ありがとう、セリナちゃん。さくらちゃんも」


愛美が涙声でお礼を言う。


セリナが愛美の頬に手を伸ばし、涙を優しく拭き取る。

その手つきは母のように慈愛に満ちており、愛美は目を閉じてセリナの優しさを全身で感じていた。

肌タイツ越しに伝わる指先の温もり。

優しく、温かく、愛情に満ちている。


さくらも感動で胸がいっぱいになっている。

こんなに美しくて温かいセリナの姿を見られて、愛美に喜んでもらえて、今日という日が最高の日になったと心から思っていた。

この瞬間を、一生忘れないだろう。


◆ ◆ ◆


その後1時間半、セリナは愛美とさくらと共に誕生日会を楽しんだ。

テーブルを囲み、笑い声が絶えない時間。

セリナの存在が、その場を特別なものにしている。


マスクを被り続けて既に90分以上。

マスクの中では、沙織の呼吸が少しずつ荒くなり始めていた。


「ハァ...スゥ...ハァ...スゥ...」


まだ苦しいというほどではないが、最初の頃の穏やかな呼吸とは明らかに違う。

マスクの内部も次第に熱がこもり、汗が額を伝っている。

それでも、二人の笑顔を見ていると、まだまだ頑張れる気がした。


「それじゃあ、改めて愛美さんの誕生日で乾杯しましょう!」


さくらがワイングラスを高く掲げる。

愛美も嬉しそうにグラスを持ち上げるが、セリナを見てハッとした。


「あ、セリナちゃんは飲めないですよね?」


愛美が心配そうにセリナを見る。


「マスクを被ってるから...」


さくらも気づいて申し訳なさそうな表情を見せる。

せっかくの乾杯なのに、セリナだけ参加できない。


マスクの中では、沙織の呼吸が明らかに荒くなっていた。


「ハァ...ハァ...スゥ...ハァ...」


90分以上マスクを被り続けている。

内部の熱気と湿気が限界に近づいている。

額から流れる汗が、視界を滲ませる。

口の中も乾燥して、喉が渇いている。


「飲めないね、さすがに...一回外すね」


セリナがマスクの中から少しこもった声で答える。


「えっ、ここで外すんですか?私たち、移動した方がいいんじゃ...」


愛美が慌てて立ち上がろうとする。

セリナの正体を見るのは、何か特別な場所じゃないといけない気がする。


「もう二人には知られてることだし、何回も外すたびに移動するのも煩わしいでしょ?」


セリナがマスクの中から答える。


「気にしないで、そのままで大丈夫よ」

「でも...」


愛美がためらう。


「本当に大丈夫。ちょっと待ってて」


セリナが二人に背中を向ける。

その背中越しに、両手が耳の上に伸びていくのが見える。


カチリ。


左側の金具を外す音。


カチリ。


右側の金具を外す音。


セリナの両手が、マスクの前面パーツを持ち上げる。

後頭部パーツも外れて、セリナのマスクが完全に分離する。


「んっ...ふぅ...」


背中越しに、解放された瞬間の息遣いが聞こえる。

長い間マスクに閉じ込められていた熱気と湿気から、ようやく解放された安堵の声。


セリナの—いや、今は沙織の—肩が大きく上下する。

深く息を吸い込んでいるのがわかる。


愛美とさくらは、その背中をじっと見つめている。

声をかけていいのか、わからない。

この瞬間が、とても神聖なもののように感じる。


シュルシュルシュル...


ファスナーを下ろす音が聞こえる。

首から頭頂部へ続くファスナーを、上から下へ。


フード部分が外れて、首元に垂れ下がる。

束ねられていた髪が、少し解放される。


「はぁ...」


もう一度、深い息。

新鮮な空気を、思い切り吸い込んでいる。


そして—


「お待たせ」


沙織が振り向く。

両手には、セリナのマスク。

前面パーツと後頭部パーツを、大切そうに持っている。


少し汗ばんだ顔。

髪は後ろで一つにまとめられたまま。

でも、その表情は—


優しい笑顔。


いつもの、沙織先輩の笑顔だった。


「やっぱり沙織先輩だ...」


愛美が感動したように呟く。


その瞬間、愛美の脳裏に、あの日の記憶が蘇る。


以前、沙織先輩の家を訪れた時。

セリナの正体は沙織先輩なんじゃないかと、詰め寄った時。


あの時も、セリナが現れた。

そして、こちらに背中を向けて、マスクを外した。


カチリ、カチリという金具の音。

「んっ...ふぅ...」という息遣い。


そして、振り向いた沙織先輩。


でも、あの時の沙織先輩は—


涙ぐんでいた。

緊張した面持ちだった。

不安そうな目をしていた。


秘密がバレてしまった恐怖。

二人にどう思われるかという不安。

もう友達でいられないかもしれないという悲しみ。


全てが、あの表情に現れていた。


でも、今は—


優しい笑顔。

安心した表情。

信頼に満ちた目。


こんなに変わるものなのか。

あの時と今と、同じ沙織先輩なのに。


愛美の胸が熱くなる。

目頭が熱くなる。


こんな風に、私の誕生日を祝ってくれている。

セリナとして現れてくれた。

二人だけの、特別なセリナとして。


あの時の不安も、恐怖も、全部乗り越えて。

今、こうして笑顔で祝ってくれている。


「中身が沙織先輩でホッとしました」


愛美が正直に言う。

涙声になりそうなのを、必死に堪える。


「いや、セリナさんの中身は沙織先輩でしょ?知ってるじゃない」


さくらが少し困惑した表情で言う。


「いや、そうなんだけど...でもマスクを被ってたら、中身が入れ替わっててもわからないかもって一瞬思っちゃって...」


愛美が恥ずかしそうに答える。

頬を赤らめながら、視線を泳がせている。


本当は違う。

本当は、あの時のことを思い出していた。

そして、今の沙織先輩の笑顔を見て、こんなに嬉しくなった。


「あ、確かに...」


さくらも納得したように頷く。


「でも沙織先輩で安心しました。まぁ、セリナを他の人に着せるなんて考えられないですもんね」

「そうそう!沙織先輩だからこそのセリナですよね」


二人の会話を聞いて、沙織は温かい気持ちになる。

膝の上に大切に置いたセリナのマスクを見つめながら、自分とセリナの一体感を理解してもらえている嬉しさと、信頼されている安心感に包まれた。


先週のイベントでは、他の人たちとも交流した。

でも今日は、特別に大切な二人との時間。


「本当に...ありがとうございます」


愛美が小さく呟く。

こんな風に祝ってくれて。

セリナとして、沙織先輩として、二人の姿で祝ってくれて。


心から、嬉しい。


「でも不思議。さっきまでセリナちゃんだったのに」

「マスクって本当にすごいのね」


さくらも驚いている。

こんなにも印象が変わるものなのか。


外したマスクをテーブルの端に丁寧に置いた沙織は、ワイングラスを手に取る。


「改めて、愛美ちゃん、お誕生日おめでとう」

「ありがとうございます!」


三人でグラスを合わせて乾杯。

カチンという澄んだ音が響く。

沙織は久しぶりに感じる空気の美味しさと、ワインの香りを楽しんだ。

マスクを外した解放感。

自由に呼吸できる喜び。


「ふぅ、やっぱりマスクを外すと楽ね」

「お疲れ様でした」


愛美が労いの言葉をかける。


15分ほど、沙織は普通の状態で料理とワインを楽しんだ。

さくらの手料理を味わい、愛美の話に笑い、普通の女性同士の時間を過ごす。

この何気ない時間が、とても心地よい。

セリナとしての時間も素晴らしいが、こうして素の自分でいられる時間も大切だ。


ワインを二杯目まで飲んだ愛美が、少し頬を赤らめながら、ふと真剣な表情になる。


「沙織先輩、答えたくなかったら全然いいんですけど、どうしても気になってることがあって...」

「ん? どうしたの?」


沙織が優しく微笑む。

さくらはワイングラスを持ったまま、無言で愛美を見つめている。


愛美が少しためらいながら、でも意を決したように尋ねる。


「着ぐるみのマスクって、被るとどんな感じなんですか?やっぱり、息とか苦しいんですよね?」


沙織が一瞬、目を見開く。

予想していなかった質問だった。


でも、すぐに柔らかい笑顔になる。


「愛美ちゃん、今日の主役だもんね。じゃあ特別に」


沙織がテーブルの端に置いてあったセリナのマスクを手に取り、愛美に差し出す。


「え!? いいんですか!?」


愛美が驚いて身を乗り出す。


「どうぞ。触ってみて」


愛美は両手を伸ばし、まるで赤ちゃんを抱くように、丁寧にセリナのマスクを受け取る。


「うわ...」


その重さに、まず驚く。

見た目よりもずっと重い。


「これ、結構重いんですね...」

「髪の毛の分もあるからね。1.5キロくらいあるかな」


愛美がマスクを目の前に掲げて、じっくりと観察する。

美しい顔。

灰青色の瞳。

一本一本丁寧に植えられた髪の毛。


さくらも興味津々で覗き込む。


「あんまり夢のある話にはならないんだけど...」


沙織が苦笑いしながら説明を始める。


「まず視界なんだけど、ほら、この瞳の上の方にある小さなスリット、見える?」


愛美とさくらが目を凝らす。


「あ...本当だ。こんな小さい穴が...」

「ここから外を見るの。だから視界はすごく狭い。正面しか見えないから、左右を見る時は顔全体を動かさないといけない」

「え...これだけ?」


愛美が驚く。


「そう。だから足元も見えないし、距離感も掴みにくい」


沙織がマスクの口元を指す。


「それで、呼吸はここ。この小さなスリットから。外からは赤い布が見えるでしょ?」

「本当だ...でもこれ、すごく小さい...」

「うん。だから長時間被ってると、どうしても息苦しくなる。それに、自分の息がマスクの中に充満して、顔中に熱い息がかかって気持ち悪いの」


さくらが顔をしかめる。


「うわ...それは辛そう...」


沙織がマスクを裏返して見せる。


「内側はこんな感じ。ほら、薄いスポンジが貼ってあるでしょ?」

「あ、これが顔に当たるんですね」

「そう。額、頬、顎、頭頂部。顔全体を密着させるの」


愛美が内側のスポンジを優しく触る。

少ししっとりしている。

汗を吸っているからだろうか。


「これを被って、金具で固定すると、もう完全に密閉された空間になる」

「密閉...」


愛美が想像する。

この小さな視界。

この小さな呼吸口。

この密着するスポンジ。


それで1時間以上も...


「沙織先輩...すごいです」


愛美が心から言う。


「こんな状態で、あんなに優雅に動いて、私たちを楽しませてくれて...」


さくらも頷く。


「本当にそうですね。私、着ぐるみを演じてる人たちのこと、こんなに大変だって知らなかったです」


愛美がセリナのマスクを両手で大切に持ち、沙織に返す。


「傷つけたら大変なので...ありがとうございました」


沙織がマスクを受け取りながら、ニヤリと笑う。


「あれ? 被ってみたいとか言うと思ったのに。もういいの?」

「え!? そ、そんな! そんなこと出来ないですよ!」


愛美が慌てて両手を振る。

顔が真っ赤になる。


さくらも笑いながら言う。


「そうですよ、セリナちゃんは沙織先輩が着るからいいんです! 私たちの憧れですから!」


力強く言い切るさくら。


「ありがと」


沙織が優しく微笑みながら、セリナのマスクをテーブルの端に静かに置く。


愛美は口には出さなかったが、心の中で思う。


「でも、私も一度でいいから沙織さんみたいに違う存在に変身してみたいな」


憧れ。

羨望。

そして、少しの好奇心。


それは、小さな種となって、愛美の心の中に静かに芽生えた。


「あ、沙織先輩」


愛美が嬉しそうに言う。


「私たちがプレゼントした服、セリナちゃんに着せてくれて本当に嬉しかったです。まさかセリナちゃんがあの服を着てくれるなんて思ってなくて」

「私も感動しました!」


さくらも同意する。


「私たちが選んだ服を、セリナちゃんが着てくれるなんて...夢みたいでした」


沙織が優しく微笑む。


「二人が選んでくれた服だもの。今日みたいな特別な日に、セリナとして着たかったんだ」

「ごちそうさま。美味しかった」


ワインを飲み干した沙織が満足そうに言う。


「今度は、またセリナちゃんに戻りますね」


再びマスクを手に取る沙織。


「今度はお給仕させてもらうわ」


前面パーツと後頭部パーツを合わせ、両耳上の金具を固定する。

カチリ、カチリという音と共に、再びセリナが復活。


先週のイベントで何度も練習した動作が、自然と体に染み付いている。


今度は愛美のグラスにワインを注いだり、料理を取り分けてあげたりと、まるで専属の給仕のように二人をもてなし始めた。


写真撮影では、愛美がセリナと並んで記念撮影。

セリナが愛美の肩にそっと手を置く優しいポーズや、二人で誕生日ケーキの前で微笑むシーン。

さくらがカメラマン役を務め、次々とシャッターを切っていく。


「本当に夢みたい。まさかセリナちゃんと一緒に誕生日を過ごせるなんて」


愛美が感動を隠せない。

目を輝かせ、頬を紅潮させている。


セリナは声を出すことはできないが、身振り手振りで愛美との会話を楽しむ。

愛美の話にうなずいたり、時には首をかしげて可愛らしい仕草を見せたり。

その一つ一つが、愛美の心を捉えている。


先週のイベントで、ミクさんたちと交流した経験が活きている。

身振り手振りでのコミュニケーションにも、少し慣れてきた。


「セリナちゃん、私のことちゃんと理解してくれてるんですね」


愛美の嬉しそうな表情に、マスクの中の沙織も心が温まる。

こうして喜んでもらえることが、何よりも嬉しい。


午後5時30分、セリナが時計を指さして、着替えの時間であることを伝える。


「あ、もうそんな時間ですね。セリナちゃん、今日は本当にありがとうございました」


愛美が深くお辞儀をする。


セリナも丁寧にお辞儀を返し、寝室に向かった。

優雅な足取りで、騎士らしい背筋の伸びた姿勢。

その後ろ姿を、二人は名残惜しそうに見送った。


◆ ◆ ◆


「お疲れ様でした!」


寝室から沙織が出てきて、愛美とさくらに挨拶する。

普通の服装に戻った沙織は、いつもの優しい表情。


「沙織先輩!今日は本当にありがとうございました!」


愛美が駆け寄ってくる。


「どういたしまして。喜んでもらえて良かった」


沙織が微笑む。


「じゃあ、私も普通の服に着替えてくるわね」


沙織が寝室に向かう。

愛美とさくらは沙織が私服に着替えて、3人で普通にお祝いを続けると思っていた。

まだまだ夜は長い。

ゆっくりお喋りを楽しもう。


寝室では、沙織が密かに2つ目のサプライズの準備を始めていた。

私服に着替えるフリをして、実は持参していた本格的なセリナの衣装に着替え始める。

キャリーケースから、青と白銀のエナメルドレスを取り出す。


全身タイツはそのまま、青と白銀のエナメルドレスを丁寧に着込む。

エナメルの冷たい感触が肌タイツ越しに伝わる。


先週のイベントで何度も着た衣装。

体が自然と動いていく。


黒革の装具を一つ一つ装着し、髪も先ほどのアップスタイルから、いつもの長い髪を下ろしたスタイルに変える。

漆黒の髪が、背中を流れるように広がる。


最後に分解されていた「デュランディール」の剣を組み立てて手に取り、保護袋からセリナのマスクを取り出す。

前面パーツと後頭部パーツを合わせ、両耳上の金具を固定する。


カチリ、カチリ。


マスクを再装着した瞬間、再び密閉された空間に包まれる。


「スゥ...ハァ...スゥ...ハァ...」


一度マスクを外したことで、少し呼吸は落ち着いている。

でも完全に回復したわけではない。

マスクの内部には、まだ先ほどの熱気と湿気が残っていた。


鏡の中に、完全武装の氷の騎士が立っている。

これが本当のセリナ・グレイヴフロスト。


先週のイベントでたくさんの人に見てもらったセリナ。

今日は、愛美とさくらだけのために。


20分後、愛美とさくらが何気なくリビングで話していると、寝室の扉がゆっくりと開いた。


現れたのは—


完全武装の氷の騎士、セリナ・グレイヴフロストだった。


「え!?」


愛美が驚いて立ち上がる。

椅子が倒れそうになる。


「セリナちゃん!?どうして!?」


さくらも目を見開いている。

口が開いたまま、言葉が出ない。


セリナが優雅に剣を構え、騎士らしい凛々しいポーズを取る。

刀身が部屋の光を受けて輝き、まさに伝説の騎士そのもの。

青と白銀のドレスが、セリナの動きに合わせて優雅に揺れる。


そして、マスクの中から沙織の声が聞こえてくる。


「これはもう一つのサプライズよ。これから私は二人の騎士として振る舞うから、好きなように写真を撮ってくれて構わない。ただ、SNSとかにはあげないで欲しいの」

「本当ですか!?」


愛美が感動して手を叩く。


「本格的なセリナちゃんが見られるなんて!」


さくらも興奮している。

頬が紅潮し、目が輝いている。


「これからはセリナとして身振りだけで過ごすから、残りの時間を一緒に楽しんでね」


そう言い終わると、セリナは深くお辞儀をし、先週のイベントで磨いた表現力を披露し始めた。

ミクさんたちとの交流で学んだこと。

一人で活動する中で得た自信。

全てが今に活きている。


一つ一つの動作に、魂が込められている。


理解した二人は目を輝かせながらセリナに駆け寄る。


長時間にわたって、セリナは二人と特別な時間を過ごした。


さくらと愛美はセリナの姿に心を奪われていた。

こんなに長時間もセリナを目の前で見ることは初めてで、二人は夢中になって見入っている。

まるで美術館で名画を鑑賞しているような、そんな気持ち。


「剣を構えたポーズお願いします!」


愛美のリクエストに、セリナが「デュランディール」を美しく構える。

刀身が部屋の光を受けて輝き、まさに伝説の騎士が蘇ったかのような威厳を放つ。

その姿は、まるで絵画から抜け出してきたよう。


「今度は私と一緒にお願いします」


愛美がセリナの隣に立つと、セリナは自然に愛美を守るポーズを取る。

剣を構え、愛美の前に立つ騎士。

騎士に守られるお姫様のような構図が完成する。


さくらがカメラマン役を務めて、次々と写真を撮影していく。

シャッター音が、リズミカルに響く。


セリナの演技は確かに完璧なものだったが、時折、普段よく知る沙織の仕草が出てしまう。

考え事をする時に首をかしげる癖や、照れた時に手をもじもじと動かす仕草。

それが、セリナをより人間らしく、親しみやすくしている。


セリナを演じているのは沙織だとわかっているが、二人はセリナの奥にリアルに沙織の面影を終始感じていた。

そこがすごく愛おしくて美しく、改めて沙織はとても可愛いと思う。

セリナとして完璧でありながら、でも確かに沙織がそこにいる。


「あ、お酒飲めるかな?」


セリナがマスクの口の小さなスリットを指差し、さくらがストローを持ってくる。


「これで飲めるかも!」


セリナがストローをマスクのスリットに差し込んで、ワインを飲もうと挑戦してみる。

慎重にストローを口に含み、ゆっくりと吸い上げる。


「飲めた!すごい!」


最初は成功を喜ぶセリナだったが、しばらくすると様子が変わった。

少しふらつくような動き。


「あ...これはダメかも」


セリナがストローから口を離す。


「自分の息にアルコールが混じって、それを吸い込んで余計に酔いが回ってきちゃう。これは倒れてしまうわ」


マスクの密閉空間の中で、アルコールの蒸気が充満してしまう。

それを吸い込むと、通常の何倍も酔いが回る。


先週のイベントでは、水しか飲まなかった。

この発見は新しい経験だ。


結局、途中で断念することにした。


食事の時間、セリナと沙織、両方の存在を感じながら、見た目はあくまでセリナ、だが仕草は沙織という不思議な感覚が二人を包んでいた。

矛盾しているようで、でも完璧に調和している。


料理を取ろうとしたセリナが、視界が狭いため箸を床に落としてしまう。


「あ!」


つい声を出してしまい、箸を拾おうとするが、視界が狭いので箸が見つけられない。

マスクの小さなスリットからは、床の広い範囲を見渡すことができない。


「うーん、見えない...」


セリナが床を手探りで探している姿は、まさに沙織そのもの。

その可愛らしい様子に、愛美とさくらは微笑ましく見守っている。

普段の優雅な騎士の姿とは違う、少し不器用な一面。


「セリナちゃん、そこです」


さくらが指差して教えてあげると、セリナが箸を見つけて嬉しそうに手を振る。

その仕草が、とても子供っぽくて可愛らしい。


愛美がふと疑問に思って尋ねる。


「やっぱり、視界はものすごく狭いんですよね?」


セリナは小さく頷きながら答える。


「うん、狭いよ。もう慣れたけど、やっぱりこういう細かい作業はやりにくいね」


さくらが笑いながら指摘する。


「セリナちゃん、もう普通に喋ってますね。まぁ今日は特別だからいいですよね!」


セリナがハッとして、マスクの中で沙織が苦笑いする。


「あ...そうね、まぁ今日は特別だから」


沙織も笑いながら、今日の特別な雰囲気を楽しんでいる。

こんな風に、リラックスしてセリナでいられることが嬉しい。


この瞬間、二人は確信した。

セリナの中には確実に沙織がいて、その両方を同時に愛することができるのだと。

セリナも愛している。

沙織も愛している。

どちらも本物で、どちらも大切。


マスクの中で、沙織は深い充実感に包まれていた。


「ハァ...ハァ...スゥ...ハァ...」


汗が顔を伝い、呼吸も明らかに苦しくなってきている。

マスクを被り続けて既に3時間近く。

息を吸うたびに、マスクの内部の熱気が顔に纏わりつく。

それでも心は満たされていた。


「二人がこんなに喜んでくれて...本当に嬉しい」


先週のイベントでの経験。

一人で活動する大変さも知った。

でも同時に、一人でも頑張れるという自信も得た。


そして今日、その成長を愛美とさくらに見せることができた。


「あの時、やめなくて本当に良かった」


美穂の言葉が蘇る。


「音楽教師である椎名美穂が、エレノアの仮面を被って、もう1人の自分を解き放つ。それは誰の為でもなく、私が私の為にやっている事」


先週のイベントで、美穂がアウラとして登場した時のことも思い出す。

エレノアとアウラ、二つのキャラクターを演じる美穂の姿。


「そうよね、これは私が私のためにやっていること。でも結果的に、みんなも幸せにしてる」


さくらが撮る写真のシャッター音を聞きながら、沙織は自分の成長を実感していた。

以前よりもずっと自然に、ずっと心を込めてセリナを演じられている。

マスクの中の自分と、セリナという存在が、完璧に融合している。


夕食の時間、セリナがマスクを外すことなく、二人の食事を見守る。


マスクの中では、沙織の呼吸が一段と荒くなっていた。


「ハァ...ハァ...ハァ...スゥ...」


騎士ドレスに着替えてから既に2時間以上。

トータルでは5時間近くマスクを被り続けている。

マスクの内部は汗でびっしょりで、呼吸するたびに熱気が顔を襲う。

それでも、二人の幸せそうな笑顔を見ていると、まだ頑張れる。


優雅に水を飲む姿に、愛美が見惚れている。

ストローを使って、ゆっくりと水を飲むセリナ。

その所作すら、美しい。


「セリナちゃんの所作、本当に美しいです」

「全部が絵になりますね」


二人の賞賛に、マスクの中の沙織は嬉しさで胸がいっぱいになる。

こうして認めてもらえること。

努力が報われること。

それが何よりも嬉しい。


「私、確実に成長してる。セリナとして、沙織として」


時計を見ると、もう夜9時を回っている。

3時間があっという間だった。

でも、疲労感よりも達成感の方が大きい。

満足感で心が満たされている。


「今日は本当に特別な日になった。二人への感謝を、ちゃんと形にできた」


セリナとしての表現力は、先週のイベントを経てさらに向上していた。

一つ一つの仕草に魂が込められ、見る者を魅了する完璧な演技。

一人でイベントに参加して得た経験が、セリナの動きに現れている。


愛美とさくらは、目の前で繰り広げられる本物の氷の騎士の存在に、時間を忘れて見入っていた。

この時間が、ずっと続けばいいのに。

そう思わずにはいられない、特別な夜。


◆ ◆ ◆


夜9時、ようやくセリナが着替えのため寝室に向かった。

3時間の演技を終え、さすがに疲労が見える。

セリナの歩みは、普段よりゆっくりだ。


「ちょっと待っててね。すぐに着替えてくるから」


セリナがマスクの中からこもった声で言う。

寝室のドアが静かに閉まる。


愛美とさくらは、リビングのソファに座って待つ。

二人とも、まだ余韻に浸っている。


「すごかったね...」

「うん...夢みたいだった」


寝室では、沙織が一人、セリナの衣装を脱ぎ始めていた。


まず、デュランディールの剣を丁寧に置く。

黒革の装具を一つずつ外していく。

そして、エナメルドレスのファスナーを下ろし、脱いでいく。


全身タイツ姿になった沙織は、深呼吸をする。


(さあ、マスクを外そう)


両手を耳の上に持っていく。

金具に指をかける。


カチリ。


左側の金具を外す。


カチリ。


右側の金具を外す。


前面パーツと後頭部パーツが分離する。

マスクを両手で持ち、ゆっくりと顔から離す。


「んっ...ふぅぅぅ...はぁぁぁ...」


大きく息を吐く。

5時間以上、マスクの中にいた。

開放感が体中に広がる。


新鮮な空気を、思い切り吸い込む。


「はぁ...はぁ...」


まだ呼吸が落ち着かない。

顔中、汗でびっしょりだ。


シュルシュルシュル...


フードのファスナーを下ろす。

フード部分を脱ぎ、髪のゴムを外す。


髪がバサリと落ちる。

汗で湿った髪が、首筋に張り付く。


(気持ち悪い...)


でも、それも含めて、セリナを演じた証。


全身タイツを脱ぎ、私服に着替える。

白いブラウスに黒いパンツ。

さっぱりした服装。


でも、顔は汗だらけだ。

ティッシュで軽く拭くが、化粧も崩れている。


(まあ、いいか。二人だし)


沙織は寝室のドアを開けて、リビングに戻った。


「お待たせ」

「お疲れ様でした!」


愛美とさくらが立ち上がって迎える。


その瞬間、二人の表情が変わった。


「沙織先輩...顔、すごく汗かいてますね」


さくらが心配そうに言う。


「あ、髪も...湿ってる」


愛美も気づく。


沙織が少し照れくさそうに笑う。


「セリナを演じた後は、いつもこうなるの。マスクの中、本当に暑いから」


手で顔を扇ぐ仕草をする。


「大丈夫ですか?水、飲みます?」

「ありがとう、大丈夫よ」


さくらがじっと沙織の顔を見つめる。

化粧も汗で崩れている。

髪も汗で少し湿って、首筋に張り付いている。


「沙織先輩、このまま帰すのは女子としても後輩としても失礼です」


さくらがきっぱりと言う。


「簡単なメイク直しだけでもしていってください。私の化粧品、使ってください」

「え、でもいいよ。そんな」

「ダメです!お願いします」


さくらが真剣な表情で頼む。


沙織が困ったように笑う。


「じゃあ、ちょっとだけお借りするね。ありがとう」

「はい!洗面所、こちらです」


さくらが沙織を洗面所に案内する。

愛美もついていく。


洗面所で、沙織が顔を洗う。

冷たい水が気持ちいい。

汗と崩れた化粧が洗い流される。


タオルで顔を拭くと、さくらが化粧品を並べてくれた。


「私のでよければ、どうぞ」

「ありがとう」


沙織が化粧水を手に取る。


「あ、その化粧水、私も使ってます」


愛美が言う。


「本当?これ、いいよね」

「はい!保湿力が高くて」

「私もずっとこれ使ってるんですけど、最近新しい美容液も試してみようかなって思ってて」


さくらが自分の美容液を見せる。


「これ、いいって聞いたんですけど、沙織先輩使ったことあります?」

「あ、これ気になってた!どう?」

「すごくいいですよ。肌がもちもちになります」


三人の女子トークが盛り上がる。

化粧品の話、スキンケアの話、髪のケアの話。


「沙織先輩、こんなに汗かいても肌きれいですよね」

「そうそう!私なんて汗かいたらすぐ肌荒れちゃうのに」

「そんなことないよ。二人とも肌きれいじゃない」


笑い声が洗面所に響く。


メイク直しを終えた沙織が、鏡を見る。

だいぶすっきりした。


「ありがとう、助かったわ」

「いえいえ、当然です」


リビングに戻ると、沙織が荷物をまとめ始める。


まず、セリナのマスクを保護袋に丁寧に入れる。

髪の毛が乱れないように、慎重に。

それをキャリーケースに収納。


エナメルドレスもシワにならないように畳んで、キャリーケースへ。

黒革の装具も一つずつ丁寧に収める。


デュランディールの剣は分解して、トートバッグに入れる。

アクセサリー類もトートバッグへ。


そして、プレゼントしてもらった黒いマキシスカートとグレーのニットを丁寧に畳んで、トートバッグに入れる。


「今日はこの服、着せてくれてありがとう」


沙織が二人に微笑む。


「いえ、こちらこそ!セリナちゃんが着てくれて嬉しかったです」


さくらが答える。


「そういえば、沙織先輩が使ってる下地って何ですか?」


愛美が聞く。


「私はこれかな」


沙織がポーチから下地を取り出す。


「あ!これ私も気になってました!」


またトークが始まる。


時計を見ると、22時を過ぎていた。


「あ、もうこんな時間!」


沙織が慌てる。


「今日は本当にありがとうございました」


普通の服装に戻った沙織に、愛美が深く頭を下げる。


「私、一生忘れません。こんな素敵な誕生日プレゼント」

「喜んでもらえて、私も嬉しいわ」


沙織が優しく微笑む。

疲れているはずなのに、その笑顔は輝いている。


「沙織先輩がセリナちゃんだって知った時から、ずっと憧れてたんです。まさか一緒に過ごせるなんて」


愛美の目に再び涙が浮かぶ。

感動の涙。

幸せの涙。


「沙織先輩も、セリナちゃんも、どちらも本当に素敵です」

「ありがとう、愛美ちゃん」


沙織が愛美の手を握る。

温かい手のひら。

確かな温もり。


「私たち、いつでも応援してます」


さくらも加わって、三人は温かいハグを交わした。

三人の心が、一つになる瞬間。

言葉では表せない、深い絆を感じる。


先週のイベントで新しい仲間にも出会った。

でも、この二人は特別だ。

第6章の危機を一緒に乗り越えた、かけがえのない仲間。


◆ ◆ ◆


月曜日の昼休み、愛美が沙織の元にやってきた。

いつもの休憩室。

いつもの時間。

でも、週末の特別な思い出が、二人の間に新しい空気を作っている。


「沙織先輩、土曜日は本当にありがとうございました」

「こちらこそ。楽しかった?」

「はい!最高の誕生日でした」


愛美が嬉しそうに微笑む。

その笑顔は、いつもより輝いている。


「実は、お友達にも自慢しちゃいました。『誕生日に、大好きなセリナちゃんに会えた』って」

「あら、それは嬉しいわね」


沙織が優しく微笑む。


「みんな羨ましがってました!『どうやって会えたの?』って聞かれたんですけど、『秘密です』って言っておきました」

「ありがとう。そうやって秘密にしてくれて」


沙織がほっとした表情を見せる。

愛美はちゃんと、セリナの正体については誰にも話していない。


「沙織先輩、またいつかセリナちゃんに会えますか?」


愛美の期待に満ちた表情に、沙織が微笑む。

その期待に応えたい。

また喜んでもらいたい。


「機会があれば、また。でも今度は沙耶香ちゃんも一緒にね」

「はい!楽しみにしてます!」


沙織にとって、先週のイベントでの一人参加の経験。

そして今回の、愛美とさくらへの特別なサプライズ。


全てが、セリナとしての活動への新たな自信となった。


支えてくれた人たちへの感謝の気持ちと、セリナとしての活動への確かな手応え。

それが、今の沙織の心を満たしている。


これからも、沙織は自分らしくセリナとして歩んでいけるだろう。


愛美とさくらという理解者がいる職場で、セリナとしての活動を続けながら、充実した日々を送る。

そして時には、こうして特別な時間を共有する。


先週のイベントで一人で活動できるようになったこと。

美穂とアウラとして再会できたこと。

ミクさんや絵梨花との新しい出会い。


全てが、今の自分を作っている。


そんな未来への確かな一歩を、この誕生日サプライズは示していた。






----- つづく -----

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POSTEDDec 14, 2025
ARCHIVEDJun 10, 2026