午後3時30分。
4回目のグリーティングまで、あと30分。
達也は会場の片隅で、一息ついていた。
3回目のグリーティングから約1時間半。
会場は相変わらず賑わっている。
子供たちの声、親御さんの話し声、企業ブースの説明の声。
様々な音が混ざり合って、会場全体を包んでいた。
達也は給水所で水を飲みながら、これまでの出来事を思い返していた。
朝の再会。
京子と晴美の不自然な疲労。
3回目のプリティアの動きの変化。
そして、待機中のあの握手。
ティア・ミラクルの親しげな仕草。
両手で包み込むような、温かい握手。
ティア・マジカルの優しい笑顔。
達也の頭の中で、様々な断片が繋がりかけていた。
でも、まだ確証は得られない。
もしかして、という予感だけが、心の中で大きくなっていた。
達也はスマホで時間を確認した。
3時32分。
4回目のグリーティングは、4時から。
あと30分もしないうちに、またプリティアが登場する。
達也は、今度こそ何か分かるかもしれないと思った。
でも、それが何なのか、まだはっきりとは言葉にできなかった。
◆ ◆ ◆
その頃。
県民ホールの奥にある、プリティアの控え室。
カーテンで仕切られた更衣スペースの中で、3人の女性が着替えの準備をしていた。
控え室には、大きな段ボール箱が3つと、白い布製の袋が3つ置かれている。
段ボールの中には、ティア・ミラクル、ティア・マジカル、ティア・フェリーチェの衣装が丁寧に畳まれて入っていた。
布製の袋の中には、それぞれのキャラクターのマスクが入っている。
更衣スペースの中では、絵美梨が既に肌タイツを着ていた。
ベージュ色の全身タイツで、顔の部分だけがくり抜かれている。
ティア・フェリーチェの衣装を着る準備は、ほぼ整っていた。
絵美梨は20代後半くらいの女性で、プリティアの演者としてはベテランだ。
いや、プリティアだけではない。
大学時代からもう7年以上、スーツアクターとしてキャラクターを演じてきた。
戦隊系のアクションヒーロー、プリティアのような魔法少女系、様々なキャラクターを演じてきた。
その時々の配役によって、完璧に演じ分けることができる。
どちらが好きとか、そういうこだわりはない。
キャラクターになりきって、子供達に笑顔を届ける瞬間。
それが、絵美梨にとって何よりも大切なものだった。
だから、社会人になった今でも、この仕事を続けている。
今日は午前中の1回目と2回目のグリーティングで、ティア・フェリーチェを演じていた。
そして、午後の3回目は新人の指導に当たっていた。
絵美梨の隣には、2人の若い女性が立っていた。
1人は高校生くらいの女の子。
近藤明美、高校3年生。
明るめの茶髪をポニーテールにまとめていて、少し緊張した表情をしている。
3回目のグリーティングで、初めてティア・ミラクルを演じた新人だ。
もう1人は大学生くらいの女性。
永井麗奈、大学1回生。
黒髪のロングヘアで、落ち着いた雰囲気。
3回目のグリーティングで、初めてティア・マジカルを演じた新人だ。
2人とも、着ぐるみを着てショーに出演した経験はあるが、プリティアの着ぐるみは今回が初めて。
次回のプリティアショーでは、2人ともミラクルとマジカルのルビースタイル役でショーデビューの予定だ。
だから絵美梨が、本番練習として連れてきていた。
明美が緊張した様子で言った。
「絵美梨さん、さっきはありがとうございました。すごく緊張しました...」
麗奈も控えめに頷いた。
「私も...プリティアの着ぐるみ、初めてで...色々失敗しちゃって...」
絵美梨が優しく微笑んだ。
「2人とも、プリティアは初めてなのにすごく頑張ってたよ。お疲れ様」
明美が少し安心したような表情を見せた。
「戦隊系とか他のキャラクターは何度か演じたことあるんですけど、プリティアは全然違いますね...」
「マスクがすごく小さくて、顔に密着する感じが...息苦しくて...」
麗奈も小さく頷いた。
「視界も狭くて、何度もバランス崩しそうになりました...衣装もかさばるから、動きにくいし...」
絵美梨が頷いた。
「プリティアは特殊だからね。マスクは小顔設計だし、衣装もボリュームがあるから、他のキャラクターより体力消耗が激しいの」
「でも、2人とも良い経験になったと思う。次のショーで活かせるよ」
明美と麗奈は、大きなバッグを持って、着替えを終えていた。
2人とも、3回目のグリーティングで汗びっしょりになっていたので、シャワーを浴びて私服に着替えたところだ。
絵美梨が2人に声をかけた。
「じゃあ、2人はこれで上がっていいよ。今日はお疲れ様」
「ありがとうございました!」
明美と麗奈が同時にお辞儀をした。
そして、控え室を出ていった。
2人の足音が遠ざかっていく。
絵美梨は控え室に残り、4回目のグリーティングの準備を始めた。
その時、カーテンの向こうから、2人の女性の声が聞こえてきた。
「絵美梨さん、準備できました」
絵美梨が返事をした。
「はーい、今行くね」
カーテンを開けると、そこには京子と晴美が立っていた。
2人とも、既に午前中から着ていた私服は脱いで、スポーツ用の下着に着替え終えていた。
汗が外に滲み出ないための、吸汗速乾性の高いインナー。
激しい動きに対応できるよう、しっかりとフィットするタイプだ。
京子と晴美は、午前中の1回目と2回目のグリーティングで、それぞれキャラクターを演じていた。
京子がティア・ミラクル、晴美がティア・マジカル。
そして昼休憩の後、午後の3回目は新人の明美と麗奈のサポートに回っていた。
2人とも、初めてプリティアの着ぐるみを着る新人を気遣いながら、丁寧にサポートしていた。
京子と晴美自身も、何度かプリティアの着ぐるみを着てショーに出演した経験がある。
プリティアのマスクの小ささ、衣装のかさばり具合、そして見た目とは裏腹にかなり体力を消耗することを、身をもって知っている。
だからこそ、新人の2人の大変さが分かるのだ。
でも、4回目は違う。
4回目のグリーティングは、京子と晴美が演じることになっていた。
京子は大きなバッグから肌タイツを取り出した。
「じゃあ、着替えよっか」
京子が明るく言った。
晴美も小さく頷いた。
「うん...頑張ろうね」
2人は肌タイツに足を通し始めた。
京子が足首から、ゆっくりとタイツを引き上げていく。
ふくらはぎ、太もも、お腹、胸。
全身を包み込むように、タイツが体に密着していく。
最後に、腕を通して、頭まで引き上げる。
タイツには頭部まで覆う部分があり、顔の部分だけが丸くくり抜かれている。
京子は顔の部分を首元に垂らしたまま、まだフードは被らない。
フードを被ると、顔だけがタイツから出た恥ずかしい姿になるからだ。
晴美も同じように、肌タイツを着ていく。
ゆっくりと、丁寧に。
2人とも、首から下は完全にベージュ色のタイツに包まれた。
京子が自分の体を見下ろして言った。
「これ、何回着ても慣れないね。全身ピッタリ...」
晴美も小さく頷いた。
「うん...でも、これがないと汗が衣装に滲み出ちゃうから...」
京子が少し遠い目をして言った。
「今日、4回目だけど...やっぱりプリティア、体力消耗するよね」
「マスク小さいし、衣装重いし...」
晴美が小さく微笑んだ。
「でも...私、プリティア好きだから。過酷だけど、演じるの楽しい」
京子が笑った。
「晴美はプリティア好きだもんね。私はどっちかっていうと、戦隊系の方が好きかな」
「アクション多いし、動きやすいし」
晴美が優しく言った。
「でも、京子もプリティア上手だよ。子供たち、すごく喜んでくれるもん」
「今日も頑張ろうね」
京子が頷いた。
「うん、頑張ろう」
絵美梨が2人に声をかけた。
「じゃあ、次は衣装だね」
絵美梨が段ボール箱を2つ、京子と晴美の前に置いた。
1つの箱には「ティア・マジカル」、もう1つの箱には「ティア・ミラクル」と書かれている。
今日の4回目は、2人で役を入れ替えることにしていた。
いつもは京子がミラクル、晴美がマジカルを演じている。
でも、今日は晴美がミラクルを、京子がマジカルを演じる。
京子がマジカルの箱を、晴美がミラクルの箱を手に取った。
2人は、それぞれの箱を開けた。
中には、キラキラとした衣装が丁寧に畳まれて入っている。
2人は衣装を取り出して、着始めた。
まず、スカート部分から。
ウエストにファスナーがあり、それを閉めると、スカートが体にフィットする。
次に、上半身の衣装。
腕を通して、ファスナーを上げていく。
少し窮屈だが、何とか着ることができた。
最後に、マントのような布を肩にかけて、固定する。
京子と晴美は、鏡で自分の姿を確認した。
キラキラとした魔法少女風の衣装。
エナメル素材で、少し重みがある。
でも、まだマスクは被っていない。
顔だけが、普通の人間のまま。
京子が髪をゴムで束ねた。
ポニーテールにまとめて、首の後ろに集める。
晴美も同じように、髪をゴムで束ねた。
ロングヘアを一つにまとめて、首の後ろに垂らす。
これから、フードを被る準備だ。
京子が深呼吸をした。
「じゃあ...フード被るね」
京子が首元に垂らしていたフードの頭部分を持って、頭に被せていく。
顔の部分だけがくり抜かれたフード。
頭全体がタイツに覆われて、顔だけが外に出る。
京子の茶色の髪は、フードの中に完全に隠れた。
顔の周りは、ベージュ色のタイツ。
少し恥ずかしい姿だ。
晴美も同じように、フードを被った。
黒に近い暗めの茶色の髪が、フードの中に隠れる。
顔だけが外に出て、周りはベージュ色のタイツ。
2人は顔を見合わせた。
少し恥ずかしそうに、小さく笑った。
絵美梨がカーテンを少し開けて、中を覗いた。
既に、ティア・フェリーチェの衣装を完全に着ている。
緑と白の魔法使い風衣装。
帽子も被っている。
でも、マスクはまだ被っていない。
絵美梨の素顔が見える。
優しい笑顔で、2人を見ている。
「わぁ、2人とも準備できたね。じゃあ、フードのファスナー閉めるね」
絵美梨が中に入ってきた。
肌タイツには、首から頭頂部まで続くファスナーがある。
絵美梨が京子の後ろに回って、ファスナーを上げていく。
首の後ろから、頭頂部まで。
ファスナーが閉まると、フードが完全に固定された。
京子の顔以外は、完全にタイツに覆われている。
次に、晴美のファスナーも閉めていく。
晴美の頭も、完全にフードに覆われた。
絵美梨が2人の前に立って、確認する。
「うん、バッチリ。じゃあ、次はマスクだね」
絵美梨が白い布製の袋を3つ、持ってきた。
それぞれの袋には、キャラクターの名前が書かれている。
ティア・ミラクル、ティア・マジカル、ティア・フェリーチェ。
絵美梨が袋を開けて、中からマスクを取り出した。
京子と晴美に、それぞれのマスクを手渡す。
2人は、マスクの内側を覗き込んだ。
内側には、薄いゴムスポンジが貼られている。
目の周り、額、顎、頬、頭頂部。
演者の顔を密着させるためのクッション。
そして、マスクの後頭部には、紐が通されている。
この紐を結んで、マスクを固定する仕組みだ。
京子が少し緊張した表情で言った。
「じゃあ...被るね」
絵美梨が優しく言った。
「ゆっくり被ればいいから。私が手伝うね」
絵美梨が京子の前に立った。
「京子ちゃん、まず私が被せるから、顔を少し下に向けて」
京子が顔を下に向けた。
絵美梨がマスクを持って、京子の頭に被せていく。
マスクが京子の顔に近づいてくる。
京子の視界が、徐々にマスクの内側に覆われていく。
そして、マスクが顔に密着した。
スポンジが、額、頬、顎に押し当てられる。
京子の顔全体が、マスクに包まれた。
絵美梨がマスクの位置を調整する。
「京子ちゃん、目の位置、大丈夫?スリットから外が見える?」
京子がマスクの中から、小さく答えた。
「はい...見えます...」
声がくぐもっている。
マスクの中から聞こえる、こもった声。
(暗い...視界が狭い...正面しか見えない...)
(息が...苦しい...自分の息がマスクの中に充満して、顔中に熱い息がかかる...)
(でも...大丈夫。落ち着いて。深呼吸...)
絵美梨が確認する。
「口元のスリット、呼吸できる?」
「はい...できます...」
京子の声は、明らかに息苦しそうだった。
絵美梨が優しく言った。
「最初は息苦しいけど、すぐ慣れるから。深呼吸してみて」
京子がマスクの中で、ゆっくりと深呼吸をした。
自分の息が、マスクの内側に充満する。
熱い吐息が、顔中にかかる。
少し気持ち悪い感覚。
でも、絵美梨の言う通り、少しずつ慣れてきた。
絵美梨がマスクの後頭部に手を伸ばした。
マスクの髪の毛を掻き分けて、中で紐を探る。
「じゃあ、紐を結ぶね。ちょっと締まるけど、我慢して」
マスクの後頭部で、紐が結ばれていく。
京子の頭に、マスクが固定された。
少し圧迫感がある。
でも、しっかりと固定されている。
絵美梨が京子の前に回って、確認した。
「どう?きつくない?」
京子がマスクの中から答えた。
「大丈夫...です...」
絵美梨が微笑んだ。
「うん、バッチリ」
次に、晴美がマスクを被る。
絵美梨が晴美の前に立った。
「晴美ちゃんも、顔を下に向けて」
晴美が顔を下に向ける。
絵美梨がマスクを持って、晴美の頭に被せていく。
マスクが晴美の顔に密着した。
スポンジが、顔の各部に押し当てられる。
晴美の顔全体が、マスクに包まれた。
絵美梨がマスクの位置を調整する。
「晴美ちゃん、目の位置、大丈夫?」
「はい...大丈夫です...」
晴美の声も、くぐもっている。
(息苦しい...視界が真っ暗で、スリットから見える景色だけ...)
(マスクが顔に密着して...圧迫感...でも、これがキャラクターになるということ...)
(暑い...もう暑い...でも、頑張らなきゃ...)
絵美梨が紐を結んでいく。
晴美の頭に、マスクが固定された。
「よし、完璧」
絵美梨が自分のマスクを被り始めた。
ベテランだけあって、手慣れた様子。
すぐにマスクを被り、後ろで紐を結んだ。
3体のプリティアが、控え室に立っている。
絵美梨が2人に向かって、マスクの中から声をかけた。
「さあ、行こうか。4回目、最後のグリーティング」
京子と晴美が頷いた。
でも、2人とも、マスクの中で少し緊張しているのが分かる。
絵美梨が優しく言った。
「大丈夫。私がついてるから。何かあったら、すぐに教えてね」
京子と晴美が、大きく頷いた。
3体のプリティアが、控え室の出口に向かって歩き始めた。
でも、達也には分からない。
どのプリティアを誰が演じているのか。
マスクで顔は見えないし、声もくぐもっていて、誰の声かまでは判別できない。
そして、読者にも分からない。
京子と晴美が、どのキャラクターを演じているのか。
ただ、3体のプリティアが、4回目のグリーティングに向かっていく。
それだけが、確かな事実だった。
◆ ◆ ◆
午後4時。
県民ホールのスペシャルゲストエリア。
達也は、パーテーションの裏側で待機していた。
先ほど、女性スタッフから指示を受けた。
4回目のグリーティングでは、プリティアの後ろについて、子供たちの安全を見守ってほしいと。
達也は了承した。
間近でプリティアを見られる。
もしかしたら、何か分かるかもしれない。
そんな期待を抱きながら、達也は待っていた。
すると、パーテーションの向こうから、足音が聞こえてきた。
3体のプリティアが近づいてくる。
達也は緊張しながら、その姿を見た。
先頭がティア・フェリーチェ。
次がティア・マジカル。
最後がティア・ミラクル。
3体とも、完全な姿で歩いてくる。
女性スタッフが2名、付き添っている。
フェリーチェが達也の前に来て、小さく会釈をした。
達也も会釈を返す。
マジカルも、達也の方を向いて、会釈をした。
ミラクルは、少し緊張した様子で、じっと達也の方を見ていた。
女性スタッフが達也に声をかけた。
「今回も、後ろについて見守ってくれますか?」
「はい、分かりました」
達也が答えると、女性スタッフが時計を確認した。
「じゃあ、4時になったら出発します」
3体のプリティアは、待機位置に並んだ。
フェリーチェ、マジカル、ミラクルの順。
達也は、その後ろに立った。
間近で見る3体。
達也の心臓が、少し高鳴った。
この3体の中に、もしかして...。
達也は、マジカルとミラクルのマスクを注意深く見た。
マスクの瞳の部分。
黒い瞳に、小さなスリットが数箇所開けられているのが見える。
でも、スリットの内側には黒い布が貼られていて、外からは中が全く見えない。
誰かが、このスリットの向こうからこちらを見ている。
そう思うと、達也はなんとも言えない気分になった。
見られているのに、相手の顔は見えない。
不思議な感覚だ。
達也は、さらに観察を続けた。
ミラクルのマスクも、マジカルのマスクも、首とマスクの境界にはほとんど隙間がない。
マスクが、演者の顔にピッタリと密着しているように見える。
かなり息苦しいんだろうな、と達也は思った。
そして、この暑そうな衣装。
見ているだけでも汗をかきそうな、ボリュームのある衣装。
肌タイツで全身を覆いながら、こんな息苦しいマスクを被って、演技を続けている。
きっと、女性だろう。
一体、どんな女性が中に入っているんだろう。
達也は、ふと思った。
もし、中に入っているのが子供のいるお母さんだったら。
もし、自分の子供が目の前に来たら、どんな反応をするんだろう。
やっぱり、贔屓して自分の子供を喜ばせたりするのかな。
それとも、プロとして、平等に接するのだろうか。
達也の頭の中に、様々な想像が浮かんだ。
でも、確証はない。
お面で顔は見えない。
声も、くぐもっていて、誰の声かは分からない。
ただ、その仕草や雰囲気だけが、何かを感じさせていた。
女性スタッフが声をかけた。
「では、行きましょう」
パーテーションが開かれた。
3体のプリティアが、会場へと踏み出していった。
◆ ◆ ◆
会場から、歓声が上がった。
「プリティアだ!」
「ティア・ミラクルちゃん!」
「ティア・マジカルも!」
子供たちが、プリティアに向かって走ってくる。
親御さんたちも、笑顔で見守っている。
企業ブースのスタッフも、手を振っている。
ティア・フェリーチェが先頭で、落ち着いた歩調で進んでいく。
ティア・マジカルが、その後ろを優雅に歩いている。
ティア・ミラクルが、後ろを歩いている。
達也は、3体の後ろを歩きながら、その様子を見ていた。
女性スタッフが先頭で、会場を案内している。
もう1人の女性スタッフが、ミラクルの横に付き添っている。
3体のプリティアは、会場を練り歩き始めた。
子供たちが次々と近づいてくる。
フェリーチェが、子供たちに向かって手を振る。
マジカルも、優雅に手を振る。
ミラクルは、子供たちに手を振った。
達也は、その様子を後ろから見守り続けた。
3体の動きを、注意深く観察していた。
会場を進んでいくと、1人の女の子が、マジカルに向かって走ってきた。
4歳くらいの女の子。
ティア・マジカルと同じ衣装のコスプレをしている。
紫と赤のコートドレス。
帽子も被っている。
女の子が叫んだ。
「マジカルちゃん!マジカルちゃん!」
マジカルが、慌てて振り向いた。
女の子の声に気づいて、すぐにその場でしゃがんだ。
子供の目線に合わせて、優しく対応する。
でも、その瞬間。
マジカルは、フェリーチェとミラクルから取り残されてしまった。
2体は前を歩き続けている。
女の子がマジカルの前に来た。
マジカルは、女の子の衣装を見て、両手を口元に持っていった。
驚いたような仕草。
そして、両手を広げて、自分の衣装を見せるような仕草をした。
「私と一緒だね!」と言っているような、喜びの表現。
女の子が嬉しそうに笑った。
マジカルが、女の子の両手を取って、握手をした。
優しく、温かい握手。
女の子は大喜びで、マジカルにしがみついた。
(この子、本当に嬉しそう...同じ衣装着てくれてるなんて...)
(視界が狭くて周りが見えにくいけど...この子の笑顔は見える...)
(暑い...息苦しい...でも、頑張らなきゃ...)
その時、女の子の母親が慌てて追いついてきた。
「ごめんなさい!急に走って行っちゃって!」
母親がマジカルに謝った。
マジカルは、母親の方を向いて、両手を横に振った。
「大丈夫ですよ」と言っているような、優しい仕草。
そして、母親に向かって、小さく会釈をした。
母親が笑顔で言った。
「ありがとうございます。娘、マジカルちゃんが大好きで...一緒に写真、撮ってもいいですか?」
マジカルが大きく頷いた。
母親がスマホを取り出して、マジカルと女の子の写真を撮った。
女の子は、マジカルの隣に立って、嬉しそうに笑っている。
マジカルも、女の子の肩に手を置いて、優しく寄り添っている。
写真を撮り終えると、女の子がマジカルに向かって手を振った。
「マジカルちゃん、ありがとう!」
マジカルも、手を振り返した。
そして、女の子が母親と一緒に去っていくのを見送った。
でも、その時。
マジカルは、フェリーチェとミラクルとの距離がかなり開いてしまっていることに気づいた。
2体は、もう10メートルくらい先を歩いている。
マジカルは、慌てて周りを見回した。
そして、達也の方を向いた。
達也は、マジカルのすぐ横に立っていた。
マジカルが、達也に向かって、両手を合わせて困ったような仕草をした。
そして、前を指差して、「置いてかれちゃった」と言っているような仕草。
肩を小刻みに揺らして、笑っているような動き。
達也は、その仕草に思わず笑ってしまった。
マジカルが、達也の方に左手を差し出した。
「急いで追いつくから連れてって」と言っているような、お願いする仕草。
達也は一瞬、戸惑った。
でも、マジカルの差し出された手を無視するわけにもいかない。
達也は、恐る恐る右手を伸ばした。
マジカルの左手を、軽く握った。
柔らかい手の感触。
手袋越しに伝わってくる、女性の手。
温かい。
マジカルが、達也の手を握り返した。
そして、前を指差して、急いで歩き出すような仕草。
(達也くん...手、繋いでくれた...)
(ドキドキする...マスクの中、暑くて息苦しいのに、もっと熱くなってる...)
(でも、早く追いつかなきゃ...)
達也は、マジカルの手を引いて、早足で歩き始めた。
フェリーチェとミラクルに追いつくために。
マジカルは、達也と手を繋ぎながら、途中で子供たちに手を振った。
子供たちが「マジカルちゃん!」と叫んでいる。
マジカルは、その都度、手を振り返した。
でも、達也と繋いだ手は離さない。
達也の心臓が、ドキドキと高鳴った。
プリティアと手を繋いで歩いている。
可愛いキャラクターと、手を繋いでいる。
でも、その中には確実に人間がいる。
この柔らかい手は、紛れもなく女性の手だ。
達也は、マジカルの手を感じながら、歩き続けた。
そして、ようやくフェリーチェとミラクルに追いついた。
2体は、マジカルが来るのを待っていたようだ。
フェリーチェが、マジカルの方を向いて、首を傾げた。
「遅かったわね」と言っているような仕草。
ミラクルも、マジカルの方を向いて、肩を揺らして笑っているような動き。
マジカルは、2体に向かって、両手を合わせて謝るような仕草をした。
そして、達也の方を向いた。
達也との距離が近い。
マジカルが、達也の耳元に少し近づいた。
他の人には聞こえないような、小さな声。
「ありがと」
くぐもった声が聞こえた。
マスクの中から聞こえる、女性の声。
達也は、その声に聞き覚えがあるような気がした。
でも、はっきりとは分からない。
マスクでくぐもっていて、誰の声かまでは判別できない。
マジカルが、達也に向かって小さくお辞儀をした。
そして、達也の手を離した。
そのまま、ミラクルの横に戻っていく。
達也は、その場に立ち尽くした。
今の声...誰の声だったんだろう。
聞いたことがあるような...でも、はっきりとは分からない。
達也は、マジカルの後ろ姿を見つめた。
3体のプリティアは、再び歩き出した。
会場を練り歩きながら、子供たちと触れ合っている。
達也も、その後ろを歩き続けた。
しばらく歩いていると、今度はミラクルが子供としゃがんで対応し始めた。
フェリーチェとマジカルは、少し前を歩き続けている。
ミラクルが少し遅れる形になった。
達也は、ミラクルのすぐ横にいた。
ミラクルが子供との触れ合いを終えて、すぐに立ち上がろうとした。
達也も、前を歩くフェリーチェとマジカルを確認しようと、前を向いた。
その瞬間。
ミラクルが、すぐに立ち上がって歩こうとした。
でも、すぐ横に別の子供がいることに気づかなかった。
ミラクルが慌てて、子供を倒してしまわないように避けた。
でも、バランスを崩してしまった。
(あっ、危ない!)
(視界が狭くて、横が見えなかった...!)
「きゃっ!」
ミラクルの口から、思わず声が漏れた。
女性の声。
高めの、驚いたような声。
そのまま、ミラクルは達也の背中に体当たりをするように倒れ込んだ。
達也の両肩を、ミラクルの手が掴んだ。
達也は、びっくりして後ろを振り向いた。
ミラクルが、達也の肩に手を置いて、バランスを取っている。
(達也くん...ごめん...)
(恥ずかしい...でも、助かった...)
(早く追いつかなきゃ...)
ミラクルは、すぐに左手を口元に持っていった。
笑っているような仕草。
「えへへ」と言っているような、恥ずかしそうな雰囲気。
そして、両手を合わせて、達也に向かって小さくお辞儀をした。
「ごめんね」と言っているような、謝罪の仕草。
達也が「大丈夫ですか?」と声をかけようとした瞬間。
ミラクルは、もう前を歩くフェリーチェとマジカルの方に走っていった。
慌てて追いつこうとしている。
達也は、その一部始終を見ていた。
そして、前を見ると。
マジカルとフェリーチェが、ミラクルの方を向いて、肩を揺らして笑っていた。
ミラクルが追いつくと。
マジカルが、ミラクルの方を向いて、人差し指を立てて左右に振った。
「何やってんの?」と言っているような、注意する仕草。
でも、その動きは優しくて、友達同士のじゃれ合いのような雰囲気。
フェリーチェも、ミラクルの方を向いて、人差し指を立てて、軽く振った。
「もっと落ち着きなさい」と言っているような、注意する仕草。
ミラクルは、頭を触りながら、恥ずかしそうな仕草をした。
「えへへ」という感じ。
3体の雰囲気が、本当に仲良しの友達のようだった。
達也は、その光景を見ながら思った。
この3体、本当に息が合っている。
まるで、長年一緒に活動しているチームのようだ。
そして、ミラクルの「きゃっ!」という声。
あの声も、どこか聞いたことがあるような...。
でも、確かめる術はない。
3体のプリティアは、会場を練り歩き続けた。
子供たちと握手をしたり、ハイタッチをしたり、写真を撮ったり。
企業ブースの女性スタッフや、子供の母親たちも、プリティアに手を振っている。
3体は、その都度、丁寧に手を振り返した。
握手をしたり、会釈をしたり。
達也は、その様子を後ろから見守り続けた。
ミラクルは、元気に動き回っている。
子供たちに積極的に近づいていく。
でも、時々、バランスを崩しそうになったり、周りが見えていなかったり。
マジカルは、優雅に落ち着いて動いている。
子供たちに丁寧に対応している。
でも、時々、ミラクルの方を気にかけているような仕草。
2体の対比が、はっきりと見える。
達也は、心の中で考えた。
でも、まだ確信は持てない。
グリーティングは、約40分続いた。
会場を1周して、様々な子供たちや親御さんと触れ合った。
3体のプリティアは、疲労を感じさせない動きで、最後まで対応し続けた。
でも、達也には分かった。
特に、ミラクル。
肩が時折大きく上下している。
お腹の辺りが、激しく動いて縮んだり膨らんだりしている。
呼吸が荒いのだ。
中の人が、相当疲れている。
3人の中で一番元気よく動き回り、走り回ったり、しゃがんだりを繰り返していた。
フェリーチェやマジカルよりも、疲れているのだろう。
達也は、ミラクルの様子を心配しながら見ていた。
大丈夫だろうか。
でも、ミラクルは最後まで、子供たちに笑顔で対応し続けた。
お面の中で、どれだけ辛いのだろう。
でも、子供たちの前では、完璧な演技を見せている。
達也は、その姿に感動を覚えた。
◆ ◆ ◆
午後4時40分。
会場を1周したプリティアの3体は、会場の出口に辿り着いた。
女性スタッフが、3体を出口に誘導する。
「じゃあ、ここでお見送りをお願いします」
3体のプリティアが、出口に並んだ。
フェリーチェ、マジカル、ミラクルの順。
達也は、その向かい側に立った。
女性スタッフは、ミラクルの真横で付き添いをしている。
もう1人の女性スタッフは、少し離れた場所で待機している。
会場を出て帰っていく親子たちが、プリティアの3人に向かって手を振る。
「プリティアちゃん、ありがとう!」
「また会いに来るね!」
「バイバイ!」
子供たちの明るい声。
親御さんたちの笑顔。
プリティアの3体は、その都度、手を振り返した。
午後4時40分。
8月の日差しは、まだ強い。
出口付近は日陰になっているが、それでも気温は36度を超えている。
会場を出ていく親子たちが、次々とプリティアの前を通っていく。
3体は、出口に並んで、1人1人に丁寧に対応している。
握手を求める子供には、握手をしてあげる。
ハイタッチを求める子供には、ハイタッチをしてあげる。
写真を撮りたいという親御さんには、笑顔で応じる。
丁寧に、優しく、1人1人に対応している。
達也は、その光景を向かい側から見ていた。
3体のプリティアの動きを、注意深く観察している。
すると、4歳くらいの女の子が、ミラクルの前で立ち止まった。
黄色いワンピースを着た、明るい髪の女の子。
恥ずかしそうに、ミラクルを見上げている。
ミラクルは、すぐに女の子の前にしゃがんだ。
子供の目線に合わせて、優しく手を差し出す。
女の子が、恐る恐るミラクルの手を握った。
ミラクルは、女の子の手を優しく握り返した。
そして、もう片方の手で、女の子の頭をポンポンと撫でた。
女の子が、嬉しそうに笑った。
(この子、恥ずかしがってる...可愛い...)
(でも、暑い...しゃがむと、さらに息苦しい...)
(もう少し...この子の笑顔を見たら、また頑張れる...)
女の子の母親が、笑顔で言った。
「ミラクルちゃん、ありがとうございます。娘、ずっと会いたがってたんです」
ミラクルが、母親の方を向いて、大きく頷いた。
そして、女の子にもう一度手を振った。
女の子も、小さく手を振り返す。
ミラクルが立ち上がると、肩が大きく上下した。
達也には、その呼吸の荒さが分かった。
でも、ミラクルは、次の子供たちに笑顔で手を振り続けている。
その隣では、マジカルが小学生くらいの女の子と握手をしていた。
女の子は、マジカルと同じ紫色の服を着ている。
手作りのマジカル風コスプレだ。
マジカルは、女の子の衣装を見て、両手を口元に持っていった。
驚いたような、喜んでいるような仕草。
そして、自分の衣装を指差して、女の子の衣装を指差した。
「一緒だね!」と言っているような仕草。
女の子が、大喜びで頷いた。
「マジカルちゃん、私、マジカルちゃんが大好きなの!」
女の子が、大きな声で叫んだ。
マジカルは、女の子の両手を取って、ぎゅっと握った。
そして、胸の前でハートマークを作るような仕草をした。
(この子、マジカル好きって言ってくれた...嬉しい...)
(暑い...視界が霞んできた...汗が目に入りそう...)
(でも、この子の笑顔...守らなきゃ...)
女の子の父親が、スマホを構えた。
「じゃあ、一緒に写真撮ろうか」
マジカルが、女の子の隣に立った。
女の子は、マジカルの腕にしがみついている。
父親がシャッターを切った。
「ありがとうございました!」
父親が、マジカルにお辞儀をした。
マジカルも、丁寧にお辞儀を返す。
女の子が、名残惜しそうに手を振りながら去っていった。
マジカルは、女の子が見えなくなるまで、手を振り続けた。
その様子を、達也は見ていた。
マジカルの優雅な動き。
ミラクルの元気な動き。
2体とも、疲れているはずなのに、子供たちの前では完璧な演技を見せている。
お面の中は、どれだけ過酷な環境なんだろう。
達也は、改めて思った。
時間が経つにつれて、会場を出る人の数は減っていった。
でも、プリティアの前には、まだ列ができている。
最後まで、触れ合いたいという子供たち。
写真を撮りたいという親御さんたち。
3体のプリティアは、その全てに丁寧に対応し続けている。
そして、ふと。
達也は、マジカルの方を見た。
マジカルも、達也に気づいたようだ。
お面が、達也の方を向いた。
子供たちに手を振りながら、視線だけを達也に向けている。
そのまま、少しだけ見つめられる。
達也は、その視線を感じた。
お面で顔は見えないのに、確かに見られている感覚。
黒い瞳のスリットの向こうから、誰かがこちらを見ている。
マジカルが、左手を口元に持っていった。
笑いを堪えているような仕草。
(達也くん、見てくれてる...)
(暑い...マスクの中、汗でびしょびしょ...息が...苦しい...)
(でも、もう少し...もう少しだけ頑張らなきゃ...達也くんが見てくれてるから...)
肩を小刻みに揺らしている。
そして、右手で小さく達也に向かって手を振った。
まるで、内緒話をするような、親しげな仕草。
達也は、慌てて目を右側に逸らした。
なぜだか、恥ずかしくなった。
胸が、ドキドキと高鳴っている。
達也が目を逸らすと、すぐ横で元気よく子供たちやお客さんに手を振っているミラクルの様子が目に入った。
ミラクルは、両手を大きく振って、子供たちに応えている。
でも、その動きには、明らかに疲労が見えた。
(暑い...息苦しい...体力が...限界に近い...)
(マスクの中、汗が滴り落ちる...呼吸が...浅くなってる...)
(でも、子供たちが笑顔で見てくれてる...もう少し...もう少しだけ...)
(視界が霞んできた...でも、頑張らなきゃ...最後まで...)
ミラクルの肩は、時折大きく上下していた。
お腹の辺りが、激しく動いて縮んだり膨らんだりを繰り返している。
呼吸が、明らかに荒い。
中の人が、相当疲れているのが分かる。
達也は、心配になった。
大丈夫だろうか。
でも、ミラクルは最後まで、子供たちに笑顔で対応し続けている。
ある男の子が、ミラクルの前に来た。
5歳くらいの、元気そうな男の子。
「ミラクルちゃん、ハイタッチ!」
男の子が、手を高く上げた。
ミラクルは、すぐに反応して、両手でハイタッチをした。
パチン、パチンと、軽快な音が響く。
男の子が、大喜びで笑った。
ミラクルも、肩を揺らして笑っているような仕草。
でも、その直後。
ミラクルの肩が、さらに大きく上下した。
達也には、ミラクルが深く息を吸い込んでいるのが分かった。
お面の中で、必死に呼吸を整えている。
(もう...限界...でも...まだ...)
(子供たちの笑顔...守らなきゃ...これが...私の役目...)
お面の中で、どれだけ辛いのだろう。
暑さ、息苦しさ、疲労。
全てを抱えながら、子供たちの夢を守るために頑張っている。
達也は、ミラクルの姿に、改めて尊敬の念を抱いた。
こんなに過酷な環境で、子供たちのために演技を続けている。
その姿は、本当にプロフェッショナルだった。
フェリーチェも、疲れを見せない動きで、子供たちに対応している。
さすがベテラン。
長年の経験が、その安定した動きに表れていた。
午後5時。
お見送りは、約20分続いた。
会場のお客様が、ほとんどいなくなった。
最後の親子が、プリティアに手を振って去っていく。
3体のプリティアは、その姿が見えなくなるまで、手を振り続けた。
そして、会場が静かになった。
女性スタッフが、3体に声をかけた。
「お疲れ様でした。じゃあ、控え室に戻りましょう」
3体のプリティアが、大きく頷いた。
ミラクルは、頷いた後、少しふらついた。
女性スタッフが、すぐにミラクルの腕を支えた。
「大丈夫?」
ミラクルが、小さく頷いた。
でも、その動きは、明らかに疲労困憊していた。
女性スタッフを先頭に、控え室に戻るために歩き出す。
フェリーチェが、しっかりとした足取りで歩いている。
マジカルも、優雅な動きで続いている。
でも、ミラクルの足取りは、少し不安定だった。
女性スタッフが、ミラクルの横に付き添っている。
達也も、その後ろを歩いた。
達也は、3体の背中を見ながら思った。
本当に、お疲れ様。
よく頑張ったね。
パーテーションの中に入ると、女性スタッフが達也の方を向いた。
「すいません、助かりました。ありがとうございました」
「いえ、こちらこそ」
達也が答えると、フェリーチェ、ミラクル、マジカルも達也に向かって丁寧にお辞儀をした。
達也も、慌ててお辞儀を返した。
3体は、女性スタッフに連れられて、控え室に戻り始めた。
フェリーチェが、達也に向かって小さく手を振った。
達也も、小さく手を振り返す。
そのまま、フェリーチェは女性スタッフに続いて歩き出した。
その後を、ミラクルとマジカルが続いて歩いていく。
達也は、2体の背中を目で追った。
そして、自分も片付けに加わろうと、パーテーションのスペースから出ようとした。
その瞬間。
ミラクルが、何かを思い出したように達也の方を振り向いた。
そのまま、走って達也の元にやってきた。
達也は、驚いて立ち止まった。
ミラクルが、達也の目の前まで来た。
(達也くんに、ちゃんとお礼言わなきゃ...)
(疲れてるけど...これだけは...)
そして、くぐもった声で小さく話しかけた。
「さっきはごめんね、肩痛くなかった?」
女性の声。
小さくて、くぐもっているが、確かに聞こえた。
達也は、驚きながら答えた。
「いや、大丈夫ですよ」
ミラクルが、安心したような仕草をした。
肩の力が抜けて、ほっとしたような雰囲気。
そして、片手で達也の右肩をポンポンと叩いた。
「良かった。ありがとね、助かったよ」
また、小さくくぐもった声で達也に話しかけた。
その声は、どこか親しげで、温かい。
ミラクルが、達也に向かって小さくお辞儀をした。
そして、達也に手を振って、控え室の方に走って帰っていった。
達也は、その場に呆然と立ち尽くした。
フェリーチェとマジカルは、既に控え室の中に入ってしまっているようだった。
達也は、今起きたことを頭の中で整理しようとした。
ミラクルとマジカル。
両方に話しかけられた。
でも、なんで2人ともあんな親しげな話し方だったんだろう。
キャラクターになりきっているから?
でも、初対面の自分に、いきなりあんなに親しく話すだろうか。
それに、さっきのミラクルの声と態度。
マジカルの「ありがと」という声。
あれって...。
達也は考え込んだ。
でも、まだはっきりとは分からない。
声は聞いたけど、くぐもってたし、似たような声だから、はっきりとは分からない。
達也は、その場を後にして、会場の片付けに向かった。
でも、心の中では、もう答えが見えている気がした。
達也は、そう感じていた。
◆ ◆ ◆
その頃。
プリティアの控え室。
カーテンで仕切られた更衣スペースの中。
3体のプリティアが、控え室に入ってきた。
マジカルに少し遅れて、ミラクルも入ってくる。
控え室内では、若い女性が1人、待っていた。
午前中、1回目のグリーティング時にフェリーチェのサポートをしていた女性スタッフだ。
20代前半くらいの若い女性で、明るく優しい雰囲気。
「お疲れ様でした!」
3体のプリティアが、大きく頷いた。
マスクの中から、疲れた様子が伝わってくる。
肩で息をしている。
特に、ミラクルの疲労が目立つ。
肩が大きく上下して、お腹の辺りが激しく動いている。
女性スタッフが心配そうに声をかけた。
「大丈夫ですか?すごく暑かったでしょう?」
ミラクルが、マスクの中から小さく頷いた。
女性スタッフが、フェリーチェの後ろに回った。
「じゃあ、マスク外しますね」
フェリーチェが頷いた。
女性スタッフが、フェリーチェのマスクの後頭部に手を伸ばす。
緑の髪を掻き分けて、中で結ばれている紐を探る。
紐が見つかった。
女性スタッフが、丁寧に紐を解いていく。
少し時間がかかった。
汗で紐が湿っていて、きつく結ばれているからだ。
でも、ようやく紐が解けた。
女性スタッフが、フェリーチェのマスクを前に引いていく。
ゆっくりと、顔から離れていくマスク。
そして、マスクが完全に外れた。
その瞬間、マスクの中から、絵美梨の顔が現れた。
汗でびしょびしょになった顔。
額、頬、顎に、マスクのスポンジが密着していた跡がくっきりと残っている。
髪の毛も、汗で濡れて、フードの中で張り付いていた。
絵美梨が、大きく息を吐いた。
「はぁ...終わった...」
女性スタッフが、タオルを手渡した。
「お疲れ様です!絵美梨さん、今日も素晴らしかったです!」
絵美梨が、タオルで顔の汗を拭きながら、笑った。
「ありがとう。みんな頑張ってくれたおかげだよ」
絵美梨が、マジカルとミラクルの方を見た。
2体は、まだマスクを被ったまま、立っている。
肩で息をしている。
特に、ミラクルの呼吸が荒い。
絵美梨が心配そうに声をかけた。
「2人とも、大丈夫?マスク外すね」
マジカルが、ミラクルの後ろに回った。
ミラクルのマスクを外すために、後頭部の紐を探る。
マジカルの手が、ミラクルの黄色い髪を掻き分けて、紐を探っている。
紐が見つかった。
マジカルが、丁寧に紐を解いていく。
少し時間がかかる。
汗で紐が湿っている。
でも、ようやく紐が解けた。
マジカルが、ミラクルのマスクを前に引いていく。
ゆっくりと、顔から離れていくマスク。
その瞬間、解放感。
外気が顔に触れる。
マスクが完全に外れた。
マジカルが、ミラクルのマスクを手に持って、そっと置いた。
そして、ミラクルの方を向いた。
ミラクルのマスクの中から、晴美の顔が現れた。
汗でびしょびしょになった顔。
額、頬、顎に、マスクの跡がくっきりと残っている。
髪の毛は、汗で濡れて、フードの中で張り付いていた。
晴美が、大きく息を吐いた。
「はぁ...はぁ...やっと外れた...」
晴美が、マジカルの方を向いた。
京子は、まだマスクを被ったままだ。
晴美が、優しく声をかけた。
「京子、お疲れ様。マスク外してあげるね」
マジカルが、くぐもった声で答えた。
「ありがと...晴美...」
その声は、疲れているが、優しい。
晴美が、マジカルの後ろに回った。
マジカルのマスクの後頭部の紐を解くために、紫の髪を掻き分ける。
紐が見つかった。
晴美が、丁寧に紐を解いていく。
汗で湿った紐。
少し時間がかかったが、ようやく解けた。
晴美が、マジカルのマスクを前に引いていく。
ゆっくりと、顔から離れていくマスク。
そして、マスクが完全に外れた。
マジカルのマスクの中から、京子の顔が現れた。
汗でびしょびしょになった顔。
額、頬、顎に、マスクの跡がくっきりと残っている。
髪の毛も、汗で濡れて、フードの中で張り付いていた。
京子が、大きく息を吐いた。
「はぁ...やっと...終わった...」
晴美が、京子の方を向いて、笑った。
「京子、お疲れ様。すごく頑張ってたね」
京子も、疲れた顔で微笑んだ。
「晴美も、お疲れ様...」
京子が、タオルで顔の汗を拭きながら言った。
「でもさ、マジカルの衣装ってミラクルより全然暑いね!」
「マスクもめっちゃ小顔で苦しいし、晴美よくこんなの平気でいられるね!」
晴美が、笑いながら答えた。
「愛情かなぁ」
そう言いながら、晴美も自分の顔の汗を拭いている。
京子が、少し驚いたような表情をした。
「愛情?」
晴美が、優しく微笑んだ。
「うん。マジカルが好きだから。過酷だけど、演じるのが楽しいの」
京子が、晴美を見て、小さく笑った。
「晴美らしいね。私は戦隊系の方が好きだけど、晴美がそう言うなら、今日マジカル演じられて良かったよ」
晴美が、嬉しそうに頷いた。
「ありがとう、京子。京子もマジカル、すごく上手だったよ」
2人は、笑顔で顔を見合わせた。
女性スタッフが、2人にタオルとドリンクを手渡した。
「お疲れ様でした!2人とも、すごく良かったです!」
京子と晴美が、タオルで顔の汗を拭きながら、礼を言った。
「ありがとうございます」
絵美梨が、2人の方を見て言った。
「2人とも、本当にお疲れ様。4回目、すごく良かったよ」
京子が答えた。
「ありがとうございます。でも、本当に疲れました...」
晴美も、小さく頷いた。
「はい...特に、ミラクル...動き回りすぎて...」
絵美梨が、心配そうに晴美を見た。
「晴美ちゃん、大丈夫?体力、限界じゃなかった?」
晴美が、少し恥ずかしそうに答えた。
「ちょっと...お見送りの時、体力の限界に近づいてました...つい、元気よく動き過ぎちゃって...」
京子が、晴美の肩を叩いた。
「晴美、本当に頑張ってたもんね」
晴美が、小さく微笑んだ。
「ありがとう...でも、やっぱりミラクルは難しい...」
絵美梨が、優しく言った。
「でも、晴美ちゃん、すごく良い経験になったでしょ?次のショーで、ミラクルを演じる時の参考になったと思うよ」
「はい...とても良い経験になりました」
晴美が、しっかりと頷いた。
絵美梨が続けた。
「京子ちゃんも、マジカル上手だったよ。優雅な動きが素敵だった」
京子が、嬉しそうに笑った。
「本当ですか!ありがとうございます」
3人は、頭のフードを外した。
ファスナーを下ろして、フードを首元に垂らす。
髪の毛が、一気に解放された。
ゴムで束ねていた髪が、汗で濡れて重い。
京子が、ポニーテールを解いて、髪を下ろした。
汗で濡れた茶色の髪が、肩に垂れる。
晴美も、ゴムを外して、髪を下ろした。
汗で濡れた暗めの茶色の髪が、背中に垂れる。
3人は、ドリンクを飲みながら、少し休憩した。
女性スタッフが、衣装の片付けを手伝っている。
マスクを布製の袋に入れて、衣装を段ボールに詰めていく。
絵美梨が、京子と晴美に言った。
「じゃあ、肌タイツも脱いで、シャワー浴びようか。事務所に戻ってから、ゆっくり休もう」
「はい!」
京子と晴美が答えた。
3人は、肌タイツのファスナーを下ろして、脱ぎ始めた。
首元から、ゆっくりと下ろしていく。
タイツが顔から離れていく。
髪の毛が、一気に解放される。
タイツを頭から完全に脱いだ。
京子と晴美の顔が、完全に露わになった。
汗でびしょびしょの顔。
でも、達成感に満ちた表情。
絵美梨が、2人を見て微笑んだ。
「2人とも、本当にお疲れ様。4回目、すごく良かったよ」
京子が答えた。
「ありがとうございます。でも、本当に疲れました...」
晴美も、控えめに答えた。
「はい...緊張しましたけど...良い経験になりました」
絵美梨が続けた。
「じゃあ、着替えたら、事務所に戻ろう。荷物まとめて、片付けして、解散ね」
「はい!」
3人は、私服に着替え始めた。
汗をかいた体を、タオルで拭いて、新しい服に着替える。
京子は、ラフなTシャツとジーンズ。
晴美も、同じようにTシャツとジーンズ。
絵美梨も、カジュアルな服装に着替えた。
3人とも、大きなバッグに着替えを詰めて、準備を終えた。
女性スタッフが、段ボールと布製の袋を運ぶ準備をしている。
絵美梨が、京子と晴美に声をかけた。
「じゃあ、荷物持って、事務所に戻ろう」
「はい!」
京子が、大きな段ボールを持った。
晴美が、大きな布製の袋を持った。
絵美梨も、段ボールを持った。
女性スタッフと明美、麗奈も、それぞれ荷物を持っている。
5人は、控え室を出て、会場の奥の通路を歩き始めた。
会場の外に向かって、歩いていく。
◆ ◆ ◆
その頃。
達也は、会場の片付けを手伝っていた。
バイトでの契約時間は18時までだったが、まだ作業が残っている。
達也は、任意でそのまま手伝うことにした。
ベルトパーテーションを片付けたり、案内表示を撤去したり。
他のスタッフと協力して、会場を元の状態に戻していく。
達也の頭の中は、プリティアのことでいっぱいだった。
ミラクルとマジカル。
あの2体の動き。
親しげな仕草。
手を繋いで歩いた時の、温かい感触。
「ありがと」という、くぐもった声。
「さっきはごめんね」という、親しげな声。
達也は、片付けをしながら、様々な場面を思い返していた。
朝の再会。
京子の明るさと、晴美の控えめさ。
昼休憩時の疲労と汗。
3回目のグリーティングでの、ぎこちない動き。
そして4回目、再び安定した雰囲気に戻ったミラクルとマジカル。
全てが、何かを物語っている気がした。
でも、まだ確証は得られない。
達也は、もどかしい気持ちで片付けを続けた。
午後6時45分頃。
達也が手伝っていた場所も、ある程度片付いてきた。
その時、会場奥の通路から、5名の女性が歩いて出てきた。
手には、大きな白い布製の袋と、大きな段ボールをそれぞれが持っている。
達也は、その姿を遠くから見た。
5人の女性。
その中に、見覚えのある姿があった。
京子と晴美だ。
京子は、大きな段ボールを持っている。
晴美は、大きな布製の袋を持っている。
2人とも、髪が少し濡れている。
シャワーを浴びたのだろう。
私服に着替えて、大きな荷物を持っている。
他の3人も、同じように荷物を持っている。
5人は、会場の外に向かって歩いていく。
達也は、その姿を目で追った。
でも、声をかけることはできなかった。
2人は、急いでいる様子。
そのまま、会場の外に出て行った。
達也は、その後ろ姿を見送った。
京子と晴美。
やっぱり、あの2人だったんだ。
達也は、心の中で確信を深めた。
でも、まだ直接聞いたわけではない。
片付けが終わったら、2人に連絡してみよう。
達也は、そう思いながら、片付けを続けた。
◆ ◆ ◆
午後7時。
達也が会場を出たのは、ちょうど7時だった。
県民ホールの外は、既に夕暮れ。
8月の日曜日。
長い1日が、ようやく終わろうとしていた。
達也は、スマホを取り出して、時間を確認した。
7時ちょうど。
京子と晴美に、連絡してみようか。
でも、2人は今、事務所で片付けをしているのだろう。
連絡しても、すぐには返事が来ないかもしれない。
達也は、少し迷った。
その時、スマホが震えた。
メッセージの通知。
達也は、スマホの画面を見た。
京子からのメッセージだった。
「達也くん、今日はお疲れ様だったね!良かったらうちの店来ない?晴美も来るよ。久しぶりに3人で話したいな〜」
達也は、そのメッセージを読んで、少し驚いた。
うちの店。
京子の両親が営んでいる洋食屋だ。
高校時代、3人でよく行っていた。
懐かしい場所。
達也は、一瞬迷った。
でも、真実を確かめたい気持ちと、純粋に2人と話したい気持ちで、すぐに返信した。
「ありがとう。行くよ。何時頃がいい?」
すぐに、京子から返信が来た。
「7時半くらいでいいよ!待ってるね〜」
達也は、スマホをポケットに入れた。
洋食屋まで、ここから歩いて20分くらい。
ちょうど良い時間だ。
達也は、洋食屋に向かって歩き始めた。
夕暮れの街を、ゆっくりと歩く。
様々な思いが、頭の中を巡っていた。
京子と晴美。
2人は、本当にプリティアを演じていたのだろうか。
もしそうなら、なぜ隠していたのだろう。
達也は、その答えを、もうすぐ知ることになる。
◆ ◆ ◆
午後7時25分。
達也は、洋食屋「レストラン井村」の前に着いた。
高校時代から変わらない、懐かしい外観。
温かい光が、店内から漏れている。
達也は、少し緊張しながら、店のドアを開けた。
ベルが鳴って、店内に入る。
すると、カウンターの奥から、京子の母親が顔を出した。
「いらっしゃいませ!...あら、達也くん!久しぶりね!」
京子の母親が、嬉しそうに笑った。
達也は、会釈をした。
「こんばんは。お久しぶりです」
「大きくなって!大学生でしょう?立派になったわね」
「ありがとうございます」
達也が答えると、厨房から京子の父親も顔を出した。
「おお、達也くん!久しぶりだな!京子から聞いてたよ。今日、一緒にイベントだったんだってね」
「はい。偶然、再会しました」
「そうか。京子と晴美、もうすぐ来るって言ってたよ。奥のテーブル、空けといたから、座ってて」
「ありがとうございます」
達也は、店の奥のテーブルに案内された。
4人掛けのテーブル。
高校時代、3人でよく座っていた場所だ。
達也は、そのテーブルに座って、2人を待った。
店内は、静かで温かい雰囲気。
他に客はいない。
日曜日の夜、閉店間際なのだろう。
達也は、テーブルに座りながら、周りを見回した。
高校時代の思い出が、鮮明に蘇ってくる。
この店で、3人でご飯を食べながら、色々な話をした。
文化祭の準備の話。
テストの話。
将来の夢の話。
あの頃は、毎日が新鮮で楽しかった。
そして、午後7時30分。
店のドアが開いた。
ベルが鳴って、2人の女性が入ってきた。
京子と晴美だった。
2人とも、シャワーを浴びてさっぱりしている。
でも、疲れは隠せない。
目が少し充血していて、動きがゆっくりだ。
髪は、まだ少し濡れている。
シャワーの後、完全には乾いていないようだ。
私服に着替えている。
京子は、ラフなTシャツにジーンズ。
晴美も、同じようにTシャツにジーンズ。
2人とも、大きなバッグを持っている。
京子が、達也を見つけて、笑顔で手を振った。
「達也くん!お待たせ〜!」
晴美も、控えめに会釈をした。
「ごめんね、遅くなって...」
達也は、立ち上がって、2人を迎えた。
「いや、全然。俺も今来たところだから」
京子と晴美が、テーブルに座った。
達也も、再び座る。
3人は、テーブルを囲んで向き合った。
京子の母親が、メニューを持ってきた。
「何にする?今日のおすすめは、ハンバーグとオムライスよ」
京子が答えた。
「私、ハンバーグで!」
晴美も続けた。
「私も...ハンバーグで、お願いします」
達也も注文した。
「じゃあ、俺もハンバーグで」
「はいはい、ハンバーグ3つね。ドリンクは?」
「ウーロン茶で」
京子が答えると、晴美と達也も同じものを注文した。
京子の母親が、厨房に注文を伝えに行った。
3人だけが、テーブルに残された。
少しの沈黙。
達也は、どう切り出そうか迷っていた。
京子が、明るく話し始めた。
「達也くん、今日はお疲れ様だったね。本当に暑かったでしょう?」
「うん、暑かった。でも、2人も大変だったんじゃない?」
達也が言うと、京子と晴美が顔を見合わせた。
そして、京子が意を決したように言った。
「実はね...達也くん、気づいてた?」
達也は、少し驚いた表情をした。
「気づいてた...って?」
京子が、少し恥ずかしそうに笑った。
「プリティアのこと...私たちが演じてたって」
達也は、一瞬、言葉を失った。
でも、すぐに答えた。
「もしかして...そうなんじゃないかって、思ってた」
晴美が、小さく頷いた。
「達也くん、気づいてたんだ...」
京子が、明るく笑った。
「やっぱり!バレてたか〜」
達也が、尋ねた。
「でも...どっちがどのキャラクターを演じてたの?」
京子が、笑いながら答えた。
「4回目は、私がマジカルで、晴美がミラクルだったの」
「え...」
達也が、少し驚いた表情を見せた。
京子が続けた。
「実はね、午前中の1回目と2回目は、私がミラクルで、晴美がマジカルを演じてたの」
「それで、4回目だけ入れ替えたんだ」
晴美が、控えめに説明した。
「私、いつもマジカル演じてるから、たまには違う役も演じてみたくて...」
「それで、京子と相談して、4回目だけ入れ替えてみたの」
京子が、笑いながら付け加えた。
「グリーティングだから、難しい演技は必要ないし、お互いに違う役を経験できるかなって」
達也は、その説明を聞いて、ようやく理解した。
マジカルが京子。
ミラクルが晴美。
ということは。
達也が手を繋いで歩いたのは、京子。
達也の背中にぶつかってきたのは、晴美。
達也が、驚きながら言った。
「じゃあ...俺が手を繋いで歩いたのは、京子...」
京子が、恥ずかしそうに笑った。
「そうだよ。あの時、本当にドキドキしちゃった」
「え...そうなの?」
「だって、達也くんと手を繋いで歩くなんて、高校以来だもん」
京子が、少し照れながら言った。
晴美も、小さく笑った。
「私も...達也くんにぶつかっちゃって...恥ずかしかった...」
達也は、2人の話を聞いて、改めて思った。
あの時、自分が感じた温もりや親しみは、本当に京子と晴美だったんだ。
達也が、尋ねた。
「でも...なんで隠してたの?朝、会った時、教えてくれなかったじゃん」
京子が、少し恥ずかしそうに答えた。
「それは...恥ずかしかったから」
「恥ずかしかった?」
「うん。だって、着ぐるみ着てプリティア演じてるなんて、達也くんに知られたら、どう思われるか分からなかったし」
晴美も、小さく頷いた。
「私も...恥ずかしくて...」
達也が、優しく言った。
「そんなこと、全然恥ずかしくないよ。むしろ、すごいと思う」
京子が、少し驚いた表情をした。
「本当?」
「うん。あんなに過酷な環境で、子供たちのために頑張ってたんだろ?尊敬するよ」
晴美が、嬉しそうに微笑んだ。
「達也くん、そう言ってくれて...ありがとう」
その時、京子の母親が、料理を運んできた。
「はい、お待たせ〜。ハンバーグ3つよ」
テーブルに、熱々のハンバーグが並べられた。
デミグラスソースがかかった、美味しそうなハンバーグ。
3人は、料理を前に、少し和んだ。
「いただきます」
3人が、同時に言って、食べ始めた。
しばらく、静かに食事を楽しんだ。
でも、達也の頭の中には、まだたくさんの疑問があった。
達也が、ハンバーグを食べながら尋ねた。
「2人は...どうしてプリティアを演じることになったの?」
京子が、ハンバーグを飲み込んでから答えた。
「それはね、バイトの求人を見たの。プリティアの演者募集って」
「バイトの求人?」
「うん。キャラクターショーの演者募集って書いてあって、時給も良かったし、面白そうだなって思って応募したの」
晴美も続けた。
「私も...京子に誘われて、一緒に応募したの」
「それで、採用されたの?」
「うん。身長とか体型が合ったみたいで。それで、研修を受けて、何回かショーに出たことあるんだけど...」
京子が、少し遠い目をして言った。
「プリティアって、見た目すごく可愛いでしょ?でも、実際に演じるのは本当に大変なの」
達也が、興味深そうに聞いた。
「大変?」
晴美が、静かに説明した。
「マスクが...すごく小さいの。小顔設計だから、顔に密着して...」
「他のキャラクターより、息苦しさが全然違う」
京子が続けた。
「それに、衣装もかさばるの。ボリュームがあって可愛いんだけど、その分動きにくいし、重いの」
「見た目とは裏腹に、かなり体力消耗するんだよね」
達也が、驚いた表情をした。
「そうなんだ...知らなかった」
晴美が、小さく微笑んだ。
「でも...私、プリティア好きだから。過酷だけど、演じるのが一番好き」
京子が、笑いながら言った。
「晴美はプリティア大好きだもんね。私はどっちかっていうと、戦隊系の方が好きかな」
「アクションが多くて、動きやすいし」
達也が、尋ねた。
「戦隊系も演じたことあるの?」
京子が頷いた。
「うん、何回か。でも、今日はプリティアだったから...」
「プリティアは、子供たちの反応がすごく嬉しいんだよね。みんな、キラキラした目で見てくれるから」
晴美も、嬉しそうに頷いた。
「うん...その笑顔を見ると、辛さも忘れられる」
達也が言った。
「2人とも、4回目もすごく頑張ってたよね」
京子が笑った。
「そうそう。本当に緊張してたんだけど、絵美梨さんが優しく教えてくれたから、何とかできたの」
「絵美梨さんって、すごいベテランなんだよ。大学時代からもう7年以上、スーツアクターやってるんだって」
晴美が続けた。
「戦隊系も、プリティアも、何でも完璧に演じられるの...」
「私たちが見ても、本当にプロだなって思う」
京子が頷いた。
「絵美梨さん、キャラクターになりきって子供たちに笑顔を届けるのが好きだって言ってた」
「社会人になっても続けてるのは、その瞬間が大好きだからだって」
達也が、感心したように言った。
「すごい人なんだな...」
晴美が、少し恥ずかしそうに言った。
「でも...私、ミラクル演じるの、慣れてなくて...動き回りすぎちゃって...」
「いや、すごく良かったよ。元気いっぱいで、本当にミラクルみたいだった」
達也が言うと、晴美が嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう...」
達也が、さらに尋ねた。
「午前中は、どうしてたの?」
京子が答えた。
「午前中の1回目と2回目は、私たちも演じてたよ。私がミラクルで、晴美がマジカル」
「それで、お昼休憩の後の3回目は、新人の子たちが演じて、私たちは付き添いスタッフになったの」
晴美が続けた。
「絵美梨さんのサポートと、新人の子たちのサポート...衣装直したり、水分補給の準備したり...」
「それで、昼休憩の時、2人とも汗びっしょりだったんだ」
「あれ、見られてたの!?」
京子が、驚いた表情をした。
達也が、少し恥ずかしそうに答えた。
「うん...偶然、見かけて。2人とも、すごく疲れてる様子だったから、気になってたんだ」
晴美が、小さく笑った。
「そっか...達也くん、気づいてたんだね」
「午前中に2回演じて、午後は付き添いスタッフして、それで4回目にまた演じたから...本当に疲れちゃって」
京子が、続けた。
「でも、4回目は役を入れ替えたから、新鮮な気持ちで演じられたよ」
「そうだったんだ...」
達也は、全ての謎が解けていくのを感じた。
京子が、ハンバーグを食べながら言った。
「でもね、達也くん、本当に驚いちゃった。朝、会場で会った時」
「俺も驚いたよ。まさか、京子と晴美に会うとは思わなかった」
「しかも、達也くんが見てくれてるって思ったら、本当に嬉しかったの」
晴美も、小さく頷いた。
「私も...達也くんが見てくれてるって分かって...嬉しかった」
達也が、少し照れながら言った。
「俺も...2人の頑張ってる姿、見れて良かった」
3人は、しばらく食事を楽しみながら、話を続けた。
そして、達也が尋ねた。
「マスクの中...どんな感じだったの?」
京子が、大きく息を吐いた。
「本当に暑かった!息苦しいし、視界狭いし!」
晴美も、小さく頷いた。
「私も...最初、マスク被った時、パニックになりそうだった...」
達也が、興味深そうに聞いた。
「パニック?」
京子が、説明し始めた。
「うん。マスク被った瞬間、本当にびっくりしたの。視界が狭すぎて、息できないかと思った」
「自分の息が、マスクに跳ね返って、顔中に熱い息がかかって...気持ち悪かった」
晴美が、続けた。
「でも...不思議なことに、マスク被ったら、本当にキャラクターになった気がしたの」
「キャラクターになった気?」
「うん。子供たちの前に出たら、自然と体が動くんだよ。無意識に、キャラクターの仕草ができちゃうの」
達也は、その話を聞いて、興味深いと思った。
「それって、すごいな」
京子が、明るく言った。
「でもね、本当に暑かった。汗がボタボタ出てきて、マスクの中、びしょびしょだったの」
「呼吸も苦しいし、視界も狭いし。でも、子供たちの笑顔見たら、頑張れるんだよね」
晴美も、小さく頷いた。
「うん...子供たちが喜んでくれるのを見ると...辛さを忘れられる」
達也が、感心したように言った。
「2人とも...本当にすごいな」
京子が、少し照れながら言った。
「そんなこと言われたら、照れちゃう」
晴美も、嬉しそうに微笑んだ。
「達也くんにそう言ってもらえて...嬉しい」
達也が、さらに尋ねた。
「マスクって、一人で被れるの?」
京子が、首を横に振った。
「無理無理。絶対、誰かに手伝ってもらわないとダメなの」
「後頭部で紐を結ぶんだけど、それが一人じゃできないんだよね」
晴美が、続けた。
「それに...汗で紐が湿ってると、きつく結ばれて、なかなか解けないの...」
「マスク外す時も、一人じゃ無理...」
達也が、驚いた表情をした。
「そうなんだ...大変なんだな」
京子が、笑った。
「本当に大変だよ。でも、やりがいあるの」
3人は、食事を続けながら、様々な話をした。
高校時代の思い出話。
文化祭の準備で、夜遅くまで作業したこと。
体育祭で、3人でリレーに出たこと。
卒業式の日、3人で写真を撮ったこと。
懐かしい思い出が、次々と蘇ってくる。
そして、食事を終えた頃。
達也が、改めて2人に言った。
「2人とも...今日は本当にお疲れ様。すごく良いものを見せてもらった」
京子が、嬉しそうに笑った。
「ありがとう、達也くん。達也くんに見てもらえて、本当に嬉しかったの」
晴美も、小さく微笑んだ。
「私も...達也くんがいてくれて、頑張れた」
達也が、尋ねた。
「これから、プリティアの演者、続けるの?」
京子が、頷いた。
「うん。次のショーも、もう決まってるの」
「晴美がミラクルで、私がマジカルなんだよね」
晴美が、少し緊張した表情で言った。
「次は...ちゃんとしたショーだから...もっと大変だと思うけど...頑張る」
達也が、励ました。
「2人なら、絶対できるよ。応援してる」
京子が、明るく答えた。
「ありがとう!達也くんも、良かったら見に来てね」
「うん、行くよ」
3人は、笑顔で顔を見合わせた。
幼馴染としての絆が、再び強くなったような気がした。
高校卒業から約3年。
それぞれの道を歩んできた3人。
でも、こうして再会して、一緒に時間を過ごせることが、何より嬉しかった。
達也は、心の中で思った。
京子と晴美が、こんなに頑張っていたなんて。
子供たちの夢を守るために、過酷な環境で演じ続けていた。
その姿が、とても誇らしく思えた。
そして、幼馴染として、心から尊敬した。
3人は、洋食屋を出る時間になった。
京子の母親が、笑顔で見送ってくれた。
「また来てね、達也くん」
「はい、ありがとうございました」
京子の父親も、厨房から顔を出した。
「達也くん、また来いよ。3人で来てな」
「はい、また来ます」
3人は、洋食屋を出た。
外は、すっかり夜になっていた。
8月の夜空に、星が輝いている。
3人は、駅まで一緒に歩いた。
京子が、明るく言った。
「今日は、本当に楽しかったね。また3人で会おうよ」
晴美も、小さく頷いた。
「うん...また会おうね」
達也も、笑顔で答えた。
「うん、また会おう」
駅に着くと、3人は別れ際の挨拶をした。
京子が、達也に向かって言った。
「達也くん、今日はありがとうね。また連絡するから」
「うん、また連絡して」
晴美も、控えめに言った。
「達也くん...今日は、ありがとう」
「こちらこそ、ありがとう」
3人は、手を振り合って別れた。
達也は、改札を通って、ホームに向かった。
電車を待ちながら、今日1日を振り返った。
朝の偶然の再会。
プリティアの登場。
京子と晴美の疲労と汗。
グリーティングでの親しげな触れ合い。
そして、洋食屋での真実の告白。
全てが、特別な思い出になった。
達也は、心の中で思った。
幼馴染の2人が、こんなに頑張っていたなんて。
今日は、本当に特別な1日だった。
そして、これからも、3人の関係は続いていく。
達也は、そう確信していた。
電車が到着した。
達也は、電車に乗り込んだ。
窓の外を見ながら、達也は小さく微笑んだ。
京子と晴美。
2人の頑張る姿が、目に焼き付いている。
そして、これからも、2人を応援していこうと思った。
達也の長い1日が、静かに幕を閉じた。
--- 完 ---